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特許7402524悪液質を治療及び/又は予防する医薬品の製造におけるAMD3100の使用、及びAMD3100を含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】悪液質を治療及び/又は予防する医薬品の製造におけるAMD3100の使用、及びAMD3100を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/395 20060101AFI20231214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A61K31/395
A61P35/00
A61P43/00 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020514681
(86)(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2017102264
(87)【国際公開番号】W WO2019056175
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-04-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503168289
【氏名又は名称】中山大学
【氏名又は名称原語表記】SUN YAT-SEN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】135 Xingang Xi Road, Haizhu District, Guangzhou, Guangdong 510275, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】項 鵬
(72)【発明者】
【氏名】汪 建成
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】原田 隆興
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特許第4862046号公報
【文献】Molecular Cancer Research,2007年,Vol.5,No.7,p.685-694
【文献】メルクマニュアル、第18版、2007年、1234頁
【文献】Frontiers in Oncology,2014年,vol.4,Article169,p.1-11
【文献】上原記念生命科学財団研究報告集、2016年、30巻、1-5頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン又はその薬学的に許容される塩を含み、腫瘍悪液質が発生した被験体の脂肪組織におけるNestin+細胞の減少を抑制するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野に関し、特に腫瘍悪液質を治療及び/又は予防する医薬品の製造におけるAMD3100又はその薬学的に許容される塩の使用、AMD3100又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物、及びAMD3100又はその薬学的に許容される塩を用いる悪液質を治療及び/又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍悪液質は、がん患者に多くみられる合併症の一つである。主な症状は、不本意な体重減少及び食欲不振である。がん患者の少なくとも30%は悪液質で死亡し、少なくとも50%は死亡時に悪液質を伴っている。エディンバラ大学の臨床科学及び地域保健学部のFearon教授らにより起草された腫瘍悪液質の定義については、基本的にコンセンサスに達している。悪液質は、患者の骨格筋量の減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とし、通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る多因子性の症候群である。腫瘍悪液質は、患者の生活の質を低下させるだけでなく、腫瘍治療に対する耐性をもたらし、治療効果を低下させる。そのため、腫瘍悪液質の治療は、腫瘍の治療及び患者の生活の質の向上に対して非常に重要な役割を果たす。
【0003】
多くの研究により、悪液質のメカニズムについての理解が深まっている。腫瘍悪液質は、病態生理学的には食物摂取の減少と代謝異常によるタンパク質とエネルギーの負のバランスを特徴とする。現在、多くの臨床研究は腫瘍悪液質が発生した動物モデルにおいて進歩を遂げたが、臨床には腫瘍悪液質の予防と治療に用いられる承認薬がない。臨床では、主に栄養サポートと運動により腫瘍悪液質の発症を遅らせている。
【0004】
そのため、より良い治療結果を達成するために、腫瘍悪液質の発症メカニズムと発症の初期段階での標的介入を深く理解する必要がある。
【0005】
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSC)は、骨髄で発見された最初の非造血幹細胞であり(Friedenstein,A.J.,et al,1974)、骨髄造血微小環境の構成に関与し、造血幹細胞の増殖と分化に対して顕著な促進作用を有する。MSCは、全身のさまざまな組織や臓器に広く分布し、骨髄に加えて、歯茎、骨格筋、脂肪、その他の組織にも存在し、組織損傷の修復と恒常性の維持に関与する。MSCは、特異的マーカーを有さず、主にCD29、CD44、CD73、CD90、CD105及びCD166などの間葉系マーカーを発現し、CD11b、CD14、CD19、CD34、CD45などの造血に関連するマーカーを発現しない。
【0006】
ネスチン(Nestin)は、中間径フィラメントタンパク質である。胚発生過程の初期において、Nestinは、多能性分化能を有する神経上皮幹細胞で発現する。成体組織において、中間径フィラメントタンパク質Nestinは、完全に分化していない、特定の増殖を維持する成体幹細胞/前駆細胞集団でのみ発現する。従って、このようなNestin+細胞は、成体幹細胞プールの重要な部分であり、生体幹細胞の恒常性維持において大きな役割を果たしている。最近、Mendez-Ferrerらは、Nestin-GFPトランスジェニックマウスを用いて骨髄にNestin+細胞集団が存在し、インビトロでクローンに増殖することができ、骨形成、脂肪生成、軟骨形成の分化特性を有することを初めて実証しており、これは、中間径フィラメントタンパク質Nestinが骨髄間葉系幹細胞(MSC)の重要なマーカーであることを示している。本発明者らは、以前にNestin-GFPトランスジェニックマウスを用いて研究した結果、精巣、腎臓、心臓などの組織から選別されたGFP陽性細胞は、自己複製能及び多分化能を有するとともに、病変組織を修復する能力を有することを発見した。これらの結果は、Nestin+MSCが組織恒常性の維持に対して非常に重要な役割を果たすことを示している。
【0007】
上記より、成体幹細胞は、さまざまな臓器の寿命を伴い、自己複製機能、及び損傷組織を置換又は修復する機能を有する。MSCは、成体幹細胞のメンバーとして、インビボ組織の恒常性を維持するための重要な成分である。腫瘍発生の過程において、腫瘍は、Nestin+ MSCを腫瘍微小環境に動員する能力を有する。Nestin+MSCが腫瘍に動員されることで、組織恒常性が破壊され、臓器や組織の機能不全が引き起こされ、腫瘍悪液質を誘発する要因となる。
【0008】
MSCは、多種のケモカイン受容体及び接着分子受容体を発現し、リガンドの存在下で、損傷又は炎症の部位へのMSCの遊走を媒介することができる。腫瘍発生の過程において、MSCは、腫瘍微小環境に動員されることが多く報告されている。2011年、Michael Quanteらにより、胃ヘリコバクター・ピロリ誘導慢性胃がんマウスモデルにおいて、病変組織は骨髄からNestin+細胞を動員することが発見された。2014年、Diana Kleinらにより、マウスB16F10及びLLC腫瘍は、骨髄以外の組織のNestin+細胞を血管形成に関与するように動員できることが発見された。これらの結果から、腫瘍は、NestinをマーカーとするMSCを動員する能力を有することが明らかである。しかしながら、腫瘍がMSCを動員するメカニズムはまだ不明である。
【0009】
AMD3100は、プレリキサフォルとも呼ばれ、化学名は1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカンであり、構造式は以下の通りである。
【0010】
AMD3100は、1994年に初めて合成され、HIV感染、炎症性疾患、幹細胞動員、白血病、固形腫瘍を治療できることが知られている。しかしながら、AMD3100の悪液質の予防及び治療に関する報告はない。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、長期間の研究により、化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン又はその薬学的に許容される塩は、悪液質を効果的に治療及び/又は予防でき、腫瘍悪液質の治療に新しいアイデアを提供し、腫瘍患者の症状を遅らせたり軽減したりするのに役立ち、治療効果の改善、生活の質の向上、生存期待の延長に有利であることを発見した。
【0012】
本発明の一態様では、悪液質を治療及び/又は予防する医薬品における化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン又はその薬学的に許容される塩の使用が提供される。
【0013】
本発明の別の態様では、化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン又はその薬学的に許容される塩を含む、悪液質を治療及び/又は予防する医薬組成物が提供される。
【0014】
好ましくは、前記医薬組成物は、少なくとも1種の他の医薬品をさらに含む。
【0015】
本発明の医薬品又は医薬組成物は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サルなど)における悪液質の治療及び/又は予防に使用できる。
【0016】
本発明の別の態様では、治療及び/又は予防を必要とする被験体に有効量の化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン若しくはその薬学的に許容される塩、又はそれらを含む医薬組成物を投与することを含む、悪液質を治療及び/又は予防する方法がさらに提供される。
【0017】
本発明に記載の被験体は、任意の動物を指し、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サルなどの哺乳動物を含むが、これらに限定されない。
【0018】
本発明の方法は、特定の有効量の他の医薬品又は医薬組成物と併用して悪液質の治療及び/又は予防に相乗的に作用することにも適している。
【0019】
本発明の医薬品又は医薬組成物は、任意の生理学的に許容される経路により投与され得る。投与経路は、例えば、経口、注射などである。本発明の実施例において、AMD3100の剤形は注射剤である。
【0020】
前記治療及び/又は予防或いは他の治療及び/又は予防に使用される場合には、本発明の化合物及び組成物の1日の総投与量は、合理的な医学的判断の範囲内で担当医によって決定される必要がある。患者に対する具体的な治療有効量のレベルは、多くの要因に応じて決定される必要がある。前記要因は、治療される障害及び障害の重症度、使用される具体的な化合物の活性、使用される具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状況、性別及び飲食、使用される具体的な化合物の投与時間、投与経路及び排泄率、治療持続時間、使用される具体的な化合物と組み合わせて使用される又は同時に使用される医薬品、並びに医療分野で知られている類似の要因を含む。例えば、当分野では、化合物の投与量を所望の治療効果を得るために必要なレベルよりも低いレベルから、所望の効果が得られるまで徐々に増加させる。
【0021】
本発明の医薬品又は医薬組成物は、薬学的に許容される剤形に製剤化することができる。一般的には、医薬品の有効成分は、治療的投与の総質量の1~95%を占める。医薬品の剤形は、様々な投与形態に適する必要があり、例えば、経口剤(例えば、錠剤、カプセル剤、溶液又は懸濁液)、注射可能な製剤(注射可能な溶液若しくは懸濁液、又は注射可能な乾燥粉末(使用前に滅菌水又は無菌注射用媒体に溶解又は分散すれば直ちに使用することができる))などであってもよい。製剤の調製は、従来のプロセスを使用することができる。
【0022】
本発明の医薬品又は医薬組成物は、薬学的に許容される添加剤又は担体をさらに含んでもよい。必要に応じて薬学的に許容される添加剤又は担体を任意に選択することができる。これらの添加剤又は担体は、当分野で広く知られているものであり、経口剤に使用されるバインダー(例えば、澱粉、ゼラチン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及び/又はポリビニルピロリドン)、希釈剤(例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリセリン)、潤滑剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸又はその塩(通常、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム)及び/又はポリエチレングリコール)、必要に応じて崩壊剤(例えば、澱粉、寒天、アルギン酸又はその塩(通常、アルギン酸ナトリウム)及び/又は発泡性混合物)、共溶媒、安定剤、懸濁剤、色素、香味料など;注射可能な製剤に使用される防腐剤、可溶化剤、安定剤など;局所製剤に使用される基質、希釈剤、潤滑剤、防腐剤などを含む。
【0023】
本発明に記載の「薬学的に許容される」という用語は、添加剤又は担体が薬効成分と適合性があり、好ましくは薬効成分を安定化することができ、治療される個体に有害ではないことをいう。
【0024】
本発明に記載の悪液質は、悪性腫瘍、結核、糖尿病、血液疾患、内分泌疾患、感染症、後天性免疫不全症候群などの慢性疾患のうち、著しい体重減少、食欲不振などを主症状とする全身症候群であり、例えば、がん悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質、後天性免疫不全症候群による悪液質である。
【0025】
好ましくは、前記悪液質は腫瘍悪液質(即ち、腫瘍による悪液質)である。
【0026】
好ましくは、前記悪液質の治療及び/又は予防は、腫瘍悪液質の症状を軽減又は改善することを含む。
【0027】
好ましくは、前記悪液質の治療及び/又は予防は、悪液質の病状である筋肉減少及び脂肪減少を軽減又は改善することを含む。
【0028】
本明細書で使用される悪液質の治療及び/又は予防は、患者の悪液質症状を軽減又は改善することを含み、前記症状は、筋肉減少及び脂肪減少を含むが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、元の生物活性を維持でき、医療用途に適した特定の塩を指す。化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカンは、様々な無機酸及び有機酸と多くの異なる塩を生成することができる。前記塩を調製可能な酸は、無毒の酸付加塩を生成する酸である。前記塩は、クエン酸塩、マレイン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などを含むが、これらに限定されない。好ましくは、前記塩は、臭化水素酸塩及び塩酸塩から選択される。
【0030】
本明細書で使用される「治療」という用語は、病状を軽減又は改善すること、即ち、病症又は少なくとも1種の臨床症状の進行を遅延又は抑制することをいう。
【0031】
本明細書で使用される「予防」という用語は、前記病症の症状が出る前に、被験体に本発明の化合物を投与することをいう。
【0032】
本明細書で使用されるように、被験体が生物学的、医学的又は生活の質に治療から恩恵を受ける場合、被験体はこのような治療を「必要」とする。
【0033】
本発明者らは、生体の間葉系幹細胞の欠如が腫瘍悪液質の発生の原因であることを指摘し、長期的研究により、化合物1,1′-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ジ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン又はその薬学的に許容される塩が悪液質を効果的に治療及び/又は予防できることを発見し、悪液質の治療に新しいアイデアを提供した。前記化合物及びその塩は、主に筋肉、脂肪など多くの組織の間葉系幹細胞に対する腫瘍の動員を遮断することにより、生体組織の恒常性が維持され、悪液質の発生が遅延されるとともに、患者の悪液質の症状が軽減又は緩和され、治療効果が改善され、生活の質が向上し、患者の生存期待が延長する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1A-1Dは、それぞれC57 BL/6悪液質群マウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の状況及び対照群の状況を示す。図1Aはマウス摂食状況、図1Bはマウスの体重状況、図1C及び1Dはそれぞれ脂肪組織及び筋肉組織の重量状況を示す。
図2図2A-2Dは、それぞれNestin-GFPトランスジェニックマウス対照群及び悪液質群を示す。図2A及び2Bはそれぞれマウス脂肪組織切片の免疫蛍光染色、切片におけるNestin-GFP+細胞の統計を示す。図2Cは、定量的リアルタイムPCR(Quantitative Real-time PCR)により脂肪組織におけるNestin発現を検出した結果を示す。図2D及び2Eはそれぞれマウス筋肉組織切片の免疫蛍光染色、切片におけるNestin-GFP+細胞の統計を示す。図2Fは定量的リアルタイムPCRにより筋肉組織におけるNestin発現を検出した結果を示す。
図3】Nestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の状況を示す。図3Aはマウス腫瘍組織切片の免疫蛍光染色、及び切片におけるNestin-GFP+細胞の統計を示す。図3Bは定量的リアルタイムPCRにより腫瘍組織におけるGFP発現を検出した結果を示す。図3C及び3Dは、フローサイトメトリーにより末梢血中のNestin-GFP+細胞を検出した結果を示す。
図4】腫瘍ケモカイン発現の定量的リアルタイムPCRの検出結果を示す。
図5】マウスの筋肉及び脂肪組織におけるNestin陽性細胞でのケモカイン受容体の発現の検出結果を示す。
図6】Cxcl 12によりマウスNestin+細胞の遊走を促進する実験の結果を示す。
図7】AMD3100によりインビボでNestin+細胞の遊走を抑制する実験の結果を示す。
図8】インビボでAMD3100を使用した後、マウス腫瘍悪液質症状のモニタリング結果を示す。
図9】インビボでAMD3100を使用した担がんマウスの生存期間の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明をさらに説明する。
AMD3100は、米国ApexBio社から購入し、医薬品番号はA2025である。
特に明記しない限り、実施例で使用される試薬は、当該技術分野における従来の試薬であり、商業的に購入することができる。実施例に具体的に記載されていない実験操作は、当分野におけるすべての通常操作であるか、又は従来技術又は共通の一般知識に基づいて当業者によって理解され又は知られ得る。
【0036】
実施例1:ルイス肺がんLLCの培養、マウスNestin+細胞の分離及び培養
1.1 LLC細胞培養:DMEM基礎培地(10%ウシ胎児血清含有)でLLC細胞(ATCC #CRL-1642)を培養し、使用に備えた。
【0037】
1.2 マウス筋肉Nestin+細胞の分離
成体Nestin-GFPトランスジェニック雄マウス(Dr Masahiro Yamaguchiにより提供されたが、商業的に購入してもよい)を取り、無菌条件下で両側腓腹筋を完全に切り取った直後、PBSを含むペトリ皿に置いた。筋肉ブロックをPBSで3回リンスし、筋肉組織に切断し、血管、神経、結合組織をできるだけ取り除いた。I型コラゲナーゼで筋細胞を消化分離した。具体的には、筋肉組織を遠沈管に移し、I型コラゲナーゼを加えた後、37℃の恒温振盪水浴タンクに入れ、30分間消化した。血清を加えて消化を停止し、消化液を1,100rpmで4分間遠心分離し、上清を吸引除去し、沈殿をPBSで再懸濁し、200メッシュの濾過網で濾過した。濾液を収集し、4分間遠心分離し、上清を取り除き、沈殿をPBSに加えて再懸濁し、フローサイトメーターによりNestin+細胞を選別した。
【0038】
1.3 マウス脂肪Nestin+細胞の分離
雄Nestin-GFPトランスジェニックマウス(約6週齢)を選択し、無菌条件下でマウスの鼠径部の脂肪組織を分離し、PBSで十分に(少なくとも6回)洗浄した後、ハサミで脂肪組織を十分に細断し、0.1%コラゲナーゼIV+0.05%トリプシン+0.1%DispaseII混合液を10ml加え、37℃で60分間撹拌した。その後、10%FBSを含むα-MEM培地に加えて消化を停止し、100メッシュ及び200メッシュの篩で濾過し、800gで5分間遠心分離し、上清を取り除き、培地を加え、軽くピペッティングして均一に混合することで細胞懸濁液を調製し、フローサイトメーターによりNestin+細胞を選別した。
【0039】
1.4 マウス筋肉及び脂肪由来のNestin+細胞の培養
前記1.2、1.3で筋肉、脂肪組織から得られたNestin+細胞をDMEM/低糖(10%ウシ胎児血清)培地で接着培養した。
【0040】
実施例2:マウスの飼育及び腫瘍悪液質モデルの構築
2.1 マウス飼育方法:通常のマウス飼料(タンパク質の含有量:20-25wt%、脂肪の含有量:5%-10wt%、粗繊維の含有量:3-5wt%)でマウスを飼育した。
【0041】
2.2 マウス腫瘍悪液質モデルの構築
体重差が2g以下の雄C57 BL/6マウス(8週齢;南京大学モデル動物学研究所から購入)又はNestin-GFPトランスジェニックマウスを取り、マウスをランダムに対照群と悪液質群に分けた。悪液質群の各マウスの鼠径部に約4×10個のルイス肺がんLLC細胞を皮下注射し、実験はクリーンベンチ内で行った(無菌操作)。接種の当日を0日目とし、次いで1日目、2日目・・・とした。腫瘍接種後の7日目に、担がんマウスの体重が減少し始め、腫瘍悪液質が既に発生しており、21日目に、マウスの体重が著しく減少し、悪液質の症候が顕著になった。
【0042】
実施例3:マウス腫瘍悪液質の評価
実施例2の悪液質群マウスに腫瘍を接種した後、毎日同じ時刻にマウスの毛色、活動状況、体重、摂食量及び腫瘍のサイズを観察し、対照群と比較した。腫瘍を接種した後、2日ごとに21日目まで、或いは7日目、14日目、21日目に麻酔薬の過剰摂取でマウスを安楽死させ、腫瘍組織を摘出し、全ての動物に対して腫瘍を除去した後の体重を測った。大腿四頭筋(QUAD)、腓腹筋(GAST)、前脛骨筋(TA)、精巣上体脂肪組織(eWAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)、肩甲骨間褐色脂肪組織(iBAT)を分離してそれぞれ重量を測った。
【0043】
図1Aは、対照群と悪液質群C57 BL/6マウスの毎日の摂食検出結果を示す。図1Bは、対照群と悪液質群マウスの体重測定結果を示す。図1C及び1Dは、それぞれ脂肪組織及び筋肉組織の重量測定結果を示す。図1から分かるように、C57 BL/6マウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後、マウスには腫瘍悪液質が発生した。
【0044】
実施例4:マウス骨格筋、脂肪組織、腫瘍におけるNestin-GFP+細胞の検出
4.1 免疫蛍光染色
対照群及び悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスに対してそれぞれ大腿四頭筋(QUAD)、腓腹筋(GAST)、前脛骨筋(TA)を分離し、4%PFAで8時間固定した後、30%濃度(質量)のショ糖に変更して48時間脱水し、凍結切片を作製した。Laminin抗体で基底膜を標識した後、蛍光二次抗体をインキュベートし、0.2%の1g/mL DAPIで細胞核を5分間対比染色した後、0.01M PBSで2回洗浄し、顕微鏡で観察した。
【0045】
対照群及び悪液質群のC57 BL/6マウスに対してそれぞれ精巣上体脂肪組織(eWAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)、肩甲骨間褐色脂肪組織(iBAT)を分離し、4%PFAで8時間固定した後、アルコールで段階的に脱水した後、パラフィン切片を作製した。キシレン、アルコールで段階的に脱パラフィンした後、上述した骨格筋の染色法に従ってNestin抗体で染色し、顕微鏡で観察した。
【0046】
悪液質群Nestin-GFPトランスジェニックマウスの腫瘍組織は、筋肉組織と同様に処理した。凍結切片を作製した後、0.2%の1g/mL DAPIで細胞核を5分間対比染色し、0.01M PBSで2回洗浄し、顕微鏡で観察した。
【0047】
図2Aは、悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の7日目、14日目、21日目、及び対照群マウスの脂肪組織切片の免疫蛍光染色の観察結果を示す。図2Bは、悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の7日目、14日目、21日目のマウス脂肪組織切片におけるNestin-GFP+細胞の統計、及び対照群のNestin-GFP+細胞の統計結果を示す。
【0048】
図2Dは、悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の7日目、14日目、21日目、及び対照群を21日間培養した後のマウス筋肉組織切片の免疫蛍光染色の観察結果を示す。図2Eは、悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の7日目、14日目、21日目、及び対照群を21日間培養した後のマウス筋肉組織切片におけるNestin-GFP+細胞の統計結果を示す。
【0049】
図3Aは、悪液質群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後の7日目、14日目、21日目の腫瘍組織切片の免疫蛍光染色の観察結果を示す。図3C及び3Dは、フローサイトメトリーにより対照群及び悪液質群のマウス末梢血中のNestin-GFP+細胞を検出した結果を示す図である。
【0050】
4.2 定量的リアルタイムPCR
定量PCRによりNestin遺伝子発現を分析する具体的なステップは、具体的に以下の通りである。実施例2の各実験群のマウスから筋肉(QUAD、GAST、TA)及び脂肪(eWAT、iWAT、iBAT)を取り、悪液質群のマウスから腫瘍組織を取り、液体窒素で組織を粉砕した後、Trizol法により総RNAを抽出した。RNAを逆転写し、一本鎖cDNAを得た後、Roche社のLC480システムを用いて定量的リアルタイムPCRによりNestin又はGFP遺伝子発現の状況を検出した。用いたNestinプライマーは、5’-GGCTACATACAGGATTCTGCTGG-3’(F)及び5’-CAGGAAAGCCAAGAGAAGCCT-3’(R)であり、用いたGFPプライマーは5’-GGA GCT GCA CAC AAC CCA TTGCC-3’(F)及び5’-GAT CAC TCT CGG CAT GGA CGAGC-3’(F)であった。
【0051】
検出結果を図2C、2Fに示す。図2Cは、Nestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後、定量的リアルタイムPCRにより脂肪組織におけるNestin発現を検出した結果を示す。図2Fは、Nestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後、定量的リアルタイムPCRにより筋肉組織におけるNestin発現を検出した結果を示す。
【0052】
図3Bは、Nestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後、定量的リアルタイムPCRにより腫瘍組織におけるGFP発現を検出した結果を示す。
【0053】
実施例4の検出結果から分かるように、Nestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植した後、骨格筋及び脂肪組織におけるNestin-GFP+細胞は減少し続け、腫瘍におけるNestin-GFP+細胞は増加し続けた。
【0054】
実施例5:腫瘍ケモカイン発現の検出、及びマウスMSCケモカイン受容体発現の検出
5.1 定量的リアルタイムPCRによる腫瘍ケモカイン発現の検出
4.2に記載の腫瘍組織の処理方法に従って一本鎖cDNAを得た後、Roche社のLC480システムを用いて定量的リアルタイムPCRにより各ケモカイン遺伝子の発現状況を検出した。
定量的リアルタイムPCRに用いた各プライマーは以下の通りである。
(1)マウスCcl2プライマー:
5’-TGTCATGCTTCTGGGCCTGCT-3’(F)及び5’-TTCACTGTCACACTGGTCACT-3’(R)
(2)マウスCcl3プライマー:
5’-GGTCTCCACACTGCCCTT-3’(F)及び5’-TCAGGCATTCAGTTCCAGGTC-3’(R)
(3)Ccl5プライマー:
5’-ATATGGCTCGGACACCACTC-3’(F)及び5’-TCCTTCGAGTGACAAACACG-3’(R)
(4)Ccl7プライマー:
5’-GTGTCCCTGGGAAGCTGTTA-3’(F)及び5’-CTTTGGAGTTGGGGTTTTCA-3’(R)
(5)Ccl8プライマー:
5’-CGCAGTGCTTCTTTGCCTG-3’(F)及び5’-TCTGGCCCAGTCAGCTTCTC-3’(R)
(6)Cxcl1プライマー:
5’-GCTGGGATTCACCTCAAGAA-3’(F)及び5’-AAGGGAGCTTCAGGGTCAAG-3’(R)
(7)Cxcl2プライマー:
5’-GCCAAGGGTTGACTTCAAGA-3’(F)及び5’-TTCAGGGTCAAGGCAAACTT-3’(R)
(8)Cxcl3プライマー:
5’-TTCTAAATCAGAGAAAAGCGAT-3’(F)及び5’-TAGATGCAATTATACCCGTAG-3’(R)
(9)Cxcl11プライマー:
5’-TGTAATTTACCCGAGTAACGGC-3’(F)及び5’-CACCTTTGTCGTTTATGAGCCTT-3’(R)
(10)Cxcl12プライマー:
5’-TGCATCAGTGACGGTAAACCA-3’(F)及び5’-TTCTTCAGCCGTGCAACAATC-3’(R)
(11)HGFプライマー:
5’-TCTTGCCAGAAAGATATCCC-3’(F)及び5’-TTTTAATTGCACAATACTCCC-3’(R)
定量的リアルタイムPCRの結果を図4に示す。図4から分かるように、マウス腫瘍ではケモカインCxcl12が高度に発現した。
【0055】
5.2 マウスMSCケモカイン受容体Cxcr4発現の検出
マウス脂肪及び筋肉由来の細胞を4%PFAで15分間固定した後、0.2% Tritonで15分間浸透し、さらに1%BSAで30分間ブロッキングした。1:100で希釈したNestin抗体(マウスに由来)及び1:100で希釈したCxcr4抗体(ウサギに由来)を4℃で14時間インキュベートした。PBSで10分間かけて3回洗浄した後、37℃で緑色マウス蛍光二次抗体(1:500)及び赤色ウサギ蛍光二次抗体(1:500)を30分間インキュベートした。PBSで10分間かけて3回洗浄した後、0.2% 1g/mLDAPIで細胞核を5分間対比染色し、0.01M PBSで2回洗浄し、顕微鏡で観察した。結果から分かるように、マウス筋肉及び脂肪組織から分離されたNestin+細胞はCxcr4を発現した。
【0056】
実施例6:Cxcl 12によりマウスNestin+細胞の遊走を促進する実験
Corning Transwellチャンバー(8μm孔径)を24ウェルプレート上に置き、インビトロで培養された筋肉及び脂肪由来のNestin+細胞(実施例1を参照)を2X10個/ウェルでTranswellのチャンバーに接種し、5%CO、37℃のインキュベーター内で培養した。各ウェルから500μlのDMEM/低糖をTranswell下部チャンバーに加えた。ここで、実験群には1μmol/mLのCxcl12因子が含まれ、対照群にはCxcl12因子が添加されなかった。24時間後にチャンバーを取り出し、綿棒でチャンバー内側の細胞を拭き取り、軽くリンスした後、無水エタノールで固定して2回洗浄した。各群のチャンバーにマークしてそれぞれ廃棄されたウェルプレート上に置き、各ウェルにクリスタルバイオレット染色液を加え、室温で15分間インキュベートした後、過剰な染色液を洗い流した。倒立顕微鏡で各群の遊走細胞の数を検出し、ランダムに5つの視野(400倍)を選択し、各群の顕微鏡下の遊走細胞の数を計算し、各群に3つの重複ウェルで測定し、得られた結果の平均値を算出した。結果を図6に示す。図6から分かるように、Cxcl 12は、マウスNestin+細胞の遊走を促進することができる。
【0057】
実施例7:AMD3100によりインビボでNestin+細胞の遊走を抑制する実験
体重差が2g以下の雄C57 BL/6マウス(8週齢)を選択し、対照群(Control)、悪液質群(LLC)及びAMD3100群(LLC+AMD3100)に分けた。
対照群:処理しなかった。
悪液質群:4X10個のLLCをマウスの鼠径部に皮下移植した。7日後、100μlの10%抱水クロラールでマウスを麻酔し、その背部の皮下に生理食塩水を含有するAlzet徐放性ポンプ(型番:1004)を埋め込んだ。
AMD3100群:4X10個のLLCをマウスの鼠径部に皮下移植した。7日後、100μlの10%抱水クロラールでマウスを麻酔し、その背部の皮下にAMD3100を含有するAlzet徐放性ポンプ(型番:1004)を埋め込んだ。マウスAMD3100の用量は0.15mg/kg体重/日であった。徐放性ポンプを埋め込んだ14日後にマウスを安楽死させ、筋肉及び脂肪組織を取り、切片を作製し、免疫蛍光染色を行い、又はRNAを抽出して逆転写し、定量的リアルタイムPCRによりNestinの発現を検出した。
【0058】
免疫蛍光染色の結果を図7A、7Bに示す。図7Aは、悪液質群及びAMD3100群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植してから21日後、並びに対照群マウスを21日培養した後のマウス脂肪組織切片の免疫蛍光染色の観察結果を示す。図7Bは、悪液質群及びAMD3100群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植してから21日後、並びに対照群マウスを21日培養した後のマウス脂肪組織切片におけるNestin-GFP+細胞の統計結果を示す。
【0059】
図7Cは、悪液質群及びAMD3100群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植してから21日後、並びに対照群マウスを21日培養した後のマウス筋肉組織切片の免疫蛍光染色の観察結果を示す。図7Dは、悪液質群及びAMD3100群のNestin-GFPトランスジェニックマウスにLLC腫瘍細胞を皮下移植してから21日後、並びに対照群マウスを21日培養した後のマウス筋肉組織切片におけるNestin-GFP+細胞の統計結果を示す。
【0060】
実験の結果から分かるように、インビボでAMD3100を使用した後、担がんマウスの骨格筋及び脂肪組織におけるNestin-GFP+細胞は増加した。
【0061】
実施例8:AMD3100により担がんマウスの生存期間を延長する実施例
体重差が2g以下の雄C57 BL/6マウス(8週齢)を選択し、対照群(Control)、悪液質群(LLC)、及びAMD3100群(LLC+AMD3100)に分けた。
対照群:処理しなかった。
悪液質群:4X10個のLLCをマウス鼠径部に皮下移植した。7日後、100μlの10%抱水クロラールでマウスを麻酔し、その背部の皮下に生理食塩水を含有するAlzet徐放性ポンプ(型番:1004)を埋め込んだ。
AMD3100群:4X10個のLLCをマウス鼠径部に皮下移植した。7日後、100μlの10%抱水クロラールでマウスを麻酔し、その背部の皮下にAMD3100を含有するAlzet徐放性ポンプ(型号:1004)を埋め込んだ。マウスAMD3100の使用量は0.15mg/kg体重/日であった。腫瘍細胞を接種してから35日後までマウス状態を継続的に観察した。
【0062】
実験結果を図8図9に示す。
【0063】
図8Aは、各実験群マウスの体重状況を示す。図8Bは、各実験群マウスの脂肪及び筋肉組織が萎縮した状況を示す。図8Cは、各実験群マウスの脂肪及び筋肉の重量の状況を示す。図8の実験結果から分かるように、インビボでAMD3100を使用した後、マウス腫瘍悪液質の症状が緩和された。
【0064】
図9は、各実験群マウスの生存期間の比較図である。同図から分かるように、インビボでAMD3100を使用することにより、担がんマウスの生存期間を延長することができる。
【0065】
本発明では、上記実験により、腫瘍悪液質の発生が間葉系幹細胞に関係があることを実証し、腫瘍悪液質が発生したマウス筋肉及び脂肪組織におけるNestin+間葉系幹細胞の含有量を評価した。マウス筋肉及び脂肪に対して切片及び免疫蛍光染色を行い、Nestin+細胞の数を統計した結果、腫瘍悪液質が発生したマウスは正常マウスより少ないNestin+細胞を有することが発見された。また、定量的リアルタイムPCRにより、腫瘍悪液質が発生したマウス筋肉及び脂肪においてNestinの発現が低下したことが分かった。以上の結果は、腫瘍悪液質の発生が筋肉及び脂肪組織における間葉系幹細胞の減少を伴うことを示している。
【0066】
本発明者らは、Nestin-GFPトランスジェニックマウスを使用し、マウスに腫瘍を与えた後、腫瘍切片にNestin-GFP+細胞を観察し、腫瘍悪液質の発生に伴い、Nestin-GFP+細胞の数が多くなることを発見した。以上の結果は、生体内のNestin+細胞が腫瘍への遊走のため減少することを示しており、生体の間葉系幹細胞が腫瘍への遊走のため減少することを実証した。
【0067】
本発明者らは、初めて定量的リアルタイムPCRにより腫瘍においてCxcl12の高発現を検出し、免疫蛍光染色によりマウス筋肉及び脂肪組織から分離されたNestin+細胞がCxcr4を発現することを発見した。本発明者らは、インビトロでCxcl12を使用することにより筋肉及び脂肪由来のNestin+細胞のTranswell遊走を促進できることを発見した。マウスの体内でAlzet徐放性ポンプを埋め込んで担がんマウスに0.15mg/kg体重/日でAMD3100を投与することにより、筋肉及び脂肪Nestin+細胞の腫瘍への遊走が効果的に抑制され、筋肉、脂肪内のNestin+細胞は、AMD3100非投与群に比べて著しく回復した。以上の結果は、腫瘍悪液質の場合、Cxcl12-Cxcr4軸がマウス筋肉及び脂肪由来のNestin+細胞の遊走を媒介することを実証した。
【0068】
本発明者らは、マウスの体重及び筋肉、脂肪の重量を測ることにより、腫瘍を与えた日数が同じ場合、AMD3100投与マウスの悪液質症状がAMD3100非投与マウスよりも軽いことを発見した。担がんマウスの生存期間を観察した結果、AMD3100投与マウスの生存期間がAMD3100非投与マウスよりも長いことを発見した。
【0069】
以上の実験結果から明らかなように、AMD3100は、腫瘍悪液質の予防及び治療に対して顕著な効果を有し、腫瘍患者にAMD3100を使用することにより、筋肉、脂肪、骨髄など多くの組織の間葉系幹細胞に対する腫瘍の動員を遮断することができ、生体組織恒常性の維持、腫瘍悪液質発生の遅延に有利であるとともに、腫瘍患者の悪液質症状の軽減、腫瘍治療効果の改善、生活の質の向上、及び生存期待の延長に有利である。
【0070】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を形式的に制限するものではない。よって、本発明の技術内容を逸脱しない限り、本発明の技術に基づいて以上の実施例に加える簡単な修正、同等の変更及び修飾は、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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