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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】水、その製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/34 20230101AFI20231214BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20231214BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231214BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20231214BHJP
   B01J 3/02 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231214BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20231214BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C02F1/34
B01D61/04
C02F1/44 D
B01J3/00 A
B01J3/02 101A
H01L21/304 622Q
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648K
A61K8/19
A61Q1/00
A61Q19/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022075446
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023164108
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-03-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523041001
【氏名又は名称】株式会社SOSUI
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(72)【発明者】
【氏名】佐川 静夫
(72)【発明者】
【氏名】森本 國勢
(72)【発明者】
【氏名】根本 泰行
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-115534(JP,A)
【文献】特開2009-129976(JP,A)
【文献】特開2006-289236(JP,A)
【文献】特開2016-182550(JP,A)
【文献】特開2001-261307(JP,A)
【文献】特開2008-231082(JP,A)
【文献】特開2016-107196(JP,A)
【文献】特開平07-251157(JP,A)
【文献】特開昭63-305917(JP,A)
【文献】特開2006-272098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0099614(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透性の高い水の製造方法であって、
処理対象となる水を加圧したのち、小孔より所定のチャンパ内に高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させたのちに回収する衝突回収処理を、1または2回以上繰り返して実行する第1のステップと、
処理対象となる水に対して、少なくとも逆浸透膜(RO膜)式の純水化処理を実行する第2のステップと、
からなる少なくとも2つのステップを具備
前記第1のステップは、前記第2のステップに先立って実行され、
前記第1のステップと第2のステップとの間において、前記衝突回収処理を経た水を、少なくとも前記衝突回収処理を経ていない水により希釈増量する第3のステップをさらに具備する、方法。
【請求項2】
前記希釈増量に際する希釈濃度の範囲が、「衝突回収処理を経た水」:「衝突回収処理を経ていない水」=1:2~1:20の範囲である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記第1のステップにおける処理対象となる水が、井戸水又は水道水であり、かつ前記第2のステップにおける少なくとも前記衝突回収処理を経ていない水についても、前記井戸水又は水道水である、請求項1に記載の方法
【請求項4】
前記第1のステップにおける水の加圧は、100~245MPaであり、かつ前記小孔の内径は0.1~0.35mmである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記2つのステップを経た水に対して、ナノバブル発生処理を施す第4のステップをさらに具備する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記2つのステップを経た水に対して、プラズマ処理を施す第5のステップをさらに具備する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記衝突回収処理が、所定のチャンバ内において、1の小孔より高速に噴出される水を所定物体に衝突させたのち、これを回収する処理を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突回収処理が、所定のチャンバ内において、2以上の小孔より高速に噴出される水を互いに衝突させたのち、これを回収する処理を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のステップが、電気再生式(EDI式)の純水化処理をさらに実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のステップが、樹脂交換式の純水化処理をさらに実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
浸透性の高い水の製造システムであって、
処理対象となる水を加圧したのち、小孔より所定のチャンパ内に高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させたのちに回収する衝突回収処理を、1または2回以上繰り返して実行する第1の装置と、
処理対象となる水に対して、少なくとも逆浸透膜(RO膜)式の純水化処理を実行する第2の装置と、
からなる2つの装置を少なくとも具備し、
前記第1の装置は、処理順において、前記第2の装置よりも前段に置かれ、
前記第1の装置と前記第2の装置との間には、前記第1の装置を経た水を、少なくとも前記第1の装置を経ていない水により希釈増量する第3の装置をさらに具備する、システム
【請求項12】
製造される水の用途が、半導体処理水である、請求項1に記載の方法
【請求項13】
製造される水の用途が、化粧品用原料水である、請求項1に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品用、工業的洗浄用等々の用途に適した浸透性の高い水、その製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
不純物を限りなく含まず、しかも浸透性の高い水に対する要望は、化粧品その他各種の工業的洗浄の分野において、強く存在する。従来の試みとしては、原料となる水に対して純水化処理を適用することで、不純物を限りなく除去することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、一般的に純水は表面張力が高く浸透性に劣るものであるため、上述の純水化処理のみにて得られる水では浸透度には限りがあり、高い浸透度を得ようとすると、界面活性剤等のなんらかの化学物質の力を借りざるを得ず、結局、そうして得られる浸透性の高い水の用途は限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-231082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、不純物を限りなく含まず、しかも浸透性の高い水、その製造方法および製造システムを提供することにある。
【0006】
本発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水は、電気抵抗率が18.00MΩ・cm以上であって、かつ表面張力が摂氏20度において72.55mN/m以下である。
【0008】
好ましい実施の形態においては、pHが5.2~6.0であってもよい。
【0009】
好ましい実施の形態においては、製造直後の表面張力が摂氏20度において72.55mN/m以下、かつ製造後6カ月を経過した時点での表面張力増加分が0.14%以内であってもよい。
【0010】
別の一面から見た本発明は、水の製造方法として把握することもできる。本発明に係る水の製造方法は、処理対象となる水を加圧したのち、小孔より高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させたのちに回収する衝突回収処理を、1または2回以上繰り返して実行する第1のステップと、処理対象となる水に対して、少なくとも逆浸透膜(RO膜)式の純水化処理を実行する第2のステップからなる少なくとも2つのステップを具備するものである。基本的には、第1のステップと第2のステップの順序は問わない。なお、以下において、純水、純水化、純水化処理と称するものには、超純水、超純水化、超純水化処理も含む。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記第1のステップにおける水の加圧は高圧用途のプランジャポンプを介して行われ、かつ前記第1のステップは、前記第2のステップに先立って実行されるものであってもよい。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記第1のステップと第2のステップとの間において、前記第1のステップを経た水を、少なくとも前記衝突回収処理を経ていない水により希釈増量する第3のステップをさらに具備するものであってもよい。
【0013】
好ましい実施の形態においては、前記第1のステップにおける水の加圧は、100~245MPaであり、かつ前記小孔の内径は0.1~0.35mmであってもよい。
【0014】
好ましい実施の形態においては、前記2つのステップを経た水に対して、ナノバブル発生処理を施す第4のステップをさらに具備してもよい。
【0015】
好ましい実施の形態においては、前記2つのステップを経た水に対して、プラズマ処理を施す第5のステップをさらに具備してもよい。
【0016】
上述の製造方法において、前記の衝突回収処理については、様々な方式を採用することができる。例えば、前記衝突回収処理が、所定のチャンバー内において、1の小孔より高速に噴出される水を所定物体(例えばセラミックボール)に衝突させた後、これを回収する処理を含むものであってもよい。また、前記衝突回収処理が、所定の密閉チャンバー内において、2以上の小孔より高速に噴出される水同士を互いに衝突(正面衝突、斜め衝突)させた後、これを回収する処理を含むものであってもよい。また、前記衝突回収処理が、水が満たされた貯槽内において、1又は2以上の小孔より貯水中に高速で噴出される水を、貯水と共に回収する処理を含むものであってもよい。その他、高速衝突回収処理が、所定の密閉チャンバー内において、小孔より高速に噴出される水を、ダイヤモンドの隙間に通ずることにより、水に対して圧縮と共に剪断力を与えるものであってもよい。
【0017】
上述の水の製造方法において、逆浸透膜式の純水化処理とは、ROモジュールを用いて、水に溶け込む微細な物質をほぼ除去する処理である。ROモジュールとしては、様々な構造のものが知られているが、例えば、浸透膜(メンブレン)を何層にも重ねてのり巻き状に巻き、容器に収めて大きな表面積で多くの水を処理する構成を採用できる。この逆浸透膜により、原水が透過水(純水)と濃縮水(排水)とに分離される。原水中の不純物を排水として処理するため、目詰まりも少なく長期間使用できる。
【0018】
上述のステップ2においては、逆浸透膜式の純水化処理に加えて、他の方式の純水化処理を併せて実行するものであってもよい。すなわち、前記第2のステップが、電気再生式(EDI式)の純水化処理をさらに実行するものであってもよい。また、前記第2のステップが、樹脂交換式の純水化処理をさらに実行するものであってもよい。
【0019】
別の一面から見た本発明は、水の製造システムとして把握することもできる。すなわちこの水の製造システムは、処理対象となる水を加圧したのち、小孔より高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させたのちに回収する衝突回収処理を、1または2回以上繰り返して実行する第1の装置と、処理対象となる水に対して、少なくとも逆浸透膜(RO膜)式の純水化処理を実行する第2の装置と、からなる2つの装置を少なくとも具備し、それら2つの装置を経由して水を製造するするものである。
【0020】
別の一面から見た本発明は、上述の水の製造方法により製造された水として把握することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る水は、何ら化学物質を添加していないにも拘らず、純水化処理のみにて得られる水よりも高い浸透性を呈する。そのため、化粧品の分野、半導体洗浄を含む様々な工業的洗浄の分野のほか、浸透性は要求するものの、不純物の存在を嫌う様々な分野への広い応用が期待される。
【0022】
本発明に係る製造方法または製造システムによれば、比較的に小規模の設備にて、不純物を限りなく含まず、しかも浸透性の高い水を製造することができる。しかも、こうして得られる水は、その状態が長期に維持され、安定性が良好である。そのため、長期保存が可能であることから、市場での流通に支障がなく、個々のユーザにて製造設備を要しないという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明方法のゼネラルフローチャートである。
図2図2は、純水化処理の詳細フローチャートである。
図3図3は、追加処理の詳細フローチャートである。
図4図4は、本発明システム全体の概略図である。
図5図5は、加圧水同士の衝突部の疑念図である。
図6図6は、RO膜式・純水化装置の概念図である。
図7図7は、EDI式・純水化装置の概念図である。
図8図8は、樹脂交換式・純水化装置の概念図である。
図9図9は、衝突回収装置の他の例を示す図である。
図10図10は、表面張力の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪方法の実施形態≫
以下に、本発明に係る水の製造方法の好適な実施の一形態につき、添付図面(図1及び図2)を参照しながら詳述する。それらの図から明らかなように、この水の製造方法は、原水取得処理(ステップ101)、衝突回収処理(ステップ102)、希釈処理(ステップ104)、及び純水化処理(ステップ105)を含んで構成される。また、必要に応じて追加処理(ステップ107)を行ってもよい。
【0025】
[原水取得処理]
原水取得処理(ステップ101)は、この製造方法に必要とされる原料水を取得するものである。原料水としては、一般の市水(水道水や井戸水等)をそのまま使用することができる。それらの市水を予め純水化装置にかけて、水に溶け込んだ粒子(各種の陰イオンや陽イオン等々)を除去することは、却って、その後行われる衝突回収処理(加圧手段として高圧用途のプランジャポンプが使用される場合)における加圧装置に無用な負荷を掛け、無駄に電力を消費することが確認された。
【0026】
[衝突回収処理]
衝突回収処理(ステップ102)は、処理対象となる水(原水)を、例えば、高圧用途のプランジャポンプにて加圧(圧力100~245MPa)した後、小孔(内径0.1~0.35mm)より高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させた後に回収する衝突回収処理を、1回又は2回以上繰り返して実行する(ステップ103)ものである。
【0027】
先に説明したように、衝突回収処理の具体的な方法は区々である。例えば、所定のチャンバー内において、1の小孔より高速に噴出される水を所定物体に衝突させた後、これを回収する処理、同様に所定のチャンバー内において、2以上の小孔より高速に噴出される水を互いに衝突(正面衝突または斜め衝突)させた後、これを回収する処理、または水が満たされた貯蔵内において、1又は2以上の小孔より貯水中に高速で噴出された水を、貯水と共に回収する処理などにて実現することができる。
【0028】
[希釈増量処理]
希釈増量処理(ステップ104)は、衝突回収処理(ステップ102)と純水化処理(ステップ105)との間において、衝突回収処理(ステップ102)を経た水を、少なくとも衝突回収処理を経ていない水(例えば、「原水」そのもの)により希釈増量するものである。
【0029】
この希釈増量処理(ステップ104)の技術的な意義は、後に詳述するように、衝突回収処理(ステップ102)にて生成された水の性質をさほど低下させることなく、最終的な処理水の生産量を増加させることにある。
【0030】
[純水化処理]
純水化処理(ステップ105)は、希釈増量処理(ステップ104)を経た水に対して、少なくとも逆浸透膜(RO膜)式の純水化処理を実行するものである。この純水化処理(ステップ105)の一具体例が、図2に示されている。同図に示されるように、この純水化処理は、逆浸透膜式(RO膜式)処理(ステップ1051)と、電気再生式(EDI式)処理(ステップ1052)と、樹脂交換式処理(ステップ1053)とを含んで構成される。
【0031】
・逆浸透膜式(RO膜式)処理
ここで、逆浸透膜式(RO膜式)処理とは、ROモジュールを用いて水に溶け込む微細な物質をほぼ全て除去する処理である。ROモジュールは、例えば、浸透膜(メンブレン)を何層にも重ねてのり巻き状に巻き、容器に収めて大きな表面積で多くの水を処理することができる。逆浸透膜により、原水が透過水(純水)と濃縮水(排水)に分離される。原水中の不純物を排水として処理するため、目詰まりも少なく長期間使用できる。
【0032】
・電気再生式(EDI式)処理
電気再生式(EDI式)処理(ステップ1052)は、RO膜処理された水をより高純度な純水に変換するための処理であり、イオン交換樹脂と交換膜により脱塩処理し、同時に電気を利用して再生を行うことで、連続的に高純度水素イオン含有水を生成することができる。再生操作は不要であり、薬品を使用せず、また再生廃液も発生しない利点がある。
【0033】
・樹脂交換式処理
樹脂交換式処理(ステップ1053)は、水中に溶存するイオン(例えば、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、塩化物イオン等々)を除去する処理であり、自ら持つイオンを水中に出して、代わりに水中に存在する他のイオンと交換する性質を有するイオン交換体を使用する。多孔性の合成樹脂で作ったイオン交換体をイオン交換樹脂と称する。イオン交換樹脂は、直径約0.5mm程度の球体である。イオン交換樹脂には、陽イオン(プラスイオン)を交換する陽イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂)と、陰イオン(マイナスイオン)を交換する陰イオン交換樹脂(アニオン交換樹脂)が存在し、これら2種類の樹脂を単独で使用したり、混合して利用したりする。
【0034】
≪システムの実施形態≫
次に、以上説明した水の製造方法を工業的に実施するためのシステムについて、図3図9を参照しながら詳述する。本発明システム全体の概念図が、図3に示されている。
【0035】
同図に示されるように、この水の製造システムは、衝突回収装置201と、希釈装置202と、純水化装置203とを含んで構成されている。この例にあっては、純水化装置203は、RO膜式純水装置2031と、EDI式純水装置2032と、樹脂交換式純水装置2033とを含んで構成される。
【0036】
[衝突回収装置]
衝突回収装置201は、処理対象となる水(原水)を加圧(例えば、245気圧程度)した後、小孔(例えば、直径0.1mm程度)より高速に噴出させ、これを所定の物体に衝突させた後に回収する処理を、1回又は2回以上繰り返して実行する第1の装置として機能するものである。ここで、衝突回収処理としては、公知の様々な構成を採用することができる。すなわち、衝突回収処理としては、例えば、所定の密閉チャンバー内において、1の小孔より高速に噴出される水を所定物体(例えば、セラミックボール)に衝突させた後、これを回収する処理、同様に所定のチャンバー内において、2以上の小孔より高速に噴出される水を互いに衝突(正面衝突または斜め衝突)させた後、これを回収する処理、同様に所定のチャンバー内において1の小孔より高速に噴出される水をダイヤモンドの隙間に注入し、これに剪断力を強制的に付与するもの、さらには水が満たされた貯槽内において、1又は2以上の小孔より貯水中に高速で噴出される水を、貯水と共に回収する処理(例えば、図9参照)を含むものであってもよい。
【0037】
そのような衝突回収装置201としては、例えば市販の湿式微粒化装置を用いることができる。湿式微粒化装置による衝突回収処理は、例えば次のように行われる。まず、水を高圧用途のプランジャポンプにより加圧して加圧水を得る。ついで、得られた加圧水を2系統に分岐したのち、それらをチャンバー内の別々の小孔から高速で噴出させ、90度の角度で両者を斜め衝突させる。一例として、チャンバー内の小孔の径は0.1mm程度、加圧水同士の衝突時の相対速度は400m/秒とする。
【0038】
加圧水同士の衝突部の概念図が図5に示されている。同図に示されるように、2つの小孔(「小孔1」,「小孔2」、いずれも口径0.1mm程度)から噴出された水は、互いに90度の角度で斜め衝突させられる。その結果、チャンバーの空室内においては、高温高圧状態(例えば、150~350℃、0.5~25MPa)が出現する。
【0039】
こうして生成された衝突済水は回収されて、以上の加圧・衝突・回収処理が必要回数繰り返されたのち、最終的に「処理水1」として次工程へと送られる。
【0040】
[希釈装置]
次に、希釈装置及びRO膜式・純水化装置の概念図が図6に示されている。同図に示されるように、「処理水1」は希釈装置202へと送られる。希釈装置202は、貯槽202a内において、「処理水1」に対して「原水」を加え混合することによって、「処理水1」を「原水」により希釈増量する。なお、本発明において希釈濃度は特に限定せず用途に応じて適宜設定できるが、「処理水1」:「原水」=1:2~1:20程度の範囲が現実的である。こうして、「処理水1」を「原水」にて希釈してなる希釈水は、「処理水2」として次工程へと送られる。
【0041】
本願発明者らの知見によれば、高圧用途のプランジャポンプを使用した衝突回収処理と純水化処理とからなる2つの処理を施す場合には、衝突回収処理を行った後に純水化処理を行うことが好ましい。衝突回収処理を行う際には噴出圧力を高圧にすることで生産効率が上げられるが、純水化処理を施した後の水は純度が高いためか装置への負荷が大きく、その負荷の高さから高圧をかけることは困難である。そのため純水化処理の後に衝突回収処理を行う場合には比較的低い圧力で衝突回収処理を行わなければならず、生産効率の面から好ましくない。一方、衝突回収処理を行った後に純水化処理を行う場合には、衝突回収処理を施す原水は水道水などの不純物を含む水であるため装置への負荷は低く、高圧で衝突回収処理を行えるので逆の順番で処理を行う場合と比べて生産効率が高い。また、理由は不明だが、衝突回収処理を経た水を一定量の衝突回収処理を経ていない水で希釈した場合には、得られた水(処理水2)の表面張力は配合割合から想定される値よりも低いものとなる。
【0042】
[RO膜式・純水化装置]
次に、RO膜式・純水化装置2031は、加圧ポンプ2031aと複数のROモジュールM1~M5とを含んで構成される。図示のROモジュールM1~M5は、浸透膜(メンブレン)を何層にも重ねてのり巻き状に巻き、容器に収めて大きな表面積で多くの水を処理することができる、いわゆるスパイラル型モジュールとされているが、これに代えて他の形式のROモジュール(例えば、ホロファイバ型ROモジュール)を使用してもよい。加圧ポンプ2031aを介して送り込まれた「処理水2」は、ROモジュールを構成する逆浸透膜により、透過水(「処理水3」)と濃縮水(排水)に分離される。「処理水2」の中の不純物を排水として処理するため、目詰まりも少なく長期間使用することができる。こうして生成された「処理水3」は、次工程へと送られる。
【0043】
[EDI式・純水化装置]
次に、EDI式・純水化装置の概念図が図7に示されている。同図に示されるように、EDI式・純水化装置は、陽極と陰極との間に、陰イオン交換膜(A)と陽イオン交換膜(C)とを交互に並べ、その間にイオン交換樹脂を封入した構造を有する。図中矢視されるように、水中の陰イオンは陽極側に、陽イオンは陰極側に泳動するが、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜の働きで、イオンが希釈される部屋、濃縮される部屋が現れる。希釈される部屋を通過する水は純水化されて「処理水4」となり、濃縮される部屋を通過する濃縮水は排水される。イオン交換樹脂はイオンを一時的に捕捉する役割を担っている。こうして得られた「処理水4」は次工程へと送られる。
【0044】
[樹脂交換式・純水化装置]
次に、樹脂交換式・純水化装置の構成について説明する。樹脂交換式・純水化装置の概念図が図8に示されている。同図に示されるように、樹脂交換式・純水化装置2033は、水の流通する容器内にイオン交換樹脂を満たした構造を有する。イオン交換樹脂多孔性の合成樹脂で作ったイオン交換体であって、みずからが持つイオンを水中に放出する代わりに、水中に存在する他のイオンと交換する性質を有する。一般的に、イオン交換樹脂は、直径約0.5mm程度の球体であり、ちょうど魚の卵、例えば、タラコ、数の子のような外観を呈し、その色は褐色、黄色、白色、黒色など様々でやや透明なものから不透明なものまで存在する。イオン交換樹脂には、陽イオン(プラスイオン)を交換する陽イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂)と、陰イオン(マイナスイオン)を交換する陰イオン交換樹脂(アニオン交換樹脂)が存在し、これら2種類の樹脂を単独で利用したり、混合したりして利用する。なお、本発明においては、RO膜式・純水化装置による純水化処理に加えて、EDI式・純水化装置及び/又は樹脂交換式・純水化装置にて更に純水化処理を行った水を超純水と称する。
【0045】
≪システムの作用・製造水の性質など≫
次に、以上説明した水の製造システムの作用、並びに、製造された水の性質ないし用途について説明する。
【0046】
[システムの作用]
衝突回収装置201に供給された「原水」は、高圧用途のプランジャポンプを介して十分に加圧(例えば、245気圧程度)された後、密閉されたチャンバーへと導入される。導入された加圧水は2系統に分岐された後、チャンバー内の空所内において、2つの小孔(例えば、口径0.1mm程度)から高速で噴出され、互いに90度の角度で斜め衝突(例えば、相対速度400m/秒)する(図5参照)。これにより、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されることにより、空所2016a内には、高温高圧状態(例えば、150~350℃、0.5~25MPa)が生成される。以上の高速衝突・回収処理は、必要回数繰り返され、最終的に、「処理水1」となって次工程へと送り込まれる。
【0047】
こうして得られた「処理水1」は、希釈装置202へと送り込まれ、これに任意の希釈水(一例として原水)が加えられて希釈増量される。「処理水1」を任意の希釈水にて希釈してなる希釈水は、「処理水2」として次工程へと送られる。
【0048】
続いて、希釈処理により増量された「処理水2」は、加圧ポンプ2031aを介してRO膜式・純水化装置2031へと送り込まれ、ROモジュールM1~M5を透過することで「処理水3」が得られる。
【0049】
続いて、「処理水3」は、必要により、EDI式・純水化装置2032及び/又は樹脂交換式・純水化装置2633へと送られ、さらに純度の高い高純度水素イオン含有水である「処理水4」又は「処理水5」となる。
【0050】
こうして得られた「処理水4」又は「処理水5」は、化粧品、洗浄液など、様々な分野での応用が期待される。このようなシステムにより得られた「処理水4」及び「処理水5」は、純水化処理を経ており理論純水に近い電気抵抗値を有しているにも拘わらず、純水よりも表面張力が低く浸透性に優れている。一般的に水の純度が上がると表面張力は上昇するため、純水化処理を経た処理水の表面張力は原水の表面張力よりも高くなるはずであるが、実際には原水よりも低い表面張力を有している。理由は不明であるが衝突回収処理によるものと考えられる。
【0051】
本発明においては、衝突回収処理と純水化処理を施した後に、より表面張力を低下させるための追加処理を行ってもよい。追加処理の詳細フローチャートが、図3に示されている。追加処理においては、後述のナノバブル処理(ステップ1071)とプラズマ処理(ステップ1072)が行われる。
【0052】
[ナノバブル処理]
純水化処理を行った水にナノバブル処理(ステップ1071)を施すことで、より表面張力を低下させることができる。ナノバブル処理は、既知のナノバブル発生装置、マイクロバブル発生装置などを用いることで施すことができる。
【0053】
[プラズマ処理]
純水化処理を行った水にプラズマ処理(ステップ1072)を施すことで、より表面張力を低下させることができる。一例として、プラズマ処理は次のように行われる。空気中で高電圧放電(一例として15000~25000V)を行い高電圧プラズマを発生させる。発生させた高電圧プラズマを水中ブロワで水中に吹き込むことで、水にプラズマ処理を施すことができる。なお、本発明においてナノバブル処理とプラズマ処理の双方を行う場合には、どちらの処理を先に行ってもよい。また、ナノバブル処理とプラズマ処理はいずれか一方だけでも表面張力を低下させることができるが、両方を施すことでより表面張力を低下させ、更に浸透性を向上させることができる。
【0054】
[処理手順を入れ替わる場合の一例]
本発明においては、純水化処理を施した後に衝突回収処理を行うように構成してもよい。純水化処理を施した後の水には高圧がかけにくいため生産効率は低下するものの、必要に応じて手順を入れ替えることができる。また、使用する装置の変更や将来的な装置の進化等によっては、上述のデメリットは解消される可能性も考えられる。
【0055】
[衝突回収装置の他の例]
なお、以上の説明では、本発明システムにおいて、衝突回収装置201として所定のチャンバー内において2以上の小孔より高速に噴出される水を互いに衝突させた後、これを回収するものを示したが、衝突回収処理の構成はこれに限定されない。例えば、図9に示されるように、水で満たされた貯槽内において、1の小孔(211e)より貯水(E1)中に高速で噴出される水を、貯水と共に回収(211d)する処理を含むものであっても良い。すなわち、図9の衝突回収装置211において、211aは貯槽、211bは撹拌機構、211cは廃棄部、211dは槽内水採取部、211eは加圧水噴射部、211fは取出口、211gは加圧機構、211hは低圧機構であり、その動作は、日本国特許第5913670公報に詳細に記述されている。
【0056】
[化粧品関連用途]
本発明に係る水は表面張力が低く、皮膚への浸透性にも優れるため化粧品用途に好適に用いることができる。衝突回収処理と純水化処理を施した水でも表面張力が低く優れた効果が得られるが、ナノバブル処理及び/又はプラズマ処理を施した水であればより表面張力が低く、浸透性にも優れたものとなる。化粧品の利用部位としては、頭髪、頭皮、顔、身体、手足など身体全体へ利用することができる。また、適用商品としては、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、シャンプー、リンス、液体せっけん等種々の化粧品及びボディ用品に適用することができる。
【0057】
[半導体洗浄液]
本発明に係る水は表面張力が低く純水化処理が施されているため、半導体洗浄液としても好適に用いることができる。衝突回収処理と純水化処理を施した水でも表面張力が低く優れた効果が得られるが、ナノバブル処理及び/又はプラズマ処理を施した水であればより表面張力が低く、半導体の微細な構造にも入り込みやすい優れたものとなる。
【0058】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
[実施例1に係る水の製造]
栃木県下都賀郡壬生町の水道水を原水とし、この原水を湿式微粒化装置で200MPaの条件で1回衝突回収処理を行い、その後に処理水の9倍量の原水を加えて10倍に希釈する。希釈後の水にRO膜にて純水化処理を施した後、EDI式・純水化装置及び樹脂交換式・純水化装置を通すことにより、実施例1にかかる水が得られた。
【0060】
[実施例2]
実施例1にて得られた水に、ナノバブル発生装置で送水圧0.2MPa、気泡径100nm以下の条件で処理を施しナノバブル処理水を得た。直流高電圧変圧器にて20000Vの電圧で高電圧プラズマを発生させ、発生した高電圧プラズマを水中ブロワにてナノバブル処理水に吹き込むことで実施例2にかかる水が得られた。
【0061】
[比較例1]
栃木県下都賀郡壬生町の水道水を原水とし、この原水にRO膜にて純水化処理を施した後、EDI式・純水化装置及び樹脂交換式・純水化装置を通すことにより比較例1にかかる水が得られた。
【0062】
[実施例3]
比較例1にて得られた水に、湿式微粒化装置で100MPaの条件で1回衝突回収処理を行うことで実施例3にかかる水が得られた。
【0063】
[実施例4]
比較例1にて得られた水に、湿式微粒化装置で100MPaの条件で2回衝突回収処理を行うことで実施例4にかかる水が得られた。
【0064】
[比較例2]
市販の精製水を用意し、比較例2にかかる水とした。
【0065】
[比較例3]
栃木県下都賀郡壬生町の水道水を採取し、比較例3にかかる水とした。
【0066】
<表面張力の測定>
各実施例及び比較例の水について、ペンダントドロップ法にてそれぞれ90回ずつ表面張力を測定し、その平均値をそれぞれの表面張力とした。表面張力の測定結果が図10に示されている。
【0067】
一般的に水の純度が上がると表面張力は上昇する傾向にあるが、実際のところ、図10より明らかなように、比較例3の水道水と比べて、比較例2の市販の精製水は、表面張力がわずかであるが高くなっており、さらに比較例1で見られるように、比較例3を原水として用いて純水化した水の場合には、著しく表面張力が高くなっていた。系統的な実験誤差に基づくと思われるズレがあるものの、比較例3の測定結果は、理論純水の表面張力の値(摂氏20度で72.75mN/m)に対応するものと思われる。また、衝突回収処理、希釈処理、純水化処理に加えてナノバブル処理、プラズマ処理を施した実施例2の水は、実施例1の水よりも表面張力が低かった。この結果から、ナノバブル処理とプラズマ処理も表面張力の低下に寄与するものと認められる。
【0068】
純水化処理の後に衝突回収処理を行った実施例3,4の水は純水化処理のみを行った比較例1の水よりも表面張力が低かったことから、衝突回収処理を行うことで水の表面張力は低下し、衝突回収処理を複数回行うことでより表面張力を低下させることができるものと認められる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、高圧噴射・衝突回収処理を利用して原水を改質することにより、様々な用途に適した、新たな性質を有する水、その製造方法及び製造システムを提供し、関連産業に貢献することができる。
【符号の説明】
【0070】
201、211 衝突回収装置
202 希釈装置
203 純水化装置
2031 RO膜式純水装置
2032 EDI式純水装置
2033 樹脂交換式純水装置
2031a 高圧ポンプ
M1~M5 ROモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10