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特許7402685(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラ-ヒドロピラゾロ[1,5-A]ピリミジン-3-カルボキサミドの結晶形、その調製、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラ-ヒドロピラゾロ[1,5-A]ピリミジン-3-カルボキサミドの結晶形、その調製、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20231214BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231214BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07D487/04 142
C07D487/04 CSP
A61K31/519
A61P7/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/06
A61P37/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019508889
(86)(22)【出願日】2017-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 IB2017054955
(87)【国際公開番号】W WO2018033853
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-13
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/095510
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519371552
【氏名又は名称】ベイジーン スウィッツァーランド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ ユンハン
(72)【発明者】
【氏名】シー ゴンイン
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】齋藤 恵
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521273(JP,A)
【文献】高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
【文献】塩路雄作,固形製剤の製造技術,東京:シーエムシー出版,2003年 1月27日,普及版,pp. 9, 12-13,ISBN 4-88231-783-4
【文献】平山令明編著,有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-,2008年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,A61K
REGISTRY/CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1の結晶、
【化1】
化合物1
ここで、前記結晶は、無水物であり、
X線粉末回折パターンが12.2±0.2°、12.9±0.2°、14.8±0.2°、15.6±0.2°、16.4±0.2°、17.7±0.2°、18.5±0.2°、20.7±0.2°及び21.4±0.2°の2θ角度値を有する回折ピークを含む、結晶。
【請求項2】
結晶の融点が139±2℃(開始温度)であることを特徴とする、請求項1記載の結晶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結晶及び薬学上許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項4】
経口投与に適合する、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
1重量%~99重量%の請求項1又は2に記載の結晶を含む、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項6】
1重量%~70重量%の請求項1又は2に記載の結晶を含む、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項7】
10重量%~30重量%の請求項1又は2に記載の結晶を含む、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項8】
対象におけるBtk活性の異常に関連する疾患を治療するための、請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記疾患が、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、若しくはB細胞悪性腫瘍から選択されるB細胞増殖性疾患又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択される疾患である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記B細胞増殖性疾患が、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ性リンパ腫(SLL)、ワルデンストロームマクログロブリン血症(WM)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキット様白血病(BL)、及びそれらの2つ以上の組み合わせから選択されるB 細胞悪性腫瘍である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記B細胞増殖性疾患が、再発/難治性マントル細胞リンパ腫(R/R MCL)、再発/難治性慢性リンパ性白血病(R/R CLL)、再発/難治性の小リンパ球性リンパ腫(R/R SLL)、再発/難治性ワルデンストレームマクログロブリン血症(R/R WM)及びそれらの2つ以上の組み合わせから選択される再発/難治性B細胞悪性腫瘍である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の結晶を40mg~320mgの用量で投与するのに適合する、請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の結晶を1日2回(BID)160mg又は1日1回(QD)320mgの用量で投与する、請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドの結晶形に関する。本発明はまた、結晶形を調製する方法、及び結晶形をBtk阻害剤として利用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルトン(Bruton)のチロシンキナーゼ(Btk)はTecチロシンキナーゼファミリーに属する(Vetrie et al., Nature 361: 226-233, 1993; Bradshaw, Cell Signal. 22: 1175-84, 2010)。Btkは主として、B細胞、肥満細胞及びマクロファージ等のほとんどの造血系細胞において発現しており(Smith et al., J. Immunol. 152: 557-565, 1994)、骨髄、脾臓及びリンパ節組織にも局在する。BtkはB細胞受容体(BCR)及びFcRシグナル伝達経路において重要な役割を果たしているが、これらはB細胞の発生、分化に関与する(Khan, Immunol. Res. 23: 147, 2001)。Btkは上流のSrcファミリーキナーゼによって活性化される。一旦活性化されると、Btkは次にPLCガンマをリン酸化し、B細胞の機能及び生存に対して影響を及ぼす(Humphries et al., J. Biol.Chem. 279: 37651, 2004)。
【0003】
これらのシグナル伝達経路は正確に調節されなければならないものである。Btkをコードする遺伝子の突然変異は、遺伝性のB細胞特異的免疫不全症をヒトにおいて引き起こすが、これはX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)として知られている(Conley et al., Annu. Rev. Immunol. 27: 199-227, 2009)。BCR媒介シグナル伝達の異常は、B細胞活性化の調節に不調をきたし、その結果、多くの自己免疫疾患及び炎症性疾患をもたらす可能性がある。前臨床研究では、Btk欠損マウスがコラーゲン誘発性関節炎の発症に耐性のあることを示している。さらにリツキサンというCD20抗体であって成熟B細胞をディプリート(deplete)できるものに関する臨床研究によって、B細胞が慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス及び多発性硬化症などの多数の炎症性疾患において重要な役割を果たすことが明らかになった(Gurcan et al., Int. Immunopharmacol. 9: 10-25, 2009)。このようにBtk阻害剤は自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患を治療するために使用することができる。
【0004】
さらに、Btkの異常な活性化はB細胞リンパ腫の発病において重要な役割を果たしており、ここからBtkの阻害が血液悪性腫瘍の治療に有用であることが分かる(Davisら、Nature 463:88-92、2010)。予備的臨床試験の結果から、Btk阻害剤PCI-32765が数種類のB細胞リンパ腫の治療に有効であることが分かった(例として、54thAmerican Society of Hematology (ASH) annual meeting abstract, Dec. 2012: 686 The Bruton's Tyrosine Kinase (Btk) Inhibitor, Ibrutinib (PCI- 32765), Has Preferential Activity in the ABC Subtype of Relapsed/Refractory De Novo Diffuse Large B-Cell Lymphoma (DLBCL): Interim Results of a Multicenter, Open-Label, Phase I Study)。Btkは複数のシグナル伝達経路におけるメディエーターとして中心的な役割を果たしていることから、Btkの阻害剤は抗炎症剤及び/又は抗癌剤として強く関心が寄せられている(Mohamed et al., Immunol. Rev. 228: 58-73, 2009; Pan, Drug News perspect 21: 357-362, 2008; Rokosz et al., Expert Opin. Ther. Targets 12: 883-903, 2008; Uckun et al., Anti-cancer Agents Med. Chem. 7: 624-632, 2007; Lou et al, J. Med. Chem. 55(10): 4539-4550, 2012)。
【0005】
国際出願WO2014173289Aは、Btk阻害剤として一連の縮合複素環式化合物を開示している。特に、WO2014173289Aは、(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドを開示している(以下、化合物1という。)。
【化1】
化合物1
【0006】
化合物1は強力で特異的でかつ不可逆的なBTKキナーゼ阻害剤である。生化学的研究、細胞基盤研究及び動物研究による前臨床試験で得られたデータから、B細胞悪性腫瘍における腫瘍増殖の抑制に関して化合物1によってもたらされる効果が有意なものであることが示唆された。EGFR、FGR、FRK、HER2、HER4、ITK、JAK3、LCK、及びTECを比較対象とした場合にイブルチニブによるBTKの阻害よりも選択的であることが示されたので、化合物1は臨床においてイブルチニブよりも副作用が少ないと予想される。さらに、化合物1はITKに対する阻害能が弱いため、リツキシマブ誘導性・抗原依存性・細胞媒介性の細胞傷害性(ADCC)に対する阻害の程度がイブルチニブよりも有意に少ないことから、したがって、リツキシマブ又は他のADCC依存性抗体と組み合わせた場合、B細胞悪性腫瘍の治療において良好な有効である可能性がある。
【0007】
前臨床安全性評価における、ラット及びイヌに対する単回投与と28日までの反復投与の毒性試験において、全体的な耐性及び重度の毒性に関して、化合物1はイブルチニブよりも安全であることが実証された。さらに、化合物1は、イブルチニブについて観察されるような蓄積の問題がないことから、生物学的利用能がさらに優れていた。これらの化合物1ならでは特徴が元になって、さらなる評価のために臨床試験が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、国際公開第2014173289号の化合物27の調製方法においては、化合物1は非晶形であり、これは、図7AのX線粉末回折パターンによってさらに確認された。この非晶形の化合物1は、図7Bに示すようにガラス転移温度の低いことが示されたことから、安定性が低い、精製が難しいなど、非晶形の化合物の製剤上の問題点が明らかになった。このため化合物1の新しい形態を開発することが必要であり、またその特性として融点が高い、安定性が高いなど、製剤に適したものであることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの発見した化合物1の結晶形は、高い融点を有し、25℃/60%RHで24ヶ月まで貯蔵した場合又は40℃/75%RHの条件で6ヶ月まで貯蔵した場合でも極めて安定な状態であったが、この発見は予期し得なかったものである。
【0010】
第1の態様としてここに開示するのは化合物1の結晶形である。
【化2】
化合物1
【0011】
いくつかの実施形態において、化合物1の結晶形は無水結晶である(ここでは「結晶形A」と呼ぶ)である。
【0012】
第2の態様としてここに開示するのは、実質的に図11におけるX線粉末回折パターンを有する化合物BG-13の結晶形である。
【化3】
化合物BG-13
【0013】
第3の態様としてここに開示するのは化合物1を調製する方法である。
【0014】
さらにここに開示するのは、式Ieの中間体化合物若しくはその塩、又は式If若しくはその塩であり、これらは化合物1の調製に用いられる。
【化4】
式Ie 式If
【0015】
第4の態様としてここに開示するのは結晶形Aを調製する方法である。
【0016】
第5の態様としてここに開示するのは、ここに開示する結晶形Aを治療有効量含有する医薬組成物である。
【0017】
第6の態様としてここに開示するのは、ここに開示する結晶形Aを対象に投与することによって、対象におけるBtk活性の異常(undesirable Btk activity)に関連する疾患を治療する方法である。
【0018】
第7の態様としてここに開示するのは、対象に結晶形Aを投与することで対象の疾患を治療する方法であって、疾患はアレルギー性疾患、自己免疫性疾患、炎症性疾患、癌、又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択されるものである。
【0019】
第8の態様としてここに開示するのは、ここに開示する結晶形Aを対象に投与することによって、対象におけるB細胞悪性腫瘍又は再発性/難治性B細胞悪性腫瘍から選択されるB細胞増殖性疾患の治療方法である。この観点のいくつかの態様としてここに開示するのは、ここに開示する結晶形Aを対象に投与することによって、慢性リンパ性のもの、非ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、小リンパ性リンパ腫、ワルデンストロームマクログロブリン血症、辺縁帯リンパ腫、有毛細胞白血病、バーキット様白血病又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択されるB細胞増殖性疾患の治療方法である。
【0020】
第9の態様としてここに開示するのは、対象におけるBtk活性の異常に関連する疾患の少なくとも1つの治療のための医薬の製造のために、ここに開示する結晶形Aを使用することである。
【0021】
第10の態様としてここに開示するのは、対象におけるアレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択される疾患の治療のための医薬の製造のために、ここに開示する結晶形Aを使用することである。
【0022】
第11の態様としてここに開示するのは、対象におけるB細胞悪性腫瘍又は再発性/難治性のB細胞悪性腫瘍から選択されるB細胞増殖性疾患の治療のための医薬の製造における本明細書で開示される結晶形Aの使用である。この観点のいくつかの態様としてここに開示するのは、対象における、慢性リンパ性のもの、非ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、小リンパ性リンパ腫、ワルデンストロームマクログロブリン血症、辺縁帯リンパ腫、有毛細胞白血病、バーキット様白血病又はそれらの2つ以上の組み合わせの治療のための医薬の製造における本明細書に開示の結晶形Aの使用である。
【0023】
第12の態様としてここに開示するのは、化合物1の結晶形Aを調製するための方法において、非晶形の化合物1を下記の溶媒系と混合して透明な溶液とし;溶液を撹拌しながら若しくは撹拌せずに、一定時間室温に保つか又は加熱しながら結晶形Aを沈殿させるものであり、ここで溶液系は以下である:
酢酸エチル:ヘキサン=1:0.6-0.7(体積比);
酢酸エチル:ヘプタン=1:0.6-0.7(体積比);
酢酸エチル:シクロヘキサン=1:0.6-1.2(体積比);
酢酸メチル:ヘキサン=1:0.6-1.2(体積比);
トルエン:ヘキサン=1.0:0.2-0.4(体積比);
トルエン:シクロヘキサン=1.0:0.1-0.2(体積比);
酢酸メチル:シクロヘキサン=0.6-0.8:1.0(体積比);
IPAC:シクロヘキサン=1.0:0.2-1.0(体積比);又は
酢酸イソブチル:シクロヘキサン=1.0:0.2-1.0(体積比)。
【0024】
一実施形態において、非晶形の化合物1のee値は90%を超える。他の実施形態において、非晶形の化合物1のee値は97%である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】結晶形AのXRPDパターン。
【0026】
図2】結晶形AのDSC曲線。
【0027】
図3】結晶形AのTGA曲線。
【0028】
図4】結晶形Aの1H-NMR。
【0029】
図5】結晶形Aの13C-NMR。
【0030】
図6】結晶形AのDVSプロット。
【0031】
図7A】非晶形の化合物1のXRPDパターン。
【0032】
図7B】非晶形の化合物1のmDSC曲線、非晶形のガラス転移温度は79.7℃(中点温度)であることを示す。
【0033】
図8】BG-13単結晶の絶対構造。
【0034】
図9】BG-13単結晶の水素結合の説明図。
【0035】
図10】BG-13の単結晶の結晶パッキング。
【0036】
図11】BG-13単結晶のXRPDパターン。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明者らの発見した結晶形の化合物1は予想外のもので結晶形Aと命名されたが、出発材料のee値及び共溶媒の比率などに依拠した特定の条件でしか得られないものであった。蒸発を、時間をかけて行う、貧溶媒を添加する、冷却を、時間をかけて行う、蒸気拡散する、ポリマー誘起結晶化を行うといった方法で多形の研究も行った。ほとんどの実験は結晶形を得ることができなかったため、これは結晶形Aの取得が簡単ではないことを示している。
【0038】
さらに特徴を調べたところ、結晶形Aが融点139.4±2℃(開始温度)の無水物であることが明らかになった。安定性を評価するために、結晶形Aのサンプルを80℃で2日間、25℃/60%RHで24ヶ月間、又は40℃/75%RH条件で6ヶ月間保存し、安定性試験の前、間及び後にXRPDによって特徴を特定した。結果は、上記の全ての期間に関して結晶形の変化が観察されなかったことを示すものであり、80℃の結晶形A、又は25℃/60%RHで24ヶ月間及び40℃/75%RH条件で6ヶ月間貯蔵された結晶形Aの良好な物理的安定性を示した。
【0039】
ある結晶形Aの実施形態では、そのX線粉末回折パターンに、約14.8±0.2°、16.4±0.2°及び21.4±0.2°のうちから個別に選択される2θ角度値の回折ピークが含まれている。
【0040】
ある結晶形Aの実施形態では、そのX線粉末回折パターンに、約14.8±0.2°、15.6±0.2°、16.4±0.2°及び21.4±0.2°のうちから個別に選択される2θ角度値の回折ピークが含まれている。
【0041】
ある結晶形Aの実施形態では、そのX線粉末回折パターンに、約12.2±0.2°、12.9±0.2°、14.8±0.2°、15.6±0.2°、16.4±0.2°及び21.4±0.2°のうちから個別に選択される2θ角度値の回折ピークが含まれている。
【0042】
ある結晶形Aの実施形態では、そのX線粉末回折パターンに、約12.2±0.2°、12.9±0.2°、14.8±0.2°、15.6±0.2°、16.4±0.2°、17.7±0.2°、18.5±0.2°、20.7±0.2°及び21.4±0.2°のうちから個別に選択される2θ角度値の回折ピークが含まれている。
【0043】
結晶形Aの実施形態のいくつかでは、実質的に図1のようなX線粉末回折パターンが見られる。
【0044】
結晶形Aの実施形態のいくつかでは、表1に要約されるX線粉末回折パターンが見られる。
【0045】
表1 結晶形AのX線回折パターン
【表1】
【0046】
いくつかの好ましい実施形態において、結晶形Aの融点は139±2℃(開始温度)である。
【0047】
いくつかの好ましい実施形態において、結晶形Aは実質的に図2のようなDSCを示す。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態において、結晶形Aは実質的に図3のようなTGAを示す。
【0049】
いくつかの実施形態において、結晶形Aはわずかに吸湿性である。いくつかの実施形態において、結晶形Aは溶媒和となっていない。
【0050】
いくつかの実施形態において、結晶形Aを40℃及び75%RHで6ヶ月間の保存した後でも実質的に同じX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。いくつかの実施形態において、結晶形Aを25℃及び60%RHで24ヶ月間の保存した後でも実質的に同じX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【0051】
また、ここに開示するのは、実質的に図11のようなX線粉末回折パターンを有する化合物BG-13の結晶形である。
【化5】
化合物BG-13
【0052】
いくつかの実施形態では、BG-13の結晶形は単結晶であり、a=16.7939(4)Å、b=7.9871(2)Å、c = 23.5438(5)Å、アルファ=90.00°、ベータ=108.0460(10)°、ガンマ= 90.00°の単位格子寸法を有する。
【0053】
本発明者らは、中間体BG-13の単結晶X線構造解析から、化合物1の絶対配置がSであると推定した。
【0054】
またここに開示するのは、化合物1及び重水素標識された化合物1を調製する方法であって、スキーム1に示される手順のとおりのものである。ここに開示する結晶形Aを介した化合物1の新規合成方法及び結晶化/再結晶化の手順は、98%を超える光学純度を有する重要なキラル中間体の調製といった、先に報告された方法に関する多くの問題を克服するものであり、化合物1の純度を改善することで本明細書に記載する許容水準を満たすものであり、化合物1中の不純物をコントロールするものであり、既存の方法と比較した利点が数多くあるものである。とりわけ、ここに開示する方法は、再現性良く、商業規模で化合物1を生産するのに特に適しているが、品質を高めかつ良好な収率をもたらすものである。他の方法では、スキーム1中のBG-9又はその類似体を、低いエナンチオ選択性から高いエナンチオ選択性にかけて(5%eeから95%ee)非対称的に還元することができた。他のステップはスキーム1に列挙したものと同様である。
【0055】
スキーム1:化合物1及び重水素標識された化合物1の調製
【化6】
【化7】
【0056】
またここに開示するのは式Iaの化合物の調製方法であり、式Iaの化合物を製造するための触媒及び/又は還元剤の存在下で式Iの化合物に対する非対称的な還元を行うものである。
【化8】
式I 式Ia
式中、Rは水素又はアミノ保護基である。
【0057】
いくつかの実施形態では、アミノ保護基は、アセチル、プロピオニル、ブチリル、フェニルアセチル、ベンゾイル、トルイル、フェノキシアセチル(POA)、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニル(BOC)、2-ヨードエトキシカルボニル、カルボベンゾキシ(CBZ)、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、(フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル(Fmoc)、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)、ベンジル、メチル又は4-メトキシベンジルを含むが、これらに限定されない。
【0058】
いくつかの実施形態において、触媒は中性触媒系又はカチオン触媒系である。いくつかの実施形態では触媒が[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-MeO-Biphep、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-Binap、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-Tol-Binap、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-xyl-Binap、[Ir(COD)Cl]2/(S,S or R,R)-Diop、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-P-Phos、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-Tol-P-Phos、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-Xyl-P-Phos、[Ir(COD)Cl]2/(R,R or S,S)-Me-DuPhos、[Ir(COD)Cl]2/(R or S)-SegPhos、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Ship、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Siphos、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Siphos-PE、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-MonoPhos、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-tol-SDP、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(S,S or R,R)-Diop、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(S,R or R,S)-Josiphos、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Binap、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-MeO-Biphep、[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Synphos、又は[Ir(μ-Cl)(cod)]2/(R or S)-Difluorphosor [Ir(cod)2]+X- (X: e.g. BF4, NO3, OTf, PF6, SbF6及びBarF)に対して関連する上述のリガンドを付加したものを含むイリジウム触媒系(Wen-Bo et al., J. AM. CHEM. SOC. 125, 10536-10537 2003. Damien et al., J. Org. Chem. 77, 4544-4556, 2012. Milos et al., Org. Process Res. Dev. 16, 1293-1300, 2012.)であるが、これらに限定されず;[Rh(COD)2]BF4に対して上述のリガンドを付加したものを含むロジウム触媒系(Xiang-Ping et al.,Top Organomet Chem 36, 313-354,2011)であるが、これらに限定されず;又はRuCl2(R or S)-BINAP/(R or S)-DAIPEN、RuCl2(R or S)-BINAP/(R,R or S,S)-DPEN、RuCl2(S or R)-BINAP (S,S or R,R)-DACH、RuCl2[(R or S)-Tol-BINAP][(S,S or R,R)-DPEN]、RuCl2(R,R or S,S)-Me-DuPHOS/(R,R or S,S)-DPEN、RuCl2(R,R or S,S)-Et-DuPHOS/(R,R or S,S)-DPEN、RuCl2(R,R or S,S)-Et-DuPHOS/(R,R or S,S)-DACH、RuCl2(S,S or R,R)-i-Pr-DuPHOS/(R,R or S,S)-DPEN、RuCl2(R or S)-HexaPHEMP/(R,R or S,S)-DPEN、RuCl2(R or S)-MeO-BIPHEP/(R,R or S,S)-DPENを含むルテニウム触媒系(Christopher et al., Adv. Synth. Catal. 345, 195-201, 2003. Julian et al., Adv. Synth. Catal. 345, 300-307, 2003.)であるが、これらに限定されない。
【0059】
上記の方法では、上記の触媒を使用することによって95%eeに達する優れたエナンチオ選択性を得られることが分かり、特に中性又はカチオン性のイリジウム触媒系で得られることが分かった。
【0060】
ここに開示するのは式IIbの化合物を生成するか、又は式IIbの化合物のキラル純度を高めるかするために式IIaの化合物を溶解する方法であり、式IIaのラセミ化合物をキラル酸で処理するステップを含む。
【化9】
式IIa 式IIb
ここでRは水素、メチル、ベンジル、4-メトキシベンジル又は上述したような他の従来知られるアミノ保護基である。
【0061】
いくつかの実施形態において、キラル酸としてL-リンゴ酸、D-リンゴ酸、L-マンデル酸、D-マンデル酸、L-カンファースルホン酸、D-カンファースルホン酸、L-酒石酸、D-酒石酸、L-DBTA、D-DBTA、L-DTTA、又はD-DTTAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
またここに開示するのは式Idの化合物を生成するか、又は式Idの化合物のキラル純度を高めるかするために式Icの化合物を溶解する方法であり、式Icのラセミ化合物をキラル酸で処理するステップを含む。
【化10】
式Ic 式Id
ここでRは水素、メチル、ベンジル、4-メトキシベンジル又は上述したような他の従来知られるアミノ保護基である。
【0063】
いくつかの実施形態において、キラル酸としてL-リンゴ酸、D-リンゴ酸、L-マンデル酸、D-マンデル酸、L-カンファースルホン酸、D-カンファースルホン酸、L-酒石酸、D-酒石酸、L-DBTA、D-DBTA、L-DTTA、又はD-DTTAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
さらにここに開示するのは式Ieの化合物若しくはその塩、又は式Ifの化合物若しくはその塩であって化合物1の調製に用いられるものである。
【化11】
式Ie
【化12】
式If
【0065】
さらに、結晶形Aを調製する方法も提供する。ここに開示する結晶形は、ここに開示する化合物を結晶化することによって少なくとも1種の溶媒を含む適切な溶媒系から調製でき、溶媒系で過飽和にするために自発的沈殿(蒸発)させる、冷却、及び/又は(ここに開示された化合物が比較的低い溶解度を有する)貧溶媒(anti-solvent)を添加する方法によって得られる。結晶化はまた、ここに開示する結晶形を結晶化するのに適した結晶種を使用することで行うこともでき、また使用しないでも結晶化できる。
【0066】
いくつかの実施形態において、結晶形Aの調製方法では、(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(化合物1)をDCM中に溶解し、溶媒EAに交換し、EA/MTBEから再結晶化するステップを通じて、目的の結晶形を得ることを含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、結晶形Aを調製する方法は、化合物1をEA中に溶解し、ヘキサンを添加するステップを通じて、目的の結晶形を得ることを含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、結晶形Aを調製する方法は、貧溶媒(anti-solvent)を、固形の化合物1又は粗精製形態Aがこれら固形物を溶解するための溶媒中にある溶液に添加することによって行うところ、貧溶媒としてH2O及びn-ヘプタンが挙げられるが、これらに限定されず、また固形物を溶解するための溶媒としてアセトン、DMAc、EtOAc、DCM、トルエン、及び2-MeTHFが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
いくつかの実施形態において、結晶形Aを調製する方法は、固形の化合物1又は粗精製形態Aが溶媒中にある溶液を貧溶媒(anti-solvent)に添加し、さらに密封された反応器内で有機蒸気が溶液と相互作用するのに十分な時間をとるところ、溶媒としてアセトン、及びEtOAcが挙げられるが、これらに限定されず、また貧溶媒としては、n-ヘプタンが挙げられるが、これに限定されない。
【0070】
また、ここに開示するのは、治療上有効量の結晶形A及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は経口投与により使用される。いくつかの好ましい実施形態では、医薬組成物は1重量%~99重量%の結晶形Aを含む。いくつかのより好ましい実施形態では、医薬組成物は1重量%~70重量%の結晶形Aを含む。いくつかの最も好ましい実施形態において、医薬組成物は10重量%から30重量%の結晶形Aを含む。
【0071】
本発明はまた、対象に結晶形Aを投与することにより、対象におけるBtk活性の異常(undesirable Btk activity)に関連する疾患を治療又は予防する方法を提供するものである。
【0072】
本発明はまた、対象に結晶形Aを投与することにより、対象においてアレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択される疾患を治療又は予防する方法を提供するものである。
【0073】
本発明はまた、結晶形Aを対象に投与することによって、対象におけるB細胞増殖性疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0074】
いくつかの実施形態において、B細胞増殖性疾患として、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ性リンパ腫(SLL)、ワルデンストロームマクログロブリン血症(WM)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキット様白血病(BL)を含むB細胞悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの実施形態において、B細胞増殖性疾患として、R/R MCL、R/R CLL、R/R SLL、R/R WMを含む再発/難治性(R/R)のB細胞悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
ここに開示する結晶形Aは、対象におけるBtk活性の異常(undesirable Btk activity)に関連する少なくとも1つの疾患を治療するための医薬を製造することに使用できる。
【0077】
ここに開示する結晶形Aは、対象におけるアレルギー性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、癌、又はそれらの2つ以上の組み合わせから選択される疾患を治療するための医薬を製造するのに使用できる。
【0078】
ここに開示する結晶形Aは、対象における、B細胞悪性腫瘍、又は再発性/難治性B細胞悪性腫瘍から選択されるB細胞増殖性疾患の治療のための医薬の製造に使用することができる。
【0079】
最新の臨床試験では、化合物1が未治療(TN)及び再発/難治性(R/R)のB細胞悪性腫瘍において耐性が良い(well tolerated)ことが実証され続けており、例えばWMでは、評価可能な患者数42人の集団において非常に良好な部分奏効(VGPR)の割合が40%を超えており、また評価可能な患者数42人の集団であって追跡期間中央値が12.3カ月のものにおいて全奏効率(ORR)が90%であり、さらにCLL/SLLでは、有効性評価のための追跡期間の中央値10.5カ月において、全体的な奏効率が高く(94%)、治療中止率が非常に低い(3%)。


定義
【0080】
本書類の他の箇所で具体的に定義されていない限り、ここで使用される他の全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0081】
添付の特許請求の範囲を含めて「a」、「an」、及び「the」などの単数形の単語は、文脈が明らかにそうでないことが示されない限り、それらの対応する複数の参照を含むものとする。したがって、例えば、「結晶形」と言う場合は、1つ又は複数の異なる結晶形等を含んでおり、「方法」と言う場合は、当業者に知られている同等のステップ及び方法を含んでおり、ここで述べる方法を修飾又は置換することができるものとする。
【0082】
ここに開示するように、結晶形はほぼ純粋な結晶である。ここで使用する「ほぼ純粋な」という用語は、ここで開示する結晶形Aが少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%であることを指す。
【0083】
ここに開示する結晶形に対しては、主要なピーク(すなわち、最も特徴的で、有意で、独特の及び/又は再現性のあるピーク)のみがまとめられており;通常の方法で付加的なピークが回折スペクトルから得られる。上述の主要なピークは、誤差の範囲内で再現可能である(最後の小数位における±2、又は表示値に対する±0.2)。
【0084】
ここに開示しているように、「図1と実質的に一致するX線粉末回折パターン」とは図1と同様の主要なピークを示すX線粉末回折パターンを指しており、ここで主要なピークとは、図1において最も高いピーク(相対強度が100%とする)に対して10%を超える、好ましくは20%を超える相対強度を示すピークを指す。
【0085】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈が他に必要としない限り、単語「comprise」、並びに「comprises」及び「comprising」などの活用は、記載された整数若しくはステップ又は整数若しくはステップのグループを包含していることを意味すると理解されたい。ここで使用するときは、用語「comprising」は、用語「containing」で置換可能であり、またここで使用するときは時に用語「having」で置換可能である。
【0086】
ここで使用する「治療有効量(therapeutically effective amount)」という用語は、化合物の量であって、疾患を治療するために対象に投与した時、又は疾患若しくは障害の臨床症状の少なくとも1つにおいて、疾患、障害、又は症状に対する治療等に影響を与えるのに十分なものを指している。「治療有効量」は、化合物、病気、障害、及び/又は疾患若しくは障害の症状、疾患、障害、及び/若しくは疾患又は障害の症状の重症度、治療を受ける対象の年齢、及び/又は治療される対象の体重によって変動し得る。所与の例において適切な量は、当業者に明らかなものでもよく、あるいは通例の実験によって決定してもよい。併用療法の場合、「治療有効量」とは、疾患、障害又は状態に対して有効な処置を行うために併用されるものの合計量をいう。
【0087】
ここに開示する化合物を含有する医薬組成物は、それを必要とする対象に対して経口投与、吸入投与、直腸投与、非経口投与又は局所投与によって投与することができる。経口投与の場合、医薬組成物はタブレット、パウダー、顆粒、カプセルなどのような通常の固形製剤でもよく、水若しくは油の懸濁液などの液体製剤又はシロップ、溶液、懸濁液などの他の液体製剤でもよく;非経口投与の場合、医薬組成物は溶液、水溶液、油性懸濁液の濃縮物、凍結乾燥粉末などでもよい。医薬組成物の製剤は、好ましくは錠剤、コーティング錠、カプセル剤、坐剤、鼻内噴霧剤又は注射剤から選択され、より好ましくは錠剤又はカプセル剤から選択される。医薬組成物は正確な投与量で投与される単一の単位でもよい。医薬組成物は活性成分をさらに追加的に含み得る。
【0088】
ここに開示される医薬組成物の全ての処方は、製薬分野における通常の方法によって製造することができる。例えば、活性成分を1つ以上の賦形剤と混合することで所望の製剤を製造することができる。「薬学的に許容される賦形剤」とは、所望の医薬製剤に適した通常の製薬用の担体を指しており、例えば:希釈剤、水などのビヒクル、様々な有機溶媒、デンプン、スクロースなどのフィラー、セルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン及びポリビニルピロリドン(PVP)などのバインダーであり;グリセリンなどの湿潤剤であり;寒天、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの崩壊剤であり;4級アンモニウム化合物などの吸収促進剤であり;ヘキサデカノールなどの界面活性剤であり;カオリン、ソープクレイ(soap clay)などの吸収性担体であり;タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤である。また医薬組成物は分散剤、安定剤、増粘剤、錯化剤、緩衝剤、浸透促進剤、ポリマー、芳香剤、甘味料、染料といった他の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0089】
「疾患」という用語は、疾患、不快感、病気、症状又は徴候といった任意のものを指し、「障害」又は「状態」といった用語に置き換え可能なものである。
【0090】
略語:
AcOH_酢酸
AEs_有害事象
BID_1日に2回
CLL_慢性リンパ性白血病
Con._濃縮(Concentrated)
D-DBTA_(2S,3S)-ジベンゾイル酒石酸
DDQ_2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン
DCM_ジクロロメタン
DIEA_N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DLBCL_びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
DMAc_N,N-ジメチルアセトアミド
DMF_N,N-ジメチルホルムアミド
DMF-DMA_N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール
DMSO_ジメチルスルホキシド
DSC_示差走査熱量測定
DVS_動的蒸気収着
EA_酢酸エチル,EtOAc
EDCI_1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
EtOH_エタノール
FL_濾胞性リンパ腫
GC_ガスクロマトグラフ
GCMS_ガスクロマトグラフィー-質量分析
HOAc_酢酸
HOBt_ヒドロキシベンゾトリアゾール
HPLC_高速液体クロマトグラフィー
IPA_イソプロピルアルコール
IPAc_酢酸イソプロピル
IPC_インプロセス制御
KF_カールフィッシャー
L-DBTA_(2R,3R)-ジベンゾイル酒石酸
LOQ_数量化の限界
MCL_マントル細胞リンパ腫
MeCN又はACN_アセトニトリル
MeMgBr_臭化メチルマグネシウム
MeOH_メタノール
2-MeTHF_2-メチルテトラヒドロフラン
MIBE_4-メチル-2-ペンタノン
MsOH_メタンスルホン酸
MTBE_メチルターシャリーブチルエーテル
NHL_非ホジキンリンパ腫
NLT_以上(not less than)
NMP_1-メチル-2-ピロリドン
NMR_核磁気共鳴
NMT_以下(Not more than)
ORR_総合回答率
Pd_パラジウム
pH_水素イオン濃度
POA_フェノキシアセチル
QD_1日に1回
RH_相対湿度
SLL_小リンパ球性リンパ腫
RT_室温
TEA_トリエチルアミン
TGA_熱重量分析
THF_テトラヒドロフラン
TN_治療未経験
VGPR_非常に良好な部分奏効
XRPD_X線粉末回折
WM_ワルデンストロムマクログロブリン血症
【実施例
【0091】
本発明を説明する以下の実施例によって、本発明をさらに例示するが、本発明を限定するものではない。

実施例1(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(化合物1)の調製及びその結晶形A

ステップ1:BG-2の合成
【化13】
【0092】
窒素雰囲気下で、TEA(2.4当量)をEA(5 v)、HOBT(1.2当量)、EDCI(1.2当量)、4-フェノキシ安息香酸(BG-1,80 Kg、1.0当量)及びマロノニトリル(1.2当量)の10℃の溶液に加えた。次いで反応が完了するまで混合物を室温で撹拌した。次いで混合物を遠心分離し、ケーキ(沈殿物、cake)をEAで洗浄した。ろ液をNaHCO3水溶液で2回洗浄し、さらにNH4Cl水溶液で洗浄した。有機相を1.5NのH2SO4で2回洗浄し、撹拌した。濃縮し、メタノール及び精製水より沈殿させた。固形物を遠心分離により集め、その後真空乾燥した。これにより79.9 KgのBG-2が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 7.62 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.46-7.38 (m, 2H), 7.18 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.06 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.94 (d, J = 8.6 Hz, 2H)。

ステップ2:BG-3の合成
【化14】
【0093】
窒素雰囲気下、BG-2(79.9 kg、1.0当量)のMeCN(5.0 v)の溶液を85℃でトリメトキシメタン(12.0 v)に添加した。得られた混合物を反応が完了するまで撹拌した。HPLC分析用にサンプリングした。真空下で濃縮した。残渣をi-PrOH及びヘキサンで沈殿させた。混合物を遠心分離し、ケーキをヘキサンで洗浄し、真空乾燥した。これにより71.7 Kgの生成物が得られた。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.70 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.52-7.45 (m, 2H), 7.28 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.22-7.06 (m, 4H), 3.93 (s, 3H)。

ステップ3:BG-4の合成
【化15】
【0094】
窒素雰囲気下、BG-3(71.6 kg、1.0当量)のエタノール(2.5 v)の溶液に対し、エタノール(0.6 v)に溶解された水酸化ヒドラジニウム(1.0当量)を15℃未満で反応器に滴下した。溶液を室温まで加熱し、反応が完了するまで撹拌した。水(4.0 v)を反応器に加えた。次いで溶液を5℃に冷却し、遠心分離し、ケーキを水(1.0 v)で洗浄した。ケーキを真空乾燥した。これにより66.9 Kgの生成物が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 12.11 (br s, 1H), 7.80 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.46-7.39 (m, 2H), 7.18 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.12-7.04 (m, 4H), 6.43 (br s, 2H)。

ステップ4から6:BG-8の合成
【化16】
【0095】
DCM(8.0 v)、BG-5(80.0 Kg、1.0当量)、N,O-ジメチルヒドロキシルアミン塩酸塩(1.2当量)、HOBt(1.2当量)及びEDCI(1.2当量)の混合物に、TEA(2.6当量)を15℃以下で滴下した。反応が完了するまで混合物を室温で撹拌し、遠心分離し、ケーキをDCM(1.0 v)で2回洗浄した。濾液を20%のNH4Cl水溶液(3×4.0 v)で洗浄した。濾液を真空下で濃縮して粗生成物BG-6を得て、これをさらに精製することなく次のステップに使用した。残渣をトルエン(5.0 v)及びTHF(1.0 v)に溶解し、10℃に冷却し、MeMgBr(1.4当量)を10℃で滴下し、次いで反応が完了するまで室温で撹拌した。溶液を10℃以下に冷却した。飽和NH4Cl水溶液を10℃以下で滴下した。混合物を遠心分離し、分離し、濾過し、その後有機相をNaCl水溶液で2回洗浄した。有機相を濃縮して粗生成物を得て、これをさらに精製することなく次の工程に使用した。DMF(2.5 v)及びDMF-DMA(2.5 v)中の残渣を、反応が完了するまで110℃で撹拌した。反応混合物を冷却し、濃縮し、次いでDCMを加えた。最終混合物を飽和NH4Cl水溶液で洗浄した。有機層を濃縮し、ヘキサンを投入することにより沈殿させた。混合物を遠心分離し、ケーキを集めた。ケーキを真空乾燥した。これにより82.2 Kgの所望の生成物が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 7.49 (d, J = 12.6 Hz, 1H), 5.01 (d, J = 12.6 Hz, 1H), 3.99-3.82 (m, 2H), 3.14-2.94 (m, 2H), 2.89-2.61 (m, 6H), 2.49-2.37 (m, 1H), 1.66-1.56 (m, 2H), 1.39 (s, 9H), 1.39-1.20 (m, 2H)。

ステップ7:BG-9の合成
【化17】
【0096】
窒素雰囲気下で、トルエン(8.0 v)、AcOH(0.5 v)、BG-8(1.2当量)及びBG-4(66.9 Kg、1.0当量)の混合物を95℃に加熱し、反応が完了するまで撹拌した。混合物を冷却し、濃縮し、その後メタノールにて沈殿させた。混合物を遠心分離し、ケーキをメタノールで洗浄した。ケーキを真空乾燥した。これにより107.8 Kgの生成物が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 8.78 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 8.15-8.07 (m, 2H), 7.51-7.41 (m, 2H), 7.34 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 7.27-7.19 (m, 3H), 7.17-7.10 (m, 2H), 4.24-4.02 (m, 2H), 3.81-3.69 (m, 1H), 3.12-3.82 (m, 2H), 2.15-2.04 (m, 2H), 1.76-1.60 (m, 2H), 1.43 (s, 9H)。

ステップ8:BG-10の合成
【化18】
【0097】
N2下のTHF(10.0 v)、BG-9(13.0 Kg、1.0当量)及びD-DBTA(1.0当量)の混合物に水素ガスをPd/C(10% w/w)で反応器に導入し、水素圧を1.8 MPaに維持した。反応器を、時間をかけて40℃に加熱し、反応が完了するまで撹拌した。次いで混合物を冷却し、濾過し、ケーキをTHFで洗浄した。ろ液を集め、その後真空下で濃縮した。DCMを加えた。残渣をNaHCO3水で洗浄し、濃縮し、MTBE及びヘキサンにて沈殿させ、次いで遠心分離した。ケーキを集めて真空下で乾燥して所望の化合物を得た(収率:94.8%及び純度:98.5%)。1H NMR (DMSO-d6) δ 7.82-7.76 (m, 2H), 7.56-7.51 (m, 1H), 7.45-7.37 (m, 2H), 7.21-7.14 (m, 1H), 7.12-7.03 (m, 4H), 4.09-3.91 (m, 3H), 3.30-3.22 (m, 2H), 2.82-2.55 (m, 2H), 2.18-1.99 (m, 2H), 1.98-1.86 (m, 1H), 1.69-1.58 (m, 1H), 1.56-1.45 (m, 1H), 1.38 (s, 9H), 1.32-1.13 (m, 2H)。

ステップ9:BG-11の合成
【化19】
【0098】
BG-10(100.0 Kg、1.0当量)のDCM(6.0 v)の溶液に、窒素雰囲気下、HClを含むEtOH(20.9% w/w,2.0 v)を滴下した。反応が完了するまで混合物を撹拌する。MTBE(4.0 v)を溶液に添加し、冷却した。ケーキを遠心分離により集め、ヘキサン(2.0 v)で洗浄し、次いでケーキをヘキサン(5 v)中でスラリー化し、その後再び遠心分離した。ケーキをヘキサン(2.0 v)で洗浄し、真空乾燥した。これにより85.2 Kgの生成物が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 9.25-8.85 (m, 2H), 7.84-7.70 (m, 2H), 7.47-7.37 (m, 2H), 7.18 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.12-7.03 (m, 4H), 5.73 (br s, 2H), 4.12-4.03 (m, 1H), 3.25-3.19 (m, 4H), 2.90-2.73 (m, 2H), 2.28-2.12 (m, 1H), 2.10-2.00 (m, 1H), 1.99-1.86 (m, 1H), 1.84-1.52 (m, 4H)。

ステップ10:BG-11Aの合成
【化20】
【0099】
BG-11(85.0 Kg、1.0当量)を含む水(6.0 v)及びNaOH(3.0当量)の混合物を室温で反応が完了するまで撹拌した。ケーキを集め、その後MTBE(6.0 v)中でスラリーにした。次に混合物を遠心分離してケーキを集めた。ケーキを真空乾燥した。これにより71.3 Kgの生成物が得られた。1H NMR (DMSO-d6) δ 7.82-7.74 (m, 2H), 7.54-7.49 (m, 1H), 7.45-7.38 (m, 2H), 7.21-7.14 (m, 1H), 7.12-7.04 (m, 4H), 4.03-3.95 (m, 1H), 3.29-3.21 (m, 2H), 3.00-2.87 (m, 2H), 2.46-2.31 (m, 2H), 2.11-1.83 (m, 3H), 1.58-1.12 (m, 4H)。

ステップ11:BG-11Bの合成
【化21】
【0100】
反応器中のエタノール/水/酢酸(7:3:1,46 v)とBG-11A(30kg、1.0当量)との混合物を窒素雰囲気下で70±5℃に加熱し、次いで、D-DBTA(1.20当量)のエタノール/水/酢酸(7:3:1,4 v)の溶液を65℃以上の温度で滴下した。得られた溶液を60~65℃で16時間撹拌した後、室温に冷却した。固形物を遠心分離により集め、その後エタノール(2.0 v)で洗浄した。ケーキをエタノール/水/AcOH(7:3:1,20 v)の混合溶媒中、55℃で16時間スラリー化し、室温に冷却した。固形物を遠心分離により集め、エタノール(2.0 v)で洗浄した。ケーキを真空乾燥した(収率:37.9%)。1H NMR (DMSO-d6) δ 8.76 (br s, 2H), 7.99-7.89 (m, 4H), 7.83-7.75 (m, 2H), 7.66-7.57 (m, 3H), 7.52-7.45 (m, 4H), 7.45-7.39 (m, 2H), 7.21-7.14 (m, 1H), 7.13-7.03 (m, 4H), 5.64 (s, 2H), 4.08-4.00 (m, 1H), 3.29-3.19 (m, 4H), 2.85-2.72 (m, 2H), 2.21-1.40 (m, 7H)。

ステップ12:BG-11Cの合成
【化22】
【0101】
ジクロロメタン(15.0 v)と20.0%KOH水溶液(3.0 v)の混合物に、窒素雰囲気下、室温で、BG-11B(48.0kg、1.0当量)をバッチ式に添加した。反応が完了した後、有機層を集め、水層をジクロロメタン(5.0 v)で抽出した。有機層を合わせた。室温でCon. HCl(0.36 v)を上記有機層に加えた。得られた混合物を反応が完了するまで撹拌した。固形物を遠心分離によって集め、その後ジクロロメタン(1.0 v)で洗浄した。集めた固形物をMTBE(6.0 v)でスラリー化した。固形物を遠心分離により集め、その後MTBE(1.0 v)で洗浄し、次いで真空乾燥した。これにより31.5 Kgの生成物が得られた(収率:100%)。

ステップ12:BG-11D(代替中間体)の合成
【0102】
ACN(5.0 v)、軟水(10.0 v)、KOH(5.0当量)を反応器に入れ、少なくとも15分間撹拌した。BG-11B(1.0当量)を少しずつ反応器に装入した。反応が完了するまで混合物を撹拌した。ケーキを遠心分離により集め、ACN(1.0 v)及び軟水(5.0 v)中でスラリー化し、その後真空下で乾燥して生成物を得た。

ステップ13:BG-12の合成
【化23】
【0103】
BG-11C(15.0 Kg 1.0当量)のMsOH(2.5 v)の溶液を、反応が完了するまで窒素雰囲気下85℃で撹拌した。5℃に冷却した後。精製水(4.0 v)を系に滴下し、温度を35℃以下に保った(明らかに温度が上昇した)。得られた溶液を30℃で16時間撹拌した後、DCM(2×3.0 v)で洗浄した。水相を集めた。DCM(6.0 v)を水相に添加し、混合物を5℃に冷却した。30℃以下の温度で攪拌しながら、20%NaOH水溶液(明らかに温度が上昇した)でpH値を11~12に調整した。有機相を分離して集めた。水相をDCM(3.0 v)で抽出した。有機層を合わせて濃縮した。MTBE(4.0 v)を残渣に添加した。次いで混合物を濃縮し、n-ヘプタンにて沈殿させた。固形物を遠心分離により集め、その後真空オーブン中で乾燥した。これにより12.55 Kgの生成物が得られた(収率:94.9%)。 1H NMR (DMSO-d6) δ 7.52-7.46 (m, 2H), 7.45-7.38 (m, 2H), 7.21-7.13 (m, 1H), 7.12-7.03 (m, 4H), 6.64 (s, 1H), 3.99-3.90 (m, 1H), 3.29-3.22 (m, 2H), 3.03-2.90 (m, 2H), 2.48-2.36 (m, 2H), 2.03 (dd, J = 13.9, 5.6 Hz, 2H), 2.14-1.99 (m, 1H), 1.97-1.85 (m, 1H), 1.65-1.15 (m, 3H).

ステップ14:BG-13の合成
【化24】
【0104】
反応器中のMeOH(13.5 v)、精製水(4.5 v)及びBG-12(8.5 Kg、1.0当量)の混合物をN2雰囲気下で50℃に加熱した。温度を50℃に保ちながら、混合物に対してL-DBTA(0.7当量)のMeOH/精製水(1.5v/0.5 v)の溶液を滴下した。添加後、混合物を50℃で少なくとも2時間撹拌し、次いで室温に冷却し、室温で少なくとも16時間撹拌した。ケーキを遠心分離により集め、その後MeOH(2.0 v)で洗浄した。ケーキを真空オーブンで乾燥した。これにより9.08 Kgの生成物が得られた(収率:74.8%、ee値> 98%)。

工程15:(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドの合成(化合物1)
【化25】
【0105】
N2雰囲気下で、ACN(12.0 v)、水(12.5 v)、BG-13(8.0 Kg、1.0当量)、及びNaHCO3(2.5当量)を反応器に添加した。次いで混合物を-5~0℃に冷却した。混合物に、塩化アクリロイル(1.1当量)のMeCN(0.5 v)の溶液を滴下し、反応が完了するまで攪拌した。次にEA(6.0 v)を反応器に加え、その後撹拌した。有機相を集めた。水層をさらにEA(3.0 v)で抽出した。有機相を合わせて鹹水(brine)で洗浄した。有機層を集めて濃縮した。
【0106】
残渣をシリカゲル(2重量)カラムで精製し、DCM中3% w/wメタノール(21.0 v)で溶出した。化合物1の溶液を集めその後真空下で濃縮した。残渣をEA/MTBE(2.0 v)にて沈殿させた。ケーキを遠心分離により生成物として集めた。

ステップ15:(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドの合成(化合物1、代替法)
【化26】
【0107】
CH3CN(10.0 v)、精製水(5.0 v)、NaOH(1.5当量)及びBG-13(1.0当量)の混合物を撹拌して透明な溶液を得た。次いでEtOAc(6.0 v)を反応物に加え、その後分離した。有機相を集め、その後15%の鹹水(3.0 v)で2回洗浄した。上記で調製した有機相を濃縮し、溶媒をCH3CNに交換した(残留量:NMT 5.0 v)。CH3CN(7.5 v)及び精製水(12.5 v)を入れ、その後15~20℃に冷却した。L-(+)-酒石酸(0.5当量)及びNaHCO3(2.5当量)を反応混合物に加えた。塩化アクリロイル(1.1当量)のCH3CN(0.5 v)溶液を反応混合物に滴下した。反応が完了した後、EtOAc(6.0 v)を反応混合物に入れ、有機層を集めた。水相をEA(3.0 v)でさらに抽出した。有機層を合わせ、15%の鹹水(5.0 v)で洗浄し、その後濃縮した。溶媒をDCM(残渣の体積:1.5~2.0 v)に交換し、シリカゲルカラム(シリカゲル:100~200 mush、2.0 w/w;溶出液:3% w/w MeOH(約50 v)を含むDCM)で精製した。集めた溶液を濃縮しその後EtOAc(4.0 v)と交換した; MTBE(6.4 v)を50℃で残留物に滴加し、次いで混合物を5℃に冷却しその後ケーキを遠心分離して集めた。

ステップ16:化合物1の結晶形Aの調製
【0108】
上記化合物1のケーキを7.0容量のDCMに溶解し、次いで溶媒EAに交換した。EA/MTBEから再結晶した後、ケーキを遠心分離により集め、その後真空下で乾燥した。これにより4.44 Kgの生成物(収率:70.2%)が得られた。
【0109】
次いで、生成物をX線粉末回折(XRPD)パターン法によって特定したが、以下の通りのXRPDパラメータを用いてPANalytical Empyrean X線粉末回折計で行った:X-Ray wavelength (Cu, kα, Kα1 (Å): 1.540598, Kα2(Å): 1.544426; Kα2/Kα1 intensity ratio: 0.50); X-Ray tube setting (45 Kv, 40mA); divergence slit (automatic); scan mode (Continuous); scan range (°2TH) (3°-40); step size (°2TH) (0.0131); scan speed (°/min) (about 10)。XRPDの結果、得られた生成物が図1に示す結晶であることが分かった。
【0110】
図2に示す示差走査熱量測定(DSC)曲線は、TA InstrumentsのTA Q2000 DSCで生成した。使用されるDSCパラメータは以下のとおり:temperature (25°C-desired temperature); heating rate (10°C/min) ; method (ramp); sample pan (aluminum, crimped); purge gas (N2)。DSCの結果より、139.4℃(開始温度)におけるシャープな融点が示された。
【0111】
図3に示す熱重量分析(TGA)曲線は、TA InstrumentsのTA Q5000 TGAで生成した。使用されるTGAパラメータは以下のとおり:temperature (RT-desired temperature); heating rate (10oC/min); method (ramp); sample pan (platinum, open); purge gas (N2)。TGAの結果において110℃までは重量減少がなく、無水であることが示された。
【0112】
図4に示すプロトン核磁気共鳴(1H NMR)をBruker 400M NMR分光計によってDMSO-d6中にて測定した。1H NMR (DMSO-d6) δ 7.50 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.46-7.38 (m, 2H), 7.17 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.05 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.85-6.72 (m, 1H), 6.67 (s, 1H), 6.07 (dd, J = 16.8, 2.2 Hz, 1H), 5.64 (dd, J = 10.4 Hz, 2.2 Hz, 1H), 4.55-4.38 (m, 1H), 4.17-3.94 (m, 2H), 3.33-3.22 (m, 2H), 3.08-2.88 (m, 1H), 2.67-2.51 (m, 1H), 2.36-2.15 (m, 1H), 2.12-1.82 (m, 2H), 1.79-1.65 (m, 1H), 1.63-1.49 (m, 1H), 1.38-1.08 (m, 2H)。
【0113】
図5に示すように炭素核磁気共鳴(13C-NMR)をBruker 400M NMR分光計によってDMSO-d6中にて測定した。化合物1の結晶形Aの13C-NMRスペクトル。

実施例2 化合物1の結晶形Aの製造
【0114】
(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(化合物1)は、WO2014173289Aに開示されている方法により調製し、さらに凍結乾燥して、非晶形の化合物1として得た。化合物1(200 mg、ee値>97%)のEA(8 mL)の溶液を50℃に加熱して、上記溶液を得た。50℃でヘキサン(8 mL)を滴下した。混合物を室温に冷却し、16時間撹拌し、次に濾過して110 mgを白色の固形物として得た。得られた固形物をXRPDによりA型と同定した。

実施例3 化合物1の結晶形Aの調製(貧溶媒添加)
【0115】
約15 mgのサンプル(結晶形A)を20 mLのガラスバイアルに量り取り、続いて0.4~1.2 mLの対応する溶媒(表2参照)を加えて全ての固形物を溶解させた。次いで混合物を800 rpmの速度で磁気的に撹拌して、室温で透明な溶液を得た。続いて、相対的な貧溶媒(表2参照)を溶液に添加して沈殿を誘導するか、あるいは貧溶媒の総量が15.0 mLに達するまで添加した。沈殿が起こらない場合は、次に溶液を室温で時間をかけて行う蒸発に移した。得られた固形物をXRPDによりA型であると同定した。
【0116】
表2 貧溶媒添加試験
【表2】

実施例4 化合物1の結晶形Aの調製(溶液蒸気拡散)
【0117】
約15mgの試料(結晶形A)を0.5~1.5mLの対応する溶媒(アセトン又はEtOAc)に溶解して、3mLバイアル中の透明な溶液を得た。続いて、溶液を3mLの相対的な貧溶媒(n-ヘプタン)を入れた20mLバイアルに入れた。20mLバイアルをキャップで密封し、室温に保ち、有機蒸気が溶液と相互作用するのに十分な時間を取った。11日目の終わりに、透明な溶液を室温での蒸発に変えた。得られた固形物をXRPDによりA型と同定した。

実施例5 化合物1の結晶形Aの安定性試験及び化合物1の純度

(1)物理的安定性試験
【0118】
熱安定性試験として化合物1の結晶形Aを80℃で2日間保存したところ、試験前後でXRPDパターンには結晶形の変化が表れなかった。
【0119】
化合物1の結晶形Aの長期安定性試験では、25℃/60%RHで24ヶ月間(%面積:T0=99.2%及びT12=99.2%)又は40℃/75%RH条件で6ヶ月間(%面積:T0=99.1%及びT6=99.4%)貯蔵したときに有意な化学的純度変化が生じないことが示された。さらに、25℃/60%RHで24ヶ月間又は40℃/75%RHで6ヶ月間貯蔵したとき、結晶形及び光学純度の変化は観察されなかった。

(2)吸湿試験
【0120】
図6に示す動的蒸気収着(DVS)プロットは、SMS(表面測定システム)であるDVS Intrinsicによって収集した。使用するDVSパラメータには以下のものがある:temperature (25oC); dm/dt (0.002%/min); Min. dm/dt stability duration (10 min); Max. equilibrium time (180 min); RH range (0%RH to 95%RH); RH step size(10%RH from 0%RH to 90%RH, 5%RH from 90%RH to 95%RH)。図6に示すように、80%RHで非常にわずかな質量増加があり、それは化合物1の結晶形Aに対して約0.8%であった。

(3)化合物1の純度を向上させるための形態Aによる結晶化/再結晶化。
【0121】
形態Aによる結晶化/再結晶化は化合物1の純度を向上させ、さらに本明細書の合格基準を満たすように化合物1中の不純物を抑制するのに効果的な方法である。表3に示す例を参照。
【0122】
表3 形態Aによる結晶化/再結晶化後の純度変化
【表3】

実施例6 重水素標識した(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドの調製(重水素標識化合物1)
【化27】
【0123】
アクリル-2,3,3-d3酸(50mg、0.67mmol)及びDMF(1滴)のDCM(20 mL)の溶液に対して、0~5℃で塩化オキサリル(1.6N、40.9mL、65.5mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌した。混合物を減圧下で濃縮して、粗アクリロイル-d3塩化物を得た。
【0124】
(S)-2-(4-フェノキシフェニル)-7-(ピペリジン-4-イル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミド(BG-13から解離したもの、ステップ15、化合物1、代替法を参照;278 mg,0.67 mmol)のDCM(20 mL)及びNaHCO3の水溶液(10 mL)を上記アクリロイル-d3塩化物のDCM(5 mL)の溶液に0~5℃で滴下し、室温で2時間撹拌した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下で濃縮し、分取TLCにより精製して55 mg(17.5%)の(S)-7-(1-(アクリロイル-d3)ピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドを灰白色の固形物として得た。1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 7.50-7.44 (m, 2H), 7.42-7.35 (m, 2H), 7.17-7.10 (m, 1H), 7.09-6.99 (m, 4H), 6.64 (s, 1H), 4.52-4.40 (m, 1H), 4.10-3.95 (m, 2H), 2.29-3.25 (m, 2H), 3.04-2.86 (m, 1H), 2.63-2.50 (m, 1H), 2.32-2.13 (m, 1H), 2.06-1.81 (m, 2H), 1.75-1.45 (m, 2H), 1.35-1.08 (m, 2H)。MS (ESI, m/e) [M+1]+ 475.2。

実施例7 化合物1の多形の研究

(1)非晶形からの多形の研究-非晶形の化合物1からの形態Aの調製
【0125】
(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドをWO2014173289Aに開示される方法に従って調製し、さらに凍結乾燥して、非晶形の化合物1を得た。
【0126】
表4a~4k、表5a~5e及び表6の各実験について、非晶形としての化合物1を約20mg、ガラスバイアルに量り取り、続いて対応する溶媒を加えた。必要な場合は混合物を加熱して透明な溶液を得た。次いで、混合物を1~2日間攪拌せずに室温に保つことで、透明な溶液から生成した固形物が見えるようになった。固形物を偏光顕微鏡により観察した。
【0127】
表4 出発物質としての化合物1(ee値=90%)
【表4a】
【表4b】
【表4c】
【表4d】
【表4e】
【表4f】
【表4g】
【表4h】
【表4i】
【表4j】
【表4k】
Y=Yes、及びN=No。

表5 出発物質としての化合物1(ee値=97%)
【表5a】
【表5b】
【表5c】
【表5d】
【表5e】
Y=Yes、及びN=No。
【0128】
表4a~4k及び表5a~5eの実験は同じスケールで行った(すなわち、出発物質-非晶質化合物1の量は約20 mgである)。しかしながら、出発材料のee値が、各実験において形成されるべき固形物の量に有意な影響を及ぼすように思われた。表4a~4kの実験では90%eeの非晶質化合物1から出発したが、このように形成された固形物は少量である。表5aから5eの実験では非晶質化合物1の97%eeから出発したが、非常に多くの固形物が得られた。また、90%eeの出発材料から結晶化した時に、表4a~4kの実験において得られた固形物はee値が低かった。表4aから4kからの固形物のサンプルの一つでは結晶化の系としてEA/ヘキサンを用いたが、ee値は45%だけであった。
【0129】
表5aの結果を、実施例2と同様のスケールアップ実験によってさらに確認したところ、得られた固形物が所望の結晶形(形態A)であることが確認された。
【0130】
上記表4a~4k及び表5a~5eに示されるように、結晶性の固形物の形成は、特定の溶媒、溶媒の比率などに応じて変化し得る。
【0131】
表6の結果は、結晶性の固形物の形成が特定の溶媒比率に依存することをさらに裏付けている。
【表6】
(2)結晶形からの多形の研究-結晶形からの形態Aの調製

時間をかけて行う蒸発
【0132】
試料約15 mg(結晶形A)を3 mLのガラスバイアルに量り取り、続いて対応する溶媒又は溶媒混合物(表7参照)を加えて透明な溶液を得た。その後、バイアルを3~4個のピンホールを有するパラフィルムで覆い、室温に保つことで溶液を、時間をかけて蒸発させた。固形物をXRPD分析のために単離した。しかしながら、表7にまとめられるように、結晶形のものは生成されなかった。
【0133】
表7 時間をかけて行う蒸発の実験
【表7】

貧溶媒添加
【0134】
試料約15mg(結晶形A)を20 mLのガラスバイアルに量り取り、続いて0.4~1.2 mLの対応する溶媒を加えた(表8参照)。次いで混合物を800 rpmの速度で、磁気で撹拌して、室温で透明な溶液を得た。続いて、相対的な貧溶媒(表8参照)を溶液に添加して沈殿を誘発させるか、あるいは貧溶媒の総量が15.0 mLに達するまで添加した。沈殿が起こらない場合は、次に溶液を室温で時間をかけて蒸発させた。結果を表8にまとめた。
【0135】
表8 貧溶媒添加実験
【表8】
N/A:固形物は得られなかった。

時間をかけて行う冷却
【0136】
約20 mgのサンプル(結晶形A)を3 mLのガラスバイアル中で、室温にて1.0mLの対応する溶媒(表9参照)に懸濁した。懸濁液を、800 rpmの速度で磁気撹拌しながら50℃でスラリーに移した。試料を50℃で2時間平衡化し、0.45 μmのナイロンメンブレンを使用してろ過した。その後、ろ液を50℃から5℃まで0.1℃/分の速度で時間をかけて冷却した。XRPD分析のために単離するまでの間、得られた固形物を5℃で等温に保った。表9にまとめたように、結晶形は得られなかった。
【0137】
表9 時間をかけて行う冷却の実験
【表9】
N/A:固形物は得られなかった。
*:透明な溶液を移して室温で蒸発させた。

溶液蒸気拡散
【0138】
約15 mgの試料(結晶形A)を0.5~1.5 mLの対応する溶媒に溶解し(表10参照)、3 mLのバイアル中に透明な溶液を得た。続いて、溶液を3 mLの相対的な貧溶媒を含む20 mLのバイアルに入れた。20 mLのバイアルをキャップで密封し、室温に保ち、有機蒸気が溶液と相互作用するのに十分な時間を取った。11日目の終わりに、透明な溶液を室温での蒸発に移した。得られた固形物をXRPDにより同定した。結果を表10にまとめた。
【0139】
表10 溶液蒸気拡散の実験
【表10】
N/A:固形物は得られなかった。
*:時間をかけて蒸発させることで固形物が生成した。

ポリマー誘起結晶化の実験
【0140】
約15 mgのサンプル(結晶形A)を1.0 mLの対応する溶媒に溶解し(表11参照)、3 mLバイアル中の透明な溶液を得た。次いで溶液を0.45 μmのナイロン膜を用いて濾過した。濾液に約2 mgのポリマー混合物を添加した。混合物を室温で撹拌して沈殿を誘導した。固形物をXRPD分析のために単離した。表11にまとめたように、結晶形は得られなかった。
【0141】
表11 ポリマー誘起結晶化の実験
【表11】
ポリマー混合物A:ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAC)、ヒプロメロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)(質量比1:1:1:1:1:1)
ポリマー混合物B:ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)(質量比1:1:1:1:1)。

実施例8 化合物1の絶対配置の決定

BG-13の単結晶の作製
【0142】
単結晶成長実験(表12参照)を、時間をかけて冷却する方法によって6回行った。MeOH/H2O(1:1,v/v)中で時間をかけて冷却することによって、望ましい形でBG-13の単結晶を得た。結晶のデータ及び精密な構造を表13にリストとして示す。
【0143】
表12 単結晶成長実験
【表12】

表13 BG-13の単結晶のデータと精密な構造
【0144】
単結晶のデータは、CCD検出器を備えたBruker APEX DUO単結晶回折計で生成した(Cu Kα, λ=1.54178 Å, 173.15 K)。
【表13】
【0145】
BG-13は、(2R,3R)-ジベンゾイル酒石酸(L-DBTA)塩であることが確認され、また遊離塩基対のL-DBTAに対するモル比は2:1であった。L-DBTA中の両方の炭素(C32とC32’)の立体配置はRであることが確認された。図8から図10に示すように、遊離塩基中のC6の立体配置はSであると決定された。また、図11に示すように、粉末X線回折パターン法を用いて単結晶の構造が同定された。

化合物1の絶対配置
【0146】
化合物1の絶対配置は、中間体BG-13の単結晶X線構造解析からSであると推定された。

実施例9 BG-11Aのキラル分割
【化28】
【0147】
共通の手順:調製した溶媒系に化合物BG-11Aを含む溶液に、高温でキラル酸を添加した。この温度で撹拌した後、それを室温まで冷却し、その後室温で一晩撹拌した。固形物を濾過し、その後、調製した溶媒系で洗浄した。ee値は、関連する塩又はそのBoc誘導体にて直接キラルHPLCで試験した(表14参照)。他のキラル酸又は溶媒系では、ee値の無いキラル化合物や、ee値の低いキラル化合物や、又は望ましくないキラル化合物が見られた。
【0148】
表14 BG-11Aのキラル分割
【表14】

実施例10 BG-12Aのキラル分割及びキラル純度の改善
【化29】
【0149】
共通の手順:調製した溶媒系中に化合物BG-12Aを含む溶液に、高温でキラル酸を加えた。この温度で撹拌した後、それを室温に冷却し、その後室温で一晩撹拌した。固形物を濾過し、その後、調製した溶媒系で洗浄した。キラル純度は、関連する塩又は遊離塩基にて直接キラルHPLCで試験した(表15参照)。他のキラル酸又は溶媒系では、ee値の無いキラル化合物や、ee値の低いキラル化合物や、又は望ましくないキラル化合物が見られた。
【0150】
表15 BG-12Aのキラル分割
【表15】
【0151】
得られたL-DBTA塩(31 g、85.6% ee)をTHF/H2O(1/1、1034 mL)に加え、懸濁液を70℃に温め、すべての固形物が溶解するまで撹拌した。次いで517 mLの水を加えた。次に溶液を40℃にゆっくり冷却し、種結晶(10 mg)を加えた。約2時間撹拌した後、溶液を周囲温度にゆっくり冷却し、その後2日間撹拌した。濾過し、固形物をTHF/H2O=1/1(20 mL)で洗浄し、減圧下で乾燥して、白色の固形物として生成物を得た(22.5 g、収率72%、>98.5 ee値)。
【0152】
得られた遊離塩基(6.02 g、79.1% ee)を(1g/15mL)でEtOH/H2O(6/1、90mL)に溶解し、78℃で撹拌してすべての出発物質を溶解させた。次いで、L-DBTA(2.84 g、7.9 mmol、0.55当量)のEtOH/H2O(6/1、7mL)の溶液を加えた。固形物が急速に形成され、混合物をこの温度で1時間攪拌した後、加熱システムを取り外した。混合物を室温に冷却した。濾過し、固形物をEtOH/H2O(6/1、10mL)で洗浄した。収集した固形物を、NaOH水溶液及びDCMを用いて遊離塩基に変換して、白色の泡状物として生成物を得た(4.7g、収率:32.6%、93% ee)。
【0153】
得られた遊離塩基(70.0 g、90.5% ee)のCH3CN/H2O(1/1、700 mL)の懸濁液を60℃に加熱して透明な溶液を得た。次いで上記の溶液に、L-DBTA(33 g、0.55当量)を添加した。60℃で約2時間撹拌した後、混合物をゆっくり室温に冷却し、一晩撹拌した。濾過し、固体をCH3CN/H2O(1/1、50 mL)で洗浄し、減圧下で乾燥させ、灰白色の固体として生成物を得た(80g、収率:80%、ee値>98%)。

実施例11 効力試験
【0154】
(S)-7-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)-4,5,6,7-テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-カルボキサミドは、以後、その結晶形Aを使用して試験した。

テスト1:キナーゼの阻害と選択性

方法:

(1)BTKキナーゼ酵素試験
【0155】
化合物1の結晶形AをBTKキナーゼ(aa2-659、Carna Biosciences)の阻害について試験したが、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)方法論に基づく試験によるものであった。試験は384ウェルの小容量の黒色プレート中で行い、BTKキナーゼ、5μM ATP、2μMペプチド基質及び0~10μMの化合物が含有された反応混合物中で行い、これらは、50mM Tris pH7.4、10mM MgCl2、2mM MnCl2、0.1mM EDTA、1mM DTT、0.005% Tween-20、20nM SEB及び0.01% BSAを含有する緩衝液中に含まれるものといた。キナーゼを化合物と共に室温で60分間インキュベートし、ATP及びペプチド基質を添加することによって反応を開始させた。室温で60分間反応させた後、製造元の説明書(CisBio Bioassays)に従って等量の停止/検出溶液を加えた。停止/検出溶液は、Eu3+クリプテート結合マウスモノクローナル抗体(PT66)の抗ホスホチロシンのもの及びXL665結合ストレプトアビジンを含有しており、50mM HEPES pH 7.0、800mM KF、20mM EDTA及び0.1% BSAを含有する緩衝液に含まれるものであった。プレートを密封し、その後室温で1時間インキュベートし、その後TR-FRETシグナル(波長337 nmでの励起を伴う620 nmでの発光に対する665 nmでの蛍光発光の比)をPHERStar FSプレートリーダー(BMG Labtech)に記録した。ペプチド基質のリン酸化により、抗ホスホチロシン抗体がビオチン化ペプチド基質へ結合するが、ここで蛍光ドナー(Eu3+クリプテート)をアクセプター(ストレプトアビジン-XL665)にごく近接して配置させていることから、ドナーフルオロフォア(620nm)からアクセプターフルオロフォア(665nm)に向かって高度の蛍光共鳴エネルギーの移動が行われる。BTKキナーゼ活性の阻害によりTR-FRETシグナルが減少した。Graphpad Prismソフトウェアによってデータを4パラメータロジスティック方程式に当てはめることで化合物1のIC50を導き出した。

(2)生化学的キナーゼ選択性
【0156】
結晶形Aの選択性の特性分析のために、Reaction Biology Corp.で1 μMの342個のキナーゼのパネルを使用した。結晶形Aが329個のキナーゼに対しては70%未満の阻害を、BTKを含む13個のキナーゼに対しては70%を超える阻害を示していた。結晶形AのIC50(表13参照)はBeiGeneの事業所内で行われたが、さらにITK、TEC、JAK3及びEGFRの試験を含めるものとし、TR-FRET試験及び対応するペプチドを基質として使用することで行った。
【0157】
ITKのIC50の決定:ITK試験の手順は、以下の変更を除いてBTK試験と同様である:3 μMのATP及び2 μMのTK基質をキナーゼ反応に使用した。
【0158】
TECのIC50の決定:TEC試験の手順は、以下の変更を除いてBTK試験と同様である:1)280μM ATP及び2 nM Poly-GT基質をキナーゼ反応に使用した。2)反応バッファーにSEBが含まれていない。
【0159】
JAK3のIC50の決定:JAK3試験の手順は、以下の変更を除いてBTK試験と同様である:1)3.4 μM ATP及び3 μMペプチド基質(B-EE-15、ビオチン-EQEDEPEGDYFEWLE)をキナーゼ反応に使用した。2)反応緩衝液は50mM Tris pH7.8、10mM MgCl2、5 mM DTT、0.01% TritonX-100及び0.01% BSAを含有する。
【0160】
EGFRのIC50の決定:EGFR試験のプロトコルは、以下の修正を除いてBTK試験と同様である:1)20μMATP、1.44μM TK基質-ビオチン(チロシンキナーゼに共通する基質の一つ)及び0~1000 nMの化合物キナーゼ反応には最終濃度の1%のDMSOを用いた。2)反応緩衝液は、50 mM HEPES pH7.5、10 mM MgCl2、1 mM EGTA、0.01%Brij-35、2.5 mM DTT及び0.1% BSAを含む。3)停止/検出溶液緩衝液は25 mMのHEPES pH7.5、400mMのKF、50mMのEDTA、0.01%のTriton-X100及び0.1%のBSAを含む。

結果:
【0161】
結晶形AのBTKキナーゼに対するIC50は0.27 nMであった。結晶形Aは強力で、特異的で、かつ不可逆的なBTKキナーゼ阻害剤であることが分かった。その選択性に関して言えば、1 μMで、342個のヒトのキナーゼのパネルにて特性分析した場合、結晶形Aが70%以上阻害したのは、他に13個のキナーゼだけであった。
【0162】
表16 結晶形Aの酵素阻害活性
【表16】
注:BTK、EGFR、ITK、TEC及びJAK3試験は、TR-FRET試験及び対応するペプチドを基質として使用することによって実施した。事前に1時間インキュベーションしておいて、結晶形AのIC50を5つのキナーゼについてのATPのKMで測定した。HER4、BMX、TXK、BLKFGR、LCK、FRK/PTK5試験は、33P-ATP及びフィルター結合試験を使用して、Reaction Biology Corpで実施した。事前に1時間インキュベーションしておいて、結晶形AのIC50を1 μMのATPで測定した。

試験2:結晶形AによるBTKpY223細胞試験
方法:
【0163】
BTKpY223細胞試験は、BTK Tyr223における内因性リン酸化レベルを定量的に決定することを目的としたHTRFに基づく試験である。リン酸化Tyr223はBTKの完全な活性化に必要である。試験は、BTKpY223試験キット(63IDC000、Cisbio)を用いてRamos細胞(CRL-1596、ATCC)中で行った。
【0164】
簡単に説明すると、Ramos細胞を0.5% FBS含有RPMI1640中で2時間血清飢餓状態にした。飢餓状態にした後、細胞を結晶形Aと共にインキュベートし、1時間CO2インキュベーター内で様々な濃度で検出した。インキュベーション後、細胞を1 mM過バナジウム酸塩(PV)又はNa3VO4(OV)で20分間刺激した。その後、細胞をスピンダウンし、室温で10分間、1×溶解緩衝液(キットに付属の4×溶解緩衝液)で溶解した。インキュベーション中に、検出緩衝液(キットに供給されている)にて抗BTK-d2及び抗pBTK-Kを希釈することによって1×抗体混合物を調製した。2 μl/ウェルにて1×抗体混合物をOptiPlate-384試験プレート(6005620、Perkin Elmer)に分配した。その後、18 μLの細胞溶解物を、抗体溶液を予め添加しておいた試験プレートに移した。穏やかに混合し、短時間スピンした後、プレートを密封し、そして室温で18時間暗所にて保管した。互換性のあるHTRFリーダー(PHERAstar FS、BMG)を用いて2つの異なる波長(665nm及び620nm)で蛍光発光を測定した。化合物1の効力は、665nmと620nmのシグナル強度間の比の阻害に基づいて計算した。シグモイド用量反応関数を用いてGraphPad PrismソフトウェアでIC50値を計算した。

結果:
【0165】
結晶形Aは、1.8±0.2nM (n=3)という低い濃度で、B細胞リンパ腫細胞株、RamosにおいてBTKのリン酸化を阻害した。

試験3:血液癌細胞系における腫瘍細胞増殖に対する結晶形Aの効果(Rec-1、Mino、JEKO-1及びTMD-8)

方法:
【0166】
3つのMCL細胞株(Rec-1、Mino及びJEKO-1)及びABC型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞株(TMD8)をこの研究に使用した。細胞株は、10%ウシ胎児血清/FBS(Thermo Scientific)を添加したRPMI-1640中で維持した。100単位/mlのペニシリン(Gibco)及び0.1mg/mlのストレプトマイシン(Gibco)及び空気中5%CO2の加湿雰囲気中で37℃に維持する。細胞株は、取得した元の細胞から30回継代以内に播種された(laid down)凍結ストックから回復した。
【0167】
Rec-1、Mino、JEKO-1及びTMD-8細胞における化合物の増殖阻害活性は、CellTiter-Glo発光細胞生存率試験(Promega)を用いて決定した。96ウェルプレートの1ウェルあたりに播種した細胞数を各細胞株について最適化して、6日間の処理期間にわたる対数増殖を確実なものにした。細胞を10点希釈系列で3回処理した。化合物に6日間曝露した後、各ウェルに存在する細胞培養培地の体積に等しい体積のCellTiter-Glo試薬を加えた。混合物をオービタルシェーカー上で2分間混合して細胞を溶解させ、続いて室温で10分間インキュベートすることで、発光シグナルの発生及び安定化を図ったが、発酵シグナルはATPの量を表しており、すなわち代謝が活発な細胞の量を表している。発光シグナルは、PHERAstar FSリーダー(BMG Labtech)を用いて測定した。細胞生存率についてのIC50値は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて決定し、また3つの独立した試験の平均とした。

結果:
【0168】
化合物1の結晶形Aは、3つのMCL細胞株及びABC型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞株(TMD8)において細胞増殖に対して特異的かつ強力な阻害効果を示した(表17)。

表17 血腫性腫瘍細胞増殖に対する結晶形Aによる阻害
【表17】

試験4:マウスにおける結晶形Aの薬物動態学的研究

方法:
【0169】
経時的研究のために、マウスを無作為に7群に分け、1群あたりマウス4匹とした。 マウスを化合物1の結晶形Aの単回投与で処置し、投与後の異なる時点(30分、1、2、4、12、24時間)で二酸化炭素を使用して安楽死させた。用量依存性試験のために、マウスを無作為に9群に分け、1群あたりマウス4匹とした。マウスを異なる用量レベルの化合物1の結晶形Aで処置し、そして投薬の4時間後に二酸化炭素を使用して安楽死させた。処置は経口胃管栄養法(経口)により10 ml/kg体重の容量で投与した。投与直前に体重を評価し、それに応じて投与量を調整した。
【0170】
PK試料調製:経時的研究のために、投与後15分のイソフルラン/酸素麻酔下で(この群のマウスも24時間の時点で使用した)、又は他の時点での安楽死後の心臓穿刺下で、後眼窩洞から血液試料(マウス1匹あたり50 μL)を採取した。用量依存性試験のために、投与後30分でイソフルラン/酸素麻酔下で眼窩後洞から血液試料を採取した。血漿を3,000 gで10分間の遠心分離で集め、分析まで-80℃で凍結保存した。
【0171】
PK分析:最大血漿濃度(C max)及びC maxに達するまでの時間(T max)は、血漿濃度対時間のプロファイルから直接得た。

結果:
【0172】
結晶形AはICRマウスにおいて急速に吸収されそして除去された。

試験5:TMD-8異種移植モデルにおける結晶形Aの有効性試験

腫瘍移植方法:
【0173】
動物をシクロホスファミド(生理食塩水に150 mg/kg含有、腹腔内用に調製)及びジスルフィラム(0.8% Tween 80を含む生理食塩水に調製し、125 mg/kgを経口投与、シクロホスファミドの各投与後1時間)で2日間に渡り各日に前処置した。次いで、シクロホスファミドの2回目の投与の24時間後に、動物にTMD-8細胞を接種した。移植の日に、細胞培養培地を新鮮な培地と交換した。4時間後、培地を除去し、そして細胞を上記のように集めた。細胞を冷PBS(4℃)に再懸濁し、同量のマトリゲル(BD、カタログ番号356237)を添加して最終濃度を2.5×107細胞/mlにした。再懸濁細胞を接種前に氷上に置いた。各マウスの右腋窩領域を、細胞接種前に75%エタノールで洗浄した。各動物に、26ゲージの針を介して右前方の脇腹に5×106細胞を含む200 μlの細胞懸濁液を皮下注射した。
【0174】
in vivoでの有効性試験を細胞接種後3日目から始めるものとし、このために、まず動物を1群あたり10匹のマウスを有する所望の数の群に無作為に割り当てた。マウスを1日2回(BID)、ビヒクル(0.5% カルボキシメチルセルロース(CMC)+0.2% Tween 80)、及び異なる用量レベルの化合物1の結晶形Aで39日間に渡り処置した。処置は経口胃管栄養法(経口)により10ml/kg体重の容量で投与することで行った。投与直前に体重を測定し、それに応じて投与量を調整した。キャリパーを使用して腫瘍体積を週2回2次元的に測定した(この試験では接種後11日目から測定可能であった。)。式:V=0.5 × (a×b2)を用いて腫瘍体積を計算した。式中、a及びbはそれぞれ腫瘍の長径及び短径である。統計学的分析はスチューデントT検定を用いて行った。P<0.05を統計学的に有意であるものと考慮した。一人の個人が、研究の全期間にわたって腫瘍測定を担当した。体重も週2回記録した。試験期間中、マウスには毒性の臨床徴候についても毎日モニターした。

結果:
【0175】
結晶形Aのin vivoでの有効性を、NOD/SCIDマウスの皮下に増殖させたTMD-8 DLBCL異種移植片にて試験した。1日2回(BID)毎日経口投与したが異なる用量レベルにおいて十分に耐容性があり、化合物1の結晶形Aは用量依存的に抗腫瘍効果を示した。化合物1の結晶形Aは最低用量の試験において、すでに強い抗腫瘍活性を示した。全ての処置群において、試験を通じて動物の体重に有意な影響は見られなかった。

試験6:全身REC-1異種移植モデルにおける結晶形Aの有効性試験

腫瘍移植方法:
【0176】
動物をシクロホスファミド(食塩水に150 mpk i.p.で調製)及びジスルフィラム(0.8% TW-80を含む食塩水にて調整、125 mpk p.o.、シクロホスファミドの各投与の1時間後)で2日間各日とも前処理した。次いで、シクロホスファミドの2回目の投与の24時間後に、動物にREC-1細胞を接種した。移植の日に、細胞培養培地を新鮮な培地と交換した。4時間後、培地を除去し、そして細胞を上記のように集めた。細胞を冷(4℃)PBSに再懸濁して、1×108 cells/mlの最終濃度とした。再懸濁細胞を移植前に氷上に置いた。各動物に、1×107細胞を含む100μlの細胞懸濁液中を、尾静脈を介して静脈内注射した。
【0177】
in vivo有効性試験を細胞接種後8日目から始めるものとし、このために動物を1群あたり10匹のマウスを有する所望の数の群に無作為に割り当てた。マウスを、1日2回(BID)、ビヒクル(0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)+0.2% Tween 80)と異なる用量レベルの化合物1の結晶形Aで71日間に渡り処置した。接種後78日目に全ての投与を中止した。処置は経口胃管栄養法(経口)により10ml/kg体重の容量で投与することで行った。投与直前に体重を評価し、それに応じて投与量を調整した。体重を週に2回記録した(33日目からは週に3回に変更)。試験期間中、マウスの病気の臨床徴候も毎日観察した。この試験は全生存期間経過後に終了した。運動の喪失などの重度の毒性作用の見られた場合には、マウスを安楽死させ、死亡として記録した。
【0178】
データ分析のために:生存の分析はカプラン-マイヤー法により実施した。生存期間は、腫瘍細胞接種の日から動物の死亡した日又は安楽死させる日までの時間として定義した。各群について、生存期間中央値(MST)、95%信頼区間を有する生存期間の範囲(RST)及び寿命の延長(ILS)を計算した。生存期間中央値は、マウスの50%が死亡した時点として定義したす。ILSは以下の式を用いて計算した:

%ILS=(MST-MST(ビヒクル))/MST(ビヒクル)×100

Gehan-Breslow-Wilcoxon検定を用いて各群間で統計分析を行った。P<0.05であれば統計的に有意であるものと考慮した。

結果:
【0179】
化合物1の結晶形Aは、NOD/SCIDマウスにおいて全身性REC-1 MCL移植片に対して用量依存的な抗腫瘍活性を示した。化合物1の結晶形Aの有効性はこの異種移植モデルにおいて有意であった。

テスト7:結晶形Aの毒性
【0180】
包括的な非臨床毒性試験プログラムを、ラット及びイヌでの28日間のGLP試験及び研究試験のいくつかを含めて実施し、相異なる投与量での化合物1の結晶形Aの前臨床安全性を評価した。これらの研究では、抗癌薬の前臨床開発のために利用可能な規制上の指針に従った。これらの研究において、化合物1の毒物学的かつ安全性薬理学的プロファイルが好ましいことが示された。試験を通して、どの用量レベルでも試験に供したものに関連する死亡は発生しなかった。臨床化学における毒物学的に有意な変化や凝固は試験を通して認められなかった。回復段階の後においてもこれらの変化のいずれも認められなかった。

試験8:結晶形Aの薬物動態
【0181】
十分に検証済みのLC-MS/MS法を、Sprague-Dawleyラット及びビーグル犬での化合物1の結晶形Aの単回及び複数回投与後の薬物動態(PK)試験によく使用した。
【0182】
化合物1の結晶形Aはラットにおいて経口での生物学的利用能が良好である。ラットにおいて速やかに吸収され、そして血漿クリアランス(CL)が高かった。動態は雌ラットの用量範囲にわたって線形的であった。雄ラットの線形性はそれほど良くなかった。雄及び雌ラットの両方において、複数回経口投与後に化合物1の蓄積は統計的に有意なものではなかった。イヌへの複数の経口投与後の化合物1の結晶形Aでは、適度なクリアランス(CL)、適度に良好な生物学的利用能(F%)、用量範囲にわたって線形性のあるPKが見られ、また化合物1の蓄積が見られなかった。

試験9:結晶形AのADME
【0183】
化合物1は様々な組織に広く分布していたが、脳組織では少なく、この薬物が血液脳関門を容易に通過しないことが示されていた。
【0184】
7つの主要な薬物代謝CYPアイソザイム(CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2D6、及びCYP3A)についての化合物1の結晶形AのIC50値は、ヒト肝臓ミクロソームにおいて決定し、さらに化合物1の主要CYPアイソザイムに対する時間依存的な阻害能力も評価した。CYP2C8(IC50=4.03 μM)、CYP2C9(IC50=5.69 μM)及びCYP2C19(IC50=7.58 μM)に対して弱い阻害が見られたが、他のCYPアイソザイムに対する阻害はさらに低かった。化合物1が、これら7つの主要なヒトCYPに対する時間依存的なCYP阻害剤である可能性は低いようである。CYP3Aは、ヒト肝臓ミクロソームにおける代謝に関与する主要なCYPアイソフォームである。

実施例12:臨床試験研究

(1)進行中の臨床試験第I相進行性B細胞悪性腫瘍患者における化合物1の結果
【0185】
化合物1の最初の多施設共同非盲検第I相試験はオーストラリアとニュージーランドで行われており、2つの部分―25人の患者を対象とした用量漸増相と用量拡大相から構成されており、合計100人の患者を登録する予定である。登録された合計39人の患者に、初回の用量漸増部分からの25人の患者全員及び進行中の用量拡大部分からの14人の患者が含まれる。用量漸増相における化合物1の薬物動態、薬力学、安全性及び有効性に基づいて、320mgで1日1回(QD)及び160mgで1日2回(BID)を、進行中の用量拡大試験においてさらに探求中である。
【0186】
2015年10月19日がデータ分析の締め切り日であったが、29件の客観的な反応が観察されたが、この中に3件の完全奏功(CR)、1件の非常に良い部分奏功(VGPR)、及び25件の部分奏功(PR)が見られた。組織診上の奏功を表18にまとめた。39人の患者のうち31人が進行中のまま研究治療を続けているが、これには奏功であったこれまでのすべての患者が含まれている。
【0187】
表18 患者に対する組織診上の奏功
1 最新の診断でリンパ球増加症と診断された5人の患者を含む;2 VGPRであった一人の患者を含む
注:CR =完全奏功;PR=部分奏功;SD=安定している疾患;PD=進行性疾患;ORR=奏効率
【0188】
8人の患者が化合物1を中止したが、うち6人は疾患の進行によるものであり、2人は元の悪性腫瘍に関連する有害事象によるものであった。3人の患者が疾患進行又は疾患進行の合併症の結果として研究中に死亡した。薬物関連の重篤な有害事象(SAE)は無かった。治療との関係にかかわらず、有害事象の大部分は重症度がグレード1又は2であり、治療を制限するものではなかった。19件のグレード3以上のAEのうち、4件が薬物に関連する可能性があるものと研究者によって評価された―いずれも自然治癒した好中球減少症であったため、治療の中止は必要でなかった。大出血の1症例があり、グレード3以上の出血事象又は任意のグレードの頭蓋内出血事象:GI管のリンパ腫性浸潤を伴うマントル細胞リンパ腫患者におけるGI出血として特定されたが;この出血事象はドラッグホールド(drug hold)中に起こり、化合物1の治療の再開と共に急速に解消したため、薬物に関連しているとは判断されなかった。6人の患者には心房細動/粗動(AF)についてベースラインの履歴があったが、AFの悪化又は新たな事象は報告されなかった。

(2)ワルデンストロームマクログロブリン血症(WM)患者における化合物1の臨床試験第I相試験で継続中のものの結果
【0189】
B細胞悪性腫瘍における化合物1の多施設非盲検第I相試験は、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、及び米国で実施されており、疾患特異的コホート内に用量漸増相及び用量漸増相を設定したが、その中には未治療及び再発性/難治性のワルデンストロームマクログロブリン血症(R/R WM)を含んでいた。トレイル(Trail)における用量漸増部分では、1日の総用量を40 mgから320 mgの範囲で試験した一方、進行中の用量拡大相では1日2回(BID)160 mg又は1日1回(QD)の320 mgの試験用量を試験している。2017年3月31日現在、WM患者48人がこの研究に登録されていた。奏功は、改訂されたWMに関する第6回国際ワークショップ(IWWM)の基準に従って決定した。
【0190】
化合物1は、化合物1に関連した毒性により中断することはなく、耐容性が良好であることが今日まで示された。有害事象(AEs)は、一般に重症度が高くなく自然治癒であった。安全性が評価された48人の患者の任意の属性(attribution)中で最もよく表れるAE(> 10%)は、点状出血/紫斑/挫傷(35%)、上気道感染症(31%)、便秘(25%)、下痢(19%)、鼻出血(19%)、吐き気(17%)、咳(15%)、貧血(15%)、頭痛(15%)、好中球減少症(13%)、及び発疹(13%)であったが、グレード3又は4の貧血及び好中球減少症(各8%)と、グレード3又は4の下痢及び頭痛(各2%)を除いて、いずれもグレード1又は2の重症度であった。5件の重篤な有害事象が化合物1と関連があると考えられ;これらには、血胸、心房細動、大腸炎、熱性好中球減少症、及び頭痛の各症例が含まれていた。特に関心の高いAEsの中には、合計3例の心房細動(いずれもグレード1又は2)、及び1例の重症出血(血胸)であって、グレード3以上の出血又は任意のグレードの中枢神経系出血として定義されるものがあった。3つの事象:気管支拡張症、前立腺腺癌、及び幽門腺癌の各1症例では治療中止となった。
【0191】
データカットオフ時に、42人の患者の奏功について評価可能であった。効果を評価できない患者の中には、追跡調査期間が12週間未満の2人の患者、ベースライン時のIgMが500mg/dl未満の3人の患者、及び凍結タンパク質であったためIgMのベースラインが不正確であった1人患者がいた。追跡期間中央値12.3ヵ月(4.4~30.5ヵ月)で、ORRは患者中の90%(38/42患者)であり、主要奏効率は76%(32/42患者)であったが、VGPRは43%(18/42患者)であり、部分奏効は33%(14/42)であった。

(3)慢性リンパ性白血病及び小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)患者における化合物1の進行中の臨床試験第I相試験結果
【0192】
B細胞悪性腫瘍患者に対する化合物1の多施設非盲検第I相試験は、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、及び米国で実施されており、疾患特異的コホート中に用量漸増相と用量拡大相を設けたが、これには未治療(TN)及び再発/難治性(R/R)のCLL/SLLを含む。トレイルの用量漸増部分では一日の総用量を40 mg~320 mgの範囲で試験した一方で、進行中の用量漸増部分では1日2回160 mg(BID)又は1日1回320 mg(QD)の試験用量としている。2017年3月31日現在、69人のCLL又はSLL患者(18 TN、51 R/R)が試験に登録されている。
【0193】
化合物1はCLL/SLLにおいて耐容性が良好であった。任意の属性(attribution)のうち最もよく表れる有害事象(AEs)(10%以上)は、点状出血/紫斑/挫傷(46%)疲労(29%)、上気道感染症(28%)せき(23%)、下痢(22%)、頭痛(19%)、血尿(15%)、吐き気(13%)、発疹(13%)、関節痛(12%)、筋肉のけいれん(12%)尿路感染症(12%)であったが、唯一の重大な出血事象であったグレード3の紫斑病(皮下出血)の1例を除いて、これらのイベントはすべてグレード1又は2であった。注視すべきその他の有害事象には、グレード2の下痢及びグレード2の心房細動それぞれ1例が含まれていた。合計18件の重篤なAEs(SAEs)が13人の患者に発生したが、2人以上の患者で発生したSAEはなかった。AEのために治療を中止した患者はグレード2の胸水の1人のみであった。
【0194】
データカットオフ時に、66人の患者(16 TN及び50 R/R)が12週間以上の追跡調査を受けており、有効性について評価可能であり、他の3人の患者は12週間未満の追跡調査を受けた。追跡期間中央値10.5ヵ月(2.2~26.8ヵ月)の後、患者のうち、全体的な奏効率(ORR)は94%(62/66)で、完全奏効(CR)は3%(2/66)、部分奏効(PR)は82%(54/66)、さらにリンパ球増加症のPRs(PR-Ls)は9%(6/66)であった。安定疾患(SD)が5%(3/66)の患者で観察された。胸水のある患者は12週より前に治療を中止したので、奏効は評価できなかった。ホジキンの変化(Hodgkin’s transformation)が一例見られた。TN CLL/SLLでは、追跡期間中央値7.6カ月(3.7~11.6カ月)で、患者のうち、ORRは100%(16/16)、CRは6%(1/16)、PRは81%(13/16)、PR-Lは13%(2/16)であった。R/R CLL/SLLでは、追跡期間中央値14.0カ月(2.2~26.8カ月)で、患者のうち、ORRは92%(46/50)、CRは2%(1/50)、PRは82%(41/50)、PR-Lは8%(4/50)であった。安定した疾患が6%(3/50)の患者に観察された。
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