(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】コンプライアンス機構を備えた保持装置
(51)【国際特許分類】
B25J 17/02 20060101AFI20231213BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B25J17/02 H
B25J15/08 C
(21)【出願番号】P 2023115772
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138473
【氏名又は名称】株式会社ユーシン精機
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝弘
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218112(JP,A)
【文献】特開平05-269689(JP,A)
【文献】実開平03-059192(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持部と、
前記保持部を支持する支持部と、
前記保持部と前記支持部の間に配置され、前記保持部に掛かる負荷によって変位して前記ワークを移動させることなく保持できる位置に前記保持部を移動させるフローティング状態と、前記支持部に対する前記保持部の位置の変位を阻止するロック状態を選択的に形成するコンプライアンス機構を備えた保持装置であって、
前記コンプライアンス機構は、ロッドを備えて前記支持部に固定された1以上のシリンダを含む第1のシリンダ機構と、
ロッドを備えて前記保持部に装着される装着部に固定された1以上のシリンダを含む第2のシリンダ機構と、
前記第1のシリンダ機構の1以上の前記ロッドと前記第2のシリンダ機構の1以上の前記ロッドを共通仮想中心線に沿って直線移動可能に連結する連結部と、
前記支持部と前記装着部との間に配置されて、前記フローティング状態において、前記支持部に対して前記装着部が前記共通仮想中心線と平行な平行線に沿ってスライドすることを許容するスライド機構と、
前記第1のシリンダ機構及び前記第2のシリンダ機構と流体駆動源との間に配置されて、前記フローティング状態と前記ロック状態を選択的に形成する流体圧回路を備えていることを特徴とするコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【請求項2】
前記流体圧回路は、前記第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する流体の圧力として、前記ロック状態を実現する際には、前記第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に高い圧力の流体を供給し、前記フローティング状態を実現する際には、前記第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する流体の圧力として、前記ロック状態を実現するために前記第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する高い圧力よりも低い圧力の流体を供給する請求項1に記載のコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【請求項3】
前記支持部は、駆動制御されるフレームと、該フレームと交差する方向に延びる支持体と、該支持体に設けられて前記第1のシリンダ機構が固定される被固定部とからなり、
前記装着部は前記スライド機構を介して前記支持体に沿ってスライドする装着部本体と該装着部本体に設けられて前記第2のシリンダ機構が固定される被固定部からなり、
前記保持部が前記装着部本体に対して取り付けられている請求項1に記載のコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【請求項4】
前記フレームと前記支持体の間または前記装着部本体と前記保持部との間には、前記支持体または前記保持部を旋回させる旋回機構が配置されている請求項3に記載のコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【請求項5】
前記第1のシリンダ機構及び前記第2のシリンダ機構の少なくとも一方は、それぞれ2以上の前記シリンダが並列に配置されて構成されており、
前記第1のシリンダ機構の1以上の前記ロッドと前記第2のシリンダ機構の1以上のロッドは、前記共通仮想中心線と直交する方向に延びる連結部に固定されている請求項1または2に記載のコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【請求項6】
前記流体圧回路は、
最初に第1及び第2のシリンダ機構に高圧流体を供給して、前記装着部と前記支持部の位置関係をロック状態にし、
その後前記第1及び第2のシリンダ機構に、前記高圧流体よりも低く且つ前記装着部が前記支持部に対して移動することを可能にする低圧力の流体を供給して、前記フローティング状態を形成し、
少なくとも前記保持部が前記ワークを保持するまで前記フローティング状態を維持し、
前記保持部が前記ワークを保持し且つ前記ワークが隣接するワークと非接触状態になった後、前記第1及び第2のシリンダ機構に前記高圧流体を供給して、前記装着部と前記支持部の位置関係をロック状態にする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のコンプライアンス機構を備えた保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの保持装置に関し、特にコンプライアンス機構を備えた保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平5-269689号公報(特許文献1)には、フローティング機構を備え且つ保持部として把持部を備えた従来の保持装置が開示されている。この従来の保持装置では、保持部と支持部(本体)の間に配置されたロック手段を含むコンプライアンス機構が、保持部に掛かる負荷によって変位してワークを移動させることなく保持できる位置に保持部を移動させるフローティング状態と、支持部に対する保持部の位置の変位を阻止するロック状態を選択的に形成する。ワークを把持によって保持する際には、保持部のコンプライアンス(柔らかさ)が欲しい。一方、把持したワークをライン状に搭載する際は、ある程度の硬さ(ロック)が必要である。従来の保持装置では、コンプライアンス(柔らかさ)は、フローティング状態で付与する。そして移送中はロック状態で硬さを実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に示された保持装置では、ロック手段の構成が明確に開示されていないために、保持部でワークを保持する前に、ロック状態を選択することによって、保持部を原点位置に戻すのか否かが不明である。そのため特許文献1を見ても、ロック手段を備えたコンプライアンス機構を簡単に構成することができない。保持部を原点位置に戻すことができれば、保持部の位置が支持部に対してどのような位置にある場合でも、保持動作の制御を正確に行える。
【0005】
また特許文献1に示された構造では、フローティング状態で支持部が鉛直方向に対して傾いていると、ワークを持ち上げた途端、鉛直下向き方向にワークを保持した保持部がずれて、ガイド端に衝突して、ワークが衝撃で落下する恐れがある。このような支持部の傾きは、例えば、食品工場において「ウェットエリア」と呼ばれる場所に設置される保持装置において常時生じている。「ウェットエリア」では、清掃のために、生産設備などの配置に合わせた排水計画と適切な床勾配を形成することが重要になる。そのためロボットやパレットの接地面は、床勾配(1.0~2.0/100)を有している。このような床勾配がある場所に保持装置が設置されると、保持部を構成する把持部がワークを持ち上げた瞬間に速やかにロック状態にすればよいが、高速でロック状態にすると、フローティング状態であるために、把持部の爪とワークが衝突しながらセンタリングされることになる。把持部がワークの中央からずれていると、どちらかの爪にワークが接触した際に、フリー状態のため場合によっては弾んで逆側の爪がワークにぶつかる。このようなことがあると、ワークを落下させる恐れがあるだけでなく、チャック爪の摩耗・破損にもつながる問題がある。
【0006】
本発明の目的は、フローティング状態とロック状態を、簡単な構造で形成することができるコンプライアンス機構を備えた保持装置を提供することにある。
【0007】
本発明の更なる目的は、フローティング状態において急に保持部が変位することがないコンプライアンス機構を備えた保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワークを保持する保持部と、保持部を支持する支持部と、保持部と支持部の間に配置されるコンプライアンス機構を備えた保持装置を対象とする。コンプライアンス機構は、保持部に掛かる負荷によって変位してワークを移動させることなく保持できる位置に保持部を移動させるフローティング状態と、支持部に対する保持部の位置の変位を阻止するロック状態を選択的に形成する。コンプライアンス機構は、ロッドを備えて支持部に固定された1以上のシリンダを含む第1のシリンダ機構と、ロッドを備えて保持部が装着される装着部に固定された1以上のシリンダを含む第2のシリンダ機構と、第1のシリンダ機構の1以上のロッドと第2のシリンダ機構の1以上のロッドを共通仮想中心線CLに沿って直線移動可能に連結する連結部と、支持部と装着部との間に配置されて、フローティング状態において、支持部に対して装着部が共通仮想中心線CLと平行な平行線PLに沿ってスライドすることを許容するスライド機構と、第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構と流体駆動源との間に配置されて、フローティング状態とロック状態を選択的に形成する流体圧回路を備えている。なお保持部は、少なくとも一対の保持用のツメを備えた機械的な構造を有する把持部でもよいし、吸着パッドを備えた吸着部のいずれでもよい。
【0009】
本発明によれば、コンプライアンス機構の第1及び第2のシリンダ機構に流体圧回路から高圧流体を供給して最初にロック状態にすると、保持部が装着された装着部は支持部に対する原点位置に必ず復帰する。言い換えれば、ワークを保持して搬送する前に、常に装着部に装着された保持部を支持部に対する原点に戻して位置制御することができる。その結果、保持部の位置制御が正確になる。そして保持部でワークを保持する際には、流体圧回路から供給する流体圧の制御によりコンプライアンス機構をフローティング状態にすれば、ワークに倣って保持部が移動することにより保持部を装着した装着部はスムースに移動する。その結果、保持部はワークを保持するのに適した位置で、ワークを正確に保持することが可能になる。
【0010】
保持部がワークを保持した後にワークの搬送をする際に、流体圧回路によりコンプライアンス機構をロック状態にして、支持部を移動させると、ワークを保持した保持部が装着された装着部の支持部に対する位置が変わることがない。よってワークに必要以上の振動が加わることがなく、確実にワークを保持して、搬送することができる。このように本発明によれば、シリンダ機構を用いてフローティング状態とロック状態を、簡単な構造で確実に形成することができるコンプライアンス機構を備えた保持装置を提供することができる。
【0011】
流体圧回路は、第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する流体の圧力として、ロック状態を実現するために第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に高い圧力を供給し、フローティング状態を実現する際には、第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する流体の圧力として、ロック状態を実現するために第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する高い圧力よりも低い圧力の流体を供給するのが好ましい。ここで具体的に、低い流体の圧力とは、高い流体の圧力よりも低く且つ負荷の重量に対して保持部の位置を保てない程度の抵抗を保持部に与える圧力である。このようにするとフローティング状態においても、与える低い供給圧力の程度に応じて保持部に対して一定の抵抗を与えることになる。その結果、例えば保持装置の設置面が傾斜している場合であっても、フローティング状態にあるからと言って、急に保持部を備えた装着部が移動することがない。その結果、フローティング状態であっても、第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構に供給する流体の低い圧力を適宜に定めることによって、保持部に加わる衝撃や振動を抑制することができる。
【0012】
支持部は、駆動制御されるフレームと、該フレームと交差する方向に延びる支持体と、該支持体に設けられて前記第1のシリンダ機構が固定される被固定部とから構成することができる。そして装着部はスライド機構を介して支持体に沿ってスライドする装着部本体と該装着部本体に設けられて第2のシリンダ機構が固定される被固定部から構成することができる。そして保持部1が装着部本体に対して取り付けられる。このような構造を採用すると、支持部に対する保持部の位置決めの自由度が高くなる。すなわち支持部を長手方向に通る仮想線から直交方向にかなり離れた位置に保持部の取付位置を定めることができるだけでなく、支持部を長手方向に通る仮想線上に保持部の取付位置を定めることもできる。
【0013】
フレームと支持体の間または装着部本体と保持部との間に、支持体または保持部を旋回させる旋回機構が配置されていてもよい。このような旋回機構を設けると、保持部の動作範囲を拡大することができる。
【0014】
第1のシリンダ機構と第2のシリンダ機構の構成は任意である。例えば、第1のシリンダ機構及び第2のシリンダ機構の少なくとも一方は、それぞれ2以上のシリンダが並列に配置されて構成されていてもよい。また第1のシリンダ機構の1以上のロッドと第2のシリンダ機構の1以上のロッドは、共通仮想中心線CLと直交する方向に延びる連結部に固定されていてもよい。
【0015】
流体圧回路は、例えば、次のように動作することができる。最初に第1及び第2のシリンダ機構に高圧流体を供給して、装着部と支持部の位置関係をロック状態にする。その後第1及び第2のシリンダ機構に、高圧流体よりも低く且つ装着部が支持部に対して移動することを可能にする低圧力の流体を供給して、フローティング状態を形成する。少なくとも保持部がワークを保持するまでフローティング状態を維持する。そして、保持部がワークを保持し且つワークが隣接するワークと非接触状態になった後、第1及び第2のシリンダ機構に高圧流体を供給して、装着部と支持部の位置関係をロック状態にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置を搬送装置に適用した実施の形態の保持装置の構成の要部を示す斜視図である。
【
図2】(A)は
図1の要部の正面図であり、(B)はコンプライアンス機構のロック状態を示す図である。
【
図3】(C)はコンプライアンス機構のフローティング状態を示す図であり、(D)は保持部によりワークを把持する状態を示す図である。
【
図4】(E)は保持部を上方に少し移動させた状態を示す図であり、(F)は保持部がフローティング状態にあるコンプライアンス機構によって平衡位置へ移動する状態を示す図である。
【
図5】(G)は第1及び第2のシリンダ機構のシリンダに高圧流体を供給して、コンプライアンス機構をロック状態にした状態を示す図であり、(H)は昇降フレームからなる支持部がワークを所定の開放位置へと移動する状態を示す図である。
【
図6】本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第2の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
【
図7】本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第3の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
【
図8】(A)及び(B)は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第4の実施の形態の保持装置の構成の要部をそれぞれ示す図である。
【
図9】(A)乃至(C)は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第5の実施の形態の保持装置の構成の要部をそれぞれ示す図である。
【
図10】(A)及び(B)は、
図9に示すコンプライアンス機構がフローティング状態になったときの状態を示す図である。
【
図11】(A)及び(B)は、コンプライアンス機構における第1のシリンダ機構と第2のシリンダ機構の構成と配置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置1を搬送装置に適用した実施の形態の保持装置の構成の要部を示す斜視図である。
図2(A)は、この要部の正面図である。
図1及び
図2(A)に示した保持装置1は、ワークWを保持するハンドと呼ばれる保持部3と、搬送装置の昇降フレームによって構成されて保持部3を間接的に支持する支持部5と、保持部3と支持部5の間に配置されるコンプライアンス機構7を備えている。本実施の形態で用いる保持部3は、2つの爪部31を備えて、2つの爪部31によってワークWを把持する把持部である。保持部3の2つの爪部31は、電磁駆動またはエアー駆動よって駆動されるまでは、2つの爪部31をワークWの幅寸法よりも大きく開けた状態にあり、電磁駆動またはエアー駆動よって駆動されると2つの爪部31はワークWを挟む方向に閉じる動作をする。
【0018】
コンプライアンス機構7は、保持部3の爪部31に掛かる負荷によって変位してワークWを移動させることなく保持できる位置に保持部3を移動させるフローティング状態と、支持部5に対する保持部3の位置の変位を阻止するロック状態を選択的に形成するものである。コンプライアンス機構7は、ロッド81を備えて支持部5に固定された1以上のシリンダ8を含む第1のシリンダ機構9と、ロッド11を備えて保持部3が装着される板状の装着部17に固定された1以上のシリンダ10を含む第2のシリンダ機構15を備えている。本実施の形態では、支持部5の先端に支持部と直交する方向に延びる支持体51と、支持体51の裏面の一端から延びる被固定板52が設けられている。そして被固定板52には、シリンダ8がロッド81を仮想中心線CLに沿って突出できるように固定されている。そして装着部17はスライド機構19を介して支持体51に沿ってスライドする装着部本体17Aと該装着部本体17Aに設けられて第2のシリンダ機構15が固定される被固定部17Bとから構成されている。スライド機構19は、板状の装着部17の上に装着されたレール19Aと、昇降フレームからなる支持部5の支持体51に固定された2つのスライドガイド部19Bとから構成されるリニアガイドである。
【0019】
装着部17の装着部本体17Aの裏面の中間位置から延びる被固定部17Bには、シリンダ10がロッド11を仮想中心線CLに沿って突出できるように固定されている。そして保持部3は装着部本体17Aに対して取り付けられている。このような構造を採用すると、支持部5に対する保持部3の位置決めの自由度が高くなる。すなわち支持部5を長手方向に通る仮想線Cから直交方向にかなり離れた位置に保持部3の取付位置を定めることができるだけでなく、支持部5を長手方向に通る仮想線C上に保持部3の取付位置を定めることもできる。
【0020】
またコンプライアンス機構7は、第1のシリンダ機構9の1以上のシリンダ8のロッド81と第2のシリンダ機構15の1以上のシリンダ10の1以上のロッド11を共通仮想中心線CLに沿って直線移動可能に連結する連結部18と、支持部5の支持体51と装着部17との間に配置されて、フローティング状態において、支持部5に対して装着部17が共通仮想中心線CLと平行な平行線PLに沿ってスライドすることを許容するスライド機構19を備えている。本実施の形態の連結部18は、ロッド81とロッド11の先端を連結する構造を有している。
【0021】
さらにコンプライアンス機構7は、第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15と流体駆動源FSとの間に配置されて、フローティング状態とロック状態を選択的に形成する流体圧回路21を備えている。流体圧回路21は、第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15に供給する流体の圧力として、ロック状態を実現するために第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15に高い圧力を供給し、フローティング状態を実現する際には、第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15に供給する流体の圧力として、ロック状態を実現するために第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15に供給する高い圧力よりも低い圧力の流体(低圧流体)を供給する。このようにするとフローティング状態においても、低圧流体の圧力の程度に応じて保持部3に対して一定の抵抗を与えることになる。その結果、例えば保持装置1の設置面が傾斜している場合であっても、フローティング状態にあるからと言って、急に保持部3を備えた装着部17が移動することがない。その結果、フローティング状態であっても、第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15に供給する圧力を適宜に定めることによって、保持部3に加わる衝撃や振動を抑制することができる。
【0022】
図2乃至
図5を用いて本実施の形態の保持装置1の動作を説明する。まず
図2(A)に示すように保持部3がワークWの上方に位置するように、支持部5を駆動して保持装置1を移動する。次に
図2(B)に示すように保持装置1をワークWに向かって下げる。この際第1及び第2のシリンダ機構9及び15に高圧流体が供給されており、装着部17と支持部5の位置関係をロック状態にしている。基本的には、ロック状態が通常の状態であり、この状態が原点状態(基準位置にある状態)である。
【0023】
その後第1及び第2のシリンダ機構9及び15に、高圧流体よりも圧力が低く且つ装着部17が支持部5に対して移動することを可能にする低圧の流体を供給して、フローティング状態を形成する[
図3(C)]。
【0024】
少なくとも保持部3がワークWを保持するまでフローティング状態を維持する。
図3(C)(D)に示すように、保持部3の2つの爪部31でワークWを挟む動作をすると、爪部31がワークWに倣って移動することにより、保持部3が装着部17と一緒にスライド機構19を介して支持部5の支持体51に対して移動する。
【0025】
次に
図3(D)に示す状態で保持部3によりワークWを把持してから
図4(E)に示すように、保持部3を上方に少し移動させる。本実施の形態では、ワークWが下のワークWと係合状態にあるため、この係合状態が解除されるまで
図4(F)に示すように保持部3を上に移動させると、保持部3はフローティング状態にあるコンプライアンス機構7によって平衡位置へ移動する。すなわち本実施の形態では、第1及び第2のシリンダ機構9及び15のシリンダに供給してある低圧流体の圧力によって発生する抵抗によって定まる平衡位置に装着部17(保持部3)が移動する。
【0026】
次に
図5(G)に示すように、第1及び第2のシリンダ機構9及び15のシリンダに高圧流体を供給して、コンプライアンス機構7をロック状態にすると、コンプライアンス機構7のスライド機構19は原点状態で、装着部17と支持部5の位置関係をロック状態にする。この状態から昇降フレームからなる支持部5は、ワークWを所定の開放位置へと移動する[
図5(H)]。
【0027】
図6は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第2の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
図6において、
図1乃至
図5に示した第1の実施の形態の部分と同じ部材には、
図1乃至
図5に付した符号と同じ符号を付してある。第1の実施の形態と比べて、第2の実施の形態では、保持装置100のコンプライアンス機構71の装着部117とスライド機構119の構成が、第1の実施の形態の装着部17とスライド機構19の構成とは異なっている。第2の実施の形態の装着部117の装着部本体117Aは、クランク形状を有している。そして装着部本体117Aの基部には、スライド機構119の一部を構成するロッド119Aの一端が固定されている。ロッド119Aは共通仮想中心線CLと平行な平行線PLに沿って延びている。ロッド119Aは、支持体51の裏面に固定されたボールブッシュからなる軸受部119Bに軸支されている。そしてクランク形状の装着部本体117Aには、把持部からなる保持部3または吸着部からなる保持部3´が取付けられる。本実施の形態によれば、ボールブッシュからなる軸受部119Bを用いているので、スライド機構119を安価に構成できる。またスライド機構が邪魔にならないので、保持部3を狭い場所に進入させることができるという利点が得られる。
【0028】
図7は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第3の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
図7において、
図6に示した第2の実施の形態の部分と同じ部材には、
図1乃至
図6に付した符号と同じ符号を付してある。第2の実施の形態と比べて、第3の実施の形態の保持装置200のコンプライアンス機構72では、装着部117´とスライド機構119´の構成が、第2の実施の形態の装着部117とスライド機構119の構成とは異なっている。第3の実施の形態の装着部117´の装着部本体117´Aには、一対の被固定部117´Bが固定されており、この一対の被固定部117´Bにロッド119´Aが固定されている。そしてスライド機構119´には、ロッド119´Aが軸支される2つの軸受け部得119´Bが固定されている。本実施の形態によれば、第2の実施の形態と比べて、ロッド119´Aに加わる力をバランス良く分散することができる。
【0029】
図8(A)及び(B)は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第4の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
図8(A)及び(B)において、
図1乃至
図5に示した第1の実施の形態の部分と同じ部材には、
図1乃至
図5に付した符号と同じ符号を付してある。第1の実施の形態と比べて、第4の実施の形態の保持装置300のコンプライアンス機構73では、装着部217とスライド機構219の構成が、第1の実施の形態の装着部17とスライド機構19の構成とは異なっている。第2の実施の形態の装着部217の装着部本体217Aは、第4のシリンダ機構15のシリンダ10と略同じ大きさを有している。そして装着部本体217Aには、スライド機構219の一部を構成するスライドガイド部219Bが固定されている。そしてスライド機構219の一部を構成するレール219Aが支持部5の支持体51に固定されている。本実施の形態によれば、
図8(A)に示すように、コンプライアンス機構73がロック状態になったときに、支持部5の中心を通る仮想線Cと保持部3の中心を一致させることができる。その結果、第1の実施の形態よりも、保持装置の長さ寸法を短くして、全体をコンパクトに構成することができる。
図8(B)は、コンプライアンス機構73がフローティング状態にあるときの図である。
【0030】
図9(A)乃至(C)は、本発明のコンプライアンス機構を備えた保持装置の第5の実施の形態の保持装置の構成の要部を示す図である。
図9(A)乃至(C)において、
図1乃至
図5に示した第1の実施の形態の部分と同じ部材には、
図1乃至
図5に付した符号と同じ符号を付してある。第1の実施の形態と比べて、第5の実施の形態の保持装置400のコンプライアンス機構74では、第1のシリンダ機構9と第2のシリンダ機構15の接続構成と、装着部317とスライド機構319の構成が、第1の実施の形態の第1のシリンダ機構9と第2のシリンダ機構15の接続構成と、装着部17とスライド機構19の構成とは異なっている。第5の実施の形態では、第1のシリンダ機構9のシリンダ308と第2のシリンダ機構15のシリンダ310が横に並んだ状態で配置されて、第1のシリンダ機構9のロッド381と第2のシリンダ機構15のロッド311が平行に並んだ状態で、連結部318によって相互に連結されている。そして第5の実施の形態では、装着部317の装着部本体317Aは、第2のシリンダ機構15のシリンダ310よりも小さい大きさを有している。そして装着部本体317Aには、スライド機構319の一部を構成するスライドガイド部319Bが固定されている。またスライド機構319の一部を構成するレール319Aが支持部5の支持体51に固定されている。
図9(C)はコンプライアンス機構74がロック状態になったときの第1のシリンダ機構9のシリンダ308と第2のシリンダ機構15のシリンダ310の状態を示している。
【0031】
図10(A)及び(B)は、コンプライアンス機構74がフローティング状態になったときで、連結部318がそれぞれ左右の終端位置にあるときの第1のシリンダ機構9のシリンダ308と第2のシリンダ機構15のシリンダ310の状態を示している。本実施の形態によれば、第1のシリンダ機構9のシリンダ308と第2のシリンダ機構15のシリンダ310が横に並んだ状態で配置されているので、コンプライアンス機構74の全体の長さを短くすることができる。
【0032】
図11(A)及び(B)は、コンプライアンス機構における第1のシリンダ機構9と第2のシリンダ機構15の構成と配置の変形例を示している。
図11(A)に示すように、シリンダ機構9及び15の一方または他方は、2本以上のシリンダ(8A,8B)によって構成することができる。また
図11(B)に示すように、第1のシリンダ機構9のロッド81と第2のシリンダ機構15のロッド11が共通仮想中心線CLの両側に位置するように第1のシリンダ機構9と第2のシリンダ機構15の配置を変えてもよい。
【0033】
上記各実施の形態によれば、コンプライアンス機構(7,71~74)の第1及び第2のシリンダ機構9,15に流体圧回路21から高圧流体を供給して最初にロック状態にすると、保持部3,3´が装着された装着部(17,117,117´,217,317)は支持部5に対する原点位置に必ず復帰する。言い換えれば、ワークWを保持して搬送する前に、常に装着部に装着された保持部を支持部に対する原点に戻して位置制御することができる。その結果、保持部の位置制御が正確になる。そして保持部でワークを保持する際には、流体圧回路21から供給する流体圧の制御によりコンプライアンス機構(7,71~74)をフローティング状態にすれば、ワークに倣って保持部3が移動することにより保持部を装着した装着部はスムースに移動する。その結果、保持部はワークを保持するのに適した位置で、ワークを正確に保持することが可能になる。保持部3,3´がワークを保持した後は、流体圧回路21によりコンプライアンス機構(7,71~74)をロック状態にして、支持部5を移動させると、ワークを搬送する際に、ワークを保持した保持部3,3´が装着された装着部(17,117,117´,217,317)の支持部5に対する位置が変わることがない。よってワークに必要以上の振動が加わることがなく、確実にワークを保持して、移動させることができる。
【0034】
また、更に具体的に見れば、上記各実施の形態によれば、第1及び第2のシリンダ機構9,15に低圧の流体を入れることで、任意にフローティング状態の復帰力の調整が可能になる。ロック状態を形成する場合においても、流体の圧力の調整により、自動で基準位置に緩やかに復帰させることが可能である。またフローティング状態においては、ワークの重さや、保持装置の設置状態の傾きに応じて、第1及び第2のシリンダ機構9,15に供給する流体の圧力を調整すればよい。第1及び第2のシリンダ機構9,15に供給する流体の圧力を低くしてフローティング状態を作れば、左右どちらのワークズレにも対応することができ、また復帰動作を緩やかにできることにより、落下の恐れを低減することができる。このような構成であるが故に、上記各実施の形態によれば、ワークズレの吸収量を大きくすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、シリンダ機構を用いてフローティング状態とロック状態を、簡単な構造で確実に形成することができるコンプライアンス機構を備えた保持装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 保持装置
3 保持部
5 支持部
51 支持体
7 コンプライアンス機構
9 第1のシリンダ機構
11 ロッド
15 第2のシリンダ機構
17 装着部
18 連結部
19 スライド機構
21 流体圧回路
FS 流体駆動源
【要約】
【課題】フローティング状態とロック状態を、簡単な構造で形成することができるコンプライアンス機構を備えた保持装置を提供する。
【解決手段】コンプライアンス機構7は、保持部3に掛かる負荷によって変位してワークWを移動させることなく保持できる位置に保持部3を移動させるフローティング状態と、支持部5に対する保持部3の位置の変位を阻止するロック状態を選択的に形成する。コンプライアンス機構7は、フローティング状態において、支持部5に対して装着部17が共通仮想中心線CLと平行な平行線PLに沿ってスライドすることを許容するスライド機構19と、第1のシリンダ機構9及び第2のシリンダ機構15と流体駆動源FSとの間に配置されて、フローティング状態とロック状態を選択的に形成する流体圧回路21を備えている。
【選択図】
図1