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特許7402336推定システム、推定方法、および推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】推定システム、推定方法、および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G08B 31/00 20060101AFI20231213BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20231213BHJP
   G06Q 50/26 20120101ALI20231213BHJP
【FI】
G08B31/00 Z
G08B21/10
G06Q50/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022531138
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2020023559
(87)【国際公開番号】W WO2021255822
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002129
【氏名又は名称】住友商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】及川 忍
【審査官】松原 徳久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/146762(WO,A1)
【文献】特開2019-087251(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133076(WO,A1)
【文献】特開2018-190108(JP,A)
【文献】特開2021-092897(JP,A)
【文献】特開2021-196185(JP,A)
【文献】再公表特許第2020/218258(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/00-27/10
27/14-27/24
G01V1/00-99/00
G01W1/00-1/18
G06Q10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G08B19/00-31/00
G16Z99/00
H02J3/00-5/00
13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、
前記複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せと、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表、および、前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合に基づいて、前記複数の機器構成要素に対応する前記複数の稼働状態の組合せを特定し、
前記複数の被災レベルの候補から、前記特定された組合せに対応する前記被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして推定する、
推定システム。
【請求項2】
前記複数の稼働状態の組合せが、前記地面に接している第1機器に搭載された第1機器構成要素に対応する第1稼働状態と、前記地面に接することなく前記地面より上に位置する第2機器に搭載された第2機器構成要素に対応する第2稼働状態とを含み、
前記少なくとも一つのプロセッサが、前記複数の被災レベルの候補から、前記第1稼働状態および前記第2稼働状態に対応する前記被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして推定する、
請求項に記載の推定システム。
【請求項3】
前記第1機器が、地上走行体、エアコンの室外ユニット、および自動販売機から成る群から選択される少なくとも一つであり、
前記第2機器が、家電製品とスマートメータとから成る群から選択される少なくとも一つである、
請求項に記載の推定システム。
【請求項4】
前記複数の被災レベルの候補が、浸水高さが建物の床面より低いことを示す床下浸水と、前記浸水高さが前記建物の床面以上であることを示す床上浸水とを含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項5】
前記ログデータの集合が、スマートメータにより示される電力消費量の経時変化を示し、
前記少なくとも一つのプロセッサが、前記電力消費量の経時変化に基づいて、前記複数の被災レベルの候補から前記観測地点での被災レベルを推定する、
請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項6】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
警報システムから警報を受信し、
前記警報システムから警報解除を受信し、
前記警報を受信してから前記警報解除を受信するまでの時間帯において、前記ログデータの取得と、前記被災レベルの推定とを含む処理を繰り返し、
前記処理の繰り返しにおいて推定された最も高い被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして決定する、
請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項7】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
対象地域を設定し、
前記対象地域に位置するそれぞれの前記機器構成要素の位置情報に基づいて、前記対象地域内に少なくとも一つの前記観測地点を設定する、
請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項8】
前記少なくとも一つのプロセッサが、
対象地域を設定し、
空中に位置する撮像装置からのデータに基づいて生成される前記対象地域の画像を取得し、
前記画像を用いて、少なくとも一つの前記観測地点のそれぞれの前記推定された被災レベルを示す地図を生成する、
請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項9】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、
前記複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せと、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表であって、該稼働状態が、エラーの送信と通信不能とを含む、該対応表を参照し、
前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合と前記対応表とに基づいて、前記複数の機器構成要素に対応する前記複数の稼働状態の組合せを特定し、
前記複数の被災レベルの候補から、前記特定された組合せに対応する前記被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして推定する、
推定システム。
【請求項10】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、
前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合であって、スマートメータにより示される電力消費量の経時変化を示す該ログデータの集合を参照し、
前記電力消費量の経時変化に基づいて、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から前記観測地点での被災レベルを推定する、
推定システム。
【請求項11】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
対象地域を設定し、
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、
前記対象地域に位置するそれぞれの前記機器構成要素の位置情報に基づいて、前記対象地域内に少なくとも一つの前記観測地点を設定し、
前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合に基づいて、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から前記観測地点での被災レベルを推定する、
推定システム。
【請求項12】
少なくとも一つのプロセッサを備える推定システムにより実行される推定方法あって、
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、
前記複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せと、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表、および、前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合に基づいて、前記複数の機器構成要素に対応する前記複数の稼働状態の組合せを特定するステップと、
前記複数の被災レベルの候補から、前記特定された組合せに対応する前記被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして推定するステップと、
を含む推定方法。
【請求項13】
共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、
前記複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せと、前記地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表、および、前記複数の機器構成要素に対応する前記ログデータの集合に基づいて、前記複数の機器構成要素に対応する前記複数の稼働状態の組合せを特定するステップと、
前記複数の被災レベルの候補から、前記特定された組合せに対応する前記被災レベルを、前記観測地点での被災レベルとして推定するステップと、
をコンピュータに実行させる推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は推定システム、推定方法、および推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自然災害の程度を推定する技術が従来から知られている。例えば特許文献1には、高度位置情報を加味した地震による影響を解析し、高精度な震災シミュレーションを可能とする地震観測システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/174296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自然災害の程度を自動的に且つ精度良く推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る推定システムは少なくとも一つのプロセッサを備える。少なくとも一つのプロセッサは、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定する。
【0006】
本開示の一側面に係る推定方法は、少なくとも一つのプロセッサを備える推定システムにより実行される。この推定方法は、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定するステップとを含む。
【0007】
本開示の一側面に係る推定プログラムは、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定するステップとをコンピュータに実行させる。
【0008】
このような側面においては、共通の観測地点に位置し且つ地面からの位置が互いに異なる複数の機器構成要素のログデータに基づいて、該観測地点における被災レベルが地面からの高さを考慮して推定される。したがって、自然災害の程度を自動的に且つ精度良く推定することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一側面によれば、自然災害の程度を自動的に且つ精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る推定システムの適用の一例を示す図である。
図2】共通の観測地点に位置する複数の機器構成要素の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る推定システムの機能構成の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る推定システムのために用いられるコンピュータの一般的なハードウェア構成の一例を示す図である。
図5】実施形態に係る推定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図6】複数の被災レベルの候補を示す対応表の一例を示す図である。
図7】対応表の別の例を示す図である。
図8】推定結果の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
[システムの概要]
実施形態に係る推定システム10は、自然災害の程度を推定するコンピュータシステムである。自然災害とは、自然現象が原因となって起こる災害をいい、より具体的には、その自然現象によって人命および人間の社会的活動の少なくとも一方に被害が生じる現象をいう。「自然災害の程度」とは、自然災害による被害の大きさを示す指標ということができる。本開示では、「自然災害の程度」の言い換えとして「被災レベル」という言葉も用いる。推定システム10により推定される自然災害の種類は限定されない。例えば、推定システム10は水害、地滑り、台風、噴火、地震などの任意の自然災害についてその程度を推定してよい。一例として、本実施形態では推定システム10は水害の程度を推定する。
【0013】
推定システム10による推定結果は任意の目的で用いられてよい。例えば、推定結果は自然災害に起因する損害を調査するために用いられてもよい。あるいは、推定結果は、その損害を補償する各種保険(車両保険、火災保険など)の保険金の算出のために用いられてもよい。あるいは、推定結果は損害を受けた不動産または動産の修繕に関する営業活動のために用いられてもよい。
【0014】
推定システム10は、特定の地理的範囲に位置する少なくとも一つの機器に搭載された少なくとも一つの機器構成要素に対応するログデータに基づいて、その機器が位置する地点での被災レベルを推定する。典型的には、推定システム10は複数の機器に対応する複数の機器構成要素から取得されたログデータの集合に基づいて被災レベルを推定する。推定システム10は複数の機器のそれぞれの一または複数の機器構成要素から得られるログデータの集合に基づいて被災レベルを推定してもよい。あるいは、推定システム10は、一つの機器に搭載された複数の機器構成要素から得られるログデータの集合に基づいて被災レベルを推定してもよい。
【0015】
本開示において機器とは、電力によって動作し、通信機能を有する人工物をいう。機器の例として、地上走行体、家電製品、自動販売機、および、家庭での消費電力を測定するスマートメータなどが挙げられる。地上走行体の例として自動車、バイクなどが挙げられる。家電製品の例として、エアコンの室内ユニットおよび室外ユニットの少なくとも一方、空気清浄機、テレビなどが挙げられる。しかし、機器の種類はこれらに限定されない。
【0016】
機器構成要素とは、機器に搭載された電子部品をいう。機器構成要素の例として、プロセッサ、各種のセンサ、通信モジュールなどが挙げられる。しかし、機器構成要素はこれらに限定されない。
【0017】
ログデータとは、機器または機器構成要素の動作の記録を示す電子データをいう。一例では、ログデータは、機器または機器構成要素の動作と、該動作が行われた日時とのペアが時系列に沿って並んだ電子データである。したがって、推定システム10はログデータを参照して、機器または機器構成要素の稼働状態が時間の経過と共にどのように変化したかを特定することができる。
【0018】
図1は推定システム10の適用の一例を示す図である。この例では、推定システム10は、対象地域200内の三つの観測地点201,202,203に位置する機器のそれぞれから提供されるデータに基づいて、それぞれの観測地点での被災レベルを推定する。観測地点とは、被災レベルを推定する対象となる地理的位置をいう。観測地点には少なくとも一つの機器が存在する。対象地域とは、少なくとも一つの観測地点を包含する地理的範囲をいう。対象地域および観測地点のそれぞれの面積は限定されず、任意の方針で設定されてよい。ただし、対象地域の面積は観測地点の面積以上である。例えば、対象地域が数百メートル四方、数キロメートル四方などのような広い区域であるのに対して、観測地点は1メートル四方、数メートル四方、10メートル四方、数十メートル四方などのような狭い区域であり得る。推定システム10が複数の観測地点のそれぞれについて被災レベルを推定する場合、個々の観測地点の形状および広さは互いに異なってもよいし統一されてもよい。一つの対象地域に含まれる観測地点の個数は何ら限定されない。
【0019】
図1は、観測地点201に位置する機器として、自動車51、自動販売機52、テレビ53、空気清浄機54、エアコンの室内ユニット55および室外ユニット56、並びに建物81のスマートメータ57を示す。推定システム10はこれらの機器の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて観測地点201での被災レベルを推定する。図1は、観測地点202に位置する機器として自動車58を示す。推定システム10は自動車58の複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて観測地点202での被災レベルを推定する。図1は、観測地点203に位置する機器として、テレビ59、エアコンの室内ユニット60および室外ユニット61、並びに建物82のスマートメータ62を示す。推定システム10はこれらの機器の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて観測地点203での被災レベルを推定する。
【0020】
推定システム10は地面からの高さを考慮して被災レベルを推定する。一般に、被災レベルは地面からの高さに応じて異なる。例えば、水害の場合には、床上浸水、床下浸水などのように、被災レベルは地面からの水面の高さ(これを「浸水高さ」ともいう)に応じて異なる。ここで、床上浸水とは、浸水高さが住居の床面(例えば1階の床面)以上である状況をいう。床下浸水とは、浸水高さが住居の床面(例えば1階の床面)より低い状況をいう。一例では、床上浸水とは、浸水高さが45cm以上である場合をいい、床下浸水とは浸水高さが45cm未満である場合をいう。浸水の程度を区別するための閾値は45cmに限定されず、他の値(例えば50cm)であってもよい。
【0021】
地面からの高さを考慮して被災レベルを推定するために、推定システム10は、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについてログデータを取得する。推定システム10はそのログデータの集合を用いることで、高さ方向に沿って被災レベルを詳細に推定することができる。一例として、水害では、地面の近くに位置する機器構成要素は容易にまたは早い時期に浸水し、地面から離れた位置にある機器構成要素は浸水しないかまたは時間が経ってから浸水する。この二つの機器構成要素のそれぞれのログデータはそのような浸水の影響を反映するので、推定システム10はそれらのログデータから水害の程度を推定することができる。
【0022】
図2は、共通の観測地点に位置する複数の機器構成要素の一例を示す図である。より具体的には、図2図1での観測地点201に対応し、その観測地点201に存在する複数の機器構成要素の例を示す。この例では、自動車51は機器構成要素51a,51bを有する。例えば、機器構成要素51aがO2センサであり、機器構成要素51bがOBD(On-board diagnostics)でもよい。自動販売機52は機器構成要素52aを有し、テレビ53は機器構成要素53aを有し、空気清浄機54は機器構成要素54aを有し、室内ユニット55は機器構成要素55aを有し、室外ユニット56は機器構成要素56aを有し、スマートメータ57は機器構成要素57aを有する。図2の例では、自動車51、自動販売機52、および室外ユニット56は地面90に接している機器の例である。テレビ53、空気清浄機54、室内ユニット55、およびスマートメータ57は、地面90に接することなく地面90より上に位置する機器の例である。より具体的には、テレビ53および空気清浄機54は建物81の1階の床面81aに接している機器の例であり、室内ユニット55およびスマートメータ57は、その床面81aに接することなく該床面81aより上に位置する機器の例である。
【0023】
これらの複数の機器構成要素の間で、地面からの高さ(距離)は様々であり得る。推定システム10はそのような機器構成要素の群から得られるログデータの集合を参照することで観測地点201での被災レベルを推定することができる。例えば、機器構成要素51a,52a,56aのログデータが何らかの異常を示し、他の機器構成要素のログデータがいずれも正常であるとする。この場合には、推定システム10は観測地点201では建物81の床面81aより下の部分が自然災害の影響を受けていることを推定し得る。例えば、推定システム10は観測地点201が床下浸水の状態にあることを推定し得る。別の例として、機器構成要素51a,51b,52a,54a,56aのログデータが何らかの異常を示し、他の機器構成要素のログデータがいずれも正常であるとする。この場合には、推定システム10は観測地点201では建物81の床面81aより下の部分だけでなく、該床面81aより上の部分にも自然災害の影響が及んでいることを推定し得る。例えば、推定システム10は観測地点201が床上浸水の状態にあることを推定し得る。さらに別の例として、観測地点201内のすべての機器構成要素のログデータが何らかの異常を示すとする。この場合には、推定システム10は観測地点201では高さ方向に沿ったかなり広い範囲に自然災害の影響が及んでいることを推定し得る。例えば、推定システム10は観測地点201が完全に浸水していること(例えば建物81の全体または略全体が浸水していること)を推定し得る。
【0024】
一例では、大型車両は水害地域を通過できる。一方、小型車は水害地域を通過できないので、該地域を避けるように通過するか、または該地域でスタックする。推定システム10は地上走行体のログデータ(例えば、プローブデータを含むログデータ)と地上走行体の種類または寸法とを参照することで被災レベルを推定することができる。
【0025】
「観測地点での被災レベル」は観測地点全体としての被災レベルでもよいし、観測地点に位置する有体物の被災レベルでもよい。例えば、観測地点での被災レベルは、観測地点に位置する機器の被災レベルを意味してもよいし、機器以外の人工物(例えば道路、建物など)の被災レベルを意味してもよい。図2の例では、観測地点201の被災レベルは、自動車51、自動販売機52、テレビ53、空気清浄機54、室内ユニット55、室外ユニット56、およびスマートメータ57のうちの少なくとも一つの機器の被災レベルを意味してもよいし、建物81の被災レベルを意味してもよい。
【0026】
[システムの構成]
図3は推定システム10の機能構成の一例を示す図である。一例では、推定システム10は通信ネットワークを介してログデータベース20および警報システム30と接続される。図3の例では、対象地域210内の観測地点211または212内に位置する機器70は通信ネットワークを介してログデータベース20と接続される。機器70の少なくとも一部において、機器構成要素71が通信機能を有してもよい。個々の通信ネットワークの具体的な構成は限定されない。例えば、それぞれの通信ネットワークはインターネットおよびイントラネットのうちの少なくとも一方を用いて構成されてもよい。
【0027】
推定システム10は機能的構成要素として設定部11、ログ取得部12、および推定部13を備える。設定部11は、被災レベルを推定しようとする対象地域および観測地点を設定する機能モジュールである。ログ取得部12は複数の機器構成要素71に対応するログデータ、すなわちログデータの集合を取得する機能モジュールである。推定部13はログデータの集合に基づいて観測地点での被災レベルを推定する機能モジュールである。
【0028】
ログデータベース20は個々の機器構成要素71のログデータを記憶する装置(記憶部)である。一例では、一つの機器構成要素71のログデータは、その機器構成要素71の属性情報と関連付けられてログデータベース20に記録される。一例では、機器構成要素71の属性情報は、構成要素ID、機器ID、機器種別、位置情報、および高さ情報を含む。構成要素IDは機器構成要素71を一意に特定する識別子である。機器IDは、機器構成要素71が搭載されている機器70を一意に特定する識別子である。機器種別は機器の種類(例えば、自動車、自動販売機、スマートメータ、エアコンの室内ユニットまたは室外ユニット、テレビ、空気清浄機など)を示す情報である。機器種別は機器のカテゴリ名、型番などの任意の情報によって表現されてよい。位置情報は機器構成要素71の地理的位置を示す情報である。位置情報の表現方法は限定されない。例えば、位置情報は機器70のユーザにより登録された住所により表現されてもよい。あるいは、位置情報は、機器70が接続するWi-Fiルーターから得られる位置情報(例えば、緯度経度、郵便番号など)により表現されてもよい。あるいは、位置情報は、機器70の測位機能(例えばGPS)によって動的に得られる緯度経度の履歴(日時と緯度経度とのペアの履歴)により表現されてもよい。高さ情報は機器構成要素71の地面からの高さ(距離)を示す情報である。一例では、高さ情報は機器70の製造者または利用者により予め登録される。あるいは、高さ情報は機器70の高度測定機能(例えば気圧センサ)によって得られてもよい。
【0029】
一例では、個々の機器構成要素71は自機の動作に応答してログデータを生成し、このログデータと、構成要素IDと、もしあれば位置情報の履歴との組合せをログ情報としてログデータベース20に送信する。ログ情報の送信タイミングは限定されない。例えば、機器構成要素71は定期的にログ情報を送信してもよいし、機器70または機器構成要素71の特定の動作に応答してログ情報を送信してもよい。ログデータベース20はそのログ情報に基づいて、ログデータと属性情報との対応関係を記憶する。
【0030】
ログデータベース20の具体的な構成は限定されない。例えば、ログデータベース20はいくつかのデータベースの集合であってもよい。より具体的には、ログデータベース20は、機器70の種類ごとに、あるいは機器70のメーカごとに用意された複数のデータベースの集合であってもよい。あるいは、ログデータベース20はすべての機器70に共通の統合データベースであってもよい。
【0031】
警報システム30は、自然災害の発生または状況に関する情報を提供するコンピュータシステムである。例えば、警報システム30は警報および警報解除という2種類の情報を送信する。警報は自然災害の発生に関する情報であり、例えば、自然災害が発生する可能性があること、または自然災害が発生したことを示す。一例では、警報は、自然災害の種類または程度と、該自然災害の影響を受けるかまたは受ける可能性がある地域とを示す。本開示では、警報により示される地域を「警戒地域」ともいう。警戒地域の個数は限定されず一つでも複数でもよい。警報解除は自然災害に対する警戒の終了を示す情報である。警報解除は、警戒を終了する対象となる自然災害および地域(警戒地域であった場所)の組合せを示す。警報システム30の運営者は限定されず、例えば、警報システム30は気象庁、民間の気象サービス、自治体などの任意の機関によって運営されてよい。
【0032】
図4は、推定システム10のために用いられるコンピュータ100の一般的なハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、コンピュータ100はプロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、通信制御部104、入力装置105、および出力装置106を備える。プロセッサ101はオペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する。主記憶部102は例えばROMおよびRAMで構成される。補助記憶部103は例えばハードディスクまたはフラッシュメモリで構成され、一般に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。通信制御部104は例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールで構成される。入力装置105は例えばキーボード、マウスなどで構成される。出力装置106は例えばモニタおよびスピーカで構成される。
【0033】
推定システム10の各機能モジュールは、補助記憶部103に予め記憶される推定プログラム110により実現される。プロセッサ101または主記憶部102の上に推定プログラム110を読み込ませてその推定プログラム110を実行させることで実現される。プロセッサ101はその推定プログラム110に従って、通信制御部104、入力装置105、または出力装置106を動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。処理に必要なデータまたはデータベースは主記憶部102または補助記憶部103内に格納される。
【0034】
推定プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの非一時的な記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、推定プログラム110は、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0035】
推定システム10は1台のコンピュータ100で構成されてもよいし、複数台のコンピュータ100で構成されてもよい。複数台のコンピュータ100を用いる場合には、これらのコンピュータ100がインターネットやイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの推定システム10が構築される。
【0036】
[システムの動作]
図5を参照しながら推定システム10の動作の一例を説明する。図5は推定システム10の動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。
【0037】
ステップS11では、設定部11が警報システム30から警報を受信する。設定部11は一つの警戒地域に関する警報を受信してもよいし、複数の警戒地域に関する一または複数の警報を受信してもよい。
【0038】
ステップS12では、設定部11がその警報に応答して、少なくとも一つの対象地域を設定する。対象地域の設定方法は限定されない。例えば、設定部11は一つの警戒地域の少なくとも一部を含む地理的範囲を一つの対象地域として設定してもよい。設定部11は一つの警戒地域の一部または全体を一つの対象地域として設定してもよいし、一部のみが一つの警戒地域と重なる地理的範囲(例えば、警戒地域およびその周辺地域により構成される範囲)を一つの対象地域として設定してもよい。設定部11は複数の警戒地域を跨がる一つの対象地域を設定してもよい。
【0039】
ステップS13では、設定部11が、少なくとも一つの対象地域から、被災レベルを推定する対象となる一つの対象地域を選択する。
【0040】
ステップS14では、ログ取得部12が、選択された対象地域に位置する1以上の機器構成要素71のログデータを取得する。ログ取得部12はログデータベース20を参照して、個々の機器構成要素71の位置情報とその対象地域とを比較することで、対象地域に位置する機器構成要素71を特定する。続いて、ログ取得部12は特定された個々の機器構成要素71に対応するログデータおよび属性情報をログデータベース20から読み出す。個々の機器構成要素71について、ログ取得部12は警報が受信された時点以降のログデータのみを取得してもよいし、現時点から所与の時間幅だけ遡った時間幅Taにおけるログデータのみを取得してもよいし、ログデータの全体を取得してもよい。
【0041】
ステップS15では、推定部13が、選択された対象地域内の1以上の観測地点を設定する。推定部13は対象地域に位置するそれぞれの機器構成要素71の位置情報に基づいて、複数の機器構成要素71が存在する地点を観測地点として設定する。例えば、推定部13は所与の区域内(例えば、1メートル四方、数メートル四方、10メートル四方、数十メートル四方など)に複数の機器構成要素71が位置する場合に、これらの機器構成要素71を含む地理的範囲を観測地点として設定する。一例では、推定部13は、地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素71が一つの観測地点に位置するように個々の観測地点を設定する。推定部13は、ログデータに関連付けられた高さ情報に基づいて、個々の機器構成要素71について地面からの高さ(距離)を特定することができる。
【0042】
ステップS16では、推定部13が少なくとも一つの観測地点から、被災レベルを推定する対象となる一つの観測地点を選択する。
【0043】
ステップS17では、推定部13が、選択された観測地点での被災レベルを推定する。推定部13はその観測地点に位置する個々の機器構成要素71のログデータ(すなわち、ログデータの集合)を参照して、複数の機器構成要素71に対応する複数の稼働状態の組合せを特定する。一例では、推定部13はログデータの集合を参照して、所与の時間幅Tbにおける複数の稼働状態の組合せを特定する。所与の時間幅Tbの長さは限定されず、任意の方針で設定されてよい。例えば、時間幅Tbは、警報を受信してから現時点までの時間幅であってもよい。あるいは、時間幅Tbは上記の時間幅Taと同じでもよい。稼働状態は、機器70または機器構成要素71が正常に動作しているか否かを示す情報である。推定部13は複数の稼働状態の組合せに基づいて被災レベルを推定する。より具体的には、推定部13はログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された所与の複数の被災レベルの候補(言い換えると、所与の有限個の被災レベルの候補)から観測地点での被災レベルを推定する。
【0044】
一例では、推定部13は被災レベルを推定するために、複数の稼働状態の組合せと複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表を参照する。この対応表は、推定部13がアクセス可能な所与の記憶装置(例えば補助記憶部103)に予め記憶された情報である。推定部13はログデータの集合とその対応表とに基づいて、複数の機器構成要素71に対応する複数の稼働状態の組合せを特定する。そして、推定部13は、対応表で示される複数の被災レベルの候補から、特定された組合せに対応する被災レベルを、観測地点での被災レベルとして推定する。
【0045】
図6および図7はいずれも対応表の一例を示す図である。図6および図7のいずれの例においても、対応表は、地面からの機器70の高さに関する複数の基準(複数の高さレベル)と、機器構成要素71の稼働状態の複数の組合せと、複数の被災レベルとの対応関係を示す。一例では、地面からの機器70の高さは、該機器70に搭載された機器構成要素71についての地面からの高さと見做すことができる。図6の例では、高さレベルは地面からの機器70の距離(すなわち、地面からどのくらい離れて位置するか)によって表される。対応表で示される高さレベルは、地面からの機器構成要素71の距離によって表されてもよい。一方、図7の例では、高さレベルは機器70の種類によって表される。地面から機器70まの距離は機器70の種類に応じて決まり得る。例えば、自動車および自動販売機は地面に接するので地面からの距離は0であるといえる。エアコンの室外ユニットは地面に接し得るか、または地面の近くに設置され得る。テレビおよび空気清浄機は一般に建物の床面かまたは該床面から近い位置に置かれるので、これらの機器は地面から相対的に近くに設置されるといえる。エアコンの室内ユニット、およびスマートメータは一般に建物内の高い位置に設けられるので、これらの機器は地面から相対的に遠くに設置されるといえる。したがって、高さレベルが機器70の種類によって表現されてもよい。一例では、対応表は、地上走行体の種類または寸法に基づく複数の高さレベル(例えば、大型車両に基づく高さレベル、および小型車両に基づく別の高さレベル)を含んでもよい。
【0046】
図6および図7の例では、機器構成要素に対応する稼働状態をチェックマーク、「エラー」、およびバツ印によって表す。チェックマークは、機器構成要素71の正常動作をログデータが示すことを意味する。「エラー」は、機器構成要素71によるエラーの送信をログデータが示すことを意味する。言い換えると、「エラー」は、異常動作がログデータに明示的に記録されていることを意味する。バツ印は、機器構成要素71での通信不能をログデータが示すことを意味する。言い換えると、バツ印は、特定の時間幅における記録がログデータに存在しないことを意味する。すなわち、一例では、機器70または機器構成要素71の異常に対応する稼働状態は、エラーの送信と通信不能という2種類によって区別されてよい。図6および図7に示すように、ある高さレベルにおいて「エラー」およびバツ印の双方が対応してもよい。
【0047】
図6および図7のいずれにおいても、対応表は被災レベルの6個の候補(レベル0~レベル5)を示す。被災レベルはレベル0からレベル5に進むにつれて高くなる。レベル0は浸水なしを示す。レベル1,2は床下浸水を浸水高さの程度に応じて二つに区分することで設定された候補である。レベル3,4は床上浸水を浸水高さの程度に応じて二つに区分することで設定された候補である。レベル5は、浸水の程度がいちばん酷い完全浸水を示す。完全浸水の定義は限定されず、任意の方針で設定されてよい。例えば、完全浸水は大人が立っていられないほどに浸水高さが増した状態を意味してもよいし、建物の1階が完全にまたはほぼ完全に浸水した状態を意味してもよい。被災レベルの候補の個数および意味は図6および図7の例に限定されず、任意の方針で設定されてよい。図6および図7に示すように、一例では、水害に関する複数の被災レベルの候補は床下浸水および床上浸水を含む。
【0048】
推定部13はそれぞれの機器構成要素71について、ログデータに基づいて稼働状態を判定し、高さ情報に基づいて地面からの高さ(距離)を特定する。推定部13は地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素71のそれぞれについて稼働状態を判定し、複数の高さレベルに対応する複数の稼働状態の組合せを特定する。そして、推定部13は対応表で示される複数の被災レベルの候補から、その組合せに対応する被災レベルを選択する。推定部13は選択された被災レベルを観測地点での被災レベルと見做す。
【0049】
図6の対応表を前提として被災レベルの推定についての様々な例を示す。一例として、地面からの距離が15cmである機器M1の機器構成要素C1が正常であり、地面からの距離が130cmである機器M2の機器構成要素C2も正常であるとする。この場合には推定部13はレベル0を選択する。別の例として、地面からの距離が25cmである機器M3の機器構成要素C3が通信不能であり、地面からの距離が70cmである機器M4の機器構成要素C4がエラーを送信し、地面からの距離が110cmである機器M5の機器構成要素C5が正常であるとする。この場合には推定部13はレベル3を選択する。もし機器構成要素C3,C4,C5のいずれも通信不能である場合には、被災レベルはレベル4またはレベル5である。このように、複数の稼働状態の組合せに対応して2以上の被災レベルが存在する場合には、推定部13はその2以上の被災レベルの中で最も高い被災レベルを選択してもよく、上記の例ではレベル5を選択してもよい。あるいは、推定部13は他の被災レベル(例えば、2以上の被災レベルの中で最も低い被災レベル)を選択してもよい。
【0050】
図7の対応表を前提として被災レベルの推定についての様々な例を示す。一例として、自動車の機器構成要素がエラーを送信し、エアコンの室外ユニットもエラーを送信し、該エアコンの室内ユニットが正常であるとする。この場合には推定部13はレベル2を選択する。別の例として、自動車の機器構成要素が通信不能であり、自動販売機の機器構成要素も通信不能であり、スマートメータが正常であるとする。この場合には推定部13はレベル4を選択する。複数の稼働状態の組合せに対応して2以上の被災レベルが存在する場合の被災レベルの選択方法は、図6の例と同様に、任意の方針で設計されてよい。
【0051】
一例では、複数の稼働状態の組合せは、地面に接している第1機器に搭載された第1機器構成要素に対応する第1稼働状態と、地面に接することなく地面より上に位置する第2機器に搭載された第2機器構成要素に対応する第2稼働状態とを含んでもよい。第1機器および第2機器のそれぞれについて、機器の具体的な種類は限定されない。例えば、第1機器は、地上走行体、エアコンの室外ユニット、および自動販売機から成る群から選択される少なくとも一つであってもよい。第2機器は、家電製品(例えば、テレビ、空気清浄機、エアコンの室内ユニット)とスマートメータとから成る群から選択される少なくとも一つであってもよい。対応表の形式にかかわらず、推定部13は、複数の被災レベルの候補から、第1稼働状態および第2稼働状態に対応する被災レベルを、観測地点での被災レベルとして推定してもよい。
【0052】
ログデータの集合が、スマートメータにより示される電力消費量の経時変化を示す場合には、推定部13は、該電力消費量の経時変化に基づいて、複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定してもよい。水害の場合には、浸水高さが増すにつれて、停止する機器70が増え(例えば、地面に近い家電製品から順に停止する)、したがって建物内の電力消費量が次第に減少する。スマートメータはこのような建物内の電力消費量の経時変化を示すので、推定部13はそのデータに基づいて被災レベルを推定することができる。例えば、推定部13は、電力消費量と浸水高さとの対応関係を示す所与の対応表を参照して、観測地点での被災レベルを推定してもよい。推定部13は、スマートメータにより示される電力消費量の経時変化と、一または複数の機器構成要素71に対応する一または複数の稼働状態の組合せとに基づいて、複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定してもよい。
【0053】
観測地点での被災レベルが推定されると、処理はステップS18に移る。ステップS18において、未処理の観測地点が存在する場合には(ステップS18においてNO)、処理はステップS16に戻り、推定部13が、次に処理する一つの観測地点を選択する。そして、推定部13はその観測地点についてステップS17の処理を実行する。一方、すべての観測地点が処理された場合には(ステップS18においてYES)、処理はステップS19に移る。
【0054】
ステップS19に示すように、推定システム10はすべての対象地域について被災レベルを推定する。未処理の対象地域が存在する場合には(ステップS19においてNO)、処理はステップS13に戻り、設定部11が、次に処理する一つの対象地域を選択する。その後、選択された対象地域についてステップS14以降の処理が実行される。一方、すべての対象地域が処理された場合には(ステップS19においてYES)、処理はステップS20に移る。
【0055】
ステップS20では、推定部13が推定結果を出力する。推定結果は、個々の対象地域の個々の観測地点での被災レベルを示す情報である。推定結果の出力方法は限定されない。例えば、推定部13は推定結果を、モニタ上に表示してもよいし、所定のデータベースに格納してもよいし、他のコンピュータシステムに送信してもよい。推定システム10はその推定結果を用いてさらなる処理を実行してもよい。推定結果の表現方法も限定されない。例えば、推定部13は画像およびテキストのうちの少なくとも一方を用いて推定結果を表現してもよい。
【0056】
図8は推定結果の表示の一例を示す図である。この例では、推定部13は、多数の観測地点のそれぞれについての推定された被災レベルを示す地図301を生成して、その地図301を画面300内に表示する。地図301では、様々な図形により表される多数の観測地点のそれぞれの被災レベルが、色またはパターンによって区別される。地図301の生成方法は限定されない。例えば、推定部13は空中に位置する撮像装置からのデータに基づいて生成される対象地域の画像を取得し、その画像を用いて地図301を生成してもよい。撮像装置からのデータは限定されず、例えば、推定部13は人工衛星の合成開口レーダ(SAR)によって得られるデータに基づく画像を取得してもよいし、ドローンに搭載されたカメラにより得られる画像を取得してもよい。SARは空に雲がかかっている場合でも地上のデータを取得することができる。また、水がレーダー波を反射しないという特性を有するので、SARは水害の範囲を特定するのに有用である。これらの点で、SARは衛星画像に比べて有利であり得る。
【0057】
ステップS21に示すように、一例では、推定システム10は警報が解除されるまでステップS13以降の処理を繰り返す。設定部11が、対象地域を示す警報解除をまだ受信しない場合には(ステップS21においてNO)、処理はステップS13に戻る。この場合、推定システム10は所定の時間間隔(例えば1分毎、30分毎など)を置いてからステップS13以降の処理を再び実行する。設定部11がその警報解除を警報システム30から受信した場合には、推定システム10は警報が解除されたと判定し(ステップS21においてYES)、処理フローS1を終了する。
【0058】
一例では、推定システム10は、警報を受信してから警報解除を受信するまでの時間帯において、ログデータの取得と、被災レベルの推定とを含む処理(すなわち、ステップS13~S20の処理)を繰り返す。推定システム10(例えば推定部13)は少なくとも一つの観測地点のそれぞれについて、その処理の繰り返しにおいて推定された最も高い被災レベルを、該観測地点での被災レベルとして決定してもよい。
【0059】
[効果]
以上説明したように本開示の一側面に係る推定システムは少なくとも一つのプロセッサを備える。少なくとも一つのプロセッサは、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得し、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定する。
【0060】
本開示の一側面に係る推定方法は、少なくとも一つのプロセッサを備える推定システムにより実行される。この推定方法は、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定するステップとを含む。
【0061】
本開示の一側面に係る推定プログラムは、共通の観測地点に位置し且つ地面からの高さが互いに異なる複数の機器構成要素のそれぞれについて、該機器構成要素に対応するログデータを取得するステップと、複数の機器構成要素に対応するログデータの集合に基づいて、地面からの高さに基づいて設定された複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定するステップとをコンピュータに実行させる。
【0062】
このような側面においては、共通の観測地点に位置し且つ地面からの位置が互いに異なる複数の機器構成要素のログデータに基づいて、該観測地点における被災レベルが地面からの高さを考慮して推定される。したがって、自然災害の程度を自動的に且つ精度良く推定することが可能になる。上記側面においては、被災レベルを特定するための専用のセンサを多数配置することなく、観測地点での被災レベルを推定できる。したがって、専用のセンサを設置および運用するコストを削減することができる。機器構成要素に対応するログデータは防災のための情報源としても利用することができる。
【0063】
他の側面に係る推定システムでは、少なくとも一つのプロセッサが、複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せと、複数の被災レベルの候補との対応関係を示す対応表であって、稼働状態が、エラーの送信と通信不能とを含む、該対応表を参照し、ログデータの集合と対応表とに基づいて、複数の機器構成要素に対応する複数の稼働状態の組合せを特定し、複数の被災レベルの候補から、特定された組合せに対応する被災レベルを、観測地点での被災レベルとして推定してもよい。エラーの送信と通信不能という2種類の異常動作を示す対応表を用いることで、ログデータに基づいて自然災害の程度を詳細に且つ精度良く推定することが可能になる。
【0064】
他の側面に係る推定システムでは、複数の稼働状態の組合せが、地面に接している第1機器に搭載された第1機器構成要素に対応する第1稼働状態と、地面に接することなく地面より上に位置する第2機器に搭載された第2機器構成要素に対応する第2稼働状態とを含んでもよい。少なくとも一つのプロセッサは、複数の被災レベルの候補から、第1稼働状態および第2稼働状態に対応する被災レベルを、観測地点での被災レベルとして推定してもよい。このような2種類の機器に対応するログデータの集合を用いることで、地面からの高さを考慮した被災レベルを精度良く推定することができる。
【0065】
他の側面に係る推定システムでは、第1機器が、地上走行体、エアコンの室外ユニット、および自動販売機から成る群から選択される少なくとも一つであり、第2機器が、家電製品とスマートメータとから成る群から選択される少なくとも一つであってもよい。これらのような機器に対応するログデータの集合を用いることで、地面からの高さを考慮した被災レベルを精度良く推定することができる。
【0066】
他の側面に係る推定システムでは、複数の被災レベルの候補が、浸水高さが建物の床面より低いことを示す床下浸水と、浸水高さが建物の床面以上であることを示す床上浸水とを含んでもよい。この仕組みにより、地面からの高さを考慮した水害の程度を自動的に且つ精度良く推定することができる。
【0067】
他の側面に係る推定システムでは、ログデータの集合が、スマートメータにより示される電力消費量の経時変化を示してもよい。少なくとも一つのプロセッサは、電力消費量の経時変化に基づいて、複数の被災レベルの候補から観測地点での被災レベルを推定してもよい。スマートメータにより示される電力消費量の経時変化は他の機器の稼働または停止を反映するので、このデータを用いることで被災レベルを精度良く推定することができる。
【0068】
他の側面に係る推定システムでは、少なくとも一つのプロセッサが、警報システムから警報を受信し、警報システムから警報解除を受信し、警報を受信してから警報解除を受信するまでの時間帯において、ログデータの取得と、被災レベルの推定とを含む処理を繰り返し、処理の繰り返しにおいて推定された最も高い被災レベルを、観測地点での被災レベルとして決定してもよい。この繰返し処理によって、自然災害の程度が最も高かった時の状況を精度良く推定することができる。例えば水害の場合には、浸水高さが最も高かった時の状況を推定することができる。
【0069】
他の側面に係る推定システムでは、少なくとも一つのプロセッサが、対象地域を設定し、対象地域に位置するそれぞれの機器構成要素の位置情報に基づいて、対象地域内に少なくとも一つの観測地点を設定してもよい。この処理によって観測地点を自動的に設定することができる。
【0070】
他の側面に係る推定システムでは、少なくとも一つのプロセッサが、対象地域を設定し、空中に位置する撮像装置からのデータに基づいて生成される対象地域の画像を取得し、画像を用いて、少なくとも一つの観測地点のそれぞれの推定された被災レベルを示す地図を生成してもよい。この場合には、個々の観測地点に被災レベルをわかりやすくユーザに提示することができる。
【0071】
[変形例]
以上、本開示の実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0072】
上記実施形態では推定システム10は警報を受信してから警報解除を受信するまでの間にログデータの取得および被災レベルの推定を繰り返す。しかし、推定システムは警報を受信することなく任意のタイミングで(例えば、推定システムのユーザが処理を指示したことに応答して)、被災レベルを推定するための一連の処理を実行してもよい。また、推定システムは警報解除を受信することなく任意のタイミングで(例えば、推定システムのユーザが処理終了を指示したことに応答して、または所与の回数だけ推定処理を繰り返したに応答して)、被災レベルを推定するための処理を終了してもよい。推定システムはログデータの取得および被災レベルの推定を一度だけ実行してもよい。
【0073】
上記実施形態は推定システム10が対応表を用いて被災レベルを推定するが、推定システムは対応表以外の手法(例えば専用のアルゴリズム、機械学習など)によって被災レベルを推定してもよい。
【0074】
推定システム内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」という二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【0075】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理の実行主体(すなわちプロセッサ)が途中で変わる場合を含む概念である。すなわち、この表現は、n個の処理のすべてが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念である。
【0076】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正又は削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10…推定システム、11…設定部、12…ログ取得部、13…推定部、20…ログデータベース、30…警報システム、70…機器、71…機器構成要素、110…推定プログラム、210…対象地域、211,212…観測地点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8