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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】塗装金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20231214BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20231214BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D3/02 E
B05D7/14 J
B05D7/14 P
B05D7/24 301T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020020716
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126595
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】川越 崇史
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6124353(JP,B2)
【文献】特開2012-239988(JP,A)
【文献】特開平4-330966(JP,A)
【文献】特開平10-109062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに表裏の関係にある第1面および第2面を有し、かつ熱伝導率が10W/mK以上の基材の前記第1面上に、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する工程と、
前記基材上に塗布された、前記活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させて、硬化膜を形成する工程と、
前記硬化膜が形成された前記基材に、前記第2面側から近赤外線を照射する工程と、
を有する、
塗装金属板の製造方法。
【請求項2】
前記近赤外線の主波長が0.8~3.0μmである、
請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項3】
前記基材の前記第2面の放射率が、0.4~1.0である、
請求項1または2に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項4】
前記近赤外線の光源がハロゲンランプである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項5】
前記基材が、金属板と、前記金属板より前記第2面側に配置された近赤外線吸収層と、を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項6】
前記近赤外線を照射する工程における、前記基材の前記第1面側の温度が、100~300℃である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、意匠性の高い金属板が求められており、金属板上に様々な色の塗膜を形成したり、金属板表面に細かな模様を付したりすることが求められている。そこで、金属板上に、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、硬化膜を形成すること等が検討されている。
【0003】
ここで、活性エネルギー線硬化型組成物を用いた印刷方法によれば、様々な基材上に、塗膜を形成できるという利点がある。一方で、当該活性エネルギー線硬化型組成物の塗膜を内部まで十分に硬化させたり、基材と硬化膜との密着性を高めたりすることが難しく、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射した後、さらにヒーターで加熱して、硬化性を高める方法が記載されている。また、予備加熱した基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、記録画像の平滑性や密着性を高めること等も提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
さらに、活性エネルギー線硬化型組成物を基材上に塗布し、硬化させて硬化膜を形成した後、当該硬化膜に近赤外線を照射する方法も提案されている(特許文献3および特許文献4)。当該方法によれば、硬化膜が軟化することで、硬化膜が基材に密着する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-160527号公報
【文献】特開2007-076225号公報
【文献】特許第6124353号
【文献】特許第6294519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの鋭意検討によれば、特許文献3や特許文献4のように、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化膜を形成後、硬化膜に近赤外線を照射すると、硬化膜と基材との密着性にムラが生じることが見出された。その理由は、以下のように考えられる。複数色の活性エネルギー線硬化型組成物の硬化膜を基材上に形成した場合、硬化膜の色に応じて、近赤外線の吸収量が相違する。例えば、近赤外線を吸収しやすい色(例えば、暗い色)の硬化膜では、近赤外線の照射によって温度が上昇しやすい。一方、近赤外線を吸収し難い色(例えば、淡い色)の硬化膜では、近赤外線を照射しても温度が上昇し難い。
【0008】
そのため、暗い色の硬化膜が十分に軟化する程度、近赤外線を照射すると、淡い色の硬化膜が十分に軟化せず、その密着性が高まらない。一方、淡い色の硬化膜が十分に軟化する程度、赤外線を照射すると、濃い色の硬化膜の温度が過度に上昇してしまい、当該硬化膜が熱劣化する、という課題があった。
【0009】
また、単色の硬化膜に近赤外線を照射する場合であっても、硬化膜の色に合わせて照射エネルギーを調整しなければならない、という課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、基材と、当該基材上に形成された、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化膜を有する塗装金属板の製造方法であって、熱劣化等を生じさせることなく、硬化膜を均一に基材に密着させることが可能な、塗装金属板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の塗装金属板の製造方法を提供する。
互いに表裏の関係にある第1面および第2面を有し、かつ熱伝導率が10W/mK以上の基材の前記第1面上に、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する工程と、前記基材上に塗布された、前記活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させて、硬化膜を形成する工程と、前記硬化膜が形成された基材に、前記第2面側から近赤外線を照射する工程と、を有する、塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗装金属板の製造方法によれば、硬化膜に熱劣化等を生じさせることなく、硬化膜を均一に基材に密着させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述のように、従来、基材の一方の面に活性エネルギー線硬化型組成物(以下、単に「硬化型組成物」とも称する)を塗布し、これを硬化させた後、当該硬化膜に近赤外線を照射することが、検討されていた。しかしながら、硬化型組成物を複数色塗布すると、色ごとに昇温状態が変わり、基材と硬化膜との密着性にムラが生じやすかった。また、温度が高まりやすい色の硬化膜では、熱劣化等も生じやすかった。
【0014】
これに対し、本発明では、熱伝導率を10W/mK以上である基材の一方の面(第1面)に硬化型組成物を塗布する(硬化型組成物の塗布工程)。そして、当該塗膜に活性エネルギーを照射し、硬化膜を形成する(硬化型組成物の硬化工程)。その後、基材に、他方の面(第1面の反対側に位置する第2面)側から近赤外線を照射する(近赤外線照射工程)。本発明では、近赤外線照射工程において、熱伝導率の高い基材に、第2面側から近赤外線を照射するため、基材全体に均等に熱が伝わる。そして、基材の第1面側に配置された硬化膜に、基材を介して、均等に熱が伝わる。したがって、硬化膜の色や種類等に関係なく、硬化膜を均一に軟化させることができ、基材と硬化膜との密着性をムラなく高めることができる。また、当該方法によれば、局所的に温度が高まり難く、硬化膜の一部が熱劣化したりすることも抑制できる。以下、本発明の塗装金属板の製造方法の各工程について、詳しく説明する。
【0015】
1.硬化型組成物の塗布工程
本工程では、所定の熱伝導率を有する基材一方の面(第1面)に、硬化型組成物を塗布する。硬化型組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択される。硬化型組成物の塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ロールコート法、バーコート法等が含まれる。これらの中でも、多色の模様や、複雑な模様を短時間で容易に形成できるという観点でインクジェット法が好ましい。
【0016】
本工程では、硬化型組成物を1種(例えば1色)のみ塗布してもよく、2種以上(例えば2色以上)を同時または順に塗布してもよい。本工程で塗布する硬化型組成物の種類や、塗布面積、塗布パターン等は、塗装金属板の用途に合わせて適宜選択される。また、硬化型組成物を複数種塗布する場合、1種塗布する毎に、後述の硬化工程を行ってもよく、複数種(複数色)塗布してから、後述の硬化工程を行ってもよい。
【0017】
さらに、硬化型組成物の塗布量は特に制限されず、硬化工程後の厚みが1~500μm程度となるように塗布することが好ましく、2~150μm程度とすることがより好ましい。なお、硬化型組成物を同一箇所に複数回塗布して、上記厚みを達成してもよい。
【0018】
(硬化型組成物)
本工程で塗布する硬化型組成物は、活性エネルギーの照射によって硬化可能な組成物であればよい。本明細書において、活性エネルギーの例には、電子線、紫外線、α線、γ線、エックス線等が含まれる。
【0019】
ここで、硬化型組成物は、従来、金属板への印刷に使用されている公知の組成物を使用可能である。硬化型組成物には、ラジカル重合型組成物とカチオン重合型組成物が存在し、本発明では、いずれも使用可能である。
【0020】
ラジカル重合型組成物は、例えば、光重合性化合物、光重合開始剤、および着色剤を含む組成物とすることができる。光重合性化合物は、活性エネルギーの照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、(メタ)アクリロイルオキシ基を1以上6以下有する、公知の(メタ)アクリル系モノマーまたは(メタ)アクリル系オリゴマーが含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリロイルとの記載は、メタクリロイルおよびアクリロイルのいずれか一方、もしくは両方を表し、(メタ)アクリルとの記載は、メタクリルおよびアクリルのいずれか一方、もしくは両方を表す。ラジカル重合型組成物中に、光重合性化合物は1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0021】
上記光重合性化合物は、ラジカル重合型組成物の固形分中に50~90質量%含まれることが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、後述の近赤外線照射工程において、ラジカル重合型組成物の硬化膜が十分に軟化して、基材に密着しやすくなる。
【0022】
一方、光重合開始剤は、活性エネルギーの照射によって、ラジカルを発生可能な化合物であればよく、後述の硬化工程で照射する活性エネルギーの波長に対応する吸収波長を有する化合物が好ましい。光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が含まれる。特にフォスフィンオキサイド系化合物は370nm以上に吸収波長を有することから、インク層の深部硬化を促進するために添加することがより好ましい。ラジカル重合型組成物中に、光重合開始剤は1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0023】
上記光重合開始剤は、ラジカル重合型組成物の固形分中に1~25質量%含まれることが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合開始剤の量が当該範囲であると、後述の硬化工程において、上記光重合性化合物を硬化させることが可能となる。
【0024】
また、着色剤の種類は特に制限されず、公知の顔料または染料を使用できる。着色剤は、ラジカル重合型組成物の固形分中に0.1~10質量%含まれることが好ましい。ラジカル重合型組成物中に、着色剤は1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0025】
一方、カチオン重合型組成物は、光重合性化合物と、光酸発生剤と、着色剤とを含む組成物とすることができる。
【0026】
光重合性化合物は、活性エネルギーの照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、オキシラン基を有するエポキシ化合物が含まれる。エポキシ化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、および脂肪族エポキシドが含まれる。
【0027】
また、光重合性化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライドにエポキシ基を導入したエポキシ化脂肪酸エステルやエポキシ化脂肪酸グリセライド等であってもよい。さらに、光重合性化合物は、オキセタン環を含有する化合物やビニルエーテル化合物であってもよい。カチオン重合型組成物は、光重合性化合物を1種のみを含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0028】
上記光重合性化合物は、カチオン重合型組成物の固形分中に60~95質量%含まれることが好ましい。カチオン重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、後述の近赤外線照射工程において、カチオン重合型組成物の硬化膜が十分に軟化して、基材に密着しやすくなる。
【0029】
光酸発生剤は、例えば、芳香族オニウム化合物の塩;スルホン酸を発生するスルホン化物;ハロゲン化水素を発生するハロゲン化物等が含まれる。上記光酸発生剤は、カチオン重合型組成物の固形分中に3~20質量%含まれることが好ましい。カチオン重合型組成物中の光酸発生剤の量が当該範囲であると、後述の硬化工程において、上記光重合性化合物を硬化させることが可能となる。
【0030】
また、カチオン重合型組成物に含まれる着色剤は、ラジカル重合型組成物に含まれる着色剤と同様である。
【0031】
上記硬化型組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分の例には、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、表面調整剤等が含まれる。
【0032】
(基材)
一方、硬化型組成物を塗布する基材は、熱伝導率が10W/mK以上であればその種類は特に制限されない。基材の熱伝導率は、15W/mK以上がより好ましく、30W/mKがさらに好ましく、40W/mKが特に好ましい。なお、基材が複数の材料からなる場合、基材の厚み方向の熱伝導率が10W/mKであればよい。基材の熱伝導率は、JIS R1611:2010に準拠して測定できる。具体的には、基材を10mm角に切断し、レーザフラッシュ法熱物性測定装置LFA-502(京都電子工業社製)等を用いて厚み方向の熱伝導率を測定する。基材には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、一部に熱伝導率が異なる領域が含まれていてもよいが、基材の硬化型組成物を塗布する領域の厚み方向の熱伝導率は、均一であることが好ましい。
【0033】
また、基材は平板状であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で立体的な形状であってもよい。さらに、硬化型組成物の塗布パターンに合わせて、凹凸を有していてもよい。また、基材の厚みは一定であってもよく、一部異なっていてもよい。基材の厚みは特に制限されず、用途に合わせて適宜選択されるが、通常0.1~5.0mm程度が好ましく、0.25~1.6mm程度がより好ましい。
【0034】
基材の材料は、上記熱伝導率を満たすことが可能であれば特に制限されないが、通常、金属板を含むことが好ましい。金属板の例には、溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。
【0035】
基材を構成する金属板の第1面側および第2面側にはそれぞれ、本発明の効果を阻害しない範囲で、化成処理皮膜が形成されていてもよい。例えば、基材(金属板)に腐食が生じると、腐食部分の熱伝導率や放射率が、腐食のない部分と異なったりしやすい。そして、後述の近赤外線照射工程において、基材の第2面側から近赤外線を照射した際に、硬化膜側に均一に熱が伝わり難くなることがある。金属板表面に化成処理皮膜が形成されていると、このような腐食が抑制される。
【0036】
化成処理皮膜は、金属板の第1面側および第2面側の両面に形成されていることが好ましい。化成処理皮膜を形成するための化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理等が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。
【0037】
さらに、上記金属板の第1面側および第2面側には、下塗り塗膜や上塗り塗膜等がさらに形成されていてもよい。下塗り塗膜は、金属板上に直接、または上記化成処理皮膜の表面に形成され、硬化型組成物の硬化膜の密着性を向上させたり、基材(金属板)の耐食性を向上させたりする層である。
【0038】
下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を金属板または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料に含まれる樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類の例には、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が含まれる。エポキシ樹脂は、極性が高く、かつ金属板に対する密着性が良好であることから特に好ましい。また、下塗り塗膜の厚みは、塗装金属板の用途や種類に合わせて適宜選択され、例えば5μm程度である。
【0039】
また、上塗り塗膜は、上記下塗り塗膜上に形成され、硬化型組成物の硬化膜の密着性を向上させたり、基材(金属板)の耐食性を向上させたりする層である。また、硬化型組成物をピニングしたり、硬化型組成物の濡れ広がりを調整したりするインク受理層として機能する層であってもよい。上塗り塗膜は、例えば硬化型組成物と同種の樹脂と、必要に応じて顔料と、を含む層とすることができる。上塗り塗膜が、硬化型組成物と同種の樹脂を含むと、硬化型組成物の硬化膜と上塗り塗膜との親和性が高くなり、硬化膜の基材に対する密着性を高めることができる。
【0040】
上塗り塗膜に含まれる樹脂の例には、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂等が含まれる。硬化型組成物の硬化膜との密着性の観点から、上塗り塗膜に含まれる樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂またはポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0041】
ポリエステルは、数平均分子量が5000以上であるポリエステルポリマーをメラミン樹脂で架橋したものが好ましい。ポリエステルポリマーの水酸基価は、40mgKOH/g以下が好ましく、ガラス転移点は、0~70℃が好ましい。ガラス転移点が0℃以上であると、上塗り塗膜の硬度が十分に高くなり、70℃以下であると、基材の加工性が良好になる。ポリエステルポリマーを架橋させるメラミン樹脂の種類は特に制限されないが、メチル化メラミン樹脂が好ましい。当該メチル化メラミン樹脂中のメトキシ基の量は、メチル化メラミン樹脂中の官能基の総量に対して80mol%以上が好ましい。メラミン樹脂は、メチル化メラミン樹脂を単独で使用してもよく、他のメラミン樹脂と併用してもよい。上記ポリエステルポリマーとメラミン樹脂とを反応させる際の配合量は、ポリエステルポリマー:メラミン樹脂=70:30(質量比)程度が好ましい。
【0042】
ポリエステルポリマーをメラミン樹脂で架橋させる際には、触媒を使用してもよい。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸等が含まれる。触媒の使用量は、反応時の固形分総量に対して0.1~8質量%が好ましい。ポリエステルポリマーをメラミン樹脂で架橋させる際には、アミンを使用してもよい。アミンは、触媒反応を中和するための化合物であり、その例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が含まれる。アミンの使用量は、特に限定されないが、酸(触媒)に対して当量の50モル%以上が好ましい。
【0043】
また、上記アクリル樹脂は、アクリル樹脂エマルションを硬化させたものが好ましい。当該エマルションにおけるアクリル樹脂の分子量は、20万~200万が好ましい。アクリル樹脂の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0044】
また、上塗り塗膜にフッ化ビニリデンが含まれる場合、フッ化ビニリデンと共に熱可塑性アクリル樹脂も含まれることが好ましい。例えば、フッ化ビニリデンと熱可塑性アクリル樹脂とが、その質量比20/80~50/50で含まれることが好ましい。
【0045】
一方、上塗り塗膜に含まれる顔料の例には、体質顔料(ビーズを含む)や着色顔料が含まれる。体質顔料の例には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、樹脂ビーズ、ガラスビーズ等が含まれる。樹脂ビーズの例には、アクリル樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリエステルビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、エポキシ樹脂ビーズ等が含まれる。
【0046】
これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものでもよいし、市販品を利用してもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」、「タフチック AR650L(平均粒径100μm)」および「タフチック AR650LL(平均粒径150μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリルビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」が含まれる。
【0047】
一方、着色顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、コバルトブルー等が含まれる。顔料の量は、顔料の種類、粒径や樹脂組成物(塗料)中の含量等に応じて適宜選択される。
【0048】
上塗り塗膜の厚みは、3~30μmであることが好ましい。上塗り塗膜の厚みが薄すぎる場合、上塗り塗膜の耐久性および隠蔽性が不十分になるおそれがある。一方、上塗り塗膜が厚すぎる場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなるおそれがある。また、基材の熱伝導率が低下することもある。
【0049】
なお、基材の第2面には、上記上塗り塗膜や下塗り塗膜が形成されていてもよいが、別途、第2面の放射率を高めるための近赤外線吸収層が最表面に配置されていてもよい。基材の第2面の表面に色ムラがあったり、腐食があったりすると、基材表面の放射率が異なり、後述の近赤外線照射工程において、基材の第2面側から近赤外線を照射した際に、所的に温度が異なる箇所(昇温ムラ)が発生することがある。これに対し、基材の第2面に、近赤外線吸収層が配置されていると、基材の第2面全体の放射率を均一にしやすく、ひいては、硬化型組成物の硬化膜に均一に熱を伝えやすくなる。
【0050】
基材の第2面側の放射率(例えば、近赤外線吸収層の放射率)は、0.4~1.0が好ましく、0.6~1.0がより好ましく、0.8~1.0がさらに好ましい。基材の第2面側の放射率が0.4未満であると、近赤外線照射工程におけるエネルギー利用効率が低くなる。また、基材の第2面側の放射率が低いと、後述の近赤外線照射工程で照射された近赤外線が吸収されず、周囲に近赤外線が反射しやすい。そのため、近赤外線照射装置内で近赤外線を吸収しやすい部分が部分的に加熱されることがあり、その結果、基材の第1面側の温度分布が不均一になることがある。放射率は、市販の放射率測定器によって、以下の条件で測定される値である。
測定温度:23℃
相対湿度:相対湿度50%
測定方式:定温放射源からの赤外線照射による反射エネルギー量検出/演算方式
測定波長:2~22μm
測定面積:φ15mm
測定距離:12mm
【0051】
近赤外線吸収層は、樹脂と、近赤外線吸収可能な近赤外線吸収物質を有する層とすることができる。樹脂は、赤外線照射による劣化が少ないものが好ましく、その例には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレ-ト樹脂、各種天然ゴムおよび合成ゴム等が含まれる。
【0052】
一方、近赤外線吸収物質の例には、一般に黒色の外観を呈する物質等が含まれ、カーボンブラック等の黒色顔料;酸化第二鉄、二酸化マンガン、ブラックニッケル等の遷移元素の酸化物:CuCr複合酸化物、CuFeMn複合酸化物、CuCrMn複合酸化物、CoFeMn複合酸化物等の遷移元素の複合酸化物;が含まれる。また、黒色のセラミックスである、TiCやTiN、TiB、TiO、ZrC等の粒子も使用可能である。
【0053】
また、市販の暗い色(例えば黒、グレー等)の塗料等を塗布し、近赤外線吸収層を形成してもよい。
【0054】
近赤外線吸収層の厚みは1~100μmが好ましい。近赤外線吸収層の厚みが1μm以上であると、十分な放射率が得られやすい。一方、近赤外線吸収層の厚みが100μm以下であると、十分な熱伝導率が得られやすい。さらに、ワキと呼ばれる外観不具合を防止するために、より好ましい近赤外線吸収層の厚みは、2~30μmである。
【0055】
なお、上記金属板が黒色めっきされている場合には、近赤外線吸収層を形成しなくても、基材の第2面側の放射率を高めることができる。
【0056】
2.硬化型組成物の硬化工程
本工程では、上述の塗布工程で基材上に塗布した硬化型組成物の塗膜に、活性エネルギーを照射し、硬化させる。活性エネルギーは、電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線のいずれかとすることができる。これらの中でも、エネルギー効率や、大掛かりな装置が不要であるとの観点で、電子線または紫外線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0057】
本工程で照射する活性エネルギーの量は、硬化型組成物中の光重合開始剤や光酸発生剤の種類や量等に応じて適宜選択される。また、本工程で照射する活性エネルギーの主波長も、光重合開始剤や光酸発生剤の種類に応じて適宜選択され、例えば波長360~425nmとすることができる。
【0058】
上述の塗布工程において、硬化型組成物を複数種塗布する場合、硬化型組成物を1種塗布する毎に、活性エネルギーの照射(硬化工程)を行ってもよく、硬化型組成物を複数種塗布してから、活性エネルギーの照射(硬化工程)を行ってもよい。
【0059】
3.近赤外線照射工程
上述の硬化工程後、基材の第2面側から、近赤外線を照射する。本工程では、上述の基材に、第2面側から近赤外線を照射することで、基材の温度、ひいては硬化膜の温度を高める。そして、硬化膜を十分に軟化させて、基材に対する硬化膜の密着性を高める。
【0060】
本工程において、近赤外線を照射するための光源は特に制限されず、所望の波長の近赤外線を照射可能であればよい。光源の例には、ハロゲンランプ、カーボンランプ、ニクロム線ランプ等が含まれる。これらの中でも、ハロゲンランプは立ち上がり、立ち下がりが速く、熱制御しやすいため好ましい。
【0061】
本工程で照射する近赤外線の主波長は、0.8~3.0μmが好ましく、0.8~2.0μmがより好ましく、0.8~1.5μmがさらに好ましい。近赤外線の主波長は、光源の種類によって適宜選択できる。
【0062】
さらに、近赤外線の照射時間は、1~20秒が好ましく、2~15秒がより好ましい。近赤外線の照射時間が当該範囲であると、十分に基材および硬化膜の温度を高めることができる。また、効率よく塗装金属板を製造することが可能である。
【0063】
近赤外線の照射出力は、基材の熱伝導率や、基材の第2面側の放射率に応じて適宜選択されるが、200~15000kJ/mが好ましく、500~5000kJ/mがより好ましい。近赤外線の照射出力が当該範囲であると、効率よく塗装金属板を製造することが可能となる。
【0064】
さらに、近赤外線照射時の基材の温度(到達温度)は、100~300℃が好ましく、130~270℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。基材の温度が当該範囲であると、硬化膜と基材との密着性が十分に高まりやすい。ここでいう基材の温度とは、基材の第1面側の温度であり、第1面側に熱電対を溶接または耐熱テープで接着して測定される値である。
【0065】
なお、上述の塗布工程や上述の硬化工程を繰り返し行う場合、全ての塗布工程および硬化工程が終わった後に近赤外線照射工程を行ってもよく、塗布工程、硬化工程、および近赤外線照射工程の順にこれらを繰り返してもよい。
【0066】
近赤外線照射工程後、必要に応じて、硬化膜や基材の冷却を行ってもよい。硬化膜の冷却は、公知の方法で行うことができ、空冷、水冷、放冷、冷却部材への接触、もしくはこれらを組み合わせてもよい。これらの中でも、冷却効率の観点で水冷が好ましい。
【実施例
【0067】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0068】
1.基材の準備
以下のように基材1~基材6を準備し、各基材の熱伝導率を測定した。測定は、基材を10mm角に切断し、レーザフラッシュ熱物性測定装置LFA-502(京都電子工業社製)を用いて厚み方向の熱伝導率を測定した。また、各基材の第2面側の放射率も測定した。放射率は、以下の条件で測定した。これらの結果を表1に示す。
(放射率測定条件)
測定装置:ジャパンセンサー社製、放射率測定器TSS-5X
測定温度:23℃
相対湿度:相対湿度50%
測定方式:定温放射源からの赤外線照射による反射エネルギー量検出/演算方式
測定波長:2~22μm
測定面積:φ15mm
測定距離:12mm
【0069】
(基材1)
・第1面の処理
板厚0.5mm、サイズ150mm×200mmの片面当りめっき付着量90g/mの溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板を準備し、その一方の面(第1面)をアルカリ脱脂した。その後、塗布型クロメート(NRC300NS:日本ペイント社製)を、Crの付着量が50mg/mとなるように塗布し、化成処理皮膜を形成した。さらに、市販のエポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製715P)を乾燥厚みが5μmとなるようにロールコーターで塗装した。そして、最高到達板温215℃となるように焼き付け、下塗り塗膜を形成した。
【0070】
さらに、上記下塗り塗膜上に、上塗り塗膜用組成物を、塗料の乾燥厚みが18μmとなるように、ロールコーターで塗布し、最高到達板温225℃となるように焼き付けて上塗り塗膜を形成した。上塗り塗膜用組成物は、ポリエステルポリマーと、架橋剤と、着色顔料と、触媒と、アミンと、を含む組成物を用いた。ポリエステルポリマーは、数平均分子量5,000、ガラス転移温度30℃、水酸基価28mgKOH/gのポリエステルポリマー(DIC製)を用い、架橋剤として、メトキシ基90モル%のメチル化メラミン樹脂(三井サイテック社製サイメル303(架橋剤))を用いた。ポリエステルポリマーとメラミン樹脂との合計量は、上塗り塗膜用組成物の固形分に対して30質量%とし、配合比は70/30とした。さらに、上塗り塗膜用組成物の固形分総量に対して、平均粒径0.28μmの酸化チタン(テイカ社製、JR-603)49質量%、平均粒径10μmのマイカ(ヤマグチマイカ社製、SJ-010)13質量%、平均粒径5.5μmの疎水性シリカ(富士シリシア化学社製、サイシリア456)6質量%、および平均粒径12μmの疎水性シリカ(富士シリシア化学社製、サイリシア476)2質量%を、着色顔料として添加した。触媒としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸を、樹脂の総量に対して1質量%加えた。またアミンとして、ジメチルアミノエタノールをドデシルベンゼンスルフォン酸の酸当量に対してアミン当量として1.25倍の量を加えた。
【0071】
・第2面の処理
一方、上記溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板の他方の面(第2面)もアルカリ脱脂し、塗布型クロメート(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、NRC300NS)をCrの付着量が50mg/mとなるように塗布し、化成処理皮膜を形成した。さらに、市販のグレー色のエポキシ系塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、SQ6V)を、表1に示す厚みになるように、バーコーターで塗装した後、最高到達板温225℃となるように焼付けて、近赤外線吸収層を形成した。なお、実施例1に用いた基材1には、近赤外線吸収層を形成しなかった。
【0072】
(基材2)
ステンレス鋼板(日鉄ステンレス社製、板厚0.5mm、SUS304 BAを150mm×200mmにカットした板)を用いた以外は、上記基材1と同様に、第1面に化成処理皮膜、下塗り塗膜、および上塗り塗膜を形成した。なお、第2面には、近赤外線吸収層を形成しなかった。
【0073】
(基材3)
板厚0.5mmのアルミニウム板(JIS 5052 H32)を用いた以外は、上記基材1と同様に、第1面に化成処理皮膜、下塗り塗膜、および上塗り塗膜を形成した。なお、第2面には、近赤外線吸収層を形成しなかった。
【0074】
(基材4)
板厚0.5mmの鋼板 鋼材規格SS330を150mm×200mmにカットして、上記基材1と同様に第1面に、化成処理皮膜、下塗り塗膜、および上塗り塗膜を形成した。一方、第2面に近赤外線吸収層を形成せず、研磨した。
【0075】
(基材5)
板厚0.5mmの鋼板 鋼材規格SS330を150mm×200mmにカットして、、上記基材1と同様に第1面に化成処理皮膜、下塗り塗膜、および上塗り塗膜を形成した。一方、第2面には近赤外線吸収層を形成せず、さらに錆ムラが生じている状態とした。
【0076】
(基材6)
耐熱塩化ビニル板(タキロンシーアイ社製のグレー色、塩化ビニルプレート板T938を厚さ0.5mm、150mm×200mmにカットした板)を、そのまま使用した。
【0077】
2.活性エネルギー線硬化型組成物の準備
(硬化型組成物1)
・組成
硬化型組成物1(ラジカル重合型黒色インキ)は、以下の成分を混合し、調製した。
顔料分散液(顔料:10質量%) 10質量部
光重合性化合物A 25質量部
光重合性化合物B 57質量部
光重合開始剤a 5質量部
光重合開始剤b 3質量部
【0078】
・材料
上記硬化型組成物1(ラジカル重合型黒色インキ)の材料には、以下のものを用いた。
顔料分散液:カーボンブラック(デグサジャパン社製、NIPex 35)と分散媒(サートマージャパン社製、SR9003、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート)との混合物
光重合性化合物A:サートマージャパン社製、CN985B88(2官能脂肪族ウレタンアクリレート88質量%と1,6-ヘキサンジオールジアクリレート12質量%との混合物)
光重合性化合物B:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
光重合開始剤a:チバ・ジャパン社製、イルガキュア184(ヒドロキシケトン類)
光重合開始剤b:チバ・ジャパン社製、イルガキュア819(アシルフォスフィンオキサイド類)
【0079】
(硬化型組成物2)
硬化型組成物2(ラジカル重合型シアン色インキ)は、顔料としてシアン顔料(大日精化社製、DAIPYROXIDE BLUE 9410、シー・アイ・ピグメントブルー28、複合酸化物)を3質量部用いた以外は、硬化型組成物1と同様の組成で調製した。
【0080】
(硬化型組成物3)
硬化型組成物3(カチオン重合型黒色インキ)は、以下ように、調製した。
・顔料分散液の調製
高分子分散剤(味の素ファインテクノ社製、PB821)9質量部と、オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT211)71質量部と、黒色顔料(Pigment Black 7)20質量部とを混合した。そして当該混合物を、直径1mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて4時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、顔料分散液得た。
【0081】
・組成
続いて、以下の成分を混合し、硬化型組成物3(カチオン重合型黒色インキ)を調製した。
顔料分散液 14質量部
光重合性化合物C 4質量部
光重合性化合物D 34質量部
光重合性化合物E 24質量部
光重合性化合物F 8.9質量部
塩基性化合物 0.05質量部
界面活性剤a 0.025質量部
界面活性剤b 0.025質量部
相溶化剤 10質量部
光酸発生剤 5質量部
【0082】
・材料
上記硬化型組成物3(カチオン重合型黒色インキ)の材料には、以下のものを用いた。
光重合性化合物C:エポキシ化亜麻仁油(ATOFINA社製、Vikoflex9040)
光重合性化合物D:下記式で表される化合物
【化1】
光重合性化合物E:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-221)
光重合性化合物F:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-211)
塩基性硬化型組成物:N-エチルジエタノールアミン
界面活性剤a:DIC社製、メガファックF178k(パーフルオロアルキル基含有アクリルオリゴマー)
界面活性剤b:DIC社製、メガファックF1405(パーフルオロアルキル基含有エチレンオキサイド付加物)
相溶化剤:東邦化学社製、ハイゾルブBDB(グリコールエーテル)
光酸発生剤:ダウケミカル社製、UV16992
【0083】
(硬化型組成物4)
硬化型組成物4(カチオン重合型シアン色インキ)は、顔料としてシアン顔料(大日精化社製、DAIPYROXIDE BLUE 9410、シー・アイ・ピグメントブルー28、複合酸化物)を5質量部用いた以外は、硬化型組成物3と同様の組成で調製した。
【0084】
3.硬化型組成物の塗布工程
上述の各基材の第1面に、硬化型組成物1~4を、解像度360dpiとなるように、100%(インキ塗布量:8.4g/m)で印刷した。塗膜の厚みは、硬化工程後の厚みが8μmとなるように調整した。
【0085】
(ラジカル重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :11.5V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :5.9m/sec
【0086】
(カチオン重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :13.2V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :6.1m/sec
【0087】
4.硬化型組成物の硬化工程
上述の硬化型組成物に、以下の条件で紫外線を照射し、硬化型組成物を硬化させた。紫外線照射は液滴が着弾してから5秒後に行った。
(1)ランプの種類:高圧水銀ランプ(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製、Hバルブ)
(2)ランプの出力:200W/cm
(3)積算光量:600mJ/cm(オーク製作所社製、紫外線光量計UV-351-25を使用して測定)
【0088】
5.近赤外線照射工程
続いて、フィンテック社製ハロゲンランプ(照射幅260mm、最大出力5kW、主波長1.0μm)を4本用いて、表1に示す出力、かつ表1に示す方向から、基材に対して近赤外線を照射した。なお、近赤外線照射出力(kJ/m)は、基材の搬送速度とランプの出力を調整して、基材の到達温度が225℃程度になるように調整した。また、近赤外線照射時の基材の温度は基材の第1面側に熱電対を溶接または耐熱テープで接着して測定した。
【0089】
6.評価
上記近赤外線照射後の硬化膜について、JIS K5600-5-6 G 330に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、硬化膜に、1mm間隔で100個のマス目ができるように基盤目状の切り込みを入れ、当該部分にテープを貼り付けた。テープ剥離後、硬化膜の残存率を観察し、以下の基準で評価した。また、△以上の評価を合格とした。結果を表1に示す。
【0090】
○:硬化膜の剥離面積が0%であった
△:硬化膜の剥離面積が0%超かつ20%以内であった
×:硬化膜の剥離面積が20%を超えた
【0091】
【表1】
【0092】
上記表1に示されるように、熱伝導率が10W/mK以上である基材の第1面側に硬化型組成物を塗布し、光硬化させた後、基材に第2面側から近赤外線を照射すると、硬化型組成物の色に関わらず、いずれも硬化膜の密着性が良好になった(実施例1~12)。
【0093】
さらに、基材の第2面側に近赤外線吸収層を有する場合には、少ない近赤外線照射出力で、十分に基材の温度を高めることができた(実施例2~8)。
【0094】
これに対し、熱伝導率が低い基材(耐熱塩化ビニル板)を用いた場合には、基材自体が熱劣化してしまい、さらには硬化膜の密着性も高まらなかった(比較例1)。
【0095】
さらに、熱伝導率が10W/mK以上である基材を用いたとしても、硬化膜(第1面側)に近赤外線を照射した場合には、近赤外線の照射量をブラック硬化膜の到達温度に合わせると、シアン硬化膜が十分に密着しなかった(比較例2)。一方、近赤外線の照射量をシアン硬化膜の到達温度に合わせると、ブラック硬化膜が熱劣化した(比較例3)。色によって、近赤外線の吸収に基づく昇温量が相違することが原因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の塗装金属板の製造方法によれば、硬化膜に熱劣化等を生じさせることなく、硬化膜を均一に基材に密着させることが可能である。したがって、建材や電化製品等、種々の用途に用いられる塗装金属板を製造可能である。