(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(SP-ICP-MS)を用いたナノ粒子の自動検出
(51)【国際特許分類】
H01J 49/26 20060101AFI20231214BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231214BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01J49/26
G01N27/62 D
G01N15/02 D
H01J49/10 500
H01J49/04 500
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019189883
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-06-09
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】板垣 隆之
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ウィルバー
(72)【発明者】
【氏名】山中 理子
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0235833(US,A1)
【文献】特開2017-015676(JP,A)
【文献】Jani Tuoriniemi et al.,Size Discrimination and Detection Capabilities of Single-Particle ICPMS for Environmental Analysis of Silver Nanoparticles,Analytical Chemistry,2012年,Vol.84,pp.3965-3972
【文献】Michiko Yamanaka, Takayuki Itagaki and Steve Wibur,Agilent 8900 ICP-QQQによるMS/MSモードでのSiO2ナノ粒子の高感度分析,アプリケーションノート,アジレント・テクノロジー株式会社,2016年
【文献】Geert Cornelis et al.,A signal deconvolution method to discriminate smaller nanoparticles in single particle ICP-MS,Journal of Analytical Atomic Spectrometry,2014年,Vol.29,pp.134-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
G01N 27/62
G01N 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により、試料中のナノ粒子を分析するための方法であって、
ICP-MSシステムのイオン検出器により測定された時間の関数としてのイオン信号強度に対応する未処理試料データを取得するために、前記ICP-MSシステムにおいて試料を処理し、
複数のデータ点に対応する前記未処理試料データの信号分布を求め、各データ点は、イオン信号強度、及び前記イオン検出器が前記イオン信号強度を測定した頻度に対応し、
前記信号分布のイオン信号部分と前記信号分布の粒子信号部分との交点として粒子検出閾値を求めることを含み、
前記粒子信号部分は、試料中のナノ粒子の測定値に対応し、前記イオン信号部分は、試料中のナノ粒子以外の成分の測定値に対応し、前記粒子検出閾値は、前記粒子信号部分を前記イオン信号部分から分離
し、
前記粒子検出閾値を求めることは、
前記信号分布の複数のデータ点に関して、指数関数を用いて、前記イオン信号部分を近似する複数の近似曲線を計算し、
前記近似曲線内のデータ点の判定の係数を計算し、
前記判定の係数のうちのどれが最大の相関であるかを求め、
前記粒子検出閾値であるべき前記最大の相関に対応するデータ点を求めることを含む、方法。
【請求項2】
前記粒子検出閾値を求めた後、前記粒子信号部分に基づいてナノ粒子データを求めることを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子データを求めることは、質量スペクトルを求めること、粒子数濃度を求めること、元素組成を求めること、粒子サイズを求めること、粒子サイズ分布を求めること、及び上記の2つ又は3つ以上の組み合わせからなるグループから選択される、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料を処理することは、誘導結合プラズマに試料をさらすことによりイオンを生成し、前記イオンの少なくとも幾つかを質量分析器へ送り、前記イオンの少なくとも幾つかを前記質量分析器から前記イオン検出器へ送ることを含む、請求項1
~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料を処理することは、トーチ・ボックス内に前記誘導結合プラズマを生成し、干渉を抑制するために前記イオンを前記トーチ・ボックスからコリジョン/リアクションセルへ送り、前記イオンの少なくとも幾つかを前記コリジョン/リアクションセルから前記質量分析器へ送ることを含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を処理することは、ネブライザ又はスプレーチャンバからイオン源へ試料を流すことを含む、請求項1
~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により、試料中のナノ粒子を分析するための誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、
プラズマを生成し、前記プラズマ中の試料からイオンを発生するように構成されたトーチ・ボックスと、
質量対電荷比に従って前記イオンを分離するように構成された質量分析器と、
前記質量分析器から受け取ったイオンを計数するように構成されたイオン検出器と、
電子プロセッサ及びメモリを含み、請求項1
~6の何れか1項に記載の方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む、ICP-MSシステム。
【請求項8】
前記トーチ・ボックスと前記質量分析器との間に配置され、干渉を抑制するように構成されたコリジョン/リアクションセルを含む、請求項
7に記載のICP-MSシステム。
【請求項9】
内部に格納された命令を含み、その命令は、プロセッサで実行された際に、請求項1
~6の何れか1項に記載された方法のステップを制御または実施する、持続性コンピュータ可読媒体。
【請求項10】
請求項9に記載された
前記持続性コンピュータ可読媒体を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年10月26日に出願され、「AUTOMATED DETECTION OF NANOPARTICLES USING SINGLE-PARTICLE INDUCTIVELYCOUPLED PLASMA MASS SPECTROMETRY (SP-ICP-MS)」と題する米国仮特許出願第62/751259号の35 U.S.C. §119 (e)の下で恩典を請求しており、当該米国仮特許出願の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は概して、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)に関し、特に単一粒子ICP-MS(spICP-MS)による粒子(例えば、ナノ粒子)の検出に関する。
【背景技術】
【0003】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は、試料中の微量金属の濃度を測定するような、試料の元素分析のために利用されることが多い。ICP-MSシステムは、試料の分子を原子へ分解し、次いで元素分析に備えて原子をイオン化するためのプラズマを生成するプラズマベースのイオン源を含む。一般的な動作において、液体試料は、ネブライザ(一般にニューマティック支援型からなる)により霧状にされ、即ちエアロゾル(微細な噴霧またはミスト)に変換され、エアロゾル化した試料がプラズマ源により生成されたプラズマプルームへ送られる。プラズマ源は、2つ以上の同心管を有する流入(flow-through:フロースルー)プラズマトーチとして構成される。一般に、アルゴンのようなプラズマ形成ガスがトーチの外管を流れ、適切なエネルギー源(一般に、無線周波数(RF)をエネルギー源とする負荷コイル)によりプラズマへ付勢される。エアロゾル化した試料は、トーチの同軸中心管(又はキャピラリ)を流れて、生成されたままのプラズマへ放出される。プラズマにさらされることにより、試料の分子は原子へ分解され、又は代案として試料の分子は部分的に分子断片へ分解され、原子または分子断片がイオン化される。
【0004】
一般に正に帯電された結果としての検査対象イオンは、プラズマ源から抽出され、イオンビームとして質量分析器へ送られる。質量分析器は、それらの質量対電荷(m/z)比に基づいて異なる質量のイオンをスペクトル的(分光的)に分解するために、時間的に変化する電場、又は電場と磁場の組み合わせを印加し、イオン検出器が、質量分析器からイオン検出器に到着する所与のm/z比の各タイプのイオンをカウントすることが可能になる。代案として、質量分析器は、飛行管の中を通って押し流されるイオンの飛行時間を測定し、それからm/z値が導出され得る飛行時間型(TOF)分析器であることができる。次いで、ICP-MSシステムは、質量(m/z)のピークのスペクトルとして取得されたようにデータを提示する。各ピークの強度は、試料の対応する元素の濃度(存在度)を示す。
【0005】
ナノ技術における進歩は、工業製品、薬、消費者製品(例えば、化粧品、日焼け止め剤、食品、半導体など)、環境工学などのような、広い階層の産業に大きな影響を与えると予想される。従って、ナノ粒子(NPs)の測定は、環境におけるNPsの巡り合わせ、及び体内に吸収された時点での有毒作用の可能性が未だに良く理解されていないので、注目の的である。
【0006】
ICP-MSは、技術的に呼ばれる単一粒子ICP-MS(spICP-MS又はSP-ICP-MS)を実現することにより、試料溶液中に存在する個々のナノ粒子(NPs)を検出および測定するために利用され得る。この手法は、高速データ取得により及び必要とされる試料調製がほとんどない状態で、粒子数濃度、粒子の元素組成、並びに粒子のサイズ及びサイズ分布の同時測定を可能にする。spICP-MSにおいて、関心のある被検物質は、試料溶液に懸濁されると知られている又は思われている固体NPsである。懸濁されたNPsは、溶解されたNPsを含む試料溶液中で見出される他の種と区別されなければならない。spICP-MSにおいて、NPs以外の種は、バックグラウンド種であるとみなされる。試料がICP-MSイオン源においてイオン化される際、イオンバースト(又はイオンパルス)が、試料中のNPsから生じる。イオン検出器により測定されるこれらイオンバーストのピーク強度は、イオン化されたバックグラウンド種の測定によって生じるバックグラウンド信号の強度より高い。NPsの検出(測定)に対応する「粒子信号」がspICP-MSにおける関心のある信号であるので、バックグラウンド信号(spICP-MSにおいて「イオン信号」と呼ばれることが多い)は、ノイズであるとみなされる。従って、試料のNPsを正確に測定するために、粒子信号は、バックグラウンド信号、又はイオン信号と区別する必要がある。
【0007】
粒子信号は、イオン検出器の出力から得られた未処理時間走査(イオン信号強度対時間)データに対して適切なアルゴリズムを実行するように、ICP-MSシステムの信号処理部分またはデータ分析部分を構成することにより、イオン信号と区別され得る。1つの既知の手法は、Mitrano他著、「Detecting Nanoparticulate Silver Using Single-particle InductivelyCoupled Plasma-Mass Spectrometry」、Environmental Toxicology and Chemistry、 Vol.31、 No.1、115頁~121頁、2012年に説明されている。この手法において、反復アルゴリズムが、未処理データにおいて粒子信号をイオン信号と区別すると考えられる限界値を計算するために採用されている。ここで、限界値は、反復3*σ(「3倍のσ」)により定義され、この場合、σは、未処理データの信号強度の標準偏差である。I-+3*σを超えるデータ点(ここで、I-は未処理データの平均信号強度である)は、ナノ粒子信号であるとみなされ、データセットから取り除かれる。値I-+3*σは、再び残りのデータセットから計算され、I-+3*σを超える追加のデータ点が取り除かれる。反復は、更なるデータ点が取り除かれることができなくなるまで繰り返される。このように、より高い強度ピークが、下に横たわるバックグラウンド・ノイズから分離され、分析中の試料に含有されるNPsに対応するイオンパルスとして識別され得る。このアルゴリズムを実施する一例として、Mitrano他著の文献に添付の捕捉情報は、固体の銀(Ag)のNPsを含有する試料に対してspICP-MSによるデータ取得の結果を表す時間走査データ(測定されたイオン信号強度対時間)のプロットを含む。反復3*σプロセスにより計算された限界値は、水平時間軸に平行な線として示される。限界値を上回るイオン信号のスパイクは、ナノ粒子信号として識別されるが、限界値を下回るイオン信号の残りの部分は、バックグラウンド・イオン信号として識別される。
【0008】
今説明したばかりの従来のアルゴリズムは、3*σを排他的に用いる代わりに、変数n*σを用いることにより生成されることができ、値nは、分析者により、様々な元素および様々な試料に対して変更され得る。しかしながら、n*σの選択は、分析に関する臨界パラメータである。言い換えれば、nの値を変更することは、最終結果に著しい影響を与える可能性がある。
【0009】
従来のアルゴリズムは、幾つかの試料に対して十分に機能することができるが、標準材料試料においてさえも、又は異なるバイアルに供給された同じ試料でさえも、粒子検出の限界値に関して異なる値という結果になることが多い。限界値に関して間違って計算された値は、ICP-MSによって試料から取得されたデータの不正確な計算および分析につながる可能性がある。例えば、粒子濃度および粒子サイズのような特定の粒子データの計算は、噴霧効率に依存し、それはICP-MSシステムの試料導入システムの効率の成分である。噴霧効率は、試料中のNPsの一部分(例えば、10%未満)のみがICP-MSシステムにより実際に検出され、且つICP-MSシステムにおける既知の粒子サイズを有するNPsを含有する標準(基準)物質を分析することにより求められ得るという事実を考慮する。標準物質の限界値が間違って計算される場合、噴霧効率が正確に求められることができないので、未知の試料の結果も失敗する。
【0010】
従って、粒子をバックグラウンド・ノイズと区別する際に効果的であるspICP-MS技術が必要であり続けている。更に、改善された精度でもって粒子を検出および測定することができるspICP-MS技術が望ましい。
【発明の概要】
【0011】
全体的に又は部分的に、上記の問題、及び/又は当業者により認められる得る他の問題に対処するために、本開示は、以下に記載された具現化形態の一例として説明されるような、方法、プロセス、システム、装置、機器、及び/又はデバイスを提供する。
【0012】
一実施形態に従って、単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により、試料中のナノ粒子を分析するための方法は:ICP-MSシステムのイオン検出器により測定された時間の関数としてのイオン信号強度に対応する未処理試料データを取得するために、前記ICP-MSシステムにおいて試料を処理し;複数のデータ点に対応する前記未処理試料データの信号分布を求め、各データ点は、イオン信号強度、及び前記イオン検出器が前記イオン信号強度を測定した頻度に対応し;前記信号分布のイオン信号部分と前記信号分布の粒子信号部分との交点として粒子検出閾値を求めることを含み、前記粒子信号部分は、試料中のナノ粒子の測定値に対応し、前記イオン信号部分は、試料中のナノ粒子以外の成分の測定値に対応し、前記粒子検出閾値は、前記粒子信号部分を前記イオン信号部分から分離する。
【0013】
別の実施形態に従って、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムは:プラズマを生成し、前記プラズマ中の試料からイオンを発生するように構成されたトーチ・ボックスと;質量対電荷比に従って前記イオンを分離するように構成された質量分析器と;前記質量分析器から受け取ったイオンを計数するように構成されたイオン検出器と、;電子プロセッサ及びメモリを含み、本明細書に開示された何れかの方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む。
【0014】
本発明の他のデバイス、装置、システム、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明を考察する際に当業者に明らかである又は明らかになるであろう。係る全ての追加のシステム、方法、特徴および利点は本説明内に含まれること、本発明の範囲内にあること、及び添付の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【0015】
本発明は以下の図面を参照することによってより良く理解され得る。図面の構成要素は必ずしも一律の縮尺に従っておらず、むしろ本発明の原理を示すことに重点が置かれている。図面において、同様の参照符号は、異なる図の全体にわたって対応する部品を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムの一例の略図である。
【
図2】試料中のナノ粒子(NPs)を検出するために単一粒子モードICP-MS(spICP-MS)で動作する際に、ICP-MSシステムにより生成され得る未処理試料データのプロット(時間スケールデータ)の一例である。
【
図3A】60nmの金(Au)ナノ粒子(NIST8013)のみを50ppt含有する標準溶液から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットの一例であり、この場合、計算は、粒子データとイオンデータを区別するための不正確な閾値(限界値)に基づいている。
【
図3B】
図3Aに関する同じ未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、計算は、本開示の方法に従って求められた正確な閾値に基づいている。
【
図4】ナノ粒子を含有する試料を分析することによってもたらされる信号分布の一例のプロットである。
【
図5A】未処理信号を積分する前に、ナノ粒子のないイオン溶液を分析することによってもたらされる信号分布の一例のプロットである。
【
図5B】未処理信号を積分した後の、
図5Aに示されたものと同じ分析に関係する信号分布の一例のプロットである。
【
図6A】シリコン(Si)イオンブランク溶液に関して得られた信号分布の一例のプロットである。
【
図6B】Siイオン標準溶液1.0ppbに関して得られた信号分布の一例のプロットである。
【
図7】本開示の一実施形態による、粒子検出閾値を求めるための方法の一例を示す流れ図である。
【
図8】本開示の一実施形態による、単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により試料中のナノ粒子を分析するための方法の一例を示す流れ図である。
【
図9】本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、5つの試料の流れにおいてspICP-MSにより、NIST8012(Au 30nm)の5ppt粒子を含有する標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表1)である。
【
図10】本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、5つの試料の流れにおいてspICP-MSにより、NIST8013(Au 60nm)の50ppt粒子を含有する標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表2)である。
【
図11】本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、spICP-MSにより、それぞれが100nmのAgNPsを含有するが異なるイオン濃度を有する幾つかの標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表3)である。
【
図12A】NIST8011(Au 10nm)の0.25ppt粒子を含有する試料溶液のspICP-MS分析から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、粒子信号をイオン信号から分離するために従来のアルゴリズムが利用された。
【
図12B】
図12Aに関連している同じ未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであるが、この場合、本明細書で開示された方法が粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
【
図13A】NIST8011、8012、及び8013AuNPs(10nm:0.08ppt、30nm:1.7ppt、及び60nm:17ppt)の混合物を含有する試料溶液のspICP-MS分析から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、本明細書に開示された方法が、粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
【
図13B】NIST8011、8012、及び8013AuNPs(10nm:0.1ppt、30nm:2ppt、及び60nm:30ppt)の別の混合物を含有する試料溶液のspICP-MS分析から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、本明細書に開示された方法が、粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
【
図14】本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、異なる濃度(1ppt、2ppt、5ppt、10ppt、20ppt、50ppt、及び100ppt)で20nmのAgNPsを含有する標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表4)である。
【
図15A】
図14(表4)に示されたデータに基づいた濃度(pptの粒子濃度の関数として計算された粒子の数)のプロットであり、この場合、従来のアルゴリズムが、粒子信号をイオン信号から分離するために利用された。
【
図15B】
図15Aに関連している同じデータに基づいた濃度のプロットであるが、この場合、本明細書に開示された方法が、粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
【
図16】本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、超純水(UPW)、ブランク溶液、及び異なる濃度を有する幾つかのAuイオン試料の分析からの粒子の計算された数を比較する表(表5)である。
【
図17】
図1に示されたICP-MSシステムのような分光分析システムの一部であることができる又は当該分光分析システムと通信することができるシステム・コントローラ(又はコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)の一例の略図である。
【0017】
詳細な説明
図1は、一実施形態による、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システム100の一例の略図である。一般に、ICP-MSシステムの様々な構成要素の構造および動作は、当業者に知られており、従って、開示されている主題を理解するための必要性に応じて、本明細書で簡潔に説明されるだけである。しかし、ICP-MSシステム100は、本明細書で説明される何れかの方法を実施するのに適したICP-MSシステムの一例である。本明細書で特に説明されていない他のICP-MSシステムも同様に適しているかもしれない。
【0018】
本例示的な実施形態において、ICP-MSシステム100は一般に、試料導入部104、イオン源108、インターフェース部112、イオン光学部114、イオンガイド部116、質量分析部118、及びシステム・コントローラ120を含む。また、ICP-MSシステム100は、システム100の様々な内部領域を真空にするように構成された真空システムも含む。真空システムは、当該内部領域において所望の内圧または真空レベルを維持し、そのように行なう際にICP-MSシステム100から関心のある検査対象でない中性分子を除去する。真空システムは、
図1の矢印128、132及び136により示されるように、適切なポンプ、及び真空にされるべき領域のポートと連絡する通路を含む。
【0019】
試料導入部104は、分析されるべき試料を供給するための試料供給源140、ポンプ144、試料をエアロゾルに変換するためのネブライザ148、エアロゾル化された試料からより大きな液滴を除去するためのスプレーチャンバ150、及び適切な試料インジェクターを含むことができる、試料をイオン源108に供給するための試料供給導管152を含むことができる。例えば、ネブライザ148は、下向きの矢印により示されるように、試料をエアロゾル化するためにガス源156(例えば、加圧リザーバ)からのアルゴン又は他の不活性ガス(霧化ガス)の流れを利用することができる。霧化ガスは、イオン源108においてプラズマを形成するために利用されるプラズマ形成ガスと同じガスであることができるか、又は異なるガスであることができる。ポンプ144(例えば、蠕動ポンプ、シリンジポンプなど)は、試料供給源140とネブライザ148との間に接続されて、ネブライザ148への液体試料の流れを確立する。試料の流量は、例えば1分当たり0.1から数ミリリットル(mL/分)の範囲内にあることができる。例えば、試料供給源140は、1つ又は複数のバイアル(小瓶)を含むことができる。複数のバイアルは、1つ又は複数の試料、様々な標準溶液、チューニング液、較正液、リンス液などを含むことができる。試料供給源140は、様々なバイアルを切換えるように構成された自動装置を含むことができ、それによりICP-MSシステム100において現在使用するための特定のバイアルの選択が可能になる。
【0020】
試料は一般に、液体試料であり、本明細書において試料溶液とも呼ばれ得る。一般に、「液体試料」は、溶解された又は液体マトリクスに保持された関心のある1つ又は複数の異なるタイプの被検物質を含む。液体マトリクスは、マトリクス成分を含む。「マトリクス成分」の例は、以下に限定されないが、水および/または他の溶剤、酸、塩および/または溶解固形物のような可溶性物質、非溶解固形物質または微粒子、及び分析の関心の無い任意の他の化合物を含む。単一粒子ICP-MS(spICP-MS)、即ち単一粒子モードで動作するICP-MSの文脈において、関心のある被検物質は、ICP-MSシステム100へ導入される液体試料中に存在する固体(非溶解)粒子(ナノ粒子)である。溶解金属成分(固体被検物質粒子と同じ元素組成からなることができる)を含む試料の残りの部分は、ICP-MSシステム100へ導入される試料のマトリクス成分と共に、バックグラウンド成分であるとみなされる。
【0021】
一実施形態において、試料供給源140は、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)又はガス・クロマトグラフィー(GC)機器のような、分析分離機器の出力であることができる。ICP-MSシステムへの試料導入用の他のタイプのデバイス及び手段は、知られており、本明細書で説明される必要がない。
【0022】
イオン源108は、試料を原子化およびイオン化するためのプラズマ源を含む。図示された実施形態において、プラズマ源は、ICPトーチ160のような流入プラズマトーチである。ICPトーチ160は、中央または試料インジェクター164、及び試料インジェクター164の周りに同心円状に配列された1つ又は複数の外管を含む。図示された実施形態において、ICPトーチ160は、中間管168及び最外管172を含む。試料インジェクター164、中間管168及び最外管172は、例えば石英、ホウケイ酸ガラス又はセラミックから構築され得る。代案として、試料インジェクター164は、例えば白金のような金属から構築され得る。ICPトーチ160は、無線周波数(RF)シールド・ボックス又は「トーチ・ボックス」176内に位置する。ワーク・コイル(負荷コイル又はRFコイルとも呼ばれる)180は、RF電源185に結合され、ICPトーチ160の排出端部に配置される。
【0023】
動作中、ガス源156は最外管172にプラズマ形成ガスを供給する。プラズマ形成ガスは一般にアルゴンであるが、必ずしもアルゴンではない。RF電力が、RF電源185によりワーク・コイル180に印加される一方で、プラズマ形成ガスが中間管168と最外管172との間に形成された環状チャネルを流れ、それによりプラズマ形成ガスがさらされる高周波数の高エネルギー電磁場が生成される。ワーク・コイル180は、プラズマ形成ガスからプラズマを生成および維持するために有効な周波数および電力で動作する。スパークを利用して、プラズマを最初に生じさせるためのシード電子を提供することができる。結果として、プラズマプルーム184が、ICPトーチ160の排出端部からサンプリングコーン188へ流入する。補助ガスが、試料インジェクター164と中間管168との間に形成された環状チャネルに流されて、放電184の上流端部を試料インジェクター164の端部と中間管168の端部から離れるように保つことができる。補助ガスは、プラズマ形成ガスと同じガスであるか、又は異なるガスであることができる。中間管168及び最外管172へガス(単数または複数)を導くことは、ガス源156から上方へ向けられた矢印により、
図1に示される。試料は、矢印186により示されるように、試料インジェクター164を流れ、試料インジェクター164から放出されて、活性プラズマ184へ導入される。当業者により理解される原理に従って、試料はICPトーチ160の加熱ゾーンを流れ、プラズマ184と最終的に相互作用し、試料は、乾燥、気化、原子化およびイオン化を受け、それにより検査対象イオンが試料の成分(特に原子)から生成される。
【0024】
インターフェース部112は、大気圧(101.3kPa(760トル))で又はおおよそ大気圧で一般に動作しているイオン源108とICP-MSシステム100の真空領域との間の減圧の第1段階を提供する。例えば、インターフェース部112は、機械的粗引きポンプ(例えば、回転ポンプ、スクロールポンプなど)により例えば約133.3~266.6Pa(1~2トル)の動作真空に維持されることができるが、質量分析器158は、高真空ポンプ(例えば、ターボ分子ポンプなど)により、例えば約1.33×10-4Pa(10-6トル)の動作真空に維持され得る。インターフェース部112は、ICPトーチ160の排出端部からトーチ・ボックス176を横切って配置されたサンプリングコーン188、及びサンプリングコーン188から小さい軸方向距離に配置されたスキマーコーン192を含む。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は、互いに及びICPトーチ160の中心軸と位置合わせされた円錐構造体の中心に小さいオリフィスを有する。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は、トーチからのプラズマ184を真空チャンバへ抽出するのに役立ち、また、イオン源108からインターフェース部112に入るガスの量を制限するためのガス伝導性バリヤとしての機能も果たす。サンプリングコーン188及びスキマーコーン192は金属(又は少なくともそれらのアパーチャを画定する先端部が金属であることができる)であることができ、電気的に接地され得る。インターフェース部112に入る中性ガス分子および微粒子は、真空ポート128を介してICP-MSシステム100から排出され得る。
【0025】
イオン光学部114は、スキマーコーン192とイオンガイド部116との間に設けられ得る。イオン光学部114は、レンズアセンブリ196を含み、当該レンズアセンブリ196は、インターフェース部112からイオンを抽出し、イオンをイオンビーム106として収束し、イオンをイオンガイド部116へ加速することに役立つ一連の(一般に静電)イオンレンズを含むことができる。イオン光学部114は、適切なポンプ(例えば、ターボ分子ポンプ)により、例えば約0.133Pa(10
-3トル)の動作圧力に維持され得る。
図1に特に示されていないが、レンズアセンブリ196は、イオンビーム106がオフセットを介して操向される状態で、レンズアセンブリ196を通るイオン光学軸がイオンガイド部116を通るイオン光学軸からオフセット(長手方向軸に直交する半径方向において)するように構成され得る。係る構成は、イオン経路からの中性種および光子の除去を容易にする。
【0026】
イオンガイド部116は、コリジョン/リアクションセル(又はセル・アセンブリ)110を含むことができる。コリジョン/リアクションセル110は、軸方向においてセル入口とセル出口との間でセルハウジング118内に配置されたイオンガイド146を含む。本実施形態において、セル入口とセル出口はイオン光学構成要素により設けられる。即ち、セル入口レンズ122がセル入口に配置され、セル出口レンズ124がセル出口に配置される。イオンガイド146は、イオンガイド146の長手方向の共通中心軸に沿って互いに平行に配列された複数(例えば、4本、6本または8本)のロッド電極103を含む線形多極(例えば、四重極、六重極、又は八重極)構成を有する。ロッド電極103はそれぞれ、長手方向軸から半径方向距離に配置され、長手方向軸の回りに互いから円周方向に間隔を置いて配置される。簡単にするために、2つだけの係るロッド電極103が
図1に示される。RF電源(更に後述される)は、ロッド電極103間に二次元のRF電場を生成する既知の方法で、イオンガイド146のロッド電極103にRF電位を印加する。RF場は、長手方向軸に対して半径方向にイオンの偏倚を制限することにより、長手方向軸に沿ってイオンビーム106を収束する働きをする。一般的な実施形態において、イオンガイド146は、質量フィルタリングの能力を備えないRFのみのデバイスである。別の実施形態において、イオンガイド146は、当業者により理解されるように、DC電位をRF電位に重畳することにより、質量フィルタの役割を果たすことができる。本開示において、「コリジョン/リアクションセル」は、コリジョンセル、リアクションセル、又はコリジョンモードとリアクションモードとの間で切り換え可能であることによるような、コリジョンセル及びリアクションセルの双方として動作するように構成されたコリジョン/リアクションセルを意味する。
【0027】
コリジョン/リアクションセル110が含まれる場合、衝突(コリジョン)/反応(リアクション)ガス源138(例えば、加圧リザーバ)は、セルハウジング187の内部につながる衝突/反応ガス供給導管およびポート142を介してコリジョン/リアクションセル110の内部へ衝突/反応ガスの1つ又は複数(例えば、混合物)を流入するように構成される。ガスの流量は一般に、1分当たりミリリットル(mL/分)のオーダーである。ガスの流量は、コリジョン/リアクションセル110内の圧力を決定する。例えば、セルの動作圧力は、0.133~13.33Pa(0.001トル~0.1トル)の範囲にあることができる。「衝突/反応ガス」は、コリジョン/リアクションセル内のイオンと反応せずに係るイオンと衝突させるために利用される不活性衝突ガスを意味するか、又はコリジョン/リアクションセル内で検査対象イオン又は干渉イオンと反応するために利用される反応ガスを意味する。衝突/反応ガスの例は、以下に限定されないが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、水素、酸素、水、アンモニア、メタン、フッ化メタン(CH3F)、及び亜酸化窒素(N2O)、並びに上記の組み合わせ(混合物)又は上記の2つ以上を含む。ヘリウム、ネオン及びアルゴンのような不活性(非反応性)ガスは、衝突ガスとして利用される。コリジョン/リアクションセル110の動作は、当業者により一般に理解されており、本明細書で詳細に説明される必要がない。簡単に言うと、コリジョン/リアクションセル110において、選択された組成物の衝突/反応ガスは、干渉を抑制するのに効果的に特定の(検査対象または非検査対象)イオンと衝突または反応し、それによりICP-MSシステム100により生成されるイオン信号が改善される。干渉は一般に、イオン検出器161により計数される干渉イオンが起きるのを防ぐ、又は当該干渉イオンの数を低減することにより、抑制される。
【0028】
本開示において、用語「干渉イオン」は一般に、検査対象イオンに干渉する、コリジョン/リアクションセル内に存在する任意のイオンを意味する。干渉イオンの例は、以下に限定されないが、正のプラズマ(例えば、アルゴン)イオン、プラズマ形成ガス(例えば、アルゴン)を含む多原子イオン、及び試料の成分を含む多原子イオンを含む。試料の成分は、検査対象元素、或いは試料または他のバックグラウンド種のマトリックス成分から導出され得るような非検査対象種であることができる。
【0029】
質量分析部118(本明細書において質量分析計とも呼ばれる)は、質量分析器158及びイオン検出器161を含む。質量分析器158は、ICP-MSに適した任意のタイプであることができる。一般にICP-MSに利用される質量分析器の例は、四重極質量フィルタ及び飛行時間型(TOF)分析器を含む。恐らく利用される可能性のある他のタイプの質量分析器は、以下に限定されないが、扇形磁場および/または扇形電場機器、線形イオントラップ、三次元ポール・トラップ、静電的トラップ(例えば、Kingdon, Knight and ORBITRAP(登録商標)トラップ)、及びイオンサイクロトロン共鳴(ICR)トラップ(FT-ICR又はFTMS、ペニング・トラップとしても知られている)を含む。イオン検出器161は、質量分析器158から出力された、質量識別されたイオンの流動(又は流れ)を収集および測定するように構成された任意のデバイスであることができる。イオン検出器の例は、以下に限定されないが、電子増倍管、光電子増倍管、マイクロチャネルプレート(MCP)検出器、イメージ電流検出器、及びファラデーカップを含む。
図1の図の便宜上、イオン検出器161(イオンを受け取る少なくとも前方部)は、質量分析器158のイオン出口に対して90度の角度に向けられるように示される。しかしながら、他の実施形態において、イオン検出器161は、質量分析器158のイオン出口と軸上にあることができる。
【0030】
動作中、質量分析器158は、設けられている場合にコリジョン/リアクションセル110からのように、イオンビーム166を受け取り、それらの異なる質量対電荷(m/z)比に基づいてイオンを分離または分類する。分離されたイオンは質量分析器158を通過し、イオン検出器161に到着する。イオン検出器161は、各イオンを検出および計数し、電子検出器信号(イオン測定値信号)をシステム・コントローラ120のデータ収集構成要素に出力する。質量分析器158により行なわれる質量識別により、イオン検出器161が、他のm/z値を有するイオン(試料の異なる検査対象元素から導出される)とは別に、特定のm/z値を有するイオンを検出および計数することが可能になり、それにより、分析されている各イオン質量(ひいては各検査対象元素)のイオン測定値信号が生成される。様々なm/z値を有するイオンは、順次に検出および計数され得る。システム・コントローラ120は、イオン検出器161から受け取った信号を処理し、検出された各イオンの相対信号強度(存在量)を示す質量スペクトルを生成する。所与のm/z値(従って、所与の検査対象元素)で測定されたそのような信号強度は、ICP-MSシステム100により処理された試料のその元素の濃度に正比例する。このように、分析されている試料に含まれる化学元素の存在が確認されることができ、且つ化学元素の濃度が求められ得る。単一粒子(spICP-MS)モードで動作する際の粒子を含む、試料の検出された成分に関する他のタイプのデータも、本明細書で説明されるように生成され得る。
【0031】
図1に特に示されていないが、イオンガイド146及びセル出口レンズ124を通るイオン光学軸は、質量分析器158への入口を通るイオン光学軸からオフセットすることができ、イオン光学系は、当該オフセットを介してイオンビーム166を操向するように設けられ得る。この構成により、更なる中性種がイオン経路から除去される。
【0032】
システム・コントローラ(又はコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)120は、例えば、試料導入部104、イオン源108、イオン光学部114、イオンガイド部116及び質量分析部118の動作を制御する、並びに真空システム及び様々なガス流量、温度および圧力条件、及びICP-MSシステム100に設けられて制御を必要とする他の試料処理構成要素を制御するような、ICP-MSシステム100の様々な機能面を制御する、監視する及び/又はタイミングをとるように構成された1つ又は複数のモジュールを含むことができる。システム・コントローラ120は、コリジョン/リアクションセル110を動作させるために利用される電気回路(例えば、RF及びDC電圧源)を表す。また、システム・コントローラ120は、イオン検出器161からの検出信号を受け取り、分析中の試料を特徴付けるデータ(例えば、質量スペクトル)を生成する必要に応じて、データ取得および信号分析に関連する他のタスクを実行するように構成され得る。システム・コントローラ120は、本明細書で開示された方法のいずれかを実行するための持続性命令を含む持続性コンピュータ可読媒体を含むことができる。システム・コントローラ120は、ICP-MSシステム100の様々な構成要素を動作させる必要に応じて、1つ又は複数のタイプのハードウェア、ファームウェア及び/又はソフトウェア、並びに1つ又は複数のメモリ及びデータベースを含むことができる。システム・コントローラ120は一般に、全体の制御を行なうメイン電子プロセッサを含み、専用制御動作または特定の信号処理タスクのために構成された1つ又は複数の電子プロセッサを含むことができる。また、システム・コントローラ120は、ユーザ入力デバイス(例えば、キーパッド、タッチ・スクリーン、マウス、及び同類のもの)、ユーザ出力デバイス(例えば、ディスプレイ画面、プリンタ、可視的表示器または警報、可聴式指示器または警報、及び同類のもの)、ソフトウェアにより制御されるグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)、及び電子プロセッサにより読み取り可能な媒体をロードするためのデバイス(例えば、ソフトウェア、データ及び同類のもので具現化された持続性論理命令)のような、1つ又は複数のタイプのユーザ・インターフェース・デバイスも含むことができる。システム・コントローラ120は、システム・コントローラ120の様々な機能を制御および管理するためのオペレーティング・システム(例えば、Microsoft Windows(登録商標)ソフトウェア)を含むことができる。
【0033】
理解されるように、
図1は、本明細書で開示されるICP-MSシステム100のハイレベルな概略描写である。当業者により理解されるように、ICP-MSシステム100が所与の用途に如何にして構成されるかに応じて、実際の具現化形態に必要とされる場合に、追加の構造、デバイス、及び電子回路のような他の構成要素が含まれ得る。
【0034】
図2は、試料中のナノ粒子(NPs)のような粒子を検出するために単一粒子(spICP-MS)モードで動作する際に、ICP-MSシステム100により生成され得る未処理試料データのプロット(時間スケールデータ)の一例である。未処理試料データは、ICP-MSシステム100により測定される際に、測定時間(秒またはsで)tの関数としてイオン信号強度(秒当たりカウント、又はCPS)Iとしてプロットされたイオン信号データ点の集合である。信号強度の大きさは、示された時間期間にわたって検出された試料中の金属イオンの濃度に比例する。未処理試料データは、イオン検出器161により検出されたイオン(イオン化ナノ粒子を含む)に関する様々なタイプのデータ(特性または属性)を、様々な既知の技術に従って計算するために利用され得る。計算された試料データの例は、以下に限定されないが、質量スペクトル、粒子量(particle mass:粒子質量)、質量濃度、粒子容積、粒子数濃度、元素組成、粒子サイズ(例えば、直径)、粒子サイズ分布などを含む。
【0035】
特定の信号強度閾値レベル未満において、イオン信号強度は、ある期間にわたって比較的安定または一定であり、
図2の204においてのように、比較的小さい強度ピークを含む。イオン信号のこの部分は、試料中の溶解した金属の測定値に対応する。また、イオン信号は、
図2の206においてのように、信号強度閾値レベルを上回る比較的高い強度ピーク又はパルスも含むかもしれない。信号強度閾値レベルが適正であると仮定すれば、当該閾値レベルを超える高い強度ピークは、(ナノ)粒子イオン化/検出イベント、即ち試料中に溶解されていない(又は懸濁された)個々の(金属または金属含有)ナノ粒子の測定値に対応する。かくして、信号強度閾値レベルは、ナノ粒子ベースラインとみなされ得る。
【0036】
図2から、分析中の試料の溶解した金属からナノ粒子を正確に区別することは、ナノ粒子ベースラインとして適正な信号強度閾値レベルを正確に決定することが必要であることが明らかである。比較のために、
図2は、それぞれ「旧」及び「新」と表示された2つの計算されたベースラインを示す。図示されたように、不適切な(又は精度の低い、旧)ベースラインは、粒子ピーク(例えば、206)をバックグラウンド信号(例えば、204)から適切に分離することができない。従って、不適切なベースラインは、バックグラウンド信号中の幾つかの小さいピークを粒子ピークであるとして誤って識別するという結果になる。
図2の下側の差し込み図で示されるように、ノイズ信号は過大に計数され、粒子ピークがノイズ信号により隠されている。一方、本明細書で説明された方法を実行することにより決定されたような新ベースラインは、より正確であり、ひいてはバックグラウンド・ノイズからの真の粒子ピーク(実際のナノ粒子に対応する)のより正確な識別を可能にする。
図2の上側の差し込み図で示されるように、ノイズ信号が取り除かれ、粒子ピークが分離され得る。本明細書で開示されるような信号分布の正確な計算は、粒子検出閾値の正確な計算という結果になる。
【0037】
未処理試料データにおいて、試料の粒子画分と溶解した「イオン」画分とを正確に及び適切に区別することができないことは、ナノ粒子データ(特性または属性)の不正確な計算につながる可能性がある。一例として、
図3Aは、粒子データとイオンデータを区別するための不正確な粒子検出閾値を用いて計算されたサイズ分布のプロットの一例である。サイズ分布は、60nmの金(Au)ナノ粒子(NIST8013)のみを50兆分の1(ppt)含有する標準溶液から取得された未処理試料データから計算され、この場合、NISTは、米国標準技術局を意味する。
図3Aは、10nmのサイズを有するように計算された粒子の非常に高い頻度、及び60nmのサイズを有するように計算された粒子の非常に低い頻度を不正確に示す。一方、
図3Bは、本明細書で説明された方法に従って決定された適正な粒子閾値を用いて計算されたサイズ分布のプロットである。
図3Bは、検出された粒子の最も高い頻度が、分析される標準試料に含有される金ナノ粒子に対応する60nmのサイズを有する粒子であることを適切に示す。
【0038】
さて、粒子信号とバックグラウンド・イオン信号とを正確に及び適切に区別することの問題に対処するために、本開示の一実施形態による単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により試料中のナノ粒子を分析するための方法が、
図4~
図8に関連して説明される。
【0039】
図4は、ナノ粒子を含有する試料を分析することによって生じる信号分布(信号分布データ)の一例のプロットである。試料分析は、上述された及び
図1に示され、単一粒子モードの動作の必要に応じて構成されたICP-MSシステム100のような、システムを動作させることにより実行され得る。信号分布は、
図2に示されたような、試料に関して取得された未処理時間スケール(信号強度対時間)データから計算され得る。
【0040】
信号分布は、2つの主要な部分、即ちイオン信号部分404及び粒子信号部分406を含む。イオン信号部分404は、試料の溶解した「イオン」画分に関する信号分布を含む。イオン信号部分404は、イオン検出器により測定された小さい信号強度の高い頻度により特徴付けられ、用語「高い」及び「小さい」は、粒子信号部分406を基準としている。しかしながら、イオン信号部分404の頻度は、信号強度の比較的狭い範囲にわたって急速に低下している。粒子信号部分406は、試料の「粒子」成分(例えば、ナノ粒子)に関する信号分布を含む。粒子信号部分406は、イオン信号部分404と比べて、信号強度の広い範囲にわたって分布した高い信号強度の低い頻度により特徴付けられる。
【0041】
本開示に従って、これら2つの画分からの特徴の交点、即ち信号分布のイオン信号部分404と粒子信号部分406の交点は、「粒子検出閾値」の候補であると解釈される。これに関連して、粒子検出閾値に関して決定された(求められた)値は、粒子信号と溶解したバックグラウンド信号(「イオン」信号)とを区別するために利用される検出限界を表すと解釈され得る。様々な試料において粒子信号の特徴(特性)を容易に求めることは一般に困難であるので、一実施形態による本方法は、粒子検出閾値の値を求めるために、信号分布上の溶解したバックグラウンド信号、即ちイオン信号部分404の特徴を数値化する(評価する、求める)。
【0042】
最初にナノ粒子を備えない仮のイオン溶液を考察し、
図5Aの信号分布により示されるように、イオン標準からの未処理信号は概して、ポアソン分布に従う。イオン信号分布を計算するために、未処理信号は、積分され、各期間内の信号が計数される。積分後の信号分布は、
図5Bに示されるように、指数分布に従う。
【0043】
単位時間当たり1/Tのレートで持続時間t(>0)にわたってk倍生じるイオン信号の分布は、以下のようにポアソン確率密度関数として表され得る。
【0044】
【0045】
ここで、無次元量Aは、信号分布のパターン(頻度対強度のデータ点)に依存する。
【0046】
B=1/T、及びk=0と設定すると、積分されたイオン信号の分布は、以下のようにポアソン過程として計算される。
【0047】
【0048】
上記の式は、イオン信号分布を近似するためにポアソン過程を介して信号の発生(検出イベント)の頻度に重点を置く。これは、発生の数に重点を置くポアソン過程前の手法と対照的である。
【0049】
図6Aは、シリコン(Si)イオンブランク溶液に関して得られた信号分布の一例のプロットであり、
図6Bは、Siイオン標準溶液1.0ppb(ppb:10億分の1)に関して得られた信号分布の一例のプロットである。信号は積分され、曲線は、y=a・e
bxとして表される、指数曲線に関する最小二乗法を用いて計算された。
【0050】
ここで、xは横座標上の信号強度の値に対応し、yは縦座標上の頻度の値に対応し、a及びbは以下のように計算される。
【0051】
【0052】
【0053】
相関は、計算された指数曲線と良好に一致し、それにより信号分布上のイオン成分が指数曲線の近似により求められ得ることが証明される。
【0054】
上記のことを考慮して、
図7は、本明細書に開示された一実施形態に従って粒子検出閾値を求めるための方法の一例を示す流れ
図700である。この実施形態において、方法は、信号分布のイオン信号部分の特徴を数値化することにより、所与の試料の分析から得られた信号分布上で、粒子検出閾値が位置する場所を求める。特に、信号分布は、当該試料に対して実行されたspICP-MS分析から取得された未処理時間走査データ(例えば、
図2に示されたような)から計算される。
【0055】
第1に、
図7に示されるように、近似された曲線(近似曲線と呼ぶ)は、以下の形態の指数方程式を用いて、信号分布上のデータ点(x,f(x))の異なる組に関して計算される(ステップ702)。
【0056】
【0057】
ここで、xは信号分布の横座標上の値(信号強度)であり、f(x)は信号分布の縦座標上の値(頻度)であり、nはステップ702の1つの反復中に実行された計算の総数である。例えば、信号分布からのデータ点が(x1,f(x1))、(x2,f(x2))、(x3,f(x3))、及び(x4,f(x4))であると仮定すると、以下のデータ点の組が、近似曲線を計算するために利用される。即ち、
曲線1:(x1,f(x1))、(x2,f(x2))
曲線2:(x1,f(x1))、(x2,f(x2))、(x3,f(x3))
曲線3:(x1,f(x1))、(x2,f(x2))、(x3,f(x3))、(x4,f(x4))
・・・
曲線N:(x1,f(x1))、(x2,f(x2))・・・(x(N+1),f(x(N+1)))。
【0058】
かくして、例えば、
図7に示されるように、計算された最初の3つ及び最後の近似曲線はそれぞれ、以下の通りである。
【0059】
【0060】
第2に、判定の係数R2(i)が、計算された近似曲線内の全てのデータ点に関して計算される(ステップ704)。判定の係数は、各近似曲線に対して最大の相関g(i)を見出すために、即ちR2(i)=g(i)を見出すために求められる。値g(i)は、n番目の反復的な計算において全ての点を用いて計算された判定の係数R2(i)において見出された最も適切な判定の係数である。例えば、データセットがn番目の反復的な計算において5つの点A、B、C、D及びEを有すると再び仮定する。この場合、最大の相関を有する判定の係数は、以下のように計算される。即ち、
g(1)は、A及びBを用いることにより計算される
g(2)は、A、B及びCを用いることにより計算される
g(3)は、A、B、C及びDを用いることにより計算される。
g(4)は、A、B、C、D及びEを用いることにより計算される。
【0061】
アルゴリズムは、どのg(i)が最も効果的であるか、即ちどのg(i)が最大の相関であるかを評価する。
【0062】
g(i)が最大の相関であると評価される場合、i番目の点に対応する信号が、この反復において粒子検出閾値の候補として格納される。そうでなければ、この反復において候補が見出されなかったと判断される。
【0063】
第3に、新たなデータセットが、先のデータセットから以下の点を取り除くことにより、(n+1)番目の計算に対して作成される(ステップ706)。
【0064】
【0065】
例えば、A、B、C、D及びEの先のデータセットを用いる計算の上記の例において、g(2)が最も効果的である判定の係数であると評価される場合、データ点Aが取り除かれて、次いで次のデータセットは、B、C、D及びEを含む。次いで、上記の手順(ステップ702及び704)は、B、C、D及びEからなる新たなデータセットに対して繰り返される。
【0066】
現在のデータセットでの現在の計算の反復において、候補が見出されない又は更なるデータ点が取り除かれない場合、ステップ704で求められた最後の候補が粒子検出閾値であると決定される。そうでなければ、反復的な計算が上記の手順(ステップ702、704及び706)の後で継続する。
【0067】
全体の反復計算内に候補が存在しない場合、粒子検出閾値が見出されなかったと判断される。この状況では、粒子が試料において検出されなかったと判断される。
【0068】
図8は、単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により試料中のナノ粒子を分析するための方法の一例を示す流れ
図800である。
【0069】
当該方法に従って、試料は、ICP-MSシステムのイオン検出器により測定された時間の関数としてのイオン信号強度に対応する未処理試料データ(例えば、
図2を参照)を取得するためにICP-MSシステムにおいて処理される(ステップ802)。試料の処理は、試料導入、噴霧、原子化/イオン化、質量フィルタリング、干渉抑制(例えば、衝突/反応による)、質量分析、イオン検出/計数、信号処理/データ取得などのような、
図1に示されたICP-MSシステム100と連係する上述された様々なステップの組み合わせを含むことができる。
【0070】
次いで、未処理試料データの信号分布が求められる又は計算される(ステップ804)。上述されたように、信号分布は、複数のデータ点からなる、又は複数のデータ点に対応する。各データ点は、イオン信号強度、及びイオン検出器がイオン信号強度を測定した頻度により画定される、又は当該イオン信号強度および当該頻度に対応する(例えば、
図4を参照)。
【0071】
次いで、粒子検出閾値は、信号分布データを用いて求められる(ステップ806)。特に、粒子検出閾値は、信号分布のイオン信号部分と信号分布の粒子信号部分との交点として求められる。
図4に関連して上述されたように、粒子信号部分は、試料中のナノ粒子の測定値に対応し、イオン信号部分は、試料溶液に溶解した金属のような、ナノ粒子以外の試料中の成分の測定値に対応する。このように、粒子信号部分に対応する、ひいては試料中の検出されたナノ粒子に対応するデータは、正確に特定され、現在の試料流れの間に試料から取得された全ての他のデータから分離される。
【0072】
一実施形態において、粒子検出閾値は、イオン信号部分の特徴を数値化することにより求められ得る。例えば、粒子検出閾値は、上述された及び
図7に示された方法による指数関数としてイオン信号部分を近似することにより求められ得る。例えば、粒子検出閾値を求めることは、(1)信号分布のデータ点が入力である指数関数に基づいて、イオン信号部分を近似する複数の近似曲線を計算する、(2)近似曲線内のデータ点に関する判定の係数を計算する、(3)判定の係数のうちのどれが最大の相関であるかを求める、及び(4)粒子検出閾値である最大の相関に対応するデータ点を求めることを含むことができる。
【0073】
次いで、粒子信号部分は、ナノ粒子データを求める又は当該ナノ粒子データを計算するために利用される(ステップ808)。ナノ粒子データは、以下に限定されないが、質量スペクトル、粒子数濃度、元素組成、粒子サイズ、粒子サイズ分布などを含むことができる。
【0074】
一実施形態において、流れ
図800は、ステップ802~808を実行するために構成されたICP-MSシステム、又はICP-MSシステムの一部を表すことができる。このために、当業者により理解されるように、プロセッサ、メモリ、及び他の構成要素を含むコントローラ(例えば、
図1に示されたコントローラ120)は、例えばステップ802~808を実行する際に含まれるICP-MSシステムの構成要素を制御することにより、ステップ802~808の実行を制御するために設けられ得る。
【0075】
本明細書で開示された方法は、反復n*σアルゴリズムのような既知の方法に優る利点を提供することができる。本明細書に開示された方法は、より正確な粒子検出閾値を求めることを可能にし、その結果として粒子データがより正確に求められる又は計算されることを可能にする。更に、本明細書に開示された方法により、精密な結果が自動的に、即ちユーザの介入なしに計算されることを可能にする。例えば、方法は、ユーザが粒子検出閾値を求めることを行うために信号分布データを視覚的に評価する必要なしに、粒子検出閾値を求める。また、これは、手動の方法により行われる場合に非常に時間のかかる多元素分析の実行にも有利である。
【0076】
図9及び
図10は、ただ今開示された方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用して、5つの試料流れにおいてspICP-MSにより標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表1及び表2)である。
図9は、NIST8012(Au 30nm)の5ppt粒子の分析から得られたデータ(粒子の数、メジアン径、平均サイズ、及び粒子の最も頻度の高いサイズ)を含み、
図10は、NIST8013(Au 60nm)の50ppt粒子の分析から得られた同じタイプのデータを含む。各表において、ただ今開示された方法により得られたデータのパーセント相対標準偏差(%RSD)は、従来のアルゴリズムにより得られたデータの%RSDより大幅に低い。これは、ただ今開示された方法が、試料分析で利用される場合に大幅に良好な精度および再現性を提供することを証明する。
【0077】
図11は、本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、spICP-MSにより、それぞれが100nmのAgNPsを含有するが異なるイオン濃度を有する幾つかの標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表3)である。この場合も、ただ今開示された方法により得られたデータのパーセント相対標準偏差(%RSD)は、従来のアルゴリズムにより得られたデータの%RSDより大幅に低い。更に、
図11のデータは、イオン溶液がNP試料に追加された場合でさえも、ただ今開示された方法は、結果を正確に計算するために利用され得ることを証明する。
【0078】
更に、本明細書で開示された方法により、かなり小さいサイズの粒子を分析する場合でさえも、正確な結果が自動的に計算されることを可能にする。一例として、
図12Aは、NIST8011(Au 10nm)の0.25ppt粒子を含有する試料溶液のspICP-MS分析から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、粒子信号をイオン信号から分離するために従来のアルゴリズムが利用された。比較して、
図12Bは、
図12Aに関連している同じ未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであるが、この場合、本明細書で開示された方法が粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
図12A及び
図12Bは、本明細書で開示された方法の改善された精度を証明する。
【0079】
また、本明細書で開示された方法により、正確な結果が、異なるサイズの粒子の混合物を含有する試料の分析から計算されることも可能にする。一例として、
図13A及び
図13Bは、NIST8011、8012、及び8013AuNPsの2つの異なる混合物を含有する試料溶液のspICP-MS分析から取得された未処理試料データから計算されたサイズ分布のプロットであり、この場合、本明細書に開示された方法が、粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。特に、
図13Aは、10nm:0.08ppt、30nm:1.7ppt、及び60nm:17pptのAuNPsの混合物の分析に関係し、
図13Bは、10nm:0.1ppt、30nm:2ppt、及び60nm:30pptのAuNPsの混合物の分析に関係する。
【0080】
図14は、ただ今開示された方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、異なる濃度(1ppt、2ppt、5ppt、10ppt、20ppt、50ppt、及び100ppt)で20nmのAgNPsを含有する標準溶液を分析することから得られた結果を比較する表(表4)である。この場合も、ただ今開示された方法により得られたデータの相対標準偏差(RSD)は、従来のアルゴリズムにより得られたデータのRSDより大幅に低い。更に、
図14のデータは、NP濃度が異なる場合でさえも、ただ今開示された方法が、結果を正確に計算することができることを証明する。
【0081】
図15Aは、
図14(表4)に示されたデータに基づいた濃度(pptの粒子濃度の関数として計算された粒子の数)のプロットであり、この場合、従来のアルゴリズムが、粒子信号をイオン信号から分離するために利用された。比較して、
図15Bは、同じデータに基づいた濃度のプロットであるが、この場合、本明細書に開示された方法が、粒子信号をイオン信号から分離するための粒子検出閾値を計算するために利用された。
図15A及び
図15Bは、本明細書に開示された方法を具現化することから生じたデータが、良好な線形性を有し、従来のアルゴリズムの使用と比べて、はるかに良好な線形性を有することを証明する。
【0082】
図16は、本開示の方法(「新しいアルゴリズム」)対従来のアルゴリズム(「従来のアルゴリズム」)を利用した、超純水(UPW)、ブランク溶液、及び異なる濃度を有する幾つかのAuイオン試料の分析からの粒子の計算された数を比較する表(表5)である。
図16は、ただ今開示された方法を具現化することが、NPsを含有してないイオン/ブランク溶液に関する粒子の数の過大な計数を防止することができることを証明する。
【0083】
図17は、本開示の一実施形態による分光分析システムの一部であることができる又は当該分光分析システムと通信することができるシステム・コントローラ(又はコントローラ、又はコンピューティング・デバイス)の限定されない例の略図である。例えば、システム・コントローラ1700は、上述された及び
図1に示されたICP-MSシステム100のシステム・コントローラ120に対応することができる。
【0084】
図示された実施形態において、システム・コントローラ1700は、全体的な制御を提供するメイン電子プロセッサ、及び専用の制御動作または特定の信号処理タスクのために構成された1つ又は複数の電子プロセッサ(例えば、グラフィックス・プロセッシング・ユニット、即ちGPU、デジタル・シグナル・プロセッサ、即ちDSP、特定用途向け集積回路、即ちASIC、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ、即ちFPGAなど)を表すことができるプロセッサ1702(一般に電子回路ベース)を含む。また、システム・コントローラ1700は、データ及び/又はソフトウェアを格納するための1つ又は複数のメモリ1704(揮発性および/または不揮発性)も含む。また、システム・コントローラ1700は、1つ又は複数のタイプのユーザ・インターフェース・デバイスを制御する及び当該ユーザ・インターフェース・デバイスと当該ユーザ・インターフェース・デバイスと通信するシステム・コントローラ1700の構成要素との間にインターフェースを提供するための1つ又は複数のデバイス・ドライバ1706も含むことができる。係るユーザ・インターフェース・デバイスは、ユーザ入力デバイス1708(例えば、キーボード、キーパッド、タッチ・スクリーン、マウス、ジョイスティック、トラックボール、及び同類のもの)、及びユーザ出力デバイス1710(例えば、ディスプレイ画面、プリンタ、可視的表示器または警報、可聴式指示器または警報、及び同類のもの)を含むことができる。様々な実施形態において、システム・コントローラ1700は、1つ又は複数のユーザ入力デバイス1708及び/又はユーザ出力デバイス1710を含むと、又は少なくともそれらと通信するとみなされ得る。また、システム・コントローラ1700は、メモリに及び/又は1つ又は複数のタイプのコンピュータ可読媒体1714に包含された1つ又は複数のタイプのコンピュータ・プログラム又はソフトウェア1712も含むことができる。コンピュータ・プログラム又はソフトウェアは、ICP-MSシステム100の様々な動作を制御または実行するための持続性命令(例えば、論理命令)を含むことができる。コンピュータ・プログラム又はソフトウェアは、アプリケーション・ソフトウェア及びシステム・ソフトウェアを含むことができる。システム・ソフトウェアは、ハードウェアとアプリケーション・ソフトウェアとの間の相互作用を含む、システム・コントローラ1700の様々な機能を制御および管理するためのオペレーティング・システム(例えば、Microsoft Windows(登録商標)オペレーティング・システム)を含むことができる。特に、オペレーティング・システムは、ユーザ出力デバイス1710を介して表示可能であり、且つユーザがユーザ入力デバイス1708の使用と相互作用することができる、グラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を提供することができる。また、システム・コントローラ1700は、GUIによりグラフ形態で提示するためのフォーマット・データを含む、イオン検出器161(
図1)により出力されたイオン測定値信号を受け取って処理するための1つ又は複数のデータ取得/信号調整構成要素(DAQ)1716(ハードウェア、ファームウェア及び/又はソフトウェアで具現化され得るような)も含むことができる。
【0085】
システム・コントローラ1700は更に、本開示の全体にわたって説明されたように、イオン検出器161から出力された信号を処理して、(ナノ)粒子データを含むデータをそれから生成するように構成されたデータ・アナライザ(又はモジュール)1718を含むことができる。かくして、データ・アナライザ1718は、本明細書で開示された方法の何れかの全て又は一部を制御または実行するように構成され得る。データ・アナライザ1718は、本明細書で開示されたアルゴリズムの何れかの全て又は一部を実行するように構成され得る。これらのために、データ・アナライザ1718は、当業者により理解されるように、ソフトウェア及び/又は電子回路(ハードウェア及び/又はファームウェア)で具現化され得る。
【0086】
理解されるように、
図17は、本開示と首尾一貫したシステム・コントローラ1700の一例のハイレベルな概略描写である。追加の構造、デバイス、電子回路、及びコンピュータ関連または電子プロセッサ関連の構成要素のような他の構成要素が、実際の具現化形態に必要とされることに応じて、含まれ得る。また、理解されるように、システム・コントローラ1700は、提供され得る構造(例えば、回路、メカニズム、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアなど)を表すことが意図された機能ブロックとして
図17に概略的に表されている。様々な機能ブロック及びそれらの間の何らかの信号リンクが、例示のためだけに任意に配置されており、何らかの態様で制限しない。当業者により理解されるように、実際には、システム・コントローラ1700の機能は、様々な態様で実施されることができ、
図17に示された及び本明細書において例により説明された正確な態様で必ずしも実施されない。
【0087】
例示的な実施形態
本開示された主題に従って提供される例示的な実施形態は、以下に限定されないが、以下のことを含む。
【0088】
1.単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により、試料中のナノ粒子を分析するための方法であって、その方法は:ICP-MSシステムのイオン検出器により測定された時間の関数としてのイオン信号強度に対応する未処理試料データを取得するために、前記ICP-MSシステムにおいて試料を処理し;複数のデータ点に対応する前記未処理試料データの信号分布を求め、各データ点は、イオン信号強度、及び前記イオン検出器が前記イオン信号強度を測定した頻度に対応し;前記信号分布のイオン信号部分と前記信号分布の粒子信号部分との交点として粒子検出閾値を求めることを含み、前記粒子信号部分は、試料中のナノ粒子の測定値に対応し、前記イオン信号部分は、試料中のナノ粒子以外の成分の測定値に対応し、前記粒子検出閾値は、前記粒子信号部分を前記イオン信号部分から分離する。
2.前記粒子検出閾値を求めることは、前記イオン信号部分の特徴を数値化することを含む、実施形態1に記載の方法。
3.前記イオン信号部分の特徴を数値化することは前記イオン信号部分を指数関数として近似することを含む、実施形態2に記載の方法。
4.前記粒子検出閾値を求めることは:前記信号分布のデータ点が入力である指数関数に基づいて、前記イオン信号部分を近似する複数の近似曲線を計算し;前記近似曲線内のデータ点の判定の係数を計算し;前記判定の係数のうちのどれが最大の相関であるかを求め;前記粒子検出閾値であるべき前記最大の相関に対応するデータ点を求めることを含む、実施形態1~3の何れか1項に記載の方法。
5.前記粒子検出閾値を求めた後、前記粒子信号部分に基づいてナノ粒子データを求めることを含む、実施形態1~4の何れか1項に記載の方法。
6.ナノ粒子データを求めることは、質量スペクトルを求めること;粒子数濃度を求めること;元素組成を求めること;粒子サイズを求めること;粒子サイズ分布を求めること;及び上記の2つ又は3つ以上の組み合わせからなるグループから選択される、実施形態5に記載の方法。
7.前記試料を処理することは、誘導結合プラズマに試料をさらすことによりイオンを生成し、前記イオンの少なくとも幾つかを質量分析器へ送り、前記イオンの少なくとも幾つかを前記質量分析器から前記イオン検出器へ送ることを含む、実施形態1~6の何れか1項に記載の方法。
8.前記試料を処理することは、トーチ・ボックス内に前記誘導結合プラズマを生成し、干渉を抑制するために前記イオンを前記トーチ・ボックスからコリジョン/リアクションセルへ送り、前記イオンの少なくとも幾つかを前記コリジョン/リアクションセルから前記質量分析器へ送ることを含む、実施形態7に記載の方法。
9.前記試料を処理することは、ネブライザ又はスプレーチャンバからイオン源へ試料を流すことを含む、実施形態1~8の何れか1項に記載の方法。
10.単一粒子誘導結合プラズマ質量分析(spICP-MS)により、試料中のナノ粒子を分析するための誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)システムであって、そのICP-MSシステムは:プラズマを生成し、前記プラズマ中の試料からイオンを発生するように構成されたトーチ・ボックスと;質量対電荷比に従って前記イオンを分離するように構成された質量分析器と;前記質量分析器から受け取ったイオンを計数するように構成されたイオン検出器と、;電子プロセッサ及びメモリを含み、実施形態1~9の何れか1項に記載の方法のステップを制御するように構成されたコントローラとを含む。
11.前記イオン源と前記質量分析器との間に配置され、干渉を抑制するように構成されたコリジョン/リアクションセルを含む、実施形態10に記載のICP-MSシステム。
12.内部に格納された命令を含み、その命令は、プロセッサで実行された際に、実施形態1~9の何れか1項に記載された方法のステップを制御または実施する、持続性コンピュータ可読媒体。
13.実施形態12に記載されたコンピュータ可読媒体を含む、システム。
【0089】
理解されるように、本明細書で説明されたプロセス、サブプロセス及びプロセス・ステップの1つ又は複数は、1つ又は複数の電子制御された又はデジタル的に制御されたデバイス上で、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの2つ以上の組み合わせにより実行され得る。ソフトウェアは、例えば
図1又は
図17に概略的に示されたコンピューティング・デバイス120又は1700のような、適切な電子処理構成要素またはシステムにおけるソフトウェアメモリ(図示せず)に常駐することができる。ソフトウェアメモリは、論理機能を実施するための実行可能な命令の順序付けられたリストを含むことができる(即ち、「論理」は、デジタル回路またはソースコードのようなデジタル形式で、又はアナログ電気信号、音声信号、又はビデオ信号のようなアナログ源のようなアナログ形式で実施され得る)。命令は、例えば1つ又は複数のマイクロプロセッサ、汎用用途プロセッサ、プロセッサの組み合わせ、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、又は特定用途向け集積回路(ASIC)を含む処理モジュール内で実行され得る。更に、模式図は、機能の構造または物理的なレイアウトにより制限されない物理的な(ハードウェア及び/又はソフトウェア)具現化形態を有する機能の論理的部分を記述する。本明細書で説明されるシステムの例は、様々な構成で実施されることができ、単一のハードウェア/ソフトウェアのユニット又は別個のハードウェア/ソフトウェアのユニットにおけるハードウェア/ソフトウェア構成要素として動作することができる。
【0090】
実行可能な命令は、電子システム(例えば、
図1又は
図17のコンピューティング・デバイス120又は1700)の処理モジュールにより実行される場合に、命令を実行するために当該電子システムに命じる、内部に格納された命令を有するコンピュータ・プログラム製品として実現され得る。コンピュータ・プログラム製品は、命令実行システム、装置、又はデバイスから命令を選択的にフェッチして当該命令を実行することができる電子コンピュータベースのシステム、プロセッサ内蔵システム又は他のシステムのような、命令実行システム、装置、又はデバイスにより使用するための又は当該命令実行システム、装置、又はデバイスと接続する任意の持続性コンピュータ可読記憶媒体に選択的に具現化され得る。本開示の文脈において、コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行システム、装置、又はデバイスにより使用するための又は当該命令実行システム、装置、又はデバイスに関連するプログラムを格納することができる任意の持続性手段である。持続性コンピュータ可読記憶媒体は抜粋して、例えば電子的、磁気的、光学的、電磁気的、赤外線、又は半導体のシステム、装置、又はデバイスであることができる。持続性コンピュータ可読媒体のより具体的な例の包括的でないリストは、1つ又は複数のワイヤ(電子的)を有する電気接続;携帯用コンピュータ・ディスケット(磁気的);ランダム・アクセス・メモリ(電子的);読み出し専用メモリ(電子的);例えばフラッシュメモリのような消去可能プログラマブルROM(電子的);例えばCD-ROM、CD-R、CD-RWのようなコンパクト・ディスク・メモリ(光学的);デジタル多用途ディスク・メモリ、即ちDVD(光学的)を含む。留意されるべきは、持続性コンピュータ可読記憶媒体は、プログラムが、例えば紙または他の媒体の光学走査によって電子的にキャプチャされ、次いでコンパイルされ、解釈され、又は必要に応じて適切な方法で処理され、次いでコンピュータ・メモリ又はマシン・メモリに格納され得る場合に、プログラムが印刷された紙または別の適切な媒体であることさえできる。
【0091】
また、理解されるように、本明細書で使用されるような用語「信号通信において」は、2つ以上のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールが或るタイプの信号経路を介して伝わる信号によって互いと通信(連絡)することができることを意味する。信号は、情報、電力、又はエネルギーを第1のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールから第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールへ、第1と第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュール間の信号経路に沿って伝達することができる、通信信号、電力信号、データ信号またはエネルギー信号であることができる。信号経路は、物理的接続、電気接続、磁気的接続、電磁気的接続、電気化学的接続、光接続、有線接続、又は無線接続を含むことができる。また、信号経路は、第1と第2のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュール間に追加のシステム、デバイス、構成要素、モジュール又はサブモジュールも含むことができる。
【0092】
より一般的には、「連絡(通信)する」及び「・・と連通」(例えば、第1の構成要素が第2の構成要素「と連絡する」又は第2の構成要素「と連通する」)というような用語は、2つ以上の構成要素または要素間の構造的、機能的、機械的、電気的、信号的、光学的、磁気的、電磁気的、イオン的または流体的関係を示すために本明細書で使用される。そういうものだから、1つの構成要素が第2の構成要素と連絡すると言われる事実は、追加の構成要素が、第1の構成要素と第2の構成要素との間に存在する、及び/又は第1の構成要素と第2の構成要素と動作可能なように関連付けられ得る又は結合され得る可能性を排除することが意図されていない。
【0093】
理解されるように、本発明の様々な態様または細部は、本発明の範囲から逸脱せずに変更され得る。更に、上記の説明は、例示のためだけであり、制限のためではなく、本発明は特許請求の範囲により定義される。