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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】自走式車いす
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/02 20060101AFI20231214BHJP
   F03G 1/08 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A61G5/02 707
F03G1/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022031305
(22)【出願日】2022-02-08
(65)【公開番号】P2023115875
(43)【公開日】2023-08-21
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】397002614
【氏名又は名称】朝倉 健太郎
(73)【特許権者】
【識別番号】511029578
【氏名又は名称】橋本エンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 孟賢
(72)【発明者】
【氏名】劉 冉星
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 一彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕司
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-242254(JP,A)
【文献】特開平07-293422(JP,A)
【文献】特表2003-531764(JP,A)
【文献】特開2020-189625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0102156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/00- 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動による駆動力を得て移動する自走式車いすにおいて、
車いす本体の車輪の回転を受けて回転する駆動軸と、
前記駆動軸から回転力を出力する出力歯車列と、
前記駆動軸に回転力を入力する入力歯車列と、
前記出力歯車列が出力する前記駆動軸の回転力をバネに蓄力する蓄力歯車列と、
前記蓄力歯車列に蓄力したバネ力を前記駆動軸の駆動力に転換させて前記入力歯車列に出力する動力歯車列と、
さらに、前記出力歯車列と前記駆動軸の連結・解放を制御する制御ユニット、及び前記入力歯車列と前記駆動軸の連結・解放を制御する制御ユニット、並びに前記蓄力歯車列のバネ力を解放する制御ユニットを有し、
前記動力歯車列は、前記蓄力歯車列の回転方向を反転させて前記駆動軸の駆動力に転換するものであり、
前記畜力歯車列は、前記駆動軸に沿って複数本のバネを配置し、該複数本のバネに前記駆動軸の回転力を蓄力するものであることを特徴とする自走式車いす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車いすのユーザが車輪に加える手動力を車輪の駆動力に再生して車いす本体を移動させる自走式車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
自走式車いすには、電動モータで駆動する電動車いすが開発されている(特許文献1)。この種の電動車いすは、メインフレームに支持される駆動輪と、前記メインフレームに配置されて前記駆動輪を駆動する電動モータと、前記電動モータから前記駆動輪までの動力の伝達経路を連結状態、または、切断状態に切り替えるクラッチと、上下方向の所定範囲で移動可能に設けられたクラッチ操作ハンドルと、を備え、前記クラッチ操作ハンドルは、前記所定範囲の最低位置で停止しているときに、前記クラッチを前記連結状態および前記切断状態のうち一方の状態となるように操作し、前記所定範囲の最高位置で停止しているときに、前記クラッチを他方の状態となるように操作するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-194037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記自走式車いすは電動モータを駆動源としているため、駆動源の電動モータ及び電動モータを駆動するための電源バッテリーを車いす本体に装備する必要があり、ユーザにとっては便利である反面、車いす本体の重量が嵩み、その取扱いに困難を来す場合があり、また車いすが高価格となりユーザに経済的な負担を強いることになる。
【0005】
電源バッテリーの充電状態によっては目的地まで車いすを移動させることが困難であり、電源バッテリーの充電状態に気を配る必要がある。さらに、車いすの移動エリア内に電源バッテリーの充電設備がなければ、長距離の移動が制限されるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、車いすのユーザが手動により車輪に加える駆動力に基づいてバネに蓄力し前記バネの蓄力を車いすの駆動力に利用する自走式車いすを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る自走式車いすは、手動による駆動力を得て移動する自走式車いすにおいて、車いす本体の車輪の回転を受けて回転する駆動軸と、前記駆動軸から回転力を出力する出力歯車列と、前記駆動軸に回転力を入力する入力歯車列と、前記出力歯車列が出力する前記駆動軸の回転力をバネに蓄力する蓄力歯車列と、前記蓄力歯車列からの回転力を前記駆動軸の駆動力に転換させて前記入力歯車列に出力する動力歯車列と、を有することを特徴とする。
【0008】
前記自走式車いすであって、前記出力歯車列及び前記入力歯車列並びに前記蓄力歯車列の回転を制御するラチェットを装備したことを特徴とする。
【0009】
前記自走式車いすであって、前記出力歯車列と前記駆動軸の連結・解放を制御する制御ユニット、及び前記入力歯車列と前記駆動軸の連結・解放を制御する制御ユニット、並びに前記蓄力歯車列のバネ力を解放する制御ユニットを有することを特徴とする。
【0010】
前記自走式車いすであって、前記歯車列を主動歯車と従動歯車の組合せで構成し、前記制御ユニットを前記主動歯車と前記従動歯車間に跨って断続するスリーブで構成したことを特徴とする。
【0011】
前記自走式車いすであって、前記制御ユニットを操作する変換レバーをユーザが操作可能なエリアに配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、車いすのユーザが手動により車輪に加える駆動力に基づいてバネに蓄力し前記バネの蓄力を車いすの駆動力に利用するため、電動車いすの重量を増量する起因になっている電動モータやバッテリーを排除することができ、軽量化を実現することができる。
【0013】
車いす本体を軽量化することができ、介助者の援護を得ることなくユーザのみで車いすを駆動することができる。
【0014】
車いすのユーザが手動により車輪に加える駆動力に基づいてバネに蓄力し前記バネの蓄力を車いすの駆動力に利用するため、SDGs(持続可能な開発目標)に合致するシステムを実現することができる。しかも、バネの蓄力で駆動するため、電動式のような充電設備が不要となり、車いすを使った移動範囲を拡大することができる。
【0015】
出力歯車列及び入力歯車列が駆動軸と逆方向に回転するのを阻止するラチェットを装備するため、駆動軸の回転力を有効にバネに伝動することができる。
【0016】
蓄力歯車列が車いす本体の固定軸に軸支し、蓄力歯車列が駆動軸と逆方向に回転するのを阻止するラチェットを装備することにより、駆動軸の回転力をバネに効率よく蓄力することができる。
【0017】
出力歯車列と前記駆動軸の連結を解放する制御ユニット、及び前記入力歯車列と前記駆動軸を連結する制御ユニットを有するため、ユーザによる使用状態に対応させてバネの蓄力で車いすを自由に駆動させることができる。
【0018】
蓄力歯車列の回転を制御して蓄力歯車列のバネから蓄力を出力する制御ユニットを有するため、ユーザの意思に基づいてバネの蓄力を補助動力源として容易に利用することができる。
【0019】
制御ユニット及び制御ユニット並びに制御ユニットを操作する変換レバーを車いす本体に座したユーザが操作可能なエリアに配置したことにより、ユーザの必要時にバネの蓄力を機械式動力源として容易に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る自走式車いすを示す側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る自走式車いすの機械式駆動源を示す構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る自走式車いすの機械式駆動源に組み込んだ出力歯車列の動作を示す構成図である。
図4】本発明の実施形態に係る自走式車いすの機械式駆動源に組み込んだ蓄力歯車列の動作を示す構成図である。
図5】本発明の実施形態に係る自走式車いすの出力歯車列に採用したラチェットを示す構成図である。
図6】(a)は本発明の実施形態に係る自走式車いすの蓄力歯車列を示す斜視図、(b)は前記蓄力歯車列に採用したラチェットを示す構成図である。
図7】本発明の実施形態に係る自走式車いすの機械式駆動源の動作状態を示す構成図である。
図8】本発明に係る自走式車いすに適用する他の実施形態の機械式駆動源を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明の実施形態に係る自走式車いすの車いす本体1は図1に示すように、車いす本体1を支える車輪2と、ユーザが着座する座席3と、座席3に着座したユーザが寄り掛かる背当て4と、介助者が操作する手押しハンドル5を少なくとも有しており、座席3に着座したユーザが車輪2を進む方向に手動で回転させることにより、車いす本体1に駆動力(推進力)を得るように構成している。車いす本体1には車輪2を補助する補助輪2aが取り付けられている。
【0023】
車輪2は図2に示すように、車いす本体1の左右に取り付けられ、ユーザが車輪2を握って進む方向に手動で回転するようになっており、ユーザが左右の車輪2の回転数を異ならせる或いは左右の車輪2の回転方向を異ならせるなどの操作を行うことにより、車いす本体1の方向転換を行うようになっている。
【0024】
本発明の実施形態に係る自走式車いすは図2に示すように、左右の車輪2の相互間を独立させて車いす本体1の左右に取り付け、複数の車輪2の車軸6が軸受7により車いす本体1に回転可能に軸支しており、複数の車軸6が車輪2に連動して独立して回転することに着目している。本発明の実施形態では、車軸6を駆動軸6と表記している。
【0025】
本発明の実施形態は、車輪2に連動した駆動軸6の回転エネルギーを機械式駆動源Pに入力し、ユーザが車輪2に入力した手動力を機械式駆動源Pに通すことにより車輪2を回転させる駆動力として再生させるというエネルギーの循環回路を形成することにより、軽量化を達成でき且つSDGs(持続可能な開発目標)に合致するシステムを構築したことを特徴とするものである。
【0026】
図2に示す本発明の実施形態に係る自走式車いすは、車いす本体1の左右に取り付けた車輪2の駆動軸6に機械式駆動源Pを組み込み、ユーザが車輪2に入力した手動力を機械式駆動源Pで再生させて複数の車輪2の駆動軸6に駆動力(回転力)を発生させるようにしている。
【0027】
複数の車輪2の駆動軸6に組み込んだ複数の機械式駆動源Pは同一の構成であるため、図2に図示した機械式駆動源Pのうち、1台の機械式駆動源Pの構成を詳細に説明する。
【0028】
本発明の実施形態に係る自走式車いすは図1及び図2に示すように基本構成として、手動による駆動力を得て移動する自走式車いすであり、車いす本体1の車輪2の回転を受けて回転する駆動軸6と、駆動軸6から回転力を出力する出力歯車列8と、駆動軸6に回転力を入力する入力歯車列9と、出力歯車列8が出力する駆動軸6の回転力をバネに蓄力する蓄力歯車列10と、蓄力歯車列10からの回転力を駆動軸6の駆動力に転換させて入力歯車列9に出力する動力歯車列11と、を有することを特徴とするものである。
【0029】
次に、各歯車列8,9,10,11の構成を詳細に説明する。
【0030】
図1及び図2に示すように、駆動軸6が軸受7により車いす本体1に回転可能に軸支し、駆動軸6に機械式駆動源Pを組み込み、車輪2の回転エネルギーを機械式駆動源Pに取り込むようになっている。具体的に説明すると、駆動軸6から回転力を出力する出力歯車列8は図2に示すように、駆動軸6に一体に取り付けた主動歯車8aと、駆動軸6に一体に取り付けて主動歯車8aに断続する従動歯車8bから構成している。
【0031】
図2に示すように、出力歯車列8と駆動軸6の連結・解放を制御する制御ユニット13を装備している。
【0032】
図2に示す実施形態は、制御ユニット13を内側に内歯13aを有するスリーブ13で構成している。以下の説明では制御ユニット13をスリーブ13として表記する。
スリーブ13は出力歯車列8の主動歯車8a及び従動歯車8bの外歯8c,8dに跨って噛合う内歯13aを形成している。
スリーブ13は変換レバー14の操作により主動歯車8aと従動歯車8bを断続する機能を実行するものである。
【0033】
具体的には、機械式駆動源Pの未使用状態のスリーブ13は図2及び図3に示すように、スリーブ13の内歯13aが主動歯車8aの外歯8cに噛合うと共に従動歯車8bの外歯8dから離間した位置にセットする(図3の右側に図示した状態)。この状態において、主動歯車8aと従動歯車8b間が遮断され、出力歯車列8が駆動軸6から切り離した状態に維持されることになり、駆動軸6の回転力が出力歯車8から出力されることがない。
【0034】
機械式駆動源Pの使用状態のスリーブ13は図2及び図3に示すように、主動歯車8aと従動歯車8bに跨る位置にシフトしてセットする(図3の左側に図示した状態)。このセット状態において、スリーブ13の内歯13aが主動歯車8aの外歯8c及び従動歯車8bの外歯8dに噛合い、主動歯車8aと従動歯車8bがスリーブ13で連結することになり、出力歯車8が駆動軸6に連結し、駆動軸6の回転力が出力歯車8から出力することになる。
【0035】
駆動軸6に回転力を入力する入力歯車列9は図2に示すように、駆動軸6に一体に取り付けた主動歯車9aと、駆動軸6に軸受15により軸支して主動歯車9aに断続する従動歯車9bから構成してある。
【0036】
図2に示すように、入力歯車9と駆動軸6の連結・解放を制御する制御ユニット16を装備している。
【0037】
図2に示す実施形態は、制御ユニット16を内側に内歯16aを有するスリーブ16で構成している。以下の説明では制御ユニット16をスリーブ16として表記する。
スリーブ16は入力歯車列9の主動歯車9a及び従動歯車9bの外歯9c,9dに跨って噛合う内歯16aを形成している。
スリーブ16は変換レバー17の操作により主動歯車9aと従動歯車9bを連結或いは遮断する機能を実行するものである。
【0038】
具体的には、機械式駆動源Pの未使用状態のスリーブ16は図2に示すように、内歯16aが主動歯車9aの外歯9cに噛合うと共に従動歯車9bの外歯9dから離間した位置にセットする。このセット状態は図3の左側に図示した状態(a)と同様のセット状態を採ることになる。
この状態において、図2及び図3の左側に図示したように、主動歯車9aと従動歯車9b間が遮断され、入力歯車列9が駆動軸6から切り離した状態に維持することになり、入力歯車列9が駆動軸6に回転力を入力することがない。
【0039】
機械式駆動源Pの使用状態のスリーブ16は図2に示すように、主動歯車9aと従動歯車9bに跨る位置に移動してセットする。このセット状態は図3の右側に図示した状態(b)と同様のセット状態を採ることになる。
この状態において、図2及び図3の右側に図示したように、スリーブ16の内歯16aが主動歯車9aの外歯9c及び従動歯車9bの外歯9dに噛合い、主動歯車9aと従動歯車9bがスリーブ16で連結することになり、入力歯車9が駆動軸6に連結し、入力歯車列9が駆動軸6に回転力を入力することになり、駆動軸6が入力歯車列9から入力する回転力で回転し、その回転力が車輪2に伝動して車いす本体1が駆動することになる。
【0040】
出力歯車列8が出力する駆動軸6の回転力をバネに蓄力する蓄力歯車列10は図2図4図6に示すように、車いす本体1に固定された固定軸18に回転可能に軸支してある。具体的には、蓄力歯車列10は図2図4及び図6に示すように、固定軸18に軸受19aで回転可能に軸支した主動歯車10aと、軸受19bで固定軸18に回転可能に軸支した従動歯車10bから構成してある。
【0041】
従動歯車10bはブロック20を装備している。ブロック20は固定軸15に外装して固定軸18の軸方向に延在しており、ブロック20は従動歯車10bと一体に固定軸18の廻りに回転するようになっている。
さらに従動歯車10bは、固定軸18の周囲に巻回した図2図8に示すように固定軸18に沿って配置した)複数本のバネ21を有している。複数本のバネ21は、その一端をブロック20に固定し、その他端を固定軸18に固定しており、従動歯車10bの回転に同期してブロック20が回転して捩じられることにより、駆動軸6の回転力を蓄力するようになっている。
【0042】
出力歯車列8の従動歯車8aはスプロケット(或いはプーリー)22を一体に取り付けている。同様に、蓄力歯車列10の主動歯車10aはスプロケット(或いはプーリー)24を一体に取り付けている。
出力歯車列8のスプロケット22と蓄力歯車列10のスプロケット(或いはプーリー)24の間にチェーン(或いはベルト)26が掛け渡しており、出力歯車列8からの駆動軸6の回転力を蓄力歯車列10に伝動するようになっている。
【0043】
さらに、蓄力歯車列10の回転を規制して蓄力歯車列10のバネ21から蓄力を出力する制御ユニット27を装備している。
【0044】
図2に示す実施形態は、制御ユニット27を内側に内歯27aを形成したスリーブ27で構成している。以下の説明では、制御ユニット27をスリーブ27として表記する。
スリーブ27は蓄力歯車列10の主動歯車10a及び従動歯車10bの外歯10c,10dに跨って噛合う内歯27aを内側に形成している。
スリーブ27は変換レバー28の操作により主動歯車10aと従動歯車10bを断続する機能を実行するものである。
【0045】
具体的には、機械式駆動源Pの未使用状態のスリーブ27は、内歯27aが主動歯車10aの外歯10cに噛合うと共に従動歯車10bの外歯10dから離間した位置にセットし、主動歯車10aと従動歯車10b間を遮断し、蓄力歯車列10の回転を制御するようになっている。これにより、蓄力歯車列10が出力歯車列8から切り離され、出力歯車列8からの駆動軸6の回転力が蓄力歯車列10に伝動されることがない。
【0046】
機械式駆動源Pの使用状態のスリーブ27は主動歯車10aと従動歯車10bに跨る位置に移動してセットし、スリーブ27の内歯27aが主動歯車10aの外歯10c及び従動歯車10bの外歯10dに噛合い、主動歯車10aと従動歯車10bがスリーブ27で連結することになる。これにより、蓄力歯車列10が出力歯車列8に連携し、出力歯車列8からの駆動軸9の回転力が蓄力歯車列10に伝動されることになり、駆動軸9の回転力が蓄力歯車列10のバネ21に蓄力する。
【0047】
さらに、機械式駆動源Pの使用状態において蓄力歯車列10のバネ21の蓄力を解放する際には、スリーブ27の内歯27aが主動歯車10aの外歯10cに噛合うと共に従動歯車10bの外歯10dから離間する位置に移行すると、主動歯車10aと従動歯車10b間が遮断され、蓄力歯車列10の回転が制御されるようになっている。これにより、蓄力歯車列10の従動歯車列10bがフリーとなり、バネ21が解放して、蓄力歯車列10のバネ21に蓄積された蓄力がブロック20から出力することになる。
【0048】
蓄力歯車列10からの回転力を駆動軸6の駆動力に転換させて入力歯車列9に入力する動力歯車列11を有している。
具体的に説明すると、動力歯車列11は、車いす本体1に固定された固定軸18に軸受30aで回転可能に軸支した主動歯車11aと、固定軸29に軸受30bで回転可能に軸支し主動歯車11aに噛合って主動歯車11aの回転方向を反転させる従動歯車11bから構成している。
【0049】
動力歯車列11の従動歯車11bはスプロケット(或いはプーリー)31を有しており、スプロケット(或いはプーリー)31が軸受32で固定軸29に回転可能に軸支している。入力歯車列9の主動歯車9aはスプロケット(或いはプーリー)33を有しており、スプロケット(或いはプーリー)33が軸受34で駆動軸6に回転可能に軸支している。
動力歯車列11のスプロケット31と入力歯車列9のスプロケット(或いはプーリー)33の間にチェーン(或いはベルト)35を掛け渡しており、動力歯車列11からの蓄力歯車列10のバネ力を入力歯車列9に伝動するようになっている。
【0050】
図3及び図5に示すように、出力歯車列8及び入力歯車列9が駆動軸6と逆方向に回転するのを阻止するラチェット36を装備している。出力歯車列8及び入力歯車列9のラチェット36は共通性があるので、出力歯車列8のラチェット36について説明する。
具体的には、図3及び図5に示すように、従動歯車8bにラチェット用歯車37を外装しラチェット歯車37を従動歯車8bに一体に連結し、ラチェット歯車37の内側にラチェット歯37aを形成する。駆動軸6に支持駒38を取り付け、支持駒38にラチェット爪39を周方向に複数設けている。ラチェット爪39をラチェット歯37aに噛合わせ、出力歯車列8が駆動軸6と逆方向に回転するのを阻害するストッパ40をラチェット歯37aに形成している。
【0051】
入力歯車列9のラチェットは出力歯車列9のラチェット36と共通性を有しており、出力歯車列8のラチェット36と同様に、入力歯車列9の従動歯車9bにラチェット用歯車37を外装しラチェット歯車37を従動歯車9bに一体に連結し、ラチェット歯車37の内側にラチェット歯37aを形成する。駆動軸6に支持駒38を取り付け、支持駒38にラチェット爪39を周方向に複数設けている。ラチェット爪39をラチェット歯37aに噛合わせ、入力歯車列9が駆動軸6と逆方向に回転するのを阻害するストッパ40をラチェット歯37aに形成している。
【0052】
図4及び図6に示すように、蓄力歯車列10が固定軸18の廻りに駆動軸6と逆方向に回転するのを阻止するラチェット41を装備している。
具体的には、図4及び図6に示すように、従動歯車10bにラチェット用歯車42を外装しラチェット歯車42を従動歯車10bに一体に連結し、ラチェット歯車42の内側にラチェット歯42aを形成し、ラチェット爪44を周方向に複数設けている。ラチェット爪44をラチェット歯42aに噛合わせ、蓄力歯車列10が駆動軸6と逆方向に回転するのを阻害するストッパ45をラチェット歯42aに形成している。
【0053】
以上説明したように、出力歯車列8及び入力歯車列9並びに蓄力歯車列10がラチェット36、41の存在により、これらの歯車列8,9,10が駆動軸6と逆方向に回転することが阻止され、歯車列8,9,10が駆動軸6の回転力をロスなく受け取ることが可能になっている。
【0054】
制御ユニット13及び16の変換レバー14と変換レバー17は連動しており、変換レバー13の操作に変換レバー17が追従するようになっている。制御ユニット13の変換レバー14及び制御ユニット27を操作する変換レバー28が、車いす本体1に座したユーザが操作可能なエリアに配置している。
具体的には、制御ユニット13の変換レバー14(変換レバー16)が、車いす本体1の左側(或いは右側)の車輪2に隣接させて配置している。
【0055】
制御ユニット27が制御ユニット16に隣接して配置してある。この配置を採ることにより、制御ユニット16の操作で入力歯車列9の主動歯車9aと従動歯車9bを連結した状態で制御ユニット27を操作し、蓄力歯車列10のバネ21の蓄力を出力させて入力歯車列9に入力させるという変換レバー操作が一連の連続した動作として実行するようになっている。
【0056】
スリーブ12,16,27はアームに回転可能部に支持され、そのアームはラックとピニオンの組合せにより駆動軸6及び固定軸18に沿って軸方向に往復移動する構造であり、そのアームを変換レバー14,17,28の操作により駆動軸6及び固定軸18の軸方向にシフトさせ、歯車列8,9,10の主動歯車と従動歯車間を断続させる構造を採用している。スリーブ12,16,27を支持し且つシフトさせるアーム及びラック・ピニオンの構造は汎用のものであるため、本発明の主要構造である歯車列8,9,27のみを図示している。
【0057】
次に、本発明の実施形態に係る自走式車いすの運用状態を図7に基づいて詳細に説明する。図7は機械式駆動源Pの未使用状態を図示している。
【0058】
「通常の運用」
通常の運用では図7に示すように、車いす本体1の座席3に座したユーザは、制御ユニット13の変換レバー14を操作して、出力歯車列8と駆動軸6の連結を解放する。具体的には、変換レバー14を操作してスリーブ13の内歯13aが出力歯車列8の主動歯車8aに噛合い且つ従動歯車8bから離間する位置にセットする。この変換レバー14の操作により、出力歯車列8と駆動軸6の連結を解放する。これにより、駆動軸6の回転力が出力歯車列8から出力されることはない。
【0059】
ユーザは図7に示すように、変換レバー14の動作に連動する変換レバー17の操作でスリーブ16を出力歯車列8と駆動軸6の連結を解放する位置にセットした後、スリーブ16による入力歯車列9の主動歯車9aと従動歯車9bの連結を解放する。具体的には、変換レバー17を操作してスリーブ16の内歯16aが入力歯車列9の主動歯車9aに噛合い且つ従動歯車9bから離間する位置にセットする。この変換レバー14の操作に連動する変換レバー17の操作により、入力歯車列9と駆動軸6の連結を解放する。これにより、入力歯車列9の回転力が駆動軸6に入力することがない。
【0060】
以上のように、連動関係にある変換レバー14及び変換レバー17の操作により、図7に示すように、出力歯車列8及び入力歯車列9と駆動軸6は切り離されるため、駆動軸6の回転力が出力歯車列8から出力することがなく、入力歯車列9の回転力が駆動軸6に入力することがない。
すなわち、車いす本体1の左右に取り付けた車輪2に組み込んだ機械式駆動源Pが停止状態に保持されるから、ユーザが車輪2に回転力を加えると、その回転力に応じて車いす本体1が移動することになる。
【0061】
「機械式駆動源Pの動作状態」
機械式駆動源Pの動作状態は図7に示すように、変換レバー14及び変換レバー17を矢印で示すX,Y,Z方向にスライドさせて機械式駆動源Pが動作する状態に移行させる。
ユーザは、ユーザが車輪2に加える回転力にプラスして機械式駆動源Pによる回転エネルギーを加算して車輪2を回転させる場合、或いは機械駆動源Pによる回転エネルギーを優先して車輪2を回転させる場合、機械駆動源Pを動作させる必要がある。
【0062】
すなわち、ユーザは、変換レバー14の操作でスリーブ16を出力歯車列8と駆動軸6の連結位置にセットし、変換レバー14の操作で変換レバー17を操作して、スリーブ16による入力歯車列9の主動歯車9aと従動歯車9bの連結を解放する。具体的には、変換レバー14の操作で変換レバー17を操作してスリーブ16の内歯16aが入力歯車列9の主動歯車9a及び従動歯車9bに噛合う位置にセットする。
すなわち、連動関係の変換レバー14と変換レバー17の操作により、出力歯車列8と駆動軸6が連結し、入力歯車列9が連結軸6の連結することになり、駆動力6の回転力が出力歯車列8から出力し、入力歯車列9から駆動軸6の回転力が入力する除隊に移行する。
【0063】
以上のように、変換レバー14の操作により出力歯車列8と駆動軸6が連結し、変換レバー14の操作に連動して変換レバー17の操作により入力歯車列9と駆動軸6が連結する。このため、駆動軸6の回転力は出力歯車列8から出力し、入力歯車列9の回転力が駆動軸6に入力する状態になる。
すなわち、車いす本体1の左右に取り付けた車輪2に組み込んだ機械式駆動源Pが動作状態に保持される。
【0064】
ユーザは、出力歯車列8から駆動軸6の回転力が出力する状態に移行させた場合、次いで制御ユニット27の変換レバー28を操作してスリーブ27を、スリーブ27の内歯27aが蓄力歯車列10の主動歯車10a及び従動歯車10bに噛合う位置にセットする。
スリーブ27のセットが完了すると、出力歯車列8から出力する駆動軸6の回転力が、出力歯車列8のスプロケット22及びチェーン26並びに蓄力歯車列10のスプロケット24を介して蓄力歯車列10の主動歯車10aに伝動する。蓄力歯車列10の従動歯車10bが主動歯車10aにスリーブ13で連結しているため、駆動軸6の回転力が従動歯車10bに伝動し、従動歯車10bが駆動軸6により回転する。
【0065】
従動歯車10bが回転すると、従動歯車10bのバネ21が捩じられるため、駆動力6の回転力が蓄力歯車列10のバネ21に蓄力することになる。
バネ21が捩じられるに伴って、バネ21の反発力が増加するため、ユーザは車輪2により多くの手動力を加えなければ車いす本体1を移動させられないことを体感する。すなわち、ユーザは蓄力歯車列10のバネ21に駆動軸6の回転力が蓄力していることを体感する。
【0066】
ユーザは機械式駆動源Pによる回転ネルギーを体感した際、スリーブ27の変換レバー28を操作して、蓄力歯車列10の主動歯車10aから従動歯車10bを切り離すための動作を実行させる。この動作が実行されると、蓄力歯車列10の従動歯車10bがフリーになるため、従動歯車10bのバネ21が解放する。バネ21が解放すると、バネ21に蓄えられていた蓄力が動力歯車列11に伝動する。
【0067】
動力歯車列11の主動歯車11aがバネ21の蓄力で回転する。主動歯車11aには従動歯車11bが連結しているため、主動歯車11aの回転力が従動歯車11bに伝動する。従動歯車11bの回転方向は主動歯車11aの回転方向と逆まわりであるため、主動歯車11aの回転が従動歯車11bを介することにより駆動軸6の回転方向に変換される。蓄力歯車列11の回転力が入力歯車列9に入力することにより、機械式駆動源Pの駆動により、駆動軸6が回転されることになる。
【0068】
以上の説明では、車いす本体1の左右の車輪2に組み込んだ2台の機械式駆動源Pを動作させて車いすを自走させる動作を対象としたが、これに限られるものではない。
1台の機械式駆動源Pを動作させて車いす本体1の方向転換を容易に行うようにしても良いものである。
【0069】
図8に示す実施形態は、図7に実施形態を改良したものであり、蓄力歯車列10と動力歯車列11の間に速度調節機構46を設けることにより、蓄力歯車列10から動力歯車11へ伝達される回転力の速度を調節用にしてもよいものである。
【0070】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る自走式車いすは左右の車輪の相互間を独立させて車いす本体の左右に取り付け、複数の車輪の車軸(駆動軸)が車輪に連動して回転することに着目し、車輪に連動した駆動軸の回転エネルギーを機械式駆動源に入力し、ユーザが車輪に入力した手動力を機械式駆動源に通すことにより車輪を回転させる駆動力として再生させるというエネルギーの循環回路を形成することにより、軽量化を達成でき且つSDGs(持続可能な開発目標)に合致するシステムを構築することができるという効果を奏する。
さらに、蓄力歯車列が駆動力の回転力をバネに蓄力する構造において、駆動軸に沿って複数本のバネを配置し、該複数本のバネに駆動力の回転力を蓄力する構造とすることにより、駆動力に出力されるバネ力は1本のバネから出力されるのであるが、そのバネ力が出力される期間はバネの本数に比例して延長するものであり、車いすに推進力を長期間に渡って持続させることができるという効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は車いすのユーザが手動により車輪に加える駆動力に基づいてバネに蓄力し、バネの蓄力を車いすの駆動力に利用するエネルギーを循環させて効率よく利用するシステムである新たな機械式駆動源を産業機器として提供することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 車いす本体
2 車輪
3 座席
4 背当て
5 ハンドル
6 駆動軸
8 出力歯車列
8a 主動歯車
8b 従動歯車
9 入力歯車列
9a 主動歯車
9b 従動歯車
10 蓄力歯車列
10a 主動歯車
10b 従動歯車
11 動力歯車列
11a 主動歯車
11b 従動歯車
13 制御ユニット
14,17,28 変換レバー
16 制御ユニット
18 固定軸
27 制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8