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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/14 20060101AFI20231214BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20231214BHJP
【FI】
B66C13/14
H02J50/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019163421
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042015
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都築 伸二
(72)【発明者】
【氏名】西本 昌司
(72)【発明者】
【氏名】木原 瑞希
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193235(JP,A)
【文献】特開平05-015065(JP,A)
【文献】特開平08-098437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66B 1/00- 1/52
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
直流電力を交流電力に変換する送電回路と、
交流電力を前記ワイヤロープに送電する送電部と、
前記ワイヤロープから交流電力を受電する受電部と、
受電した交流電力を直流電力に変換する受電回路と、を備えており
記送電回路と前記受電回路と前記送電部又は前記受電部に隣接して誘導電流が流れる補正回路とのうちの少なくとも前記補正回路にコンデンサを設けて前記電力供給システムにおけるリアクタンス成分を減少させ
記送電部又は前記受電部を含んで構成されるトランスを備え、
前記補正回路に前記トランスを介して誘導電流が流れ、
前記補正回路は、前記補正回路をオンまたはオフする通電スイッチを有する、ことを特徴としたクレーン。
【請求項2】
前記電力供給システムにおける前記ワイヤロープの長さを算出し、
前記ワイヤロープの長さに応じて増加する当該ワイヤロープにおける誘導性リアクタンスを打ち消すように前記コンデンサの静電容量を変化させる、ことを特徴とする請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記コンデンサを複数備え、
前記コンデンサの一つ又は複数を選択して通電状態とすることで前記コンデンサの静電容量を変化させる、ことを特徴とする請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
記ワイヤロープは、前記ワイヤロープが巻き掛けられるトップシーブとフックシーブとの間で閉回路を構成している、ことを特徴とした請求項1~請求項3の何れか一項に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。詳しくは、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できるクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、移動式クレーン、天井クレーン、ガントリークレーン等のクレーンが知られている。クレーンは、ワイヤロープやフック部を備え、荷物を吊り下げた状態でこれを搬送可能としている。
【0003】
ところで、特許文献1には、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給するクレーンが開示されている。かかるクレーンは、ブームの先端部の近傍に設けられた送電部からフック部の近傍に設けられた受電部へ、ワイヤロープを介して交流電力を送電する。しかし、かかるクレーンは、ワイヤロープにおける誘導性リアクタンスが送電効率を悪化させる原因となっていた。特に、大型のクレーンでは、ブームの先端部からフック部までのワイヤロープの長さが増大して、送電効率がより大きく悪化する場合があった。そこで、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できるクレーンが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-193235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できるクレーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
直流電力を交流電力に変換する送電回路と、
交流電力を前記ワイヤロープに送電する送電部と、
前記ワイヤロープから交流電力を受電する受電部と、
受電した交流電力を直流電力に変換する受電回路と、を備えており
記送電回路と前記受電回路と前記送電部又は前記受電部に隣接して誘導電流が流れる補正回路とのうちの少なくとも前記補正回路にコンデンサを設けて前記電力供給システムにおけるリアクタンス成分を減少させ
記送電部又は前記受電部を含んで構成されるトランスを備え、
前記補正回路に前記トランスを介して誘導電流が流れ、
前記補正回路は、前記補正回路をオンまたはオフする通電スイッチを有する、ものである。
【0007】
第二の発明は、第一の発明に係るクレーンにおいて、
前記電力供給システムにおける前記ワイヤロープの長さを算出し、
前記ワイヤロープの長さに応じて増加する当該ワイヤロープにおける誘導性リアクタンスを打ち消すように前記コンデンサの静電容量を変化させる、ものである。
【0008】
第三の発明は、第二の発明に係るクレーンにおいて、
前記コンデンサを複数備え、
前記コンデンサの一つ又は複数を選択して通電状態とすることで前記コンデンサの静電容量を変化させる、ものである。
【0009】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係るクレーンにおいて、
記ワイヤロープは、前記ワイヤロープが巻き掛けられるトップシーブとフックシーブとの間で閉回路を構成している、ものである。
【発明の効果】
【0010】
第一の発明に係るクレーンは、電回路と受電回路と送電部又は受電部に隣接して誘導電流が流れる補正回路とのうちの少なくとも補正回路にコンデンサを設けて電力供給システムにおけるリアクタンス成分を減少させる。かかるクレーンによれば、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。
また、電部又は受電部を含んで構成されるトランスを備え、補正回路にトランスを介して誘導電流が流れる。かかるクレーンによれば、トランスによって補正回路におけるインピーダンスが変換される。従って、静電容量の選択肢が増えるため、最適な静電容量のコンデンサを設けることが容易となる。

【0011】
第二の発明に係るクレーンは、電力供給システムにおけるワイヤロープの長さを算出し、ワイヤロープの長さに応じて増加するワイヤロープにおける誘導性リアクタンスを打ち消すようにコンデンサの静電容量を変化させる。かかるクレーンによれば、ワイヤロープの巻き入れ又は巻き出しによってワイヤロープの長さが変化した場合でも、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。
【0012】
第三の発明に係るクレーンは、コンデンサを複数備え、コンデンサの一つ又は複数を選択して通電状態とすることでコンデンサの静電容量を変化させる。かかるクレーンによれば、コンデンサの組み合わせによって静電容量を細かく且つ広範囲に変化させることができる。従って、ワイヤロープの巻き入れ又は巻き出しによってワイヤロープの長さが変化した場合でも、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】クレーンを示す図。
図2】ブームの先端部を示す図。
図3】クレーンの制御構成を示す図。
図4】クレーンにおける電力供給システムを示す図。
図5】電力供給システムにおける閉回路を示す図。
図6】閉回路における送電部と受電部の配置を示す図。
図7】電力供給システムを構成する各回路を示す図。
図8】閉回路長である電路長とリアクタンス成分、誘導性リアクタンス、容量性リアクタンスとの関係を示す図。
図9】電力供給システムを構成する各回路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願に開示する技術的思想は、以下に説明する実施形態のほか、他の実施形態にも適用できる。
【0016】
まず、図1及び図2を用いて、クレーン1について説明する。なお、本実施形態においては、クレーン1を移動式クレーンとして説明するが、フック部が取り付けられたワイヤロープを備える他種のクレーンに対しても適用できる。例えば、他種のクレーンは、天井クレーンやガントリークレーンである。
【0017】
クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0018】
走行体2は、左右一対の前輪21と後輪22を備えている。また、走行体2は、荷物Wの搬送作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。なお、走行体2は、アクチュエータによって、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている。
【0019】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム31を備えている。そのため、ブーム31は、アクチュエータによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム31は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム31は、アクチュエータによって起伏自在となっている(矢印C参照)。
【0020】
加えて、ブーム31には、ワイヤロープ32が架け渡されている。ブームヘッド33から垂下するワイヤロープ32には、フック部34が取り付けられている。また、ブーム31の基端側近傍には、ウインチ35が設けられている。ウインチ35は、アクチュエータと一体的に構成されており、ワイヤロープ32の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック部34は、昇降自在となっている(矢印D参照)。
【0021】
ブームヘッド33には、トップシーブ37が設けられている。また、フック部34には、フックシーブ38が設けられている。トップシーブ37とフックシーブ38には、ワイヤロープ32が巻き掛けられている(図2参照)。
【0022】
加えて、ブームヘッド33には、過巻防止装置39が取り付けられている。過巻防止装置39は、ブームヘッド33に吊られる過巻ウエイト40を有する。過巻ウエイト40は、中空の円筒形であって、その中空部分にワイヤロープ32が通されている。ワイヤロープ32の巻き入れにより、フック部34が過巻ウエイト40に当接すると、ワイヤ41がゆるんで過巻スイッチ42がオンとなる。過巻スイッチ42がオンになるとワイヤロープ32の巻き入れが自動的に停止する。
【0023】
次に、図3を用いて、クレーン1の制御構成について説明する。
【0024】
クレーン1は、コントローラ4を備えている。コントローラ4には、各種操作具51~54が接続されている。また、コントローラ4には、各種バルブ61~64が接続されている。更に、コントローラ4には、各種センサ81~84が接続されている。
【0025】
上述したように、ブーム31は、アクチュエータによって旋回自在となっている(図1における矢印A参照)。本願においては、かかるアクチュエータを旋回用油圧モータ71(図1参照)と定義する。旋回用油圧モータ71は、方向制御弁である旋回用バルブ61によって適宜に稼動される。つまり、旋回用油圧モータ71は、旋回用バルブ61が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ61は、オペレータによる旋回操作具51の操作に基づいて稼動される。また、ブーム31の旋回角度は、旋回用センサ81によって検出される。そのため、コントローラ4は、ブーム31の旋回角度を認識することができる。
【0026】
また、上述したように、ブーム31は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(図1における矢印B参照)。本願においては、かかるアクチュエータを伸縮用油圧シリンダ72(図1参照)と定義する。伸縮用油圧シリンダ72は、方向制御弁である伸縮用バルブ62によって適宜に稼動される。つまり、伸縮用油圧シリンダ72は、伸縮用バルブ62が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ62は、オペレータによる伸縮操作具52の操作に基づいて稼動される。また、ブーム31の伸縮長さは、伸縮用センサ82によって検出される。そのため、コントローラ4は、ブーム31の伸縮長さ(以降、「ブーム長L」(図1参照)とする)を認識することができる。
【0027】
更に、上述したように、ブーム31は、アクチュエータによって起伏自在となっている(図1における矢印C参照)。本願においては、かかるアクチュエータを起伏用油圧シリンダ73(図1参照)と定義する。起伏用油圧シリンダ73は、方向制御弁である起伏用バルブ63によって適宜に稼動される。つまり、起伏用油圧シリンダ73は、起伏用バルブ63が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ63は、オペレータによる起伏操作具53の操作に基づいて稼動される。また、ブーム31の起伏角度は、起伏用センサ83によって検出される。そのため、コントローラ4は、ブーム31の起伏角度を認識することができる。
【0028】
加えて、上述したように、フック部34は、アクチュエータによって昇降自在となっている(図1における矢印D参照)。本願においては、かかるアクチュエータを巻回用油圧モータ74(図1参照)と定義する。巻回用油圧モータ74は、方向制御弁である巻回用バルブ64によって適宜に稼動される。つまり、巻回用油圧モータ74は、巻回用バルブ64が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ64は、オペレータによる巻回操作具54の操作に基づいて稼動される。また、ワイヤロープ32の巻出長さは、巻回用センサ84によって検出される。そのため、コントローラ4は、ワイヤロープ32の巻出長さ(以降、「ワイヤ長」(図示せず)とする)を認識することができる。
【0029】
次に、図4から図6を用いて、クレーン1が備える電力供給システム90について説明する。電力供給システム90は、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給するものである。なお、ここではフック部34に電気機器97が設けられているものとする。電気機器97は、例えばカメラ、センサ類、IMU等である。
【0030】
電力供給システム90は、ワイヤロープ32のほか、バッテリ91、送電回路92、送電部93、受電部95、受電回路96を備えている。
【0031】
上述したように導電体であるワイヤロープ32は、トップシーブ37とフックシーブ38に巻き掛けられており、電気的に一つの閉回路を構成している。本願においては、かかる閉回路を電路94と表す。
【0032】
電路94について具体的に説明すると、ワイヤロープ32は、シーブピン44に挿通される複数のトップシーブ37とシーブピン45に挿通される複数のフックシーブ38に複数回巻き掛けられる(図6では6本掛け)。このような構成の場合、ワイヤロープ32が索端102、ブーム31、ウインチ35を経由して閉回路を構成している。
【0033】
バッテリ91は、電力供給システム90の電源となるものである。バッテリ91は、旋回体3(図1参照)に備わる電源装置である。バッテリ91は、送電回路92と接続されており、送電回路92へ直流電力を送電する。
【0034】
送電回路92は、直流電力を交流電力に変換するものである。送電回路92は、ブームヘッド33に設けられている。送電回路92は、送電部93と接続されており、交流電力を送電部93に送電する。
【0035】
送電部93は、交流電力をワイヤロープ32に送電するものである。送電部93は、ブームヘッド33の近傍に設けられている。送電部93は、ワイヤロープ32が通されたトランス98のコアに巻き付いたコイル部分を指す。なお、過巻ウエイト40(図2参照)は、トランス98のコアとして利用可能である。
【0036】
受電部95は、ワイヤロープ32から交流電力を受電するものである。受電部95は、フック部34の近傍に設けられている。受電部95は、ワイヤロープ32が通されたトランス99のコアに巻き付いたコイル部分を指す。受電部95は、受電回路96と接続されており、受電した交流電力を受電回路96に送電する。
【0037】
受電回路96は、交流電力を直流電力に変換するものである。受電回路96は、フック部34に設けられている。受電回路96は、フック部34に備わる電気機器97と接続され、直流電力を電気機器97に送電する。
【0038】
送電部93と受電部95は、同じ巻回数のワイヤロープ32上に設けられている(図6参照)。言い換えれば、送電部93と受電部95は、トップシーブ37からフックシーブ38まで架け渡されたワイヤロープ32上に設けられる。このように、送電部93から受電部95までの間にトップシーブ37或いはフックシーブ38が介在しないように設けられることで、送電ロスを少なくし、送電効率を向上することが可能となる。
【0039】
次に、図7及び図8を用いて、電力供給システム90について詳しく説明する。なお、図7では、直流電力から交流電力への変換、及び交流電力から直流電力への変換を省略している。
【0040】
電力供給システム90には、コンデンサ100が設けられている。コンデンサ100は、電力供給システム90におけるリアクタンス成分を減少させるものである。コンデンサ100は、送電回路92と受電回路96とのうちの少なくとも一つに設けられる。或いは、コンデンサ100は、送電回路92と受電回路96と後述する補正回路104・105(図9参照)とのうちの少なくとも一つに設けられる。
【0041】
なお、コンデンサ100は、送電回路92に設けられる場合と受電回路96に設けられる場合では、電気的に等価である。そのため、以下においては、主として送電回路92にコンデンサ100が設けられる場合について記載する。
【0042】
送電回路92には、一つのコンデンサ100が設けられている(図7の(A)参照)。但し、複数のコンデンサ100が並列に設けられるとしてもよい(図7の(B)参照)。複数のコンデンサ100が並列に設けられる場合は、コンデンサ100に対してそれぞれ直列に通電スイッチ101が接続される。コントローラ4は、通電スイッチ101のオンオフを切り換えることにより、コンデンサ100の一つ又は複数を選択して通電状態とすることができる。これにより、コンデンサ100の合計の静電容量を変化させることができる。なお、一つ又は複数のコンデンサ100を選択して通電状態とすることで静電容量を変化させるものではなく、バリアブルコンデンサ等の可変コンデンサを用いて静電容量を変化させてもよい。
【0043】
次に、電路94の長さ(以降、「電路長Lloop」とする)に応じたコンデンサ100の通電状態の制御ついて説明する。以下では、ワイヤロープ32を電路94として説明するが、厳密に言えば、トップシーブ37(図6参照)、フックシーブ38(図6参照)、トランス98・99、ウインチ35、索端102(図6参照)等の要素によって電路94が構成される。
【0044】
電路長Lloopは、ワイヤ長x、ブーム長L、ワイヤロープ32の掛け数N(以降、「掛け数N」とする)を用いた下記の数1に基づいて算出される。ワイヤ長xは、巻回用センサ84(図3参照)によって検出される。ブーム長Lは、伸縮用センサ82(図3参照)によって検出される。掛け数Nは、ブーム31の先端部とフック部34の間にあるワイヤロープ32の本数である(図6ではN=6)。
【数1】
【0045】
数1においては、ワイヤ長xからブーム長Lを引くことで、ブーム31の先端部とフック部34の間で往復するワイヤロープ32の長さとしている。また、このワイヤロープ32の長さを掛け数Nで割ることで、ブーム31の先端部とフック部34の間の距離としている。そして、このブーム31の先端部とフック部34の間の距離を2倍することで、電路94の長さである電路長Lloopが算出される。
【0046】
交流電力の周波数ω(以降、「周波数ω」とする)が低い場合では、並列抵抗分を無視できる。そのため、通電スイッチ103をオフにしたときのワイヤロープ32におけるインピーダンスZchは、直列抵抗分R、周波数ω、インダクタンスL、静電容量Cを用いた下記の数2によって近似できる。
【数2】
【0047】
インダクタンスLは、電路長Lloopが長くなるに応じてトランス98・99のインダクタンスを無視できるとすれば、電路長Lloopを用いた下記の数3によって簡略化できる。
【数3】
【0048】
ところで、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給するにあたり、インピーダンスZchの虚部により送電効率が悪化する。そのため、コンデンサ100によって送電効率の悪化を防止するには、周波数ω、インダクタンスL、ワイヤロープ32における静電容量C、コンデンサ100の静電容量Cs0を用いた下記の数4の関係が成り立てばよい。なお、数4は、ワイヤロープ32における誘導性リアクタンスをコンデンサ100の容量性リアクタンスで打ち消すことを表している。
【数4】
【0049】
周波数ωが低い帯域ではC<<1と近似できるので、コンデンサ100の静電容量Cs0は、周波数ω、インダクタンスLを用いた下記の数5に基づいて算出される。
【数5】
【0050】
コントローラ4は、電路長Lloopを数1に基づいて算出し、インダクタンスLを数3に基づいて算出し、コンデンサ100の静電容量Cs0を数5に基づいて算出する。その後、コントローラ4は、コンデンサ100の静電容量Cs0を目標値として、通電スイッチ101のオンオフを切り替える。これにより、コントローラ4は、電力供給システム90におけるリアクタンス成分を一定範囲内に収めることができ、ひいては、交流電力の減衰を抑制することができるのである。
【0051】
例えば、静電容量Cs0がC1、C2、C3であり、容量性リアクタンスがXc1、Xc2、Xc3であるコンデンサ100がそれぞれ設けられている場合について説明する。
【0052】
図8に示すように、ワイヤロープ32における誘導性リアクタンスは、電路長Lloopに応じて直線Laに示すように増加している。コントローラ4は、電力供給システム90におけるリアクタンス成分を一定範囲内に収めるように、コンデンサ100を選択して通電状態とする。
【0053】
具体的には、コントローラ4は、電路長LloopがL1からL2までの間で、静電容量Cs0がC1のコンデンサ100を選択して通電状態とする。これにより、電力供給システム90におけるリアクタンス成分は、直線Lb1に示すように抑制される。また、コントローラ4は、電路長LloopがL2からL3までの間で、静電容量Cs0がC2のコンデンサ100を選択して通電状態とする。これにより、電力供給システム90におけるリアクタンス成分は、直線Lb2に示すように抑制される。また、コントローラ4は、電路長LloopがL3からL4までの間で、静電容量Cs0がC3のコンデンサ100を選択して通電状態とする。これにより、電力供給システム90におけるリアクタンス成分が直線Lb3に示すように抑制される。
【0054】
以上のように、本クレーン1は、送電回路92と受電回路96とのうちの少なくとも一つにコンデンサ100を設けて電力供給システム90におけるリアクタンス成分を減少させる、或いは、送電回路92と受電回路96と送電部93又は受電部95に隣接して誘導電流が流れる補正回路104・105とのうちの少なくとも一つにコンデンサ100を設けて電力供給システム90におけるリアクタンス成分を減少させる。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。
【0055】
また、本クレーン1によれば、電力供給システム90におけるワイヤロープ32の長さ(電路長Lloop)を算出し、ワイヤロープ32の長さ(電路長Lloop)に応じて増加するワイヤロープ32における誘導性リアクタンスを打ち消すようにコンデンサ100の静電容量Cs0を変化させる。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ32の巻き入れ又は巻き出しによってワイヤロープ32の長さが変化した場合でも、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。
【0056】
また、本クレーン1によれば、コンデンサ100を複数備え、コンデンサ100の一つ又は複数を選択して通電状態とすることでコンデンサ100の静電容量Cs0を変化させる。かかるクレーン1によれば、コンデンサ100の組み合わせによってコンデンサ100の静電容量Cs0を細かく且つ広範囲に変化させることができる。従って、ワイヤロープ32の巻き入れ又は巻き出しによってワイヤロープ32の長さが変化した場合でも、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給する際の送電効率の悪化を防止できる。加えて、バリアブルコンデンサ等の可変コンデンサを用いることなく、コンデンサ100の静電容量Cs0を変化させることができる。従って、可変コンデンサが有する可動部材を必要としないため、コンデンサ100の大型化を防止できる。
【0057】
なお、電路94がブーム31に架け渡されたウインチ35を含んで閉回路を構成する場合、電路長Lloopは、数1ではなく、ワイヤ長x、ブーム長Lを用いた下記の数6に基づいて算出される。
【数6】
【0058】
最後に、電気機器97(図4参照)に対して制御信号を送信する場合は、送電回路92によって直流電力を給電し、制御信号を変調して交流電力に重畳することで、ブーム31の先端部からフック部34へデータ通信を行うことも可能である。
【0059】
また、電気機器97(図4参照)から検出信号を送信する場合は、受電回路96によって直流電力を給電し、検出信号を変調して交流電力に重畳することで、フック部34からブーム31の先端部へデータ通信を行うことも可能である。
【0060】
このように、信号を交流電力に重畳することで、ブーム31の先端部とフック部34の間のデータ通信に応用することが可能である。
【0061】
次に、図9を用いて、他の実施形態に係るクレーン1について説明する。ここでは、異なる部分に着目して説明する。
【0062】
電力供給システム90は、コンデンサ100が設けられた補正回路104又は補正回路105を備えている。電力供給システム90は、補正回路104を備える場合、送電部93を含んで構成されるトランス98を備える。電力供給システム90は、補正回路105を備える場合、受電部95を含んで構成されるトランス99を備える。
【0063】
補正回路104は、トランス98を介して誘導電流が流れるものである。補正回路104は、送電部93に隣接して設けられる(図9の(A)参照)。
【0064】
補正回路105は、トランス99を介して誘導電流が流れるものである。補正回路105は、受電部95に隣接して設けられる(図9の(B)参照)。
【0065】
トランス98は、フェライト等のコア98aと、コア98aに巻き付けられた送電回路92側の一次コイル98b(送電部93)と、コア98aに巻き付けられた補正回路104側の二次コイル98cを有する。トランス98の巻数比は、任意に設定可能である。
【0066】
トランス99は、フェライト等のコア99aと、コア99aに巻き付けられた受電回路96側の一次コイル99b(受電部95)と、コア99aに巻き付けられた補正回路105側の二次コイル99cを有する。トランス99の巻数比は、任意に設定可能である。
【0067】
次に、トランス98・99の巻数比とコンデンサ100の静電容量の関係について説明する。
【0068】
なお、補正回路104にコンデンサ100が設けられる場合と補正回路105にコンデンサ100が設けられる場合では、トランス98・99の巻数比とコンデンサ100の静電容量の関係が同様となる。そのため、以下においては、主として補正回路104にコンデンサ100が設けられる場合について記載する。
【0069】
通電スイッチ106をオンにした場合、ワイヤロープ32における誘導性リアクタンスを打ち消すためのコンデンサ100の容量性リアクタンスXは、周波数ω、コンデンサ100の静電容量Cs0を用いた数7によって示される。ここで、コンデンサ100の静電容量Cs0は、送電回路92にコンデンサ100が設けられているとした場合の静電容量である。
【数7】
【0070】
トランス98のインピーダンス変換比は巻線比の二乗に比例するため、コンデンサ100の容量性リアクタンスX、一次コイル98bの巻数N、二次コイル98cの巻数N、周波数ω、コンデンサ100の静電容量CS1を用いた下記の数8が成り立つ。
【数8】
【0071】
コンデンサ100の静電容量CS1は、数8を整理することで、周波数ω、容量性リアクタンスX、一次コイル98bの巻数N、二次コイル98cの巻数N、コンデンサ100の静電容量Cs0、インダクタンスLを用いた下記の数9によって示される。
【数9】
【0072】
例えば、二次コイル98cの巻数Nを一次コイル98bの巻数Nよりも大きく設定することで、送電回路92にコンデンサ100が設けられる場合よりも小容量のコンデンサ100を用いることができる。つまり、トランス98の巻数比の設定によって、送電部93にコンデンサ100が設けられる場合よりも、小容量又は大容量のコンデンサ100を設けることができる。
【0073】
以上のように、本クレーン1は、コンデンサ100が設けられた補正回路104を備える場合、送電部93を含んで構成されるトランス98を備え、補正回路104にトランス98を介して誘導電流が流れる。また、コンデンサ100が設けられた補正回路105を備える場合、受電部95を含んで構成されるトランス99を備え、補正回路105にトランス99を介して誘導電流が流れる。かかるクレーン1によれば、トランス98によって補正回路104におけるインピーダンスが変換される。また、トランス99によって補正回路105におけるインピーダンスが変換される。従って、静電容量CS1の選択肢が増えるため、最適な静電容量CS1のコンデンサ100を設けることが容易となる。
【0074】
具体的には、トランス98・99の巻数比の設定によって、送電部93又は受電部95にコンデンサ100が設けられる場合よりも小容量のコンデンサ100を用いることができる。小容量のコンデンサ100は、大容量のコンデンサ100よりも低コストであるとともに、様々な静電容量のものが提供されている。従って、静電容量CS1の選択肢が増えるため、最適な静電容量CS1のコンデンサ100を設けることが容易となる。
【0075】
以上、ワイヤロープ32を介してフック部34へ電力を供給する構成について説明したが、スチールワイヤを介してアウトリガ23のジャッキ部へ電力を供給する構成にも本願の技術的思想を適用できる。具体的には、アウトリガ23の長さ検出用コードリールをスチールワイヤとした場合(電線を這わせるには環境性能や耐久性に問題がある場合)等に、コンデンサにより送電効率の悪化を防止して、スチールワイヤを介してアウトリガ23のジャッキ部へ電力を供給できる。
【符号の説明】
【0076】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
32 ワイヤロープ
34 フック部
90 電力供給システム
92 送電回路
93 送電部
95 受電部
96 受電回路
98 トランス
99 トランス
100 コンデンサ
104 補正回路
105 補正回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9