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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】杭の撤去方法及び引抜治具、杭撤去装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020013090
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021119272
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】市川 督人
(72)【発明者】
【氏名】青山 武史
(72)【発明者】
【氏名】坪井 広美
(72)【発明者】
【氏名】柴沼 隆
(72)【発明者】
【氏名】村中 真貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀一郎
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-125548(JP,U)
【文献】特開2007-107253(JP,A)
【文献】特開2017-025627(JP,A)
【文献】特開昭56-001836(JP,A)
【文献】特開2014-218861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された杭のうち地面よりも上方に突出した部位に、筒状に形成された引抜治具を被せ、前記引抜治具の内側に、前記上方に突出した部位が挿入された状態とする工程と、
前記引抜治具の筒方向と直交する方向に長尺なカンザシ材を、前記引抜治具と前記杭とを貫通させて設けることで、前記引抜治具と前記杭とを一体化する工程と、
前記引抜治具と前記杭とを一体化したまま、前記引抜治具をジャッキによってジャッキアップする工程と、
前記ジャッキアップ後に、前記カンザシ材によって一体化した状態の前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定する工程と、
前記杭の位置を一時的に固定したまま、前記カンザシ材を前記引抜治具及び前記杭から抜き取り、前記引抜治具を、前記ジャッキによってジャッキダウンして下方に移動させる工程と、
下方に移動した前記引抜治具の上端部よりも上方に位置する杭頭を切断する工程と、
を有することを特徴とする杭の撤去方法。
【請求項2】
前記ジャッキアップ後に、前記カンザシ材によって一体化した状態の前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定する工程と、
前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定したまま、前記ジャッキを収縮させ、さらに、前記ジャッキの上端又は下端にスペーサを配置する工程と、
前記スペーサを配置する工程を行った後に、前記引抜治具及び前記杭の位置の一時的な固定を解除し、前記引抜治具をジャッキアップする工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載の杭の撤去方法。
【請求項3】
前記カンザシ材を、前記引抜治具と前記杭とを貫通させて設けることで、前記引抜治具と前記杭とを再度一体化する工程と、
前記引抜治具と前記杭とを再度一体化する工程を行った後に、前記杭の位置の一時的な固定を解除する工程と、を有することを特徴とする請求項に記載の杭の撤去方法。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の杭の撤去方法に用いられる引抜治具であって、
前記杭のうち前記上方に突出した部位に被せられる筒状の治具本体と、
前記治具本体の筒方向と直交する方向に長尺に形成されて前記治具本体を貫通して設けられる前記カンザシ材と、を備えており、
前記治具本体の筒壁には、前記カンザシ材を、当該治具本体の筒方向と直交する方向に通すことが可能な一対の貫通孔が、少なくとも1セット形成されていることを特徴とする引抜治具。
【請求項5】
前記治具本体は、前記ジャッキを保持する保持部を有しており、
前記保持部は、前記一対の貫通孔を避けて配置されていることを特徴とする請求項に記載の引抜治具。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の引抜治具と、
前記引抜治具をジャッキアップ可能な複数の前記ジャッキと、
地面に設置されて前記複数のジャッキの反力を受ける反力受部と、を備えており、
前記反力受部の中央には、前記杭が通されるとともに前記引抜治具の下端部が通される第一開口部が形成されていることを特徴とする杭撤去装置。
【請求項7】
前記杭の長さ方向と直交する方向に長尺に形成され、前記杭を貫通して設けられて前記杭の位置を一時的に固定可能な位置固定材を更に備えており、
前記反力受部の側面には、前記第一開口部と連通し、前記位置固定材が通される第二開口部が形成されていることを特徴とする請求項に記載の杭撤去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の撤去方法及び引抜治具、杭撤去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤に打設された鋼管杭などの杭を撤去する方法として様々なものが知られている。例えば、オーガーケーシング工法やロータリー多滑車工法と呼ばれる方法では、杭と地盤との縁切り(フリクションカット)を行いながら杭を揚重撤去する。また、オールケーシング工法と呼ばれる方法では、杭を破砕・切断して撤去する。ところが、従来の工法は、大型のクレーンを用いたり、大きな騒音や振動が発生したりすることによって、場所による制約を受けたり、近隣住民の居住環境を害してしまう問題点があった。
【0003】
このような問題を解消するため、近年、場所による制約を受けず、近隣住民の居住環境を害することなく、既設杭の引き抜きが可能な杭引き抜き用治具及びその治具を利用した杭引き抜き方法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1においては、杭引き抜き用治具が、地中に埋設された鋼杭の頭部に一端が接合可能な縦部材と、縦部材に接合されて下面に油圧式ジャッキが設けられた横部材と、を備え、油圧式ジャッキによって横部材を押し上げる工程を繰り返す方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-306443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術の場合、杭引き抜き用治具における縦部材の下端は、杭の頭部に当接された上で、その当接された部分を覆うように表裏面に添接板が当てられ、その上からボルトによって締結された状態となっている。したがって、縦部材の下端部における形状及びサイズと、杭の頭部における形状及びサイズは、ある程度一致させる必要がある。そのため、例えば頭部における形状及びサイズが異なる杭の場合は、杭引き抜き用治具の使い回しが利かず、コストの面で問題が生じる場合がある。
また、現場では、縦部材の下端と、杭の頭部との位置を合わせた上で添接板及びボルトで連結する。そのため、縦部材の下端と杭の頭部との接合には正確性が求められることがあり、作業性の面で問題が生じる場合がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、場所による制約を受けず、かつ近隣住民の居住環境を害することなく杭の撤去を行うにあたって、杭の撤去に係るコストの低減と作業性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、杭の撤去方法であって、
地中に埋設された杭のうち地面よりも上方に突出した部位に、筒状に形成された引抜治具を被せ、前記引抜治具の内側に、前記上方に突出した部位が挿入された状態とする工程と、
前記引抜治具の筒方向と直交する方向に長尺なカンザシ材を、前記引抜治具と前記杭とを貫通させて設けることで、前記引抜治具と前記杭とを一体化する工程と、
前記引抜治具と前記杭とを一体化したまま、前記引抜治具をジャッキによってジャッキアップする工程と、
前記ジャッキアップ後に、前記カンザシ材によって一体化した状態の前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定する工程と、
前記杭の位置を一時的に固定したまま、前記カンザシ材を前記引抜治具及び前記杭から抜き取り、前記引抜治具を、前記ジャッキによってジャッキダウンして下方に移動させる工程と、
下方に移動した前記引抜治具の上端部よりも上方に位置する杭頭を切断する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の杭の撤去方法であって、
前記ジャッキアップ後に、前記カンザシ材によって一体化した状態の前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定する工程と、
前記引抜治具及び前記杭の位置を一時的に固定したまま、前記ジャッキを収縮させ、さらに、前記ジャッキの上端又は下端にスペーサを配置する工程と、
前記スペーサを配置する工程を行った後に、前記引抜治具及び前記杭の位置の一時的な固定を解除し、前記引抜治具をジャッキアップする工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の杭の撤去方法であって、
前記カンザシ材を、前記引抜治具と前記杭とを貫通させて設けることで、前記引抜治具と前記杭とを再度一体化する工程と、
前記引抜治具と前記杭とを再度一体化する工程を行った後に、前記杭の位置の一時的な固定を解除する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載の杭の撤去方法に用いられる引抜治具であって、
前記杭のうち前記上方に突出した部位に被せられる筒状の治具本体と、
前記治具本体の筒方向と直交する方向に長尺に形成されて前記治具本体を貫通して設けられる前記カンザシ材と、を備えており、
前記治具本体の筒壁には、前記カンザシ材を、当該治具本体の筒方向と直交する方向に通すことが可能な一対の貫通孔が、少なくとも1セット形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の引抜治具であって、
前記治具本体は、前記ジャッキを保持する保持部を有しており、
前記保持部は、前記一対の貫通孔を避けて配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明は、杭撤去装置であって、
請求項4又は5に記載の引抜治具と、
前記引抜治具をジャッキアップ可能な複数の前記ジャッキと、
地面に設置されて前記複数のジャッキの反力を受ける反力受部と、を備えており、
前記反力受部の中央には、前記杭が通されるとともに前記引抜治具の下端部が通される第一開口部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の杭撤去装置であって、
前記杭の長さ方向と直交する方向に長尺に形成され、前記杭を貫通して設けられて前記杭の位置を一時的に固定可能な位置固定材を更に備えており、
前記反力受部の側面には、前記第一開口部と連通し、前記位置固定材が通される第二開口部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、場所による制約を受けず、かつ近隣住民の居住環境を害することなく杭の撤去を行うにあたって、杭の撤去に係るコストの低減と作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】カンザシ材を断面視した場合の杭撤去装置の正面図である。
図2】カンザシ材を断面視した場合の杭撤去装置の左側面図である。
図3】杭撤去装置の平面図である。
図4】杭の撤去方法を説明する図である。
図5】杭の撤去方法を説明する図である。
図6】杭の撤去方法を説明する図である。
図7】杭の撤去方法を説明する図である。
図8】作業ヤードの補強構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
図1において符号1は、作業ヤードにおける地面を示す。作業ヤードは、地中に埋設された既設の杭5を引き抜いて撤去する作業が行われる場所であり、図1等には、撤去されるべき複数本の杭5のうち一本の杭5が表されている。
作業ヤードでは事前に杭頭出し作業が行われ、地面1よりも上方に、杭頭5aを含む杭5の上端部が露出した状態となっている。本実施形態においては、2000mm(ミリメートル)程度が地面1よりも上方に位置している。
なお、作業ヤードは、狭隘かつ低空頭の状態であり、大型の建設機械の持ち込みが不可となっており、さらに、杭5の撤去も、引き抜き寸法を短くすることが求められている。
【0019】
杭5は、鋼杭又は鋼矢板であり、本実施形態においては円筒形に形成された鋼管杭とされているが、H鋼杭等のその他の鋼杭であってもよいし、鋼矢板の場合は、鋼管矢板やハット形鋼矢板等が適宜採用される。
また、杭5は、打設時において複数の杭体が長さ方向に現場継ぎ溶接されて構成されたものであり、各図における符号5bは、その継ぎ目を示している。
なお、撤去される杭5は、鉛直に埋設された杭5だけでなく、鉛直方向に対して斜めに埋設された杭も撤去の対象とすることができる。
【0020】
杭5の撤去作業は、図1図7に示すように、杭5のうち地面1よりも上方に突出した部位に被せられる引抜治具20と、引抜治具20のジャッキアップ及びジャッキダウンを可能とする複数のジャッキ30と、複数のジャッキ30の反力を受ける反力受部40と、を備えた杭撤去装置10によって行われる。
【0021】
〔反力受部について〕
反力受部40は、作業ヤードの地面1に設置されており、H形鋼である鋼材41~46が井桁状に組まれて構成されている。
より詳細に説明すると、反力受部40は、地面1に平行かつ離間して並べられて設置される二本の下側鋼材41,42と、これら二本の下側鋼材41,42の上面間に、平行かつ離間して並べられて架け渡される二本の上側鋼材43,44と、二本の下側鋼材41,42における上面に設けられるとともに、二本の上側鋼材43,44間に位置する二つの上側中央鋼材45,46と、を有する。具体的には、二本の上側鋼材43,44における上面中央部と、二つの上側中央鋼材45,46の上面に、複数のジャッキ30が配置されることとなる。
二本の下側鋼材41,42及び二本の上側鋼材43,44は、井桁状に組まれるため、長尺に設定されている。一方、二つの上側中央鋼材45,46は、二本の上側鋼材43,44間に配置されるため短尺(あたかもブロック状)に設定されている。また、二本の上側鋼材43,44と、二つの上側中央鋼材45,46における上下方向の寸法は略等しく設定されている。
【0022】
下側鋼材41,42における上フランジと、上側鋼材43,44における下フランジは、ボルト・ナットによって結合されている。同様に、下側鋼材41,42における上フランジと、上側中央鋼材45,46における下フランジも、ボルト・ナットによって結合されている。
なお、輸送時に解体することを考慮し、下側鋼材41,42と、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46との結合は、ボルト・ナットのみによって行われるものとするが、反力受部40全体が、輸送車両に載せて輸送可能なサイズである場合には、ボルト・ナットと併せて、下側鋼材41,42と、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46とを溶接してもよい。
【0023】
また、反力受部40は、二本の下側鋼材41,42と二本の上側鋼材43,44が井桁状に組まれたものであるため、図3に示すように、中央には、杭5及び引抜治具20の下端部を通すことが可能な孔である第一開口部47が形成された状態となっている。
なお、二つの上側中央鋼材45,46は、第一開口部47側にはみ出さないように設けられている。
【0024】
さらに、二本の下側鋼材41,42間であって、かつ二本の上側鋼材43,44の下面と地面1との間には、図2に示すように、後述する位置固定材50(図6等参照)を通すことが可能な孔である第二開口部48(すなわち、二本の上側鋼材43,44の下の空間を指す。)が形成された状態となっている。当該第二開口部48は、第一開口部47と連通した状態となっている。
なお、位置固定材50は、杭5を貫通して設けられて杭5の位置を一時的に固定可能とするものであり、本実施形態における位置固定材50には、杭5の長さ方向と直交する方向に長尺に形成された溝形鋼が採用されている。なお、その長さは、下側鋼材41,42の長さと略等しく設定されている。
【0025】
反力受部40は、複数のジャッキ30の反力を受けるため、複数のジャッキ30が接する部分や、下側鋼材41,42と、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46とが重なり合う部分には、各鋼材41~46のウェブやフランジが座屈することを防ぐためのスチフナ49が適宜設けられている。
【0026】
〔ジャッキについて〕
ジャッキ30は、シリンダ31と、当該シリンダ31に対して伸縮するピストンロッド32と、を有する油圧ジャッキであり、ピストンロッド32は、反力受部40の上面に接する当接部33を備える。
また、複数のジャッキ30は、平面視において引抜治具20の外周面に沿って間隔を空けて配置され、隣り合うジャッキ30間の間隔は全て等しくなるように設定されている。隣り合うジャッキ30間の間隔が全て等しいことで、引抜治具20をバランスよく押し上げることができる。なお、本実施形態においては、四本のジャッキ30が等間隔で設けられている。この点については、用いられるジャッキ30の本数が四本以外の複数の場合であっても同様である。
【0027】
杭5の引き抜き寸法は、ピストンロッド32におけるストローク(伸縮長さ:ジャッキアップ長さ)に対応する。また、作業ヤードにおける上方空間に余裕がある場合には、ピストンロッド32におけるストローク(伸縮長さ)をサポートするスペーサ51(コマ材ともいう。)を、当接部33と反力受部40の上面との間に設けてもよい(図7参照)。すなわち、スペーサ51を設けた分、ジャッキ30によって、引抜治具20をより上方に押し上げることができる。スペーサ51は、上側鋼材43,44の上面中央部と、上側中央鋼材45,46の上面に載せられ、これらに対し、ボルト・ナットで結合されている。
【0028】
なお、スペーサ51は、反力受部40における各鋼材41~46と同様に、H形鋼などの鋼材によって構成されている。さらに、スチフナ49も同様に設けられて補強されている。スペーサ51は、上記のように短尺な上側中央鋼材45,46の上面に載せられることになるため、少なくとも下面は、上側中央鋼材45,46の上面と同程度の面積に設定されていることが好ましい。一方、上面は、ジャッキ30の当接部33が載せられるため、当該当接部33よりも広い面積に設定されていることが望ましい。
スペーサ51の上下方向の寸法(高さ)は、ピストンロッド32のストロークよりも短く設定されている。本実施形態においては、反力受部40を構成する各鋼材41~46の上下方向の寸法と略等しい。また、スペーサ51は、ジャッキ30の本数と同じ数を1セットとして用意されるが、一種類の高さのセットだけではなく、複数種類の高さのセットが用意されてもよい。
【0029】
本実施形態における複数のジャッキ30は、シリンダ31が、引抜治具20の複数の保持部24(後述する)によってそれぞれ保持される。また、本実施形態における複数のジャッキ30は、引抜治具20に対し、ピストンロッド32(当接部33)が下向きになるように設けられている。
ただし、これに限られるものではなく、複数のジャッキ30は、ピストンロッド32を上向きにした状態で反力受部40に設置してもよい。その場合、ジャッキ30は、図示はしないが、例えばシリンダ31の下端部にベースプレートを有し、ベースプレートが反力受部40にボルト・ナットで結合されるようにして設置される。また、この場合、スペーサ51は、ジャッキ30における当接部33と引抜治具20(後述する被押上部25)との間に設けられるものとする。
【0030】
〔引抜治具について〕
引抜治具20は、図1等に示すように、杭5のうち上方に突出した部位に被せられる筒状の治具本体21と、治具本体21の筒方向と直交する方向に長尺に形成されて治具本体21を貫通して設けられるカンザシ材26と、を備える。
【0031】
治具本体21は、本実施形態においては円筒形に形成されており、内側に、杭5のうち上方に突出した部位を通すことが可能となっている。すなわち、治具本体21の内径は、杭5の外径よりも大きく設定されている。換言すれば、杭5は、治具本体21よりも外側にはみ出さず、治具本体21の内部に納めることが可能な外形寸法であればよく、撤去対象の杭の外径が、治具本体21の内径よりも小さい場合は、引抜治具20を使い回すことができるようになっている。
【0032】
治具本体21の筒壁には、当該治具本体21を貫通するカンザシ材26を、当該治具本体21の筒方向と直交する方向に通すことが可能な一対の貫通孔22が、上部に2セット、中央部に2セット形成されている。
一対の貫通孔22は、水平方向に対向して配置され、カンザシ材26を水平に設けることができる。また、本実施形態における一対の貫通孔22は、治具本体21の中心軸を挟んで互いに対向するように配置されている。したがって、治具本体21の上部に形成された2セットの一対の貫通孔22は交差方向に配置され、治具本体21の中央部に形成された2セットの一対の貫通孔22においても交差方向に配置されている。そのため、治具本体21の上部においても、また中央部においても、一本ずつのカンザシ材26しか貫通して設けることができない。
ただし、一対の貫通孔22が、治具本体21の中心軸を挟まずに互いに対向するように配置される場合(平行又は平行により近い状態で配置される場合)には、治具本体21の上部においても、また中央部においても、二本ずつのカンザシ材26を貫通して設けることが可能となっている。
【0033】
各図においては、説明の便宜上、対になっている貫通孔22同士を、符号22a,22b,22c,22dとして表している。
要するに、治具本体21の上部における第1セットの一対の貫通孔22a,22aと、第2セットの一対の貫通孔22b,22bは、平面視において治具本体21の外周方向に沿って交互に、かつ互いに間隔を空けて配置され、隣り合う貫通孔22a,22b,22a,22b間の間隔は全て等しくなるように設定されている。
同様に、治具本体21の中央部における第1セットの一対の貫通孔22c,22cと、第2セットの一対の貫通孔22d,22dも、平面視において治具本体21の外周方向に沿って交互に、かつ互いに間隔を空けて配置され、隣り合う貫通孔22c,22d,22c,22d間の間隔は全て等しくなるように設定されている。
【0034】
また、治具本体21の外周面には、溝形鋼によって形成された複数の突条部23が筒方向(上下方向)に沿って配置された状態で設けられている。
より詳細に説明すると、本実施形態においては、治具本体21の筒方向に長尺に形成された四本の突条部23が、治具本体21の外周面に対し、治具本体21に形成された貫通孔22を避けて設けられている。さらに、四本の突条部23は、平面視において治具本体21の外周方向に沿って互いに間隔を空けて配置され、隣り合う突条部23間の間隔は全て等しくなるように設定されている。つまり、四本の突条部23のそれぞれは、平面視において、隣り合う貫通孔22a,22b,22a,22b間及び隣り合う貫通孔22c,22d,22c,22d間の中間部分に位置するようにして治具本体21の外周面に設けられている。
【0035】
溝形鋼である突条部23は、両方のフランジ23aにおける先端部が、治具本体21の外周面に溶接されて固定された状態となっている。そのため、ウェブ23bは、治具本体21の外周面から離間した状態となっている。これにより、円筒形の治具本体21における外周面に、四か所の平らな面を形成することが可能となる。
そして、このような平らな面である四本の突条部23の各ウェブ23bには、複数のジャッキ30を保持する上記の保持部24と、複数のジャッキ30における上端部が接する被押上部25と、が設けられている。なお、突条部23自体が、上記のように、治具本体21の外周面に対して貫通孔22を避けて設けられているため、四本の突条部23の各ウェブ23bに設けられた複数の保持部24及び複数の被押上部25も、貫通孔22を避けて配置されることとなる。
【0036】
保持部24は、突条部23のウェブ23bにおける上下方向の中央部表面から側方に突出する突出部240と、突出部240の突端に接合された第一円弧部241と、当該第一円弧部241と共にシリンダ31を挟み込む第二円弧部242と、を有する。
突出部240は、板状体であり、平面視において突条部23のウェブ23bに対して直角に、かつ治具本体21の軸方向に直交する方向に突出している。
第一円弧部241は、突出部240の突出方向先端部に接合された円弧状の本体部と、当該本体部の両端部から側方に突出する一方及び他方の側片241aと、を備える。
第二円弧部242は、円弧状の本体部と、当該本体部の両端部から側方に突出する一方及び他方の側片242aと、を備える。
【0037】
第一円弧部241における両方の側片241aと、第二円弧部242における両方の側片242aには、ボルトを通すためのボルト孔が形成されている。第一円弧部241における両方の側片241aと、第二円弧部242における両方の側片242aは重ね合わされてボルト連結される。
第一円弧部241及び第二円弧部242における円弧状の本体部は、各々の両方の側片241a,242aがボルト連結された状態において、ジャッキ30におけるシリンダ31を保持するための円筒状の空間を形成できるようになっている。
そして、ジャッキ30におけるシリンダ31は、第一円弧部241及び第二円弧部242双方の本体部によって挟み込み、両方の側片241a,242a同士を強固にボルト連結することで強固に保持されることになる。
なお、ジャッキ30は、杭5の撤去作業を始めるよりも前に、保持部24によって保持された状態としておくのが好ましい。
【0038】
被押上部25は、複数のジャッキ30における上端部が接してジャッキアップ時に押し上げられる部分であって、突条部23のウェブ23bにおける上端部表面に設けられており、縦アングル材250と、横アングル材251と、斜めアングル材252と、によって構成されている。
【0039】
縦アングル材250は、ウェブ23bの上端部表面に接合される接合板部250aと、側方に突出する側板部250bと、からなるアングル材であり、縦(上下方向)に長く形成されるとともに、下端部が斜めカットされている。
横アングル材251は、治具本体21側の端部(基端部)が斜めカットされて縦アングル材250の下端部に直角に接合され、縦アングル材250の下端部から側方に突出するアングル材である。この横アングル材251は、縦アングル材250の接合板部250aに接合されて被押上部25の下面を構成する下面板部251aと、縦アングル材250の側板部250bに接合された側板部251bと、からなる。
斜めアングル材252は、縦アングル材250の接合板部250aと横アングル材251の下面板部251aとの間に斜めに架け渡されて双方に接合された上面傾斜板部252aと、縦アングル材250の側板部250bと横アングル材251の側板部251bとの間に斜めに架け渡されて双方に接合された側板部252bと、からなる。
【0040】
被押上部25は、上記のように、縦アングル材250と横アングル材251とを側面視L字型に一体接合することによって、突条部23のウェブ23bにおける上端部表面に接合される面と、ジャッキ30におけるシリンダ31の上端部が接する面と、を形成できるようになっている。
そして、被押上部25は、縦アングル材250と横アングル材251との間に斜めアングル材252が設けられることにより、ジャッキ30によるジャッキアップ時の座屈を防ぐことが可能となっている。
さらに、横アングル材251における下面板部251aの下面には、当該下面板部251aを補強する補強板253が適宜設けられる。
【0041】
カンザシ材26は、治具本体21の筒壁に形成された複数セットの一対の貫通孔22に挿入されるものであって、H形鋼である鋼材によって構成されている。
また、このカンザシ材26の長さは、治具本体21の直径よりも長く設定されている。より具体的には、カンザシ材26の長さは、治具本体21の直径の2倍程度に設定されている。
本実施形態において、カンザシ材26は二本用いられており、一本は、治具本体21の上部における第1セットの一対の貫通孔22a,22aに挿入され、もう一本は、治具本体21の中央部における第2セットの一対の貫通孔22d,22dに挿入されている。これにより、二本のカンザシ材26は、平面視において交差方向に配置された状態となっている。
ここで、例えば、治具本体21と杭5とを連結するために、カンザシ材26の代わりにボルトを用いる場合は、繰り返し切断される杭5に対して都度ボルト孔を形成しなければならないし、ボルト自体の断面性能も小さく、数が必要となる。これに対し、カンザシ材26として、H形鋼などのように断面性能の大きい鋼材を採用したので、使用する本数が少なくて済む。また、撤去作業中も、杭5に対し、数の少ないカンザシ材26を差し込むための貫通孔5cを形成するだけで済むため、作業性の向上を図ることができる。
【0042】
〔杭の撤去方法について〕
次に、以上のように構成された杭撤去装置10によって、地中に埋設された杭5を撤去する方法について図面を参照して説明する。
【0043】
まず、杭5の杭頭出し作業が行われる。すなわち、杭5を撤去するためには、地中に埋設された状態の杭5の上端部を露出させる必要があるので、杭頭5aを覆っている底板コンクリートをブレーカーなどで斫り、杭頭5aを露出させる。
【0044】
続いて、地面1よりも上方に突出して露出した杭5における中空部内の土砂を、専用の建設機械を用いて排出する。さらに、杭5のうち地中に埋設された部分の外周面に沿って地盤を掘削し、地盤に対する杭5における外周面の摩擦抵抗を低減させるフリクションカット作業を行う。
なお、鋼管杭である杭5のフリクション・重さを減らすため、また杭5の健全性をカメラで確認し、杭長を磁気検層で把握するため、上記のように、杭5における中空部内の土砂を撤去している。
【0045】
続いて、杭5に引抜治具20を被せた際に、杭5の杭頭5aが、引抜治具20の上端部よりも上方に位置する状態となるようにする。これにより、後工程にて杭5に引抜治具20を被せた際に、杭5の杭頭5aを、引抜治具20の上端部よりも上方に位置する状態とすることができる。杭5のうち、引抜治具20の上端部よりも上方に露出する部分の上下寸法は、例えば400mm程度に設定されている。
より具体的に説明すると、杭5の杭頭5aが、引抜治具20の上端部よりも上方に位置する状態にするために、杭5の周囲を深く掘り込むなどして杭5の上端部を露出させ引抜治具20を被せてもよいが、杭5と同径に設定された継ぎ杭を、地中に埋設された杭5の上端部に対して溶接により継ぎ足して、引抜治具20の上端部よりも上方に位置する状態とすることもできる。すなわち、杭5の撤去作業のために、埋設されている杭5と継ぎ杭とを溶接により一体化することで、杭5を地面1よりも上方に延ばした状態とし、引抜治具20を被せるための長さを稼ぐようにする。これにより、例えば杭5の周囲を深く掘り込むなどして杭5の上端部を露出させる必要がないので、引抜治具20を杭5に被せる作業を容易に行うことができる。
なお、本実施形態においては、杭5に引抜治具20を被せた際に、杭5の杭頭5aが、引抜治具20の上端部よりも上方に位置する状態となるようにするが、これに限られるものではない。すなわち、杭5に引抜治具20を被せた際に、杭5に対してカンザシ材26を差し込むことが可能な貫通孔5cが形成できるスペースが確保できればよく、杭5の杭頭5aが、引抜治具20の上端部よりも下方に位置していてもよい。
【0046】
続いて、杭5周囲の地盤(地面1)を嵩上げ補強してから、反力受部40を地面1に設置する。反力受部40は、解体された状態で輸送可能であるため、現場にて組み立てて設置することが可能となっている。その場合は、二本の下側鋼材41,42を、杭5を間に挟む位置関係で、地面1に平行かつ離間して並べて置く。次に、二本の上側鋼材43,44を、杭5を間に挟む位置関係で、二本の下側鋼材41,42の上面間に平行かつ離間して並べて架け渡す。そして、二つの上側中央鋼材45,46を、二本の下側鋼材41,42における上面に、二本の上側鋼材43,44間に位置するようにして設置する。これにより、杭5が、反力受部40における第一開口部47に通された状態となる。
なお、予め組み立てられた状態で現場に輸送された場合は、第一開口部47に杭5が挿入された状態となるように反力受部40を吊り上げて設置する。
また、上記のように、撤去される杭5は、鉛直に埋設された杭5だけでなく、鉛直方向に対して斜めに埋設された杭も撤去の対象とされているが、いずれの杭の場合も、杭の埋設方向とは反対の方向にジャッキアップできるように反力受部40を設置する。その場合、反力受部40は、杭5と直角になるようにセットされる。
【0047】
その後、図4に示すように、クレーン等によって引抜治具20を吊り上げて、杭5のうち地面1よりも上方に突出した部位に引抜治具20を被せ、引抜治具20の内側に、上方に突出した部位が挿入された状態とする。この時、引抜治具20における治具本体21の下端部は、反力受部40における第一開口部47に通された状態となり、地面1に設置される。治具本体21は円筒状であるため、引抜治具20は、地面1に設置された際に自立が可能となっている。また、治具本体21の周囲には複数のジャッキ30が設けられて反力受部40に接するため、引抜治具20の自立を補助できる。
【0048】
続いて、引抜治具20の筒方向と直交する方向に長尺なカンザシ材26を、引抜治具20と杭5とを貫通させて設けることで、引抜治具20と杭5とを一体化する(工程A)。
ここで、杭5には、引抜治具20の治具本体21に形成された一対の貫通孔22(22a~22d)と対向する貫通孔5cが複数形成されているものとする。貫通孔5cは、引抜治具20を杭頭5aに被せる前に、治具本体21における貫通孔22の位置と対応するように形成してもよいし、引抜治具20を杭頭5aに被せた後に、治具本体21における貫通孔22の縁に倣うようにして形成してもよい。もしくは、杭5の製造段階で貫通孔5cを形成してもよい。いずれにせよ、引抜治具20の治具本体21に形成された貫通孔22と、杭5に形成された貫通孔5cは、位置が揃った状態となっており、カンザシ材26を治具本体21と杭5に対して一気に貫通できるようになっている。これにより、引抜治具20と杭5とが一体化した状態となる。
【0049】
カンザシ材26によって引抜治具20と杭5とが一体化した状態となったら、その状態を維持したまま、図5に示すように、引抜治具20をジャッキ30によってジャッキアップする(工程B)。
すなわち、四本のジャッキ30のジャッキアップ動作を同時に行い、引抜治具20を上方に押し上げるようにする。引抜治具20はカンザシ材26によって杭5と一体化されているので、引抜治具20の押し上げに伴って杭5も地中から引き抜かれることになる。
【0050】
引抜治具20をジャッキ30によってジャッキアップした後は、カンザシ材26によって一体化した状態の引抜治具20及び杭5の位置を、図6等に示すように、位置固定材50によって一時的に固定する(工程C)。
より詳細に説明すると、まず、杭5には、杭5の長さ方向と直交する方向に長尺に形成された溝形鋼である位置固定材50を、杭5の長さ方向と直交する方向に貫通させることが可能な一対の位置固定用貫通孔5dが形成されているものとする。なお、位置固定用貫通孔5dは、引抜治具20をジャッキ30によってジャッキアップさせた後に形成してもよいし、杭5の製造段階で形成してもよい。そして、位置固定材50は、反力受部40における一方の第二開口部48から杭5に向かって挿入され、杭5に形成された一対の位置固定用貫通孔5dを貫通し、他方の第二開口部48から外側に向かって通される。この状態で、位置固定材50は、両端部が地面1に接し、中央部分の上面に杭5が載せられた状態となる。そのため、杭5が下方に落ちることを防止でき、一体化された引抜治具20と共に、その位置が固定された状態となる。換言すれば、位置固定材50は、引抜治具20がジャッキアップされた状態を維持するとともに、引抜治具20のジャッキアップに伴って杭5が引き抜かれた状態を維持する手段として機能している。
【0051】
なお、位置固定材50は、ジャッキ30によって、引抜治具20の下端部が地面1よりも上方に押し上げられている状態の時に、第二開口部48から挿入されて杭5の位置固定を行う。
また、位置固定材50のうち、杭5が載せられた状態となる中央部分には剪断方向に荷重がかかるため、当該中央部分の座屈を防ぐための補強部材50aが一体的に適宜設けられる。補強部材50aとしては、位置固定材50における上下のフランジ間に対して向かい合わせに設けられる溝形鋼を採用してもよいし、上記のスチフナ49を採用してもよいし、その他の補強のための部材を採用してもよい。
【0052】
引抜治具20及び杭5の位置を、位置固定材50によって一時的に固定した後は、その状態を維持したまま、ジャッキ30のピストンロッド32を上方に収縮させ、さらに、ジャッキ30下端の当接部33と反力受部40との間に、図7に示すように、スペーサ51を配置する(工程D)。そして、ジャッキ30のピストンロッド32を下方に伸長させ、当接部33を、スペーサ51の上面に接触させるとともに、位置固定材50に杭5及び引抜治具20の荷重がかからない程度にジャッキアップ動作を行わせる。
【0053】
このようにスペーサ51を配置する工程を行った後は、位置固定材50を引き抜いて、引抜治具20及び杭5の位置の一時的な固定を解除し、その後、引抜治具20を、ジャッキ30によってジャッキアップする(工程E)。
これにより、スペーサ51を設けた分、ジャッキ30によって、引抜治具20をより上方に押し上げることができるとともに、杭5も上方に引き抜くことができる。
【0054】
ジャッキ30の当接部33と反力受部40との間にスペーサ51を配置した状態で、引抜治具20をジャッキ30によってジャッキアップした後は、カンザシ材26によって一体化した状態の引抜治具20及び杭5の位置を、図6等に示すように、位置固定材50によって一時的に固定する(工程F)。
【0055】
なお、スペーサ51に係る工程D,E,Fは、省略することが可能となっている。すなわち、スペーサ51は、あくまでも上記のように、作業ヤードにおける上方空間に余裕がある場合に、ジャッキ30のピストンロッド32におけるストロークをサポートするものであるため、作業ヤードにおける上方空間に余裕がない場合には使用されない。
一方、作業ヤードにおける上方空間に余裕がある場合は、工程D,E,Fを繰り返してスペーサ51を二段以上に重ねてもよい。
【0056】
ジャッキ30によって引抜治具20をジャッキアップし、カンザシ材26によって一体化した状態の引抜治具20及び杭5の位置を一時的に固定した後は、杭5の位置を一時的に固定したまま、カンザシ材26を引抜治具20及び杭5から抜き取り、引抜治具20を、ジャッキ30によってジャッキダウンして下方に移動させる(工程G)。カンザシ材26には、引抜治具20の荷重がかかっている状態であるため、カンザシ材26を抜き取る際は、ジャッキ30によって、カンザシ材26に引抜治具20の荷重がかからない程度にジャッキアップ動作を行うことが望ましい。
【0057】
なお、上記のスペーサ51に係る工程D,E,Fを省略しない場合には、スペーサ51を抜き取る工程G1,G2,G3が必要となる。
すなわち、スペーサ51を設けた分、杭5をより上方に引き抜いた後に、位置固定材50によって杭5の位置を一時的に固定したまま、カンザシ材26を引抜治具20及び杭5から抜き取り、引抜治具20を、ジャッキ30によってジャッキダウンして下方に移動させる(工程G1)。
その後、カンザシ材26を、引抜治具20と杭5とを貫通させて設けることで、引抜治具20と杭5とを再度一体化させる。さらに、ジャッキ30を収縮させて当接部33をスペーサ51の上面から離間させ、スペーサ51を、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46から取り外し、ジャッキ30の当接部33と反力受部40との間から抜き取る(工程G2)。
そして、ジャッキ30のピストンロッド32を下方に伸長させ、当接部33を、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46に接触させて、ジャッキ30によって引抜治具20を支持した状態(図5に示す状態)にする(工程G3)。
工程G3の後は、上記の工程Gを行い、引抜治具20を、ジャッキ30によってジャッキダウンして下方に移動させる。
【0058】
そして、下方に移動した引抜治具20の上端部よりも上方に位置する杭頭5aを切断する(工程H)。
なお、杭5の杭頭5aを切断する方法は、ガス切断や切断機による切断などが挙げられるが、特に限定されるものではないが、上記の貫通孔5c,5dの形成加工が必要なことも考慮すると、ガス切断による方法を採用することが好ましい。
また、このような杭頭5aの切断作業は、専用の建設機械によって杭頭5aを支えた状態で行われる。杭頭5aを支える手法は、吊り上げて支えるものでもよいし、把持して支えるものでもよいし、その他の方法でもよい。そして、切断された状態の杭頭5aは、建設機械によって杭5の周囲から運び出される。
【0059】
続いて、カンザシ材26を、引抜治具20と杭5とを貫通させて設けることで、引抜治具20と杭5とを再度一体化する(工程I)。
なお、工程Hにおける杭頭5aを切断する作業と、工程Iにおける引抜治具20と杭5とを再度一体化する作業は、順番を入れ替えてもよい。すなわち、カンザシ材26によって引抜治具20と杭5とを再度一体化する作業を先に行い、その後に、杭頭5aを切断する作業を行ってもよい。
【0060】
その後、位置固定材50を引き抜いて、引抜治具20及び杭5の位置の一時的な固定を解除する(工程J)。
つまり、引抜治具20と杭5とがカンザシ材26によって一体化され、ジャッキ30の当接部33が、上側鋼材43,44及び上側中央鋼材45,46に接した状態(図1に示す状態)となる。工程Jの作業が行われた後の状態は、上記の工程Aの作業を行った状態と同じであるため、以降は、上記した工程を繰り返すだけで、地中に埋設された杭5を引き抜いて撤去することが可能となる。
【0061】
以上のようにして杭5の撤去を行うことができる。
杭5の撤去を行った後は、地面1に杭穴が開けられた状態となっているので、杭穴に埋め戻し材を投入して埋め戻し作業を行う。もしくは、新設杭の打設を行ってもよい。
【0062】
本実施形態によれば、地中に埋設された杭5のうち地面1よりも上方に突出した部位に、筒状に形成された引抜治具20を被せ、引抜治具20の内側に、杭5における上方に突出した部位が挿入された状態とする工程と、引抜治具20の筒方向と直交する方向に長尺なカンザシ材26を、引抜治具20と杭5とを貫通させて設けることで、引抜治具20と杭5とを一体化する工程と、引抜治具20と杭5とを一体化したまま、引抜治具20をジャッキ30によってジャッキアップする工程と、を有するので、引抜治具20の内側に挿入された状態とすることが可能な杭5であれば、引抜治具20と一体化させ、ジャッキ30によって引き抜くことができる。これにより、引抜治具20の使い回しが利くので、杭5の撤去に係るコストの低減を図ることができる。また、引抜治具20と杭5との一体化が、カンザシ材26の挿入だけで済むので、引抜治具20と杭5とを一体化させるために必要以上の正確性を求められず、杭5の撤去に係る作業性の向上を図ることができる。その結果、場所による制約を受けず、かつ近隣住民の居住環境を害することのない杭5の撤去作業を、より確実かつ効率的に行うことが可能となる。
【0063】
また、ジャッキアップ後に、カンザシ材26によって一体化した状態の引抜治具20及び杭5の位置を一時的に固定する工程と、引抜治具20及び杭5の位置を一時的に固定したまま、ジャッキ30を収縮させ、さらに、ジャッキ30の上端又は下端にスペーサ51を配置する工程と、スペーサ51を配置する工程を行った後に、引抜治具20及び杭5の位置の一時的な固定を解除し、引抜治具20をジャッキアップする工程と、を有するので、スペーサ51を設けた分、ジャッキ30によって、引抜治具20をより上方に押し上げることができ、それに伴って、杭5もより上方に引き抜くことができる。そのため、作業ヤードにおける上方空間に余裕がない場合でも、杭5を、できるだけ長く引き抜くことができる。
【0064】
ジャッキアップ後に、カンザシ材26によって一体化した状態の引抜治具20及び杭5の位置を一時的に固定する工程と、杭5の位置を一時的に固定したまま、カンザシ材26を引抜治具20及び杭5から抜き取り、引抜治具20を、ジャッキ30によってジャッキダウンして下方に移動させる工程と、下方に移動した引抜治具20の上端部よりも上方に位置する杭頭5aを切断する工程と、を有するので、杭5のうち地面1よりも上方に突出した部位に引抜治具20を被せた状態で杭5を切断でき、杭5の撤去作業を滞りなく進めることができる。
【0065】
また、カンザシ材26を、引抜治具20と杭5とを貫通させて設けることで、引抜治具20と杭5とを再度一体化する工程と、引抜治具20と杭5とを再度一体化する工程を行った後に、杭5の位置の一時的な固定を解除する工程と、を有するので、杭5の撤去作業を開始した時点と同様の条件で杭5の引き抜き作業を進めることができる。
【0066】
また、引抜治具20が、杭5のうち上方に突出した部位に被せられる筒状の治具本体21と、治具本体21の筒方向と直交する方向に長尺に形成されて治具本体21を貫通して設けられるカンザシ材26と、を備えており、治具本体21の筒壁には、カンザシ材26を、当該治具本体21の筒方向と直交する方向に通すことが可能な一対の貫通孔22(22a~22d)が、少なくとも1セット形成されているので、これら一対の貫通孔22にカンザシ材26を貫通させるだけで、引抜治具20と杭5とを容易に一体化することができる。
【0067】
また、治具本体21は、ジャッキ30を保持する保持部24を有しており、保持部24は、一対の貫通孔22(22a~22d)を避けて配置されているので、保持部24によって、一対の貫通孔22に対するカンザシ材26の挿入作業が妨げられないようにしながら、ジャッキ30を保持部24によって一体的に保持することができる。
なお、杭5の撤去に使用されるジャッキ30は、カンザシ材26に干渉しない(カンザシ材26の挿入作業が妨げられない)範囲で増設し、引き抜き力の強化を図るようにしてもよい。ジャッキ30の数を多くして引き抜き力が高まれば、杭5の外周面におけるフリクションが完全にカットできない場合でも杭5の引き抜きが可能となり、杭5の杭頭5aを細かく切断する作業も確実に繰り返すことが可能であるため、作業ヤードが低空頭の状態でも対応できる。
【0068】
また、杭撤去装置10が、引抜治具20と、引抜治具20をジャッキアップ可能な複数のジャッキ30と、地面1に設置されて複数のジャッキ30の反力を受ける反力受部40と、を備えているので、複数のジャッキ30の反力を反力受部40で確実に受けることができ、引抜治具20を、複数のジャッキ30によってバランスよく、かつ確実にジャッキアップすることができる。
さらに、反力受部40の中央には、杭5が通されるとともに引抜治具20の下端部が通される第一開口部47が形成されていることから、反力受部40の中心に沿って杭5及び引抜治具20が位置することになり、複数のジャッキ30によるバランスの良いジャッキアップ動作に貢献することができる。
【0069】
また、杭撤去装置10は、杭5の長さ方向と直交する方向に長尺に形成され、杭5を貫通して設けられて杭5の位置を一時的に固定可能な位置固定材50を更に備えており、反力受部40の側面には、第一開口部47と連通し、位置固定材50が通される第二開口部48が形成されているので、位置固定材50が、反力受部40における一方の第二開口部48から杭5に向かって挿入され、杭5を貫通し、他方の第二開口部48から外側に向かって通されることで、杭5の位置の一時的な固定を確実に行うことができる。
さらに、第一開口部47と第二開口部48とが連通しているので、第一開口部47に通される杭5に、第二開口部48から挿入される位置固定材50を貫通させるのに都合がよい。
【0070】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。また、以下の変形例において、上記の実施形態と共通する要素については、共通の符号を付し、説明を省略又は簡略する。
【0071】
地面1に反力受部40を設置し、複数のジャッキ30によって引抜治具20をジャッキアップする際の反力が強い場合には、例えば反力受部40がめり込むなど、地面1の変形が生じる場合がある。
これに対し、本変形例においては、図8に示すように、土を掘った際に形成された地面1に複数の埋込鋼材2が設置されている。さらに、埋込鋼材2は、上フランジ以外が、コンクリート層3に埋め込まれた状態となっている。
より詳細に説明すると、地中に埋設された杭5の杭頭5aを露出させた後、杭5の周囲を流動化処理土で埋め戻し、その流動化処理土の表面に、埋込鋼材2が設置され、コンクリート層3が打設されている。なお、このようにコンクリート層3を形成する際は、杭5に対し、当該杭5よりも大径の口元管を被せ、杭5が、流動化処理土及びコンクリート層3のコンクリートに巻き込まれて付着するのを防ぐようにする。
【0072】
反力受部40における下側鋼材41,42は、コンクリート層3から露出する埋込鋼材2の上フランジに載せられる。
また、埋込鋼材2の上フランジにおける下面には、ナット2bが予め溶接されており、反力受部40における下側鋼材41,42と埋込鋼材2は、ボルト2aによって結合できるようになっている。
【0073】
本変形例によれば、作業ヤードの地面1が、埋込鋼材2及びコンクリート層3によって補強された状態となっているので、複数のジャッキ30による反力は、埋込鋼材2に伝達されてから地盤に対して分散されることになる。これにより、引抜治具20をジャッキアップする際の反力が、反力受部40に対して強くかかった場合でも、地面1の変形が生じにくくなる。特に、作業ヤードが軟弱地盤である場合には効果的である。
【符号の説明】
【0074】
1 地面
5 杭
5a 杭頭
10 杭撤去装置
20 引抜治具
21 治具本体
22 貫通孔
24 保持部
25 被押上部
26 カンザシ材
30 ジャッキ
40 反力受部
50 位置固定材
51 スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8