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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231214BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231214BHJP
   C01G 17/00 20060101ALI20231214BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
C01G17/00
C01B25/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019102553
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196640
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】辻村 知之
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】町田 信也
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/173939(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044517(WO,A1)
【文献】特開2020-27781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C01B 25/14
H01M 10/0562
C01G 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の一部を第1の溶媒に溶解させてから第1の前駆体を析出させる工程と、
該前駆体と前記原料の残部とを第2の溶媒に溶解させてから第2の前駆体を析出させる工程とを含み、
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒のうちの一方としてアクセプター数が10以上の有機溶媒を用い、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒のうちの他方としてドナー数が15以下の有機溶媒を用いる、固体電解質製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とが互いに異なるものである請求項1記載の固体電解質製造方法。
【請求項3】
前記原料が、リチウム、リン、硫黄及び14族元素を含有する請求項1又は2記載の固体電解質製造方法。
【請求項4】
前記14族元素が、ゲルマニウムである請求項3に記載の固体電解質製造方法。
【請求項5】
前記原料がゲルマニウムを含有し、前記第1の溶媒又は前記第2の溶媒がエタノールである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の固体電解質製造方法。
【請求項6】
前記原料の一部がゲルマニウムを含有し、前記第1の溶媒がエタノールである請求項1乃至5記載のいずれかに記載の固体電解質製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に使用する固体電解質の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
全固体電池に使用する固体電解質を製造する方法として、固体電解質の原料を溶媒中で反応させてから析出させて固体電解質を製造する液相法がある(非特許文献1)。
この従来の液相法は、固体電解質の原料全てをまとめて一つの溶媒に溶解して反応させ、そこから固体電解質の結晶を析出させるものである。
この従来の液相法は、原料の中に前記溶媒に溶けにくい成分が含まれている場合には目的の固体電解質を製造することが難しいという問題がある。
【0003】
固体電解質を製造する上記以外の方法として、特許文献1に示すようにボールミルなどで固体電解質の原料を混合して固体電解質を製造する固相法がある。
しかしながら、固相法では成分をボールミルなどで均等に混ぜるために、製造容器の容量に制限があるので、一度に製造できる固体電解質の量が少ないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-109955号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the American Chemical Society 2013, 135, 975-978 Journal of the American Chemical Society 2013, 135, 975-978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、原料の一部が溶媒に溶けにくい場合であっても、固体電解質を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る固体電解質の製造方法は、原料の一部を第1の溶媒に溶解させてから第1の前駆体を析出させる工程と、該前駆体と前記原料の残部とを第2の溶媒に溶解させてから第2の前駆体を析出させる工程とを含む。
【0008】
このように構成した固体電解質製造方法によれば、第1の溶媒及び第2の溶媒の少なくとも2種類の溶媒を使用して、二回に分けて原料を溶解させることができる。その結果、従来の液相法では製造することができなかった組成の固体電解質を液相法で効率よく製造することができる。
【0009】
前記第1の溶媒と第2の溶媒とが互いに異なるものであれば、第1の溶媒又は第2の溶媒の少なくとも一方に溶解するものであれば原料として使用することができる。その結果、固体電解質の組成の幅をより広げることができる。
【0010】
本発明の効果は、前記原料がリチウム、リン、硫黄及びゲルマニウムを含有する場合に特に顕著に発揮される。理由は以下の通りである。
ゲルマニウムは、リチウム、リン及び硫黄等の他の元素が溶解しやすい溶媒には溶解しにくい。そのため、従来の液相法では原料にゲルマニウムを含有する固体電解質を製造することができなかった。一方、本願発明によれば、第1の溶媒または第2の溶媒としてゲルマニウムを溶解しやすい溶媒を使用することができる。その結果、従来の液相法では製造できなかったリチウム、リン、硫黄及びゲルマニウムを含有する固体電解質を液相法で効率よく製造することができる。
【0011】
本発明の具体的な実施態様としては、前記原料がゲルマニウムを含有し、前記第1の溶媒又は前記第2の溶媒がエタノールであるものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本願発明に係る固体電解質の製造方法によれば、原料の一部が溶媒に溶けにくい場合であっても、固体電解質を簡単に効率よく製造する方法を提供することができる。
そのため、これまで液相法では製造することが難しいと思われていた組成の固体電解質を低コストで大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法表すフロー図。
図2】本発明の実施例に係る固体電解質のX線粉末回折パターン。
図3】本発明の実施例に係る固体電解質のX線粉末回折パターン。
図4】本発明の実施例に係る固体電解質のX線粉末回折パターン。
図5】本発明の実施例に係る固体電解質のX線粉末回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<1.本実施形態に係る固体電解質の製造方法>
本実施形態に係る固体電解質の製造工程について図1を用いて説明する。
【0016】
まず、原料の一部を第1の溶媒に添加する(図1のS1)。前記原料の一部とは、例えば、任意の元素Mを含有する粉末とLiS粉末との混合物であり、各粉末の量は最終的に作りたい固体電解質に含まれる元素Mの量に合わせて調合されている。
【0017】
前記元素Mは、硫化物系固体電解質に含有される他の元素である、例えば、リチウム、リン、硫黄等とは溶解しやすい溶媒の種類が異なる元素である。この元素Mの具体例としては、例えば、ゲルマニウム、スズ、ケイ素などの14族元素を挙げることができる。
【0018】
前記原料の一部を前記第1の溶媒に添加し溶解させた後、反応が終了するまで攪拌する(図1のS2)。
【0019】
前記第1の溶媒は、前記粉末を溶解させることができるものであれば良く、特に限定されない。前記第1の溶媒の具体例としては、溶媒の極性をしめすアクセプター数(AN)が10以上のエタノールやN-メチルホルムアミド等の有機溶媒を挙げることができる。
【0020】
前記粉末を前記第1の溶媒に完全に溶解した後、エバポレータ等を使用して前記第1の溶媒を除去し固体電解質の第1の前駆体を析出させる(図1のS3)。
【0021】
次に、最終的な固体電解質の組成になるように該第1の前駆体に原料の残部を添加して、ここに第2の溶媒を加える(図1のS4)。前記第1の前駆体と前記原料の残部とを第2の溶媒に溶解させて、前記第1の前駆体と原料の残部との反応が終了するまで攪拌する(図1のS5)。
【0022】
前記原料の残部としては、例えば、リチウム、リン、硫黄等を含有する粉末を挙げることができる。本実施形態では、LiS粉末、P粉末を使用している。
【0023】
前記第2の溶媒は、前記第1の前駆体及び原料の残部を溶解させることができるものであればよく、特に限定されない。前記第2の溶媒の具体例としては、溶媒の極性をしめすドナー数(DN)が15以下のテトラヒドロフランなどの有機溶媒を挙げることができる。
【0024】
反応が完全に終了した後、エバポレータで前記第2の溶媒を除去して第2の前駆体を析出させる(図1のS6)。
【0025】
このようにして析出させた第2の前駆体をプレスしてペレットを作製する。該ペレットを、石英ガラス管などで真空封入して、熱処理し(図1のS7)、室温まで冷却することで固体電解質を得る(図1のS8)。
【0026】
<製造された固体電解質の性質及び使用方法>
このようにして得られた固体電解質は、ペレット形状のまま全固体二次電池の固体電解質層として使用しても良いし、砕いて粉末状にしてから全固体二次電池の正極層、負極層、固体電解質層の成分として使用しても良い。
【0027】
前述したような製造方法で製造した固体電解質は、25℃におけるイオン伝導性が、例えば、10-4S/cm以上、より好ましくは10-3S/cm以上の高いイオン伝導度を有するものである。
【0028】
以上に説明したような固体電解質の製造方法によれば、原料を第1の溶媒と第2の溶媒との2回に分けて溶解させるので、溶媒を一種類しか使用しない従来の液相法に比べて、使用できる原料の種類を大幅に増やすことができる。
【0029】
すなわち、硫化物系固体電解質を構成するリチウム、リン及び硫黄などの元素を溶解する有機溶媒には溶けにくい、例えば、ゲルマニウム、スズ、ケイ素などの元素Mを使用する場合であっても、第1の溶媒と第2の溶媒を互いに異なる成分のものとし、第1の溶媒又は第2の溶媒のどちらかに、ゲルマニウム、スズ、ケイ素などの元素Mが溶解しやすい溶媒を使用することで液相法を使用することができる。
【0030】
液相法を使用すれば、ボールミルなどで粉末を混合して固体電解質を作製する固相法に比べて、はるかに大きなスケールで固体電解質を製造することができる。そのため、従来の液相法では製造できず、固相法でしか製造できなかった組成の固体電解質の生産性を従来よりも大きく向上させることができる。
【0031】
前記固体電解質が、リチウム、リン及び硫黄などの元素を含有する硫化物系の固体電解質であるので、固体電解質のイオン伝導性を向上させることができる。また、このリュカ物系固体電解質がさらに14族元素であるゲルマニウム、スズ、ケイ素などを含有するものであるので、よりイオン伝導性を向上させることができる。
【0032】
本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、リチウム、リン、硫黄等とは溶解しやすい溶媒の種類が異なる元素Mを原料の一部として第1の溶媒に溶解させていたが、元素Mを原料の残部として第2の溶媒に溶解させても良い。
前記第1の溶媒と、前記第2の溶媒は、前述したものに限られず、溶解させる元素に合わせて様々な種類のものを使用することができる。
また、原料の残部は、原料の残り全部でなくても良い。より具体的には、目的の組成に応じて第1、第2の溶媒を使用するだけでなく、例えば、第3、第4の溶媒を使用して第3、第4の前駆体を得るようにしても良いし、さらに多段階の液相法としても良い。
【0033】
室温でのイオン伝導性が他の固体電解質に比べて高いので、前記固体電解質は14族元素を含有する硫化物系固体電解質であることが好ましいが、硫化物系固体電解質に限らず、様々な種類の固体電解質に使用することができる。組成は前述したものに限らず、いろいろなものに変えることが可能である。
【0034】
第1の溶媒及び第2の溶媒は前述したものに限らず、固体電解質の原料となる元素を溶解することができるものでれば良く、様々な種類のものを組み合わせて使用することができる。第1の溶媒と第2の溶媒とは必ずしも異なる成分のものでなくても良く、同じ成分のものを使用しても良い。同じ溶媒であっても、原料を数回に分けて溶解させることで、溶解させやすくなると考えられるからである。
その他、本発明の趣旨に反しない範囲で種々の変形が可能である。
【実施例
【0035】
次に、本実施形態の実施例について説明する。もちろん、本発明は、以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0036】
(実施例1)
<固体電解質の製造>
内部をアルゴン(Ar)で置換したグローブボックス内で、Li2S(純度99.9%、三津和)、GeS2(純度99.9%、和光純薬)を用いて2Li2S・GeS2組成になるように粉末1.5gを調合した。容積50mlのビーカーに入れた第1の溶媒であるエタノール40mlに、調合した前記粉末を添加して溶解させ、一晩撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下80℃でエタノールを留去し、第1の前駆体を得た。次に、得られた第1の前駆体に対して、最終的な組成がLi10GeP2S12となるように、Li2S(純度99.9%、三津和)およびP2S5(純度99%、Aldrich)を添加した後、第2の溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)40mlをさらに添加して、Ar雰囲気下で攪拌を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下80℃でテトラヒドロフランを完全に除去し第2の前駆体を得た。得られた第2の前駆体150mgを380MPaでプレスすることでペレット作製を行い、このペレットを石英ガラス管で真空封入し、熱処理を行った。この熱処理の条件は550℃4時間とした。熱処理した前記ペレットを室温まで冷却することによって固体電解質を得た。
【0037】
<固体電解質の評価>
得られた固体電解質について、イオン伝導度を測定した。
イオン伝導度の測定は、上記手法により得られたペレット状の固体電解質の両面にインジウム箔を圧着させて行った。また、測定温度を17℃から140℃の温度範囲に変えながらイオン伝導度測定を行い、アレーニウス式を用いて活性化エネルギーを求めた。さらに、得られた粉末は粉末X線回折装置を用い、結晶材料評価を行った。
実施例1で作成した固体電解質のX線回折パターンを図2に示す。このX線回折パターンを標準物質である標準物質であるLi10GeP2S12ICSD#248307のX線回折パターンと比較したところ、目的のLi10GeP2S12結晶が形成されていることが確認された。より具体的には、Cu Kα線を用いたX線回折測定において2θ=12.3±0.5°、14.3±0.5°、17.3±0.5°、20.1±0.5°、20.4±0.5°、23.9±0.5°、26.8±0.5°、29.4±0.5°、36.6±0.5°、37.6±0.5°、40.9±0.5°、41.4±0.5°、42.2±0.5°、47.3±0.5°、51.6±0.5°、52.6±0.5°の位置にピークを有する結晶型のLi10GeP2S12固体電解質を得ることができた。また、実施例1で得られた固体電解質のイオン伝導度は25℃において4.5×10-4S/cm、活性化エネルギーは27kJ/molであった。
【0038】
(実施例2)
ペレットの熱処理条件を550℃14時間とした以外は、実施例1と同様の手法を用いて固体電解質を作製した。最終的に得られた固体電解質のX線粉末回折パターンを図2に示す。図1の結果から、目的のLi10GeP2S12結晶が形成されていることを確認した。また、測定されたイオン伝導度は25℃において3.1×10-3S/cm、活性化エネルギーは26kJ/molであった。
【0039】
(実施例3)
ペレットの熱処理条件を550℃24時間とした以外は、実施例1と同様の手法を用いて固体電解質を作製した。最終的に得られた固体電解質のX線粉末回折パターンを図2に示す。図2の結果から、目的のLi10GeP2S12結晶が形成されていることを確認した。また、測定された伝導度は25℃において4.5×10-3S/cm、活性化エネルギーは26kJ/molであった。
【0040】
(実施例4)
内部をアルゴン(Ar)で置換したグローブボックス内で、Li2S(純度99.9%、三津和)、GeS2(純度99.9%、和光純薬)を用いて2Li2S・GeS2組成になるように粉末1.5gを調合した。容積50mlのビーカーに入れた第1の溶媒であるN-メチルホルムアミド(NMF)40mlに、調合した前記粉末を添加して溶解させ、一晩攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下250℃でN-メチルホルムアミドを留去し、第1の前駆体を得た。次に、得られた第1の前駆体に対して、最終的な組成がLi10GeP2S12になるように、Li2S(純度99.9%、三津和)およびP2S5(純度99%、Aldrich)を添加したのち、第2の溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)40mlをさらに添加して、Ar雰囲気下で攪拌を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧か80℃でテトラヒドロフランを完全に除去し第2の前駆体を得た。さらに、得られた第2の前駆体150mgを380MPaでプレスすることでペレット作製を行い、このペレットを石英ガラス管で真空封入し、熱処理を行った。この熱処理の条件は550℃4時間とした。熱処理した前記ペレットを室温まで冷却することによって固体電解質を得た。
【0041】
最終的に得られた固体電解質のX線粉末回折パターンを図3に示す。図3の結果から、目的のLi10GeP2S12結晶が形成されていることを確認した。また、測定された伝導度は25℃において1.1×10-3S/cm、活性化エネルギーは27kJ/molであった。
【0042】
(実施例5)
内部をアルゴン(Ar)で置換したグローブボックス内で、Li2S(純度99.9%、三津和)、SiS2(純度99.9%、和光純薬)、SnS2(純度99.9%、和光純薬)を用いて2.7Li2S・1.08SiS2・0.27SnS2組成になるように粉末0.5gを調合した。容積40mlのビーカーに入れた第1の溶媒であるエタノール40mlに、調合した前記粉末を添加して溶解させ、一晩攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下80℃でエタノールを留去し、第1の前駆体を得た。次に、得られた第1の前駆体に対して、最終的な組成がLi10.35Sn0.27Si1.08P1.65S12になるように、Li2S(純度99.9%、三津和)およびP2S5(純度99%、Aldrich)を添加した後、第2の溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)40mlをさらに添加して、Ar雰囲気下で攪拌を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下80℃でテトラヒドロフランを完全に除去し第2の前駆体を得た。得られた第2の前駆体150mgを380MPaでプレスすることでペレット作製を行い、このペレットを石英ガラス管で真空封入し、熱処理を行った。この熱処理条件は550℃24時間とした。熱処理した前記ペレットを室温まで冷却することによって固体電解質を得た。
【0043】
最終的に得られた固体電解質のX線粉末回折パターンを図4に示す。図4の結果から、目的のLi10GeP2S12結晶型のLi10.35Sn0.27Si1.08P1.65S12固体電解質が形成されていることを確認した。また、測定されたイオン伝導度は25℃において1.1×10-3S/cm、活性化エネルギーは26kJ/molであった。
【0044】
(比較例1)
内部をアルゴン(Ar)で置換したグローブボックス内で、Li2S(純度99.9%、三津和)、GeS2(純度99.9%、和光純薬)、P2S5(純度99%、Aldrich)を用いてLi10GeP2S12組成になるように粉末1.5gを調合した。容積40mlのビーカーに入れた第1の溶媒であるエタノール40mlに、調合した前記粉末を添加して溶解させ、一晩撹拌を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下80℃でエタノールを除去し第1の前駆体を得た。得られた第1の前駆体150mgを380MPaでプレスすることでペレット作製を行い、このペレットを石英ガラス管で真空封入し、熱処理を行った。この熱処理の条件は550℃3時間とした。熱処理した前記ペレットを室温まで冷却することによって固体電解質を得た。
【0045】
最終的に得られた固体電解質のX線粉末回折パターンを図5に示す。図5の結果からは、目的のLi10GeP2S12結晶の形成は確認できなかった。また、測定されたイオン伝導度は25℃において10-6S/cm以下であった。
【0046】
以上の実施例及び比較例の結果をまとめると、従来通り1種類の溶媒にすべての原料を溶解して反応させた比較例では、目的のLi10GeP2S12固体電解質を作製することはできなかった。
一方で、第1の溶媒及び第2の溶媒を使用して、原料を2回に分けて溶解、反応させた実施例1~5においては、目的のLi10GeP2S12固体電解質を作製することができることがわかった。しかも実施例1~5で作成された固体電解質は、いずれも十分に高いイオン伝導度を備えていることが分かった。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1
図2
図3
図4
図5