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特許7402610熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品
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  • 特許-熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品 図1
  • 特許-熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品 図2
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  • 特許-熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20231214BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231214BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20231214BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20231214BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
C08K3/38
C08K9/02
H01L23/36 M
H01L23/36 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019007618
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020117573
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕以智
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐一
(72)【発明者】
【氏名】水田 康司
(72)【発明者】
【氏名】木場 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】在間 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 玄
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001701(JP,A)
【文献】国際公開第2018/219008(WO,A1)
【文献】Mohamed S. Selim, et al.,Silicone/graphene oxide sheet-alumina nanorod ternary composite forsuperhydrophobic antifouling coating,Progress in Organic Coatings,2018年,Volume 121,Pages 160-172,https://doi.org/10.1016/j.porgcoat.2018.04.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01L 23/00- 23/56
CAplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、
前記樹脂中に分散された熱伝導性を有するフィラーと、
を備え、
前記フィラーが酸化アルミニウム粒子の表面に酸化グラフェンが存在する、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含む、熱伝導性樹脂組成物であり、
レーザー散乱法における粒度分布測定法によって求められる、前記酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の平均粒子径は、2μm以上200μm以下であり、
前記酸化グラフェンの層数は1~20層である、熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
放熱が必要とされる電子部品に用いられる、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂がシリコーン樹脂を含む請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記フィラーが窒化ホウ素粒子の表面に酸化グラフェンが存在する、酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項の熱伝導性樹脂組成物を硬化させてなる熱伝導シート。
【請求項6】
請求項5に記載の熱伝導シートを介して放熱部材が接合された電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物、熱伝導シートおよび電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス、IC等の半導体素子の高集積化が進むに従って、半導体素子を含む電子部品からの発熱量も増大している。電子部品から発生する熱を外部に放散・除去を効率良く行うために、ヒートシンクなどの放熱部材を設けることが一般的に行われている。放熱部材と電子部品との隙間を埋め、熱伝導性をより高めることができる熱伝導材料が開発されている。
熱伝導材料として、シリコーンなどの樹脂に放熱用のフィラーが充填された熱伝導性樹脂組成物が知られている。当該フィラーとしては、酸化アルミニウムが一般的に使用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/083890号
【文献】特開2016-108214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の熱伝導性樹脂組成物については、熱伝導性をさらに向上させる観点から、樹脂と酸化アルミニウムとの親和性を上げる工夫が必要となっている。親和性を上げることにより、樹脂と酸化アルミニウムとの界面において微細な空隙が形成されにくくなり、熱伝導性が良好になると考えられる。樹脂と酸化アルミニウムとの親和性を上げる技術としては、たとえば、特許文献2に記載のように、酸化アルミニウム(アルミナ)の表面をグラフェンで被覆することにより、アルミナの表面を疎水化し、疎水性樹脂との混和性を高める方法がある。ところが、グラフェンで被覆されたアルミナは導電性に優れるため、熱伝導性樹脂組成物に求められる絶縁性が低下することが避けられなかった。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性が向上した熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、樹脂と、前記樹脂中に分散された熱伝導性を有するフィラーと、を備え、前記フィラーが酸化アルミニウム粒子の表面に酸化グラフェンが存在する、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含む、熱伝導性樹脂組成物が提供される。
【0006】
また、本発明によれば、上述した熱伝導性樹脂組成物を硬化させてなる熱伝導シートが提供される。
【0007】
また、本発明によれば、上述した熱伝導シートを介して放熱部材が接合された電子部品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性が向上した熱伝導性樹脂組成物に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】酸化アルミニウム粒子(CB-A20S)のX線回折スペクトルである
図2】酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の明視野顕微鏡像を示す。
図3図2中の□の各角を測定ポイントとした顕微ラマンスペクトルを示す。
図4】酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子のFE-SEM像を示す。
図5】酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子1個を測定ポイントとした顕微ラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0011】
実施形態に係る熱伝導性樹脂組成物は、樹脂と、当該樹脂に分散された熱伝導性を有するフィラーとを備える。以下、実施形態に係る熱伝導性樹脂組成物の詳細について説明する。
【0012】
(樹脂)
本実施形態に係る熱伝導性樹脂組成物を構成する樹脂は、特に限定されず、ゴム性状を示す高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などから適宜選択して用いることができる。具体例としてはアクリル酸ブチルアクリル酸2-エチルヘキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(いわゆるアクリルゴム)、シリコーン樹脂、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(いわゆるイソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(ポリクロロプレン、いわゆるネオプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(いわゆるブタジエンゴム)及びこれらの混合物等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物、ポリエチレン、ポリプロピレン、α-オレフィンコポリマー、ポリブテン-1、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、スチレン系ブロックコポリマー樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリサルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、シンジオ型ポリスチレン、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー及びこれらの混合物等、の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、非熱可塑性ポリイミド、及びこれらの混合物等、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0013】
この中で、柔軟性、耐熱性の観点から、シリコーン樹脂を好ましく用いることができる。
前記シリコーン樹脂の中でも、付加反応型液状シリコーンが好ましく、二液付加反応型液状シリコーンがより好ましい。
二液付加反応型液状シリコーンは、(a1)少なくとも末端又は側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「ビニル基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、(a2)少なくとも末端又は側鎖に2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「H-Si基を有するオルガノポリシロキサン」ともいう。)と、を含むものである。また、前記(a1):前記(a2)との比が1:1.5~1.5:1の間であることが望ましい。
【0014】
前記成分(a1)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかにビニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれでもよい。一般的にビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの分子内(Si-R)のR部分の一部がビニル基になっているものである。このビニル基含有量は、成分(a1)中に、0.01~15モル%であることが好ましく、成分(a1)中に、0.01~5モル%であることがより好ましい。
前記成分(a1)のビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、ビニル基を有するアルキルポリシロキサンが好適である。このアルキル基は、炭素数1~3(たとえば、メチル基、エチル基等)が好ましく、より好ましくはメチル基である。
また、成分(a1)のビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、質量平均分子量が400,000未満のものが好ましく、より好ましくは10,000~200,000であり、さらに好ましくは15,000~200,000である。
ここで、本発明における「ビニル基の含有量」とは、成分(a1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%のことをいう。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであるとする。
【0015】
前記成分(a2)は、少なくとも末端又は側鎖のどこかに2個以上のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンであり、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれでもよい。一般的にH-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの分子内(Si-R)のR部分の一部がH基になっているものである。
このH-Si基の含有量は、(a2)中に、0.01~15モル%であることが好ましく、成分(a2)中に、0.01~5モル%であることがより好ましい。ここで、本発明における「H-Si基の含有量」とは、成分(a2)を構成する全ユニットを100モル%としたときのH-Si基含有シロキサンユニットのモル%のことをいう。
前記成分(a2)のオルガノポリシロキサンは、H-Si基を有するアルキルポリシロキサンが好適である。このアルキル基は、炭素数1~3(たとえば、メチル基、エチル基等)が好ましく、より好ましくはメチル基である。
また、成分(a2)のH-Si基を有するオルガノポリシロキサンは、質量平均分子量が、400,000以下のものが好ましく、より好ましくは10,000~200,000であり、さらに好ましくは15,000~200,000である。
【0016】
(フィラー)
本実施形態では熱伝導性を有するフィラーとして、酸化アルミニウム粒子の表面に酸化グラフェンが存在する、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子が使用される。より具体的には、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子は、酸化アルミニウム粒子の表面が酸化グラフェンの単層または数層で被覆された構造を有する。酸化アルミニウム粒子の表面を酸化グラフェンで被覆することにより、樹脂と酸化グラフェンとの間に相互作用が向上し、樹脂と酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子との親和性が向上すると考えられる。
【0017】
ここで、酸化グラフェンは、グラフェンシート(グラファイトの単分子層)が、熱処理等の物理的または化学的処理により、部分的に酸化された構造を有する材料を指す。グラファイトをハマーズ法などにより酸化・剥離して得られる酸化グラフェンは、酸化条件によって、単層の酸化グラフェン、単層の酸化グラフェンが複数積層した複層酸化グラフェンおよび内部に酸化されていない層が存在する複層酸化グラフェンの混合物となる。本明細書では、熱処理等の物理的または化学的処理をされていても、酸素含有官能基(C-O-C基、C-OH基、またはCOOH基)が残っているものは酸化グラフェンとする。
【0018】
酸化グラフェンの層数は、1~20層、好ましくは1~10層、より好ましくは1~7層である。20層より多くなると、導電性が発現し、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含有する熱伝導性樹脂組成物または、熱伝導性樹脂組成物を硬化させてなる熱伝導シートの絶縁性が低下するため好ましくない。ここで、酸化グラフェンおよび還元型酸化グラフェンの層数は、たとえば、原子間力顕微鏡、透過型電子顕微鏡、ラマンスペクトルなどで評価することができる。
【0019】
酸化アルミニウムおよび酸化グラフェンは絶縁性を有し、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子も絶縁性を有するため、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含有する熱伝導性樹脂組成物の絶縁性を損なわない。酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の絶縁性については、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含有する熱伝導性樹脂組成物または、熱伝導性樹脂組成物を硬化させてなる熱伝導シートの体積抵抗を測定することで確認できる。酸化グラフェンの層数が20層より多い場合、または、グラフェンの酸化が不十分な場合、体積抵抗が10Ω/m以下となる。
【0020】
酸化グラフェンは、たとえば、以下の方法で作製できる。
濃硫酸と硝酸ナトリウムの混合液を冷却し、約5℃でグラファイト粉末を徐々に加える。次に、混合液を冷却しながら、過マンガン酸カリウムの粉末を徐々に加える。次に、室温で4時間程度、攪拌した後、水を徐々に加え、30分間還流加熱する。室温まで冷却後、過酸化水素水を滴下する。得られた反応混合物を遠心分離して沈殿を回収する。沈殿を希塩酸で数回洗浄、遠心分離した後、80℃で減圧加熱乾燥することにより酸化グラフェンを得る。
また、上記以外にも、特開2013-212948号公報に記載の方法でも作製することができる。
【0021】
得られる酸化グラフェンの大きさや層数、酸化度合い等は、原料として用いられるグラフェンや反応条件により制御することができる。
【0022】
酸化グラフェンは、これをさらに還元した還元型酸化グラフェンにして使用してもよい。
還元型酸化グラフェンは、前記分散液または乾燥物を還元剤で還元する化学還元、または乾燥物を加熱処理する加熱還元により得ることができる。化学還元の還元剤としては、公知のものを用いることができ、たとえば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等 のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩、ヨウ化水素、アスコルビン酸、エタノールなどのアルコール類、エチレングリコールなどのグリコール類等を挙げることができ、これらを1種または2種以上用いることができる。使用量は、酸化グラフェンの重量の0.1~50倍、好ましくは0.5~30倍量、より好ましくは1~20倍量を用いることが好ましい。還元剤の総量が前記範囲より少ないと反応が進み難く、前記範囲より多いと系から除く手間がかかる。還元時間は、室温で還元を行う場合、1時間~72時間である。還元を促進するために反応混合物を加熱することができる。加熱範囲としては、30℃~100℃、好ましくは40℃~90℃、より好ましくは50℃~80℃である。加熱還元としては、公知の条件を利用できるが、たとえば、真空または不活性気体中、700~1200℃で熱処理すればよい。
【0023】
酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の製造方法としては、たとえば、酸化グラフェンを、水中で酸化アルミニウム粒子と混合後、濾過することで、酸化アルミニウム粒子表面に酸化グラフェンを吸着させることで酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を得る方法が挙げられる。
【0024】
酸化アルミニウム粒子表面の酸化グラフェンの存在有無は、たとえば、ラマン分光法により確認することができる。具体的には、ラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近に現れる、グラファイト構造に由来するGバンドのピークと、1350cm-1付近に現れる、欠陥由来のDバンドのピークとが確認できる場合、酸化グラフェンにより、酸化アルミニウム粒子表面に酸化グラフェンが被覆されていると判断される。
【0025】
酸化グラフェンは酸化アルミニウム粒子全面を覆っている必要はないが、樹脂親和性向上効果の面からみると、被覆割合(=炭素原子数/アルミニウム原子数比)は、少なくとも0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上である。この被覆割合は、X線光電子分光法から推定できる。また、複数ポイントの顕微ラマンスペクトル測定を行い、酸化グラフェンに由来するDまたはGバンドが観測されるポイント数の全測定ポイント数に対する割合を用いて被覆割合とすることもできる。この場合も被覆割合は、少なくとも0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上である。
【0026】
酸化アルミニウム粒子は結晶性であることが熱伝導性の観点から好ましい。結晶性であることは、たとえば、広角X線回折反射法により、α型(三方晶系)、β型(六方晶系)、γ型(等軸晶系)など結晶系由来の明確なピークが観察されることにより確認できる。
【0027】
酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の平均粒子径の下限は、0.1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。一方、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の平均粒子径の上限は、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の平均粒子径の下限を上記範囲とすることにより、樹脂と酸化グラフェンの界面において生じる熱抵抗が過大とならないため、良好な熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。また、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の粒子径の上限を上記範囲とすることにより、得られる熱伝導性樹脂組成物の柔軟性が損なわれることを抑制し、たとえば、放熱部材と電子部品との間の熱伝導材料として用いた場合に、冷熱サイクル下等において放熱部材や電子部品との間に剥離が生じることを抑制することができる。
なお、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の平均粒子径は、レーザー散乱法における粒度分布測定法によって求めることができる。
【0028】
なお、酸化グラフェンの被覆厚みはごく薄膜(1nm程度)であるため、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の粒子径は、酸化アルミニウム粒子の粒子径とはほぼ同じとみなすことができる。
【0029】
本実施形態に係る熱伝導性樹脂組成物は、フィラーとして、上述した酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の他に、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ダイヤモンド、ハイドロキシアパタイト、チタン酸バリウム、等の高放熱性粒子、および、これら粒子の酸化グラフェン被覆体をさらに含んでもよい。前記高放熱性粒子および酸化グラフェン被覆体の好ましい平均粒径は、上述した酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子と同様である。
上記高放熱性粒子のうち、熱伝導性の観点から、窒化ホウ素粒子、窒化アルミ粒子および、これら粒子の酸化グラフェン被覆体が好ましく、耐湿性の観点から、窒化ホウ素粒子および酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子がさらに好ましく、樹脂との親和性の観点から、酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子が最も好ましい。
【0030】
上述した高放熱性粒子、および当該高放熱性粒子の酸化グラフェン被覆体を含む場合、フィラー全体に対する酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の含有率の下限は、30体積%以上が好ましく、50体積%以上が好ましく、60体積%以上がさらに好ましい。一方、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の含有率の上限は、100体積%以下が好ましく、90体積%以下がより好ましく、80体積%以下がさらに好ましい。
フィラー全体に対する酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の含有率を上記範囲とすることにより、熱伝導性樹脂組成物とのフィラーとの界面における微細空隙が少なくできるため、良好な熱伝導を発現する。
【0031】
熱伝導性樹脂組成物全量に対して、フィラーの含有率の下限は、50体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましく、60体積%以上がさらに好ましい。一方、熱伝導性樹脂組成物全量に対して、フィラーの含有率の上限は、80体積%以下が好ましく、75体積%以下がより好ましく、70体積%以下がさらに好ましい。
フィラーの含有率の下限を上記範囲とすることにより、熱伝導性を十分に高めることができる。一方、フィラーの含有率の上限を上記範囲とすることにより、被着体の熱変形に追従可能な柔軟性を確保することができる。
【0032】
以上説明した熱伝導性樹脂組成物によれば、フィラーとして酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を用いることにより、絶縁性を損なうことなく、樹脂との親和性を向上させ、ひいては熱伝導性を向上させることができる。
【0033】
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、優れた熱伝導性を有するため、放熱が必要とされる電子部品の分野で幅広く活用することができる。たとえば、封止材、パッケージ材、電子部品の接着材、絶縁保護膜、電子部品と放熱部材との間を埋める熱伝導材料(サーマル・インターフェース・マテリアル)などの用途が挙げられる。特に、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、インバータなどの電力変換器に使用されるパワー半導体などが組み込まれた電子部品と放熱部材との間の隙間を埋める熱伝導材料として好適に用いられる。より具体的には、本実施形態の熱伝導性樹脂組成物を硬化させて得られる熱伝導シートを介して、ヒートスプレッダまたはヒートシンクなどの放熱部材を電子部品に接合することができる。これによれば、電子部品がショートすることを抑制しつつ、電子部品から放熱部材への熱伝達の効率化を図り、電子部品の動作信頼性を高めることができる。
【0034】
(熱伝導性樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、たとえば、以下の方法で作製することができる。
まず、上述した手順などにより得られる酸化グラフェンを水等の分散媒に分散させた分散液を用意する。当該分散液に酸化アルミニウムを加え、撹拌または必要に応じてホモジナイザー等の強力な分散装置を用いて分散し、次いで分散液から濾別または遠心沈降によって回収した後、室温乾燥または必要に応じて加熱乾燥することにより粉体として得ることができる。酸化グラフェン水性分散液に酸化アルミニウム粒子を分散していくと、沈殿が生じて上澄み(酸化グラフェン水性分散液層)の色が薄くなっていく。最終的に上澄みは無色透明となり、上澄みから酸化グラフェンは検出されなくなる。すなわち、酸化グラフェン水性分散液に酸化アルミニウム粒子を分散するだけで、酸化アルミニウム粒子への酸化グラフェンの吸着が起こっているものと考えられる。よって、酸化グラフェン水性分散液への酸化アルミニウム粒子の添加量は、酸化アルミニウム粒子表面にどれだけ吸着させるかによって任意に選択することができる。
【0035】
次に、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を含むフィラー混合物に上述した樹脂を加え、混合する。混合方法は、樹脂が固体の場合は、これらと酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を紛体で混合した後、ニーダーや二軸押出機などを用いて溶融混合する乾式プロセス、あるいは、樹脂を適切な溶剤に溶解して酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子と混合・撹拌またはホモジナイザーやビーズミルを用いた分散処理をする湿式プロセスで行うことができる。これらの方法は、用いる樹脂の性状によって適宜選択することができる。樹脂が液状の場合は、これらと酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子とを攪拌機、3本ロールやニーダーなどを用いて混合、あるいは、樹脂を適切な溶剤または希釈剤で希釈して酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子と混合・撹拌またはホモジナイザーやビーズミルを用いた分散処理をすることで混合処理できる。これらの方法は、用いる樹脂の性状によって適宜選択することができる。
【0036】
上記方法で得られた熱伝導性樹脂組成物は、成形機や塗工機等により成形された後、加熱することにより、熱伝導シートを得ることができる。
塗工方法は特に制限されず、その例にはロールコート法、リバースグラビアコート等のグラビアコート法、キスコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法、ダイコート法等が含まれる。
また、塗工後、塗膜を乾燥させる方法も特に制限されず、室温で乾燥させてもよく、オーブン等で加熱しながら乾燥させてもよい。
【0037】
当該製造方法によれば、絶縁性を損なうことなく、熱伝導性が向上した熱伝導性樹脂組成物または熱伝導シートを作製することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1~3、比較例1~3)
表1に記載の割合で樹脂成分とフィラーを混合し、実施例1~3および比較例1~3の熱伝導性樹脂組成物を得た。
【表1】
表1における各成分の詳細は以下のとおりである。
【0040】
[樹脂]
シリコーン樹脂1:1液付加型シリコーン溶液、信越化学工業株式会社製、KNS-320A
シリコーン樹脂2:2液付加型シリコーン溶液、信越化学工業株式会社製、KE1283
両末端型エポキシ変性シリコーンオイル/フェノールノボラック樹脂:両末端型エポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、X-22-163)と、フェノールノボラック樹脂(DIC株式会社製、TD2131)との混合物。両末端型エポキシ変性シリコーンオイルとフェノールノボラック樹脂との混合比は50:50(モル比)である。
【0041】
[フィラー]
酸化アルミニウム粒子:昭和電工株式会社製、CB-A20S(球状アルミナ、アルナビース、平均粒子径21μm)
酸化アルミニウム粒子について、以下の条件で広角X線回折測定を行った。図1に酸化アルミニウム粒子(CB-A20S)のX線回折スペクトルを示す。図1に示すように、α型由来の明確なピークが現れており、結晶型の粒子と判断した。
装置:リガク製SmartLab
X線源:CuKα
出力:45kV、200mA
検出器:D/tex Ultra
酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子:以下の製造方法により得た酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を用いた。
<酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の製造方法>
(1)酸化グラフェン分散液(株式会社日本触媒製、濃度1.2wt%、1.0g)を水(100g)で希釈した。
(2)酸化グラフェン分散液に上記酸化アルミニウム粒子(5.0g)を加え、超音波処理を適宜行いながら2時間攪拌した。
(3)酸化グラフェンで被覆された酸化アルミニウム粒子を吸引濾取し、水およびエタノールで洗浄した後、80℃で2時間乾燥させた。得られた酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子について、ラマン分光法にてラマンスペクトルを評価した。
図2に酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子の明視野顕微鏡像を示す。また図3に、図2中の□の各角を測定ポイントとした顕微ラマンスペクトルを示す。各測定ポイントで、グラファイト構造に由来するGバンドのピーク(1590cm-1付近)と、欠陥由来のDバンドのピーク(1350cm-1付近)が観測されたことから、酸化グラフェンは酸化アルミニウムの表面全体を覆っていると判断される。
酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子:以下の製造方法により得た酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子を用いた。
<酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子の製造方法>
(酸化グラフェン分散液の作製)
硝酸ナトリウム0.3gおよび過マンガン酸カリウム1.8gを濃硫酸14mlに溶解させ、これに日本黒鉛製、グラファイトACB150 0.2gを加えて室温で攪拌した。7日間攪拌後、反応液を冷却して5%硫酸水50mlをゆっくりと加え、さらに30%過酸化水素水10mlを加えて1時間室温で攪拌した。次いで、過酸化水素濃度0.5%および硫酸濃度3%となるように調整した混合液100mlで希釈して、酸化したグラファイトを遠心沈降させた。沈殿物を再び0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液00mlに分散させ、次いで遠心沈降させることにより、酸化グラファイトを得た。
次いで、遠心沈降物を0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液100mlに分散させ、これを透析膜に入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。次いで、透析液を超音波洗浄機に入れて8時間超音波照射処理した後、心分離することにより上澄みを取りだし、濃度0.044g/100mlの酸化グラフェン分散液を得た。分散液を50倍に希釈してシリコン基板に塗布し、原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、シートの最も長いところの長さが100~2000nm、厚さ1~18nmの分布を持つシート状物体を観察することができた。
(酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子の作製)
0.044g/100mlの酸化グラフェン分散液50mlに六方晶窒化ホウ素粉末(昭和電工、ショウビーエヌ(登録商標) UHP-2、平均粒子径11μm)を超音波洗浄器で超音波を照射しながら、加えた。窒化ホウ素粉末を加えると凝集沈殿が生じ、加える量が増えると上澄みの色(褐色)が薄くなり、窒化ホウ素粉末を7.5g加えた時点で上澄みはほぼ無色となった。
沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄茶色の粉末を得た(カーボン修飾UHP-2とする)。
図4に酸化グラフェン被覆窒化ホウ素粒子のFE-SEM顕微鏡像を示す。平板な窒化ホウ素粒子表面に多数の皺が観察された。原料の窒化ホウ素粒子にはこのような皺はみられないことから、この皺は窒化ホウ素粒子表面に形成された酸化グラフェンによるものと考えられる。
さらに窒化ホウ素粒子表面の異なる5点の顕微ラマンスペクトルを測定したところ、全ての測定点で酸化グラフェンのDバンド(1350cm-1付近)を観測することができた。図5に、代表的な粒子1個の顕微ラマンスペクトルのデータを示す。Dバンドのピーク(1350cm-1付近)が観測されたことから、酸化グラフェンは窒化ホウ素粒子の全面を覆っているものと考えられる。
【0042】
(試験用フィルムの作製方法)
得られた熱伝導性樹脂組成物を離型フィルム上に塗布し、80℃、圧力0.5MPaで60分間、熱プレス後、80℃で60分オーブン乾燥を行い、最後に離型フィルムを剥離して、厚さ100~300μmの試験用のフィルムを得た。
【0043】
(熱伝導率)
得られたフィルムについて、熱拡散係数、比熱、密度をそれぞれ測定し、熱伝導率を算出した。
熱拡散係数については、物性測定装置(株式会社ベテル製、サーモウェーブアナライザTA35)を用いた周期加熱放射測温法により測定した。
比熱については、示差熱測定装置(パーキンエルマー社製、Diamond DSC)を用いて測定した。
密度は、フィルムを3cm角に切り出し、フィルムの重量および体積を計測した後、これら値を用いて算出した。
熱伝導率に関して得られた結果を表1に示す。フィラー充填率が同じ場合、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を使用した実施例1~3記載のフィルムは、酸化グラフェン被覆酸化アルミニウム粒子を使用していない比較例1~3と比べて、良好な熱伝導率を示した。
【0044】
(体積抵抗率)
実施例2、比較例2で得られたフィルムについて、体積抵抗率を測定した。
体積抵抗率は、ASTM D257:2007に準じた方法により測定した。以下に測定条件を示す。
電極径:主電極 25mmφ、ガード電極 内径 38mmφ一外径 50mmφ
測定温度:23土2℃
測定湿度:50士5%RH
印加電圧:500V
印加時間:60秒
【0045】
表1に体積抵抗率の測定結果を示す。実施例2のフィルムの体積抵抗は、比較例2のフィルムの体積抵抗と同等であり、酸化アルミニウム粒子に酸化グラフェンを被覆した後も絶縁性が維持されていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5