(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラム
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20231214BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20231214BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E01D22/00 A
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2021004102
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 弘大
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 恭平
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020172(JP,A)
【文献】特開2015-087172(JP,A)
【文献】特開2015-141049(JP,A)
【文献】特開2019-039810(JP,A)
【文献】特開2018-117478(JP,A)
【文献】特開2020-094992(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110334371(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G01H 1/00-17/00
B61L 1/00-99/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、
前記
列車の
前方の車両及び後方の車両の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長を主成分とする振動を、共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出工程と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定工程と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算工程と、
前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出工程と、
を含む橋梁の共振検出方法。
【請求項2】
列車が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、
前記
列車の
前方の車両及び後方の車両の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長を主成分とする振動を共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出部と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定部と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算部と、
前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出部と、
を備える橋梁の共振検出装置。
【請求項3】
列車が移動する橋梁の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、
前記
列車の
前方の車両及び後方の車両の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長を主成分とする振動を、共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出手順と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定手順と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算手順と、
前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出手順と、
をコンピュータに実行させる橋梁の共振検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出装置とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速鉄道橋の共振現象により大振幅の振動が生じる場合、橋梁のたわみ量や、ひび割れ進展や疲労が維持管理上、大きな問題となる。これは、列車の車両長に起因した規則的な加振振動数と橋梁の固有振動数が一致する場合に生じる。実際に共振によるたわみ量が規制値を超えて徐行運行となった高速鉄道路線も存在し、共振橋梁をいち早く検知し、対策することが必要である。共振は供用開始後ある時点で突如発生する場合もあり、地上からの測定だけでは共振状態のまま通常運行してしまう場合もある。これまでに走行する列車の先頭車両と最後尾車両の床上上下加速度を利用して走行する営業車両から共振が生じた橋梁を検知する方法が提案されている。
【0003】
従来の橋梁動的応答評価方法(以下、従来技術1という)は、橋梁上を走行する先頭車両及び後尾車両の上下加速度を計測し、先頭車両及び後尾車両の上下加速度の波形の特徴量に基づいて加速度増幅率を算出し、加速度増幅率から橋梁衝撃係数を算出している(例えば、特許文献1参照)。従来の橋梁動的応答評価方法(以下、従来技術2という)は、橋梁上を走行する全車両の上下加速度を車両毎に計測し、各車両の上下加速度の波形の特徴量に基づいて個別車両増幅率を算出し、個別車両増幅率から橋梁衝撃係数を算出している(例えば、特許文献2参照)。この従来技術1,2では、橋梁上を走行する列車の車両加速度応答に基づく指標を用いて、橋梁の衝撃係数を求め、動的応答の評価及び橋梁の健全性の評価をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1,2では、位置誤差の影響から先頭車両及び後尾車両の測定データの比を用いていた。しかし、従来技術1,2では、車両の振動成分により検知精度が低下する場合があった。また、従来技術1,2では、共振橋梁に特有の振動成分を特定できていなかったため、橋梁のたわみ成分以外の軌道変位が大きい箇所ではその影響により検知精度が低下していた。
【0007】
この発明の課題は、共振橋梁に特有の振動成分に基づいて橋梁の共振を正確に検出することができる橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図2、図8、図9及び
図13に示すように、
列車(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、前記
列車の
前方の車両(V
F
)及び後方の車両(V
L
)の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置(2)の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長(L
C
)を主成分とする振動を、共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出工程(#110)と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定工程(#120)と、前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算工程(#130)と、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出工程(#140)とを含む橋梁の共振検出方法(#100)である。
【0009】
請求項2の発明は、
図2、図3、図8及び図9に示すように、
列車(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、前記
列車の
前方の車両(V
F
)及び後方の車両(V
L
)の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置(2)の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長(L
C
)を主成分とする振動を、共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出部(4c)と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定部(4d)と、前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算部(4e)と、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出部(4f)とを備える橋梁の共振検出装置(4)である。
【0010】
請求項3の発明は、
図2、図8、図9及び
図14に示すように、
列車(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、前記
列車の
前方の車両(V
F
)及び後方の車両(V
L
)の上下加速度をこの
列車側から測定する加速度測定装置の測定結果から、
この前方の車両及びこの後方の車両の車両長(L
C
)を主成分とする振動を、共振橋梁に特有の振動成分
として、フィルタ処理によって抽出する振動成分抽出手順(S200)と、
前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を包絡線処理によって推定する振動振幅推定手順(S300)と、前記列車の前方の車両及び後方の車両で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算手順(S400)と、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の
1次共振を検出する共振検出手順(S500)とをコンピュータに実行させる橋梁の共振検出プログラムである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、共振橋梁に特有の振動成分に基づいて橋梁の共振を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置による検出対象の橋梁を移動する移動体の模式図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す全体図である。
【
図3】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す構成図である。
【
図4】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムの加速度測定装置の構成図である。
【
図5】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムにおける加速度測定装置の測定データ記憶部のデータ構造の模式図である。
【
図6】各列車速度での列車通過時の橋梁のたわみ時刻歴応答を示すグラフであり、(A)~(E)は各列車速度におけるたわみ時刻歴応答を示すグラフである。
【
図7】列車速度の関数としての列車通過時の単純支持はりの最大応答値を示すグラフであり、(A)は列車通過時の橋梁中央の最大変位を示すグラフであり、(B)は列車通過時の橋梁中央の最大加速度を示すグラフである。
【
図8】理論分析用の共振橋梁モデルの模式図である。
【
図9】共振橋梁の移動荷重位置における動的応答成分を一例として示すグラフである。
【
図10】共振橋梁の移動荷重位置における動的応答成分スペクトルを一例として示すグラフである。
【
図11】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の検出原理を説明するための模式図である。
【
図12】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法を説明するための概念図であり、(A)は列車通過時の橋梁支間中央の鉛直変位を示すグラフであり、(B)は橋梁通過時の車軸の鉛直変位を示すグラフであり、(C)は橋梁通過時の車体上下加速度を示すグラフであり、(D)はフィルタ処理及び包絡線処理後の橋梁通過時の車体上下加速度のフィルタ処理及び包絡線処理後の適用結果を示すグラフであり、(E)は包絡線処理後の先頭車両及び後尾車両の車体上下加速度の差分処理後の適用結果を示すグラフである。
【
図13】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法を説明するための工程図である。
【
図14】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図15】この発明の第2実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す全体図である。
【
図16】この発明の実施例に係る橋梁の共振検出方法の検出結果を一例として示す画面であり、(A)は共振状態であるときの検出結果であり、(B)は共振に近い状態であるときの検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1及び
図2に示す軌道Rは、列車Tが走行する通路(線路)である。軌道Rは、列車Tの車輪を案内する左右一対のレールなどを備えている。軌道Rは、
図11に示すように、例えば、二本の本線で構成された複線であり、終点から起点に向かって列車Tが走行する上り線と、起点から終点に向かって列車Tが走行する下り線とから構成されている。
【0015】
図1、
図2及び
図11に示す列車Tは、軌道Rに沿って移動する移動体である。列車Tは、橋梁B上を走行する電気車、気動車又は客車などの鉄道車両である。
図1及び
図2に示す列車Tは、例えば、高速で走行する新幹線(登録商標)の鉄道車両である。列車Tは、旅客又は貨物の運輸営業を行うことを目的として組成された営業列車である。列車Tは、例えば、
図1に示すように、車両長(車体長)が25m程度の営業車両12両で編成されている。列車Tは、橋梁B上を走行するときに規則的な軸配置に起因して、車輪が周期的に橋梁Bに荷重を作用させて橋梁Bを加振する。
【0016】
列車Tは、
図1、
図2及び
図11に示すように、車両V
F,V
M,V
Lによって組成されており、略一定の速度で橋梁Bを移動している。車両V
Fは、編成の先頭に位置する先頭車両であり、車両V
Mは編成の中間に位置する中間車両であり、車両V
Lは編成の後尾に位置する後尾車両(最後尾車両)である。車両V
F,V
M,V
Lは、
図1及び
図2に示すように、台車T
1,T
2を備えており、一つの車体が二つの台車T
1,T
2によって支持されている。台車T
1,T
2は、各車両V
F,V
M,V
Lの車体を支持して軌道R上を走行する装置である。
図1及び
図2に示す台車T
1,T
2は、二対の輪軸によって構成された二軸台車(ボギー台車)であり、各車両V
F,V
M,V
Lの車体の一方の端部と他方の端部とを支持している。台車T
1は、各車両V
F,V
M,V
Lの進行方向前側に配置されて車体の一方の端部を支持する第1台車であり、台車T
2は各車両V
F,V
M,V
Lの進行方向後側に配置されて車体の他方の端部を支持する第2台車である。
【0017】
図1及び
図11に示す橋梁Bは、軌道Rの下方に空間を形成するように建設された固定構造物である。橋梁Bは、川、谷、湖沼などの水圏又は道路、鉄道などの交通路を横切るように建設されている。橋梁Bは、例えば、コンクリートが主要材料である鉄筋コンクリート構造(RC構造)、又はプレストレストコンクリート構造の一種であり、通常の使用状態でひび割れの発生を許容し、異形鉄筋の配置とプレストレストの導入によりひび割れ幅を制御する構造 (PRC構造)のコンクリート鉄道橋である。橋梁Bは、桁B
1と橋脚B
2などを備えている。桁B
1は、水平方向に配置されて軌道Rを支持する構造物である。桁B
1は、橋脚B
2を支点として一方の支点と他方の支点とを跨ぐPRC桁のような梁である。橋脚B
2は、桁B
1を支持する構造物である。橋脚B
2は、橋梁Bの長さ方向に所定の間隔をあけて施工されており、鉛直方向に配置される鉄筋コンクリート柱などである。
【0018】
図2及び
図3に示す共振検出システム1は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出するシステムである。共振検出システム1は、
図3に示すように、加速度測定装置2と、通信装置3と、共振検出装置4などを備えている。共振検出システム1は、加速度測定装置2の測定結果を通信装置3によって共振検出装置4に送信し、加速度測定装置2の測定結果に基づいて橋梁Bの共振を検出する。
【0019】
図2~
図4に示す加速度測定装置2は、列車Tの上下加速度を列車T側から測定する装置である。加速度測定装置2は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの上下加速度を測定する。加速度測定装置2は、列車Tが移動するときに列車Tに発生する振動を測定しており、列車Tの車両V
Fの車体の上下加速度と列車Tの車両V
Lの車体の上下加速度とを測定する。加速度測定装置2は、列車Tとともに移動しながら車両V
F,V
Lの上下加速度を測定する。加速度測定装置2は、
図4に示すように、加速度検出部2a,2bと、速度検出部2cと、位置検出部2dと、測定データ記憶部2eと、測定データ送信部2fと、制御部2gなどを備えている。
【0020】
図2及び
図4に示す加速度検出部2a,2bは、列車Tの上下加速度を検出する手段である。加速度検出部2aは、列車Tの車両V
Fの上下加速度(上下振動加速度)を検出し、加速度検出部2bは列車Tの車両V
Lの上下加速度(上下振動加速度)を検出する。加速度検出部2a,2bは、いずれも同一構造であり、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの上下加速度(車上加速度)を検出する加速度計などである。加速度検出部2a,2bは、例えば、多くの高速鉄道車両に搭載されている列車動揺管理用の車体動揺加速度センサを利用可能である。加速度検出部2a,2bは、例えば、
図2に示すように、列車Tの編成中央部Oから等距離L
0の検出位置P
F,P
Lで車両V
F,V
Lの振動を検出する。加速度検出部2a,2bは、先頭の車両V
Lの台車T
1の上方と後尾の車両V
Lの台車T
2の上方とで上下加速度を検出する。加速度検出部2aは、例えば、先頭の車両V
Lの進行方向前側の台車(第1台車)T
1の直上の車体床上に設置されており、加速度検出部2bは後尾の車両V
Lの進行方向後側の台車(第2台車)T
2の真上の車体床上に設置されている。
図4に示すように、加速度検出部2aは検出後の上下加速度を先頭車両加速度データD
11として制御部2gに出力し、加速度検出部2bは検出後の上下加速度を後尾車両加速度データD
12として制御部2gに出力する。
【0021】
速度検出部2cは、列車Tの走行速度を検出する手段である。速度検出部2cは、列車Tの車輪の回転を検出して、この車輪の回転数に応じたパルス信号を発生する速度発電機などの速度計である。速度検出部2cは、例えば、列車Tの車輪の1回転毎に所定数のパルス信号(距離パルス信号)を発生してこの車輪の回転数を検出し、この検出結果を列車速度データ(移動体速度データ)D13として制御部2gに出力する。
【0022】
位置検出部2dは、列車Tの位置を検出する手段である。位置検出部2dは、例えば、軌道R側の特定地点に設置された自動列車停止装置(ATS(Automatic Train Stop))のATS地上子との間で相互に情報を送受信するために列車T側に設置されたATS車上子と、このATS車上子からの信号を受信し起点(出発地点)からATS地上子までの距離を表す絶対位置データを出力するATS受信機と、ATS受信機が出力する絶対位置データに基づいて列車Tの絶対位置を検出し、次のATS地上子に列車Tが到達するまでの間に速度検出部2cが出力するパルス信号を積算して列車Tの現在位置を演算する演算部などを備えている。位置検出部2dは、速度検出部2cが出力する列車速度データD13とATS受信機が出力する絶対位置データとに基づいて、起点からの列車Tの移動距離(走行距離)を演算し、列車Tの現在位置を列車位置データ(移動体位置データ)D14として制御部2gに出力する。
【0023】
測定データ記憶部2eは、加速度測定装置2に関する種々のデータを記憶する手段である。測定データ記憶部2eは、例えば、加速度測定装置2の測定結果を測定データD
1として記憶する記憶装置である。測定データ記憶部2eは、
図5に示すように、加速度検出部2aが出力する先頭車両加速度データD
11と、加速度検出部2bが出力する後尾車両加速度データD
12と、速度検出部2cが出力する列車速度データD
13と、位置検出部2dが出力する列車位置データD
14と、加速度測定装置2が各データを測定した測定日データD
15を測定データD
1として記憶する。測定データ記憶部2eは、速度検出部2cが出力する列車速度データD
13及び位置検出部2dが出力する列車位置データD
14と対応させて先頭車両加速度データD
11及び後尾車両加速度データD
12を、列車Tが橋梁Bを通過する毎に測定日データD
15に従って時系列順に記憶する。
【0024】
図4に示す測定データ送信部2fは、測定データD
1を送信する手段である。測定データ送信部2fは、測定データ記憶部2eが記憶する測定データD
1を列車Tから共振検出装置4に送信する送信機などである。
【0025】
制御部2gは、加速度測定装置2に関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部2gは、例えば、加速度検出部2aが出力する先頭車両加速度データD11を測定データ記憶部2eに出力したり、先頭車両加速度データD11の記憶を測定データ記憶部2eに指令したり、加速度検出部2bが出力する後尾車両加速度データD12を測定データ記憶部2eに出力したり、後尾車両加速度データD12の記憶を測定データ記憶部2eに指令したり、速度検出部2cが出力する列車速度データD13を測定データ記憶部2eに出力したり、列車速度データD13の記憶を測定データ記憶部2eに指令したり、位置検出部2dが出力する列車位置データD14を測定データ記憶部2eに出力したり、列車位置データD14の記憶を測定データ記憶部2eに指令したり、測定データ記憶部2eから測定データD1を読み出して測定データ送信部2fに出力したり、測定データD1の送信を測定データ送信部2fに指令したりする。制御部2gは、加速度検出部2a,2b、速度検出部2c、位置検出部2d、測定データ記憶部2e及び測定データ送信部2fとの間で通信可能に接続されている。
【0026】
図3及び
図4に示す通信装置3は、加速度測定装置2から共振検出装置4に測定データD
1を送信する装置である。通信装置3は、加速度測定装置2の測定データ送信部2fから共振検出装置4の測定データ受信部4aに測定データD
1を送信するために、これらを相互に通信可能なように接続する電話回線又はインターネット回線などの電気通信回線である。
【0027】
図2~
図4に示す共振検出装置4は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出する装置である。共振検出装置4は、加速度測定装置2が測定する測定データD
1から共振橋梁に起因する車両長成分以外の成分を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。共振検出装置4は、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅との差分から、橋梁Bの共振を検出する。共振検出装置4は、
図3に示すように、測定データ受信部4aと、測定データ記憶部4bと、振動成分抽出部4cと、振動振幅推定部4dと、差分演算部4eと、共振検出部4fと、検出結果データ記憶部4gと、共振検出プログラム記憶部4hと、表示部4iと、制御部4jなどを備えている。共振検出装置4は、例えば、パーソナルコンピュータなどによって構成されており、共振検出プログラムに従って所定の処理をコンピュータに実行させる。共振検出装置4は、例えば、軌道変位及び車両動揺などの鉄道に関するデータを、種々の角度から分析及び加工する軌道保守管理データベースシステム(Laboratory’s Conversational System(LABOCS))上で共振検出プログラムを実行する。
【0028】
次に、列車通過時の鉄道橋の共振現象について説明する。
以下では、2次元単純梁としてモデル化した鉄道橋と、2次元マルティボディによりモデル化した車両による相互シミュレーション結果を例にして説明する。鉄道橋及び車両の諸元は、日本の一般的な鉄道橋及び高速車両を想定し、支間長50m、固有振動数2.8Hz、モード減衰比2%、単位長質量25t/m、車両長25m、台車中心間隔17.5m、台車内車軸間隔2.5m、軸重120kN及び編成数8両である。
【0029】
図6は、いくつかの列車速度200,230,250,270,300km/hで車両が通過した際の橋梁支間中央のたわみ波形を示すグラフである。
図6に示す縦軸は、鉛直変位[mm]であり、横軸は1車両分(車両長25m)が通過する時間を1とした無次元化時間である。
図6に示すように、列車速度により、橋梁支間中央のたわみ波形に見られる動的応答増幅の特徴が大きく変化し、
図6(C)に示す250km/hで最大となる。このような動的応答増幅は、橋梁の1次たわみモードの固有振動数と走行列車の加振振動数が近接し、共振することで生じる。走行列車の加振周期は、車両の規則的な軸配置に起因するが、支間長30mを超えるような橋梁では車両長25mの間隔が主要な加振成分となる。したがって、列車速度をv[m/s]、車両長をL
c[m]、橋梁の固有振動数をn[Hz]とすれば、共振が生じる条件はv/L
c=nとなり、これを満たす列車速度v=v
resは共振速度と呼ばれ、以下の数1によって表される。
【0030】
【0031】
図6(C)は2.8[Hz]×25[m]=70[m/s]で約250km/hとなり、動的応答増幅が最大となり、概ね数1の条件に対応する。
図6(C)に示す状態は、共振状態であり、この状態の橋梁は共振橋梁である。
図6(B)(D)に示す状態は、共振に近い状態であり、たわみ波形の振幅が増減するうなり現象が生じる。これは走行列車の加振周期と橋梁の固有振動数が若干ずれることで生じる。
図6(A)(E)に示す状態は、非共振状態であり、列車の走行速度が共振速度と離れており、列車通過時の動的応答増幅はほとんど生じない。
【0032】
図7は、列車通過時の単純支持梁の最大変位及び衝撃係数と列車速度との関係を示すグラフである。
図7(A)に示す縦軸は列車通過時の単純支持梁の最大変位[mm]であり、
図7(B)に示す縦軸は列車通過時の単純支持梁の衝撃係数であり、
図7(A)(B)に示す横軸は列車速度[km/h]である。
図7に示すA~E部分は、
図6(A)~(E)に示す列車速度に対応する。図
7(A)(B)に示すように、列車速度250km/hにおいて共振により最大変位及び衝撃係数が急激に増幅(図中C部分)しており、
図1に示す車両長L
Cで代表される走行列車の加振振動数と橋梁Bの固有振動数とが一致することで共振現象が生じている。共振検出装置4は、測定データD
1のような車上計測データに基づいて、
図6(
B)(C)(
D)に示すような動的応答が急増する共振状態又は共振に近い状態の橋梁を共振橋梁として検出する。
【0033】
共振橋梁上を走行した際に車両上で観測される動的応答の特徴を理解するため、簡単な理論的分析を行う。
図8は、理論分析用の移動荷重作用下の単純支持梁モデルである。ここで、
図8に示すL
cは車両長であり、Pは車両長毎の移動集中荷重 (移動荷重)であり、v
resは共振速度(共振時の列車速度)であり、L
bは橋梁Bの支点間の距離である支間長(桁支間(スパン長))であり、z
b(x,t)は支間長L
bの単純支持梁の位置x及び時点tにおける桁変位(鉛直変位)であり、A
resは共振時の梁の動的応答振幅(共振時動的振幅)である。xは、橋梁Bの桁B
1の左端をゼロとする橋軸方向の位置であり、tは先頭の移動集中荷重Pが桁B
1に進入した時点をゼロとする時間である。なお、移動集中荷重Pの数は十分に多く、橋梁Bは定常状態にあると仮定する。この場合に、共振状態の梁を通過する移動集中荷重Pが作用する梁上の位置x
pにおける梁の動的応答成分z
b,d(x
p)は、以下の数2によって表される。
【0034】
【0035】
数2は、移動集中荷重Pの位置xpから見た場合の共振橋梁の動的応答成分zb,d(xp)が、車両長Lcに等しい波長の波(車両長成分)と橋梁支間長の2倍の2Lbに等しい波長の波(支間長成分)の掛合せとなることを意味する。
【0036】
図9は、支間長50m、車両長25m、共振時の梁の動的応答振幅A
res=1とした場合に、数2によって算出した共振橋梁の移動集中荷重Pの位置x
pにおける動的応答成分z
b,d(x
p)の一例である。
図9に示す縦軸は、動的応答振幅であり、横軸は桁端(橋梁左端)からの距離[m]である。
図9に示す理論波形は、車両長L
cに対応した波の最大振幅が、支間長L
bに対応した半正弦波(支間長成分)に合わせて増減する特徴を示す。この特徴を利用することによって、上下加速度の測定に混入する他の振動成分と共振橋梁由来の振動成分とをより高精度に分解可能である。
【0037】
図10は、
図9の波形のフーリエスペクトルを一例として示す。共振橋梁の移動荷重位置の動的応答成分は、橋梁支間長に対応した支間長成分よりも橋梁固有振動に対応した車両長成分が主要な振動成分であることがわかる。
【0038】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の検出原理を説明する。
図2及び
図3に示す共振検出装置4は、共振橋梁上を通過する列車Tのうち、後尾の車両V
Lの車体上下加速度に混入する車両長成分の有無から共振橋梁を検知する。共振検出装置4は、
図11に示すように、列車Tの先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで計測した車体上下加速度に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を強調する信号処理(フィルタ及び包絡線処理)を行うとともに、他の振動成分の影響を相殺して共振橋梁に起因した振動成分(車両長成分)のみを抽出する先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの差分処理を行う。共振検出装置4は、包絡線処理された波形の差分値(包絡線差分)を検知指標とし、列車Tが通過する橋梁Bの支間長L
bに対応した卓越成分をこの検知指標が形成する場合に、橋梁Bが共振橋梁であると判断する。
【0039】
(フィルタ処理)
共振検出装置4は、車体上下加速度に混入する様々な成分の中から、共振橋梁に起因する車両長成分以外を低減するためのフィルタ処理を行う。共振検出装置4は、共振橋梁通過時の後尾の車両V
Lの応答に混入する車両長成分を抽出する。共振検出装置4は、1次共振する橋梁Bに特有の波長成分(車両長)を特定する。共振検出装置4は、1車両(25m)の通過時間で橋梁Bの固有振動が1波励起されることから、
図9に示す動的応答成分z
b,d(x
p)の波形に相当する波長25m付近を通過帯としたバンドパスフィルタ(Band-pass filter(BPF))処理を行うことで、1次共振する橋梁Bを検知する。
【0040】
(包絡線処理)
共振検出装置4は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの位置同期誤差や加速度センサの測定誤差に対してロバストな差分処理を実現するために、フィルタ処理後の車体上下加速度波形に対して包絡線処理を行う。共振検出装置4は、
図9に示すように、フィルタ処理によって抽出された動的応答成分z
b,d(x
p)の波形から、支間長成分に対応する波形の振幅を推定する包絡線処理を行う。共振検出装置4は、差分処理に伴って増大する観測ノイズなどのランダム誤差を、包絡線処理によって大幅に低減する。共振検出装置4は、例えば、フィルタ処理した波形の微分値を用いてピーク位置を検出し、このピーク値の極大値又は極小値を結ぶことで包絡線を推定する。共振検出装置4は、差分処理に用いる波形を包絡線処理によって長周期化して、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの位置同期誤差の影響を低減する。共振検出装置4は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの車両動揺加速度センサが同形式であり、混入する測定ノイズが同様に生成されると仮定した場合に、波形としての評価から振幅量としての評価に包絡線処理によって変換することで、差分処理したときに測定ノイズを相殺させて測定ノイズを大幅に低減する。
【0041】
(先頭及び後尾車両の差分処理)
共振検出装置4は、
図9に示すように、フィルタ処理及び包絡線処理により、車体上下加速度に含まれた共振橋梁の車両長成分を、橋梁Bの支間長L
bに対応した半正弦波状の卓越成分に変換する。波長が車両長L
cに近い軌道変位や、橋梁の準静的な変形が、共振橋梁の変位とは別に存在する場合には、これらの影響も含まれる。このため、フィルタ処理及び包絡線処理後の波形で支間長L
bに対応した卓越成分が存在したとしても、橋梁Bの共振に起因するものか、他の要因によるものかを判断できない。共振検出装置4は、
図11に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで計測された二つの車体上下加速度に対して、フィルタ処理及び包絡線処理を施したうえで、後尾の車両V
Lから先頭の車両V
Fを差し引く差分処理により、共振以外の振動成分を相殺する。共振時の橋梁の動的応答振幅は列車Tの通過とともに増幅するため、後尾の車両V
Lが通過した際に卓越する共振に起因した車両長成分は、先頭の車両V
Fの通過時にはほとんど生成されない。一方、橋梁の準静的な変形や線路線形、軌道の歪み、レール凹凸などの軌道変位は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの通過時で変化しないため、これらの成分に起因した車体上下加速度も先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lでほぼ等しくなる。共振検出装置4は、共振橋梁に起因して生成される橋梁Bの支間長L
bに対応した卓越成分のみを差分処理によって抽出する。
【0042】
図3に示す測定データ受信部4aは、加速度測定装置2が送信する測定データD
1を受信する手段である。測定データ受信部4aは、加速度測定装置2が通信装置3を通じて送信する測定データD
1を受信する。測定データ記憶部4bは、加速度測定装置2が送信する測定データD
1を記憶する手段である。測定データ記憶部4bは、例えば、
図5に示すような加速度測定装置2が送信する測定データD
1を、時系列順に記憶する記憶装置である。
【0043】
図3に示す振動成分抽出部4cは、加速度測定装置2の測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する手段である。ここで、共振橋梁に特有の振動成分とは、車両長L
cを主成分とする振動である。振動成分抽出部4cは、車両長L
cを主成分とする振動を共振橋梁に特有の振動成分として抽出する。振動成分抽出部4cは、測定データ記憶部4bが記憶する先頭車両加速度データD
11及び後尾車両加速度データD
12から共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動成分抽出部4cは、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分を加速度測定装置2の測定結果(上下加速度波形)から抽出するとともに、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分を加速度測定装置2の測定結果(上下加速度波形)から抽出する。振動成分抽出部4cは、橋梁Bの変位分(橋梁応答)を含む上下加速度の時間変化を示す測定波形から、車両長L
cを主成分とする振動(車両長不整)のみを通過させて、車両長L
cを主成分とする振動以外を除去する。振動成分抽出部4cは、例えば、特定の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタであり、ディジタルフィルタなどのフィルタ部として機能する。振動成分抽出部4cは、
図9に示す橋梁Bの動的応答成分z
b,d(x
p)の波形からバンドパスフィルタ処理によって、共振橋梁に特有の振動成分sin(2πx/L
c+θ
res)を抽出する。振動成分抽出部4cは、抽出後の共振橋梁に特有の振動成分を、振動成分データとして振動振幅推定部4dに出力する。
【0044】
図3に示す振動振幅推定部4dは、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する手段である。振動振幅推定部4dは、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を加速度測定装置2の測定結果に基づいて推定するとともに、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を加速度測定装置2の測定結果に基づいて推定する。振動振幅推定部4dは、車両長L
cを主成分とする振動の振幅を包絡線処理によって推定する。振動振幅推定部4dは、
図9に示す波長が車両長L
cとなる橋梁Bの動的応答成分z
b,d(x
p)の波形を包絡線処理し、波長が支間長L
bの2倍の2L
bの包絡線sin(2πx/2L
b)を生成して、この包絡線sin(2πx/2L
b)の振幅を推定する。ここで、包絡線処理とは、
図9に示す橋梁Bの動的応答成分z
b,d(x
p)の波形の包絡線sin(2πx/2L
b)を推定する処理である。振動振幅推定部4dは、推定後の共振橋梁に特有の振動成分の振幅を、振動振幅データとして差分演算部4eに出力する。
【0045】
図3に示す差分演算部4eは、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する手段である。差分演算部4eは、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を減算することによって、後尾の車両V
Lでのみ卓越する共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する。差分演算部4eは、バンドパスフィルタ処理及び包絡線処理後の先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの橋梁変位を含む上下加速度の差分を演算する。差分演算部4eは、演算後の共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分データとして共振検出部4fに出力する。
【0046】
共振検出部4fは、共振橋梁に特有の振動成分に基づいて、橋梁Bの共振を検出する手段である。共振検出部4fは、加速度測定装置2の測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、先頭の車両VFで上下加速度を測定する加速度測定装置2の測定結果と、後尾の車両VLで上下加速度を測定する加速度測定装置2の測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の差分に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の差分(包絡線差分)を、橋梁Bが共振しているか否かを検出するための指標である共振橋梁検出指標RDIとして演算する。共振検出部4fは、列車Tが通過した任意の支間長Lbの橋梁Bが共振しているか否かを、共振橋梁検出指標RDIに基づいて評価する。共振検出部4fは、例えば、共振橋梁検出指標RDIが所定値(しきい値)を超えるときには橋梁Bが共振状態又は共振近い状態であると評価し、共振橋梁検出指標RDIが所定値(しきい値)以下であるときには橋梁Bが共振状態ではない評価する。共振検出部4fは、橋梁Bが共振しているか否かの検出結果を検出結果データとして制御部4jに出力する。
【0047】
検出結果データ記憶部4gは、共振検出部4fの検出結果を記憶する手段である。検出結果データ記憶部4gは、例えば、共振検出部4fが出力する検出結果データを橋梁B毎に時系列順に記憶する記憶装置である。
【0048】
共振検出プログラム記憶部4hは、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出するための共振検出プログラムを記憶する手段である。共振検出プログラム記憶部4hは、情報記録媒体から読み取った共振検出プログラム又は電気通信回線を通じて取り込まれた共振検出プログラムを記憶する記憶装置などである。
【0049】
表示部4iは、共振検出装置4に関する種々の情報を表示する手段である。表示部4iは、例えば、加速度測定装置2の測定結果及び共振検出部4fの検出結果などを画面上に表示する表示装置である。表示部4iは、例えば、
図5に示すような先頭車両加速度データD
11及び後尾車両加速度データD
12を列車位置データD
14と対応させて画面上に表示するとともに、列車Tが通過する橋梁B毎の共振の有無を列車位置データD
14と対応させて画面上に表示する。
【0050】
制御部4jは、共振検出装置4に関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部4jは、共振検出プログラム記憶部4hから共振検出プログラムを読み出して、この共振検出プログラムに従って共振検出処理を実行する。制御部4jは、例えば、測定データ記憶部4bから先頭車両加速度データD11及び後尾車両加速度データD12を読み出して振動成分抽出部4cに出力したり、共振橋梁に特有の振動成分を先頭車両加速度データD11及び後尾車両加速度データD12から抽出するように振動成分抽出部4cに指令したり、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の推定を振動振幅推定部4dに指令したり、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eに指令したり、橋梁Bが共振しているか否かの検出を共振検出部4fに指令したり、共振検出部4fが出力する検出結果データを検出結果データ記憶部4gに出力したり、検出結果データの記憶を検出結果データ記憶部4gに指令したり、表示部4iに種々のデータの表示を指令したりする。制御部4jは、測定データ受信部4a、測定データ記憶部4b、振動成分抽出部4c、振動振幅推定部4d、差分演算部4e、共振検出部4f、検出結果データ記憶部4g、共振検出プログラム記憶部4h及び表示部4iとの間で通信可能に接続されている。
【0051】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法について説明する。
図12は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される支間長30mの橋梁Bの上下加速度に共振検出方法を適用した場合を一例として示すグラフである。
図12(A)は、各列車速度200,230,250,270,300km/hにおける列車通過時の橋梁支間中央の鉛直変位を示すグラフである。
図12(A)に示す縦軸は、鉛直変位[m]であり、横軸は時間[s]である。
図12(B)は、橋梁通過時の先頭の車両V
Fの第1車軸(第1台車の進行方向前側の車軸)と後尾の車両V
Lの第4車軸(第2台車の進行方向後側の車軸)の鉛直変位を示すグラフである。
図12(B)に示す縦軸は、鉛直変位 [mm]である。
図12(C)は、橋梁通過時の先頭の車両V
Fの第1台車及び後尾の車両V
Lの第2台車の直上の車体上下加速度を示すグラフである。
図12(C)に示す縦軸は、上下加速度 [m/s
2]である。
図12(D)は、橋梁通過時の車体上下加速度へのバンドパスフィルタ処理及び包絡線処理後の適用結果を示すグラフである。
図12(D)に示す縦軸は、上下加速度 [m/s
2]である。
図12(E)は、包絡線処理された先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの車体上下加速度の差分処理後の適用結果を示すグラフである。
図12(E)に示す縦軸は、包絡線差分[m/s
2]である。
図12(B)~(E)に示す横軸は、橋梁左端からの距離[m]である。
【0052】
図13に示す共振検出方法#100は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出する方法である。共振検出方法#100は、振動成分抽出工程#110と、振動振幅推定工程#120と、差分演算工程#130と、共振検出工程#140などを含む。共振検出方法#100では、
図2~
図4に示す加速度測定装置2が測定する測定データD
1から車両長成分以外の成分を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。共振検出方法#100では、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅との差分から、橋梁Bの共振を検出する。
【0053】
振動成分抽出工程#110は、加速度測定装置2の測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する工程である。振動成分抽出工程#100では、車両長L
cを主成分とする振動を共振橋梁に特有の振動成分として抽出する。振動成分抽出工程#110では、
図12(C)に示すように、加速度測定装置2が先頭の車両V
Fの車体で測定する上下加速度と、加速度測定装置2が後尾の車両V
Lの車体で測定する上下加速度とから、
図12(D)に示すように橋梁Bの変位成分以外の変位成分がフィルタ処理されることによって除去される。その結果、先頭の車両V
Fの台車T
1で測定される橋梁変位のみの上下加速度と、後尾の車両V
Lの台車T
2で測定される橋梁変位のみの上下加速度とが、車両長L
cを主成分とする共振橋梁に特有の振動成分として抽出される。
【0054】
振動振幅推定工程#120は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する手段である。振動振幅推定工程#120では、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を加速度測定装置2の測定結果に基づいて推定するとともに、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を加速度測定装置2の測定結果に基づいて推定する。振動振幅推定工程#120では、
図12(D)に示す先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分と、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分とが包絡線処理される。その結果、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅とが推定される。
【0055】
差分演算工程#130は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する工程である。差分演算工程#130では、
図12(E)に示すように、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅が差し引かれて、包絡線差分に相当する共振橋梁検出指標RDIが算出される。
【0056】
共振検出工程#140は、共振橋梁に特有の振動成分に基づいて、橋梁Bの共振を検出する工程である。共振検出工程#140では、加速度測定装置2の測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#140では、先頭の車両V
Fで上下加速度を測定する加速度測定装置2の測定結果と、後尾の車両V
Lで上下加速度を測定する加速度測定装置2の測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#140では、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#140では、
図12(E)に示す共振橋梁検出指標RDIが所定値を超えるときには、橋梁Bが共振していると判定され、共振橋梁検出指標RDIが所定値以下であるときには、橋梁Bが共振していない判定される。例えば、
図12(E)に示すように、列車速度250km/hの場合には、共振橋梁検出指標RDIが比較的大きくなっており、橋梁Bが共振していると検出される。一方、
図12(E)に示すように、列車速度200,300km/hの場合には、共振橋梁検出指標RDIが比較的小さくなっており、橋梁Bが共振していないと検出される。また、
図12(E)に示すように、列車速度230,270km/hの場合には、共振橋梁検出指標RDIが共振しているときよりも小さいが共振していないときよりも大きくなっており、橋梁Bが共振に近いと検出される。
【0057】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の動作について説明する。
以下では、制御部4jの動作を中心として説明する。
図14に示すステップ(以下、Sという)100において、共振検出プログラム記憶部4hから共振検出プログラムを制御部4jが読み込む。共振検出プログラムを制御部4jが読み込むと、一連の共振検出処理を制御部4jが開始する。
【0058】
S200において、共振橋梁に特有の振動成分の抽出を振動成分抽出部4cに制御部4jが指令する。加速度測定装置2が測定する先頭の車両V
Fで測定される先頭車両加速度データD
11と、加速度測定装置2が測定する後尾の車両V
Lで測定される後尾車両加速度データD
12とを、測定データ記憶部4bから制御部4jが読み出して、これらの先頭車両加速度データD
11及び後尾車両加速度データD
12を振動成分抽出部4cに制御部4jが出力する。このため、
図9に示す橋梁Bの動的応答成分z
b,d(x
p)の波形からバンドパスフィルタ処理によって、車両長L
cを主成分とする共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cが抽出する。その結果、
図12(D)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cがそれぞれ抽出し、振動成分データとして振動振幅推定部4dに振動成分抽出部4cが出力する。
【0059】
S300において、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の推定を振動振幅推定部4dに制御部4jが指令する。その結果、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅とを、加速度測定装置2の測定結果に基づいて振動振幅推定部4dが推定する。
図9に示す波長が車両長L
cとなる橋梁Bの動的応答成分z
b,d(x
p)の波形を振動振幅推定部4dが包絡線処理し、波長が支間長L
bの2倍の2L
bの包絡線sin(πx/L
b)を振動振幅推定部4dが生成する。その結果、
図12(D)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を振動振幅推定部4dがそれぞれ包絡線処理し、振動振幅推定部4dがこの包絡線sin(πx/L
b)の振幅を推定し、振動振幅データとして差分演算部4eに振動振幅推定部4dが出力する。
【0060】
S400において、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分の演算を差分演算部4eに制御部4jが指令する。このため、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を差分演算部4eが減算して、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eが演算する。その結果、
図12(E)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eが演算して、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分データとして共振検出部4fに差分演算部4eが出力する。
【0061】
S500において、橋梁Bの共振の検出を共振検出部4fに制御部4jが指令する。その結果、共振検出部4fが共振橋梁検出指標RDIを演算し、橋梁Bが共振しているか否かを共振橋梁検出指標RDIに基づいて共振検出部4fが評価する。橋梁Bが共振しているか否かの検出結果を検出結果データとして共振検出部4fが制御部4jに出力すると、この検出結果データを検出結果データ記憶部4gに制御部4jが出力し、この検出結果データが検出結果データ記憶部4gに記憶される。
【0062】
S600において、検出結果の表示を表示部4iに制御部4jが指令する。検出結果データを制御部4jが検出結果データ記憶部4gから読み出して、検出結果データを制御部4jが表示部4iに出力する。その結果、橋梁Bに共振が発生しているか否かの検出結果を表示部4iが画面上に表示する。
【0063】
この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムには、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、列車Tの上下加速度をこの列車T側から測定する加速度測定装置2の測定結果から、共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cが抽出し、この共振橋梁に特有の振動成分に基づいて共振検出部4fが橋梁Bの共振を検出する。このため、共振橋梁に特有の波長成分を車両VF,VLの振動特性上、車体上下加速度として簡単に検出することができる。その結果、橋梁B上を走行する列車Tの加速度測定装置2が測定する測定データD1を利用することによって、共振橋梁を高精度に抽出することができる。例えば、多くの新幹線の営業列車の先頭及び後尾の車両VF,VLに設置されている動揺加速度センサを利用して、共振橋梁を車上から簡単に漏れなく高精度に検知することができ、適用範囲を大幅に拡大することができる。また、例えば、共振橋梁に特有の波長成分をフィルタ処理によって強調し、共振橋梁に特有の波長成分を特定することができ、共振橋梁の検出精度を向上させることができる。その結果、車両長成分を強調する波形処理をすることによって、単純な測定誤差や、先頭の車両VFから後尾の車両VLまでの距離の変化による位置ずれに起因する位置同定誤差などの種々の誤差の影響を低減することができる。
【0064】
(2) この第1実施形態では、列車Tの前方及び後方の上下加速度を加速度測定装置2が測定し、列車Tの前方及び後方で測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅を振動振幅推定部4dが推定する。また、この第1実施形態では、列車Tの前方及び後方で測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eが演算し、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、橋梁Bの共振を共振検出部4fが検出する。このため、例えば、包絡線処理により長波長化することで、先頭の車両VF及び後尾の車両VLの位置ずれの誤差に対して安定化させることができるとともに、包絡線処理により測定誤差成分を相殺することができる。その結果、包絡線処理による測定誤差成分の高い除去効果を期待することができる。また、先頭の車両VFの上下加速度に含まれているが、後尾の車両VLの上下加速度には含まれていない共振橋梁に特有の成分を、先頭の車両VFの上下加速度と後尾の車両VLの上下加速度とを差分処理することによって、簡単に抽出することができる。さらに、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される上下加速度に混入している橋梁Bの振動以外の多くの振動成分を差分処理することによって、橋梁Bの振動成分以外の軌道変位などを大幅にキャンセルさせて、高精度に共振橋梁を抽出することができる。例えば、先頭車両加速度データD11及び後尾車両加速度データD12には、動的な橋梁応答の他に共振橋梁以外に起因した軌道変位、車両振動、測定ノイズなどが混在している。この第1実施形態では、編成車両の異なる位置で測定された二つの上下加速度の差分により、共振橋梁以外に起因した軌道変位、車両振動及び測定ノイズなどに起因した成分を相殺し大幅に低減することができる。
【0065】
(3) この第1実施形態では、列車Tの上下加速度をこの列車T側から測定する加速度測定装置2の測定結果に基づいて、振動成分抽出手順において共振橋梁に特有の振動成分を抽出し、共振橋梁に特有の振動成分に基づいて、共振検出手順において橋梁Bの共振を検出する。このため、既存の軌道保守管理データベースシステムに共振検出プログラムを実装し、軌道保守管理データベースシステム上で共振検出プログラムを実行させることができる。また、既存の軌道保守管理データベースシステムに共振検出プログラムをオプション機能として簡単に付加することができる。その結果、車体動揺加速度による軌道の維持管理を行っている事業者であれば、新たなセンサやデータベースの導入なしに低コストで容易に適用することができる。
【0066】
(第2実施形態)
以下では、
図1~
図11に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図15に示すガイドウェイWは、磁気浮上式鉄道の車両V
F,V
M,V
Lが走行する空間を構成する地上設備である。ガイドウェイWは、
図1及び
図2に示す軌道Rに相当し、ガイドウェイWの長さ方向に対して直交する平面で切断したときの断面形状が略U字状の凹部である。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lの支持車輪が走行する走行路W
1と、走行路W
1の両側に形成された略垂直な側壁W
2とを備えている。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lを支持する支持部として機能するとともに、車両V
F,V
M,V
Lが水平方向に逸脱するのを防ぐガイド部としても機能する。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lに推進力を与える推進コイルと、車両V
F,V
M,V
Lに浮上力及び案内力を発生させる浮上案内コイルとを支持している。
【0067】
列車Tは、ガイドウェイWに沿って移動する移動体である。列車Tは、橋梁B上を移動する磁気浮上式鉄道車両である。列車Tは、車両VF,VM,VLが磁気吸引力及び磁気反発力によって浮上し走行する。列車Tは、強磁界を発生する超電導磁石Mを備えている。
【0068】
加速度検出部2a,2bは、先頭の車両VLの前方と後尾の車両VLの後方とで上下加速度を検出する。加速度検出部2aは、例えば、先頭の車両VLの進行方向前側の車体床上に設置されており、加速度検出部2bは後尾の車両VLの進行方向後側の車体床上に設置されている。この第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果がある。
【実施例】
【0069】
(測定方法)
国内の高速鉄道における走行列車の先頭車両及び後尾車両で計測された車体上下加速度に提案手法を適用することで、共振橋梁を検知するとともに、地上からの現地計測により共振状態の検証を行った。対象とした路線は全長約250kmのうち、停車駅前後の加減速区間、橋梁以外の盛土やトンネル区間を除いた約22.6km(橋梁数875連)を共振橋梁検知の対象とした。走行列車は6両編成、車両長Lcは25m、台車中心間隔は17.5m、台車内車軸間隔は2.5m、軸重は空車時110kN程度である。対象区間の走行速度は概ね230km/h~250km/hである。対象とした営業車両では、先頭及び後尾車両に乗り心地管理のための車両動揺加速度センサが搭載されている。これらのセンサは先頭車両の第1台車直上、及び後尾車両の第2台車直上の車体床上に設置されている。車両動揺加速度センサで計測された加速度応答のうち、上下加速度を対象とした。過去に当該路線を走行する営業車両の先頭及び後尾で計測された二回(上り、下り)の車体上下加速度データを対象とした。走行列車の位置は、先頭及び後尾車両に搭載された地点検知装置と約500kmごとの地上端子との通信記録を用いて検知した。また、これらの通信情報を利用して、時間軸上で計測された車体上下加速度を距離軸上に変換した。地点検知装置のみによる距離軸上への変換に加え、先頭車両の計測データを基準とした波形の相互相関法により、後尾車両の相対位置を微修正した。6kHzサンプリングで車上計測された車体上下加速度の時系列応答に200Hzのローパスフィルタ処理を行ったうえで、0.25m間隔の距離系列応答に変換した。これらの処理はすべて提案手法を実装した軌道保守管理データベースシステム(LABOCS)上で実行した。
【0070】
(共振橋梁の検出結果)
図16は、当該路線への提案手法の適用結果のうち、共振橋梁が抽出された典型的な例を示す。
図16(A)に示す区間Aは当該路線の高架区間の一部であり、支間25m以上の橋梁が3連(A1~A3)存在し、その他はラーメン高架橋と支間長12mの調整桁により構成される。区間Aの走行速度は概ね230~240km/hである。支間長50mの橋梁A3では、バンドパスフィルタ処理後の車体上下加速度のうち、後尾車両の振幅の増大を確認でき、後尾車両の包絡線波形も当該区間で増大している。その結果、橋梁A3区間では、検知指標である包絡線差分が橋梁支間長よりも若干大きい上に凸形状の卓越成分を形成しており、走行速度230km/hでは共振状態であると判断できる。一方、その他の橋梁A1,A2及び橋梁A1~A3以外のラーメン高架橋区間では、検知指標である包絡線差分は概ね0.1m/s
2以下となっており、列車速度230km/hでは共振状態ではないと判断できる。
【0071】
図16(B)に示す区間Bには支間25m以上の橋梁が3連(B1~B3)存在し、その他はラーメン高架橋と支間長16mの調整桁である。当該区間の包絡線差分には、支間長50mの橋梁B2区間において最大値が0.1m/s
2を若干下回る程度の卓越成分を確認できる。その結果、橋梁B2では、共振に近い状態であると判断できる。
【0072】
(検出結果の検証)
提案手法の妥当性を検証するために、提案手法により共振橋梁として抽出された橋梁A3,B2の共振状態を地上側からの橋梁のたわみ計測により確認した。橋梁A3及び橋梁B2は、ともに支間長50mのコンクリート箱桁橋である。橋梁A3は、桁下に設置した自己振動補正機能付きレーザードップラー速度計(UドップラーII)により列車通過時の桁支間中央の鉛直速度応答をサンプリング周波数2kHzで計測した。その後、速度応答を積分することで列車通過時の変位応答及び最大変位を算出した。橋梁B2は、桁下からのアクセスが困難であったため、ハイスピードでの動画撮影が可能なデジタルカメラ(DSC-RX100M4)と画像処理技術により、列車通過時の桁支間中央の鉛直変位応答を計測した。デジタルカメラは橋梁側面の計測対象位置から約20m地点に三脚で固定し、列車通過時の桁支間中央側面を240fpsで動画を撮影した。得られた動画に対して、デジタル画像相関法を適用し、列車通過時の橋梁の鉛直変位応答を算出した。
【0073】
その結果、橋梁A3,B2のいずれの橋梁でも、列車通過とともに応答振幅が徐々に増大する共振傾向にあることが確認された。橋梁A3は、共振と判断された車上計測時の列車速度は230km/hであるが、地上からの計測結果でもこれに近い列車速度225km/hにおいて共振状態となっていることが確認された。また、橋梁B2は、橋梁A3と比較して列車通過時の動的応答振幅が小さく、共振に近い状態であることが確認された。地上からのたわみ計測時の列車速度は245km/hであり、共振に近い状態と判断された車上計測時の列車速度240km/hとも概ね一致することが確認された。以上より、提案手法により共振橋梁を検知できることが検証された。
【0074】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、橋梁BがPRC桁を備えるコンクリート橋である場合を例に挙げて説明したが、橋梁Bが鋼橋である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、列車Tの前方及び後方に加速度測定装置2を配置する場合を例に挙げて説明したが、加速度測定装置2の配置箇所を限定するものではない。例えば、加速度測定装置を列車Tの編成中央部Oから前後に等距離離れた任意の位置に配置する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、先頭の車両VFの第1台車T1及び後尾の車両VLの第2台車T2に加速度測定装置2を配置する場合を例に挙げて説明したが、先頭の車両VFの第2台車T2及び後尾の車両VLの第1台車T1に加速度測定装置2を配置する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、列車Tが12両編成である場合を例に挙げて説明したが、列車Tが8両、10両又は16両編成などである場合についても、この発明を適用することができる。
【0075】
(2) この実施形態では、列車Tの車両長Lcが25mであり、橋梁Bの支間長Lbが50mである場合を例に挙げて説明したが、この車両長Lc及び支間長Lbに限定するものではない。例えば、車両長Lcが20mであり、支間長Lbが40mである場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、列車Tが新幹線を走行する新幹線車両である場合を例に挙げて説明したが、在来線を走行する在来線車両、又は新幹線と在来線とを相互に走行可能な新在直通運転用の車両などについても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態では、列車Tが営業列車である場合を例に挙げて説明したが、車両、軌道又は架線を試験及び調査することを目的として組成された検査列車である場合についても、この発明を適用することができる。例えば、地上設備の状態を検測する機能を有する電気軌道総合試験車などの軌道検測車についても、この発明を適用することができる。
【0076】
(3) この実施形態では、起点から終点まで上下加速度を連続して加速度測定装置2が測定する場合を例に挙げて説明したが、橋梁B上の区間内のみで上下加速度を加速度測定装置2が測定する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、列車Tの各車両VF,VM,VLの車体を二つの台車T1,T2によって支持する場合を例に挙げて説明したが、隣接する車両VF,VM,VL間を連接台車によって支持する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態では、速度発電機の出力信号とATS車上子の出力信号とに基づいて列車Tの移動距離を位置検出部2dが演算する場合を例に挙げて説明したが、このような演算方法にこの発明を限定するものではない。例えば、GPS(Global Positioning System(全地球測位システム))又は自律航行装置(ジャイロ)を併用して列車Tの走行距離を演算する場合についても、この発明を適用することができる。
【0077】
(4) この第2実施形態では、車両VFの進行方向前側及び車両VLの進行方向後側に加速度測定装置2を配置する場合を例に挙げて説明したが、車両VFの進行方向後側及び車両VLの進行方向前側に加速度測定装置2を配置する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第2実施形態では、車両VF,VLの加速度測定装置2によって上下加速度を測定する場合を例に挙げて説明したが、ガイドウェイWに沿って走行しながらガイドウェイの状態を測定するガイドウェイ検測車の加速度測定装置2の測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 共振検出システム
2 加速度測定装置
2a,2b 加速度検出部
3 通信装置
4 共振検出装置
4c 振動成分抽出部
4d 振動振幅推定部
4e 差分演算部
4f 共振検出部
R 軌道
B 橋梁
B1 桁
T 列車(移動体)
VF 車両(先頭車両(前方))
VM 車両(中間車両)
VL 車両(後尾車両(後方))
T1 台車(第1台車)
T2 台車(第2台車)
D1 測定データ
D11 先頭車両加速度データ
D12 後尾車両加速度データ
RDI 共振橋梁検出指標
W ガイドウェイ(通路)
W1 走行路
W2 側壁