(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】反射防止膜付光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20231214BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019228419
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】山下 直城
(72)【発明者】
【氏名】長野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 穣
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-215790(JP,A)
【文献】特開2016-206682(JP,A)
【文献】特開2017-076081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止膜を基材の表面の少なくとも光学有効領域上に備えた反射防止膜付光学素子であって、
前記反射防止膜は、複数の層からなる無機下地層と、前記無機下地層の表面に設けた低屈折率層とからなり、
光の入射角度が0度のとき、波長400nmから1800nmの範囲において、波長幅1nmごとに測定した反射率の標準偏差σが0.05%より大0.15%より小であることを特徴とする反射防止膜付光学素子。
【請求項2】
前記無機下地層は8層以上からなる請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記無機下地層の材料が、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、アルミニウムおよびシリコンの酸化物の単体またはこれらの混合物のうちいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項4】
前記低屈折率層は、シリカから成る外殻部とこの外殻部に囲まれた中空部とを備えたバルーン構造を有する中空シリカ粒子がバインダにより結着されると共に、当該中空シリカ粒子の前記中空部以外の空隙部が存在する層であり、当該中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項5】
前記バインダは、樹脂材料又は金属アルコキシドからなる請求項4に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項6】
前記反射防止膜は、前記低屈折率層の表面に機能層を備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項7】
前記無機下地層を構成する層を形成する材料のうち、最も高屈折率の材料の屈折率をn
Hとし、最も低屈折率の材料の屈折率をn
Lとするとき、以下の式1を満たす請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
0.5 ≦ n
H - n
L ≦ 0.9 ・・・・(1)
【請求項8】
前記低屈折率層は、屈折率nが1.10より大1.25より小であり、
且つ、膜厚をdとしたとき、以下の式2を満たす請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
125 < n × d < 200 ・・・・(2)
但しdの単位は「nm」である。
【請求項9】
波長400nmから1800nmの範囲において、前記反射率の最大値と最小値の差が0.7%以下である請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項10】
波長400nmから1800nmにおける光線の前記反射防止膜に対する入射角度が0度以上15度以下のとき、前記反射率が1.0%以下である請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項11】
波長400nmから1800nmにおける光線の前記反射防止膜に対する入射角度が30°以上45°以下のとき、前記反射率が3.5%以下である請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子を備えたことを特徴とする光学系。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の反射防止膜付光学素子の製造方法であって、
前記基材の両面の前記光学有効領域上に設けられる前記反射防止膜のうち、
無機下地層を前記光学有効領域上に成膜する第1工程と、
低屈折率層を少なくとも前記無機下地層の表面に前記基材の両面同時に成膜する第2工程と、
を有することを特徴とする反射防止膜付光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1工程は、真空蒸着法またはスパッタ法または原子層堆積法を用いる請求項13に記載の反射防止膜付光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記第2工程は、ディップコート法を用いる請求項13又は請求項14に記載の反射防止膜付光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学素子に関し、可視域から近赤外域までの広い波長範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有する反射防止膜を備えた光学素子及び光学系、並びに光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光技術によって超広帯域における波長情報が取得可能なスペクトルカメラは、RGBカメラと比較して、画像に加えて詳細な波長情報も取得できる。得られる波長情報から、微細な色情報を判別することが可能であり、また、人間の目では識別困難な物性の違いや状態を、可視化することができる。さらに、近赤外域における波長情報からは、物質の組成を特定し判別することも可能となる。このような特性から、スペクトルカメラは、検査および測定を目的として、食品・農業・工業・医療などの分野で広く利用されている。
【0003】
このようなスペクトルカメラを用いて可視域から近赤外域の超広帯域を撮像する場合、カメラレンズの波長に対する分光透過率特性が、取得する画像および波長情報に大きく影響を与える。この分光透過率特性を決定する主な要因は、カメラレンズを構成するレンズ基材の光学特性、レンズ枚数およびレンズ表面に形成される反射防止膜の特性である。その中でも波長に対する反射防止膜の反射率特性は、波長情報に大きく影響を与える要因の一つである。
【0004】
可視域から近赤外域の超広帯域に対応する反射防止膜は、誘電体薄膜を複数層重ねた多層膜で構成される。そのため、その反射率特性においては、反射率が波長に対して局所的に増減し振動する現象が生じやすい。この反射率の局所的な増減による振動は、分光透過率特性の振動として現れ、波長情報に影響を与える。このように、反射防止膜には、超広帯域な波長帯域において、反射率の局所的な増減による振動の発生を抑制し、均一に反射率を低減させることが求められる。
【0005】
そこで、特許文献1には、可視域から近赤外域までに反射防止特性を有する反射防止膜として、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層し、最上層に屈折率が1.1以上、1.3以下の低屈折率材層を備えた、反射防止膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にて開示された反射防止膜における反射率特性は、特許文献1の実施例1に記載の構成によりシミュレーションを実施したところによれば、400nmから1800nmの波長域において、入射角0°における反射率特性は、その最大値と最小値との差が約10.5%、標準偏差は0.78%と大きい。このような反射防止膜が形成されたカメラレンズを用いて400nmから1800nmまでのような超広帯域のスペクトル画像を連続的に撮像した場合、取得される画像および波長情報に大きく影響を与える可能性がある。
【0008】
本件発明は、400nmから1800nmの超広帯域において、反射率の局所的な増減による振動の発生を抑制し均一に反射率を低減させる反射防止膜を備える反射防止膜付光学素子および光学系、並びに光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上述の目的を達成するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0010】
反射防止膜付光学素子:本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、反射防止膜を基材の表面の少なくとも光学有効領域上に備えた反射防止膜付光学素子であって、反射防止膜は、複数の層からなる無機下地層と、無機下地層の表面に設けた低屈折率層とからなり、光の入射角度が0度のとき、波長400nmから1800nmの範囲において、波長幅1nmごとに測定した反射率の標準偏差σが0.05%より大、 0.15%より小であることを特徴としている。
【0011】
反射防止膜付光学素子の製造方法:本件発明に係る反射防止膜付光学素子の製造方法は、反射防止膜を基材の表面の少なくとも光学有効領域上に備えた反射防止膜付光学素子の製造方法であって、基材の両面の前記光学有効領域上に設けられる前記反射防止膜のうち、無機下地層を前記光学有効領域上に成膜する第1工程と、低屈折率層を少なくとも前記無機下地層の表面に前記基材の両面同時に成膜する第2工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、波長400nmから1800nmの範囲において低反射率であり、且つ、光の入射角度が0度のとき、波長幅1nmごとに測定した反射率の標準偏差σが0.05%より大0.15%より小であることから、波長400nmから1800nmの範囲の超広帯域において均一な低反射率特性を提供する。
【0013】
また、本件発明に係る反射防止膜付光学素子の製造方法は、曲率半径が小さい凹レンズでも、均一な成膜が可能であり、色ムラの発生を抑制し、本件発明に係る反射防止膜付光学素子の安定した製造を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1~実施例9および比較例3~比較例4に係る光学素子を示す断面図である。
【
図2】本件発明に係る光学素子の一例を示す断面図である。
【
図3】本実施の形態の反射防止膜の層構成を示す模式図である。
【
図4】低屈折率層の構成材料である中空シリカの構造を示す模式図(a)と、低屈折率層の構成を示す模式図(b)である。
【
図5】比較例1~2に係る光学素子を示す断面図である。
【
図6】比較例5~6に係る光学素子を示す断面図である。
【
図7】実施例1の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図8】実施例2の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図9】実施例3の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図10】実施例4の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図11】実施例5の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図12】実施例6の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図13】実施例7の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図14】実施例8の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図15】実施例9の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図16】比較例1の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図17】比較例2の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図18】比較例3の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図19】比較例4の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図20】実施例1の中心及び周辺部の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図21】比較例6の中心及び周辺部の反射防止膜の反射率特性を示す図である。
【
図22】実施例1の光学素子の透過率特性を示す図である。
【
図23】比較例1の光学素子の透過率特性を示す図である。
【
図24】比較例5の光学素子の透過率特性を示す図である。
【
図25】実施例1の光学素子(10枚構成の光学系を想定)の透過率特性を示す図である。
【
図26】比較例1の光学素子(10枚構成の光学系を想定)の透過率特性を示す図である。
【
図27】比較例5の光学素子(10枚構成の光学系を想定)の透過率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明に係る反射防止膜付光学素子の実施の形態を説明する。
【0016】
A.反射防止膜付光学素子の構造における実施の形態
本件発明において、光学素子は特に限定されたものではなく、レンズ、フィルタ、ミラー等、種々のものを用いることができる。本実施形態の光学素子の一例として、
図2にメニスカスレンズである本件発明に係る光学素子10を示す。光学素子10は基材11からなり、基材11はガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、光学材料を用いて形成されたものであればその材質に特に限定はない。基材11は、結像に寄与する有効光束を通過させる光学有効領域12および光学有効領域13を備えており、破線Oは光学素子10の曲率の中心軸を示している。また、基材11の外周部には非光学有効領域14を備えている。
【0017】
ここで、光学有効領域12および光学有効領域13は、光学素子10の光学面のうち、上述の有効光束を通過させたときの光路の最大径と、光学面とが交わる領域を指す。一方、非光学有効領域14は、一般にコバ面またはコバ部と称される領域である。非光学有効領域14には、内面反射を防止する遮光塗料(墨)が塗布されていてもよい。なお、
図2に示す光学有効領域12、13及び非光学有効領域14の形状、範囲等は一例に過ぎず、光学素子10の光学的特性及びその具体的な形状等に応じて、光学有効領域及び非光学有効領域の形状、範囲等は適宜変化する。
【0018】
A-1.反射防止膜
まず、反射防止膜について説明する。異なる屈折率を有する二つの媒質間の界面に光線が入射すると反射光が生じる。この性質を利用して、異なる屈折率の薄い膜を基材の上に成膜し、その界面で発生する反射光による干渉を利用することによって、反射光を抑制する効果を有するものが反射防止膜である。
図3は、本実施の形態の光学素子10において、基材11上に成膜された反射防止膜20の層構成を示す模式図である。反射防止膜20は、複数の層からなる無機下地層21と、無機下地層21の表面に形成された低屈折率層22とからなる多層膜構造である。また、
図3に示すように、低屈折率層22の表面に、さらに機能層23を備えても良い。
【0019】
A-2.反射防止膜の無機下地層
反射防止膜20における無機下地層21は、その界面において異なる屈折率を有する複数の層からなる。この異なる屈折率を有する二つの媒質間の界面において生じる反射光による干渉を利用して、反射光を抑制するものである。反射防止膜20における無機下地層21は、無機下地層21を複数の層で構成することによって、多様な波長帯域や入射角度などの条件において、所定の低反射率特性を達成することができる。ここで、本件発明に係る反射防止膜の無機下地層21は、8層以上であることが好ましい。無機下地層21が8層未満である場合、光の入射角度が0度のとき、波長400nmから1800nmの範囲において、波長幅1nmごとに測定した反射率の標準偏差σが0.15%より大となり、当該反射率の最大値と最小値の差が0.7%以上となる。無機下地層21が8層以上であれば、波長400nmから1800nmにおいて、反射率の局所的な増減による振動を低減することができる。
【0020】
また、本件発明に係る反射防止膜20の無機下地層21の材料は、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、アルミニウムおよびシリコンの酸化物の単体またはこれらの混合物のうちいずれかであることが好ましい。
【0021】
A-3.反射防止膜の低屈折率層
次に、低屈折率層22について説明する。低屈折率層22は、光学干渉作用により入射した光の反射を抑制する反射防止膜として機能する。当該低屈折率層22は、例えば、中空シリカ粒子、多孔質シリカ(ナノポーラスシリカ)等の粒子内に空隙を有する低屈折率材料をバインダにより結着した層、或いは、上記範囲内の屈折率を有する材料からなる層とすることができる。本件発明では、特に、低屈折率層22を、中空シリカ粒子がバインダ(結着材)により互いに結着された中空シリカ層とすることが好ましい。以下、当該低屈折率層22が中空シリカ層であるものとして、当該低屈折率層22の構成を、
図4の低屈折率層22の構成材料である中空シリカ粒子の構造を示す模式図(a)と、低屈折率層22の構成を示す模式図(b)を用いて具体的に説明する。
【0022】
(a)中空シリカ粒子221
まず、中空シリカ粒子221について説明する。本件発明において、中空シリカ粒子221とは、シリカから成る外殻内に中空部を備えたコアシェル構造(バルーン構造)を有するシリカの一次粒子を指す。また、一次粒子とはこのシリカの粒子が他の粒子と凝集していない状態にあるものを指す。具体的には、
図4(a)に模式的に示すように、シリカから成る外殻部221aと、この外殻部221aに周囲が完全に囲まれた中空部221bとから構成されたシリカ粒子を指す。低屈折率層22の層構成材料として、このコアシェル構造を有する中空シリカ粒子221を主たる材料として採用することにより、低屈折率層22の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減することができる。また、シリカ粒子内に細孔を多数有する上記多孔質シリカの集合体から構成された多孔質シリカ層等と比較した場合、本件発明では、中空部221bが外殻部221aにより完全に包囲された中空シリカを用いるため、シリカ粒子自体の強度が高く、耐久性に優れた膜を得ることができる。更に、中空シリカ粒子221の内部に液体等が侵入しないため、湿式成膜法により成膜する場合であっても、シリカ内部の中空部221bが樹脂材料等により充填される恐れがない。つまり、材料自体の空隙率を維持して、屈折率が増加するのを防止することができる。
【0023】
ここで、当該中空シリカ粒子221の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。5nm未満であると、低屈折率層22内に中空シリカ粒子221の中空部221b以外の空隙部223を設けることが困難になる。一方、中空シリカ粒子221の平均粒径が100nmを超える場合、ヘイズの上昇による光の散乱が発生する。光の散乱が発生すると、当該中空シリカ粒子221を用いた反射防止膜20は、撮像素子に要求される反射防止性能を満たすことができず、好ましくない。また、中空シリカ粒子221の平均粒径が100nmを超える場合、低屈折率層22の物理膜厚を数nm単位で精密に制御することが極めて困難になる。当該低屈折率層22の膜厚にバラツキが生じると、反射防止膜20の反射防止性能にバラツキが生じる恐れがあり、好ましくない。
【0024】
(b)バインダ222
次に、バインダ222について説明する。
図4(b)に示すように、低屈折率層22は、無機下地層21の表面に形成され、中空シリカ粒子221がバインダ222により互いに結着された構造である。ここで、中空シリカ粒子221の外表面がバインダ222により被覆されると共に、この中空シリカ粒子221の外表面を被覆したバインダ222により中空シリカ粒子221が互いに結着されていることが好ましい。
【0025】
当該バインダ222は、樹脂材料又は金属アルコキシドから成ることが好ましい。バインダ222を構成する樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、液晶ポリマー等或いはこれらの単量体化合物を挙げることができる。これらの樹脂材料は紫外線硬化性、常温硬化性、又は熱硬化性の化合物であることが好ましい。
【0026】
(c)空隙部223
本件発明において、低屈折率層22内には
図4(b)に示すように互いに結着されたシリカ粒子221間に空隙部223が設けられることが好ましい。低屈折率層22内に、中空シリカ粒子221の内部に存在する中空部221bと共に、当該中空シリカ粒子221間に、バインダ222により囲まれた空隙部223を設けることにより、低屈折率層22内の空隙率を増加させ、これによって、当該低屈折率層22の屈折率をシリカ自体の屈折率よりも更に低くすることができ、反射防止性能のより高い層とすることができる。また、本実施の形態のように、空隙部223をバインダ等により充填しなくとも、当該中空シリカ粒子221の外表面を被覆するバインダ222を介して中空シリカ粒子221同士を結着させることにより、中空シリカ粒子221同士の密着性を向上することができ、且つ、個々の中空シリカ粒子221と無機下地層21との密着性を向上することができる。また、中空シリカ粒子221自体はシリカからなる外殻部221aにより囲まれているため、低屈折率層22の外表面を樹脂等により被覆しなくとも、耐擦傷性や耐久性に優れた層とすることができる。
【0027】
(d)中空シリカ粒子221及びバインダ222の体積率
ここで、低屈折率層22において中空シリカ粒子221及びバインダ222が層内に占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。ここでいう中空シリカ粒子221が占める体積とは、低屈折率層22において、中空シリカ粒子221の外殻部221aと、この外殻部221aに囲まれる中空部221bとを含む中空シリカ球の全体積を意味する。低屈折率層22において中空シリカ粒子221及びバインダ222が占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層22の耐久性や耐擦傷性が低下するため好ましくない。一方、低屈折率層22において中空シリカ粒子221が占める体積が99体積%を超える場合、低屈折率層中の前述した空隙部223の体積が小さくなり低屈折率層22の屈折率が所望の特性に及ばなくなる。当該低屈折率層22の屈折率を更に低くするという観点から、低屈折率層22において中空シリカ粒子221が占める体積は90体積%以下であることがより好ましい。
【0028】
A-4.機能層
次に、機能層23について説明する。本件発明に係る光学素子10は、低屈折率層22の表面に機能層23を備えることができる。
図3に、低屈折率層22の表面に機能層23を備えた状態を示す。ここで、機能層23とは、低屈折率層22の反射防止性能に光学的な影響を与えない透明な極薄い膜であって、各種の機能を有する層を指す。例えば、低屈折率層22の表面には、低屈折率層22の表面の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、防曇性、親水性、耐防汚性、導電性等の向上等の各種機能を有する機能層23を設けることができる。
【0029】
当該機能層23は、物理膜厚が0.1nm以上30nm以下であることが好ましい。物理膜厚が0.1nm未満であると、機能層23を設けても当該機能層23に要求される機能を発揮することができず好ましくない。また、物理膜厚が30nmを超える場合、当該低屈折率層22の反射防止特性に光学的な影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。
【0030】
機能層23を構成する材料としては、屈折率が1.30以上2.35以下の透明材料を用いることができる。屈折率が当該範囲内であって透明な材料であれば、反射防止膜の表面に付与すべき機能に応じて、適宜、適切な材料を選択すればよい。例えば、屈折率が当該範囲内の透明な無機材料として、SiOxNy、SiO2、SiOx、Al2O3、ZrO2とTiO2との混合物、La2O3とTiO2との混合物、SnO2、ZrO2、La2O3とAl2O3との混合物、Pr2O5、ITO(酸化インジウムスズ)、AZO(酸化亜鉛アルミニウム)などを挙げることができる。また、DLC(ダイアモンドライクカーボン)、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)、エポキシ系の樹脂、アクリル系の樹脂(特に、PMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、フッ素系の樹脂等を用いることができる。また、これらの材料を含む各種ハードコート剤を用いてもよい。機能層23の形成に際しては、材料及び膜厚に応じて適宜、適切な成膜方法を採用することができる。
【0031】
また、機能層23を低屈折率層22の表面に設ける場合、低屈折率層22の物理膜厚と機能層23の物理膜厚との合計の物理膜厚が100nm以上180nm以下とすることが好ましい。この範囲を超えると、当該低屈折率層22の反射防止効果が低下する場合があり好ましくない。
【0032】
A-5.反射防止膜付光学素子
図1に、本実施の形態の反射防止膜を備えた光学素子の断面図を示す。基材11の光学有効領域12および光学有効領域13に、複数の層からなる無機下地層21が形成されている。無機下地層の表面、および非光学有効領域14には、低屈折率層22が形成されている。光学有効領域に本実施の形態の反射防止膜を備えていることから、波長400nmから1800nmにおいて、低反射率であり、反射率の局所的な増減による振動が低減された光学素子が得られる。
【0033】
B.反射防止膜付光学素子の特性における実施の形態
B-1.無機下地層
上述のとおり、反射防止膜20における無機下地層21は、その界面において異なる屈折率を有する複数の層からなる。ここで、本件発明に係る反射防止膜の無機下地層21の材料のうち、最も高屈折率の材料の屈折率をnHとし、最も低屈折率の材料の屈折率をnLとするとき、0.5 ≦ nH - nL ≦ 0.9を満たすことが好ましい。nH - nL が 0.5未満である場合、もしくはnH - nL が0.9を越える場合、超広帯域な波長領域での低反射特性かつ高透過率特性を得ることができず、当該反射防止膜付光学素子の反射率の標準偏差σが0.15%より大となり、当該反射率の最大値と最小値の差が0.7%以上となり、反射率の局所的な増減による振動の発生が増大する。0.5 ≦ nH - nL ≦ 0.9を満たすことによって、波長が400nmから1800nmまでの超広帯域であっても低反射特性かつ高透過率特性を得ることができる。
【0034】
B-2.低屈折率層
上述の通り、無機下地層21の表面には低屈折率層22が形成される。ここで、本件発明に係る反射防止膜の低屈折率層22は、その屈折率nが1.10より大1.25より小であることが好ましく、且つ、低屈折率層22の膜厚をdとしたとき、125 < n × d < 200を満たすことが好ましい。但しdの単位は「nm」である。屈折率nが1.10以下の場合、中空シリカ粒子を用いてなる低屈折率層22において、層内の空隙率が高くなり過ぎ、低屈折率層22の耐久性等が低下するため、好ましくない。一方、1.25以上である場合、反射防止性能が低下する。また、n × d が125以下、 もしくはn × dが200以上である場合、波長400nmから1800nmの範囲において平均反射率0.5%以下の低反射率な特性を得ることができない。屈折率nが1.10より大1.25より小であり、且つ、膜厚をdとしたとき、125 < n × d < 200であれば、波長400nmから1800nmにおいて、低反射率であり、反射率の局所的な増減による振動を低減することができる。
【0035】
なお、低屈折率層22の屈折率が小さい場合、中空シリカ粒子を用いてなる低屈折率層22において、層内の空隙率が高くなり過ぎ、低屈折率層22の耐久性等が低下するため、低屈折率層22の屈折率nは1.15より大1.25より小であることがより好ましく、且つ、低屈折率層の膜厚をdとしたとき、130 ≦ n × d ≦ 190を満たすことがより好ましい。
【0036】
B-3.機能層
当該機能層23は、その屈折率が1.30以上2.35以下であり、且つ、物理膜厚が0.1nm以上30nm以下であることが好ましい。機能層23の屈折率が1.30以上2.35以下であって、且つ、物理膜厚が0.1nm以上30nm以下であれば、低屈折率層22による反射防止効果に対する光学的な影響を無視することができる。屈折率が上記範囲を超える場合、当該低屈折率層22の反射防止特性に光学的に影響を及ぼす恐れがある。
【0037】
B-4.反射防止膜付光学素子の反射率
光学有効領域12および光学有効領域13に形成された本件発明に係る反射防止膜は、複数の層からなる無機下地層21と、無機下地層21の表面に設けた低屈折率層22とからなる。ここで、光の入射角度が0度のとき、波長400nmから1800nmの範囲において、波長幅1nmごとに測定した当該反射防止膜付光学素子の反射率の標準偏差σが0.01%より大 0.15%より小であることが好ましい。反射率の標準偏差が0.15%以上である場合、各波長における反射率のばらつきが大きく、取得される画像および波長情報に大きく影響を与える可能性がある。反射率の標準偏差が0.01%以下である場合、その成膜は困難である。反射率の標準偏差σが0.01%より大 0.15%より小であることにより、反射率のばらつき分布が小さく抑制されており、均一に反射率を低減させることができる。
【0038】
なお、成膜工程における安定した反射防止膜の形成を考慮すると、波長400nmから1800nmの範囲において、波長幅1nmごとに測定した当該反射防止膜付光学素子の反射率の標準偏差σは0.05%より大 0.15%より小であることがより好ましい。
【0039】
また、光学有効領域12および光学有効領域13に形成された本件発明に係る反射防止膜は、その反射率の最大値と最小値の差が0.7%以下であることが好ましい。反射率の最大値と最小値の差が0.7%より大である場合、反射率が局所的に大きく増減することになり、取得される画像および波長情報に大きく影響を与える可能性がある。反射率の最大値と最小値の差が0.7%以下であることにより、反射率が局所的に大きく増減することがなく、均一な反射率分布特性を得ることができる。
【0040】
また、光学有効領域12および光学有効領域13に形成された本件発明に係る反射防止膜は、波長400nmから1800nmにおける光線の反射防止膜に対する入射角度が0度以上15度以下のとき、当該反射防止膜付光学素子の反射率が1.0%以下であり、入射角度が30°以上45°以下のときの反射率が3.5%以下であることが好ましい。入射角度が0度以上15度以下のとき、反射率が1.0%より大であり、入射角度が30°以上45°以下のときの反射率が3.5%より大の場合、反射率が高く、透過率が小さくなるため、取得される画像および波長情報に大きく影響を与える可能性がある。入射角度が0度以上15度以下のとき、反射率が1.0%以下であり、入射角度が30°以上45°以下のときの反射率が3.5%以下であることにより、低反射率であり、透過率が大きくなって、取得される画像および波長情報の精度が向上する。
【0041】
C.反射防止膜付光学素子を備えた光学系における実施の形態
但し、上述した実施の形態は本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能なのは勿論である。例えば、上記実施の形態では、
図2に示す凹メニスカスレンズを例に挙げて説明したが、本件発明に係る光学素子10の形状は凹メニスカスレンズに限定されるものではなく、凸メニスカスレンズは勿論、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、非球面レンズ、接着剤により張り合わされた接合レンズ、自由曲面レンズ、プリズム等どのような形状であってもよく、その用途等は特に限定されるものではない。すなわち、上記列挙した種々の光学素子10に好適に適用することができる。
【0042】
一般に光学系とは、反射や屈折などの光の性質を利用して物体の像を生じさせる、上述の種々の光学素子10の組合せである。ここで、本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、波長400nmから1800nmにわたって低反射率であり、反射率の局所的な増減による振動を低減することができる。したがって、本件発明は、単レンズなどの単独で用いられる光学素子10だけでなく、波長400nmから1800nmにわたって画像および波長情報を取得する光学系に組み込まれる光学素子10に適用することが特に好ましい。
【0043】
D.反射防止膜付光学素子の製造方法における実施の形態
本件発明に係る反射防止膜付光学素子の製造方法の形態を説明する。本件発明に係る反射防止膜付光学素子の製造方法は、基材11の両面の光学有効領域上に設けられる反射防止膜のうち、無機下地層21を光学有効領域12および光学有効領域13上に成膜する第1工程と、低屈折率層22を少なくとも無機下地層21の表面に基材11の両面同時に成膜する第2工程と、を有している。
【0044】
D-1.第1工程
本件発明に係る反射防止膜の無機下地層21を成膜する第1工程は、物理気相成長に分類される真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、または、化学気相成長に分類される原子層堆積法、プラズマCVD法により行うことが好ましい。
【0045】
D-2.第2工程
本件発明に係る反射防止膜の低屈折率層22を成膜する第2工程は、非光学有効領域14を含む基材11の両面同時に成膜する工程であって、ディップコート法で行うことが好ましい。ディップコート法で成膜することによって、基材11の非光学有効領域14と、光学有効領域12および光学有効領域13の両面とを同時に成膜が可能であり、両面を同時に成膜することから、成膜された両面の反射防止膜が色ムラ等欠陥の無い均一な膜となる。また、基材11の両面に成膜された反射防止膜の一方に設けられた低屈折率層22の膜厚をd1(nm)、他方に設けられた低屈折率層22の膜厚をd2(nm)、としたとき、これら2つの膜厚の平均値dm(nm)に対するd1およびd2の偏差が±1%以内で低屈折率層22を成膜することができることから、基材11の両面に成膜された反射防止膜の成膜品質を揃えることができ、反射率の局所的な増減による振動を低減することができる。
【0046】
ここで、第2工程として、スピンコート法を用いて成膜する場合、曲率半径が小さい凹レンズなどは、周辺部になるほど膜厚が厚くなり、反射特性が周辺部と中心部とで異なることによって色ムラが発生することがある。このようなスピンコート法を用いた成膜では、超広帯域における反射率特性において、その最大値と最小値との差や、標準偏差を十分に低減させることは難しい。そして、面内の膜厚が不均一なレンズでは、超広帯域における反射率特性において、中心部での反射防止効果には優れるが、周辺部での反射防止効果が中心部と比較し劣ってしまう。
【0047】
さらに、スピンコート法は、片面ずつの成膜法である。透過率向上のために、レンズ両面への低屈折率層の成膜を行う場合、スピンコート法では、スピンコータへのレンズ取り付けや成膜時などに、先に成膜した低屈折率層のキズつきや剥がれによる破壊、コーティング溶液の裏面廻りこみによる汚れが発生する可能性が高い。したがって、第2工程として、スピンコート法を用いることは好ましくない。
【0048】
次に、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
〔実施例1、2〕
表1に、実施例1および実施例2の反射防止膜の構成を示す。実施例1の基材11には、波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。実施例2の基材11には、波長550nmでの屈折率が2.118の光学ガラス製のレンズを用いた。そして、基材11の光学有効領域12、13に、Nb
2O
5およびSiO
2を材料として、1層目から16層目までの多層膜構造を有する無機下地層21をスパッタ法により設けた。続いて、この無機下地層21の表面に酸素によるRIE処理(リアクテイブイオンエッチング処理)を施し、無機下地層21表面の濡れ性を向上させた上で、当該無機下地層21の表面に低屈折率層22を成膜した。低屈折率層22の成膜においては、粒径が約60nmの中空シリカ粒子と、バインダ成分としてのアクリル樹脂をプロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分とした溶剤に撹拌、溶解、調製した塗工液を用いて、ディップコート法により光学有効領域12、13へ同時に成膜した。その後、上述の通り成膜した塗膜をクリーンオーブンにより180℃で1時間加熱した。これにより中空シリカ粒子がアクリル樹脂(バインダ)で結着して成る低屈折率層22を得た。当該低屈折率層22は、波長550nmでの屈折率が1.23で、膜厚が143nmになるように調整した。以上のようにして、実施例1および実施例2における
図1に示す形態の光学素子を作製した。
【0050】
【0051】
〔実施例3~9〕
表2に、実施例3~9の反射防止膜の構成を示す。実施例4~6の基材11には、波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。実施例3と実施例7~9の基材11には、波長550nmでの屈折率が2.118の光学ガラス製のレンズを用いた。そして、基材11の光学有効領域12、13に、Nb
2O
5およびSiO
2を材料として、多層膜構造を有する無機下地層21をスパッタ法により設けた。続いて、この無機下地層21の表面に酸素によるRIE処理(リアクテイブイオンエッチング処理)を施し、無機下地層21表面の濡れ性を向上させた上で、当該無機下地層21の表面に低屈折率層22を成膜した。低屈折率層22の成膜においては、粒径が約60nmの中空シリカ粒子と、バインダ成分としてのアクリル樹脂をプロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分とした溶剤に撹拌、溶解、調製した塗工液を用いて、ディップコート法により光学有効領域12、13へ同時に成膜した。その後、上述の通り成膜した塗膜をクリーンオーブンにより180℃で1時間加熱して作製した。これにより中空シリカ粒子がアクリル樹脂(バインダ)で結着して成る低屈折率層22を得た。以上のようにして、実施例3~9における
図1に示す形態の光学素子を作製した。
【0052】
【0053】
〔比較例1、2〕
表3に、比較例1および比較例2の反射防止膜の構成を示す。比較例1の基材11は、実施例1と同じ波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。比較例2の基材11は、実施例2と同じ波長550nmでの屈折率が2.118の光学ガラス製のレンズを用いた。そして、基材11の光学有効領域12、13に、Nb
2O
5およびSiO
2を材料として、多層膜構造を有する無機下地層21をスパッタ法により設けた。次に、比較例1、2の低屈折率層22は、MgF
2を真空蒸着法により光学有効領域12、13へ成膜した。当該低屈折率層22は、波長550nmでの屈折率が1.38であった。以上のようにして、比較例1および比較例2における
図5に示す形態の光学素子を作製した。
【0054】
【0055】
〔比較例3、4〕
表4に、実施例3および実施例4の反射防止膜の構成を示す。比較例3の基材11は、実施例1と同じ形状の波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。比較例4の基材11は、実施例2と同じ形状の波長550nmでの屈折率が2.118の光学ガラス製のレンズを用いた。無機下地層21は、AL
2O
3およびキヤノンオプトロン株式会社製OH-5(ZrO
2とTiO
2の混合物)を材料として、真空蒸着法により光学有効領域12、13へ成膜した。また、低屈折率層22は、粒径が約60nmの中空シリカ粒子と、バインダ成分としてのアクリル樹脂をプロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分とした溶剤に撹拌、溶解、調製した塗工液を用いて、ディップコート法により光学有効領域12、13へ同時に成膜した。その後、上述の通り成膜した塗膜をクリーンオーブンにより180℃で1時間加熱して作製した。これにより中空シリカ粒子がアクリル樹脂(バインダ)で結着して成る低屈折率層22を得た。当該低屈折率層22は、波長550nmでの屈折率が1.23で、膜厚が143nmになるように調整した。以上のようにして、比較例3および比較例4における
図1に示す形態の光学素子を作製した。
【0056】
【0057】
〔比較例5〕
比較例5の基材11は、実施例1と同じ波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。まず、光学有効領域12へは、比較例1で説明した無機下地層21と低屈折率相22の反射防止膜を成膜した。続いて、光学有効領域13へ実施例1で説明した無機下地層21をスパッタ法により成膜した後、光学有効領域12に対しマスキング処理を行った。次に、実施例1と同様にして低屈折率層22をディップコート法により光学有効領域13へ成膜した。その後、上述の通り成膜した塗膜をクリーンオーブンにより180℃で1時間加熱した。クリーンオーブンによる焼成後、光学有効領域12に施したマスキングを剥がした。以上のようにして、比較例5における
図6に示す形態の光学素子を作製した。
【0058】
〔比較例6〕
比較例6の基材11は、実施例1と同じ波長550nmでの屈折率が1.498の光学ガラス製のレンズを用いた。まず、光学有効領域12へは、比較例1で説明した無機下地層21と低屈折率相22の反射防止膜を成膜した。続いて、光学有効領域13へ実施例1で説明した無機下地層21をスパッタ法により成膜した。次に、実施例1で説明した条件で調整した低屈折率層用の塗工液を用いて、低屈折率層22を市販のスピンコータを用いて、スピンコート法により光学有効領域13へ物理膜厚が143nmになるように成膜した。その後、上述の通り成膜した塗膜をクリーンオーブンにより180℃で1時間加熱した。以上のようにして、比較例6における
図5に示す形態の光学素子を作製した。
【0059】
〔評価〕
1.反射防止特性
実施例1~9で得られた各反射防止膜と、比較例1~4の反射防止膜との反射防止特性について評価した。反射率は、反射率測定器を用いて反射防止膜に対する光線の入射角度を0度、15度、30度、45度とし、各入射角度において、400nm~1800nmの波長域で反射率を測定した。実施例1~2における結果を
図7~
図8に、実施例3~9における結果を
図9~
図15に、比較例1~2における結果を
図16~
図17に、比較例3~4における結果を
図18~
図19に、それぞれ示す。また各図では、入射角0度のときの反射率を実線で、入射角15度のときの反射率を点線で、入射角30度のときの反射率を破線で、入射角45度のときの反射率を一点鎖線でそれぞれ示す。以下、各実施例および比較例の評価結果について述べる。
【0060】
1-1.実施例1および実施例2における反射率評価結果
図7および
図8から、実施例1および実施例2における反射率は、400nm~1800nmの波長域において、入射角が0度および15度のときで0.6%以下、かつ入射角が30度および45度のときで3.0%以下であることが判明した。この結果から、実施例1および実施例2の反射防止膜付光学素子は、本件発明に係る反射防止膜20を、光学素子の少なくとも光学有効領域の両面(光学有効領域12および光学有効領域13)に備えることで、高い反射防止性能が得られていることが明らかとなった。
【0061】
1-2.実施例3~9における反射率評価結果
図9~
図15から、実施例3~9における反射率は、400nm~1800nmの波長域において、入射角が0度および15度のときで1.0%以下、かつ入射角が30度および45度のときで3.5%以下であることが判明した。この結果から、実施例3~9の反射防止膜付光学素子は、本件発明に係る反射防止膜20を、光学素子の少なくとも光学有効領域の両面(光学有効領域12および光学有効領域13)に備えることで、高い反射防止性能が得られていることが明らかとなった。
【0062】
また、実施例3では無機下地層21を8層の多層膜構造とした。この場合でも上述の反射率の結果が得られていることから、本件出願に係る反射防止膜の無機下地層は8層以上であれば、400nm~1800nmの波長域で高い反射防止性能が得られることが明らかとなった。
【0063】
1-3.比較例1および比較例2における反射率評価結果
図16および
図17から、比較例1および比較例2における反射率は、400nm~1800nmの波長域において、入射角が0度および15度のときで2.5%以下、かつ入射角が30度および45度のときで5.0%以下であることが判明した。この結果から、比較例1および比較例2の反射防止膜付光学素子は、実施例1~9と比較して反射防止性能が劣っていることが明らかとなった。
【0064】
ここで、比較例1および比較例2で作製した反射防止膜と、実施例1および実施例2で作製した反射防止膜とは、無機下地層21を構成する材料は同じであるが、低屈折率層22の屈折率が異なっている。比較例1および比較例2における低屈折率層22は、屈折率1.38のMgF2(フッ化マグネシウム)を真空蒸着法によって成膜したものである。したがって、低屈折率層22として、MgF2を真空蒸着法によって成膜したものは、400nm~1800nmの波長域で、広い入射角度の光線にする低反射を得ることができないことが判明した。
【0065】
また、実施例4~実施例9の評価結果である
図10~
図15から、これらの反射防止膜付光学素子は、高い反射防止性能が得られていることが明らかとなっているが、実施例4および実施例7の低屈折率層22の屈折率が1.15であり、実施例6および実施例9の低屈折率層22の屈折率が1.25であった。したがって、上述の実施例1および実施例2、実施例4~実施例9と、比較例1および比較例2との評価結果から、本件出願に係る反射防止膜の低屈折率層22の屈折率は、「1.10より大1.25より小であり、且つ、低屈折率層の膜厚をdとしたとき、125 < n × d < 200」を満たすことが好ましく、また、「1.15より大1.25より小であり、且つ、130 ≦ n × d ≦ 190」を満たすことがより好ましいことが明らかとなった。
【0066】
1-4.比較例3および比較例4における反射率評価結果
図18および
図19から、比較例3および比較例4における反射率は、400nm~1800nmの波長域において、入射角が0度および15度のときで3.5%以下、かつ入射角が30度および45度のときで6.5%以下であることが判明した。この結果から、比較例3および比較例4の反射防止膜付光学素子は、実施例1~9と比較して反射防止性能が劣っていることが明らかとなった。
【0067】
ここで、比較例3および比較例4で作製した反射防止膜と、実施例1および実施例2で作製した反射防止膜とにおいて、低屈折率層22は同じ構成(材料、屈折率および物理膜厚)であるが、無機下地層21を構成する材料が異なっている。比較例3および比較例4における無機下地層21を構成する材料において、最も高屈折率の材料の屈折率nHと最も低屈折率の材料の屈折率nLの差は0.47であった。すなわち、無機下地層21を構成する材料において、最も高屈折率の材料の屈折率nHと最も低屈折率の材料の屈折率nLの差が0.47以下では、400nm~1800nmの波長域で、広い入射角度の光線にする低反射率特性を得ることができないことが判明した。一方、実施例1および実施例2における無機下地層の最も高屈折率の材料の屈折率と最も低屈折率の材料の屈折率の差は0.84であった。
【0068】
したがって、上述の結果から、本件出願に係る反射防止膜の無機下地層21の最も高屈折率の材料の屈折率nHと最も低屈折率の材料の屈折率nLの差は、0.5 ≦ nH - nL ≦ 0.9であることが好ましいことが明らかとなった。
【0069】
2.異なる成膜方法による低屈折率層からなる反射防止膜の反射防止特性比較
実施例1と比較例6との光学有効領域13における反射防止膜において、無機下地層21は同じ構成(材料、屈折率および物理膜厚)であるが、低屈折率層22は同じ塗工液を異なる方法を用いて成膜したものである。具体的には、実施例1はディップコート法、比較例6はスピンコート法を成膜方法として用いている。ここで、実施例1と比較例6との、光学有効領域13へ成膜した反射防止膜の反射率特性について評価した。
【0070】
光学有効領域13における反射率の測定ポイントは、光学素子10の中心位置と、半開角位置との2か所とした。ここで、開角とは、光学有効領域の曲率中心から、光学有効領域の有効径端とを結ぶ直線が成す角度であり、半開角とは開角の1/2の角度を意味する。本実施の形態の一例である光学素子10の開角は120度であり、半開角は60度である。測定ポイントにおける反射防止膜に対する光線の入射角度は0度とし、400nm~1800nmの波長域で、反射率測定器を用いて、反射率を測定した。実施例1で作製した光学素子における結果を
図20に、比較例6で作製した光学素子における結果を
図21に、それぞれ示す。また各図では、光学素子10の中心位置の反射率を実線で、光学素子10の半開角位置の反射率を点線でそれぞれ示す。以下、評価結果について述べる。
【0071】
図20から、実施例1で作製した光学素子10の中心位置と半開角位置とにおける反射率は、400nm~1800nmの波長域において、0.7%以下であることが判明した。この結果から、実施例1の光学有効領域13へディップコート法により成膜された反射防止膜は、低屈折率層22が光学有効領域13内で均一に成膜されていることが明らかとなった。
【0072】
次に、
図21から、比較例6で作製した光学素子10の中心位置における反射率は、400nm~1800nmの波長域において、0.7%以下であった。しかしながら、半開角位置における反射率は、400nmで3%以上、700nmから1800nmで1%以上となり反射防止性能が劣っていることが判明した。すなわち、比較例6の光学有効領域13へスピンコート法により成膜された低屈折率層22は、その膜厚にバラツキが生じていることが明らかとなった。この結果から、反射防止膜の低屈折率層22における実施例1で説明した塗工液の成膜方法において、ディップコート法が好ましく、スピンコート法は好ましくないことが明らかとなった。
【0073】
3.反射率の局所的な増減による振動特性
反射防止膜の反射率Rの波長特性は、400nm~1800nmの波長域において反射率の局所的な増減による振動が小さく均一で、かつ、反射率の平均値が低く、標準偏差の小さいものが望ましい。そこで、実施例1~9および比較例1~4における評価結果の
図7~
図19をもとに、400nm~1800nmの波長域における反射率Rの平均反射率Rm、標準偏差σ、最大値Rmax、最小値Rmin、最大値Rmaxと最小値Rminの差を求め、これらを評価した。なお、反射率Rは、400nmから波長幅1nmごとに1800nmまで(N=1401)測定した。
【0074】
表5に、実施例1~9および比較例1~4における反射率Rの波長特性について、400nm~1800nmの平均反射率Rm、標準偏差σ、最大値Rmax、最小値Rmin、最大値Rmaxと最小値Rminの差を求めた結果と、これら5つのパラメータを評価した結果を示す。なお、本実施例における評価基準として、平均反射率Rmが0.5%以下、標準偏差σが0.15%以下、最大値Rmaxと最小値Rminの差が0.7%以下であることが好ましいとした(表5中「〇」印で示す)。
【0075】
【0076】
表5に示すように、実施例1~9の反射防止膜は400nm~1800nmの波長域において、平均反射率0.5%以下の高い反射防止性能が得られ、また、反射率の標準偏差は0.15%以下であり、反射率の最大値と最小値の差は0.7%以下であることから、評価基準を満足することが判明した。これに対して、比較例1~4では、平均反射率1.0%以上であり、反射率の標準偏差は0.2%以上であり、反射率の最大値と最小値の差は1%以上であることから、評価基準を満足しないことが判明した。
【0077】
したがって、上述の結果から、本件出願に係る反射防止膜付光学素子は、400nm~1800nmの波長域において、高い反射防止性能を有し、且つ、反射率の局所的な増減による振動も抑制されることが明らかとなった。
【0078】
4.透過率特性
各種光学機器の光学系は一般的に複数枚の光学素子から構成される。光学系の光学素子の枚数が増加すると光の反射損失も増大する。したがって、複数枚の光学素子から構成される光学系において、400nm~1800nmのような超広帯域で微小な画像および波長情報の差の取得を実現するには、光学系の透過光量を向上させる必要がある。そこで、実施例1で作製した光学素子と、比較例1および比較例5で作製した光学素子の透過率について評価した。
【0079】
透過率の測定に際しては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4100を用いた。透過率は、光学素子に対する光線の入射角度を0度とし、400nmから波長幅1nmごとに1800nmまで(N=1401)測定した。
【0080】
4-1.光学素子の透過率特性
表6に、実施例1で作製した光学素子と、比較例1および比較例5で作製した光学素子の透過率Tについて、400nm~1800nmの平均透過率Tm、標準偏差σ、最大値Tmax、最小値Tmin、最大値Tmaxと最小値Tminの差を求めた結果と、これら5つのパラメータを評価した結果を示す。本実施例における評価基準として、平均透過率Tmが99.0%以上、標準偏差σが0.30%以下、最大値Tmaxと最小値Tminの差が1.5%以下であることが好ましいとした(表6中「〇」印で示す)。
【0081】
【0082】
実施例1で作製した光学素子の透過率の測定結果を
図22に示す。表6および
図22から、実施例1の光学素子は400nm~1800nmの波長域において平均透過率99.0%以上であり、透過率の標準偏差は0.3%以下、透過率の最大値と最小値の差は1.5%以下であることから、評価基準を満足することが判明した。したがって、本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、高い透過率特性を有することが明らかとなった。
【0083】
次に、比較例1で作製した光学素子の透過率の測定結果を
図23に示す。表6および
図23から、比較例1の光学素子は400nm~1800nmの波長域において平均透過率99.0%以下であり、透過率の標準偏差は0.3%以上であり、透過率の最大値と最小値の差は1.5%以上であることから、評価基準を満足しないことが判明した。したがって、低屈折率層22としてMgF
2を真空蒸着法により光学有効領域12、13へ成膜した反射防止膜付光学素子は、透過率が劣っていることが明らかとなった。
【0084】
次に、比較例5で作製した光学素子の透過率の測定結果を
図24に示す。表6および
図24から、比較例5の光学素子は400nm~1800nmの波長域において平均透過率99.0%以下であり、透過率の標準偏差は0.3%以上であり、透過率の最大値と最小値の差は1.5%以上であることから、評価基準を満足しないことが判明した。したがって、光学有効領域12へは比較例1の反射防止膜を成膜し、光学有効領域13へは実施例1の反射防止膜を成膜した反射防止膜付光学素子は、透過率が劣っていることが明らかとなった。
【0085】
以上のことから、本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、本件発明に係る反射防止膜20を、光学素子の少なくとも光学有効領域の両面(光学有効領域12および光学有効領域13)に備えることで、高い透過率特性を有することが明らかとなった。
【0086】
4-2.複数の光学素子からなる光学系における透過率特性
次に、実施例1で作製した光学素子と、比較例1および比較例5で作製した光学素子を10枚構成の光学系で使用した場合の透過率について、分光光度計U4100により測定した透過率結果を用いてシミュレーションにより算出した。
【0087】
表7に、実施例1で作製した光学素子と、比較例1および比較例5で作製した光学素子を10枚構成の光学系で使用した場合の透過率Tについて、400~1800nmの平均透過率Tm、標準偏差σ、最大値Tmax、最小値Tmin、最大値Tmaxと最小値Tminの差を求めた結果と、これら5つのパラメータを評価した結果を示す。本実施例における評価基準として、平均透過率Tmが90.0%以上、標準偏差σが3.00%以下、最大値Tmaxと最小値Tminの差が10.0%以下であることが好ましいとした(表7中「〇」印で示す)。
【0088】
【0089】
実施例1で作製した光学素子を10枚構成とした光学系の場合の透過率シミュレーション結果を
図25に示す。表7および
図25から、実施例1の光学素子の枚数を10枚構成で使用しても400~1800nmの波長域において平均透過率90.0%以上であり、透過率の標準偏差は3.0%以下であり、透過率の最大値と最小値の差は10.0%以下であることから、評価基準を満足することが判明した。したがって、本件発明に係る反射防止膜付光学素子を10枚構成とした光学系は、高い透過率特性を有することが明らかとなった。
【0090】
比較例1で作製した光学素子を10枚構成とした光学系の場合の透過率シミュレーション結果を
図26に示す。表7および
図26から、比較例1の光学素子の枚数を10枚構成で使用すると、400~1800nmの波長域において平均透過率85.0%以下となり、透過率の標準偏差は3.0%以上であり、透過率の最大値と最小値の差は10.0%以上であることから、評価基準を満足しないことが判明した。したがって、低屈折率層22としてMgF
2を真空蒸着法により光学有効領域12、13へ成膜した反射防止膜付光学素子を10枚構成とした光学系は、透過率が劣っていることが明らかとなった。
【0091】
比較例5で作製した光学素子を10枚構成の光学系で使用した場合の透過率シミュレーション結果を
図27に示す。表7および
図27から、比較例5の光学素子の枚数を10枚構成で使用すると、400~1800nmの波長域において平均透過率90.0%以下となり、透過率の標準偏差は3.0%以上であり、透過率の最大値と最小値の差は10.0%以上であることから、評価基準を満足しないことが判明した。したがって、光学有効領域12へは比較例1の反射防止膜を成膜し、光学有効領域13へは実施例1の反射防止膜を成膜した反射防止膜付光学素子を10枚構成とした光学系は、透過率が劣っていることが明らかとなった。
【0092】
以上のことから、本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、本件発明に係る反射防止膜20を、光学素子の少なくとも光学有効領域の両面(光学有効領域12および光学有効領域13)に備えることで、当該光学素子を10枚構成とした光学系において、高い透過率特性を有することが明らかとなった。また、本件発明にかかる反射防止膜付光学素子は、400nm~1800nmの波長域において、高い透過率を有し、且つ、透過率の局所的な増減による振動も抑制されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本件発明に係る反射防止膜付光学素子は、400nmから1800nmの超広帯域において、反射率の局所的な増減による振動の発生を抑制し、均一に反射率を低減させる効果を有するため、超広帯域な波長帯域を撮像するスペクトルカメラなどの光学機器に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 光学素子(レンズ)
11 基材
12 光学有効領域
13 光学有効領域
14 非光学有効領域
20 反射防止膜
21 無機下地層
22 低屈折率層
23 機能層
30 フッ化マグネシウム(MgF2)層
221 中空シリカ粒子
221a 外殻部
221b 中空部
222 バインダ
223 空隙部