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特許7402580管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置
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  • 特許-管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20120101AFI20231214BHJP
【FI】
G06Q50/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023141664
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518329170
【氏名又は名称】株式会社Eco‐Pork
(74)【代理人】
【識別番号】110003937
【氏名又は名称】弁理士法人前川知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 剛士
(72)【発明者】
【氏名】神林 隆
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-031517(JP,A)
【文献】特開2010-004861(JP,A)
【文献】特開2009-205315(JP,A)
【文献】方法論 AG-001 (ver.2.3) 豚・ブロイラーへのアミノ酸バランス改善飼料の給餌,[online],J-クレジット制度事務局,2023年08月03日,https://web.archive.org/web/20230803022057/https://japancredit.go.jp/pdf/methodology/AG-001_v2.3.pdf,[検索日 2023.09.25]
【文献】~酪農・乳業における温室効果ガス排出削減の取り組みを2023年3月よりスタート~味の素(株)と明治グループ、持続可能な酪農業の実現に向けた協業を開始,[online],味の素株式会社,2023年03月27日,https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/file/2023_03_27.pdf,[検索日 2023.09.25]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜計数装置を備えた管理システムを用い、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の算方法であって、
複数の豚が飼養されている農場に設置された家畜計数装置が、所定期間内に飼養されアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている前記豚の飼養頭数を計数する家畜計数ステップと、
排出削減量算出部が、前記家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌されていない場合の前記温室効果ガスのベース排出量を算出するベース排出量算出ステップと、
供給飼料情報取得部が、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率と供給タイミングを含む供給飼料情報を取得する供給飼料情報取得ステップと
前記排出削減量算出部が、前記家畜計数ステップで計数した豚の頭数と、前記供給飼料情報取得ステップで取得した前記CP含有率と供給タイミングに基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌された場合の前記温室効果ガスの改善後排出量を算出する改善後排出量算出ステップと、
前記排出削減量算出部が、前記ベース排出量と、前記改善後排出量を用いて、前記所定期間内における前記排出削減量を算出する排出削減量算出ステップと、を含み、
前記管理システムの記憶部が、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料が給餌開始されるまでのタイムラグ期間を記憶し、
前記排出削減量算出部が、前記改善後排出量算出ステップにおいて、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料の供給タイミングを、前記タイムラグ期間を用いて補正する、
排出削減量の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に影響を及ぼす温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の削減が課題となっている。これに対する取り組みとして、京都議定書やパリ協定などの国際的な枠組みに基づいて、各国政府は、企業や地方自治体が温室効果ガスの排出を削減したり、森林などを通じて二酸化炭素を吸収したりする活動を行うと、その成果に応じてクレジットを発行する、カーボン・クレジット制度を導入している。他の企業等はそのクレジットを購入し、自身の温室効果ガス削減量として計上することができる。このような制度を通じて、温室効果ガス削減を経済的価値として評価し、環境対策に取り組む契機が提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の発電装置の発電量をモニタリングして、合計発電量を算出し、合計発電量に対応する合計排出削減量を算出する、二酸化炭素排出権取引システムが開示されている。
【0004】
また、家畜の体内や排泄物から放出される温室効果ガスも大きな割合を占め、畜産業においては温室効果ガスの削減に対して早急な対応が求められている。
【0005】
例えば、特許文献2には、反芻動物である家畜の体内のメタン生成細菌を減少させる飼料添加物及びサプリメントを家畜の飼料に使用することで、消化系内のメタン生成活性を減少させ、大気中へのメタン(温室効果ガス)の放出を減少させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-46926号公報
【文献】特表2022-504063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、畜産業においては、排出源は機械ではなく生物であり、発電装置の発電量のように簡便に機械的かつ自動的に排出削減量をモニタリングするシステムは用意されていない。たとえ、飼料添加物やサプリを用いてメタンガスを削減できたとして、そのような家畜の体内から排出されたり、家畜の糞尿から排出されたりする、温室効果ガスの量やその削減量を定量的に評価することは極めて困難である。例えば、日本におけるカーボン・クレジット制度であるJ-クレジット制度では削減量をどのような方法論(プロジェクト方法論)で評価するかは第三者機関が妥当性を検証するものであり、算定のためのデータや根拠などは厳しく判断される。
【0008】
また、温室効果ガスを削減することができる飼料添加物やサプリを導入することは、通常の家畜の飼養に対してさらに費用を上乗せする行為であるから、見返りなしにこのような温室効果ガス削減のための飼養をすることに経済合理性はなく、その導入は個々の飼養者のポリシーや矜持に任せるところとなる。
【0009】
してみると、家畜を飼養する農場等を経営する飼養者は、カーボン・クレジット制度を簡単には利用することができず、温室効果ガスの削減という地球規模の社会的課題に取り組む契機が失われてしまう。
【0010】
そのため、本開示の一つの課題は、畜産業において家畜やその糞尿から放出される温室効果ガスを削減する飼養を行う飼養者が、カーボン・クレジット制度を利用するための排出削減量を簡便に計算できるということである。なお、本開示の明細書、図面等に記載の、本開示に特徴のある実施形態やその説明から読み取ることができる当業者にとって自明な課題は、本開示を基礎とする分割出願を行った場合に、分割された発明が解決すべき課題ともなり得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本開示の管理システムを用いた算出方法は、家畜計数装置を備えた管理システムを用い、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の算定方法であって、複数の豚が飼養されている農場に設置された家畜計数装置が、所定期間内に飼養されアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている豚の飼養頭数を計数する家畜計数ステップと、排出削減量算定部が、家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌されていない場合の温室効果ガスのベース排出量を算出するベース排出量算出ステップと、排出削減量算出部が、家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌された場合の温室効果ガスの改善後排出量を算出する改善後排出量算出ステップと、排出削減量算出部が、ベース排出量と、改善後排出量を用いて、所定期間内における排出削減量を算出する排出削減量算出ステップと、を含む。
【0012】
また、本開示の管理システムは、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の管理システムであって、農場に設置され、所定期間内に飼養されている複数の豚の頭数を計数する家畜計数装置と、家畜計数装置が計数した豚の頭数に基づいて、飼養している複数の豚へのアミノ酸バランス改善飼料の給餌による所定期間内の排出削減量を算出する排出削減量算出部と、を備える。
【0013】
また、本開示の家畜計数装置は、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の算出を自動的に行うための家畜計数装置であって、家畜計数装置は、農場に設置され、農場内に設置された撮像装置が取得した画像を画像認識処理することにより、所定期間内に飼養されている豚の頭数を計数する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、畜産業において家畜やその糞尿から放出される温室効果ガスを削減する飼養を行う飼養者が、カーボン・クレジット制度を利用するための排出削減量を簡便に計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】排出削減量の算出の基本的な考え方について説明する図である。
図2】本開示の実施形態にかかる管理システムのシステム構成を示す図である。
図3】農場における具体的な配置例を示す模式図である。
図4】管理システムの機能構成を示すブロック図である。
図5】豚房の上方から下方に向けて豚を撮像した画像を模した図である。
図6】豚を撮像した画像を処理した状態を模した図である。
図7】計数された飼養頭数を記憶する場合の例を示す図である。
図8】基本飼料情報について示す図である。
図9】供給飼料情報について示す図である。
図10】本開示の計算方法の手順を示すフローチャート図である。
図11】排泄物処理区分情報について示す図である。
図12】家畜種類と排泄物量及び窒素量との関係について示す図である。
図13】アミノ酸バランス改善飼料の切替を行う場合の改善排出量の算出についての応用例を説明する図である。
図14】飼料の切り替えの際に生じるタイムラグを説明するための模式図である。
図15】カーボン・クレジット制度利用の仕組みについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示にかかる実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下では、日本におけるカーボン・クレジット制度であるJ-クレジット制度における排出削減の方法論を例として扱うが、同様の温室効果ガスの排出削減量の算定が各国のカーボン・クレジットの算定において有効である。
【0017】
J-クレジットの認証においては、どのような方法論で温室効果ガスの排出が削減されうるのか、それをどのようにモニタリングするのか、明らかにする必要がある。第三者たる審査機関がその方法論を審査し、妥当であるか否かを判断する。そのため、まず初めに、畜産において、温室効果ガスの削減が可能となる方法論について説明する。
【0018】
豚が飼料を摂取して体内に入ったたんぱく質は、小腸内でアミノ酸まで分解され、体内に吸収される。しかし、吸収されなかった未消化の飼料残渣は糞として排泄物として体外に排出される。また、体内に吸収されたにもかかわらず使用されなかった余剰アミノ酸や、たんぱく質が分解されて生じたアミノ酸は肝臓で尿素に変換され尿として排泄される。これらの糞や尿は温室効果ガスである一酸化二窒素(NO)の発生源となる。
【0019】
ところで、たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されており、そのうち家畜自身が体内でつくることができないアミノ酸は必須アミノ酸である。特定の必須アミノ酸が少ない場合、その必須アミノ酸の摂取量に合わせて合成されるたんぱく質の量が決定される。アミノ酸は窒素を含んだ化合物であるから、たんぱく質の合成に用いられなかった余分なアミノ酸は脱アミノ化により窒素が尿素に変換され、尿中に排泄される。
【0020】
家畜、例えば豚に給与する飼料がトウモロコシ等の穀類で構成されている場合、一部の必須アミノ酸の濃度が低いために、それ以外のアミノ酸をたんぱく質の合成に活かすことができず、糞や尿として排出されてしまう。そのため、余剰な糞や尿を抑えるためには、特定の必須アミノ酸が不足しないように、飼料に含まれる必須アミノ酸の量のバランスを整えることが重要である。
【0021】
具体的には、例えば穀類主体の配合飼料に対しては、不足しがちな第一次制限アミノ酸であるリジンの要求量を満たすようにすれば、他の必須アミノ酸の要求量を充足することができる。例えば、飼料安全法で飼料添加物として認められている結晶アミノ酸を添加することで、通常飼料をアミノ酸バランス改善飼料とすることができる。飼料添加物として使用されるアミノ酸は、例えばリジン、トレオニン、メチオニン・シスチン、トリプトファンである。添加する必須アミノ酸は家畜の成長段階によって異なり、例えば豚であれば離乳直後、肥育前期、肥育後期の3区分で分けてもよい。
【0022】
図1において、これらを踏まえて排出削減量の算出の基本的な考え方について説明する。例えば飼料Aは必須アミノ酸のバランスについて考慮されていない通常飼料であり、飼料Bはアミノ酸バランス改善飼料であるとする。そうすると、飼料Aを給与された家畜の排泄物から発生する一酸化二窒素の排出量Aと、飼料Bを給与された家畜の排泄物から発生する一酸化二窒素の排出量Bとでは排出量が異なり、排出量Aの方が大きいことは明らかであるから、排出量Aと排出量Bの差分、すなわち排出量A-排出量Bが排出削減量となる。
【0023】
上記したようにアミノ酸バランス改善飼料を給与することで家畜の排泄物から発生するGHG、具体的には一酸化二窒素を削減することができる。GHG排出量は一般的に二酸化炭素(CO)換算量で評価されている。一酸化二窒素の場合は、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)は約300、つまり温室効果が300倍とされており、二酸化炭素と同列で評価する場合はこの地球温暖化係数を乗じることでCO換算され、比較することができる。
【0024】
例えば、同じ量の飼料Aと飼料Bを給餌した場合に、排出量Aが200g、排出量Bが120gとすると、飼料Aを飼料Bに切り替えることにより、80gの排出量削減が可能となると考えられる。そうすると、飼料Aを飼料Bで代替する、または飼料Bを使い続ける限り、飼料Aをベースラインとして、排出量の削減がされ続けるとみなすことができる。
【0025】
このような通常飼料とアミノ酸バランス改善飼料との違いは、CP含有率によっても把握することができる。CP含有率は、飼料に含まれる粗たんぱく質(CP:Crude Protein)の含有率であり、畜産分野では飼料の性能を表す指標としてよく用いられている。アミノ酸バランス改善飼料は、飼料添加物によって必須アミノ酸を補っているので、通常飼料よりもCP含有率は低い。そして、たんぱく質中に含まれる窒素含量は平均で16%であるから、CP含量が既知であれば、0.16を乗じることで窒素含量を求めることができ、その逆に窒素含量に6.25(1/0.16)を乗じることでCP含量を求めることもできる。つまり、CP含有率が高い飼料よりも、CP含有率が低い飼料のほうが、窒素含量が少なく、その分家畜の排泄物を通じて排出される窒素化合物である一酸化二窒素の排出量も少なくなると考えることもできる。なお、用いられる改善飼料としては、単にCP含有率が低いだけでなく、アミノ酸バランスが改善されていることが前提である。
【0026】
また、図1に示すように飼料に含まれている窒素含量は、家畜の体に消化吸収される分を差し引き、糞と尿に分けて計算可能であり、どのような割合で消化吸収され、どのような割合で糞と尿に含まれ得るかは、過去の実験等による経験式に基づいて算出可能である。例えば日本飼養標準・豚に示された数式を用いて畜体の体内窒素蓄積量を推定し、これを窒素吸収量から差し引くことで尿中窒素排出量を算出することができる。一酸化二窒素の発生原因としては糞より尿の方が支配的であるが、いずれも発生原因であることに変わりないので、糞尿量としてまとめて扱ってもよい。
【0027】
よって、CP含有率と飼料摂取量を用いて排出される窒素量が測定可能であるから、通常飼料とアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率の差に基づいて、その差による窒素排出削減量も算出可能である。また、家畜1頭の1日あたりの飼料摂取量は飼養計画として飼養者が農場経営においては管理していることが通常であるから、これを用いて家畜1頭の1日あたりの排出削減量も算出可能である。また、農場全体で飼養されている家畜の数と、その飼養日数がわかれば、農場全体の排出削減量も算出可能である。
【0028】
以上のような方法論の一例について、J-クレジット等のカーボン・クレジットの認証において必要となるベースラインとなる排出量と、モニタリング項目を検討すると以下のように整理される。
(削減方法)
通常飼料(改善前飼料)に代えて、アミノ酸バランス改善飼料を給餌することにより、排泄物管理からのNO排出量を抑制する。
(ベースライン排出量の考え方)
家畜をアミノ酸バランス改善飼料ではなく、通常飼料(改善前飼料)で飼養した場合に想定される温室効果ガス排出量
(モニタリング項目)
・排泄物の管理区分(処理方法)
・家畜の飼養頭数および飼養日数
・通常飼料(改善前飼料)及びアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率(%)
【0029】
ところで、この方法論においては、家畜の飼養頭数および飼養日数をモニタリングすることが必要になる。仮に、飼養頭数を飼養者等の人間が計数する場合について検討すると、家畜の飼養者は日々家畜の生育状況や死亡などについては管理しているところ、飼養頭数については日常の飼養業務で取得される日報等の記録を援用することも可能と考えられるが、飼養頭数に応じて改善飼料による排出削減量が増減し、ひいてはクレジットの増減に対しても不正、改ざんが可能となることを考慮すれば、人的要因によって飼養頭数を計数することは好ましくない。
【0030】
そのため、人の手を介さずに自動的にアミノ酸バランス改善飼料の給餌する家畜の飼養頭数、飼養日数等のデータの信頼性を担保することができる管理システムが必要である。以下に、その管理システム、およびこの管理システムを用いた計算方法について説明する。
【0031】
図2は、本開示の実施形態にかかる管理システムのシステム構成を示す図、図3は農場における具体的な配置例を示す模式図、図4は管理システムの機能構成を示すブロック図である。
【0032】
図2において、管理システム1は、ネットワークNWを介して接続された、管理サーバ100、管理端末200、飼料供給者端末300、農場端末400と、農場にある豚舎/豚房に設定された家畜計数装置50、飼料計量装置40を備えていてよい。ここで、管理サーバ100、管理端末200、飼料供給者端末300、農場端末400が設置される場所は必ずしも農場/豚舎/豚房のような現場でなくてよい。一方で、家畜計数装置50、飼料計量装置40は、農場/豚舎/豚房等である飼養現場に設置され、温室効果ガスの排出量算出に用いるデータを取得するためのものである。
【0033】
管理サーバ100、管理端末200、飼料供給者端末300、農場端末400は情報処理装置であり、演算装置と記憶装置とを備えたコンピュータにより構成されている。コンピュータの基本ハードウェア構成及び、当該ハードウェア構成により実現されるコンピュータの基本機能構成は、CPU、GPU、TPU等のプロセッサ、メインメモリ等の主記憶装置、SSD、HDD等の補助記憶装置を含むものであってよい。計算資源はローカル又はオンプレミスに限定されることなく、他社が提供するクラウド環境を利用するものでもよい。
【0034】
ネットワークNWは、例えばインターネット、VPN(VirtualPrivateNetwork)、イントラネット、近距離無線通信等のネットワークである。説明の簡略化のため、図2では、管理サーバ100、管理端末200、飼料供給者端末300、農場端末400を1つずつ示しているが、それぞれ2以上の複数の装置と接続することは想定されている。クレジット管理サービス、クレジット管理システムの運営業者は、管理システム1を用いて農場等のユーザにJ-クレジット等のカーボン・クレジットの取得を支援するためのサービスを提供することができる。
【0035】
管理サーバ100が、農場および家畜計数装置50、飼料計量装置40と異なる国に設けられていても構わない。サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たっては障害とならない。管理システム1によって利益を得ることができるのは、あくまで農場および家畜計数装置50、飼料計量装置40の存在する地であり、その地で畜産業等を営む飼養者である。
【0036】
図3は農場における具体的な配置例を示す模式図であり、この図において、農場500は家畜である豚を飼養する建物である豚舎510を少なくとも1つ備えており、豚舎510の内部には豚房511を少なくとも1つ備えている。ここで、農場、豚舎、豚房の定義は地域や個々の農場の設計により異なるものであるが、可能な限り一般的な意味での説明を試みる。農場(Farm)は一番広い範囲を示し、土地全体や畜産事業体の名称を示すことがある。豚舎(Pigsty)/豚房(Pig House)これらは場合によっては同じ意味で使われ、養豚を行う特定の建物やエリアを指すことがある。例えば一つの農場に複数の豚舎や豚房があることがある。また、1つの畜産事業体が複数の農場を経営している場合もある。さらに、基本的には豚舎や豚房の内部に柵などを設けることで、家畜が飼養されるスペースを構造的に確保する。
【0037】
豚舎510内には、各豚房511で飼養されている家畜を計数する家畜計数装置30が備えられている。家畜計数装置30は、例えばカメラ等の撮像装置を備えており、撮像した動画又は静止画から、機械学習を行った学習済みモデルを用いて、豚房毎に飼養されている家畜を検出し、その数を計数することができる。詳細については後述する。
【0038】
また豚舎510に対し、1つまたは複数のサイロ550が設けられており、タンク551に蓄えられた飼料が給餌管552を介して、各豚房511の給餌器515に供給される。サイロ550には、タンク551内の残存飼料量を測定する飼料計量装置40が設置されており、ロードセル等の荷重検出器や、レーザー変位計等の測定により残存飼料量(重量)を測定可能である。
【0039】
また、各農場、豚舎単位で、排泄物の管理区分が定められており、堆積発酵、強制発酵といった管理区分に応じた家畜の排泄物の管理がなされる。これについては後述する。
【0040】
図4は管理システムの機能構成を示すブロック図である。管理システム1の管理サーバ100は、システム管理業者が管理端末200を用いて操作可能である。管理サーバ100は、モニタリング部110、記憶部120、排出削減量算出部130を備えている。
【0041】
家畜計数装置30は、豚の体に装着又は付与された識別子を 、識別子との電気的通信又は前記識別子を撮像することにより識別し、前記豚の頭数を計数する装置、様々な実施例によって実現することができる。
【0042】
また、家畜計数装置30は、豚が識別子を体に装着していない場合でも農場内に設置された撮像装置が取得した画像を画像認識処理することにより計数することができる。その場合、家畜計数装置30は、カメラ等の複数の撮像装置を備えている。撮像装置は、例えば、可視光カメラであり、被写体から反射される光を検出して画像(静止画又は動画)情報を生成する機能を有する装置の総称である。なお、カメラは、夜間撮像も可能なように、上記可視光カメラに加えて、赤外線カメラと赤外線ライトの組み合わせを併用してもよい。
【0043】
また、画像認識処理を用いて家畜を計数する際には、少なくとも、豚の画像等の対象とする家畜の画像を学習用データとして学習を行った学習済みモデルを用いて画像認識処理を行ってもよい。
【0044】
例として、撮像装置が撮像した画像から家畜の数を検出するために、画像から物体を検出する学習済みのディープラーニングモデル等の学習済みモデルを使用した、機械学習による物体検出を用いてよい。画像の中に複数の家畜が撮像されている場合には、インスタンスセグメンテーションを用いて複数のセグメントに分割し、それぞれをクラスに分類することが可能である。
【0045】
例えば図5は豚房の上方から下方に向けて豚を撮像した画像を模したものであり、この時点では個々の豚の区別がついていない。そこで、インスタンスセグメンテーションを行うと、図6に示すようにクラスが同じ豚であっても、個別に分割されて識別可能となる。このような手法として、例えば一般物体検出とインスタンスセグメンテーションを同時に行うMask R-CNNなどが知られている。この図において異なるハッチングが示されたインスタンスには、それぞれに豚というクラスが付与されて、かつ、各インスタンスにはテンポラリーなIDが付与される。本開示においては、家畜の頭数が計数できればよく、個体識別までは必要が無いので、テンポラリーIDの数を計数できれば家畜の頭数は計数可能である。
【0046】
ここで、撮像装置を移動式のカメラとし、エンコーダーやビーコン等のカメラ位置測定装置を別途設け、撮像位置を特定して、どの豚房の家畜数を計数するために撮像された画像等であるかを特定するようにしてもよい。
【0047】
また、家畜計数装置30は、豚の体に装着された識別子との無線通信を用いた電気的通信により識別子に固有の信号を受信し、家畜の数を計数する装置であってもよく、例えばRFIDタグとRFIDリーダーを用いた家畜計数装置であってもよい。RFIDでは固有の周波数がやりとりされるために、1頭が1つのRFIDタグを装着していれば、電波の送受信により頭数の計数は可能である。
【0048】
このようにして計数された家畜の頭数は、その飼養期間とともに管理サーバ100の記憶部120に飼養頭数情報として記憶することができ、アミノ酸バランス改善飼料の給餌による排出削減量の算出に用いることができる。
【0049】
図7は、家畜計数装置30によって計数された飼養頭数を、記憶部120に飼養頭数、飼養日数として記憶する場合の例を示している。この図の左側において、複数の撮像装置がそれぞれ豚房Aと豚房Bで飼養されている家畜を重複することなく撮像している。例えば、第1日目において2つの豚房それぞれにおいて画像が撮像され、画像から家畜の頭数が計数される。計数された頭数は、日付等の所定期間を表す情報とともに各豚房、豚舎の合計、農場での合計として整理して記憶させておくことができる。なお、頭数を計数する所定期間は日付ではなく週単位やそれ以外の単位であってもよい。これによって、農場全体で何頭の家畜が飼養されているか自動的に計数することができる。
【0050】
豚房内の家畜数は、飼養者の意図的な編成により変動することはあるが、それ以外にも突然死亡したり、病気豚房への移動があったりと、管理する頭数が変化するため、豚房、豚舎、農場というステップを踏まえて頭数管理できる仕組みがあることが重要である。
【0051】
図8は、基本飼料情報について示す図である。基本飼料情報は、例えば飼料名とCP含有率(%)とが含まれている。また、飼料は給餌対象とする家畜種類が予め定められている。基本飼料情報は予め記憶されており、飼料名(飼料内容)とCP含有率(%)との対応が紐づけられている。
【0052】
図9は供給飼料情報を示す図である。供給飼料情報は、どの飼料が、いつ出荷(配送)され、サイロ等の農場のタンクに投入されたのかを示す情報を含んでいてよい。このような供給飼料情報は飼料供給者から直接発行される情報を用いてよく、納品情報や伝票情報などの情報を飼料供給者端末300より受信し、それらの情報を入力することで供給飼料情報取得部112が生成可能である。
【0053】
供給飼料情報取得部112が供給飼料情報を生成するための情報入力は、飼料供給者端末300から入手したアミノ酸バランス改善飼料の納品に関する一次情報を処理して入力することが好ましいが、当該一次情報を受領した家畜飼養者等が農場端末400等の端末等を操作して間接的に入力してもよい。
【0054】
飼料は育成段階に応じて切り替えられる。そして、飼料ごとにCP含有率が異なるために、より精度よく排出削減量を算出するためには、どの飼料がどのタイミングでサイロ550のタンク551内に投入されているか考慮されることが好ましい。基本的にタンク551は1つの豚舎510に対して1基ずつ設けられており、他飼料の入れ替えもそのサイロ単位で実施される。また飼育段階も肥育舎など豚舎単位で管理される場合があり、豚舎ごとに供給される飼料の種類が異なることがある。このような飼料の切替については後述する。
【0055】
次に、図10は、本開示の計算方法の手順を示すフローチャート図であり、家畜計数装置30、飼料計量装置40、供給飼料情報取得部112、給餌量算出部111の基本的な処理の流れを示している。
【0056】
この図10の、ステップS110において、複数の豚が飼養されている農場に設置された家畜計数装置30が、所定期間内に飼養されアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている豚の飼養頭数を計数する(家畜計数ステップ)。
【0057】
飼養頭数はアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている全ての豚舎、豚房で飼養している豚について漏れなく、重複することなく計数し、温室効果ガス排出削減の取り組みを実施している農場全体の飼養頭数を算出する。1つの事業体で農場を複数保有しているときは農場ごとに算出する。また、豚舎ごとにアミノ酸バランス改善飼料の種類が異なる場合については後述する。
【0058】
次に、ステップS120において、排出削減量算出部130が、ステップS110で計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌されていない場合の前記温室効果ガスのベース排出量を算出する(ベース排出量算出ステップ)。
【0059】
以下にベース排出量を、1日の豚の排泄物から生じる一酸化二窒素(NO)をCO換算で算出する一例について示す。
(式1)
ベースライン排出量=(排泄物の管理区分のNO排出係数(tN2O-N/tN))×(改善前飼料(通常飼料)を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排泄物に含まれる窒素含有量(tN/頭/日))×(改善前飼料を使用して飼養したと仮定する飼養頭数(頭))×(44/28)×(NOの地球温暖化係数(tCO2/tN2O))
以上の計算を排泄物の管理区分ごとに行い、それらを積算する。
また、以上の計算は飼養日数1日あたりのベースライン排出量であるから、これに飼養日数を乗じることで所定期間内のベース排出量を求めることができる。
【0060】
排泄物の管理区分のNO排出係数(tN2O-N/tN)は、年ごとに発行される各国の温室効果ガスインベントリ報告書等で設定されており、例えば図11に示すように処理方法ごとに異なる係数を採用することができる。図11に示す係数はあくまで例示であり、国ごと、年ごとに設定された異なる係数を採用することができる。このように、排泄物の処理方法により温室効果ガスの発生する量が異なるため、上記の計算は排泄物の管理区分ごとに行われる。
【0061】
改善前飼料(通常飼料)を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排泄物に含まれる窒素含有量についても、同様に年ごとに発行される各国の温室効果ガスインベントリ報告書等で設定されており、例えば図12に示すように、糞と尿、肥育豚と繁殖豚ごとに異なる窒素含有量を採用することができる。図12に示す項目、係数はあくまで例示であり、国ごと、年ごとに設定された異なる数値を採用することができる。
【0062】
改善前飼料を使用して飼養したと仮定する飼養頭数については、家畜計数装置30が計数した飼養頭数を採用することができる。また、本例では1日のベースライン排出量を算出しているが、例えば30日間のベースライン排出量を算定する場合に、日ごとの飼養頭数に応じて算出することがより正確であるが、概算で構わない場合は、平均飼養頭数と飼養日数(アミノ酸バランス改善飼料を給餌した日数)を乗じて算出してもよい。
【0063】
ここで、「44/28」については、NO中に含まれる窒素重量(tN2O-N)をN2O重量(tN2O)に変換するための係数である。また、NOの地球温暖化係数(tCO2/tN2O)については概ね300であるが、年ごとに発行される公的な報告書により変動するのでそれらの値を適宜参照する。
【0064】
以上の算出式を参照すればわかるように、ベースライン排出量が変化する場合に主たる要因となる変数は「改善前飼料を使用して飼養したと仮定する飼養頭数(頭)」であり、これについては家畜計数装置30によって計算することができる。それ以外の係数について予め定められたものであり、また、それ以外の変数についてもほぼ予め定められたものであって変動するとしても僅かなものである。なお、ベースライン排出量の概算としては以下のような算出を行うこともできる。
(式1´)
ベースライン排出量=(排泄物の管理区分のN2O排出係数(tN2O-N/tN))×(改善前飼料(通常飼料)1kgあたりの窒素含有量(tN/kg)×(改善前飼料の給餌量(kg))×(44/28)×(N2Oの地球温暖化係数(tCO2/tN2O))
ここで、改善前飼料(通常飼料)1kgあたりの窒素含有量(tN/kg)が既知であれば、供給飼料情報取得部112が取得した供給飼料情報からアミノ酸バランス改善飼料の給餌量(kg)を入手し、これと同量の改善前飼料が供給されたものとして、(改善前飼料の給餌量(kg))を入力し計算を行うことができる。
これに対応する改善後排出量については後述する。
【0065】
次に、ステップS130において、排出削減量算出部130が、ステップS110で計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌された場合の温室効果ガスの改善後排出量を算出する。
【0066】
以下に改善後排出量を、1日の豚の排泄物から生じる一酸化二窒素(NO)をCO換算で算出する一例について示す。
(式2)
改善後排出量=(排泄物の管理区分のNO排出係数(tN2O-N/tN))×(アミノ酸バランス改善飼料を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排せつ物に含まれる窒素含有量(tN/頭/日))×(改善前飼料を使用して飼養した飼養頭数(頭))×(44/28)×(N2Oの地球温暖化係数(tCO2/tN2O))
以上の計算を排泄物の管理区分ごとに行い、それらを積算する。
また、以上の計算は飼養日数1日あたりの改善後排出量であるから、これに飼養日数を乗じることで所定期間内の改善後排出量を求めることができる。
【0067】
ここで、「改善前飼料を使用して飼養した飼養頭数」については、ベースライン排出量の算出における「改善前飼料を使用して飼養したと仮定する飼養頭数」と同じ数値となるものであり、家畜計数装置30によって計数されたものである。よって、上記算出式においてベースライン排出量と異なる項目は「アミノ酸バランス改善飼料を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排せつ物に含まれる窒素含有量」であり、これについて以下で説明する。
【0068】
アミノ酸バランス改善飼料を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排せつ物に含まれる窒素含有量(tN/頭/日)は、以下の式で表される。
(式3)
アミノ酸バランス改善飼料を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排せつ物に含まれる窒素含有量(tN/頭/日)=(改善前飼料(通常飼料)を使用して飼養した場合の豚1頭、1日当たりの排泄物に含まれる窒素含有量(tN/頭/日))×{1-(3.70+7.46×(改善前飼料(通常飼料)のCP含有率-アミノ酸バランス改善飼料のCP含有率)×1/100)}
【0069】
すなわち、上記式3では、改善前飼料と改善後飼料のCP含有率の差分に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料を給餌した場合の窒素含有量を算出している。式中に現れる係数は過去の公的実験により求められたCP含有率の差分を排泄物中の窒素低減率に変換して窒素含有量として反映させるためのものであり、例えばこの係数では差分1%につき11.16%窒素含有量が低下することを表している。なお、この係数については再度実験を行うなどして修正することは可能である。
【0070】
以上の算出式を参照すればわかるように、改善後排出量が変化する場合に主たる要因となる変数は「改善前飼料を使用して飼養した飼養頭数(頭)」と「改善前飼料(通常飼料)のCP含有率(%)」と「アミノ酸バランス改善飼料のCP含有率(%)」との差分であり、「改善前飼料(通常飼料)のCP含有率」については、従来のものという位置づけで実質的に定数となるから、改善後排出量の算出において必要な項目は、「改善前飼料を使用して飼養した飼養頭数(頭)」と「アミノ酸バランス改善飼料のCP含有率(%)」である。なお、上記したベースライン排出量の概算(式1´)に対応する改善後排出量の概算としては以下のような算出も行うことができる。
(式2´)
改善後排出量=(排泄物の管理区分のN2O排出係数(tN2O-N/tN))×(改善前飼料(通常飼料)1kgあたりの窒素含有量(tN/kg)×(アミノ酸バランス改善飼料の給餌量(kg))×{1-(3.70+7.46×(改善前飼料(通常飼料)のCP含有率-アミノ酸バランス改善飼料のCP含有率)×1/100)}(44/28)×(N2Oの地球温暖化係数(tCO2/tN2O))
【0071】
次に、ステップS140において、排出削減量算出部130が、ステップS120で算出したベース排出量から、ステップS130で算出した改善後排出量を減算して、所定期間内における排出削減量を算出する(排出削減量算出ステップ)。
【0072】
以上が、本開示における排出削減量の算出方法の基本的な処理の流れとなるが、改善後排出量については算出精度を向上させるために更なる処理が行われてもよいものであり、以下に説明する。
【0073】
図13はアミノ酸バランス改善飼料の切替を行う場合の改善排出量の算出についての応用例を説明する図である。図8にも示した通り、アミノ酸バランス改善飼料にも育成段階に応じて種類を切り替える場合があり、同じ肥育豚であっても、離乳直後、肥育前期、肥育後期など、飼養日齢に応じてCP含有率の異なる改善飼料が給餌される。その場合、正確なCP含有率が反映されていなければ、改善後排出量の算出精度が低下する。
【0074】
そこで、図9にも示した供給飼料情報を供給飼料情報取得部112が取得し、記憶部120に供給飼料情報として記憶させる。この情報を排出削減量算出部130が用いて、改善後排出量の算出を行う。例えば供給飼料情報取得部112に、飼料供給者からの提供情報、具体的には納品書、カタログ、パッケージ等の情報を入力して取得させ、投入日時、飼料名、投入豚舎、投入量等を記憶する。ここで重要なのは投入日時などの供給タイミングと投入豚舎などの供給場所であり、排出削減量算出部130が供給飼料情報と、基本飼料情報を参照することで、改善後排出量の算出の際にCP含有率を更新して用いることができる。
【0075】
これによって、図13に示すように豚舎ごと(飼料の投入単位ごと)にCP含有率の切替て更新することができる。この図において、所定の1~3日目の改善排出量を、豚舎1~2において算出するに際して、供給飼料情報取得部112が供給飼料情報を取得する(供給飼料情報取得ステップ)ことで、アミノ酸バランス改善飼料が、第1のアミノ酸バランス改善飼料から、第2のアミノ酸バランス改善飼料に切り替えられ、切り替えたCP含有率に応じて、改善後排出量が算出される。なお、この図においては、理解のために豚舎1においては2日目と3日目のあいだに、豚舎2においては、1日目と2日目の間に、供給飼料情報取得ステップを挿入しているが、飼料の納品が予め計画されている場合には、事前に供給飼料情報取得ステップを実施してよい。
【0076】
このようにして、適時切り替えられるアミノ酸バランス改善飼料に対応するCP含有率を、供給される単位である豚舎、サイロ等に応じて更新することで、改善後排出量の算出精度を向上させることができる。
【0077】
また、飼料の切替に際しては、ある程度のタイムラグが生じることは実際上の問題であり、これについて対処する方法についても以下に説明する。
【0078】
図14は飼料の切り替えに要するタイムラグを説明するための模式図である。この図の上段においては、既に投入されている既存飼料OFが斜線ハッチングで示されている。この状態では、タンク551に貯蔵されている飼料については、飼料計量装置40が残量ゼロを示す状態であると仮定する。しかし実際には、図示されているように、給餌管552から給餌器515には既存飼料OFの残りが存在している。
【0079】
これに対して、切替飼料を投入すると、下段の図に切替飼料NFが点線ハッチングで示されているように、切替飼料NFと既存飼料OFが両方残存する状態となる。そして、切替飼料NFが家畜に摂取されるまでには、ある程度のタイムラグが発生することになる。
【0080】
そうすると、切替飼料NFを投入しても、家畜に摂取されるまでの間はその飼料による排出量削減効果は発生しない、又は改善飼料のCP含有率が異なるので改善後排出量の算出が正確でない状態となる。そこで、その期間については予め定めた固定値、例えば1日、2日など算出を行うために適した単位をタイムラグとして設定し、飼料の供給タイミングを遅らせる処理を行うといった処理を行った方が、算出は正確となる。例えば、図13の右側に示した例においては、タイムラグ固定値を1日とすると、2日目から第2のアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率を用いて改善排出量を算出するのではなく、3日目から第2のアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率を用いて改善排出量を算出するようにすればよい。また、給餌器515が不断給餌方式ではなく制限給餌方式で飼料を供給する場合には、給仕管552に残存する餌量に用いることで、給餌回数と給餌1回ごとの給餌量に応じて残存する飼料が消費されるまでの時間が決まるため、予め設定された給餌回数と給餌1回ごとの給餌量に応じてタイムラグ期間を設定し記憶しておいてもよい。
【0081】
以上のように、本開示の管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置を用いることで、畜産業において家畜やその糞尿から放出される温室効果ガスを削減する飼養を行う飼養者が、カーボン・クレジット制度を利用するための排出削減量を簡便に計算できるようになる。
【0082】
図15は、畜産業において家畜やその糞尿から放出される温室効果ガスを削減する飼養を行う飼養者が、カーボン・クレジット制度を簡便に利用するための仕組みについて説明する図である。
【0083】
図12において、農場・飼養者は、アミノ酸バランス改善飼料を導入し、温室効果ガスの排出量削減の取り組みを行う。これに際して、家畜の飼養頭数、飼養日数、飼料情報をモニタリングすることにより、モニタリング情報、およびクレジットと交換可能な環境的価値が生じる。農場・飼養者は、本開示の管理システムを利用することにより、このモニタリング情報及び環境的価値を経済的利益に変換することが可能となる。
【0084】
管理システムの運用には費用が生じることから、クレジット管理業者・システム管理業者はサービス使用料等を農場・使用者から徴収してもよいし、クレジット購入会社から購入してもよい。農場・飼養者は、モニタリングのための装置やサーバ等のインフラを利用できる費用として、モニタリング情報及び環境的価値をクレジット管理業者・システム管理業者に支払ってもよい。モニタリング情報及び環境的価値は、システム管理業者が運営する畜産管理システムの利用料、対価として支払われてもよい。
【0085】
飼料供給者は農場・飼養者にアミノ酸バランス改善飼料を供給する。飼料供給者はクレジット購入会社になってもよく、クレジットの対価としてアミノ酸バランス改善飼料を供給してもよい。
【0086】
クレジット管理業者・システム管理業者は、農場・飼養者より提供されたモニタリング情報及び環境的価値を用いて、認証機関・制度に対して所定の手続を行い、クレジットを取得する。取得したクレジットは、クレジット購入会社等に販売してよい。モニタリング情報及び環境的価値の提供を受けるさいには、農場・飼養者に対価を支払ってもよい。
【0087】
このような仕組みにおいては、農場・飼養者、飼料供給者、クレジット管理業者・システム管理業者、クレジット購入会社の貢献に応じて適切に利益配分がなされるように設計されてよく、上記した利益構造に限定されないエコシステムを実現可能である。
【0088】
したがって、本開示の管理システム、管理システムを用いた排出削減量の算出方法、および家畜計数装置を用いて、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の取引システムを構築することも可能である。
【0089】
<付記>
以上の各実施形態で説明した事項を以下に付記する。
【0090】
(付記1)
家畜計数装置を備えた管理システムを用い、温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の算定方法であって、
複数の豚が飼養されている農場に設置された家畜計数装置が、所定期間内に飼養されアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている前記豚の飼養頭数を計数する家畜計数ステップと、
排出削減量算定部が、前記家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌されていない場合の前記温室効果ガスのベース排出量を算出するベース排出量算出ステップと、
前記排出削減量算出部が、前記家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、アミノ酸バランス改善飼料が給餌された場合の前記温室効果ガスの改善後排出量を算出する改善後排出量算出ステップと、
前記排出削減量算出部が、前記ベース排出量と、前記改善後排出量を用いて、前記所定期間内における前記排出削減量を算出する排出削減量算出ステップと、を含む排出削減量の算出方法。
(付記2)
前記管理システムの供給飼料情報取得部が、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料のCP含有率と供給タイミングを含む供給飼料情報を取得する供給飼料情報取得ステップをさらに含み 、
前記改善後算出ステップにおいて、前記排出削減量算出部が、前記所定期間における前記改善後排出量を、前記家畜計数ステップで計数した豚の頭数と、前記供給飼料情報取得ステップで取得した前記CP含有率と供給タイミングに基づいて算出する、付記1記載の排出削減量の算出方法。
(付記3)
前記管理システムの記憶部が、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料が給餌開始されるまでのタイムラグ期間を記憶し、
前記排出削減量算出部が、前記改善後算出ステップにおいて、新たに供給されるアミノ酸バランス改善飼料の供給タイミングを、前記タイムラグ期間を用いて補正する、付記2に記載の排出削減量の算出方法。
(付記4)
温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の管理システムであって、
農場に設置され、所定期間内に飼養されている複数の豚の頭数を計数する家畜計数装置と、
前記家畜計数装置が計数した豚の頭数に基づいて、飼養している複数の豚へのアミノ酸バランス改善飼料の給餌による所定期間内の排出削減量を算出する排出削減量算出部と、を備える、管理システム。
(付記5)
前記家畜計数装置は、豚の体に装着又は付与された識別子を、前記識別子との電気的通信又は前記識別子を撮像することにより識別し、前記豚の頭数を計数する、付記4に記載の管理システム。
(付記6)
前記家畜計数装置は、前記農場内に設置された撮像装置が取得した画像を 画像認識処理することにより前記豚の頭数を計数する、付記4に記載の管理システム。
(付記7)
前記家畜計数装置は、少なくとも豚 の画像を学習用データとして学習を行った学習済みモデルを用いて画像認識処理することにより前記豚の頭数を計数する付記6に記載の管理システム。
(付記8)
前記家畜計数装置は、豚の体に装着された識別子との無線通信を用いた電気的通信により前記識別子に固有の信号を受信し前記豚の頭数を計数する 、付記4に記載の管理システム。
(付記9)
温室効果ガス排出抑制の取組の対価として取引されるクレジットの取得に対して価値を有する排出削減量の算出を自動的に行うための家畜計数装置であって 、
前記家畜計数装置は、前記農場に設置され、前記農場内に設置された撮像装置が取得した画像を画像認識処理することにより、所定期間内に飼養されている前記豚の頭数を計数する、家畜計数装置。
(付記10)
前記家畜計数装置は、豚の画像を学習用データとして学習を行った学習済みモデルを用いて画像認識処理することにより前記豚の頭数を計数する、付記9に記載の家畜計数装置。
【符号の説明】
【0091】
1 管理システム
30 家畜計数装置
40 飼料計量装置
50 排泄物量測定装置
100 管理サーバ
110 モニタリング部
111 給餌量算出部
112 供給飼料情報取得部
120 記憶部
130 排出削減量算出部
200 管理端末
300 飼料供給者端末
400 農場端末
500 農場
510 豚舎
511 豚房
515 給餌器
550 サイロ
551 タンク
552 給餌管
NW ネットワーク

【要約】
【課題】畜産業において家畜やその糞尿から放出される温室効果ガスを削減する飼養を行う飼養者が、カーボン・クレジット制度を利用するための排出削減量を簡便に計算できること
【解決手段】複数の豚が飼養されている農場に設置された家畜計数装置が、所定期間内に飼養されアミノ酸バランス改善飼料が給餌されている豚の飼養頭数を計数する家畜計数ステップと、排出削減量算定部が、家畜計数ステップで計数した豚の頭数に基づいて、温室効果ガスのベース排出量を算出するベース排出量算出ステップと、アミノ酸バランス改善飼料が給餌された場合の温室効果ガスの改善後排出量を算出する改善後排出量算出ステップと、ベース排出量と、改善後排出量を用いて、所定期間内における排出削減量を算出する排出削減量算出ステップと、を含む。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15