(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】メッキ物及びそれを形成する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/18 20060101AFI20231214BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20231214BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20231214BHJP
C23C 20/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C23C18/18
B01J23/44 M
B01J37/16
C23C20/06
(21)【出願番号】P 2019547260
(86)(22)【出願日】2018-04-04
(86)【国際出願番号】 SG2018050170
(87)【国際公開番号】W WO2018186804
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-01-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】10201702776V
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕崇
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ジン
(72)【発明者】
【氏名】タン、チュン ロン デスモンド
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/133751(WO,A1)
【文献】特開2011-241479(JP,A)
【文献】特開平7-30228(JP,A)
【文献】特開昭60-10796(JP,A)
【文献】特開昭58-16062(JP,A)
【文献】特開2001-271172(JP,A)
【文献】特開2007-329302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ物の製造方法において、
基板の表面上に電気伝導性層を形成する工程であって、前記基板が電気非伝導性であり、前記電気伝導性層が、導電性ポリマー、又は、導電性炭素材料であってグラフェン、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び炭素粉末からなる群から選択される導電性炭素材料を含んでなり、
前記電気伝導性層上に、パラジウムもしくは銀の触媒を付与する工程と、
前記触媒と無電解メッキ浴液とを接触させて前記基板の上に金属層を形成し、それによって前記メッキ物を形成する工程とを備え、
前記電気伝導性層に対する前記触媒の密度は1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm
2)未満であり、付与される前記触媒の質量に対する、無電解メッキにより形成される前記金属層の質量の比が、接触時間10秒以内で30を超える、方法。
【請求項2】
前記導電性炭素材料が還元型酸化グラフェンであり、
前記電気伝導性層を形成することが、
酸化グラフェンを含む混合物中に前記基板をディッピングする工程と、
前記酸化グラフェンが還元されて還元型酸化グラフェンを形成するように、酸化グラフェンが付着した前記基板を還元剤中にディッピングする工程とを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気伝導性層上に前記触媒を付与する工程が、触媒前駆体が前記電気伝導性層に付着するように、前記触媒前駆体を含む触媒溶液中に前記基板、及び前記基板の前記表面上の前記電気伝導性層をディッピング又は浸漬する工程からなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気伝導性層上に前記触媒を付与する工程が、前記触媒前駆体が還元されて前記触媒を形成するように、還元剤中に前記基板、前記基板の前記表面上の前記電気伝導性層及び、前記電気伝導性層に付着した前記触媒前駆体をディッピング又は浸漬する工程からなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記無電解メッキ浴液が金属前駆体及び還元剤を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒を前記無電解メッキ浴液に接触させる工程が、前記無電解メッキ浴液中に前記基板、前記基板の前記表面上の前記電気伝導性層、前記電気伝導性層上の前記触媒をディッピング又は浸漬する工程からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記無電解メッキ浴液の温度が、25℃~100℃の範囲から選択されるいずれか1つの値である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属層が金属又は金属合金を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属層が、ニッケル、コバルト、銅、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びスズからなる群から選択される1つ以上の元素を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
電気非伝導性である基板と、
前記基板上の電気伝導性層であって、導電性ポリマー、又は、導電性炭素材料であってグラフェン、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び炭素粉末からなる群から選択される導電性炭素材料を含んでなる電気伝導性層と、
前記電気伝導性層上の、パラジウムもしくは銀の触媒と、
前記基板の上の金属
層とからなり、
前記電気伝導性層に対する前記触媒の密度は1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm
2)未満であり、前記触媒の質量に対する、前記金属層の質量の比が
、30を超える、メッキ物。
【請求項11】
前記電気伝導性層に対する前記触媒の密度が、1平方センチメートルあたり0.1マイクログラム未満である、請求項10に記載のメッキ物。
【請求項12】
前記金属層が金属又は金属合金を含む、請求項10又は11に記載のメッキ物。
【請求項13】
前記金属層が、ニッケル、コバルト、銅、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びスズからなる群から選択される1つ以上の元素を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載のメッキ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の様々な側面は、メッキ物に関する。本開示の様々な側面は、メッキ物を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1947年にブレンナー(Brenner)及びリッデル(Riddell)によって無電解メッキが発明されて以来、それは、様々な産業における金属被覆の析出法として広く用いられてきた。無電解析出は、溶液中の化学還元剤の存在下で金属イオンをその金属状態に還元することができる。無電解析出は、析出のために存在する、さらなる動力源も外部電極も必要としない(動力源及び外部電極の両方を必要とする電気析出と比較して)。
【0003】
代わりに、無電解析出においては、化学反応を通じて還元剤によって電子が提供される。金属塩溶液中の抑制剤の存在下で、溶液全体ではなく、触媒表面でのみ反応が生じるようにその反応を制御することができる。無電解メッキにおいて、パラジウム(Pd)は、触媒として用いられる一般材料の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板上に析出されるPd触媒は、その市場価格が少なからず高いため、無電解析出の広範な使用に対するコスト障壁がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な実施形態は、メッキ物を形成する方法を提供してもよい。本方法は、基板の表面上に電気伝導性層を形成することを含んでもよい。本方法は、電気伝導性層上に又はそれに接触して触媒を付与することも含んでもよい。本方法はさらに、無電解メッキ浴液と触媒とを接触させて基板の上に金属層を形成し、それによってメッキ物を形成することを含んでもよい。
【0006】
様々な実施形態は、メッキ物に関してもよい。メッキ物は、基板を含んでもよい。メッキ物は、基板上に又はそれに対して電気伝導層も含んでもよい。メッキ物は、さらに、電気伝導性層上に又はそれに接触して触媒を含んでもよい。メッキ物は、さらに、基板の上に金属層を含んでもよい。
【0007】
本発明は、非限定的な例と添付図面とともに考慮するとき、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】様々な実施形態による、メッキ物を形成する方法を示す模式図。
【
図2】様々な実施形態による、メッキ物を示す模式図。
【
図3A】様々な実施形態による、電気非伝導性基板上の無電解析出プロセスを示す模式図。
【
図3B】様々な実施形態による、電気伝導性基板上の無電解析出プロセスを示す模式図。
【
図3C】様々な実施形態による、還元型酸化グラフェン(RGO)で被覆した電気非伝導性基板上の無電解析出プロセスを示す模式図。
【
図4】(A)無電解析出後の、パラジウム(Pd)触媒の2つの領域又はドメイン(円で示されている)を有する導電性基板の上にメッキされたニッケル(Ni)を示す画像、及び、(B)無電解析出後の、パラジウム(Pd)触媒なしの導電性基板を示す画像、を示す。導電性基板は、銅(Cu)シート又はホイルであってもよい。
【
図5A】様々な実施形態による、Na
2H
2PO
4処理の前後の酸化グラフェン(GO)のX線回折(XRD)パターンを示す、角度2θ(度又は°)の関数としての強度(任意単位又はa.u.)のプロット。
【
図5B】様々な実施形態による、Na
2H
2PO
4処理の前後の酸化グラフェン(GO)のラマンスペクトルを示す、ラマンシフト(パーセンチメートル又はcm
-1)の関数としての強度(任意単位又はa.u.)のプロット。
【
図6】様々な実施形態による、電気非伝導性の石英(SiO
2)基板の種々の試料:試料(i)高い充填量のパラジウム触媒、試料(ii)低い充填量のパラジウム触媒及び、試料(iii)還元型酸化グラフェン(RGO)により基板が被覆されたか又は覆われた低い充填量のパラジウム触媒、を処理するために用いた開始条件を示す表。
【
図7A】PdCl
2での処理後の、
図6で示した試料(i)の透過型電子顕微鏡画像。
【
図7B】PdCl
2での処理後の、
図6で示した試料(ii)の透過型電子顕微鏡画像。
【
図7C】PdCl
2での処理後の、様々な実施形態による、
図6で示した試料(iii)の透過型電子顕微鏡画像。
【
図8A】様々な実施形態による、種々の触媒化プロセス後の、様々な試料についての基板の上のニッケルの無電解析出量の経時的な変化を示す、析出時間(秒又はs)の関数としての析出量(マイクログラム又はμg)のプロット。
【
図8B】
図8Aにおいて言及した試料(ii)及び「ブランク」試料についての基板の上のニッケルの経時的な無電解析出量を示す、
図8Aのプロットの拡大図。
【
図9A】
図6において言及した様々な実施形態による、試料(i)及び試料(iii)についての質量活性の経時的な変化を示す、析出時間(秒又はs)の関数としての質量活性(無次元)のプロット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明は、本発明が実施されてもよい特定の詳細及び実施形態を例示として示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分詳細に説明されている。他の実施形態が用いられてもよく、また本発明の範囲から逸脱することなく、構造的な変更及び論理的な変更がなされてもよい。様々な実施形態は必ずしも相互排他的ではない。なぜなら、実施形態によっては、1つ以上の他の実施形態と組み合わせて新たな実施形態を形成することができるものもあるからである。
【0010】
方法のうちの1つ又は物のうちの1つの文脈において記載されている実施形態は、他の方法又は物に対して同様にあてはまる。同様に、方法の文脈において記載されている実施形態は、物に対して同様にあてはまり、逆もまた同様である。
【0011】
一実施形態の文脈において記載されている構成は、他の実施形態における同一又は同様な構成に対して同様に適用可能である。一実施形態の文脈において記載されている構成は、これらの他の実施形態において明示的に説明されていなくても、同様に他の実施形態に適用可能である。さらに、一実施形態の文脈において構成について記載されている追加及び/又は組み合わせ及び/又は代替物は、他の実施形態における同一又は同様な構成に同様に適用可能である。
【0012】
側面又は表面「上(に)」形成される析出材料について用いられる語「上(に)」は、本明細書において、析出材料が、含意される側面又は表面「上に直接に」、例えばそれに直接接触して、形成されてもよいことを意味するために用いられてもよい。側面又は表面「上(に)」形成される析出材料について用いられる語「の上(に)」は、また、析出材料が、含意される側面又は表面と析出材料との間に1つ以上のさらなる層が配置された、含意される側面又は表面「上に間接的に」形成されてもよいことを意味するために用いられてもよい。すなわち、第2層「の上の」第1層は、第2層上の直接の第1層を指してもよく、また、第1層と第2層とが、間にある1つ以上の層によって隔てられていることを指してもよい。
【0013】
本明細書において、物は、様々な向きで操作可能であってもよく、したがって、用語「上部」、「最上部」、「底部」、「最底部」などは、以下の説明で用いられる場合、便宜上用いられ、相対位置又は方向の理解の助けとなるものであって、物の向きを限定しようとするものではないことが理解されるべきである。
【0014】
様々な実施形態の文脈において、フィーチャ又は要素に関して用いられる冠詞「a」、「an」及び「the」は、フィーチャ又は要素のうちの1つ以上への言及を含む。
様々な実施形態の文脈において、数値に適用される用語「約」又は「おおよそ」は、その正確な数値及び妥当な変動を含む。
【0015】
本明細書において、用語「及び/又は」は、関連する記載項目のうちの1つ以上の、ありとあらゆる組み合わせを含む。
図1は、様々な実施形態によってメッキ物を形成する方法を示す模式図である。本方法は、102において、基板の表面上に電気伝導性層を形成することを含んでもよい。本方法は、104において、電気伝導性層上に触媒を付与することも含んでもよい。本方法はさらに、106において、触媒を無電解メッキ浴液に接触させて基板の上に金属層を形成し、それによってメッキ物を形成することを含んでもよい。
【0016】
言い換えれば、基板をメッキする方法が提供されてもよい。本方法は、最初に基板上に電気伝導性層を形成し、次いで、基板の上にかつ電気伝導性層と接触して適切な触媒を形成又は析出することを含んでもよい。本方法はさらに、基板をメッキする金属層を形成することを含んでもよい。
【0017】
様々な実施形態は、無電解メッキのコストを引き下げようとしてもよい。無電解メッキは、化学メッキ又は自己触媒メッキとしても知られ、水溶液でのいくつかの並行反応を含んでもよく、外部電力を使わずに行われてもよい、非ガルバニックメッキ方法である。メッキプロセス中、パラジウム(Pd)などの触媒の薄膜層が基板に付着することが必要とされてもよい。次いで、触媒が付着した基板は、物の上に金属層、すなわちメッキ金属/合金の層を形成する無電解メッキ浴液中に浸漬されてもよい。触媒は、メッキを開始するために1回のみ用いられてもよく、その後は無電解金属膜の継続的蓄積によって覆われて、再利用できなくてもよい。無電解メッキのコストは、用いられる触媒の量を、メッキプロセスに影響を与えることなく減少させることができれば、実質的に低減しうる。
【0018】
金属層は、電子の輸送及び移動又はそのいずれかを容易にしてもよく、ひいては無電解析出プロセスを容易にしてもよい。
本文脈において、「基板」は、メッキされていない任意の物を指してもよい。基板は、任意の適切な形状及びサイズであってもよい。
【0019】
本文脈において、「物」は、任意の適切な物品を指してもよい。非限定的な例は、ポリイミドを含む基板などのプラスチック体もしくはポリマー体、又はセラミック体であってもよい。「物」の非限定的な例は、例えば、誘電体ウエハなどの誘電体、又は半導体ウエハなどの半導体、又は織物であってもよい。
【0020】
様々な実施形態において、基板は電気非伝導性であってもよい。本文脈において、「電気非伝導性の」基板は、所定の閾値未満の、例えば10-5S/m未満の電気伝導率を有する基板であってもよい。
【0021】
様々な実施形態において、基板は、二酸化ケイ素などの絶縁体もしくは誘電体、又はポリイミドもしくはポリメチルシロキサン(PDMS:polymethyl siloxane)などのプラスチックもしくはポリマーを含むか又はそれからからなってもよい。様々な他の実施形態において、基板はセラミックを含んでもよい。さらに様々な他の実施形態において、基板は、シリコンなどの半導体を含むか又はそれからなってもよい。半導体はアンドープであってもよい。基板は織物を含むか又はそれからなってもよい。
【0022】
電気伝導性層は、任意の適切な電気伝導性材料を含んでもよい。適切な電気伝導性材料は、10-5S/mより大きい電気伝導率を有していてもよい。様々な実施形態において、電気伝導性層は、導電性炭素材料(すなわち電気伝導性炭素材料)又は導電性ポリマー(すなわち電気伝導性ポリマー)を含んでもよい。導電性炭素材料は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び炭素粉末からなる群から選択されるいずれか1つであってもよい。言い換えれば、電気伝導性層は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素粉末及び導電性ポリマーからなる(電気伝導性材料の)群から選択される電気伝導性材料のいずれか1つを含んでもよい。電気伝導性層は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び/又は導電性ポリマーなどの導電性炭素材料を含んでもよい。還元型酸化グラフェンは、10-5~10-4S/mの範囲の値を有していてもよい。
【0023】
電気伝導性層は、基板上の被覆を形成してもよい。
様々な実施形態において、電気伝導性材料は還元型酸化グラフェン(RGO)であってもよい。電気伝導性層(還元型酸化グラフェンを含む)を形成することは、酸化グラフェン(GO)を含む混合物中に基板をディッピング又は浸漬することを含んでもよい。本方法は、さらに、酸化グラフェンが還元されて還元型酸化グラフェンを形成するように、酸化グラフェンが付着した基板をヒドロ亜リン酸ナトリウム一水和物(NaH2PO4・H2O)、アスコルビン酸又はヒドラジンなどの還元剤中にディッピング又は浸漬することを含んでもよい。
【0024】
本文脈において、「混合物」は溶液又は懸濁液を指してもよい。混合物は、さらに、溶媒又は分散液を含んでもよい。酸化グラフェン(GO)は親水性であってもよく、溶媒又は分散液であってもよい水中に溶解又は分散されてもよい。
【0025】
様々な実施形態において、電気伝導性材料はカーボンナノチューブであってもよい。電気伝導性層(カーボンナノチューブを含む)を形成することは、カーボンナノチューブを含む混合物中に基板をディッピング又は浸漬することを含んでもよい。カーボンナノチューブを含む電気伝導性層は、次いで、基板の表面上に形成されてもよい。様々な実施形態において、混合物は、分散液中のカーボンナノチューブの分散を向上させるために界面活性剤を含んでもよい。
【0026】
様々な実施形態において、電気伝導性材料は、ポリアニリン又はポリチオフェンなどの導電性ポリマーであってもよい。電気伝導性層(導電性ポリマーを含む)を形成することは、導電性ポリマーを含む混合物中に基板をディッピング又は浸漬することを含んでもよい。導電性ポリマーを含む電気伝導性層は、次いで、基板の表面上に形成されてもよい。
【0027】
本文脈において、触媒は、メッキの形成、すなわち基板の上への金属層の形成を触媒する任意の物質であってもよい。触媒は、例えば、パラジウム(Pd)又は、電気触媒としての使用にも適した任意の触媒、例えば銀(Ag)であってもよい。触媒は、メッキプロセス後に化学的に不変のままであってもよい。
【0028】
様々な実施形態において、電気伝導性層上に触媒を付与することは、電気伝導性層上に又はそれに接触して触媒を形成することを含んでもよい。触媒は、化学的手段によって形成されてもよい。様々な実施形態において、電気伝導性層上に又はそれに接触して触媒を付与することは、触媒前駆体が電気伝導性層に付着するように、基板、基板の表面上の電気伝導性層及び触媒前駆体(を含む積層配置)を、触媒前駆体を含む触媒溶液中にディッピング又は浸漬することを含んでもよい。電気伝導性層上に又はそれに接触して触媒を付与することは、さらに、触媒前駆体が還元されて触媒を形成するように、還元剤中に基板、基板の表面上の電気伝導性層及び、電気伝導性層に付着する触媒前駆体をディッピング又は浸漬することを含んでもよい。
【0029】
様々な他の実施形態において、触媒は蒸着又はスパッタリングなどの任意の適切な析出法によって電気伝導性層上に又はそれに接触して付与されてもよい。
様々な実施形態において、電気伝導性層又は基板に対する触媒の密度又は充填量は、1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよく、例えば1平方センチメートルあたり0.5マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.1マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.05マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.04マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよい。言い換えれば、電気伝導性層上又は基板上への触媒の充填量は、1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよく、例えば1平方センチメートルあたり0.5マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.1マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.05マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.04マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよい。
【0030】
様々な実施形態は、基板の表面上に電気伝導性層を形成又は析出する前ステップのない従来のプロセスと比較して、必要とされる触媒の充填量を減少させてもよい。様々な実施形態において、触媒の充填量は、従来のプロセスと比較して少なくとも50倍少なくてもよい。
【0031】
様々な実施形態において、金属層は金属又は金属合金を含んでもよい。金属層は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)及びスズ(Sn)からなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。
【0032】
無電解メッキ浴液は、金属前駆体及び還元剤を含んでもよい。様々な実施形態において、ニッケル(Ni)を含む金属層を形成するために、金属前駆体は硫酸ニッケル(II)六水和物(NiSО4・6H2О)であってもよい。無電解メッキ浴液は、さらに、クエン酸ナトリウムなどの1つ以上の抑制剤を含んでもよい。クエン酸ナトリウムは、安定剤として機能してもよい。安定剤は、金属イオンがイオン状態にとどまるように浴中で金属イオンと複合体を形成してもよい。安定剤は、金属イオンの金属への変換を減少させ、それによって析出速度を減少させるのに役立ててもよい。無電解浴液は、浴液のpHの維持に役立てるため、ホウ酸などのpH緩衝液を含んでもよい。無電解メッキにおいて、安定速度でメッキを持続するためにpH調節が重要であってもよい。
【0033】
様々な実施形態において、無電解メッキ浴液と触媒とを接触させることは、基板、基板上の表面の電気伝導性層、電気伝導性層上の触媒(を含む積層配置)を無電解メッキ浴液にディッピング又は浸漬することを含んでもよい。無電解メッキ浴液の温度は、25℃(室温)~100℃、50℃~70℃の範囲から選択されるいずれか1つの値であってもよく、例えば約60℃であってもよい。
【0034】
様々な実施形態において、無電解メッキ浴液のpHは7より大きくてもよく、例えば約9であってもよい。
様々な実施形態において、付与される触媒の質量に対する、形成される金属層の質量の比は、30を超えてもよく、又は40を超えてもよく、又は45を超えてもよい。様々な実施形態において、付与される触媒の質量に対する、形成される金属層の質量の比は、47.5であってもよい。
【0035】
様々な実施形態は、本明細書に記載の方法のいずれか1つによって形成されるメッキ物に関してもよい。
図2は、様々な実施形態によるメッキ物200を示す模式図である。メッキ物200は基板202を含んでもよい。メッキ物200は、基板202上に又はそれに対して電気伝導性層204も含んでもよい。メッキ物200は、さらに、電気伝導性層204上に又はそれに接触して触媒206を含んでもよい。メッキ物200は、さらに、基板202の上に金属層208を含んでもよい。
【0036】
言い換えれば、メッキ物200は、メッキ金属層208に加えて、メッキ金属層208と基板202との間に電気伝導性層204及び触媒206も含んでもよい。
疑義を避けるために、メッキ物200は任意の形状及びサイズであってもよい。
図2は平面状の基板202を示しているが、様々な他の実施形態において、基板202が任意の他の形状であってもよいことも想定されてもよい。例えば、基板202は球形であってもよく、又は湾曲していてもよい。
【0037】
さらにまた、
図2は、電気伝導性層204及び金属層208が基板202の表面全体の上にあることを示しているが、様々な実施形態において、電気伝導性層204及び金属層208が基板202の一部の上にあってもよいことも想定されてもよい。言い換えれば、基板202のさらなる部分が、電気伝導性層204及び金属層208又はそのいずれかによって覆われていなくてもよい。
【0038】
様々な実施形態において、触媒206は、ナノ粒子などのナノ構造体の形態であってもよい。ナノ構造体は、互いに分離していてもよく、また互いに分離した複数のクラスターを形成してもよい。
【0039】
様々な実施形態において、各ナノ粒子の平均直径は100nm未満であってもよく、例えば約50nmであってもよい。
様々な実施形態において、電気伝導性層又は基板に対する触媒の密度又は充填量は、1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよく、例えば1平方センチメートルあたり0.5マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.1マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.05マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.04マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよい。言い換えれば、電気伝導性層上又は基板上への触媒の充填量は、1平方センチメートルあたり1マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよく、例えば1平方センチメートルあたり0.5マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.1マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.05マイクログラム(μg/cm2)未満、例えば1平方センチメートルあたり0.04マイクログラム(μg/cm2)未満であってもよい。
【0040】
様々な実施形態において、基板202は電気非伝導性であってもよい。
様々な実施形態において、電気伝導性層204は導電性炭素材料(すなわち電気伝導性炭素材料)又は導電性ポリマー(すなわち電気伝導性ポリマー)を含んでもよい。導電性炭素材料は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び炭素粉末からなる群から選択されるいずれか1つであってもよい。言い換えれば、電気伝導性層は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素粉末及び導電性ポリマーからなる群から選択される電気伝導性材料のいずれか1つを含んでもよい。電気伝導性層は、還元型酸化グラフェン、カーボンナノチューブ及び/又は導電性ポリマーなどの導電性炭素材料を含んでもよい。
【0041】
様々な実施形態において、触媒206はパラジウム又は銀であってもよい。
様々な実施形態において、金属層208は金属又は金属合金を含んでもよい。金属層208は、ニッケル、コバルト、銅、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びスズからなる(元素の)群から選択される1つ以上の元素を含んでもよい。金属層208は連続層であってもよく、又は連続層を形成してもよい。
【0042】
様々な実施形態において、触媒の質量に対する、形成される金属層の質量の比は、30を超えてもよく、又は40を越えてもよく、又は45を超えてもよい。様々な実施形態において、触媒の質量に対する、形成される金属層の質量の比は、47.5であってもよい。
【0043】
図3は、様々な実施形態による、(A)電気非伝導性基板302a上の無電解析出プロセス、(B)電気伝導性基板302b上の無電解析出プロセス、及び、(C)還元型酸化グラフェン(RGO)304で被覆した電気非伝導性基板302c上の無電解析出プロセス、を示す模式図である。
図3は、同じフィーチャを複数回示してもよい。乱雑さを避け明瞭さを向上させるために、必ずしもすべての例において、同じフィーチャに符号が付けられているわけではない。
【0044】
図3(A)に示すように、従来の無電解メッキにおいて、プラスチック基板又はセラミック基板などの非導電性基板302a上にニッケル(Ni)の完全かつ均質な金属被覆を開始するために、直径50nm以上を有し、非導電性基板302aの20%のカバレッジを有する分散された触媒ナノ粒子306a、例えばPdナノ粒子が必要であってもよい。
【0045】
導電性基板302bについては、
図3(A)に示すように、触媒化処理後、触媒ナノ粒子ドメイン306aの近傍で還元剤の酸化及び電子放出が局所的に起こり、不均質な金属ニッケル「島」308aが生成されてもよい。したがって、非導電性表面302aを均質に金属被覆するために、触媒ナノ粒子306aが、数μg/cm
2のオーダーで大量かつ高密度に分布し充填されることが必要とされてもよいが、それは、無電解析出のコストを増加させる場合がある。
【0046】
導電性基板302bについては、
図3(B)に示すように、触媒化処理後、還元種の酸化によって放出された電子は、導電性基板302bを離れて移動するか、それを通過するか又はその上に押し出されてもよく、結果としてその表面上に完全かつ均質なニッケル析出をもたらして金属層308bを形成する。実際、後で示すように、基板302bの表面上の一部の領域のみがPdナノ粒子306bを有する場合でも、導電性基板302b上全体にNi析出が生じてもよい。
【0047】
図3(C)は、様々な実施形態による、Pd触媒ナノ粒子306cの充填の前に電気伝導性層304で容易に機能化された非導電性基板302cを示す。電気伝導性層304は電子移動を可能にしてもよく、それによって、低充填量のPd触媒ナノ粒子の場合であっても、又は、低密度に析出されたPd触媒での処理の場合であっても、非導電性基板302cの全体に効率よく無電解析出が生じることを可能にしてもよい。
【0048】
図4は、(A)無電解析出後の、パラジウム(Pd)触媒の2つの領域又はドメイン(円で示されている)を有する導電性基板の上にメッキされたニッケル(Ni)を示す画像、及び、(B)無電解析出後の、パラジウム(Pd)触媒なしの導電性基板を示す画像、を示す。導電性基板は、銅(Cu)シート又はホイルであってもよい。
【0049】
図4(A)は、無電解析出が、Pd触媒化ドメインの上又はその近傍ばかりでなく、基板全体の上にわたって起きてもよいことを示している。
図4(B)は、ニッケルのメッキが目立たず、Pd触媒なしでは無電解析出が起こらない可能性があることを示している対照である。Niの酸化還元電位はCuより低いため、ガルバニック置換によっては、NiはCu基板上に析出しなくてもよい。加えて、CuはNaH
2PO
2(析出浴中で用いられる還元剤である)の酸化を触媒しない。Pdなどの触媒の存在なしにNaH
2PO
2を用いても、Cu基板上でNi無電解析出は起こらなくてもよい。
【0050】
グラフェンは超電導性であるため、グラフェンの被覆又は析出は、プラスチック又はセラミック表面を電気伝導性にしてもよい。グラフェンの電気伝導率特性は、sp2混成炭素原子の層によって形成されるその特有の2次元(2D)構造体に起因してもよい。
【0051】
しかしながら、グラフェンは水中で凝集し沈殿するため、グラフェンはその疎水性によって溶液プロセスには適していなくてもよい。しかしながら、酸化グラフェン(GO)は親水性であってもよく、水によく溶解又は分散してもよい。このように、GO溶液中に浸漬することによって、GOを固体基板上に被覆してもよい。このようなGO被覆された基板の表面は、それを還元剤溶液によって処理してGOを還元型酸化グラフェン(RGO)に還元することによって導電性にしてもよい。
【0052】
図3(C)に関連する考察について言えば、電気非伝導性基板上のRGO被覆は、非常に少量のPd充填量が用いられていても、通常の析出速度で無電解析出を誘発しうる。無電解析出プロセスにおいて、Pd触媒化ステップの前にRGO前処理(すなわちGOのrGOへの還元)ステップに取り掛かってもよい。本発明者らは、3.94×10
-2μg/cm
2という極めて低いPd充填量を用いても、十分な析出速度で金属析出が実行可能であってもよいことを見出した。これは、
図3(C)に関連する前の考察と一致してもよい。
【0053】
GOは、還元剤として機能するNaH
2PO
2によって首尾よくグラフェン様構造体、すなわちRGOに還元されてもよいことも実証されている。
図5Aは、様々な実施形態による、Na
2H
2PO
4処理の前後の酸化グラフェン(GO:graphene oxide)のX線回折(XRD:X‐ray diffraction)パターンを示す、角度2θ(度又は°)の関数としての強度(任意単位又はa.u.)のプロットである。
【0054】
X線回折(XRD)分析の結果は、0.9083nmの層間隔に対応する9.73°におけるGOピークが還元処理後に消失していることを示している。
還元後に26.22°に幅広いピークが出現し、これは、通常のグラフェン又はRGOの典型的なXRDプロファイルで見られるように、0.3nmの層間隔に関連する典型的なグラファイトの(001)反射に起因してもよい。純粋なグラフェン(26.5°)と比較して、NaH2PO2処理GOにおいて観察されるより低いピーク(26.22°)は、NaH2PO2の分解によって放出されたリンがRGO構造体に組み込まれ、グラフェン格子の拡張をもたらしたことを含意してもよい。
【0055】
NaH
2PO
2によるGOのRGOへの還元は、その処理の前後にGOのラマンスペクトルから確認されてもよい。
図5Bは、様々な実施形態による、Na
2H
2PO
4処理の前後の酸化グラフェン(GO)のラマンスペクトルを示す、ラマンシフト(パーセンチメートル又はcm
-1)の関数としての強度(任意単位又はa.u.)のプロットである。
【0056】
Dバンド(~1350cm-1)及びGバンド(~1600cm-1)に起因するピーク強度の比、すなわちID/IGは、0.886(処理前)から1.112(処理後)への有意な増加を示してもよい。この増加は、NaH2PO2によるGOの還元の結果として、GOシートにおける欠陥及び不規則度が、通常のグラファイトのsp2ドメインの欠陥及び不規則度に改変されたことを示していてもよい。
【0057】
図6は、様々な実施形態による、電気非伝導性の石英(SiO
2)基板の種々の試料:試料(i)高い充填量のパラジウム触媒、試料(ii)低い充填量のパラジウム触媒及び、試料(iii)還元型酸化グラフェン(RGO)により基板が被覆されたか又は覆われた低い充填量のパラジウム触媒、を処理するために用いた開始条件を示す表を示す。試料(i)は1/1Pdとしても表示されているが、1.5mM、すなわち1リットルあたり1.5ミリモルのPdCl
2で処理することによって処理される。試料(ii)は1/50Pdとしても表示されているが、30μΜ、すなわち1リットルあたり30マイクロモルのPdCl
2で処理することによって処理される。したがって、試料(ii)は、試料(i)を処理するために用いられるPdCl
2の濃度の1/50で処理される。試料(iii)は、1/50Pd&rGOとしても表示されるが、30μΜ、すなわち1リットルあたり30マイクロモルのPdCl
2で処理することにより処理される。しかしながら、上記で強調したように、試料(iii)の基板は、最初に還元型酸化グラフェン(RGO)で被覆されてもよい。
【0058】
図6は、試料(i)が、得られたPd充填量2.12μg/cm
2を有し、試料(ii)が、得られたPd充填量2.81×10
-2μg/cm
2を有し、試料(iii)が、得られた充填量3.94×10
-2μg/cm
2を有することを示している。試料(i)に対する試料(ii)のPdの充填量比は約1.33であるが、試料(i)に対する試料(iii)のPdの充填量比は約1.86である。
【0059】
図7Aは、PdCl
2での処理後の、
図6で示した試料(i)の透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscopy)画像を示す。
図7Bは、PdCl
2での処理後の、
図6で示した試料(ii)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図7Cは、PdCl
2での処理後の、様々な実施形態による、
図6で示した試料(iii)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【0060】
透過型電子顕微鏡(TEM)結果は、試料(i)が、直径50nm~500nmの粒径の、より多くのPdナノ粒子(単位面積あたり)が形成されていることを示しているのに対し、試料(ii)が、直径約5nmの平均粒径の、より少ないPdナノ粒子(単位面積あたり)が形成されていることを示していることを示している。試料(iii)も、直径約5nmの平均粒径の、試料(i)と比較してより少ないPdナノ粒子(単位面積あたり)が形成されていることを示している。加えて、試料(iii)のTEM画像において、シート構造体も観察されてもよい。これらの観察は、
図6で示された値と一致してもよい。
【0061】
図7Aと
図7Bを比較するとき、上記で強調したように、種々の密度及びサイズのPdナノ粒子が観察される。試料(i)については、より高いPdCl
2濃度で被覆するときに、おそらく、小さなナノ粒子が凝塊形成してより大きなナノ粒子を形成するため、Pdナノ粒子は比較的大きくてもよい。より高いPdCl
2濃度は、TEMグリッドに示すように、基板表面の、ナノ粒子でのより大きなカバレッジももたらしてもよい。
図7B及び
図7Cから、基板表面の上に、サイズ約50nmの、少量のPdナノ粒子のみが形成されてもよいことがわかる。
【0062】
極めて低いPd充填量を適用する前に基板をRGOで被覆することによって、通常のPd充填量(ただし、RGOの前被覆なし)が用いられたときに達成される無電解析出速度に匹敵する無電解析出速度を達成してもよい。
【0063】
図6は、試料(i)の10秒(s)での質量活性が約1.41であるのに対し、試料(ii)についての10sでの質量活性が約47.5であることを示している。質量活性は、Pdナノ粒子の充填量に対する、析出されるNiの質量の比として定義されてもよい。
【0064】
図8Aは、様々な実施形態による、種々の触媒化プロセス後の、様々な試料についての基板の上のニッケルの無電解析出量の経時的な変化を示す、析出時間(秒又はs)の関数としての析出量(マイクログラム又はμg)のプロットである。「試料(i)」、「試料(ii)」及び「試料(iii)」という表示は、
図6及び
図7A~
図7Cで示されているそれぞれの試料に関連する線を示す一方、「ブランク」とは、石英(SiO
2)基板(RGOなしだがPdを充填した)についてのデータのことをいう。「ブランク」試料は、ニッケルイオンを含まない浴中に浸漬され、参照として役立ててもよい。
図8Bは、
図8Aにおいて言及した試料(ii)及び「ブランク」試料についての基板の上のニッケルの経時的な無電解析出量を示す、
図8Aのプロットの拡大図である。
【0065】
図8A~
図8Bからわかるように、また試料(i)と試料(ii)とを比較することにより、触媒の充填量を減らすと、ニッケルの無電解析出速度は大幅に減少しうる。実際、試料(ii)について、事実上ないか又はごくわずかな量のNi析出が観察されてもよい。減少されたPd濃度の実験、すなわち試料(ii)の結果は、「ブランク」試料から得られた測定値の結果と同様であってもよい。原理的には、無電解Ni析出は、触媒化なしには生じなくてもよい。
【0066】
RGO前処理(試料(iii))を用いれば、30μΜのPdCl
2溶液に対して、Pd充填量は、なお極めて少量であってもよい(
図6参照、3.94×10
-2μg/cm
2)。しかしながら、ニッケルの無電解析出速度は、RGOなしの試料(i)(
図8A参照)のそれに著しく匹敵してもよい。試料(iii)の低いPd充填量及び高い無電解ニッケル析出速度は、RGOが、無電解析出のための触媒化プロセスの向上に極めて効果的でありうること、また、少ない量のPdナノ粒子触媒が、事前のRGO前処理とともに用いられてもよいことを示してもよい。量的には、μgでの析出したNiの質量によって計算されるとともにμg単位でのPd充填量によって正規化された質量活性は、
図6に示すように、10sの析出時間(t)において試料(iii)について47.5であってもよい。この値は、試料(i)について得られた値よりも34倍高くてもよい(試料(i)についての質量活性は、t=10sにおいて1.41である)。
【0067】
図9Aは
図6において言及した様々な実施形態による、試料(i)及び試料(iii)についての質量活性の経時的な変化を示す、析出時間(秒又はs)の関数としての質量活性(無次元)のプロットである。
図9Bは、
図9Aに示したプロットの拡大図である。
【0068】
Ni析出に関するRGOの促進は、他の非導電性基板であるポリイミドを用いても実証された。RGOで前処理してPd触媒を充填した試料について、無電解析出後にニッケルが明確に観察されてもよい。対照的に、RGO前処理なしでPd触媒の同様な充填量を有する他の試料について、ポリイミド基板の外観は変化しなかったが、これは、RGOなしでの不十分なニッケル析出を示してもよい。これらの実験は、非導電性表面のRGO被覆が、極めて少量のPd充填量を用いた場合であっても、通常の析出速度で無電解析出を誘発しうることを示している。
【0069】
RGO前処理は、工業的金属被覆プロセスの費用対効果を向上させてもよい。Pdプレデポジションは、過去50年にわたってすべての無電解析出プロセスにおいて用いられてきた。従って、Pd充填前のRGO前処理は、よく使用されるこの触媒の費用対効果を向上させてもよい。
【0070】
実験の詳細
装置
還元型酸化グラフェン(RGO)及びPdナノ粒子の微細構造は、走査透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、200kVで操作して観察した。酸化グラフェン(GO)及びRGOのグラファイト状構造体は、X線回折装置(パナリティカル(PANalytical)、Empyrean)及びラマン分光装置(stellar‐Pro ML150レーザー、レニショー(Renishaw) 633nm HeNeレーザー及びライカ(Leica)DM2500顕微鏡)によって特徴付けた。析出されたPdナノ粒子の量(Pd充填量)は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP‐MS:inductively coupled plasma mass spectrometer)を用いて測定した。Ni析出は、基本周波数8.9MHzで鏡面仕上げのSiO2被覆Au共振器(セイコーイージーアンドジー(Seiko Eg&G)、QA‐A9M SiO2‐S(M))を用い、水晶振動子マイクロバランス(QCM:quartz crystal microbalance:)(セイコーイージーアンドジー(Seiko Eg&G)、QCM922A)によってモニターした。
【0071】
化学薬品
酸化グラフェン(GO)溶液(水分散液、2mg/ml)、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaH2PO2・H2О)、塩化パラジウム(II)(PdCl2)、クエン酸ナトリウム二水和物(HOC(COONa)(CH2COONa)2・2H2О)、ホウ酸(H3BO3)及び硫酸ニッケル(II)六水和物(NiSО42・6H2О)はシグマ アルドリッチ(Sigma‐Aldrich)から購入した。GO溶液は、脱イオン(DI:deionised)水で0.2mg/mlに希釈した。
【0072】
還元型酸化グラフェン(RGO)前処理
SiO2被覆ATカット水晶振動子基板をエタノールで洗浄し、空気乾燥させた。洗浄して乾燥させた基板をGO希釈溶液(0.2mg/ml)中に1分間ディッピングした。次いで、その基板に空気を吹き付けて乾燥させ、それに付着する過剰な溶液を除去した。次いで、それをNaH2PO2溶液(0.2M)中に1分間ディッピングし、GOのRGOへの還元をもたらした。前記のシーケンスを5回繰り返した。
【0073】
QCM基板へのPd触媒の充填
RGO被覆基板をPdCl2(1%塩酸(HCl)で1.5mM又は30μΜ)中に10sディッピングし、次いで、順にNaH2PO2(0.2M)中に10sディッピングした。各ステップ後に基板に空気を吹き付けた。この段階的Pd触媒充填プロセスを2回繰り返した。次いで、基板をDI水で洗浄した。
【0074】
QCMによるニッケル析出のin situ測定
RGOで被覆してPdナノ粒子を析出したQCM基板を、無電解Ni析出の前に、Dip Cell(セイコーイージーアンドジー(Seiko Eg&G)、QA‐CL3)に組み付けた。組み付けられたユニットを、試験の前に、水性条件下でPdナノ粒子の活性を維持するためにNaH2PO2中に浸漬した。無電解Ni析出のためのNi浴液は、0.2Mクエン酸ナトリウム、0.5Mホウ酸、15g/L硫酸ニッケル(II)六水和物及び25g/L次亜リン酸ナトリウム一水和物を含んでいた。Ni浴液のpHは、NaOHによって9.0に調整した。QCM測定中、無電解析出中の周波数変化を検出するために、組み付けたDip Cell(石英基板を含む)を無電解Ni浴液に浸漬し、その無電解Ni浴液の温度を60℃に維持した。加えて、ブランク試料として、石英基板を2サイクルのPd(30μΜ PdCl2溶液中)で処理し、次いで、それを、その浴液が硫酸ニッケル(II)六水和物を含まないこと以外は組成、pH及び温度が無電解Ni浴液のものと同じ他の浴液中にディッピングした。
【0075】
QCMは、Ni無電解析出中に析出したNiの量を測定するために用いられる。Niの析出は基板の質量を変化させ、それは、以下のソルベリー(Sauerbrey)の式を用いて、QCMにより石英の周波数の減少を算出することによって検出される。
【0076】
質量活性は、以下の式を用いて、Pdナノ粒子の充填量(mPd)で正規化された析出したNiの質量(mNi)で示される。
質量活性=mNi/mPd (1)
Pd充填量(mPd)は、ICP‐MSによって測定した。
【0077】
NaH2PO4によって還元されたRGОの特徴付け
石英基板上に析出されたRGOは、XRD及びラマン分光法のためには厚さが十分ではないので、NaH2PO2(0.2M)によるGO(2mg/ml)還元を、分散液に懸濁した十分な量のRGO混合物ゲルを得るために1:9の比で混合してから試験した。遠心分離及び濾過によって分散液から混合物ゲルを分離した。続いて、グラファイト状構造体を特徴付けるために、XRD及びラマン分光法のために混合物ゲルをドライボックス中で乾燥させた。同じ量のGO(2mg/mL)も、同様にガラススライス上にディッピングし、ドライボックスに入れてGO粉末を得た。
【0078】
本発明を、特定の実施形態を参照して例証し説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく形態及び詳細の様々な変更をこの中で行いうることは、当業者によって理解されるであろう。このように、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、したがって特許請求の範囲と等価な意味及び範囲内に入るすべての変更は含まれるものとする。