(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231213BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231213BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D8/02 D
(21)【出願番号】P 2022523687
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 KR2020013144
(87)【国際公開番号】W WO2021080205
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0131380
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ヒョン-ジェ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-143958(JP,A)
【文献】特表2013-503265(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135240(WO,A1)
【文献】特開2011-190468(JP,A)
【文献】特開2008-240143(JP,A)
【文献】特開平11-350031(JP,A)
【文献】特表2021-505711(JP,A)
【文献】特開2022-045505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.1%以下(0%は除く)、Si:0.7%以下(0%は除く)、Mn:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:27~33%、Al:3.5%以下(0%は除く)、Nb:2.5%以下(0%は除く)、W:6.5%以下(0%は除く)、Mo:0.5%以下(0%は除く)、Ti:0.3%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たすことを特徴とする高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板。
[関係式1]
(Cr-SUM)(Al-SUM)≧45
但し、SUMは特定元素及び不純元素の含有量に関連した式であり、具体的には、Cu+Co+V+La+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sb+100Nの合計含有量を意味する。
【請求項2】
前記クロム鋼板はフェライトを含む微細組織を有することを特徴とする請求項1に記載の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板。
【請求項3】
前記クロム鋼板の微細組織には、Laves相及び炭窒化物を含む直径500nm以下の析出物が10個/μm
2以上の個数範囲で存在することを特徴とする請求項1に記載の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板。
【請求項4】
前
記Laves相
は、Fe
2(Nb、W、Mo、Ti)であ
り、
前記炭窒化物
は、(Nb、W、Mo、Ti)(C、N)であることを特徴とする請求項3に記載の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.1%以下(0%は除く)、Si:0.7%以下(0%は除く)、Mn:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:27~33%、Al:3.5%以下(0%は除く)、Nb:2.5%以下(0%は除く)、W:6.5%以下(0%は除く)、Mo:0.5%以下(0%は除く)、Ti:0.3%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たす鋼スラブを仕上げ圧延温度が1200℃以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、
前記冷却された熱延鋼板を1050~1300℃の温度範囲で最小30分間再加熱して溶体化処理を行う工程、及び
前記溶体化処理された熱延鋼板を常温まで1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程を含むことを特徴とする高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板の製造方法。
[関係式1]
(Cr-SUM)(Al-SUM)≧45
但し、SUMは特定元素及び不純元素の含有量に関連した式であり、具体的には、Cu+Co+V+La+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sb+100Nの合計含有量を意味する。
【請求項6】
前記製造されたクロム鋼板は、フェライトを含む微細組織を有することを特徴とする請求項5に記載の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板並びにその製造方法に係り、より詳しくは、鋼材の構成相であるフェライトにLaves相と炭窒化物を析出させて、優れた高温強度を有するだけでなく、クロム及びアルミニウムの合金による安定した酸化層の導入により高温酸化抵抗性及び高温強度に優れ示すクロム鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全世界の電力需要量は持続的に成長している。様々な電力供給源のうち、火力及び原子力発電は発電単価が最も安価な発電に属し、今後の全世界の発電設備容量において、当発電が占める割合は減少しない見通しである。今後の火力及び原子力発電建設において考慮すべき事項は、環境に優しい発電所の建設及びエネルギー利用の高効率化である。発電効率を増加するために、タービンに供給される蒸気の温度及び圧力の増加が求められており、これによって蒸気を生成するボイラー素材の耐熱性向上、特に高温での降伏強度を増加させることが必須である。高温クリープ変形は、材料の弾性範囲、領域範囲に応力が与えられた状況が長時間持続して発生するために発生する。さらに、持続的な高温蒸気に晒される環境的要因を考慮すると、その寿命を延ばすために耐酸化特性を増加させることも非常に重要である。
【0003】
高温に適用する鋼のうち、ニッケルなどの高価の合金元素を多量含有しているオーステナイトステンレス鋼は、低い熱伝導度及び高い熱膨張係数のような良好でない物理的性質を有しているため、大型部品を製造する際に困難があり、使用が制限的である。一方、クロム鋼は高価のニッケル合金を排除し、優れたクリープ強度、溶接性、耐腐食性及び耐酸化性などを目的に多く用いられている。原子力発電の場合、中性子照射によるスウェリング現象を防止するために、オーステナイト系ステンレス鋼の代わりに長期間の健全性を担保することができるクロム鋼への代替適用によって安定性を確保している。
【0004】
耐熱クロム鋼の高温特性を向上するために、固溶強化及び析出強化の方法が適用される。このために、固溶強化元素及びM(C、N)炭窒化物(M=金属元素、C=炭素、N=窒素)の形成元素であるバナジウム、ニオブ、チタンが主に合金される。上記方法が適用された低合金系フェライト、ベイナイト及びマルテンサイト系耐熱クロム鋼の欠点は、620℃超過の条件では高温酸化及び高温強度が大きく劣化するということである。650℃以下の高温での使用が保証されたオーステナイトステンレス鋼でこれらを代替する場合、良好でない物理的性質による制約が非常に大きいものと予想される。一方、ニッケル超合金は、700℃以上の高温でも使用が可能であるが、価格が非常に高い。この欠点をすべて補完し、高温酸化抵抗性及び高温強度に優れた鋼材開発のための合金設計とこの製造法の確立が必須である。
【0005】
オーステナイトステンレス鋼などを代替することができる従来の技術として、特許文献1には、高温腐食性及び高温クリープの強度に優れたフェライト系ステンレス鋼が提示されている。ところで、特許文献1に記載された発明は、高温強度確保のためにLaves相の析出のみを誘導しており、当該技術において炭窒化物の効果は考慮されていない。また、鋼の高温引張強度を改善する目的で、Cu(0.01~2.00重量%)またはCo(0.01~2.00重量%)を1種または2種以上を含有することを提示しているが、Cuはクロム鋼の表面散発クラックに悪影響を与え、価格が非常に高いCoによって製造費用が増加する可能性がある。
【0006】
また、特許文献2には、耐熱性フェライト鋼合金を製造する際に特定元素を添加することで、耐酸化性だけでなく、高温変形抵抗性に優れるようにする技術が提示されている。しかしながら、特許文献2に記載された発明では、Alを3.5~8重量%の範囲で含有するようになっており、高Alの成分組成を有するため、製造性が良好でない。また、鋼化学成分にZrなど価格が非常に高い合金を用いているため、原料の安定供給性が確保できない可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-199627号公報
【文献】韓国公開特許第1988-0001640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的とするところは、合金設計及び熱処理を用いて、上述の従来技術とは異なり、鋼材の構成相であるフェライトにLaves相と炭化物を析出させ、優れた高温強度を有するだけでなく、クロム及びアルミニウムに合金による安定した酸化層を導入することで、高温耐酸化特性を示すクロム鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0009】
しかし、本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及されていないさらに他の課題は、以下の記載から当業者であれば明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板は、
重量%で、C:0.1%以下(0%は除く)、Si:0.7%以下(0%は除く)、Mn:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:27~33%、Al:3.5%以下(0%は除く)、Nb:2.5%以下(0%は除く)、W:6.5%以下(0%は除く)、Mo:0.5%以下(0%は除く)、Ti:0.3%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たすことを特徴とする。
[関係式1]
(Cr-SUM)(Al-SUM)≧45
*但し、SUMは、特定元素及び不純元素の含有量に関連した式であり、具体的には、Cu+Co+V+La+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sb+100Nの合計含有量を意味する。
【0011】
上記鋼板は、フェライトを含む微細組織を有する。
【0012】
上記鋼板の微細組織には、Laves相及び炭窒化物を含む直径500nm以下の析出物が10個/μm2以上の個数範囲で存在することが好ましい。
【0013】
上記直径500nm以下の析出物は、Laves相の場合、Fe2(Nb、W、Mo、Ti)であってもよく、炭窒化物の場合、(Nb、W、Mo、Ti)(C、N)であってもよい。
【0014】
また、本発明は、上述した組成の鋼スラブを仕上げ圧延温度が1200℃以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、上記冷却された熱延鋼板を1050~1300℃の温度範囲で最小30分間再加熱して溶体化処理を行う工程、及び上記溶体化処理された熱延鋼板を常温まで1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、800℃の温度に維持される電気抵抗炉内で一定して水蒸気を供給する環境条件で1500時間露出したとき、25重量%Cr、20重量%Ni及び残部がFe及び不可避不純物からなる310オーステナイトステンレス鋼の酸化量の30%以下のレベルで高温酸化抵抗性に優れることができる。また、700℃以上の高温での強度がASTM A213 92 grade鋼及び310オーステナイトステンレス鋼よりも優れたクロム鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の高温酸化抵抗性の評価実験であり、800℃温度に維持される電気抵抗炉内で一定して水蒸気を供給する環境条件で最大1500時間露出する実験の比較鋼2及び発明鋼3~8の結果である。
【
図2】(a)は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却した発明鋼3の微細組織を示した走査電子顕微鏡(SEM)写真であり、(b)は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却し、750℃に1500時間以上露出した発明鋼3の微細組織の観察結果を示した走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の実験に用いられた発明鋼の一つである鋼種3鋼板に対する透過電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)写真である。
【
図4】
図3の発明鋼3鋼板の化学組成を確認したエネルギー分散X線分光分析器(energy dispersive X-ray spectroscope、EDS)の結果写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。
【0018】
上述したように、従来の低合金系フェライト、ベイナイト及びマルテンサイト系耐熱クロム鋼は、620℃超過の条件では、高温酸化及び高温強度が大きく劣化するという欠点を有している。650℃以下の高温での使用が保証されたオーステナイトステンレス鋼でこれらを代替する場合、良好でない物理的性質による制約が非常に大きいと予想される。一方、ニッケル超合金は700℃以上の高温でも使用が可能であるが、価格が非常に高いという欠点がある。
【0019】
本発明者は、このような従来技術の問題点を解消するために、研究及び実験を重ねた結果、Crを27~33%含有したクロム鋼合金でNb、W、Mo、Ti添加量を最適化し、同時に熱間圧延温度、溶体化処理温度及び冷却速度などの工程を最適化することで、優れた高温酸化抵抗性及び高温強度を有するクロム鋼を得ることができることを確認して、本発明を提示する。
【0020】
このような本発明の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板は、重量%で、C:0.1%以下(0%は除く)、Si:0.7%以下(0%は除く)、Mn:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:27~33%、Al:3.5%以下(0%は除く)、Nb:2.5%以下(0%は除く)、W:6.5%以下(0%は除く)、Mo:0.5%以下(0%は除く)、Ti:0.3%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、上記関係式1を満たす。
【0021】
以下、本発明の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板の成分を限定する理由を説明する。ここで「%」は、特に断りのない限り「重量%」を示す。
【0022】
・炭素(C):0.1%以下(0%は除く)
上記炭素は、基本的な強度を確保するために最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含まれる必要がある。特に、炭窒化物を誘導して高温強度向上に効果的である。しかしながら、鋼中の炭素含有量が0.10%を超過すると、析出物が過度に形成されて溶接性が大きく低下する欠点がある。
【0023】
したがって、本発明において、上記炭素の含有量を0.1%以下の範囲に制限することが好ましい。より好ましくは、上記炭素の含有量を0.05%以下に制限することである。
【0024】
・シリコン(Si):0.7%以下(0%は除く)
シリコンは、置換型元素として固溶強化により鋼材の強度を向上させ、脱酸効果を有していることから清浄鋼製造に必須元素であるため、添加されることが好ましい。しかし、多量添加時に、Sigma相を生成させて材料の亀裂性を増加させることがあり、炭化物などの有益な析出物の形成が必須であるのに対し、シリコンは炭化物の形成を抑制する役割を果たす。したがって、本発明では、シリコン含有量を0.7%以下に制御することが好ましい。より好ましくは、上記シリコンの含有量を0.3%以下に制限することである。
【0025】
・マンガン(Mn):0.1%以下(0%は除く)
マンガンは、固溶強化によって強度を向上させる役割を果たす。また、硫黄と反応してMnSを析出するが、これは硫黄偏析による高温亀裂を防止するのに有利である。一方、マンガン含有量が増加するほど、MnS介在物の分率が増加し、介在物性の欠陥による亀裂敏感性が増加する可能性がある。したがって、本発明では、上記マンガンの含有量を0.1%以下に制御することが好ましい。より好ましくは、上記マンガンの含有量を0.05%以下に制限することである。
【0026】
・硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)
硫黄は、不純物元素であり、その含有量が0.01%超過すると鋼の延性及び溶接性が低下する。
【0027】
したがって、硫黄の含有量を0.01%以下に制限することが好ましい。
【0028】
・リン(P):0.03%以下(0%を除く)
リンは、固溶強化効果を奏する元素であるが、硫黄と同様に不純物元素として、その含有量が0.03%を超過すると、鋼に脆性が発生し、溶接性が低下する。
【0029】
したがって、リンの含有量を0.03%以下に制限することが好ましい。
【0030】
・クロム(Cr):27~33%
クロムは、フェライト安定化元素であって、酸素と反応して緻密で安定した保護皮膜を形成し、高温耐酸化性及び耐腐食性を増加させる。特に、700℃以上の高温での酸化抵抗性を確保するためには、27%以上のクロム含有量が必要であるが、33%超過して含有する際には、製造費用が上昇し、溶接性が低下するという問題があるため、好ましくない。したがって、本発明ではクロムの含有量を27~33%の範囲に制限することが好ましい。より好ましくは、上記クロムの含有量を28~32%に制限することである。
【0031】
・アルミニウム(Al):3.5%以下(0%は除く)
アルミニウムは、フェライト領域を拡大し、鋳造時に脱酸剤として添加される。アルミニウムも酸素と反応して緻密で安定した保護皮膜を形成し、高温耐酸化性及び耐腐食性を増加させる。但し、3.5%を超過して含有する際には、鋳造性が低下し得る問題があるため、好ましくない。したがって、アルミニウムの含有量を3.5%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、アルミニウムの含有量を3.3%以下に制限することである。
【0032】
・ニオブ(Nb):2.5%以下(0%は除く)
ニオブは、M(C、N)炭窒化物の形成及びLaves相形成元素の一つである。また、スラブ再加熱時に固溶されて熱間圧延中に結晶粒成長を抑制し、この後、析出して鋼の強度を向上させる役割を果たすことができる。但し、ニオブが2.5%を超過して過度に添加されると溶接性が低下することがあり、製造費用が大きく上昇することがあるという欠点がある。したがって、ニオブの含有量を2.5%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、ニオブの含有量を2.0%以下に制限することである。
【0033】
・タングステン(W):6.5%以下(0%は除く)
タングステンは、固溶強化に影響を与えて強度を増加させ、M(C、N)炭窒化物の形成及びLaves相形成元素の一つであって、析出強化において必要な合金元素である。しかしながら、タングステンの合金量が増加するほど材料の脆性が多少増加することがあり、製造費用が大きく上昇する可能性があるという欠点がある。したがって、タングステンの含有量を6.5%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、タングステンの含有量を6.0%以下に制限することである。
【0034】
・モリブデン(Mo):0.5%以下(0%は除く)
モリブデンは、固溶強化効果を増加させて強度を高め、M(C、N)炭窒化物の形成及びLaves相形成元素の一つであって、析出強化において必要な合金元素である。しかしながら、モリブデンも高価の元素であるため、過度に添加される場合、製造費用が大きく上昇する可能性があり、0.5%を超過する場合、Sigma相を生成させて材料の亀裂性を増加させることができるという欠点がある。したがって、モリブデンの含有量を0.5%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、モリブデンの含有量を0.4%以下に制限することである。
【0035】
・チタン(Ti):0.3%以下(0%は除く)
チタンもM(C、N)炭窒化物の形成及びLaves相形成元素の一つであって、析出強化において必要な合金元素である。しかしながら、チタンが0.3%を超過して添加されると、高温酸化抵抗性が減少する可能性がある。したがって、チタンの含有量を0.3%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、チタンの含有量を0.2%以下に制限することである。
【0036】
・窒素(N):0.015%以下(0%は除く)
窒素は、鋼中で工業的に完全に除去することは難しいため、製造工程で許容できる範囲である0.015%を上限とする。窒素は、オーステナイト安定化元素として知られており、単なるMC炭化物よりもM(C、N)炭窒化物の形成時に高温安定度が大きく上昇して、鋼材の高温強度を効果的に増加させる役割をする。しかし、0.015%を超過するようになると、不純物中のホウ素と結合してBNを形成した、クロムと結合してCr2N及びZ-phaseなどを非常に粗大に形成してクロムの有利な効果を低減することがあり、アルミニウムと結合してAlNを形成するおそれがあるため、鋼材の欠陥発生の危険が増加する可能性がある。
【0037】
したがって、窒素の含有量を0.015%以下に制限することが好ましい。
【0038】
これ以外に、残部はFe及び不可避不純物からなる。例えば、Cu、Co、V、La、Ce、Zr、Ta、Hf、Re、Pt、Ir、Pd、Sbなどが含まれる。このような不純元素は、通常の製造過程では原料または周囲環境から不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。
【0039】
このとき、本発明の鋼板は、下記関係式1を満たす化学組成を有することが好ましい。
[関係式1]
(Cr-SUM)(Al-SUM)≧45
但し、SUMは、特定元素及び不純元素の含有量に関連した式であり、具体的には、Cu+Co+V+La+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sb+100Nの合計含有量を意味する。
【0040】
すなわち、本発明の鋼は、CrとAlの有利な効果が十分に考慮される必要があり、効果を阻害し得る不純元素が本発明の鋼中に含まれないように制御する必要がある。特に、定義された「SUM」の中にN含有量については数字100をかけて加重値を与えた。N含有量に加重値を与えた理由は、CrまたはAlと結合して各元素の有益な効果を阻害する可能性が高いためである。
【0041】
本発明において、上記「SUM」をなす元素であるCuは、クロム鋼の表面散発クラックに悪影響を及ぼす可能性が高い。Co及びその他の残余不純物中の希少な遷移金属及び希土類などは、非常に高価であるため、鋼種内に含まれる際に製造費用が大きく上昇し、原料の安定供給性が確保できない可能性が高く、機械的物性を悪化させることがある。Vは、発明者らの事前実験結果によって他元素に対する高温強度増加の効果が低く、最近急上昇した価格推移によって鋼種内に含まれてはいけない元素とされた。したがって、本発明の鋼種内に含まれてはいけない上記合金元素の重量%合計をSUMとして指定し、関係式1が導出されたものである。
【0042】
以下、高温酸化抵抗性及び高温強度に優れた本発明のクロム鋼板の微細組織及び析出物について詳細に説明する。
【0043】
まず、本発明の鋼板は、その基地微細組織としてフェライト組織を含む。
【0044】
本発明の鋼板微細組織には、Laves相及び炭窒化物を含む直径500nm以下の析出物が10個/μm2以上の個数範囲で存在することが好ましい。
直径500nm以下の析出物の個数が10個/μm2未満であると、析出物間の距離がかなり大きくなる。したがって、高温での電位移動を効果的に防ぐことができず、高温強度向上の効果が大きくないおそれがある。
【0045】
本発明において、上記直径500nm以下の析出物は、Laves相の場合、Fe2(Nb、W、Mo、Ti)を含むことができ、炭窒化物の場合、(Nb、W、Mo、Ti)(C、N)を含むことができる。
【0046】
次に、本発明の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の高温酸化抵抗性及び高温強度に優れたクロム鋼板の製造方法は、上述した組成の鋼スラブを仕上げ圧延温度が1200℃以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、上記冷却された熱延鋼板を1050~1300℃の温度範囲で最小30分間再加熱して溶体化処理を行う工程、及び上記溶体化処理された熱延鋼板を常温まで1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程、を含む。
【0048】
まず、本発明では、上述した組成成分を有する鋼スラブを仕上げ圧延温度が1200℃以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を得る。このように熱間圧延を行う理由は、組織の均一性を増加させ、1200℃未満で形成される析出物による圧延負荷の増大を防止するためである。好ましくは、上記仕上げ温度の上限を1300℃とすることが好ましいが、これは仕上げ温度が1300℃を超過すると、フェライト結晶粒度と炭窒化物の大きさが非常に粗大になり、炭窒化物の個数密度が減少して高温物性が劣化するようになるためである。
【0049】
そして、本発明では上記製造された熱延鋼板を常温に冷却する。
【0050】
続いて、本発明では、上記冷却された熱延鋼板を再加熱して溶体化処理する。このとき、再加熱温度範囲は1050~1300℃であり、再加熱時間は最小30分間行われることが好ましい。
【0051】
再加熱温度が1050℃未満の場合、熱延鋼板の十分な再結晶が誘導できず、圧延組織の残留による材料の異方性が生じることがある。一方、再加熱温度が1300℃を超過すると、フェライト結晶粒度と炭窒化物の大きさが非常に粗大になり、炭窒化物の個数密度が減少して高温物性が劣化することがある。
【0052】
再加熱時間は、最小30分間行うことが好ましい。再加熱時間が30分未満であると、熱延鋼板の十分な再結晶が誘導できない可能性がある。
【0053】
そして、本発明では、溶体化処理された熱延鋼板を常温まで1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程を行う。本発明では、オーステナイトとフェライト間の相変態がないため、冷却速度に大きく敏感ではないが、冷却時にSigma相のような不利な組織が形成されないように注意する。したがって、好ましくは生産設備の能力を考慮して加速空冷や焼入れにより上記冷却速度の上限を50℃/sに制御する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0055】
(実施例)
表1の合金組成と12~13mm厚さを有する熱延鋼板を用意した。硫黄(S)含有量は、全て30ppm以下に制御された。続いて、上記熱延鋼板を1050~1300℃の範囲内の様々な温度で最小30分間再加熱し、焼きならしまたは焼入れ処理して常温まで冷却して鋼板を製造した。一方、表1において、鋼種1は一般的なASTM A213 92 grade鋼組成であり、鋼種2は310オーステナイトステンレス鋼の組成である。鋼種1及び2は、上述した関係式1を満たない化学組成を有し、残りの鋼種3~8は、いずれも本発明の鋼組成成分及び関係式1をともに満たす鋼種である。
【0056】
上記のように製造された合金鋼について、高温酸化抵抗性を評価する方法は以下のとおりである。一定重量の試験片を各鋼種ごとに15個ずつ同一に製作し、800℃の温度に維持される電気抵抗炉内で一定して水蒸気を供給する環境条件に露出させた。酸化によって増加した重量を100時間ごとに1個ずつ抽出して増加した重量を確認し、最終的に1500時間まで露出した各鋼種の最後の試験片まで増加した重量を確認し、その結果を表2に示した。低合金の一般炭素鋼とは異なって、表面の酸化層が容易に剥離する場合はなかったため、酸化による重量増加を測定することができた。
【0057】
一方、製造された合金鋼の試験片の一部について、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)を活用して微細組織を観察し、その結果を
図2に示した。透過電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)及びエネルギー分光分析法を活用してLaves相を正確に観察し、その結果を
図3及び
図4に示した。
【0058】
【表1】
*表1において熱処理Nは焼きならし(normalizing)、熱処理Qは焼入れ(Quenching)、熱処理Tは焼戻し(Tempering)、アルファベット前にある数字は熱処理を行った温度を意味する。そして、焼きならし/焼入れ/焼戻し時間は最小30分以上とした。そして、A*は関係式1によって計算された値を表した。このとき、各鋼種別の関係式1の計算に用いられる不純元素の含有量は次のとおりである。鋼種1の場合、Cu(0.004%)、Co(0.003%)、V(0.16%)、N(0.0462%)、その他の元素の合計(0.0025%)、鋼種2の場合、Cu(0.004%)、Co(0.003%)、V(0.002%)、N(0.054%)、その他の元素の合計(0.0035%)、鋼種3の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.004%)、N(0.004%)、その他の元素の合計(0.0024%)、鋼種4の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.006%)、N(0.003%)、その他の元素の合計(0.0043%)、鋼種5の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.008%)、N(0.004%)、その他の元素の合計(0.0036%)、鋼種6の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.007%)、N(0.005%)、その他の元素の合計(0.0042%)、鋼種7の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.009%)、N(0.004%)、その他の元素の合計(0.0027%)、鋼種8の場合、Cu(0.005%)、Co(0.003%)、V(0.008%)、N(0.015%)、その他の元素の合計(0.0032%)で組成されている。
【0059】
【0060】
図1及び表2に示したように、本発明の発明鋼3~8のクロム鋼板の場合、25重量%Cr、20重量%Ni及び残部Fe及び不可避不純物からなる310オーステナイトステンレス鋼の酸化量の30%以下のレベルで高温酸化抵抗性に優れることが確認できる。
【0061】
図2の(a)は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却した発明鋼3の微細組織を示した走査顕微鏡写真であり、
図2の(b)は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却し、750℃に1500時間以上露出した発明鋼3の微細組織の観察結果を示した走査電子顕微鏡写真である。
【0062】
また、
図3は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却し、750℃に1500時間以上露出した発明鋼3の析出物分布を観察した透過電子顕微鏡写真である。
【0063】
図4は、
図3の発明鋼3の鋼板の化学組成を確認したエネルギー分散X線分光分析器(energy dispersive X-ray spectroscope、EDS)結果写真である。
【0064】
図2の(a)に示したように、発明鋼3は、1200℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却した場合、直径500nm以下の炭窒化物の析出を示している。そして、炭窒化物の析出元素として主にNbを含有した発明鋼3は、Nbが多く含有された炭窒化物を示すことが確認された。
【0065】
一方、追加的に
図2の(b)及び
図3に示したように、750℃に1500時間以上露出するような高温熱処理や高温環境条件によって、発明鋼3はLaves相析出をさらに示すことができる。Laves相析出元素として主にNbを含有した発明鋼3は、Nbが多く含有されたLaves相を示すことが確認された。
図4は、上記形成された炭窒化物及びLaves相が主にNbを含有していることが確認できる。
【0066】
その他の発明鋼4-8の場合にも、炭窒化物の形成元素及びLaves相形成元素としてNb、W、Mo、Tiを有することができるため、500nm以下の炭窒化物及びLaves相形成が可能である。
【0067】
一方、上記製造された鋼種について高温強度を測定した。
【0068】
高温強度を評価する方法は、以下のとおりである。熱間圧延方向にASTM E8標準を活用して高温引張試験片をそれぞれ製作し、これらの試験片に対する高温降伏強度を評価して、その結果を表3に示した。また、比較のために、物質・材料研究機構(NIMS)が提供したASTM A213 92 grade鋼(比較鋼1)及び310オーステナイトステンレス鋼(比較鋼2)の高温強度評価結果も表3に併せて示した。
【0069】
【0070】
表3に示したように、発明鋼3~8の700℃以上の高温での降伏強度が比較鋼1、2に対して高いことが確認できる。これは、高温引張実験中に、高温酸化による材料劣化が発明鋼3~8ではあまり起こらず、炭窒化物の析出硬化効果及び引張試験中に析出され得るLaves相による追加的な析出硬化によるものとみられる。
【0071】
結果的に、本発明において、高温酸化抵抗性を確保するためにクロム及びアルミニウムなどの元素を用い、高温降伏の強度を向上するための析出物の形成元素を用いて、提示した熱処理方法によって製造されたフェライト系クロム鋼板は、優れた高温酸化抵抗性及び高温強度を示すことが確認できる。
【0072】
本発明は、上記実施例に限定するものではなく、互いに異なる様々な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できるということが理解できる。したがって、上述した実施例はすべての点で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。