(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ガス分光装置及びガス分光方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20231214BHJP
G01N 30/08 20060101ALI20231214BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20231214BHJP
G01N 21/39 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/08 G
G01N30/06 G
G01N21/39
(21)【出願番号】P 2022532185
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025053
(87)【国際公開番号】W WO2021260892
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】池原 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】真野 和音
(72)【発明者】
【氏名】富田 英生
(72)【発明者】
【氏名】寺林 稜平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】二宮 真一
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-516962(JP,A)
【文献】特開2002-5912(JP,A)
【文献】富田英生 ほか著,キャビティーリングダウン分光に基づく放射性炭素同位体分析システムの開発,日本原子力学会 2016年秋の大会 要旨集,日本,2016年09月07日,P2023
【文献】DUIJN, Esther van et al.,Automated combustion accelerator mass spectrometry for the analysis of biomedical samples in the low,Analytical Chemistry,86,2014年,7635-7641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
G01N 21/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム、上流側流路及び下流側流路を有し、サンプルガスを捕捉するガス捕捉部と、
前記ガス捕捉部の上流側流路に接続され、前記カラム内にサンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給部と、
前記上流側流路の開閉状態を切り替えるためのバルブと、
前記バルブを閉状態とした状態で、前記ガス捕捉部の下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導くガス分離機構と、
前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる加熱部と、
前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスが導入されるセルと、
前記セル内のサンプルガスに光を照射する光源部と、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析部とを備える、ガス分光装置。
【請求項2】
前記サンプルガスは、CO
2を含む、請求項1に記載のガス分光装置。
【請求項3】
前記分析部は、
前記セル内から外部に出射する光を検出する光検出器と、
前記光検出器からの検出信号に基づいて、前記CO
2中の
13CO
2及び
14CO
2の少なくとも一方の濃度を算出する演算部とをさらに備える、請求項2に記載のガス分光装置。
【請求項4】
前記セルは、筐体と、前記筐体内に配置されてキャビティを構成する高反射率ミラーとを有し、
前記分析部は、キャビティリングダウン吸収分光法により、サンプルガス中の目的成分の濃度を算出する、請求項3に記載のガス分光装置。
【請求項5】
前記サンプルガスは、揮発性有機化合物を含む、請求項1に記載のガス分光装置。
【請求項6】
前記ガス分離機構は、前記下流側流路を減圧する減圧部を有する、請求項1に記載のガス分光装置。
【請求項7】
前記減圧部は、前記セルを介して前記下流側流路内のガスを吸引する、請求項6に記載のガス分光装置。
【請求項8】
前記セル内を負圧にすることにより、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスを前記セル内へと導入させるセル導入機構をさらに備える、請求項1に記載のガス分光装置。
【請求項9】
サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部に備えられたカラム内に、前記ガス捕捉部に備えられた上流側流路に接続されているガス供給部から、サンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給ステップと、
前記上流側流路を閉鎖した状態で、前記ガス捕捉部に備えられた下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導くガス分離ステップと、
前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる加熱ステップと、
前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスをセルに導入させるセル導入ステップと、
前記セル内のサンプルガスに光源部から光を照射する光照射ステップと、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析ステップとを含む、ガス分光方法。
【請求項10】
前記サンプルガスは、CO
2を含む、請求項9に記載のガス分光方法。
【請求項11】
前記分析ステップは、
前記セル内から外部に出射する光を光検出器で検出する検出ステップと、
前記光検出器からの検出信号に基づいて、前記CO
2中の
13CO
2及び
14CO
2の少なくとも一方の濃度を算出する演算ステップとをさらに含む、請求項10に記載のガス分光方法。
【請求項12】
前記セルは、筐体と、前記筐体内に配置されてキャビティを構成する高反射率ミラーとを有し、
前記分析ステップでは、キャビティリングダウン吸収分光法により、サンプルガス中の目的成分の濃度を算出する、請求項11に記載のガス分光方法。
【請求項13】
前記サンプルガスは、揮発性有機化合物を含む、請求項9に記載のガス分光方法。
【請求項14】
前記ガス分離ステップでは、減圧部により前記下流側流路を減圧する、請求項9に記載のガス分光方法。
【請求項15】
前記減圧部は、前記セルを介して前記下流側流路内のガスを吸引する、請求項14に記載のガス分光方法。
【請求項16】
前記セル導入ステップでは、前記セル内を負圧にすることにより、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスを前記セル内へと導入させる、請求項9に記載のガス分光方法。
【請求項17】
サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部に備えられたカラム内に、前記ガス捕捉部に備えられた上流側流路に接続されているガス供給部から、サンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給ステップと、
前記上流側流路を閉鎖した状態で、前記ガス捕捉部に備えられた下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスをセルに導入させるセル導入ステップと、
前記セル内のサンプルガスに光源部から光を照射する光照射ステップと、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析ステップとを含む、ガス分光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分光装置及びガス分光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セル内のサンプルガスに光を照射するガス分光装置の中には、カラムを加熱することにより当該カラムからセル内にサンプルガスを導入させる加熱脱離方式のガス分光装置がある。この種のガス分光装置では、カラム内に吸着剤が設けられており、キャリアガスとともにカラム内に供給されたサンプルガスが、吸着剤に吸着することにより濃縮される。吸着剤に吸着されたサンプルガスは、カラムを加熱することにより吸着剤から脱離され、セル内に導入される。
【0003】
このように、加熱脱離方式のガス分光装置では、カラム内にサンプルガスだけでなくキャリアガスも流入する。そのため、カラム内におけるサンプルガスの濃縮には限界があり、カラムからセル内に導入されるサンプルガスにキャリアガスが混入する結果、セル内におけるサンプルガスの濃度を極限まで高めることが困難であった。
【0004】
下記特許文献1には、AMS(Accelerator Mass Spectrometry:加速器質量分析装置)とEA(Elemental Analyzer:元素分析計)を組み合わせた質量分析法が開示されている。この特許文献1に開示された質量分析法では、サンプルガスとしてのCO2がトラップに吸着され、そのトラップを加熱することによりCO2が脱離してシリンジへと導かれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Esther van Duijn et. al., “Automated combustion accelerator mass spectrometry for the analysis of biomedical samples in the low attomole range.” Anal Chem. 5;86(15):7635-41 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1のようなAMSを用いて質量分析を行う構成においては、サンプルガスの濃度を極限まで高めなくても精度よく分析を行うことが可能である。そのため、トラップ内にサンプルガスともに流入するキャリアガスが、そのままサンプルガスとともにトラップからAMSに導入されたとしても、キャリアガスの混入に基づく分析精度の低下といった問題が生じにくい。
【0007】
一方、加熱脱離方式のガス分光装置においては、セル内におけるサンプルガスの濃度が高いほど好ましい。例えば、ガス分光装置の一例であるガス吸収分光装置においては、セル内におけるサンプルガスの濃度が100%に近いほど分析精度が高くなる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、セル内におけるサンプルガスの濃度を高めることができるガス分光装置及びガス分光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、ガス捕捉部と、ガス供給部と、ガス分離機構と、加熱部と、セルと、光源部と、分析部とを備える分光装置である。前記ガス捕捉部は、カラム、上流側流路及び下流側流路を有し、サンプルガスを捕捉する。前記ガス供給部は、前記ガス捕捉部の上流側流路に接続され、前記カラム内にサンプルガスを送るためのキャリアガスを供給する。前記ガス分離機構は、前記ガス捕捉部の下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導く。前記加熱部は、前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる。前記セルには、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスが導入される。前記光源部は、前記セル内のサンプルガスに光を照射する。前記分析部は、前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する。
【0010】
本発明の第2の態様は、ガス供給ステップと、ガス分離ステップと、加熱ステップと、セル導入ステップと、光照射ステップと、分析ステップとを含む。前記ガス供給ステップでは、サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部に備えられたカラム内に、前記ガス捕捉部に備えられた上流側流路に接続されているガス供給部から、サンプルガスを送るためのキャリアガスを供給する。前記ガス分離ステップでは、前記ガス捕捉部に備えられた下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導く。前記加熱ステップでは、前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる。前記セル導入ステップでは、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスをセルに導入させる。前記光照射ステップでは、前記セル内のサンプルガスに光源部から光を照射する。前記分析ステップでは、前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カラム内のキャリアガスが負圧によりカラムの外部に導かれるため、ガス捕捉部にサンプルガスが高濃度で捕捉される。したがって、ガス捕捉部からサンプルガスを脱離させてセル内に導入させることにより、セル内におけるサンプルガスの濃度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ガス吸収分光装置の一実施形態を示した流路図である。
【
図3】分析部の具体的構成について説明するための概略図である。
【
図4A】第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムが排気部に連通する状態を示している。
【
図4B】第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムが減圧部に連通する状態を示している。
【
図4C】第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムがセルに連通する状態を示している。
【
図5】ガス吸収分光装置の別実施形態を示した流路図である。
【
図6A】別実施形態における第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムが排気部に連通する状態を示している。
【
図6B】別実施形態における第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムが減圧部に連通する状態を示している。
【
図6C】別実施形態における第1流路切替部及び第2流路切替部による流路切替の具体例について説明するための流路図であり、カラムが排気部及び減圧部のいずれにも連通しない状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ガス吸収分光装置の全体構成
図1は、ガス吸収分光装置の一実施形態を示した流路図である。このガス吸収分光装置は、ガス分光装置の一例であり、サンプルガスに照射した光の一部がサンプルガス中の成分に吸収されることを用いて、サンプルガス中の目的成分の濃度を測定するための装置である。
【0014】
サンプルガスは、ガス供給部1からカラム2を介して分析部3に供給される。サンプルガスは、例えばガス供給部1に備えられた燃焼部11でサンプルを燃焼させることにより生成されるガスであり、少なくともCO2を含んでいる。CO2を含むサンプルガスは、分析部3に備えられたセル31内に導入される。
【0015】
ガス供給部1の燃焼部11は、導入路4を介してカラム2に連通している。燃焼部11において生成されたサンプルガスは、キャリアガスとともに導入路4へと送り出され、カラム2内に導入される。キャリアガスは、例えばN2又はHeなどの不活性ガス、あるいはO2などの他のガスであってもよい。導入路4の途中には、当該導入路4を開閉するためのバルブ41が設けられている。バルブ41は、例えば二方バルブであり、開状態で導入路4内におけるガスの通過を許容する一方、閉状態で導入路4内におけるガスの通過を遮断する。
【0016】
カラム2の内部には、サンプルガスを吸着させて捕捉するための吸着剤21が設けられている。カラム2は中空状の長尺部材であり、長手方向の両端部が開口している。カラム2の両端部には、封止部22が設けられている。吸着剤21は、封止部22によりカラム2内に封止される。封止部22は、ガスを通過させることが可能であり、カラム2の各端部から吸着剤21が排出されるのを防止しつつ、カラム2内にガスを通過させることができる。カラム2は、例えばヒータを含む加熱部23により外部から加熱される。吸着剤21に吸着されたサンプルガスは、加熱部23でカラム2を加熱することにより脱離させることができる。
【0017】
上述の導入路4は、カラム2の一端部に連通している。カラム2の他端部は、導出路5を介して分析部3のセル31に連通している。すなわち、導入路4はカラム2に対して上流側に設けられた上流側流路を構成しており、導出路5はカラム2に対して下流側に設けられた下流側流路を構成している。カラム2、導入路4及び導出路5は、サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部20を構成している。カラム2内の吸着剤21から脱離されたサンプルガスは、導出路5を介してカラム2内から送り出され、セル31に導入される。導出路5の途中には、流路を切り替えるための流路切替部(第1流路切替部51及び第2流路切替部52)が設けられている。
【0018】
第1流路切替部51及び第2流路切替部52は、例えば三方バルブを含む構成である。第2流路切替部52は、導出路5における第1流路切替部51よりも下流側(セル31側)に設けられている。第1流路切替部51には、導出路5から分岐する第1分岐路511が連通している。一方、第2流路切替部52には、導出路5から分岐する第2分岐路521が連通している。
【0019】
第1分岐路511は、その一端部が第1流路切替部51に対して流体的に接続され、他端部が排気部6に連通している。排気部6は、カラム2内のガスを排気させるためのものである。排気部6には、カラム2内からのガスを機外に排気するためのドレンが含まれる。
【0020】
第2分岐路521は、その一端部が第2流路切替部52に対して流体的に接続され、他端部が減圧部7に連通している。減圧部7は、第2分岐路521を介して導出路5を減圧するためのものである。減圧部7には、導出路5内のガスを排気して導出路5をカラム2に対して負圧にするために駆動される真空ポンプ71が含まれる。
【0021】
第1流路切替部51は、導出路5の上流側と第1分岐路511とを連通させた分岐状態、又は、導出路5の上流側と下流側とを連通させた非分岐状態のいずれかに、流路を切り替えることができる。第1流路切替部51が分岐状態のときには、第1分岐路511を介して排気部6がカラム2内に連通する。一方、第1流路切替部51が非分岐状態のときには、カラム2が排気部6とは連通せず、第2流路切替部52に連通した状態となる。
【0022】
第2流路切替部52は、導出路5の上流側と第2分岐路521とを連通させた分岐状態、又は、導出路5の上流側と下流側とを連通させた非分岐状態のいずれかに、流路を切り替えることができる。第2流路切替部52が分岐状態のときには、第2分岐路521を介して減圧部7が第1流路切替部51に連通する。一方、第2流路切替部52が非分岐状態のときには、第1流路切替部51が減圧部7とは連通せず、分析部3のセル31に連通した状態となる。
【0023】
すなわち、第1流路切替部51を非分岐状態とし、第2流路切替部52を分岐状態とした場合には、カラム2が、第1流路切替部51及び第2流路切替部52を介して減圧部7に連通する。一方、第1流路切替部51を非分岐状態とし、第2流路切替部52も非分岐状態とした場合には、カラム2が、第1流路切替部51及び第2流路切替部52を介してセル31に連通する。
【0024】
分析部3のセル31内には、真空ポンプ30が連通している。この真空ポンプ30を駆動することにより、セル31内のガスを排気してセル31内をカラム2に対して負圧にすることができる。真空ポンプ30及び真空ポンプ71は、本実施形態のように別々に設けられた構成に限らず、例えばセル31に連通する真空ポンプを共用して減圧部7を構成することも可能である。
【0025】
2.カラムの具体的構成
図2Aは、カラム2の概略正面図である。
図2Bは、
図2Aにおけるカラム2のA-A断面図である。
図2A及び
図2Bに示すように、カラム2は、例えば一直線状に延びる円筒形状を有している。
【0026】
カラム2内に設けられる吸着剤21の材料は、特に限定されるものではないが、例えばゼオライトが用いられる。ゼオライトは粒状であり、カラム2内に複数のゼオライトが互いに密着した状態で充填される。ゼオライトの表面には細孔が多数形成されており、各細孔に二酸化炭素の分子を吸着させることができる。ゼオライトには、3A型、4A型、5A型、13x型などの種類があるが、その中でも13x型が用いられてもよい。
【0027】
カラム2の両端部に設けられた封止部22には、それぞれフィルタ部材221及び保持部材222が含まれる。フィルタ部材221は、通気可能なメッシュ状の部材であり、吸着剤21の各粒子よりも小さい通気孔が複数形成されている。フィルタ部材221の材料は、特に限定されるものではないが、例えば石英ウールが用いられる。各フィルタ部材221は、カラム2の内径に対応する外径を有する円形状に形成され、カラム2の各端部を覆っている。
【0028】
各保持部材222は、各フィルタ部材221の外側(吸着剤21側とは反対側)に固定され、各フィルタ部材221をカラム2内に保持する。すなわち、各保持部材222と吸着剤21との間に各フィルタ部材221が挟持される。各保持部材222は、カラム2の内径に対応する外径を有する円形状に形成され、中央部にはカラム2の中心軸線に沿って延びる貫通孔223が形成されている。カラム2内に対するガスの流入及び流出は、各保持部材222に形成された貫通孔223を介して行われる。
【0029】
各保持部材222における内側(吸着剤21側)の面は、中央部に向かうほど先細りした円錐状のテーパ面224となっている。これにより、各フィルタ部材221が各保持部材222の先端部に引っ掛かり、貫通孔223から抜けにくくなるため、吸着剤21がカラム2の各端部から排出されるのを効果的に防止することができる。
【0030】
3.分析部の具体的構成
図3は、分析部3の具体的構成について説明するための概略図である。分析部3では、CRDS(Cavity Ring-down Absorption Spectroscopy:キャビティリングダウン吸収分光法)により、サンプルガス中の目的成分の濃度が算出される。分析部3には、上述したセル31以外に、光源部32、光スイッチ33、光検出器34及び演算部35などが備えられている。
【0031】
光源部32は、例えばレーザ光源を含み、セル31に向けてレーザ光を出射する。光源部32から出射された光は、光スイッチ33を通過して、セル31内のサンプルガスに照射される。光スイッチ33は、光源部32からの光を通過させる状態(通過状態)、又は、光源部32からの光を遮断する状態(遮断状態)のいずれかに切替可能である。
【0032】
セル31は、中空状の長尺部材からなる筐体310と、筐体310の長手方向の両端部に設けられた1対のミラー311,312とを備えている。1対のミラー311,312は、それぞれの反射面が互いに対向するように配置されている。これらのミラー311,312は高反射率ミラーであり、筐体310内に配置されてキャビティを構成する。セル31及びミラー311,312は、光共振器を構成している。光源部32におけるレーザ光の発振周波数は、レーザ光が共振し得る特定の周波数(モード周波数)となるように調整される。これにより、セル31内に光のパワーを蓄積することができる。ただし、ミラー311,312は2つに限らず、3つ以上設けられてもよい。
【0033】
分析時には、セル31内にサンプルガスが導入された後、光スイッチ33が通過状態とされ、発振周波数がモード周波数となるように調整されたレーザ光が光源部32から出射される。そして、セル31内に光のパワーが十分に蓄積された後、光スイッチ33が遮断状態に切り替えられる。その結果、セル31内に蓄積された光が1対のミラー311,312の間で繰り返し反射され、セル31内のサンプルガスに光が繰り返し照射される。このとき、サンプルガス中の目的成分によって光が繰り返し吸収され、光が徐々に減衰する。
【0034】
1対のミラー311,312の間で光が繰り返し反射する際、一方のミラー312を光の一部が通過することにより外部に出射され、その光が光検出器34により検出される。一方のミラー312を通過する光を光検出器34で繰り返し検出することにより、その検出結果に基づいて光の減衰の時定数(リングダウン時間)を算出することができる。そして、算出されたリングダウン時間に基づいて、照射された光の周波数におけるサンプルガス中の目的成分の吸収係数が算出され、その吸収係数に基づいて目的成分の絶対濃度が算出される。また、光源部32におけるレーザ光の発振周波数を走査しながら分析を行えば、サンプルガス中の目的成分の吸収スペクトルを得ることもできる。
【0035】
サンプルガス中の目的成分の吸収係数αは、例えば下記式(1)を用いて求めることができる。なお、下記式(1)において、cは光速である。τは、セル31内にサンプルガスが導入されているときのリングダウン時間である。τ0は、セル31内にサンプルガスが導入されていないとき(例えば真空状態)、又は、サンプルガス中の成分による吸収がないときのリングダウン時間である。
α=1/c{(1/τ)-(1/τ0)} ・・・(1)
【0036】
また、目的成分の吸収係数α、数密度n、吸収断面積σの関係は、下記式(2)で表される。
α=nσ ・・・(2)
したがって、上記式(1)及び(2)を用いることにより、リングダウン時間τ、τ0から、吸収断面積が既知である成分についての絶対濃度を算出することができる。CRDSを用いてサンプルガス中の目的成分の濃度を算出する場合、1対のミラー311,312の間で光が繰り返し反射されることにより、サンプルガス中の目的成分による吸収が促進されるため、リングダウン時間τ、τ0の差が大きくなる。これにより、微量な目的成分による光吸収も検出することができるため、他の方式のレーザ吸収分光法に比べて高い検出感度を実現することができる。
【0037】
特に、CRDSを用いた場合には、サンプルガス中のCO2又はH2Oなどの同位体比を高い精度で測定することが可能である。例えば、CO2に含まれる3種類の同位体12CO2、13CO2及び14CO2のうち、13CO2及び14CO2は12CO2と比べて濃度が低いが、CRDSを用いることにより、13CO2及び14CO2の濃度を高精度で算出し、同位体比を測定することができる。
【0038】
演算部35は、例えばCPUを含むプロセッサにより構成される。演算部35は、光検出器34からの検出信号に基づいて、サンプルガス中の目的成分の濃度を算出することができる。このとき、演算部35は、上記式(1)及び(2)を用いて演算を行うことができる。このように、分析部3は、光源部32により照射された光の強度変化を基にサンプルガスを分析することができる。演算部35は、例えばCO2中の13CO2及び14CO2の少なくとも一方の濃度を算出することができる。ただし、演算部35は、上記式(1)及び(2)とは異なる計算式を用いてサンプルガス中の目的成分の濃度を算出するものであってもよい。
【0039】
4.流路切替の具体例
図4A~
図4Cは、第1流路切替部51及び第2流路切替部52による流路切替の具体例について説明するための流路図である。
図4Aは、カラム2が排気部6に連通する状態を示している。
図4Bは、カラム2が減圧部7に連通する状態を示している。
図4Cは、カラム2がセル31に連通する状態を示している。
【0040】
サンプルガス中の目的成分の濃度を測定する際には、まず、
図4Aに示すように、第1流路切替部51が分岐状態とされることにより、カラム2が排気部6に連通した状態となる。そして、バルブ41が開状態とされ、ガス供給部1からカラム2内に、サンプルガスとともにキャリアガスが供給される(ガス供給ステップ)。このとき、加熱部23によるカラム2の加熱は行われない。これにより、カラム2内に導入されるサンプルガスが吸着剤21に吸着される。
【0041】
カラム2へのサンプルガスの導入は所定の導入時間だけ行われ、その後にバルブ41が閉状態に切り替えられる。カラム2内にはサンプルガスとともにキャリアガスが導入されるため、サンプルガスとキャリアガスがカラム2内に混在した状態となる。そして、
図4Bに示すように、第1流路切替部51が非分岐状態とされ、第2流路切替部52が分岐状態とされる。これにより、カラム2が減圧部7に連通した状態となる。
【0042】
図4Bに示した状態で真空ポンプ71が駆動されると、導出路5内のガスが強制的に排気(吸引)されることにより、導出路5が減圧されてカラム2内に対して負圧となる。このとき、サンプルガスは吸着剤21に吸着されているため、サンプルガスをカラム2内に残したままキャリアガスがサンプルガスから分離され、分離されたキャリアガスがカラム2の外部へと導かれる(ガス分離ステップ)。減圧部7、第1流路切替部51及び第2流路切替部52などは、カラム2内のキャリアガスをカラム2の外部に導くためのガス分離機構100を構成している。カラム2では、吸着剤21の作用により、例えば分子量が32以下のキャリアガスと、分子量が33以上のサンプルガスを分離可能であってもよい。
【0043】
カラム2内からのキャリアガスの分離は所定の分離時間だけ行われ、その後に第2流路切替部52が非分岐状態に切り替えられる。これにより、
図4Cに示すように、カラム2が導出路5を介してセル31に連通した状態となる。このとき、事前に真空ポンプ30が駆動されることにより、セル31はカラム2に対して負圧となっている。この状態で、加熱部23によるカラム2の加熱が開始されることにより、吸着剤21に吸着されたサンプルガスが脱離され(加熱ステップ)、吸着剤21から脱離されたサンプルガスがセル31に導入される(セル導入ステップ)。真空ポンプ30、第1流路切替部51及び第2流路切替部52などは、セル31内を負圧にすることにより、吸着剤21から脱離されたサンプルガスをセル31内へと導入させるセル導入機構200を構成している。
【0044】
その後、
図3を用いて説明したように、セル31内に導入されたサンプルガスには、光源部32から光が照射される(光照射ステップ)。そして、セル31内を通過した光が光検出器34で検出され(検出ステップ)、光検出器34からの検出信号に基づいて、演算部35によりサンプルガス中の目的成分の濃度が算出される(演算ステップ)。例えば、サンプルガスにCO
2が含まれる場合には、CO
2中の
13CO
2及び
14CO
2の少なくとも一方を目的成分として、その目的成分の濃度が演算部35により算出されてもよい。光照射ステップ及び演算ステップは、光源部32により照射された光の強度変化を基にサンプルガスを分析する分析ステップを構成している。
【0045】
5.ガス吸収分光装置の別実施形態
図5は、ガス吸収分光装置の別実施形態を示した流路図である。本実施形態では、減圧部7、第2流路切替部52及び第2分岐路521が設けられている位置が上記実施形態とは異なるが、他の構成については上記実施形態と同様である。そのため、上記実施形態と同様の構成については、図に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0046】
図5のガス吸収分光装置では、第2流路切替部52がセル31よりも下流側に設けられている。すなわち、導出路5における第1流路切替部51と第2流路切替部52との間にセル31が介在しており、セル31を通過したガスが第2流路切替部52へと流れるようになっている。
【0047】
第1流路切替部51が分岐状態のときには、第1分岐路511を介して排気部6がカラム2内に連通する。一方、第1流路切替部51が非分岐状態のときには、カラム2が排気部6とは連通せず、セル31及び第2流路切替部52に連通した状態となる。
【0048】
第2流路切替部52が分岐状態のときには、第2分岐路521及びセル31を介して減圧部7が第1流路切替部51に連通する。一方、第2流路切替部52が非分岐状態のときには、セル31及び第1流路切替部51が減圧部7とは連通せず、導出路5の下流側(例えばドレン)に連通した状態となる。
【0049】
すなわち、第1流路切替部51を非分岐状態とし、第2流路切替部52を分岐状態とした場合には、カラム2が、第1流路切替部51、セル31及び第2流路切替部52を介して減圧部7に連通する。一方、第1流路切替部51を非分岐状態とし、第2流路切替部52も非分岐状態とした場合には、カラム2が、排気部6及び減圧部7のいずれにも連通しない。
【0050】
6.別実施形態における流路切替
図6A~
図6Cは、別実施形態における第1流路切替部51及び第2流路切替部52による流路切替の具体例について説明するための流路図である。
図6Aは、カラム2が排気部6に連通する状態を示している。
図6Bは、カラム2が減圧部7に連通する状態を示している。
図6Cは、カラム2が排気部6及び減圧部7のいずれにも連通しない状態を示している。
【0051】
サンプルガス中の目的成分の濃度を測定する際には、まず、
図6Aに示すように、第1流路切替部51が分岐状態とされることにより、カラム2が排気部6に連通した状態となる。そして、バルブ41が開状態とされ、ガス供給部1からカラム2内に、サンプルガスとともにキャリアガスが供給される(ガス供給ステップ)。このとき、加熱部23によるカラム2の加熱は行われない。これにより、カラム2内に導入されるサンプルガスが吸着剤21に吸着される。
【0052】
カラム2へのサンプルガスの導入は所定の導入時間だけ行われ、その後にバルブ41が閉状態に切り替えられる。カラム2内にはサンプルガスとともにキャリアガスが導入されるため、サンプルガスとキャリアガスがカラム2内に混在した状態となる。そして、
図6Bに示すように、第1流路切替部51が非分岐状態とされ、第2流路切替部52が分岐状態とされる。これにより、カラム2がセル31を介して減圧部7に連通した状態となる。
【0053】
図6Bに示した状態で真空ポンプ71が駆動されると、導出路5内のガスが強制的に排気(吸引)されることにより、導出路5が減圧されてカラム2に対して負圧となる。このとき、サンプルガスは吸着剤21に吸着されているため、サンプルガスをカラム2内に残したままキャリアガスがサンプルガスから分離され、分離されたキャリアガスがカラム2の外部へと導かれる(ガス分離ステップ)。減圧部7、第1流路切替部51及び第2流路切替部52などは、カラム2内のキャリアガスをカラム2の外部に導くためのガス分離機構100を構成している。
【0054】
カラム2内からのキャリアガスの分離は所定の分離時間だけ行われ、その後に第2流路切替部52が非分岐状態に切り替えられる。これにより、
図6Cに示すように、カラム2が排気部6及び減圧部7のいずれにも連通せず、カラム2がセル31にのみ連通した状態となる。このとき、事前に真空ポンプ30が駆動されることにより、セル31はカラム2に対して負圧となっている。この状態で、加熱部23によるカラム2の加熱が開始されることにより、吸着剤21に吸着されたサンプルガスが脱離され(加熱ステップ)、吸着剤21から脱離されたサンプルガスがセル31に導入される(セル導入ステップ)。真空ポンプ30及び第1流路切替部51などは、セル31内を負圧にすることにより、吸着剤21から脱離されたサンプルガスをセル31内へと導入させるセル導入機構200を構成している。
【0055】
その後、セル31内に導入されたサンプルガスには、光源部32から光が照射される(光照射ステップ)。そして、セル31内を通過した光が光検出器34で検出され(検出ステップ)、光検出器34からの検出信号に基づいて、演算部35によりサンプルガス中の目的成分の濃度が算出される(演算ステップ)。光照射ステップ及び演算ステップは、光源部32により照射された光の強度変化を基にサンプルガスを分析する分析ステップを構成している。
【0056】
図6Bに示した状態で真空ポンプ71が駆動されているときには、導出路5内のガスがセル31を介して減圧部7により吸引される。したがって、カラム2の外部に導かれるガスが、セル31内に満たされた状態となる。この時点で、光照射ステップ、検出ステップ及び演算ステップが開始されてもよい。すなわち、
図6B及び
図6Cのそれぞれの状態においてセル31内に光が照射され、セル31内を通過した光が光検出器34で検出されることにより、その検出信号に基づいてガス中の目的成分の濃度が算出されてもよい。
図6Bの状態であっても、カラム2の外部に導かれるガス中にサンプルガスが含まれる場合があるため、
図6Bの状態で分析部3による分析を開始することにより、ガス分離ステップ中にカラム2からセル31内に導かれるガスの分析を行うことができる。
【0057】
7.別実施形態の変形例
図5に示した別実施形態のガス吸収分光装置において、加熱部23によるカラム2の加熱を省略することも可能である。サンプルガスの種類又は分析条件などによっては、カラム2を加熱しなくても、カラム2の吸着剤21に吸着されたサンプルガスが負圧によりセル31に導入される場合がある。したがって、負圧を用いることにより、カラム2内のサンプルガスをセル31に導いて、分析を行うことも可能である。
【0058】
この場合、まず、
図6Aに示すように、第1流路切替部51が分岐状態とされることにより、カラム2が排気部6に連通した状態となる。そして、バルブ41が開状態とされ、ガス供給部1からカラム2内に、サンプルガスとともにキャリアガスが供給される(ガス供給ステップ)。これにより、カラム2内に導入されるサンプルガスが吸着剤21に吸着される。
【0059】
カラム2へのサンプルガスの導入は所定の導入時間だけ行われ、その後にバルブ41が閉状態に切り替えられる。カラム2内にはサンプルガスとともにキャリアガスが導入されるため、サンプルガスとキャリアガスがカラム2内に混在した状態となる。そして、
図6Bに示すように、第1流路切替部51が非分岐状態とされ、第2流路切替部52が分岐状態とされる。これにより、カラム2がセル31を介して減圧部7に連通した状態となる。
【0060】
図6Bに示した状態で真空ポンプ71が駆動されると、導出路5内のガスが強制的に排気(吸引)されることにより、導出路5が減圧されてカラム2に対して負圧となる。このとき、カラム2内のガスがセル31に導入される(セル導入ステップ)。カラム2内に導入されるガスには、吸着剤に吸着されたサンプルガスが含まれる。ただし、カラム2内のキャリアガス及びサンプルガスがセル31内に順次導かれてもよい。
【0061】
その後、セル31内に導入されたサンプルガスには、光源部32から光が照射される(光照射ステップ)。そして、セル31内を通過した光が光検出器34で検出され(検出ステップ)、光検出器34からの検出信号に基づいて、演算部35によりサンプルガス中の目的成分の濃度が算出される(演算ステップ)。光照射ステップ及び演算ステップは、光源部32により照射された光の強度変化を基にサンプルガスを分析する分析ステップを構成している。
【0062】
8.その他の変形例
以上の実施形態では、サンプルガスがCO2を含み、CO2中の13CO2及び14CO2の少なくとも一方を目的成分とする場合について説明した。ただし、このような構成に限らず、サンプルガスにCO2以外の成分が含まれていてもよい。この場合、ガス供給部1は、燃焼部11を含む構成に限られるものではない。例えば、サンプルガスは、揮発性有機化合物を含むものであってもよい。
【0063】
各バルブの切替、及び、真空ポンプ30,71の駆動は、例えばCPUを含むプロセッサにより構成される制御部(図示せず)が自動で制御するものであってもよいし、ユーザが手動で行ってもよい。上記制御部による制御は、例えば導出路5を流れるガスの圧力、又は、カラム2の温度などに基づいて行われる。導出路5を流れるガスの圧力は、例えば導出路5に圧力計を設けることにより検知することができる。また、カラム2の温度は、例えばカラム2に密着又は接近するように温度計を設けることにより検知することができる。また、ガス捕捉部20は、吸着剤21にサンプルガスを吸着させるものに限らず、他の態様でサンプルガスを捕捉するものであってもよい。
【0064】
以上の実施形態では、導出路5に第1流路切替部51及び第2流路切替部52などが設けられた構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、ガス吸光分光装置の流路構成は任意であり、例えば第1流路切替部51及び第2流路切替部52が1つの部材により構成されていてもよいし、他のバルブなどを用いて構成されてもよい。また、CRDSを用いてサンプルガス中の目的成分の濃度を算出するような構成に限らず、他の方法で目的成分の濃度が算出されてもよい。
【0065】
ガス吸光分光装置に限らず、他のガス分光装置に本発明を適用することも可能である。例えば、サンプルガスが導入されるセル内に励起光を照射することにより、サンプルガス中の目的成分が発する蛍光を光検出器で検出するような装置(蛍光装置)などにも、本発明を適用可能である。この場合、光源部は、レーザ光源ではなく、LED光源などのレーザ光以外の波長の光を出射するものであってもよい。
【0066】
9.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0067】
(第1項)一態様に係るガス分光装置は、
カラム、上流側流路及び下流側流路を有し、サンプルガスを捕捉するガス捕捉部と、
前記ガス捕捉部の上流側流路に接続され、前記カラム内にサンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給部と、
前記ガス捕捉部の下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導くガス分離機構と、
前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる加熱部と、
前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスが導入されるセルと、
前記セル内のサンプルガスに光を照射する光源部と、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析部とを備えていてもよい。
【0068】
第1項に記載のガス分光装置によれば、カラム内のキャリアガスが負圧によりカラムの外部に導かれるため、ガス捕捉部にサンプルガスが高濃度で捕捉される。したがって、ガス捕捉部からサンプルガスを脱離させてセル内に導入させることにより、セル内におけるサンプルガスの濃度を高めることができる。
【0069】
(第2項)第1項に記載のガス分光装置において、
前記サンプルガスは、CO2を含んでいてもよい。
【0070】
第2項に記載のガス分光装置によれば、サンプルガスに含まれるCO2をガス捕捉部に高濃度で捕捉し、そのCO2をガス捕捉部から脱離させてセル内に導入させることにより、セル内におけるCO2の濃度を高めることができる。
【0071】
(第3項)第2項に記載のガス分光装置において、
前記分析部は、
前記セル内から外部に出射する光を検出する光検出器と、
前記光検出器からの検出信号に基づいて、前記CO2中の13CO2及び14CO2の少なくとも一方の濃度を算出する演算部とをさらに備えていてもよい。
【0072】
第3項に記載のガス分光装置によれば、CO2に含まれる同位体13CO2及び14CO2の少なくとも一方の濃度を高精度で算出することができる。
【0073】
(第4項)第1項に記載のガス分光装置において、
前記セルは、筐体と、前記筐体内に配置されてキャビティを構成する高反射率ミラーとを有し、
前記分析部は、キャビティリングダウン吸収分光法により、サンプルガス中の目的成分の濃度を算出してもよい。
【0074】
第4項に記載のガス分光装置によれば、微量な目的成分による光吸収を検出することができるため、高い検出感度を実現することができる。
【0075】
(第5項)第1項に記載のガス分光装置において、
前記サンプルガスは、揮発性有機化合物を含んでいてもよい。
【0076】
第5項に記載のガス分光装置によれば、サンプルガスに含まれる揮発性有機化合物をガス捕捉部に高濃度で捕捉し、その揮発性有機化合物をガス捕捉部から脱離させてセル内に導入させることにより、セル内における揮発性有機化合物の濃度を高めることができる。
【0077】
(第6項)第1項に記載のガス分光装置において、
前記ガス分離機構は、前記下流側流路を減圧する減圧部を有していてもよい。
【0078】
第6項に記載のガス分光装置によれば、下流側流路を減圧部で減圧することによりカラム内に対して負圧とし、カラム内のキャリアガスをカラムの外部に導くことができる。
【0079】
(第7項)第6項に記載のガス分光装置において、
前記減圧部は、前記セルを介して前記下流側流路内のガスを吸引してもよい。
【0080】
第7項に記載のガス分光装置によれば、下流側流路を減圧する際にカラムの外部に導かれるガスが、カラムからセル内に導入される。例えば、下流側流路を減圧する際、カラムの外部に導かれるガス中にサンプルガスが含まれている場合には、そのガスをセル内に導いて、セル内のガスに光源部から光を照射することが可能である。
【0081】
(第8項)第1項に記載のガス分光装置において、
前記セル内を負圧にすることにより、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスを前記セル内へと導入させるセル導入機構をさらに備えていてもよい。
【0082】
第8項に記載のガス分光装置によれば、セル内を負圧にすることにより、キャリアガスを用いることなくガス捕捉部からセル内にサンプルガスを導入することができる。
【0083】
(第9項)一態様に係るガス分光方法は、
サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部に備えられたカラム内に、前記ガス捕捉部に備えられた上流側流路に接続されているガス供給部から、サンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給ステップと、
前記ガス捕捉部に備えられた下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記カラム内のキャリアガスを前記カラム外に導くガス分離ステップと、
前記カラムを加熱することにより前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスを脱離させる加熱ステップと、
前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスをセルに導入させるセル導入ステップと、
前記セル内のサンプルガスに光源部から光を照射する光照射ステップと、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析ステップとを含んでいてもよい。
【0084】
第9項に記載のガス分光方法によれば、カラム内のキャリアガスが負圧によりカラムの外部に導かれるため、ガス捕捉部にサンプルガスが高濃度で捕捉される。したがって、ガス捕捉部からサンプルガスを脱離させてセル内に導入させることにより、セル内におけるサンプルガスの濃度を高めることができる。
【0085】
(第10項)第9項に記載のガス分光方法において、
前記サンプルガスは、CO2を含んでいてもよい。
【0086】
第10項に記載のガス分光方法によれば、サンプルガスに含まれるCO2をガス捕捉部に高濃度で捕捉し、そのCO2をガス捕捉部から脱離させてセル内に導入させることにより、セル内におけるCO2の濃度を高めることができる。
【0087】
(第11項)第10項に記載のガス分光方法において、
前記分析ステップは、
前記セル内から外部に出射する光を光検出器で検出する検出ステップと、
前記光検出器からの検出信号に基づいて、前記CO2中の13CO2及び14CO2の少なくとも一方の濃度を算出する演算ステップとをさらに含んでいてもよい。
【0088】
第11項に記載のガス分光方法によれば、CO2に含まれる同位体13CO2及び14CO2の少なくとも一方の濃度を高精度で算出することができる。
【0089】
(第12項)第11項に記載のガス分光方法において、
前記セルは、筐体と、前記筐体内に配置されてキャビティを構成する高反射率ミラーとを有し、
前記分析ステップでは、キャビティリングダウン吸収分光法により、サンプルガス中の目的成分の濃度を算出してもよい。
【0090】
第12項に記載のガス分光方法によれば、微量な目的成分による光吸収を検出することができるため、高い検出感度を実現することができる。
【0091】
(第13項)第9項に記載のガス分光方法において、
前記サンプルガスは、揮発性有機化合物を含んでいてもよい。
【0092】
第13項に記載のガス分光方法によれば、サンプルガスに含まれる揮発性有機化合物をガス捕捉部に高濃度で捕捉し、その揮発性有機化合物をガス捕捉部から脱離させてセル内に導入させることにより、セル内における揮発性有機化合物の濃度を高めることができる。
【0093】
(第14項)第9項に記載のガス分光方法において、
前記ガス分離ステップでは、減圧部により前記下流側流路を減圧してもよい。
【0094】
第14項に記載のガス分光方法によれば、下流側流路を減圧部で減圧することによりカラム内に対して負圧とし、カラム内のキャリアガスをカラムの外部に導くことができる。
【0095】
(第15項)第14項に記載のガス分光方法において、
前記減圧部は、前記セルを介して前記下流側流路内のガスを吸引してもよい。
【0096】
第15項に記載のガス分光方法によれば、下流側流路を減圧する際にカラムの外部に導かれるガスが、カラムからセル内に導入される。例えば、下流側流路を減圧する際、カラムの外部に導かれるガス中にサンプルガスが含まれている場合には、そのガスをセル内に導いて、セル内のガスに光源部から光を照射することが可能である。
【0097】
(第16項)第9項に記載のガス分光方法において、
前記セル導入ステップでは、前記セル内を負圧にすることにより、前記ガス捕捉部から脱離されたサンプルガスを前記セル内へと導入させてもよい。
【0098】
第16項に記載のガス分光方法によれば、セル内を負圧にすることにより、キャリアガスを用いることなくガス捕捉部からセル内にサンプルガスを導入することができる。
【0099】
(第17項)別態様に係るガス分光方法は、
サンプルガスを捕捉するためのガス捕捉部に備えられたカラム内に、前記ガス捕捉部に備えられた上流側流路に接続されているガス供給部から、サンプルガスを送るためのキャリアガスを供給するガス供給ステップと、
前記ガス捕捉部に備えられた下流側流路を前記カラム内に対して負圧にすることにより、前記ガス捕捉部に捕捉されたサンプルガスをセルに導入させるセル導入ステップと、
前記セル内のサンプルガスに光源部から光を照射する光照射ステップと、
前記光源部により照射された光の強度変化を基に前記サンプルガスを分析する分析ステップとを含んでいてもよい。
【0100】
第17項に記載のガス分光方法によれば、カラム内のサンプルガスが負圧によりセルに導入されるため、カラムを加熱しなくても、サンプルガスをセルに導入することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 ガス供給部
2 カラム
3 分析部
4 導入路
5 導出路
6 排気部
7 減圧部
11 燃焼部
20 ガス捕捉部
21 吸着剤
22 封止部
23 加熱部
30 真空ポンプ
31 セル
32 光源部
33 光スイッチ
34 光検出器
35 演算部
41 バルブ
51 第1流路切替部
52 第2流路切替部
71 真空ポンプ
100 ガス分離機構
200 セル導入機構
221 フィルタ部材
222 保持部材
223 貫通孔
224 テーパ面
310 筐体
311 ミラー
312 ミラー
511 第1分岐路
521 第2分岐路