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特許7402216車両の補助ステアリングシステムにおける補助機能適用の重み付け
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】車両の補助ステアリングシステムにおける補助機能適用の重み付け
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231213BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231213BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231213BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231213BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20231213BHJP
   B62D 127/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D127:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021500291
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 FR2019051699
(87)【国際公開番号】W WO2020012107
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】18/56493
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミシェリ アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】レディエール リュック
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001625(JP,A)
【文献】特開2015-151088(JP,A)
【文献】特開2008-183990(JP,A)
【文献】特開2007-331569(JP,A)
【文献】特開2010-274871(JP,A)
【文献】特開2006-035930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
B62D 127/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整するための方法であって、
前記車両は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルク(CRP)をラックに印加する補助モータとを備え、
前記方法は、
前記補助機能の適用ゲインを評価する工程(3)と、
前記補助機能に関連付けられた前記補助トルク(C)を推定する工程(2)と、
前記補助機能に関連付けられた前記補助トルク(C)と前記適用ゲインとを掛け合わせる工程(4)と、
を含み、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、ヨーレート(V)と、前記ステアリングホイールの角度(α)に前記ヨーレート(V)の符号を掛け合わせたもの、若しくは前記ステアリングホイールの角度(α)と車両速度(V)とから計算される理論的なヨーレートに前記ヨーレート(V)の符号を掛け合わせたものとに応じて、第1のゲインを決定する段階(31)を包含し、
前記2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の車輪トルクに応じて第2のゲインを決定する段階(11)を包含する、補償ゲインを計算する工程(1)をさらに包含する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1のゲインは、前記ヨーレート(V)の絶対値、または前記ヨーレート(V)と車両速度(V)とから計算される理論的な角度、または前記ヨーレート(V)と前記車両速度(V)とから計算される理論的な横加速度に依存する、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記第1のゲインは、ステアリングホイールの角度(α)、またはステアリングホイールの角度(α)と前記車両速度(V)とから計算される理論的なヨーレートに依存する、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、前記車両の前後加速度(Alon)に応じて第のゲインを決定する段階(32)を包含する、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、前記車両の横加速度(Alat)に応じて第のゲインを決定する段階(33)を包含する、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、前記車両の前後加速度(A lon )に応じて第3のゲインを決定する段階(32)を包含し、
前記第1のゲイン、前記第のゲイン、および前記第のゲインは、0~1である、方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法であって、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、前記車両の前後加速度(A lon )に応じて第3のゲインを決定する段階(32)を包含し、
前記適用ゲインを評価する工程(3)は、前記第1のゲインと、前記第のゲインと、前記第のゲインとを掛け合わせる工程を含む、方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法であって、
前記補償ゲインを計算する工程(1)は、ステアリングホイールの角度(α)および前記少なくとも2つの車輪の回転速度(V)の差に応じて第5のゲインを決定する段階(12)を包含する、方法。
【請求項9】
少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルク(CRP)をラックに印加する補助モータと、車輪トルクを前記少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備える車両のパワーステアリングデバイスであって、請求項1~のいずれか1項に記載の、車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整するための方法を実装する、パワーステアリングデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリングシステムの分野に関し、より詳細には、車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整する(modulate)ための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、一般に、運転手が、車両が追従する軌道を変更できるようなステアリングシステムを含む。軌道を変更するために、運転手は、ステアリングホイールの角度を変化させる。ステアリングホイールは、ステアリングコラムに接続され、ステアリングコラム自体は、ラックに連結されている。ラックは、ステアリングホイールの角度を、車両の操舵輪の方向を変更できるような平行移動に変換する。これにより、車両は、右へ曲がったり、左へ曲がったりできる。
【0003】
以下、操舵輪は、車両の前部に位置するものとする。ステアリングホイールの角度が実質的にゼロであるとき、操舵輪は、車両の伸長軸と一直線上に並び、そして車両は、直線軌道を追従する。以下の記載においては、慣例にしたがい、運転手がステアリングホイールを負方向へ回して、ステアリングホイールの角度が負になると、操舵輪は、車両の伸長軸に対して負の角度を形成し、車両は、左へ曲がる。反対に、運転手がステアリングホイールを正方向へ回して、ステアリングホイールの角度が正になると、操舵輪は、車両の伸長軸に対して正の角度を形成し、車両は、右へ曲がる。
【0004】
パワーステアリングシステムの場合、運転手は、軌道を変更する際に、補助モータによって補助される。補助モータは、補助トルクをラックに送ることによって、ステアリングホイールの方向転換を容易にする。
【0005】
天候状態、路面状態および運転手の所望する軌道に応じて、異なる動的運転状況が車両に対して定義される。
【0006】
車両は、ステアリング状況、すなわち、ステアリングホイールの角度がゼロ以外になるように運転手がステアリングホイールを回す状況になり得る。これにより、車両は旋回する。
【0007】
車両は、オーバーステアリング(oversteering)状況、すなわち、操舵輪の通常のグリップ状況において、運転手が所望の曲がりを行うために必要な角度よりも大きな角度でステアリングホイールを回す状況をとり得る。
【0008】
車両は、オフステアリング(off-steering)状況、すなわち、ステアリングまたはオーバーステアリングした後に、そのステアリングまたはオーバーステアリングの方向とは反対の方向へ、実質的にゼロに等しいステアリングホイールの角度を超えることなく、ステアリングホイールを回す状況をとり得る。
【0009】
最後に、車両は、カウンターステアリング(counter-steering)状況、すなわち、ステアリングまたはオーバーステアリングした後に、そのステアリングまたはオーバーステアリングの方向とは反対の方向へ、実質的にゼロに等しい角度よりも大きい角度で、ステアリングホイールを回す状況にあり得る。
【0010】
運転手は、例えば、運転手が所望しない軌道を車両がとっている場合、オーバーステアリングまたはカウンターステアリングを行う必要がある。特に、カーブ(bend)をうまく通り抜けようとするとき、運転手が加速を行うと、車両の伸長軸に沿って車両の前部から後部へ質量が伝達される。この質量伝達の結果、前輪から車両の荷重が取り除かれ、前輪が浮き上がり得る。このとき、車両は、アンダーステアリング(understeering)として知られる挙動をとる。アンダーステアリングは、車両の曲がる角度が運転手の所望の曲がる角度より小さいことを意味する。
【0011】
車両がカーブの入り口に早く到着しすぎて、急に減速し、速度を落としたために、後部から前部への質量伝達があったとき、運転手は、オフステアリングまたはカウンターステアリングする必要がある。この質量伝達は、後輪から車両の荷重を取り除く効果を有し、後輪の路面グリップの喪失を招き得る。このとき、車輪をカーブの内側へわずかにステアリングするだけで、車両の後部が前部を前方に追い越してしまう回転運動を車両に生じさせるのに十分である。このとき、車両は、オーバーステアリング、またはより一般には「ヘッド・トウ・テイル(head to tail)」として知られる挙動をとる、すなわち、車両の曲がる角度が運転手の所望の曲がる角度より大きいことを意味する。
【0012】
車両の軌道制御において運転手を補助するために、特許文献1および特許文献2に記載されるように、アンダーステアリングまたはオーバーステアリング状況をできるだけ早く検出し、補助機能を車両の軌道制御に適用することが知られている。
【0013】
軌道補正補助機能とは別に、パワーステアリングシステムは、例えば、機械的なステアリングの欠点を補正したり、車両運転状態の感覚を改善したりすることを可能にする他の補助機能を有する。これらの例としては、ステアリングホイールの角度を実質的にゼロにすることを目的とする、ステアリングホイールの中心における戻り機能や、ステアリングホイール感覚や車両ダイナミックスをできるだけ自然にすることを目的とする減衰機能などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2010070229号
【文献】国際公開第2016083702号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これらの補助機能のパワーステアリングシステムへの適用を、車両の前後(longitudinal)加速度および横(lateral)加速度に応じて補償ゲインを決定することによって調整することが知られている。
【0016】
横加速度は、車両の伸長軸に対して横向きの軸に沿った車両の瞬間的な位置の時間についての2階微分、すなわち、車両がカーブ軌道を走行するときの車両加速度に対応する。
【0017】
前後加速度は、車両の伸長軸に沿った車両の瞬間的な位置の時間についての2階微分、すなわち、車両が直線軌道を走行するときの車両加速度に対応する。
【0018】
このように、補助機能は、車両の横加速度および前後加速度にしたがって、すなわち、車両の動的パラメータにしたがって適用される。
【0019】
本発明の目的は、すべての動的な運転状況、すなわち、ステアリング、オーバーステアリング、オフステアリングおよびカウンターステアリング状況を考慮するように、補助機能の適用の調整を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的のために、本発明は、車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整するための方法を提案する。当該車両は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルクをラックに印加する補助モータとを備える。当該方法は、当該補助機能の適用ゲインを評価する工程と、当該補助機能に関連付けられた補助トルクを推定する工程と、当該補助機能に関連付けられた補助トルクおよび適用ゲインを掛け合わせる工程とを含み、適用ゲインを評価する工程は、ヨーレートおよびステアリングホイールの角度に応じて第1のゲインを決定する第1の段階を含むことを特徴とする、方法である。
【0021】
適用ゲインが適用される補助機能は、車両ステアリングシステムに組み込まれ、例えば、車両の軌道の補正、方向の機械的な欠点の補正、または車両運転状態の感覚の向上などを可能にする任意の補助機能であり得る。補助機能の例としては、ステアリングホイールの中心における戻り機能や、減衰機能などがある。
【0022】
車両がいくつかの補助機能を有する場合、本発明に係る方法は、補助機能と同数の適用ゲインを決定する。
【0023】
本発明に係る方法は、ステアリングシステムに対して、動的な運転状況に応じて、すなわち、ステアリング、オーバーステアリング、オフステアリング、およびカウンターステアリング状況に応じて、並びに車両の路面グリップの状態に応じて、補助機能の段階的に適用、すなわち、調整を行うことを可能にする。
【0024】
例えば、車両が氷などの低グリップ路面上を直線軌道で走行するとき、車輪の路面グリップは弱い。この状況において、駆動トルクは高いが、前後加速度は低い。路面がアスファルトなどのグリップの高い路面の場合、車輪は、路面を強くグリップし、前後加速度が大きくなる。このように、車両グリップ状態に応じて、ある補助機能が適用されなければならず、他の補助機能は適用されてはいけない。
【0025】
ヨーレートは、車両の垂直軸を中心とした回転運動の速度に対応する。
【0026】
第1の決定段階は、ステアリングホイールの角度とヨーレートとの間の整合性を確認する。
【0027】
適用ゲインは、車両のパラメータに応じた第1のゲインを含む。
【0028】
このとき、当該適用ゲインは、当該補助機能に関連付けられた補助トルクと掛け合わされて、補助モータによって車両ラックに入力される重み付け補助トルクを決定する。
【0029】
本発明のある特徴によると、第1のゲインは、ヨーレートの絶対値、またはヨーレートと車両速度とから計算される理論的な角度、またはヨーレートと車両速度とから計算される理論的な横加速度に依存する。
【0030】
本発明のある特徴によると、第1のゲインは、ステアリングホイールの角度、またはステアリングホイールの角度と車両速度とから計算される理論的なヨーレートに依存する。
【0031】
本発明のある特徴によると、第1のゲインは、ステアリングホイールの角度にヨーレートの符号を掛け合わせたもの、またはステアリングホイールの角度と車両速度とから計算される理論的なヨーレートにヨーレートの符号を掛け合させたものに依存する。
【0032】
このように、第1のゲインは、3次元グラフによって表される。
【0033】
本発明のある特徴によると、適用ゲインを評価する工程は、車両の前後加速度に応じて第2のゲインを決定する第2の段階を含む。
【0034】
第2のゲインは、車両のパラメータに依存する。
【0035】
第2のゲインは、x軸が前後加速度を表し、y軸が第2のゲインを表す2次元のグラフによって表される。
【0036】
本発明のある特徴によると、適用ゲインを評価する工程は、車両の横加速度に応じて第3のゲインを決定する第3の段階を含む。
【0037】
第3のゲイン、各ゲインは、車両のパラメータに依存する。
【0038】
第3のゲインは、x軸が横加速度を表し、y軸が第3のゲインを表す2次元のグラフによって表される。
【0039】
本発明のある特徴によると、第1のゲイン、第2のゲイン、および第3のゲインは、0~1である。
【0040】
本発明のある特徴によると、適用ゲインを評価する工程は、第1のゲインと、第2のゲインと、第3のゲインとを掛け合わせる工程を含む。
【0041】
すなわち、第1のゲイン、第2のゲイン、または第3のゲインのうちの1つのゲインの値が0であるとき、適用ゲインはゼロであり、したがって、重み付け補助トルクはゼロである。すなわち、補助機能は、この動的運転状況においては適用されない。第1のゲイン、第2のゲイン、および第3のゲインの値が1であるとき、重み付け戻りトルクは最大である。すなわち、補助機能は、この動的運転状況において車両に適用される。
【0042】
以下、適用ゲインが適用される補助機能は、牽引トルク(pull torque)現象(または、「トルクステア」と称す)を補償することが可能な方向戻り機能とする。牽引トルク現象は、少なくとも2つの車輪がリミテッドスリップデファレンシャル、すなわち、「セルフロックデファレンシャル」を備える場合に出現する。リミテッドスリップデファレンシャルは、車両の駆動モータによって供給される駆動トルクを、最も低い回転速度を有する車輪、すなわち、車両が旋回しているときにカーブの内側に位置する車輪、または両方の車輪が同じ回転速度を有する場合は両方の車輪、または内側の車輪がスリップしている場合はカーブの外側に位置する車輪に伝達することを可能にする。例えば、車両が左へ旋回する、すなわち、左輪がカーブの内側に位置するとき、左輪は、右輪よりもゆっくりと進むので、駆動トルクを受け取るのは左輪である。左輪がスリップすると、左輪の速度は、右輪の速度に達するまで上昇する。このとき、駆動トルクが右輪に伝達されて、牽引トルク現象、すなわち、右方向への自己ステアリング(self-steering)の現象が生じる。また、牽引トルク現象は、車両が直線軌道を走行しかつ車輪が路面に対して互いに異なるグリップを有する場合にも出現する。
【0043】
本発明のある特徴によると、上記方法は、2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の車輪トルクに応じて第4のゲインを決定する第4の段階を含む、補償ゲインを計算する工程をさらに含む。
【0044】
各車輪は、一方で、駆動トルクの一部を受け、他方で、追従する軌道および路面に関連する摩擦力を受ける。したがって、車輪にかかる力は、車輪ごとに異なり得る。
【0045】
車輪トルクは、当該車輪が受け取る駆動トルクの一分割量である。
【0046】
第4のゲインは、x軸が少なくとも1つの車輪に対するトルクを表し、y軸が第4のゲインを表す2次元のグラフによって表される。第4のゲインは、牽引トルク現象の強度を表す。
【0047】
本発明のある特徴によると、第4のゲインは、0~1である。
【0048】
本発明のある特徴によると、補償ゲインを計算する工程は、ステアリングホイールの角度および少なくとも2つの車輪の回転速度の差に応じて、第5のゲインを決定する第5の段階を含む。
【0049】
第5のゲインは、牽引トルク現象の出現を招き得る運転状況に入る確率を表す。
【0050】
本発明のある特徴によると、第5の段階は、ステアリングホイールの角度に少なくとも2つの車輪の回転速度の差の符号を掛け合わせたものと、少なくとも2つの車輪の回転速度の差の絶対値とに依存する。
【0051】
したがって、第5のゲインは、3次元グラフによって表される。
【0052】
本発明のある特徴によると、第5のゲインは、0~1である。
【0053】
本発明のある特徴によると、補償ゲインを計算する工程は、第4のゲインと第5のゲインとを掛け合わせる工程を含む。
【0054】
補償ゲインは、0~1のゲインであり、連続的に変化する。
【0055】
第4のゲインまたは第5のゲインのうちの1つのゲインの値が0であるとき、補償ゲインはゼロであり、重み付け戻りトルクはゼロである。すなわち、牽引トルク現象は検出されない。第4のゲインおよび第5のゲインの値が1であるとき、重み付け戻りトルクは最大である。すなわち、牽引トルク現象が車両に生じる。
【0056】
補償ゲインは、掛け合わせ工程において、適用ゲインおよび戻り機能に関連付けられた補助トルクと掛け合わされる。
【0057】
上記方法は、戻り機能が完全にアクティブである状態と、戻り機能が非アクティブである状態との間で、連続した遷移を行う。これにより、運転手は、戻り機能の作動または停止を感じない。
【0058】
本発明のある特徴によると、車輪トルクは、2つの車輪のうちの少なくとも1つの車輪の回転速度、エンジン速度、および駆動エンジンから供給される駆動トルクの関数として決定される。
【0059】
駆動モータによって行われる単位時間あたりの回転数をエンジン速度と称す。
【0060】
また、本発明は、少なくとも2つの車輪と、ステアリングホイールと、補助トルクをラックに印加する補助モータと、車輪トルクを少なくとも2つの車輪に印加する駆動モータとを備える車両のパワーステアリングデバイスであって、本発明に係る、車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整するための方法を実装する、パワーステアリングデバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、本発明に係る方法の工程を表す模式図である。
図2図2は、本発明に係る第5のゲインを、ステアリングホイールの角度に車両の2つの車輪の回転速度の差の符号および2つの車輪の回転速度の差の絶対値を掛け合わせたものの関数として表す3次元グラフである。
図3図3は、本発明に係る第1のゲインを、ステアリングホイール角度に車両のヨーレートの符号およびヨーレートの絶対値を掛け合わされたものの関数として表す3次元グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、以下の記載によってよりよく理解され得る。以下の記載は、非限定の例によって与えられ、添付の模式図を参照して説明される本発明に係る実施形態に関する。
【0063】
以下の記載において、ステアリングホイールの角度αの関数としての車両によって追従される軌道を、運転手が変更することを可能にするステアリングホイールを備える車両を検討する。ステアリングホイールは、ステアリングコラムに接続され、ステアリングコラム自体は、ラックに連結されている。ラックは、ステアリングホイールの角度αを、車両の2つの被操舵輪の方向を変更する平行移動に変換する。これにより、車両の軌道を調整することができる。すなわち、ラックは、車両を推進するために、当該車両のエンジンから送られた駆動トルクの一部または全てを路面に伝えるように構成され、これによって、車両は右へ曲がったり、左へ曲がったりすることが可能になる。
【0064】
運転手は、ステアリングホイールの角度αを変更しようと運転手が意図する際、補助モータが補助トルクをラックに入力することによって補助される。
【0065】
図1は、本発明に係る、車両におけるパワーステアリングシステムの補助機能の適用を調整するための方法を例示する。より詳細には、図1は、戻り機能の適用を調整するための方法を例示する。
【0066】
戻り機能によって、ある車両運転状況において出現する牽引トルク現象によって起こされるステアリングホイールの角度αのずれを補償するように補助トルクCを適用することが可能になる。
【0067】
戻り機能は、推定工程2において、戻り機能に関連付けられた補助トルクCを決定する。補助トルクCは、牽引トルク現象によって起こされたステアリングホイールの角度αのずれを補償することを可能にする。推定工程2は、入力として、車両速度Vと、ステアリングホイールの角度αと、ステアリングホイールの回転速度Vとを受け取る。
【0068】
さらに、上記方法は、工程1において補償ゲインGを決定する。補償ゲインGを計算する工程1は、第4のゲインGを決定する第1の段階11および第5のゲインGを決定する第2の段階12を含む。
【0069】
第4の段階11は、入力として、車両の駆動モータによって供給され、車両を推進させることができる駆動トルクCと、エンジン速度ERPM、すなわち、駆動モータによって行われる単位時間あたりの回転数と、2つの車輪の回転速度Vとを受け取る。これにより、第4の段階11は、第4のゲインGを決定する。第4のゲインGは、x軸が車輪トルク、すなわち、車輪によって受け取られる駆動トルクCの分割量を表し、y軸が第4のゲインGを表す2次元のグラフによって表される。第4のゲインGは、牽引トルク現象の強度を表す。牽引トルク現象の強度は、0~1である。
【0070】
第5の段階12は、入力として、2つの車輪の回転速度Vと、ステアリングホイールの角度αとを受け取る。これにより、第5の段階12は、第5のゲインGを決定する。第5のゲインGは、図2に例示するような、x軸上に2つの車輪の回転速度の差の絶対値|ΔV|(単位は、キロメートル/時間、すなわち、km/h)をとり、次元軸上にステアリングホイールの角度αに2つの車輪の回転速度の差の符号(ΔVの符号)を掛け合わせたもの(以下、符号付きステアリングホイール角度α(単位は、度、すなわち、deg)と称す)をとる3次元グラフによって表される。
【0071】
さらに詳細には、第5のゲインGは、第1のゾーン21において、車両が牽引トルク現象の出現リスクのない運転状況にあるときに実質的に0に等しい値を有する。
【0072】
このように、車輪間の回転速度差ΔVが大きく(3km/hより大きい)かつ符号付きステアリングホイール角度αが負であるときに、牽引トルク現象の出現リスクはないと判断される。この第1のゾーン21は、車両が一方向へ曲がる運転状況、例えば、左輪が右輪よりも大きい回転速度Vを有する状態で、車両の運転方向に対して左へ曲がる運転状況を表す。実際に、駆動トルクCを最も低い回転速度Vを有する車輪、すなわち、この例の場合の右輪に伝達すると、車両が左へ曲がることが促進されることになる。
【0073】
第5のゲインGは、第2のゾーン22において、符号付きステアリングホイール角度αが実質的に0に等しいときに、実質的に0に等しい値を有し、符号付きステアリングホイール角度αが実質的に1に等しいときに、実質的に1に等しい値を有する。第2のゾーン22において、第5のゲインGは、連続的に大きくなる。第2のゾーン22は、牽引トルク現象の出現リスクがある車両運転状況を表す。実際に、符号付きステアリングホイール角度αが大きくなるほど、すなわち、車両がより曲がった軌道を走行するほど、牽引トルク現象の出現リスクがより大きくなる。
【0074】
さらに、第3のゾーン23において、第5のゲインGは、車輪間の回転速度差ΔVが小さく(3km/h未満)、かつ符号付きステアリングホイール角度αが負であるときに、実質的に0に等しい値を有し、車輪間の回転速度差ΔVが0km/hに等しく、かつ符号付きステアリングホイール角度αが-90°に等しいときに、最大0.8に増大する値を有する。第3のゾーン23は、牽引トルク現象の平均的な出現リスクがある車両運転状況を表す。実際に、車輪間の速度差が小さいほど、牽引トルク現象は、より多く出現し得る。
【0075】
第5のゲインGは、0~1の間で変化し、牽引トルク現象の出現を招き得る運転状況に入る確率を表す。
【0076】
補償ゲインGの計算工程1は、第4のゲインGと第5のゲインGとを掛け合わせる工程を含む。
【0077】
このように、第4のゲインGおよび/または第5のゲインGの値が0であるとき、補償ゲインGは、ゼロである、すなわち、牽引トルク現象は検出されない。第4のゲインGおよび第5のゲインGの値が1であるとき、補償ゲインGは、1に等しい、すなわち、牽引トルク現象が車両に生じる。
【0078】
また、上記方法は、適用ゲインGを評価する工程3において、戻り機能に関連付けられた適用ゲインGを決定する。適用ゲインGを評価する工程3は、第1のゲインGを決定する第1の段階31と、第2のゲインGを決定する第2の段階32と、第3のゲインGを決定する第3の段階33とを含む。
【0079】
第3の段階33は、入力として、車両の横加速度Alatの値を受け取る。これにより、第3の段階33は、第3のゲインGを決定する。第3のゲインGは、x軸上に横加速度Alatをとり、y軸上に0~1の間で変化する第3のゲインGをとる2次元のグラフによって表される。
【0080】
横加速度は、車両がカーブ軌道を走行する際の車両加速度に対応する。
【0081】
第2の段階32は、入力として、車両の前後加速度Alonの値を受け取る。これにより、第2の段階32は、第2のゲインGを決定する。第2のゲインGは、x軸上に前後加速度Alonをとり、y軸上に0~1の間で変化する第2のゲインGをとる2次元のグラフによって表される。
【0082】
前後加速度Alonは、車両が直線軌道を走行する際の車両加速度に対応する。
【0083】
第1の段階31は、入力として、車両のステアリングホイールの角度αと、ヨーレートVとを受け取る。これにより、第1の段階31は、第1のゲインGを決定する。第1のゲインGは、図3に例示するような、x軸上にステアリングホイールの角度αにヨーレートの符号を掛け合わせたもの(符号付きステアリングホイール角度αと称す)をとり、次元軸上に車両ヨーレートの絶対値|V|をとる3次元グラフによって表される。ヨーレートVは、車両の垂直軸を中心とした回転運動の速度に対応する。
【0084】
さらに詳細には、第1のゲインGは、第1のゾーン24において、符号付きステアリングホイール角度αが負であるときに、実質的に1に等しい値を有し、第2のゾーン25において、符号付きステアリングホイール角度αが正であるときに、実質的に0に等しい値を有する。
【0085】
第1のゲインGは、ステアリングホイール角度αとヨーレートVとの間の整合性を例示する。
【0086】
適用ゲインGは、第3のゲインGと、第2のゲインGと、第1のゲインGとを掛け合わせたものである。適用ゲインGは、0~1である。
【0087】
掛け合わせ工程4において、戻り機能に関連付けられた補助トルクCを適用ゲインGおよび補償ゲインGと掛け合わせて、重み付け戻りトルクCRPが得られる。
【0088】
これにより、車両の路面グリップの状態を考慮するために、補償ゲインGは、戻り機能の適用を、車両に生じる牽引トルク現象の強度の関数として調整し、適用ゲインGは、戻り機能の適用を、車両の動的状況、すなわち、ステアリング、アンダーステアリング、オーバーステアリング、およびカウンターステアリング状況の関数として調整する。
【0089】
重み付け戻りトルクCRPによって、牽引トルク現象が生じたときのみに、ステアリング戻り機能をステアリングシステムに段階的に適用することが可能になる。これにより、上記方法は、戻り機能が完全にアクティブである状態、すなわち、適用ゲインGおよび補償ゲインGが1に等しいときと、戻り機能が非アクティブである状態、すなわち、適用ゲインGおよび/または補償ゲインGが0に等しいときとの間で、連続した遷移を行う。これにより、運転手は、戻り機能の作動または停止を感じない。
【0090】
当然ながら、本発明は、添付の図面に示した上記実施形態に限定されない。特に、種々の要素の構成の観点から、または技術的な均等物の置き換えによって、本発明の保護の範囲から逸脱せずに、変更が可能である。
図1
図2
図3