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特許7402705熱伝導構造体およびそれを備えるバッテリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】熱伝導構造体およびそれを備えるバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6568 20140101AFI20231214BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20231214BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20231214BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20231214BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20231214BHJP
   H01M 10/623 20140101ALI20231214BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M10/6568
H01L23/36 D
H01M10/613
H01M10/6556
H01M10/653
H01M10/625
H01M10/623
H01M50/204 401H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020019259
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021125409
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平田 佳樹
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-125665(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244882(WO,A1)
【文献】特開平09-321468(JP,A)
【文献】特開2013-004783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0376618(US,A1)
【文献】国際公開第2021/106444(WO,A1)
【文献】特開2020-191171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6568
H01L 23/36
H01M 10/613
H01M 10/6556
H01M 10/653
H01M 10/625
H01M 10/623
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の長尺状の熱伝導部材と、
前記熱伝導部材の長さ方向の両端部の内の少なくとも一方の端部を固定する部材であって、前記端部を挿入する凹部若しくは貫通孔を有する固定部材と、
を備え、
前記熱伝導部材は、弾性変形可能なクッション部材と、前記クッション部材より熱伝導性が高く、かつ前記クッション部材の外側の面を覆っている熱伝導シートと、を備え、
前記固定部材は、前記熱伝導部材の幅方向に所定の間隔をおいて、複数の前記熱伝導部材を固定していることを特徴とする熱伝導構造体。
【請求項2】
前記固定部材は、前記熱伝導部材の長さ方向の両端部を固定していることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導構造体。
【請求項3】
前記固定部材は、前記熱伝導部材の厚さ方向両側から挟み込む部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導構造体。
【請求項4】
前記固定部材の前記凹部若しくは前記貫通孔は、前記熱伝導部材の前記端部を圧縮変形させた状態で固定していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱伝導構造体。
【請求項5】
前記固定部材は、前記複数の熱伝導部材の内の一部の前記熱伝導部材の長さ方向の前記端部を固定する個別部材を複数連結していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱伝導構造体。
【請求項6】
前記熱伝導シートは、前記クッション部材の長さ方向にスパイラル状に巻回しながら進行する部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の熱伝導構造体。
【請求項7】
前記クッション部材は、その長さ方向に貫通する貫通路を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の熱伝導構造体。
【請求項8】
前記クッション部材は、前記熱伝導シートの裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導構造体。
【請求項9】
冷却剤を流す構造を持つ筐体内に、複数のバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、請求項1から8のいずれか1項に記載の熱伝導構造体を備えることを特徴とするバッテリー。
【請求項10】
複数の前記バッテリーセルの内、温度のより高い前記バッテリーセルに前記熱伝導部材を密集させていることを特徴とする請求項9に記載のバッテリー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導構造体およびそれを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0003】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)等から構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている(特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及に力を入れている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発が重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。このため、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0005】
バッテリーの速やかな放熱を実現するには、アルミニウム等の熱伝導性に優れた金属製の筐体に水冷パイプを配置し、当該筐体にバッテリーセルを多数配置し、バッテリーセル(以後、単に「セル」ともいう。)と筐体の底面との間に密着性のゴムシートを挟んだ構造が採用されている。このような構造のバッテリーでは、セルは、ゴムシートを通じて筐体に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-243999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のような従来のバッテリーにおいて、ゴムシートは、アルミニウムやグラファイトと比べて熱伝導性が低いため、セルから筐体に効率よく熱を移動させることが難しい。また、液状のゴム組成物を硬化させてゴムシートを形成する場合には、バッテリーからゴムシートを剥がすのに労力を要すると共に、ゴムシートの残留物が残ってしまう。このため、ゴムシートのような熱伝導構造体をバッテリー内から取り出し、さらに別の熱伝導構造体を搭載することを容易にすることも要求される。ゴムシートに代えてグラファイト等のスペーサを挟む方法も考えられるが、複数のセルの下面が平らではなく段差を有することから、セルとスペーサとの間に隙間が生じ、伝熱効率が低下する。かかる一例にもみられるように、セルは種々の形態(段差等の凹凸あるいは表面状態を含む)をとり得ることから、セルの種々の形態に順応可能であって高い伝熱効率を実現することの要望が高まっている。また、熱伝導構造体をバッテリー内部に組み込む際の位置を正確にする必要性もある。上述した要求は、セルのみならず、回路基板、電子部品あるいは電子機器本体のような他の熱源にも通じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱源の種々の形態に順応可能であって、熱伝導特性に優れ、熱源に対して容易かつ正確に接触させる作業を可能とする熱伝導構造体、および当該熱伝導構造体を備えるバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導構造体は、複数の長尺状の熱伝導部材と、前記熱伝導部材の長さ方向の両端部の内の少なくとも一方の端部を固定する部材であって、前記端部を挿入する凹部若しくは貫通孔を有する固定部材とを備え、
前記熱伝導部材には、弾性変形可能なクッション部材と、前記クッション部材より熱伝導性が高く、かつ前記クッション部材の外側の面を覆っている熱伝導シートと、を備え、
前記固定部材には、前記熱伝導部材の幅方向に所定の間隔をおいて、複数の前記熱伝導部材を固定している。
(2)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記固定部材は、前記熱伝導部材の長さ方向の両端部を固定していても良い。
(3)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記固定部材は、前記熱伝導部材の厚さ方向両側から挟み込む部材でも良い。
(4)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記固定部材の前記凹部若しくは前記貫通孔は、前記熱伝導部材の前記端部を圧縮変形させた状態で固定していても良い。
(5)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記固定部材は、前記複数の熱伝導部材の内の一部の前記熱伝導部材の長さ方向の前記端部を固定する個別部材を複数連結していても良い。
(6)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記熱伝導シートは、前記クッション部材の長さ方向にスパイラル状に巻回しながら進行する部材でも良い。
(7)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記クッション部材は、その長さ方向に貫通する貫通路を備えていても良い。
(8)別の実施形態に係る熱伝導構造体において、好ましくは、前記クッション部材は、前記熱伝導シートの裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材であっても良い。
(9)上記目的を達成するための一実施形態に係るバッテリーは、冷却剤を流す構造を持つ筐体内に、複数のバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、上述のいずれかの熱伝導構造体を備える。
(10)別の実施形態に係るバッテリーは、好ましくは、複数の前記バッテリーセルの内、温度のより高い前記バッテリーセルに前記熱伝導部材を密集させていても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱源の種々の形態に順応可能であって、熱伝導特性に優れ、熱源に対して容易かつ正確に接触させる作業を可能とする熱伝導構造体、および当該熱伝導構造体を備えるバッテリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る熱伝導構造体の平面図、正面図および右側面を示す。
図2図2は、図1の熱伝導構造体に備えられる熱伝導部材の製造工程を段階的に示す。
図3図3は、図2の工程を経て製造された熱伝導部材を固定部材に固定する状況を分解斜視図により示す。
図4図4は、第2実施形態に係る熱伝導構造体の製造状況と、固定部材の構成要素であって熱伝導部材の両端に取り付ける個別部材の分解拡大斜視図と、個別部材を熱伝導部材の両端に取り付けた状態のD-D線断面図と、を示す。
図5図5は、図4の製造工程を経て完成した熱伝導構造体の平面図を示す。
図6図6は、変形例1に係る熱伝導構造体の個別部材に熱伝導部材の端部を挿入する状況と、当該状況の後に図4と同様にD-D線で切断した際の断面図を示す。
図7図7は、変形例2に係る熱伝導構造体に備えられる熱伝導部材の製造工程を段階的に示す。
図8図8は、変形例3に係る熱伝導構造体に備えられる熱伝導部材の製造工程を示す。
図9図9は、一実施形態に係るバッテリー内部の平面図および矢印Gの方向から見た左側面図を示す。
図10図10は、図9のバッテリー内部を含めたバッテリー全体のH-H線断面図および一部Jのセル搭載前後の変化を拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
1.熱伝導構造体
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る熱伝導構造体の平面図、正面図および右側面を示す。図2は、図1の熱伝導構造体に備えられる熱伝導部材の製造工程を段階的に示す。図3は、図2の工程を経て製造された熱伝導部材を固定部材に固定する状況を分解斜視図により示す。図1は、固定部材に固定されている熱伝導部材の端部を透過的に示している。図2は、熱伝導部材の一端面(A)を拡大して示している。
【0014】
第1実施形態に係る熱伝導構造体1は、複数の長尺状の熱伝導部材10と、熱伝導部材10の長さ方向の両端部を固定する部材であって当該両端部をそれぞれ挿入する凹部25を有する2つの固定部材20と、を備える。固定部材20は、熱伝導部材10の幅方向に所定の間隔Tをおいて、複数の熱伝導部材10を固定している。すなわち、複数の熱伝導部材10は、2本の固定部材20を連結している。本願では、長尺状の熱伝導部材10の両端部を結ぶ方向を「長さ方向」と、複数の熱伝導部材10を間隔Tおきに並べる方向を「幅方向」と、当該幅方向と上記長さ方向に対して直角の方向を「厚さ方向」と、称する。なお、この実施形態では、熱伝導部材10の数は、18本であるが、2~17本あるいは19本以上でも良い。
【0015】
熱伝導部材10は、弾性変形可能なクッション部材11と、クッション部材11より熱伝導性が高く、かつクッション部材11の外側の面を覆っている熱伝導シート13と、を備える。
【0016】
<クッション部材>
クッション部材11の重要な機能は、変形容易性と、回復力である。回復力は、弾性変形性による。変形容易性は、後述する熱源の一例であるバッテリーセル(単に「セル」ともいう)が熱伝導部材10の厚さ方向の一方から接触した際に、セルあるいはセル群の端面形状に追従するために必要な特性である。回復力は、セルを熱伝導部材10から除去した際、あるいはセルの質量が小さくなってきた際に、熱伝導部材10を元の形状に戻すのに必要である。リチウムイオンバッテリーなどの半固形物、液体的性状も持つ内容物などを変形しやすいパッケージに収めてあるようなセルの場合には、設計寸法的にも不定形または寸法精度があげられない場合が多い。このため、クッション部材11の変形容易性や追従力を保持するための回復力の保持は重要である。
【0017】
この実施形態では、クッション部材11は、クッション部材11の長さ方向に貫通する貫通路12を備える筒状クッション部材である。クッション部材11は、複数のセルの下端部が平坦でない場合でも、熱伝導シート13と当該下端部との接触を良好にする。さらに、貫通路12は、クッション部材11の変形を容易にし、加えて熱伝導構造体1の軽量化に寄与し、また、熱伝導シート13とセルの下端部との接触を高める機能を有する。クッション部材11は、セルとバッテリーの底部との間にあってクッション性を発揮させる機能の他に、セルから熱伝導シート13に加わる荷重によって熱伝導シート13が破損等しないようにする保護部材としての機能も有する。
【0018】
この実施形態では、クッション部材11は、熱伝導シート13に比べて低熱伝導性の部材である。なお、貫通路12は、断面円形状に形成されているが、貫通路12の断面形状は円に限定されず、例えば、多角形、楕円形、半円形、頂点が丸みを帯びた略多角形等であっても良い。また、貫通路12は、例えば、断面円形状が上下または左右に2つに分割された2つの断面半円形状の貫通路等、複数の貫通路から構成されていても良い。クッション部材11は、貫通路12に代えて、クッション部材11の両端部の内の少なくとも一方を閉じた凹部を備えていても良い。また、クッション部材11は、貫通路12または上記凹部を備えない柱状の部材でも良い。
【0019】
クッション部材11は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。クッション部材11は、熱伝導シート13を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、クッション部材11は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。クッション部材11は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。クッション部材11は、その内部に気泡を含むものの他、気泡を含まないものでも良い。また、「クッション部材」は、柔軟性に富み、熱源の表面に密着可能に弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。さらに、クッション部材11の変形例としては、上記ゴム状弾性体ではなく、金属を用いて構成することもできる。例えば、クッション部材11は、バネ鋼で構成することも可能である。さらに、クッション部材11として、コイルバネを配置することも可能である。また、スパイラル状に巻いた金属をバネ鋼にしてクッション部材として熱伝導シート13の環状裏面に配置しても良い。また、クッション部材11は、樹脂やゴム等から形成されたスポンジあるいはソリッド(スポンジのような多孔質ではない構造のもの)で構成することも可能である。
【0020】
<熱伝導シート>
熱伝導シート13は、好ましくはクッション部材11より熱伝導性が高く、かつクッション部材11の外側の面を覆っている。熱伝導シート13は、この実施形態では、クッション部材11の長さ方向にスパイラル状に巻回しながら進行する部材であり、クッション部材11の外側面を覆っている。熱伝導シート13は、クッション部材11の外側面のみならず、クッション部材11の両端面の内の少なくとも一端面を覆っていても良い。熱伝導シート13は、好ましくは、クッション部材11と接着層または粘着層を介して固定されている。ただし、熱伝導シート13は、クッション部材11の外側面では何らの接着層および粘着層を介して固定されておらず、クッション部材11の両端で嵌め込みあるいは接着されていても良い。
【0021】
熱伝導シート13は、好ましくは炭素を含むシート、または炭素フィラーと樹脂とを含むシートである。樹脂を合成繊維とすることもでき、その場合には、好適に、アラミド繊維を用いることもできる。熱伝導シート13は、その大部分若しくは全てを炭素で構成したシートでも良い。かかるシートは、例えば、シート状の樹脂を焼成等により炭化することによって得ることができる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、膨張黒鉛、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導シート13は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、炭素フィラーは、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも含むように解釈される。熱伝導シート13は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いシートとすることができる。
【0022】
熱伝導シート13に樹脂を含む場合には、当該樹脂が熱伝導シート13の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導シート13は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源の一例であるセルからの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導シート13の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導シート13は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、Al、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なエラストマーを用いても良い。熱伝導シート13は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むシートとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0023】
熱伝導シート13は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導シート13の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、熱伝導シート13は、好ましくは、グラファイト、またはグラファイトと樹脂との複合体であるが、熱伝導性と導電性に優れた材料、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅あるいはステンレススチールの帯状の板でも良い。熱伝導シート13は、可撓性または湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるシートであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。ただし、熱伝導シート13の熱伝導率は、その厚さが増加するほど低下するため、シートの強度、可撓性および熱伝導性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。
【0024】
<固定部材>
固定部材20は、この実施形態では、熱伝導部材10の厚さ方向両側から挟み込む部材である。固定部材20は、熱伝導部材10の厚さ方向の一方から熱伝導部材10に接触させる第1分割部材21と、当該厚さ方向の他方から熱伝導部材10接触させる第2分割部材22とを備えている。第1分割部材21と第2分割部材22とは、接着、嵌め込み等の如何なる方法で合体していても良い。熱伝導構造体1の一構成要素である熱伝導部材10は、2つの固定部材20の厚さ方向のいずれの面よりも内側にあるため、熱伝導構造体1を平面上に静置した際に、当該平面に接触せずに宙に浮いた状態となる。ただし、熱伝導部材10は、固定部材20の厚さ方向のいずれかの面と面一となるように、固定部材20に固定されていても良い。この実施形態では、固定部材20は、第1分割部材21と第2分割部材22とが完全に分離可能な部材である。しかし、固定部材20は、第1分割部材21と第2分割部材22とが一部で連結されていて、それらを開閉可能な部材であっても良い。さらには、固定部材20は、熱伝導部材10の厚さ方向両側から挟み込む部材ではなく、凹部25を備えた一体の柱状部材でも良い。
【0025】
固定部材20の材料は、特に制約はなく、例えば、金属、樹脂、セラミックス、炭素、木材、ガラスまたはこれらの内の2以上の複合物である。固定部材20は、複数の熱伝導部材10を固定すると共に、熱伝導構造体1を熱源の存在する所定の場所に、正確かつ容易に配置するのに役立つ。熱伝導部材10同士の間隔Tは、全ての隣り合う一対の熱伝導部材10において同一の距離であっても良く、あるいは異なる距離であっても良い。固定部材20には、熱伝導部材10の端部を挿入する凹部25に代えて、熱伝導部材10の長さ方向に貫通する貫通孔を備えても良い。その場合には、熱伝導部材10は、その長さ方向の少なくとも一端が固定部材20を貫通して、固定部材20に保持される。凹部25および上記貫通孔と熱伝導部材10とは、嵌め込み、接着等のいずれの固定方法で固定されていても良い。
【0026】
<製造工程>
熱伝導構造体1は、一例ではあるが、図2に示す工程にて熱伝導部材10の製造後、図3に示すように熱伝導部材10を固定部材20に固定することによって製造可能である。以下、例示的な製造工程について説明する。
【0027】
まず、長尺状で貫通孔12を有するクッション部材11を用意し、その外側面に、帯状の熱伝導シート13をスパイラル状に巻く。クッション部材11の外側面あるいは熱伝導シート13の裏面(貼り付け面)の内の少なくともいずれか一方の面に、接着剤が塗布されているのが好ましい。以上の工程にて、クッション部材11の外側面に熱伝導シート13をスパイラル状に巻いた形態の熱伝導部材10が完成する。
【0028】
次に、固定部材20を2個用意する。固定部材20は、それぞれ、第1分割部材21と第2分割部材22とを備える。第1分割部材21は、凹部25を構成する半割状の溝部26を、熱伝導部材10の本数分だけ備える。同様に、第2分割部材22は、凹部25を構成する半割状の溝部27を、熱伝導部材10の本数分だけ備える。第1分割部材21と第2分割部材22とを、溝部26,27同士を合わせるように合体すると、凹部25が形成される。
【0029】
熱伝導部材10を固定部材20にて固定するには、まず、2つの第2分割部材22を一定の距離だけ離して静置する。次に、複数の熱伝導部材10の両端部を各第2分割部材22の溝部27に嵌め込む。最後に、2つの第1分割部材21を用意して、それぞれを第2分割部材22の上から被せて固定部材20とする。以上の工程にて、熱伝導構造体1が完成する。
【0030】
なお、先に、第1分割部材21と第2分割部材22とを合体して固定部材20を製造して凹部25を形成した後、熱伝導部材10の一端を一方の固定部材20の凹部25に挿入し、最後に、熱伝導部材10の他端を他方の固定部材20の凹部25に挿入しても良い。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る熱伝導構造体について説明する。第1実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0032】
図4は、第2実施形態に係る熱伝導構造体の製造状況と、固定部材の構成要素であって熱伝導部材の両端に取り付ける個別部材の分解拡大斜視図と、個別部材を熱伝導部材の両端に取り付けた状態のD-D線断面図と、を示す。図5は、図4の製造工程を経て完成した熱伝導構造体の平面図を示す。図4および図5は、固定部材に固定されている熱伝導部材の端部を透過的に示している。
【0033】
第2実施形態に係る熱伝導構造体1は、第1実施形態と異なり、1本の熱伝導部材10に対して個別に固定される個別部材30を複数着脱可能な固定部材20aを備える。このような構成によれば、熱伝導部材10の両端部に個別部材30を取り付けたユニット35を複数本用意して、それらを合体させて所望の長さの熱伝導構造体1を構成できる。
【0034】
熱伝導構造体1の固定部材30は、複数の熱伝導部材10の内の一部(ここでは1本)の熱伝導部材10の長さ方向の端部を固定する個別部材30を複数連結可能である。固定部材20aを熱伝導部材10の長さ方向一端にのみ固定したい場合には、個別部材30を、熱伝導部材10の長さ方向一端にのみ固定しても良い。このように、1本の熱伝導部材10と、1個若しくは2個の個別部材30とを合体させた構成体を、ここでは、熱伝導部材ユニット(単に、「ユニット」とも称する。)35と称する。熱伝導ユニット35を矢印Bで示すように合体すると、所望の長さの熱伝導構造体1が完成する。
【0035】
個別部材30は、熱伝導部材10の端部を固定するための凹部25を備える。なお、凹部25は、熱伝導部材10の長さ方向に個別部材30を貫通する貫通孔でも良い。領域Cの分解拡大斜視図に示すように、個別部材30は、好ましくは、2つに分割可能な部材であって、第1分割個別部材31と、第2分割個別部材32とを備える。第1分割個別部材31は、凹部25を構成する半割状の溝部26を備える。同様に、第2分割個別部材32は、凹部25を構成する半割状の溝部27を備える。熱伝導部材10をその端部の厚さ方向両側から第1分割個別部材31と第2分割個別部材32によって挟み込むことで、個別部材30を熱伝導部材10の端部に固定できる。第1分割個別部材31と第2分割個別部材32とは、接着、嵌め込み等の如何なる方式で合体できても良い。この実施形態において、個別部材30は、第1分割個別部材31と第2分割個別部材32とが完全に分離可能な部材である。しかし、個別部材30は、第1分割個別部材31と第2分割個別部材32とが一部で連結されていて、それらを開閉可能な部材であっても良い。さらには、個別部材30は、熱伝導部材10の厚さ方向両側から挟み込む部材ではなく、凹部25を備えた一体のブロック状の部材でも良い。
【0036】
個別部材30は、別の個別部材30と連結するための連結部40,50を備える。連結部40および連結部50は、個別部材30の幅方向両側にそれぞれ備えられている。この結果、個別部材30の連結部40を、別の個別部材30の連結部50に連結できる。第1分割個別部材31は、連結部40を構成する半割状の連結エレメント41を備える。第2分割個別部材32は、連結部40を構成する半割状の連結エレメント42を備える。また、第1分割個別部材31は、連結部50を構成する半割状の連結エレメント51を備える。第2分割個別部材32は、連結部50を構成する半割状の連結エレメント52を備える。第1分割個別部材31と第2分割個別部材32とを合体すると、連結エレメント41と連結エレメント42とが合体して連結部40が形成される。同様に、連結エレメント51と連結エレメント52とが合体して連結部50が形成される。
【0037】
D-D断面図に示すように、個別部材30は、厚さL1の第1分割個別部材31と、厚さL2の第2分割個別部材32とを合体して成る。この実施形態では、L1=L2である。しかし、L1>L2またはL1<L2でも良い。熱伝導部材10の厚さ方向の最下面と、第2分割個別部材32の第1分割個別部材31と反対側に位置する最外面との距離L3は、L2>L3が成り立つ限り、如何なる大きさでも良い。しかし、L3はゼロに限りなく近い距離か、あるいはゼロであるのが好ましい。L3は、熱伝導構造体1をバッテリー内に配置した際に、熱伝導部材10がバッテリーの底部(通常、冷却剤によって冷やされている部分)から浮いている距離に相当する。L3が小さいほど、底部と反対側からセルを熱伝導部材10の上に載せた際に、熱伝導部材10をセルと底部との間に挟み込みやすくなる。これについては、後述する。
【0038】
この実施形態では、連結部40および連結エレメント41,42は、熱伝導構造体1の平面図において共に略T字形状を有する。すなわち、連結部40および連結エレメント41,42は、ハンマーヘッドのような形状を有している。連結エレメント41は、ネック部41aと、ネック部41aよりも大きな体積のヘッド部41bとを連接している。同様に、連結エレメント42は、ネック部42aと、ネック部42aよりも大きな体積のヘッド部42bとを連接している。ネック部41aとネック部42aとの合体によって形成されるネック部と、ヘッド部41bとヘッド部42bとの合体によって形成されるヘッド部とは、同じ厚さ(=L1+L2)である。なお、連結部40の形態は、上記ハンマーヘッドの形態に限定されず、例えば、ネック部のみの形態でも良い。
【0039】
また、連結部50および連結エレメント51,52は、熱伝導構造体1の平面図において共に略T字形状の空隙部である。すなわち、連結部50および連結エレメント51,52は、ハンマーヘッドのような形状の凹部である。連結エレメント51は、ネック部51aと、ネック部51aよりも大きな体積のヘッド部51bとを連接している。同様に、連結エレメント52は、ネック部52aと、ネック部52aよりも大きな体積のヘッド部52bとを連接している。ネック部51aとネック部52aとの合体によって形成されるネック部と、ヘッド部51bとヘッド部52bとの合体によって形成されるヘッド部とは、同じ厚さ(=L1+L2)である。なお、連結部50の形態は、上記ハンマーヘッドの形態に限定されず、例えば、ネック部のみの形態でも良い。
【0040】
(変形例1)
次に、変形例1に係る熱伝導構造体について説明する。先に説明した各実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0041】
図6は、変形例1に係る熱伝導構造体の個別部材に熱伝導部材の端部を挿入する状況と、当該状況の後に図4と同様にD-D線で切断した際の断面図を示す。図6では、熱伝導部材の端部から延出する部分を点線にしている。
【0042】
変形例1に係る熱伝導構造体1は、個別部材30の凹部25の形状を直方体にして、熱伝導部材10の円筒状の端部を直方体に変形させて凹部25に挿入している点を除き、先に説明した第2実施形態に係る熱伝導構造体1と共通する。円筒形の熱伝導部材10の端部を、矢印Eの方向に、直方体形状の凹部25内部に押し込むと、当該端部は凹部25の形状に合わせて変形する(矢印Fで示す断面図を参照)。この結果、熱伝導部材10の形態は、個別部材30に挿入された端部を直方体にし、それ以外の部分を円筒形状とした形態となる。このように、固定部材30の凹部25は、熱伝導部材10の端部を圧縮変形させた状態で固定していても良い。なお、凹部25は、熱伝導部材10の長さ方向に個別部材30を貫通する貫通孔でも良い。距離L1,L2,L3については、第2実施形態に係る熱伝導構造体1における距離L1,L2,L3と同様である。なお、直方体形状の凹部25は、第1実施形態における固定部材20に用いても良い。
【0043】
(変形例2)
次に、変形例2に係る熱伝導構造体について説明する。先に説明した各実施形態および変形例1と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0044】
図7は、変形例2に係る熱伝導構造体に備えられる熱伝導部材の製造工程を段階的に示す。
【0045】
変形例2に係る熱伝導構造体1は、熱伝導部材10aを、長尺状のクッション部材11の外側面を熱伝導シート13aにて筒状に覆った部材とする点を除き、先に説明した各実施形態および変形例1に係る熱伝導構造体1と共通する。すなわち、熱伝導シート13aは、略長方形のシートであり、クッション部材11の外側面をスパイラル状に巻回するのではなく、筒状に覆っている。以下、熱伝導部材10aの例示的な製造工程について説明する。
【0046】
まず、長尺状で貫通孔12を有するクッション部材11を用意し、その外側面に、長方形の熱伝導シート13aを筒状に巻く。クッション部材11の外側面あるいは熱伝導シート13aの裏面(貼り付け面)の内の少なくともいずれか一方の面に、接着剤が塗布されているのが好ましい。以上の工程にて、クッション部材11の外側面に熱伝導シート13aを筒状に巻いた形態の熱伝導部材10aが完成する。
【0047】
(変形例3)
次に、変形例3に係る熱伝導構造体について説明する。先に説明した各実施形態および各変形例と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0048】
図8は、変形例3に係る熱伝導構造体1に備えられる熱伝導部材の製造工程を示す。
【0049】
変形例3に係る熱伝導構造体1は、熱伝導部材10bを、熱伝導シート13の裏側に、シート状のクッション部材61を積層した積層体60をスパイラル状に巻いた形態を有する点を除き、先に説明した各実施形態および各変形例に係る熱伝導構造体1と共通する。熱伝導部材10bにおけるクッション部材61は、熱伝導シート13の裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材である。以下、熱伝導部材10bの例示的な製造工程について説明する。
【0050】
まず、略同等の幅を持つ熱伝導シート13およびクッション部材61の二層からなる積層体60を製造する。積層体60は、細長く、かつ厚さの薄いベルト形状の部材である。次に、積層体60をスパイラル状(コイル状と称しても良い)に、一方向に進行するように巻回する。こうして、積層体60をスパイラル状に巻回した細長い形状の熱伝導部材10bが完成する。熱伝導部材10bは、その長さ方向に貫通する貫通路12を有する。変形例3においても、クッション部材61は、その長さ方向に貫通する貫通路12を備えることになる。
【0051】
2.バッテリー
次に、一実施形態に係るバッテリーについて説明する。
【0052】
図9は、一実施形態に係るバッテリー内部の平面図および矢印Gの方向から見た左側面図を示す。なお、図9では、バッテリーの筐体は省略されている。図10は、図9のバッテリー内部を含めたバッテリー全体のH-H線断面図および一部Jのセル搭載前後の変化を拡大して示す。
【0053】
この実施形態に係るバッテリー90は、冷却剤85を流す構造を持つ筐体80内に、複数のセル70を備えたバッテリーである。セル70と筐体80との間には、上述のいずれかの熱伝導構造体1を備える。バッテリー90は、例えば、電気自動車用のバッテリーである。バッテリー90は、一方に開口する有底型の筐体80を備える。筐体80は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。セル70は、筐体80の内部81に配置される。セル70の上方には、電極71が突出している。複数のセル70は、好ましくは、筐体11内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられている(不図示)。セル70の数は、この実施形態では、9個である。しかし、セル70の数は、2~8個または10個以上でも良い。
【0054】
筐体80の底部82には、冷却剤85の一例である冷却水を流すために、1または複数の水冷パイプ83が備えられている。「冷却剤」は、「冷却媒体」と称しても良い。セル70は、底部82との間に、熱伝導構造体1を挟むようにして、筐体80の内部81に配置されている。このような構造のバッテリー90では、セル70は、熱伝導構造体1を通じて筐体80に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却剤85は、冷却水に限定されず、液体窒素、エタノール等の有機溶剤も含むように解釈される。冷却剤85は、冷却に用いられる状況下にて、液体であるとは限らず、気体あるいは固体でも良い。
【0055】
熱伝導構造体1の複数の熱伝導部材10上から複数のセル70を載せると、熱伝導部材10は、矢印Iで示すように筐体80の底部82に向かって撓み、底部82に接触する。熱伝導部材10が確実に底部82に接触するには、熱伝導部材10と底部82との隙間(前述のT3に相当)はゼロ、または限りなくゼロに近い方が良い。これによって、セル70の熱は、熱伝導部材10の熱伝導シート13、底部82を経由して、冷却剤85へと伝わる。この結果、セル70は速やかに除熱される。ただし、固定部材20の熱伝導率が熱伝導部材10の熱伝導率に近い場合、例えば、固定部材20がグラファイト、グラファイトと樹脂の複合体、アルミニウム等の高熱伝導性の金属、あるいは当該金属フィラー、炭素フィラー、セラミックスフィラーを分散させた樹脂から成る場合には、上記隙間は、熱伝導部材10が底部82に接触しない距離であっても許容される。
【0056】
熱伝導構造体1を構成する複数の熱伝導部材10の上から複数のセル70を載せると、熱伝導部材10は、その厚さ(=d)をkd(0<k<1)に減少するように圧縮される。隣り合う熱伝導部材10の間の距離(=T)は、t(<T)に減少する。tは、隣り合う熱伝導部材10が圧縮されても、互いに接触しないような距離であるのが望ましい。ただし、tは、隣り合う熱伝導部材10が圧縮された際に互いに接触可能な距離であっても良い。また、元々の熱伝導部材10の幅(=d)は、D(>d)に増大する。この実施形態では、熱伝導部材10は、円筒形状であるため、厚さと幅は同一若しくは同一に近い部材である。しかし、熱伝導部材10は、三角以上の角を有する多角形の端面をもつ筒状体でも良い。また、熱伝導部材10は、楕円形の端面をもつ筒状体でも良い。そのような場合、熱伝導部材10の厚さと幅は、同一でなくとも良い。
【0057】
隣り合う熱伝導部材10の間の距離Tは、熱伝導構造体1において全て同一の距離であることを要しない。例えば、バッテリー90は、複数のセル70の内、温度のより高いセル70に熱伝導部材10を密集させていても良い。すなわち、温度のより高いセル70に接触する複数の熱伝導部材10の間の隙間Tは、他の隙間Tよりも小さくても良い。これによって、より温度の高いセル70からの除熱を高めることができる。この実施形態では、熱伝導構造体1を構成する18本の熱伝導部材10の列の内、当該列の端から9本目および10本目の熱伝導部材10同士の隙間Tを、他の隙間Tより狭くするのが好ましい。また、当該列の端から8本目、9本目、10本目、11本目の熱伝導部材10の各隙間Tを、他の隙間Tより狭くすることもできる。このように、熱伝導部材10のならんでいる列のほぼ中央領域の隙間Tをより狭くすると、複数のセル70のならんでいる列の中央領域が放熱性の乏しい状況下であっても、除熱しやすくなる。なお、熱伝導部材10同士の最も狭い隙間Tは、上記中央領域に限定されず、上記中央領域以外の場所にあっても良い。
【0058】
3.その他の実施形態
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0059】
クッション部材11,61は、熱伝導構造体1の使用に従って、弾性変形しにくくなる場合がある。本願では、その場合であっても、クッション部材11,61は、弾性的に元の形態に戻ろうとする性質を持っている限り、「弾性変形可能なクッション部材」に相当すると解釈される。固定部材20,20aへの熱伝導部材10,10a,10bの固定方法は、熱伝導部材10,10a,10bを、凹部25あるいは貫通孔に挿入し、接着固定し、圧縮保持する等のいかなる方法でも良い。熱伝導部材10,10a,10bを自由に動かないように規制できれば良い。
【0060】
固定部材20,20aは、熱伝導部材10,10a,10bの少なくとも一端を固定できれば、両端を固定し、あるいは両端に加えて別の位置を固定する部材でも良い。また、熱伝導部材10,10a,10bは、その長さ方向の一端を、2以上の固定部材20で固定しても良い。個別部材30は、2本以上の熱伝導部材10,10a,10bを固定する部材でも良い。
【0061】
熱伝導部材10bにおけるスパイラル状クッション部材61は、熱伝導シート13の幅と同一に限定されず、熱伝導シート13の幅に対して大きくても、あるいは小さくても良い。熱伝導構造体1は、セル70同士の隙間、および/またはセル70と筐体80の内部81の内側面との隙間、に配置されていても良い。
【0062】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。例えば、変形例1~3の各構造は、第1実施形態または第2実施形態に係る熱伝導構造体1のいずれにも用いることができる。バッテリー90は、第1実施形態および第2実施形態(変形例1~3の内の1つ若しくは2以上を用いた形態も含む)のいずれの形態の熱伝導構造体1を搭載していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る熱伝導構造体は、例えば、自動車用バッテリーの他、自動車、工業用ロボット、発電装置、PC、家庭用電化製品などの各種電子機器にも利用することができる。また、本発明に係るバッテリーは、自動車用のバッテリー以外に、家庭用の充放電可能なバッテリー、PC等の電子機器用のバッテリーにも利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・熱伝導構造体、10,10a,10b・・・熱伝導部材、11・・・クッション部材、12・・・貫通路、13,13a・・・熱伝導シート、20,20a・・・固定部材、25・・・凹部、30・・・個別部材、61・・・クッション部材(スパイラル状クッション部材)、70・・・セル(バッテリーセル)、80・・・筐体、85・・・冷却剤、90・・・バッテリー、T・・・間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10