(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】能動音響制御プログラム及びコンピュータ
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20231213BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20231213BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G10K11/178 120
G10K15/04 302J
B60R11/02 B
(21)【出願番号】P 2022512578
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013659
(87)【国際公開番号】W WO2021201015
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2020062578
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 博之
(72)【発明者】
【氏名】時本 浩
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131244(JP,A)
【文献】特開2004-361721(JP,A)
【文献】特開2007-264332(JP,A)
【文献】特開2005-134749(JP,A)
【文献】特開2011-085662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
G10K 15/04
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバ(26)とデータを送受信する通信機(22)を利用してダウンロードされるとともに、車両(12)の車室(14)内の騒音を低減させるために、前記車室内に設けられたスピーカ(16)から相殺音を出力させる制御信号を生成する処理を演算処理装置(29)に実行させる能動音響制御プログラムであって、
騒音源から発生する前記騒音に応じた基準信号を生成する基準信号生成部(52)、
前記基準信号を適応信号処理して前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタ(54)、
前記制御信号に基づいて前記スピーカから出力された前記相殺音と前記騒音との相殺誤差騒音に相当する誤差信号を入力する誤差信号入力部(56)、
車室内空間における音の伝達特性を同定して補正値を生成する同定部(60)、
前記基準信号を前記補正値に基づいて補正して参照信号を生成する参照信号生成部(58)、
前記誤差信号と前記参照信号とに基づいて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を遂次更新するフィルタ係数更新部(60)、
を備え
、
前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、マイクロフォン(32)を有し、
該マイクロフォンは、前記相殺誤差騒音を検出し、
前記同定部は、前記スピーカから前記マイクロフォンまでの伝達経路における、前記基準信号の周波数の音の伝達特性を同定して前記補正値を生成する、能動音響制御プログラム。
【請求項2】
請求項
1に記載の能動音響制御プログラムであって、
前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、
エンジン気筒数の情報の入力を受け付けるエンジン気筒数入力部(35d)を有し、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数取得装置(19)が接続され、
前記基準信号生成部は、前記エンジン気筒数と前記エンジン回転数に基づいて前記基準信号を生成する、能動音響制御プログラム。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の能動音響制御プログラムであって、
前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、
前記スピーカの数の情報の入力を受け付けるスピーカ数入力部(35k)と、
前記マイクロフォンの数の情報の入力を受け付けるマイクロフォン数入力部(35m)と、
を有し、
前記補正値の数、及び、前記フィルタ係数の数は、前記スピーカの数、及び、前記マイクロフォンの数に応じて決定される、能動音響制御プログラム。
【請求項4】
請求項
1に記載の能動音響制御プログラムであって、
前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、
エンジン気筒数の情報の入力を受け付けるエンジン気筒数入力部と、
加速度を検出する加速度検出部(37)と、
を有し、
前記基準信号生成部は、前記エンジン気筒数と前記加速度に基づいて前記基準信号を生成する、能動音響制御プログラム。
【請求項5】
請求項
2に記載の能動音響制御プログラムであって、
前記エンジン回転数に基づいて、前記スピーカから効果音を出力させる第2の制御信号を生成する効果音生成部(114)、
を備える、能動音響制御プログラム。
【請求項6】
請求項
4に記載の能動音響制御プログラムであって、
前記演算処理装置を、
前記加速度、又は、前記車両の速度に基づいて、前記スピーカから効果音を出力させる第2の制御信号を生成する効果音生成部、
として機能させる、能動音響制御プログラム。
【請求項7】
請求項1に記載の能動音響制御プログラム
がインストールされたコンピュータであって、
前記能動音響制御プログラムにしたがって
前記制御信号を生成する処理を実行する前記演算処理装置
を有する、コンピュータ。
【請求項8】
サーバ(26)とデータを送受信する通信機(22)を利用してダウンロードされるとともに、車両(12)の車室(14)内の騒音を低減させるために、前記車室内に設けられたスピーカ(16)から相殺音を出力させる制御信号を生成する処理を演算処理装置(29)に実行させる能動音響制御プログラムであって、
騒音源から発生する前記騒音に応じた基準信号を生成する基準信号生成部(78)、
前記基準信号を適応信号処理して前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタ(80)、
前記制御信号に基づいて前記スピーカから出力された前記相殺音と前記騒音との相殺誤差騒音に相当する誤差信号を受信する誤差信号受信部(90)、
車室内空間における音の伝達特性を同定して補正値を生成する同定部(94)、
前記基準信号を前記補正値に基づいて補正して参照信号を生成する参照信号生成部(86)、
前記誤差信号と前記参照信号とに基づいて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を遂次更新するフィルタ係数更新部(96)、
を備え、
前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、マイクロフォン(32)を有し、
前記能動音響制御プログラムは、前記同定部において、前記制御信号及び前記誤差信号に基づき前記スピーカから前記マイクロフォンまでの伝達経路である二次経路における音の伝達特性を示す二次経路フィルタの係数を更新することにより前記補正値を生成する、能動音響制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内の騒音を低減させるために、車室内に設けられたスピーカから相殺音を出力させる制御信号を生成する処理を演算処理装置に実行させる能動音響制御プログラム、能動音響制御プログラムにしたがって制御信号を生成する処理を実行する演算処理装置を有するコンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-131244号公報には、携帯端末に能動音響制御プログラムがインストールされるとともに、サーバから車両に適合した騒音の伝達特性をダウンロードして、携帯機器が能動音響制御装置として用いられる点が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
特開2012-131244号公報には、誰もが手軽に入手できる機器に能動音響制御プログラムをインストールされることにより、車両の車種に関わらず、車室内の騒音を低減できる技術については検討されていない。
【0004】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、誰もが手軽に入手できる機器にインストールされることにより、車両の車種に関わらず、車室内の騒音を低減できる能動音響制御プログラムを提供することを目的とする。あわせて、能動音響制御プログラムにしたがって制御信号を生成する処理を実行する演算処理装置を有するコンピュータを提供することを目的とする。
【0005】
本発明の第1の態様は、サーバとデータを送受信する通信機を利用してダウンロードされるとともに、車両の車室内の騒音を低減させるために、前記車室内に設けられたスピーカから相殺音を出力させる制御信号を生成する処理を演算処理装置に実行させる能動音響制御プログラムであって、騒音源から発生する前記騒音に応じた基準信号を生成する基準信号生成部、前記基準信号を適応信号処理して前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタ、前記制御信号に基づいて前記スピーカから出力された前記相殺音と前記騒音との相殺誤差騒音に相当する誤差信号を入力する誤差信号入力部、車室内空間における音の伝達特性を同定して補正値を生成する同定部、前記基準信号を前記補正値に基づいて補正して参照信号を生成する参照信号生成部、前記誤差信号と前記参照信号とに基づいて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を遂次更新するフィルタ係数更新部、を備える。
【0006】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の能動音響制御プログラムにしたがって前記演算処理装置に処理を実行させる際に用いられる前記相殺誤差騒音を検出するマイクロフォンであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置と、有線又は無線で接続され、前記車室内において着脱可能に取り付けられる。
【0007】
本発明の第3の態様は、上記第1の態様の能動音響制御プログラムにしたがって前記演算処理装置に処理を実行させる際に用いられる前記エンジン回転数を取得するエンジン回転数取得装置であって、前記装置と有線又は無線で接続され、前記車室内において着脱可能に取り付けられる。
【0008】
本発明により、誰もが手軽に入手できる機器に能動音響制御プログラムがインストールされることにより、車両の車種に関わらず、車室内の騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】スマートフォン及び車載システムのブロック図である。
【
図6】エンジンの気筒数に対応する振動周波数が有する成分の次数の表である。
【
図7】各所定周波数に対応する制御フィルタ係数の値を示す表である。
【
図8A】能動騒音制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8B】設定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8C】設定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8D】設定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図21】スマートフォン、車載システム及び車両情報取得装置のブロック図である。
【
図23】スマートフォン及び車載システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1実施形態〕
図1は、能動音響制御装置10において実行される能動音響制御の概要を説明する図である。
【0011】
能動音響制御装置10は、車両12の車室14内に設けられたスピーカ16から相殺音を出力させて、エンジン18の振動に起因して車室14内の乗員に伝わるエンジン篭り音(以下、騒音と記載する)を低減する。能動音響制御装置10は、車室14内に設けられたマイクロフォン20により集音された音に相当する誤差信号eと、エンジン回転数センサ19が検出したエンジン回転数Neとに基づいて、スピーカ16に相殺音を出力させるための制御信号u0を生成する。誤差信号eは、相殺音と騒音とがマイクロフォン20の位置で合成された相殺誤差騒音に相当する信号である。なお、エンジン18は本発明の駆動源に相当し、エンジン回転数センサ19は本発明のエンジン回転数取得装置に相当する。
【0012】
図2は、スマートフォン22及び車両12に搭載されている車載システム24のブロック図である。
【0013】
スマートフォン22は、インターネット28を介してサーバ26から能動音響制御プログラムをダウンロードする。ダウンロードされた能動音響制御プログラムは、スマートフォン22にインストールされる。スマートフォン22は、本発明の通信機に相当する。
【0014】
スマートフォン22は、外部機器と接続される端子として、不図示の外部接続端子とイヤホン/マイクロフォン端子の2つを有している。スマートフォン22は、車載システム24及びマイクロフォン20と有線で接続され、エンジン回転数センサ19と無線で接続されている。
【0015】
なお、スマートフォン22がエンジン回転数センサ19と有線で接続される場合には、スマートフォン22は車載システム24と無線で接続されてもよい。また、近年では、イヤホン/マイクロフォン端子を有さないスマートフォン22もあり、その場合、マイクロフォン20も無線で接続されてもよい。
【0016】
エンジン回転数センサ19は、車両12に設けられたOBD(On-board diagnostics)コネクタ112に接続されている。OBDコネクタ112は、CAN又はKラインを介して車載ECUに接続されている。OBDコネクタ112からは、エンジン回転数、水温、電圧、ブースト圧等の車両情報を取得することが可能である。
【0017】
エンジン回転数センサ19は、車載システム24にUSB等の有線により接続されていてもよい。この場合、エンジン回転数センサ19は、車載システム24を介して、CANを流れるエンジン回転数の情報を取得する。
【0018】
また、エンジン回転数センサ19が設けられずに、スマートフォン22は、車両12のスマートフォン22等を充電する充電用のDC電圧変動に基づき、エンジン回転数を推定するようにしてもよい。
【0019】
マイクロフォン20は、車室14内にユーザにより容易に着脱可能に設置されている。
図3A及び
図3Bは、車室14内のマイクロフォン20の設置位置の例を示す図である。車両12が右ハンドル車両である場合、
図3Aに示すように、マイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの左側面(車両中央側)に両面テープ等により固定される。
【0020】
マイクロフォン20が設定される位置は、
図3Aに示す位置に限られない。例えば、
図3Bに示すように、マイクロフォン20は、運転席15のシートバック15bの左側面(車両中央側)に両面テープ等により固定されていてもよい。なお、車両12が左ハンドル車両である場合、マイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15a又はシートバック15bの右側面に設けられる。
【0021】
図2に戻り、スマートフォン22は、演算処理装置29、メモリ30、ストレージ31、マイクロフォン32、ディスプレイ34、タッチパネル36、加速度センサ37、移動通信モジュール38、無線LAN通信モジュール40及び近距離無線通信モジュール42を有している。なお、加速度センサ37は、本発明の加速度検出部に相当する。
【0022】
演算処理装置29は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)等のプロセッサである。メモリ30は、例えば、ROMやRAM等の非一時的又は一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。ストレージ31は、例えば、ハードディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)等の非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。
【0023】
スマートフォン22に能動音響制御プログラムがインストールされると、能動音響制御プログラムがストレージ31に記憶される。ストレージ31に記憶された能動音響制御プログラムにしたがって演算処理装置29が能動音響制御処理を行うことにより、スマートフォン22は能動音響制御装置10として機能する。
【0024】
マイクロフォン32は、スマートフォン22周辺の音を集音する。ディスプレイ34は、例えば、液晶、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)等を用いた表示装置である。タッチパネル36は、ディスプレイ34上のユーザが指等で触れた位置を検出するポインティングデバイスである。加速度センサ37は、スマートフォン22に作用する加速度を検出する。スマートフォン22が車室14内にある場合には、加速度センサ37が検出した加速度は、車両12の加速度とみなすことができる。
【0025】
移動通信モジュール38は、セルラー通信によりインターネット28に接続された基地局28aと通信を行うモジュールである。無線LAN通信モジュール40は、例えば、Wi-Fi(登録商標)等の無線LAN通信によりインターネット28に接続されたアクセスポイント28bと通信するモジュールである。これにより、スマートフォン22は、インターネット28を介して、サーバ26とデータの送受信を行うことができる。近距離無線通信モジュール42は、例えば、ブルートゥース(登録商標)等の近距離無線通信により車載システム24と通信するモジュールである。
【0026】
車載システム24は、演算処理装置43、メモリ44、音源45、ディスプレイ46、タッチパネル48及び近距離無線通信モジュール50、増幅器53を有している。
【0027】
演算処理装置43は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)等のプロセッサである。メモリ44は、ROMやRAM等の非一時的又は一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。音源45は、例えば、ハードディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)等の非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体であって、音楽やカーナビゲーションの案内音声等の情報が記憶されている。
【0028】
ディスプレイ46は、例えば、液晶、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)等を用いた表示装置である。タッチパネル48は、ディスプレイ46上のユーザが指等で触れた位置を検出するポインティングデバイスである。近距離無線通信モジュール50は、例えば、ブルートゥース(登録商標)等の近距離無線通信によりエンジン回転数センサ19、スマートフォン22等と通信するモジュールである。なお、エンジン回転数センサ19、スマートフォン22等との通信として、無線通信に代えて、USB等の有線通信が用いられてもよい。
【0029】
車載システム24は、増幅器53を介してスピーカ16と接続されている。車載システム24とスピーカ16とは有線により接続されている。なお、車載システム24とスピーカ16とは無線により接続されていてもよい。演算処理装置43は、音源45に記憶されている音楽や音声をスピーカ16から出力させる音源信号を出力する。音源信号は、増幅器53において増幅されてスピーカ16に出力される。演算処理装置43は、スマートフォン22(能動音響制御装置10)から送られてきた制御信号u0を増幅器53に送信する。なお、スマートフォン22(能動音響制御装置10)から増幅器53に、制御信号u0が直接送られるようにしてもよい。制御信号u0は、増幅器53において増幅されてスピーカ16に出力される。これにより、スピーカ16からは音源の音楽や音声とともに、騒音を打ち消す相殺音が出力される。
【0030】
[能動音響制御装置]
図4及び
図5は、能動音響制御装置10のブロック図である。能動音響制御装置10では、適応デジタルフィルタとして、ノッチフィルタであるSAN(Single-frequency Adaptive Notch)フィルタが用いられている。また、SANフィルタの係数の更新には、Filtered-X LMS(Least Mean Square)アルゴリズムが用いられている。本実施形態の能動音響制御装置10は、能動音響制御として能動騒音制御を実施する。本実施形態の能動音響制御装置10は、能動騒音制御処理(以下、ANC処理と称す)を行う前に、スピーカ16からマイクロフォン20までの伝達経路(以下、二次経路と称す)における音の伝達特性C(以下、二次経路伝達特性Cと称す)を同定する同定処理が行われる。以下では、本実施形態の能動音響制御装置10により行われる能動騒音制御を事前同定型能動騒音制御と称する。なお、スピーカ16からマイクロフォン20までの伝達経路を二次経路と称するのに対して、エンジン18からマイクロフォン20までの伝達経路を、以下では一次経路と称する。
【0031】
図4は、ANC処理中の能動音響制御装置10のブロック図を示す。
図5は、同定処理中の能動音響制御装置10のブロック図を示す。能動音響制御装置10は、処理切換部51によって、ANC処理と同定処理とを切り替える。
【0032】
(ANC処理)
図4を用いて、ANC処理中に能動音響制御装置10において行われる信号処理について説明する。能動音響制御装置10は、基準信号生成部52、制御信号生成部54、誤差信号入力部56、参照信号生成部58及び制御フィルタ係数更新部60を有している。なお、制御信号生成部54は本発明の適応ノッチフィルタに相当し、制御フィルタ係数更新部60は本発明のフィルタ係数更新部及び同定部に相当する。
【0033】
基準信号生成部52は、エンジン回転数Neに基づいて基準信号xc、xsを生成する。基準信号生成部52は、周波数検出回路52a、余弦信号発生器52b及び正弦信号発生器52cを有している。
【0034】
周波数検出回路52aは、エンジン18の出力軸の回転に同期して発生する騒音(篭り音)の基本周波数である振動周波数fを検出する。エンジン18の篭り音は、エンジン18の回転によって発生した加振力が車体に伝達されて発生する振動放射音であることからエンジン18の回転数に同期した顕著な周波数性を有する振動騒音である。例えば、エンジン18が4サイクル4気筒である場合には、エンジン18の出力軸の1/2回転毎に生じるガス燃焼によるトルク変動により、エンジン18を基点とした加振振動が発生する。これが原因で車室14内に騒音が発生する。
【0035】
振動周波数fは、エンジン回転数Neに基づいて検出される。エンジン回転数Neは、次の式により回転周波数feに換算できる。
【0036】
【0037】
例えば、エンジン回転数Neが6000[rpm]である場合には、回転周波数feは100[Hz]となる。
【0038】
エンジン18が4サイクルである場合には各気筒において2回転につき1回点火される。例えば、4気筒のエンジン18でエンジン回転数Neが6000[rpm]である場合には、振動周波数fは以下のようになる。
【0039】
【0040】
すなわち、4気筒のエンジン18の振動周波数fは、回転周波数feの2次成分を有する。
図6は、エンジン18の気筒数に対応する振動周波数fが有する成分の次数を示す表である。振動周波数fは、回転周波数feに、エンジン18の気筒数に対応する次数を掛けることにより求めることができる。
【0041】
余弦信号発生器52bは、振動周波数fの余弦信号である基準信号xc(=cos(2πft))を生成する。正弦信号発生器52cは、振動周波数fの正弦信号である基準信号xs(=sin(2πft))を生成する。ここで、tは時刻を示す。
【0042】
制御信号生成部54は、基準信号xc、xsに基づいて制御信号u0を生成する。制御信号生成部54は本発明の適応ノッチフィルタに相当する。制御信号生成部54は、第1制御フィルタ54a、第2制御フィルタ54b及び加算器54cを有している。
【0043】
制御信号生成部54では、制御フィルタとしてSANフィルタが用いられている。
【0044】
第1制御フィルタ54aは、フィルタ係数W0を有している。第2制御フィルタ54bは、フィルタ係数W1を有している。フィルタ係数W0、W1は、後述する制御フィルタ係数更新部60において適応更新されることにより最適化される。
【0045】
第1制御フィルタ54aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第2制御フィルタ54bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器54cにおいて加算されて制御信号u0が生成される。制御信号u0に基づいてスピーカ16が制御され、スピーカ16から相殺音が出力される。
【0046】
参照信号生成部58は、基準信号xc、xsに基づいて参照信号r0、r1を生成する。参照信号生成部58は、第1二次経路フィルタ58a、第2二次経路フィルタ58b、第3二次経路フィルタ58c、第4二次経路フィルタ58d、加算器58e及び加算器58fを有している。
【0047】
参照信号生成部58では、二次経路フィルタとしてノッチフィルタが用いられている。二次経路フィルタの係数C^(以下、二次経路フィルタ係数C^)は、後述する同定処理において求められる。
【0048】
第1二次経路フィルタ58aは、二次経路フィルタ係数C^(=C0^+iC1^)の実部である二次経路フィルタ係数C0^を有している。第2二次経路フィルタ58bは、二次経路フィルタ係数C^の虚部の極性を反転させたフィルタ係数-C1^を有している。第3二次経路フィルタ58cは、二次経路フィルタ係数C^の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第4二次経路フィルタ58dは、二次経路フィルタ係数C^の虚部であるフィルタ係数C1^を有している。
【0049】
第1二次経路フィルタ58aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第2二次経路フィルタ58bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器58eにおいて加算されて参照信号r0が生成される。第3二次経路フィルタ58cにおいてフィルタ処理された基準信号xsと、第4二次経路フィルタ58dにおいてフィルタ処理された基準信号xcとが、加算器58fにおいて加算されて参照信号r1が生成される。
【0050】
すなわち、参照信号生成部58では、補正値である二次経路フィルタ係数C^に基づいて基準信号xc、xsを補正して、参照信号r0、r1が生成される。
【0051】
誤差信号入力部56は、マイクロフォン20において集音された相殺誤差騒音に相当する誤差信号eを入力する。相殺誤差騒音は、マイクロフォン20に入力される騒音dと、マイクロフォン20に入力される相殺音yとが合成された音である。なお、誤差信号入力部56は、スマートフォン22に搭載されたマイクロフォン32により集音された相殺誤差騒音に相当する誤差信号eを入力するようにしてもよい。
【0052】
制御フィルタ係数更新部60は、参照信号r0、r1及び誤差信号eに基づいて制御信号生成部54のフィルタ係数W0、W1を適応更新する。制御フィルタ係数更新部60は、Filtered-X LMSアルゴリズムに基づいて、フィルタ係数W0、W1を適応更新する。制御フィルタ係数更新部60は、第1制御フィルタ係数更新部60a及び第2制御フィルタ係数更新部60bを有している。
【0053】
第1制御フィルタ係数更新部60a及び第2制御フィルタ係数更新部60bは、次の式に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。式中のnは時間ステップ(n=0、1、2、…)を示し、μ0及びμ1はステップサイズパラメータを示す。
【0054】
【0055】
制御フィルタ係数更新部60において、フィルタ係数W0、W1の更新が繰り返されることによりフィルタ係数W0、W1が最適化される。SANフィルタを用いた能動音響制御装置10では、フィルタ係数W0、W1の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数W0、W1の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0056】
(同定処理)
図5を用いて、能動音響制御装置10において同定処理中に行われる信号処理について説明する。
【0057】
同定処理では、スピーカ16から所定周波数fm(=f0、f1、…、fm-1)の同定音が出力され、そのときの二次経路伝達特性Cが同定される。同定音として、ホワイトノイズ、ピンクノイズ又はサインスイープが用いられる。
【0058】
同定処理では、各所定周波数fmの二次経路伝達特性Cが二次経路フィルタ係数C^として同定される。同定処理は、エンジン18が停止しているときに実行される。同定処理中は、第1二次経路フィルタ58aのフィルタ係数は1に固定され、第2二次経路フィルタ58bのフィルタ係数は0に固定され、第3二次経路フィルタ58cのフィルタ係数は1に固定され、第4二次経路フィルタ58dのフィルタ係数は0に固定される。
【0059】
周波数検出回路52aは、所定周波数fm(=f0、f1、…、fm-1)を出力する。余弦信号発生器52bは、所定周波数fmの余弦信号である基準信号xcを生成する。正弦信号発生器52cは、所定周波数fmの正弦信号である基準信号xsを生成する。
【0060】
基準信号xcは同定信号xとして出力される。同定信号xに基づいてスピーカ16が制御され、スピーカ16から同定音が出力される。
【0061】
誤差信号入力部56は、マイクロフォン20において集音された同定音に相当するノイズ信号xCを入力する。ノイズ信号xCは加算器64に入力される。
【0062】
第1制御フィルタ54aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第2制御フィルタ54bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器54cにおいて加算されて制御信号u1が生成される。制御信号u1は、反転器62により極性が反転されて、加算器64に入力される。加算器64において、ノイズ信号xCと制御信号u1との差分である仮想誤差信号e’が生成される。
【0063】
制御フィルタ係数更新部60は、参照信号r0、r1及び仮想誤差信号e’ に基づいて制御信号生成部54のフィルタ係数W0、W1を適応信号処理する。
【0064】
第1制御フィルタ係数更新部60a及び第2制御フィルタ係数更新部60bは、次の式に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。
【0065】
【0066】
同定処理では、周波数検出回路52aが所定周波数fmをスイープし、制御フィルタ係数更新部60がフィルタ係数W0、W1を各所定周波数fm毎に所定時間適応更新する。適応更新後のフィルタ係数W0は各所定周波数fm毎にフィルタ係数C0^として記録され、適応更新後のフィルタ係数W1は各
所定周波数f
m毎にフィルタ係数C1^として記録される。
図7は、各所定周波数f0、f1、…、fa-1に対応するフィルタ係数C0^、C1^の値を示す表である。同定処理中の制御フィルタ係数更新部60は、本発明の同定部に相当する。
【0067】
[スマートフォンにおける能動騒音制御処理]
図8Aは、スマートフォン22における能動騒音制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
スマートフォン22に能動音響制御プログラムがインストールされると、スマートフォン22において能動音響制御アプリが利用可能となる。
図9は、ディスプレイ34に初期画面34aが表示されたスマートフォン22を示す図である。スマートフォン22に能動音響制御プログラムがインストールされると、初期画面34aに能動音響制御アプリのアイコン35aが表示される。ユーザがアイコン35aをタップすると能動音響制御アプリが起動し、演算処理装置29は能動騒音制御処理を実行する。能動騒音制御処理は、ユーザにより後述するANC OFF操作がされるまで、所定周期で繰り返し実行される。
【0069】
ステップS1において、演算処理装置29はディスプレイ34にANC ON操作画面34bを表示させて、ステップS2へ移行する。
図10は、ディスプレイ34にANC ON操作画面34bが表示されたスマートフォン22を示す図である。ANC ON操作画面34bは、ANC ONボタン35b、チェックボックス35c及び設定ボタン35rを有している。
【0070】
ステップS2において、演算処理装置29はユーザにより設定操作がされたか否かを判定する。設定操作がされた場合にはステップS3へ移行し、設定操作がされていない場合にはステップS4へ移行する。ユーザが設定ボタン35rをタップすると、演算処理装置29はユーザにより設定操作がされたと判定する。
【0071】
ステップS3において、演算処理装置29は後述する設定処理を行って、ステップS4へ移行する。
【0072】
ステップS4において、演算処理装置29はユーザによるANC ON操作がされたか否かを判定する。ANC ON操作がされた場合にはステップS5へ移行し、ANC ON操作がされていない場合にはステップS2へ戻る。ユーザがANC ONボタン35bをタップすると、演算処理装置29はユーザによるANC ON操作がされたと判定する。
【0073】
ステップS5において、演算処理装置29は同定処理のスキップがチェックされているか否かを判定する。同定処理スキップがチェックされている場合にはステップS10へ移行し、同定処理スキップがチェックされていない場合にはステップS6へ移行する。
図10のANC ON操作画面34bにおいて、ユーザがチェックボックス35cをタップしてチェックを付けた後に、ANC ONボタン35bをタップすると、演算処理装置29は同定処理のスキップがチェックされていると判定する。
【0074】
ステップS6において、演算処理装置29は同定処理を実行して、ステップS7へ移行する。
【0075】
ステップS7において、演算処理装置29はディスプレイ34に同定処理通知画面34fを表示させて、ステップS8へ移行する。
図11は、ディスプレイ34に同定処理通知画面34fが表示されたスマートフォン22を示す図である。同定処理通知画面34fには、同定処理中であること、及び、ノイズ音が発生することをユーザに伝えるメッセージが表示される。これにより、ノイズ音の発生によりユーザに与える不快感や不安感が抑制される。
【0076】
ステップS8において、演算処理装置29は同定処理が終了したか否かを判定する。同定処理が終了した場合にはステップS9へ移行し、同定処理が終了していない場合にはステップS6へ戻る。
【0077】
ステップS9において、演算処理装置29はディスプレイ34に同定処理終了通知画面34gを表示させて、ステップS10へ移行する。
図12は、ディスプレイ34に同定処理終了通知画面34gが表示されたスマートフォン22を示す図である。同定処理終了通知画面34gには、同定処理が終了したこと、及び、ANC処理が実行されることをユーザに伝えるメッセージが表示される。
【0078】
ステップS10において、演算処理装置29はANC処理を実行して、ステップS11へ移行する。
【0079】
ステップS11において、演算処理装置29はディスプレイ34にANC処理通知画面34hを表示させて、ステップS12へ移行する。
図13は、ディスプレイ34にANC処理通知画面34hが表示されたスマートフォン22を示す図である。ANC処理通知画面34hには、ANC処理中であることをユーザに伝える画像が表示される。また、ANC処理通知画面34hには、ANC OFFボタン35qが表示される。
【0080】
ステップS12において、演算処理装置29はANC OFF操作がされたか否かを判定する。ANC OFF操作がされた場合には能動騒音制御処理を終了する。ANC OFF操作がされていない場合にはステップS10へ戻る。ユーザがANC OFFボタン35qをタップすると、演算処理装置29は、ユーザによりANC OFF操作がされたと判定する。
【0081】
図8B、
図8C及び
図8Dは、ステップS3で行われる設定処理の流れを示すフローチャートである。前述のように、設定処理は、ユーザが
図10に示す設定ボタン35rをタップし、設定操作をした場合に行われる。例えば、スマートフォン22に能動騒音制御プログラムがインストールされてから初めて能動音響制御アプリが起動されたとき、マイクロフォン20の数が変更されてとき、車両を買い替えたとき等に、設定操作が行われる。
【0082】
ステップS21において、演算処理装置29はディスプレイ34にエンジン気筒数入力画面34cを表示させて、ステップS22へ移行する。
図14は、ディスプレイ34にエンジン気筒数入力画面34cが表示されたスマートフォン22を示す図である。エンジン気筒数入力画面34cは、エンジン気筒数入力部35d、Helpボタン35e、及び、次へボタン35fを有している。
【0083】
ステップS22において、演算処理装置29は引数m及び引数nに0を入力して、ステップS23に移行する。
【0084】
ステップS23において、演算処理装置29はHelp操作がされたか否かを判定する。Help操作がされた場合にはステップS29へ移行し、Help操作がされていない場合にはステップS24へ移行する。ユーザがHelpボタン35eをタップすると、演算処理装置29は、ユーザによりHelp操作がされたと判定する。
【0085】
ステップS24において、演算処理装置29は、ユーザによるエンジン気筒数入力部35dへのエンジン18の気筒数の入力が完了したか否かを判定する。エンジン18の気筒数の入力が完了している場合にはステップS25へ移行し、入力が完了していない場合にはステップS26へ移行する。
【0086】
ステップS25において、演算処理装置29は引数mをインクリメント、即ち、引数mの数値を1増加して、ステップS28へ移行する。
【0087】
ステップS26において、演算処理装置29は、ユーザによる次へ操作がされたか否かを判定する。次へ操作がされた場合にはステップS27へ移行し、次へ操作がされていない場合にはステップS28へ移行する。ユーザが次へボタン35fをタップすると、演算処理装置29は、ユーザによる次へ操作がされたと判定する。
【0088】
ステップS27において、演算処理装置29は引数nをインクリメントして、ステップS28へ移行する。
【0089】
ステップS28において、演算処理装置29は引数mと引数nとの積が0であるか否かを判定する。引数mと引数nとの積が0である場合にはステップS23へ戻り、引数mと引数nとの積が0でない場合にはステップS40へ移行する。
【0090】
ステップS23でユーザによるHelp操作がされたと判定された場合に移行するステップS29において、演算処理装置29は引数mが0であるか否かを判定する。引数mが0である場合にはステップS30へ移行し、引数mが0でない場合にはステップS23へ戻る。
【0091】
ステップS30において、演算処理装置29はディスプレイ34にサーチ画面34dを表示させて、ステップS31へ移行する。
図15は、ディスプレイ34にサーチ画面34dが表示されたスマートフォン22を示す図である。サーチ画面34dは、車名入力部35g、グレード入力部35h及びSearchボタン35jを有している。
【0092】
ステップS31において、演算処理装置29は引数l、引数m及び引数nに0を入力して、ステップS32に移行する。
【0093】
ステップS32において、演算処理装置29は、ユーザによる車名入力部35gへの車名の入力が完了したか否かを判定する。車名の入力が完了している場合にはステップS33へ移行し、入力が完了していない場合にはステップS34へ移行する。
【0094】
ステップS33において、演算処理装置29は引数lをインクリメントして、ステップS38へ移行する。
【0095】
ステップS34において、演算処理装置29は、ユーザによるグレード入力部35hへのグレードの入力が完了したか否かを判定する。グレードの入力が完了している場合にはステップS35へ移行し、入力が完了していない場合にはステップS36へ移行する。
【0096】
ステップS35において、演算処理装置29は引数mをインクリメントして、ステップS38へ移行する。
【0097】
ステップS36において、演算処理装置29はユーザによるSearch操作がされたか否かを判定する。Search操作がされた場合にはステップS37へ移行し、Search操作がされていない場合にはステップS38へ移行する。ユーザがSearchボタン35jをタップすると、演算処理装置29は、ユーザによるSearch操作がされたと判定する。
【0098】
ステップS37において、演算処理装置29は引数nをインクリメントして、ステップS38へ移行する。
【0099】
ステップS38において、演算処理装置29は、引数l、引数m及び引数nの積が0であるか否かを判定する。引数l、引数m及び引数nの積が0である場合にはステップS32へ戻り、引数l、引数m及び引数nの積が0でない場合にはステップS39へ移行する。
【0100】
ステップS39において、演算処理装置29は入力された車名及びグレードに対応するエンジン18の気筒数を、サーバ26から受信し、ステップS40へ移行する。
【0101】
ステップS40において、演算処理装置29はディスプレイ34にスピーカ数・マイクロフォン数入力画面34eを表示させて、ステップS41へ移行する。
図16は、ディスプレイ34にスピーカ数・マイクロフォン数入力画面34eが表示されたスマートフォン22を示す図である。スピーカ数・マイクロフォン数入力画面34eは、スピーカ数入力部35k、マイクロフォン数入力部35m、チェックボックス35n及び終了ボタン35pを有している。
【0102】
ステップS41において、演算処理装置29は引数l及び引数mに0を入力して、ステップS42に移行する。
【0103】
ステップS42において、ユーザによるスピーカ数入力部35kへのスピーカ16の数の入力が完了したか否かを判定する。スピーカ16の数の入力が完了している場合にはステップS43へ移行し、入力が完了していない場合にはステップS44へ移行する。
【0104】
ステップS43において、演算処理装置29は引数lをインクリメントして、ステップS46へ移行する。
【0105】
ステップS44において、演算処理装置29は、ユーザによるマイクロフォン数入力部35mへのマイクロフォン20の数の入力が完了したか否かを判定する。マイクロフォン20の数の入力が完了している場合にはステップS45へ移行し、入力が完了していない場合にはステップS47へ移行する。
【0106】
ステップS45において、演算処理装置29は引数mをインクリメントして、ステップS46へ移行する。
【0107】
ステップS46において、演算処理装置29は、引数l及び引数mの乗が0であるか否かを判定する。引数l及び引数mの乗が0である場合にはステップS50へ移行し、引数l及び引数mの乗が0でない場合にはステップS47へ移行する。
【0108】
ステップS47において、演算処理装置29は、スマートフォン22のマイクロフォン32の使用がチェックがユーザによりチェックされているか否かを判定する。スマートフォン22のマイクロフォン32の使用がチェックされている場合にはステップS48へ移行し、スマートフォン22のマイクロフォン32の使用がチェックされていない場合にはステップS49へ移行する。演算処理装置29は、ユーザがチェックボックス35nをタップしてチェックを付けた場合には、マイクロフォン32の使用がチェックされていると判定する。
【0109】
ステップS48において、演算処理装置29は、スマートフォン22に搭載されているマイクロフォン32を用いて能動騒音制御処理を行うと判定して、ステップS50へ移行する。
【0110】
ステップS49において、演算処理装置29は、スマートフォン22に搭載されているマイクロフォン32を用いて能動騒音制御処理を行わないと判定して、ステップS50へ移行する。
【0111】
ステップS50において、演算処理装置29は引数l及び引数mの乗が0であるか否かを判定する。引数l及び引数mの乗が0である場合にはステップS42へ戻り、引数l、引数m及び引数nの乗が0でない場合には設定処理を終了する。
【0112】
[FIRフィルタを用いた能動音響制御装置]
以下では、本実施形態のSANフィルタを用いた能動音響制御装置10の比較例として、FIRフィルタを用いた能動音響制御装置66について説明する。
【0113】
図17は、FIRフィルタを用いた能動音響制御装置66のブロック図である。能動音響制御装置66では、適応デジタルフィルタとして、FIR(Finite Impulse Response)フィルタが用いられている。また、FIRフィルタのフィルタ係数の更新には、Filtered-X LMSアルゴリズムが用いられている。
【0114】
能動音響制御装置66は、基準信号生成部68、制御信号生成部70、参照信号生成部72、誤差信号受信部74及び制御フィルタ係数更新部76を有している。
【0115】
基準信号生成部68は、エンジン回転数Neに基づいて基準信号xを生成する。基準信号生成部68は、周波数検出回路68a及び余弦信号発生器68bを有している。
【0116】
周波数検出回路68aは、本実施形態の能動音響制御装置10の周波数検出回路52aと同様に、エンジン回転数Neとエンジン18の気筒数に応じて、エンジン18の振動周波数fを検出する。
【0117】
余弦信号発生器68bは、振動周波数fの余弦信号である基準信号x(=cos(2πft))を生成する。tは時刻を示す。FIRフィルタのタップ数をNとすると、時間ステップnのときの基準信号をx(n)の時系列信号ベクトルX(n)は次の式で定義される。
【0118】
【0119】
制御信号生成部70は、基準信号xの時系列信号ベクトルXに基づき制御信号u0を生成する。制御信号生成部70では、制御フィルタとして適応フィルタであるFIRフィルタが用いられている。制御フィルタ係数Wは、後述する制御フィルタ係数更新部76において更新されることにより最適化される。
【0120】
時間ステップnのときの制御フィルタ係数W(n)は次の式で表される。
【0121】
【0122】
時間ステップnのときの制御信号u0(n)は次の式で表される。下記の式において「*」は畳み込み和を示す。
【0123】
【0124】
また、時系列ベクトルU0(n)は次の式で表される。
【0125】
【0126】
制御信号生成部70においてフィルタ処理された基準信号xが制御信号u0として出力される。制御信号u0に基づいてスピーカ16が制御され、スピーカ16から相殺音が出力される。
【0127】
参照信号生成部72は、基準信号xに基づいて参照信号rを生成する。参照信号生成部72は、二次経路フィルタを有している。二次経路フィルタ係数C^は、その値がサーバ26に車種毎に記憶されており、サーバ26から能動音響制御装置66にダウンロードされる。時間ステップnのときの二次経路フィルタ係数C^(n)は次の式で表される。
【0128】
【0129】
時間ステップnのときの参照信号r(n)は次の式で表される。下記の式において「*」は畳み込み和を示す。
【0130】
【0131】
また、時系列ベクトルR(n)は次の式で表される。
【0132】
【0133】
誤差信号受信部74は、マイクロフォン20において集音された相殺誤差騒音に相当する誤差信号eを受信する。誤差信号eは、相殺音と騒音とがマイクロフォン20の位置で合成された相殺誤差騒音に相当する信号である。
【0134】
制御フィルタ係数更新部76は、参照信号r及び誤差信号eに基づいて、制御信号生成部70の制御フィルタ係数Wを更新する。制御フィルタ係数更新部60は、Filtered-X LMSアルゴリズムに基づいて、制御フィルタ係数Wの更新を行う。制御フィルタ係数更新部76は、次の式に基づいて制御フィルタ係数Wを更新する。
【0135】
【0136】
制御フィルタ係数更新部76において、制御フィルタ係数Wの更新が繰り返されることにより制御フィルタ係数Wが最適化される。制御フィルタ係数Wの更新式には畳み込み演算が含まれているため、制御フィルタ係数Wの更新処理による演算負荷が増大する。
【0137】
[作用効果]
誰もが手軽に入手できる機器により、車室14内の騒音を低減する能動騒音制御を行えることが期待されている。そこで、能動音響制御プログラムをサーバ26からスマートフォン22にダウンロードさせて、スマートフォン22に能動騒音制御を行わせることが考えられる。
【0138】
比較例のFIRフィルタを用いた能動音響制御装置66では、制御フィルタ係数更新部76において制御フィルタ係数Wを更新する更新式に畳み込み演算が含まれる。そのため、能動音響制御装置66により能動騒音制御を行う場合、演算処理の負荷が多大となり、メモリ使用量も多くなる。よって、能動音響制御装置66として機能させるスマートフォン22には、高速演算処理可能な演算処理装置29、及び、大容量のメモリ30を有することが求められる。すなわち、廉価なスマートフォン22を能動音響制御装置66として機能させることができず、能動騒音制御処理は、誰もが手軽に入手できる機器では行うことができない。
【0139】
また、比較例のFIRフィルタを用いた能動音響制御装置66では、二次経路フィルタ係数C^はサーバ26からダウンロードされる。能動音響制御装置66では、二次経路伝達特性Cの同定が行われないため、同定処理に伴う演算処理装置29の演算処理の負荷、及び、メモリ30の使用量を削減できる。二次経路伝達特性Cは車種毎に異なるため、サーバ26には車種毎の二次経路伝達特性Cに対応する二次経路フィルタ係数C^が保存されている。そのため、サーバ26に二次経路フィルタ係数C^が保存されている車種でなけば、能動音響制御装置66により車室14内の騒音の抑制を行うことができない。すなわち、サーバ26に二次経路フィルタ係数C^が保存されていない車種を利用するユーザは、スマートフォン22を能動音響制御装置66として機能させることができない。
【0140】
そこで、本実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされたスマートフォン22を、SANフィルタを用いた能動音響制御装置10として機能させる。能動音響制御装置10では、制御フィルタ係数更新部60において制御フィルタ係数Wを更新する更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれない。
【0141】
そのため、能動音響制御装置10により能動騒音制御を行う場合、制御フィルタ係数Wの更新処理による演算負荷を抑制することができる。よって、能動音響制御装置10として機能させるスマートフォン22には、高速演算処理可能なプロセッサが搭載された演算処理装置29、及び、大容量のメモリ30を有することは求められない。したがって、廉価なスマートフォン22でも能動音響制御装置10として機能させることができ、能動騒音制御処理を、誰もが手軽に入手できる機器で行うことができる。
【0142】
また、本実施形態では、能動音響制御装置10は、制御フィルタ係数更新部60において、二次経路伝達特性Cを同定して補正値としてフィルタ係数C0^、C1^を生成する。フィルタ係数C0^、C1^は、複数の所定周波数fmの同定音に基づいて同定される。これにより、能動音響制御装置10として機能するスマートフォン22は二次経路伝達特性Cの同定を行うことが可能となるため、車両12の車種に関わらず、スマートフォン22を能動音響制御装置10として機能させることができる。
【0143】
また、本実施形態では、能動音響制御装置10は、基準信号生成部52において、エンジン気筒数とエンジン回転数Neに基づいて基準信号xc、xsを生成する。これにより、能動音響制御装置10は、車室14内の騒音の基本周波数である振動周波数fを有する音を低減できる。
【0144】
また、本実施形態では、マイクロフォン20は車室14内において着脱可能に取り付けられる。これにより、ユーザが別の車両12に乗り換えるときには、ユーザは、元の車両12からマイクロフォン20を取り外し、マイクロフォン20を別の車両12に取り付けることが可能となる。そのため、能動音響制御プログラムがインストールされたスマートフォン22を別の車両12に持ち込むめば、スマートフォン22により別の車両12においても能動騒音制御を行うことができる。
【0145】
〔第2実施形態〕
第1実施形態の能動音響制御装置10では、ANC処理が行われる前にスピーカ16から同定音(ノイズ音)を出力させた状態で同定処理が行われる。これに対し、第2実施形態の能動音響制御装置10では、ANC処理と同定処理が並列に行われ、同定処理は同定音を用いずに行われる。以下では、本実施形態の能動音響制御装置10により行われる能動騒音制御を常時同定型能動騒音制御と称する。
【0146】
[能動音響制御装置]
図18は、第2実施形態の能動音響制御装置10のブロック図である。能動音響制御装置10は、基準信号生成部78、制御信号生成部80、第1推定相殺信号生成部82、推定騒音信号生成部84、参照信号生成部86、第2推定相殺信号生成部88、誤差信号受信部90、一次経路フィルタ係数更新部92、二次経路フィルタ係数更新部94及び制御フィルタ係数更新部96を有している。
【0147】
基準信号生成部78は、エンジン回転数Neに基づいて基準信号xc、xsを生成する。基準信号生成部78は、周波数検出回路78a、余弦信号発生器78b及び正弦信号発生器78cを有している。基準信号生成部78で行われる処理は、第1実施形態の能動音響制御装置10の基準信号生成部52で行われる処理と同じである。
【0148】
制御信号生成部80は、基準信号xc、xsに基づいて制御信号u0、u1を生成する。制御信号生成部80は、第1制御フィルタ80a、第2制御フィルタ80b、第3制御フィルタ80c、第4制御フィルタ80d、加算器80e及び加算器80fを有している。
【0149】
制御信号生成部80では、制御フィルタとしてSANフィルタが用いられている。第1制御フィルタ80aは、フィルタ係数W0を有している。第2制御フィルタ80bは、フィルタ係数W1を有している。第3制御フィルタ80cは、フィルタ係数-W0を有している。第4制御フィルタ80dは、フィルタ係数W1を有している。後述する制御フィルタ係数更新部96において、フィルタ係数W0、W1とが更新されることにより、制御フィルタが最適化される。
【0150】
第1制御フィルタ80aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第2制御フィルタ80bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器80eにおいて加算されて制御信号u0が生成される。制御信号u0に基づいてスピーカ16が制御され、スピーカ16から相殺音が出力される。第3制御フィルタ80cにおいてフィルタ処理された基準信号xsと、第4制御フィルタ80dにおいてフィルタ処理された基準信号xcとが、加算器80fにおいて加算されて制御信号u1が生成される。
【0151】
第1推定相殺信号生成部82は、制御信号u0、u1に基づいて推定相殺信号y1^を生成する。第1推定相殺信号生成部82は、第1二次経路フィルタ82a、第2二次経路フィルタ82b及び加算器82cを有している。
【0152】
第1推定相殺信号生成部82では、二次経路フィルタとしてSANフィルタが用いられている。二次経路フィルタ係数C^は、後述する二次経路フィルタ係数更新部94において適応更新される。
【0153】
第1二次経路フィルタ82aは、二次経路フィルタ係数C^(=C0^+iC1^)の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第2二次経路フィルタ82bは、二次経路フィルタ係数C^の虚部であるフィルタ係数C1^を有している。第1二次経路フィルタ82aにおいてフィルタ処理された制御信号u0と、第2二次経路フィルタ82bにおいてフィルタ処理された制御信号u1とが、加算器82cにおいて加算されて推定相殺信号y1^が生成される。推定相殺信号y1^は、マイクロフォン20に入力される相殺音yに相当する信号の推定信号である。
【0154】
推定騒音信号生成部84は、基準信号xc、xsに基づいて推定騒音信号d^を生成する。推定騒音信号生成部84は、第1一次経路フィルタ84a、第2一次経路フィルタ84b及び加算器84cを有している。推定騒音信号生成部84では、一次経路フィルタとしてSANフィルタが用いられている。一次経路フィルタの係数H^(以下、一次経路フィルタ係数H^)は、後述する一次経路フィルタ係数更新部92において適応更新される。
【0155】
第1一次経路フィルタ84aは、一次経路フィルタの係数H^(=H0^+iH1^)の実部であるフィルタ係数H0^を有している。第2一次経路フィルタ84bは、一次経路フィルタ係数H^の虚部の極性を反転させたフィルタ係数-H1^を有している。第1一次経路フィルタ84aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第2一次経路フィルタ84bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器84cにおいて加算されて推定騒音信号d^が生成される。推定騒音信号d^は、マイクロフォン20に入力される騒音dに相当する信号の推定信号である。
【0156】
参照信号生成部86は、基準信号xc、xsに基づいて参照信号r0、r1を生成する。参照信号生成部86は、第3二次経路フィルタ86a、第4二次経路フィルタ86b、第5二次経路フィルタ86c、第6二次経路フィルタ86d、加算器86e及び加算器86fを有している。
【0157】
参照信号生成部86では、二次経路フィルタとしてSANフィルタが用いられている。二次経路フィルタ係数C^は、後述する二次経路フィルタ係数更新部94において適応更新される。
【0158】
第3二次経路フィルタ86aは、二次経路フィルタ係数C^(=C0^+iC1^)の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第4二次経路フィルタ86bは、二次経路フィルタ係数C^の虚部の極性を反転させたフィルタ係数-C1^を有している。第5二次経路フィルタ86cは、二次経路フィルタ係数C^の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第6二次経路フィルタ86dは、二次経路フィルタ係数C^の虚部であるフィルタ係数C1^を有している。
【0159】
第3二次経路フィルタ86aにおいてフィルタ処理された基準信号xcと、第4二次経路フィルタ86bにおいてフィルタ処理された基準信号xsとが、加算器86eにおいて加算されて参照信号r0が生成される。第5二次経路フィルタ86cにおいてフィルタ処理された基準信号xsと、第6二次経路フィルタ86dにおいてフィルタ処理された基準信号xcとが、加算器86fにおいて加算されて参照信号r1が生成される。フィルタ係数C0^、C1^、-C1^は本発明の補正値に相当する。
【0160】
第2推定相殺信号生成部88は、参照信号r0、r1に基づいて推定相殺信号y2^を生成する。第2推定相殺信号生成部88は、第5制御フィルタ88a、第6制御フィルタ88b及び加算器88cを有している。
【0161】
第2推定相殺信号生成部88では、制御フィルタとしてSANフィルタが用いられている。第5制御フィルタ88aは、フィルタ係数W0を有している。第6制御フィルタ88bは、フィルタ係数W1を有している。後述する制御フィルタ係数更新部96において、フィルタ係数W0、W1とが更新されることにより、制御フィルタが最適化される。
【0162】
第5制御フィルタ88aにおいてフィルタ処理された参照信号r0と、第6制御フィルタ88bにおいてフィルタ処理された参照信号r1とが、加算器88cにおいて加算されて推定相殺信号y2^が生成される。推定相殺信号y2^は、マイクロフォン20に入力される相殺音yに相当する信号の推定信号である。
【0163】
誤差信号受信部90は、マイクロフォン20において集音された相殺誤差騒音に相当する誤差信号eを受信する。誤差信号eは、相殺音と騒音とがマイクロフォン20の位置で合成された相殺誤差騒音に相当する信号である。
【0164】
誤差信号受信部90において受信された誤差信号eは、加算器98に入力される。推定騒音信号生成部84で生成された推定騒音信号d^は、反転器100により極性が反転されて、加算器98に入力される。第1推定相殺信号生成部82で生成された推定相殺信号y1^は、反転器102により極性が反転されて、加算器98に入力される。加算器98において、仮想誤差信号e1が生成される。
【0165】
推定騒音信号生成部84で生成された推定騒音信号d^は、加算器104に入力される。第2推定相殺信号生成部88で生成された推定相殺信号y2^は、加算器104に入力される。加算器104において、仮想誤差信号e2が生成される。
【0166】
一次経路フィルタ係数更新部92は、基準信号xc、xs及び仮想誤差信号e1に基づいて一次経路フィルタ係数H^(=H0^+iH1^)を更新する。一次経路フィルタ係数更新部92は、Filtered-X LMS(Least Mean Square)アルゴリズムに基づいて、一次経路フィルタ係数H^の更新を行う。一次経路フィルタ係数更新部92は、第1一次経路フィルタ係数更新部92a及び第2一次経路フィルタ係数更新部92bを有している。
【0167】
第1一次経路フィルタ係数更新部92a及び第2一次経路フィルタ係数更新部92bは、次の式に基づいてフィルタ係数H0^、H1^を更新する。式中のnは時間ステップ(n=0、1、2、…)を示し、μ0及びμ1はステップサイズパラメータを示す。
【0168】
【0169】
一次経路フィルタ係数更新部92において、一次経路フィルタ係数H^の更新が繰り返されることによって、一次経路の伝達特性H(以下、一次経路伝達特性H)の同定が行われる。SANフィルタを用いた能動音響制御装置10では、一次経路フィルタ係数H^の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、一次経路フィルタ係数H^の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0170】
二次経路フィルタ係数更新部94は、制御信号u0、u1及び仮想誤差信号e1に基づいて二次経路フィルタ係数C^(=C0^+iC1^)を更新する。二次経路フィルタ係数更新部94は、Filtered-X LMSアルゴリズムに基づいて、二次経路フィルタ係数C^の更新を行う。二次経路フィルタ係数更新部94は、第1二次経路フィルタ係数更新部94a及び第2二次経路フィルタ係数更新部94bを有している。
【0171】
第1二次経路フィルタ係数更新部94a及び第2二次経路フィルタ係数更新部94bは、次の式に基づいてフィルタ係数C0^、C1^を更新する。式中のμ2及びμ3はステップサイズパラメータを示す。
【0172】
【0173】
二次経路フィルタ係数更新部94において、二次経路フィルタ係数C^の更新が繰り返されることによって、二次経路伝達特性Cの同定が行われる。SANフィルタを用いた能動音響制御装置10では、二次経路フィルタ係数C^の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、二次経路フィルタ係数C^の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0174】
制御フィルタ係数更新部96は、参照信号r0、r1及び仮想誤差信号e2に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。制御フィルタ係数更新部96は、Filtered-X LMSアルゴリズムに基づいて、制御フィルタ係数Wの更新を行う。制御フィルタ係数更新部96は、第1制御フィルタ係数更新部96a及び第2制御フィルタ係数更新部96bを有している。
【0175】
第1制御フィルタ係数更新部96a及び第2制御フィルタ係数更新部96bは、次の式に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。式中のμ4及びμ5はステップサイズパラメータを示す。
【0176】
【0177】
制御フィルタ係数更新部96において、フィルタ係数W0、W1の更新が繰り返されることによって、制御フィルタが最適化される。SANフィルタを用いた能動音響制御装置10では、フィルタ係数W0、W1の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数W0、W1の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0178】
[スマートフォンにおける能動騒音制御処理]
本実施形態の能動音響制御装置10では、ANC処理の前に同定処理を行う必要がない。そのため、本実施形態のスマートフォン22では、第1実施形態のスマートフォン22において行われていた能動騒音制御処理のうち、
図8AのステップS5からステップS9の処理は実行されない。
【0179】
また、本実施形態のスマートフォン22のディスプレイ34に表示されるANC ON操作画面34bでは、ANC ONボタン35bのみが表示され、チェックボックス35c等は表示されない。他の処理は、第1実施形態の能動音響制御装置10の処置を同じである。
【0180】
[作用効果]
本実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされたスマートフォン22を、SANフィルタを用いた能動音響制御装置10として機能させる。能動音響制御装置10では、一次経路フィルタ係数更新部92において一次経路フィルタ係数H^を更新する更新式、二次経路フィルタ係数更新部94において二次経路フィルタ係数C^を更新する更新式、及び、制御フィルタ係数更新部96において制御フィルタ係数Wを更新する更新式は、いずれも四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれない。
【0181】
そのため、能動音響制御装置10により能動騒音制御を行う場合、一次経路フィルタ係数H^、二次経路フィルタ係数C^及び制御フィルタ係数Wの更新処理による演算負荷を抑制することができる。よって、能動音響制御装置10として機能させるスマートフォン22には、高速演算処理可能な演算処理装置29、及び、大容量のメモリ30を有することは求められない。したがって、廉価なスマートフォン22でも能動音響制御装置10として機能させることができ、能動騒音制御処理を、誰もが手軽に入手できる機器で行うことができる。
【0182】
また、本実施形態の能動音響制御装置10では、ANC処理中に同時に同定処理が行われるため、ANC処理中に一次経路伝達特性Hや二次経路伝達特性Cが変化した場合であっても、一次経路伝達特性H及び二次経路伝達特性Cを同定することができる。
【0183】
〔第3実施形態〕
第1実施形態及び第2実施形態では、能動音響制御装置10において、1つのマイクロフォン20から入力した誤差信号eに基づいて、1つのスピーカ16を制御する制御信号u0が生成される。第3実施形態では、能動音響制御装置10において、m個のマイクロフォン20から入力した誤差信号e[m](m=0、1、…、m-1)に基づいて、l個のスピーカ16を制御する制御信号u0[l](l=0、1、…、l-1)が生成される。
【0184】
マイクロフォン20は、車室14内にユーザにより容易に着脱可能に設置されている。
図19A、
図19B及び
図19Cは、車室14内に2個のマイクロフォン20が設置されている場合の設置位置の例を示す図である。車両12が右ハンドル車両である場合、
図19Aに示すように、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの右側面(車両外側)に両面テープ等により固定され、別のマイクロフォン20は、助手席17のヘッドレスト17aの左側面(車両外側)に両面テープ等により固定されている。なお、車両12が左ハンドル車両である場合、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの左側面に設けられ、別のマイクロフォン20は助手席17のヘッドレスト17aの右側面に設けられる。
【0185】
マイクロフォン20が設定される位置は、
図19Aに示す位置に限られない。例えば、車両12が右ハンドル車両である場合、
図19Bに示すように、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの左側面(車両中央側)に両面テープ等により固定され、別のマイクロフォン20は、後部座席13の中央のヘッドレスト13aの左側面に両面テープ等により固定されてもよい。なお、車両12が左ハンドル車両である場合、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの右側面に設けられ、別のマイクロフォン20は、後部座席13の中央のヘッドレスト13aの右側面に設けられてもよい。
【0186】
さらに、
図19Cに示すように、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの左側面(車両中央側)に両面テープ等により固定され、別のマイクロフォン20は、後部座席13の中央のヘッドレスト13aの後側面に両面テープ等により固定されてもよい。なお、車両12が左ハンドル車両である場合、1つのマイクロフォン20は、運転席15のヘッドレスト15aの右側面に設けられてもよい。
【0187】
図20は、複数のマイクロフォン20と複数のスピーカ16を用いた能動騒音制御のイメージ図である。
【0188】
エンジン18から各マイクロフォン20までの伝達経路(一次経路)はm個の経路があり、それぞれ一次経路伝達特性H(H[0]~H[m-1])を有する。そのため、能動音響制御装置10は、各一次経路伝達特性Hに対応するm個の一次経路フィルタ係数H^[0]~H^[m-1]を必要とする。
【0189】
各スピーカ16から各マイクロフォン20までの伝達経路(二次経路)は(l×m)個の経路があり、それぞれ二次経路伝達特性C(C[0、0]~C[l-1、m-1])を有する。そのため、能動音響制御装置10は、各二次経路伝達特性Cに対応する(l×m)個の二次経路フィルタ係数C^[0、0]~C^[l-1、m-1]を必要とする。
【0190】
スピーカ16がl個あるため、能動音響制御装置10は、各スピーカ16に入力されるl個の制御信号u0(u0[0]~u0[l-1])を生成する必要がある。そのため、能動音響制御装置10は、l個の制御フィルタ係数W(W[0]~W[l-1])を必要とする。
【0191】
すなわち、一次経路フィルタ係数H^、二次経路フィルタ係数C^及び制御フィルタ係数Wの数は、スピーカ16の数、及び、マイクロフォン20の数に応じて決定される。
【0192】
本実施形態の能動音響制御装置10では、各フィルタ係数の更新はMEFX(Multiple Error Filtered-X)-LMSアルゴリズムに基づいて行われる。以下では、第1実施形態で説明した事前同定型能動騒音制御における制御フィルタ係数Wの更新式と、第2実施形態で説明した常時同定型能動騒音制御における一次経路フィルタ係数H^、二次経路フィルタ係数C^及び制御フィルタ係数Wのそれぞれの更新式について説明する。
【0193】
[事前同定型能動騒音制御におけるフィルタ係数更新式]
j番目のスピーカ16に入力される制御信号u0[j]を生成するための制御フィルタ係数W0[j]、W1[j]の更新式は、次の式で表される。ここで、基準信号をxc、xs、j番目のスピーカ16からk番目のマイクロフォン20までの伝達経路における音の伝達特性C[j、k]に対応する二次経路フィルタ係数をC[j、k]^、k番目のマイクロフォン20に入力される誤差信号をe[k]とする。式中のnは時間ステップ(n=0、1、2、…)を示し、μ0及びμ1はステップサイズパラメータを示す。
【0194】
【0195】
[常時同定型能動騒音制御におけるフィルタ係数更新式]
エンジン18からk番目のマイクロフォン20までの伝達経路における音の伝達特性H[k]に対応する一次経路フィルタ係数H[k]^(=H0[k]^+iH1[k]^)の更新式は、次の式で表される。ここで、基準信号をxc、xs、k番目のマイクロフォン20の仮想誤差信号をe1[k]とする。式中のnは時間ステップ(n=0、1、2、…)を示し、μ0及びμ1はステップサイズパラメータを示す。
【0196】
【0197】
j番目のスピーカ16からk番目のマイクロフォン20までの伝達経路における音の伝達特性C[j、k]に対応する二次経路フィルタ係数C[j、k]^(=C0[j、k]^+iC1[j、k]^)の更新式は、次の式で表される。ここで、基準信号をxc、xs、k番目のマイクロフォン20の仮想誤差信号をe1[k]、j番目のスピーカ16に入力される制御信号u0[j]を生成するための制御フィルタ係数をW[j](=W0[j]+iW1[j])とする。式中のμ2及びμ3はステップサイズパラメータを示す。
【0198】
【0199】
j番目のスピーカ16に入力される制御信号u0[j]を生成する際に用いられる制御フィルタ係数W0[j]、W1[j]の更新式は、次の式で表される。ここで、基準信号をxc、xs、j番目のスピーカ16からk番目のマイクロフォン20までの伝達経路における音の伝達特性C[j、k]に対応する二次経路フィルタ係数をC[j、k]^、k番目のマイクロフォン20の仮想誤差信号をe2[k]とする。式中のμ4及びμ5はステップサイズパラメータを示す。
【0200】
【0201】
[作用効果]
本実施形態の能動音響制御装置10では、スピーカ16の数、及び、マイクロフォン20の数に応じて、一次経路フィルタ係数H^、二次経路フィルタ係数C^及び制御フィルタ係数Wの数が決定される。これにより、本実施形態の能動音響制御装置10は、スピーカ16の数、及び、マイクロフォン20の数に応じて、適正に能動騒音制御を行うことができる。
【0202】
〔第4実施形態〕
第1実施形態~第3実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされたスマートフォン22を能動音響制御装置10として機能させる。これに対し、本実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされた車両情報取得装置106を能動音響制御装置10として機能させる。
【0203】
図21は、スマートフォン22、車載システム24及び車両情報取得装置106のブロック図である。本実施形態では、第1実施形態~第3実施形態と同じ構成について詳細な説明は省略する。
【0204】
車両情報取得装置106は、スマートフォン22と有線により接続されている。また、車両情報取得装置106は、車載システム24と有線により接続されている。車両情報取得装置106は、スマートフォン22及び車載システム24と無線により接続されていてもよい。
【0205】
サーバ26からインターネット28を介してスマートフォン22に能動音響制御プログラムがダウンロードされ、スマートフォン22から車両情報取得装置106に能動音響制御プログラムが送信される。車両情報取得装置106には、スマートフォン22から送信された能動音響制御プログラムがインストールされる。
【0206】
ANC処理や同定処理の情報は、車載システム24のディスプレイ46に表示させてもよいし、スマートフォン22のディスプレイ34に表示させてもよい。
【0207】
車両情報取得装置106は、演算処理装置107、メモリ108、ストレージ109及び近距離無線通信モジュール110を有している。
【0208】
演算処理装置107は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)等のプロセッサである。メモリ108は、例えば、ROMやRAM等の非一時的又は一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。ストレージ109は、例えば、フラッシュメモリ等の非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。
【0209】
車両情報取得装置106に能動音響制御プログラムがインストールされると、能動音響制御プログラムがストレージ109に記憶される。ストレージ109に記憶された能動音響制御プログラムにしたがって演算処理装置107が能動音響制御処理を行うことにより、演算処理装置107は能動音響制御装置10として機能する。
【0210】
近距離無線通信モジュール110は、例えば、ブルートゥース(登録商標)等の近距離無線通信により通信するモジュールである。車両情報取得装置106が、スマートフォン22及び車載システム24と無線により接続されている場合には、この近距離無線通信モジュール110を用いて、スマートフォン22及び車載システム24との通信が行われる。
【0211】
車両情報取得装置106は、車両12に設けられたOBD(On-board diagnostics)コネクタ112に接続されている。OBDコネクタ112は、CAN又はKラインを介して車載ECUに接続されている。OBDコネクタ112からは、エンジン回転数、水温、電圧、ブースト圧等の車両情報を取得することが可能である。
【0212】
車両情報取得装置106は、マイクロフォン20と有線で接続されている。車両情報取得装置106とマイクロフォン20とは、無線により接続されていてもよい。
【0213】
車両情報取得装置106は、車室14内にユーザにより容易に着脱可能に設置可能となっている。
図22A及び
図22Bは、車室14内の車両情報取得装置106の設置位置の例を示す図である。
図22Aに示すように、車両情報取得装置106は、ハンドル21の下部のセンタロアカバー23に両面テープ等により固定される。車両情報取得装置106から配線106aが伸びており、この配線106aにより、車両情報取得装置106は、スマートフォン22及び車載システム24と接続されている。
【0214】
車両情報取得装置106が設定される位置は、
図22Aに示す位置に限られない。例えば、
図22Bに示すように、センタコンソール25の側面に両面テープ等により固定されてもよい。
【0215】
[作用効果]
本実施形態では、車両情報取得装置106はOBDコネクタ112に接続される。これにより、車両情報取得装置106は、車載ECUからエンジン回転数Neを取得することができる。
【0216】
また、車両情報取得装置106は車室14内において着脱可能に取り付けられる。これにより、ユーザが別の車両12に乗り換えるときには、ユーザは、元の車両12から車両情報取得装置106を取り外し、車両情報取得装置106を別の車両12に取り付けることが可能となる。そのため、能動音響制御プログラムがインストールされた車両情報取得装置106を別の車両12に取り付ければ、車両情報取得装置106により別の車両12においても能動騒音制御を行うことができる。
【0217】
〔第5実施形態〕
第1実施形態~第3実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされたスマートフォン22を能動音響制御装置10として機能させる。これに対し、本実施形態では、能動音響制御プログラムがインストールされた車載システム24を能動音響制御装置10として機能させる。
【0218】
図23は、スマートフォン22及び車載システム24のブロック図である。本実施形態では、第1実施形態~第3実施形態と同じ構成について詳細な説明は省略する。
【0219】
車載システム24は、スマートフォン22と有線により接続されている。車載システム24は、スマートフォン22と無線により接続されていてもよい。
【0220】
サーバ26からインターネット28を介してスマートフォン22に能動音響制御プログラムがダウンロードされ、スマートフォン22から車載システム24に能動音響制御プログラムが送信される。車載システム24には、スマートフォン22から送信された能動音響制御プログラムがインストールされる。
【0221】
ANC処理や同定処理の情報は、車載システム24のディスプレイ46に表示させてもよいし、スマートフォン22のディスプレイ34に表示させてもよい。
【0222】
車載システム24は、エンジン回転数センサ19及びマイクロフォン20と有線で接続されている。車載システム24は、エンジン回転数センサ19及びマイクロフォン20と無線で接続されていてもよい。
【0223】
[作用効果]
本実施形態では、サーバ26からの能動音響制御プログラムのダウンロードは、移動通信モジュール38や無線LAN通信モジュール40を有するスマートフォン22により行う。そして、ダウンロードされた能動音響制御プログラムは、スマートフォン22から車載システム24に送られ、車載システム24に能動音響制御プログラムがインストールされる。これにより、移動通信モジュールや無線LAN通信モジュールが搭載されていない車載システム24であっても、能動音響制御プログラムをインストールさせることができ、能動音響制御装置10として機能させることができる。
【0224】
〔第6実施形態〕
第1実施形態~第5実施形態では、能動音響制御装置10は、能動音響制御のうち能動騒音制御を実施する。これに対し、本実施形態では、能動音響制御装置10は、能動騒音制御に加えて能動効果音制御を行う。能動効果音制御では、エンジン回転数Neに応じて、エンジン音を模した効果音をスピーカ16から出力させる。これにより、例えば、車両12の乗員に心地よさを感じさせることや、加速感を与えることができる。
【0225】
図24は、能動音響制御装置10のブロック図である。能動音響制御装置10は、能動騒音制御を行う能動騒音制御部113及び能動効果音制御を行う能動効果音制御部114を有している。能動騒音制御部113の構成は、第1実施形態~第4実施形態のいずれかの能動音響制御装置10の構成が用いられる。能動効果音制御部114は、本発明の効果音生成部に相当する。
【0226】
能動効果音制御部114は、周波数検出回路116、調波信号生成部118、波形記憶部120及び制御信号生成部122を有している。
【0227】
周波数検出回路116は、第1実施形態の周波数検出回路78aと同じく振動周波数fを検出する。調波信号生成部118は、振動周波数fの4倍、5倍又は6倍の調波信号fhを生成する。波形記憶部120は、調波信号fh毎に振幅及び位相が異なる波形データを記憶している。制御信号生成部122は、調波信号fhに対応する波形データに基づいて制御信号v0を生成する。
【0228】
能動騒音制御部113から出力された制御信号u0と能動効果音制御部114から出力された制御信号v0とが加算器124において加算される。スピーカ16は、制御信号u0と制御信号v0とに基づいて制御される。これにより、スピーカ16からは、騒音を低減する相殺音とともに、エンジン音を模した効果音が出力される。
【0229】
[作用効果]
本実施形態の能動音響制御装置10は、能動騒音制御部113と能動効果音制御部114を有する。これにより、スピーカ16からは、騒音を低減する相殺音とともに、エンジン音を模した効果音を出力させることができる。
【0230】
〔変形例〕
第1実施形態~第6実施形態では、エンジン回転数Neに基づいて振動周波数fが検出される。車両12の加速度とエンジン回転数Neとの間には高い相関がある。そのため、車室14内のスマートフォン22の加速度センサ37が検出した車両12の加速度に基づいて振動周波数fを検出してもよい。
【0231】
エンジン回転数Neは、車両12の速度とも高い相関がある。そのため、車室14内のスマートフォン22の加速度センサ37が検出した車両12の加速度の累積値を速度とし、速度に基づいて振動周波数fを検出してもよい。
【0232】
〔本願におけるコンピュータの用語について〕
本願において、コンピュータとは、与えられた手順に従って複雑な計算を自動的に行う機械のことをいう。特に、電子回路等を用いてデジタルデータの入出力、演算、変換等を連続的に行うことができ、詳細な処理手順を人間等が記述して与えることで、様々な用途に用いることができる電気機械のことを示す。
【0233】
一般にコンピュータそのものと分類される機器には、個人向けの汎用コンピュータであるパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer、パソコン)や、企業の情報システム等で用いられる大規模・高性能コンピュータであるサーバやメインフレーム、科学技術計算等に用いる超高性能コンピュータであるスーパーコンピュータ等がある。また、情報やデータを扱う電気機械には何らかの形でコンピュータの一種が組み込まれていることも多い。
【0234】
よって、本願においては、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の各種の通信機器、並びに、ビデオレコーダ、デジタルテレビ、デジタルカメラ、ゲーム機、車両制御装置等の電子制御の家電製品や産業機械等もコンピュータに含まれるものとする。
【0235】
すなわち、本願におけるコンピュータは、外部とのデータのやり取りを行う入出力装置、データを記録する記憶装置、プログラムの実行及びプログラムの実行状況や各装置の状態を制御する制御装置、データの計算や加工を行う演算装置等から構成される。
【0236】
このうち、記憶装置は一時的な記憶に用いる主記憶装置と、永続的な記録に用いる外部記憶装置(補助記憶装置)に分かれていてもよい。
【0237】
制御装置と演算装置は一つの装置や半導体チップとして統合され、これを処理装置(あるいは、中央処理装置、CPU、プロセッサ)としてもよい。
【0238】
コンピュータの計算手順はデータとして記録して与える方式(プログラム内蔵方式)になっており、これをコンピュータプログラムあるいは単にプログラムという。
【0239】
〔本願における演算処理装置の用語について〕
演算処理装置は、トランジスタ・半導体素子が集積したもので、中央処理装置(CPU、マイクロプロセッシングユニット、MPU、processor)である。演算処理装置とは、コンピュータの主要な構成要素の一つで、他の装置・回路の制御やデータの演算などを行う装置である。演算装置と制御装置を統合したもので、現代では一枚のICチップに集積されたマイクロプロセッサ(MPU:Micro-Processing Unit)を用いる。
【0240】
演算処理装置は、メインメモリ(RAM)に格納された機械語(マシン語)のプログラムを、バスを通じて一命令ずつ順番に読み出し(フェッチ)、その内容を解釈して行うべき動作を決定(デコード)し、内部の回路を駆動して実際に処理を実行する。その演算処理装置の内部は、命令の解釈や他の回路への動作の指示などを行う制御ユニット、論理演算や算術演算を行う演算ユニット(ALU:Arithmetic and Logic Unit)、データの一時的な記憶を行うレジスタ、外部との通信を行うインターフェース回路などで構成される。
【0241】
また、レジスタとメインメモリのあまりに大きな速度差、容量差を埋めるため、両者の中間の速度と容量を併せ持つキャッシュメモリが内蔵されることが多い。
【0242】
〔本願における主記憶装置の用語について〕
主記憶装置は、「メインメモリ」、「メモリ」、「RAM」とも呼ばれる。主記憶装置は、中央処理装置(CPU)と基板上の電気配線などを通じて直に接続されたものである。主記憶装置は、CPUの命令によって直に読み書きが可能な記憶装置で、実行中のプログラムコードや当座の処理に必要なデータなどが保存される。主記憶装置は、外部記憶装置(ストレージ)に比べ読み書き動作は桁違いに高速だが、単価が高いため機器に搭載できる容量は何桁か少ないのが一般的である。
【0243】
現代のコンピュータで主記憶装置(メインメモリ)として用いられるのは半導体記憶装置(半導体メモリ)のRAM(Random Access Memory)の一種であるDRAM(Dynamic RAM)がほとんどで、機器の電源を切るなどして装置への通電を止めると記憶内容が失われるという特性がある。このため、データやプログラムの永続的な保管にはストレージを用い、コンピュータの起動時にメインメモリに必要なプログラムなどを読み込んで実行するという動作が基本となっている。また、現代のCPU製品の多くは内部にDRAMよりも高速な「キャッシュメモリ」と呼ばれる記憶回路を内蔵しているが、これはDRAMとのやり取りを高速化する一時的な保管場所としてのみ用いられ、プログラムから明示的に動作を制御することはできないようになっている。
【0244】
〔本願におけるストレージの用語について〕
ストレージは、「外部記憶装置」、「external storage unit」、「補助記憶装置」とも呼ばれる。ストレージとは、コンピュータの主要な構成要素の一つで、データを永続的に記憶する装置。磁気ディスク(ハードディスクなど)や光学ディスク(CD/DVD/Blu-ray(登録商標) Discなど)、フラッシュメモリ記憶装置(USBメモリ/メモリカード/SSD(ソリッドステートドライブ)など)、磁気テープなどがこれにあたる。
【0245】
ストレージとは、一般的には通電しなくても記憶内容が維持される記憶装置を指し、コンピュータが利用するプログラムやデータなどを長期間に渡って固定的に保存する用途に用いられる。コンピュータ内にはこれとは別に、半導体素子などでデータの記憶を行う主記憶装置(メインメモリ、メモリ)が内蔵されており、利用者がプログラムを起動してデータの加工を行う際にはストレージから必要なものをメモリに呼び出して使う。
【0246】
同じコンピュータに搭載される装置同士で比較すると、ストレージはメモリに比べて記憶容量が数桁(数十~数千倍)大きく、容量あたりのコストが数桁小さいが、読み書きに要する時間が数桁大きい。
【0247】
〔実施形態から得られる技術的思想〕
上記実施形態から把握しうる技術的思想について、以下に記載する。
【0248】
サーバ(26)とデータを送受信する通信機(22)を利用してダウンロードされるとともに、車両(12)の車室(14)内の騒音を低減させるために、前記車室内に設けられたスピーカ(16)から相殺音を出力させる制御信号を生成する処理を演算処理装置(29)に実行させる能動音響制御プログラムであって、騒音源から発生する前記騒音に応じた基準信号を生成する基準信号生成部(52)、前記基準信号を適応信号処理して前記制御信号を生成する適応ノッチフィルタ(54)、前記制御信号に基づいて前記スピーカから出力された前記相殺音と前記騒音との相殺誤差騒音に相当する誤差信号を入力する誤差信号入力部(56)、車室内空間における音の伝達特性を同定して補正値を生成する同定部(60)、前記基準信号を前記補正値に基づいて補正して参照信号を生成する参照信号生成部(58)、前記誤差信号と前記参照信号とに基づいて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を遂次更新するフィルタ係数更新部(60)、を備える。
【0249】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、マイクロフォン(32)を有し、該マイクロフォンは、前記相殺誤差騒音を検出し、前記同定部は、前記スピーカから前記マイクロフォンまでの伝達経路における、前記基準信号の周波数の音の伝達特性を同定して前記補正値を生成してもよい。
【0250】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、マイクロフォン(20)と接続され、該マイクロフォンは、前記相殺誤差騒音を検出し、前記同定部は、前記スピーカから前記マイクロフォンまでの伝達経路における、前記基準信号の周波数の音の伝達特性を同定して前記補正値を生成してもよい。
【0251】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、エンジン気筒数の情報の入力を受け付けるエンジン気筒数入力部(35d)を有し、エンジン回転数を検出するエンジン回転数取得装置(19)が接続され、前記基準信号生成部は、前記エンジン気筒数と前記エンジン回転数に基づいて前記基準信号を生成してもよい。
【0252】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、前記スピーカの数の情報の入力を受け付けるスピーカ数入力部(35k)と、前記マイクロフォンの数の情報の入力を受け付けるマイクロフォン数入力部(35m)と、を有し、前記補正値の数、及び、前記フィルタ係数の数は、前記スピーカの数、及び、前記マイクロフォンの数に応じて決定されてもよい。
【0253】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置は、エンジン気筒数の情報の入力を受け付けるエンジン気筒数入力部と、加速度を検出する加速度検出部(37)と、を有し、前記基準信号生成部は、前記エンジン気筒数と前記加速度に基づいて前記基準信号を生成してもよい。
【0254】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記エンジン回転数に基づいて、前記スピーカから効果音を出力させる第2の制御信号を生成する効果音生成部(114)、を備えてもよい。
【0255】
上記の能動音響制御プログラムであって、前記演算処理装置を、前記加速度、又は、前記車両の速度に基づいて、前記スピーカから効果音を出力させる第2の制御信号を生成する効果音生成部、として機能させてもよい。
【0256】
上記の能動音響制御プログラムにしたがって前記演算処理装置に処理を実行させる際に用いられる前記相殺誤差騒音を検出するマイクロフォンであって、前記通信機を利用してダウンロードされた前記能動音響制御プログラムがインストールされた装置と、有線又は無線で接続され、前記車室内において着脱可能に取り付けられる。
【0257】
上記の能動音響制御プログラムにしたがって前記演算処理装置に処理を実行させる際に用いられる前記エンジン回転数を取得するエンジン回転数取得装置(106)であって、前記装置と有線又は無線で接続され、前記車室内において着脱可能に取り付けられる。
【符号の説明】
【0258】
12…車両 14…車室
16…スピーカ 20、32…マイクロフォン
18…エンジン(騒音源)
19…エンジン回転数センサ(エンジン回転数取得装置)
22…スマートフォン(通信機) 26…サーバ
29…演算処理装置 35d…エンジン気筒数入力部
35k…スピーカ数入力部
35m…マイクロフォン数入力部
37…加速度センサ(加速度検出部) 52…基準信号生成部
54…制御信号生成部(適応ノッチフィルタ)
56…誤差信号入力部 58…参照信号生成部
60…制御フィルタ係数更新部(フィルタ係数更新部、同定部)
106…車両情報取得装置(エンジン回転数取得装置)
114…能動効果音制御部(効果音生成部)