(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 23/00 20160101AFI20231213BHJP
【FI】
H02P23/00
(21)【出願番号】P 2022528418
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003174
(87)【国際公開番号】W WO2021245974
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020095753
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】篠原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭介
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-151797(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091319(WO,A1)
【文献】特開2018-189930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1トルク指令信号を出力するコントローラと、
制振制御部と、を備え、
前記制振制御部は、
電動モータの速度であるモータ速度信号が入力され、第1信号を出力する第1ハイパスフィルタと、
前記第1トルク指令信号から得られる推定モータ速度信号が入力され、第2信号を出力する第2ハイパスフィルタと、
前記第1信号と前記第2信号との偏差であるモータ速度偏差信号が入力され、前記モータ速度偏差信号から低周波成分を取得し、第3信号として出力するローパスフィルタと、
を有
し、
前記第2信号と前記第3信号とが加算された信号が前記第1信号から減算されて、フィードバック用信号が取得され、前記フィードバック用信号に基づいて取得された第2トルク指令信号が前記第1トルク指令信号から減算されて、第3トルク指令信号として前記電動モータへ出力されることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のモータ制御装置において、
前記フィードバック用信号が入力される第3ハイパスフィルタと、前記第3ハイパスフィルタからの出力信号が入力される第1増幅器と、をさらに備え、前記第2トルク指令信号は前記第1増幅器から出力されることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のモータ制御装置において、
前記第3信号
を増幅する第2増幅器と、前記ローパスフィルタから
出力される前記第3信号に従って、前記第1増幅器のゲインと前記第2増幅器のゲインとを調整するゲイン調整部と、をさらに備え、前記第2増幅器
により増幅された前記第3信号
が、前記第2信号と加算されることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項
3に記載のモータ制御装置において、
前記ゲイン調整部は、前記ローパスフィルタから
出力された前記第3信号が予め定めた立ち上がり閾値より大となると、前記第1増幅器のゲインと前記第2増幅器のゲインとを低下させることを特徴とするモータで制御装置。
【請求項5】
請求項
1に記載のモータ制御装置において、
前記電動モータは、前輪用電動モータと、後輪用電動モータとを有し、
前記制振制御部は、前記前輪用電動モータにトルク指令信号を出力する前輪用制振制御部と、前記後輪用電動モータにトルク指令信号を出力する後輪用制振制御部とを有し、
前記第1トルク指令信号が入力され、前記前輪用制振制御部に、前記前輪用電動モータ用の第1トルク指令信号を出力し、前記後輪用制振制御部に、前記後輪用電動モータ用の第1トルク指令信号を出力するトルク指
令分配部をさらに備え、
前記第1トルク指令信号は、前記トルク指
令分配部に出力されるとともに、前記前輪用制振制御部及び前記後輪用制振制御部に出力され
ることを特徴とする4輪駆動車用のモータ制御装置。
【請求項6】
コントローラか
ら第1トルク指令信号を出力し、
電動モータの速度であるモータ速度信号を第1ハイパスフィルタに入力して、第1信号を出力し、
前記第1トルク指令信号から得られる推定モータ速度信号を第2ハイパスフィルタに入力して、第2信号を出力し、
前記第1信号と前記第2信号との偏差であるモータ速度偏差信号をローパスフィルタに入力して、前記モータ速度偏差信号から低周波成分を取得して第3信号として出力
し、
前記第2信号と前記第3信号とが加算された信号が前記第1信号から減算されて、フィードバック用信号が取得され、前記フィードバック用信号に基づいて取得された第2トルク指令信号が前記第1トルク指令信号から減算されて、第3トルク指令信号として前記電動モータへ出力されることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のモータ制御方法において、
前記フィードバック用信号は第3ハイパスフィルタに入力され、前記第3ハイパスフィルタからの出力信号が第1増幅器に入力され、前記第2トルク指令信号は前記第1増幅器から出力されることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項8】
請求項
7に記載のモータ制御方法において、
前記第3信号は第2増幅器に
より増幅され、前記ローパスフィルタから
出力された前記第3信号に従って、前記第1増幅器のゲインと前記第2増幅器のゲインとがゲイン調整部により調整され、前記第2増幅器
により増幅された前記第3信号が、前記第2信号と加算されることを特徴とするモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置およびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に使用されるモータの制御精度を向上し、応答性を向上して運転者に対する操作性向上が望まれている。
【0003】
特許文献1には、電動車両におけるスリップ抑制制御の処理速度や応答性を向上するための電動車両の駆動力制御装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、運転者のアクセル操作に基づいて目標トルクを算出して、目標加速度を演算し、実際のモータ回転を検出して微分し、実加速度を演算している。そして、目標加速度と実加速度との偏差が小さくなるように、モータトルク指令値に対する補正量を演算し、演算した補正量に対してハイパスフィルタ処理を行って、補正トルクを演算している。さらに、モータトルク指令値に補正トルクを加算し、制御用モータトルクを算出している。
【0005】
そして、特許文献1に記載の技術は、車両の発進時、又は、スリップ検出時に、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を、通常走行時と比較して小さくなるように切り換えてスリップを抑制するように制御している。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術は、捻じれ振動を抑制するための補正が行われている。
【0007】
また、特許文献1に示された技術においては、ブレーキ操作や勾配抵抗などの外乱トルクによるモータの速度変化を振動として捉え、補正トルクを算出してしまう可能性があるため、シミュレータ追従制御に対しハイパスフィルタを追加し、この課題に対する解決が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、共振周波数が低い車両においては、ねじり振動によるモータ速度変動とブレーキ等の外乱によるモータ速度変動との切り分けが困難となり、特許文献1の構成ではブレーキ等の外乱成分に対する補正が十分でなく、補正トルクを算出してしまう可能性を否定することができない。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は共振周波数が低い車両においても、ブレーキ等による誤差成分を抑制して、推定モータ速度を実モータ速度により近づけ、モータの制御精度を向上可能なモータ制御装置およびモータ制御方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0012】
モータ制御装置は、第1トルク指令信号を出力するコントローラと、制振制御部とを備える、前記制振制御部は、電動モータの速度であるモータ速度信号が入力され、第1信号を出力する第1ハイパスフィルタと、前記第1トルク指令信号から得られる推定モータ速度信号が入力され、第2信号を出力する第2ハイパスフィルタと、前記第1信号と前記第2信号との偏差であるモータ速度偏差信号が入力され、前記モータ速度偏差信号から低周波成分を取得し、第3信号として出力するローパスフィルタと、を有し、前記第2信号と前記第3信号とが加算された信号が前記第1信号から減算されて、フィードバック用信号が取得され、前記フィードバック用信号に基づいて取得された第2トルク指令信号が前記第1トルク指令信号から減算されて、第3トルク指令信号として前記電動モータへ出力される。
【0013】
また、モータ制御方法において、コントローラから第1トルク指令信号を出力し、電動モータの速度であるモータ速度信号を第1ハイパスフィルタに入力して、第1信号を出力し、前記第1トルク指令信号から得られる推定モータ速度信号を第2ハイパスフィルタに入力して、第2信号を出力し、前記第1信号と前記第2信号との偏差であるモータ速度偏差信号をローパスフィルタに入力して、前記モータ速度偏差信号から低周波成分を取得して第3信号として出力し、前記第2信号と前記第3信号とが加算された信号が前記第1信号から減算されて、フィードバック用信号が取得され、前記フィードバック用信号に基づいて取得された第2トルク指令信号が前記第1トルク指令信号から減算されて、第3トルク指令信号として前記電動モータへ出力される。
【発明の効果】
【0014】
ブレーキ等による誤差成分を抑制して、推定モータ速度を実モータ速度により近づけ、モータの制御精度を向上可能なモータ制御装置およびモータ制御方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1に係るモータ制御装置が適用される電動車両の概略構成図である。
【
図2】実施例1における制振制御系の構成図である。
【
図3】本発明の実施例1による効果を説明するための比較例における動作説明波形図である。
【
図4】本発明の実施例1による制振制御系の動作説明波形図である。
【
図5】実施例2における制振制御系の構成図である。
【
図7】第2増幅器のゲインの調整により、ローパスフィルタの周波数特性が変化することを示すグラフである。
【
図8】第2増幅器のゲインの変更によりローパスフィルタの位相の周波数特性が変化することを示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例1と実施例2との動作を比較するための波形図である。
【
図10】本発明の実施例1と実施例2との動作を比較するための波形図である。
【
図11】本発明の実施例3に係るモータ制御装置が適用される電動車両の概略構成図である。
【
図12】
図2に示した制振制御部を前輪駆動用の他に後輪駆動用にもう一つ他の制振制御部を単に備えた場合の概略構成説明図である。
【
図13】本発明を4輪駆動車に適用した実施例3であるモータ制御装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1に係るモータ制御装置が適用される電動車両の概略構成図である。
【0018】
図1に示した電動車両は、前輪FL、FRが電動モータ1により駆動される前輪駆動車(2輪駆動車)である。電動モータ1には減速機構2を介してディファレンシャルギア3が接続されている。ディファレンシャルギア3にはドライブブシャフト4が接続されている。ドライブシャフト4には前輪FL、FRが接続されている。
【0019】
電動モータ1には、インバータ5を介して高電圧バッテリ(図示せず)から電力が入力される。インバータ5の駆動は、車両コントローラ6及びインバータ5内の制御器により制御される。
【0020】
電動車両は、車両の走行モードを表すレンジ位置信号を出力するシフトレバー12と、アクセル開度信号を出力するアクセル開度センサ7とを有する。車両コントローラ6は、シフトレバー12からのレンジ位置信号と、アクセル開度センサ7からのアクセル開度信号とを受信する受信部を有する。
【0021】
車両コントローラ6は、アクセル開度等に基づいて電動モータ1の駆動トルク指令値を演算し、駆動トルク指令値に応じてインバータ5を駆動する。インバータ5はレゾルバ8からのモータ回転子位置を受信する受信部を有し、モータ回転子位置からモータ回転速度を演算する機能を有し、第1トルク指令信号とモータ回転速度を入力として第2トルク指令値を算出する制振制御部500(
図2に示す)を有する。
【0022】
シフトレバー12は、運転者により操作され、車両停車時はパーキングレンジ(Pレンジ)、非動力伝達時はニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進時はドライブレンジ(Dレンジ)、後退時はリバースレンジ(Rレンジ)のレンジ位置信号を出力する。
【0023】
ブレーキコントローラ9は、各車輪FL、FR、RL、RRに設けられた車輪速センサ10FL、10FR、10RL、10RRと接続され、各車輪FL、FR、RL、RRの回転速度信号を受信する。ブレーキコントローラ9は、運転者のブレーキ操作量に基づき、各車輪FL、FR、RL、RRのブレーキユニットに出力するブレーキ液を調整し、各車輪FL、FR、RL、RRの制動トルクを制御する。インバータ5、車両コントローラ6およびブレーキコントローラ9の情報通信は、CAN通信線(通信装置)11を介して行われる。
【0024】
図2は、実施例1における制振制御系50の構成図である。
【0025】
図2において、コントローラ6から出力された第1トルク指令値(第1トルク指令信号)は、第1減算器50aに出力される。そして、第1減算器50aにおいて、第1トルク指令値から、第1増幅器50kから出力される第2トルク指令値(第2トルク指令信号)が減算され、第3トルク指令値(第3トルク指令信号)が算出される。第3トルク指令値は第1加算器50bに出力され、外乱が加算されて、制御対象である電動モータ1に出力される。
【0026】
また、第1トルク指令値は、オーバーオールの車両慣性と積分特性を有し、ねじり振動を考慮しないモータ速度推定器50c及び第2ハイパスフィルタ50dを介して第2減算器50eに入力される。電動モータ1のモータ速度は、第1ハイパスフィルタ50fに入力される。そして、第1ハイパスフィルタ50fから出力された信号が、第2減算器50eに入力され、第2ハイパスフィルタ50dからの出力信号が減算される。
【0027】
第2減算器50eで減算処理された信号は、ローパスフィルタ50gを介して第2加算器50hに入力され、第2ハイパスフィルタ50dの出力信号と加算される。第2加算器50hの出力信号は、第3減算器50iに入力され、この第3減算器50iにて第1ハイパスフィルタ50fの出力信号から減算される。
【0028】
そして、第3減算器50iの出力信号は、第3ハイパスフィルタ50j及び第1増幅器50kを介して第1減算器50aに入力される。
【0029】
図2の破線で囲った各素子(第1減算器50a、第2減算器50e、第3減算器50i、第2加算器50h、モータ速度推定器50c、第1ハイパスフィルタ50f、第2ハイパスフィルタ50d、第3ハイパスフィルタ50j、ローパスフィルタ50g、第1増幅器50k)を有する部分を制振制御部500と定義する。
【0030】
制振制御部500は、インバータ5内に備えられている。ただし、制振制御部500は、車両コントローラ6内に備えられものであってもよい。
【0031】
第1ハイパスフィルタ50f、第2ハイパスフィルタ50d、第3ハイパスフィルタ50jの特性(H1(s)、H2(s)、H3(s))を次式(1)に示す。
【0032】
Hi(s)=s/(s+ωi) ・・・(1)
また、ローパスフィルタ50gの特性H4(s)を次式(2)に示す。
【0033】
H4(s)=ω4/(s+ω4) ・・・(2)
また、モータ速度推定器50cの特性Gp(s)を次式(3)に示す。
【0034】
Gp(s)=1/Js ・・・(3)
上記(1)式、(2)式、(3)式において、iは1~3であり、sはラプラス演算子であり、連続系のため、実装する場合には、各式(1)~(3)を双一次変換等により離散系に変換して使用する。
【0035】
また、ωi、ω4はカットオフ角周波数であり、各フィルタ50d、50f、50g、50jの特性を決定するものである。実施例1においては、少なくとも、H1(s)とH2(s)は等価な特性を有する。また、Jは、モータ回転慣性、駆動輪回転慣性、車両重量等を加味してモータ側回転慣性として算出したものである。
【0036】
なお、ハイパスフィルタ50f、50d、50j、ローパスフィルタ50gは、同様の特性を得られるものであれば、上記式(1)、式(2)以外のものでもよい。また、1次フィルタではなく、2次フィルタであってもよい。また、上記式(3)のJは、車両の駆動系を1慣性系と見立てて算出されたものであれば、他のものでもよい。
【0037】
制振制御系50においては、モータ速度信号が第1ハイパスフィルタ50fを通過して、第1信号が得られる。また、第1トルク指令信号をモータ速度推定器50cに入力することにより推定モータ速度信号が得られ、この推定モータ速度信号が第2ハイパスフィルタ50dを通過することにより、第2信号が得られる。
【0038】
そして、第1信号と第2信号との偏差(第1信号-第2信号)であるモータ速度偏差信号はローパスフィルタ50gを通過して、低周波成分が取得され、第3信号が得られる。第1信号から、第2信号と第3信号を加算した信号を減算し、フィードバック用信号を取得する。そして、このフィードバック用信号に基づく第2トルク指令値(第2トルク指令信号)を、第1トルク指令値(第1トルク指令信号)にフィードバックして制御対象である電動モータ1に出力する第3トルク指令値(第3トルク指令信号)としている。
【0039】
これによって、ブレーキ操作や勾配走行によるモータ速度変化を振動と捉え、補正トルクを算出してしまうということを十分に抑制することができ、運転者に違和感を与えるトルク変化を低減することができる。
【0040】
図3は、本発明の実施例1による効果を説明するための比較例における動作説明波形図である。
図3に示した波形は、
図2に示した制振制御系50のローパスフィルタ50gを省略し、上述した第1信号と第2信号との偏差信号をフィードバック信号とし、このフィードバック信号としている。そして、このフィードバック信号に基づいて、第1トルク指令値にフィードバックして制御対象である電動モータ1に出力する指令値としている。
【0041】
図3の(A)は、モータトルクの波形であり、実線は運転者の要求トルクである第1トルク指令値を示し、破線は第2トルク指令値による補正量を示す。
図3の(B)は、ブレーキトルクを示す。
図3の(C)は、モータ速度を示し、実線は実モータ速度を示し、破線は推定モータ速度を示す。
図4は、
図2に示した本発明の実施例1による
図2に示した制振制御系50の動作説明波形図である。
【0042】
図4の(A)は、モータトルクの波形であり、実線は運転者の要求トルクである第1トルク指令値を示し、破線は第2トルク指令値による補正量を示す。
図4の(B)は、ブレーキトルクを示す。
図4の(C)は、モータ速度を示し、実線は実モータ速度を示し、破線は推定モータ速度を示す。
図3に示した波形と
図4に示した波形を比較すると、第2トルク指令値による補正量は、
図4に示した本発明の実施例1の場合より、
図3に示した比較例の方が大きいことが理解できる。
【0043】
また、推定モータ速度と実モータ速度と差は、
図4に示した本発明の実施例1の場合より、
図3に示した比較例の方が大きいことが理解できる。
【0044】
これは、
図3に示した比較例は、ローパスフィルタ50gが無く、ブレーキ操作や勾配走行によるモータ速度変化を振動と捉えて、補正トルクを算出してしまうからである。
【0045】
ただし、実際には、第1ハイパスフィルタ50fと第2ハイパスフィルタ50dにより、モータ速度推定器50cが発散しないように機能するため、
図3及び
図4に示した推定モータ速度の波形とは異なる推定モータ速度の波形となる。
図3及び
図4は、本発明の効果の理解のために図示したような波形となっている。
【0046】
以上のように、本発明の実施例1によれば、ブレーキ等による誤差成分を抑制して、推定モータ速度を実モータ速度により近づけ、モータの制御精度を向上可能なモータ制御装置およびモータ制御方法を実現することができる。
【0047】
なお、
図2に示した例においては、第1増幅器50kが配置されているが、この第1増幅器50kを省略することも可能である。
【0048】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0049】
図5は、実施例2における制振制御系51の構成図である。
【0050】
実施例2が適用される電動車両は、実施例1と同様な構成であるので、図示及び詳細な説明は省略する。
【0051】
図2に示した実施例1における制振制御系50と、
図5に示した実施例2における制振制御系51との相違点は、実施例2の制振制御系51は、実施例1の制振制御系50に第2増幅器50mと、ゲイン調整部50nが追加されているところである。
【0052】
第2増幅器50mは、ローパスフィルタ50gからの出力をゲイン調整部50nにより調整されるゲインで増幅し、第2加算器50hに出力する。ゲイン調整部50nは、ローパスフィルタ50gからの出力値に応じて、第1増幅器50k及び第2増幅器50mのゲインを調整する。
【0053】
ローパスフィルタ50gが有する位相特性によりABS動作時などにおいては他の制御の動作を阻害する恐れがあるトルクが発生する場合がある。このため、ローパスフィルタ50gの出力値を第2増幅器50mのゲインを調整して低下させることにより、他の制御の動作を阻害する恐れがあるトルクの発生を抑制することができる。
【0054】
第2増幅器50mのゲインの調整は、ゲイン調整部50nが行う。
【0055】
ゲイン調整部50nは、第1増幅器50kのゲインも調整する。第1増幅器50kのゲインを調整して低下させることにより、モータ速度変化が速いために発生する予期せぬトルク変動を低減することで、他の制御への影響を抑制することができる。
【0056】
図6は、ゲイン調整部50nの動作説明図である。
図6において、ゲイン調整部50nは、ローパスフィルタ50gの出力が予め定めた立上り閾値より大きくなった場合、第1増幅器50kのゲイン1と第2増幅器50mのゲイン2を低下させる。ゲイン2を低下させるとローパスフィルタ50gの影響が低下するため、ローパスフィルタ50gが有する位相特性によりABS動作時等において、他の制御の動作を阻害する恐れがあるトルクの発生を抑制できる。
【0057】
さらに、第1増幅器50kのゲインを低下させることで、制振制御が電動車両に与える影響が低下するため、他の制御の動作を阻害することを抑制する。これにより、ABS動作時に制振制御のトルク指令により制動性能が劣化することを抑制でき、停車距離が伸びることを抑制することができる。
【0058】
図7は、第2増幅器50mのゲインの調整により、第1ハイパスフィルタ50f及び第2ハイパスフィルタ50dから第3ハイパスフィルタ50jまでの振幅特性が変化することを示すグラフであり、
図8は、第2増幅器50mのゲインの変更により、第1ハイパスフィルタ50f及び第2ハイパスフィルタ50dから第3ハイパスフィルタ50jまでの位相特性が変化することを示すグラフである。
【0059】
図7及び
図8において、第2増幅器50mのゲインをG2とし、G2を1、2、-0.5に変更した場合の周波数特性の変化を示している。
【0060】
図7及び
図8に示すように、第2増幅器50mのゲインの調整により、第1ハイパスフィルタ50f及び第2ハイパスフィルタ50dから第3ハイパスフィルタ50jまでの位相特性を変更することができる。
【0061】
図9及び
図10は、実施例1と実施例2との動作を比較するための波形図である。
【0062】
図9において、実施例1は、ゲインの調整が無いため、ゲインは変化していない。一方。
図10において、実施例2は、ゲインを調整しているため、ゲインが変化している。
【0063】
このため、実施例2における補正トルクは、実施例1の補正トルクより第1トルク指令との差が少なく、変動も小さい。また、実施例2における実モータ速度は、実施例1の実モータ速度よりABSの目標速度との差が少なく、変動も小さい。
【0064】
ただし、実際には、第1ハイパスフィルタ50fと第2ハイパスフィルタ50dにより、モータ速度推定器50cが発散しないように機能するため、
図9及び
図10に示した推定モータ速度の波形とは異なる推定モータ速度の波形となる。
図9及び
図10は、実施例2の効果の理解のために図示したような波形となっている。
【0065】
本発明の実施例2によれば、実施例1と同様な効果が得られる他、スリップ時にスリップ制御の動作を阻害する恐れがあるトルクの発生を抑制することができる。
【0066】
なお、
図5に示した制振制御系51と同等の効果を得ることができるのであれば、
図5に示した構成に限らず、制御構成上、同等とみなせる形に変換した構成であってもよい。
【0067】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0068】
本発明の実施例3は、本発明を4輪駆動車に適用した例である。
【0069】
図11は、本発明の実施例3に係るモータ制御装置が適用される電動車両の概略構成図である。
【0070】
図11に示した例は、
図1に示した電動車両に、後輪用電動モータ1R、後輪用減速機構2R、後輪用ディファレンシャルギア3R、ドライブシャフト4R、後輪用インバータ5R、後輪用レゾルバ8Rが追加されている。
【0071】
なお、
図1における電動モータ1、減速機構2、ディファレンシャルギア3,ドライブシャフト4、インバータ5、レゾルバ8は、実施例3の説明の都合上、前輪用電動モータ1F、減速機構2F、前輪用ディファレンシャルギア3F、前輪ドライブシャフト4F、前輪用インバータ5F、前輪用レゾルバ8Fとしている。
【0072】
図11において、後輪用電動モータ1Rには減速機構2Rを介してディファレンシャルギア3Rが接続されている。ディファレンシャルギア3Rにはドライブシャフト4Rが接続されている。ドライブシャフト4Rには後輪RL、RRが接続されている。
【0073】
後輪用電動モータ1Rは、インバータ5Rを介して高電圧バッテリ(図示せず)から電力が出力される。インバータ5Rの駆動は、車両コントローラ6及びインバータ5内の制御器により制御される。
【0074】
ブレーキコントローラ9は、各車輪RL、RRに設けられた車輪速センサ10FL,10FR、10RL、10RRと接続され、各車輪FL、FR、RL、RRの回転速度信号を受信する。ブレーキコントローラ9は、運転者のブレーキ操作量に基づき、各車輪FL、FR、RL、RRのブレーキユニットに出力するブレーキ液を調整し、各車輪FL、FR、RL、RRの制動トルクを制御する。後輪用インバータ5R、車両コントローラ6およびブレーキコントローラ9の情報通信は、CAN通信線(通信装置)11を介して行われる。
【0075】
図11に示した電動車両の他の動作は、
図1に示した電動車両と同様となっている。
【0076】
ここで、本発明を4輪駆動車に適用する場合、
図2に示した制振制御部500を前輪駆動用の他に後輪駆動用にもう一つ他の制振制御部500を備えればよいと考えられる。
【0077】
しかしながら、単にもう一つ他の制振制御部500を備えるのでは、良好な動作制御を行えない場合が発生する。以下にその理由を説明する。
【0078】
図12は、
図2に示した制振制御部500を前輪駆動用の他に後輪駆動用にもう一つ他の制振制御部500を単に備えた場合の概略構成説明図である。
【0079】
図12において、コントローラ6が有する前後モータへのトルク指令分配部6aは、運転手の要求する第1トルク指令値が出力されると、フロントモータである前輪用電動モータ1Fへの第1トルク指令値を、第1減算器50aを介してフロント側制御対象である前輪用電動モータ1Fに出力する。フロント側制振制御部500F(制振制御部500と同等の構成であり、フロント側の制御部であるので、フロント側制振制御部500Fとする)は、フロント側制御対象からのフロントモータ速度及びフロントモータ1Fへの第1トルク指令値が出力される。そして、フロント側制振制御部500Fは、第1減算器50aにフィードバック信号を出力する。
【0080】
また、前後輪用電動モータ1F、1Rへのトルク指令分配部6aは、リアモータである後輪用電動モータ1Rへの第1トルク指令値を、第4減算器50pを介して後輪用電動モータ1Rに出力する。リア側制振制御部500R(制振制御部500と同等の構成であり、リア側の制御部であるので、リア側制振制御部500Rとする)は、リア側制御対象からのリアモータ速度及びリアモータ1Rへの第1トルク指令値が出力される。そして、リア側制振制御部500Rは、第4減算器50pにフィードバック信号を出力する。
【0081】
フロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rのうち、モータ速度推定器50cはモータ速度推定を行うが、
図12に示した構成では各電動モータ1F、1Rへのトルク指令分しかモータ速度を推定できない。
【0082】
しかしながら、実際のモータは前後輪電動モータ1F、1Rへのトルク指令値の合算値(つまり運転手の要求トルク)によりモータ速度が決定される。
【0083】
そのため,
図12に示した構成では、フロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rで推定したモータ速度と実際のモータ速度との間にずれが発生し、誤った補正を行うことで、加減速を阻害する恐れがある。
【0084】
図13は、本発明を4輪駆動車に適用した実施例3であるモータ制御装置の概略構成図である。
【0085】
図13において、コントローラ6が有する前後輪用電動モータへのトルク指令分配部6aには、運転手の要求する第1トルク指令値が入力される。
【0086】
運転手の要求する第1トルク指令値は、トルク指令分配部6aに出力されると共に、フロント側制振制御部(前輪用制振制御部)500F及びリア側制振制御部(後輪用制振制御部)500Rにも出力される。
【0087】
トルク指令分配部6aは、フロントモータである前輪用電動モータ1Fへの第1トルク指令値を、第1減算器50aを介してフロント側制御対象である前輪用電動モータ1Fに出力する。フロント側制振制御部500Fは、フロント側制御対象からのフロントモータ速度が入力される。そして、フロント側制振制御部500Fは、第1減算器50aにフィードバック信号を出力する。
【0088】
また、前後モータへのトルク指令分配部6aは、リアモータである後輪用電動モータ1Rへの第1トルク指令値を、第4減算器50pを介して、リア側制御対象である後輪用電動モータ1Rに出力する。リア側制振制御部500Rは、リア側制御対象からのリアモータ速度が入力される。そして、リア側制振制御部500Rは、第4減算器50pにフィードバック信号を出力する。
【0089】
図13に示したフロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rの各モータ速度推定器50cで、実際のモータ速度と同様に前後輪用電動モータ1F、1Rへのトルク指令値の合算値(つまり運転手の要求トルク)に基づくモータ速度を推定可能になる。
【0090】
その結果、トルク指令分配部6aからのトルク指令値のみに基づきフロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rでモータ速度を推定した時には問題となる、フロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rで推定したモータ速度と実際のモータ速度との間に生じるずれを抑制することができ、誤った補正を行うことで、加減速を阻害するという事態の発生を抑制することができる。
【0091】
本発明の実施例3によれば、4輪駆動車においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0092】
なお、上述した実施例3においては、フロント側制振制御部500F及びリア側制振制御部500Rとして、実施例1に示した制振制御部500を適用した場合の例であるが、実施例1に示した制振制御部500に第2増幅器50m及びゲイン調整部50nを追加した
図5の例(実施例2)を制振制御部500F、500Rとすることも可能である。その場合は、4輪駆動車においても、実施例2と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0093】
1、1F、1R・・・電動モータ、2、2F、2R・・・減速機構、3、3F、3R・・・ディファレンシャルギア、4、4F、4R・・・ドライブシャフト、5、5F、5R・・・インバータ、6・・・コントローラ、6a・・・トルク指令分配部、7・・・アクセル開度センサ、8、8F、8R・・・レゾルバ、9・・・ブレーキコントローラ、10FL、10FR、10RL、10R・・・車輪速センサ、11・・・CAN通信線 、12・・・シフトレバー、50、51・・・制振制御系、50a・・・第1減算器、50b・・・第1加算器、50c・・・モータ速度推定器、50d・・・第2ハイパスフィルタ、50e・・・第2減算器、50f・・・第1ハイパスフィルタ、50g・・・ローパスフィルタ、50h・・・第2加算器、50i・・・第3減算器、50j・・・第3ハイパスフィルタ、50k・・・第1増幅器、50m・・・第2増幅器、50n・・・ゲイン調整部、50p・・・第4減算器、500、500F、500R・・・制振制御部