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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】レーダ装置、車両、距離測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20231214BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20231214BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022515328
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2021014750
(87)【国際公開番号】W WO2021210465
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020074395
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】柏木 克久
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/134912(WO,A1)
【文献】特表2018-514776(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198453(WO,A1)
【文献】特開2018-129670(JP,A)
【文献】特開2017-26604(JP,A)
【文献】特開2012-42214(JP,A)
【文献】特開2011-232053(JP,A)
【文献】KRONAUGE,M. ROHLING,H.,New Chirp Sequence Radar Waveform,IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems,2014年,VOL.50, NO.4,pp.2870-2877,DOI:10.1109/TAES.2014.120813
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間経過とともに第1周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第1チャープ信号と、時間経過とともに前記第1周波数とは異なる第2周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第2チャープ信号と、を含む電磁波のビームを送信波として生成する送信部と、
前記送信波の送信および前記送信波が物標で反射した反射波の受信のための、第1受信アンテナおよび第2受信アンテナを含むアンテナと、
前記反射波に関する信号に基づいて、前記物標までの距離を示す第1距離を推定する第1距離推定部と、
前記第1距離に対する、前記第1受信アンテナおよび前記第2受信アンテナで受信するそれぞれの反射波に基づいて、前記反射波が到来する方向を示す到来方向を推定する到来方向推定部と、
前記反射波の位相を推定する所定のアルゴリズムを用いて、前記第1距離に対する、前記第1チャープ信号に対応する前記反射波の位相と、前記第1距離に対する前記第2チャープ信号に対応する前記反射波の位相との差を示す位相差を、前記到来方向に基づき推定する位相差推定部と、
前記位相差と、前記第1周波数と前記第2周波数との差と、に基づいて、前記物標までの距離を示す第2距離を推定する第2距離推定部と、
を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記到来方向推定部は、AF(Annihilating filter)法を用いて、前記到来方向を推定する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信部は、周波数が比例的に変化する前記第1チャープ信号および前記第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する、
請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信部は、時間幅が等しい前記第1チャープ信号および前記第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の前記レーダ装置を備える車両。
【請求項6】
時間経過とともに第1周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第1チャープ信号と、時間経過とともに前記第1周波数とは異なる第2周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第2チャープ信号と、を含む電磁波のビームを送信波として生成するステップと、
前記送信波を送信するステップと、
前記送信波が物標で反射した反射波を第1受信アンテナおよび第2受信アンテナで受信するステップと、
前記反射波に関する信号に基づいて、前記物標までの距離を示す第1距離を推定するステップと、
前記第1距離に対する、前記第1受信アンテナおよび前記第2受信アンテナで受信するそれぞれの反射波に基づいて、前記反射波が到来する方向を示す到来方向を推定するステップと、
前記反射波の位相を推定する所定のアルゴリズムを用いて、前記第1距離に対する、前記第1チャープ信号に対応する前記反射波の位相と、前記第1距離に対する前記第2チャープ信号に対応する前記反射波の位相との差を示す位相差を、前記到来方向に基づき推定するステップと、
前記位相差と、前記第1周波数と前記第2周波数との差と、に基づいて、前記物標までの距離を示す第2距離を推定するステップと、
を含む距離測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置、車両、距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置においては、FMCW方式や2値CW方式を採用している。ここで、FMCW方式では、距離分解能が周波数の変調の帯域幅に依存するため、距離分解能が使用可能な周波数帯域により制限される。また、2値CW方式は、ドップラー効果を用いているため、相対速度が等しい物標や静止している物標には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-167048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のレーダは、2値CW方式によって、相対速度が等しい物標や静止している物標の距離を推定可能とする。具体的には、特許文献1に記載のレーダは、周波数の異なる2つの連続波をスイッチで制御しつつ放射して、物標から反射された反射信号を受信する。特許文献1に記載のレーダは、当該反射信号に、局部発振信号源からの周波数が鋸歯状に変化する高周波信号を混合し、混合された信号に基づいて、目標物の位置を特定する。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のレーダは、一般的な手法として、反射信号に対する高速フーリエ変換の前処理で窓関数を適用する。当該窓関数は、2つの反射信号が隣接した周波数ビンにあると、それぞれの反射信号を適切に分離できない。このため、特許文献1に記載のレーダにおいては、距離分解能が劣化する虞があった。
【0006】
そこで、距離分解能を向上させることが可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るレーダ装置は、時間経過とともに第1周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第1チャープ信号と、時間経過とともに前記第1周波数とは異なる第2周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第2チャープ信号と、を含む電磁波のビームを送信波として送信する送信部と、前記送信波の送信および前記送信波が物標で反射した反射波の受信のためのアンテナと、前記反射波に関する信号に基づいて、前記物標までの距離を示す第1距離を推定する第1距離推定部と、前記反射波の位相を推定する所定のアルゴリズムを用いて、前記第1距離に対する、前記第1チャープ信号に対応する前記反射波の位相と前記第2チャープ信号に対応する前記反射波の位相との差を示す位相差を推定する位相差推定部と、前記位相差と、前記第1周波数と前記第2周波数との差と、に基づいて、前記物標までの距離を示す第2距離を推定する第2距離推定部と、を備える。
【0008】
本発明の一側面に係る距離測定方法は、時間経過とともに第1周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第1チャープ信号と、時間経過とともに前記第1周波数とは異なる第2周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第2チャープ信号と、を含む電磁波のビームを送信波として送信するステップと、前記送信波を送信するステップと、前記送信波が物標で反射した反射波を受信するステップと、前記反射波に関する信号に基づいて、前記物標までの距離を示す第1距離を推定するステップと、前記反射波の位相を推定する所定のアルゴリズムを用いて、前記第1距離に対する、前記第1チャープ信号に対応する前記反射波の位相と前記第2チャープ信号に対応する前記反射波の位相との差を示す位相差を推定するステップと、前記位相差と、前記第1周波数と前記第2周波数との差と、に基づいて、前記物標までの距離を示す第2距離を推定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、距離分解能を向上させることが可能なレーダ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るレーダ装置の構成の一例を示す図である。
図2】送信波における経過時間と周波数の変化との関係を示すグラフである。
図3】第1距離を推定するための送信波における経過時間と周波数の変化との関係を示すグラフである。
図4】到来方向の推定を概念的に示した図である。
図5】各チャープ信号における位相を示すグラフである。
図6】従来のレーダ装置における距離分解能を示す図である。
図7】第1実施形態に係るレーダ装置における距離分解能を示す図である。
図8】第2実施形態に係るレーダ装置の構成の一例を示す図である。
図9】第2実施形態に係るレーダ装置の第1距離と第2距離との関係を示すグラフである。
図10】第3実施形態に係るレーダ装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図を参照しながら本開示の各実施形態について説明する。
===第1実施形態に係るレーダ装置100の構成===
【0012】
図1を参照しつつ、第1実施形態に係るレーダ装置100の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係るレーダ装置100の構成の一例を示す図である。
【0013】
レーダ装置100は、物標までの距離を測定する装置である。レーダ装置100は、例えば、車両などの移動体(不図示)に搭載され、当該移動体と他の物標との距離を推定する。なお、図1では第1物標と第2物標とがあるように示しているが、以下説明においては、物標という場合、第1物標または第2物標の少なくともいずれかを示すこととする。
【0014】
図1に示すように、レーダ装置100は、例えば、送信アンテナ110、受信アンテナ120、制御装置130を含む。
【0015】
送信アンテナ110は、例えばマイクロストリップアンテナなどで形成される。送信アンテナ110は、例えば、放射指向性の方向を中心として、検知領域に送信波を送信する。
【0016】
受信アンテナ120は、例えば複数のマイクロストリップアンテナなどで形成される。受信アンテナ120は、例えば検知領域の物標で送信波が反射した反射波を受信する。受信アンテナ120は、例えば検知領域の物標で反射される反射波を全方向で受信できる。受信アンテナ120は、例えば、受信した反射波を電気変換して、検出信号として出力する。以下、説明の便宜上、受信アンテナ120は、例えば第1受信アンテナ121と第2受信アンテナ122とで形成されているものとする。
【0017】
制御装置130は、物標までの距離を算出する装置である。
【0018】
制御装置130は、例えば、送信部131、受信部132、周波数スペクトル推定部133、第1距離推定部134、到来方向推定部135、反射波推定部136、第1位相差推定部137、第2距離推定部138を含む。
【0019】
送信部131は、例えば、時間経過とともに所定の周波数(以下、「第1周波数」という。)から周波数が変化するチャープ信号(以下、「第1チャープ信号」という。)と、時間経過とともに第1周波数とは異なる周波数(以下、「第2周波数」という。)から周波数が変化するチャープ信号(以下、「第2チャープ信号」という。)と、を少なくとも含む電磁波のビームを送信波として生成する。すなわち、送信部131は、第1チャープ信号と第2チャープ信号とで初期の周波数が異なる送信波を生成する。
【0020】
具体的には、送信部131は、所定の時間間隔で、第1チャープ信号の第1周波数と第2チャープ信号の第2周波数とが異なり、周波数が三角波状の送信波を形成させるための変調制御信号を生成する。送信部131は、生成した変調制御信号にしたがって発振周波数を変化させる。これにより、送信部131は、各チャープ信号の初期の周波数が異なり、変調区間が所定の時間間隔で繰り返される、発振周波数が三角波状の送信波を生成する。換言すると、送信部131は、例えば、各チャープ信号の初期の周波数を変化させた、周波数連続変調(FMCW)方式によって、送信波を生成する。
【0021】
以下、図2を参照しつつ、送信部131で生成される送信波について詳細に説明する。図2は、送信波における経過時間と周波数の変化との関係を示すグラフである。図2では、X軸は経過時間tを示し、Y軸は送信波の周波数Hzを示す。図2では、送信波を実線で示し、受信される反射波を破線で示す。
【0022】
図2に示すように、送信部131は、経過時間とともに第1周波数fmin1から周波数が単調増加する第1チャープ信号(Chi1)を生成する。さらに、送信部131は、所定の時間後に、経過時間とともに第2周波数fmin2から周波数が単調増加する第2チャープ信号(Chi2)を生成する。同様に、送信部131は、所定の時間後に、第2周波数よりも大きい周波数から周波数が単調増加するチャープ信号を生成してもよい。これにより、送信部131は、変調区間が所定の時間間隔で繰り返される送信波を生成できる。以下では、第1周波数fmin1と第2周波数fmin2とに着目して説明することとし、第1周波数fmin1と第2周波数fmin2との周波数の差を「Δfmin」ということもある。また、図2では、各チャープ信号について、変調区間を等しく示しているが、変調区間が異なっていてもよい。また、各チャープ信号は、単調増加するものに限られず、例えば、単調減少するものであってもよい。
【0023】
受信部132は、例えば、受信アンテナ120で受信された物標ごとの反射波が合成された受信波と、送信波とをミキシングしてIFビート信号を生成する。受信部132は、例えば、ミキサ132a、ADC(analog to digital converter)132bを含む。
【0024】
ミキサ132aは、受信波と送信波とをミキシングして、所定の周波数のIFビート信号を生成する。IFビート信号は、受信用のアンプ(不図示)で増幅されてADC132bに出力される。
【0025】
ADC132bは、アナログのIFビート信号をデジタルのIFビート信号に変換して周波数スペクトル推定部133に出力する。ADC132bには、例えば一般的なアナログ-デジタル変換回路を用いる。ADC132bは、例えば、フラッシュ形、パイプライン形、逐次比較形、デルタシグマ形、二重積分形等の種々の方式が挙げられる。
【0026】
周波数スペクトル推定部133は、例えば、入力されたデジタルのIFビート信号を高速フーリエ変換して周波数スペクトルを生成する。周波数スペクトル推定部133は、チャープ信号に対応するIFビート信号の電力がピークを示す周波数fpeakを推定する。
【0027】
第1距離推定部134は、周波数スペクトル推定部133で推定された周波数fpeakに基づき物標までの距離(以下「第1距離」という。)を推定する。
【0028】
図3を参照しつつ、第1距離を推定する手順について説明する。図3は、第1距離を推定するための送信波における経過時間と周波数の変化との関係を示すグラフである。図3では、X軸は経過時間tを示し、Y軸は送信波の周波数Hzを示す。図3では、送信波を実線で示し、受信される反射波を破線で示す。
【0029】
第1距離推定部134は、送信波のチャープ信号の最小周波数fminと最大周波数fmaxとの間の使用帯域幅Bと、チャープ信号の周期Tと、周波数fpeakとに基づいて、第1距離を推定する。具体的には、式(1)に示す「fpeak」に周波数スペクトル推定部133で推定された周波数fpeakを代入して、距離を推定する。これにより、第1距離推定部134は、物標までの概略の第1距離R1を推定できる。
【0030】
R1 = ((c×T)/(2×BW))×fpeak ・・・ (1)
(BW:使用周波数帯域、T:チャープ周期、c:光速、fpeak:ビート信号にFFTを適用した後のピーク周波数値)
【0031】
到来方向推定部135は、例えば、第1距離に対する、第1受信アンテナ121で受信するそれぞれの反射波を合成した受信波と、第2受信アンテナ122で受信するそれぞれの反射波を合成した受信波とに基づいて、それぞれの反射波が到来する方向(以下「到来方向」という。)を推定する。換言すると、到来方向推定部135は、例えばレーダ装置100と物標との角度を推定する。
【0032】
具体的には、到来方向推定部135は、第1距離に対する、第1受信アンテナ121および第2受信アンテナ122で受信したそれぞれの受信波につきAF(Annihilating filter)法を適用することで、第1受信アンテナ121および第2受信アンテナ122の少なくともいずれかと、物標と、で形成される角度(到来方向)を推定する。
【0033】
AF法は、第1受信アンテナ121で受信する受信波と第2受信アンテナ122で受信する受信波とを入力として、出力が「0」になるようなフィルタを用いて、アンテナ間の位相差を算出することで、当該角度(到来方向)の推定を行う手法である。
【0034】
なお、到来方向推定部135は、AF法を適用して当該角度を推定することに限定されない。ここで、図4を参照しつつ、到来方向推定部135における角度(到来方向)の推定方法の他の一例について説明する。図4は、到来方向の推定を概念的に示した図である。
【0035】
図4では、第1受信アンテナ121と第2受信アンテナ122との間の距離(以下、「アンテナ間距離」という。)を「d」とし、第1受信アンテナ121と物標との角度を「θ」とする。以下では、第1受信アンテナ121で受信する反射波の位相を「φ1」とし、第2受信アンテナ122で受信する反射波の位相を「φ2」とする。
【0036】
図4に示すように、第2受信アンテナ122で受信される反射波は、第1受信アンテナ121で受信される反射波よりも、d×sin(θ)の追加距離を伝搬する。各アンテナと物標までの距離が、アンテナ間距離よりも十分に長いと仮定すると、位相差は、式(2)で算出される。
【0037】
Δφ = (2πd×sin(θ))/λ ・・・ (2)
(φ:アンテナ間の反射波の位相差、d:アンテナ間の距離)
【0038】
よって、角度θは、式(3)で算出される。
【0039】
θ = sin-1((λ×Δφ)/(2π×d)) ・・・ (3)
【0040】
また、到来方向推定部135は、MODE法(周波数応答解析)で到来方向を推定してもよい。
【0041】
反射波推定部136は、到来方向推定部135において推定された角度に基づいて、物標からの反射波を推定する。式(4)を参照しつつ、反射波を推定する手法について説明する。式(4)は、反射波を推定するための行列式である。
【0042】
【数1】
【0043】
式(4)に示すように、当該行列式では、推定された角度を成分として有するヴァンデルモンド行列(a)に、係数行列である各物標の反射波のベクトル(b)を掛けて、受信信号を示すベクトル(c)と対応付けている。
【0044】
行列(a)において、「Z」は角度θ(推定方向)から導出される複素数であり例えばZ=ejθで表され、「Z」に付されている添え字は反射波の推定数であり、「M」は受信アンテナの数を示す。また、行列(b)において、「A」は反射波の振幅を示し、「α」は反射波の位相を示す。また、行列(c)において、「X」は各アンテナにおける受信信号を示す。
【0045】
推定された角度が示される行列(a)は、「0」ではないことから、逆行列で表すことができる。また、受信信号を示す行列(c)の各成分「X」は、反射波に基づいて特定される。よって、反射波推定部136は、各物標の反射波のベクトル(b)に含まれる各成分を一意に推定できる。これにより、反射波推定部136は、該当する物標の反射波の位相αを推定できる。
【0046】
第1位相差推定部137は、反射波推定部136で推定された反射波に関する反射波に基づいて、第1距離に対する、第1チャープ信号に対応する物標からの反射波の位相と第2チャープ信号に対応する物標からの反射波の位相との差を示す位相差を推定する。
【0047】
図5を参照しつつ、当該位相差について説明する。図5は、各チャープ信号における物標からの反射波の位相を示すグラフである。図5においては、X軸は経過時間tを示し、Y軸は反射波における各チャープ信号の位相を示す。図5において、符号500は第1チャープ信号(Chi11)に対応する物標からの反射波の位相を示し、符号501は第2チャープ信号(Chi12)に対応する物標からの反射波の位相を示す。
【0048】
図5に示すように、第1位相差推定部137は、例えば、第1チャープ信号Chi11に対応する物標からの反射波の位相α1,1と、第2チャープ信号Chi12に対応する物標からの反射波の位相α1,2とを特定する。第1位相差推定部137は、位相α1,1と位相α1,2との位相差Δαを算出する。なお、第1チャープ信号に対応する物標からの反射波の位相と第2チャープ信号に対応する物標からの反射波の位相との位相差を算出するように説明したが、これは、初期周波数が異なる二以上のチャープ信号間の位相差を算出することをいう。
【0049】
第2距離推定部138は、当該位相差Δαと、第1周波数fmin1と第2周波数fmin2との周波数の差Δfminとに基づいて、式(5)により、物標との距離(以下、「第2距離」という。)を推定する。
【0050】
R2 = (c×Δα)/(4π×Δfmin) ・・・ (5)
(R2:第2距離、Δα:各チャープ信号に対応する物標からの反射波の位相差、Δfmin:第1周波数と第2周波数との差)
【0051】
これにより、第1距離よりも距離分解能が高い第2距離を推定することができる。
【0052】
以下、図6図7を参照しつつ、従来のレーダ装置と比較した、第1実施形態に係るレーダ装置における効果について説明する。
【0053】
図6は、従来のレーダ装置における距離分解能を示す図である。図6において、横軸は物標の横方向(Y方向)の位置を示し、縦軸は物標の距離方向(X方向)の位置を示す。すなわち、図6では、従来のレーダ装置と第1,第2物標とを平面的に見た位置関係を示す。なお、従来のレーダ装置は、図6の横軸の「0.00」の位置に配置されているものとする。図6において、符号600は第1物標の推定された位置を示し、符号601は、第1物標の実際の位置を示し、符号602は第2物標の推定された位置を示し、符号603は第2物標の実際の位置を示す。
【0054】
従来のFSK方式を用いたレーダ装置は、チャープ信号を用いないため、物標との間で相対速度差が生じているときにのみ距離を推定できる。すなわち、従来のレーダ装置では、相対速度差が「0」の物標との距離を推定できない。
【0055】
また、従来のFMCWもしくはFCMを用いたレーダ装置では、高速フーリエ変換における窓関数による距離分解能の劣化が生じる。図6に示すように、従来のレーダ装置は、到来方向の推定により2つの物標を分離できているものの、距離分解能の劣化により、推定された物標の位置と実際の物標の位置とに誤差を生じる(距離方向で分離不可)。そのため、従来のレーダ装置では、実際の物標の位置が異なる一の物標と他の物標とが同一の距離にあるように推定される。
【0056】
図7は、第1実施形態に係るレーダ装置100における距離分解能を示す図である。図7において、横軸は物標の横方向(Y方向)の位置を示し、縦軸は物標の距離方向(X方向)の位置を示す。すなわち、図7では、レーダ装置100と第1,第2物標とを平面的に見た位置関係を示す。なお、レーダ装置100は、横軸の「0.00」の位置に配置されているものとする。図7において、符号700は第1物標の推定された位置を示し、符号701は、第1物標の実際の位置を示し、符号702は第2物標の推定された位置を示し、符号703は第2物標の実際の位置を示す。
【0057】
上述したように、第1実施形態に係るレーダ装置100は、第1チャープ信号の初期周波数が第2チャープ信号の初期周波数と異なるように、送信波を生成する。
【0058】
これにより、第1実施形態に係るレーダ装置100は、物標からの反射波の位相変化を推定可能となるため、より精度高く物標までの距離を推定できる。そのため、図7に示すように、第1実施形態に係るレーダ装置100は、距離方向(X方向)においても2つの物標を分離できる。これは、高速フーリエ変換における窓関数による距離分解能の劣化を生じないためである。
【0059】
また、第1実施形態に係るレーダ装置100は、FMCW方式を用いているため、相対速度が「0」の物標であっても距離を推定できる。
【0060】
さらに言うと、第1実施形態に係るレーダ装置100は、各チャープ信号の初期周波数を任意に設定して、そのレーダ装置固有のパターンを構成できるため、他のレーダ装置の反射波との識別が可能となる。
===第2実施形態に係るレーダ装置200の構成===
【0061】
図8図9を参照しつつ、第2実施形態に係るレーダ装置200の構成について説明する。図8は、第2実施形態に係るレーダ装置200の構成の一例を示す図である。図9は、第2実施形態に係るレーダ装置200の第1距離と第2距離との関係を示すグラフである。図9において、横軸は第1距離を示し、縦軸は第2距離を示す。図9において、符号900は第1物標の推定された位置を示し、符号901は第2物標の推定された位置を示す。
【0062】
第2実施形態に係るレーダ装置200は、例えば、送信アンテナ210、受信アンテナ220、送信部231、受信部232、周波数スペクトル推定部233、第1距離推定部234、第2位相差推定部235、第2距離推定部236を含む。
【0063】
第2実施形態に係るレーダ装置200は、第1実施形態に係るレーダ装置100と比較して、到来方向推定部135、反射波推定部136、第1位相差推定部137を排除し、第2位相差推定部235を追加したものである。
【0064】
第2実施形態に係るレーダ装置200における、送信アンテナ210、送信部231、周波数スペクトル推定部233、第1距離推定部234、第2距離推定部236は、第1実施形態に係るレーダ装置100における、送信アンテナ110、送信部131、周波数スペクトル推定部133、第1距離推定部134、第2距離推定部138と同じであるため、その説明を省略する。
【0065】
第2実施形態に係るレーダ装置200は、例えば反射波を一つの受信アンテナ220(第3受信アンテナ)で受信してもよい。すなわち、第2実施形態に係るレーダ装置200は、受信アンテナ220が一つで構成されていてもよい。これは、レーダ装置200では、物標の角度(到来方向)の推定を行わないためである。
【0066】
送信部231は、例えば、周波数が比例的に増加または減少する第1チャープ信号および第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する。比例的に増加または減少するとは、例えば単調増加または単調減少することをいう。
【0067】
また、送信部231は、例えば、時間幅が等しい第1チャープ信号および第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する。
【0068】
第2位相差推定部235は、例えば高速フーリエ変換によって各チャープ信号間における各反射波の位相差を推定する。なお、第2位相差推定部235は、高速フーリエ変換によらず、相関処置により位相差を推定可能な他の位相検知アルゴリズムによって、各チャープ信号間における各反射波の位相差を推定してもよい。
【0069】
具体的には、第2位相差推定部235は、式(6)により、例えば第1物標に対応するIFビート信号VIF1を推定する。
【0070】
【数2】
(Atx:送信波の振幅、Arx:受信波の振幅、R:第1距離、BW:使用周波数帯域、c:光速、T:チャープ周期、fmin n:n番目のチャープ信号の初期周波数)
【0071】
これにより、式(6)の(2π(2R×fmin n)/c))を変形して、式(7)に示すように、n番目のチャープ信号に対応する反射波の位相α1,nを推定できる。
【0072】
【数3】
【0073】
したがって、第2位相差推定部235は、式(7)に基づいて、例えば、図5に示すような、チャープ信号Chi11に対応する反射波の位相α1,1とチャープ信号Chi12に対応する反射波の位相α1,2との位相差Δαを推定できる。
【0074】
同様に、第2位相差推定部235は、第2物標に対応するIFビート信号に基づいて、チャープ信号間の位相差Δαを推定できる。
【0075】
すなわち、第2実施形態に係るレーダ装置200は、送信波のチャープ信号の初期周波数を変化させることによって、物標を分離できるととともに、以下に示す各物標の第2距離を推定できる。
【0076】
第2実施形態に係るレーダ装置200は、第1実施形態に係るレーダ装置100と同様に、第2距離推定部236において、式(5)によって、物標までの距離が推定される。すなわち、図9に示すように、第2距離推定部236は、概略の第1距離に対して、詳細の第2距離を推定する。
【0077】
これにより、第2実施形態に係るレーダ装置200は、従来のレーダ装置よりも、距離分解能を高めることができる。また、第2実施形態に係るレーダ装置200は、受信アンテナ220が一つで構成されてもよいため、その構成が簡易となる。
===第3実施形態に係るレーダ装置300の構成===
【0078】
図10を参照しつつ、第3実施形態に係るレーダ装置300の構成について説明する。図10は、第3実施形態に係るレーダ装置300の構成の一例を示す図である。
【0079】
第3実施形態に係るレーダ装置300は、第2実施形態に係るレーダ装置200と比較して、受信アンテナ220を排除し、分離部337を追加したものである。以下、第3実施形態に係るレーダ装置300のその他の構成要素については、その説明を省略する。
【0080】
送受信アンテナ310は、送信波を送信し、送信波が第1,第2物標で反射した反射波を受信するように、一つのアンテナで構成される。
【0081】
分離部337は、例えば、サーキュレータであり、送受信アンテナ310に接続され、送信波に関する信号と反射波に関する信号とを分離する。
【0082】
これにより、送信波の送信と反射波の受信とを一つのアンテナで実現できるため、モジュール面積を縮減でき、レーダ装置300の小型化が図れる。
===まとめ===
【0083】
本開示の例示的な実施形態に係るレーダ装置100,200は、時間経過とともに第1周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第1チャープ信号と、時間経過とともに第1周波数とは異なる第2周波数から周波数が変化するチャープ信号を示す第2チャープ信号と、を含む電磁波のビームを送信波として生成する送信部131,231と、送信波の送信および送信波が物標で反射した反射波の受信のためのアンテナ110,120と、反射波に関する信号たる受信波に基づいて、物標までの距離を示す第1距離を推定する第1距離推定部134,234と、反射波の位相を推定する所定のアルゴリズムを用いて、第1距離に対する、第1チャープ信号に対応する反射波の位相と第2チャープ信号に対応する反射波の位相との差を示す位相差Δαを推定する第1,第2位相差推定部137,235(位相差推定部)と、位相差Δαと、第1周波数と第2周波数との差Δfminと、に基づいて、物標までの距離を示す第2距離を推定する第2距離推定部138,236と、を備える。これにより、レーダ装置100,200は、簡易な装置構成で高い距離分解能を実現できる。また、レーダ装置100,200は、静止物に対しても距離を推定できる。さらに、レーダ装置100,200は、各チャープの初期周波数を変化させているため、他のレーダ装置からの妨害を低減できる。
【0084】
また、レーダ装置100の受信部132は、第1受信アンテナ121と、第2受信アンテナ122と、を含み、第1距離に対する、第1受信アンテナ121および第2受信アンテナ122で受信するそれぞれの反射波に基づいて、反射波が到来する方向を示す到来方向を推定する到来方向推定部135をさらに備え、第1位相差推定部137は、到来方向に基づき、物標からの反射波を求める手法を用いて、位相差を推定する。これにより、レーダ装置100は、高い距離分解能で物標との距離を推定できる。
【0085】
また、レーダ装置100の到来方向推定部135は、AF法を用いて、到来方向を推定する。これにより、レーダ装置100は、物標との角度を高い精度で推定できるため、高い距離分解能で物標との距離を推定できる。
【0086】
また、レーダ装置200の受信部232は、反射波を、受信アンテナ220(第3受信アンテナ)のみで受信する。これにより、レーダ装置200は、距離の推定を高い精度で保ちつつ、構成を簡素化できる。
【0087】
レーダ装置300の送受信アンテナ310は、送信波を送信し、反射波を受信する、一つのアンテナを含み、送受信アンテナ310に接続され、送信波に関する信号と反射波に関する信号とを分離する分離部337、をさらに備える。これにより、一つのアンテナで送受信を行うことができるため、レーダ装置の小型化が図れる。
【0088】
また、レーダ装置100,200,300の送信部131,231,331は、周波数が比例的に変化する第1チャープ信号および第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する。これにより、レーダ装置200,300は、高い距離分解能で物標との距離を推定できる。
【0089】
また、レーダ装置100,200,300の送信部131,231,331は、時間幅が等しい第1チャープ信号および第2チャープ信号を含む電磁波のビームを送信波として送信する。これにより、レーダ装置100,200,300は、高い距離分解能で物標との距離を推定できる。
【0090】
以上説明した実施形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定して解釈するためのものではない。本開示は、その趣旨を逸脱することなく、変更または改良され得るとともに、本開示にはその等価物も含まれる。すなわち、実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。実施形態が備える素子及びその配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0091】
100,200,300…レーダ装置、110,210…送信アンテナ、120,220…受信アンテナ、130,230,330…制御装置、131,231,331…送信部、132,232,332…受信部、133,233,333…周波数スペクトル推定部、134,234,334…第1距離推定部、135…到来方向推定部、136…反射波推定部、137…第1位相差推定部、235,335…第2位相差推定部、138,236,336…第2距離推定部。
図1
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