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特許7402485フラーレンナノウィスカーを含む複合材の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】フラーレンナノウィスカーを含む複合材の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/855 20230101AFI20231214BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20231214BHJP
   C01B 32/156 20170101ALI20231214BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20231214BHJP
【FI】
H10N10/855
H10N10/17 A
C01B32/156
C01B32/159
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019143538
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021027149
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大矢 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】大西 拓
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047882(WO,A1)
【文献】特開2018-186260(JP,A)
【文献】特開2007-191317(JP,A)
【文献】特開2013-155058(JP,A)
【文献】特開2011-241499(JP,A)
【文献】大西 拓、大矢 剛嗣,[10p-PB5-20]フラーレン複合紙の作製におけるドーピングの検討,2019年 第66回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2019年02月25日,p. 14-097
【文献】宮澤 薫一,フラーレンナノウィスカーの合成と性質,表面科学,Vol. 28, No. 1,日本,公益社団法人 日本表面科学会,2007年,pp. 34-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/855
H10N 10/17
H10K 85/20
H10K 10/00
C01B 32/156
C01B 32/159
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ分散液を所定の容器内で乾燥させてパルプ繊維を作製する工程と、
上記容器内にフラーレンの良溶媒飽和溶液を上記パルプ繊維の上から流し込む工程と、
上記容器内にフラーレンの貧溶媒を上記フラーレンの良溶媒飽和溶液と混ざり合わないように流し込む工程と、
所定時間放置して上記フラーレンの良溶媒飽和溶液と上記フラーレンの貧溶媒の液-液界面にフラーレンナノウィスカーを析出・成長させる工程と、
上記容器内で上記フラーレンナノウィスカーを乾燥し、所定の圧力を加えて上記パルプ繊維と一体化してフラーレンナノウィスカー複合紙とする工程とを実施することを特徴とするフラーレンナノウィスカーを含む複合材の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンナノウィスカーを含む複合材およびその作製方法と同複合材を使用した半導体デバイスに関し、さらに詳しく言えば、紙基材もしくは糸基材にフラーレンナノウィスカーを含ませてなるフラーレンナノウィスカー複合材および同フラーレンナノウィスカー複合材をn型の半導体素子として用いる半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子が六角形の各頂点に存在する蜂の巣構造のシートを丸めた円筒状を呈している。その特徴として、強靱な機械的強度、高い熱伝導性、高い電子移動度、それに金属的・半導体的性質を持つ、アスペクト比が高い等、多くの機能・特徴を有している。
【0003】
このような機能・特徴に着目して、カーボンナノチューブの応用例として、特許文献1には、紙原料のパルプ繊維にカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブ複合紙に、増感色素と電解液を含浸して色素増感太陽電池とすることが提案されている。
【0004】
また、別の応用例として、特許文献2には、カーボンナノチューブと糸との複合材料であるカーボンナノチューブ複合糸よりなる糸トランジスタが提案されている。
【0005】
ところで、半導体的カーボンナノチューブは基本的にp型であり、n型のものは不純物を添加するドーピング等により得ることができる。したがって、p型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブを含む複合糸(もしくは複合紙)とn型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブを含む複合糸(もしくは複合紙)を組み合わせることにより、半導体デバイスを作製することできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-241499号公報
【文献】特開2013-155058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ドーピングによって得られるn型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブを含む複合糸もしくは複合紙は、経時的にn型の半導体的性質が失われ安定性に欠ける、という問題がある。
【0008】
この点に関し、フラーレン(fullerene)およびその誘導体は、安定したn型の半導体的性質を有していることが知られているが、複合紙や複合糸としたときに安定的な導電性の獲得にまでは至っていない。
【0009】
ところで、フラーレンナノウィスカー(fullerene nanowhisker, FNW)は、C60やC70等のフラーレンが分子結合することによって構成される一次元状の物質であり、高い機械的強度やn型の半導体性質等、様々な特性を有している。
【0010】
そのため、フラーレンナノウィスカーは、電界効果トランジスタや太陽電池、化学センサや光触媒等について、種々の研究が行われており、応用展開が期待されている物質であるが、ナノサイズの物質であることから、取り扱いが困難である、という問題がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、フラーレンナノウィスカーを紙基材や糸基材に含ませて取り扱い易くするとともに、フラーレン複合材よりも安定したn型の半導体的性質を有する複合材の形態として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、フラーレンナノウィスカーを含む複合材を作製するにあたって、パルプ分散液を所定の容器内で乾燥させてパルプ繊維を作製する工程と、上記容器内にフラーレンの良溶媒飽和溶液を上記パルプ繊維の上から流し込む工程と、上記容器内にフラーレンの貧溶媒を上記フラーレンの良溶媒飽和溶液と混ざり合わないように流し込む工程と、所定時間放置して上記フラーレンの良溶媒飽和溶液と上記フラーレンの貧溶媒の液-液界面にフラーレンナノウィスカーを析出・成長させる工程と、上記容器内で上記フラーレンナノウィスカーを乾燥し、所定の圧力を加えて上記パルプ繊維と一体化してフラーレンナノウィスカー複合紙とする工程とを実施することを特徴としている。
【0013】
本発明において、上記パルプ繊維に対する上記フラーレンナノウィスカーの含有量1~20mass%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ナノサイズのフラーレンナノウィスカーを紙基材や糸基材に含ませて複合材とすることにより、ナノサイズのフラーレンナノウィスカーを取り扱い易くすることができる。また、フラーレンを紙基材や糸基材に含ませたフラーレン複合材よりも安定したn型の半導体的性質を有する複合材を得ることができる。
【0024】
n型のフラーレンナノウィスカー複合糸とp型の半導体的複合糸もしくはn型のフラーレンナノウィスカー複合紙とp型の半導体的複合紙とを組み合わせれば、糸(布)製のLSIや紙製のLSI、糸(布)製のダイオードや紙製のダイオード、糸(布)製の太陽電池や紙製の太陽電池等、糸(布)形状や紙形状の半導体デバイスを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)本発明によるフラーレンナノウィスカー複合紙の作製方法の第1実施例を示す模式図、(b)フラーレンナノウィスカーを得るLLIP法の説明図。
図2】(a)~(c)本発明によるフラーレンナノウィスカー複合紙の作製方法の第2実施例を示す模式図。
図3】本発明によるフラーレンナノウィスカー複合糸の作製方法を示す模式図。
図4】p-n型半導体紙の応用例として作製された電気回路の一例を示す模式的な断面図。
図5】p-n型半導体糸の応用例として作製された電気回路の一例を示す模式図。
図6】(a)p-n型半導体糸の別の応用例として作製された熱電発電デバイスの第1例を示す模式図、(b)熱電発電デバイスの第2例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図1ないし図6により、本発明のいくつかの実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0027】
まず最初に、図1の模式図を参照して、フラーレンナノウィスカー複合紙の作製工程の第1実施例について説明する。使用するフラーレン(fullerene)は、一般的なC60(例えば、MilliPore Sigma 社製C60)およびフラーレン誘導体のうちのn型の半導体的性質を示すフラーレン誘導体(例えば、MilliPore Sigma 社製PC61BM,PC71BM等)とする。
【0028】
図1(a)に示すように、手順(1),(2)として、紙の原料であるパルプ(例えば、225mg)を純水(例えば、15ml)に分散させてパルプ分散液(パルプ懸濁液)を作製する。
【0029】
これと並行して、手順(3)として、フラーレンナノウィスカー(FNW)の水分散液を用意する。フラーレンナノウィスカーは、フラーレン同士が分子結合により結合してできた一次元状の細いひげ結晶で、液-液界面析出法(LLIP法)によって作製することができる。
【0030】
LLIP法とは、トルエンやメタキシレン、ピリジン等、フラーレンの良溶媒飽和液の上に、フラーレンの貧溶媒であるアルコール(例えば、イソプロピルアルコール:IPA)を混ざり合わないように加え、液-液界面を形成することにより、その界面にフラーレンナノウィスカーの析出と成長を行わせる方法である。
【0031】
具体的には、図1(b)を参照して、フラーレンC60(例えば、40ml)をC60の良溶媒であるメタキシレン(例えば、10ml)に分散させたフラーレン分散液を容器内に入れる。次に、フラーレン分散液の上に、フラーレンの貧溶媒であるイソプロピルアルコール(例えば、10ml)をフラーレン分散液と混ざり合わないように慎重に滴下する。
【0032】
所定時間(例えば、5日間程度)放置して、フラーレン分散液とイソプロピルアルコールの界面にフラーレンナノウィスカーを析出・成長させた後、加熱して乾燥したフラーレンナノウィスカーを得る。
【0033】
そして、フラーレンナノウィスカーを、例えば50mgの純水と125mgのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる分散剤中に投入してフラーレンナノウィスカー水分散液を作製する。
【0034】
フラーレンナノウィスカーを分散させるにあたって、フラーレンナノウィスカーを1本単位にまで孤立させる必要はないが、ある程度均一化することが望ましい。そのためには超音波分散装置等を使用するとよい。超音波にて分散させる場合、一つの目安として1時間程度が好ましい。
【0035】
フラーレンナノウィスカーの紙への複合量としては、紙パルプに対する質量パーセントで1~20mass%であることが好ましい。1mass%未満では、複合紙としてn型の半導体的性質が顕著に表れない。他方において、20mass%超としても飽和状態でn型の半導体的性質のそれ以上の向上は見られない。
【0036】
もっとも、フラーレンナノウィスカーの濃度が濃ければ濃いほど、紙として銅褐色の色合いが強くなるので、使用用途に応じてフラーレンナノウィスカーの配合量を変えるとよい。
【0037】
次に、手順(4)として、手順(2)で作製したパルプ分散液(懸濁液)と、手順(3)で作製したフラーレンナノウィスカーの水分散液とを混合し、手順(5)として、通常の製紙プロセス(紙漉きプロセス)により、パルプ繊維にフラーレンナノウィスカーを含ませたフラーレンナノウィスカー複合紙を得る。
【0038】
なお、製紙プロセスについては、紙漉きではなく、パルプ分散液とフラーレンナノウィスカーの水分散液との混合液を皿状の容器に入れ水分のみを蒸発させて紙状(シート状)になったフラーレンナノウィスカー付きパルプ繊維の集合体を最終的に熱プレス等で成形する手法を採用してもよい。
【0039】
次に、図2(a)~(c)により、フラーレンナノウィスカー複合紙の別の作製方法について説明する。この作製方法では、一つの容器内でLLIP法によりフラーレンナノウィスカー複合紙を作製する。
【0040】
まず、図2(a)に示すように、上記手順(1),(2)で作製したパルプ分散液(懸濁液)を容器内に入れて乾燥させてパルプ繊維(紙)を作製する。乾燥させたパルプ繊維(紙)を容器内に入れてもよい。
【0041】
次に、フラーレンC60(例えば、40ml)をC60の良溶媒であるメタキシレン(例えば、10ml)に分散させたフラーレン分散液を図2(b)に示すように、紙の上から容器内に流し込む。
【0042】
次に、フラーレン分散液の上に、フラーレンの貧溶媒であるイソプロピルアルコール(例えば、10ml)をフラーレン分散液と混ざり合わないように慎重に滴下する。
【0043】
所定時間(例えば、5日間程度)放置して、フラーレン分散液とイソプロピルアルコールの界面にフラーレンナノウィスカーを析出・成長させた後、フラーレンナノウィスカーを加熱して乾燥させ熱プレスにて紙の上に堆積してフラーレンナノウィスカー複合紙を作製する。
【0044】
フラーレンナノウィスカーは元来n型の半導体的性質を示すことから、フラーレンナノウィスカー複合紙はn型の半導体的性質を有する複合紙である。
【0045】
次に、図3の模式図を参照して、フラーレンナノウィスカー複合糸の作製工程について説明する。
【0046】
一般的に使用されている綿糸,麻糸,羊毛,絹等の自然由来の糸のように染色可能な繊維については、上記のように手順(3)で調製したフラーレンナノウィスカーの水分散液中に浸漬し乾燥させてフラーレンナノウィスカー複合糸を得る(含浸法)。
【0047】
化学合成由来のポリエステル,ナイロン等の染料が染み込まない合成繊維糸の場合には、その表面を覆うようにフラーレンナノウィスカーを付与する(塗工法)。この塗工法については、図3のようにフラーレンナノウィスカーの水分散液中に浸漬し乾燥させるのではなく、フラーレンナノウィスカーの水分散液を繊維表面に塗ってもよい。
【0048】
上記のように作製された複合糸はフラーレンナノウィスカーが表面に露出する形になるため、糸の保護、表面絶縁性の付与、フラーレンナノウィスカーの剥離防止等を目的として、絶縁性の樹脂(例えばポリエチレン)もしくは合成繊維材料(例えばナイロン)により複合糸の表面をコーティングすることが好ましい。なお、電圧・電流・電力を取り出す端子部分においてはコーティングを剥がすか、未コーティング部としておく必要がある。
【0049】
次に、上記n型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合紙と組み合わされて使用されるp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合紙について説明する。カーボンナノチューブには、単層でp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブを使用する。この種のカーボンナノチューブには、例えば、NanoIntegris社製HiPcoがある。
【0050】
まず、紙材料,紙片(和紙,洋紙のいずれでも可),パルプ材を好ましくは細かく裁断し、水に溶かして紙原料の分散液(パルプ懸濁液)を用意する。具体的には、適当量の純水にパルプ繊維を入れ、十分に撹拌することによりパルプ懸濁液を得る。
【0051】
これとは別に、カーボンナノチューブを所定の分散剤(界面活性剤)とともに適当量の純水に投入し、カーボンナノチューブ分散液を得る。このとき、カーボンナノチューブ同士が凝集しないように超音波発生器により超音波振動を与えることが好ましい。
【0052】
なお、市販されているカーボンナノチューブ分散液、例えばNanoIntegris社製IsoNanotubes-S(半導体的カーボンナノチューブの水分散液で、カーボンナノチューブ含有量1mg/100ml)を使用してもよい。
【0053】
次に、パルプ懸濁液とカーボンナノチューブ分散液とを混合し十分に撹拌してパルプ繊維とカーボンナノチューブとを絡み合わせ、その混合溶液を紙漉きし、乾燥させることにより、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合紙を得る。
【0054】
次に、上記n型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸と組み合わせられて使用されるp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸について説明する。カーボンナノチューブには、単層でp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ(例えば、NanoIntegris社製HiPco)を使用する。
【0055】
カーボンナノチューブ複合糸を作製するのに必要なベースとなる糸(基材)には、一般的に使用されている綿糸,麻糸,羊毛,絹等の自然由来の糸もしくは化学合成由来のポリエステル,ナイロン等の合成繊維糸が用いられるが、これらの混合糸が用いられてもよい。
【0056】
カーボンナノチューブの糸への複合化については、基本的には手工染色等の手法と同様である(含浸法)。なお、糸をカーボンナノチューブ分散液に浸したまま、分散液を沸騰しない程度に加熱(60℃前後)し、水分を飛ばすことで濃縮されたカーボンナノチューブが糸をコーティングするような手法を取ることもできる。これによれば、より多くのカーボンナノチューブが糸に複合化される。
【0057】
また、合成繊維のように染料が染みこまないタイプの糸については、塗工法として、その表面にカーボンナノチューブ分散液を塗布して、乾燥させることにより、同様のカーボンナノチューブ複合糸が得られる。
【0058】
含浸法,塗工法のいずれを選択する場合でも、カーボンナノチューブを所定の分散剤(界面活性剤)とともに適当量の純水に投入し、カーボンナノチューブ分散液とする必要がある。このとき、カーボンナノチューブ同士が凝集しないように超音波発生器により超音波振動を与えることが好ましい。
【0059】
なお、市販されているカーボンナノチューブ分散液、例えばNanoIntegris社製IsoNanotubes-S(半導体的カーボンナノチューブの水分散液で、カーボンナノチューブ含有量1mg/100ml)を使用してもよい。
【0060】
作製された複合糸はカーボンナノチューブが表面に露出する形になるため、糸の保護、表面絶縁性の付与、カーボンナノチューブの剥離防止等を目的として、絶縁性の樹脂(例えばポリエチレン)もしくは合成繊維材料(例えばナイロン)により複合糸の表面をコーティングすることが好ましい。この場合、発電された電気を取り出す端子部分においてはコーティングを剥がすか、未コーティング部としておく必要がある。
【0061】
図4に、p型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブ複合紙と、n型の半導体的性質を有するフラーレンナノウィスカー複合紙とを組み合わせたp-n型半導体紙の応用例として作製される電気回路1を示し、これについて説明する。
【0062】
この電気回路1は、p型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブ複合紙からなるp型の半導体層11と、n型の半導体的性質を有するフラーレンナノウィスカー複合紙からなるn型の半導体層12とを備えている。
【0063】
図4には一部しか示されていないが、p型の半導体層11とn型の半導体層12は、それらの複数個が絶縁性の紙基材13上に例えばマトリクス状に配置される。p型の半導体層11とn型の半導体層12の間には、例えば紙基材に金属的性質を有するカーボンナノチューブを含ませた金属的性質のカーボンナノチューブ複合紙からなる電極層14が形成される。
【0064】
p型の半導体層11、n型の半導体層12および電極層14の上面は、カバーレイとしての絶縁紙15によって覆われる。
【0065】
p型の半導体層11の上面には、絶縁紙15を介して半導体層11に対するベース電極11aが形成され、また、n型の半導体層12の上面には、絶縁紙15を介して半導体層12に対するベース電極12aが形成される。
【0066】
ベース電極11a,12aは、上記電極層14と同じく、紙基材に金属的性質を有するカーボンナノチューブを含む金属的性質のカーボンナノチューブ複合紙により形成されることが好ましい。
【0067】
次に、図5を参照して、p型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブ複合糸と、n型の半導体的性質を有するフラーレンナノウィスカー複合糸とを組み合わせたp-n型半導体糸の応用例として作製される電気回路2について説明する。
【0068】
この電気回路2は、p型の半導体的性質を有するカーボンナノチューブ複合糸からなるp型複合糸21と、n型の半導体的性質を有するフラーレンナノウィスカー複合糸からなるn型複合糸22と、入力端子INおよび出力端子OUTを備えている。
【0069】
p型複合糸21とn型複合糸22の各一端は接合(結合)される。この実施形態において、p型複合糸21の他端は所定の電源Vccに接続され、n型複合糸22の他端はグランドGNDに接続される。
【0070】
入力端子INからp型複合糸21とn型複合糸22に対して電圧を印加する制御線23が引き出され、また、出力端子OUTはp型複合糸21とn型複合糸22の接合部から引き出される。
【0071】
制御線23は二股に分岐されており、一方の枝制御線23aは図示しない絶縁紙を介してp型複合糸21に少なくとも一巻きされる。
【0072】
また、他方の枝制御線23bも図示しない絶縁紙を介してn型複合糸22に少なくとも一巻きされる。なお、枝制御線23a,23bが絶縁被覆を備えている場合には、絶縁紙を用いることなくp型複合糸21とn型複合糸22に巻き付けることができる。
【0073】
この構成によれば、電気回路2は、入力端子INから正のパルス(もしくは負のパルス)が印加されると出力端子OUTには反転した負のパルス(もしくは正のパルス)が現れるインバータ回路として動作する。
【0074】
ところで、カーボンナノチューブ複合糸やフラーレンナノウィスカー複合糸に用いられる糸(基材)は、断熱性(低熱伝導性)であるため、それら複合糸の両端に温度差(温度勾配)を付けることができ、これにより発電する熱電発電デバイス(熱電発電糸)が得られる。
【0075】
その一例として、図6(a)に示す熱電発電デバイス(熱電発電糸)3では、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸(p型複合糸)31と、n型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸(n型複合糸)32とを用い、p型複合糸31とn型複合糸32の各一端部31a,32a同士を接合(結合)して複合糸対3pnとし、この複合糸対3pnの各他端部31b,32bに発電電力出力用のリード線33,33を接続する。
【0076】
複合糸対3pnは、接合された一端部31a,32a側が頂部で、他端部31b,32b側が裾部となる山型を呈し、発電させるにあたっては、p型複合糸31とn型複合糸32の各一端部31a,32a側をホット側(加熱側)、各他端部31b,32b側をコールド側(冷却側)とする。
【0077】
ホット側とコールド側の温度差は糸の耐熱温度にもよるが、加熱できる上限は100℃程度である(一例として、ホット側が100℃、コールド側が室温)。発電電力出力用のリード線33に金属的カーボンナノチューブ複合糸を用いることができる。
【0078】
また、この熱電発電デバイス3には、図6(b)に示すように、p型複合糸31とn型複合糸32を交互にジグザグ状に接続した態様、すなわち、図6(a)の熱電発電デバイス3の複合糸対3pnを繰り返し単位として、その複数個を直列に接続してなる熱電発電デバイス3Aも含まれる。
【0079】
この場合には、リード端子33は、熱電発電デバイス3Aの一方の端に配置されるp型複合糸31の他端部31bと、他方の端に配置されるn型複合糸32の他端部32bとに接続される。
【0080】
なお、図5および図6の各実施形態では、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸とn型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸とを、それらの各一端同士で接合(結合)しているが、1本の糸基材の長さ方向の半分にp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブを含ませてp型領域とし、残りの半分にn型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカーを含ませてn型領域とした半導体糸を用いることもできる。その場合、接合部分(結合部分)において、p型領域とn型領域とを例えば1mm程度重ね塗りするとよい。
【0081】
また、本発明には、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブからなるp型領域と、n型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカーからなるn型領域とを含む半導体糸を横糸および/または縦糸に用いた半導体布や半導体布による熱電発電デバイスの態様も含まれる。
【0082】
また、別の態様として図示しないが、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸の両端にn型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸を接続するか、またはn型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸の両端にp型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸を接続して直流電流を流すことにより、ペルチェ効果により、その接続点間で温度差が生ずる熱輸送デバイスとすることができる。
【0083】
なお、フラーレンナノウィスカーは圧力が加えられて変形することにより、例えば電圧等の変化が見られるため、圧力センサにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
上記したように、本発明によれば、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合紙とn型の半導体手的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合紙との組合せ、また、p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸とn型の半導体手的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸との組合せにより、種々の用途に応用することができる。
【0085】
上記複合紙同士の組合せによる具体的な用途例:パスポート、IDカード、証券、紙幣、家具、障子・ふすま等の建具、ダンボール等の梱包用品、壁紙、天井材等の建材への情報処理(トランジスタ等)機能の付与、太陽電池機能付与、ダイオード機能付与、発光ダイオード機能付与、センサ機能付与、熱電発電機能付与、熱輸送機能付与、人工衛星用途。
【0086】
上記複合糸同士の組合せによる具体的な用途例:一般布地用糸トランジスタ(刺繍糸)、布トランジスタ、LSI糸、LSI布、一般布地用糸ダイオード(刺繍糸)、布ダイオード、一般布地用発光ダイオード(刺繍糸)、布発光ダイオード、一般布地用糸太陽電池(刺繍糸)、布太陽電池、一般布地用熱電発電糸(刺繍糸)、熱電発電布、一般布地用熱輸送糸(刺繍糸)、熱輸送布、人工衛星用途、家具・インテリア用途、飛行機・列車・船舶、車載用途、感熱糸センサ、感熱布センサ、発熱糸、発熱布、冷却布、情報処理機能を有する衣服、力学センサ機能を持つ衣類、熱電発電/感熱センサ/発熱/冷却の機能を持つ衣服、カーテン、絨毯、テーブルクロス、ソファーシート、布団、布団カバー、枕、枕カバー、車の内装・シート、鞄、靴、帽子、寝具、寝具、タオル等。
【0087】
このように、複合紙、複合糸、複合糸による複合布ともに、情報処理性、発電性、センシング機能、発熱性・冷却性を付与したいもの、フレキシブルである必要があるもの等に適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 紙トランジスタ
11 p型半導体層
12 n型半導体層
13 紙基材
14 電極層
15 カバーレイ
11a,12a ベース電極
2 電気回路
21,31 p型複合糸(p型の半導体的性質を示すカーボンナノチューブ複合糸)
22,32 n型複合糸(n型の半導体的性質を示すフラーレンナノウィスカー複合糸)
3,3A 熱電発電デバイス(熱電発電布)
図1
図2
図3
図4
図5
図6