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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】接続構造
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/62 20060101AFI20231214BHJP
   H01R 4/58 20060101ALI20231214BHJP
   H01R 4/34 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01R4/62 A
H01R4/58 B
H01R4/34
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023558573
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009943
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022092361
(32)【優先日】2022-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮平
(72)【発明者】
【氏名】前田 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢次
(72)【発明者】
【氏名】藤木 匡
(72)【発明者】
【氏名】林 昭宏
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104366(WO,A1)
【文献】特開2003-317817(JP,A)
【文献】実開昭52-009780(JP,U)
【文献】特開2023-015870(JP,A)
【文献】実開平01-119168(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/62
H01R 4/58
H01R 4/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子と、取付対象と、前記端子と前記取付対象とを接続するボルトと、を備える接続構造であって、
前記端子は、
前記取付対象に接続された状態において前記取付対象に向き合う第一面と、
前記ボルトが貫通される貫通孔と、を備え、
前記第一面は、前記貫通孔の周囲に形成された凹凸部を備え、
前記端子の材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
前記端子のビッカース硬さは80HV以上であり、
前記取付対象の材質が銅または銅合金であり、
前記ボルトの締め付けによって前記第一面と前記取付対象とが接続された状態における第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2が0.8以下であり、
前記第一面積S1は、25MPa以上の圧力で前記第一面が前記取付対象と接触する領域の面積であり、
前記第二面積S2は、前記貫通孔の内径D1に基づいて定められる前記ボルトの呼び径D2を内径、前記ボルトの座面径D3を外径とする円環領域の面積であり、
前記第一面積S1が5mm以上である、
接続構造
【請求項2】
前記第一面積S1は、以下の条件を満たす締付試験によって求められる感圧シートの特定発色領域の面積であり、
前記締付試験では、前記第一面とタフピッチ銅板との間に前記感圧シートを配置した積層体を138×(D2)±50Nの軸力で締め付け、
前記タフピッチ銅板は、1.5mmの厚さと78±5HVのビッカース硬さとを有する円環状の板であり、
前記円環状の板の内径は、前記呼び径D2であり、
前記円環状の板の外径は、前記座面径D3の√2倍であり、
前記特定発色領域は、25MPa以上の圧力で押圧されたことを示す色を有する領域である、請求項1に記載の接続構造
【請求項3】
前記比S1/S2が0.5以下である、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項4】
前記比S1/S2が0.1以上である、請求項3に記載の接続構造
【請求項5】
前記アルミニウム合金が、シリコンを0.01質量%以上1.50質量%以下、マグネシウムを0.01質量%以上2.00質量%以下含む、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項6】
前記端子の導電率が40%IACS以上63%IACS以下である、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項7】
前記端子のビッカース硬さが160HV以下である、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項8】
前記第一面の少なくとも一部において、前記アルミニウムまたは前記アルミニウム合金が外部に露出している、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項9】
前記端子のビッカース硬さを前記取付対象のビッカース硬さで割った硬さ比が1以上1.25以下である、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項10】
前記凹凸部は、複数の溝を有し、
前記複数の溝はそれぞれV溝である、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項11】
前記複数の溝における隣接する二つのV溝の側壁同士のなす角度は90°超140°以下である、請求項10に記載の接続構造
【請求項12】
前記端子は、端子付き電線における電線に接続されている、請求項1または請求項2に記載の接続構造
【請求項13】
前記取付対象の表面にさらに被覆層を有する、請求項1または請求項2に記載の接続構造。
【請求項14】
前記被覆層が、金、銀、スズ、またはニッケルから選択される少なくとも1種を含む、請求項13に記載の接続構造。
【請求項15】
前記比S1/S2が0.4以下であり、
前記端子の材質が、国際登録合金番号における6061または6056であり、
前記端子の導電率が40%IACS以上50%IACS以下であり、
前記端子のビッカース硬さが90HV以上110HV以下であり、
前記ボルトの材質が、JIS G 4107に規定されたSNB7鋼であり、
前記ボルトの前記呼び径D2が6mmであり、
前記ボルトの前記座面径D3が13mmであり、
前記取付対象の材質が銅であり、
前記取付対象の表面にさらに被覆層を有する、請求項1または請求項2に記載の接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、端子、端子付き電線、および接続構造に関する。
本出願は、2022年6月7日付の日本国出願の特願2022-092361に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2は、ボルトによって取付対象に接続される端子付き電線を開示する。端子は貫通孔を備える。貫通孔には、端子と取付対象とを接続するボルトが貫通される。端子と取付対象とがボルトおよびナットによって締め付けられることで、端子と取付対象とが機械的に固定され、かつ電気的に導通される。
【0003】
端子付き電線に備わる端子は例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金によって構成される。アルミニウムまたはアルミニウム合金は軽量であるため、端子および端子付き電線の軽量化に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-11128号公報
【文献】特開2022-22609号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の端子は、
ボルトによって取付対象と接続されるように構成された端子であって、
前記取付対象に接続された状態において前記取付対象に向き合う第一面と、
前記ボルトが貫通される貫通孔と、を備え、
前記第一面は、前記貫通孔の周囲に形成された凹凸部を備え、
前記端子の材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
前記端子のビッカース硬さは80HV以上であり、
前記ボルトの締め付けによって前記第一面と前記取付対象とが接続された状態における第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2が0.8以下であり、
前記第一面積S1は、25MPa以上の圧力で前記第一面が前記取付対象と接触する領域の面積であり、
前記第二面積S2は、前記貫通孔の内径D1に基づいて定められる前記ボルトの呼び径D2を内径、前記ボルトの座面径D3を外径とする円環領域の面積であり、
前記第一面積S1が5mm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態1に係る接続構造の概略側面図である。
図2図2は、実施形態1に係る端子付き電線の概略平面図である。
図3図3は、図2とは異なる端子付き電線の概略部分平面図である。
図4図4は、実施形態1の端子の凹凸部の断面図である。
図5図5は、図4とは異なる凹凸部の断面図である。
図6図6は、締付試験に用いられる端子の概略平面図である。
図7図7は、締付試験の概要を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
端子と取付対象とを接続してなる接続構造において、経時的に端子と取付対象との界面の接触抵抗が増加する恐れがある。例えば、接続構造に振動および熱衝撃が作用すると、端子と取付対象との締め付けが緩んだり、上記界面において端子と取付対象とが互いにこすれ合ったりする。特に、端子と取付対象とが異種材料である場合、端子と取付対象との熱膨張係数の差によって上記界面に熱衝撃が加わり易い。摩擦などによって前記界面における端子の表面にアルミニウムの新生面が形成される。アルミニウムの新生面が酸化すると、端子と取付対象との接触抵抗が増加する。
【0008】
本開示の目的の一つは、端子と取付対象との界面における経時的な接触抵抗の増加を抑制できる端子を提供することにある。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の端子は、端子と取付対象との界面における経時的な接触抵抗の増加を抑制できる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
<1>実施形態に係る端子は、
ボルトによって取付対象と接続されるように構成された端子であって、
前記取付対象に接続された状態において前記取付対象に向き合う第一面と、
前記ボルトが貫通される貫通孔と、を備え、
前記第一面は、前記貫通孔の周囲に形成された凹凸部を備え、
前記端子の材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、
前記端子のビッカース硬さは80HV以上であり、
前記ボルトの締め付けによって前記第一面と前記取付対象とが接続された状態における第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2が0.8以下であり、
前記第一面積S1は、25MPa以上の圧力で前記第一面が前記取付対象と接触する領域の面積であり、
前記第二面積S2は、前記貫通孔の内径D1に基づいて定められる前記ボルトの呼び径D2を内径、前記ボルトの座面径D3を外径とする円環領域の面積であり、
前記第一面積S1が5mm以上である。
【0012】
実施形態に係る端子は、電線に接続される形態に限定されない。本開示の端子は例えば、バスバーの一部、即ちバスバーに形成される接続部でも良い。接続部は、バスバーの一部が端子形状に形成された部分である。その他、本開示の端子は例えば、単芯線の一部、即ち単芯線の先端に形成される接続部でも良い。
【0013】
上記端子は80HV以上のビッカース硬さを有する。このような硬さを有する端子の凹凸部の凸部は、端子と取付対象とがボルトによって接続されたときに、取付対象に食い込み易い。取付対象に食い込んだ凸部は、取付対象によって変形される。凸部が変形することで、凸部の近傍における酸化被覆が破壊され、端子と取付対象とが電気的に導通される。凸部が取付対象に食い込むと共に、凸部が変形することで、端子と取付対象とが機械的に強固に固定される。また、80HV以上のビッカース硬さを有する凸部は、端子と取付対象とが接続された後の熱衝撃および振動では変形し難い。従って、端子と取付対象との接続強度が、熱衝撃および振動によって低下し難い。即ち、端子と取付対象との締め付けが緩んだり、端子と取付対象との界面において端子と取付対象とが互いにこすれ合ったりし難い。その結果、摩擦などによって前記界面における端子の表面にアルミニウムの新生面が形成され難く、端子と取付対象との接触抵抗が増加し難い。
【0014】
第一面積S1は、規定値以上の圧力で第一面が取付対象と接触する領域である。ボルトの軸力が一定の場合、第二面積S2に対する第一面積S1の割合が小さくなるほど、第一面積S1の領域に働く圧力が増加する。ただし、第一面積S1の絶対値が小さすぎると、端子と取付対象との接続強度が十分に確保されない。比S1/S2が0.8以下であり、かつ第一面積S1が5mm以上であれば、端子と取付対象とが機械的に強固に接続され、かつその接続強度が長期にわたって維持され易い。その結果、端子と取付対象との間の接触抵抗が経時的に増加し難い。
【0015】
<2>上記<1>に記載される端子において、
前記第一面積S1は、以下の条件を満たす締付試験によって求められる感圧シートの特定発色領域の面積であり、
前記締付試験では、前記第一面とタフピッチ銅板との間に前記感圧シートを配置した積層体を138×(D2)±50Nの軸力で締め付け、
前記タフピッチ銅板は、1.5mmの厚さと78±5HVのビッカース硬さとを有する円環状の板であり、
前記円環状の板の内径は、前記呼び径D2であり、
前記円環状の板の外径は、前記座面径D3の√2倍であり、
前記特定発色領域は、25MPa以上の圧力で押圧されたことを示す色を有する領域であっても良い。
【0016】
上記締付試験によって、実施形態の端子における比S1/S2が再現性良く適切に求められる。
【0017】
<3>上記<1>または<2>に記載される端子において、
前記比S1/S2が0.5以下であっても良い。
【0018】
0.5以下の比S1/S2を有する端子では、第一面積S1の領域に働く圧力が非常に高い。このような端子は、ボルトによって取付対象に非常に強固に接続される。
【0019】
<4>上記<1>から<3>のいずれかの端子において、
前記比S1/S2が0.1以上であっても良い。
【0020】
0.1以上の比S1/S2を有する端子では、第一面積S1の面積が十分に確保される。そのため、端子と取付対象との接触抵抗が低くなり易い。
【0021】
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載される端子において、
前記アルミニウム合金が、シリコンを0.01質量%以上1.50質量%以下、マグネシウムを0.01質量%以上2.00質量%以下含んでいても良い。
【0022】
上記組成を有するアルミニウム合金は、導電性に優れ、かつ80HV以上のビッカース硬さを達成し易い。
【0023】
<6>上記<1>から<5>のいずれかに記載される端子において、
前記端子の導電率が40%IACS以上63%IACS以下であっても良い。
【0024】
端子が上記導電率を有することで端子の発熱量が抑えられる。その結果、端子、および端子に接続される取付対象への熱ダメージが軽減される。また、端子と取付対象との界面における熱衝撃が軽減される。更に、端子に接続される導体、および取付対象に接続される導体の劣化が抑制され易い。
【0025】
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載される端子において、
前記端子のビッカース硬さが160HV以下であっても良い。
【0026】
端子のビッカース硬さが160HV以下であれば、端子と取付対象とを接続する際、端子の凹凸部の凸部が適度に潰れ易い。その結果、凹凸部の凸部近傍の酸化被膜が破壊され易く、端子と取付対象との導通が確保され易い。
【0027】
<8>上記<1>から<7>のいずれかに記載される端子において、
前記第一面の少なくとも一部において、前記アルミニウムまたは前記アルミニウム合金が外部に露出していても良い。
【0028】
本開示において『アルミニウムまたはアルミニウム合金が外部に露出する』とは、アルミニウムまたはアルミニウム合金の外周に人為的に形成された被膜を有さないことを意味する。この『人為的に形成された被膜』は、端子と取付対象との接触抵抗を低減させる目的で形成される導電性の被膜、例えば導電性のメッキ層である。従って、『人為的に形成された被膜』には、自然酸化膜は含まれない。自然酸化膜は人為的に形成されたものでもないし、導電性を有するものでもない。自然酸化膜は例えば、酸化アルミニウムの被膜である。その他『人為的に形成された被膜』には、不可避的な表面汚れ、具体的には有機物、水和物、水分は含まれない。
【0029】
端子に人為的に形成された被膜は、端子と取付対象との接触抵抗を低減させることができる。反面、人為的に被膜を形成するには手間とコストがかかる。本開示の端子は、人為的に形成された被膜を有さなくても、所定のビッカース硬さと凹凸部とによって取付対象との接触抵抗を低減できる。人為的に形成された被膜を有さない端子は生産性に優れる。
【0030】
<9>上記<1>から<8>のいずれかに記載される端子において、
前記端子のビッカース硬さを前記取付対象のビッカース硬さで割った硬さ比が1以上1.25以下であっても良い。
【0031】
硬さ比が1以上であるということは、端子が取付対象よりも硬いことを意味する。硬さ比が1.25以下であるということは、端子が取付対象に比べて硬すぎないことを意味する。硬さ比が1以上1.25以下であれば、端子と取付対象との接触抵抗が低減され易い。
【0032】
<10>上記<1>から<9>のいずれかに記載される端子において、
前記凹凸部は、複数の溝を有し、
前記複数の溝はそれぞれV溝であっても良い。
【0033】
V溝は、溝に沿った方向に直交する断面における溝の輪郭形状がV字形状である溝を意味する。V溝の開口縁は、取付対象に食い込み易い。従って、V溝を備える凹凸部は、端子と取付対象との接触抵抗を低減し易い。
【0034】
<11>上記<10>に記載される端子において、
前記複数の溝における隣接する二つのV溝の側壁同士のなす角度は90°超140°以下であっても良い。
【0035】
上記角度が90°超140°以下であれば、V溝の開口縁が取付対象に食い込み易い。
【0036】
<12>実施形態に係る端子付き電線は、
上記<1>から<11>のいずれかに記載される端子と、
前記端子に接続される電線と、を備える。
【0037】
上記端子付き電線は、端子と取付対象との界面における経時的な接触抵抗の増加を抑制できる。熱衝撃および振動に強い端子付き電線は例えば、ハイブリッド自動車および電気自動車における車内配線に利用される。
【0038】
<13>実施形態に係る接続構造は、
上記<1>から<11>のいずれか記載される端子と、
取付対象と、
前記端子と前記取付対象とを接続するボルトと、を備える。
【0039】
上記接続構造は、長期にわたって端子と取付対象との界面における接触抵抗の増加を抑制できる。従って、上記接続構造を備える機器、例えばハイブリッド自動車などは、長期にわたって性能を維持し易い。
【0040】
<14>上記<13>に記載される接続構造において、
前記取付対象の材質が銅または銅合金であっても良い。
【0041】
銅または銅合金は、比較的変形し易い。従って、端子の凹凸部の凸部が取付対象に食い込み易く、端子と取付対象との接続が強固になる。銅または銅合金は高い導電率を有するため、取付対象の発熱量が抑えられる。
【0042】
<15>上記<13>または<14>に記載される接続構造において、
前記取付対象の表面にさらに被覆層を有していても良い。
【0043】
被覆層は、取付対象の経時的な表面変化を抑止することができる。表面変化とは例えば表面酸化である。取付対象の表面酸化を抑止することで、端子と取付対象との接触抵抗を低減することができる。また被覆層は、取付対象のはんだ付け性、ろう付け性を改善する。これにより、取付対象に金属線からなる導体を接合する際の接触抵抗を低減することができる。
【0044】
<16>上記<15>に記載される接続構造において、
前記被覆層が、金、銀、スズ、またはニッケルから選択される少なくとも1種を含んでいても良い。
【0045】
上記元素は、銅または銅合金からなる取付対象の表面酸化を抑止し易い。従って、端子と取付対象との界面の接触抵抗の上昇が抑制され易い。
【0046】
<17>上記<13>に記載される接続構造において、
前記比S1/S2が0.4以下であり、
前記端子の材質が、国際登録合金番号における6061または6056であり、
前記端子の導電率が40%IACS以上50%IACS以下であり、
前記端子のビッカース硬さが90HV以上110HV以下であり、
前記ボルトの材質が、JIS G 4107に規定されたSNB7鋼であり、
前記ボルトの前記呼び径D2が6mmであり、
前記ボルトの前記座面径D3が13mmであり、
前記取付対象の材質が銅であり、
前記取付対象の表面にさらに被覆層を有していても良い。
【0047】
上記接続構造は、長期にわたって端子と取付対象との界面における接触抵抗の増加を抑制できる。端子の導電率およびビッカース硬さは調質処理によって達成される。調質処理は例えば、冷間加工、冷間加工後の加熱、溶体化焼き入れ、および時効処理などである。
【0048】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の端子、端子付き電線、および接続構造の実施形態を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0049】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1に示される本例の接続構造1は、端子2と取付対象3とボルト4とを備える。端子2の形態は、ボルト4によって取付対象3と接続されるように構成されていれば、特に限定されない。本例の端子2は、端子付き電線10の一部である。端子付き電線10は、電線5と、電線5とは独立した端子2とで構成されている。本例とは異なり、端子2はバスバーの一部または単芯線の一部でも良い。以下、接続構造1の各構成を詳細に説明する。
【0050】
≪端子≫
端子2は、第一面21と第二面22とを備える。第一面21は、端子2が取付対象3に接続された状態において取付対象3に向き合う面である。第一面21には、取付対象3に重複する部分と、重複しない部分とを有する。第二面22は、第一面21の反対側の面である。端子2は、第一面21と第二面22とに開口する貫通孔2hを備える。貫通孔2hにはボルト4が貫通されている。
【0051】
本例の端子2は、電線5の導体50を把持するワイヤバレル29を備える。端子2は更に、電線5の絶縁被覆51を把持するインシュレーションバレルを備えていても良い。電線5の接続面の位置は限定されず、第一面21でも良いし、第二面22でも良いし、それらに直交するその他の面でもよい。ワイヤバレル29の代わりに溶接や固相接合により電線5を端子2に接続しても良い。そのような接合方法は例えば、抵抗溶接、レーザ溶接、超音波溶着、摩擦撹拌溶接である。
【0052】
端子2のサイズは、端子2の用途に応じて決定される。例えば端子2の長さ、即ち電線5の延伸方向に沿った長さは5mm以上200mm以下である。端子2の長さは10mm以上50mm以下でも良い。端子2の厚さ、即ち第一面21と第二面22との距離は例えば、0.1mm以上7mm以下である。端子2の厚さは例えば、0.3mm以上4mm以下でも良いし、0.5mm以上3mm以下でも良い。
【0053】
図2に示される貫通孔2hの形状は円形状である。貫通孔2hの内径D1は例えば4mm以上20mm以下である。本例とは異なり、貫通孔2hの形状は長孔形状でも良い。長孔形状を有する貫通孔2hの内径D1は、貫通孔2hに内接する最小の円の直径である。貫通孔2hの形状は、端子2の外周縁部に至るスリット形状であっても良い。
【0054】
端子2は、第一面21における取付対象3に重複する位置に凹凸部25を備える。凹凸部25は、図2にクロスハッチングで示される領域、即ち第一面21における貫通孔2hの周囲に形成されている。凹凸部25は、端子2と取付対象3との接続を強固にする役割を有する。凹凸部25の外周輪郭は矩形状である。この凹凸部25の内周輪郭は貫通孔2hに沿った円形状である。凹凸部25は、図3に示されるように、円環形状であっても良い。図3に示される円環形状の凹凸部25の内周輪郭は、貫通孔2hより大きい。円環形状の凹凸部25の内周輪郭は、貫通孔2hに一致していても良い。凹凸部25の外周輪郭は楕円形など、矩形、円形でなくても良い。
【0055】
本例の凹凸部25は、図4および図5に示されるように、第一面21と、第一面21に形成された複数の溝25gとによって構成されている。図4および図5は、溝25gに沿った方向に直交する平面で端子2を切断した断面図である。複数の溝25gは並列していても良いし、クロスハッチング状に交差していても良い。並列される複数の溝25gは、端子2の長さ方向に並んでいることが望ましい。凹凸部25において円環状の複数の溝25gが同心円状に並んでいても良い。本例とは異なり、凹凸部25は、第一面21から突出する複数の突起を備えていても良い。その場合、突起が凹凸部25の凸部、第一面21が凹部を構成する。第一面21よりも凹んだ領域を形成して相対的な凸部とし、さらに凹んだ領域を形成して相対的な凹部としても良い。突起の形状は、後述する第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2を実現できれば、特に限定されない。その突起の形状は例えば角柱、角錐、角錐台、円柱、円錐、円錐台、半球である。またそれら突起の頂点に任意の曲率半径Rの曲面を有していても良い。またそれら突起の形状は、突起の突出方向に延びる中心線を挟んで非対称であっても良い。
【0056】
図4に示される溝25gの断面形状は矩形状である。この場合、各溝25gが凹凸部25の凹部、第一面21が凹凸部25の凸部を構成する。第一面21よりも突出した領域を形成して凸部とし、第一面21よりも凹んだ領域を形成して凹部としても良い。第一面21よりも凹んだ領域を形成して相対的な凸部とし、さらに凹んだ領域を形成して相対的な凹部としても良い。第一面21と溝25gとのつなぎ目が、凹凸部25の角25cを構成する。角25cは丸みを帯びていても良い。凸部の幅W1、即ち隣接する二つの溝25g,25gの間隔は例えば0mm超5mm以下である。幅W1は例えば0.01mm以上2mm以下でも良い。溝25gの開口部の幅W2は例えば0.01mm以上3mm以下である。幅W2は例えば0.02mm以上1mm以下でも良い。溝25gの深さ、即ち凸部の高さh1は例えば0.005mm以上1mm以下である。高さh1は0.01mm以上0.6mm以下でも良い。角25cの曲率半径Rは例えば0.01mm以上1mm以下でも良い。角25cの曲率半径Rは0.01mm以上0.8mm以下でも良い。図4に示される溝25gの側壁と第一面21とのなす角度θは90°である。この角度θは90°以上160°以下でも良い。この角度θは90°以上150°以下でもよい。個々の角度θは一致していなくても良い。個々の角度θを一致させない場合、加工精度を過度に高める必要がないため、生産コストを低減し易い。溝25gの底面は平面でなくても良く、曲面でも良い。溝25gの底面と側壁はなめらかなR形状により接続されていても良い。溝25gの底面形状が曲面、または側壁となめらかなR形状により接続される形状である場合、端子2への振動や熱衝撃等による応力が溝25gの底面や側壁周辺に集中し難いため、端子2が破損し難い。また溝25gの加工精度を過度に高める必要がないため、端子2の生産コストが低減され易い。
【0057】
図4に示す溝25gは、溝25gの底部に向かうに従って狭くなっていても良い。そのような溝25gの一例が図5に示されている。図5の溝25gは、溝25gに沿った方向に直交する断面においてV字形状である。すなわち溝25gはV溝である。図5における隣接する二つの溝25gの間隔は0mmである。この場合、凹凸部25に断面山型の凸部が形成される。隣接する溝25g,25gのつなぎ目、即ち断面山型の凸部の頂点が角25cを構成している。角25cは丸みを帯びていてもよい。隣接する二つの角25cの間隔、即ちピッチP1は例えば0.4mm以上5mm以下である。本例におけるピッチP1は、溝25gの開口部の幅W2でもある。ピッチP1は例えば、0.5mm以上3mm以下でも良い。断面山型の凸部の高さh1、即ち垂直方向における溝25gの底部から角25cまでの長さである溝25gの深さは、例えば0.005mm以上1mm以下である。高さh1は例えば0.01mm以上0.5mm以下でも良い。角25cの曲率半径Rは例えば0.01mm以上1mm以下でも良い。角25cの曲率半径Rは0.01mm以上0.05mm以下でも良い。図5に示される隣接する二つの溝25gの側壁同士のなす角度φは90°である。この角度φは90°に限定されず、60°以上170°以下でも良い。この角度φは80°以上160°以下でも良いし、90°超140°以下でも良い。個々の角度φは一致していなくても良い。個々の角度φを一致させない場合、加工精度を過度に高める必要がないため、生産コストを低減しやすい。溝25gの底面形状は曲面、または側壁となめらかなR形状により接続された平面でも良い。溝25gの底面形状が曲面または平面である場合、端子2への振動や熱衝撃等による応力が溝25gのV字形状の底面周辺に集中し難いため、端子2が破損し難い。また溝25gの加工精度を過度に高める必要がないため、端子2の生産コストが低減され易い。
【0058】
凹凸部25の角25cは、端子2と取付対象3とが接続される際、取付対象3に食い込む。その際、角25cは取付対象3によって変形される。この変形によって角25cの酸化被膜が破壊され、端子2と取付対象3とが電気的に導通される。凹凸部25が規定の圧力以上で取付対象3に押し付けられることで、端子2と取付対象3とが長期にわたって強固に接続される。
【0059】
端子2の材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金である。端子2の表面には被覆層は備わっていない。アルミニウム合金は、アルミニウムを主成分とする、例えばアルミニウムを80質量%以上含む合金である。アルミニウム合金は例えば、アルミニウムの他に、シリコンを0.01質量%以上1.50質量%以下、マグネシウムを0.01質量%以上2.00質量%以下含む。アルミニウム合金は更に、銅、マンガン、鉄、クロム、ジルコニウム、チタンからなる群から選択される1種以上の添加元素を含んでいても良い。アルミニウム合金が添加元素を含む場合、マンガンと銅の少なくとも一方は必須としてもよい。銅の含有量は例えば、0.1質量%以上1.2質量%以下である。マンガンの含有量は例えば、0質量%以上1.5質量%以下である。鉄の含有量は例えば、0質量%以上0.8質量%である。クロムの含有量は例えば、0質量%以上0.4質量%以下である。亜鉛の含有量は例えば、0質量%以上0.8質量%以下、チタンの含有量は例えば、0質量%以上0.2質量%以下である。チタンとジルコニウムの合計含有量は例えば、0質量%以上0.3質量%以下である。アルミニウム合金は例えば、国際登録合金番号における6061または6056である。
【0060】
端子2のビッカース硬さは80HV以上である。ビッカース硬さは、JIS Z 2244-1:2020に準拠して測定される。シリコンおよびマグネシウムを含むアルミニウム合金は、80HV以上のビッカース硬さを満たし易い。ビッカース硬さが高いほど、ボルト4によって端子2と取付対象3とが締め付けられたときに、凹凸部25の凸部の角25cが取付対象3に食い込み易い。また、ビッカース硬さが高いほど、導通によって端子2が発熱したときに、端子2がクリープ変形し難い。その結果、取付対象3にボルト4の軸力が抜けることを抑止できる。端子2のビッカース硬さの上限は例えば、160HVである。160HV以下のビッカース硬さを有する端子2の角25cは、取付対象3に食い込む際、取付対象3によって適度に変形される。変形した角25cにおいてアルミニウムの酸化被膜が破壊され易い。ビッカース硬さの範囲は例えば、80HV以上160HV以下、更には85HV以上150HV以下である。ビッカース硬さの範囲は、90HV以上140HV以下でも良いし90HV以上110以下でも良い。
【0061】
端子2の導電率は例えば、40%IACS以上63%IACS以下である。導電率は、JIS H 0505:1975に準拠して測定される。シリコンおよびマグネシウムを含むアルミニウム合金は、上記導電率を満たし易い。端子2が上記導電率を有することで端子2の発熱量が抑えられる。その結果、端子2に接続される電線5、および取付対象3への熱ダメージが軽減される。導電率は、41%IACS以上60%IACS以下でも良いし、42%IACS以上58%IACS以下でも良い。その他、導電率は、40%IACS以上50%IACS以下でも良い。
【0062】
凹凸部25を備える端子2は、ボルト4の締め付けによって第一面21と取付対象3とが接続された状態において所定の条件を満たす。その条件は、第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2が0.8以下であることである。比S1/S2は、端子2と取付対象3とが所定以上の接続強度で接続されることを示す指標である。比S1/S2は0.7以下、更には0.6以下である。比S1/S2は0.5以下でも良いし、0.4以下でも良い。比S1/S2の下限値は例えば0.1である。従って、比S1/S2の範囲は例えば、0.1以上0.8以下、0.1以上0.7以下、0.1以上0.6以下、0.1以上0.5以下、または0.1以上0.4以下である。
【0063】
第一面積S1は、規定値以上の圧力で第一面21が取付対象3と接触する領域の面積である。規定値は例えば、25MPaである。第一面積S1は後述する試験例に示される締付試験によって求められる。第一面積S1は5mm以上である。第一面積S1が5mm以上であれば、端子2と取付対象3とが機械的に強固に接続され、かつその接続強度が長期にわたって維持され易い。第一面積S1が大きくなるほど接続強度が高くなる。第一面積S1は例えば、6mm以上でも良いし、7mm以上でも良い。第一面積S1の上限は、比S1/S2によって制限される。言い換えれば、比S1/S2の下限は、第一面積S1によって制限される。
【0064】
第二面積S2は、所定の円環領域の面積である。円環領域は、貫通孔2hの内径D1に基づいて定められるボルト4の呼び径D2を内径、ボルト4の座面径D3を外径とする仮想領域である。つまり、S2=π(D3/2)-π(D2/2)である。ボルト4は、内径D1の貫通孔2hに配置されたときに端子2と取付対象3とを適切に締め付けることができるように選定される。ボルト4の呼び径D2、座面径D3は、端子2が適用される箇所に応じて適宜選定できる。この選定基準を次のとおり例示する。呼び径D2は、内径D1に対応したボルト4の軸部40の直径に相当するものである。座面径D3は、端子2の第二面22においてボルト4の軸力が実質的に作用する範囲の外径に相当するものである。ボルト4による締結では、ヘッド部41の下部にフランジ部42を有するボルト4が使用される。フランジ部を有さないボルト4による締結ではワッシャが使用される。JIS B 1189:2014の付表JA.3を参考に、呼び径D2に応じた適切なフランジ部の外径を決めればよい。フランジ部を有するボルト4の場合、フランジ部の外径に0.929を掛けた値を座面径D3とみなすことができる。ボルト4と端子2との間にワッシャが配置される場合、ワッシャの外径に0.929を掛けた値を座面径D3とみなすことができる。呼び径D2は、内径D1と同じ場合がある。座面径D3は、内径D1および呼び径D2よりも大きい。例えば、内径D1が4mm以上5mm未満であれば、呼び径D2は4mm、座面径D3は9.8mmである。なお、端子2の用途に応じて呼び径D2および座面径D3が変更されても良い。当業者であれば用途に応じて適切な呼び径D2および座面径D3を選択できる。
【0065】
ボルト4の軸力が一定の場合、第二面積S2に対する第一面積S1の割合が小さくなるほど、第一面積S1を有する領域に働く圧力が増加する。比S1/S2が0.8以下であり、かつ第一面積S1が5mm以上であれば、端子2と取付対象3とが機械的に強固に接続され、かつその接続強度が長期にわたって維持され易い。その結果、端子2と取付対象3との間の接触抵抗が経時的に増加し難い。
【0066】
≪電線≫
電線5は、導体50と、導体50の外周を覆う絶縁被覆51とを備える。導体50の外径は例えば、0.1mm以上50mm以下でも良いし、0.4mm以上30mm以下でも良い。本例の導体50は複数の素線をより合わせたより線である。導体50は例えば、銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金などで構成されている。
【0067】
絶縁被覆51の厚さは例えば、0.1mm以上10mm以下でも良いし、0.2mm以上5mm以下でも良い。絶縁被覆51の材質は例えば、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする。ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンである。絶縁被覆51はシリコーン系樹脂でも良い。
【0068】
≪取付対象≫
取付対象3は、ボルト4を介して端子2と接続可能な形態であれば特に限定されない。本例の取付対象3は端子形状を備える。取付対象3はボルト4が貫通される貫通孔3hを備える。
【0069】
取付対象3の材質は例えば、銅または銅合金である。銅または銅合金は、比較的変形し易い。従って、端子2の凹凸部25の角25cが取付対象3に食い込み易く、端子2と取付対象3との接続が強固になる。取付対象3のビッカース硬さは例えば、端子2のビッカース硬さの2倍よりも低い。この場合、端子2の凹凸部25の凸部が取付対象3に食い込み易く、端子2と取付対象3との接続が強固になり易い。
【0070】
本例の取付対象3は、取付対象3の表面に被覆層31を有している。被覆層31は代表的にはめっきによって形成された金属層である。本例の被覆層31はめっき層である。被覆層31は、端子2と取付対象3とがこすれ合ったときに、端子2と取付対象3との界面の隙間を埋める。そのため、端子2のアルミニウムの新生面が酸化し難く、端子2と取付対象3との接触抵抗が上昇し難い。被覆層31は、少なくとも端子2に接触する部分に設けられていれば良い。被覆層31は必須ではない。
【0071】
被覆層31は、金、銀、スズ、またはニッケルから選択される少なくとも1種を含んでいても良い。上記元素を含む被覆層31は、銅または銅合金からなる取付対象3に密着し易い。従って、端子2と取付対象3との界面の接触抵抗の上昇が抑制され易い。被覆層31のビッカース硬さが、取付対象3の本体を構成する銅または銅合金のビッカース硬さよりも低いと、端子2と取付対象3との界面の接触抵抗の上昇が抑制され易い。
【0072】
≪ボルト≫
ボルト4は、端子2と取付対象3とを締め付けて、端子2と取付対象3とを接続する。ボルト4は、軸部40とヘッド部41とを備える。本例のボルト4は更にフランジ部42を有する。フランジ部42は、端子2の第二面22に当接する。軸部40にナット4nがはめ込まれている。ナット4nは、取付対象3に当接する。ボルト4のフランジ部42とナット4nとの間で、端子2と取付対象3とが締め付けられる。フランジ部42を有さないボルト4の場合、ヘッド部41と端子2との間にワッシャが配置される。
【0073】
ボルト4の材質は例えば鋼である。ボルト4は例えば、JIS G 4107:2010に規定されたSNB7鋼によって構成されていても良い。
【0074】
<試験例1>
試験例では、実施形態1の端子2を模した複数の試料を作製し、締付試験によって各試料の比S1/S2を求めた。また、実施形態1の接続構造1を模した試験構造体を作製し、その試験構造体を用いて熱衝撃試験を実施した。
【0075】
≪試料≫
・試料No.1
試料No.1の端子2は、図6に示される形状を備える。端子2は、14mm×40mmの矩形板である。端子2の厚さは2.0mmである。端子2には、端子2の面積中心と同心の貫通孔2hが設けられている。貫通孔2hの内径D1は7mmである。試料No.1の材質は国際登録合金番号における6056であった。材質の質別はT7であった。端子2のビッカース硬さは100HVであった。ビッカース硬さは、JIS Z 2244-1:2020に準拠して測定した。ビッカース硬さは、20点の測定値の中央値であった。端子2は、人為的に形成された導電性の被膜を有していない。この点は、以降の説明におけるいずれの端子2においても同様である。
【0076】
試料No.1の凹凸部25は、図4に示されるような複数の矩形状の溝25gを有する。複数の溝25gは並列されている。幅W1は0.4mm、幅W2は0.6mmであった。高さh1は0.2mmであった。溝25gの本数は13本、角25cの曲率半径Rは0.03mm、角度θは90°であった。
【0077】
・試料No.2
試料No.2は、試料No.1とは凹凸部25の形状のみが異なる。試料No.2の凹凸部25は、図5に示されるような複数のV字形状の溝25gを有する。複数の溝25gは並列されている。ピッチP1は1mm、高さh1は0.5mmであった。溝25gの本数は13本、角25cの曲率半径Rは0.03mm、隣接する二つの溝25gの側壁同士のなす角度φは90°であった。
【0078】
・試料No.3
試料No.3は、試料No.1とは幅W1,W2、高さh1、および角度θのみが異なる。溝25gは、開口幅よりも底部幅が狭いテーパ形状の溝25gである。すなわち、溝25gの断面形状は逆等脚台形状である。凹凸部25の凸部の断面形状は等脚台形状である。幅W1は0.45mm、幅W2は0.55mm、高さh1は0.02mm、角度θは105°であった。
【0079】
・試料No.4
試料No.4は、試料No.1とは凹凸部25の形状のみが異なる。試料No.4の凹凸部25の外形は、図3に示されるような円環形状を備える。円環形状の内径は10.0mm、外径は11.4mmであった。凹凸部25は、同心円状に配置された複数の溝25gを有する。溝25gの断面形状は逆等脚台形状であり、凹凸部25の凸部の断面形状は等脚台形状である。幅W1は0.06mm、幅W2は0.2mm、高さh1は0.28mm、角25cの曲率半径Rは0.03mm、角度θは110°、溝25gの本数は3本、凸部は2本であった。
【0080】
・試料No.5
試料No.5は、試料No.4とは凹凸部25の円環形状の内径、外径、幅W1,W2、高さh1、角25cの曲率半径R、角度θが異なる。内径は8.0mm、外径は9.1mm、幅W1は0.12mm、幅W2は0.31mm、高さh1は0.4mm、角25cの曲率半径Rは0.03mm、角度θは90°であった。
【0081】
・試料No.6
試料No.6は、試料No.2とは凹凸部25の形状のみが異なる。試料No.6の凹凸部25は、並列される複数の溝25gと、この複数の溝25gに直交する別の複数の溝25gとを備える。凹凸部25はいわゆる、四角目ローレット形状である。ピッチP1は1mm、高さh1は0.5mm、角25cの曲率半径Rは0.03mm、隣接する二つの溝25gの側壁同士のなす角度φは90°であった。
【0082】
・試料No.101
試料No.101は、試料No.1とは幅W1,W2のみが異なる。幅W1は0.7mm、幅W2は0.3mmであった。
【0083】
・試料No.102
凹凸部を有さないこと以外、試料No.102は試料No.1と同じである。
【0084】
・試料No.103
試料No.103は、材質以外は試料No.2と同じである。試料No.103の材質は国際登録合金番号における6101であった。材質の質別はT6であった。試料No.103のビッカース硬さは71HVであった。
【0085】
≪締付試験≫
図7は締付試験の概略図である。締付試験では、試料の端子2に加えて、円環状の板6と感圧シート7とを用意した。円環状の板6の材質は、JIS H 3100:2018に規定されるC1100-1/4Hである。C1100はタフピッチ銅である。円環状の板6のビッカース硬さは78HVである。円環状の板6の厚さは1.5mmである。図6に破線で示されるように、締付試験において円環状の板6は端子2に重ねられる。円環状の板6の内径はボルト4(図1)の呼び径D2に等しい。円環状の板6の外径D4は、二点鎖線で示される座面径D3の円に外接する正方形の対角線の長さ、即ち座面径D3の√2倍である。図6に示される例では、上記正方形と凹凸部25の外形とが一致している。内径D1、呼び径D2、座面径D3、および外径D4の関係を表1に示す。表1の数値は、既に述べた選定基準に基づいて設定されたものである。
【0086】
【表1】
【0087】
図7に示される締付装置8は、上パンチ81と下パンチ82と位置決めピン83とを備える。上パンチ81は円筒形状を備える。上パンチ81の材質はS50Cであった。上パンチ81の外径は座面径D3と同じ、内径は呼び径D2と同じである。下パンチ82は円筒形状を備える。下パンチ82の材質はS50Cであった。下パンチ82の外径は座面径D3と同じである。下パンチ82の内径は呼び径D2よりも小さい。本例では、下パンチ82の端面に位置決めピン83が配置されている。位置決めピン83は、下パンチ82の孔に圧入されていても良い。
【0088】
締付装置8の下パンチ82の端面上に、円環状の板6、感圧シート7、端子2の順にセットした。その結果、端子2と円環状の板6との間に感圧シート7が配置された積層体9が、下パンチ82の端面上に配置された。感圧シート7は、富士フイルム株式会社製の『プレシート(圧力測定フィルム)中圧用 MS PS』である。端子2の凹凸部25は感圧シート7に面している。
【0089】
上パンチ81を万能試験機のクロスヘッドにより圧縮して下方に移動させ、ボルト4に軸力が作用した状態を模擬して積層体9を加圧した。加圧力の最終到達値L1は、138×(D2)±50Nである。加圧力は万能試験機のロードセルにより測定され、クロスヘッドの変位によって管理される。最終到達値L1は、多少の誤差はあるものの、貫通孔2hの内径D1に応じて一義的に決定される。軸力の印加開始から5秒で最終到達値L1に達した。最終到達値L1による締め付けを5秒間維持し、その後除荷した。測定時の温度は25℃、相対湿度は40%であった。
【0090】
端子2と円環状の板との間から感圧シート7を回収し、画像解析によって感圧シート7の特定発色領域の面積を算出した。特定発色領域の面積が第一面積S1である。
【0091】
感圧シート7の発色面をスキャンする。このとき、感圧シート7に付属するカラーチャートを感圧シートと同時にスキャンする。カラーチャートは、感圧シート7に作用した圧力と、感圧シート7の色の濃度との対応関係を示す。スキャナの解像度は300dpi(ドットパーインチ)、24bitカラーであった。
【0092】
スキャンした画像データをImage Jによって画像解析した。Image Jはオープンソースの画像解析ソフトである。ソフトのバージョンは1.53kであった。画像データを8bitのモノクロ画像に変換した。ソフトによって、感圧シートの発色領域の明度のヒストグラムを作成すると共に、カラーチャートの明度のヒストグラムを作成した。感圧シートでは、接触圧力が高いほど濃い色に発色する。モノクロ画像では、接触圧力が高いほど明度が低くなる。カラーチャートのヒストグラムから、25MPa以上の接触圧力に相当する明度が求められる。一方、感圧シートの発色領域のヒストグラムから、25MPa以上の接触圧力を示す画素の数Nを求める。300dpiの画像では、1ピクセル当たりの面積は0.007168mmである。従って、第一面積S1は、0.007168×Nである。第一面積S1が得られれば、比S1/S2は計算によって求められる。
【0093】
≪熱衝撃試験≫
各試料の端子2と円環状の板6とをボルトとナットによって締め付けた試験構造体を作製した。ボルトの材質はSNB7鋼、ビッカース硬さは360HVであった。ナットの材質はSWRCH10R、ビッカース硬さは210HVであった。端子2の内径D1が7mmであるので、ボルトの呼び径D2およびナットの呼び径D2は6mmであった。円環状の板6の内径は6mm、外径は18.4mmであった。ボルトとナットとを、軸力の最終到達値L1が約5kN(138×6N)となるように締め付けた。事前にトルクと軸力の関係をひずみゲージ付き軸力ボルトにより測定し、これに基づいて試験構造体の締め付けトルクを設定した。
【0094】
試験構造体を1000サイクルの熱衝撃試験に供した。1サイクルは、150℃の雰囲気で30分間保持する工程Aと、工程Aの完了から5分以内に雰囲気を-40℃に冷却する工程Bと、工程Bの完了から-40℃の雰囲気に30分間保持する工程Cと、工程Cの完了から5分以内に雰囲気を150℃に加熱する工程Dと、を備える。
【0095】
熱衝撃試験後に、試験体の接触抵抗を四端子法で測定した。四端子法では、試料の端子2と円環状の板6のそれぞれに電流供給用のワニ口クリップを挟む。また、試料の端子2と円環状の板6のそれぞれに電圧測定用のワニ口クリップを挟む。制限電圧12Vの条件下で1Aの測定電流を印加した。測定された電圧を印加電流で除算し、接触抵抗を算出した。接触抵抗の単位はmΩ(ミリオーム)である。接触抵抗の算出結果、試料の端子2のビッカース硬さ、第一面積S1の大きさ、および比S1/S2を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示されるように、第一面積S1が5mm以上で、かつ比S1/S2が0.8以下である試料No.1から試料No.6の試験体の接触抵抗は0.1mΩ以下であった。比S1/S2が0.8超である試料No.101および試料No.102の接触抵抗は0.3mΩ以上であった。試料No.101と試料No.102との比較から、比S1/S2が大きくなるほど、接触抵抗が高くなることが分かった。
【0098】
試料No.103の試験体は、5mm以上の第一面積S1と、0.8以下のS1/S2を有するものの、試料No.103の試験体の接触抵抗は1.60mΩであった。これは、試料No.103の試験体に備わる端子2のビッカース硬さが71HVであったため、熱衝撃試験によって凹凸部25の角25cが変形したからであると推察される。角25cが変形すると、端子2と円環状の板6との間にアルミニウムの新生面が形成され、その新生面が酸化したと考えられる。また同時に端子2の応力緩和が生じ、ボルト軸力が抜け、端子2と円環状の板6との間がこすれることによりアルミニウムの新生面が形成され、その新生面が酸化したと考えられる。
【0099】
<試験例2>
試験例2では、端子2のビッカース硬さ、端子2の凹凸部25の形状、または取付対象3のビッカース硬さが異なる複数の試験構造体を作製し、それらの試験構造体の接触抵抗を測定した。接触抵抗は、試験例1の熱衝撃試験に記載される測定方法によって求めた。
【0100】
各試験構造体の構成を表3に示す。ビッカース硬さが100HVである端子2は国際登録合金番号の6056で構成されている。ビッカース硬さが101HVである端子2は国際登録合金番号における6061で構成されている。ビッカース硬さが90HVである端子2は国際登録合金番号における6061で構成されている。ビッカース硬さが108HVである端子2は国際登録合金番号における6061で構成されている。ビッカース硬さが96HVである端子2は国際登録合金番号における6061で構成されている。
【0101】
取付対象3はすべて銅または銅合金であった。ビッカース硬さが78HVである取付対象3は、JIS H 3100:2018に規定されるC1100-1/4Hで構成されている。ビッカース硬さが95HVである取付対象3は、JIS H 3100:2018に規定されるC1020-1/2Hで構成されている。ビッカース硬さが130HVである取付対象3は、JISJIS 3100:2018に規定されるC2801-1/2Hで構成されている。C2801-1/2Hは黄銅である。
【0102】
表3における硬さ比は、端子2のビッカース硬さを取付対象3のビッカース硬さで割った値である。端子2のビッカース硬さが取付対象3のビッカース硬さ以上であれば、硬さ比は1以上となる。
【0103】
表3における『形状』は、凹凸部25の全体的な形状を示す。『クロス溝』は、互いに直交する複数の溝25gによって構成された四角目ローレット形状の凹凸部25である。『平行溝』は、複数の溝25gが並列された形状の凹凸部25である。ここで、本例では、端子2の凹凸部25の形状に起因する比S1/S2の変化を測定した。比S1/S2は、試験例1の締付試験に記載される測定方法によって求めた。締付試験において端子2と共に締め付けられる円環状の板6はいずれも、ビッカース硬さが78HVのC1100-1/4Hであった。
【0104】
表3における『幅W1』は図4に示される凸部の幅W1である。幅W1がゼロである場合、図5に示されるように凸部が尖った形状であることを意味する。表3における『幅W2』は、図4および図5に示される溝25gの幅W2である。表3における『高さh1』は、図4および図5に示される凸部の高さ、すなわち溝25gの深さである。表3における『角度φ』は、図5に示される角度φである。ここで、試料No.14は、凹凸部25を有さない試料である。
【0105】
【表3】
【0106】
比S1/S2が0.25である試料No.13の接触抵抗は、比S1/S2が0.07である試料No.10の接触抵抗よりも小さかった。このことから、比S1/S2が0.1以上であれば、接触抵抗が低くなり易いことが分かった。
【0107】
硬さ比が1以上1.25以下である試料No.11から試料No.13の接触抵抗は、硬さ比が1.28である試料No.10の接触抵抗、および硬さ比が1未満である試料No.15から試料No.19の接触抵抗よりも小さかった。これらのことから、硬さ比が1以上1.25以下であれば、接触抵抗が低くなり易いことが分かった。
【0108】
試料No.10と、試料No.11から試料No.13との比較から、角度φが90°超であれば、接触抵抗が低くなり易いことが分かった。
【符号の説明】
【0109】
1 接続構造
10 端子付き電線
2 端子
2h 貫通孔
21 第一面
22 第二面
25 凹凸部
25c 角
25g 溝
29 ワイヤバレル
3 取付対象
3h 貫通孔
31 被覆層
4 ボルト
4n ナット
40 軸部
41 ヘッド部
42 フランジ部
5 電線
50 導体
51 絶縁被覆
6 円環状の板
7 感圧シート
8 締付装置
81 上パンチ
82 下パンチ
83 位置決めピン
9 積層体
D1 貫通孔の内径
D2 呼び径
D3 座面径
D4 円環領域の外径
P1 ピッチ
W1,W2 幅
h1 高さ
θ、φ 角度
【要約】
端子は、ボルトによって取付対象と接続されるように構成された端子であって、第一面と貫通孔と凹凸部とを備える。端子の材質はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、端子のビッカース硬さは80HV以上である。前記ボルトの締め付けによって前記第一面と前記取付対象とが接続された状態における第一面積S1と第二面積S2との比S1/S2が0.8以下であり、前記第一面積S1は、25MPa以上の圧力で前記第一面が前記取付対象と接触する領域の面積であり、前記第二面積S2は、前記貫通孔の内径D1に基づいて定められる前記ボルトの呼び径D2を内径、前記ボルトの座面径D3を外径とする円環領域の面積であり、前記第一面積S1が5mm以上である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7