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特許7402246リサイクルポリウレタン弾性繊維、その製法、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を含む繊維構造物、ギャザー部材、及び衛生材料
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  • 特許-リサイクルポリウレタン弾性繊維、その製法、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を含む繊維構造物、ギャザー部材、及び衛生材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】リサイクルポリウレタン弾性繊維、その製法、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を含む繊維構造物、ギャザー部材、及び衛生材料
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/70 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
D01F6/70 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021548941
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035846
(87)【国際公開番号】W WO2021060292
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019173396
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】岩並 泰資
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101096781(CN,A)
【文献】国際公開第97/000982(WO,A1)
【文献】特開平08-246238(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112588(WO,A1)
【文献】特表2002-538314(JP,A)
【文献】特開2007-100248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上であり、かつ、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し10重量%以下であり、
原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープを、前記リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造における紡糸原液の原料として用い、
該原料用ポリウレタン弾性繊維として、PTMG、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、及びエチレンジアミンが重合してなり、かつ、鉱物油と、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及びアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含むシリコーンオイルの合計含有量が20重量%以下であるポリウレタン弾性繊維を用い、
鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が12重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を、該原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下とし、かつ、
該原料用ポリウレタン弾性繊維として、還元粘度が1.10以上2.50以下であるポリウレタン弾性繊維を、該原料用ポリウレタン弾性繊維全体の70重量%以上で用いる、
ことを特徴とするリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項2】
原料用ポリウレタン弾性繊維を溶解させる溶剤が、DMF又はDMAcのいずれかである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させる際の温度が50℃以上100℃以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープと、新規に作製したバージンポリマー溶液とを混合した溶液を紡糸原液として用いる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法であって、該リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上であり、かつ、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し10重量%以下であり、
原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープを、前記リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造における紡糸原液の原料として用い、
該原料用ポリウレタン弾性繊維として、PTMG、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、及びエチレンジアミンが重合してなり、かつ、鉱物油と、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及びアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の成分を含むシリコーンオイルの合計含有量が20重量%以下であるポリウレタン弾性繊維を用い、
鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が12重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を、該原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下とし、
原料用ポリウレタン弾性繊維として、還元粘度が1.00以上4.20以下であるポリウレタン弾性繊維のみを用い、かつ、
原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させる際の温度が100℃以下である、
ことを特徴とするリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項6】
前記原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させる際の温度が50℃以上である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルポリウレタン弾性繊維、その製法、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を含む繊維構造物、ギャザー部材、及び衛生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン繊維はその優れた伸縮性により、他の繊維と混用して多様な製品に使用されている。例としては、とりわけ、靴下、水着、衣服、おむつなどの衛生用品などが挙げられる。その需要は年々増加しており、そのことは原料であるポリオール、イソシアネート、鎖延長剤であるジアミン、ジオールの需要の増加も意味している。
他方、昨今、石油資源の枯渇、地球温暖化が深刻な問題となってきており、サステナブルな社会を目指す動きが活発になってきている。
サステナブルという観点では、例えば、カーボンニュートラルを指向したバイオ原料を用いた生産活動は1つの大きな達成手段である。
また豊かになっていく中でごみや廃棄物が増加し、処分場や処理場の不足、環境汚染等が大きな問題となって久しい。そのため、廃棄物の発生抑制(リデュース)、使用済み製品などの適正な再利用(リユース)、そして最終的なリサイクルの3Rへの取り組みもまたサステナブル社会実現への極めて有効な手段となりうる。
【0003】
そのような流れの中で、以下の特許文献1には、ポリオールの原料となりうる1,4-ブタンジオールを可食性バイオマス原料から作り出す技術が生み出されており、その1,4-ブタンジオールを経由したポリオールを使用したポリウレタン弾性繊維が提案されている。しかしながら、今のところブタンジオール製造に掛かるコストが非常に高いこと、またバイオマスが非可食ではなく可食であること等の課題があり、今のところは世の中に広く採用されるに至っていない。
【0004】
また、以下の特許文献2には、ポリウレタン弾性繊維そのものを再利用する製法に関する報告がなされている。しかしながら、この技術では糸の熟成、粉砕や水分率管理など製造方法が極めて細かく規定されており、そのプロセスに要するエネルギーも無視できない。
【0005】
また、以下の特許文献3には、製造時に発生するドープ廃液を利用する方法も報告されている。しかしながら、この方法では再度ジオールやジイソシアネート、アミン等を加える必要があり、もはや通常の生産と同じである。またいずれの場合も最終的な物性の安定性やばらつきには疑問が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-519121号公報
【文献】中国公開特許106757490号
【文献】中国公開特許108517580号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、リサイクル品であっても汎用使用可能なリサイクルポリウレタン弾性繊維、その製法、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を含む繊維構造物、ギャザー部材、及び衛生材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般にポリウレタン弾性繊維は粘弾性を有するために膠着し易い繊維である。特に捲糸体の内層部においては、巻き取り時にかかる圧力により膠着が経時的に進行する。そのため、弾性繊維捲糸体を使用する際、解舒不良となり糸切れを引き起こす。この解舒不良を改良するため、その紡糸工程においていわゆる油剤を付与した後チーズ形状に巻き取られ、捲糸体(以下、チーズともいう。)となる。これらのポリウレタン弾性繊維を原料の一部としたドープ溶液を経由してリサイクルポリウレタン弾性繊維を作製する場合、特殊な処理をしない限りはリサイクルポリウレタン弾性繊維には原料に含まれる油剤、特に主成分であるシリコーンオイルと鉱物油がそのまま持ち込まれることになり、リサイクルポリウレタン弾性繊維の内部の内添油剤として働く。しかしながら、内添油剤はポリウレタンウレア重合体との相溶性は低く、量が多くなれば物性を低下させる要因となる。さらにはモノフィラメント以外であれば合着性の低下により単糸同士の分離も生じる。また、原料のポリウレタン弾性繊維の特性やドープ作製時の条件などによっては、リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が低下することもあり、これによっても物性の低下、加工時の熱処理への耐性低下が懸念される。
【0009】
また、ポリウレタン弾性繊維は原材料のポリオール、イソシアネート、鎖延長剤の量比の微妙な違いや受熱量によってその物性や特性、ハードドメインの比率や分子量などそのプロファイルが大きく異なることが知られている。他方、ポリウレタン弾性繊維を乾式や湿式紡糸のためのドープ原料としてリサイクルするためには溶剤に再溶解させる必要がある。その際に上記のようにプロファイルの異なるポリウレタン弾性繊維を用いると分子量やハードドメインの比率が大きいものや架橋構造が多いものは溶解せずに残ることがある。溶け残りが多い場合、それらを工程中で濾過するにしても、フィルターの目詰まりがすぐに起こることから生産効率が極めて悪く、実生産には耐えられない。加熱操作で溶解できる場合はあるが、高温が必要となる場合にはポリウレタン分子の切断などにより分子量低下の副作用が生じてしまい、紡糸後の糸性能、物性に影響を及ぼしてしまう。逆に分子量やハード比率が小さすぎるもの、架橋構造が少ないものは容易に溶解するものの、やはり紡糸後の物性の低下を引き起こしてしまう。一般に、例えば、22dtexのポリウレタン弾性繊維の物性としては、破断強度25cN以上、破断伸度550%以上であれば汎用的に使用可能である。
【0010】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討し実験を重ねた結果、一定の内添油剤量(鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量)と還元粘度を有するリサイクルポリウレタン弾性繊維が通常のバージンポリマーを用いて紡糸されたポリウレタン弾性繊維と同等の物性を有することを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
【0011】
[1]原料用ポリウレタン弾性繊維を原料として用いるリサイクルポリウレタン弾性繊維であって、該リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上であり、かつ、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し10重量%以下であることを特徴とするリサイクルポリウレタン弾性繊維。
[2]石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し0.1重量%以上である、前記[1]に記載のリサイクルポリウレタン弾性繊維。
[3]原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープを、前記リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造における紡糸原液の原料として用い、該原料用ポリウレタン弾性繊維として、鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が20重量%以下であるポリウレタン弾性繊維を用いる、前記[1]又は[2]に記載のリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法。
[4]鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が12重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を、原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下とする、前記[3]に記載の方法。
[5]原料用ポリウレタン弾性繊維として、還元粘度が1.00以上4.20以下であるポリウレタン弾性繊維のみを用いる、前記[3]又は[4]に記載の方法。
[6]原料用ポリウレタン弾性繊維として、還元粘度が1.10以上2.50以下であるポリウレタン弾性繊維を、原料用ポリウレタン弾性繊維全体の70重量%以上で用いる、前記[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]原料用ポリウレタン弾性繊維を溶解させる溶剤が、DMF又はDMAcのいずれかである、前記[3]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させる際の温度が50℃以上100℃以下である、前記[3]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープと、新規に作製したバージンポリマー溶液とを混合した溶液を紡糸原液として用いる、前記[3]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記[1]又は[2]に記載のリサイクルポリウレタン弾性繊維を含む、繊維構造物。
[11]前記[1]又は[2]に記載のリサイクルポリウレタン弾性繊維を含む、ギャザー部材。
[12]前記[11]に記載のギャザー部材を含む、衛生材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリサイクルポリウレタン弾性繊維は、リサイクルポリウレタン弾性繊維として汎用的に使用可能であるため、本来廃棄すべき規格外糸を原料として再利用することで2R(リデュース、リサイクル)に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】解舒性の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維は、原料用ポリウレタン弾性繊維を原料として用いるリサイクルポリウレタン弾性繊維であって、該リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上であり、かつ、該リサイクルポリウレタン弾性繊維を石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し10重量%以下であることを特徴とする。
【0015】
該リサイクルポリウレタン弾性繊維を石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し10重量%以下であれば、リサイクルポリウレタン弾性繊維として汎用使用可能な物性を有し、また、単糸同士の分離もないため問題なく使用できる。内添油剤量の管理については、例えば、原料のポリウレタン弾性繊維の油剤含有量を管理する方法、又は原料のポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解したドープ(以下、ドープ、リサイクルドープともいう。)とした後に静置し分離した油剤成分を除去する方法などが挙げられる。
また、石油エーテルでリンスした後の該繊維内部に残留する鉱物油とシリコーンオイルの合計量が該リンス後の繊維重量に対し0.1重量%以上であることが解舒性の点からは好ましい。
【0016】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度は1.00以上である。還元粘度は分子量と相関が高く、1.00以上であれば物性に大きな影響はなく、通常の加熱加工工程にも十分耐えられる。他方、リサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度は紡糸安定性の観点から、5.00以下が好ましい。
【0017】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維は、原料用ポリウレタン弾性繊維を溶剤に溶解させたドープを、前記リサイクルポリウレタン弾性繊維の製造における紡糸原液の原料として用い、該原料用ポリウレタン弾性繊維として、鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が20重量%以下であるポリウレタン弾性繊維を用いる方法により、製造することができる。
【0018】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造に用いる原料用ポリウレタン弾性繊維は、油剤を繊維内部に含んでいても、繊維表面に付着していてもどちらでも構わないが、その油剤中の鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が一定の範囲であることが好ましい。具体的には、原料用ポリウレタン弾性繊維として鉱物油とシリコーンオイルの含有量が0重量%以上20重量%以下であるポリウレタン弾性繊維のみを用いることが、原料の持ち込み油剤量管理の面から好ましい。鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量は、より好ましくは0%重量%以上17重量%以下、さらに好ましくは0%重量%以上15重量%以下である。リサイクルポリウレタン弾性繊維に含まれる鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量は必要に応じて後付着により調整できるため、原料用ポリウレタン弾性繊維には必ずしも鉱物油とシリコーンオイルを含んでいなくてもよい。
【0019】
さらには原料用ポリウレタン弾性繊維として鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が12重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を、原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下とすることが好ましい。原料用ポリウレタン弾性繊維のうち鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が12重量%以上であるものの重量比率がこの範囲であれば、リサイクルポリウレタン弾性繊維は繊維内部の鉱物油とシリコーンオイルの合計量が石油エーテルリンス後の重量に対して10重量%以下に管理しやすい。より好ましくは鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が10重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を、原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下とすることであり、さらに好ましくは鉱物油とシリコーンオイルの合計含有量が8重量%以上であるポリウレタン弾性繊維を原料用ポリウレタン弾性繊維全体の10重量%以下にすることである。
【0020】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法としては、原料用ポリウレタン弾性繊維として還元粘度が1.00以上4.20以下であるポリウレタン弾性繊維のみを用いることが好ましい。原料用ポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上であれば紡糸後のリサイクルポリウレタン弾性繊維の物性に大きな影響はなく、通常の加熱加工工程にも十分耐えられる。他方、原料用ポリウレタン弾性繊維の還元粘度が4.20以下であれば、ドープ作製時の溶け残りが極めて少なく、あったとしても工程中のフィルターにて容易に除去することができる。
【0021】
原料用ポリウレタン弾性繊維の還元粘度は、1.10以上2.50以下であることがより好ましい。この範囲であれば得られるリサイクルポリウレタン弾性繊維の物性のばらつきが抑えられ、かつ工程への影響も極めて少ない。また、還元粘度が1.10以上2.50以下である原料用ポリウレタン弾性繊維の重量比率は、原料用ポリウレタン弾性繊維全体の70重量%以上であることが好ましく、100重量%であることがより好ましい。
乾式紡糸又は湿式紡糸においてポリウレタン弾性繊維をリサイクル原料として使用する場合は、アミド系溶剤としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)のいずれかの溶剤に溶解させたドープを作製し、これを紡糸原液の原料とすることが好ましい。この際に原料用ポリウレタン弾性繊維を適当な長さに裁断してから溶解させることで溶解効率は高くなる。溶剤としては使いやすさの観点からDMAcがより好ましい。
【0022】
原料用ポリウレタン弾性繊維のドープ作製時の溶解温度は、得られるリサイクルポリウレタン弾性繊維の還元粘度が1.00以上となる限り特に制限はないが、効率よく溶解させる目的では50℃以上が好ましく、他方、分子量や紡糸後の糸物性を低下させない観点からは100℃以下が好ましい。溶解温度は、より好ましくは60℃以上90℃以下である。
【0023】
原料用ポリウレタン弾性繊維から製造されるドープは濃度を適宜調整することで紡糸原液としてそのまま用いることができる。また、原料用ポリウレタン弾性繊維から製造されるドープと、原料用ポリウレタン弾性繊維を原料としない、新規に作製した紡糸原液(バージンの紡糸原液)とを混合してもよく、その混合比率に特に制限はない。
【0024】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法に用いる原料用ポリウレタン弾性繊維、及びバージン紡糸原液に供されるポリウレタン重合体は、高分子ジオールとジイソシアネートとが反応して得られたプレポリマーに、活性水素含有化合物を反応させる公知の方法で得られる。高分子ジオールとしては、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール等を挙げることができ、好ましくはポリエーテルジオールであり、より好ましくは1種又は2種以上の炭素数2~10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基がエーテル結合しているポリアルキレンエーテルジオールである。
【0025】
ポリアルキレンエーテルジオールは、1種又は2種以上の炭素数2~10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基がエーテル結合しており、かつ、数平均分子量が500~6000である単一又は共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、アルキレン基がブロック状又はランダム状にエーテル結合しており、かつ、数平均分子量が500~6000である共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。
【0026】
ジイソシアネートとしては、分子内に2個のイソシアネート基を有す公知の脂肪族、脂環族又は芳香族の有機ジイソシアネートが挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用してもよい。具体的には、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートが挙げられ、好ましくは4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートである。また、有機ジイソシアネートとしては、遊離のイソシアネート基に変換される封鎖されたイソシアネート基を有する化合物を使用してもよい。
【0027】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維の製造方法に用いる原料用ポリウレタン弾性繊維、及びバージン紡糸原液に供されるポリウレタン重合体に用いられるイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物としては、ポリウレタン重合体における常用の鎖伸長剤、すなわち、イソシアネートと反応し得る水素原子を少なくとも2個含有する分子量500以下の低分子化合物を用いることができる。具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ヒドラジン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、ジヒドラジド、ピペラジン等のジアミン類、特開平5-155841号公報で開示されたジアミン化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のジオール類等が挙げられ、好ましくはエチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、特開平5-155841号公報で開示されたジアミン化合物類が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また場合により、イソシアネートと反応し得る活性水素を1個含有する化合物と併用してもよい。
【0028】
ジイソシアネート、高分子ジオール、及び活性水素含有化合物を用いてポリウレタン重合体を製造する方法に関しては、公知のウレタン化反応の技術を採用することができる。
こうして得たポリウレタン重合体に、ポリウレタン重合体に有用な公知の有機化合物又は無機化合物の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、黄変防止剤、熱変色防止剤、耐プール用殺菌塩素剤、着色剤、ロジン、顔料、カーボンブラック、アクリル樹脂、金属石鹸、フィラー等をさらに添加してもよい。このようにして得られたポリウレタン重合体は、公知の乾式紡糸、湿式紡糸等で繊維状に成形し、ポリウレタン弾性繊維を製造することができる。
【0029】
こうして得たポリウレタン弾性繊維に、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、鉱物油、鉱物性微粒子、例えばシリカ、コロイダルアルミナ、タルク等、高級脂肪酸金属塩粉末、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン等の常温で固形状ワックス等の油剤を単独、又は必要に応じて任意に組合せて付与してもよい。
【0030】
本実施形態の繊維構造物は、本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維を構成成分の1つとして含んでいるものであればよく、例えば、布帛(織物、編物、不織布、パイル布帛など)や紐状物(ディップコード、ロープ、テープ、漁網、組紐など)が挙げられる。
【0031】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維を他素材と組み合わせて繊維構造物とする場合の素材の設定に関しては特に制限はなく、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン弾性繊維等が挙げられる。
【0032】
本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維、又は該繊維を含む繊維構造物は、タイツ、パンティストッキング、ファウンデーション、靴下留め、口ゴム、コルセット、外科用の包帯、織物及び編物の水着等の用途に用いることができ、特に、インナー、アウター、レッグ、スポーツウェアー、ジーンズ、水着等の用途に好んで用いられる。
また、本実施形態のリサイクルポリウレタン弾性繊維を含むギャザー部材、及びそれを含む衛生材料も、本発明の一態様である。衛生材料の具体例としては、使い捨て紙オムツや生理用品に代表される吸収性物品や、マスク、包帯等が挙げられる。紙オムツにおいては、ウエスト部や脚回り部に、不織布にホットメルトを介して弾性繊維が接着したギャザー部材が用いられるが、本実施形態のギャザー部材は、こうした部位にも通常のポリウレタン弾性繊維と同様に好適に用いられる。
【実施例
【0033】
以下、実施例と比較例によって本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例で述べられている各種の測定法は、以下に述べる方法を用いて行った。評価結果については以下の表1に示す。
【0034】
(1)リサイクルポリウレタン弾性繊維の紡糸方法
リサイクルポリウレタン弾性繊維用紡糸原液を減圧脱泡した後、紡口フィルターとして400メッシュの金網フィルターを用いて、紡糸ノズル(口金は2個の細孔を有す)の細孔から窒素雰囲気下熱風中に押しだして溶剤を蒸発させた。乾燥された糸条はゴデットローラを経てオイリングローラ上でポリアルキルシロキサン、鉱物油を主成分とする油剤成分をポリウレタン弾性繊維に対して5重量%程度で付着させて、毎分600m/分以上1000m/分以下の速度範囲で、22dtex/2フィラメント(単糸繊度11dtex)のポリウレタン弾性繊維500gを紙管に巻き取った。このポリウレタン弾性繊維を用いて各種評価を行った。一般に、22dtexのポリウレタン弾性繊維の物性は、破断強度及び破断伸度は高い方が好ましいが、破断強度25cN以上、破断伸度550%以上であれば汎用的に使用可能である。
【0035】
(2)リサイクルポリウレタン弾性繊維及び原料用ポリウレタン弾性繊維の還元粘度測定方法
JIS K7367-1の方法に準じ、ウベローデ形粘度計を用いて25℃にて測定を行った。但し、溶液濃度は重量濃度を使用し、0.50重量%となるようにサンプルを溶解させた。溶媒はN,N-ジメチルアセトアミドを用いた。生じた不溶物は遠心分離により沈降させ測定には上澄み液を用いた。前処理としてポリウレタン弾性繊維の外部又は内部に含んだ油剤成分を除去した。具体的にはポリウレタン弾性繊維約3gを用い、ヘキサン300gでのソックスレー抽出を5時間行い、処理後のリサイクルポリウレタン弾性繊維を十分に乾燥させ使用した。
【0036】
(3)リサイクルポリウレタン弾性繊維中の鉱物油とシリコーンオイルの合計含有重量割合(重量%)測定方法
リサイクルポリウレタン弾性繊維(3g程度)が漬かる程度の石油エーテルを加え、軽くかき混ぜ、石油エーテルを捨てるという操作を3回繰り返して表面の油剤成分をリンスした後、よく乾燥させ、これを精秤した。乾燥させたサンプルをヘキサン300gでのソックスレー抽出を5時間行った。抽出後のヘキサンを濃縮した後、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製、濃縮した。得られた鉱物油とシリコーンオイルの残渣重量と精秤重量にて、リサイクルポリウレタン弾性繊維内部に含まれる鉱物油とシリコーンオイルの合計含有重量割合とした。
【0037】
(4)原料用ポリウレタン弾性繊維に含まれる鉱物油とシリコーンオイルの合計含有重量割合(重量%)測定方法
原料用ポリウレタン弾性繊維(3g程度)を精秤し、ヘキサン300gでのソックスレー抽出を5時間行った。抽出後のヘキサンを濃縮した後、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製、濃縮した。得られた鉱物油とシリコーンオイルの残渣重量と精秤重量にて、リサイクルポリウレタン弾性繊維内部に含まれる鉱物油とシリコーンオイルの合計含有重量割合とした。
【0038】
(5)破断強力[cN]・破断伸度[%]の測定
引張試験機(オリエンテック(株)製商品名テンシロンRTG-1210)を使用し、20℃、湿度65%の条件下で試料長5cmの試験糸を50cm/分の速度で引張破断強伸度の測定を行った。試験糸ごとに各7点測定し、一番数値の大きいものと小さいものを省いた5点の平均を算出した。
【0039】
(6)ポリウレタン弾性繊維の合着性応力の測定[cN]
引張試験機(オリエンテック(株)製商品名テンシロンRTG-1210)にサンプルを掴み間隔50mmでセットし、温度20℃、湿度65wt%の条件下で以下の方法で測定した。22デシテックス/2フィラメントの単糸を2つに分ける。引き裂いた各一本のフィラメントを、上下のチャックに別々に股を引き裂くようにセットした後に、強伸度測定と同じ方法で応力測定を開始する。
単糸を引き裂くように測定すると強く合着している部分は応力が高く、合着が弱い部分は低い値を示す。そのため測定が進行するにつれて値が上下に変動する。計測された応力の最大値と最小値の平均を合着性応力とした。試験糸ごとに各7点測定し、一番数値の大きいものと小さいものを省いた5点の平均を算出した。変動幅が小さく、かつ、平均値応力が大きい値を示すサンプル弾性糸が、フィラメントの合着性が強く良好であると判断できる。
【0040】
(7)解舒性の評価
図1に示すように、解舒速度比測定機の解舒側に油剤を付着させた弾性糸巻糸体(1)をセットし、巻取側に巻取用の紙管(2)をセットした。巻取速度を一定速度にセットした後、ローラー(3)及び(4)を同時に起動させた。この状態では糸(5)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れず解舒点(6)は図1に示す状態にある。解舒速度を変えることによってチーズからの糸(5)の解舒点(6)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(7)と一致するように解舒速度を設定した。解舒速度比は下記式により求めた。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。チーズ上に巻き取り、室温で30日間保管後に以下の式:
解舒速度比(%)=(巻取速度-解舒速度)÷解舒速度×100
により
解舒速度比を算出し、以下の評価基準で解舒性を評価した。
[評価基準]
◎ :解舒速度比60%未満
○ :解舒速度比60%以上65%未満
○~△ :解舒速度比65%以上70%未満
△ :解舒速度比70%以上80%未満
× :解舒速度比80%以上。
【0041】
(8)原料用ポリウレタン弾性繊維の準備
分子量2000のPTMG、MDI、エチレンジアミン、及びジエチルアミンからなるポリウレタンのDMAc溶液を常法にて重合し、DMAcポリマー溶液を作製した。このときMDIとポリオールのモル比率とエチレンジアミンとジエチルアミンのモル比率を種々調整し、また、油剤の付与量を種々調整する以外は、上記の<(1)リサイクルポリウレタン弾性繊維の紡糸方法>に準じて原料用ポリウレタン弾性繊維を作製し、予め還元粘度と油剤含有率を測定した。尚、(MDIのモル数)/(ポリオールのモル数)が1に近づけばいわゆるプレポリマーの分子量は大きくなる。またアミンの量は未反応イソシアネート部位の量で決まるが、その際のジエチルアミンの比率を少なくするほどポリウレタンの分子量が大きくなる。これらの比率を適宜調整し組み合わせることで紡糸可能なポリマーの分子量、すなわち還元粘度を調整することができる。また、油剤としては日本特許第4731048号公報の実施例3記載の油剤を用いた。
【0042】
[参考例1](バージンポリマーを用いて製造したポリウレタン弾性繊維)
分子量1800のPTMG、MDI、及びエチレンジアミンからなるポリウレタンのDMAc溶液を常法にて重合し、DMAcポリマー溶液を作製した。このとき(MDIのモル数)/(ポリオールのモル数)を1.60とし溶液濃度を30%に調整して上記の<(1)リサイクルポリウレタン弾性繊維の紡糸方法>に従いポリウレタン弾性繊維を得た。
【0043】
[実施例1~9、及び比較例1、2]
原料用ポリウレタン弾性繊維を複数種用い、還元粘度、油剤含有量の範囲調整を行った上でDMAc溶液のドープを作製した。これを必要に応じて参考例1のDMAcポリマー溶液と混合し上記の<(1)リサイクルポリウレタン弾性繊維の紡糸方法>に従いポリウレタン弾性繊維を得た。リサイクルドープ作製詳細条件、バージンポリマーとの混合比率、紡糸状況、得られたポリウレタン弾性繊維の物性評価結果についての詳細を以下の表1に示す。尚、解舒性の評価は実施例8と9についてのみ行った。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のリサイクルポリウレタン弾性繊維は、リサイクルポリウレタン弾性繊維として汎用的に使用可能であるため、本来廃棄すべき規格外糸を原料として再利用することで2R(リデュース、リサイクル)に大きく貢献することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 弾性糸巻糸体
2 巻き取り側紙管
3 ローラー
4 ローラー
5 糸
6 解舒点
7 接点
図1