(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】抗体変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231213BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20231213BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20231213BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231213BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231213BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20231213BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/24
A61P1/04
A61P29/00
A61K39/395 U
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022210008
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2020516456の分割
【原出願日】2018-09-11
【審査請求日】2023-01-24
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】フラー,エステル マリア
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518712(JP,A)
【文献】特開2017-060497(JP,A)
【文献】特開2017-051201(JP,A)
【文献】特表2017-513481(JP,A)
【文献】国際公開第2017/106383(WO,A1)
【文献】The Journal of Immunology,2009年,Vol. 182,p. 7663-7671,doi:10.4049/jimmunol.0804182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNFα結合ドメイン及びFcRn結合部位を備える抗体であって、pH6でヒトFcRnに対して高親和性を有し、前記高親和性は100nM未満の解離平衡定数(K
D)を特徴とし、更にpH7.4でヒトFcRnに対して親和性を有さず又は低親和性を有し、前記低親和性は10μMよりも大きいK
Dを特徴とし、当該抗体のアミノ酸配列はアミノ酸434Wを含
み、
当該抗体は(i)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むV
H
ドメイン、及び(ii)配列番号21又は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むV
L
ドメインを備える、抗体。
【請求項2】
前記抗体のアミノ酸配列は更に、アミノ酸428E及び/又はアミノ酸311Rを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体のアミノ酸配列はアミノ酸311R、428E及び434Wを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
pH6でヒトFcRnに対してインフリキシマブのそれよりも大きい親和性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
pH6でのヒトFcRnに対する前記高親和性は、10nM未満の解離定数K
Dを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
100pM未満のK
DでヒトTNFαに結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
インフリキシマブよりも多い量で、極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記極性細胞単層を横断して輸送される抗体の量は、前記極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの量の2倍よりも大きい、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
10倍過剰の競合免疫グロブリンの存在下において、インフリキシマブの割合よりも高い割合の前記抗体が極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送され、前記割合は、前記極性細胞単層を横断して輸送される免疫グロブリンの総質量を指す、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
前記極性細胞単層を横断して輸送される前記抗体の割合は、前記極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの割合の3倍よりも高い、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
非フコシル化抗体又はフコシル化が低減された抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
炎症状態の治療に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
前記炎症状態は消化管の炎症性障害である、請求項12に記載の使用のための抗体。
【請求項14】
前記治療は、有効量の前記抗体を経口投与することを含む、請求項12又は13に記載の使用のための抗体。
【請求項15】
前記抗体は局所に適用される、請求項12又は13に記載の使用のための抗体。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の抗体のトランスサイトーシスを改善する方法であって、前記抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の抗体の血漿中半減期を延長する方法であって、前記抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変されたエフェクター機能及び/又は改変された薬物動態特性を有する修飾抗体に関する。抗体は、様々な障害、特に炎症状態の治療的処置に有用である。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は過去20年間にわたり、臨床医学において治療用薬剤としての重要性を増している。長年にわたり、抗体を改善する取組みは潜在的な免疫原性の低減に集中しており、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体さえももたらした。別のアプローチは、エフェクター機能を改善することにより抗体を最適化することを目的とする。直接的な効果は抗体の可変抗原結合領域によって媒介されるが、間接的な効果は定常Fc領域によって媒介される。エフェクター機能を改善する取組みは、主にFc領域の調節に集中している。更に、治療用抗体の血清半減期を改善することが望ましく、これにより、必要な抗体の量を減らすことができ、治療間隔を延長することで患者の利便性を高めることができる。
【0003】
治療用途では、いくつかの理由により、免疫グロブリンG(IgG)が好適な選択クラスであった。IgGは精製が容易で、保管時に比較的安定しており、静脈内投与でき、インビボにおける生物学的半減期が延長されており、補体依存性細胞毒性(CDC)の活性化や様々なFc受容体相互作用(抗体依存性細胞毒性;ADCC)によるエフェクター細胞の動員など、様々な生物学的エフェクター機能に関与することができる。5つの免疫グロブリンクラスのうち、IgGは、IgGリサイクル受容体である胎児性Fc受容体(FcRn)とのユニークな相互作用により、最も長い生物学的半減期を示す。この受容体の既知の機能のひとつは、触媒分解からIgGをレスキューすることである。解明されたFcRn-Fc共結晶構造は、IgGヒンジ-CH2-CH3領域においてFcとの相互作用が発生することを示している。この相互作用は、エンドソームにおいて酸性pH6.0~6.5で厳密にpH依存的に発生する。結合したIgG分子はリサイクルされて細胞表面に戻り、そこで生理的pH7.4で循環に放出されるが、非複合IgG分子はリソソーム分解の運命にある。このリサイクルは、IgGの半減期を延長するメカニズムである。したがって、FcRn-IgG相互作用の調節により、ガンマ免疫グロブリン及びFc融合タンパク質の血清半減期を特異的に制御することができる。
【0004】
用途によっては、IgGの血清滞留時間を延長又は短縮することが望ましいことがある。治療用途では、用量が小さく注入が少ないことが要求され得るので、より長い半減期が望ましい。ポリエチレングリコール(PEG)の使用、アルブミン融合タンパク質又はFc融合タンパク質の生成、FcRn-IgG相互作用の強化など、半減期を増大するためのいくつかのアプローチが調査されている。PEG化医薬品は1990年以来病院で用いられており、PEG化は血液中の薬物滞留を延長するための確立された技術である。ヒト血清アルブミン(HSA)もpH依存性相互作用を介してFcRnによってリサイクルされるので、安定性と半減期を向上させるいくつかのアルブミン融合タンパク質も作製されている。更に、アルブミンに融合した抗体フラグメント又はアルブミン結合ドメインは、前臨床研究において血清滞留時間の延長を実証している。Fc融合タンパク質の生成は、インタクト抗体と同様の特性をもつタンパク質又はペプチドをもたらし得る別の戦略である。
【0005】
調査されたFc領域の修飾は、Saxena(2016)Frontiers in Immunology,Vol.7,Article580にまとめられている。
【0006】
改善されたエフェクター機能及び/又は薬物動態を有する抗体には継続的に需要がある。
【発明の概要】
【0007】
本願の発明者らは、抗体のFc領域におけるある特異的変異が、pH6でのFcRnに対する抗体の親和性を劇的に増加させるが、pH7.4での親和性は低いままであることを見出した。変異を有する抗体は、薬物動態特性が改善されると予想される。更に抗体は、インフリキシマブ(IFX)などの既知の抗体と比較して優れたエフェクター機能を呈する。
【0008】
したがって本発明は、以下の項目[1]~[88]に定義される主題に関する。
【0009】
[1]TNFα-結合ドメイン及びFcRn-結合部位を備える抗体であって、pH6でヒトFcRnに対して高親和性を有し、上記高親和性は100nM未満の解離平衡定数(KD)を特徴とし、更に、pH7.4でヒトFcRnに対して低親和性を有し、上記低親和性は1μMよりも大きいKDを特徴とし、抗体のアミノ酸配列はアミノ酸434Wを含む、抗体。
【0010】
[2]抗体のアミノ酸配列は更に、アミノ酸428E及び/又はアミノ酸311Rを含む、項目[1]の抗体。
【0011】
[3]抗体のアミノ酸配列はアミノ酸311R、428E及び434Wを含む、項目[1]又は[2]の抗体。
【0012】
[4]抗体は、434位のアスパラギンをトリプトファンに置換する(N434W)こと、任意に428位のメチオニンをグルタミン酸に置換する(M428E)こと、及び任意に311位のグルタミンをアルギニンに置換する(Q311R)ことによって得られる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0013】
[5]抗体は428位のメチオニンをグルタミン酸に置換する(M428E)ことによって得られる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0014】
[6]抗体は311位のグルタミンをアルギニンに置換する(Q311R)ことによって得られる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0015】
[7]配列番号:13に示されるアミノ酸配列を含む重鎖を有する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0016】
[8]pH6でのヒトFcRnに対する親和性はインフリキシマブのそれよりも大きい、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0017】
[9]pH6でのヒトFcRnに対する上記高親和性は50nM未満の解離定数KDを特徴とする、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0018】
[10]pH6でのヒトFcRnに対する上記高親和性は25nM未満の解離定数KDを特徴とする、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0019】
[11]pH6でのヒトFcRnに対する上記高親和性は10nM未満の解離定数KDを特徴とする、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0020】
[12]1nM~500nM、又は2nM~100nM、又は3nM~50nM、又は4nM~25nM、又は5nM~10nMの範囲の解離定数KDを特徴とする、pH6でのヒトFcRnに対する親和性を有する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0021】
[13]上記高親和性、又は上記高親和性を特徴付ける上記KDは、表面プラズモン共鳴(SPR)により決定される、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0022】
[14]pH7.4でのヒトFcRnに対する上記低親和性は、10μMよりも大きいKDを特徴とする、先行項目のいずれか1つに記載の抗体。
【0023】
[15]pH7.4でのヒトFcRnに対する親和性を特徴付ける上記KDはSPRによって決定される、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0024】
[16]pH7.4でのヒトFcRnに対する親和性は、SPRによってKD値を決定できない程度に低い、項目[1]~[15]のいずれか1つの抗体。
【0025】
[17]200pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0026】
[18]100pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0027】
[19]50pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0028】
[20]25pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0029】
[21]10pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0030】
[22]極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送される、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0031】
[23]配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖と配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖とを有する対照抗体よりも多い量で、極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送される、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0032】
[24]インフリキシマブよりも多い量で、極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送される、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0033】
[25]極性細胞単層を横断して輸送される抗体の量は、極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの量の2倍よりも大きい、項目[24]の抗体。
【0034】
[26]上記量は、4時間以内に極性細胞単層を横断して輸送される抗体の質量を指す、項目[23]~[25]のいずれか1つの抗体。
【0035】
[27]極性細胞単層を横断して輸送される抗体の量は、極性細胞単層を横断して輸送される親免疫グロブリンの量の2倍よりも多く、上記親免疫グロブリンは、そのFc領域が野生型アミノ酸のみを有するという点でのみ、上記抗体と異なる、項目[22]~[26]のいずれか1つの抗体。
【0036】
[28]10倍過剰の競合免疫グロブリンの存在下において、インフリキシマブの割合よりも高い割合の抗体が極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して輸送され、割合は、極性細胞単層を横断して輸送される免疫グロブリンの総質量を指す、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0037】
[29]極性細胞単層を横断して輸送される抗体の割合は、極性細胞単層を横断して輸送される親免疫グロブリンの割合の3倍よりも高く、上記親免疫グロブリンは、そのFc領域が野生型アミノ酸のみを有するという点でのみ、上記抗体と異なる、項目[28]の抗体。
【0038】
[30]極性細胞単層を横断して輸送される抗体の割合は、極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの割合の3倍よりも大きい、項目[28]又は[29]の抗体。
【0039】
[31]上記極性細胞単層は極性T84細胞の単層である、項目[22]~[30]のいずれか1つの抗体。
【0040】
[32]100nM未満、好ましくは10nM未満のKDでCD64に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0041】
[33]10μM未満のKDでCD32a(H)に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0042】
[34]10μM未満のKDでCD32a(R)に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0043】
[35]10μM未満のKDでCD32bに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0044】
[36]500nM未満、好ましくは100nM未満のKDでCD16a(V)に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0045】
[37]10μM未満、好ましくは1μM未満のKDでCD16a(F)に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0046】
[38]10μM未満、好ましくは1μM未満のKDでCD16b(NA2)に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0047】
[39]インフリキシマブよりも高い強度でヒトC1qに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0048】
[40]相対的EC50及び/又は相対最大死亡率に関して、ウサギ補体の補体依存性細胞毒性がインフリキシマブよりも大きい、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0049】
[41]インフリキシマブ以上のレベルでCD14+CD206+マクロファージを誘導することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0050】
[42]インフリキシマブ以上の程度でT細胞増殖を抑制することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0051】
[43]非フコシル化抗体又はフコシル化が低減された抗体である、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0052】
[44](i)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVLドメイン、及び(ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVHドメインを備える、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0053】
[45]配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインとを備える、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0054】
[46]配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む重鎖とを備える、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0055】
[47]上記抗体は、(i)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVLドメイン、及び(ii)配列番号17に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVHドメインを備える、項目[1]~[43]のいずれか1つの抗体。
【0056】
[48]配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVHドメインと、配列番号21又は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインとを備える、項目[47]の抗体。
【0057】
[49]配列番号23又は配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む重鎖とを備える、項目[47]又は[48]の抗体。
【0058】
[50]上記抗体はヒトTNFαに特異的に結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0059】
[51]上記抗体はTNFβに有意に結合しない、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0060】
[52]上記抗体は、
(i)125pM未満の解離定数(KD)でヒトTNFαに結合し、
(ii)アカゲザルTNFα及びカニクイザルTNFαとの交差反応性を有し、
(iii)L929アッセイで決定される効力がインフリキシマブよりも大きく、且つ/又は、
(iv)少なくとも2のストイキオメトリ(抗体:TNFαTrimer)でヒトTNFαTrimerに結合することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0061】
[53]1nM未満のKDでアカゲザル由来のTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0062】
[54]1nM未満のKDでカニクイザル由来のTNFαに結合する、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0063】
[55]L929アッセイで決定された、TNFα誘発アポトーシスを阻害する抗体の効力は、インフリキシマブのそれと比較すると(相対効力)3.5よりも大きく、上記相対効力は、L929アッセイにおけるインフリキシマブのng/mL単位のIC50値の、L929アッセイにおける抗体のng/mL単位のIC50値に対する比である、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0064】
[56]示差走査蛍光定量法により決定されるscFv形式の抗体の可変ドメインの融解温度は少なくとも65℃である、先行項目のいずれか1つに記載の抗体。
【0065】
[57]示差走査蛍光定量法により決定されるscFv形式の抗体の可変ドメインの融解温度は少なくとも68℃である、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0066】
[58]示差走査蛍光定量法により測定される融解温度は少なくとも70℃である、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0067】
[59]上記抗体は、ヒトTNFαとTNF受容体I(TNFRI)との間の相互作用を遮断することができる、先行項目のいずれか1つに記載の抗体。
【0068】
[60]上記抗体は、ヒトTNFαとTNF受容体II(TNFRII)との間の相互作用を遮断することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0069】
[61]混合リンパ球反応における末梢血単核細胞の細胞増殖を阻害することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0070】
[62]CD14+単球からのインターロイキン1βのLPS誘導性分泌を阻害することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0071】
[63]インターロイキン1βのLPS誘導性分泌を阻害するためのIC50値は1nM未満である、項目[62]の抗体。
【0072】
[64]インターロイキン1βのLPS誘導性分泌を阻害するための上記IC50値は、モル基準で、アダリムマブのそれよりも低い、項目[63]の抗体。
【0073】
[65]CD14+単球からのTNFαのLPS誘導性分泌を阻害することができる、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0074】
[66]TNFαのLPS誘導性分泌を阻害するためのIC50値は1nM未満である、項目[65]の抗体。
【0075】
[67]TNFαのLPS誘導性分泌を阻害するための上記IC50値は、モル基準で、アダリムマブのそれよりも低い、項目[66]の抗体。
【0076】
[68]免疫グロブリンG(IgG)、好ましくはIgG1である、先行項目のいずれか1つの抗体。
【0077】
[69]先行項目のいずれか1つの抗体をコードする核酸。
【0078】
[70]項目[69]の核酸を含むベクター又はプラスミド。
【0079】
[71]項目[69]に記載の核酸又は項目[70]のベクター若しくはプラスミドを含む細胞。
【0080】
[72]項目[1]~[68]のいずれか1つの抗体を作製する方法であって、抗体をコードする核酸の発現を可能にする条件下にある培地で項目[71]の細胞を培養することと、細胞又は培地から抗体を回収することと、を含む方法。
【0081】
[73]炎症状態又はTNFα関連障害の治療における使用のための、項目[1]~[68]のいずれか1つの抗体。
【0082】
[74]上記炎症性障害は、以下のセクション「治療対象の障害」に記載される疾患及び障害のリストから選択される、項目[73]に係る使用のための抗体。
【0083】
[75]上記炎症性障害は消化管の炎症性障害である、項目[73]使用のための抗体。
【0084】
[76]上記消化管の炎症性障害は炎症性腸疾患である、項目[75]に記載の使用のための抗体。
【0085】
[77]上記消化管の炎症性障害はクローン病である、項目[75]又は[76]に係る使用のための抗体。
【0086】
[78]上記クローン病は、回腸クローン病、結腸クローン病、回腸結腸クローン病又は限局性上部クローン病(胃、十二指腸及び/又は空腸)から成り、非狭窄性/非穿通性、狭窄性、穿通性及び肛門周囲の疾患経過を含む群から選択され、上記のいずれかの局在及び疾患経過の任意の組み合わせが考慮される、項目[77]に係る使用のための抗体。
【0087】
[79]上記消化管の炎症性障害は潰瘍性大腸炎である、項目[75]又は[76]に係る使用のための抗体。
【0088】
[80]上記潰瘍性大腸炎は、潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、全潰瘍性大腸炎及び回腸嚢炎から成る群から選択される、項目[79]に係る使用のための抗体。
【0089】
[81]上記消化管の炎症性障害は顕微鏡的大腸炎である、項目[75]又は[76]に係る使用のための抗体。
【0090】
[82]上記炎症性障害は関節炎である、項目[73]に係る使用のための抗体。
【0091】
[83]上記炎症性障害は関節リウマチである、項目[73]又は[82]に記載の使用のための抗体。
【0092】
[84]上記方法は、抗体を対象に経口投与することを含む、項目[73]~[83]のいずれか1つに係る使用のための抗体。
【0093】
[85]上記方法は、抗体を局所的に適用することを含む、項目[73]~[84]のいずれか1つに係る使用のための抗体。
【0094】
[86]項目[1]~[68]のいずれか1つの抗体を含む医薬組成物。
【0095】
[87]TNFαに対する抗体のトランスサイトーシスを改善する方法であって、抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む、方法。
【0096】
[88]TNFαに対する抗体の血漿中半減期を延長する方法であって、抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】L929アッセイにおける、抗TNFα抗体変異体のヒトTNFαを中和する効力。抗TNFα抗体変異体と参照インフリキシマブの用量反応曲線を示す。
【
図2】極性T84細胞を横断する抗TNFα IgG変異体の輸送。添加後4時間における頂端側から基底側リザーバーへの抗TNFα抗体変異体とインフリキシマブ(IFX)の量を示す。ng/cm
2として表示。エラーバーは、2~4つの個々の単層のSDを示す。
【
図3】過剰量の骨髄腫IgGの存在下における、極性T84細胞を横断する抗TNFα IgG変異体の輸送。添加後4時間での10倍過剰のヒト骨髄腫IgGの存在下における、頂端側から基底側リザーバーに輸送された抗TNFαAb変異体とIFXの量を示す。ng/cm
2として表示。エラーバーは、3~4つの個々の単層のSDを示す。
【
図4】ADCC活性。抗TNFα抗体変異体、野生型抗体及びIFXによるADCCの誘導。
【
図5】ヒトC1qへの結合。IFX及び抗TNFα抗体変異体のヒトC1qへの結合。各濃度は繰り返してアッセイされた。エラーバーはSDを示す。
【
図6】CDC活性。IFXと比較した様々な抗TNFα変異体の細胞死の割合。各標本点は、6つの独立した反復の平均である。
【
図7】IFXの誘導と比較した各化合物によるCD14
+CD206
+マクロファージの誘導。4つの独立した実験の要約データ。バーは平均を表し、エラーバーはSEMを表す。
【
図8】IFXと比較した各化合物によるT細胞増殖の抑制。3つの独立した実験の要約データ。バーは平均を表し、エラーバーはSEMを表す。
【
図10】抗TNFα抗体変異体のN297に結合した優勢なN-グリカン型の略図。試験した抗TNFα抗体変異体団の中で多数を占めた2つのN-グリカンプロファイルは4GlcNac-1Fuc-3Manと4GlcNac-1Fuc-3Man-1Galであったが、2FFの存在下で産生されたIgG変異体については、これらがフコースを欠いたことを除いて同じ二分岐構造を生じた。
【発明を実施するための形態】
【0098】
本発明は、TNFαに結合することができFcRn結合部位を備える抗体に関する。本願によれば、抗体は、pH6でFcRn、好ましくはヒトFcRnに結合することができる場合、FcRn結合部位を備える。pH6でのFcRnへの結合は、例えば本願の実施例4に記載されるように、SPRによって決定することができる。pH6での抗体のFcRnへの結合がSPRで検出できる場合、そのような抗体はFcRn結合部位を有する。本発明の抗体は、pH6でヒトFcRnに対して高親和性を有し、これは100nM未満の解離平衡定数(KD)を特徴とする。抗体は更に、pH7.4でヒトFcRnに対して低親和性を有し、これは1μMよりも大きいKDを特徴とする。抗体のアミノ酸配列は、434位(EUナンバリング)のアミノ酸トリプトファンを含む。
【0099】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、可変ドメイン内の残基(おおよそ、軽鎖の残基1~107と重鎖の残基1~113)に言及する場合、一般にKabatナンバリングシステムが用いられる(Kabat et al.,、Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。免疫グロブリン重鎖定常領域の残基に言及するときは、一般に「EUナンバリングシステム」又は「EUインデックス」が用いられる(例えば、参照により本明細書に明示的に組み込まれるKabat et al.,、Sequences of Immunological Interest、5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)で報告されたEUインデックス)。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号への言及は、Kabatナンバリングシステムによる残基ナンバリングを意味する。本明細書で別段の記載がない限り、抗体の定常ドメインにおける残基番号への言及は、EUナンバリングシステムによる残基ナンバリングを意味する(例えば国際公開第2006/073941号を参照)。
【0100】
抗体
【0101】
本願の文脈において、用語「抗体」は、「免疫グロブリン」(Ig)(クラスIgG、IgM、IgE、IgA又はIgD(又はその任意のサブクラス)に属するタンパク質として定義される)の同義語として用いられ、従来既知の抗体とその機能的フラグメントを全て含む。本発明の文脈において、抗体/免疫グロブリンの「機能的フラグメント」は、抗原結合フラグメント、又は親抗体の特性のうち1つ以上を本質的に維持する該親抗体のその他の誘導体として定義される。抗体/免疫グロブリンの「抗原結合フラグメント」又は「抗原結合ドメイン」は、抗原結合領域を保持するフラグメント(例えばIgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には、抗体の1つ以上の超可変領域(複数可)、すなわちCDR-1、CDR-2及び/又はCDR-3領域に見られる。本発明の抗体は、二機能性又は多機能性の構造物の一部であってよい。
【0102】
好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術により産生される抗体に限定されない。「モノクローナル抗体」という用語は、任意の真核生物クローン、原核生物クローン又はファージクローンを含む単一のクローンに由来する抗体を指し、それが産生される方法は指さない。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換え技術及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の多種多様な技術を用いて調製することができる。(Harlow and Lane、“Antibodies、A Laboratory Manual”CSH Press 1988、Cold Spring Harbor N.Y.)。
【0103】
ヒトにおける抗TNFα抗体のインビボ使用に関する実施形態を含む他の実施形態では、キメラ抗体、霊長類化抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体を用いることができる。好ましい実施形態では、抗体はヒト抗体又はヒト化抗体であり、より好ましくはモノクローナルヒト抗体又はモノクローナルヒト化抗体である。
【0104】
別の特定の実施形態では、本発明の抗体は免疫グロブリン、好ましくは免疫グロブリンG(IgG)である。本発明のIgGのサブクラスは限定されず、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む。好ましくは、本発明のIgGは、サブクラス1、2又は4のものであり、すなわちそれはそれぞれIgG1、IgG2又はIgG4分子である。最も好ましくは、本発明のIgGはサブクラス1のものであり、すなわちそれはIgG1分子である。
【0105】
TNFα結合ドメイン
【0106】
本発明の抗体のTNFα結合ドメインは特に限定されない。TNFαに結合することができる任意の抗体に由来することができる。
【0107】
好ましくは、本発明の抗体はTNFαに特異的に結合する。本明細書で用いられる場合、抗体がヒトTNFαと1つ以上の参照分子(複数可)を識別できるとき、抗体はヒトTNFαを「特異的に認識する」、又はヒトTNFαに「特異的に結合する」。好ましくは、参照分子の各々に結合するためのIC50値は、TNFαへの結合のIC50値よりも少なくとも1,000倍大きい。その最も一般的な形態において(且つ定められた参照が言及されないとき)、「特異的結合」は、当技術分野で既知の特異性アッセイ方法に従って決定されるような、ヒトTNFαと無関係の生体分子とを識別する抗体の能力を指している。そのような方法は、ウエスタンブロット及びELISA試験を含むが、これらに限定されない。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。典型的には、結合特異性の決定は、単一の参照生体分子ではなく、粉乳、BSA、トランスフェリンなどの約3~5つの無関係の生体分子のセットを用いて行われる。一実施形態では、特異的結合とは、ヒトTNFαとヒトTNFβとを識別する抗体の能力を指す。
【0108】
本発明の抗体は、VLドメイン及びVHドメインを備える。VLドメインは、CDR1領域(CDRL1)、CDR2領域(CDRL2)、CDR3領域(CDRL3)及びフレームワーク領域を有する。VHドメインは、CDR1領域(CDRH1)、CDR2領域(CDRH2)、CDR3領域(CDRH3)及びフレームワーク領域を有する。
【0109】
用語「CDR」は、主に抗原結合に寄与する抗体の可変ドメイン内の6つの超可変領域のうち1つを指す。6つのCDRについて最も一般的に用いられる定義のひとつは、Kabat E.A.et al.,(1991)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91-3242)によって提供された。本明細書で用いられる場合、CDRのKabatの定義は、軽鎖可変ドメインのCDR1、CDR2及びCDR3(CDR L1、CDR L2、CDR L3又はL1、L2、L3)と、重鎖可変ドメインのCDR2及びCDR3 (CDR H2、CDR H3又はH2、H3)にのみ適用される。ただし、重鎖可変ドメインのCDR1(CDR H1又はH1)は、本明細書で用いられる場合、以下の残基(Kabatナンバリング)によって定義される。すなわち、26位で始まり、36位の前で終了する。
【0110】
本発明の一実施形態では、本発明の抗体は、出願時のPCT出願PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237及びPCT/EP2017/056227のいずれか1つに開示されている抗TNFα抗体である。本発明の更に別の実施形態では、抗体は、出願時のPCT出願PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237及びPCT/EP2017/056227に開示されるようなアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変ドメイン及び/又は重鎖可変ドメインを備える抗TNFα抗体である。
【0111】
本発明の好適な実施形態では、抗体は、PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237又はPCT/EP2017/056227に開示されるようなアミノ酸配列を含む1つ以上のCDRを有する軽鎖可変ドメイン及び/又は重鎖可変ドメインを備える抗TNFα抗体である。本発明の別の好適な実施形態では、抗体は、出願時のPCT/EP2017/056218の請求項2、PCT/EP2017/056246の請求項2、PCT/EP2017/056237の請求項2又はPCT/EP2017/056227の請求項2に開示されるようなアミノ酸配列を含むCDRを有する軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを備える抗TNFα抗体である。本発明の更に別の好適な実施形態では、抗TNFα抗体は、PCT/EP2017/056218の請求項4、PCT/EP2017/056246の請求項5及び6、PCT/EP2017/056237の請求項5及び6、PCT/EP2017/056227の請求項4、並びにそれらの組み合わせに従う重鎖可変ドメインアミノ酸配列及び/又は軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む抗TNFα抗体から成る群から選択される。国際特許出願PCT/EP2017/056218、PCT/EP2017/056246、PCT/EP2017/056237及びPCT/EP2017/056227のそれぞれの開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。それらは、本願の開示の一部を形成する。
【0112】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVLドメイン、及び(ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVHドメインを備える。
【0113】
より好適な実施形態では、本発明の本発明の抗体は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むVHドメインを備える。別のより好ましい実施形態では、抗体は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインを備える。最も好ましくは、本発明の抗体は、(i)配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び(ii)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインを備える。
【0114】
別の特定の実施形態では、本発明の抗体は、(i)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVLドメイン、及び(ii)配列番号17に示されるアミノ酸配列を含むCDR1領域と、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むCDR2領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含むCDR3領域とを有するVHドメインを備える。
【0115】
より好適な実施形態では、本発明の抗体は、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVHドメインを備える。別のより好適な実施形態では、抗体は、配列番号21又は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインを備える。最も好ましくは、本発明の抗体は、(i)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び(ii)配列番号21又は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含むVLドメインを備える。
【0116】
本発明の抗体は、ヒトTNFαに対して高親和性を有する。用語「KD」は、特定の抗体抗原相互作用の解離平衡定数を指す。典型的には、本発明の抗体は、BIACORE機器で表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて決定した場合に、約2×10-10M未満、好ましくは1.5×10-10M未満、好ましくは1.25×10-10M未満、より好ましくは1×10-10M未満、最も好ましくは7.5×10-11M未満、又は更に5×10-11M未満の解離平衡定数(KD)で、ヒトTNFαに結合する。特に、KDの決定は実施例1に記載のとおり実施される。
【0117】
FcRnに対する親和性に影響を与える修飾
【0118】
本発明の抗体は、本明細書で定義されるように、少なくとも1つの「アミノ酸修飾」により、野生型抗体のネイティブ配列とは異なるアミノ酸配列を含む。少なくとも1つのアミノ酸修飾は、ヒトFcRnに対する抗体の親和性に影響を与える。典型的には、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、pH6でのヒトFcRnに対する抗体の親和性を増大させる。一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、pH6でのヒトFcRnに対する抗体の親和性を増大させ、pH7.4でのヒトFcRnに対する親和性は実質的に変化させない。好ましくは、修飾抗体は、野生型抗体又は親抗体のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば約1個~約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1個~約5個のアミノ酸置換を有する。好ましくは、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、抗体のFcRn結合部位内にある。抗体は、例えば構造変化により、抗体のFcRn結合部位の外側に、FcRn結合に影響を与える1つ以上のアミノ酸修飾を有する場合がある。アミノ酸修飾(複数可)は、それ自体が既知である方法、例えば、“Antibody Engineering-Methods and Protocols”,Patrick Chames、第2版、2012年、Chapter 31(ISBN978-1-61779-973-0)に記載されている部位特異的変異誘発によって生成することができる。
【0119】
本発明の抗体は、434位(EUナンバリング)にアミノ酸トリプトファンを含む。本明細書ではこれを「434W」と呼ぶ。非修飾ヒトIgG抗体の434位の天然アミノ酸はアスパラギン(N)である。よって本発明の抗体は、変異N434Wを抗体に導入することによって得ることができる。好ましくは、本発明の抗体は、434位のアスパラギンをトリプトファンで置換することによって得ることができるか、又は得られる。
【0120】
本発明の抗体は、428位(EUナンバリング)にアミノ酸グルタミン酸を含む。本明細書ではこれを「428E」と呼ぶ。非修飾ヒトIgG抗体の428位の天然アミノ酸はメチオニン(M)である。よって本発明の抗体は、変異M428Eを抗体に導入することによって得ることができる。好ましくは、本発明の抗体は、428位のメチオニンをグルタミン酸で置換することによって得ることができるか、又は得られる。
【0121】
好ましくは、本発明の抗体は更に、311位(EUナンバリング)にアミノ酸アルギニンを含む。本明細書ではこれを「311R」と呼ぶ。非修飾ヒトIgG抗体の311位の天然アミノ酸はグルタミン(Q)である。よって本発明の抗体は、変異Q311Rを抗体に導入することによって得ることができる。好ましくは、本発明の抗体は、311位のアルギニンをグルタミンで置換することによって得ることができるか、又は得られる。
【0122】
一実施形態では、本発明の抗体はアミノ酸434W及びアミノ酸428Eを含む。別の実施形態では、本発明の抗体はアミノ酸434W及びアミノ酸311Rを含む。本発明の好適な実施形態では、抗体はアミノ酸434W、428E及び311Rを含む。この抗体は、変異Q311R、M428E及びN434Wを抗体に導入することによって得ることができる。
【0123】
定常ドメインの残りのアミノ酸配列は、典型的なヒトIgGの天然アミノ酸配列と同一であってよい。ただし、抗体がTNFα結合活性及びエフェクター機能を保持する限り、抗体のアミノ酸配列は、天然抗体のFc領域の天然アミノ酸配列に対する1つ以上の追加の変異又は置換を含む可能性がある。
【0124】
好ましい実施形態では、ヒンジ領域を含む本発明の抗体のFc領域は、配列番号13に示されるアミノ酸配列を含むか、又はそれから成る。
【0125】
一実施形態では、本発明の抗体の重鎖は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む。好ましくは、本抗体は更に、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。
【0126】
別の実施形態では、本発明の抗体の重鎖は、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む。好ましくは、本抗体は更に、配列番号23又は配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。
【0127】
本発明の好適な態様において、本発明の抗体は、非フコシル化抗体又はフコシル化が低減された抗体である。
【0128】
「フコシル化が低減された抗体」という用語は、本明細書で用いられる場合、抗体のN-グリカンの90%未満がフコシル化されている抗体を指す。フコシル化の割合を決定する方法は、当技術分野で既知である。好ましくは、フコシル化の割合は、本願の実施例11に記載されるように決定される。
【0129】
一実施形態では、抗体のN-グリカンの75%未満、又は50%未満、又は25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、抗体のN-グリカンの15%未満がフコシル化されている。特定の実施形態では、本発明の抗体のN-グリカンはフコースを含まない。
【0130】
好ましくは、抗体のN297(EUナンバリング)のN-グリカンの90%未満がフコシル化されている。別の実施形態では、抗体のN297(EUナンバリング)のN-グリカンの75%未満、又は50%未満、又は25%未満がフコシル化されている。最も好ましくは、抗体のN297(EUナンバリング)のN-グリカンの15%未満がフコシル化されている。
【0131】
別の実施形態では、抗体のN297位のN-グリカンはフコースを含まない。
【0132】
非フコシル化抗体(時にはアフコシル化抗体とも呼ばれる)は、様々な方法で生成することができる。例えば、CHO細胞におけるα1,6-フコース転移酵素(FUT8)及びGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)の遺伝子の相乗的ノックダウンを用いて、完全にアフコシル化されADCC強化されたモノクローナル抗体変異体を産生することができる(例えばImai-Nishiya et al.(2007)BMC Biotechnol.7、84を参照)。α1,6-フコース転移酵素の触媒コアをコードする領域においてFUT8遺伝子を切断し、したがってCHO細胞の対応する酵素機能を破壊するジンクフィンガーフィンガー(ZFN)を用いた方法を用いて、完全にコアフコースを欠くモノクローナル抗体を産生することができる(例えばMalphettes et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.106,774~783を参照)。
【0133】
フコシル化が低減された抗体は、2-デオキシ-2-フルオロ-2-フコースなどのおとり基質を培地に添加することによって作製することができ(例えばDekker et al.(2016)Sci Rep 6:36964を参照)、結果としてIgG-Fcグリカンにおけるフコースの取込みが減少する。
【0134】
別の実施形態では、本発明の抗体は高いシアル酸含有量を有する。シアリル化の増加は、例えばシチジン一リン酸-シアル酸シンターゼ(CMP-SAS)、シチジン一リン酸-シアル酸輸送体(CMP-SAT)及びα2,3-シアリルトランスフェラーゼの同時トランスフェクションによって達成することができる(例えばSon et al.(2011)Glycobiology 21、1019~1028を参照)。
【0135】
FcRnに対する親和性
【0136】
本発明の抗体のヒトFcRnに対するpH6での親和性は高い。pH6でのヒトFcRnに対する抗体の高親和性結合は、100nM未満のKD値を特徴とする。好ましくは、pH6での高親和性結合のKD値は、75nM未満、又は50nM未満、又は25nM未満、又は更に10nM未満である。例えば、pH6でのヒトFcRnに対する親和性を特徴付けるKD値は、1nM~500nM、又は2nM~100nM、又は3nM~50nM、又は4nM~25nM、又は5nM~10nMの範囲であってよい。
【0137】
好適な実施形態では、本発明の抗体のpH6でのヒトFcRnに対する親和性は、インフリキシマブのpH6.0でのヒトFcRnに対する親和性よりも大きい。
【0138】
本発明の抗体のヒトFcRnに対する親和性は、好ましくは、例えば本願の実施例4に記載されるように、表面プラズマ共鳴(SPR)によって決定される。
【0139】
本発明の抗体は、典型的には、pH7.4でヒトFcRnに対して低親和性を有する。低親和性は、1μMよりも大きいKD値を特徴とする。好ましくは、pH7.4でのヒトFcRnに対する低親和性は、2μMよりも大きい、又は5μMよりも大きい、又は10μMよりも大きいKD値を特徴とする。
【0140】
特定の実施形態では、低親和性は、SPRによってKD値を決定することができない程度に低い。
【0141】
特別な実施形態では、(i)本発明の抗体のpH7.4でのヒトFcRnに対する結合のKD値の(ii)pH6.0でのヒトFcRnに対する結合のKD値に対する比は、少なくとも100である。好ましくは、この比は少なくとも200、又は少なくとも300、又は少なくとも400、又は少なくとも500、又は少なくとも600、又は少なくとも700、又は少なくとも800、又は少なくとも900、又は少なくとも1000である。
【0142】
抗体の機能特性
【0143】
本発明の抗体は、極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して効率的に輸送される。典型的には、極性細胞単層を横断する輸送は、インフリキシマブの輸送よりも多い量である。インフリキシマブ中の抗体の量は、極性細胞単層のcm2あたりの質量を指す。極性細胞単層を横断して輸送される抗体の量は、極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの量と比較して、少なくとも110%、好ましくは少なくとも125%、より好ましくは少なくとも150%、又は少なくとも175%、又は少なくとも200%である(輸送されるインフリキシマブの量を100%に設定する)。
【0144】
更に、抗体は、過剰な競合免疫グロブリンの存在下で、極性細胞単層を頂端側から基底側に横断して特異的に輸送される。本明細書ではこれを特異的輸送と呼ぶ。
【0145】
極性細胞単層を横断して輸送される免疫グロブリンの総質量の割合は、10倍過剰の競合免疫グロブリンの存在下において、極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの割合よりも大きい。10倍過剰の無関係な免疫グロブリンの存在下で極性細胞単層を横断して輸送される本発明の抗体の割合は、10倍過剰の無関係な抗体の存在下で極性細胞単層を横断して輸送されるインフリキシマブの割合と比較して、少なくとも150%、又は少なくとも200%、又は少なくとも250%、又は少なくとも300%である(インフリキシマブを100%に設定する)。
【0146】
好ましくは、極性細胞単層は極性T84細胞の単層である。トランスサイトーシスのプロセスを模倣する輸送アッセイは、本願の実施例5に記載されるように実施することができる。
【0147】
本発明の抗体は、CD64、CD32a(H)、CD32a(R)、CD32b、CD16a(V)、CD16a(F)及びCD16b(NA2)に結合する。
【0148】
本発明の抗体は、典型的には100nM未満、好ましくは10nM未満のKDでCD64に結合する。
【0149】
本発明の抗体は、典型的には10μM未満のKDでCD32a(H)に結合する。
【0150】
本発明の抗体は、典型的には10μM未満のKDでCD32a(R)に結合する。
【0151】
本発明の抗体は、典型的には10μM未満のKDでCD32bに結合する。
【0152】
本発明の抗体は、典型的には、例えば500nM未満、好ましくは100nM未満のKDでCD16a(V)に結合する。
【0153】
本発明の抗体は、典型的には、例えば10μM未満、好ましくは1μM未満のKDでCD16a(F)に結合する。
【0154】
本発明の抗体は、典型的には、例えば10μM未満、好ましくは1μM未満のKDでCD16b(NA2)に結合する。
【0155】
本発明の抗体は更にヒトC1qに結合する。好ましくは、この結合は、インフリキシマブのヒトC1qへの結合よりも強い。
【0156】
本発明の抗体は更に、ウサギ補体の補体依存性細胞毒性(CDC)を有する。本発明の抗体のこのCDCは、相対的EC50及び/又は相対最大死亡率に関して、インフリキシマブのCDCよりも大きい。
【0157】
本発明の抗体は更に、CD14+CD206+マクロファージを誘導することができる。誘導のレベルは、好ましくは、インフリキシマブのレベルと同等であるか、等しいか、又はそれより高い。
【0158】
本発明の抗体は更に、T細胞増殖を抑制することができる。T細胞増殖の抑制の程度は、好ましくは、インフリキシマブのそれと同等であるか、等しいか、又はそれよりも大きい。
【0159】
医薬組成物及び治療
【0160】
疾患の治療は、あらゆる臨床段階若しく経過において任意の形態の疾患を有すると既に診断されている患者の治療、疾患の症状若しくは徴候の発症又は発展又は増悪又は悪化の遅延、並びに/又は疾患の重症度の予防及び/若しくは軽減を包含する。
【0161】
抗TNFα抗体が投与される「対象」又は「患者」は、非霊長類(例えばウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)又は霊長類(例えばサルやヒト)などの哺乳動物とすることができる。特定の態様では、ヒトは小児患者である。他の態様では、ヒトは成人患者である。
【0162】
本明細書には、抗TNFα抗体及び任意の1つ以上の追加の治療薬(以下に記載される第2の治療薬など)を含む組成物が記載される。組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む無菌の医薬組成物の一部として供給される。この組成物は、(患者に投与する所望の方法に応じて)任意の適切な形態とすることができる。
【0163】
抗TNFα抗体は、経口、経皮、皮下、鼻腔内、静脈内、筋肉内、髄腔内、局所又は局在、例えば粘膜などの様々な経路で患者に投与することができる。どのようなケースにおいても投与に最も適した経路は、特定の抗体と、対象と、疾患の性質及び重症度と、対象の身体状態とに依存するものである。典型的には、抗TNFα抗体は静脈内投与される。
【0164】
特に好適な実施形態では、本発明の抗体は経口投与される。投与が経口経路を介する場合、抗体は好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1である。
【0165】
典型的な実施形態では、抗TNFα抗体は、0.5mg/kg体重~20mg/kg体重で静脈内投与を可能にするのに十分な濃度で、医薬組成物中に存在する。一部の実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法における使用に適切な抗体の濃度は、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、又は上記値のいずれかの間の範囲の濃度、例えば1mg/kg~10mg/kg、5mg/kg~15mg/kg又は10mg/kg~18mg/kgを含むが、これらに限定されない。
【0166】
抗TNFα抗体の有効用量は、単回(例えばボーラス)投与、複数回投与又は継続投与あたり約0.001~約750mg/kgの範囲とすることができ、又は、単回(例えばボーラス)投与、複数回投与又は継続投与あたり0.01~5000μg/mlの血清中濃度を達成することができる範囲とすることができ、又は、治療中の状態と、投与経路と、対象の年齢、体重及び状態とに応じた有効範囲又は値とすることができる。経口投与の場合、血清中濃度は非常に低くてよく、又は検出限界を下回ってもよい。特定の実施形態では、各用量は、体重1キログラムあたり約0.5mg~約50mg、又は体重1キログラムあたり約3mg~約30mgの範囲とすることができる。抗体は水溶液として製剤化することができる。
【0167】
特に好適な実施形態では、本発明の抗体は経口投与される。投与が経口経路を介する場合、抗体は好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1である。抗体が経口投与される場合、抗体の1日用量は、典型的には約0.01mg/体重kg~約100mg/体重kg、又は約0.05mg/体重kg~約50mg/体重kg、又は約0.1mg/体重kg~約25mg/体重kg、又は約0.15mg/体重kg~約10mg/体重kg、又は約0.16mg/体重kg~約5mg/体重kg、又は約0.2mg/体重kg~約2mg/体重kg、又は約0.2mg/体重kg~約1mg/体重kgの範囲にある。一般に、有利な用量は1日あたり1~200mg、好ましくは1日あたり5~100mg又は10~50mgの用量である。
【0168】
医薬組成物は、用量ごとに所定量の抗TNFα抗体を含む単位用量形態で便利に提示することができる。そのような単位は、0.5mg~5g(例えば、限定ではないが、1mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、750mg、1000mg)、又は上記値の任意の2つの間の任意の範囲(例えば10mg~1000mg、20mg~50mg、又は30mg~300mg)を含むことができる。薬学的に許容される担体は、例えば治療対象の状態や投与経路に応じて、多種多様な形態をとることができる。
【0169】
その抗TNFα抗体の有効薬量、総投与数及び治療期間の決定は、十分に当業者の能力の範囲内であり、標準的な用量漸増研究を用いて決定することができる。
【0170】
本明細書に記載の方法に適した抗TNFα抗体の治療製剤は、所望の純度を有する抗体を、当業者によって典型的に採用される任意の薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤(これら全てを以下「担体」と呼ぶ)、すなわち緩衝剤、安定剤、保存料、等張剤、非イオン性洗剤、抗酸化剤及び他の種々の添加物と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液として保存されるように作製することができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版(Osol,ed.1980)を参照されたい。そのような添加物は、採用される薬量及び濃度においてレシピエントに対して無毒でなければならない。
【0171】
緩衝剤は、生理学的条件に近い範囲でpHを維持するのに役立つ。それらは約2mM~約50mMの範囲の濃度で存在することができる。適切な緩衝剤は、クエン酸緩衝剤(例えばクエン酸ナトリウム-クエン酸二ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸ナトリウム混合物など)、クエン酸リン酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤(例えばコハク酸-コハク酸ナトリウム混合物、コハク酸-水酸化ナトリウム混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウム混合物など)、酒石酸塩緩衝剤(例えば酒石酸-酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸-酒石酸カリウム混合物、酒石酸-水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸緩衝剤(例えばフマル酸-フマル酸ナトリウム混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウム混合物、フマル酸ナトリウム-フマル酸二ナトリウム混合物など)、グルコン酸緩衝剤(例えばグルコン酸-グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸緩衝剤(例えばシュウ酸-シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸緩衝剤(例えば乳酸-乳酸ナトリウム混合物、乳酸-水酸化ナトリウム混合物、乳酸-乳酸カリウム混合物など)、酢酸緩衝剤(例えば酢酸-酢酸ナトリウム混合物、酢酸-水酸化ナトリウム混合物など)のような、有機酸と無機酸の両方、及びその塩を含む。更に、リン酸緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、及びTrisなどのトリメチルアミン塩を用いることができる。
【0172】
本発明の医薬組成物は更に、少なくとも1つの塩、例えば塩化ナトリウムを含んでよい。
塩濃度は、好ましくは100mM~200mMの範囲であり、例えば約150mMである。
【0173】
防腐剤は微生物増殖を遅らせるために添加することができ、0.2%~1%(w/v)の範囲の量で添加することができる。適切な防腐剤として、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ハロゲン化ベンザルコニウム(例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、及びメチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、及び3-ペンタノールが挙げられる。「安定剤」としても知られる等張剤は、液体組成物の等張性を確保するために添加することができ、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどの、多価糖アルコール、好ましくは三価以上の糖アルコールを含む。安定剤とは、充填剤から、治療薬の可溶化や変性又は容器壁への付着の防止に役立つ添加物まで、様々な機能を取り得る広範なカテゴリーの賦形剤を指す。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上に列挙);アミノ酸(アルギニン、リジン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニンなど)、有機糖又は糖アルコール(ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール、グリセロールなど、イノシトールなどのシクリトールを含む);ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;硫黄含有還元剤(尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウムなど);低分子量ポリペプチド(例えば10残基以下のペプチド);タンパク質(ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなど);親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);単糖類(キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースなど);二糖類(ラクトース、マルトース、スクロースなど)及び三糖類(ラフィノースなど);多糖類(デキストランなど)とすることができる。安定剤は、活性タンパク質の重量部あたり0.1~10,000重量の範囲で存在することができる。
【0174】
非イオン性界面活性剤又は洗剤(「湿潤剤」としても知られる)は、治療薬の可溶化を助けたり、治療用タンパク質を撹拌誘発凝集から保護したりするために添加することができ、また、タンパク質の変性を引き起こすことなく、応力を受けたせん断面に製剤がさらされるようにすることができる。適切な非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、プルロニックポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(TWEEN(登録商標)-20、TWEEN(登録商標)-80など)が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml~約1.0mg/mlの範囲、又は約0.07mg/ml~約0.2mg/mlの範囲で存在することができる。
【0175】
追加の種々の賦形剤として、充填剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、プロテアーゼ阻害剤及び共溶媒が挙げられる。
【0176】
本明細書における製剤は、その抗TNFα抗体に加えて第2の治療薬を含むこともできる。適切な第2の治療薬の例を以下に提供する。
【0177】
投薬スケジュールは、疾患の種類、疾患の重症度及び抗TNFα抗体に対する患者の感受性など、いくつかの臨床的要因に応じて、月に1回から毎日までばらつきがあってよい。特定の実施形態では、その抗TNFα抗体は、毎日、週2回、週3回、隔日、5日ごと、週1回、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、4週間ごと又は月1回投与され、又は前述の値のうち任意の2つの間の任意の範囲、例えば4日ごとから1か月ごと、10日ごとから2週間ごと、又は週に2~3回などで投与される。
【0178】
投与される抗TNFα抗体の薬量は、特定の抗体と、対象と、疾患の性質及び重症度と、対象の身体状態と、治療レジメン(例えば第2の治療薬が使用されるか否か)と、選択された投与経路とに従って異なってよく、適切な薬量は当業者によって容易に決定され得る。
【0179】
当業者には、抗TNFα抗体の個々の投薬の最適な量及び間隔は、治療されている状態の性質及び程度と、投与の形態、経路及び部位と、治療されている特定の対象の年齢及び状態によって決定されるものであることが認識され、また、最終的には医師が使用される適切な薬量を決定することが認識されるであろう。この投薬は、必要に応じて何度でも繰り返すことができる。副作用が発現する場合、投薬の量及び/又は頻度は、通常の臨床慣行に従って変更又は低減することができる。
【0180】
治療対象の障害
【0181】
本発明は、対象におけるヒトTNFα関連疾患を治療又は予防する方法であって、本明細書で定義される抗体を対象に投与することを含む方法に関する。「TNFα関連障害」又は「TNFα関連疾患」という用語は、その症状又は疾患状態の発症、進行又は持続にTNFαの関与を必要とする任意の障害を指す。例示的なTNFα関連障害として、限定ではないが、一般の慢性炎症状態及び/又は自己免疫性炎症状態、一般の免疫介在性炎症性障害、炎症性CNS疾患、目、関節、皮膚、粘膜、中枢神経系、消化管、尿路又は肺に影響を及ぼす炎症性疾患、一般的なぶどう膜炎の状態、網膜炎、HLA-B27+ぶどう膜炎、ベーチェット病、ドライアイ症候群、緑内障、シェーグレン症候群、真性糖尿病(糖尿病神経障害)、インスリン耐性、一般的な関節炎の状態、関節リウマチ、変形性関節症、反応性関節症及びライター症候群、若年性関節症、強直性脊椎炎、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、慢性腎疾患、膀胱炎、乾癬(乾癬性関節炎を含む)、化膿性汗腺炎、脂肪織炎、壊疽性膿皮症、SAPHO症候群(滑膜炎、ざ瘡、膿疱症、過骨症及び骨炎)、ざ瘡、スイート症候群、天疱瘡、クローン病(腸管外症状を含む)、潰瘍性大腸炎、気管支喘息、過敏性肺炎、一般のアレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、慢性の閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、ウェゲナー肉芽腫症、川崎病、巨細胞性動脈炎、チャーグ・ストラウス血管炎、結節性多発動脈炎、火傷、移植片対宿主病、移植片対宿主反応、臓器移植又は骨髄移植後の拒絶発症、一般的な血管炎の全身状態及び局所状態、全身性及び皮膚性のエリテマトーデス、多発性筋炎及び皮膚筋炎、皮膚硬化症、子癇前症、急性及び慢性の膵炎、ウィルス性肝炎、アルコール性肝炎、術後炎症(目の手術(例えば白内障(眼水晶体置換)又は緑内障の手術)、関節手術(関節鏡下手術を含む)、関節関連構造(例えば靱帯)の手術、口腔内手術及び/又は歯科手術、低侵襲心臓血管手術(例えばPTCA、アテレクトミー、ステント留置)、腹腔鏡下及び/又は内視鏡下の腹腔内手術及び婦人科手術、内視鏡下泌尿器処置(例えば前立腺手術、尿管鏡検査、膀胱鏡検査、間質性膀胱炎)の後)又は一般的な手術前後の炎症(予防)、水疱性皮膚炎、好中球性皮膚症、毒性表皮壊死症、膿疱性皮膚炎、脳マラリア、溶血性尿毒症症候群、同種移植片拒絶、中耳炎、蛇にかまれた傷、結節性紅斑、骨髄異形成症候群、原発性硬化性胆管炎、血清陰性脊椎関節症、自己免疫性溶血性貧血、口腔顔面肉芽腫症、増殖性化膿性口内炎、アフタ性口内炎、地図状舌、遊走性口内炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ベル麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病及び一般的な神経変性状態が挙げられる。
【0182】
癌関連の骨溶解症、癌関連の炎症、癌関連の疼痛、癌関連の悪液質、骨転移、急性型及び慢性型の疼痛(これらがTNFαの中枢効果又は末梢効果によって引き起こされたか否かに関わらず、また、それらが炎症性の、侵害受容性の、又は神経障害性の疼痛、坐骨神経痛、腰痛、手根管症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、痛風、帯状疱疹後神経痛、線維筋痛症、局所疼痛状態、転移性腫瘍による慢性疼痛症候群、月経困難症に分類されるか否かに関わらず)。
【0183】
治療対象となる特定の障害として、一般の関節炎の状態、関節リウマチ、変形性関節症、反応性関節症、若年性関節症;乾癬性関節炎を含む乾癬;クローン病を含む炎症性腸疾患、直腸炎、S状結腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、広範大腸炎及び全大腸炎を含む潰瘍性大腸炎、未確定の大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎及びリンパ球性大腸炎を含む顕微鏡的大腸炎、結合組織疾患における大腸炎、空置大腸炎、憩室疾患における大腸炎、好酸球性大腸炎並びに回腸嚢炎が挙げられる。
【0184】
最も好ましくは、本発明の抗体は、炎症性腸疾患、特にクローン病、潰瘍性大腸炎又は顕微鏡的大腸炎を治療するために用いられる。クローン病は、非狭窄性/非穿通性、狭窄性、穿通性及び肛門周囲の疾患経過を含む回腸クローン病、結腸クローン病、回腸結腸クローン病又は限局性上部クローン病(胃、十二指腸及び/又は空腸)であってよく、上記のいずれかの局在及び疾患経過の任意の組み合わせが考慮される。潰瘍性大腸炎は、潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側大腸炎、全潰瘍性大腸炎及び回腸嚢炎であってよい。
【0185】
併用療法及び他の態様
【0186】
好ましくは、その抗TNFα抗体で治療されている患者も別の従来の薬剤で治療される。例えば、炎症性腸疾患に罹患している患者は、特に中等度から重度の疾患を患っている場合、典型的にはメサラジン又はその誘導体若しくはプロドラッグ、コルチコステロイド(例えばブデソニド又はプレドニゾロン)(経口又は静脈内)、免疫抑制剤(例えばアザチオプリン/6-メルカプトプリン(6-MP)又はメトトレキサート、シクロスポリン又はタクロリムス)でも治療されている。患者に共投与できる他の薬剤として、他の抗TNFα抗体(例えばインフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ)、インテグリン拮抗薬(例えばナタリズマブ、ベドリズマブ)、抗IL-23抗体(例えばMEDI2070))、抗β7抗体(例えばエトロリズマブ)、JAK/STAT経路のJAK阻害剤(例えばトファシチニブ)及びその他が挙げられる。患者に同時投与できる更なる薬剤として、安定した長期の寛解を維持するために免疫抑制剤(例えばアザチオプリン/6-MP又はメトトレキサート又は経口シクロスポリン)が挙げられる。本発明の更に別の態様は、炎症を軽減するための上記で定義された抗TNFα抗体の使用である。
【0187】
本発明の更に別の態様は、炎症状態に罹患している患者の炎症の軽減に使用するための、上記で定義された抗TNFα抗体である。
【0188】
本発明の更なる態様は、炎症状態を治療する方法であって、上記で定義された抗TNFα抗体を、それを必要とする患者に有効量投与することを含む方法である。炎症状態は、好ましくは上記の状態のうちのひとつである。
【0189】
本発明の更なる態様は、炎症状態を予防する方法であって、上記で定義された抗TNFα抗体を、それを必要とする患者に有効量投与することを含む方法である。炎症状態は、好ましくは上記の状態のうちのひとつである。
【0190】
本発明の更に別の態様は、TNFαに対する抗体のトランスサイトーシスを改善する方法であって、トランスサイトーシスが改善された修飾抗体を得るために、抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む方法である。修飾抗体は、好ましくは上記のような抗体である。
【0191】
本発明の更に別の態様は、TNFαに対する抗体の血漿中半減期を延長する方法であって、血漿中半減期が延長された修飾抗体を得るために、抗体のアミノ酸配列に置換Q311R、M428E及びN434Wを導入することを含む方法である。修飾抗体は、好ましくは上記のような抗体である。血漿中半減期は、非修飾抗体(すなわち置換Q311R、M428E及びN434Wを欠く親抗体)の血漿中半減期と比較して、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%増加し得る。
【0192】
【0193】
実施例
【0194】
抗体変異体
【0195】
抗体アミノ酸配列のFc領域に置換を導入することにより、抗TNFα抗体(以下「親抗体」又は「Ab-wt」と呼ぶ)のいくつかの変異体が生成された。Ab-wtの軽鎖は配列番号1に示されるアミノ酸配列を含み、Ab-wtの重鎖は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。変異は、確立された方法による部位特異的変異誘発によって導入された。手短に言えば、変異はPCRによって導入された。フォワードプライマーは目的の変異を含むように設計され、リバースプライマーは2つのプライマーの5’末端が連続してアニールする(ただし重複しない)ように設計された(
図9)。PCRを25サイクル実行した(98℃で10秒間、64℃で30秒間、72℃で3分間)。PCR産物をアガロースゲルで泳動する前に、制限酵素DpnIを用いてPCR産物プールから非変異PCRテンプレートを除去した。PCR産物のゲル精製に続いて、平滑末端をライゲーションして、コンピテントなE.coli細胞に形質転換された環状化プラスミドを得た。一晩インキュベートした後、いくつかのコロニーを採取し、プラスミドDNAを単離して配列決定して、変異が組み込まれたことを確認した。
【0196】
非フコシル化変異体は、0.15mMのおとり基質2-デオキシ-2-フルオロ-2-フコースを培地に添加することによって生成した(Dekkers et al.(2016)Sci Rep 6:36964)。これにより、以下の実施例11に示されるように、IgG-Fcグリアンへのフコースの取込みが著しく減少した。
【0197】
【0198】
抗体Ab-REW及びAb-REW-2FFは、本発明による抗体である。
【0199】
実施例1.TNFαに対する親和性
【0200】
方法:
【0201】
TNFαに対する親和性はBiacoreによって測定した。標準的なアミン固定化Biacore手順を用いてCM5チップを準備した。CM5チップを挿入すると、システムが準備され、BIA正規化ソリューション(Biacore Preventative Maintenance Kit 2)によって正規化された。チップは、PBS-Tランニングバッファーと共にシステムに追加された。固定化の前に、チップ表面に50mMのNaOHを3回注入した。タンパク質Aをチップ表面に固定した。このために、タンパク質をpH4.5の10mM酢酸緩衝剤で5μg/mLまで希釈し、4つのフローセル全てにおいて約1000RUの結合応答を起こすように注入した。全てのチップフローセルから非共有結合物質を除去するために、15秒間の50mM NaOHでの洗浄を3回行った。タンパク質Aチップ上では、フローセル2及び4において抗体を捕捉し、フローセル1及び3を参照減算に用いた。試験抗体をPBS-Tで10nMまで希釈し、2.5~7.5uLを注入して120RUの捕捉抗体を得た。検体TNFαを、供給者の指示に従って水で500μg/mLに調製し、ランニングバッファーPBS-Tで更に希釈した。シングル・サイクル・カイネティクスを用いて、定常状態の親和性を推定した。シングルサイクルの分析サイクルごとに、5通りの検体濃度の滴定をリガンドに注入し、複合体の解離を測定した。グリシンpH1.7を用いて表面を再生した。二重参照法を採用し、リガンド結合捕捉表面(fc2とfc4)からのデータを、リガンド捕捉のない参照表面(それぞれfc1とfc3)から差し引いた。バッファーのブランク注入を3~4サイクルごとに実行し、その後、検体注入サイクルから差し引いて、リガンド捕捉表面の小さな変化について補正した。各分析実施の開始時と終了時に検体の繰り返し注入を用いて、サンプルの劣化又は機器性能の変化を確認した。全ての分析を25℃で実施し、サンプルラックは実験中10℃でインキュベートした。各実験を少なくとも3回実施した。1対1の結合モデルを用いて、結果として得られた動力学データを適合させた。
【0202】
結果:
【0203】
全ての抗体はTNFαと同様の結合動態を示し、これは導入された修飾が抗原結合領域に有意な変化をもたらさなかったことを示す。抗体Ab-REW-2FFの場合、解離速度を測定することができなかったので、親和性(KD)を決定することができなかった。しかしながら、結合率は他の抗体と同等であり、これは変異の導入が結合に有意な影響を与えないことを示す。
【0204】
【0205】
実施例2.効力
【0206】
方法:
【0207】
連続希釈の抗TNFα抗体変異体の存在下で、L929細胞を0.25ng/mLのTNFαと1μg/ウェルのアクチノマイシンDと共にインキュベートした。37℃/5%CO2で20時間インキュベートした後、MTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム及び電子結合試薬(フェナジンエトスルファート、PES)を用いて、増殖応答を測定した。MTSは、代謝的に活性な細胞に存在するデヒドロゲナーゼ酵素によって、ホルマザン産物に変換された。492nmの吸光度で測定したホルマザン産物の量は、培養中の生細胞の数に正比例した。
【0208】
結果:
【0209】
結果を
図1に示す。抗TNFα抗体のFc領域への変異の導入は、効力に影響を与えなかった。
【0210】
実施例3.Fcγ受容体(CD64、CD32a、CD32b、CD16a、CD16b)に対する親和性
【0211】
方法:
【0212】
FcγRに対する親和性はBiacoreによって測定した。CM5チップは、標準的なアミン固定化Biacore手順を用いて準備した。CM5チップを挿入すると、システムが準備され、BIA正規化ソリューション(Biacore Preventative Maintenance Kit 2)によって正規化された。チップは、リン酸緩衝生理食塩水Tween-20(PBS-T)ランニングバッファーと共にシステムに追加された。固定化の前に、チップ表面に50mMのNaOHを3回注入した。Hisタグ捕捉システムを用いて、FcγRをチップ表面に固定化した。抗Hisタグチップは、Biacoreキットの説明書に従って準備し、4つのフローセル全てに約12000RUの抗体を沈着させた。全てのチップフローセルから非共有結合物質を除去するために、30秒間の10mMグリシンpH1.5での洗浄を3回行った。Fcγ受容体をPBS-Tで0.5~2μg/mLの範囲に希釈し、2.5~5.0μLをチップに注入して、60~200RUの捕捉レベルを生み出した。分析の前に、抗体をPBS-Tで希釈した。シングル・サイクル・カイネティクスを用いて、定常状態の親和性を推定した。シングルサイクルの分析サイクルごとに、5通りの抗体濃度の滴定をFcγRリガンドに注入し、複合体の解離を測定した。抗His捕捉表面に対して推奨される溶液10mMグリシンpH1.5を用いて、表面を再生した。二重参照法を採用し、リガンド結合捕捉表面(fc2とfc4)からのデータを、リガンド捕捉のない参照表面(それぞれfcとfc3)から差し引いた。バッファーのブランク注入を抗体滴定サイクルごとに実行し、その後、検体注入サイクルから差し引いて、リガンド捕捉表面の小さな変化について補正した。全ての分析を25℃で実施し、サンプルラックは実験中10℃でインキュベートした。各実験を少なくとも3回実施した。
【0213】
結果:
【0214】
CD64への結合は、操作された抗TNFα抗体では影響を受けなかった。変異の導入は、CD32a(H)、CD32a(R)及びCD32bに対する親和性に影響を与えなかった。ただし、Ab-REW-2FFは、CD16a(V)に対する親和性において5.5倍の増大を示した。非フコシル化抗体Ab-REW-2FFも、低親和性CD16a受容体及びCD16bへの結合が改善された。
【0215】
【0216】
【0217】
実施例4.FcRnに対する親和性
【0218】
方法:
【0219】
SPRは、製造元によって説明されたアミンカップリング化学を用いて、抗TNFα IgG1抗体(約500共鳴ユニット(RU))と結合したCM5センサーチップを備えたBiacore3000機器を使用して実施した。カップリングは、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を使用して、10mM酢酸ナトリウム(pH4.5)に各タンパク質2.0ug/mLを注入することによって行った。ランニングバッファー及び希釈バッファーとして、HBS-PバッファーpH7.4(10mM HEPES、150mM NaCl、0.005%界面活性剤P20)又はリン酸バッファーpH6.0(67nMリン酸バッファー、150mM NaCl、0.005%Tween20)を使用した。結合動態は、pH7.4又はpH6.0の固定化抗体に滴定量(1000~31.2nM)の単量体Hisタグ付きヒトFcRn(hFcRn)を注入することによって決定した。全てのSPR実験は、25℃、流量40ul/分で実施した。結合データをゼロ調整し、参照セル値を差し引いた。BIAevaluationソフトウェア(バージョン4.1)によって提供されるラングミュア1:1リガンド結合モデルを用いて、結合動態を決定した。
【0220】
結果:
【0221】
結果は、野生型抗体Ab-wtが厳密にpH依存的にhFcRnに結合することを示した。全ての操作された抗体変異体は、pH6.0でFcRnに対する親和性が高かったが、pH7.4ではpH依存性を維持し、受容体に結合しなかった。驚くべきことに、REWを含む変異体は酸性pHで160倍超の強い結合を示したが、中性pHで試験した条件下ではまだ検出可能な結合はなかった。抗体変異体は、野生型IgG1 Fc領域を有するインフリキシマブと比較して、FcRnに対する改善された結合を示した。
【0222】
【0223】
実施例5.トランスサイトーシス
【0224】
方法:
【0225】
0.4μm孔径のコラーゲンコーティングポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を備えたトランスウェルフィルター(1.12cm2)を完全増殖培地で一晩インキュベートした後、ウェルあたり1.0×106個のT84細胞を播種した。MillicellのERS-2電圧抵抗計を使用して、経上皮電気抵抗(TEER)を毎日モニタリングした。TEER値が約1000~1300Ω×cm2のコンフルエンスに達するまで、培養物を4~5日間培養した。実験の前に、単層をハンク平衡塩類溶液(HBSS)で1時間飢餓状態にした。次に、400nMの抗体変異体又はIFXを単独で、又は無関係の特異性を有する4000nMのヒト骨髄腫IgGと共に、頂端側トランズウェルチャンバーに加えた。添加後0時間及び添加後4時間に、サンプルを基底側リザーバーから回収した。基底側リザーバーの抗体濃度をELISAによって決定した。手短に言うと、96ウェルMaxisorpプレートに、組換え体TNFα又はヤギ由来の抗ヒトFc特異抗体のいずれかをO/Nでコーティングし、両方ともPBSで1μg/mlに希釈した。続いて、室温で2時間、4%脱脂乳を含むPBSでプレートをブロックした後、0.05%Tween20を含むPBSで4回洗浄した。トランスサイトーシス実験中に回収したサンプルをウェルに加え、上記のように洗浄する前に室温で2時間インキュベートした。捕捉された抗体変異体、IFX又は総IgGは、ヤギ由来のアルカリホスファターゼ(ALP)共役抗ヒトFc特異的抗体を用いて検出した。100μlのALP基質の添加により結合を視覚化し、405nmの吸収スペクトルを記録した。輸送された抗体変異体、IFX及び総IgGの量は、個々の抗体変異体のそれぞれの標準曲線から計算した。
【0226】
極性ヒト上皮細胞を横断する抗体変異体のトランスサイトーシス
【0227】
結果:
【0228】
操作された抗TNFα抗体変異体を、細胞単層を横断するトランスサイトーシスについて試験し、別のヒトIgG1抗TNFα抗体としてのwt抗体又はIFXと比較した。結果を
図2に示す。wt抗TNFα抗体は、頂端側から基底側リザーバーに輸送された。wt Fc領域を有する別のIgG1抗体であるIFXと比較して、Ab-REWは2.8倍多く輸送され、これはAb-REW-2FFの場合も同様であった。
【0229】
競合IgGの存在下における極性ヒト上皮細胞を横断する抗体変異体のトランスサイトーシス
【0230】
結果:
【0231】
添加後4時間で抗TNFα抗体変異体を10倍過剰のヒト骨髄腫IgGと共にインキュベートした場合、極性T84細胞単層を頂端側から基底側リザーバーに横断して輸送された免疫グロブリンの総量は、全ての抗体で同程度であった。ただし、pH6.0でのFcRnに対する親和性の増加により、無関係な特異性をもつ競合ヒトIgGの過剰量の存在下においても、細胞単層を横断する特異的抗TNFα輸送の割合が有意に高くなった。結果を
図3に示す。
【0232】
実施例6.ADCC
【0233】
方法:
【0234】
PromegaのADCCレポーターバイオアッセイコアキットを使用した。手短に言えば、1×105個/mLのmTNFαCHO-K1標的細胞を、白色(透明底)組織培養プレートにウェルあたり100μLで播種した。プレートを37℃/5%CO2で一晩インキュベートした。2日目、95μLのアッセイ培地を除去し、3×106個/mLの操作されたジャーカットエフェクター細胞25μLで交換した。次にプレートを37℃/5%CO2で6時間インキュベートした。インキュベーションの終わり頃にBioGlo(商標)試薬を調製した。ウェルあたり75μLのBioGlo(商標)試薬を加える前に、プレートを10~20分間室温で平衡化した。暗所で5~10分間インキュベートした後、発光を測定した。4-PLモデルを用いてデータを適合させた。
【0235】
結果:
【0236】
結果(
図4を参照)は、全ての抗TNFα抗体がADCCを誘導したが、強度が異なることを示した。野生型抗体Ab-wtと比較して、抗体変異体はADCCの増加を示した。特に、非フコシル化抗体変異体Ab-REW-2FFはADCCを有意に改善した。
【0237】
実施例7.C1q結合
【0238】
方法:
【0239】
PBSで1μg/mLに希釈したヒトTNFαでウェルをコーティングした96ウェルMaxiSorpプレートを用いてELISAを実施した。4℃で一晩インキュベートした後、4%脱脂乳を含むPBSでプレートを1時間ブロックし、0.05%Tween-20を含むPBS(PBS-T)で4回洗浄した。次に、滴定量の抗TNFαIgG抗体をPBS-Tで希釈し、添加し、室温で1時間インキュベートした。PBS-Tを用いて洗浄した後、ヒトC1q(0.5μg/mL)を0.1M Veronalバッファー(0.25mM CaCl2及び0.8mM MgCl2 pH7.2)で希釈し、ウェルに添加して1時間インキュベートした。続いて、PBS-Tで1:5000に希釈したウサギ抗ヒトC1qをウェルに加える前にウェルを上記のように洗浄し、1時間インキュベートした。洗浄後、PBS-Tで1:5000に希釈したロバ由来HRP共役抗ウサギIgGを添加した。続いてウェルを洗浄し、100μLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン基質を各ウェルに添加した。Sunrise分光光度計を用いて、620nmで吸光度を測定した。
【0240】
結果:
【0241】
抗TNFα抗体変異体は、ヒトC1qが加えられる前にヒトTNFαで捕捉された。結果(
図5を参照)は、抗体がC1qに結合したが、異なる結合強度をもつことを示した。具体的には、Ab-REW及びAb-REW-2FFは、IFXよりもやや強く結合した。N297に付着した二分岐N-グルカンでのフコースの存在は、結合に全く影響を及ぼさなかったか、又はわずかな影響しか与えなかった。最強から最弱への結合階層は次のとおりであった:Ab-REW>Ab-REW-2FF>IFX。
【0242】
実施例8.CDC
【0243】
方法:
【0244】
抗TNFαCDCアッセイにより、ウサギ補体の抗体依存性細胞毒性を測定した。mTNFαを発現する標的細胞を、補体の細胞障害能を促進する抗TNFα抗体の存在下でマイクロプレートに播種した。サンプル(抗TNFα抗体変異体)の6つの独立した複製と、参照基準(IFX)の4つの複製を60μg/mLで調製し、連続希釈(1.3倍希釈ステップ)し、使用するまで希釈プレートを密封した。LUC生存率レポーターを含む標的細胞を1.5×105個/mLに調製し、37℃の水浴で保存した。ウサギ補体をDMEM High Glucoseで3倍の最終アッセイ濃度に希釈した。調製直後に、補体を標的細胞と1:1の比率(v/v)で組み合わせた。40μLの補体/標的細胞調製物をアッセイプレートの各ウェルに移した。希釈プレートで調製した抗体を細胞に移し(20μL/ウェル)、次にプレートを36℃/1%CO2で3.5時間インキュベートした。アッセイプレートを暗所で35分間、室温まで平衡化した。使用前に120分間周囲温度に平衡化したSteady Gloをアッセイプレートに加え(20μL/ウェル)、発光を測定する前に室温で35分間、暗所で保存した。次に各サンプルの各濃度について細胞死の割合を計算し、4-PLモデルを用いてデータを適合させた。
【0245】
結果:
【0246】
結果を
図6及び表7に示す。CDCアッセイにおける試験サンプル性能に関する相対EC
50及び相対最大死亡率の結果により、両方の活性測定で一貫した明確な活性ランキングが得られた。フコース含量に関係なく、Ab-REWはIFXよりも大きなCDC活性を示した。CDC活性に対するフコース含量の影響をより良く理解するために、フコース変異体サンプル間の直接比較を行うと、Ab-REWとの比較においてAb-REW-2FFは同様のCDC活性応答を提供した。比較では、97.1%の相対EC
50応答と、100.4%の相対最大死亡率応答が示された。
【0247】
【0248】
実施例9.制御性マクロファージの誘導
【0249】
方法:
【0250】
健康なバフィコートから末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。Ficoll勾配遠心により細胞を単離した。2つの個々のドナーの細胞を同数混合し、混合物の2×105個の細胞を96ウェルプレートに総量100μL/ウェルで播種した。細胞を37℃/5%CO2で48時間インキュベートした。48時間後、抗TNFα抗体変異体又はIFXを最終濃度が10μg/mLになるように加えた。各化合物を5回又は6回繰り返して添加した。最終量は150μL/ウェルであった。ヒト血清IgG1(Sigma#I5154)を対照として使用した。化合物の添加後、混合リンパ球反応物(MLR)を37℃/5%CO2で更に4日間培養した。その後、PBS/5mM EDTA(PBS/EDTA)を用いてプレートを洗浄し、室温で20分間、50μL/ウェルのPBS/EDTAでインキュベートした。プレートを遠心分離し、液体を飛ばした。抗体をPBS/EDTAで希釈した(抗CD14-PE、抗CD206-APC、両方とも1:10に希釈)。細胞を50μLの抗体溶液に再懸濁し、室温で20分間インキュベートした。その後、細胞をPBS/EDTAで洗浄し、50μLのPBS/EDTAに再懸濁した。FACSDivaソフトウェアを使用して、FACS Fortessaで染色サンプルを分析した。FlowJoソフトウェアを使用して分析を実施した。
【0251】
結果:
【0252】
4つの独立したMLRで制御性マクロファージの誘導を分析し、全ての実験で成功した(IFXをIgG対照と比較すると)。結果を
図7に示す。各実験が個人間変動のある異なるドナーを使用して実施されたという事実を理由に、IFXによる誘導のレベルは実験間で異なる可能性がある。試験した全ての抗TNFα抗体変異体はCD14
+CD206
+制御性マクロファージを誘導したが、化合物間でわずかな変動があった。Ab-REW及びAb-REW-2FFは、IFXよりもわずかに多く制御性マクロファージを誘導したが、Ab-REW-2FFの場合にのみ増加が顕著であった。
【0253】
実施例10.T細胞増殖の阻害
【0254】
方法:
【0255】
健康なバフィコートからPBMCを単離した。Ficoll勾配遠心により細胞を単離した。2つの個々のドナーの細胞を同数混合し、混合物の2×105個の細胞を96ウェルプレートに総量100μL/mLで播種した。細胞を37℃/5%CO2で48時間インキュベートした。48時間後、抗TNFα抗体変異体又はIFXを最終濃度が10μg/mLになるように加えた。各化合物は5回又は6回繰り返して添加した。最終量は150μL/ウェルであった。ヒト血清IgG1(Sigma#I5154)を対照として使用した。化合物の添加後、混合リンパ球反応物(MLR)を37℃/5%CO2で更に2日間培養した。その後、トリチウム化チミジン(3Hチミジン、0.5マイクロキュリー/ウェル)を培養物に添加した。培養物を37℃/5%CO2で18時間、更にインキュベートした。Microbeta Filtermat 96細胞ハーベスターを使用してサンプルを回収し、単一の検出器を備えたMicrobeta MicroplateCounterを使用して分析した。サンプルを10秒/ウェルでカウントし、1分あたりのカウント数(cpm)に変換した。
【0256】
結果:
【0257】
3つの独立したMLRにおいてT細胞増殖の阻害を測定し、陽性対照としてのIFXが抑制を誘導した場合を成功と定義した。個々の実験におけるIFXによる抑制のレベルは、おそらく制御性マクロファージの誘導の相違を理由に、異なる可能性がある。各実験において、T細胞増殖を抑制する抗TNFα抗体変異体の能力を、陽性対照IFXと比較して計算した。抗体Ab-REW-2FFはIFXと比較して有意に増強された抑制を示したが、Ab-REWによる抑制はIFXと同程度であった(
図8を参照)。
【0258】
実施例11.N-グリカンの分析
【0259】
方法:
【0260】
各IgG変異体(1mg/ml)50μlを13,000×gで10分間遠心分離した後、100μlの50mM重炭酸アンモニウム(pH7.8)に溶解したトリプシン1μgを添加し、37℃で一晩インキュベートした。遠心装置を13,000×gで10分間スピンダウンし、フロースルーをエッペンドルフチューブに移し、SpeedVac(Heto Maxi dry)で乾燥させた。乾燥したサンプルを20μlの1%ギ酸に溶解し、30秒間超音波処理し、16,100×gで10分間遠心分離した。続いて、各サンプルを新しいバイアルに移し、Dionex Ultimate 3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して、タンパク質分解ペプチドの逆相(C18)ナノオンライン液体クロマトグラフィー-タンデム質量分光分析(LC-MS/MS)分析を実施した。5μlのペプチド溶液を抽出カラムに注入し、ペプチドを抽出カラムから分析カラムにバックフラッシュモードで溶出した。移動相は、アセトニトリルと質量分析用水から成り、両方に0.1%のギ酸が含まれる。クロマトグラフ分離は、0.3μl/分の流量で60分間、水中アセトニトリルの3~50%のバイナリ勾配を使用して達成された。LCシステムは、ナノエレクトロスプレーイオン源を介して、Q exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific、USA)に結合した。ペプチドサンプルは、正規化衝突エネルギー20で高エネルギー衝突解離(HCD)フラグメント化方法を用いて分析され、m/z300~2000の質量範囲で1つのOrbitrapサーベイスキャンを取得し、オービトラップにおいて10の最も強力なイオンのMS/MSが続いた。
【0261】
Xcalibur v2.0でデータ分析を行った。全てのN-グリコ-ペプチドのMS/MSスペクトルは、オキソニウムイオン検索によって抽出した:204.086(N-アセチルヘキソサミン)及び366.1388(N-アセチルヘキソサミン-ヘキソース)。正規化衝突エネルギー20でHCDフラグメント化を用いることにより、IgGのグリカン構造とペプチド質量を検出した。標的グリコールペプチド(IgG1のEEQYNSTYR)の抽出イオンクロマトグラムを10ppmの精度で抽出し、対応するMS/MSスペクトルを手動で検証した。正規化衝突エネルギー35でHCDフラグメンテーションを使用して、ペプチド配列を検出し、ペプチド質量が正しいペプチド配列に対応することを確認した。抽出された全てのグリコールペプチドの曲線下面積を計算し、各グリコフォームの割合を決定した。
【0262】
結果:
【0263】
Ab-REWの場合、2つのN-グリカン型、つまり4GlcNac-1Fuc-3Man及び4GlcNac-1Fuc-3Man-1Galが優勢であり、総N-グリカンプールの90%超に相当した。優勢であったN-グリカン型は両方ともコアフコースを含んでいた。「非フコシル化」バージョンのAb-REW(Ab-REW-2FF)を産生するために、おとり基質2-デオキシ-2-フルオロ-1-フコース(2FF)が用いられた。この抗体のMSマッピングにより、90%超から13%への低下が検出されたので、この戦略の結果としてフコースの取込みが首尾よく大幅に減少することが明らかとなった。処置後の優勢なN-グリカン型は、これらの構造がフコースを欠いたことを除いて、2FFの非存在下で産生された変異体と同じであった(
図10も参照)。
【0264】
【配列表】