(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
A61F13/15 355A
A61F13/15 390
(21)【出願番号】P 2019130585
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 章
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150128(JP,A)
【文献】特開2017-075440(JP,A)
【文献】特開2017-176502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアスルー不織布と、ホットメルト接着剤により前記エアスルー不織布に対して接着される被接着部材とを備え、
前記エアスルー不織布は、芯鞘繊維により形成されており、
前記エアスルー不織布は、下記手順(a)~(e)により測定される下記変形部位の断面積が、3.5mm
2以上となるよう、繊維同士が複数の融着点により熱融着されており、
前記エアスルー不織布の前記
被接着部材が接着される接着面における複数の前記融着点間の平均距離は、350μm以上
700μm以下である
吸収性物品。
(a) 前記被接着部材から取り外され、溶剤によりホットメルト接着剤が除去された前記エアスルー不織布の前記接着面に対し、JIS C 2107において規定される方法で測定した対SUS粘着力が11N/19mmの粘着テープを、該粘着テープの粘着面が前記エアスルー不織布の前記接着面と接するように載せる。
(b) 前記エアスルー不織布及び前記粘着テープに対して1.9kgのローラーを150mm/秒の速度で1回往復移動させることで、該エアスルー不織布と該粘着テープとを圧着させる。
(c) 引張試験機の一方のチャックに前記エアスルー不織布の端部を取り付けると共に、他方のチャックに前記粘着テープの端部を取り付け、これら両チャックを反対方向に相対移動させることで、前記エアスルー不織布及び前記粘着テープを180°剥離させる。前記エアスルー不織布及び前記粘着テープの引張方向は、前記エアスルー不織布の繊維の主配向方向とし、引張速度は、30mm/分とする。
(d) 前記剥離が開始されてから1分経過した時点において両チャックの相対移動を停止させる。
(e) 両チャックの相対移動方向及び前記剥離の進行方向の双方と直交する方向から前記エアスルー不織布及び前記粘着テープの剥離部分を写真撮影し、該写真から、前記剥離に伴い変形した前記エアスルー不織布の変形部位の、前記剥離の進行方向に沿う断面積を測定する。前記変形部位は、前記粘着テープの粘着面と、前記エアスルー不織布の剥離面と、前記エアスルー不織布の未剥離部分の接着面から該未剥離部分の不織布厚さを一定に保ったまま前記剥離面まで延びる仮想接着面とに囲まれた部位とする。前記エアスルー不織布の前記剥離面は、前記エアスルー不織布及び前記粘着テープを180°剥離させることにより剥離の進行方向後方側に向けて露出した面である。
【請求項2】
前記エアスルー不織布の繊維の主配向方向の坪量1g/m
2あたりの引っ張り強度が、1.2N/50mm以上である
請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記エアスルー不織布は、前記接着面側に配される第1繊維層と、該第1繊維層よりも非接着面側に配される第2繊維層とを備え、
前記第1繊維層は、芯がポリエチレンテレフタレートを、鞘がポリエチレンを有する芯鞘繊維を含み、
前記第2繊維層は、芯がポリプロピレンを、鞘がポリエチレンを有する芯鞘繊維を含む
請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記エアスルー不織布は、前記第1繊維層の繊維の毛羽立ちが前記第2繊維層の毛羽立ちよりも多い
請求項
3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の吸収性物品の製造方法であって、
繊維ウェブに対して熱風を付加することにより、繊維同士を複数の前記融着点により熱融着させて前記エアスルー不織布を成形するエアスルー工程と、
前記エアスルー不織布を前記被接着部材に対して前記ホットメルト接着剤により接着する接着工程と
を備え、
前記エアスルー工程は、
熱処理温度138度以上、熱処理時間1.5秒以下の条件下において実行される第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後に、熱処理温度138℃以下の条件下において実行される第2熱処理工程と
を含む
吸収性物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙おむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品において、例えば表面シートとして用いられるエアスルー不織布を他の構成部材に接着させる手段として、ホットメルト接着剤が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸収性物品を製造する際の加工性の観点や、装着時の形状保持及び壊れ防止の観点から、エアスルー不織布と他の構成部材とのホットメルト接着剤による接着強度を高めることが望まれている。
【0005】
本発明は、エアスルー不織布と他の構成部材とのホットメルト接着剤による接着強度が高い吸収性物品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エアスルー不織布と、ホットメルト接着剤により前記エアスルー不織布に対して接着される被接着部材とを備え、前記エアスルー不織布は、下記手順(a)~(e)により測定される下記変形部位の断面積が、3.5mm2以上である吸収性物品に関する。
(a) 前記被接着部材から取り外され、溶剤によりホットメルト接着剤が除去された前記エアスルー不織布の前記接着面に対し、JIS C 2107において規定される方法で測定した対SUS粘着力が11N/19mmの粘着テープを、該粘着テープの粘着面が前記エアスルー不織布の前記接着面と接するように載せる。
(b) 前記エアスルー不織布及び前記粘着テープに対して1.9kgのローラーを150mm/秒の速度で1回往復移動させることで、該エアスルー不織布と該粘着テープとを圧着させる。
(c) 引張試験機の一方のチャックに前記エアスルー不織布の端部を取り付けると共に、他方のチャックに前記粘着テープの端部を取り付け、これら両チャックを反対方向に相対移動させることで、前記エアスルー不織布及び前記粘着テープを180°剥離させる。前記エアスルー不織布及び前記粘着テープの引張方向は、前記エアスルー不織布の繊維の主配向方向とし、引張速度は、30mm/分とする。
(d) 前記剥離が開始されてから1分経過した時点において両チャックの相対移動を停止させる。
(e) 両チャックの相対移動方向及び前記剥離の進行方向の双方と直交する方向から前記エアスルー不織布及び前記粘着テープの剥離部分を写真撮影し、該写真から、前記剥離に伴い変形した前記エアスルー不織布の変形部位の、前記剥離の進行方向に沿う断面積を測定する。前記変形部位は、前記粘着テープの粘着面と、前記エアスルー不織布の剥離面と、前記エアスルー不織布の未剥離部分の接着面から該未剥離部分の不織布厚さを一定に保ったまま前記剥離面まで延びる仮想接着面とに囲まれた部位とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る吸収性物品は、エアスルー不織布と他の構成部材とのホットメルト接着剤による接着強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の吸収性物品の一実施形態としてのパンツ型紙おむつを展開して肌面側から見た状態を示す概略平面図である。
【
図2】本実施形態に係るエアスルー不織布を模式的に示す断面図である。
【
図3】「変形部位の断面積」の測定手順における、本実施形態に係るエアスルー不織布の変形部位を示す図面代用写真である。
【
図4】
図4(a)は、本実施形態に係るエアスルー不織布を被接着部材(スパンボンド不織布)から剥離させた状態を示す図面代用写真であり、
図4(b)は、従来のエアスルー不織布を被接着部材(スパンボンド不織布)から剥離させた状態を示す図面代用写真である。
【
図5】
図5(a)~
図5(c)は、変形部位の断面積が異なるエアスルー不織布をそれぞれ被接着部材(スパンボンド不織布)から剥離させた状態を示す図面代用写真であり、
図5(d)は、変形部位の断面積と剥離強度との関係を示すグラフである。
【
図6】不織布の毛羽立ちを観察する方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る吸収性物品の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
[吸収性物品の構成]
本実施形態に係る吸収性物品は、着用者の胴部を挿通させるための胴部開口と、着用者の脚を挿通させるための左右一対の脚部開口とを有する所謂パンツ型の紙おむつ1である。
図1は、紙おむつ1の肌面側(内側)を上にして、紙おむつ1の左右両側のサイドシール部を破断して展開し、弾性体を伸長した状態を示している。
【0011】
なお、以下の説明においては、特に断らない限り、着用時に着用者の肌に向けられる側を肌面側又は表面といい、これと反対側を非肌面側又は裏面という。また、着用時に着用者の前側に位置する方向を前方というと共にその端部を前端部とし、後側に位置する方向を後方というと共にその端部を後端部とする。
【0012】
本実施形態に係る紙おむつ1は、
図1に示すように、前後方向に沿って延びる縦長の吸収性本体10と、吸収性本体10の前端部に配された帯状の腹側帯20aと、吸収性本体10の後端部に配された背側帯20bとを備えている。腹側帯20a及び背側帯20bは、その長手方向(
図1中のX方向)が吸収性本体10の長手方向(
図1中のY方向)と直交するよう、吸収性本体10の非肌面側に固定されている。なお、吸収性本体10と腹側帯20a及び背側帯20bとの固定方法としては、例えば接着剤、ヒートシール及び超音波シールなどによる方法が用いられる。
【0013】
これら腹側帯20a及び背側帯20bは、腹側帯20aの一方の側縁部21aと背側帯20bの一方の側縁部21bとを重ね合わせて接合すると共に、腹側帯20aの他方の側縁部22aと背側帯20bの他方の側縁部22bとを重ね合わせて接合することにより、着用者の胴部を囲う環状の外装体を形成するよう構成されている。これら腹側帯20a及び背側帯20bにより環状の外装体が形成された状態において、腹側帯20aは着用者の腹側に配され、背側帯20bは着用者の背側に配され、吸収性本体10は着用者の股下に配される。なお、これら腹側帯20a及び背側帯20bの接合は、ヒートシール、超音波シールなどの任意の手段を用いて形成することができ、この接合部が、上述したサイドシール部となる。
【0014】
吸収性本体10は、
図1に示すように、液透過性の表面シート12と、裏面シート(図示せず)と、両シート間に介在配置される液保持性の吸収体14とを備える縦長の形状である。表面シート12は、吸収体14の肌面側に配され、排泄液などを吸収体14へと素早く透過させるよう構成されている。裏面シートは、吸収体14の非肌面側に配され、吸収体14が吸収保持する液の染み出しなどの漏れを防ぐよう構成されている。これら表面シート12と吸収体14との間は、ホットメルト接着剤により接着され、一体化されている。また、表面シート12と裏面シートとの間及び吸収体14と裏面シートとの間は、例えばホットメルト接着剤やヒートシールなどにより一体化されている。
【0015】
表面シート12としては、排泄された体液を速やかに透過させ吸収体14へと導く観点と、肌触りの良さの観点から、親水性のエアスルー不織布を用いている。なお、エアスルー不織布の具体的な構成については、後述する。
【0016】
裏面シートは、吸収性物品の裏面シートに通常使用されている材料を用いて形成することができる。例えば、液難透過性の樹脂フィルム、撥水性の樹脂フィルム、又は樹脂フィルムと不織布とのラミネートシートなど、場合によっては液透過性の不織布が、裏面シートとして用いられる。該樹脂フィルムは、紙おむつ1のムレ防止性の観点から、液難透過性及び水蒸気透過性を有する多孔質フィルムであることが好ましい。
【0017】
吸収体14は、吸収性コアとこれを包むコアラップシートとを備えていてもよく、吸収性物品の吸収体に通常使用されている材料を用いて形成することができる。例えば、吸収性コアは、パルプ繊維などの親水性繊維の積繊体や、親水性繊維と吸水性ポリマーとの混合積繊体から構成することができる。親水性繊維としては、例えば、パルプ繊維、レーヨン繊維、コットン繊維、酢酸セルロースなどのセルロース系繊維が挙げられる。また、セルロース系繊維以外に、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどの合成樹脂からなる繊維を界面活性剤などにより親水化したものを用いることもできる。コアラップシートとしては、例えば、ティッシュペーパーや透水性の不織布を用いることができる。コアラップシートは、1枚で吸収性コアの全体を包んでいてもよいし、2枚以上を組み合わせて吸収性コアを包んでいてもよい。
【0018】
また、吸収性本体10は、長手方向の両側縁に沿って、立体ギャザー形成用シート(図示せず)が配されている。立体ギャザー形成用シートは、弾性部材(図示せず)を有しており、該弾性部材の収縮により、着用状態における股下部に、着用者の肌面側に向かって起立する立体ギャザーが形成されるよう構成されている。これにより、紙おむつ1に排泄された液の流出を防ぎ、液の横漏れを防止することができる。
【0019】
環状の外装体を構成する腹側帯20a及び背側帯20bは、
図1に示すように、それぞれ、肌面側に配された1層以上の内層シート23と、非肌面側に配された外層シート24とを備えている。また、これら両シート間には、その長手方向(
図1中のX方向)に沿って複数の弾性部材26がそれぞれ伸長状態で固定されている。これらの弾性部材26は、紙おむつ1の着用時に適度に胴回り方向に伸縮して腰回りギャザー及び胴回りギャザーを形成し、着用者の胴回りに紙おむつ1をフィットさせるよう構成されている。
【0020】
内層シート23及び外層シート24は、吸収性物品に通常使用されている材料を用いて形成することができ、例えば、エアスルー不織布、スパンボンド不織布などの不織布を用いることができる。内層シート23は、不織布に厚みを持たすことで得られる柔らかな風合いと優れた吸液性能の観点から、エアスルー不織布を用いることが好ましく、外層シート24は、コストと風合いのバランスの観点から、スパンボンド不織布を用いることが好ましい。これら不織布は、単層で用いても良いし、二以上積層させて用いても良い。典型的には、これら内層シート23と外層シート24との間は、ホットメルト接着剤により接着され、一体化されている。
【0021】
また、腹側帯20a及び背側帯20bの肌面側には、
図1に示すように、それぞれ、腹側帯20a及び背側帯20bの長手方向(紙おむつ1の幅方向X)に沿って延びる帯状のエッジシート28が積層されている。腹側帯20aに配されたエッジシート28は、吸収性本体10の前端部を横断するよう、その一部が吸収性本体10の表面シート12の肌面側に積層されており、背側帯20bに配されたエッジシート28は、吸収性本体10の後端部を横断するよう、その一部が吸収性本体10の表面シート12の肌面側に積層されている。すなわち、吸収性本体10の前端部及び後端部の一部は、肌面側に配されたエッジシート28と、非肌面側に配された内層シート23との間に介在配置されている。
【0022】
エッジシート28は、吸収体中のポリマーがオムツの前後方向から脱落したり、吸収体に吸収された液が吸収性本体の前後に染み出すのを防ぐために設けられる構成部材であり、吸収性物品に通常使用されている材料を用いて形成することができ、例えば、スパンボンド不織布などの不織布を用いることができる。エッジシート28を構成する不織布は、単層で用いても良いし、二以上積層させて用いても良い。典型的には、エッジシート28と吸収性本体10の表面シート12との間は、ホットメルト接着剤により接着され、一体化されている。
【0023】
なお、スパンボンド不織布は、吸収性物品に通常使用されている材料を用いて形成することができ、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系などの合成樹脂などや、これらから二種以上が使用された混合繊維、複合繊維などを例示することができる。
【0024】
また、ホットメルト接着剤は、吸収性物品における構成部材間の接着に通常使用されている材料を用いることができる。例えばEVA系、粘着ゴム系(エラストマー系)、オレフィン系、ポリエステル・ポリアミド系などを特に制限無く使用可能である。
【0025】
[エアスルー不織布の構成]
本実施形態に係る紙おむつ1において、吸収性本体10の表面シート12や内層シート23などに採用されるエアスルー不織布は、従来のエアスルー不織布と比較して、ホットメルト接着剤による接着強度が高い不織布である。以下、本実施形態に係るエアスルー不織布30の構成について、説明する。
【0026】
なお、以下の説明においては、本実施形態に係るエアスルー不織布30がホットメルト接着剤により接着される構成部材を被接着部材40という。例えば、吸収性本体10の表面シート12として本実施形態に係るエアスルー不織布30を用いる場合には、エッジシート28又は吸収性本体10の吸収体14若しくは裏面シートが被接着部材40となる。腹側帯20a及び背側帯20bの内層シート23として本実施形態に係るエアスルー不織布30を用いる場合には、エッジシート28又は外層シート24が被接着部材40となる。ただし、本実施形態に係るエアスルー不織布30は、これらの組み合わせに限定されず、ホットメルト接着剤により他の構成部材(被接着部材40)に接着されるものであれば、その使用用途及び使用箇所は特に制限されない。
【0027】
また、以下の説明においては、特に断らない限り、エアスルー不織布30における被接着部材40と接着している側を接着面側といい、これと反対側を非接着面側という。さらに、エアスルー不織布30の接着面の法線方向(垂直方向)を厚み(厚さ)方向といい、その量を厚み(厚さ)という。
【0028】
なお、例えば吸収性本体10の表面シート12のように、肌面側の面(表面)においてエッジシート28と接着し、非肌面側の面(裏面)において吸収性本体10の吸収体14や裏面シートと接着する場合には、いずれの面も接着面とすることができるが、所望の接着強度に応じて一方側の面のみを後述する所定の変形部位の断面積を有し得る接着面としてもよい。このため、例えば、表面シート12とエッジシート28との間の接着強度を高める目的の場合には、表面シート12の肌面側の面(表面)のうちエッジシート28によって被覆される領域が所定の変形部位の断面積を有し得る接着面となる。
【0029】
本実施形態に係るエアスルー不織布30は、
図2に示すように、接着面側に配される第1繊維層32と、第1繊維層32よりも非接着面側に配される第2繊維層34とを備えている。なお、本実施形態において、「繊維層」とは、一枚の不織布がその中に有する層構造を指す。例えば、エアスルー不織布が複数の繊維ウェブを積層して作られたものである場合は、各繊維ウェブに由来する層のそれぞれを繊維層と呼ぶ。
【0030】
エアスルー不織布30における層構造の有無は、いくつかの方法で明らかにすることができる。例えば、各層で使用する原綿の種類(太さや芯鞘比など)が異なる場合には、エアスルー不織布30を切断した際の断面に見える繊維の形状から、単層か複層かを判断することが可能である。また、エアスルー不織布30が層構造を有する場合、その層間の接着強度は層内の繊維内の接着強度よりも小さいため、エアスルー不織布30を表裏の両側から引っ張ると、各層は比較的容易に剥がれる。このため、エアスルー不織布30を裏表側から引き剥がす操作を行うことにより、層構造の有無を判断することが可能である。
【0031】
これら第1繊維層32及び第2繊維層34は、それぞれ、熱融着性繊維により構成されており、熱融着性繊維に対する熱風処理によって繊維同士が複数の融着点により熱融着されることで、一体性を有している。また、これら両繊維層間の境界においても両繊維層の繊維同士が熱融着によって結合されることで、両繊維層同士も一体性を有している。
【0032】
第1繊維層32は、ホットメルト接着剤により被接着部材40に接着される接着面36を有している。接着面36は、平坦な面であり、被接着部材40に対して面で接着するよう構成されていることが好ましい。ここで、「平坦な面」とは、凸部をなす賦形加工が施されておらず全体として実質的に平坦であることをいい、凹凸が全く無い完全な平坦である場合のみならず、例えばシート成形による不可避的な表面凹凸や、接着面36から起立した遊離繊維などの僅かな繊維の突出や、被接着部材40との接着により生じた僅かな皺などが存在する場合も含まれる。
【0033】
以下、「第1繊維層32」又は「第2繊維層34」と断らずに「エアスルー不織布30」として説明をする物性については、個々の繊維層についての物性ではなく、「エアスルー不織布30」全体としての物性を意味するものとする。
【0034】
エアスルー不織布30は、従来のエアスルー不織布よりも繊維の自由度が高く、被接着部材40から剥離する方向に力が加えられた際に、ホットメルト接着剤による接着力により被接着部材40側に引っ張られて変形し、実質的に接着面積が増える表面構造を有している。
【0035】
ここで、「繊維の自由度」とは、エアスルー不織布の表裏面を構成する繊維が「どれだけ自由に動けるか」という観点で見た物性であり、「繊維の自由度」を評価する指標として、剥離力を付与した場合における、エアスルー不織布30の厚さ方向の変形量(変形部位の断面積)を用いることができる。
【0036】
具体的には、エアスルー不織布30の接着面36は、下記[変形部位の断面積の測定方法]の手順(a)~(e)により測定される変形部位38の断面積が、3.5mm2以上である。この変形部位38の断面積は、接着剤による他の部材との接着強度を大きくするための観点から、4mm2以上であることが好ましく、また、吸収性物品の使用後の外観がよれた様な感じを使用者に与える事を防ぐ観点から、5mm2以下であることが好ましい。
【0037】
[変形部位の断面積の測定方法]
(a) 被接着部材から取り外され、溶剤によりホットメルト接着剤が除去されたエアスルー不織布の接着面に対し、JIS C 2107において規定される方法で測定した対SUS粘着力が11N/19mmの粘着テープを、該粘着テープの粘着面がエアスルー不織布の接着面と接するように載せる。
(b) エアスルー不織布及び粘着テープに対して1.9kgのローラーを150mm/秒の速度で1回往復移動させることで、該エアスルー不織布と該粘着テープとを圧着させる。
(c) 引張試験機の一方のチャックにエアスルー不織布の端部を取り付けると共に、他方のチャックに粘着テープの端部を取り付け、これら両チャックを反対方向に相対移動させることで、エアスルー不織布及び粘着テープを180°剥離させる。エアスルー不織布及び粘着テープの引張方向は、エアスルー不織布の繊維の主配向方向とし、引張速度は、30mm/分とする。
(d) 剥離が開始されてから1分経過した時点において両チャックの相対移動を停止させる。
(e) 停止後10秒以上待ち、両チャックの相対移動方向及び剥離の進行方向の双方と直交する方向からエアスルー不織布及び粘着テープの剥離部分を写真撮影し、該写真から、剥離に伴い変形したエアスルー不織布の変形部位の、剥離の進行方向に沿う断面積を測定する。変形部位は、粘着テープの粘着面と、エアスルー不織布の剥離面と、エアスルー不織布の未剥離部分の接着面から該未剥離部分の不織布厚さを一定に保ったまま剥離面まで延びる仮想接着面とに囲まれた部位とする。この面積測定を10回行い、そのなかで大きい方から5つのデータの平均値を、変形部位の断面積の測定値とする。
【0038】
上記手順(a)は、エアスルー不織布30に粘着テープを積層させ、「変形部位の断面積」を測定するための積層体を形成する工程である。エアスルー不織布30は、紙おむつ1から溶剤によりホットメルト接着剤を除去して、丁寧に取り外されたものが用いられる。なお、このエアスルー不織布を取り出す手段は、本明細書の他の測定方法にも共通である。エアスルー不織布30は、引張試験機で測定可能な大きさに切り取られた切片であっても良い。また、粘着テープは、厚みが40μm以下のポリエステル製ベースフィルムにアクリル樹脂系粘着剤が積層されたものが用いられ、エアスルー不織布30の少なくとも測定範囲を覆う大きさを有している。粘着層の厚みは20±2μmであり、JIS C 2107において規定される方法で測定した対SUS粘着力が11N/19mmである。このような粘着テープとしては、例えば、株式会社中川商会製のNSテープを採用可能である。
【0039】
上記手順(b)は、上記手順(a)で形成された積層体を加圧し、エアスルー不織布30と粘着テープとを圧着させる工程である。当該手順(b)は、粘着テープが上になるように平らな面上に積層体を載置して行われる。
【0040】
上記手順(c)は、上記手順(b)で圧着され、エアスルー不織布30と粘着テープとが一体化された積層体を引張試験機にセットし、該引張試験機によりエアスルー不織布30と粘着テープとを所定条件で剥離させる工程である。引張試験機は、180°対向配置された上下のチャックを備えており、これら上下チャックのチャック間距離は、下記で剥離したサンプルの両端部を僅かに弛んだ状態でチャックできる間隔に設定する。エアスルー不織布30及び粘着テープは、エアスルー不織布30の繊維の主配向方向の一端部側が作業者によって剥離され、上下いずれかのチャックにそれぞれ取り付けられる。例えば、エアスルー不織布30は下方のチャックに取り付けられ、粘着テープは上方のチャックに取り付けられる。このため、上記手順(c)では、繊維の主配向方向が剥離方向となる。引張試験機は、株式会社島津製作所製のテンシロン引張試験機AG-ISを使用可能である。
【0041】
なお、「繊維の主配向方向」とは、繊維が最も強く配向している方向をいい、エアスルー不織布の場合には、通常、MD方向(Machine Direction:製造工程における搬送方向)である。エアスルー不織布の場合には、その製造工程上、繊維がCD方向(Cross Direction:搬送方向と直交する幅方向)よりもMD方向に強く配向することから、不織布表面の写真から繊維の向きを確認することで、不織布のMD方向を容易に判断可能である。
【0042】
そして、上記手順(d)及び上記手順(e)により、剥離力を付与した場合におけるエアスルー不織布30の厚さ方向の変形量(変形部位38の断面積)、すなわち、「繊維の自由度」を測定する。なお、上記手順(e)において、「両チャックの相対移動方向」とは、エアスルー不織布30の厚さ方向(
図3中の上下方向)であり、「剥離の進行方向」とは、本実施形態では繊維の主配向方向(
図3中の右方向)である。このため、本実施形態では、「両チャックの相対移動方向及び剥離の進行方向の双方と直交する方向」とは、剥離の進行方向(MD方向)に沿う断面と対向する方向、すなわちCD方向である。
【0043】
変形部位38は、
図3に示すように、粘着テープ40´の粘着面40aと、エアスルー不織布30の剥離面37と、エアスルー不織布30の未剥離部分の接着面36から該未剥離部分の不織布厚さ(非接着面39からの厚さ方向の距離)を一定に保ったまま剥離面37まで延びる仮想接着面36´とに囲まれた部分である。ここで、エアスルー不織布30の剥離面37とは、エアスルー不織布30及び粘着テープ40´を180°剥離させることにより剥離の進行方向後方側に向けて露出した面である。また、エアスルー不織布30の未剥離部分とは、エアスルー不織布30のうち、引張試験機による引張力によって変形していない部分をいうものとする。なお、これら粘着面40a、剥離面37及び非接着面39は、写真中の画像より判断する事ができる。
【0044】
本実施形態に係るエアスルー不織布30は、このように接着面積が増える表面構造を有することにより、付与される剥離力を変形した部分(変形部位38)全体で受け止めることになるため(
図4(a)参照)、繊維の自由度が低い従来のエアスルー不織布(
図4(b)参照)と比較して、被接着部材40を剥離させるためには大きな力が必要となる。そして、このことは、本実施形態に係るエアスルー不織布30が、従来のエアスルー不織布よりも高い接着強度を発揮可能であることを意味している。なお、
図4(a)は、本実施形態に係るエアスルー不織布30と被接着部材40としてのスパンボンド不織布とをホットメルト接着剤を用いて接着させ、これを上述した「変形部位の断面積の測定方法」の上記手順(c)~上記手順(e)と概ね同様の手順により剥離させて撮影した図面代用写真であり、
図4(b)は、従来のエアスルー不織布30´について同様の手順により撮影した図面代用写真である。
【0045】
すなわち、繊維の自由度(変形部位38の断面積mm
2)は、
図5に示すように、剥離強度に概ね比例することが本発明者によって明らかとなった。例えば同じ条件で繊維の自由度の異なるエアスルー不織布と他の部材をホットメルトで接着した強度を比較した一例では、例えば
図5(a)及び
図5(d)に示すように、繊維の自由度が0.5mm
2程度の剥離強度を1としたとき、例えば
図5(b)及び
図5(d)に示すように、繊維の自由度が1.0mm
2以上となると剥離強度が1.33を上回り、例えば
図5(c)及び
図5(d)に示すように、繊維の自由度が2.5mm
2程度となると剥離強度が2を上回る。なお、
図5(d)は、繊維の自由度が異なる5種類のエアスルー不織布をそれぞれ被接着部材40としてのスパンボンド不織布にホットメルト接着剤を用いて接着させ、これを上述した「変形部位の断面積の測定方法」の上記手順(c)と概ね同様の手順により剥離させた場合の剥離強度を示すグラフであり、
図5(a)~
図5(c)は、そのうち3種のエアスルー不織布に関する上記手順(d)及び上記手順(e)と概ね同様の手順により撮影した写真である。
【0046】
また、このようなエアスルー不織布30の「繊維の自由度」は、例えば、繊維を固定する融着点同士の距離を広げることにより実現することが可能である。すなわち、例えば融着点の間隔がゼロの不織布(繊維が互いに完全に密着した不織布)は、繊維の自由度はほぼゼロとなり、これとは逆に、融着点の間隔が無限大の不織布(融着点が無い不織布)は、繊維の自由度が無限大となる。但し、融着点が無い不織布は、繊維がバラバラとなり強度が出ないため、繊維の自由度を確保しつつ、繊維同士が適度に融着されている必要がある。このように繊維同士が適度に融着され、繊維の融着点間距離が広い不織布であれば、繊維同士が結合状態を維持したまま各繊維を自由に動かすことが可能となる。
【0047】
具体的には、本実施形態に係るエアスルー不織布30は、第1繊維層32の接着面36における繊維の複数の融着点間の平均距離が、350μm以上である。この融着点間の平均距離は、接着強度を上げる観点から、400μm以上であることが好ましく、また、不織布及びそれを用いた吸収性物品の使用後の外観がよれた様な感じを使用者に与える事を防ぐ観点から、700μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。融着点間の平均距離は、以下の(1)~(4)の手順により測定することが可能である。なお、当該融着点間の平均距離は、吸収性物品中において、エアスルー不織布30がホットメルト接着剤により被接着部材40と接着されている領域で行う。
【0048】
[融着点間の平均距離の測定方法]
(1) エアスルー不織布30の接着面36を、該接着面36と対向する方向から写真で撮影する。
(2) 融着点の個数を数え、1.0mm2あたりの個数(個/mm2)に直す。
(3) 表面から見える繊維の総長さ(mm/mm2)を次の式で求める。
・「繊維の総長さ(mm/mm2)=本数(本/mm2)×平均繊維長(mm)」
・「本数(本/mm2)=坪量(g/m2)÷1,000,000÷(繊度(dtex)÷10,000÷1,000×平均繊維長(mm))×(混率(%)÷100)」
なお、上記「本数」を求める式において、「×(混率(%)÷100)」は、複数種の繊維が混在している場合における補正値であり、単一種の繊維のみである場合には考慮する必要はない。
(4) 融着点間の平均距離を次の式で求める。
・「融着点間の平均距離(mm)=3.29×繊維の総長さ(mm/mm2)÷融着点数(個/mm2)÷2」
なお、上記「融着点間の平均距離」を求める式において、「3.29」は、本明細書に記載の測定方法に基づき表面の融着点数を導くための定数(係数)である。
【0049】
第2繊維層34は、第1繊維層32よりも融着点間の平均距離が短く、これにより、第1繊維層32よりも繊維の自由度が小さくなるよう構成されている。これにより、接着強度を要求される第一の繊維層は大きな繊維の自由度を持つ。同時に接着強度の不要な第二の層は融着点間の平均距離が短く、すなわち融着点の数が多く、強度が高くなることから、接着強度が高く不織布の強度も高い品質に優れた不織布が得られる。本実施形態に係るエアスルー不織布30は、このように、第2繊維層34における繊維の自由度を第1繊維層32よりも小さくすることにより、第2繊維層34の剛性を第1繊維層32よりも高めることが可能となるため、エアスルー不織布30の接着面36における接着強度を高めつつ、エアスルー不織布30全体としての剛性(引っ張り強度)を維持することが可能となる。エアスルー不織布30の引っ張り強度については後述する。
【0050】
このような融着点間の平均距離の差は、例えば、第2繊維層34の繊維を第1繊維層32の繊維よりも融点の低い材質とすることで実現することが可能である。具体的には、第1繊維層32の熱融着性繊維として芯がPETを、鞘がPEを有する芯鞘繊維を用いる場合には、第2繊維層34の熱融着性繊維は、芯がPPを、鞘がPEを有する芯鞘繊維を用いることが好ましい。この場合において、第1繊維層32は、芯がPETを、鞘がPEを有する芯鞘繊維以外の繊維を含んでも良いし、第2繊維層34は、芯がPPを、鞘がPEを有する芯鞘繊維以外の繊維を含んでも良い。このように、第2繊維層34の繊維を第1繊維層32の繊維よりも融点の低い材質とすると、第2繊維層34の繊維の方がより低い温度で柔らかくなり、熱処理時に繊維がへたり易く繊維同士の接触箇所が多くなるため、第2繊維層34の方が融着点の数が多くなり、これにより、繊維間の平均距離が短くなる。
【0051】
ただし、第1繊維層32及び第2繊維層34を構成する各熱融着性繊維の材料は、上述の例に限定されず、エアスルー不織布に用いることが可能な繊維であれば特に制限されるものではない。例えば、PE繊維、PP繊維などのポリオレフィン繊維;PET、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂を単独で用いてなる繊維;芯鞘型、サイドバイサイド型などの構造の複合繊維などを用いることができる。また、このような複合繊維としては、例えば、芯鞘構造の繊維などを用いることができる。芯鞘構造の繊維において、芯成分はPET、PPなどを好適に用いることができ、鞘成分は直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)などを好適に用いることができる。芯鞘構造の繊維の代表例としては、芯がPETを、鞘がPEを有するもの、芯がPPを、鞘がPEを有するものなどの芯鞘構造の繊維などが挙げられる。これらの繊維は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いて、各繊維層を構成することができる。また、各繊維層には、熱可塑性繊維以外の繊維が含まれていてもよい。
【0052】
そして、このような融着点間の平均距離の差により、第1繊維層32と第2繊維層34とは、繊維の毛羽立ちにも差が生じている。具体的には、本実施形態に係るエアスルー不織布30は、第1繊維層32の繊維の毛羽立ちが第2繊維層34の毛羽立ちよりも多くなるよう構成されている。具体的には、第1繊維層32は、以下の方法により計測した繊維の毛羽立ちの本数が、第2繊維層34の毛羽立ちの本数の1.2倍以上である。なお、繊維の毛羽立ちは、以下の方法により評価することが可能である。
【0053】
[毛羽立ち評価]
(1) ウレタンフォーム(株式会社イノアテック製ウレタンフォーム、商品名:モルトフィルターMF-30タイプ、厚さ0.5mm)で表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を回転軸から円盤中心が20mmずれた位置で回転軸に取り付けた試験機を用意する。
(2) 毛羽立ちを評価する側の面を上方に向けた状態で、本実施形態に係るエアスルー不織布30を試験機の台上に固定する。すなわち、第1繊維層32の毛羽立ちを評価する場合には、接着面36を上方に向けた状態で台上に固定し、第2繊維層34の毛羽立ちを評価する場合には、非接着面39を上方に向けた状態で台上に固定する。固定の方法は特に制限されないが、例えば不織布の非評価面側と不織布を載せる台の間に両面テープを配し固定しても良い。
(3) 次いで、上記円盤を固定したエアスルー不織布30上に載せ、回転軸を回転させて円盤をエアスルー不織布30上で周動させる。周動は、時計回りに3回、反時計回りに2回を1サイクルとして10サイクル行う。この時の周動速度は、1回転あたり約3秒とする。
(4) 周動後のエアスルー不織布30の表面を観察し、毛羽立ちの多少を判断する。
【0054】
上記(4)の観察は、22℃65%RH環境下にて、以下の要領で実行する。すなわち、まず、測定する不織布から、鋭利なかみそりで、20cm×20cmの測定片を切り出し、測定片の毛羽立てた面において
図6(a)に示すように山折りして測定サンプルを形成する。次に、この測定サンプルを、A4サイズの黒い台紙の上に載せ、
図6(b)に示すように、さらにその上に縦1cm×横1cmの穴をあけたA4サイズの黒い台紙を載せる。このとき、
図6(b)に示すように、測定サンプルの折り目が、上側の黒い台紙の穴から見えるように配置する。両台紙には、富士共和製紙株式会社の「ケンラン(黒)連量265g」を用いる。その後、上側の台紙の穴の両側それぞれから、折り目に沿って外方に5cm離れた位置に、50gの錘をそれぞれ載せ、測定サンプルが完全に折りたたまれた状態を作る。次に、
図6(c)に示すように、マイクロスコープ(株式会社キーエンス社製VHX-900)を用いて、30倍の倍率で、台紙の穴内を観察し、測定サンプルの折り目から所定の距離α上方に平行移動した位置に形成される仮想線よりも上方に起毛している1cmあたりの起毛した繊維の本数を計測する。なお、起毛している繊維の本数を数える際には、例えば、
図6(c)に示す繊維100のように、折り目から上記距離α上方にある仮想線を2回横切る繊維がある場合、その繊維は2本と数える。本実施形態では、この毛羽立ちの本数が1.2倍以上異なる場合、表裏面の毛羽立ちの本数に差があると定義する。このようにして9箇所計測し、平均値(少数第二位を四捨五入)を起毛している繊維の量(本数)とする。
【0055】
ここで、距離αは、観察対象とする面がエアスルー不織布30のネット面(後述するエアスルー不織布の製造方法において支持体上に載置される側の面)である場合には200μmとし、エア面(後述するエアスルー不織布の製造方法において熱風が吹き付けられる側の面)である場合には500μmとする。エアスルー不織布では、ネット面とエア面とで表面の凹凸形状が異なり、凹凸の大きいエア面の方が上記試験機による毛羽立ちが生じ易い。このため、本実施形態に係る上記[毛羽立ち評価]では、ネット面とエア面とで本数計測の基準となる上記仮想線の位置を異ならせることにより、ネット面とエア面との凹凸形状の差に起因する影響を補正している。
【0056】
エアスルー不織布30は、繊維の主配向方向(MD方向)の坪量1g/m2あたりの引っ張り強度(機械的強度)が、1.2N/50mm以上である。当該引っ張り強度は、本不織布を用いた吸収性物品の製造の容易さの観点から、1.4N/50mm以上であることが好ましく、また、不織布の風合いの観点から、4N/50mm以下であることが好ましく、3N/50mm以下であることがより好ましい。当該引っ張り強度は、下記[繊維の主配向方向(MD方向)の坪量1g/m2あたりの引っ張り強度]の手順(a)及び手順(b)により測定することが可能である。
【0057】
[繊維の主配向方向(MD方向)の坪量1g/m2あたりの引っ張り強度]
(a) 被接着部材から取り外され、溶剤によりホットメルト接着剤が除去されたエアスルー不織布を取り出す。
(b) 引張試験機の一方のチャックにエアスルー不織布の端部を取り付けると共に、他方のチャックにもう一方のエアスルー不織布の端部を取り付け、これら両チャックを反対方向に相対移動させることで、引っ張り強度を測定する。エアスルー不織布の引張方向は、エアスルー不織布の繊維の主配向方向とし、引張速度は、30mm/分とする。
【0058】
なお、上記「繊維の自由度」は、上述した「融着点間の平均距離」の他に、例えば、不織布の配向(縦横上下方向)や、繊維の捲縮などで調整することも可能である。例えば、繊維の捲縮により不織布中の繊維にコイル様の状態を与えれば、それがバネの様に伸縮する事で自由度を与えることができる。また、繊維を不織布の厚み方向により強く配向させれば、自由度は高くなる。例えば、厚み方向により強く配向させるには、不織布製造時のカード条件(カード機の各シリンダーの速比)で調整可能である。ただし、実用上意味のある大きな変化を与える方法として、上述した「融着点間の平均距離」を広くすることが好ましい。
【0059】
[エアスルー不織布の製造方法]
次に、本実施形態に係るエアスルー不織布の製造方法の一例について、説明する。本実施形態に係るエアスルー不織布の製造方法は、搬送方向MDに向かって回転するコンベアベルトと、コンベアベルト上の繊維ウェブに対して第1熱風を吹き付け、繊維ウェブが融着しない手前まで繊維ウェブに熱を素早く伝える第1熱処理部と、第1熱処理工程後の繊維ウェブに対して第2熱風を吹き付け、繊維ウェブにゆっくりと熱量を伝える第2熱処理部とを備えた製造装置を用いて実行される。なお、本実施形態に係るエアスルー不織布に用いられる製造装置の機械的な構成については、第1熱風と第2熱風とを異なる条件で吹き付ける点を除き、公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0060】
本実施形態に係るエアスルー不織布の製造方法は、まず、コンベアベルト上に第1繊維層32を構成する繊維ウェブを載せ、その上にコンベアベルト上の繊維ウェブに対して、第2繊維層34を構成する繊維ウェブを載せる(繊維ウェブ供給工程)。
【0061】
次に、第1熱処理部において、高温かつ短時間の熱処理を加える第1熱処理工程を行う。この第1熱処理工程において、第1熱風の温度(熱処理温度)は、不織布の強度を高める観点から、138℃以上であることが好ましく、また、不織布の風合いの観点から、145℃以下であることが好ましい。
【0062】
また、第1熱風の吹き付け時間(熱処理時間)は、風合いの観点から、0.8秒以下であることが好ましく、また、強度の観点から、0.4秒以上であることが好ましい。
【0063】
第1熱風の風速は、繊維ウェブの賦形性に影響を与えない範囲で任意に設定することが可能であるが、例えば、強度の観点から、1.2m/秒以上であることが好ましく、1.5m/秒以上であることがより好ましく、また、風合いの観点から、2m/秒以下であることが好ましい。
【0064】
次に、第2熱処理部において、低温かつ短時間の熱処理を加える第2熱処理工程を行う。この第2熱処理工程において、第2熱風の温度(熱処理温度)は、強度の観点から、125℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、また、風合いの観点から、138℃以下であることが好ましく、136℃以下であることがより好ましい。
【0065】
また、第2熱風の吹き付け時間(熱処理時間)は、風合いの観点から、4秒以下であることが好ましく、3.5秒以下であることがより好ましく、また、強度の観点から、2秒以上であることが好ましく、2.5秒以上であることがより好ましい。
【0066】
第2熱風の風速は、繊維ウェブの賦形性に影響を与えない範囲で任意に設定することが可能であるが、例えば、強度の観点から、0.5m/秒以上であることが好ましく、0.7m/秒以上であることがより好ましく、また、風合いの観点から、1.5m/秒以下であることが好ましく、1.3m/秒以下であることがより好ましい。
【0067】
例えば、第1繊維層32を構成する繊維ウェブが、芯がPETを、鞘がPEを有する芯鞘繊維であり、第2繊維層34を構成する繊維ウェブが、芯がPPを、鞘がPEを有する芯鞘繊維である場合には、熱処理温度138度以上、熱処理時間1.5秒以下の条件下において第1熱処理工程を行い、その後、熱処理温度138度以下、熱処理時間4秒以下の条件下において第2熱処理工程を行うことが好ましい。
【0068】
以上の製造方法により、繊維の自由度が高い第1繊維層32と、該第1繊維層32よりも繊維の自由度が低い第2繊維層34とを備えるエアスルー不織布30が製造される。
【0069】
本実施形態に係るエアスルー不織布30の製造方法によれば、熱処理時間を従来よりも短く設定することにより、熱融着を弱め、融着点間の平均距離を大きくすることが可能となる。また、単に短時間で熱処理を行うだけでは、不織布の剛性(機械的強度)が弱すぎたり、繊維ウェブが融着せず不織布にならなかったりするおそれがあるが、本実施形態に係るエアスルー不織布30の製造方法では、高温かつ短時間の熱処理を加える第1熱処理工程によって繊維ウェブが融着しない手前まで繊維ウェブに熱を素早く伝え、その後、低温かつ短時間の熱処理を加える第2熱処理工程によって繊維ウェブにゆっくりと熱量を伝えるという2段階の熱処理を実行することにより、熱処理の状態をコントロールすることが可能であるため、このような成形不良を排することが可能となる。そして、以上の製造方法により製造されたエアスルー不織布30は、既述のとおり、従来のエアスルー不織布よりも高い接着強度を発揮可能である。
【0070】
[吸収性物品の製造方法]
以上のようにして得られたエアスルー不織布30は、紙おむつ1の製造ラインに導入され、公知の方法により紙おむつ1が製造される。すなわち、吸収性物品は、以上の製造方法(エアスルー工程)により製造したエアスルー不織布30を被接着部材40に対してホットメルト接着剤により接着することにより(接着工程)、製造される。
【0071】
なお、本実施形態に係る製造方法では、コンベアベルト上に接する側の面(NET面)が第1繊維層32の接着面36となる。また、例えば、本実施形態に係るエアスルー不織布30が吸収性本体10の表面シート12として用いられる場合には、エアスルー不織布30のMD方向が吸収性本体10の長手方向と一致するよう取り付けられ、エアスルー不織布30が腹側帯20a及び背側帯20bの内層シート23としてとして用いられる場合には、エアスルー不織布30のMD方向が腹側帯20a及び背側帯20bの短手方向(長手方向と直交する方向)と一致するよう取り付けられる。
【0072】
本実施形態に係るエアスルー不織布30は、上述のとおり従来のエアスルー不織布よりも高い接着強度を発揮可能であるため、紙おむつ1を製造する際の加工性に優れると共に、紙おむつ1となった後の装着時の形状保持性及び耐久性(壊れ防止性)に優れている。また、本実施形態に係るエアスルー不織布30は、第1繊維層32よりも剛性の高い第2繊維層34を備えており、第1繊維層32のみで構成されるエアスルー不織布と比較して、エアスルー不織布30全体としての剛性(機械的強度)が高いため、紙おむつ1の製造ラインでの搬送性も優れている。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0074】
例えば、上述の実施形態では、吸収性物品としてパンツ型の紙おむつ1を例に挙げて説明したが、本発明の吸収性物品は、このようなパンツ型の紙おむつに限らず、テープ型の紙おむつ、生理用ナプキン、パンティーライナー、尿取りパッドなどの種々の吸収性物品に適用可能である。
【0075】
また、上述の実施形態では、エアスルー不織布30が、第1繊維層32及び第2繊維層34からなる二層構造を有するものとして説明したが、これに限定されず、第1繊維層32のみからなる単層構造としても良いし、第1繊維層32と第2繊維層34との間に他の繊維層が介在配置される三層以上の構造としても良い。
【0076】
上記のような変形例が本発明の範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の吸収性物品の実施例を説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0078】
[実施例1]
芯がPET、鞘がPEである芯鞘原綿(ダイワボウポリテック株式会社製、品名:NBF(SH)W11、繊度:2.0dtex、繊維長さ(平均繊維長):51mm、ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリエチレン(PE)の質量比5:5)を100%用いて、カード法により繊維ウェブを作製した。この繊維ウェブを坪量25g/m2となるよう支持体(開孔ドラム)に載せ、表1の示す通りの条件の第1熱処理工程と第2熱処理工程により融着処理を行い、単層のエアスルー不織布を作製した。
このエアスルー不織布を表面シートとして用いて、市販のベビー用おむつ(商品名「メリーズグッドスキンパンツMサイズ」、PT Kao Indonesia、2018年製)と同様のおむつをおむつ製造装置により製造し、これを実施例1のおむつとした。該表面シートには、ホットメルト接着剤を用いて、スパンボンド不織布からなるエッジシートが被せられていた。ホットメルト接着剤は、「TECHNOMELT DM 5391 ID DISPOMELT(Henkel)」を用いた。
【0079】
[実施例2]
実施例1と同様の芯がPET、鞘がPEである芯鞘原綿を100%用いて、カード法により第1繊維ウェブを作製し、坪量10g/m2となるよう支持体に載せた。
また、芯がPP、鞘がPEである芯鞘原綿(宇部エクシモ株式会社製、品名:HR-EZ、繊度:5.6dtex、繊維長さ(平均繊維長):50mm、ポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)の質量比5:5)を100%用いて、カード法により第2繊維ウェブを作製し、上記第1繊維ウェブの上に載せた。第2繊維ウェブの坪量は、15g/m2であった。
これら第1繊維ウェブ及び第2繊維ウェブからなる積層体に対して、表1の示す通りの条件の第1熱処理工程と第2熱処理工程により融着処理を行い、2層構造のエアスルー不織布を作製した。
このエアスルー不織布を用いて、実施例1と同様に製造したおむつを実施例2のおむつとした。
【0080】
[比較例]
実施例1と同様の繊維ウェブ(坪量25g/m2)を作製し、これを支持体に載せ、表1の示す通りの条件の第1熱処理工程により融着処理を行い、単層のエアスルー不織布を作製した。
このエアスルー不織布を用いて、実施例1と同様に製造したおむつを比較例のおむつとした。
【0081】
実施例及び比較例のエアスルー不織布について、変形部位の断面積、融着点間の平均距離、繊維の主配向方向(MD方向)の坪量1g/m2あたりの引っ張り強度、及び第2繊維層に対する第1繊維層の毛羽立ちを、上述の方法により測定し、また、おむつでの剥離強度を以下の方法により測定した。
【0082】
<おむつでの剥離強度>
おむつから、表面シートであるエアスルー不織布と、表面シートの上に被っているスパンボンド不織布(エッジシート)とを切り出した。これらエアスルー不織布及びスパンボンド不織布の切り出しは、おむつの前後(腹側と背側の計2カ所)において行った。
上述の引張試験機の一方のチャックにエアスルー不織布の端部を取り付けると共に、他方のチャックにスパンボンド不織布の端部を取り付け、これら両チャックを反対方向に相対移動させることで、エアスルー不織布及びスパンボンド不織布を180°剥離させた。エアスルー不織布及びスパンボンド不織布の引張方向は、おむつの長手方向(腹側から背側に向かう方向)とし、引張速度は、5mm/分とした。
ホットメルト接着剤による接着部の剥がれ始めから剥がれ終わりまでの剥離力を測定し、これらの平均値を「おむつでの剥離強度」とした。
【0083】
得られた結果は、以下の表1のとおりである。
【0084】
【0085】
表1に示すように、実施例1及び2のおむつは、比較例のおむつと比較して、エアスルー不織布における繊維の融着点間の平均距離が長く、変形部位の断面積(繊維の自由度)が大きいことが分かる。また、実施例2のおむつは、エアスルー不織布における第1繊維層の繊維の毛羽立ちが第2繊維層の毛羽立ちよりも多く、比較例のおむつと比較して、繊維の主配向方向(MD方向)の坪量1g/m2あたりの引っ張り強度が大きいことが分かる。
そして、このような実施例1及び2のおむつは、比較例のおむつと比較して、おむつでの剥離強度が大きい、すなわち、エアスルー不織布とスパンボンド不織布(他の構成部材)とのホットメルト接着剤による接着強度が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0086】
1 紙おむつ(吸収性物品)
10 吸収性本体
12 表面シート
14 吸収体
20a 腹側帯
20b 背側帯
23 内層シート
24 外層シート
26 弾性部材
28 エッジシート
30 エアスルー不織布
32 第1繊維層
34 第2繊維層
36 接着面
36´ 仮想接着面
37 剥離面
38 変形部位
39 非接着面
40 被接着部材
40´ 粘着テープ
40a 粘着面