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特許7402711全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、全固体リチウムイオン二次電池、及び全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、全固体リチウムイオン二次電池、及び全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、全固体リチウムイオン二次電池、及び全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231214BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231214BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020027205
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131992
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】辻村 知之
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/084352(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/160707(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115538(WO,A1)
【文献】特開2015-213038(JP,A)
【文献】特開2016-042417(JP,A)
【文献】特開2016-103411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 - 62
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/131 - 1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムの吸蔵、放出が可能な正極活物質粒子と、該正極活物質粒子を被覆する被覆層とを含有し、
前記被覆層が酢酸塩を含有し、
前記正極活物質粒子の平均二次粒子径が20μm以下であることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記被覆層が、酢酸塩を70mol%以上95mol%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記被覆層が、ジルコニウム酸化物及び/又はホウ素酸化物とを含有し、
前記被覆層中のジルコニウム酸化物及びホウ素酸化物の合計含有量が2.5mol%以上25.0mol%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記正極活物質粒子の平均二次粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記被覆層の厚みが、0.5nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質粒子が、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含有するものあることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質粒子が、LiNiCoAl又はLiNiCoMnで表される遷移金属酸化物のリチウム塩を含有するものであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質を含有している正極層と、
負極層と、
これら正極層と負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記正極層が、固体電解質をさらに含有するものであり、前記固体電解質が硫黄を含むものであることを特徴とする請求項記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
酢酸リチウムとトリイソプロピルボレートとを重量比で1:5~15:1の割合で含有する混合溶液を正極活物質粒子の表面に塗工する工程と、
200℃以上400℃以下の温度で焼成する工程とを含む全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
焼成温度が300℃から350℃であることを特徴とする請求項10に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質及びこれを使用した全固体リチウムイオン二次電池に係るものである。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン二次電池は、充電の際に正極活物質粒子と固体電解質との界面で反応が生じると、抵抗成分が生成する。この抵抗成分の生成を抑えるために、正極活物質粒子の表面を他の物質で被覆して界面抵抗を減少する手法が提案されている。
【0003】
しかしながら、これら従来の技術では電池特性の向上が十分ではないという問題があり、電池特性をさらに向上させようとすると複雑な成膜工程が必要であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-81822号公報
【文献】特開2015-88383号公報
【文献】特開2015-201372号公報
【文献】特開2014-116149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、製造工程を複雑化させることなく、全固体リチウムイオン二次電池の負荷特性やサイクル寿命特性等の電池特性を従来よりもさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池は、正極層が、正極活物質粒子と該正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層とを備える正極活物質を含有するものであり、前記被覆層が酢酸塩を含有することを特徴とするものである。
【0007】
このように構成した全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、及び該全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質を使用した全固体リチウムイオン二次電池によれば、正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層が酢酸塩を含有していることによって、全固体リチウムイオン二次電池の負荷特性やサイクル寿命特性等の電池特性を従来よりも大幅に向上させることができる。特に4V以上の高電圧を印加した場合の界面抵抗の上昇を従来の被覆層よりも大幅に減少させ、サイクル特性を大きく改善することができる。
【0008】
さらに、正極活物質粒子を被覆する被覆層の組成として酢酸塩を含有させるだけであるので、特別な製造装置を準備しなくても、従来の設備を利用して簡単に正極活物質及び全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0009】
本発明の具体的な実施態様としては、前記被覆層が、酢酸塩を70mol%以上95mol%以下の範囲で含有するものを挙げることができる。
【0010】
前記被覆層がジルコニウム酸化物及び/又はホウ素酸化物を含有し、前記被覆層におけるジルコニウム酸化物及びホウ素酸化物の合計含有量が2.5mol%以上25mol%以下であるものでれば、全固体リチウムイオン二次電池の負荷特性やサイクル寿命特性等の電池特性をさらに向上させることができる。
【0011】
前記正極活物質粒子の平均二次粒子径が20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0012】
前記被覆層の厚みは、0.5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0013】
前記正極活物質粒子が、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましく、前記遷移金属酸化物のリチウム塩がLiNixCoyAlzO2又はLiNixCoyMnzO2であることがより好ましい。
【0014】
前述したような正極活物質を備えた正極層と、負極層と、これら正極層及び負極層との間に配置された固体電解質層とを備えている全固体リチウムイオン二次電池によっても、同様に本発明の効果を奏することができる。
【0015】
前記正極層中において、固体電解質を含有し、さらに前記固体電解質が硫黄を含む固体電解質であるものであれば、本発明の効果をより顕著に奏することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層が酢酸塩を含有していることによって、全固体リチウムイオン二次電池の負荷特性やサイクル寿命特性等の電池特性を従来よりも大幅に向上させることができる。特に4V以上の高電圧を印加した場合の界面抵抗の上昇を従来の被覆層よりも大幅に減少させ、サイクル特性を大きく改善することができる。
【0017】
また、正極活物質粒子を被覆する被覆層の組成として酢酸塩を含有させるだけであるので、特別な製造装置を準備しなくても、従来の設備を利用して簡単に正極活物質及び全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の構造を表す摸式図。
図2】本発明の一実施形態に係る正極活物質の構造を表す模式図。
図3】本発明の実施例及び比較例に係る被覆層の赤外分光スペクトルの結果を示す図。
図4】本発明に係る被覆用スラリーの熱重量測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0020】
<1.本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態に係る全固体二次電池1の層構成を模式的に示す断面図である。また、図2は、本実施形態に係る全固体二次電池1の正極活物質11の構成を模式的に示した断面図である。
【0021】
図1に示すように、全固体二次電池1は、正極層10と、負極層20と、正極層10および負極層20の間に位置する固体電解質層30とが積層された構造を備える。
【0022】
(1.1.正極層10)
正極層10は、正極活物質11と、固体電解質31とを含む。また、正極層10は、電子伝導性を補うために、導電助剤をさらに含んでもよい。なお、固体電解質31については、固体電解質層30において後述する。
【0023】
ここで、図2に示すように、正極活物質11は、正極活物質粒子11Aと、正極活物質粒子11Aの表面を被覆する被覆層11Bとを備えている。正極活物質粒子11Aとしては、図2に示したような一次粒子だけでなく、一次粒子が複数集合して形成された二次粒子を1つの正極活物質粒子11Aとして使用して二次粒子の表面に被覆層11Bを備えるものとしても良い。
【0024】
前記正極活物質粒子11Aは、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば良い。
例えば、前記正極活物質粒子11Aは、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫化リチウム、硫黄、酸化鉄、または酸化バナジウム(Vanadium oxide)等を用いて形成することができる。これらの正極活物質粒子11Aは、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。正極活物質粒子11Aとしては、図2に示したような一次粒子だけでなく、一次粒子が複数集合して形成された二次粒子を使用することもできる。
【0025】
また、前記正極活物質粒子11Aは、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで「層状岩塩型構造」とは、立方晶岩塩型構造の<111>方向に酸素原子層と金属原子層とが交互に規則配列し、その結果それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。また「立方晶岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0026】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0027】
前記正極活物質粒子11Aの形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、前記正極活物質粒子11Aの粒径は特に制限されず、従来の全固体リチウムイオン二次電池1の正極活物質粒子11Aに適用可能な範囲であれば良い。なお、正極層10における正極活物質粒子11Aの含有量も特に制限されず、従来の全固体リチウムイオン二次電池1の正極層10に適用可能な範囲であれば良い。
前記正極活物質粒子11Aの平均二次粒子径は、20μm以下であれば良く、より好ましくは10μm以下1μm以上である。正極活物質粒子11Aの平均二次粒子径を1μm以上20μ以下とすることによって、正極活物質11が凝集せずに正極層10中に分散しやすいので、正極活物質11と固体電解質31や導電助剤との界面におけるをより促進させることができる。さらに、平均二次粒子径を10μm以下のものとすれば、正極活物質11の表面積が増えるので、前述した反応をより促進させることができると考えられる。
【0028】
前記被覆層11Bは、例えば、リチウム酸化物(LiO)、ホウ素酸化物(B)及び酢酸塩を含有するものである。
該酢酸塩は、例えば、被覆層11Bの原料として添加している酢酸リチウム等に由来するものである。
前記被覆層11Bは、前記酢酸塩を70mol%以上95mol%以下の範囲で含有していることが好ましい。前記被覆層11Bの残りの5mol%以上30mol%は、リチウム酸化物(LiO)、ホウ素酸化物(B)、ジルコニウム酸化物(ZrO)などを含有するものとすることが好ましい。
【0029】
形成された前記被覆層11Bに含有されているリチウム酸化物(LiO)とホウ素酸化物(B)との含有量比は、リチウム酸化物(LiO)よりもホウ素酸化物(B)の含有量が多くなるようにしてある。すなわち、被覆層11B中のホウ素酸化物(B)の含有量が、被覆層11B中のリチウム酸化物(LiO)とホウ素酸化物(B)との合計含有量に対して50mol%以上となるようにしてある。被覆層11B中のホウ素酸化物(B)の含有量が、被覆層11B中のリチウム酸化物(LiO)とホウ素酸化物(B)との合計含有量に対して60mol%以上とすることが好ましく62.5mol%以上とすることがより好ましい。このような前記被覆層11Bの具体的なリチウム酸化物とホウ素酸化物との含有比を実現する具体例としては、例えば、Li3B11O18等を挙げることができる。
【0030】
前記被覆層11Bがホウ素酸化物及び/又はジルコニウム酸化物を含有する場合にその合計含有量が、2.5mol%以上25.0mol%以下であることが好ましい。ホウ素酸化物及びジルコニウム酸化物の合計含有量が2.5mol%より小さくなると、その分、被覆層11B中のリチウム酸化物の含有割合が高くなってしまい、被覆層11B中にリチウム酸化物の結晶が析出しやすくなってしまう。このように結晶が析出すると、被覆層11Bにおけるリチウムイオン伝導率が低下しやすくなってしまうことが考えられるので、ホウ素酸化物及びジルコニウム酸化物の合計含有量を2.5mol%以上とすることが好ましい。また、ホウ素酸化物及びジルコニウム酸化物の合計含有量を25.0mol%より大きくすると、被覆層11B中のリチウム酸化物の含有割合が低下して、被覆層11Bにおけるリチウムイオン伝導率が低下しやすくなってしまう。そのため、ホウ素酸化物及びジルコニウム酸化物の合計含有量を25.0mol%以上とすることが好ましい。
【0031】
前記被覆層11Bの厚みは、0.5nm以上500nm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以上100nm以下である。前記被覆層11Bの厚みを0.5nm以上とすることによって、正極活物質11と固体電解質31との界面反応の効率を向上させることによって、電池のサイクル特性を向上させることができる。また、前記被覆層11Bの厚みを500nm以下とすることによって、前記被覆層11Bによる抵抗を小さく抑えることができるので好ましい。被覆層11Bの厚みは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)による断面画像等を用いて測定することができる。
【0032】
該被覆層11Bは、1層からなるものであっても2層以上の層からなるものであっても良い。被覆層11Bが2層以上の層を含有するものである場合、それぞれの層の組成は同じ出も良いし、別の組成としても良い。例えば、酢酸塩、リチウム酸化物及びジルコニウム酸化物を含有する第1被覆層で正極活物質粒子11Aの表面を被覆し、さらに酢酸塩、リチウム酸化物及びホウ素酸化物を含む第2被覆層で第1被覆層の表面を被覆するようにしても良い。この場合には、前述した被覆層11B中のジルコニウム酸化物及びホウ素酸化物の合計含有量は、第1被覆層中の合計含有量及び第2被覆層中の合計含有量をそれぞれ示すものとする。本実施形態では、個々の正極活物質粒子11Aを前記被覆層11Bによってそれぞれ覆っているが、板状に成形された正極活物質材料の外表面を被覆層11Bが覆うようにしてもよい。
【0033】
正極層10は、前述したもの以外に、導電助剤やバインダ、フィラー、分散剤、イオン導電助剤等を含有していても良い。正極層10に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極層10に配合可能なバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極層10に配合可能なフィラー、分散剤、イオン導電助剤等としては、一般に全固体リチウムイオン二次電池1の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0034】
(1.2.負極層20)
図1に示すように、負極層20は、負極活物質21と、固体電解質31とを含む。なお、固体電解質31については、固体電解質層30において後述する。
【0035】
負極活物質21は、正極活物質粒子11Aに含まれる正極活物質材料と比較して充放電電位が低く、リチウムとの合金化、またはリチウムの可逆的な吸蔵および放出が可能な負極活物質材料にて構成される。
【0036】
例えば、負極活物質21として、金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を挙げることができる。前記金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、ケイ素(Si)等の金属やこれらの合金等を挙げることができる。また、前記カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等を挙げることができる。これらの負極活物質21は、単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0037】
また、負極層20には、上述した負極活物質21および固体電解質31に加えて、例えば、導電剤、結着材、フィラー、分散剤又はイオン導電剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0038】
なお、負極層20に配合する添加剤としては、上述した正極層10に配合される添加剤と同様のものを用いることができる。
【0039】
(1.3.固体電解質層30)
固体電解質層30は、正極層10と負極層20との間に形成される層であり、固体電解質31を含むものである。
【0040】
前記固体電解質31は例えば、粉末状のものであり、例えば硫黄を含む固体電解質材料で構成される。
該固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Br、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、前記固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質31は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0041】
また、前記固体電解質31として、上記の硫黄を含む固体電解質31のうち、少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0042】
ここで、前記固体電解質31を形成する固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。また、固体電解質層30には、バインダを更に含んでいても良い。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。
【0043】
ここでは、前記固体電解質31として硫黄を含むものを挙げたが、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池1に使用する前記固体電解質31は硫黄を含むものに限らず、全固体リチウムイオン二次電池1に使用することができるものであればよい。
【0044】
(1.4.集電体)
全固体リチウムイオン二次電池1が、正極層10に電流を供給する正極集電体をさらに備えるものとしても良い。正極集電体は、正極層10の外側に配置されるものである。前記正極集電体としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等を使用することができる。
【0045】
全固体リチウムイオン二次電池1が、負極層20に電流を供給する負極集電体をさらに備えるものとしても良い。負極集電体は、負極層20の外側に配置されるものである。負極集電体は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。負極集電体を構成する材料としては、例えば、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)が挙げられる。負極集電体は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金またはクラッド材で構成されていても良い。
【0046】
<2.全固体リチウムイオン二次電池1の製造方法>
以上、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の構成について詳細に説明したが、続いて、上述した構成を有する全固体リチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。全固体リチウムイオン二次電池1は、正極層10、負極層20及び固体電解質層30を作製した後に、これらの各層を積層することにより製造することができる。以下、各工程について詳述する。
【0047】
(2.1.正極層10の作製工程)
正極層10の製造方法について以下に説明する。正極層10の製造方法は、特に制限されないが、例えば以下のような工程により作製することができる。
【0048】
まず、NCA又はNCMなどの正極活物質粒子11A粒子を用意し、これら正極活物質粒子11A粒子個々の表面上に被覆層11Bを形成する。
該被覆層11Bは、例えば、酢酸リチウムとトリイソプロピルボレートとを、超脱水エタノール等の溶媒に添加して、加熱溶解した混合液である被覆用スラリーを作製する。
この時の酢酸リチウムとトリイソプロピルボレートとの混合割合は、重量比で1:5~1:15の範囲である。酢酸リチウムとトリイソプロピルボレートとの混合比を前述した範囲にすることによって、被覆層11B中の酢酸塩以外の組成をLi3B11O18にすることができる。
【0049】
次に、前記被覆用スラリーを前記正極活物質粒子11Aの表面に被覆する。この時、正極活物質粒子11A粒子に被覆層11Bを形成した後の正極活物質粒子11Aに対する被覆層11Bの被覆量が0.01mol%以上2.0mol%以下となるように被覆量を調整する。
【0050】
次に、例えば、正極活物質粒子11Aの表面全体を覆うように前記被覆用スラリーを塗工した後、エバポレータ等を用いて溶媒を揮発させて除去してから大気雰囲気下で焼成し、正極活物質11を得た。焼成温度は200度から400度が好ましく、300度から350度が特に好ましい。焼成時間は1時間とした。
【0051】
正極層11を構成する材料(正極活物質11、バインダ等)を非極性溶媒に添加することで、スラリー(slurry)(スラリーはペースト(paste)であってもよい。他のスラリーも同様である。)を作製する。ついで、得られたスラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、正極層10を作製する。加圧工程は省略されても良い。正極層11を構成する材料の混合物をペレット(pellet)状に圧密化成形するか、あるいはシート状に引き伸ばすことで正極層10を作製してもよい。これらの方法により正極層10を作製する場合、正極集電体は省略されても良い。
【0052】
(2-2.固体電解質層30の作製工程)
固体電解質層30は、硫黄を含む固体電解質材料にて形成された固体電解質31により作製することができる。
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0053】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0054】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0055】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質31を作製することができる。固体電解質31がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0056】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質31を、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、固体電解質31粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、固体電解質31と、溶媒、バインダを混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層30を作製してもよい。
【0057】
(2.3.負極層20の作製)
次に、負極層20の製造方法について説明する。負極層20の製造方法は、特に制限されず、例えば以下の製造方法により作製することができる。
リチウムを含有する金属箔を負極活物質21として使用する場合には、例えば、リチウム金属箔などのリチウムを含有する金属箔を負極集電体上に重ねて、加圧することによって負極層20を作製することができる。
リチウム金属箔以外の負極活物質21を使用する場合には、例えば、負極層20を構成する材料(負極活物質21粒子、固体電解質31、バインダ等)を極性溶媒または非極性溶媒に添加することで、スラリーを作製する。ついで、得られたスラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、負極層20を作製する。加圧工程は省略されても良い。また、負極層20は負極層20を構成する材料の混合物を加圧することにより作製されてもよい。
【0058】
(2.4.各層の積層)
以上のようにして得られた正極層10、固体電解質層30及び負極層20をこの順で積層し、プレス等することにより、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1を製造することができる。
【0059】
<3.本実施形態の効果>
以上に説明した正極活物質11及び全固体リチウムイオン二次電池1の製造方法によれば、被覆層11B形成時の焼成温度が350℃程度と低い温度に設定してあるので、被覆層11Bの原料として使用した酢酸リチウムなどの酢酸塩が熱によって分解せずにそのまま被覆層11B中に70mol%以上の含有率で存在している。
【0060】
被覆層11Bが酢酸塩を70mol%以上含有していることによって、全固体リチウムイオン二次電池1の負荷特性やサイクル寿命特性等の電池特性を従来よりも大幅に向上させることができる。特に4V以上の高電圧を印加した場合の界面抵抗の上昇を従来の被覆層よりも大幅に減少させ、サイクル特性を大きく改善することができる。
【0061】
また、正極活物質粒子11Aを被覆する被覆層11Bの製造工程において、焼成温度を従来よりも低い温度にするだけであるので、特別な製造装置を準備しなくても、従来の設備を利用して簡単に正極活物質11及び全固体リチウムイオン二次電池1を製造することができる。
【0062】
正極活物質粒子11Aが粒子状のものであり、その表面全体を被覆層11Bが覆うようにしてあるので、正極活物質粒子11Aと固体電解質31との界面で生じる抵抗成分の生成をより効果的に抑えることができる。
【0063】
正極活物質粒子11Aが、前述したような層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体リチウムイオン二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0064】
また、正極活物質粒子11Aが、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質粒子11Aとしてニッケル(Ni)を含む場合、全固体リチウムイオン二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質粒子11Aからの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【実施例
【0065】
次に、本実施形態の実施例について説明する。もちろん、本発明は、以下の実施例のみに限定されるわけではない。
以下の実施例では、様々な種類の正極活物質を作製し、これらを用いて全固体リチウムイオン二次電池を作製し、作成した全固体リチウムイオン二次電池の負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。
【0066】
(実施例1)
正極活物質粒子表面への被覆層形成
正極活物質粒子としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM)粒子を用いた。酢酸リチウムとTriisopropyl borateを60℃に加温した超脱水エタノール溶液中に溶解させ、本混合溶液(被覆用スラリー)を用いて前記正極活物質粒子に対する被覆処理を行った。前記混合溶液は、被覆層中の酢酸塩以外の組成が最終的にLi3B11O18になるように、正極活物質粒子10gに対して、酢酸リチウム(0.04g)とTriisopropyl borate(0.44g)とを1:11の重量比となるように添加することによって作製した。上記のNCMを、NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量(すなわち、正極活物質粒子と被覆層とを含む正極活物質全体に対するLi2O-B2O3(LBO)の含有量)が0.1mol.%になるように前記被覆用スラリーの調整を行った。エバポレーターを用いて溶媒を揮発させ、大気雰囲気下において350℃1時間焼成を行うことで、NCM表面にLBO被覆処理を行った正極活物質(被覆正極活物質ともいう。)を得た。
【0067】
全固体二次電池の作製
まず,試薬Li2S、P2S5を目的組成であるLi3PS4になるように秤量後、遊星型ボールにて20時間混合を行うことでメカニカルミリング処理を行った。メカニカルミリング処理は、380rpmの回転速度、室温、アルゴン雰囲気内で20時間行った。回収された試料を用いてメノウ乳鉢により粉砕を行った後、X線結晶回折を行い、結晶層の残存がないことを確認し、本材料を固体電解質として用いた。上記LBOで被覆された正極活物質と固体電質(SE)と導電剤であるカーボンナノファイバー(CNF)とを60:35:5質量%の比率で混合したものを正極合剤とした。またグラファイト、固体電解質Li3PS4、および導電剤であるVGCFを60:35:5の質量比で混合することで、負極合剤を作製した。上記正極合剤(15mg)・固体電解質(100mg)・負極合材(15mg)をこの順で積層し、3ton/cm2の圧力でpressすることで、試験用セル(全固体二次電池)を得た。
【0068】
負荷特性評価
得られた試験セルを25℃で、0.05Cの定電流で、上限電圧4.3Vまで充電した後に下限電圧2.5Vまで0.05Cの定電流で放電し初期放電容量を測定した。その後に0.05C, 0.5C, 1C放電を行いレート特性の測定を行った。そして、初期放電容量に対する1C放電容量の比を負荷特性の指標とした。この値が高いほど、電池の内部抵抗が小さく負荷特性に優れた電池である。負荷特性評価試験の結果は、表1に示す。
【0069】
サイクル寿命試験
得られた試験用セルを、25℃で、0.05Cの定電流で、上限電圧4.3Vまで充電し、放電終止電圧2.5Vまで0.5C放電する充放電サイクルを50サイクル繰り返した。そして、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を放電容量の維持率とした。放電容量の維持率はサイクル特性を示すパラメータであり、この値が大きいほどサイクル特性に優れている。サイクル寿命試験の結果も表1に示す。
【0070】
(実施例2)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.2mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0071】
(実施例3)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.3mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0072】
(実施例4)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.4mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0073】
(実施例5)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.5mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0074】
(実施例6)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.75mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0075】
(実施例7)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が1.0mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0076】
(比較例1)
焼成温度を500℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0077】
(比較例2)
比較例2としては、正極活物質の代わりに、被覆処理を一切行っていない正極活物質粒子(NCM)をそのまま使用した以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例8)
正極活物質粒子表面への被覆層形成
正極活物質粒子としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM)粒子を用いた。本NCM活物質粒子に対してLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.03mol.%になるようにした以外は、実施例1と同様にして前記被覆層用スラリーの調整を行った。エバポレーターを用いて溶媒を揮発させ、大気雰囲気下において350℃1時間焼成を行うことで、本NCM表面にLBO被覆処理を行った正極活物質を得た。
【0080】
固体電解質の作成
まず、硫黄を含む電解質材料の出発物質である試薬LiS、P、LiClを目的組成であるLiPSClになるように秤量した。ついで、これらの試薬を遊星型ボールにて20時間混合するメカニカルミリング処理を行った。メカニカルミリング処理は、380rpmの回転速度、室温、アルゴン雰囲気内で行った。
上記メカニカルミリング処理により得られたLiPSCl組成の粉末試料800mgをプレス(圧力400MPa/cm)することで直径13mm、厚さ約0.8mmのペレットを得た。得られたペレットを金箔で覆い、さらにカーボンルツボに入れ、熱処理用試料の作製を行った。得られた熱処理用試料を石英ガラス管内に真空封入した。ついで、熱処理用試料を電気炉に入れ、電気炉内の温度を室温から550℃まで1.0℃/分で昇温した。ついで、熱処理用試料を550℃で6時間熱処理した。ついで、1.0℃/分で熱処理用試料を室温まで冷却した。回収された熱処理後試料をメノウ乳鉢により粉砕した。粉砕した試料をX線結晶回折し、目的となるArgyrodite結晶が生成していることを確認した。
【0081】
全固体二次電池の作製
上記で作製したLBO被覆を行った正極活物質、Argyrodite型固体電解質、および導電剤であるカーボンナノファイバ(CNF)を83:15:3の質量比で混合することで、正極合剤を作製した。また、負極としては金属Li箔(厚さ30μm)を用いた。上記正極合剤(10mg)、固体電解質(150mg)、金属Li負極をこの順で積層し、3ton/cmの圧力で加圧することで、試験用セルを得た。
この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表2に示す。
【0082】
(実施例9)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.07mol.%になるようにし、固体電解質としてLi6PS5Clを使用した以外は、実施例8と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表2に示す。
【0083】
(実施例10)
NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.1mol.%になるようにし、固体電解質としてLi6PS5Clを使用した以外は、実施例8と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例1と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表2に示す。
【0084】
(実施例11)
正極活物質粒子として実施例8で用いたものと同じNCMを用い、このNCMの表面にリチウムメトキシドとジルコニウムプロポキシドと、エタノールとの混合溶液を用いて被覆処理を行った。NCMに対するLi2O-ZrO2(LZO)の被覆量が0.25mol%になるように前記混合溶液を調整した。前記混合溶液は、被覆層中の酢酸塩以外の組成が最終的にLi2ZrO3になるように、正極活物質500gに対して、リチウムメトキシド9.7gとジルコニウムプロポキシド6.1gとをエタノールに添加することによって作製した。前記混合溶液を噴霧乾燥して正極活物質表面被覆処理を行った。被覆処理は、株式会社パウレック製転動流動層造粒・コーティング機FD-MP-01Eを用いて行った。被覆処理の条件は、正極活物質粒子の量は500g、給気温度90℃、給気風量0.23m3/h、ローター回転速度400rpm、アドマイズ空気量50NL/min、噴霧速度約5g/minとした。このようにしてLZO被覆した正極活物質に対して、さらにLBO被覆処理を行った。この時、NCMに対するLi2O-B2O3(LBO)の被覆量が0.03mol%になるようにした以外は実施例1と同様にして被覆用スラリーを調整した。実施例1と同様に350℃で一時間、大気雰囲気下において焼成を行い、LZO及びLBOで2重に被覆された正極活物質を得た。このように正極活物質粒子の表面を2層の被覆層で覆った正極活物質を使用して、実施例8と同様の手順で試験セルを作製した。この試験セルに対する負荷特性評価およびサイクル寿命試験は実施例1と同様の手法を用いた。これら試験の結果は表2に示す。
【0085】
(実施例12)
実施例11と同様にして、NCMに対するLi2O-ZrO2(LZO)の被覆量が0.25mol.%になるようにし、固体電解質としてLi6PS5Clを使用した。被覆を行った正極活物質を300℃焼成を行った。その他の手順は、実施例8と同様にして正極活物質及び試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例8と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表2に示す。
【0086】
(比較例3)
比較例3としては、正極活物質の代わりに、被覆処理を一切行っていない正極活物質粒子(NCM)をそのまま使用した以外は、実施例8と同様にして試験セルを作製した。この試験セルを使用して実施例8と同様の手順で負荷特性評価及びサイクル寿命試験を行った。これら試験の結果は表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
(実施例13)
実施例1から11に記載のリチウム(Li)およびホウ素(B)を含む被覆材料を分析する目的で、被覆材料のみの合成を行った。実施例1と同じ組成になるように酢酸リチウムとTriisopropyl borateを60℃に加温した超脱水エタノール溶液中に溶解させ、本混合溶液を3時間撹拌処理を行った。得られた溶液を電気炉を用いて350℃1時間処理を行い溶媒除去、乾燥処理を行った後、フーリエ変換型赤外吸収分光装置を用いて分析を行った。また、熱処理を行う前の試料を用いて熱重量測装置を用いて分析を行った。結果をそれずれ図3および図4に示す。
【0089】
(比較例4)
比較例2に記載のリチウム(Li)およびホウ素(B)を含む被覆材料を分析する目的で、被覆材料のみの合成を行った。実施例1と同じ組成になるように、酢酸リチウムとTriisopropyl borateを60℃に加温した超脱水エタノール溶液中に溶解させ、本混合溶液を3時間撹拌処理を行った。得られた溶液を電気炉を用いて500℃1時間処理を行い溶媒除去、乾燥処理を行った後、フーリエ変換型赤外吸収分光装置を用いて分析を行った。結果を図3に示す。
【0090】
図3の結果から、実施例13の赤外分光スペクトルでは、有機物である酢酸イオンに帰属されるピークが観察された。一方、比較例4の赤外分光スペクトルでは、無機物である炭酸イオンに帰属されるピークが観察された。
図3の結果から、酢酸リチウムに由来する被覆層中の酢酸塩は、熱処理温度が350℃である実施例13の場合では検出されたにも関わらず、熱処理温度が500℃である比較例4の場合には検出できなかった。この結果から、被覆層中の酢酸塩は熱処理温度が350℃から500℃の間の温度で分解してしまったと考えられる。この図3の結果と併せて、図4の熱重量測定の結果を見ると、図4の350℃と500℃の間の値の変化は酢酸塩の分解に起因するものであることが予測できる。この図4の場合は、350℃から500℃の間で被覆層中のおよそ80重量%程度が変化しており、これが酢酸塩の含有量であることが算出できる。
前述した酢酸塩の含有量は、例えば、酢酸リチウムとトリイソプロピルボレートなどの前記被覆層の原料の添加量や添加量の比率によって変動すると考えられる。この実施例13では、他の実施例と同じように被覆層のLi2O-B2O3(LBO)組成がLi3B11O18になるように原料を添加している。このように被覆層のLi2O-B2O3(LBO)組成をLi3B11O18にする場合には、焼成温度によって変化するものの、この実施例13と同程度の酢酸塩が被覆層に含有されていると考えられる。さらに図4の結果から考察すると、被覆層中の酢酸塩の含有量は、焼成温度によっても変化することが考えられ、例えば、300℃の場合には95mol%程度であり、400℃の場合には、70mol%程度となることが予想される。
【0091】
表1や表2の結果から分かるように、実施例1から実施例12に記載の被覆材料を用いた正極活物質の電池特性は、比較例1から比較例3に記載の電池特性と比較して明らかに優れている。これら実施例1から12に係る全固体二次電池は、図3の結果から分かるように被覆層中に有機物である酢酸塩(酢酸イオン)が存在していることによって、有機物を含有しない比較例よりも電池特定が優れた全固体電池を構成することができるといえる。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1 リチウムイオン二次電池
10 正極層
11 正極活物質
20 負極層
21 負極活物質
30 固体電解質層
31 固体電解質
図1
図2
図3
図4