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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20231214BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20231214BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20231214BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20231214BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20231214BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/72
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
H03H7/01 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019044760
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020150361
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田坂 直之
(72)【発明者】
【氏名】天野 崇
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129683(JP,A)
【文献】特開2002-111316(JP,A)
【文献】特開2013-098991(JP,A)
【文献】特開2004-120353(JP,A)
【文献】特開2015-171080(JP,A)
【文献】特開平11-310455(JP,A)
【文献】特開2003-218669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H1/00-7/13
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、
出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に直列接続された2つのキャパシタと、前記入力端子と前記出力端子との間において、前記2つのキャパシタに並列接続されたインダクタと、を備え、共振周波数は、通過帯域より高く、かつ正の温度係数を有する共振回路と、
一端が前記2つのキャパシタの間のノードに接続され、他端が接地され、共振周波数は、通過帯域と前記共振回路の共振周波数との間に位置し、かつ負の温度係数を有する弾性波共振器と、
誘電率の温度係数が負でありSrTiO を添加したCaMgSi を含む積層された複数の誘電体層と、
を備え
前記2つのキャパシタは、前記複数の誘電体層のうち少なくとも1つの誘電体層を挟む一対の電極を備え、
前記インダクタは、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層に設けられた配線パターンを備えるフィルタ。
【請求項2】
請求項に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、共振回路と弾性波共振器を有するフィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
キャパシタおよびインダクタにより形成された共振回路に、弾性波共振器を設けるフィルタが知られている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-129680号公報
【文献】特開2018-129683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振回路に弾性波共振器を設けることで、通過帯域と阻止帯域との間の急峻性を高めることができる。しかしながら、温度特性が劣化することがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、温度特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に直列接続された2つのキャパシタと、前記入力端子と前記出力端子との間において、前記2つのキャパシタに並列接続されたインダクタと、を備え、共振周波数は、通過帯域より高く、かつ正の温度係数を有する共振回路と、一端が前記2つのキャパシタの間のノードに接続され、他端が接地され、共振周波数は、通過帯域と前記共振回路の共振周波数との間に位置し、かつ負の温度係数を有する弾性波共振器と、誘電率の温度係数が負でありSrTiO を添加したCaMgSi を含む積層された複数の誘電体層と、を備え、前記2つのキャパシタは、前記複数の誘電体層のうち少なくとも1つの誘電体層を挟む一対の電極を備え、前記インダクタは、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層に設けられた配線パターンを備えるフィルタである。
【0011】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図2図2(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図であり、図2(b)は、実施例1における別の弾性波共振器の断面図である。
図3図3は、実施例1に係るLC部品の断面図である。
図4図4は、実験に用いたマルチプレクサを示す回路図である。
図5図5は、実験において弾性波共振器R21をシャント接続したときの通過特性である。
図6図6(a)および図6(b)は、比較例1のマルチプレクサにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、比較例1のシミュレーションにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。
図8図8(a)および図8(b)は、実施例1のシミュレーションにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。図1に示すように、実施例1に係るフィルタでは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に共振回路20が接続されている。共振回路20は、キャパシタC1、C2およびインダクタL1を備えている。キャパシタC1およびC2は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に直列接続されている。インダクタL1は、入力端子TinとキャパシタC1との間のノードN1と、出力端子ToutとキャパシタC2との間のノードN2と、の間に、キャパシタC1およびC2と並列接続されている。弾性波共振器R1の一端は、キャパシタC1とC2との間のノードN3に接続され、他端はグランド端子に接続されている。
【0016】
共振回路20は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の通過特性に減衰極を形成する。弾性波共振器R1は、共振回路20が形成する減衰極と通過帯域との間の減衰極を形成する。これにより、通過帯域と阻止帯域との間に急峻性を高めることができる。
【0017】
図2(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図であり、図2(b)は、実施例1における別の弾性波共振器の断面図である。図2(a)の例では、弾性波共振器R1は弾性表面波共振器である。基板10の上面にIDT(Interdigital Transducer)12と反射器13が設けられている。IDT12は、互いに対向する1対の櫛型電極12aを有する。櫛型電極12aは、複数の電極指12bと複数の電極指12bを接続するバスバー12cとを有する。反射器13は、IDT12の両側に設けられている。IDT12が基板10に弾性表面波を励振する。基板10は、例えば、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または水晶基板等の圧電基板である。基板10は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、水晶基板またはシリコン基板等の支持基板上に圧電基板が接合された複合基板でもよい。支持基板と圧電基板との間に酸化シリコン膜または窒化アルミニウム膜等の絶縁膜が設けられていてもよい。IDT12および反射器13は例えばアルミニウム膜または銅膜により形成される。基板10上にIDT12および反射器13を覆うように保護膜または温度補償膜が設けられていてもよい。
【0018】
図2(b)の例では、弾性波共振器R1は圧電薄膜共振器である。基板10上に圧電膜16が設けられている。圧電膜16を挟むように下部電極14および上部電極18が設けられている。下部電極14と基板10との間に空隙15が形成されている。空隙15の代わりに弾性波を反射する音響反射膜が設けられていてもよい。圧電膜16の少なくとも一部を挟み下部電極14と上部電極18とが対向する領域が共振領域17である。共振領域17内の下部電極14および上部電極18は圧電膜16内に、厚み縦振動モードの弾性波を励振する。基板10は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である。下部電極14および上部電極18は例えばルテニウム膜等の金属膜である。圧電膜16は例えば窒化アルミニウム膜である。空隙15の代わりに下部電極14下に弾性波を反射する音響反射膜が設けられていてもよい。
【0019】
弾性波共振器R1として、弾性表面波共振器または圧電薄膜共振器を用いた場合、共振周波数および反共振周波数の温度係数は負である。これにより、弾性波共振器R1により形成される減衰極の温度係数は負となる。例えば、基板10を42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いた弾性表面波共振器の共振周波数の温度係数は約-40ppm/℃である。
【0020】
図3は、実施例1に係るLC部品の断面図である。図3に示すように、LC部品30は、複数の誘電体層31aから31eが積層された積層体31を備えている。誘電体層31aから31dの表面にはそれぞれ金属層32aから32dが設けられている。積層体31の下面には端子36が設けられている。誘電体層31aから31dを貫通するビア(図3ではビア34aおよび34dを図示)が設けられている。誘電体層31bを挟む金属層32aおよび32bによりキャパシタC1およびC2が形成される。金属層32cおよび32dによりインダクタL1が形成される。
【0021】
誘電体層31aから31eは、例えばセラミック材料等の無機絶縁体からなる。誘電体層31aから31eは、例えば主成分としてシリコン(Si)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)の酸化物(例えばディオブサイドCaMgSi)を主成分とし、例えばチタン酸ストロンチウム(SiTiO)が添加されている。金属層32a、32b、ビア34a、34dおよび端子36は、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)、金-パラジウム合金または銀-白金合金を主成分とする金属層である。
【0022】
誘電体層31aから31eの誘電率が温度により変化すると、並列共振回路の共振周波数が変化する。例えば、インダクタL1のインダクタンスをL、キャパシタC1およびC2の合成キャパシタンスをCとすると、並列共振回路の共振周波数は1/√LCに比例する。よって、誘電体層31aから31eの誘電率の温度係数を所望の値とすることで、共振回路20の共振周波数の温度係数を所望の値にできる。
【0023】
表1は、誘電体材料の比誘電率の温度係数τf[ppm/℃]、比誘電率εrおよびτf/εrを示す表である。
【表1】
【0024】
表1に示すように、MgTiOおよびCaMgSiの比誘電率の温度係数τfは負である。TiO、CaTiO、SrTiO、CaZrOおよびBaZrOの比誘電率の温度係数τfは正である。比誘電率の温度係数が負の誘電体材料と比誘電率の温度係数が正の誘電体材料を適宜混合することで、任意の温度係数τfを実現できる。
【0025】
例えばCaMgSiにτfが正の誘電体材料を添加してτfを調整するときには、τf/εrが大きい誘電体材料を選択すれば、比誘電率をあまり変えずに、τfを調整できる。そこで、τf/εrが最も大きいSrTiOを添加する場合を考えた。
【0026】
表2は、CaMgSiとSrTiOとの体積比に対するτfを示す表である。
【表2】
【0027】
表2に示すように、CaMgSiとSrTiOとの体積比が0.960と0.040のときτfは0ppm/℃である。SrTiOを減らすとτfは負となり、増やすと正となる。このように、CaMgSiに添加するSrTiOの量を選択することにより、誘電体層31aから31eの誘電率の温度係数τfを所望の値とすることができる。これにより、共振回路20の共振周波数の温度係数を所望の値にすることができる。
【0028】
[実験]
図4は、実験に用いたマルチプレクサを示す回路図である。図4に示すように、マルチプレクサは端子Taと端子T1との間に接続されたフィルタ40、端子TaとT2との間に接続されたフィルタ42、および端子TaとT3との間に接続されたフィルタ44を備えている。
【0029】
フィルタ40はキャパシタC11からC13並びにインダクタL11およびL12を備えている。インダクタL11およびL12は端子TaとT1との間に直列接続されている。キャパシタC11はインダクタL12に並列接続されている。キャパシタC12およびC13は端子TaとT1との間にシャント接続されている。
【0030】
フィルタ42は、キャパシタC21からC23、インダクタL21およびL22並びに弾性波共振器R21を備えている。キャパシタC21からC23は端子TaとT2との間に直列接続されている。インダクタL21はキャパシタC22およびC23に並列接続されている。インダクタL22および弾性波共振器R21は端子TaとT2との間にシャント接続されている。
【0031】
フィルタ42のうちフィルタ22が実施例1のフィルタである。キャパシタC22、C23およびインダクタL21は共振回路20のそれぞれキャパシタC1、C2およびインダクタL1に相当する。弾性波共振器R21は弾性波共振器R1に相当する。
【0032】
フィルタ44は、キャパシタC31からC33、インダクタL31からL33並びに弾性波共振器R31を備えている。キャパシタC31からC33は端子TaとT3との間に直列接続されている。インダクタL31はキャパシタC31およびC32に並列接続され、インダクタL32はキャパシタC33に並列接続されている。インダクタL33および弾性波共振器R31は端子TaとT3との間にシャント接続されている。
【0033】
フィルタ40、42および44は、ノードN1において共通に接続されている。フィルタ42および44は、ノードN1とN2との間に共通回路として、キャパシタC01およびインダクタL01を有する。キャパシタC01およびインダクタL01は、ノードN1とN2との間に直列接続されている。フィルタ40はローパスフィルタとして機能し、フィルタ42および44はバンドパスフィルタとして機能する。
【0034】
フィルタ40はローバンドの信号を通過させ、ミドルバンドおよびハイバンドの信号を抑圧する。フィルタ42はミドルバンドの信号を通過させ、ローバンドおよびハイバンドの信号を抑圧する。フィルタ44はハイバンドの信号を通過させ、ローバンドおよびミドルバンドの信号を抑圧する。
【0035】
ローバンド、ミドルバンドおよびハイバンドは、それぞれ700MHzから960MHz、1710MHzから2200MHzおよび2300MHzから2690MHzである。ローバンド、ミドルバンドおよびハイバンドは、各々LTE(LTE規格(E-UTRA Operating Band))に対応する周波数帯規格(E-UTRA Operating Band)に対応する複数のバンドを含む。
【0036】
フィルタ42および44の通過帯域はそれぞれミドルバンドおよびハイバンドより広く設けられる。ミドルバンドおよびハイバンドは通過帯域幅が300MHz以上である。このように広帯域のフィルタ42および44はLC回路により形成される。しかし、ミドルバンドとハイバンドとの通過帯域の間隔は100MHzである。このため、フィルタ42および44には通過帯域と阻止帯域との間の急峻性が求められる。しかし、インダクタおよびキャパシタでフィルタを形成すると、急峻性が十分でない。そこで、弾性波共振器R21およびR31を接続する。これにより、フィルタ42および44における急峻性を高めることができる。
【0037】
[比較例1]
比較例1として、図4の回路のマルチプレクサを作製した。作製条件は以下である。誘電体層の比誘電率の温度係数τfがほぼ0となるように、CaMgSiにSrTiOを添加した。各キャパシタのキャパシタンスおよび各インダクタのインダクタンスを表3とした。
【表3】
【0038】
弾性波共振器R21およびR31は、42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いた弾性表面波共振器とし、共振周波数および反共振周波数を以下とした。
R21の共振周波数:2.251GHz、反共振周波数:2.332GHz
R31の共振周波数:2.261GHz、反共振周波数:2.331GHz
【0039】
図5は、実験において弾性波共振器R21をシャント接続したときの通過特性である。図5に示すように、共振周波数frに減衰極が形成され、反共振周波数faにおいて減衰量が小さくなっている。
【0040】
環境温度を85℃、25℃および-30℃として、端子TaとT2との間のフィルタ42の通過特性を測定した。図6(a)および図6(b)は、比較例1のマルチプレクサにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。図6(b)は、図6(a)の範囲Aの拡大図である。減衰極A1は主に共振回路20の共振周波数により形成される。減衰極A2は主に弾性波共振器R21の共振周波数により形成される。
【0041】
フィルタ42の通過特性は、ミドルバンドの帯域MBが通過帯域となり、ハイバンドの帯域HBが阻止帯域となる。帯域MBとHBとの間の減衰量の変化が急峻である。これは、弾性波共振器R21の共振周波数に由来する減衰極A2を通過帯域と減衰極A1との間に設けためである。弾性波共振器R21の共振周波数は、通過帯域と減衰極A1との間であって通過帯域の高周波側のすそ野に重なるように位置している。
【0042】
温度が高くなると、矢印51のように減衰極A1の周波数は高くなり、矢印52のように減衰極A2の周波数は低くなる。85℃と25℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+39ppm/℃であり、25℃と-20℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+35ppm/℃である。
【0043】
温度が高くなると減衰極A1とA2が遠ざかるため、減衰極A1とA2との間の減衰量のピーク54の大きさが矢印53のように高くなる。減衰量のピーク54が阻止帯域で最も減衰量が小さいため、ピーク54の大きさの温度変化を抑制することが求められる。
【0044】
弾性波共振器R21の共振周波数の温度係数は負であり、減衰極A2の周波数の温度係数が負であることは理解できる。しかし、減衰極A1の周波数の温度係数が正となる理由が不明である。
【0045】
[比較例1のシミュレーション]
図6(a)および図6(b)の測定した通過特性を基に、弾性波共振器R21と共振回路20のうち弾性波共振器R1のみが温度により特性が変化し共振回路20の特性は温度で変化しない場合と、共振回路20のみが温度により特性が変化し弾性波共振器R21の特性は温度で変化しない場合のフィルタ42の通過特性をシミュレーションした。
【0046】
図7(a)および図7(b)は、比較例1のシミュレーションにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。図7(a)は弾性波共振器R1のみ特性が温度で変化する場合のフィルタ42の通過特性を示している。図7(a)に示すように、弾性波共振器R21のみ温度により特性が変化し共振回路20の特性が温度で変化しない場合、矢印51のように減衰極A1の周波数の温度係数は正である。85℃と25℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+23ppm/℃であり、25℃と-20℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+43ppm/℃である。矢印52のように減衰極A2の周波数の温度係数は負である。矢印53のように減衰量のピーク54の温度変化が大きい。
【0047】
図7(b)は共振回路20のみ特性が温度で変化する場合のフィルタ42の通過特性を示している。図7(b)に示すように、共振回路20のみ温度により特性が変化し弾性波共振器R21の特性が温度で変化しない場合、減衰極A1およびA2の周波数の温度係数はほとんど0である。85℃と25℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+0.2ppm/℃であり、25℃と-20℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+0.3ppm/℃である。減衰量のピーク54の温度変化はほとんどない。
【0048】
弾性波共振器R21の共振周波数の温度係数は負であることが知られている。図7(a)のように、弾性波共振器R21の共振周波数に由来する減衰極A2の周波数の温度変化は、弾性波共振器の共振周波数の温度変化で説明がつく。共振回路20の共振周波数に由来する減衰極A1の周波数が弾性波共振器R21の共振周波数の温度変化により変化してしまう。このような現象は発明者らが初めて見出した現象である。
【0049】
[実施例1のシミュレーション]
共振回路20の共振数波数の温度係数を正としシミュレーションした。例えば、共振回路20を構成する部品30の誘電体材料内のSrTiOの添加量を少なくし比誘電率の温度係数τfを負とする。これにより、共振回路20の共振周波数の温度係数は正となる。
【0050】
図8(a)および図8(b)は、実施例1のシミュレーションにおけるフィルタ42の通過特性を示す図である。図8(a)は共振回路20のみ特性が温度で変化する場合のフィルタ42の通過特性を示している。図8(a)に示すように、共振回路20の共振周波数の温度係数を正とすると、減衰極A1およびA2の周波数の温度係数は、矢印51および52のように正となる。85℃と25℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+45ppm/℃であり、25℃と-20℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+45ppm/℃である。このとき、共振回路20の共振周波数の温度係数は0.2ppm/℃である。すなわち、共振回路20の共振周波数の温度係数の絶対値は弾性波共振器R31の共振周波数の温度係数(約-40ppm/℃)の約200倍である。
【0051】
図8(b)は図8(a)の共振回路20の温度変化と、図7(a)の弾性波共振器R21の温度変化を合成してシミュレーションしたフィルタ42の通過特性である。図8(b)に示すように、減衰極A1とA2の周波数の温度変化がともに図6(b)の比較例1より小さくなっている。85℃と25℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+10ppm/℃であり、25℃と-20℃との間の減衰極A1のボトム周波数の温度係数は+17ppm/℃である。これにより、減衰量のピーク54の温度変化が小さくなる。
【0052】
弾性表面波共振器または圧電薄膜共振器等の弾性波共振器R1の共振周波数および反共振周波数の周波数の温度係数を0とすることは難しく、一般的に負である。一方、キャパシタおよびインダクタを有する共振回路20の共振周波数の温度係数は、表1および表2のように調整可能ある。そこで、一般的に共振回路20の共振周波数の温度係数がほぼ0となるように共振回路20を形成する。
【0053】
しかし、減衰極A1の温度係数は負となり、減衰極A2の温度係数は正となってしまう。これにより、減衰極A1とA2の間のピーク54の大きさが温度により変化してしまう。
【0054】
実施例1によれば、共振回路20は入力端子Tinと出力端子Toutとの間に互いに並列接続されたキャパシタC1およびC2とインダクタL1とを備える。弾性波共振器R1の一端がキャパシタC1、C2またはインダクタL1の一端に接続され、他端が接地されている。弾性波共振器R1の共振周波数は通過帯域と共振回路20の共振周波数との間に位置する。このとき、弾性波共振器R1の共振周波数の温度係数の符号を共振回路20の共振周波数の温度係数の符号と反対とする。これにより、図8(b)のように減衰極A1とA2の間のピーク54の大きさの温度変化を小さくできる。よって、フィルタの温度特性が向上できる。
【0055】
弾性波共振器R1の共振周波数の温度係数の絶対値に対する、共振回路20の共振周波数の温度係数の絶対値の比は、0.1以上かつ1.9以下が好ましく、0.2以上かつ1.8以下がより好ましく、0.5以上かつ1.5以下がさらに好ましい。これにより、ピーク54の大きさの温度変化をより小さくできる。
【0056】
実施例1では、共振回路20を誘電体層を積層した部品で形成する例を説明したが、共振回路20の少なくとも一部は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)のように部品を搭載する基板内に形成してもよい。共振回路20の少なくとも一部はチップコンデンサまたはチップインダクタでもよい。これらの場合においても、ピーク54の大きさの温度変化を小さくできる。
【0057】
弾性波共振器R1の共振周波数の温度係数は一般的に負である。そこで、図3のように、キャパシタC1およびC2は、誘電体層31bと誘電体層31bを挟む一対の金属層32aおよび32b(電極)を有している。このとき、誘電体層31bの誘電率の温度係数を負とする。並列共振回路のインダクタのインダクタンスをL、キャパシタのキャパシタンスをCとすると、並列共振回路の共振周波数は1/√LCである。よって、減衰極A1の周波数の温度係数は正となる。これにより、ピーク54の温度変化を小さくできる。
【0058】
減衰極A1(すなわち共振回路20の共振周波数)は通過帯域より高い。このとき、弾性波共振器R1の共振周波数の温度係数の符号を共振回路20の共振周波数の温度係数の符号と反対とする。これにより、減衰極A1とA2の間のピーク54の大きさの温度変化を小さくできる。
【0059】
共振回路20は、インダクタL1に並列接続された2つのキャパシタC1およびC2を備えている。弾性波共振器R1の一端は2つのキャパシタC1およびC2の間のノードN3に接続される。これにより、通過帯域と阻止帯域との間の減衰量の変化を急峻にできる。
【0060】
図3のように、共振回路は、積層された複数の誘電体層31aから31eと複数の誘電体層31aから31eの少なくとも1つの誘電体層に設けられた金属層32aから32d(配線パターン)とを含む。金属層32aから32dは、キャパシタC1およびC2の電極およびインダクタL1を含む。このように、積層部品の場合、誘電体層31aから31eの組成を変えることで、誘電体層の誘電率の温度係数を任意に設定することができる。
【0061】
実施例1のフィルタを適用するマルチプレクサの例として3つのフィルタ40、42および44を有するトリプレクサを例に説明したが、マルチプレクサは、ダイプレクサ、デュプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0062】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
20 共振回路
22、40、42、44 フィルタ
30 部品
31a-31e 誘電体層
32a-32d 金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8