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特許7402410熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法
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  • 特許-熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法 図1
  • 特許-熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法 図2
  • 特許-熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法 図3
  • 特許-熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】熱伝導性複合材料、熱伝導性複合材料フィルム及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20231214BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231214BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20231214BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231214BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20231214BHJP
   B29C 70/58 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C08L83/04
C08K3/38
C08J5/18 CFH
C09K5/14 E
B29C70/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018176540
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020045456
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-09-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慈
(72)【発明者】
【氏名】横井 将大
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】出口 昌孝
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030430(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135237(WO,A1)
【文献】特開2002-164481(JP,A)
【文献】特開2009-094110(JP,A)
【文献】特開2018-159062(JP,A)
【文献】特開2020-045457(JP,A)
【文献】特開平01-217807(JP,A)
【文献】特表2017-510540(JP,A)
【文献】特表2015-529280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34- 23/473
C08L 1/00-101/16
C08J 3/00- 7/18
C09K 5/00- 5/20
B29C 70/00- 70/88
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素微粒子のみからなる熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させてなる熱伝導性複合材料であって、
前記熱伝導性フィラーの含有量が、前記複合材料の全量に対して20~70体積%であり、
前記窒化ホウ素微粒子が板状の窒化ホウ素微粒子であり、かつ、前記マトリックスがシリコーン樹脂であり、
前記窒化ホウ素微粒子の少なくとも一部が、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子であり、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有量が、前記窒化ホウ素微粒子の全量に対して20体積%以上であり、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子が前記複合材料に含有されており、
前記複合材料の断面基準で、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積が、前記複合材料の断面面積に対して10~40%であり、かつ、
前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向している、
ことを特徴とする熱伝導性複合材料。
【請求項2】
前記窒化ホウ素微粒子が、表面にシランカップリング剤が結合しているシラン化窒化ホウ素微粒子であることを特徴とする請求項に記載の熱伝導性複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱伝導性複合材料からなり、
厚みが500μm以下であり、かつ、
前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略厚み方向に配向している、
ことを特徴とする熱伝導性複合材料フィルム。
【請求項4】
板状窒化ホウ素粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させて湿式衝突粉砕することにより、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子を得る工程と、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子のみからなる熱伝導性フィラーをマトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散させて、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子を含有する混合物を得る工程と、
前記混合物を1~20MPaの圧力で一軸圧縮し、請求項1又は2に記載の熱伝導性複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする熱伝導性複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記高圧が30~250MPaの圧力であり、前記流体を前記ノズルから噴射させる際の流速が200~800m/sであることを特徴とする請求項に記載の熱伝導性複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱伝導性複合材料を、前記窒化ホウ素微粒子の板状面の配向方向が略厚み方向となるように500μm以下の厚みでスライスする工程を含むことを特徴とする熱伝導性複合材料フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性複合材料及びそれを用いた熱伝導性複合材料フィルム、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は熱伝導性の高い高絶縁性の材料として知られており、窒化ホウ素粒子を熱伝導性フィラーとしてマトリックス中に分散させた様々な熱伝導性複合材料が開発されている。例えば、特開2010-260225号公報(特許文献1)では、平均粒子径が相違する2種類の窒化ホウ素粉末を熱伝導性フィラーとして含有するシリコーン積層体を積層方向から切断してなる熱伝導性成形体が開示されている。
【0003】
また、国際公開2013/039103号公報(特許文献2)では、平板状粒子である窒化ホウ素又はその凝集体である窒化ホウ素の表面に、粒状、繊維状又は平板状ベーマイトが結合又は付着して構成される無機フィラー複合体と樹脂とから構成される熱伝導性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
さらに、特開2015-6985号公報(特許文献3)では、窒化ホウ素凝集粒子中の一次粒子同士がカードハウス構造を有している窒化ホウ素凝集粒子よりなるフィラーと樹脂とを含む組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、このような従来の熱伝導性複合材料であっても、熱伝導性の向上に限界があり、必ずしも十分な熱伝導性を達成できるものではなかった。また、従来の熱伝導性複合材料においては、フィルム状にスライスしようとするとフィラーとマトリックスとの間の結合が十分でないため脆く、破断が生じ、熱抵抗の低い熱伝導性複合材料フィルムを得ることが困難という問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-260225号公報
【文献】国際公開2013/039103号公報
【文献】特開2015-6985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた熱伝導性を有しており、かつ、破断の発生を十分に抑制しつつフィルム状にスライスすることが可能な熱伝導性複合材料、及びそれを用いた熱抵抗の低い熱伝導性複合材料フィルム、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、板状の窒化ホウ素粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させて湿式衝突粉砕することにより得られる部分劈開窒化ホウ素微粒子を含有する窒化ホウ素粒子をマトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散させた後、一軸方向に圧縮成形することにより、優れた熱伝導性を有しており、かつ、破断の発生を十分に抑制しつつフィルム状にスライスすることが可能な熱伝導性複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の熱伝導性複合材料は、窒化ホウ素微粒子のみからなる熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させてなる熱伝導性複合材料であって、
前記熱伝導性フィラーの含有量が、前記複合材料の全量に対して20~70体積%であり、
前記窒化ホウ素微粒子が板状の窒化ホウ素微粒子であり、かつ、前記マトリックスがシリコーン樹脂であり、
前記窒化ホウ素微粒子の少なくとも一部が、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子であり、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有量が、前記窒化ホウ素微粒子の全量に対して20体積%以上であり、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子が前記複合材料に含有されており、
前記複合材料の断面基準で、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積が、前記複合材料の断面面積に対して10~40%であり、かつ、
前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向している、
ことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の熱伝導性複合材料においては、前記窒化ホウ素微粒子が、表面にシランカップリング剤が結合しているシラン化窒化ホウ素微粒子であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の熱伝導性複合材料フィルムは、前記本発明の熱伝導性複合材料からなるものであり、厚みが500μm以下であり、かつ、前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略厚み方向に配向していることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法は、
板状窒化ホウ素粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させて湿式衝突粉砕することにより、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子を得る工程と、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子のみからなる熱伝導性フィラーをマトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散させて、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子を含有する混合物を得る工程と、
前記混合物を1~20MPaの圧力で一軸圧縮し、前記本発明の熱伝導性複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
本発明の熱伝導性複合材料の製造方法においては、前記高圧が30~250MPaの圧力であり、前記流体を前記ノズルから噴射させる際の流速が200~800m/sであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の熱伝導性複合材料フィルムの製造方法は、前記本発明の熱伝導性複合材料を、前記窒化ホウ素微粒子の板状面の配向方向が略厚み方向となるように500μm以下の厚みでスライスする工程を含むことを特徴とする方法である。
【0016】
なお、本発明の熱伝導性複合材料によって優れた熱伝導性が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の熱伝導性複合材料においては、熱伝導性フィラーとして用いられる窒化ホウ素微粒子のうちの少なくとも一部が、部分的に劈開して粒子の内部や端部に劈開面を有する部分劈開窒化ホウ素微粒子となっており、このような部分劈開窒化ホウ素微粒子は熱伝導性フィラーとしてマトリックス中に分散させる際に劈開空隙中にマトリックスが入り込んで膨潤した状態となる。そのため、部分的な劈開が形成されていない窒化ホウ素微粒子と比較して、このように膨潤した窒化ホウ素微粒子は見掛けの平均直径が増大するとともに変形しやすくなり、それによって複合材料中で窒化ホウ素微粒子間の接触が生じやすくなるとともに密着性が向上し、窒化ホウ素微粒子間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が効率良く形成されるとともに微粒子間の界面熱抵抗が大幅に低減するため、得られる複合材料の熱伝導性が向上して優れた熱伝導性が達成されるようになると本発明者らは推察する。また、窒化ホウ素微粒子内部の未劈開部分は、劈開前の窒化ホウ素粒子の高熱伝導性構造を保持しているため、粒子内部の熱の伝達も効率良く行うことができ、高熱伝導性の複合材料とした時に有利である。
【0017】
さらに、本発明の熱伝導性複合材料においては、板状の窒化ホウ素微粒子の熱伝導率の高い板状面が略一方向に配向しているため、窒化ホウ素微粒子同士が特に配向方向において良好に接触した状態となる。そのため、とりわけ配向方向における微粒子間の界面熱抵抗が大幅に低減すると共に、粒子内部の熱伝達も効率良く発揮されるようになり、特に配向方向における熱伝導性が高い複合材料が得られるようになる。
【0018】
また、本発明の熱伝導性複合材料においては破断の発生を十分に抑制しつつフィルム状にスライスすることが可能となる理由も必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の熱伝導性複合材料においては、熱伝導性フィラーとして用いられる窒化ホウ素微粒子のうちの少なくとも一部が部分劈開構造を有しているため、マトリックスとしてのシリコーン樹脂とフィラーとの結合がアンカー効果により強固となるため、フィルム状にスライスする際に亀裂の進展が抑制されるようになる。そのため、本発明の熱伝導性複合材料においては、板状窒化ホウ素微粒子の配向方向に対して垂直方向に薄く切り出す場合であっても、破壊や破れを生じることなくフィルム状にスライスすることが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明の熱伝導性複合材料によれば、窒化ホウ素微粒子の板状面の配向方向が略厚み方向となっている熱伝導性複合材料フィルムを得ることが可能となるため、特に厚み方向における熱伝導性が高い複合材料フィルムが得られるようになる。さらに、このような複合材料フィルム中の板状窒化ホウ素微粒子における部分劈開構造は、単なる板状の構造と比較して、接触する表面に対して形状追従し易く、密着性が良好となるため、本発明の複合材料フィルムによれば界面熱抵抗が十分に低減されるようになるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた熱伝導性を有しており、かつ、破断の発生を十分に抑制しつつフィルム状にスライスすることが可能な熱伝導性複合材料、及びそれを用いた熱抵抗の低い熱伝導性複合材料フィルム、並びにそれらの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例及び比較例で作製した板状(直方体)の熱伝導性複合材料を示す模式図である。
図2図1に示した熱伝導性複合材料と、そこから切り出される熱伝導性複合材料フィルムを示す模式図である。
図3】実施例1で得られた熱伝導性複合材料の断面のSEM像及び元素マッピング像(「B」はホウ素マッピング、「C」は炭素マッピング、「N」は窒素マッピング、「O」は酸素マッピング、「Si」はケイ素マッピング)のそれぞれ一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例2で得られた熱伝導性複合材料の断面のSEM像及び元素マッピング像(「B」はホウ素マッピング、「C」は炭素マッピング、「N」は窒素マッピング、「O」は酸素マッピング、「Si」はケイ素マッピング)のそれぞれ一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の熱伝導性複合材料について説明する。本発明の熱伝導性複合材料は、窒化ホウ素微粒子からなる熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させてなる熱伝導性複合材料であって、
前記窒化ホウ素微粒子が板状の窒化ホウ素微粒子であり、かつ、前記マトリックスがシリコーン樹脂であり、
前記窒化ホウ素微粒子の少なくとも一部が、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子であり、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子が前記複合材料に含有されており、かつ、
前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向している、
ことを特徴とするものである。
【0023】
本発明において用いられる熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素(BN)からなる板状の微粒子であり、窒化ホウ素には六方晶系の常圧相や立方晶系の高圧相等があるが、劈開のしやすさや熱伝導性の観点から板状の窒化ホウ素微粒子であることが必要であり、六方晶系の板状窒化ホウ素微粒子であることが特に好ましい。
【0024】
また、前記熱伝導性フィラーを構成する窒化ホウ素微粒子の大きさは特に制限されないが、平均粒子径が1~100μmであることが好ましく、2~50μmであることがより好ましく、3~30μmであることが特に好ましい。窒化ホウ素微粒子の平均粒子径が前記下限未満では、得られる複合材料において窒化ホウ素微粒子間の粒界抵抗及び複合材料中の粒界数が増大するため熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料における熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する傾向にある。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、原料粒子等に関するカタログ値を除き、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により任意に抽出した300個以上の粒子の粒子径の平均値を意味する。また、粒子の断面が円形状でない場合は、粒子(断面)の外接円を想定し、その外接円の直径を粒子径とする。
【0025】
さらに、前記熱伝導性フィラーを構成する窒化ホウ素微粒子の形状は、いわゆる板状(鱗片状)のものであればよく、特に制限されないが、劈開のしやすさや熱伝導性の観点から、板状形状の粒子の厚みに対する板状面の直径の比(アスペクト比)の平均値が5~100程度のものが好ましい。
【0026】
本発明においては、前記窒化ホウ素微粒子のうちの少なくとも一部が、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子となっていることが必要である。このような部分劈開窒化ホウ素微粒子は、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開して粒子の内部や端部に劈開面を有するものであり、熱伝導性フィラーとしてマトリックス中に分散させる際に劈開空隙(対向する劈開面の間の空隙)中にマトリックスが入り込んで膨潤した状態(膨潤窒化ホウ素微粒子)となる。
【0027】
なお、このような部分劈開窒化ホウ素微粒子は、得られる複合材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において膨潤窒化ホウ素微粒子として観察され、明度と形状に基づいて、劈開されずに未劈開のまま残っている未劈開窒化ホウ素粒子や、窒化ホウ素粒子が劈開により完全に分割されて得られた内部や端部に劈開面を有していない完全劈開窒化ホウ素微粒子と区別することができる。さらに、FIB-SEM(集束イオンビーム-走査型電子顕微鏡)による三次元分散構造観察によっても区別が可能である。以下、このような未劈開窒化ホウ素粒子と完全劈開窒化ホウ素微粒子とを合わせて「非膨潤窒化ホウ素微粒子」と総称する。
【0028】
本発明において用いられる熱伝導性フィラーにおいては、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率が、前記窒化ホウ素微粒子の全量(前記部分劈開窒化ホウ素微粒子と前記未劈開窒化ホウ素粒子と前記完全劈開窒化ホウ素微粒子との総量)に対して5体積%以上となっていることが必要である。前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率が5体積%未満では、得られる複合材料中で窒化ホウ素微粒子間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない。また、得られる複合材料の熱伝導性がより向上するという観点から、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率が前記窒化ホウ素微粒子の全量に対して10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましい。
【0029】
なお、前記窒化ホウ素微粒子の全量に対する前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率は、以下のようにして求められる。すなわち、得られる複合材料の断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)において、明度と形状に基づいて、
(i)前記膨潤窒化ホウ素微粒子(前記部分劈開窒化ホウ素微粒子とその劈開空隙に取り込まれたマトリックス)に相当する領域と、
(ii)前記非膨潤窒化ホウ素微粒子(前記未劈開窒化ホウ素粒子及び前記完全劈開窒化ホウ素微粒子)に相当する領域と、
(iii)マトリックスのうち前記膨潤窒化ホウ素微粒子中に取り込まれずに存在するマトリックスに相当する領域と、
を区別して認識し、公知の二値化等の画像解析手法によりそれぞれの領域の面積を求めることができる。したがって、得られる複合材料の断面について、例えば、横60μm以上、縦40μm以上の測定領域を任意に10箇所以上抽出し、それぞれの測定領域のSEM像において(ii)前記非膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積を求め、当該測定領域における全ての窒化ホウ素が未劈開窒化ホウ素粒子である場合の全窒化ホウ素粒子に相当する領域の合計面積との関係から当該領域における窒化ホウ素微粒子の全量に対する部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めることができる。そして、全ての測定領域の平均値を算出することにより、用いた熱伝導性フィラーにおける前記窒化ホウ素微粒子の全量に対する前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率(平均値)が求められる。
【0030】
このように本発明において用いられる熱伝導性フィラーは、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を所定量以上含有する前記窒化ホウ素微粒子からなるものであるが、マトリックスへの分散性をより向上させる観点から、窒化ホウ素微粒子の表面に水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アミノ基等の官能基が結合していてもよい。
【0031】
さらに、本発明の熱伝導性複合材料においては、マトリックスとしてのシリコーン樹脂と熱伝導性フィラーとの結合がより強固となり、薄くスライスする際の破壊や破れの発生をより確実に防止できるようになるという観点から、前記窒化ホウ素微粒子の表面にシランカップリング剤が結合してシラン化窒化ホウ素微粒子となっていることが好ましく、前記窒化ホウ素微粒子の表面に水酸基を介してシランカップリング剤が結合していることがより好ましい。ここで用いられるシランカップリング剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0032】
また、本発明において用いられる熱伝導性フィラーは、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を所定量以上含有する前記窒化ホウ素微粒子のみからなるものであってもよいが、前記板状窒化ホウ素微粒子に加えて、例えば、板状グラファイト、板状窒化アルミニウム、板状アルミナ、アルミフレーク、銅フレーク、ダイヤモンド、窒化ケイ素等の他の熱伝導性粒子や、SiC繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属めっきを施した繊維、金属繊維等の他の熱伝導性繊維を更に含有していてもよい。
【0033】
このように前記熱伝導性フィラーとして、前記窒化ホウ素微粒子に加えて他の熱伝導性材料が含有されている場合、他の熱伝導性材料として熱伝導率が20W/mK以上である高熱伝導性微粒子が含有されていることが好ましく、そのような高熱伝導性微粒子としては等方的に高熱伝導性を有するものがより好ましい。このように前記板状窒化ホウ素微粒子に加えて前記高熱伝導性微粒子が含有されることにより、得られる熱伝導性複合材料における熱伝導性がより向上する傾向にある。
【0034】
また、このように前記高熱伝導性微粒子が含有されている場合は、前記窒化ホウ素微粒子が六方晶系の板状窒化ホウ素微粒子であり、かつ、前記高熱伝導性微粒子が、立方晶窒化ホウ素(熱伝導率:1000~2000W/mK)、ダイヤモンド(熱伝導率:2000~3000W/mK)、窒化アルミニウム(熱伝導率:150~350W/mK)、酸化アルミニウム(熱伝導率:20~35W/mK)、酸化マグネシウム(熱伝導率:45~60W/mK)、酸化亜鉛(熱伝導率:20~30W/mK)、窒化ケイ素(熱伝導率:80~100W/mK)及び炭化ケイ素(熱伝導率:150~170W/mK)からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子であることが好ましい。なお、本明細書中における熱伝導率とは、室温(20℃)における熱伝導率である。
【0035】
前記高熱伝導性微粒子の大きさは特に制限されないが、平均粒子径が0.1~100μmであることが好ましく、0.3~50μmであることがより好ましく、0.5~30μmであることが特に好ましい。前記高熱伝導性微粒子の平均粒子径が前記下限未満では、得られる複合材料において熱伝導性フィラー間の粒界抵抗及び複合材料中の粒界数が増大するため熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料における熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する傾向にある。
【0036】
このように他の熱伝導性材料が含有される場合、本発明の熱伝導性フィラーの全量に対する前記窒化ホウ素微粒子の含有率は5体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、60体積%以上であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の熱伝導性複合材料においては、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含有する板状窒化ホウ素微粒子からなる熱伝導性フィラーが、マトリックスとしてのシリコーン樹脂中に、前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向するように分散して含有されており、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子はその劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子となっている。
【0038】
このような本発明の熱伝導性複合材料におけるマトリックスとしては、高~低温域における柔軟性、耐久性(熱的耐久性及び化学的耐久性)及び電気絶縁性に優れているという観点から、シリコーン樹脂であることが必要である。なお、本発明において用いられるシリコーン樹脂としては、特に制限されるものではなく、いわゆる付加型熱硬化シリコーン樹脂、縮合型熱硬化シリコーン樹脂、過酸化物硬化シリコーン樹脂、カチオン型UV硬化シリコーン樹脂のいずれであってもよく、また、いわゆるシリコーンゴムであってもよい。このようなシリコーン樹脂としては、成形の利便性、硬化制御性、シリコーン樹脂の物性及び異材接着性に優れているという観点から、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、フェニルシリコーン樹脂、及びそれらの変性体等が好ましい。
【0039】
本発明の熱伝導性複合材料においては、その断面基準で、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積が、前記複合材料の断面面積に対して1~50%となっていることが好ましい。前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率が1%未満では、複合材料中で窒化ホウ素微粒子間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。一方、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率が50%を超えると、複合材料にする際にフィラーがかさ高くなって取り扱いが困難となる傾向にある。また、複合材料の熱伝導性がより向上するという観点から、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率が、前記複合材料の断面面積に対して5~45%であることがより好ましく、10~40%であることがさらにより好ましく、15~35%であることが特に好ましい。
【0040】
なお、複合材料の断面基準で、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率(前記複合材料の断面面積に対する比率)は、以下のようにして求められる。すなわち、前述のとおり、複合材料の断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)において、明度と形状に基づいて、
(i)前記膨潤窒化ホウ素微粒子(前記部分劈開窒化ホウ素微粒子とその劈開空隙に取り込まれたマトリックス)に相当する領域と、
(ii)前記非膨潤窒化ホウ素微粒子(前記未劈開窒化ホウ素粒子及び前記完全劈開窒化ホウ素微粒子)に相当する領域と、
(iii)マトリックスのうち前記膨潤窒化ホウ素微粒子中に取り込まれずに存在するマトリックスに相当する領域と、
を区別して認識し、公知の二値化等の画像解析手法によりそれぞれの領域の面積を求めることができる。したがって、複合材料の断面について、例えば、横60μm以上、縦40μm以上の測定領域を任意に10箇所以上抽出し、それぞれの測定領域のSEM像において(i)前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積を求め、当該測定領域の面積に対する比率として当該領域における前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率を求めることができる。そして、全ての測定領域の平均値を算出することにより、測定対象の熱伝導性複合材料について、その断面基準で、前記膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率(前記複合材料の断面面積に対する比率、平均値)が求められる。
【0041】
本発明の熱伝導性複合材料においては、前記熱伝導性フィラーの含有率が前記複合材料の全量に対して10~90体積%であることが好ましく、15~80体積%であることがより好ましく、20~70体積%であることが特に好ましい。前記熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満では、複合材料中で窒化ホウ素微粒子(前記高熱伝導性微粒子を含有する場合は前記窒化ホウ素微粒子及び前記高熱伝導性微粒子)間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。一方、前記熱伝導性フィラーの含有率が前記上限を超えると、膨潤窒化ホウ素微粒子領域にマトリックスが十分に浸透せず、空隙が生じやすくなり、フィラーの部分劈開による高熱伝導化の効果が相殺されてしまい、また、粒子同士の立体的な干渉により充填率が低下してしまう傾向にある。
【0042】
また、本発明の熱伝導性複合材料においては、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含有する板状窒化ホウ素微粒子が、その板状面が略一方向に配向するように、マトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散して含有されている。このように板状の窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向していることにより、窒化ホウ素微粒子同士が特に配向方向において良好に接触した状態となるため、とりわけ配向方向における微粒子間の界面熱抵抗が大幅に低減すると共に、粒子内部の熱伝達も効率良く発揮されるようになる。そのため、本発明の熱伝導性複合材料においては、特に配向方向において高い熱伝導性が達成されるようになる。
【0043】
このように板状窒化ホウ素微粒子の板状面が略一方向に配向した状態は、後述する本発明の熱伝導性複合材料の製造方法において、熱伝導性フィラーとしての板状窒化ホウ素微粒子とマトリックスとしてのシリコーン樹脂との混合物を一軸方向に圧縮成形することによって得られるものであり、基本的に板状窒化ホウ素微粒子の板状面が、圧縮方向に対して垂直方向の平面(図1におけるx軸とy軸を含む平面)に対して略平行となる方向に配向した状態となる。なお、「板状面が略一方向に配向した状態」とは、全ての粒子の板状面が完全に一定方向に平行に配向した状態(一方向に理想的に配向した状態)のみならず、大半の粒子の板状面が概ね一定方向に配向していると認められる状態を含む趣旨であり、例えば、全粒子のうちの50%以上(個数基準)の粒子の板状面の長手軸が、基準となる平面(例えば、図1におけるx軸とy軸を含む平面)に対する傾斜角が30°以内となるように配向している状態が挙げられる。
【0044】
次に、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の熱伝導性複合材料の製造方法は、
板状窒化ホウ素粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させて湿式衝突粉砕することにより、窒化ホウ素微粒子が部分的に劈開した部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子を得る工程(湿式粉砕工程)と、
前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子からなる熱伝導性フィラーをマトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散させて、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子を含有する混合物を得る工程(混合工程)と、
前記混合物を1~20MPaの圧力で一軸圧縮し、前記本発明の熱伝導性複合材料を得る工程(圧縮成形工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0046】
このような本発明にかかる湿式粉砕工程においては、原料粒子としての板状窒化ホウ素粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させることにより、粒子同士が衝突あるいはせん断流動により微細化することによって結晶構造の破壊や過度の微細化を抑制しつつ湿式粉砕されるとともに、粒子が流体中で高圧でせん断流動圧縮させた状態から急激に圧力を低下させることにより、粒子に対して加わっていた圧力が急激に消失することで粒子内部から外部に向かって膨張する力が働き、それに伴って粒子が外側に引っ張られることによって粒子の内部や端部に部分的な劈開が生じて前述の部分劈開窒化ホウ素微粒子が得られるようになる。
【0047】
このような湿式粉砕工程に用いる装置としては、特に制限されず、原料粒子を含有する流体を高圧でノズルから噴射させて湿式衝突粉砕させて微細化する原理に基づく市販の湿式粉砕装置(湿式微細化装置)を用いることができる。また、窒化ホウ素粒子の結晶構造の破壊や過度の微細化を抑制しつつ湿式粉砕するという観点から、ストレート型のノズルを備える湿式粉砕装置を用いることが好ましい。
【0048】
また、原料粒子として用いる板状窒化ホウ素粒子も特に制限されず、目的とする窒化ホウ素微粒子の平均粒子径等に応じて、平均粒子径が2~200μm(より好ましくは10~60μm)程度の市販の板状窒化ホウ素粉末(好ましくは六方晶系の板状窒化ホウ素粉末)を用いることができる。
【0049】
また、前記窒化ホウ素粒子とともにノズルから噴射させる流体の分散媒も特に制限されず、例えば、水;N-メチル-2-ピロリドン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、フェノール、テトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、N-ジメチルピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテル等の有機溶媒;シリコーンオイル、流動パラフィン等のオイル類が挙げられる。
【0050】
さらに、前記窒化ホウ素粒子を含有する流体(分散液)の濃度も特に制限されないが、前記窒化ホウ素粒子の含有率が0.1~20体積%が好ましく、0.5~10体積%がより好ましい。前記分散液の濃度が前記下限未満では劈開窒化ホウ素微粒子の収率が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると分散液の粘度が高くなり粉砕処理が困難となる傾向にある。
【0051】
また、前記湿式粉砕処理の際の諸条件としては、特に制限されるものではないが、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子が効率良く得られるという観点から、以下の諸条件が好ましい。
噴射前圧力:30~250MPa(より好ましくは50~200MPa)
噴射後圧力:常圧
ノズル径:0.1~0.5mm
流量:0.1~7.0L/min(より好ましくは0.5~1.1L/min)
ノズル噴射流速:200~800m/s(より好ましくは300~700m/s)。
【0052】
前記湿式粉砕処理における噴射前圧力や流量やノズル噴射流速が前記下限未満では、前記窒化ホウ素粒子の劈開が進行しにくくなり、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子が十分に得られなくなる傾向にある。他方、前記湿式粉砕処理における噴射前圧力や流量やノズル噴射流速が前記上限を超えると、前記窒化ホウ素粒子の劈開が進行し過ぎてしまい、大半の窒化ホウ素粒子が劈開により完全に分割されて前記完全劈開窒化ホウ素微粒子となり、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子が十分に得られなくなる傾向にある。
【0053】
さらに、前記窒化ホウ素粒子に前記湿式粉砕処理を施す回数は1回でもよいが、前記窒化ホウ素粒子に前記湿式粉砕処理を繰り返し施して所望量の前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子を得るようにしてもよい。このように前記湿式粉砕処理を繰り返し施す場合、その繰り返す回数(パス数)は2~20回(より好ましくは2~10回)程度が好ましい。湿式粉砕処理を繰り返す回数(パス数)が前記上限を超えると、前記窒化ホウ素粒子の劈開が進行し過ぎてしまい、大半の窒化ホウ素粒子が劈開により完全に分割されて前記完全劈開窒化ホウ素微粒子となり、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子が十分に得られなくなる傾向にある。
【0054】
前記湿式粉砕工程においては、前記湿式粉砕処理の後に、必要に応じてろ過、洗浄、及び乾燥処理を施して前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む前記窒化ホウ素微粒子を得るが、かかるろ過、洗浄、及び乾燥処理としてはいずれも特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0055】
次に、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法においては、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む窒化ホウ素微粒子からなる熱伝導性フィラーをマトリックスとしてのシリコーン樹脂中に分散させて、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記マトリックスが充填されて膨潤した膨潤窒化ホウ素微粒子を含有する混合物を得る工程(混合工程)と、その後に、前記混合物を1~20MPaの圧力で一軸圧縮し、前記本発明の熱伝導性複合材料を得る工程(圧縮成形工程)とが実施される、
このような本発明にかかる混合工程においては、先ず、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子を含む板状窒化ホウ素微粒子からなる熱伝導性フィラーとマトリックスとしてのシリコーン樹脂とを混合する。その際、得られる複合材料中の熱伝導性フィラーの含有率が目的の含有率となるように熱伝導性フィラーとマトリックスとの混合割合を定める。また、熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合する方法は特に制限されず、公知の混合方法が適宜用いられる。
【0056】
なお、このようなマトリックスとして硬化前のシリコーン樹脂を用いる場合、前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合して均一混合物とし、得られた混合物を後述する圧縮成形することにより前記熱伝導性複合材料を得ることができる。すなわち、このように前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合及び成形する過程において、前記部分劈開窒化ホウ素微粒子の劈開空隙中に前記樹脂が入り込んで膨潤窒化ホウ素微粒子となり、前記膨潤窒化ホウ素微粒子を含有する熱伝導性複合材料が得られる。
【0057】
このように前記熱伝導性フィラーと前記シリコーン樹脂とを混合して均一混合物とする際に、分散媒を更に加えて均一スラリーとしてもよく、その場合は真空乾燥等の公知の方法で分散媒を除去した後に成形することが好ましい。このような分散媒としては特に制限されず、前記窒化ホウ素粒子とともにノズルから噴射させる流体の分散媒として挙げた有機溶媒と同様の有機溶媒を適宜用いてもよい。
【0058】
また、本発明にかかる圧縮成形工程における圧縮方法としては、一軸圧縮であればよく、具体的な圧縮方法は特に制限されない。また、圧縮時の圧力は、1~20MPaであることが必要であり、3~10MPaであることがより好ましい。圧縮時の圧力が前記下限未満になると、得られる複合材料に空隙が残存しやすくなるとともに、板状窒化ホウ素微粒子の板状面が圧縮方向に対して略垂直な方向に十分に配向した状態とすることが困難となる。他方、圧縮時の圧力が前記上限を超えると、得られる複合材料内のフィラーの配向制御が困難となり、残留ひずみが発生する傾向にある。また、圧縮成形する際の温度と時間も特に制限されないが、室温~150℃程度で10~1000分程度が一般的である。
【0059】
さらに、前記混合物を成形する際に樹脂を硬化させる方法としては特に制限はなく、用いるシリコーン樹脂に応じて公知の硬化方法を適宜採用することができる。また、このような硬化は、成形時又は成形後のいずれにおいて実施してもよいが、圧縮成形後に硬化させることが好ましい。
【0060】
次に、本発明の熱伝導性複合材料フィルム及びその製造方法について説明する。
【0061】
本発明の熱伝導性複合材料フィルムは、前記本発明の熱伝導性複合材料からなるものであり、厚みが500μm以下であり、かつ、前記窒化ホウ素微粒子の板状面が略厚み方向に配向していることを特徴とするものである。また、本発明の熱伝導性複合材料フィルムの製造方法は、前記本発明の熱伝導性複合材料を、前記窒化ホウ素微粒子の板状面の配向方向が略厚み方向となるように500μm以下の厚みでスライスする工程を含むことを特徴とする方法である。
【0062】
前述のとおり、本発明の熱伝導性複合材料においては、熱伝導性フィラーとして用いられる窒化ホウ素微粒子のうちの少なくとも一部が部分劈開構造を有しているため、マトリックスとしてのシリコーン樹脂とフィラーとの結合がアンカー効果により強固となるため、フィルム状にスライスする際に亀裂の進展が抑制されるようになる。そのため、本発明の熱伝導性複合材料においては、板状窒化ホウ素微粒子の配向方向に対して垂直方向に薄く切り出す場合であっても、破壊や破れを生じることなくフィルム状にスライスすることが可能となる。
【0063】
したがって、本発明の熱伝導性複合材料フィルムのように、窒化ホウ素微粒子の板状面の配向方向が略厚み方向となっている熱伝導性複合材料フィルムを得ることが可能となるため、特に厚み方向における熱伝導性が高い複合材料フィルムが得られるようになる。
【0064】
このようにして得られる本発明の熱伝導性複合材料フィルムの厚みは500μm以下であることが必要であり、30~200μmであることがより好ましい。熱伝導性複合材料フィルムの厚みが前記上限を超えると、熱伝導性複合材料フィルムを当接せしめる対象となる基材の表面に対して形状が追従しにくくなり、熱伝導性複合材料フィルムと基材との間の界面熱抵抗の低減が達成されにくくなる。
【0065】
また、本発明の熱伝導性複合材料を薄く切り出す(スライス)方法は、特に制限されず、例えば、熱伝導性複合材料からフィルムを切り出す側の面を粘着剥離材で固定した後、切削機や切断機を用いてフィルム状にスライスして所望の膜厚の熱伝導性複合材料フィルムを切り出し、その後に粘着剥離材から熱伝導性複合材料フィルムを剥離する方法が挙げられる。
【実施例
【0066】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
原料粒子としての窒化ホウ素粒子としてモメンティブ社製「窒化ホウ素(BN)パウダー PT110」(平均粒子径:40μm、六方晶板状窒化ホウ素(BN)粒子)を用い、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする5体積%分散液を得た。次いで、市販のストレート型ノズルを備えた湿式粉砕装置を用い、噴射前のチャンバー内圧力を100MPaとし、前記窒化ホウ素粒子を含有する分散液をノズル(ノズル径:0.2mm)から流量0.756L/min、流速447m/sで噴射させ、高圧でせん断流動圧縮された状態から常圧まで急激に圧力を低下させることにより、1回目の湿式粉砕処理が施された分散液を得た。さらに、得られた分散液を再び同じ条件でノズルから噴射させる湿式粉砕処理を計2回繰り返し(パス数:2回)、湿式粉砕された窒化ホウ素微粒子を含有する分散液を得た。そして、得られた分散液から窒化ホウ素微粒子をろ過し、メタノールで洗浄した後に真空乾燥して、湿式粉砕された窒化ホウ素微粒子(粉砕BN)を得た。得られた窒化ホウ素微粒子の平均粒子径は17μmであった。
【0068】
次いで、得られた窒化ホウ素微粒子(粉砕BN)を熱伝導性フィラーとし、二液型シリコーン樹脂(信越シリコーン社製「二液型シリコーン樹脂 KE106」、シリコーン樹脂A)をマトリックスとして、以下のようにして複合材料を得た。すなわち、先ず、得られる複合材料中のフィラー(窒化ホウ素微粒子)含有率が40体積%となるように、前記窒化ホウ素微粒子2.72gと二液混合したシリコーン樹脂1.84gを秤量し、ジエチルエーテル20gを加えて混合して均一スラリーとした後、得られたスラリーを撹拌しながらジエチルエーテルを揮発させた後に約15分真空乾燥してジエチルエーテルを完全に除去して、前記窒化ホウ素微粒子が前記シリコーン樹脂中に分散した混合物を得た。次いで、得られた混合物を、ステンレス製の直方体金型(内面の寸法は20×20×5mm)に充填し、図1に示すように20×5mmの面の方向(z軸方向)から10MPaの型締め圧力で圧縮した状態で160℃に30分維持してシリコーン樹脂を硬化せしめて直方体の熱伝導性複合材料1を得た。得られた複合材料の空隙率は0%であった。
【0069】
<熱伝導率測定>
熱伝導性複合材料1の表面を黒体スプレーで黒化し、熱伝導率測定用試料とした。前記試料の厚さ方向(x軸方向)又は圧縮方向に平行な方向(z軸方向)を熱流方向としてキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA 447 NanoFlash」)を用いて圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)及び圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱拡散率を測定した。
【0070】
また、前記試料の比熱を熱振動型示差走査熱量測定装置(ティー・エイ・インスツル社製)を用いてDSC法により測定した。さらに、前記試料の密度を水中置換法(アルキメデス法)により求めた。これらの結果から次式:
熱伝導率(W/(m・K))=比熱(J/(kg・K))×密度(kg/m)×熱拡散率(m/秒)
により、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)及び圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0071】
<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析1>
直方体の複合材料の断面の構造観察のため、20×20mmの面の表面を研磨機(ビューラー社製「ミニメットTM1000」)を用いて機械研磨した後、オスミウムコートを施し、EDX付き走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて断面の電子顕微鏡観察を行い、元素マッピング処理を施した。図3に、得られたSEM像及び元素マッピング像(「B」はホウ素マッピング、「C」は炭素マッピング、「N」は窒素マッピング、「O」は酸素マッピング、「Si」はケイ素マッピング)のそれぞれ一例を示す。
【0072】
図3に示したSEM像及び元素マッピング像から、実施例1において得られた熱伝導性複合材料においては、部分劈開構造を有する板状窒化ホウ素微粒子の板状面が、圧縮方向に対して垂直方向の平面(図1におけるx軸とy軸を含む平面)に対して略平行となる方向に配向した状態となっており、微粒子の板状面同士が良好に接触しており、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)に高い熱伝導率を有している構造となっていることが確認された。
【0073】
<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析2>
直方体の複合材料から断面の電子顕微鏡観察用の試料を切り出し、任意の10箇所の断面測定領域(実施例1においては縦60ミクロン、横40ミクロンの領域)について研磨機(ビューラー社製「ミニメットTM1000」)を用いて機械研磨を施した後に走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて断面の電子顕微鏡観察を行った。
【0074】
次いで、得られた各測定領域のSEM像において、明度と形状に基づいて、
(i)膨潤窒化ホウ素微粒子(部分劈開窒化ホウ素微粒子とその劈開空隙に取り込まれたマトリックス)に相当する領域と、
(ii)非膨潤窒化ホウ素微粒子(未劈開窒化ホウ素粒子及び完全劈開窒化ホウ素微粒子)に相当する領域と、
(iii)マトリックスのうち前記膨潤窒化ホウ素微粒子中に取り込まれずに存在するマトリックスに相当する領域と、
を区別して認識し、二値化により(i)膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積を求め、当該測定領域の面積に対する比率として当該領域における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率を求めた。そして、全ての測定領域の平均値を算出することにより、得られた複合材料における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率(前記複合材料の断面面積に対する比率、平均値)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0075】
また、得られた各測定領域のSEM像において、同様に二値化により(ii)非膨潤窒化ホウ素微粒子(未劈開窒化ホウ素粒子及び完全劈開窒化ホウ素微粒子)に相当する領域の合計面積を求め、当該測定領域における全ての窒化ホウ素が未劈開窒化ホウ素粒子である場合の全窒化ホウ素粒子に相当する領域の合計面積との関係から、当該領域における窒化ホウ素微粒子の全量に対する部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めた。そして、全ての測定領域の平均値を算出することにより、得られた複合材料に用いたフィラーにおける窒化ホウ素微粒子の全量に対する部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率(平均値)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0076】
(実施例2)
得られる複合材料中のフィラー(窒化ホウ素微粒子)含有率が60体積%となるように、前記窒化ホウ素微粒子4.09gと二液混合したシリコーン樹脂1.2gを用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0077】
また、得られた複合材料について、実施例1における<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析1>と同様にして断面の電子顕微鏡観察を行い、元素マッピング処理を施した。図4に、得られたSEM像及び元素マッピング像(「B」はホウ素マッピング、「C」は炭素マッピング、「N」は窒素マッピング、「O」は酸素マッピング、「Si」はケイ素マッピング)のそれぞれ一例を示す。
【0078】
図4に示したSEM像及び元素マッピング像から、実施例2において得られた熱伝導性複合材料においては、部分劈開構造を有する板状窒化ホウ素微粒子の板状面が、圧縮方向に対して垂直方向の平面(図1におけるx軸とy軸を含む平面)に対して略平行となる方向に配向した状態となっており、微粒子の板状面同士が良好に接触しており、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)に高い熱伝導率を有している構造となっていることが確認された。
【0079】
さらに、得られた複合材料について、実施例1における<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析2>と同様にして断面の電子顕微鏡観察及び構造解析を行い、得られた複合材料における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率、並びに、用いたフィラーにおける部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0080】
(比較例1)
窒化ホウ素粒子(未粉砕BN)としてデンカ株式会社製「デンカボロンナイトライド粉 SGP」(平均粒子径:18μm)を用い、湿式粉砕することなくそのまま熱伝導性フィラーとして用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0081】
また、得られた複合材料について、実施例1における<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析2>と同様にして断面の電子顕微鏡観察及び構造解析を行い、得られた複合材料における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率、並びに、用いたフィラーにおける部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めたところ、いずれも0%であった。
【0082】
(比較例2)
窒化ホウ素粒子(未粉砕BN)としてデンカ株式会社製「デンカボロンナイトライド粉 SGP」(平均粒子径:18μm)を用い、湿式粉砕することなくそのまま熱伝導性フィラーとして用いるようにしたこと以外は実施例2と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0083】
また、得られた複合材料について、実施例1における<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析2>と同様にして断面の電子顕微鏡観察及び構造解析を行い、得られた複合材料における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率、並びに、用いたフィラーにおける部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めたところ、いずれも0%であった。
【0084】
(比較例3)
実施例1において原料粒子として用いた窒化ホウ素粒子(未粉砕BN)を、湿式粉砕することなくそのまま熱伝導性フィラーとして用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0085】
また、得られた複合材料について、実施例1における<断面の電子顕微鏡観察及び構造解析2>と同様にして断面の電子顕微鏡観察及び構造解析を行い、得られた複合材料における膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積の比率、並びに、用いたフィラーにおける部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率を求めたところ、いずれも0%であった。
【0086】
(実施例3)
マトリックスとして二液型シリコーン樹脂(信越シリコーン社製「二液型シリコーン樹脂 KE1204」、シリコーン樹脂B)を用い、得られる複合材料中のフィラー(窒化ホウ素微粒子)含有率が40体積%となるように、前記窒化ホウ素微粒子2.72gと二液混合したシリコーン樹脂2.77gを用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)及び圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0087】
(実施例4)
実施例1で得られた湿式粉砕された窒化ホウ素微粒子(粉砕BN)15g及び5M水酸化ナトリウム水溶液80gをオートクレーブ中で混合し、ペースト状とした。次いで、オートクレーブを密閉し、110℃で20時間加熱した後、攪拌機(シンキー社製「あわとり練太郎」)を用いて1200rpmで90秒撹拌した後、さらに110℃で15時間オートクレーブ中で加熱した。得られた反応物を500mlのイオン交換水で4回洗浄した後、水に沈降する粒子のみを集め、80℃で5時間真空乾燥して12.02gの乾燥物(表面に水酸基が結合している粉砕BN微粒子)を得た。得られた乾燥物に65gの水を加え、混合してペースト状とした後、ビニルトリメトキシシラン0.37gを150mlのイオン交換水と混合し、酢酸を3滴加えて均一とした後に50℃で30分撹拌して作製した水溶液を加え、70℃で1時間撹拌した。得られた反応物をろ過し、4回水洗した後、ろ液のpHが中性であることを確認した後に真空乾燥して11.8gのシリル化粉砕BN微粒子(表面に水酸基を介してシランカップリング剤が結合している粉砕BN微粒子)を得た。
【0088】
次いで、実施例1において用いた粉砕BN微粒子に代えて前記シリル化粉砕BN微粒子を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0089】
(実施例5)
実施例2において用いた粉砕BN微粒子に代えて実施例4で得られた前記シリル化粉砕BN微粒子を用いるようにしたこと以外は実施例2と同様にして熱伝導性複合材料を得た。そして、得られた複合材料について実施例1と同様にして熱伝導率測定を行い、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
表1及び表2に示した結果から明らかな通り、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法により得られた実施例1~2の熱伝導性複合材料においては、いずれも部分劈開窒化ホウ素微粒子の含有率が窒化ホウ素微粒子の全量に対して5体積%以上であり、かつ、複合材料の断面基準で膨潤窒化ホウ素微粒子に相当する領域の合計面積が複合材料の断面面積に対して1~50%の範囲内にあるものであった。
【0093】
また、表1に示した結果から明らかな通り、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法により得られた実施例1~5の熱伝導性複合材料はいずれも、窒化ホウ素粒子を湿式粉砕することなくそのまま熱伝導性フィラーとして用いた比較例1~3の熱伝導性複合材料に比べて、熱伝導率が非常に高いことが確認された。
【0094】
<フィルム切り出し試験>
実施例1~5及び比較例1~3で得られた熱伝導性複合材料を用いて、以下のようにしてフィルム切り出し試験を実施し、破れの発生の有無を評価した。
【0095】
すなわち、各熱伝導性複合材料のフィルムを切り出す側の面(20×20mmの面)を粘着剥離材で固定した後、切削機を用いて図2に示すように20×20mmの面に平行にフィルム状にスライスし、膜厚50μmの熱伝導性複合材料フィルム2を切り出し、その後に粘着剥離材から熱伝導性複合材料フィルム2を剥離した。そして、このように各熱伝導性複合材料を膜厚50μmのフィルムとなるように薄くスライスする際に、フィルムに破れが発生するか否かを評価した。得られた結果を表1に示す。
【0096】
表1に示した結果から明らかな通り、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法により得られた実施例1~5の熱伝導性複合材料はいずれも、膜厚50μmという非常に薄いフィルムを、板状窒化ホウ素微粒子の配向方向に対して垂直方向に、破れや破断を発生させることなく切り出すことが可能なものであることが確認された。
【0097】
<熱伝導性複合材料フィルムの熱抵抗試験>
実施例2で得られた熱伝導性複合材料を用いて、膜厚145μmのフィルムとなるようにしたこと以外は前記<フィルム切り出し試験>と同様にして膜厚145μmの熱伝導性複合材料フィルムを得た。
【0098】
次いで、得られた熱伝導性複合材料フィルムの両面(20×20mmの面)を上下から銅製ブロック(直径20mmの円柱)で挟持し、1MPa、2MPa、3MPaで加圧した状態で熱抵抗測定器を用いて常法により熱抵抗を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0099】
(比較例4)
前記の膜厚145μmの熱伝導性複合材料フィルムに代えて、酸化亜鉛を含有量が55体積%となるようにシリコーンオイル(信越シリコーン社製「シリコーンオイル」)に分散させて得たペースト材を膜厚が145μmとなるように用いたこと以外は前記<熱伝導性複合材料フィルムの熱抵抗試験>と同様にして熱抵抗を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示した結果から明らかな通り、本発明の熱伝導性複合材料フィルムにおいては、加圧する圧力が高くなるに伴って熱抵抗が顕著に小さくなっていくという特異的な現象が確認された。このような現象は、複合材料フィルム中の板状窒化ホウ素微粒子における部分劈開構造が接触する表面に対して形状追従し易いため、圧力の増加に伴って密着性がより良好となり、界面熱抵抗が小さくなっていくことによるものと本発明者らは推察する。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明によれば、優れた熱伝導性を有しており、かつ、破断の発生を十分に抑制しつつフィルム状にスライスすることが可能な熱伝導性複合材料、及びそれを用いた熱抵抗の低い熱伝導性複合材料フィルム、並びにそれらの製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、熱伝導性に優れていると共に、基材との界面熱抵抗が小さくなるように薄くスライスすることが可能であるため、例えば、自動車用放熱材料、ヒーター材料等として有用である。
【0103】
また、本発明の複合材料として、高い熱伝導性を有していると共に絶縁性のものが得られることから、電気系部品等と組み合わせて使用する場合に絶縁シート等を用いることなく本発明の複合材料のみによって熱を拡散・伝達することが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、インバーター、コンバーター等の電力変換器に用いられるパワーデバイスやCPU等の発熱性電子部品の熱を放熱部材に伝達する中間部材(熱インターフェース材)等としても非常に有用である。
【符号の説明】
【0104】
1:熱伝導性複合材料、2:熱伝導性複合材料フィルム。
図1
図2
図3
図4