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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】血液検体の血液凝固特性の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20231214BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/48 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020568645
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003796
(87)【国際公開番号】W WO2020158948
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019016474
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川辺 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】嶋 緑倫
(72)【発明者】
【氏名】野上 恵嗣
(72)【発明者】
【氏名】荻原 建一
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06524861(US,B1)
【文献】特開2018-017619(JP,A)
【文献】特開2016-194426(JP,A)
【文献】特開2019-086518(JP,A)
【文献】YAMASAKI, Naoya et al.,Is the result of Colt Waveform Analysis(CWA) different in hemophilia A and B?,臨床血液,2017年,vol.58, no.9,p.1754,PS2-37-7
【文献】西山敦子 ほか,凝固波形解析による重症血友病Bの微量第IX因子の検出,日本血栓止血学会誌,2018年,vol.29, no.2,p.184,O-056, P-080
【文献】和田英夫,APTT波形解析,日本血栓止血学会誌,2018年08月10日,第29巻第4号,第413-420頁
【文献】萩原建一 ほか,APTT凝固波形テンプレートマッチングによる血友病A診断アルゴリズムの開発,日本血栓止血学会誌,2019年05月01日,第30巻第2号,411頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/86
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体の分析方法であって、
被検血液検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固速度又は凝固加速度に関する波形を取得することと、
該凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータを抽出することと、
該複数のパラメータに基づいて、該被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常を判定することと、
を含み、
該複数のパラメータが、該凝固速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、該凝固加速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、又はそれらの組み合わせを含む
血液検体の分析方法。
【請求項2】
前記複数のパラメータが、下記:
前記凝固速度に関する波形の複数の演算対象域についての加重平均時間vT、加重平均高さvH、ピーク幅vB、加重平均ピーク幅vW、加重平均高さについてのB扁平率vAB、加重平均高さについてのW扁平率vAW、加重平均時間についてのB時間率vTB、加重平均時間についてのW時間率vTW、平均時間vTa、平均高さvHa、平均高さについてのB扁平率vABa、平均高さについてのW扁平率vAWa、領域始点時間vTs、領域終点時間vTe、領域中央時間vTm、領域時間幅vTr、主ピーク始点時間vNs、主ピーク終点時間vNe、及び主ピーク幅vN;
前記凝固加速度に関する波形のプラスピークの複数の演算対象域についての加重平均時間pT、加重平均高さpH、ピーク幅pB、加重平均ピーク幅pW、加重平均高さについてのB扁平率pAB、加重平均高さについてのW扁平率pAW、加重平均時間についてのB時間率pTB、加重平均時間についてのW時間率pTW、主ピーク始点時間pNs、主ピーク終点時間pNe、及び主ピーク幅pN;ならびに、
前記凝固加速度に関する波形のマイナスピークの複数の演算対象域についての加重平均時間mT、加重平均高さmH、ピーク幅mB、加重平均ピーク幅mW、加重平均高さについてのB扁平率mAB、加重平均高さについてのW扁平率mAW、加重平均時間についてのB時間率mTB、加重平均時間についてのW時間率mTW、主ピーク始点時間mNs、主ピーク終点時間mNe、及び主ピーク幅mN、
からなる群より選択される1つ以上を含む、請求項記載の分析方法。
【請求項3】
前記凝固速度に関する波形をF(t)(tは時間)、F(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF(t)≧xを満たす領域であり、前記vT及びvHは下記式で表され、
【数1】
前記vTa、vHa、及びvTmは、F(t)、t1及びt2が前記と同じ定義であり、F(t1)からF(t2)までのデータ点数をnとするとき、それぞれ下記式で表され、
【数2】
前記vBが、前記t1からt2までのF(t)≧xとなる時間長であり、
前記vWが、前記t1からt2までのF(t)≧vHとなる時間長であり、
前記vTs、vTeが、それぞれt1、t2であり、
前記vTrが、vTsからvTeまでの時間長であり、
前記vNsが、該演算対象域中で、F(t)が最大値を示す時間よりも小さく且つF(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記vNeが、該演算対象域中で、F(t)が最大値を示す時間よりも大きく且つF(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記vNが、vNsからvNeまでの時間長であり、
前記vABが、該vHと該vBとの比を表し、
前記vAWが、該vHと該vWとの比を表し、
前記vTBが、該vTと該vBとの比を表し、
前記vTWが、該vTと該vWとの比を表し、
前記vABaが、該vHaと該vBとの比を表し、
前記vAWaが、該vHaと該vWとの比を表す、
請求項記載の分析方法。
【請求項4】
前記凝固加速度に関する波形をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF'(t)≧xを満たす領域であり、前記pT及びpHは下記式で表され、
【数3】
前記pBが、前記t1からt2までのF'(t)≧xとなる時間長であり、
前記pWが、前記t1からt2までのF'(t)≧pHとなる時間長であり、
前記pNsが、該演算対象域中で、F'(t)が最大値を示す時間よりも小さく且つF'(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記pNeが、該演算対象域中で、F'(t)が最大値を示す時間よりも大きく且つF'(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記pNが、pNsからpNeまでの時間長であり、
前記pABが、該pHと該pBとの比を表し、
前記pAWが、該pHと該pWとの比を表し、
前記pTBが、該pTと該pBとの比を表し、
前記pTWが、該pTと該pWとの比を表す、
請求項記載の分析方法。
【請求項5】
前記凝固加速度に関する波形をF'(t)(tは時間)、F'(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF'(t)≦xを満たす領域であり、前記mT及びmHは下記式で表され、
【数4】
前記mBが、前記t1からt2までのF'(t)≦xとなる時間長であり、
前記mWが、前記t1からt2までのF'(t)≦mHとなる時間長であり、
前記mNsが、該演算対象域中で、F'(t)が最小値を示す時間よりも小さく且つF'(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記mNeが、該演算対象域中で、F'(t)が最小値を示す時間よりも大きく且つF'(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記mNが、mNsからmNeまでの時間長であり、
前記mABが、該mHと該mBとの比を表し、
前記mAWが、該mHと該mWとの比を表し、
前記mTBが、該mTと該mBとの比を表し、
前記mTWが、該mTと該mWとの比を表す、
請求項記載の分析方法。
【請求項6】
前記所定値xが、前記F(t)の最大値の0.5~99%であるか、前記F'(t)のプラスピークの最大値の0.5~99%であるか、又は前記F'(t)のマイナスピークの最小値の0.5~99%である請求項3~5のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項7】
前記複数の演算対象域が5~20個の異なる領域である、請求項1~6のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項8】
前記判定が、前記複数のパラメータ群を、複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群と比較することと、該比較の結果に基づいて、前記被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常を判定することとを含み、
該テンプレート血液検体が、該凝固因子の活性レベル又は活性異常の有無が既知である血液検体である、
請求項1~のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項9】
前記比較が、前記被検血液検体についてのパラメータ群と、前記複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群の各々との間での相関を求めることを含む、請求項記載の分析方法。
【請求項10】
前記判定が、前記相関が所定の条件を満たすテンプレート血液検体を選出することと、選出したテンプレート血液検体における前記凝固因子の活性レベル又は活性異常を、前記被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常と判定することを含む、請求項記載の分析方法。
【請求項11】
前記凝固因子が血液凝固第VIII因子または血液凝固第IX因子である、請求項1~10のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項12】
前記判定が、前記血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項11記載の分析方法。
【請求項13】
前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項11記載の分析方法。
【請求項14】
前記判定が、Very-Severe Haemophilia A、Modestly-Severe Haemophilia A、中等症又は軽症の血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項11記載の分析方法。
【請求項15】
前記判定が、前記血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項11記載の分析方法。
【請求項16】
前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項11記載の分析方法。
【請求項17】
血液凝固第VIII因子が異常ではないと判定された被検血液検体における血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常を判定することを含む第2の判定工程をさらに含み、
該第2の判定工程が、該被検血液検体についての前記パラメータ群を、血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常の有無が既知である複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群と比較することと、該比較の結果に基づいて、前記被検血液検体における血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常を判定することとを含む、
請求項11記載の分析方法。
【請求項18】
前記判定が、前記血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項17記載の分析方法。
【請求項19】
前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、請求項17記載の分析方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項記載の血液検体の分析方法を行うためのプログラム。
【請求項21】
請求項1~19のいずれか1項記載の血液検体の分析方法を行うための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体の血液凝固特性の分析方法に関する。また、本発明は、該血液検体の血液凝固特性の分析を行うためのプログラム及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査は、患者の止血能力又は線溶能力を調べるための検査である。一般的な血液凝固検査では、患者の血液検体に試薬を添加した後に起こる凝固反応を光学的に測定する。所定の状態まで凝固が進んだ時間は血液凝固時間として測定される。血液凝固時間の典型的な例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンビン時間などがある。血液凝固時間の延長は、生体内での出血傾向を反映している。延長の原因としては、1)血液凝固因子の量の異常、2)血液凝固系を構成する血液成分や血液凝固時間測定用試薬等に対する抗体の存在、3)血液凝固反応を阻害する薬剤の投与などが考えられる。
【0003】
血液凝固検査においては、血液検体への試薬添加後の血液凝固反応量を経時的に測定することにより、凝固反応曲線を求めることができる。この凝固反応曲線は、血液凝固系の異常のタイプに応じてそれぞれ異なる形状を有する(非特許文献1)。そのため、凝固反応曲線に基づいて血液凝固系の異常を判定する方法が開示されている。例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、患者の血液についての凝固反応曲線の一次微分曲線及び二次微分曲線に関するパラメータ、例えば最大凝固速度、最大凝固加速度及び最大凝固減速度などに基づいて、該患者における凝固因子の異常の有無を評価する方法が記載されている。
【0004】
血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)又は凝固第IX因子(FIX)が先天的に欠損しているか、機能的な異常がある疾患である。正常者の活性を100%として、FVIIIの活性が40%未満である者は血友病A、FIXの活性が40%未満である者は血友病Bに分類される。さらに活性レベルに従って、血友病の重症度が分類される。特許文献4には、患者の凝固反応が最大凝固速度又は最大凝固加速度に達する時間までの凝固速度の平均変化率に基づいて、血友病の重症度を判定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-194426号公報
【文献】特開2016-118442号公報
【文献】特開2017-106925号公報
【文献】特開2018-017619号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】British Journal of Haematology, 1997, 98:68-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の血液検体の凝固反応曲線の一次微分曲線は、検体に含まれる成分や検査に用いる試薬の影響あるいは計測方法の違いによって単峰性にならない場合がある。そのため、特許文献1~4の方法では、最大凝固速度や最大凝固速度時間などのパラメータを正確に求めるため、一次微分曲線を単峰性にするための平滑化処理を行って波形解析を実施している。しかし、このように一次微分曲線に対して単峰化するための平滑化処理を行った場合、得られた曲線は、平滑化処理による波形情報の喪失のため、患者の臨床状態を詳細に反映しないことが想定される。そのため、平滑化処理によらず、単峰性でない一次微分曲線からでも検体の血液凝固特性を精度良く評価することができる分析方法が求められている。
【0008】
本発明者は、血液の凝固反応曲線に由来する、凝固第VIII因子(FVIII)及び凝固第IX因子(FIX)の活性との関連性を有するパラメータを見出した。また本発明者は、該パラメータに基づいて血液検体におけるFVIII又はFIXの活性レベル、及び該血液検体におけるFVIII又はFIXの活性異常の有無を分析する方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、以下を提供する。
〔1〕被検血液検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固速度又は凝固加速度に関する波形を取得することと、
該凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータを抽出することと、
該複数のパラメータに基づいて、該被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常を判定することと、
を含む、血液検体の分析方法。
〔2〕前記複数のパラメータが、前記凝固速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、前記凝固加速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、又はそれらの組み合わせを含む、〔1〕記載の分析方法。
〔3〕前記複数のパラメータが、下記:
前記凝固速度に関する波形の複数の演算対象域についての加重平均時間vT、加重平均高さvH、ピーク幅vB、加重平均ピーク幅vW、加重平均高さについてのB扁平率vAB、加重平均高さについてのW扁平率vAW、加重平均時間についてのB時間率vTB、加重平均時間についてのW時間率vTW、平均時間vTa、平均高さvHa、平均高さについてのB扁平率vABa、平均高さについてのW扁平率vAWa、領域始点時間vTs、領域終点時間vTe、領域中央時間vTm、領域時間幅vTr、主ピーク始点時間vNs、主ピーク終点時間vNe、及び主ピーク幅vN;
前記凝固加速度に関する波形のプラスピークの複数の演算対象域についての加重平均時間pT、加重平均高さpH、ピーク幅pB、加重平均ピーク幅pW、加重平均高さについてのB扁平率pAB、加重平均高さについてのW扁平率pAW、加重平均時間についてのB時間率pTB、加重平均時間についてのW時間率pTW、主ピーク始点時間pNs、主ピーク終点時間pNe、及び主ピーク幅pN;ならびに、
前記凝固加速度に関する波形のマイナスピークの複数の演算対象域についての加重平均時間mT、加重平均高さmH、ピーク幅mB、加重平均ピーク幅mW、加重平均高さについてのB扁平率mAB、加重平均高さについてのW扁平率mAW、加重平均時間についてのB時間率mTB、加重平均時間についてのW時間率mTW、主ピーク始点時間mNs、主ピーク終点時間mNe、及び主ピーク幅mN、
からなる群より選択される1つ以上を含む、〔2〕記載の分析方法。
〔4〕前記凝固速度に関する波形をF(t)(tは時間)、F(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF(t)≧xを満たす領域であり、前記vT及びvHは下記式で表され、
【数1】
前記vTa、vHa、及びvTmは、F(t)、t1及びt2が前記と同じ定義であり、F(t1)からF(t2)までのデータ点数をnとするとき、それぞれ下記式で表され、
【数2】
前記vBが、前記t1からt2までのF(t)≧xとなる時間長であり、
前記vWが、前記t1からt2までのF(t)≧vHとなる時間長であり、
前記vTs、vTeが、それぞれt1、t2であり、
前記vTrが、vTsからvTeまでの時間長であり、
前記vNsが、該演算対象域中で、F(t)が最大値を示す時間よりも小さく且つF(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記vNeが、該演算対象域中で、F(t)が最大値を示す時間よりも大きく且つF(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記vNが、vNsからvNeまでの時間長であり、
前記vABが、該vHと該vBとの比を表し、
前記vAWが、該vHと該vWとの比を表し、
前記vTBが、該vTと該vBとの比を表し、
前記vTWが、該vTと該vWとの比を表し、
前記vABaが、該vHaと該vBとの比を表し、
前記vAWaが、該vHaと該vWとの比を表す、
〔3〕記載の分析方法。
〔5〕前記凝固加速度に関する波形をF’(t)(tは時間)、F’(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF’(t)≧xを満たす領域であり、前記pT及びpHは下記式で表され、
【数3】
前記pBが、前記t1からt2までのF’(t)≧xとなる時間長であり、
前記pWが、前記t1からt2までのF’(t)≧pHとなる時間長であり、
前記pNsが、該演算対象域中で、F’(t)が最大値を示す時間よりも小さく且つF’(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記pNeが、該演算対象域中で、F’(t)が最大値を示す時間よりも大きく且つF’(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記pNが、pNsからpNeまでの時間長であり、
前記pABが、該pHと該pBとの比を表し、
前記pAWが、該pHと該pWとの比を表し、
前記pTBが、該pTと該pBとの比を表し、
前記pTWが、該pTと該pWとの比を表す、
〔3〕記載の分析方法。
〔6〕前記凝固加速度に関する波形をF’(t)(tは時間)、F’(t)が所定値xである時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、前記演算対象域はF’(t)≦xを満たす領域であり、前記mT及びmHは下記式で表され、
【数4】
前記mBが、前記t1からt2までのF’(t)≦xとなる時間長であり、
前記mWが、前記t1からt2までのF’(t)≦mHとなる時間長であり、
前記mNsが、該演算対象域中で、F’(t)が最小値を示す時間よりも小さく且つF’(t)=xを示す時間のうち、最大の時間であり、
前記mNeが、該演算対象域中で、F’(t)が最小値を示す時間よりも大きく且つF’(t)=xを示す時間のうち、最小の時間であり、
前記mNが、mNsからmNeまでの時間長であり、
前記mABが、該mHと該mBとの比を表し、
前記mAWが、該mHと該mWとの比を表し、
前記mTBが、該mTと該mBとの比を表し、
前記mTWが、該mTと該mWとの比を表す、
〔3〕記載の分析方法。
〔7〕前記所定値xが、前記F(t)の最大値の0.5~99%であるか、前記F’(t)のプラスピークの最大値の0.5~99%であるか、又は前記F’(t)のマイナスピークの最小値の0.5~99%である〔4〕~〔6〕のいずれか1項記載の分析方法。
〔8〕前記複数の演算対象域が5~20個の異なる領域である、〔2〕~〔7〕のいずれか1項記載の分析方法。
〔9〕前記判定が、前記複数のパラメータ群を、複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群と比較することと、該比較の結果に基づいて、前記被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常を判定することとを含み、
該テンプレート血液検体が、該凝固因子の活性レベル又は活性異常の有無が既知である血液検体である、
〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の分析方法。
〔10〕前記比較が、前記被検血液検体についてのパラメータ群と、前記複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群の各々との間での相関を求めることを含む、〔9〕記載の分析方法。
〔11〕前記判定が、前記相関が所定の条件を満たすテンプレート血液検体を選出することと、選出したテンプレート血液検体における前記凝固因子の活性レベル又は活性異常を、前記被検血液検体における凝固因子の活性レベル又は活性異常と判定することを含む、〔10〕記載の分析方法。
〔12〕前記凝固因子が血液凝固第VIII因子または血液凝固第IX因子である、〔1〕~〔11〕のいずれか1項記載の分析方法。
〔13〕前記判定が、前記血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔12〕記載の分析方法。
〔14〕前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔12〕記載の分析方法。
〔15〕前記判定が、Very-Severe Haemophilia A、Modestly-Severe Haemophilia A、中等症又は軽症の血友病A患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔12〕記載の分析方法。
〔16〕前記判定が、前記血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔12〕記載の分析方法。
〔17〕前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔12〕記載の分析方法。
〔18〕血液凝固第VIII因子が異常ではないと判定された被検血液検体における血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常を判定することを含む第2の判定工程をさらに含み、
該第2の判定工程が、該被検血液検体についての前記パラメータ群を、血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常の有無が既知である複数のテンプレート血液検体についての対応するパラメータ群と比較することと、該比較の結果に基づいて、前記被検血液検体における血液凝固第IX因子の活性レベル又は活性異常を判定することとを含む、
〔12〕記載の分析方法。
〔19〕前記判定が、前記血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔18〕記載の分析方法。
〔20〕前記判定が、重症、中等症又は軽症の血友病B患者由来の被検血液検体を判定することを含む、〔18〕記載の分析方法。
〔21〕〔1〕~〔20〕のいずれか1項記載の血液検体の分析方法を行うためのプログラム。
〔22〕〔1〕~〔20〕のいずれか1項記載の血液検体の分析方法を行うための装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凝固反応曲線に由来するパラメータに基づいて、血液検体におけるFVIII又はFIXの活性レベル、又はその活性異常(欠乏等)の有無を分析することができる。本発明は、血友病Aの判定又は血友病Bの判定、あるいは血友病患者の重症度の判定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による血液検体の分析方法の手順の一実施形態。
図2図1に示すデータ解析工程の手順の一実施形態。
図3】凝固反応曲線の一例。
図4】前処理後の凝固反応曲線の一例。
図5】A:凝固反応曲線の一例の部分拡大図、B:前処理後の凝固反応曲線の一例の部分拡大図。
図6】補正0次曲線の一例。
図7】補正1次曲線の一例。
図8】凝固速度に関する波形から算出されるパラメータの概念図。
図9】演算対象域値、解析対象となる補正0次曲線及び補正1次曲線の範囲、ならびに加重平均点について説明するための概念図。
図10】2次曲線から算出されるパラメータの概念図。
図11】vTs、vTe、vTr、vNs、vNe、vNを示す概念図。
図12】加重平均点と、vTs、vTe、vB、vWを示す概念図。点線は、1次曲線の10%演算対象域を示す。
図13】vTa、vHa、vTmを示す概念図。
図14】A:演算対象域値が10%の場合の加重平均点などについて説明するための概念図、B:演算対象域値が80%の場合の加重平均点などについて説明するための概念図。
図15】本発明による血液検体の分析方法を行うための自動分析装置の構成を示す概念図。
図16】パラメータ群A-1についての回帰直線。被検検体(Sample AF)は、FVIII活性が0.2%未満である重症血友病A患者に由来する。各図中、横軸と縦軸の表示には、それぞれテンプレート検体及び被検検体のFVIII活性及びAPTTを示す。
図17】A:図16中で相関係数が最も高かった検体(Template A)との回帰直線。B:被検検体(Sample AF)とTemplate Aの補正1次曲線。
図18】実施例5で用いた被検検体及びテンプレート検体についてのFVIII活性及びAPTTの分布。A:FVIII活性、B:APTT。左:被検検体、右:テンプレート検体。
図19】回帰分析での傾き許容幅及び相関係数閾値が、判定基準1に基づくFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率に与える影響。
図20】回帰分析での傾き許容幅及び相関係数閾値が、判定基準2に基づくFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率に与える影響。
図21】回帰分析での傾き許容幅及び相関係数閾値が、判定基準3に基づくFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率に与える影響。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、血液検体の血液凝固に関連する特性を分析することに関する。以下、血液検体を検体と称する場合がある。より詳細には、本発明は、血液凝固時間が延長した検体における血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又はその活性異常の有無を分析することに関する。好適には、本発明は、凝固第VIII因子(以下、FVIIIとも称する)又は凝固第IX因子(以下、FIXとも称する)の活性レベル、又はその活性異常の有無を分析することに関する。したがって、本発明の一態様は、血液検体の分析方法であり、より詳細には、血液検体における血液凝固時間延長要因成分、好適にはFVIII及び/又はFIXの活性レベル、又はその活性異常の有無を判定する方法である。本発明の方法の手順の一実施形態について、図面を参照して以下に説明する。
【0013】
1.血液検体の分析方法
1.1.方法の概要
本発明による血液検体の分析方法(以下、本発明の方法ともいう)は、被検検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固速度又は凝固加速度に関する波形を取得することと、該凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータを抽出することと、該複数のパラメータに基づいて、該被検検体における血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又は活性異常を判定することとを含む。本発明の方法の一実施形態を、図1を参照して説明する。本方法では、まず被検検体から試料が調製され(ステップ1)、次いで該試料についての凝固反応計測が実行される(ステップ2)。得られた計測データから、該試料について凝固速度又は凝固加速度に関する波形が取得され、次いで波形に対して所定の解析が行われる(ステップ3)。解析で得られたパラメータに基づいて、被検検体の判定(血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又はその活性異常の判定)が行われる(ステップ4)。
【0014】
1.2.試料調製及び凝固反応計測
ステップ1における被検検体からの試料の調製と、ステップ2における該試料についての凝固反応計測について説明する。ここでは、凝固反応計測として、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定を例に挙げて説明するが、それ以外の凝固反応計測(例えばプロトロンビン時間(PT)測定)への変更は、当業者であれば実施可能である。
【0015】
当該被検検体の例としては、血液凝固能に関する検査が要求されている被検者に由来する検体が挙げられ、例えば血液凝固異常を有する検体、又は血液凝固異常が疑われる検体が挙げられ、より詳細には、血液凝固時間が延長した検体、又は血液凝固時間の延長が疑われる検体が挙げられる。好ましくは、該検体としては、被検者の血漿が用いられる。該検体には、凝固検査に通常用いられる周知の抗凝固剤が添加され得る。例えば、クエン酸ナトリウム入り採血管を用いて採血された後、遠心分離されることで血漿が得られる。
【0016】
得られた被検検体は凝固時間測定試薬と混和されて、凝固反応計測のための試料が調製される。該凝固時間測定試薬の例としては、APTT測定のための試薬であればよく、例えば接触因子系の活性化剤とリン脂質とが挙げられる。活性化剤の例としては、エラグ酸、セライト、カオリン、シリカ、ポリフェノール化合物などが挙げられる。リン脂質の例としては、動物由来、植物由来、合成由来のリン脂質などが挙げられる。動物由来のリン脂質の例としては、ウサギ脳由来、ニワトリ由来、ブタ由来のものが挙げられる。植物由来のリン脂質の例としては、大豆由来のものが挙げられる。また、当該試料には、必要に応じて、トリス塩酸等の緩衝液が添加されてもよい。あるいは、該APTT測定のための試薬には、市販のAPTT測定試薬を用いてもよい。市販のAPTT測定試薬の例としては、コアグピア APTT-N(積水メディカル株式会社製)が挙げられる。調製された試料は加温され、該試料中の接触因子は活性化される。加温の際の温度は、例えば30℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上39℃以下である。
【0017】
その後、該被検検体と凝固時間測定試薬とを含む試料に塩化カルシウム液(例えば、コアグピアAPTT-N 塩化カルシウム液;積水メディカル株式会社製)が添加され、血液凝固反応を開始させる。塩化カルシウム液添加後の混合液の凝固反応が計測され得る。凝固反応の計測には、一般的な手段、例えば、散乱光量、透過度、吸光度等を計測する光学的な手段、又は血漿の粘度を計測する力学的な手段などを用いればよい。計測される期間は、例えば、塩化カルシウム液の添加時点から数十秒~5分程度であり得る。計測期間の間、所定の間隔で計測が繰り返し行われ得る。例えば、0.1秒間隔で計測が行われればよい。計測中の反応液の温度は、例えば30℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上39℃以下である。凝固反応の反応開始時間は、典型的には被検検体を含む試料に塩化カルシウム液が添加された時点として定義され得るが、他のタイミングが反応開始時間として定義されてもよい。また、計測の各種条件は、被検検体や試薬、計測手段等に応じて適宜設定され得る。
【0018】
上述の凝固反応計測における一連の操作は、自動分析装置を用いて行われてもよい。自動分析装置の一例として、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)が挙げられる。あるいは、一部の操作が手作業で行われてもよい。例えば、被検検体の調製を人間が行い、それ以降の操作は自動分析装置で行うことができる。
【0019】
1.3.データ解析
1.3.1.データの1次処理及び補正処理
次に、ステップ3のデータ解析について説明する。データ解析のフローを図2に示す。ステップ3でのデータ解析は、ステップ2の凝固反応計測と並行して行われてもよく、又は予め測定した凝固反応計測のデータを用いて、後から行われてもよい。
【0020】
ステップ3aにおいて、上記凝固反応計測での計測データが取得される。このデータは、例えば上述のステップ2でのAPTT測定で得られる試料の凝固反応過程を反映するデータである。例えば、被検検体と凝固時間測定試薬とを含む試料からの、塩化カルシウム液添加後の凝固反応の進行量(例えば散乱光量)の時間変化を示すデータが取得される。これら凝固反応計測で得られたデータを、本明細書において凝固反応情報とも称する。
【0021】
ステップ3aで取得される凝固反応情報の一例を図3に示す。図3は散乱光量に基づく凝固反応曲線であり、横軸は塩化カルシウム液の添加後の経過時間(凝固反応時間)を示し、縦軸は散乱光量を示す。時間経過とともに、混合液の凝固反応が進むため、散乱光量は増加している。本明細書では、このような散乱光量等で示される凝固反応時間に対する凝固反応量の変化を示す曲線を、凝固反応曲線と称する。
【0022】
図3に示すような散乱光量に基づく凝固反応曲線は、通常、シグモイド状である。一方、透過光量に基づく凝固反応曲線は、通常、逆シグモイド状である。以降の本明細書では、凝固反応情報として散乱光量に基づく凝固反応曲線を用いたデータ解析について説明する。凝固反応情報として透過光量や吸光度に基づく凝固反応曲線を用いたデータ解析の場合にも同様の処理が行われ得ることは、当業者に明らかである。あるいは、凝固反応情報として、混合液の粘度変化等の力学的な手段で得られた凝固反応曲線が解析対象にされてもよい。
【0023】
ステップ3bにおいて、凝固反応曲線の前処理が行われる。該前処理には、ノイズを除去するための平滑化処理と、ゼロ点調整とが含まれる。図4は、前処理(平滑化処理及びゼロ点調整)された図3の凝固反応曲線の一例を示す。平滑化処理には、公知のノイズ除去方法の何れかが用いられ得る。また図3に示すように、被検検体を含む混合液は元々光を散乱させるため、測定開始時点(時間0)での散乱光量は0より大きい。平滑化処理後のゼロ点調整により、図4に示すように時間0での散乱光量が0に調整される。図5A及びBは、それぞれ、前処理前及び後の図3の凝固反応曲線の部分拡大図を示す。図5Bでは、図5Aのデータに対して、平滑化処理及びゼロ点調整が行われている。
【0024】
凝固反応曲線の高さは、被検検体のフィブリノゲン濃度に依存する。一方、フィブリノゲン濃度には個人差があるため、該凝固反応曲線の高さは被検検体によって異なる。したがって、本方法では、必要に応じて、ステップ3cにおいて前処理後の凝固反応曲線を相対値化するための補正処理が行われる。該補正処理によって、フィブリノゲン濃度に依存しない凝固反応曲線を得ることができ、それにより検体間での前処理後の凝固反応曲線の形状の差異を定量的に比較することができるようになる。
【0025】
一実施形態において、当該補正処理では、前処理後の凝固反応曲線を、最大値が所定値となるように補正する。好適には、当該補正処理では、下記式(1)に従って、前処理後の凝固反応曲線から補正凝固反応曲線P(t)を求める。式(1)中、D(t)は前処理後の凝固反応曲線を表し、Dmax及びDminは、それぞれD(t)の最大値及び最小値を表し、Drangeは、D(t)の変化幅(すなわちDmax-Dmin)を表し、Aは、補正凝固反応曲線の最大値を表す任意の値である。
P(t)=[(D(t)-Dmin)/Drange]×A (1)
【0026】
一例として、図6に、図4に示す凝固反応曲線が最大値100となるように補正されたデータを示す。なお、図6では補正後の値が0から100までとなるように補正したが、他の値(例えば0から10000まで、すなわち式(1)でA=10000)であってもよい。また、この補正処理は必ずしも行われなくてもよい。
【0027】
あるいは、上述のような補正処理は、後述する凝固速度又は凝固加速度に関する波形、又は該波形から抽出したパラメータ群に対して行われてもよい。例えば、補正処理が行われない前処理後の凝固反応曲線D(t)について凝固速度に関する波形を算出した後、これをP(t)に相当する値に変換することができる。あるいは、該凝固速度に関する波形からパラメータ群を抽出した後、該パラメータ群に含まれる個々のパラメータの値をP(t)に相当する値に変換することができる。
【0028】
本明細書においては、上記のような補正凝固反応曲線、及び補正処理なし凝固反応曲線を、それぞれ補正0次曲線、及び未補正0次曲線ともいい、またこれらを総称して「0次曲線」ともいう。また本明細書においては、該補正0次曲線、及び該未補正0次曲線の1次微分曲線を、それぞれ補正1次曲線、及び未補正1次曲線ともいい、またこれらを総称して「1次曲線」ともいう。また本明細書においては、該補正0次曲線、及び該未補正0次曲線の2次微分曲線、あるいは該補正1次曲線、及び該未補正1次曲線の1次微分曲線を、それぞれ補正2次曲線、及び未補正2次曲線ともいい、またこれらを総称して「2次曲線」ともいう。
【0029】
1.3.2.凝固速度又は凝固加速度に関する波形の算出
ステップ3dでは、凝固速度又は凝固加速度に関する波形が算出される。本明細書において、該凝固速度に関する波形には、未補正1次曲線と、補正1次曲線とが含まれる。未補正1次曲線は、凝固反応曲線(未補正0次曲線)を1次微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の変化率(凝固速度)を表す。補正1次曲線は、補正凝固反応曲線(補正0次曲線)を1次微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の相対変化率を表す。したがって、該凝固速度に関する波形は、試料の凝固反応における凝固速度又はその相対値を表す波形であり得る。本明細書では、1次曲線で表される該凝固速度及びその相対値を含む血液凝固の進行を表す値を、1次微分値と総称する。また本明細書において、該凝固加速度に関する波形には、未補正2次曲線及び補正2次曲線が含まれる。本明細書では、該凝固加速度に関する波形で表される値を、2次微分値と総称する。凝固反応曲線又は補正凝固反応曲線(未補正及び補正0次曲線)の1次微分及び2次微分は、公知の手法を用いて行うことができる。図7は、図6に示す補正0次曲線を一次微分して得られる補正1次曲線を示す。図7の横軸は凝固反応時間を表し、縦軸は1次微分値を表す。
【0030】
1.3.3.パラメータの抽出
ステップ3eでは、当該試料についての凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータの抽出が行われる。一実施形態において、該複数のパラメータは、各々が凝固速度に関する波形を特徴付ける、複数のパラメータを含む。別の一実施形態において、該複数のパラメータは、各々が凝固加速度に関する波形を特徴付ける、複数のパラメータを含む。別の一実施形態においては、該各々が凝固速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータと、該各々が凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータとが、組み合わせて使用される。
【0031】
好ましくは、本発明の方法におけるパラメータの抽出工程においては、該凝固速度又は凝固加速度に関する波形から複数の演算対象域が抽出される一方、これら複数の演算対象域の各々に対して、それを特徴付けるパラメータが抽出される。結果、該凝固速度又は凝固加速度に関する波形についての複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータが抽出される。したがって、本発明で抽出される、該凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付ける複数のパラメータは、該凝固速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、該凝固加速度に関する波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含むか、又はそれらの組み合わせを含む。本発明の方法においては、得られた該複数のパラメータを含むパラメータ群が作成される。該パラメータ群は、該凝固速度又は凝固加速度に関する波形の形状を反映し、検体の血液凝固特性と関連する。該パラメータ群は、被検検体の判定(ステップ4)に用いられる。該パラメータについて以下に説明する。
【0032】
1.3.3.2.演算対象域の抽出
本発明の方法におけるパラメータの抽出に関し、凝固速度又は凝固加速度に関する波形から複数の演算対象域を抽出する手順を説明する。
【0033】
演算対象域と、それを特徴付けるパラメータについて、以下に、凝固速度に関する波形を例として説明する。該演算対象域は、凝固速度に関する波形(1次曲線)における、1次微分値(y値)が所定の演算対象域値以上である領域(セグメント)である。より詳細には、該演算対象域は、凝固速度に関する波形における、1次微分値(y値)が所定の演算対象域値以上且つ最大値(Vmax)以下であり、且つ該波形の最大点を含む領域(セグメント)である。演算対象域値は、演算対象域の下限を指定する所定値であり、本明細書において演算対象域値Sとも称される。演算対象域値Sは、凝固速度に関する波形のピーク形状を反映する範囲を限定するために設定され得る。ピーク形状を相対的に広く限定するためには、演算対象域値SはVmaxの0%~20%に設定され得る。一方、演算対象域値Sを大きくするとピークの上部形状の影響が相対的に大きく解析結果に反映される。ピーク上部の形状を解析するためには、演算対象域値SはVmaxの20%~95%に設定され得る。一実施形態において、演算対象域値SはVmaxの0.5~99%、好ましくは5~90%に設定され得る。
【0034】
本発明の方法では、複数の異なる演算対象域値Sに基づいて複数の演算対象域を抽出する。本発明の方法において抽出される演算対象域の数は、必ずしも限定されないが、数が少ない場合、血液検体の判定の精度が低下することがあり、一方、数が多すぎると、計算量が増大して演算負荷が高くなる。該複数の演算対象域は、好ましくは3つ以上の異なる領域であり、より好ましくは5つ以上の異なる領域であり、さらに好ましくは3~100個の異なる領域であり、さらに好ましくは5~20個の異なる領域である。演算対象域値Sの数は、演算対象域の数に対応する。各演算対象域の抽出のための演算対象域値Sは互いに異なる。分析精度の観点からは、各Sは近接していないことが好ましい。各Sの間隔は、演算対象域の数に応じて設定すればよいが、好ましくはVmaxの1/100以上1/2以下、より好ましくはVmaxの1/33以上1/5以下、さらに好ましくはVmaxの1/20以上1/5以下、さらに好ましくはVmaxの1/20以上1/10以下である。Vmaxと各Sの間隔は、同じであっても異なっていてもよい。演算対象域値Sはまた、2次曲線にも適用され得る。2次曲線は、プラス方向及びマイナス方向の双方にピークを有し得る。演算対象域値Sは、2次曲線のプラスピーク及びマイナスピークのそれぞれに対して設定され得る。一実施形態において、演算対象域値Sは2次曲線のプラスピークの最大値の0.5~99%、好ましくは5~90%に設定され得る。別の一実施形態において、演算対象域値Sは2次曲線のマイナスピークの最小値の0.5~99%、好ましくは5~90%に設定され得る。
【0035】
1.3.3.3.加重平均点
演算対象域、及び該演算対象域の加重平均点について、図8を参照して説明する。図8には、補正1次曲線F(t)(t=時間)が示されている。また図8には、F(t)の最大値Vmax、ならびに下記に説明するパラメータである、演算対象域値SがVmaxのx%であるときの加重平均点(vTx, vHx)、及び演算対象域のピーク幅を表すvBが表示されている。演算対象域は、F(t)の値が演算対象域値S以上且つ1次微分値の最大値Vmax以下(F(t)≧S(S=x%)である)領域である。加重平均点(vTx, vHx)は、F(t)の演算対象域の「重み付き平均値」に相当する。
【0036】
該加重平均点での凝固反応時間(t)を加重平均時間vTとする。すなわち、加重平均時間vTは、凝固反応開始時間から加重平均点までの時間であり、加重平均点のx座標である。加重平均高さvHは、加重平均点のy座標である。
【0037】
1次曲線についての加重平均時間vTと加重平均高さvHは、以下の手順で求めることができる。まず、1次曲線F(t)の最大値がVmax、演算対象域値がSであり、F(t)≧Vmax×S×0.01を満たす時間tのデータ群をt[t1, …t2]とする(t1<t2)。すなわち、F(t1)=Vmax×S×0.01、F(t2)=Vmax×S×0.01、時刻t1~t2のデータ群がt[t1, …t2](t1<t2)である。このとき、積和値Mを下記式(2)により求める。
【0038】
【数5】
【0039】
加重平均時間vT及び加重平均高さvHは、それぞれ次式(3)及び(4)で算出される。求めたvTとvHから、加重平均点(vTx, vHx)が導かれる。
【0040】
【数6】
【0041】
本明細書においては、異なる演算対象域に由来するvT及びvHを識別するため、それが由来する演算対象域値S(S=x%)に従って、それぞれvTx及びvHxと称することがある。例えば、Sが5%である演算対象域のvT及びvHは、vT5%及びvH5%である。これら加重平均時間vTx及び加重平均高さvHxは、演算対象域を特徴付けるパラメータとして用いられ得る。なお、上記のF(t1)=Vmax×S×0.01、F(t2)=Vmax×S×0.01を満たすt1及びt2(t1<t2)もパラメータとなり得、以下、該1次曲線に関するt1及びt2を、それぞれ領域始点時間vTs、及び領域終点時間vTe(vTs<vTe)と呼ぶことがある。これらも演算対象域値S(S=x%)に従って、それぞれvTsx及びvTexと称されることがある。
【0042】
図9に、演算対象域値Sと、その際の解析対象となる補正0次曲線及び補正1次曲線の領域(演算対象域)と、加重平均点との関係を示す。図9において、上段、中段、及び下段は、演算対象域値SがそれぞれVmax(=100%)の10%、50%及び80%の場合を示す。左は補正0次曲線を示し、右は補正1次曲線の演算対象域を示し、黒丸印は加重平均点を示す。演算対象域値Sの変化に伴って、演算対象域及び加重平均点の位置は、図9に示すように変化する。上述の説明では、図8、9のとおり、補正1次曲線の演算対象域に関するパラメータを算出したが、未補正1次曲線でも同様のパラメータが算出され得る。
【0043】
同様に、2次曲線についても、加重平均点、加重平均時間、及び加重平均高さが定義され得る。2次曲線は、図10に示すように2次微分値のプラス方向及びマイナス方向の双方にピークを有する。そのため、2次曲線の加重平均点は、プラスピーク及びマイナスピークの両方に対して算出され得る。例えば、プラスピークについては、2次曲線A=F'(t)の最大値がAmaxであり、演算対象域値がS(%)のとき、F'(t)≧Amax×S×0.01を満たす時間t[t1, …, t2](t1<t2)を求め、上式(2)'~(4)'に従って、プラスピークの加重平均時間pT、及び加重平均高さpHを算出する。マイナスピークについては、2次曲線A=F'(t)の最小値がAminであり、演算対象域値がS(%)のとき、F'(t)≦Amin×S×0.01を満たす時間t[t1, …, t2](t1<t2)を求め、上式(2)'、(3)“及び(4)”に従って、マイナスピークの加重平均時間mT、及び加重平均高さmHを算出する。演算対象域値Sの変化に伴って、加重平均点の位置は変化する。
【0044】
【数7】
【0045】
1.3.3.4.ピーク幅、平均点、扁平率及び時間率
反応時間が加重平均時間vTより短い領域において1次微分値が演算対象域値S以上となる最少の反応時間から、反応時間が加重平均時間vTより長い領域において1次微分値が演算対象域値S以上となる最大の反応時間までの時間のうち、1次曲線F(t)≧Sとなる時間長(F(t)≧Sとなるデータ点数に測光時間間隔を乗じて得られた値)を、1次曲線のピーク幅vBとする。図8に示す例では、時間vTsから時間vTeまでがピーク幅vBとなる。同様に、2次曲線F’(t)のプラスピークにおける2次微分値が演算対象域値S以上となる反応時間の最小値及び最大値はそれぞれpTs、pTeであり、pTsからpTeまでの時間のうち、F’(t)≧Sとなる時間長(F’(t)≧Sとなるデータ点数に測光時間間隔を乗じて得られた値)を2次曲線のプラスピークのピーク幅pBとする。同様に、2次曲線F’(t)のマイナスピークにおける2次微分値が演算対象域値S以下となる反応時間の最小値及び最大値はそれぞれmTs、mTeであり、mTsからmTeまでの時間のうち、F’(t)≦Sとなる時間長(F’(t)≦Sとなるデータ点数に測光時間間隔を乗じて得られた値)を2次曲線のマイナスピークのピーク幅mBとする。
【0046】
本発明で用いられるパラメータのさらなる例としては、領域時間幅vTrが挙げられる。vTrは、vTsからvTeまでの幅(時間長)である。1次曲線の演算対象域が単峰性のピークである場合、vTr=vBであるが、1次曲線がF(t)<Sとなる谷を含む複峰性である場合、vTr>vBである。本発明で用いられるパラメータのさらなる例としては、主ピーク始点時間vNs、主ピーク終点時間vNe、及び主ピーク幅vNが挙げられる。vNs、vNeは、1次曲線の演算対象域中の最大値Vmaxを含む主ピークについてのパラメータであり、上述のvTs、vTe等と比べて、凝固反応曲線に含まれ得るノイズの影響を受けにくいパラメータである。vNsは、1次曲線F(t)の演算対象域中で、最大値Vmaxを示す時間(後述するVmaxT)よりも小さく且つF(t)=Sを示す時間のうち、最大の時間である。vNeは、1次曲線F(t)の演算対象域中で、VmaxTよりも大きく且つF(t)=Sを示す時間のうち、最小の時間である。演算対象域が単峰性のピークである場合、vNs及びvNeは、それぞれvTs及びvTeと同じ値である。vNは、vNsからvNeまでの幅(時間長)である。同様に、2次曲線F’(t)のプラスピーク及びマイナスピークについて、同様にpNs、pNe、pN、及びmNs、mNe、mNを定義することができる。図11にvTs、vTe、vTr、vNs、vNe、vNを示す。
【0047】
本発明で用いられるパラメータのさらなる例としては、加重平均ピーク幅vWが挙げられる。図12は、演算対象域値Sが10%のときの1次曲線の演算対象域(点線)を示す。図12の上には加重平均点(vT, vH)(黒丸印)、vTs、vTeが、図12の下には、vB、vWが示されている。図12に示すとおり、vWは、1次曲線F(t)≧vHを満たすピーク幅(F(t)≧vHを満たす最小時間から最大時間までの間で、F(t)≧vHとなる時間長)である。未補正1次曲線でも同様のパラメータが算出され得る。同様に、2次曲線のプラスピークについては、F'(t)≧pHを満たすピーク幅を加重平均ピーク幅pWとする。2次曲線のマイナスピークについては、F'(t)≦mHを満たす凝固反応時間の幅を加重平均ピーク幅mWとする。
【0048】
本発明で用いられるパラメータのさらなる例としては、平均時間vTa、平均高さvHa、及び領域中央時間vTmが挙げられる。図13には、演算対象域値Sが10%のときの1次曲線の平均点(vTa, vHa)(白菱印)、加重平均点(vT, vH)(黒丸印)、vTs、vTe、及びvTmが示されている。vTa、vHa、及びvTmは、F(vTs)からF(vTe)までのデータ点数をnとしたときにそれぞれ以下の式で表される。
【0049】
【数8】
【0050】
同様に2次曲線についても、式(7)を参考に、pTsとpTeの中央点であるpTm、mTsとmTeの中央点であるmTmを求めることができる。
【0051】
本発明で用いられる1次曲線についてのパラメータとして、加重平均高さvH、平均高さvHa、ピーク幅vB、及び加重平均ピーク幅vWを用いて、ピーク幅に基づく扁平率vAB、vABa、及び加重平均ピーク幅に基づく扁平率vAW、vAWaを下記式(8a)、(8b)、(8c)、(8d)のように定義する。
vAB=vH/vB (8a)
vAW=vH/vW (8b)
vABa=vHa/vB (8c)
vAWa=vHa/vW (8d)
【0052】
また、1次曲線についてのパラメータとして、加重平均時間vT、ピーク幅vB、及び加重平均ピーク幅vWを用いて、ピーク幅に基づく時間率vTB及び加重平均ピーク幅に基づく時間率vTWを下記式(9a)、(9b)のように定義する。
vTB=vT/vB (9a)
vTW=vT/vW (9b)
【0053】
なお、扁平率は、vAB=vB/vH、vAW=vW/vHであってもよく、またvABa=vB/vHa、vAWa=vW/vHaであってもよい。すなわち、扁平率は、加重平均高さvT又は平均高さvHaと、ピーク幅vB又はvWとの比であればよい。同様に、時間率は、vTB=vB/vT、vTW=vW/vTであってもよい。すなわち、時間率は、加重平均時間vTとピーク幅vB又はvWとの比であればよい。また、これら比に定数Kを乗じてもよい。すなわち、例えば、扁平率は、vAB=(vH/vB)K、vAB=(vB/vH)K、vAW=(vH/vW)K、又はvAW=(vW/vH)Kであってもよく、又は、vABa=(vHa/vB)K、vABa=(vB/vHa)K、vAWa=(vHa/vW)K、又はvAWa=(vW/vHa)Kであってもよく、時間率は、vTB=(vT/vB)K、vTB=(vB/vT)K、vTW=(vT/vW)K、又はvTW=(vW/vT)Kであってもよい。
【0054】
また、上記のような扁平率及び時間率は、2次曲線についても求めることができる。例えば、2次曲線のプラスピークについて、pHと、pB又はpWとの比として、ピーク幅に基づく扁平率pAB又は加重平均ピーク幅に基づく扁平率pAWを求めることができ、一方、pTと、pB又はpWとの比として、ピーク幅に基づく時間率pTB又は加重平均ピーク幅に基づく時間率pTWを求めることができる。同様に、2次曲線のマイナスピークについて、mHと、mB又はmWとの比として、ピーク幅に基づく扁平率mAB又は加重平均ピーク幅に基づく扁平率mAWを求めることができ、一方、mTと、mB又はmWとの比として、ピーク幅に基づく時間率mTB又は加重平均ピーク幅に基づく時間率mTWを求めることができる。
【0055】
以上のような、ピーク幅vB、pB、mB、加重平均ピーク幅vW、pW、mW、平均時間vTa、平均高さvHa、領域始点時間vTs、pTs、mTs、領域終点時間vTe、pTe、mTe、領域中央時間vTm、pTm、mTm、領域時間幅vTr、主ピーク始点時間vNs、pNs、mNs、主ピーク終点時間vNe、pNe、mNe、主ピーク幅vN、pN、mN、扁平率vAB、vAW、vABa、vAWa、pAB、pAW、mAB、mAW、及び時間率vTB、vTW、pTW、pAW、mTB、mTWも1次曲線の演算対象域を特徴付けるパラメータになり得る。
【0056】
本明細書においては、異なる演算対象域に由来するパラメータを識別するため、各パラメータに、それが由来する演算対象域値Sを付けて表示することがある。例えば、Sがx(%)のときの1次曲線の演算対象域を特徴付けるパラメータは、vHx、vTx、vBx、vWxなどと称されることがある。例えば、Sが10%のときの1次曲線の加重平均点に関係するパラメータvH、vT、vB、vW、vTa、vHa、vTs、vTe、vTm、vTr、vNs、vNe、vN、vAB、vAW、vABa、vAWa、vTB、vTWは、それぞれvH10%、vT10%、vB10%、vW10%、vTa10%、vHa10%、vTs10%、vTe10%、vTm10%、vTr10%、vNs10%、vNe10%、vN10%、vAB10%、vAW10%、vABa10%、vAWa10%、vTB10%、vTW10%と称されることがある。2次曲線の演算対象域を特徴付けるパラメータについても同様である。
【0057】
図14A及び図14Bは、同一の1次曲線に関して、演算対象域値Sが異なる場合のパラメータを示す。図13Aは、演算対象域値Sが10%の場合を示し、図13Bは、演算対象域値Sが80%の場合を示す。演算対象域値Sが10%の図13Aの場合には、1次曲線の加重平均高さvH10%は0.4であり、加重平均時間vT10%は149秒であり、ピーク幅vB10%は200秒である。これに対して、演算対象域値Sが80%の図13Bの場合には、加重平均高さvH80%は0.72であり、加重平均時間vT80%は119秒であり、ピーク幅vB80%は78秒である。
【0058】
1.3.3.5.その他
本発明で用いられる該演算対象域を特徴付けるパラメータのさらなる例としては、1次曲線又は2次曲線の演算対象域における曲線下面積(AUC)が挙げられる。2次曲線はプラスピークとマイナスピークを有するため、演算対象域における曲線下面積(AUC)は、プラスピークについての演算対象域におけるAUC(pAUC)とマイナスピークの演算対象域におけるAUC(mAUC)があり得る。本明細書においては、異なる演算対象域に由来するAUCを識別するため、それが由来する演算対象域値Sに従って、AUCxと称することがある。例えば、Sが5%である演算対象域のvAUC、pAUC、及びmAUCは、それぞれvAUC5%、pAUC5%、及びmAUC5%である。
【0059】
さらに、上述の演算対象域を特徴付けるパラメータ以外のさらなるパラメータが、本発明による凝固因子の活性レベル又は活性異常の判定のためのパラメータに含まれ得る。該パラメータの例としては、最大1次微分値Vmax、最大2次微分値Amax、最小2次微分値Amin、及びそれらに到達する時間を表すVmaxT、AmaxT、AminTなどが挙げられる。
【0060】
上述した一連のパラメータは、補正処理済み凝固反応曲線(補正0次~2次曲線)由来のパラメータと、補正処理なし凝固反応曲線(未補正0次~2曲線)由来のパラメータとを含み得る。
【0061】
以上、散乱光量に基づく凝固反応曲線に基づいて、凝固速度又は凝固加速度に関する波形を特徴付けるパラメータについて説明した。一方、他の凝固計測手段(例えば透過光量や吸光度)に基づく凝固反応曲線から同等のパラメータが取得できることは、当業者に明らかである。例えば、透過光量に基づくような逆シグモイド状の凝固反応曲線から得られる1次曲線F(t)は、上述した散乱光量に基づくものに対して正負が逆になる。このような場合に、パラメータの計算においてF(t)の符号が逆転すること、例えば、最大値Vmaxは最小値Vminに置き換えられ、演算対象域はF(t)≦Sを満たす領域であり、vB及びvWがそれぞれt1からt2までのF(t)≦x及びF(t)≦vHとなる時間長であること等は、当業者に明らかである。
【0062】
1.4.検体の判定
ステップ4で行われる判定の一例について説明する。
【0063】
1.4.1.パラメータ群の作成
上記のとおり、凝固速度又は凝固加速度に関する波形の演算対象域の各々について、該演算対象域を特徴付けるパラメータが抽出される。該演算対象域を特徴付けるパラメータとしては、後述する表Aに示す、1次曲線の加重平均点に関係するパラメータ(加重平均時間vT、加重平均高さvH、平均時間vTa、平均高さvHa、ピーク幅vB、加重平均ピーク幅vW、それらから求められた扁平率vAB、vAW、vABa、vAWa、及び時間率vTB、vTW、ならびにvAUC、vTs、vTe、vTr、vTm、vNs、vNe、vN)、2次曲線の加重平均点に関係するパラメータ(加重平均時間pT、mT、加重平均高さpH、mH、ピーク幅pB、mB、加重平均ピーク幅pW、mW、それらから求められた扁平率pAB、pAW、mAB、mAW及び時間率pTB、pTW、mTB、mTW、ならびにpAUC、mAUC、pNs、pNe、pN、mNs、mNe、mN、pTs、pTe、pTm、mTs、mTe、mTm、)が挙げられる。本発明においては、これらのパラメータのいずれか1つ以上が抽出されればよいが、これらの2つ以上を含むパラメータセットが抽出されてもよい。例えば、該パラメータは、vT、vH、vB、vAB及びvTBからなる群より選択される少なくとも1つであればよいが、これらの2つ以上を含むパラメータセットであってもよい。好ましい一実施形態において、該パラメータは、vT、vH、vB、vAB及びvTBを含むパラメータセットである。別の好ましい一実施形態において、該パラメータは、vB、vAB及びvTBを含むパラメータセットである。別の好ましい一実施形態において、該パラメータは、vB及びvABを含むパラメータセットである。別の好ましい一実施形態において、該パラメータは、pH、pAB、又はvHである。別の好ましい一実施形態において、該パラメータは、pABとpNeのパラメータセット、pTWとvTのパラメータセット、pTBとvABaのパラメータセット、pABとvNsのパラメータセット、又はpTWとvTsとvWのパラメータセットである。但し、本発明の方法で用いられる各演算対象域を特徴付けるパラメータの構成は、これらの実施形態に限定されない。
【0064】
好ましくは、本発明の方法において被検検体の判定に用いられる複数のパラメータ(パラメータ群)は、1つの波形の複数の演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータを含む。いいかえると、該パラメータ群は、1つの波形の複数の演算対象域からそれぞれ抽出された、複数のパラメータの集合である。好ましくは、該パラメータ群は、1つの波形(1次曲線又は2次曲線)の異なる演算対象域から抽出された同種のパラメータのセットを1つ以上含む。例えば、演算対象域がL個抽出されており、採用するパラメータがvHxである場合、該パラメータ群は、L個のvHxから構成される。例えば、10個の演算対象域値S(5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%)に基づく10個の演算対象域が抽出され、各演算対象域からパラメータvHxを抽出した場合、パラメータ群は10個のvHxの集合[vH5%, vH10%, vH20%, vH30%, vH40%, vH50%, vH60%, vH70%, vH80%, vH90%]である。また例えば、5個の演算対象域値S(5%、20%、40%、60%及び80%)に基づく5個の演算対象域が抽出され、各演算対象域からパラメータvHxを抽出した場合、パラメータ群は5個のvHxの集合[vH5%, vH20%, vH40%, vH60%, vH80%]である。同様に、演算対象域がM個抽出されており、採用するパラメータがvBx、vABx及びvTBxである場合、該パラメータ群は、Mセット分の[vBx, vABx, vTBx]から構成される。あるいは、演算対象域がN個抽出されており、採用するパラメータがvTx、vHx、vBx、vABx及びvTBxである場合、該パラメータ群は、Nセット分の[vTx, vHx, vBx, vABx, vTBx]から構成される。
【0065】
さらに、該演算対象域をそれぞれ特徴付ける複数のパラメータと、その他のパラメータを組み合わせてもよい。例えば、後述する表Aに示す最大1次微分値Vmax、最大2次微分値Amax、最小2次微分値Amin、及びそれらに到達する時間を表すVmaxT、AmaxT、AminTからなる群より選択される少なくとも1つを、上記の演算対象域を特徴付ける複数のパラメータと組み合わせてもよい。
【0066】
1.4.2.標的血液凝固時間延長要因成分
本発明の方法で活性レベル又は活性異常が判定される標的の血液凝固時間延長要因成分としては、血液凝固時間の延長をもたらす内因性又は外因性の任意の凝固反応関与成分が挙げられる。好ましくは、該標的の血液凝固時間延長要因成分は凝固因子である。該凝固因子は、好ましくはFVIII及びFIXを含む凝固因子から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは少なくともFVIIIである。FVIIIとFIXを共に標的としてもよい。
【0067】
1.4.3.テンプレート検体
本発明の方法では、上述した被検検体の凝固速度又は凝固加速度に関する波形の複数の演算対象域からそれぞれ抽出された複数のパラメータを含むパラメータ群(以下、被検パラメータ群という)を、テンプレート血液検体(以下、単にテンプレート検体とも称する)についての対応するパラメータ群(本明細書において、テンプレートパラメータ群とも称する)と比較する。該比較の結果に基づいて、被検検体の凝固特性、好ましくは被検検体における血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又は活性異常が判定される。好ましくは、本発明では、1つ以上のテンプレート検体が準備される。該テンプレート検体は、本発明の方法における標的の血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又は活性異常の有無が既知の血液検体である。
【0068】
例えば、FVIIIについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FVIIIの活性レベルが異常でない血液検体(FVIII正常検体)を1つ以上と、FVIIIの活性レベルが異常である血液検体(FVIII異常検体、例えばFVIII欠乏検体)を1つ以上含む。例えば、FIXについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FIXの活性レベルが異常でない血液検体(FIX正常検体)を1つ以上と、FIXの活性レベルが異常である血液検体(FIX異常検体、例えばFIX欠乏検体)を1つ以上含む。例えば、FVIII及びFIXについて評価する場合、該1つ以上のテンプレート検体は、FVIIIもFIXも活性レベルが異常でない血液検体(FVIII/FIX正常検体)を1つ以上と、FVIIIの活性レベルが異常である血液検体(FVIII異常検体、例えばFVIII欠乏検体)を1つ以上と、FIXの活性レベルが異常である血液検体(FIX異常検体、例えばFIX欠乏検体)を1つ以上とを含む。
【0069】
好ましくは、該FVIII異常検体は、重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の血液検体を含む。好ましくは、該重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の血液検体は、それぞれ、FVIII活性が、1%未満、1%以上5%未満、及び5%以上40%未満(正常者の活性を100%としたときの値、以下同じ)である血液検体である。より詳細な解析を求める場合、必要に応じて、FVIII活性レベルが異なる重症血友病A患者由来の検体を複数準備してもよい。例えば、FVIII活性が0.2%以上1%未満のModestly-Severe Haemophilia A(MS-HA)患者由来の検体と、FVIII活性が0.2%未満のVery-Severe Haemophilia A(VS-HA)患者由来の検体を準備してもよい。近年、重症血友病A患者の中でも特にFVIII活性が低いVS-HAの患者(FVIII活性0.2%未満)と、そうでないMS-HAの患者(FVIII活性0.2%以上1%未満)では、臨床的な重症度に差があることが報告されている(松本 智子,嶋 緑倫,凝固波形解析と第VIII因子微量測定への応用,2003年,14巻2号,p.122-127)。VS-HAの患者を鑑別することは、患者に適切な治療を施すために有用である。
【0070】
同様に、該FIX異常検体は、好ましくは重症、中等症及び軽症の血友病B患者由来の血液検体を含む。好ましくは、該重症、中等症及び軽症の血友病B患者由来の検体は、それぞれ、FIX活性が1%未満、1%以上5%未満、及び5%以上40%未満(正常者の活性を100%としたときの値、以下同じ)である検体である。より詳細な解析を実施する場合、必要に応じて、FIX活性レベルが異なる重症血友病B患者由来の検体を複数準備してもよい。例えば、FIX活性が0.2%以上1%未満の検体と、FIX活性が0.2%未満の検体を準備してもよい。
【0071】
1.4.4.回帰分析
本発明の方法においては、被検パラメータ群と、各テンプレート検体由来のテンプレートパラメータ群それぞれとの間で、対応するパラメータの回帰分析を行う。
【0072】
回帰分析に用いられるテンプレートパラメータ群は、各テンプレート検体に対して上記1.3.で述べたデータ解析を行うことによって得られたものである。このデータ解析において、抽出する演算対象域の数、及び複数の演算対象域の抽出に用いる一連の演算対象域値Sは、被検検体のデータ解析と同じ値に設定する。またテンプレートパラメータ群に含まれるパラメータの種類は、被検パラメータ群と同様にする。例えば、被検パラメータ群がL個のvHxであれば、テンプレート検体についてのテンプレートパラメータ群もL個のvHxである。また例えば、被検パラメータ群がMセット分の[vBx, vABx, vTBx]であれば、テンプレート検体についてのテンプレートパラメータ群もMセット分の[vBx, vABx, vTBx]である。また例えば、被検パラメータ群がNセット分の[vTx, vHx, vBx, vABx, vTBx]であれば、テンプレート検体についてのテンプレートパラメータ群もNセット分の[vTx, vHx, vBx, vABx, vTBx]である。したがって、テンプレートパラメータ群は、被検パラメータ群に対応する、テンプレート検体についてのパラメータ群である。すなわち、各テンプレートパラメータ群に含まれる個々のパラメータは、被検パラメータ群に含まれる個々のパラメータと相互に対応する。なお本明細書において、テンプレートパラメータ群のパラメータが、被検パラメータ群のパラメータと対応する場合、該テンプレートパラメータ群のパラメータと、該被検パラメータ群のパラメータは同じ種類のパラメータである。例えば、被検パラメータ群のvTx、vHx、vBx、vABx及びvTBxと、テンプレートパラメータ群のvTx、vHx、vBx、vABx及びvTBx(xは所定値)は、それぞれ対応する。被検パラメータ群の全てのパラメータと各々対応するパラメータからなるテンプレートパラメータ群は、該被検パラメータ群に対応している。
【0073】
該テンプレートパラメータ群は、予め取得しておくことが望ましい。また、各テンプレートパラメータ群は、複数のテンプレート検体から得たパラメータ群を加工して得られた合成パラメータ群であってもよい。例えば、標的血液凝固時間延長要因成分の活性レベルが同等である複数のテンプレート検体についてパラメータ群を取得し、それらを統計処理することによって、標準テンプレート検体を表す合成パラメータ群を1つ以上作成してもよい。
【0074】
回帰分析の手法は、特に限定されず、例えば最小二乗法による直線回帰が挙げられる。例えば、被検パラメータ群中の各パラメータの値をy軸とし、いずれか1つのテンプレートパラメータ群中の対応するパラメータの値をx軸としてプロットし、回帰直線を求める。該回帰直線の傾き、切片や相関性(相関係数、決定係数等)などに基づいて被検パラメータ群と、各テンプレートパラメータ群との相関性を調べる。被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との相関性は、被検検体と、該テンプレートパラメータ群が由来するテンプレート検体との間での凝固特性の相関性(近似状態)を反映する。
【0075】
1.4.5.血液凝固特性の判定
次いで、回帰分析の結果に基づいて、被検検体における凝固特性を判定する。好ましくは、該凝固特性の判定は、標的の血液凝固時間延長要因成分の活性レベル、又はその活性異常についての判定である。以下、標的の血液凝固時間延長要因成分がFVIIIである場合を例にして、判定の手順を説明する。FIX等の他の因子についても同様の手順による判定を行えばよい。
【0076】
上記回帰分析で求めた被検検体と1つ以上のテンプレート検体との相関性に基づいて、被検検体のFVIII活性レベルや、活性異常(欠乏等)を判定する。好ましくは、該相関性は、回帰直線の相関性(例えば傾き、切片、相関係数、決定係数等)である。
【0077】
該相関性に基づく被検検体のFVIII活性レベル又は活性異常の判定の一実施形態について、以下に説明する。テンプレート検体は、1つ以上のFVIII正常検体と、FVIII活性レベルが様々に異なる1つ以上のFVIII異常検体とを含む。好ましくは、テンプレート検体は、1つ以上のFVIII正常検体と、重症(必要に応じてVS-HA及びMS-HA)、中等症及び軽症の血友病A患者由来のFVIII異常検体をそれぞれ1つ以上含む。回帰分析に用いた全てのテンプレート検体の中から、被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との相関性が所定の条件を満たす、少なくとも1つの検体を選出する。
【0078】
一実施形態においては、当該相関性が予め設定した閾値以上であるテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、当該相関性が予め設定した閾値以上であり、且つ当該相関性が最も高いテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が選出される。別の一実施形態においては、被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が選出される。一方、該所定の条件を満たすテンプレート検体が選出されなかった場合は、該所定の条件を変更して再度テンプレート検体の選出を行ってもよく、あるいは「テンプレート検体選出なし」と評価してもよい。
【0079】
好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が選出される。選出されたテンプレート検体の中から、該回帰の相関係数が最も高いテンプレート検体が選出される。該所定の条件を満たすテンプレート検体が複数選出された場合は、その中から、さらなる基準に基づいて1つのテンプレート検体を選出してもよい。
次いで、該選出されたテンプレート検体におけるFVIIIの状態(すなわち、FVIIIの活性レベル又は活性異常)を、該被検検体におけるFVIIIの状態と判定する。複数のテンプレート検体が選出された場合は、被検検体におけるFVIIIの状態が、該複数のテンプレート検体における状態のいずれかに相当すると判定してもよく、又は、該複数のテンプレート検体についての平均的な状態を、被検検体におけるFVIIIの状態と判定してもよい。
例えば、選出されたテンプレート検体がFVIII正常検体であれば、該被検検体におけるFVIIIの状態は異常なしと判定され得、一方、選出されたテンプレート検体がFVIII異常検体であれば、該被検検体はFVIII活性の異常を有すると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体が重症、中等症、及び軽症の血友病A患者由来の検体であれば、該被検検体はそれぞれ、重症、中等症、及び軽症の血友病Aであると判定され得る。さらに、テンプレート検体がVS-HA及びMS-HAの重症血友病A患者由来の検体を含む場合に、VS-HA又はMS-HA患者由来のテンプレート検体が選出されれば、該被検検体はVS-HA又はMS-HAであると判定され得る。あるいは、該被検検体におけるFVIII活性レベルを判定する場合、選出されたテンプレート検体のFVIII活性レベルが、該被検検体におけるFVIII活性レベルとして判定され得る。
一方、テンプレート検体が重症、中等症及び軽症の血友病A患者由来の検体を含み、且つ上記相関性の評価で「テンプレート検体選出なし」であれば、該被検検体は「FVIII活性異常を有さない」、又は被検検体の「血液凝固時間の延長要因がFVIII活性異常によるものではない」と判定され得る。
【0080】
別の好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が全て選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が全て選出される。選出されたテンプレート検体の間で最も高頻度に見出されるFVIIIの状態(すなわち、FVIIIの活性レベル又は活性異常)を、該被検検体におけるFVIIIの状態と判定する。
例えば、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII正常検体の数が最も多ければ、該被検検体におけるFVIIIの状態は異常なしと判定され得る。一方、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII異常検体の数が最も多ければ、該被検検体はFVIII活性の異常を有すると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかで重症、中等症、及び軽症の血友病A患者由来の検体が最も多いとき、該被検検体はそれぞれ、重症、中等症、及び軽症の血友病Aであると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかでVS-HA及びMS-HAの重症血友病A患者由来の検体が最も多いとき、該被検検体はそれぞれ、VS-HA及びMS-HAであると判定され得る。また例えば、選出されたテンプレート検体のなかでFVIII異常でない血液凝固時間延長検体が最も多いとき、該被検検体は、血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外の異常検体と判定され得る。あるいは、該被検検体におけるFVIII活性レベルを判定する場合、選出されたテンプレート検体の中で最も高頻度に見出されるFVIII活性レベルが、該被検検体におけるFVIII活性レベルとして判定され得る。
【0081】
別の好ましい一実施形態においては、当該回帰直線の傾きが所定範囲内(例えば0.70以上1.30以下、好ましくは0.75以上1.25以下、より好ましくは0.80以上1.20以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下、さらに好ましくは0.87以上1.13以下)であるテンプレート検体が全て選出される。好ましくは該回帰直線の傾きが上記の所定範囲内であり、且つ該回帰直線の相関係数が所定値以上(例えば0.75より大きい、好ましくは0.80より大きい、より好ましくは0.85より大きい、さらに好ましくは0.90より大きい)であるテンプレート検体が全て選出される。
選出されたテンプレート検体を、FVIII活性レベルに従って、FVIII活性の低い血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)由来の検体と、それ以外の検体に分ける。前者の数が後者の数より多い場合、前者の検体のなかで最も多く見られる重症度(重症、中等症、及び軽症のいずれか)を、該被検検体の状態と判定する。異なる重症度の検体が同数存在する場合には、より重症な方を該被検検体の状態と判定してもよく、又は該所定の条件を変更して再度テンプレート検体の選出を行ってもよい。一方、後者の数が前者の数より多い場合、該被検検体は血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外のものと判定される。
【0082】
上述のように、本発明の方法により、被検検体におけるFVIII活性レベル、又はその活性異常の有無が判定され得る。別の実施形態において、被検検体におけるFVIIIの活性異常の有無が判定され、該判定は、該被検検体が血友病A患者の検体であるか否かの判定についての情報を提供する。別の実施形態においては、被検検体におけるFVIII活性レベルが判定され、該判定は、該被検検体を提供した患者における血友病Aの重症度の判定についての情報を提供する。したがって、本発明の血液検体の分析方法の一実施形態は、血友病Aの判定、血友病Aの重症度、例えば重症(必要に応じてVS-HA及びMS-HA)、中等症及び軽症の判定等のための方法であり得る。
【0083】
一実施形態において、被検検体に対して、上述したFVIIIについての判定に加えて、他の血液凝固時間延長要因成分についての判定を行ってもよい。好ましくは、当該他の血液凝固時間延長要因成分は、FIXである。例えば、上述したFVIIIについての判定において「血液凝固時間の延長要因がFVIII活性異常によるものではない」又は「血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)以外」と判定された被検検体について、FIXの活性レベル、又はその活性異常の有無を判定してもよい。FIXの活性レベル、又はその活性異常の有無の判定の手順は、上述したFVIIIについての判定手順と同様の手順で実施することができる。該FIXについての判定に用いるテンプレート検体は、FVIIIについての評価で用いたものと同じであっても異なっていてもよい。また該FIXについての判定に用いる被検パラメータ群及びテンプレートパラメータ群は、FVIIIについての判定で用いたものと同じであっても異なっていてもよい。本実施形態の一例においては、被検検体におけるFIXの活性異常の有無が判定され、該判定は、該被検検体が血友病B患者の検体であるか否かの判定についての情報を提供する。本実施形態の別の一例においては、被検検体におけるFIX活性レベルが判定され、該判定は、該被検検体を提供した患者における血友病Bの重症度の判定についての情報を提供する。本実施形態は、血友病Bの判定、血友病Bの重症度の(例えば重症、中等症及び軽症の)判定を可能にする。さらに、上述したFVIIIについての評価とFIXについての評価とを組み合わせることで、より包括的に被検検体における凝固特性を分析することができる。
【0084】
2.本発明の方法のためのプログラム及び装置
上述の本発明の血液検体の分析方法は、コンピュータプログラムを用いて自動的に行われ得る。したがって、本発明の一態様は、上述の本発明の血液検体の分析方法を行うためのプログラムである。また、被検検体からの試料の調製及び凝固時間の測定も含め、上述した本発明の方法の一連の工程は、自動分析装置によって自動的に行われ得る。したがって、本発明の一態様は、上述の本発明の血液検体の分析方法を行うための装置である。
【0085】
本発明の装置の一実施形態について、以下に説明する。本発明の装置の一実施形態は、図15に示すような自動分析装置1である。自動分析装置1は、制御ユニット10と、操作ユニット20と、測定ユニット30と、出力ユニット40とを備える。
【0086】
制御ユニット10は、自動分析装置1の全体の動作を制御する。制御ユニット10は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)によって構成され得る。制御ユニット10は、CPU、メモリ、ストレージ、通信インターフェース(I/F)などを備え、操作ユニット20からのコマンドの処理、測定ユニット30の動作の制御、測定ユニット30から受けた測定データの保存やデータ分析、分析結果の保存、出力ユニット40による測定データや分析結果の出力の制御、などを行う。さらに制御ユニット10は、外部メディア、ホストコンピュータなどの他の機器と接続されてもよい。なお、制御ユニット10において、測定ユニット30の動作を制御するPCと、計測データの分析を行うPCとは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0087】
操作ユニット20は、操作者からの入力を取得し、得られた入力情報を制御ユニット10へと伝達する。例えば、操作ユニット20は、キーボード、タッチパネル等のユーザーインターフェース(UI)を備える。出力ユニット40は、制御ユニット10の制御下で、測定ユニット30の計測データや、該データの分析結果を出力する。例えば、出力ユニット40は、ディスプレイ等の表示装置を備える。
【0088】
測定ユニット30は、血液凝固検査のための一連の操作を実行し、血液検体を含む試料の凝固反応の計測データを取得する。測定ユニット30は、血液凝固検査に必要な各種の器材や分析モジュール、例えば、血液検体を収める検体容器、検査用試薬を収める試薬容器、検体と試薬との反応のための反応容器、血液検体及び試薬を反応容器に分注するためのプローブ、光源、反応容器内の試料からの散乱光又は透過光を検出するための検出器、検出器からのデータを制御ユニット10に送るデータ処理回路、制御ユニット10の指令を受けて測定ユニット30の操作を制御する制御回路、などを備える。
【0089】
制御ユニット10は、測定ユニット30が計測したデータに基づいて、検体の凝固特性の分析を行う。本分析には、上述した凝固反応曲線や凝固速度又は凝固加速度に関する波形の取得、被検検体についてのパラメータ群の抽出、テンプレート検体についてのテンプレートパラメータ群の抽出、それらのパラメータ群の回帰分析、及び回帰分析の結果に基づく被検検体における標的の血液凝固時間延長要因成分の活性レベル又は活性異常についての判定、などが含まれ得る。本分析は、本発明の方法を行うためのプログラムによって実施され得る。したがって、制御ユニット10は、本発明の方法を行うためのプログラムを備え得る。
【0090】
上述の制御ユニット10での分析において、該分析に用いる凝固反応曲線や凝固速度又は凝固加速度に関する波形は、測定ユニット30からの計測データに基づいて制御ユニット10で作成されてもよく、又は、別の機器、例えば測定ユニット30で作成し、制御ユニット10に送られてもよい。あるいは、測定ユニット30で凝固反応曲線が作成されて制御ユニット10に送られ、制御ユニット10で凝固速度又は凝固加速度に関する波形が作成されてもよい。テンプレート検体についてのテンプレートパラメータ群のデータは、予めテンプレート検体を測定ユニット30で測定し、得られた計測データを制御ユニット10で解析することによって作成されてもよく、又は外部から取り込んでもよい。テンプレートパラメータ群のデータは、制御ユニット10のメモリや外部機器に保存しておくことができる。回帰分析の手法や、回帰分析の結果に基づく被検検体の凝固特性の分析のための判定基準は、本発明のプログラムによって制御され得る。
【0091】
制御ユニット10での分析結果は、出力ユニット40に送られ、出力される。出力は、画面への表示、ホストコンピュータへの送信、印刷など、任意の形態をとり得る。出力ユニットからの出力情報は、被検検体における標的の血液凝固時間延長要因成分についての判定結果(例えば、FVIII活性レベル、血友病A又はその重症度の判定結果、等)を含み、且つ所望により、被検検体とテンプレート検体との回帰分析の結果(例えば回帰直線式や相関性)、被検検体やテンプレート検体の凝固反応曲線や凝固速度又は凝固加速度に関する波形、などのさらなる情報を含んでいてもよい。出力ユニットからの出力情報の種類は、本発明のプログラムによって制御され得る。
【0092】
一実施形態において、本発明の方法を行うためのプログラムを備えていること以外は、自動分析装置1は、APTT、PT等の血液凝固時間の測定に従来使用されているような、一般的な血液凝固検査用の自動分析装置の構成をとり得る。
【実施例
【0093】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
以下の実施例に用いられるパラメータは、特に言及しない限り、補正0次~2次曲線由来のパラメータを表す。一方、未補正0次~2次曲線由来のパラメータは、各パラメータの名称の頭にRを付けて表される。例えば、補正1次曲線の加重平均高さがvHであるとき、未補正1次曲線の加重平均高さはRvHで表され、補正2次曲線の加重平均高さがpHであるとき、未補正2次曲線の加重平均高さはRpHで表される。パラメータの一覧を下記の表Aに示す。
【0095】
【表A】
【0096】
実施例1 被検パラメータの算出
(1)方法
測定用試薬として、APTT測定用試薬であるコアグピアAPTT-N(積水メディカル株式会社製)を、塩化カルシウム液として、コアグピアAPTT-N 塩化カルシウム液(積水メディカル株式会社製)を用いた。検体を含む試料の凝固反応計測は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。キュベット内にて37℃で45秒間加温した検体50μLに、約37℃の測定用試薬50μLを添加し、さらに171秒経過後に25mM塩化カルシウム液50μLを添加して凝固反応を開始させた。反応は37℃で行った。凝固反応の測定では、キュベットにLEDを光源とする波長660nmの光を照射し、0.1秒間隔で90度側方散乱光の散乱光量を計測した。計測時間は360秒間とした。得られた経時的計測データから、凝固反応曲線を得た。
【0097】
(2)被検血液検体
34検体(血漿)を分析した。該34検体は、24件のFVIII欠乏検体(重症(FVIII<1%)13件、中等症(FVIII=1-5%)8件、軽症(FVIII=5-40%)3件)、及び10件のVIII欠乏検体以外の検体(Other)を含んでいた。(1)の手順に従って、各検体についての凝固反応曲線を得た。
【0098】
(3)テンプレート検体
分析に用いたテンプレート検体の構成を表1に示す。FVIII活性が異なる43検体、及びFVIII活性は正常であるが他の要因によって血液凝固時間が延長する88検体を調製した。前者43検体のFVIII活性は、血友病A重症(FVIII<1%)、中等症(FVIII=1-5%)、及び軽症(FVIII=5-40%)、ならびにその他(FVIII>40%はOther)のいずれかに属している。後者88検体は、FVIII活性が異常ではないため、表1の分類では「Other」に属する。これらの計131検体をテンプレート検体として分析に用い、(1)の手順に従って、各検体についての凝固反応曲線を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
(4)データ解析
(4-1)1次曲線の算出
(2)で得られた被検検体由来の凝固反応曲線から補正1次曲線を算出した。まず、凝固反応曲線に対して前処理を行った。すなわち、凝固反応曲線に対してノイズ除去を含む平滑化処理を行い、測定開始時点の散乱光量が0となるように調整した。続いて、凝固反応曲線の最大高さが100となるように補正し、得られた補正凝固反応曲線(補正0次曲線)を一次微分して、補正1次曲線を算出した。
【0101】
(4-2)被検パラメータ群の作成
(パラメータ群A)
得られた補正1次曲線から、10個の演算対象域を抽出した。演算対象域値Sは、補正1次曲線の最大高さ値Vmax(100%)に対して、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%にそれぞれ設定した。各Sでの演算対象域について、ピーク幅vB、ならびに上記式(2)、(3)及び(4)を用いて加重平均時間vT及び加重平均高さvHを算出した。求めたvT及びvHから、下記式により扁平率vAB及び時間率vTBを算出した。
vAB=(vH/vB)K1(K1=100)
vTB=(vT/vB)K2(K2=1)
以上の手順で、10個の演算対象域(S=5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%)についてのパラメータ:vB [vB5%, vB10%, vB20%, vB30%, vB40%, vB50%, vB60%, vB70%, vB80%, vB90%]、vT [vT5%, vT10%, vT20%, vT30%, vT40%, vT50%, vT60%, vT70%, vT80%, vT90%]、vH [vH5%, vH10%, vH20%, vH30%, vH40%, vH50%, vH60%, vH70%, vH80%, vH90%]、vAB [vAB5%, vAB10%, vAB20%, vAB30%, vAB40%, vAB50%, vAB60%, vAB70%, vAB80%, vAB90%]、及びvTB [vTB5%, vTB10%, vTB20%, vTB30%, vTB40%, vTB50%, vTB60%, vTB70%, vTB80%, vTB90%]を算出した。
【0102】
算出した被検検体についてのパラメータを組み合わせて、以下のとおり被検パラメータ群を作成した:
(パラメータ群A-1)vB [vB5%, vB10%, …, vB90%]、vT [vT5%, vT10%, …, vT90%]、vH [vH5%, vH10%, …, vH90%]、vAB [vAB5%, vAB10%, …, vAB90%]、及びvTB [vTB5%, vTB10%, …, vTB90%]の50パラメータからなるパラメータ群;
(パラメータ群A-2)vB [vB5%, vB10%, …, vB90%]、vAB [vAB5%, vAB10%, …, vAB90%]、及びvTB [vTB5%, vTB10%, …, vTB90%]の30パラメータからなるパラメータ群;
(パラメータ群A-3)vB [vB5%, vB10%, …, vB90%]及びvAB [vAB5%, vAB10%, …, vAB90%]の20パラメータからなるパラメータ群。
【0103】
比較のため、補正0次曲線を1回微分して得られる曲線の最大値(Vmax)とそれに到達するまでの時間(VmaxT)、2回微分して得られる曲線の最大値(Amax)とそれに到達するまでの時間(AmaxT)を算出した。これらは、従来の凝固反応曲線についての波形解析に使用されていたパラメータに準じるパラメータである(特許文献1及び2参照)。これらの従来パラメータを加えて、さらに以下のとおり被検パラメータ群を作成した:
(パラメータ群A-4)パラメータA-1に、Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTを追加した54パラメータからなるパラメータ群;
(比較パラメータ群1)Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTの4パラメータからなるパラメータ群。
【0104】
(パラメータ群B)
さらに、5個の演算対象域(S=5%、20%、40%、60%及び80%)についてのvB、vT、vH、vAB及びvTBを用いて、以下のとおり被検パラメータ群を作成した:
(パラメータ群B-1)vB [vB5%, vB20%, vB40%, vB60%, vB80%]、vT [vT5%, vT20%, vT40%, vT60%, vT80%]、vH [vH5%, vH20%, vH40%, vH60%, vH80%]、vAB [vAB5%, vAB20%, vAB40%, vAB60%, vAB80%]、及びvTB [vTB5%, vTB20%, vTB40%, vTB60%, vTB80%]の25パラメータからなるパラメータ群;
(パラメータ群B-2)vB [vB5%, vB20%, vB40%, vB60%, vB80%]、 [vAB5%, vAB20%, vAB40%, vAB60%, vAB80%]、及びvTB [vTB5%, vTB20%, vTB40%, vTB60%, vTB80%]の15パラメータからなるパラメータ群;
(パラメータ群B-3)vB [vB5%, vB20%, vB40%, vB60%, vB80%]及びvAB [vAB5%, vAB20%, vAB40%, vAB60%, vAB80%]の10パラメータからなるパラメータ群;
(パラメータ群B-4)パラメータB-1に、Vmax、Amax、VmaxT及びAmaxTを追加した29パラメータからなるパラメータ群。
【0105】
(4-3)テンプレート検体の解析
(3)で得られた各テンプレート検体由来の凝固反応曲線から、(4-1)~(4-2)の手順に従って、補正1次曲線を算出し、次いで上述したパラメータ群A-1~A-4、B-1~B-4、及び比較パラメータ群1の構成をそれぞれ有するテンプレートパラメータ群A-1~A-4、B-1~B-4、及び比較テンプレートパラメータ群1を作成した。
【0106】
作成したパラメータ群の構成内容を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例2 パラメータ群を用いた被検検体のFVIII活性又は異常の判定
(1)FVIII活性の判定
被検検体から得られた被検パラメータ群と、各テンプレート検体から得られた対応するテンプレートパラメータ群との間で回帰分析を行った。パラメータ群には実施例1で取得したパラメータ群A-1を用いた。図16に、FVIII活性が0.2%未満である重症血友病A(VS-HA)患者に由来する被検検体(Sample AF、APTT時間:118.1秒、FVIII<0.2%)との回帰分析結果のうち、相関係数が高い順に上位5件の結果を示す。また、図16の各図の横軸と縦軸のラベルには、それぞれテンプレート検体及び被検検体のFVIII活性及びAPTT時間を示す。この5件の相関係数は0.98以上であることから、被検検体Sample AFとの間でパラメータ群に関して高い相関性を有するテンプレート検体の存在が確認された。また、選出された5つのテンプレート検体(Template A~Template E)は、いずれもFVIII活性が0.2%未満であるVS-HA患者に由来する検体であることが確認された。
【0109】
図17Aには、図16中で相関係数が最も高かった検体(Template A)との回帰直線を示す。図17Bには被検検体(Sample AF)とTemplate Aの補正1次曲線を示す。被検検体(Sample AF)とTemplate Aの補正1次曲線は、非常に似た形状を有しており、両検体の血液凝固特性が近似していることが示された。これらの結果から、本分析が、血液検体におけるFVIII活性の判定に利用できることが明らかとなった。さらに本分析が、VS-HA患者検体の検出にも有効であることが明らかとなった。
【0110】
(2)血友病Aの重症度の判定
実施例1で取得したパラメータ群A-1~A-4、B-1~B-4、及び比較パラメータ群1のそれぞれについて、34個の被検検体と、各テンプレート検体との回帰分析を行った。被検検体と全てのテンプレート検体との間でパラメータ群についての直線回帰式を求め、その中から回帰直線の傾きが0.87から1.13の範囲であったテンプレート検体を選出した。次に選出したテンプレート検体の中から、最も相関係数の高いものを相関性が最も高いテンプレート検体として選出した。選出したテンプレート検体のFVIII活性を、被検検体のFVIII活性と判定した。判定結果をもとに、被検検体のFVIII活性レベルを4段階(FVIII活性:<1%、1-5%、5-40%、及びOther)に分類した。分類された被検検体のFVIII活性レベルと、凝固一段法で求めた実際の被検検体のFVIII活性レベルから、本判定におけるFVIII活性レベル一致率及びFVIII欠乏一致率を次式により計算した。FVIII活性レベル一致率は、判定による被検検体のFVIII活性レベルが実際の被検検体のFVIII活性レベルと一致した割合を示し、FVIII欠乏一致率は、判定による被検検体のFVIII欠乏の有無が実際の被検検体のFVIII欠乏の有無と一致した割合を示す。
【0111】
【化1】
【0112】
表3~表5は、判定された被検検体のFVIII活性と実際の被検検体のFVIII活性との対比表である。パラメータ群A-1~A-4を用いた場合の対比表を表3に、パラメータ群B-1~B-4を用いた場合の対比表を表4に、比較パラメータ群1を用いた場合の対比表を表5に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
分析に使用したパラメータ群の種類と、FVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率について表6にまとめた。パラメータ群A又はBを用いた方法では、高い一致率で被検検体のFVIII活性レベルを判定することができた。
【0117】
【表6】
【0118】
実施例3 相関性の評価基準の違いによる判定結果の差異
相関性の評価基準の違いによる判定結果の差異を確認するため、相関性の評価基準のみが異なる比較検討を以下の2条件で実施した。パラメータ群はA-4を使用した。
相関性評価基準1:全てのテンプレート検体と被検検体との間でパラメータ群についての直線回帰式を求め、その中から回帰直線の傾きが0.87から1.13の範囲に含まれるテンプレート検体を選出し、選出した中から最も相関係数の高いテンプレート検体を選出した(実施例2と同じ評価基準)。
相関性評価基準2:全てのテンプレート検体と被検検体との間でパラメータ群についての直線回帰式を求め、その中から最も相関係数の高いテンプレート検体を選出した。
【0119】
判定結果を表7に示す(表7-1は表3A-4と同じ)。分析に使用したパラメータの種類と、FVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率について表8にまとめた。
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
実施例4 FIX活性レベルの判定
被検検体のうちOther(FVIII>40%)と判定されたがFIX欠乏である8件の検体について、FIX活性の判定を実施した。テンプレート検体には表9のものを用いた。パラメータ群に実施例1で取得したパラメータ群A-1を、相関性の評価には実施例3の相関性評価基準1を用いた。実施例2(2)と同様の手順で、FIX活性レベル一致率及びFIX欠乏一致率を計算した。評価結果を表10に示す。高い一致率で被検検体のFIX活性レベルを判定することができた。
【0123】
【表9】
【0124】
【表10】
【0125】
実施例5 FVIII活性又は異常の判定
(1)被検血液検体及びテンプレート検体
被検血液検体として、FVIII活性又はFIX活性が低下している患者血漿46検体を用いた。該46検体は、30件のFVIII欠乏検体(重症(FVIII<1%)10件、中等症(FVIII=1-5%)10件、軽症(FVIII=5-40%)10件)、FVIII>40%検体(Other)の1件、及び15件のFIX欠乏検体(Other)からなるものであった。
【0126】
テンプレート検体には、市販の凝固因子欠乏血漿とLA血漿又は正常血漿とを種々の割合で混合した混合血漿、及び市販のFVIII欠乏血漿にFVIII製剤を添加したFVIII添加血漿を用いた。凝固因子欠乏血漿とLA血漿には、Factor VIII Deficient Plasma、Factor IX Deficient Plasma、Factor V Deficient Plasma、Factor X Deficient Plasma、Factor XI Deficient Plasma、Factor XII Deficient Plasma、Prekallikrein Deficient Plasma、Positive Lupus Anticoagulant Plasma(いずれもGeorge King Bio-Medical, Inc.製)を用いた。FVIII製剤には、遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤アドベイト(シャイヤージャパン製)を用いた。正常血漿として各因子濃度が100%とみなせる正常プール血漿を用いた。正常血漿と各凝固因子欠乏血漿を種々の割合で混合し、因子濃度が0.25%、0.5、0.75%、1%、2.5%、5%、10%、25%、50%の混合血漿をそれぞれ調製した。また、FVIII欠乏血漿にFVIII製剤を添加してFVIII濃度が、0.625%、1.25%、2.5%、5%、10%、20%、40%、80%、160%のFVIII添加血漿を調製した。さらに別のFVIII欠乏血漿にFVIII製剤を添加してFVIII濃度が、0.3%、0.6%、1%、2%、4%、8%、16%、32%、64%、128%のFVIII添加血漿を調製した。以上の手順で、FVIII活性異常の59検体、FVIII活性は正常であるが他の凝固因子が低下した因子欠乏検体80検体、及びLA陽性4検体の計143のテンプレート検体を調製した。該FVIII活性異常の59検体は、FVIII活性のレベルが、血友病A重症(FVIII<1%)、中等症(FVIII=1-5%)、及び軽症(FVIII=5-40%)、ならびにその他(FVIII>40%はOther)のいずれかに属していた。残りの84検体は、FVIII活性が異常ではないため「Other」に属していた。
【0127】
本実施例では、全ての被検検体はFVIII欠乏患者(血友病A)からの検体か又はFIX欠乏患者(血友病B)からの検体であり、一方、テンプレート検体は、血友病Aや血友病Bの患者検体を用いずに、市販の因子欠乏血漿やLA陽性血漿を基に調製された。このような検体の構成により、本実施例では、実施例2と比べて、被検検体の凝固因子の状態を正しく判定することが困難な条件を設定した。本実施例で用いた被検検体及びテンプレート検体の構成を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
実施例1(1)の手順に従って、各被検検体及びテンプレート検体についての凝固反応曲線を得た。被検検体及びテンプレート検体についてのFVIII活性及びAPTTの分布を図18に示す。
【0130】
(2)パラメータ群の作成
各検体について、凝固反応曲線から未補正1次曲線、未補正2次曲線、補正1次曲線、及び補正2次曲線を算出した。各曲線について、10個の演算対象域値S(該曲線の最大高さの5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%)に基づく10個の演算対象域を抽出し、各演算対象域を特徴づけるパラメータを取得した。さらに、従来パラメータである曲線の最大値とそれに到達するまでの時間(Vmax、RVmax、VmaxT、Amax、RAmax、AmaxT)を取得した。取得したパラメータを表12に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
(3)パラメータ群を用いた被検検体のFVIII活性又は異常の判定
(3-1)単一パラメータを用いた判定
表12に示したパラメータからパラメータ群を構成した。演算対象域を特徴づけるパラメータを用いる場合は、10個の演算対象域値(x=5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%)に基づく10個の演算対象域から抽出された同種のパラメータのセットをパラメータ群として用いた。例えば、パラメータ「vHx」を用いる場合、[vH5%、vH10%、vH20%、vH30%、vH40%、vH50%、vH60%、vH70%、vH80%、vH90%]のセットをパラメータ群として用いた。従来パラメータを用いる場合は、実施例2の比較例と同じパラメータ群を用いた。
【0133】
該パラメータ群を用いた回帰分析により、被検検体のFVIII活性又は異常の判定を行った。被検検体から得られた被検パラメータ群と、各テンプレート検体から得られた対応するテンプレートパラメータ群との間で一次回帰分析を行った。回帰分析で得られた一次回帰式の傾きが1±0.15以内であり、且つ該一次回帰式の相関係数が0.90より大きいテンプレート検体を抽出した。抽出されたテンプレート検体の中で相関係数が最大のテンプレート検体を選別した。相関係数が同じ検体が複数存在した場合は、回帰式の傾きがより1に近いテンプレート検体を選別した。選別したテンプレート検体におけるFVIII活性の状態(血友病A重症(FVIII<1%)、中等症(FVIII=1-5%)、及び軽症(FVIII=5-40%)、又はその他(Other))を、被検検体のFVIII活性の状態と判定した。全被検検体についての判定結果に基づいて、実施例2と同様の手順でFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率を計算した。
【0134】
用いたパラメータ群と、得られたFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率を表13及び14に示す。FVIII欠乏一致率が最大(63.0%)となるパラメータは2次曲線のパラメータpHxであった。FVIII活性レベル一致率が最大(76.1%)となるパラメータは2次曲線のパラメータmTxであった。FVIII欠乏一致率とFVIII活性レベル一致率の高さは相関していなかった。従来パラメータ(VmaxT、AmaxT、Vmax、Amaxの組み合わせ)を用いた場合のFVIII欠乏一致率は52.2%であった。
【0135】
【表13】
【0136】
【表14】
【0137】
(3-1)組み合わせパラメータを用いた判定
表12に示した演算対象域を特徴づけるパラメータを複数種組み合わせて、組み合わせパラメータ群を構成した。10個の演算対象域値(x=5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%)に基づく10個の演算対象域から抽出された同種のパラメータのセットを2個以上組み合わせて、パラメータ群として用いた。例えば、パラメータ「vT」と「vB」の組み合わせを用いる場合、[vT5%、vT10%、vT20%、vT30%、vT40%、vT50%、vT60%、vT70%、vT80%、vT90%]のセットと[vB5%、vB10%、vB20%、vB30%、vB40%、vB50%、vB60%、vB70%、vB80%、vB90%]のセットを組み合わせてパラメータ群として用いた。
【0138】
FVIII欠乏一致率が高かった組み合わせパラメータ群と、得られたFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率を表15及び16に示す。表15には、2種のパラメータを組み合わせた場合の結果が、表16には、3種のパラメータを組み合わせた場合の結果が、それぞれ示されている。表16には、FVIII活性レベル一致率が最大であったパラメータ群(pNs_pNe_vTB)の結果も記載されている。
【0139】
【表15】
【0140】
【表16】
【0141】
上記(3-1)及び(3-2)で高いFVIII欠乏一致率又はFVIII活性レベル一致率をもたらしたパラメータ群についてのFVIII活性レベル判定の結果を表17に示す。使用するパラメータ種の数が増えると、FVIII欠乏一致率又はFVIII活性レベル一致率のいずれも高くなる傾向がみられた。またこれらの結果から、2次曲線に関するパラメータが判定に有用であることが示された。
【0142】
【表17】
【0143】
実施例6 異なる判定基準によるFVIII活性又は異常の判定
(1)方法
実施例5で用いた検体を用いて、実施例5と同様の手順で、被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との間で一次回帰分析を行った。次いで、以下の異なる判定基準に従って、被検検体のFVIII活性の状態を判定した。
判定基準1:
実施例5と同様に、一次回帰式の傾きが1±0.15以内であり、且つ該回帰式の相関係数が0.90より大きいテンプレート検体のうち、相関係数が最も高かったテンプレート検体におけるFVIII活性の状態を、被検検体のFVIII活性の状態と判定した。上記一次回帰式の傾き及び相関係数の条件に適合するテンプレート検体がない場合、被検検体はOtherと判定された。
判定基準2(最多選出法):
一次回帰式の傾きが1±0.15以内であり、且つ該回帰式の相関係数が0.90より大きいテンプレート検体のうち、相関係数が最も高い5件のテンプレート検体を抽出した。これら5件の検体の中で最も高頻度に見られたFVIII活性の状態を、被検検体のFVIII活性の状態と判定した。異なる状態の検体が同数存在する場合には、より重症な状態を該被検検体の状態と判定した。上記一次回帰式の傾き及び相関係数の条件に適合するテンプレート検体がない場合、被検検体はOtherと判定された。
判定基準3(2段階選出法):
血友病A患者(重症、中等症、及び軽症)由来の検体一次回帰式の傾きが1±0.15以内であり、且つ該回帰式の相関係数が0.90より大きいテンプレート検体のうち、相関係数が最も高い5件のテンプレート検体を抽出した。上記一次回帰式の傾き及び相関係数の条件に適合するテンプレート検体が5件に満たない場合は、満たない件数分をNDとした(表18参照)。これら5件における血友病A患者(重症[L1]:FVIII<1%、中等症[L2]:FVIII=1-5%、及び軽症[L3]:FVIII=5-40%)の合計数、及びその他(Other及びND)の合計数を求めた。血友病A患者の合計数がより多い場合、最も高頻度に見られた状態(重症、中等症、又は軽症)を被検検体の状態と判定した。異なる状態の検体が同数存在する場合には、より重症な状態を被検検体の状態と判定した。その他の合計数がより多い場合、被検検体の状態をOtherと判定した。
【0144】
判定手順の例を表18に示す。相関係数順位の<1>のテンプレート検体のFVIII活性と判定基準1での判定結果は一致する。最大数を占めるテンプレート検体のFVIII活性と判定基準2での判定結果は一致する。テンプレート検体中のL1~L3の合計数がより多ければ、判定基準3はL1~L3のいずれかになり、OtherとNDの合計数がより多ければ、判定基準3はOtherになる。
【0145】
【表18】
【0146】
(2)判定
表12に示す55種の演算対象域を特徴づけるパラメータから3種のパラメータを任意に組み合わせて、26235通りの組み合わせパラメータ群を構成した。各々の組み合わせパラメータ群を用いて、被検パラメータ群とテンプレートパラメータ群との間で用いた一次回帰分析を行い、次いで判定基準1~3に従って被検検体のFVIII活性の状態を判定した。実施例2と同様の手順でFVIII欠乏一致率又はFVIII活性レベル一致率を計算した。さらにFVIII欠乏一致率又はFVIII活性レベル一致率の平均(平均一致率)を計算した。
【0147】
各判定基準に従って求めたFVIII欠乏一致率、FVIII活性レベル一致率、及び平均一致率(まとめて一致率ともいう)の例を表19に示す。
【0148】
【表19】
【0149】
表20は、一致率のレベルを達成した組み合わせパラメータ群の数を示す。表20の最下行には、各判定基準での一致率の最大値を示した。FVIII欠乏一致率は、いずれの基準でも最大78.3%であった。最大の一致率レベル(75%超-80%以下)を満たす組み合わせパラメータ群の数は、判定基準1が12、判定基準2と3が17であった。FVIII活性レベル一致率は、いずれの基準でも最大91.3%であった。最大の一致率レベル(90%超-95%以下)を満たすパラメータ群の数は、判定基準1と3が1つ、判定基準2が2つであった。平均一致率の最大値は、判定基準1で81.5%、判定基準2と3で84.8%であった。最大の一致率レベル(80%超-85%以下)を満たすパラメータ群の数は、判定基準1が9、判定基準2と判定3が13であった。
【0150】
【表20】
【0151】
実施例7 異なる閾値によるFVIII活性又は異常の判定
実施例6と同様の手順で、判定基準1~3に従って、ただし一次回帰式の傾きの許容幅及び相関係数の閾値を変更して、被検検体のFVIII活性の状態を判定した。パラメータ群には、実施例5で最大のFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率を示した組み合わせパラメータ群pTW_vTs_vWを用いた。一次回帰式の傾きは、1±0.05から1±0.25まで(すなわち、許容幅0.05から0.25まで)段階的に変更した。また相関係数の閾値は、>0.75から>0.98まで段階的に変更した。各条件でのFVIII欠乏一致率及びFVIII活性レベル一致率を計算した。結果を図19~21に示す。
図1
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図21