(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】アルカリ崩壊試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/10 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G01N33/10
(21)【出願番号】P 2019231279
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019006316
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 信介
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】今野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義行
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 悠太
(72)【発明者】
【氏名】工藤 晋平
(72)【発明者】
【氏名】石垣 佳浩
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161399(JP,A)
【文献】特開2016-105074(JP,A)
【文献】特開平02-208543(JP,A)
【文献】国際公開第2009/045035(WO,A1)
【文献】MARIOTTI, M. et al.,Alkali spreading value and Image Analysis,JOURNAL OF CEREAL SCIENCE,2010年,Vol.52,p.227-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
C12G 1/00- 3/08
C12H 6/00- 6/04
A23L 7/00- 7/104
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米をアルカリ溶液に浸す工程と、
前記アルカリ溶液に浸された前記米を経時的に撮像することにより、複数の画像を取得する工程と、
前記複数の画像の各々について輝度分布を求める工程と、
前記輝度分布の時間的変化に基づく特徴量のプロファイルを求める工程と、
前記プロファイルに基づいて、前記輝度分布に基づいて求められる評価パラメータが基準値に達するまでに要する特性時間を求める工程と、
を備える、アルカリ崩壊試験方法。
【請求項2】
前記輝度分布は、前記画像をアナログ処理することにより前記画像に含まれるピクセル毎の輝度値を算出することによって求められる、請求項1に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項3】
前記プロファイルにおける前記評価パラメータのピーク値を求める工程を更に備え、
前記特性時間は、前記ピーク値を用いて正規化された前記プロファイルに基づいて求められる、請求項1又は2に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項4】
前記基準値は
前記ピーク値を用いて正規化された前記プロファイルに含まれる最大値の50%である、請求項3に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項5】
前記評価パラメータは、前記輝度分布の輝度分散値である、請求項1から4のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項6】
前記米は、一粒ずつ独立した容器内において前記アルカリ溶液に浸される、請求項1から5のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項7】
同じ品種の前記米を複数用意し、前記米の各々について求めた前記特性時間を統計処理することにより前記品種の評価を行う、請求項1から6のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項8】
異なる条件に対応する前記米を用意し、前記米の各々について求めた前記特性時間を比較することにより前記異なる条件間における相対的評価を行う、請求項1から7のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項9】
前記アルカリ溶液は、3%以上のアルカリ濃度を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項10】
前記特性時間に基づいてDSCを評価する工程を更に備える、請求項1から9のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項11】
前記プロファイルに基づいて前記米における浸漬割れの有無を判定する工程を更に備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項12】
前記浸漬割れを判定する工程では、前記特性時間が予め設定された閾値以下である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する、請求項11に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項13】
前記浸漬割れを判定する工程では、前記プロファイルの時間微分関数のピーク値に到達する時間が閾値以下である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する、請求項11に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項14】
前記浸漬割れを判定する工程では、前記プロファイルの時間微分関数のピーク値が閾値以上である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する、請求項11に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項15】
複数の前記米について前記浸漬割れを判定する工程を実施することで、前記浸漬割れの発生率を求める工程を更に備える、請求項11から14のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【請求項16】
前記特性時間を求める工程では、前記浸漬割れを判定する工程において前記浸漬割れが有ると判定された前記米を除く前記米について求められた前記プロファイルを用いて前記特性時間を求める、請求項11から15のいずれか一項に記載のアルカリ崩壊試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ溶液を用いて米等の溶解特性を評価するためのアルカリ崩壊試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米の品質評価手法の一つとして、アルカリ崩壊試験が知られている。アルカリ崩壊試験では、米のアルカリ溶液に対する抵抗性が、品種、産地、生産年等の様々な条件によって変化する特性を利用し、アルカリ溶液に浸漬された米の崩壊性に基づいて品質評価が行われる。典型的なアルカリ崩壊試験では、アルカリ溶液に対して数十粒の米を浸漬させ、数時間放置する。その過程において、米が溶解することでアルカリ溶液に白濁が生じる様子を目視観察することによって、崩壊性が評価される。このようなアルカリ崩壊試験によって評価される崩壊性は、食用米では炊飯特性や食味などの嗜好性に関する質的特性の指標とされ、酒用米では醸造条件と密接に関連することが知られている。
【0003】
従来のアルカリ崩壊試験では、上述のように目視観察に基づいた評価であるため、作業者の経験的要素や主観的要素が少なからず含まれることから安定性に課題があった。このような課題を解決するために、例えば特許文献1では、異なる濃度のアルカリ溶液を用意し、各アルカリ溶液において米が溶解するまでに要した時間に基づいて崩壊性を評価することで、酒造適正の評価精度の向上を図っている。また非特許文献1では、アルカリ溶液中に浸漬された米を撮像して取得した画像をデジタル処理することにより、アルカリ溶液における白濁の広がりを定量的に評価することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jornal of Cereal Cience 52(2010)227-235、Alkali spreding value and Image Analysis,M.Mariotti、L.Fongaro,F.Catenacci
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、様々な濃度のアルカリ溶液に米を浸漬した際に、米が溶解するまでに要する時間に基づいて評価を行っているが、米が溶解したか否かの判断は依然として目視観察によって行われている。そのため、従来のアルカリ崩壊試験の安定性に関する課題が残っている。
【0007】
また上記非特許文献1では、アルカリ溶液に白濁が生じている範囲を、画像中のピクセル毎に輝度が閾値以上であるか否かを判定することでデジタル的に特定している。ここで閾値が高く設定された場合には、白濁が濃い領域は特定できるものの、白濁が薄い領域の特定は難しい。逆に、閾値が低く設定された場合には、白濁が薄い領域は特定できるものの、白濁が濃い領域の特定は難しい。このように非特許文献1の技術では、アルカリ溶液に米を浸漬した際に、白濁範囲が次第に広がり、濃淡が変化する一連の様子を有効に評価することが難しい。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、アルカリ溶液による米の溶解過程を、精度よく、且つ、定量的に評価可能なアルカリ崩壊試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るアルカリ崩壊試験方法は上記課題を解決するために、
米をアルカリ溶液に浸す工程と、
前記アルカリ溶液に浸された前記米を経時的に撮像することにより、複数の画像を取得する工程と、
前記複数の画像の各々について輝度分布を求める工程と、
前記輝度分布の時間的変化に基づく特徴量のプロファイルを求める工程と、
前記プロファイルに基づいて、前記輝度分布に基づいて求められる評価パラメータが基準値に達するまでに要する特性時間を求める工程と、
を備える。
【0010】
上記(1)の方法によれば、アルカリ溶液に浸漬された米が溶解する様子を撮像することで取得した画像を解析することにより、崩壊性の定量的な評価が可能となる。特に、各画像に含まれる輝度分布の時間変化に基づく特徴量のプロファイルに基づいて特性時間を求めることで、米が溶解するに従ってアルカリ溶液中で白濁が広がりながら濃淡が変化する時間的変化を適切に評価できる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では上記(1)の方法において、
前記輝度分布は、前記画像をアナログ処理することにより前記画像に含まれるピクセル毎の輝度値を算出することによって求められる。
【0012】
上記(2)の方法によれば、各画像の輝度分布をアナログ処理することで算出されたプロファイルに基づいた評価が可能となる。これにより、米が溶解するに従ってアルカリ溶液中で白濁が広がりながら濃淡が変化する時間的変化を適切に評価できる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では上記(1)又は(2)の方法において、
前記プロファイルにおける前記評価パラメータのピーク値を求める工程を更に備え、
前記特性時間は、前記ピーク値を用いて正規化された前記プロファイルに基づいて求められる。
【0014】
上記(3)の方法によれば、各プロファイルをピーク値で正規化することで、異なる条件(例えば、異なる品種、産地、生産年等)に対応する米同士を、定量的な評価パラメータのもとで、同等に評価できる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では上記(3)の方法において、
前記基準値は50%である。
【0016】
上記(4)の方法によれば、正規化されたプロファイルに基づいて評価パラメータを求める際に用いられる基準値として、各条件(品種、産地、生産年等)の変化が最も反映されやすい50%が採用される。これにより、ピーク値で正規化することで、異なる条件(例えば、異なる品種、産地、生産年等)に対応する米同士を効果的に評価できる。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では上記(1)から(4)のいずれか一方法において、
前記評価パラメータは、前記輝度分布の輝度分散値である。
【0018】
上記(5)の方法によれば、評価パラメータとして輝度分布の輝度分散値を選定することで、好適な評価が可能となる。
【0019】
(6)幾つかの実施形態では上記(1)から(5)のいずれか一方法において、
前記米は、一粒ずつ独立した容器内において前記アルカリ溶液に浸される。
【0020】
上記(6)の方法によれば、複数粒の米に対して本方法を実施する際には、独立した容器内に一粒ずつ米を浸すことで、粒間の相互作用の影響を排除した精度のよい評価が可能となる。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では上記(1)から(6)のいずれか一方法において、
同じ品種の前記米を複数用意し、前記米の各々について求めた前記特性時間を統計処理することにより前記品種の評価を行う。
【0022】
上記(7)の方法によれば、複数粒の米について本方法による評価を行う場合には、得られた特性時間を統計処理することで、より信頼性の高い評価が可能となる。
【0023】
(8)幾つかの実施形態では上記(1)から(7)のいずれか一方法において、
異なる条件に対応する前記米を用意し、前記米の各々について求めた前記特性時間を比較することにより前記異なる条件間における相対的評価を行う。
【0024】
上記(8)の方法によれば、条件の異なる米に対してそれぞれ特性時間を求め、得られた各特性時間を比較する。これにより、異なる条件に対応する米同士を定量的に評価できる。
【0025】
(9)幾つかの実施形態では上記(1)から(8)のいずれか一方法において、
前記アルカリ溶液は、3%以上のアルカリ濃度を有する。
【0026】
上記(9)の方法によれば、3%以上(より好ましくは5%以上)のアルカリ濃度を有するアルカリ溶液を用いて試験を実施することで、従来のアルカリ崩壊試験に比べて短い試験時間で評価を行うことができる。上述のように本方法では評価パラメータによる定量的評価が可能であるため、このように濃度が高いアルカリ溶液を用いた場合でも、精度のよい評価が可能となる(従来のアルカリ崩壊試験では目視観察による評価であったため、濃度が高いアルカリ溶液を用いると評価精度が低下してしまう)。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では上記(1)から(9)のいずれか一方法において、
前記特性時間に基づいてDSCを推定する工程を更に備える。
【0028】
本発明者の研究によれば、本方法で求められる特性時間はDSCと相関を有することが見出された。そのため、本方法で特性時間を求め、予め把握された相関に基づいてDSCを定量的に推定することが可能となる。
【0029】
(11)幾つかの実施形態では上記(1)から(10)のいずれか一方法において、
前記プロファイルに基づいて前記米における浸漬割れの有無を判定する工程を更に備える。
【0030】
上記(11)の方法によれば、各画像に含まれる輝度分布の時間変化に基づく特徴量であるプロファイルに基づいて、アルカリ溶液における米の溶けやすさを定量的に評価することで、米の内部に存在するクラックのような潜在的要素が発展して生じる浸漬割れの有無を適切に判定することができる。
【0031】
(12)幾つかの実施形態では上記(11)の方法において、
前記浸漬割れを判定する工程では、前記特性時間が予め設定された閾値以下である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する。
【0032】
上記(12)の方法によれば、浸漬割れが生じる米は溶解の進行度が早いという特性に鑑み、特性時間が閾値以下であるか否かに基づいて浸漬割れの有無を適切に判定できる。
【0033】
(13)幾つかの実施形態では上記(11)の方法において、
前記浸漬割れを判定する工程では、前記プロファイルの時間微分関数のピーク値に到達する時間が閾値以下である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する。
【0034】
上記(13)の方法によれば、浸漬割れが生じる米はプロファイルの形状に特異な振る舞いを示すという特性に鑑み、プロファイルの時間微分関数のピーク値に到達する時間が閾値以下であるか否かに基づいて浸漬割れの有無を適切に判定できる。
【0035】
(14)幾つかの実施形態では上記(11)の方法において、
前記浸漬割れを判定する工程では、前記プロファイルの時間微分関数のピーク値が閾値以上である場合に、前記米に前記浸漬割れが有ると判定する。
【0036】
上記(14)の方法によれば、浸漬割れが生じる米はプロファイルの形状に特異な振る舞いを示すという特性に鑑み、プロファイルの時間微分関数のピーク値が閾値以上であるか否かに基づいて浸漬割れの有無を適切に判定できる。
【0037】
(15)幾つかの実施形態では上記(11)から(14)のいずれか一方法において、
複数の前記米について前記浸漬割れを判定する工程を実施することで、前記浸漬割れの発生率を求める工程を更に備える。
【0038】
上記(15)の方法によれば、複数の米について浸漬割れの有無を判定することで、浸漬割れの発生率による米の品質評価を行うことができる。
【0039】
(16)幾つかの実施形態では上記(11)から(15)のいずれか一方法において、
前記特性時間を求める工程では、前記浸漬割れを判定する工程において前記浸漬割れが有ると判定された前記米を除く前記米について求められた前記プロファイルを用いて前記特性時間を求める。
【0040】
上記(16)の方法によれば、浸漬割れの影響を排除した米の品質評価が可能となる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、アルカリ溶液による米の溶解過程を、精度よく、且つ、定量的に評価可能なアルカリ崩壊試験方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の少なくとも一実施形態に係るアルカリ崩壊試験方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図2】複数粒の米が互いに独立した容器内でそれぞれアルカリ溶液に浸漬される様子を示す模式図である。
【
図3A】
図2の一つのセルでアルカリ溶液12に浸漬される一粒の米の様子を撮像した画像の一例である。
【
図3B】
図2の一つのセルでアルカリ溶液12に浸漬される一粒の米の様子を撮像した画像の一例である。
【
図4】
図1のステップS15で求められるプロファイルの一例である。
【
図5】
図4のプロファイルの正規化プロファイルである。
【
図6】幾つかの品種について得られた正規化プロファイルを比較して示す試験結果の一例である。
【
図7】
図6で求められた各品種の特性時間を比較した結果である。
【
図8】
図6で求められた特性時間とBrix値とを品種毎に比較した結果である。
【
図9】互いに異なる3品種について求められた特性時間とDCS値(熱伝導性)とを品種毎に比較した結果である。
【
図10】KOH濃度がそれぞれ2%、10%のアルカリ溶液を用いた場合に得られた正規化プロファイルの一例である。
【
図11】アルカリ崩壊試験を利用した浸漬割れの判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図12】浸漬割れが生じる前後における撮像イメージである。
【
図13】
図12の各サンプルについて得られたプロファイルである。
【
図14】他のサンプルについて取得されたプロファイル(規格化済)に基づいて判定例である。
【
図15】
図14のプロファイルの時間微分関数のピーク値に到達する時間を用いた判定例である。
【
図16】
図14のプロファイルの時間微分関数のピーク値を用いた判定例である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0044】
本発明の少なくとも一実施形態に係るアルカリ崩壊試験方法は、アルカリ溶液に浸漬された米の崩壊性(溶解性)を評価するための試験である。
図1は本発明の少なくとも一実施形態に係るアルカリ崩壊試験方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0045】
まず試験対象となる米を用意する(ステップS11)。米は食用米であってもよく、醸造米であってもよく、予め品種、生産地、生産年、生産者等の関連する条件が特定される。また用意する粒数は一粒であってもよいが、本実施形態では、個体差による影響を排除するために複数粒を用意し、後述するように各粒に対する評価結果を統計的に処理することで、評価精度を向上させている。
【0046】
続いてステップS11で用意した米を、試験溶液であるアルカリ溶液に浸漬する(ステップS12)。アルカリ溶液は所定の容器内に用意され、これに試験対象となる米を投入することで浸漬される。この容器は、後述するように内部でアルカリ溶液中に浸漬される米の様子を撮像するために適した形状を有することが好ましい。本実施形態では、撮像が行われる上方側に向けて開口を有するとともに、内部に投入された米の姿勢が安定するように平坦な底部を有する有底容器が用いられる。このような容器の一例としては、透明なプラスチック材料やガラス材料から形成されたシャーレや試験管がある。
【0047】
試験に用いられるアルカリ溶液は、例えば強アルカリ成分が好ましく、例えば、KOH、NaOH、LiOH、RbOH、CsOH、Ca(OH)2、Sr(OH)2等が用いられる。アルカリ溶液のアルカリ濃度は、例えば1.7重量%の範囲が好ましい。
【0048】
ここでステップS11において複数粒の米を用意した場合には、各粒が互いに独立した容器内でアルカリ溶液に浸漬されることが好ましい。
図2は複数粒の米1が互いに独立した容器内でそれぞれアルカリ溶液(透明なため不図示)に浸漬される様子を示す模式図である。この例では、互いに独立した容器として、マトリクス状に隣接配置された複数のセル10が用いられており、各セル10にはアルカリ溶液12が貯留される。そして、各セル10には一粒ずつ米1が投入されることで、アルカリ溶液12に浸漬される。仮に複数粒の米1を同一の容器内でアルカリ溶液12に浸漬すると、粒間の相互作用によって溶解過程に影響を及ぼすおそれがある。その点、本実施形態では、各米1を独立した容器で浸漬することで、2粒間の相互作用の影響を排除し、精度の高い評価が可能となる。
【0049】
続いてアルカリ溶液12に浸された米1を撮像することにより、画像を取得する(ステップS13)。ステップS13における米の撮像は、経時的に繰り返し行われることにより、米1がアルカリ溶液12中で溶解する様子が、複数の画像にわたって撮影される。すなわち、これら複数の画像には、時間の経過に伴ってアルカリ溶液12中で溶解する米1の各瞬間における様子が記録される。
【0050】
また
図2のように各セル10に米1を一粒ずつ配置した場合には、ステップS13における撮像もセル10毎に実施される。
図3A及び
図3Bは
図2の一つのセル10でアルカリ溶液12に浸漬される一粒の米の様子を撮像した画像の一例である。この例では、安定した撮像を行うために、撮像装置としてイメージスキャナを用いるとともに、黒紙を背景とした暗所で試験及び撮影を実施することで外乱光の影響を排除している。
図3Aはアルカリ溶液12に浸漬された直後(すなわち溶解の初期段階)における米1を撮像した画像であり、溶解が進行していないことから、本来の米1の輪郭が明確に残存している様子が映し出されている。一方の
図3Bはアルカリ溶液12に浸漬されてからしばらく時間が経過した段階における米1を撮像した画像であり、米1が溶解することで生じた白濁範囲14が周囲に広がっている様子が映し出されている。
図3A及び
図3Bでは、代表的に2つの時間における画像を示しているが、このように異なる時間にわたって複数の画像を取得することで、一粒の米1が時間とともに溶解していく様子が記録される。
【0051】
尚、アルカリ溶液12に米1を浸漬しながら撮像を行う際には、安定的な測定環境が維持されることが好ましい。例えば、周囲温度は米1の溶けやすさに影響を与えるため(例えば、周囲温度が高いほど米1の溶解速度が速くなるため)、試験が実施されている最中は周囲温度が安定するように管理するとよい。ただし、周囲温度が変化する場合には、当該周囲温度の変化による影響を予め考慮しておき、試験結果に対して適宜補正処理を行うことで最終的な試験結果に反映するようにしてもよい。
【0052】
ステップS13では、このように各セル10において米1が溶解する過程を経時的に撮像することにより、複数の画像が取得される。このように取得された複数の画像は、撮像時間、セル番号等によって個別に特定可能な態様で管理される。
【0053】
続いてステップS13で取得した各画像について輝度分布を求める(ステップS14)。典型的には、画像は多数のピクセルから構成されており、当該画像をアナログ解析することにより各ピクセルにおける輝度値を特定することにより、輝度分布が求められる。例えば各ピクセルの輝度値が8ビットで表される場合には、各ピクセルにおける輝度値が0~255の範囲で特定されることとなる。これにより、例えば、各ピクセルの座標データと、各ピクセルの輝度値とが関連付けられた輝度分布が求められる。
【0054】
尚、ステップS13で取得された画像がカラー画像である場合には、グレースケール変換処理やYUV変換による輝度情報への変換を行ってからアナログ解析を実施することで、各ピクセルの輝度値を特定してもよい。
【0055】
続いてステップS14で求めた輝度分布に関する時間的変化を示すプロファイルPを求める(ステップS15)。本実施形態では、異なる時刻に撮像された各画像の輝度分布から輝度分散値を求め、その時間変化をプロファイルPとして求める。輝度分散値I
Dispは、例えば平均輝度I
Avgを用いて次式により求められる。
ここでI
xyは二次元平面上の座標値(x、y)における輝度であり、X、YはそれぞれX軸方向及びY軸方向の画素数である。
【0056】
図4は
図1のステップS15で求められるプロファイルPの一例である。
図4では、互いに異なる2つの品種(品種A、品種B)に属する米に関するプロファイルPA、PBが示されている。品種AのプロファイルPAに着目すると、時刻0で初期値から輝度分散値が増加し、時刻tpAでピーク値DpAを示した後、輝度分散値がゼロに向けて次第に収束する振る舞いを示している。このようなプロファイル形状は、初期段階では米1がアルカリ溶液12を吸収することで膨張したり、米の内部が白化したりすることで輝度分散値が増加した後、溶解が進行するに従って白濁範囲が次第に周囲に広がり、最終的にアルカリ溶液12に完全に溶解することで均一な透明状態や均一な輝度分布状態に収束する、という一連の振る舞いに対応している。
【0057】
一方の品種BのプロファイルPBは、時刻0で初期値から輝度分散値が増加し、時刻tpBでピーク値DpBを示した後、輝度分散値がゼロに向けて次第に収束する振る舞いを示している。このように品種A及び品種Bは、輝度分散値のピーク値が少なからず異なるものの全体的に類似のプロファイル形状を有する。このようにステップS15で求められるプロファイルPは、試験対象である米1に関する条件に依存する溶解速度を可視化したものに相当する。
【0058】
尚、本実施形態では、このように米が溶解する過程において白濁範囲が変化していく振る舞いを輝度分散値という評価パラメータを用いて数値化しているが、当該評価パラメータとして、例えば、各画像における輝度値の最大値と最小値との差分など、他のパラメータを採用することも可能である。
【0059】
続いてステップS15で求めたプロファイルPに対して正規化処理を実施する(ステップS16)。
図5は
図4のプロファイルPA、PBの正規化プロファイルPA’、PB’である。本実施形態では、プロファイルPA、PBをそれぞれピーク値DpA、DpBで割り算する正規化処理が実施される。このような正規化処理で得られる正規化プロファイルPA’、PB’では、それぞれのピーク値が「1」に正規化される。このように正規化処理を実施することで、異なる条件に属する米同士を同等に評価することが可能となる。
【0060】
尚、本実施形態では異なる条件に属する米同士の相対的評価を行うために正規化処理を実施しているが、絶対的評価(他の条件に属する米との比較を伴わない、ある条件に属する米そのものに関する評価)を行う場合には、上述の正規化処理は省略してもよい。
【0061】
続いて正規化プロファイルPA’、PB’に基づいて、評価パラメータが基準値に達するまでに要する特性時間を求める(ステップS17)。本実施形態では、評価パラメータである正規化された輝度分散値(正規化処理を省略した場合には、輝度分散値)について、基準値Drを予め設定し、当該基準値Drに正規化された輝度分散値が到達した時間を特性時間として求める。
図5では、品種Aに対応する正規化プロファイルPA’が基準値Drに到達する特性時間tA、品種Bに対応する正規化プロファイルPB’が基準値Drに到達する特性時間tBが示されている。このように特性時間tA、tBは、試験対象の米1によって依存するパラメータであり、特性時間tA、tBに基づいて溶解特性を評価することができる。
【0062】
本実施形態では、特性時間を求めるための基準値Drとして、正規化された輝度分散値「0.5(50%)」が設定されている。
図5に示す正規化プロファイルPA’、PB’の形状に示されるように、正規化された輝度分散値0.5(50%)の近傍では、変化率(正規化プロファイルPA’、PB’の傾斜)が大きくなっている。そのため、基準値Drとして50%を設定することで、米1の溶解特性を効果的に評価できる。
【0063】
尚、ステップS17における特性時間は、複数粒の米1を用意した場合には、各粒に対して同等の試験を実施し、それぞれで得られた複数の試験結果を統計的に処理することで求めてもよい。例えば、
図2のように同一品種に属する米を複数粒用意した場合には、各粒から求めた特性時間を平均化したものや群の中央値などを、最終的な評価パラメータとして採用してもよい。このように複数の試験結果を統計的に処理したものを最終的な試験結果として取り扱うことで、より試験精度を高めることができる。
【0064】
続いてステップS17で求めた特性時間に基づいて、品質評価を行う(ステップS18)。ここで
図6は幾つかの品種について得られた正規化プロファイルを比較して示す試験結果の一例であり、
図7は
図6で求められた各品種の特性時間を比較した結果である。
図6では、より多くの品種A~Fについて同様に正規化プロファイルが求められており、
図7では、
図6の各プロファイルから求められた特性時間が品種ごとに比較されている。
尚、
図6及び
図7では、各品種について同様の試験を2回ずつ実施しており、各回における試験結果を異なるシンボルで区別可能なように示している。
【0065】
図7では、他の試験結果又は経験則に従って、溶解しやすい順に各品種が並べられている。一方で、
図7に示すように、
図6のプロファイルに基づいて求められた特性時間もまた左から順に短くなる傾向が示されている。これは、本方法による定量的評価(特性時間に基づく評価)は、他の試験結果や経験則による評価結果と概ね一致していることを意味し、両者の間には高い相関があることが確認された。これにより、本方法で取り扱われる特性時間が、アルカリ崩壊性を評価するためのパラメータとして有効であることが確認された。
【0066】
ただし
図7の品種Aに関しては、例外的な振る舞いが見られる。つまり、従来手法では品種Aは品種Dより溶けやすいと考えられていたが、本方法による評価では品種Aは品種Dより溶けにくく、逆の結果が得られている。このような例外的振る舞いが生じている要因は明らかではないが、発明者の研究によれば、品種Aは酒造分野において、いわゆる「後溶け」と称される品種であった。そのため、後溶けに該当する品種については、本方法の評価対象から除外する方が好ましい可能性が示唆されている(確定的なことを言うためには、更なる研究が必要と思われる)。
【0067】
図8は
図6で求められた特性時間とBrix値とを品種毎に比較した結果である。
図8では、Brix値は公設試験場における測定結果を酒類総合研究所で補正された値を用いており、本方法で得られた特性時間との間に高い相関が確認された。これにより、特性時間とBrix値との相関を予め把握しておくことで、ステップS16で求められた特性時間を用いることで、特性時間からBrix値を推定することができる。
【0068】
また
図9は互いに異なる3品種について求められた特性時間とDCS値(熱伝導性)とを品種毎に比較した結果である。DCS値は主に測定試料(各品種の米)と基準物質との間での熱量を計測して、測定試料の発熱・吸熱の特性変化を観察することで得られ、他の試験結果によって得られた評価値を用いている。具体的には米の場合、米粉水溶液を用い、一定速度で加熱した際に糊状への状態変化が生じる温度に基づいて特定されたものを用いている。
図9に示すように、本方法で得られた特性時間は、このように別試験で得られたDCS値との間に高い相関が確認された。これにより、特性時間とDCS値との相関を予め把握しておくことで、ステップS16で求められた特性時間を用いることで、特性時間からDCS値を推定することができる。
【0069】
尚、ここでは米の品質に関する指標のうちBrix値やDCS値について言及したが、RVA(粘度)のような他の化学的分析値についても同様に相関を有する可能性が期待される。この場合も、特性時間と対象となるパラメータとの相関を解析することで、特性時間に基づいたパラメータの推定が可能となる。
【0070】
尚、上述のアルカリ崩壊試験に用いられるアルカリ溶液12として、3%以上(より好ましくは5%以上)のアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いることで、加速試験として実施することも可能である。
図10はKOH濃度がそれぞれ2%、10%のアルカリ溶液12を用いた場合に得られた正規化プロファイルの一例である。
図10に示すように、アルカリ溶液12におけるKOH濃度を2%から10%にすることで、試験に要する時間を大幅に短縮することができる。従来の目視観察が必要な試験では、このような加速試験を適用しようとすると溶解ポイントの判定精度が著しく低下してしまい、評価精度が更に低下してしまう。その点、本方法は特性時間による定量的評価を行うため、このようにアルカリ溶液12を高濃度化した加速試験を適用した場合であっても適切な評価が可能となる。
【0071】
以上説明したように、試験対象である米が溶解する過程を撮像した画像を処理することによって、アルカリ崩壊性を定量的に評価することができる。このような画像処理は、イメージスキャナのような撮像装置と、画像解析用のソフトウェアがインストールされた演算装置(例えばPCなど)を用いて簡易的に行うことができる。これにより、従来は各年度に品種ごとの抜き取りでしか評価されていなかった米の品質が、例えば生産者、生産地等のより細かいロット単位で評価を実施することが可能となる。このような評価結果は、例えば、米の流通時に試験結果を添付データとすることで、消費者に対して客観的な指標として活用することも可能となる。
【0072】
ここで試験対象である米には、乾燥時に割れが生じていない状態にあっても、吸水(例えば醸造や炊飯)によって内部に潜在的に有するクラックなどが進行することによって割れが後発的に生じる、いわゆる浸漬割れが発生することがある。このような浸漬割れは、米の品種や状態によって所定の割合で発生し、米の品質(食用米では嗜好性、酒用米では醸造条件)と密接に関連することが知られている。
【0073】
前述のアルカリ崩壊試験方法は、このような浸漬割れによる影響を評価するために、プロファイルに基づいて浸漬割れの有無を判定する工程を更に備えてもよい。
図11はアルカリ崩壊試験を利用した浸漬割れの判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0074】
まず浸漬割れの判定対象となる米について、プロファイルを取得する(ステップS21)。ステップS21におけるプロファイルの取得は、
図1のステップS11~S16を参照して前述した手順と同様に行われる。簡潔に説明すると、米をアルカリ溶液に浸漬することでアルカリ崩壊試験を実施し、その様子を経時的に撮像して米が溶けてなくなっていく様子を画像解析することによりプロファイルが得られる。
【0075】
ここで
図12は浸漬割れが生じる前後における撮像イメージであり、
図13は
図12の各サンプルのうち2つのサンプルについて得られたプロファイルを比較して示す測定結果である。尚、
図13では
図5及び
図6のようにプロファイルをピーク値で正規化した正規化プロファイルが示されている。
【0076】
図12では、アルカリ溶液に浸漬された6個のサンプルA1~A6の撮像イメージが示されている。これらのサンプルA1~A6のうちサンプルA3は、アルカリ溶液に浸漬しておくと、浸漬割れによって複数の破片に分割されて溶解する様子が示されている。
図13では、
図12において浸漬割れが生じていないサンプルA1と、浸漬割れが生じているサンプルA3とについて、正規化されたプロファイルP1、P3が比較して示されている。両プロファイルP1,P3の評価方法については詳しくは後述するが、例えば、浸漬割れが発生しているサンプルA3では米が複数の破片に分割されることで、アルカリ溶液に対する接触面積が増加し、サンプルA1に比べて溶解速度が速くなる傾向を示すプロファイルが得られている。
【0077】
続いてステップS21で取得したプロファイルに基づいて浸漬割れの有無を判定する(ステップS22)。プロファイルは、各画像に含まれる輝度分布の時間変化に基づく特徴量であることから、前述のように、アルカリ溶液における米の溶けやすさを定量的に評価することができる。浸漬割れは、
図12を参照して前述したように、米が複数の破片に分割されることで、アルカリ溶液への接触面積が急激に変化し、アルカリ溶液中の溶解進行度が影響を受ける。このような影響はプロファイルに反映されることから、プロファイルを分析することで浸漬割れの有無を適切に判定することができる。
【0078】
ステップS22では、特性時間が予め設定された閾値以下である場合に、米に浸漬割れが有ると判定してもよい。特性時間は、
図1のステップS17を参照して前述したように、正規化されたプロファイルに基づいて、評価パラメータが基準値Drに達するまでに要する時間として求められる。
図13では基準値Drとして正規化された輝度分散値「0.5(50%)」が設定されており、プロファイルP1に対応する特性時間ts1と、プロファイルP3に対応する特性時間ts3とが示されている。浸漬割れが生じていないサンプルA1に対応するプロファイルP1では特性時間ts1が閾値tsrより大きいが、浸漬割れが生じているサンプルA3に対応するプロファイルP3では特性時間ts3が閾値tsr以下になっている。浸漬割れが生じる米はアルカリ溶液に接触する表面積が増えることで溶解の進行度が早くなることから、この態様では、特性時間が閾値tsr以下であるか否かに基づいて浸漬割れの有無を適切に判定できる。
【0079】
図14は他のサンプルについて取得されたプロファイル(規格化済)に基づく浸漬割れの判定例である。
図14では、異なる4つのサンプルA7~A10に対応するプロファイルP7~P10が示されており、
図13と同様に、基準値Dr(規化された輝度分散値「0.5(50%)」)に達するまでの特性時間ts7~ts10が示されている。この判定例では、サンプルA7の特性時間ts7が閾値tsr以下であるため、サンプルA7について浸漬割れがあり、残りのサンプルA8~A10については浸漬割れが無いと判定される。
【0080】
またステップS22では、プロファイルの時間微分関数のピーク値に到達する時間が閾値以下である場合に、米に浸漬割れが有ると判定してもよい。
図15は
図14のプロファイルP7~P10の時間微分関数Fd7~Fd10のピーク値PE7~PE10に到達する時間tp7~tp10を用いた判定例である。時間微分関数Fd7~Fd10は、時間tp7~tp10においてそれぞれピーク値PE7~PE10に達している。閾値tprは予め設定される基準値であり、時間tp7~tp9が閾値tpr以下となっていることから、これらに対応するサンプルA7~A9について浸漬割れがあると判定され、残りのサンプルA10については浸漬割れが無いと判定される。
【0081】
ステップS22では、プロファイルの時間微分関数のピーク値が閾値以上である場合に、米に浸漬割れが有ると判定してもよい。
図16は
図14のプロファイルP7~P10の時間微分関数Fd7~Fd10のピーク値PE7~PE10を用いた判定例である。時間微分関数Fd7~Fd10は、それぞれピーク値PE7~PE10を有している。閾値PErは予め設定される基準値であり、ピーク値PE7~PE9が閾値PEr以下となっていることから、これらに対応するサンプルA7~A9について浸漬割れがあると判定され、残りのサンプルA10については浸漬割れが無いと判定される。
【0082】
尚、ステップS22では上述の各態様によって判定結果にばらつきがあるが、各態様は状況に応じて適宜使い分けてもよい。例えば、アルカリ溶液への溶解速度を重視して浸漬割れを判定したい場合には、
図14を参照して前述したように、特性時間が予め設定された閾値以下であるか否かによって判定してもよい。またプロファイルの形状を重視して浸漬割れを判定したい場合には、
図15や
図16を参照して前述したように、プロファイルの時間微分関数の特性(ピーク値やピーク値に到達するまでの時間)に基づいて判定してもよい。
【0083】
また上記の各態様は組み合わせて用いられてもよい。この場合、例えば、少なくとも一つの態様によって浸漬割れがあると判定された場合に、浸漬割れがあるとの最終判定を行ってもよいし、全ての態様で浸漬割れがあると判定された場合に浸漬割れがあるとの最終判定を行ってもよい。
【0084】
図11に戻って、続いてステップS22の判定結果を用いて、米の品質評価を行う(ステップS23)。例えばステップS23では、品質評価の一つの指標として、浸漬割れの発生率を求めてもよい。浸漬割れの発生率は、複数のサンプルに対して前述の浸漬割れの判定を実施し、浸漬割れが発生したサンプル数の割合を求めることで算出される。浸漬割れの発生率は、例えば、精米ロット毎に求められてもよい。
【0085】
またステップS23では、浸漬割れが有るサンプルを特定し、これら浸漬割れがあるサンプルを除いた残りのサンプルに対して品質評価を行ってもよい。これにより、浸漬割れの影響を排除した米の品質評価が可能になる。尚、この場合、残りのサンプルに対して行われる品質評価方法は、前述の各実施形態を適用可能である。
【0086】
以上説明したように各画像に含まれる輝度分布の時間変化に基づく特徴量であるプロファイルに基づいて、アルカリ溶液における米の溶けやすさを定量的に評価することで、米の内部に存在するクラックのような潜在的要素が発展して生じる浸漬割れの有無を適切に判定することができる。浸漬割れは、米の品種や状態によって所定の割合で発生し、米の品質(食用米では嗜好性、酒用米では醸造条件)と密接に関連することから、これを考慮することで、より高度な品質評価が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の少なくとも一実施形態は、アルカリ溶液を用いて米等の溶解特性を評価するためのアルカリ崩壊試験方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 米
10 セル
12 アルカリ溶液
14 白濁範囲