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特許7402557軟磁性ナノワイヤーおよびそれを含む塗料ならびにそれを塗布してなる積層体
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  • 特許-軟磁性ナノワイヤーおよびそれを含む塗料ならびにそれを塗布してなる積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】軟磁性ナノワイヤーおよびそれを含む塗料ならびにそれを塗布してなる積層体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20231214BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20231214BHJP
   B22F 1/062 20220101ALI20231214BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20231214BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231214BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20231214BHJP
   H01F 1/14 20060101ALI20231214BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20231214BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20231214BHJP
   H01F 1/28 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B22F1/00 W
B22F1/054
B22F1/062
B22F9/24 A
B22F9/24 C
C22C38/00 303S
C22C19/00 H
H01F1/14 130
H01F1/22
H01F1/00 172
H01F1/28 ZNM
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022132876
(22)【出願日】2022-08-24
(65)【公開番号】P2023033190
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2021137421
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021198605
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022059533
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-229546(JP,A)
【文献】特開2009-275269(JP,A)
【文献】特開2006-045660(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160165(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
B22F 9/00 - 9/30
C22C 38/00
C22C 19/00
H01F 1/00 - 1/117
H01F 1/12 - 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄と、コバルトおよび/またはニッケルと、ホウ素を含み、さらにケイ素を含むナノワイヤーであって、鉄の含有量が15質量%以上であり、コバルトおよびニッケルの合計含有量が1~60質量%であり、ホウ素の含有量が0.1~20質量%であり、ケイ素の含有量が0.1~1質量%であり、平均長が5~40μmである軟磁性ナノワイヤー。
【請求項2】
以下の条件(P1)または(P2)の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤー。
条件(P1):鉄の含有量が60質量%以上である;または
条件(P2):鉄およびコバルトの合計含有量が84質量%以上である。
【請求項3】
以下の条件(Q1)または(Q2)の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤー。
条件(Q1):鉄の含有量が73.5質量%以上である;または
条件(Q2):鉄およびコバルトの合計含有量が84~90質量%である。
【請求項4】
振動試料型磁力計を用いて測定した保磁力が500Oe未満である、請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤー。
【請求項5】
振動試料型磁力計を用いて測定した比透磁率が5以上である請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤー。
【請求項6】
振動試料型磁力計を用いて測定した飽和磁化が40emu/g以上である請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤー。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを製造する方法であって、
反応溶媒中において、鉄イオンと、コバルトイオンおよび/またはニッケルイオンとを原料とし、ホウ素原子を含んだ還元剤を用いて、磁場中で液相還元反応をおこなう、軟磁性ナノワイヤーの製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む塗料。
【請求項9】
請求項に記載の塗料を基材上に塗布してなる塗膜を有する積層体。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む成形体。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含むシート。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む電磁波遮蔽材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性ナノワイヤーおよびそれを含む塗料ならびにそれを塗布してなる積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は、モーターのコア、電磁弁、各種センサー、磁界シールドや電磁波吸収材等のさまざまな用途で広く用いられている。一般的に、各用途において良好な性能を得るには、軟磁性材料は、高い透磁率、高い飽和磁化、低い保磁力を有することを有することが好ましい。これらの特性値が良好であるほど、各用途で優れた性能を発揮する。
【0003】
特に、鉄は飽和磁化が高い軟磁性材料であり、センサー、コア材、磁界シールド等に応用されている。さらに、鉄材料の中でも異方性が高い材料は、低い反磁界とパーコレーション閾値を有することから、軟磁性材料として期待されている。
【0004】
軟磁性材料は異方性を付与することにより、反磁界が抑制でき、透磁率が高くなる。そのため、特許文献1や非特許文献1等の軟磁性のナノワイヤーは軟磁性の粒子と比較し、透磁率が優れた材料になることが知られている。
【0005】
異方性を有する軟磁性材料としては、例えば、非特許文献2および3に鉄とホウ素を含むナノワイヤーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2021/107136号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】Advanced Powder Technology(2016), 27, p704-710.
【文献】Journal of Applied Physics (2011), 109, 07B527
【文献】J. Chin. Chem. Soc. 2012, 59、“Synthesis and Charact
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のナノワイヤーは保磁力が高く、軟磁性材料としての性能が不十分であった。非特許文献1~3のナノワイヤーは長さが比較的短く異方性に乏しいため、軟磁性材料としての性能(特に透磁率)が不十分であった。
【0009】
本発明は、飽和磁化と比透磁率がより十分に高く、かつ保磁力がより十分に低い軟磁性ナノワイヤーを提供することを目的とするものである。
【0010】
本発明はまた、飽和磁化と比透磁率がより十分に高く、保磁力がより十分に低く、かつ異方性がより十分に高い軟磁性ナノワイヤーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、鉄塩と、コバルト塩および/またはニッケル塩とを含む溶液を、ホウ素を含む還元剤を用いて還元し、平均長を5μm以上とすることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> 鉄と、コバルトおよび/またはニッケルと、ホウ素を含むナノワイヤーであって、平均長が5μm以上である軟磁性ナノワイヤー。
<2> 鉄の含有量が15質量%以上である、<1>に記載の軟磁性ナノワイヤー。
<3> コバルトおよびニッケルの合計含有量が1~60質量%である、<1>または<2>に記載の軟磁性ナノワイヤー。
<4> ホウ素の含有量が0.1~20質量%である、<1>~<3>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
<5> 以下の条件(P1)または(P2)の少なくとも一方を満たす、<1>~<4>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
条件(P1):鉄の含有量が60質量%以上である;または
条件(P2):鉄およびコバルトの合計含有量が84質量%以上である。
<6> 以下の条件(Q1)または(Q2)の少なくとも一方を満たす、<1>~<4>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
条件(Q1):鉄の含有量が73.5質量%以上である;または
条件(Q2):鉄およびコバルトの合計含有量が84~90質量%である。
<7> さらにケイ素を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
<8> ケイ素の含有量が0.1~1質量%である<7>に記載の軟磁性ナノワイヤー。
<9> 振動試料型磁力計を用いて測定した保磁力が500Oe未満である、<1>~<8>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
<10> 振動試料型磁力計を用いて測定した飽和磁化が40emu/g以上である<1>~<9>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤー。
<11> <1>~<10>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを製造する方法であって、
反応溶媒中において、鉄イオンと、コバルトイオンおよび/またはニッケルイオンとを原料とし、ホウ素原子を含んだ還元剤を用いて、磁場中で液相還元反応をおこなう、軟磁性ナノワイヤーの製造方法。
<12> <1>~<10>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む塗料。
<13> <12>に記載の塗料を基材上に塗布してなる塗膜を有する積層体。
<14> <1>~<10>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む成形体。
<15> <1>~<10>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含むシート。
<16> <1>~<10>のいずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーを含む電磁波遮蔽材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、飽和磁化と比透磁率がより十分に高く、保磁力がより十分に低い軟磁性ナノワイヤーを提供することができる。
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、バインダーと混合するなどの加工により各種用途に適した材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、2、4、比較例1の磁化曲線を示した図である。
図2】実施例1、2、4、比較例2のWAXD反射法のチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[軟磁性ナノワイヤー]
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、鉄と、コバルトおよび/またはニッケルと、ホウ素を含む。
【0016】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素の合計含有量(以下、単に「合計含有量X」ということがある)に対して、鉄を15質量%以上含むことが好ましく、高い飽和磁化を得ることができることから、40質量%以上含むことがより好ましい。当該鉄の含有量は、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、合計含有量Xに対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、十分に好ましくは73.5質量%以上、より十分に好ましくは80質量%以上である。当該鉄の含有量の上限値は特に限定されず、当該鉄の含有量は合計含有量Xに対して通常は98質量%以下である。ナノワイヤーが鉄を含まない場合、飽和磁化が低くなるので好ましくない。鉄を含ませることにより、軟磁性材料とすることができる。
【0017】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、コバルトまたはニッケルの少なくとも一方を含む。詳しくは、本発明の軟磁性ナノワイヤーは、コバルトまたはニッケルの一方を含んでもよいし、または両方を含んでもよい。コバルトおよびニッケルの合計含有量は特に限定されず、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、合計含有量Xに対して、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは3~55質量%、より好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは5~30質量%、十分に好ましくは5~25質量%である。
【0018】
コバルトの含有量は通常、合計含有量Xに対して、好ましくは60質量%以下(特に0~60質量%)であり、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、好ましくは50質量%以下(特に0~50質量%)、より好ましくは40質量%以下(特に0~40質量%)、さらに好ましくは0質量%である。なお、コバルトの含有量が0質量%であるとは、本発明の軟磁性ナノワイヤーがコバルトを含まないこと、詳しくは当該コバルトの含有量がICP-AES法に基づく測定法による検出限界値未満(例えば0.1質量%未満)であることを意味する。
【0019】
ニッケルの含有量は通常、合計含有量Xに対して、好ましくは60質量%以下(特に0~60質量%)であり、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、好ましくは50質量%以下(特に0~50質量%)、より好ましくは30質量%以下(特に0~30質量%)、さらに好ましくは5~20質量%である。なお、ニッケルの含有量が0質量%であるとは、本発明の軟磁性ナノワイヤーがニッケルを含まないこと、詳しくは当該ニッケルの含有量がICP-AES法に基づく測定法による検出限界値未満(例えば0.1質量%未満)であることを意味する。
【0020】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは通常、ホウ素を合計含有量Xに対して、0.1質量%以上、特に0.1~20質量%で含む。本発明の軟磁性ナノワイヤーは、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、ホウ素を、合計含有量Xに対して、5~20質量%含むことが好ましく、5~15質量%含むことがより好ましく、5~10質量%含むことがさらに好ましく、7~10質量%含むことが十分に好ましく、7~9質量%含むことがより十分に好ましい。ホウ素を含ませることにより、ナノワイヤーの結晶と非晶の割合が制御され、ナノワイヤーの長さが長くても保磁力の上昇を抑制することができる。ナノワイヤーがホウ素を含まない場合、非晶の割合が低くなり、保磁力の上昇を抑制することができない場合がある。
【0021】
本発明の軟磁性ナノワイヤーにおける鉄およびコバルトの合計含有量は特に限定されず、通常は、合計含有量Xに対して、15質量%以上である。当該鉄およびコバルトの合計含有量は、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、合計含有量Xに対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、十分に好ましくは84質量%以上である。当該鉄およびコバルトの合計含有量の上限値は特に限定されず、当該鉄およびコバルトの合計含有量は通常、合計含有量Xに対して、98質量%以下である。
【0022】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、良好な飽和磁化および比透磁率を維持しつつ保磁力をさらに低減する観点から、ケイ素を含むことが好ましい。ケイ素を含む場合、ケイ素は、合計含有量Xに対して、0.1~1質量%含むことが好ましく、0.1~0.5質量%含むことがより好ましい。ケイ素を含ませることにより、ホウ素の効果を補助し保磁力の上昇をより十分に抑制することができる。
【0023】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、特に好ましい実施態様において、以下の条件(P1)または(P2)の少なくとも一方を満たす。詳しくは、本発明の特に好ましい軟磁性ナノワイヤーは、条件(P1)または(P2)の一方を満たしてもよいし、または両方を満たしてもよい。
【0024】
条件(P1):鉄の含有量が合計含有量Xに対して60質量%以上である。当該条件において、鉄の含有量の上限値は特に限定されず、当該鉄の含有量は合計含有量Xに対して通常は98質量%以下である。
【0025】
条件(P2):鉄およびコバルトの合計含有量が合計含有量Xに対して84質量%以上である。当該条件において、鉄およびコバルトの合計含有量の上限値は特に限定されず、当該鉄およびコバルトの合計含有量は合計含有量Xに対して通常は98質量%以下である。
【0026】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、特により好ましい実施態様において、以下の条件(Q1)または(Q2)の少なくとも一方を満たす。詳しくは、本発明の特により好ましい軟磁性ナノワイヤーは、条件(Q1)または(Q2)の一方を満たしてもよいし、または両方を満たしてもよい。本実施態様において、本発明の軟磁性ナノワイヤーは通常、条件(Q1)または(Q2)のうち条件(Q1)のみを満たしていてもよい。
【0027】
条件(Q1):鉄の含有量が合計含有量Xに対して73.5質量%以上である。当該条件において、鉄の含有量の上限値は特に限定されず、当該鉄の含有量は合計含有量Xに対して通常は98質量%以下である。
【0028】
条件(Q2):鉄およびコバルトの合計含有量が合計含有量Xに対して84~90質量%である。
【0029】
本明細書中、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素の各元素の含有量は、これらの元素の合計含有量(すなわち「合計含有量X」)に対する値(質量%)で表されている。従って、当該各元素の含有量はナノワイヤーの構成比率とも称され得る。当該各元素の含有量は、ナノワイヤーが溶解された溶液を、ICP-AES法に基づく多元素同時分析法および検量線法に供することにより測定された値を用いている。
【0030】
本発明の軟磁性ナノワイヤー中の鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素の合計含有量(すなわち「合計含有量X」)は、当該ナノワイヤー全量に対して、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが十分に好ましい。合計含有量Xのナノワイヤー全量に対する割合の上限値は特に限定されず、当該割合は通常、98質量%以下である。本発明のナノワイヤーは、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素以外の元素として、希ガス元素、水素、炭素、酸素、窒素などの液体化の前処理が困難なためICP-AESで定量が困難な元素(例えば酸素および/または炭素)を含む場合がある。
【0031】
本明細書中、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素の合計含有量(すなわち「合計含有量X」)のナノワイヤー全量に対する割合(質量%)は、ICP-AES法に基づく検量線法により測定された値を用いている。
【0032】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの平均長は、5μm以上であることが必要で、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、8~40μmであることが好ましく、10~35μmであることがより好ましく、10~30μmであることがさらに好ましい。前記平均長は、反応条件により制御することができ、用途に応じて適宜選択することができる。ナノワイヤーの平均長が5μm未満である場合、異方性が低くなり反磁界を十分に低減することができず、特に比透磁率が低下する場合がある。
【0033】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの平均径は特に限定されないが、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、20~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましく、50~150nmであることがさらに好ましい。前記平均径は、反応条件により制御することができ、用途に応じて適宜選択することができる。ナノワイヤーは細いほど、アスペクト比が大きくなり、反磁界が低減される。本発明の軟磁性ナノワイヤーのアスペクト比は特に限定されず、例えば、20~500であってもよく、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、好ましくは40~300、より好ましくは50~200である。
【0034】
本明細書中、ナノワイヤーの平均長および平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影に基づく、任意の100点での平均値を用いている。
【0035】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの飽和磁化は、40emu/g以上であることが好ましく、60emu/g以上であることがより好ましく、70emu/g以上であることがさらに好ましく、150emu/g以上であることが特に好ましい。飽和磁化が40emu/g未満の場合、軟磁性材料として性能が不足し扱いにくい。当該飽和磁化は通常、300emu/g以下、特に200emu/g以下である。
【0036】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの比透磁率は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、100以上であることが十分に好ましい。比透磁率が5未満の場合、軟磁性材料として性能が不足し扱いにくい。当該比透磁率は通常、300以下、特に200以下である。
【0037】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの保磁力は、500Oe未満であることが好ましく、400Oe未満であることがより好ましく、200Oe未満であることがさらに好ましい。保磁力が500Oe以上の場合、磁界への反応が鈍く、軟磁性材料として扱いにくい。一般に、異方性が高い材料ほど、保磁力が高くなるが、ホウ素、あるいは、ホウ素およびケイ素を含有させることにより保磁力の上昇を抑制することができる。当該保磁力は通常、50Oe以上、特に100Oe以上である。
【0038】
本明細書中、飽和磁化、比透磁率および保磁力は、25℃にて振動試料型磁力計(VSM)により求めた値(2回の測定値)の平均値を用いている。
【0039】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは異方性を有する。異方性とは、ナノワイヤーのアスペクト比がより十分に大きいことである。本発明の軟磁性ナノワイヤーは、前記したような、より十分に大きいアスペクト比を有することが好ましい。
【0040】
[軟磁性ナノワイヤーの製造方法]
本発明のナノワイヤーの製造方法は特に限定されないが、例えば、反応溶媒中、原料の金属イオンを、ホウ素原子を含んだ還元剤を用いて、磁場中で液相還元反応をおこなう方法が挙げられる。
【0041】
磁場中で金属イオンを還元する場合、金属塩を反応溶媒に溶解させて金属イオンを供給することが好ましい。金属塩の形態は、用いる反応溶媒に溶解し、還元可能な状態で金属イオンを供給できるものであれば特に限定されない。金属塩としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケルのそれぞれ塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの塩は、水和物でも、無水物でもよい。金属イオンの価数は特に限定されない。例えば、鉄イオンであれば、鉄(II)イオン、鉄(III)イオンいずれであってもよい。
【0042】
金属イオンの種類および濃度それぞれは、得られるナノワイヤーが所望の構成比率を有するような種類および濃度であってよい。金属イオンの種類を選択しつつ、各金属イオンの濃度を調整することにより、ナノワイヤーの組成および構成比率を制御することができる。金属イオンの濃度は、鉄、コバルト、ニッケルの合計で、10~1000mmol/Lとすることが好ましく、ナノワイヤーを形成しやすく、収率が向上しやすいことから、30~300mmol/Lとすることがより好ましく、50~200mmol/Lとすることがさらに好ましい。
【0043】
本発明においては、還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素原子を含んだ還元剤である必要があり、中でも、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。ホウ素原子を含まない還元剤を用いる場合、ナノワイヤーを得ることができないことがある。還元剤は、不純物としてケイ素を含む還元剤が好ましい。不純物としてケイ素を含む還元剤とは、例えばケイ酸ナトリウムとしてケイ素を微量に含む還元剤のことである。そのようなケイ素を微量に含む還元剤において、ケイ素の含有量は通常、0.5質量%以下、特に0.1質量%以下である。
【0044】
還元剤の濃度は特に限定されないが、50~2000mmol/Lとすることが好ましく、100~1000mmol/Lとすることがより好ましく、150~600mmol/Lとすることがさらに好ましい。還元剤の濃度が50mmol/L未満の場合、還元反応が十分進行しない場合があり、還元剤の濃度が2000mmol/Lを超える場合、還元反応の進行により急激な発泡が起こる場合がある。
【0045】
反応溶媒は、金属イオンおよび還元剤が溶解できる限り特に限定されないが、溶解性、価格、環境負荷等の観点から、水が好ましい。
【0046】
還元反応に際しては、金属イオン溶液および還元剤溶液について、一方の溶液を他方の溶液に滴下して、反応液を形成することが好ましい。詳しくは、還元剤溶液を金属イオン溶液に滴下してもよいし、または金属イオン溶液を還元剤溶液に滴下してもよい。飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、還元剤溶液を金属イオン溶液に滴下することが好ましい。なお、上記した金属イオンおよび還元剤の濃度は、反応液(すなわち金属イオン溶液および還元剤溶液の混合液)中における濃度である。
【0047】
還元反応は、バッチ法で行ってもよいし、フロー法で行ってもよい。
【0048】
金属イオンを還元する際に印加する磁場は、バッチ法、フロー法いずれの場合であっても、中心磁場を10~200mTとすることが好ましい。中心磁場が10mT未満の場合、軟磁性ナノワイヤーが生成しにくい場合がある。200mTを超える強い磁場は発生させることが困難である。
【0049】
還元反応をおこなう温度は特に限定されないが、室温(例えば、25℃)から溶媒の沸点までの温度が好ましく、簡便性の観点から室温でおこなうことがより好ましい。
【0050】
還元反応の時間は軟磁性ナノワイヤーが作製できれば特に限定されない。バッチ法で行う場合は、1分~1時間が好ましい。フロー法で行う場合、所定の時間が経過すれば反応後の溶液を取り出してもよいし、連続的に反応後の溶液を取り出してもよい。
【0051】
還元反応に際しては、系中の溶存酸素量を低減させるべく、窒素、アルゴン等の不活性ガスによるバブリングを行ってもよいし、または行わなくてもよい。飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、当該バブリングを行うことが好ましい。
【0052】
還元反応後、遠心分離、ろ過、磁石による吸着等で軟磁性ナノワイヤーを精製回収することができる。
【0053】
還元反応後、あるいは精製回収後の軟磁性ナノワイヤーについて、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液を用いて表面処理を行うことで、軟磁性ナノワイヤー表面に酸化層を形成することができる。当該処理を行う場合は、不活性ガスによるバブリングを行わない場合でも、純度が高く、飽和磁化及び比透磁率が高く、保磁力が低いナノワイヤーを得ることができる。塩基性水溶液を用いて表面処理を行うとは、還元反応後、反応液に塩基性水溶液を添加して0.5~3時間保持すること、または精製回収後、軟磁性ナノワイヤーを塩基性水溶液中に分散して0.5~3時間保持することである。
【0054】
[軟磁性ナノワイヤーの使用および用途]
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、各種材料と混合し成形加工することで、電磁波遮蔽材料とすることができる。電磁波遮蔽材料は、電界シールド、磁界シールド等の電磁波シールド;および電磁波吸収体等を包含する。電磁波シールドとは、電磁波の透過を抑制し電磁波を反射するものである。電磁波吸収体とは、電磁波の透過や反射を抑制し電磁波を吸収するものである。電磁波遮蔽材料が遮蔽する電磁波の周波数は、例えば、26.5~40GHz、70~80GHz、287.5~312.5GHz等の帯域である。前記電磁波遮蔽材料は、モーターのコア、電磁弁、各種センサー等のさまざまな用途に使用できる。
【0055】
本発明の軟磁性ナノワイヤーと混合される各種材料は、有機材料、無機材料を問わない。本発明の軟磁性ナノワイヤーは、各種材料として、例えば、エポキシ等の熱硬化性樹脂;ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂;イソプレンゴムやシリコーンゴム等のゴム;ガラス、セラミックと混合することができる。また、混合の際、揮発性の溶媒等を用いることもできる。有機材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴムを包含する。
【0056】
本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む成形体は、本発明の軟磁性ナノワイヤーおよび上記各種材料(例えば、有機物)を含み、かつあらゆる形状を有していてもよい成形加工品である。成形加工方法としては、特に限定されず、例えば、キャスト法、溶融混錬法、塗布法、射出成形法、押出成形法等が挙げられる。
【0057】
本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む成形体の一例として、例えば、本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む塗膜を有する積層体がある。例えば、本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む塗料を基材上に塗布(および必要により乾燥)することで塗膜を有する積層体を形成することができる。本発明の積層体は特に、磁界シールドや電磁波吸収体等に用いることができる。塗料は、軟磁性ナノワイヤーの他に、上記各種材料(例えば、有機材料)および/または溶媒を含んでもよい。塗料における軟磁性ナノワイヤーの含有量は、特に限定されず、例えば、0.1~70質量%であってもよく、特に1~50質量%であることが好ましい。塗料における上記各種材料(特に有機材料)の含有量は、特に限定されず、例えば、1~99質量%であってもよく、特に10~90質量%であることが好ましい。
【0058】
積層体を構成する基材としては特に限定されず、塗膜を支持し得るものでれば特に限定されない。基材を構成し得る材料としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド等の有機材料;金属箔、セラミック、ガラス等の無機材料または;それらの複合材料が挙げられる。
【0059】
積層体を得るための塗布方法は特に限定されないが、例えば、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、スプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法、ダイコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、インクジェット法が挙げられる。
【0060】
本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む成形体の別の一例として、例えば、本発明の軟磁性ナノワイヤーを含むシートがある。例えば、本発明の軟磁性ナノワイヤーを含む塗料を基材上に塗布(および必要により乾燥)して得られたシートを基材から剥離することで形成することができる。本発明のシートは、シート単体で市場にて取引の対象となるものである。本発明のシートは、上記した積層体と同様に、磁界シールドや電磁波吸収体等に用いることができる。塗料は、積層体を得るための塗料と同様に、軟磁性ナノワイヤーの他に、上記各種材料(例えば、有機材料(特に、ポリマーまたはゴム))および/または溶媒を含んでもよい。
【0061】
シートを得るための基材としては、シートを剥離可能である限り特に限定されず、積層体を構成する基材と同様の範囲内の基材から選択されてもよい。
【0062】
シートを得るための塗布方法は特に限定されず、積層体を得るための塗布方法と同様の範囲内から選択されてもよい。
【0063】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、飽和磁化と比透磁率がより十分に高く、保磁力がより十分に低く、かつ異方性がより十分に高いため、軟磁性材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、軟磁性ナノワイヤーの評価は、以下の方法により実施した。
【0065】
(1)ナノワイヤー化
得られた生成物を真空乾燥したのち、マイクロスコープで観察するとともに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10万倍で撮影した。任意の10視野中における任意の100点において、ナノワイヤーの長さおよび径を測定し、それぞれ平均値を算出した。また、平均長を平均径で除算することでアスペクト比を算出した。アスペクト比に基づいて、形状を以下の基準で評価した。
○:繊維状(アスペクト比10以上)
×:非繊維状(アスペクト比10未満)
××:繊維状および非繊維状の生成物いずれも得られなかった。
【0066】
(2)ナノワイヤーの平均長、平均径およびアスペクト比
上記項目(1)において、繊維状の生成物が得られた場合、ナノワイヤーの平均長、平均径およびアスペクト比を示した。
【0067】
ナノワイヤーの平均長は以下の基準で評価した。
◎:10μm以上(優良);
○:5μm以上、10μm未満(良);
×:5μm未満(実用上問題あり)。
【0068】
(3)構成比率(モル%)
上記項目(1)において、繊維状または非繊維状の生成物が得られた場合、それぞれの視野においてEDS法により各元素の構成比率を測定し、鉄、コバルト、ニッケルおよびホウ素のモル比を計算した。
定量された各元素の含有量からナノワイヤー中の「Fe,Co,NiおよびBの合計含有量に対する各元素の含有量」を算出した(表中の(1))。
【0069】
(4)結晶性
上記項目(1)において、繊維状の生成物が得られた場合、得られたナノワイヤーをWAXD反射法によって測定し、結晶ピークがみられるかどうかを以下の基準で判断した。「ピーク」とは図2の比較例2に示すようなシャープな回折パターンのことであり、「ハロー」とは図2の実施例1,2,4に示すようなブロードな回折パターンのことである。図2は、実施例1、2、4、比較例2のWAXD反射法のチャートを示した図である。
○:結晶ピークが見られず、ハローのみが見られた。
×:結晶ピークが見られた。
【0070】
(5)構成比率(質量比)および合計量
得られた生成物を真空乾燥したのち、希塩酸と希硝酸との混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法の多元素同時分析法に供することより、ホウ素、ケイ素およびその他の金属元素の含有の有無を確認した。その他の金属元素としては、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられ、これらの金属元素以外の金属元素は確認されなかった。各金属元素の検出限界値は0.1質量%であった。
ケイ素が検出されない場合、ICP-AES法により、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素標準液を用いて検量線法により、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素の含有量を定量した。
ケイ素が検出された場合、ICP-AES法により、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ、ケイ素標準液を用いて検量線法により、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素およびケイ素の含有量を定量した。
定量された各元素の含有量から、ナノワイヤー中の「Fe,Co,Ni,BおよびSiの合計含有量Xに対する各元素の含有量」(表中の(2)および「ナノワイヤー全量に対する合計含有量Xの割合」(表中の(3))を算出した。
ナノワイヤー中の鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素、ケイ素以外の含有量は、ナノワイヤーの質量から、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素、ケイ素の含有量を差し引いて求めることができる。
【0071】
(6)磁気特性(飽和磁化、比透磁率および保磁力)
得られた生成物を真空乾燥したのちに、振動試料型磁力計(VSM)により求めた。測定は室温(25℃)でおこなった。なお、測定は生成物を配向させない状態でおこなった。図1に、実施例1、2、4、比較例1の磁化曲線を示す。
【0072】
飽和磁化は、以下の基準により評価した。
◎◎:150emu/g以上(最良);
◎:60emu/g以上、150emu/g未満(優良);
○:40emu/g以上、60emu/g未満(良);
×:40emu/g未満(実用上問題あり)。
【0073】
比透磁率は、以下の基準により評価した。
◎◎:100以上(最良);
◎:40以上100未満(優良);
○:10以上40未満(良);
△:5以上10未満(可:実用上問題なし);
×:5未満(実用上問題あり)。
【0074】
保磁力は、以下の基準により評価した。
◎◎:200Oe未満(最良);
◎:200Oe以上400Oe未満(優良);
○:400Oe以上500Oe未満(良);
×:500Oe以上(実用上問題あり)。
【0075】
(7)磁気特性の総合評価
上記した磁気特性(飽和磁化、比透磁率および保磁力)の評価結果を総合的に評価した。詳しくは、これらの評価結果のうち、最低の評価結果を総合評価の結果として用いた。
◎◎:最良;
◎:優良;
○:良;
△:可(実用上問題なし);
×:不可(実用上問題あり)。
【0076】
実施例1
塩化鉄(II)四水和物4.27質量部(21.5モル部)、塩化ニッケル六水和物5.12質量部(21.5モル部)を水300質量部に溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ(塩化鉄(II)四水和物:塩化ニッケル六水和物のモル比率は50:50))、窒素ガスのバブリングを開始した。バブリング開始から10分経過後、水素化ホウ素ナトリウム(ケイ素を0.1質量%含む)7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。反応液中の金属イオンおよび還元剤の濃度は以下の通りであった:鉄イオン45mmol/L、ニッケルイオン45mmol/L、還元剤389mmol/L。
磁場の印加と窒素ガスのバブリングを停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。生じた黒色の固体を「T100A090C」のPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0077】
実施例2~8
塩化鉄(II)四水和物、塩化ニッケル六水和物、塩化コバルト六水和物をそれぞれ表1に記載の仕込比に変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、各ナノワイヤーを得た。
【0078】
実施例9
再結晶法によりICP―AES法の検出限界未満までケイ素を除去した水素化ホウ素ナトリウムを用いた以外は、実施例2と同様の操作をおこなってナノワイヤーを得た。
【0079】
実施例10
塩化鉄(II)四水和物6.83質量部(34.4モル部)、塩化ニッケル六水和物2.05質量部(8.6モル部)を水300質量部に溶解し、大気に開放した中心磁場が130mTの磁気回路に入れた(塩化鉄(II)四水和物:塩化ニッケル六水和物のモル比率は80:20)。バブリングを行うことなく、水素化ホウ素ナトリウム(ケイ素を0.1質量%含む)7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。反応液中の金属イオンおよび還元剤の濃度は以下の通りであった:鉄イオン45mmol/L、ニッケルイオン45mmol/L、還元剤389mmol/L。得られた反応液に20%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを12ないし13に調整し、1時間静置した。
磁場の印加を停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。生じた黒色の固体を「T100A090C」のPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0080】
比較例1
塩化ニッケル六水和物10.2質量部(43.0モル部)を水300質量部に溶解し、150mTの磁場を印加した反応容器中に入れた。溶液の投入直後から窒素ガスのバブリングを開始した。バブリング開始から10分経過後、水素化ホウ素ナトリウム7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。
磁場の印加と窒素ガスのバブリングを停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。生じた黒色の固体を「T100A090C」のPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノ粒子を得た。
【0081】
比較例2、3
塩化ニッケル六水和物、塩化コバルト六水和物をそれぞれ表1に記載の仕込比に変更した以外は、比較例1と同様の操作をおこなって、各ナノ粒子を得た。
【0082】
比較例4
90~95℃に加熱した反応容器に、塩化ニッケル六水和物3.11質量部(13.1モル部)をエチレングリコール397質量部に溶解させて90℃に加熱した溶液、水酸化ナトリウム1.00質量部をエチレングリコール472質量部に溶解させて90℃に加熱した溶液、28%アンモニア水25.0質量部、塩化鉄(II)四水和物0.75質量部(3.78モル部)をエチレングリコール99.3質量部に溶解させた溶液、ヒドラジン一水和物2.50質量部をこの順で添加した。各液の添加は、撹拌をおこないながら、上記の順序にて10秒間隔でおこなった。すべてを添加後、150mTの磁場を印加し、90~95 ℃を保って90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、生じた黒色の固体を「T100A090C」のPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、メタノールでそれぞれ3回ずつ洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
【0083】
比較例5~7
塩化鉄(II)四水和物、塩化ニッケル六水和物、塩化コバルト六水和物をそれぞれ表1に記載の仕込比に変更した以外は、比較例4と同様の操作をおこなったが、還元反応は進行せず、生成物は得られなかった。
【0084】
比較例8
塩化鉄(II)四水和物、塩化ニッケル六水和物を表1に記載の仕込比に変更したこと、および、窒素のバブリングを行わなかったこと以外は、比較例1と同様の操作をおこなって、ナノワイヤーを得た。
【0085】
実施例および比較例で得られた生成物の評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1~10のナノワイヤーは、鉄と、コバルトおよび/またはニッケルと、ホウ素を含み、平均長が5μm以上であったため、飽和磁化が40emu/g以上、比透磁率が5以上、保磁力が500Oe未満であった。
実施例2と9のナノワイヤーの対比より、ケイ素が含まれていることにより、保磁力の上昇が抑制されかつ飽和磁化および比透磁率が有意に上昇していることがわかる。
【0088】
比較例1~3では、鉄を含有していなかったため、ナノワイヤーが形成されず、得られた粒子は、飽和磁化および比透磁率が低かった。
比較例4のナノワイヤーは、ホウ素を含んでいなかったため、図2のように結晶ピークが観察され、保磁力が高かった。
比較例5~7では、ホウ素を含んでいなかったため、還元反応が進行せず、生成物が得られなかった。
比較例8のナノワイヤーは、コバルトおよび/またはニッケルを含んでいなかったため、ナノワイヤー長が短く、結晶ピークが観察され、また、飽和磁化が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の軟磁性ナノワイヤーは、軟磁性が要求されるあらゆる用途(例えば、モーターのコア、電磁弁、各種センサー、磁界シールドや電磁波吸収材等)に有用である。
図1
図2