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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】締結構造及びその雌型締結具
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/04 20060101AFI20231214BHJP
   F16B 5/10 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E21D11/04 A
F16B5/10 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019171131
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021046750
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】592155832
【氏名又は名称】ユニタイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】松原 健太
(72)【発明者】
【氏名】菅野 静
(72)【発明者】
【氏名】吉田 公宏
(72)【発明者】
【氏名】高浜 達矢
(72)【発明者】
【氏名】横井 康人
(72)【発明者】
【氏名】井上 富美久
(72)【発明者】
【氏名】徳田 裕至
(72)【発明者】
【氏名】宮田 勝治
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3179647(JP,U)
【文献】特開2017-110424(JP,A)
【文献】特開2006-052541(JP,A)
【文献】特開2013-174067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/04
F16B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1締結面を有する第1被締結部材に設けられる雄型締結具と、
第2締結面を有する第2被締結部材に設けられる金属製の雌型締結具とを備え、
前記雌型締結具へ前記雄型締結具を係合させることにより前記第1締結面と前記第2締結面とを対面させた状態に締結する締結構造であって、
前記第1及び第2締結面と直交する方向を締結方向とし、
前記雄型締結具は、前記締結方向における一方端部が前記第1被締結部材に埋設され且つ前記締結方向における他方端部を前記第1締結面から突出させる第1アンカー部と、前記第1締結面と対向する第1係合面を構成するように前記第1アンカー部の前記他方端部に設けられた第1係合部とを有しており、
前記雌型締結具は、前記第2被締結部材に埋設された第2アンカー部と、前記第1係合部を受け入れる凹部を構成するように前記第2アンカー部に設けられた受容部と、前記凹部に受け入れられた前記第1係合部の前記第1係合面に係合する第2係合面を構成するように前記受容部に設けられた第2係合部とを有しており、
記受容部は、鍛造品であり、
前記受容部は一つの部材にて形成され前記凹部の各部を一体とし、
前記雄型締結具を前記雌型締結具から引き離す力が前記雄型締結具へ掛かることにて前記第1係合面が前記第2係合面を押圧すると、前記第2係合面が前記第1係合面を滑り前記凹部の両先端間を狭める方向へ前記第2係合部が変位するよう、前記第1係合面と前記第2係合面の夫々は、前記締結方向と直交する面に対し、傾斜するものであり、
前記第1係合面と前記第2係合面の夫々は、前記締結方向と直交する面に対し2度~10度の挟角を備えるよう斜めに形成され、
前記凹部の両先端間を狭める方向への前記第2係合部の変位において、前記凹部の両先端の夫々は前記凹部の基部側を中心とする回転にて前記凹部の両先端間を狭めることを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記受容部は、内側が前記凹部を構成する略C字型の部材であり、
前記第2係合部は、前記凹部内へ受け入れた前記第1係合部を引っ掛けるものであり、
前記第2係合面は、前記凹部内へ受け入れた前記第1係合部の前記第1係合面と対面し、
前記第1係合部は前記雄型締結具の先端部へ2つ設けられて夫々前記雄型締結具の伸びる方向と交差する方向に伸びると共に前記第1係合部同士は先端を互いの反対側へ向けて伸びるものであり、
雌型締結具の前記受容部は、基板と、前記基板の両端の夫々へ前記基板と一体に設けられて互いに並行して伸びる2つの延設部とを備え、
前記凹部は、前記基板と2つの前記延設部とに囲まれた空間であり、
前記第2係合部は、前記各延設部の先端の夫々に設けられ、
前記第2係合部同士は、隙間を挟んで互いの先端を向け合うと共に夫々前記第2係合面を前記凹部の奥側へ向けるものであり、
前記第2係合面の夫々は、前記第2係合部同士が互いに近づくにつれて漸次前記凹部の奥側へ寄るよう傾斜する傾斜面であり、
前記凹部へ収容された前記第1係合部の先端側から基部側へ近づくに連れて、前記第1係合面は漸次前記凹部の奥側へ寄るよう傾斜する傾斜面であり、
前記雄型締結具に対し、前記締結方向に沿って前記雌型締結具から分離する方向へ力が掛かった際、前記第2係合面の夫々が前記第1係合面の夫々に押圧されることで、前記両第2係合部同士が互いに近づくように、前記第2係合面が前記第1係合面を滑るものであり、
前記各延設部が、前記基板と交差する角の夫々を中心に回転して前記両第2係合部同士が互いに近づくものである請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
請求項2に記載の締結構造が有する雌型締結具。
【請求項4】
C字型の前記受容部の少なくとも外側面は、補強用のリブとなる隆起を備えない、平坦な面であることを特徴とする請求項記載の雌型締結具。
【請求項5】
前記C字の両端を当該Cの奥に向けるように、前記第2係合部の夫々は前記締結方向と直交する面に対し斜めに形成されたものである請求項記載の雌型締結具。
【請求項6】
記受容部は、前記第2アンカー部へ圧接されたものであることを特徴とする請求項に記載の雌型締結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、締結構造及びその雌型締結具に関するものであり、詳しくは本発明は、トンネル等の壁面を形成するセグメント、或いは構造物の壁部材等の被締結材を互いに締結する締結構造及びその雌型締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1へ示す通り、トンネルなどの筒状構造物は、当該筒状構造物を周方向について複数に分割したセグメントにより構成されたものである(特許文献1の図1)。
即ち、隣り合う上記セグメントの周方向の端部同士を、対となる雌雄の締結具(特許文献1の図6)にて締結することにより、複数のセグメントを結合して1本の筒状構造物が形成される。尚上記の特許文献1の図6へ示す締結具は、コーンコネクタと呼ばれるものである。当該コーンコネクターは、雌雄共に鋳造品とし、雌型締結具において雄型締結具を受容する部分を略C字型とし、2本の異径棒(アンカー部)を当該C字型の部分に連結したものである。
【0003】
上記周方向について隣り合うセグメントを分離する方向に作用する引張力が掛かっても、対となる雌雄の締結具間において、損傷により分離しない強度を締結具が備えている必要があった。
このような背景の下、コーンコネクタに代表される上記締結具について従来鋳造品が多用された。
上記雌型締結具に鋳造品が用いられる理由としては、複雑な形状を賦形し易いことであり、強度を付与する補強用のリブの形成の容易な点が挙げられる。
具体的には、上記対となる雌雄の締結具のうち、特に雌型締結具については、雄型締結具を受容するC字型の受容部の外側面へ当該外側面から隆起する筋状のリブを複数備えたものが普及しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5155614
【文献】特許第4439131
【文献】実用新案登録第3179647
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記リブの形成は、雌型締結具を肥大化させ、締結具のコンパクト化を阻む要因となっている。
更に、トンネルを構成するコンクリート製のセグメントの内部には、複数の鉄筋が埋設されているため、上記締結具の肥大化はセグメント設計の自由度を制限するものともなっている。
特に近年セグメント自体も薄型にしたいという要求が高まり、セグメントの設計の自由度を確保する上で、締結具のコンパクト化は急を要するものとなっていた。
雄型締結具は塑性的に引き延ばされることはあっても延性破壊に至らなければ大きな問題となることはないため、雄型締結具(第1締結部)について鉄を原料として鍛造により製造することも考えられた。
しかし、凹部を構成する受容部を備えた雌型締結具(第2締結部)は、上記引張力の負荷により、第1締結部の第1係合部に凹部の縁である第2係合部が塑性的に伸ばされる(変形する)と、直ちに第1締結部が第2締結具から外れてしまう。
このため、雌型締結具については、補強リブを賦形することができない鍛造によらずに、鋳造にて補強リブを賦形するのが必須であると考えられた。
【0006】
また更に、上記締結具を製造するメーカーにおいて、セグメントの大きさや用途によって求められる、異なる種々の強度に対応するために、多種の強度の異なる締結具を揃えておく必要がある。
しかし、鋳造品である雌型締結具に関し、賦形後の熱処理にて目的とする種々の強度を確保するのは難しく、専ら締結具のサイズを大きくして機械的強度を向上させていた。このため、強度向上に上記リブもサイズアップすることが不可避なものとなり、締結具の肥大化に拍車を掛けるものとなっていた。
本発明は、上記問題を解決して締結具特に雌型締結具からリブを排除しコンパクトに形成することを可能として上記課題の解決を図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1締結面を有する第1被締結部材に設けられる雄型締結具と、第2締結面を有する第2被締結部材に設けられる金属製の雌型締結具とを備え、前記雌型締結具へ前記雄型締結具を係合させることにより前記第1締結面と前記第2締結面とを対面させた状態に締結する締結構造について次の構成を採るものを提供する。
即ち、前記第1及び第2締結面に直交する方向を締結方向とし、前記雄型締結具は、前記締結方向における一方端部が前記第1被締結部材に埋設され且つ前記締結方向における他方端部を前記第1締結面から突出させる第1アンカー部と、前記第1締結面と対向する第1係合面を構成するように前記第1アンカー部の前記他方端部に設けられた第1係合部とを有しており、前記雌型締結具は、前記第2被締結部材に埋設された第2アンカー部と、前記第1係合部を受け入れる凹部を構成するように前記第2アンカー部に設けられた受容部と、前記凹部に受け入れられた前記第1係合部の前記第1係合面に係合する第2係合面を構成するように前記受容部に設けられた第2係合部とを有しており、前記第2締結部の前記受容部は、鍛造品であることを特徴とする。
また本発明では、少なくとも2つの被締結部材同士を締結する雌雄1対の締結具のうちの、一方の前記被締結部材に備えられる金属製の雌型締結具であり、他の一方の前記被締結部材に備えられた雄型締結具は、前記他の一方の被締結部材と対面する第1係合面を構成する、第1係合部と備え、前記雌型締結具は、前記第1アンカー部の先端を受け入れる凹部を構成する受容部とを備え、前記凹部は、前記第1係合部を引っ掛ける第2係合部を備えるものであり、前記2係合部は、前記第1係合部を引っ掛けた際に、第1係合部の前記第1係合面と対面する第2係合面を備えるものであり、前記受容部は、鍛造品である雌型締結具を提供する。
更に本発明では、前記受容部は、内側が前記凹部を構成する略C字型の部材であり、前記C字の両端部が夫々前記第2係合部を構成するものであり、略C字型の前記受容部の少なくとも外側面は、補強用のリブとなる隆起を備えない、平坦な面である雌型締結具を提供する。
また更に本発明では、前記C字の両端を当該Cの奥に向けるように、前記第2係合部の夫々は前記締結方向と直交する面(仮想面)に対し斜めに形成された雌型締結具を提供できた。
更にまた本発明では、前記雌型締結具は、前記一方の被締結部材へ埋設された第2アンカー部を備え、前記受容部は、前記第2アンカー部へ圧接されたものである雌型締結具を提供できた。
また本発明では、前記雄型締結具を前記雌型締結具から引き離す力が前記雄型締結具へ掛かることにて前記第1係合面が前記第2係合面を押圧すると、前記第2係合面が前記第1係合面を滑り前記凹部の両先端間を狭める方向へ前記第2係合部が変位するよう、前記第1係合面と前記第2係合面の夫々は、前記締結方向と直交する面に対し傾斜する締結構造を提供できた。
更に本発明で、少なくとも2つの被締結部材同士を締結する雌雄1対の締結具のうちの、一方の前記被締結部材に備えられる金属製の雌型締結具であり、他の一方の前記被締結部材に備えられた雄型締結具は、前記雄型締結具の先端に設けれて前記他の一方の被締結部材と対面する第1係合面を構成する、第1係合部を備えるものであり、前記雌型締結具は、前記第1係合部を受け入れる凹部を構成する、受容部を備え、前記受容部は、前記凹部内へ受け入れた前記第1係合部を引っ掛ける第2係合部を備え、前記2係合部は、前記凹部内へ受け入れた前記第1係合部の前記第1係合面と対面する第2係合面を備えるものであり、前記第1係合部は前記雄型締結具の先端部へ2つ設けられて夫々前記雄型締結具の伸びる方向と交差する方向に伸びると共に前記第1係合部同士は先端を互いの反対側へ向けて伸びるものであり、雌型締結具の前記受容部は、基板と、前記基板の両端の夫々に設けられて互いに並行して伸びる2つの延設部とを備え、前記凹部は、前記基板と2つの前記延設部とに囲まれた空間であり、前記第2係合部は、前記各延設部の先端の夫々に設けられ、前記第2係合部同士は、隙間を挟んで互いの先端を向け合うと共に夫々前記第2係合面を前記凹部の奥側へ向けるものであり、前記第2係合面の夫々は、前記第2係合部同士が互いに近づくにつれて漸次前記凹部の奥側へ寄るよう傾斜する傾斜面であり、前記凹部へ収容された前記第1係合部の先端側から基部側へ近づくに連れて、前記第1係合面は漸次前記凹部の奥側へ寄るよう傾斜する傾斜面であり、前記雄型締結具に対し、前記締結方向に沿って前記雌型締結具から分離する方向へ力が掛かった際、前記第2係合面の夫々が前記第1係合面の夫々に押圧されることで、前記両第2係合部同士が互いに近づくように、前記第2係合面が前記第1係合面を滑るものである雌型締結具を提供できた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発明者は、鍛造品では強度を得るために賦形後に焼き入れ等の熱処理を行うことができる点に着目し、雌型締結具の受容部を従来の鋳造品に代えて鍛造品にするという奇抜な発想により、締結具のサイズを変えずとも熱処理の有無にて強度を変更することができるものとした。
即ち、本発明では、雌型締結具の製造工程において、賦形後の雌型締結具に対し、強度を付与する熱処理を追加することによって、強度アップを図ることができる。
このため、本発明の実施により、雌型締結具の強度を上げるのに、サイズアップのみに頼る必要はなくなり、雌型締結具のコンパクト化に貢献できた。
本発明では、雌型締結具のコンパクト化により、セグメントの締結構造全体のコンパクト化を可能としたものとも言える。
また、本発明は、種々の強度の締結具の取り揃えにおいて、サイズの異なる締結具の種類を低減することも可能とした。
更に、本発明は、鋳造品日本おいて必須としていた補強用のリブを雌型締結具から排除して、締結具のコンパクト化をより一層進めた。
特に、請求項4に記載の本発明では、雌型締結具から雄型締結具を引き抜く方向への力が第1係合面から第2係合面へ掛かった場合、雄型締結具の第1係合部が雌型締結具の第2係合部を押し広げて受容部の凹部から抜け出るには、前記凹部の奥へ向くよう前記締結方向と直交する仮想面に対し斜めに形成された上記受容部の第2係合部の夫々が、上記締結方向と直交する仮想面と平行となる過程を一旦経る必要がある。このため当初から上記締結方向と直交する仮想面と平行とする場合と比べて、上記斜めの状態から上記締結方向と直交する仮想面と平行となる過程が必要な分、大きな力が掛かっても上記凹部(受容部)から第1係合部が抜け出難いものとなっている。
また、本発明に係る雌型締結具にあっては、上記受容部は圧接によって第2アンカー部と一体にされており、上記受容部を上記第2アンカー部と連結するために、第2アンカー部へ雄螺子を形成し尚且つ上記受容部へ当該雄螺子をねじ込む雌螺子を形成しておく必要がない。このため、本発明では、上記雌型締結具へ螺子穴形成のための厚みを確保しておく必要がなく、雌型締結具のコンパクト化により貢献できた。
また請求項6に記載の本発明では、雄型締結具を雌型締結具から引き離す力が雄型締結具へ掛かり、第1係合面が第2係合面を押圧した際に、前記第2係合面が前記第1係合面を滑り前記凹部の両先端間を狭める方向へ前記第2係合部が変位するため、第2係合部が第1係合部に押圧されることで、雌型締結具の前記凹部の先端間が押し広げられるという事態が生じ難い。このため上記力を受けた際生じがちな上記凹部の先端間が開いて雄型締結具が雌型締結具から外れるという事態が生じ難い。
請求項7に記載の雌型締結具についても、雄型締結具へ雌型締結具から分離する引張力が掛かった際、傾斜面である第2係合面の夫々が傾斜面である第1係合面の夫々に押圧されることで、第2係合面が第1係合部を滑り両第2係合部同士を互いに近づける方向へ上記引張力を作用させて、基板と一体にされた両延設部の基部を中心に両延設部の先端側を互いに近づく方向へ回転させる。このため、雌型締結具の受容部の構成する凹部が開いて、雄型締結具が雌型締結具から外れるという事態が生じ難い。また雌型締結具について、大きな上記引張力の負荷を受けて塑性的に引き延ばされたとしても直ちに延性破壊に至るということを抑制できた。
例えば、第1係合面の夫々と第2係合面の双方を上記傾斜面とせずに締結方向と直交する面(仮想面)とした場合、締結方向に沿って雄型締結具を雌型締結部から引き抜こうとする力が発生すると、第1係合部の夫々が第2係合部の夫々を押圧して、延設部の先端同士を互いに遠ざける方向へ、延設部を回転させる。当該遠ざける方向への回転を止める歯止めとなる手段はないため、当該回転が生じると、雌型締結具の受容部において上記延性破壊に直結し易い。
一方、上記請求項7に記載の発明において、両第2係合部同士が互いに近づくことによって、延設部の基部を中心に、第2係合部を設けられた両延設部の先端側同士も互いに近づく方向に回転しようとする。当該回転によって両第2係合部同士が互いに近づいたとしても、最終的に両第2係合部は雄型締結具の首部に当たりそれ以上近づく方向に回転することはできない。このため、請求項7に記載の本発明において、上記引張力によって塑性的に両延設部が引き延ばされたとしても上記の通り直ちに回転に起因した延性破壊に至るということが生じ難いのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)は本発明に係る締結構造を備えた筒状構造物の組み立て途中の状態を示す斜視図、(B)は(A)の筒状構造物を構成するセグメントの斜視図、(C)は(B)の(弧の中心軸と直交する平面にて切った)略断面図。
図2図1(A)の筒状構造物の周方向について隣り合うセグメント同士を締結する締結構造について雄型締結具を雌型締結具から分離した状態の正面図、(B)は(A)の雄型締結具を雌型締結具へ締結した状態を示す正面図。
図3】(A)は図2(A)へ示す分離した状態の締結構造(雄型締結具と雌型締結具夫々)の背面図、(B)は図2(A)へ示す分離した状態の締結構造(雄型締結具と雌型締結具夫々)の平面図。
図4】(A)は図2(A)の雌型締結具の左側面図、(B)は(A)の雌型締結具(の受容部)の右側面図、(C)は(A)の雌型締結具の一部切欠正面図、(D)は(C)のX-X断面図、(E)は図2(A)の雄型締結具の左側面図、(F)は(E)の雄型締結具の右側面図。
図5】(A)は図2(A)に示す締結構造の要部斜視図、(B)は雌型締結具の他の変更例を示す一部切欠正面図、(C)は雌型締結具の更に他の変更例を示す一部切欠正面図。
図6】(A)及び(B)は本発明の図2(B)に示す締結構造へ雌雄の締結具を分離する方向への力が掛かった際の締結構造の挙動を示す要部略正面図、(C)及び(D)は本発明の他の実施の形態に係る締結構造へ雌雄の締結具を分離する方向への力が掛かった際の締結構造の挙動を示す要部略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るセグメントの締結構造3の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
尚、図2(A)(B)及び図3(A)(B)の上下方向を、締結構造3の左右横方向として説明する。
【0011】
(筒状構造物1の概要)
図1(A)へ示す通り、筒状構造物1は、ラジアル方向即ち周方向(図1(A)のr)に分割された複数の被締結部材2にて構成されている。
この例では、上記筒状構造物1は、内部を空洞とするトンネルであり、上記被締結部材2は、シールド工法によって上記トンネルを形成する複数のセグメントである。以下必要に応じて被締結部材2をセグメント2と呼ぶ。
本発明に係る結合構造3は、上記周方向rについて隣り合う被締結部材2同士を締結する。
【0012】
筒状構造物1は、またスラスト方向即ち筒状構造物1の中心軸の伸びる方向(図1(A)のy方向)についても複数の被締結部材2に分割されたものである。
即ち、上記本発明に係る締結構造3により複数のセグメント2が締結されて輪20をなし、当該セグメント2の輪20が上記中心軸の伸びる方向(以下必要に応じ軸方向yと呼ぶ。)に継ぎ足されてトンネル即ち筒状構造物1が形成されるのである。
詳細は省略するが、軸方向yについての上記輪20同士の締結、即ち上記軸方向yについて隣り合うセグメント2の端面2c同士の締結には、周知の他の締結構造を採用することができる。例えば、上記軸方向yについて隣り合うセグメント2の端面2c同士の締結において、特許第6058490号へ示された締結構造を採用することができる。
尚上記軸方向yのセグメント2同士の締結において本発明に係る締結構造3を採用してもよい。
【0013】
(セグメント2)
各セグメント2の本体21は、この例では内部に鉄筋(図示しない。)を備えるコンクリート製のピースである。
この例では、上記鉄筋の埋設により、コンクリート製のセグメント2は、補強されている。
上記輪20の周方向rについて各セグメント2の両端は隣り合う他のセグメント2と付き合わされ締結される締結面2a,2bを構成する(図1(B)(C))。
セグメント2の夫々には、上記周方向rの少なくとも一端(締結面2a)側へ上記締結構造3を構成する雄型締結具4が備えられ、上記周方向rの他の一端(締結面2b)側へ上記締結構造3を構成する雌型締結具5が備えられている(図1(C))。
【0014】
各セグメント2において、上記締結面2a,2bの夫々は、差込用空間部2dを除いて平らに形成された面である。差込用空間部2dは、平らな締結面2a,2bから凹む溝状部分である。
差込用空間部2dは、上記締結面2a,2bにおいて上記軸方向yに沿って伸びる。
【0015】
図1(C)へ示す通り、セグメント2のコンクリート製の本体21には、後述する第1アンカー部40と第2アンカー部50が埋設される。
【0016】
図1(A)(B)へ示す例では、セグメント2の上記周方向rの一端側(締結面2a)に雄型締結具4と雌型締結具5が1つづつ設けられ、セグメント2の上記周方向rの他の一端(締結面2b)にも雄型締結具4と雌型締結具5が1つづつ設けられている。
但し、セグメント2の上記締結面2a,2bの夫々に設けられる雄型締結具4及び5の数は、上記に限定するものではなくセグメント2のサイズや重量に応じて変更可能である。また、上記締結面2a,2bの一方に雄型締結具4のみを設け、上記締結面2a,2bの他の一方に雌型締結具5のみを設けるものとしても実施できる。
【0017】
更に、セグメント2の上記周方向rの両端の夫々へ1つ又は複数の雄型締結具4のみ設け(雌型締結具5は備えないものとし)、上記周方向rについて当該セグメント2に隣り合うセグメント2の両端について1つ又は複数の雌型締結具5のみ設けて(雄型締結具4は備えないものとし)、実施することもできる。雄型締結具5のみ設けられたセグメント2と雌型締結具5のみ設けられたセグメント2とを上記周方向rについて交互に配置するものとすればよいのである。但し、図1(A)~(C)へ示すように、1つのセグメントが雄型締結具4と雌型締結具5の双方を備えるものとすることによって、筒状構造物1を製造するに当り、1種類のセグメント2のみ用意すればよく便利である。
【0018】
(セグメント2の締結構造3)
セグメント2同士を締結して上記輪20を形成する締結構造3は、上記輪20の周方向rについて隣り合うセグメント2の一方に設けられた上記雄型締結具4と、上記周方向rについて隣り合うセグメント2の他の一方に設けられた上記雌型締結具5という、雌雄の締結具4,5の対にて構成されている(図2図3及び図5(A))。
この例では、上記周方向rが特許請求の範囲の「締結方向」に相当する。
【0019】
雄型締結具4は、上記軸方向yに沿って伸びる棒状のロッド部41と、セグメント2の本体21へ埋設された前述の第1アンカー部40とを有する(図2(A))。
ロッド部41は、上記軸方向yと交差する(上下)方向へ伸びる第1係合部31を有する。
第1係合部31がロッド部41先端(右端。図2(A)(B)においては上端)から上方と下方(図2(A)(B)においては左右)へ伸びて雄型締結具4の先端は略T字を呈する。
【0020】
第1係合部31において、上記T字のコーナー部分(T字の交差部分)の夫々を構成する面を夫々第1係合面31aとする。
第1係合面31aは、ロッド部41の伸びる方向即ち締結構造の締結方向と直交する面(仮想面k)に対し、傾斜する。即ち第1係合面31aが締結方向と直交する当該面となす挟角θ(図2(A))は、後述する第2係合面32aの傾斜(挟角φ)に対応して、2度~10度とするのが好ましく、この例では5度である。
またこの例では、第1係合面31aは、第1係合部31の背面側(図3(B)において左側)から正面側(図3(B)において右側)へ向かうにつれてロッド部41の先端(図3(B)において上端)側よりも基部(図3(B)において下端)側へ寄るように傾斜する斜面でもある。
ロッド部41の基端側には、(第1係合部31を除く)ロッド部41の先端側よりも太い(径の大きな)大径部42が備えられている。
以下必要に応じてロッド部41の第1係合部31と大径部42との間の部位を首部41aと呼ぶ。
【0021】
ロッド部41は金属製の部材であり、この例ではロッド部41は鍛造品である。
ロッド部41の素材としては鋼が適し、機械構造用炭素鋼(SC材)が適する。特にロッド部41には、特にクロムモリブデン鋼(SCM)が適する。
但し、本発明の作用を奏する限り、上記以外の素材をロッド部41に採用して実施するのを制限するものではない。
【0022】
ロッド部41に対し、求められる強度に応じて焼き入れ・焼き戻しといった熱処理を行うものとし、高い強度が不要である場合熱処理を行う必要はない。
第1アンカー部40は、セグメント2の本体21内を上記周方向rに沿って伸びる金属製の棒状体である。この例では、第1アンカー部40は、異径棒である。
ロッド部41の大径部42の基端は、第1アンカー部40の一端に圧接されている。詳しくは、第1アンカー部40の上記一端には第1アンカー部40の他の部分よりも径の大きな鍔状部40aが設けられており、当該鍔状部40aへ上記ロッド部41の大径部42の基端が圧接にて固定されているのである。
【0023】
雄型締結具4において、上記第1アンカー部40とロッド部41の大径部42はセグメント2の本体21へ埋設され、ロッド部41の大径部42よりも先端側の部分は上記セグメント2の締結面2a,2bの一方から突出する。第1係合部31は、上記セグメント2の締結面2a,2bの一方から露出し、第1係合面31aは当該一方の締結面を臨む。即ち、第1係合面31aは、当該第1係合面31aをセグメント2の外部へ露出させる締結面(締結面2a,2b)の一方と対向する面である。
【0024】
雌型締結具5は、上記差込用空間部2dへ配設される金属製の受容部51と、セグメント2の本体21へ埋設された第2アンカー部50とを有する(図2(A))。
受容部51は、雄型締結具4の第1係合部31を受容する凹部を構成する。
受容部51は、金属製の部材であり、また受容部51は鍛造品である。
受容部51の比重は摂氏20度において7~8とするのが好ましく、鉄を素材とするこの例では受容部51の比重は7.85である。例えばステンレス鋼を採用した場合、受容部51の比重は、7.7~7.9である。
受容部51の素材としては、鋼が適し、強度の観点からは、機械構造用炭素鋼(SC材)が適し、特に受容部51には、特にクロムモリブデン鋼(SCM)が適する。
但し、本発明の作用を奏する限り、上記以外の素材を受容部51に採用して実施するのを制限するものではない。
受容部51に対し、求められる強度に応じて焼き入れ・焼き戻しといった熱処理を行うものとし、高い強度が不要である場合熱処理を行う必要はない。
上記の第2アンカー部50は、金属製であり、この例では異径棒である。
受容部51は上記第2アンカー部50の端部へ圧接にて固定されている。
【0025】
この例において受容部51は、夫々略矩形の板状である、右側面部52と、上面部53と、下面部54と、背面部55とにて形成された、箱状のものである(図2(A)及び図4(A)(B))。受容部51の正面側は開放された開放部である。
右側面部52と上面部53と下面部54とは、受容部51の正面視において矩形を呈する背面部55の3辺から受容部51の正面側へ起立する。受容部51の正面視において、右側面部52と上面部53と下面部54とは略コ字状を呈するものであるが、当該コ字の両端即ち上面部53と下面部54の左辺から上下(図2(A)において左右)に起立する第2係合部32の夫々が形成されており、受容部51は正面視において全体としてC字を呈する。
尚、上記の右側面部52が特許請求の範囲(請求項7)の「基板」に対応し、上記の上面部53と下面部54とが、特許請求の範囲(請求項7)の「延設部」の夫々に対応する。
【0026】
箱状の受容部51の内側空間が、雄型締結具4の第1係合部31を受容する上記凹部を構成するのであり、上記C字の両端部の夫々が上記第1係合部31を係合する、即ち引っ掛ける第2係合部32を構成する。
上記両第2係合部32の間には、隙間33が設けられている。
上記C字の両端を当該Cの奥に向けるように、第2係合部32の夫々は締結方向である上記周方向rと直交する仮想面kに対し斜めに形成されている(図5(B))。第2係合部32は、第2係合面32aについて上記仮想面kに対し2度~10度の挟角φを備えるよう斜めに形成されており、この例では当該挟角φは5度である。
【0027】
更に、第2係合面32aは、第1係合面31aに対応して、前後方向について斜めに形成されている(図4(D))。即ち第2係合面32aは、受容部51内を後方から前方(図4(D)の左側から右側)へ進むにつれて受容部51の左側(図4(D)の下方)へ寄るように傾斜する傾斜面である。
上記両挟角θ,φの対応の下、当該傾斜により第2係合面32aは、第1係合面31aへ面接触することができる。
【0028】
また、特に、受容部51の少なくとも外側面即ち上記上面部53と下面部54と背面部55夫々の外面は、補強用のリブとなる隆起を備えない、平坦な面である。
異径棒である第2アンカー部50の一端には第2アンカー部50の他の部分よりも径の大きな鍔状部50aが設けられており、当該鍔状部50aへ受容部51の上記上面部53が圧接されている。
【0029】
本発明の実施において、受容部51を鍛造品とすることを前提とする限り、図6(C)へ示すように、第2係合部32の夫々を締結方向である上記周方向rと直交する仮想面kと一致する(平行となる)ように形成してもよい。
しかし上記図5(B)へ示すように第2係合部32を上記仮想面kに対し斜めにした場合、雌型締結具5から雄型締結具4を引き抜く方向への引張力が第1係合面31aから第2係合面32aへ掛かったとき、雄型締結具4の第1係合部31が雌型締結具5の第2係合部32を押し広げて受容部の凹部からが抜け出るには、上記凹部の奥へ向くよう上記仮想面kに対し斜めに形成された上記受容部の第2係合部32が、上記仮想面kと平行となる過程を一旦経る必要があり、当初から第2係合部32を仮想面kと平行とした図6(C)の例と比べて、第2係合部32が上記斜めの状態から上記締結方向と直交する仮想面と平行となる過程が必要な分、大きな引張力が掛かっても受容部51の凹部から第1係合部31が抜け難いものとなっている。
【0030】
特に、図6(A)へ示す通り、第2係合部32全体を図6(C)へ示す例と同様上記仮想面kに対して平行となるものとし、第2係合面部32aのみ上記仮想面kに対し図5(B)と同様の上記挟角φを以て傾斜するものとするのが好ましい。
図6(A)へ示す実施の形態の優位性については後に詳しく述べる。
【0031】
1つのセグメント2の締結面2a,2bの一方に設けられた雄型締結具4と当該セグメント2の締結面2a,2bの他の一方に設けられた雌型締結具5との、夫々のアンカー部(第1アンカー部40及び第2アンカー部50)が当該1つのセグメント2の本体21へ埋設されている。
第1アンカー部40及び第2アンカー部50は、セグメント2の本体21内部において、上記鉄筋を避けて配設されている。但し、第1アンカー部40と第2アンカー部50の両方又は一方がセグメント2の本体21内において上記鉄筋へ固定されるのを排除するものではない。
【0032】
また、図1(A)(B)へ示す例では、個々のセグメント2について2対の雌雄締結具4,5が埋設されているが、雌雄締結具4,5の数は、夫々2本に限定するものではなく、夫々1本や3本以上に変更することができる。
更に、図1(A)(B)へ示す例では、1つのセグメント2の締結面2a,2bの夫々において、雌雄異なる締結具4,5が配置されるように、雄型締結具4及び雌型締結具5が固定されている。
【0033】
上記の通り第2アンカー部50の一端へ圧接された受容部51は、上記差込用空間部2dの内部に配置される(図1(B))。
セグメント2の上記差込用空間部2dは、上記器軸方向yについて受容部51の隣りに雄型締結具4のロッド部41を差し込む差込用のスペース2eとして空の空間を備える。
即ち受容部51の上記開放部が差込用空間部2dの上記スペース2e側を向くように、受容部51が配置されるのである。
【0034】
ここで筒状構造物1の上記輪20(円筒体)の形成について、セグメント2の1つを第1被締結部材2mとし、輪20の周方向rについて当該第1被締結部材2mへ継ぎ足されて隣接するセグメント2を第2被締結部材2nとして説明する(図1(A))。
上記第1被締結部材2mに対し継ぎ足すに際し、第2被締結部材2nは、第1被締結部材2nの締結面2b(第1締結面)上を上記軸方向yに沿ってスライドさせる。当該スライドにて、第1被締結部材2mの締結面2bへ第2被締結部材2nの締結面2a(第2締結面)を倣わせるのである。上記スライドに先立ち、第1被締結部材2mの締結面2bの差込空間部2dの上記スペース2eへ第2被締結部材2nの締結面2aから突出する雄型締結具4の第1係合部31を差し込むと共に第2被締結部材2nの締結面2aの差込空間部2dの上記スペース2eへ第1被締結部材2mの締結面2bから突出する雄型締結具4の第1係合部31を差し込む(図1(A)(B))。
【0035】
上記スライドによって、第1被締結部材2nの締結面2bと第2被締結部材2nの締結面2a夫々の差込空間部2d内の雌型締結具5の備える受容部51の上記開放部から、受容部51内へ雄型締結具4の第1係合部31が挿入され、同時に当該雄型締結具4の首部41aが上記雌型対決具5の上記隙間33へ配置される。上記スライドの完了により、第1係合部31の第1係合面31aは、第2係合部32の第2係合面32aへ対面する(図2(B)及び図6(A))。
上記にて輪20を構成する上記第1被締結部材2mと第2被締結部材2nへ両者の締結を分離しようとする上記周方向rに沿った引張力が掛かった際、第1係合面31aが第2係合面32aに当たり、即ち第1係合部31が第2係合部32へ引っ掛かり、第1被締結部材2mと第2被締結部材2nの締結は維持されるのである。
雄型締結具4と雌型締結具5間の締結の引張強さは、第1アンカー部40や第2にアンカー部50を構成する異径棒の引張強さ以上とすればよい。
【0036】
ここで上記図6(A)へ示す実施の形態の特に図6(C)へ示す実施の形態に対する優位性について詳しく説明する。
第1被締結部材2mと第2被締結部材2nとの間に両者を分離する方向の引張力が掛かった場合、雄型締結具4の第1係合部31を雌型締結具5の受容部51から引き抜く(図6(A)の下向きの黒矢印の)力が作用する。当該作用によって、雄型締結具4の第1係合面31aから、雌型締結具5の第2係合面32aが(図6(A)の下向きの白抜き矢印の)力を受ける。
上記の通り、上記挟角θを持った傾斜面である第1係合面31aが、同様に上記挟角φを持った傾斜面である第2係合面32aへ押し付けられることにより、第1係合面31aに沿って第2係合面32は滑り上記隙間33を狭める(図6(A)の横向きの白抜き矢印の)方向へ変位する。このように両第1係合部31が楔の如く、両第2係合部32同士を互いに近づける方向へ締め付ける効果(締め付け効果)を生じさせる。
【0037】
ここで、一方の第2係合部32と上面部53が交差する角及び他の一方の第2係合部32と下面部54が交差する角の夫々を第1角部c1とし、上面部53の基部即ち上面部52と右側面部52とが交差する角及び下面部54の基部即ち下面部54と右側面部52とが交差する角の夫々を第2角部c2として、雌型締結具5から雄型締結具4を引き抜こうとする負荷に対する上記第2係合部32の挙動について説明する。
上記の締め付け効果発生時の受容部51全体の挙動を見ると、第2係合部32同士の間(隙間33)を狭める方向へ第2係合部32が変位する際、上記第2角部c2の夫々を中心として、上面部53と下面部54とが回転する(図6(B))。当該回転の結果、受容部51が呈する凹部の口は狭められ受容部51から雄型締結具4の先端は抜け難くなる。尚第2係合部32同士が近づく方向へ回転し続けたとしても、ロッド部41の首部41aに当たりそれ以上回転できなくなる。このため図6(A)(B)へ示す例では、上記力を受け続けることで上面部53及び下面部54が塑性的に引き延ばされることがあるとしても、第2角部c2を中心とする回転に起因した延性破壊は生じ難いものと言える。
【0038】
一方、図6(C)へ示す第2係合面32aを上記締結方向と直交する仮想面kと平行に形成した例においても、第1被締結部材2mと第2被締結部材2nとの間に両者を分離する方向の引張力が掛かった場合、雄型締結具4の第1係合部31を雌型締結具5の受容部51から引き抜く(図6(C)の下向きの黒矢印の)力が作用する。当該作用によって、当初雄型締結具4の第1係合面31aから、雌型締結具5の第2係合面32aが(図6(C)の第1係合部31内に描かれた下向きの白抜き矢印の)力を受ける。
しかし、図6(C)の例では、第2係合面32aは上記仮想面kと平行(挟角φは0度)であるため、第2係合面32aは第1係合面31aを、第2係合部32同士を近づける方向へ滑ることはなく、上記引き抜く力を受け続けると、上面部53と下面部54の夫々は、上記第2角部c2の夫々を中心に図6(B)へ示す例と逆方向に回転し、第1係合部31の夫々は、第2係合部32同士を互いに遠ざける(図6(D)において横向きに描かれた白抜き矢印)方向へ押圧する。上記引き抜く力を受け続けると、第2係合部32間は図6(A)(B)の例に比して簡単に開き、最終的に拡大した隙間33から第1係合部31即ち雄型締結具4は受容部51の外へ抜け出してしまう。
また、図6(C)(D)の例では、第1係合部31が抜け出すことができるまで歯止めなしに第2係合部32同士は遠ざかることができる、即ち、上面部53と下面部54が歯止めなしに第2角部c2を中心に図6(B)へ示す例と逆方向に回転できるので、当該回転による延性破壊阻止の面でも、図6(A)に示すもののほうが有利である。
雄型締結具4の第1係合部31を雌型締結具5の受容部51から引き抜く力を同じとして図6(A)(B)へ示す例を図6(C)(D)へ示す例と比べると、上記の通り第2角部c2を中心とする回転の方向は、図6(A)(B)へ示す例と図6(C)(D)へ示す例とでは逆となり、上記効果の相違を生じるのである。
【0039】
但し、大きな引張力の負荷が想定されない場合、前述の通り雌型締結具5の受容部51の第2係合部32(第2係合面32a)を図6(C)へ示す上記仮想面kに対して平行となるように形成するのを排除するものではない。
尚、図4(C)、図5(B)及び図6(A)において、第2係合面32aの傾斜は実際より強調して描いている。
【0040】
本発明は、締結具例えばコーンコネクタを鍛造品とすることにより、1つの金型で要求される強度に応じた広いレンジの締結具の製造をカバーできるものとした。このため、従来のように、多種のコーンコネクタを取り揃えておく必要がない。
【0041】
具体的には、本発明に係る雌型締結具の第1のタイプとして、受容部51をSC材にて形成し、焼き入れ・焼き戻しといった熱処理を行わないものとし、引張強度を400~500N/mm2とすることができる。コストの問題がなければ上記SC材に代えてSCMを採用してもよい。
【0042】
また本発明に係る雌型締結具の第2のタイプとして、受容部51をSC材にて形成し、摂氏約800度にて焼き入れ更に焼き戻しといった熱処理を行うものとし、引張強度を800~900N/mm2とすることができる。コストの問題がなければ上記SC材に代えてSCMを採用してもよい。
【0043】
更に本発明係る雌型締結具の第3のタイプとして、受容部51を上記SCMにて形成し、摂氏約800度にて焼き入れ更に焼き戻しといった熱処理を行うものとし、更に寸法を増加させて引張強度を1000N/mm2とすることができる。
本発明の上記第1~第3のタイプの雌型締結具と、更にこれら雌型締結具と同様の上記第1~第3のタイプの素材・処理・引張強度の雄型締結具とを用意することにより、従来必要とされた多種の寸法の締結具の取り揃えに代えることができるのである。
【0044】
また、一般的なコーンコネクタにおいて、雄型締結具4と雌型締結具5は、それぞれ2本のアンカー部を備えるものとしたが、本発明では、圧接により締結具を固定するアンカー部は夫々1本で済む。
【0045】
(変更例)
図5(B)の変更例として、第2係合部32(第2係合面32a)を上記仮想面kに対し傾斜させるのに、図5(C)へ示すように受容部51の上面部53と下面部54とを両第2係合部32に向け逆ハの字となるように形成して対応することもできる。
図2(A)(B)及び図3(A)(B)へ例示した、雄型締結具4と雌型締結具5の夫々において、具備するアンカー部(第1アンカー部40及び第2アンカー部50)は夫々1つとしたが、雄型締結具4と雌型締結具5は、夫々2本以上のアンカー部を備えるものとしても実施できる。
また、例示したアンカー部(第1アンカー部40及び第2アンカー部50)は、結合構造3を構成する雄型締結具4と雌型締結具5との間において締結方向に生じる力を各被締結部材2の本体21へ伝える応力伝達部として雄型締結具4及び雌型締結具5へ設けられるものであった。一方雄型締結具4と雌型締結具5の夫々は、第1アンカー部40及び第2アンカー部50を備えないものとしても実施できる。例えば、被締結部材2の夫々は、図1(B)(C)へ示すように賦形された本体21のコンクリートの表面全体を金属板にて覆うものとし、当該金属板へロッド部41と受容部51の夫々を設けることで、上記コンクリート内へ埋設するアンカー部(第1アンカー部40及び第2アンカー部50)を上記雌雄の締結具4,5から排除するものとしてもよい。上記の金属板が応力伝達部として雄型締結具4と雌型締結具5との間に生じる力を各被締結部材2の本体21表面へ伝えるのである。尚、上記金属板は、アンカー部のように上記コンクリートへ直接上記力を伝えることを目的とするものではなく、個々のセグメント2においてコンクリートを迂回して締結面2a,2b間における力の伝達を図るものである。
例示した筒状構造物は、上記の通り空洞であればよく、トンネルとして一般的な道路や鉄道を通すものの他、電線を通すものや、水路、排水溝、通風孔とするものであってもよく、その用途は問わない。また、トンネルを配設するための工法は、周知のどのような工法を採用するものであってよく、シールド工法は勿論、他の工法を採用するものであってもよい。トンネル以外の筒状構造物としては、ケーソンを例示することができる。
また、筒状構造物1は断面が円形の完全な筒状物とするものに限定するものではなく、断面を半円形とするアーチ状の構造物を筒状構造物として、本発明を実施してもよい。
【0046】
更に上述した各実施の形態において、被締結部材2即ちセグメントをコンクリート製の本体21内部へ鉄筋が埋設されたものとしたが、コンクリートの性質やセグメント2の寸法・重量によって、鉄筋を備えないものとしてもよい。
更に、被締結部材2を上記コンクリート製の本体21を備えたセグメント2に限定するものではなく、被締結部材2をコンクリート以外の他の素材でできた、筒状構造物1の構成部材として実施してもよい。このように被締結部材2をセグメント2以外のものとする場合、上述した各実施の形態の「セグメント2」を単に被締結部材2と読み替えるものとする。
【0047】
(総括)
本発明は、隣接する少なくとも2つの被締結物同士を締結する雌雄1対の鍛造製の締結具のうちの、一方の上記被締結物に備えられる雌型締結具と、他の一方の上記被締結物に備えられる雄型締結具とを組み合わせた締結構造に係るものである。
上記雄型締結具は、上記他の一方の被締結物から上記一方の被締結物へ向けて伸びる棒状又は板状のロッド部と、上記ロッド部に設けられた鉤部(上記例では第1係合部31)とを備え、上記ロッド部の伸びる方向を締結方向とし上記鉤部は上記ロッド部側面から上記締結方向と交差する方向へ突出するものである。
上記雌型締結具は、上記締結方向について上記ロッド部に沿う沿い部(上記例では背面部)と、上記沿い部から突出し上記鉤部が引っ掛かる鉤受部(上記例では第2係合部32)とを備え、上記鉤受部は、上記鉤部を受ける板状部分であり、上記鉤受部は、上記ロッド部側面へ近づくに連れ上記ロッドの先端側へ偏向するよう、上記ロッド部の伸びる方向と直交する面(仮想面k)に対し斜めに形成されたものである。
【符号の説明】
【0048】
1 筒状構造物
2 被締結部材(セグメント)
2a (被締結部材2のラジアル方向の一方の端面である)締結面
2b (被締結部材2のラジアル方向の他方の端面である)締結面
2c (被締結部材2のスラスト方向の)端面
2d (被締結部材2の締結面2a,2bの夫々に設けられた)差込用空間部
2m 第1被締結部材(セグメント2)
2n 第2被締結部材(セグメント2)
3 (被締結部材2の)締結構造
4 (締結構造3の)雄型締結具
5 (締結構造3の)雌型締結具
20 (被締結部材2の)輪
21 (被締結部材2の)本体
31 (雄型締結具4の)第1係合部
31a (第1係合部31の)第1係合面
32 (雌型締結具5の)第2係合部
32a (第2係合部32の)第2係合面
33 (第2係合部32間の)隙間
40 第1アンカー部(雄型締結具4のアンカー部)
40a (第1アンカー部40の)鍔状部
41 (雄型締結具4の)ロッド部
41a (ロッド部41の)首部
42 (ロッド部41の)大径部
50 第2アンカー部(雌型締結具5のアンカー部)
50a (第2アンカー部50の)鍔状部
51 (雌型締結具5の)受容部
52 (雌型締結具5の)右側面部
53 (雌型締結具5の)上面部
54 (雌型締結具5の)下面部
55 (雌型締結具5の)背面部
c1(受容部51の)第1角部
c2(受容部51の)第2角部
k (締結方向と直交する)仮想面
r (セグメント2間の締結方向となる輪20の)周方向
θ (仮想面kと第1係合部31との間の)挟角
φ (仮想面kと第2係合部32との間の)挟角
図1
図2
図3
図4
図5
図6