(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】環境地図生成方法及び環境地図生成装置
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
(21)【出願番号】P 2020104785
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健文
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-065088(JP,A)
【文献】特開2020-060528(JP,A)
【文献】特開2020-034322(JP,A)
【文献】特開2017-194830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00 - 29/14
G01C 21/00 - 21/36
G05D 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する環境地図生成方法において、
異なる時刻ごとに前記環境地図を生成し、
異なる時刻の前記環境地図の平均を表す平均環境地図を生成し、
異なる時刻の前記環境地図の分散を表す分散環境地図を生成し、
前記平均環境地図から前記分散環境地図を減算することにより、前記周囲物体のうち静止物の位置を表す静止物環境地図を生成する、
環境地図生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の環境地図生成方法であって、
前記環境地図の生成においては、前記周囲物体の位置を上面視の2次元平面に投影することにより、前記周囲物体の位置に応じた空間の占有状態を表す占有グリッドマップを生成する、
環境地図生成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の環境地図生成方法であって、
前記環境地図を特徴抽出によって低次元化し、
低次元化された前記環境地図を複数のクラスタにクラスタリングし、
前記クラスタごとに、前記クラスタに属する前記環境地図に現れた静止物の明瞭性と相関がある評価値を算出し、
前記評価値を用いて前記環境地図を選別し、
選別後の前記環境地図を用いて前記平均環境地図及び前記分散環境地図を生成する、
環境地図生成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の環境地図生成方法であって、
前記評価値は、前記クラスタに属する前記環境地図の平均輝度である、
環境地図生成方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の環境地図生成方法であって、
前記環境地図の選別は、前記クラスタの単位で行う、
環境地図生成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の環境地図生成方法であって、
前記評価値が所定の閾値以上である前記クラスタに属する前記環境地図を採用し、かつ、
前記閾値は、複数の前記クラスタについて算出した前記評価値の最大値と最小値の平均値である、
環境地図生成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の環境地図生成方法であって、
前記評価値が前記閾値以上であることに加え、前記クラスタに属する前記環境地図の数が、選別前の前記環境地図の総数に対して所定割合以上であることを前記クラスタに属する前記環境地図の採用条件とする、
環境地図生成方法。
【請求項8】
所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する環境地図生成装置において、
異なる時刻ごとに前記環境地図を生成する環境地図生成部と、
異なる時刻の前記環境地図の平均を表す平均環境地図を生成する平均環境地図生成部と、
異なる時刻の前記環境地図の分散を表す分散環境地図を生成する分散環境地図生成部と、
前記平均環境地図から前記分散環境地図を減算することにより、前記周囲物体のうち静止物の位置を表す静止物環境地図を生成するマスキング処理部と、
を備える環境地図生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲環境の地図である環境地図を生成する環境地図生成方法及び環境地図生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動可能なロボットや車両等の周囲環境を把握するために、周囲環境にある物体の位置を示す環境地図を生成し、利用している。例えば、特許文献1は、自律移動体周囲の物体のうち移動可能物体を含まない環境地図を生成する地図生成装置を開示している。具体的には、特許文献1の地図生成装置は、環境データ取得部、データ格納部、判定部、外部環境地図生成部を備える。環境データ取得部は、自律移動体周囲の物体を含む外部環境を示す環境データを取得する。データ格納部は、物体が移動可能物体であることを認識するために必要な第1の物体データを格納する。判定部は、データ格納部に格納された第1の物体データに基づいて、環境データ取得部が取得した環境データが示す外部環境に存在する物体のうちの移動可能物体を判定する。外部環境地図生成部は、環境データに基づいて、判定部が移動可能物体であると判定した物体を除いた外部環境の地図を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律移動体の制御においては、環境地図等を用いて、周囲環境にある静止物の位置を正確に把握することが重要である。しかし、特許文献1の地図生成装置が行う環境地図の生成方法では、取得した環境データから、移動可能物体に対応した環境データを除去するために、画像認識等でその物体が何であるかを判別し、判別した物体の位置を環境データと対応付ける必要がある。このため、周囲環境中の移動物体の数が多い場合等、周囲環境の状況によっては、移動可能物体を認識し、除去するための計算負荷が膨大になってしまうという問題がある。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、計算負荷を低減し、静止物の位置を示す環境地図を容易に生成できる環境地図生成方法及び環境地図生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する環境地図生成方法において、同一の前記所定範囲または対応する前記所定範囲について、異なる時刻における前記周囲物体の位置を表す環境地図を生成し、異なる時刻の環境地図の平均を表す平均環境地図を生成し、異なる時刻の環境地図の分散を表す分散環境地図を生成し、平均環境地図から分散環境地図を減算することにより、周囲物体のうち静止物の位置を表す静止物環境地図を生成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の環境地図生成方法及び環境地図生成装置によれば、計算負荷を低減し、静止物の位置を示す環境地図を容易に生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、環境地図生成装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、静止物マップの生成に係る構成をより詳細に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、環境地図生成装置の作用を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、測距データの取得制御を示す説明図である。
【
図5】
図5は、占有グリッドマップの占有値に係る説明図である。
【
図6】
図6は、ある交差点の注目領域とこの注目領域に対応する占有グリッドマップ及び静止物マップの例である。
【
図7】
図7は、生成及び保存される占有グリッドマップと静止物マップの例である。
【
図8】
図8は、データ選択の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、主成分分析及びクラスタリングの結果の例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、3クラスにクラスタリングされた各クラスタに属する占有グリッドマップの平均画像である。
【
図11】
図11は、評価値である平均輝度をクラスタごとに示すグラフである。
【
図12】
図12は、静止物マップの生成手順を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、選択された複数の占有グリッドマップと、平均グリッドマップ及び分散グリッドマップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施形態に係る環境地図生成方法を実行する環境地図生成装置101の概略構成図である。環境地図生成装置101は、後述するように、周囲の所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する。環境地図とは、制御対象物の周囲に存在する物体の部分または全体の位置を特定する情報の集積体である。制御対象物の周囲に存在する物体とは車両あるいはガードレールや縁石等の路上構造物のような、高さを有する物体に限定されず、例えば路面に描かれた道路標示等を含めても良い。情報の集積とは、情報を関連付け、または、演算等により新たな情報を生成することをいう。制御対象物とは、動作を制御し得る物(制御内容を設定することで自律的に動作する物を含む)であり、典型的にはその一部または全部が可動な物、例えばロボットまたは自動運転車両のような自律移動体等であり、本実施形態においては自動運転車両を例に挙げて説明する。なお、自動運転車両とは車両の運行に関わる装置の全てを制御するものに限定されず、例えば操舵装置やアクセル、ブレーキなどの一部を制御するものであっても良い。「周囲」とは、特定の物の周辺にある一部または全部の領域であって、制御対象物については、制御対象物の制御において考慮すべき空間的範囲である。したがって、周囲に属する範囲、すなわち周囲の所定範囲は、制御対象物の性質(可動範囲等)によって異なるが、例えば、制御対象物の移動等によって干渉し得る範囲、制御対象物以外の移動可能物が移動等することによって制御対象物と干渉する可能性がある範囲、または、制御対象物等によって認識し得る範囲等である。「周囲」に属する範囲は、経時的に制御対象物の位置、向き、または形状等が変化した場合には、それに応じて変化する場合がある。
【0010】
環境地図生成装置101は、例えば、車両等を制御する装置またはシステムに対して、もしくは、車両等と通信する装置またはシステムに対して、生成した環境地図、及び/または、生成した環境地図を用いて得られる情報を提供する。すなわち、環境地図生成装置101は、環境地図を蓄積するために単独で利用できる他、車両等を制御する装置またはシステムもしくは車両等と通信する装置またはシステムの一部として実装することにより、生成した環境地図をリアルタイムに利用できる。本実施形態においては、環境地図生成装置101は車両を制御するシステムの一部を構成し、車両に対して、移動可能物体の位置に関する情報を提供する。すなわち、本実施形態において制御対象物は車両である。また、本実施形態の環境地図生成装置101は、特に静止物の位置を表す静止物マップを生成し、利用する。
【0011】
図1に示すように、環境地図生成システム100は、オドメトリセンサ11Aと、測距センサ12と、GPSセンサ14aと、環境地図生成装置101と、を備える。環境地図生成装置101は、オドメトリ演算部11B、測距データ蓄積部13、自己位置推定部14、注目領域データ15、注目領域選択部16、占有グリッドマップ生成部17、静止物マップデータ18、静止物マップ選択部19、移動可能物体領域抽出部20、移動可能物体検出部21、出力部22、占有グリッドマップデータ23、データ選択部24、及び、静止物マップ生成部25を備える。環境地図生成装置101のこれらの構成は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ、及び、メモリ等によって構成する1または複数のコンピュータによって形成される。すなわち、これらの構成は、コンピュータ等のプロセッサが実現し、または、プロセッサ及びメモリが協働して実現する。本実施形態においては、環境地図生成装置101は、車両を制御するように構成されたマイクロコンピュータ(いわゆる車両コントローラ)であり、その車両がオドメトリセンサ11A及び測距センサ12を含む。
【0012】
オドメトリセンサ11Aとオドメトリ演算部11Bは、車両のオドメトリを計測するオドメトリ計測部を構成する。オドメトリセンサ11Aは、車両の走行(移動)に関する情報(以下、走行情報)を継続的にまたは断続的に車両から取得する。走行情報とは、走行に応じた車両の変化を表す情報であり、例えば、車両の旋回角や速度等の情報である。したがって、オドメトリセンサ11Aは、旋回角や車速等をそれぞれ取得するための1または複数のセンサによって構成される。オドメトリ演算部11Bは、取得した走行情報を用いて演算することにより、車両のオドメトリを計測する。オドメトリとは、車両の位置及び/または向きに関する継時的な変化を含む情報であり、例えば、車両の走行によって変化する位置及び向き等の履歴(走行軌跡等)を表すデータである。オドメトリ演算部11Bは、計測したオドメトリを測距データ蓄積部13に出力する。
【0013】
測距センサ12は、車両の周囲にある物体(以下、周囲物体という)の距離及び方向、すなわち車両に対する周囲物体の位置を測定する。測距センサ12が計測する周囲物体の距離及び方向を表す位置情報(以下、測距データという)は、車両を中心とした車両座標系で表される。測距センサ12は、計測した測距データを測距データ蓄積部13に出力する。
【0014】
測距センサ12は、例えばレーザレーダ、すなわちLiDAR(Light Detection and Ranging)センサである。したがって、測距センサ12は、周囲の所定範囲に出射波を出射する。そして、測距センサ12は、出射波が所定範囲内に存在する周囲物体の表面で反射された反射波を受信することにより、周囲物体の位置を検出する。周囲の所定範囲とは、車両の周囲のうち一部または全部の範囲であり、測距し得る範囲である。本実施形態においては、測距センサ12は、車両の前方、側方、及び、後方の範囲において周囲物体の位置を測定する。出射波は、例えば、紫外線、可視光、または近赤外線等である。
【0015】
なお、測距センサ12は、車両から車両の周囲物体までの相対距離及び方向を測定可能であれば、センサの種類及び測距原理は任意である。したがって、測距センサ12として、LiDARセンサの代わりに、LADAR(Laser Detection and Ranging)センサ、ミリ波レーダ、超音波センサ、またはステレオカメラ等を用いてもよい。また、測距データの表現形式は、例えば、測距センサ12からの距離を測定した観測点を3次元空間に分布させたポイントクラウドの形式である。但し、測距データの表現形式は任意である。このため、測距データは、ステレオカメラの出力結果のように、測距センサ12から観測対象である周囲物体までの距離の分布を2次元平面に投影した距離画像として表現してもよい。
【0016】
測距データ蓄積部13は、オドメトリ計測部11によって計測したオドメトリと、測距センサ12によって計測した測距データ(周囲物体の位置情報)の入力を受ける。また、測距データ蓄積部13は、測距データを表現する座標系を変換するように構成されている。具体的には、測距データ蓄積部13は、オドメトリに基づいて、車両座標系で表される測距データをオドメトリ座標系で表される測距データに変換して蓄積する。車両座標系は、車両の位置及び向きに応じて変化するローカルな座標系であるのに対し、オドメトリ座標系は、車両の位置及び向きに依存しないグローバルな座標系である。
【0017】
測距データ蓄積部13は、時間バッファとして機能するように構成されている。すなわち、測距データ蓄積部13は、全体として、予め定める一定の時間長の配列を有しており、観測値である測距データを、計測した時間ごとに独立した配列の要素として保持する。また、測距データ蓄積部13はリングバッファとして機能するように構成されている。このため、最も古い測距データは最新の測距データによって上書きされることによって順次に破棄される。測距データ蓄積部13は、蓄積した測距データを、占有グリッドマップ生成部17に出力する。
【0018】
自己位置推定部14は、GPS(Global Positioning System)センサ14a等を用いて、現実の環境中における車両の絶対座標(絶対位置)を取得することにより、環境中における車両の位置(以下、自己位置という)を推定する。自己位置推定部14は、推定した自己位置を注目領域選択部16に出力する。
【0019】
注目領域データ15は、車両に対して注目領域(Region Of Interest)を定めるデータである。注目領域データ15は予め設定される。また、注目領域データ15は、車両に対して位置、大きさ、範囲、及び/または、形状が異なる複数の注目領域の設定データを含む。注目領域データ15が含む注目領域の設定データ(以下、単に注目領域という)の1つは、例えば、車両の左方向及び右方向の長さがそれぞれ20m、前方の長さが80m、かつ、後方の長さ10mの長方形の領域である。なお、注目領域は車両の現在位置を含まない場合がある。
【0020】
注目領域選択部16は、注目領域データ15を参照し、自己位置に基づいて、複数の注目領域の中から車両が置かれた環境に応じた適切な注目領域を選択する。注目領域選択部16は、例えば、注目領域データ15に保存された注目領域のうち、車両の現在位置を中心とする領域データを注目領域とすることができる。また、例えば、注目領域選択部16は、車両が直線的な道路にある場合と車両が交差点にある場合で、それぞれ異なる注目領域を選択することができる。この他、例えば、車両が交差点にある場合、注目領域選択部16は、横断歩道を中心とした注目領域を選択する等、自車両以外の要素を基準とした注目領域を選択することができる。注目領域選択部16は、選択した注目領域に関する注目領域情報を占有グリッドマップ生成部17と静止物マップ選択部19に出力する。注目領域情報は、車両に対する位置、大きさ、範囲、及び/または、形状等の注目領域を特定する情報である。
【0021】
占有グリッドマップ生成部17は、周囲物体の位置を上面視の2次元平面に投影することにより、環境地図の一形態である占有グリッドマップを生成する。占有グリッドマップ生成部17は、測距データと注目領域情報の入力を受ける。そして、占有グリッドマップ生成部17は、注目領域情報によって定まる注目領域について、測距データから所定時間おきに占有グリッドマップを生成する。グリッドマップとは、環境中の一定領域を離散化されたグリッドの集合として表現した環境地図である。グリッドマップは、例えば、直交座標系において離散化したグリッドを環境に固定した座標系として表現される。すなわち、グリッドマップは、車両の位置にかかわらず、絶対的な位置を環境に固定された領域で表現する。グリッドは、例えば縦横10cmの正方形領域とすることができる。占有グリッドマップは、物体の有無を表す占有値を各グリッドの値として保有するグリッドマップである。したがって、本実施形態においては、占有グリッドマップは、周囲物体の位置に応じた空間の占有状態を表す。より詳細な占有グリッドマップの生成方法は後述する。占有グリッドマップ生成部17は、生成した占有グリッドマップを移動可能物体領域抽出部20に出力する。また、占有グリッドマップは、占有グリッドマップデータ23に保存される。
【0022】
静止物マップデータ18は、静止物マップのデータベースである。静止物マップは、環境地図の一形態であり、ほぼ静止物の位置だけを表す地図である。静止物とは、環境中において移動しない構造物等であり、例えば、店舗や家屋等の建造物、ガードレール等の防護柵、信号機や道路標識等及びその支柱、その他の構造物、並びに、街路樹等である。静止物には、路面に表示された車線区分線や横断歩道路の表示等を含んでも良い。本実施形態においては、静止構造マップは、ほぼ静止物だけに対応する占有グリッドマップ、すなわち、ほぼ静止物の位置のみを表す占有グリッドマップである。
【0023】
静止物マップ選択部19は、注目領域情報の入力を受け、現在の注目領域を特定する。また、静止物マップ選択部19は、静止物マップデータ18を参照し、現在の注目領域に対応する静止物マップを選択する。静止物マップ選択部19は、選択した静止物マップを移動可能物体領域抽出部20に出力する。
【0024】
移動可能物体領域抽出部20は、占有グリッドマップ生成部17が生成した占有グリッドマップと、静止物マップ選択部19が選択した静止物マップの入力を受ける。移動可能物体領域抽出部20は、占有グリッドマップと静止物マップを比較することにより、移動可能物体領域を抽出する。移動可能物体領域とは、移動可能物体が存在する領域、または移動可能物体が存在する可能性が高い領域である。移動可能物体とは、環境中において移動可能な物体であり、例えば、歩行者、自転車、バイク、及び、自動車等である。例えば、移動可能物体領域抽出部20は、占有グリッドマップ生成部17が生成した占有グリッドマップから、静止物マップに存在するグリッドの占有情報(占有グリッド情報)を除くことにより、移動可能物体領域を抽出する。また、移動可能物体領域抽出部20は、抽出した移動可能物体領域の位置、形状、及び大きさ等を特定する地図(以下、移動可能物体マップという)を生成し、これを移動可能物体検出部21に出力する。本実施形態においては、移動可能物体マップは、ほぼ移動可能物体だけに対応する占有グリッドマップ、すなわち、ほぼ移動可能物体の位置のみを表す占有グリッドマップである。
【0025】
移動可能物体検出部21は、入力された移動可能物体マップに表された移動可能物体の位置を複数のセグメントに区分けする(セグメンテーション)。そして、移動可能物体検出部21は、各セグメントに対して、所定の図形パターンを用いたフィッティング(図形フィッティング)とトラッキングを行うことにより、各セグメントの位置、移動方向、サイズ、速度、及び/または、これらの変化等に関する情報を算出する。これにより、移動可能物体検出部21は、移動可能物体マップから移動可能物体を検出する。移動可能物体検出部21は、検出した移動可能物体に関する位置、移動方向、サイズ、速度、及び/または、これらの変化等の情報を出力部22に出力する。
【0026】
出力部22は、移動可能物体に関する位置等の情報を車両に対して出力する。これにより、車両は、移動可能物体の位置等を把握する。その結果、車両は、必要に応じて移動可能物体を考慮して自身を制御し、または、運転者その他の人もしくはシステム等に移動可能物体に関する情報を提供する。
【0027】
占有グリッドマップデータ23は、占有グリッドマップ生成部17が生成した占有グリッドマップを蓄積するデータベースである。占有グリッドマップデータ23は、データ選択部24によって参照される。
【0028】
データ選択部24は、占有グリッドマップデータ23から、静止物マップの生成に使用し得る複数の占有グリッドマップを取得する。これら複数の占有グリッドマップは、互いに異なる時刻の占有グリッドマップであり、同一または対応する所定範囲について、異なる時刻における周囲物体の位置を表す。例えば、特定の交差点について静止物マップを生成する場合、データ選択部24は、占有グリッドマップデータ23から、この特定の交差点に係る占有グリッドマップを全て取得する。ただし、データ選択部24は、複数の占有グリッドマップを取得できればよく、必ずしも占有グリッドマップデータ23に保存された全部の占有グリッドマップを取得する必要はない。
【0029】
さらに、データ選択部24は、取得した占有グリッドマップ(サンプルデータ)から、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップを選択する。
【0030】
占有グリッドマップは、原則として、各グリッドにおける周囲物体の存在すなわち周囲物体の位置を表す。しかし、実際的には、周囲物体の測距や自己位置の推定等には誤差があるので、占有グリッドマップにも当然にこれらに起因した誤差が含まれる。占有グリッドマップの誤差は、これを用いて生成する静止物構造物マップの正確性を低下させる原因となるので、無視できない場合がある。そこで、データ選択部24は、取得した占有グリッドマップを選別し、大きな誤差を含んでいる可能性が高い外れ値を有する占有グリッドマップを取り除く。外れ値を有する占有グリッドマップとは、周囲物体の存在に伴う不安定な観測条件に起因する不完全なデータや自己位置の推定誤差に起因する不完全なデータ等を有する占有グリッドマップである。データ選択部24は、例えば、周囲物体による遮蔽(いわゆるオクルージョン)に起因して観測領域が極端に不足している占有グリッドマップ、周囲物体の表面の特性等に起因して極端に高輝度の点(高占有値のグリッド)が偏在している占有グリッドマップ、及び、像のブレが大きい占有グリッドマップ等を除外する。
【0031】
これにより、データ選択部24は、占有グリッドマップを選別し、静止物マップの生成に適した一部の占有グリッドマップを選択する。また、データ選択部24が、占有グリッドマップから選択した一部のサンプルデータからなる占有グリッドマップを静止物マップ生成部25に出力する。
【0032】
静止物マップ生成部25は、データ選択部24を介して複数の占有グリッドマップを取得し、これらを用いて静止物マップを生成する。したがって、静止物マップ生成部25が取得する占有グリッドマップは、静止物マップの生成に適さない外れ値を有する占有グリッドマップが取り除かれている。静止物マップを生成するためのより詳細な構成及び手順については、詳細を後述する。静止物マップ生成部25は、生成した静止物マップを静止物マップデータ18に保存する。
【0033】
図2は、静止物マップの生成に係る構成をより詳細に示すブロック図である。
図2に示すように、データ選択部24は、より具体的に、特徴抽出部241、クラスタリング部242、評価値演算部243、及び、外れ値データ除去部244を有する。
【0034】
特徴抽出部241は、静止物マップを生成する特定のエリアについて、占有グリッドマップデータ23に保存されている占有グリッドマップを複数取得する。そして、特徴抽出部241は、取得した複数の占有グリッドマップを特徴抽出によってそれぞれ低次元化する。特徴抽出部241は、低次元化した占有グリッドマップをクラスタリング部242に出力する。特徴抽出の具体的な方法は任意である。本実施形態においては、特徴抽出部241は、主成分分析(Principal Component Analysis)によって特徴抽出し、占有グリッドマップを低次元化する。
【0035】
クラスタリング部242は、低次元化された占有グリッドマップをクラスタリングする。すなわち、クラスタリング部242は、クラスタ解析により、低次元化された占有グリッドマップを、複数のクラスタにグループ分けする。クラスタリングの具体的な方法は任意である。本実施形態においては、クラスタリング部242はk-平均法を用いる。クラスタリング部242は、クラスタリングの結果を評価値演算部243に出力する。
【0036】
評価値演算部243は、クラスタリングの結果に基づいて、クラスタごとに評価値を算出する。評価値は、そのクラスタに属する占有グリッドマップの全体としての性質、すなわち静止物の明瞭さ等、占有グリッドマップの特徴の概要あるいは特徴の共通性等を表す値である。本実施形態では、評価値は、各クラスタに属する占有グリッドマップに表れた静止物の明瞭性と相関がある値である。より具体的には、本実施形態の評価値は、例えば、各クラスタに属する占有グリッドマップの占有値の平均値である。占有値の平均値は、占有グリッドマップを画像化する場合、明るさの平均値に相当するものである。したがって、以下では、占有値の平均値を便宜的に平均輝度という。なお、評価値演算部243は、各クラスタに属する占有グリッドマップの平均輝度の代わりに、占有値の中央値、標準偏差、分散、または、その他の統計量等を評価値にすることができる。
【0037】
また、評価値演算部243は、各クラスタについて算出した評価値に基づいて、これらの評価値の比較対象とする所定の閾値(以下、第1閾値という)を設定する。この第1閾値は、各クラスタに属する占有グリッドマップを静止構造マップの生成に使用するか否かの判断基準となる。また、第1閾値は、任意に予め定めることができる。本実施形態では、評価値演算部243は、全クラスタの評価値のうち、最大値と最小値の平均値を算出し、これを第1閾値とする。評価値演算部243は、算出した第1閾値及び各クラスタの評価値を外れ値データ除去部244に出力する。
【0038】
外れ値データ除去部244は、占有グリッドマップの枚数、各クラスタの評価値、及び、第1閾値等に基づいて、静止物マップの生成に適さない外れ値を有する占有グリッドマップを判別する。そして、外れ値データ除去部244は、外れ値を有する占有グリッドマップを、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップの群から除去する。
【0039】
本実施形態では、外れ値データ除去部244は、占有グリッドマップが外れ値を有するか否かの判別を、クラスタの単位で行う。すなわち、外れ値データ除去部244は、クラスタの単位で占有グリッドマップを評価し、クラスタの単位で静止物マップの生成に使用するか否かの採否を決定する。さらに、本実施形態では、各クラスタの評価値と第1閾値の大小関係と、各クラスタに属する占有グリッドマップの枚数と、の2つを採否の条件として使用する。具体的には、第1の採用条件は、評価値が第1閾値以上の値であることである。評価値が第1閾値未満のクラスタに属する占有グリッドマップは、他のクラスタに属する占有グリッドマップと比較して全体的に占有値の値が小さいので、相対的に測定誤差が大きい占有値を有するグリッドが多く存在している可能性が高い。このため、上記のように評価値が第1閾値以上の値であることを第1の採用条件とする。また、第2の採用条件は、クラスタに属する占有グリッドマップの枚数が、選別前の占有グリッドマップの総数に対して所定割合以上であることである。占有グリッドマップの総数と比較して、所属する枚数が極端に少ないクラスタの占有グリッドマップは、高占有値グリッドの偏在等により、誤差に起因した占有値を保持している可能性が高いからである。所定割合は、任意に予め定めることができる。本実施形態においては、所定割合は20%である。本実施形態の外れ値データ除去部244は、第1の採用条件を満たし、かつ、第2の採用条件を満たすクラスタに属する占有グリッドマップを、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップとして選択する。
【0040】
静止物マップ生成部25は、より具体的に、平均環境地図生成部251、分散環境地図生成部252、マスキング処理部253、及び、ノイズ除去部254を有する。
【0041】
平均環境地図生成部251は、選択された全ての占有グリッドマップの平均画像(以下、平均グリッドマップという)を生成する。平均グリッドマップは、複数枚の環境地図の平均を表す平均環境地図の一形態である。より具体的には、平均グリッドマップは、複数の占有グリッドマップ間で対応するグリッドの占有値の相加平均を、環境中においてこれらと同位置のグリッドの占有値とする占有グリッドマップである。なお、選択された占有グリッドマップは、互いに異なる時刻における周囲物体の位置を表す占有グリッドマップである。このため、平均グリッドマップは、異なる時刻の占有グリッドマップの平均を表す。
【0042】
分散環境地図生成部252は、選択された全ての占有グリッドマップの分散画像(以下、分散グリッドマップという)を生成する。分散グリッドマップは、複数枚の環境地図の分散を表す分散環境地図の一形態である。すなわち、分散グリッドマップは、占有グリッドマップの形態で表された分散環境地図である。また、分散グリッドマップは、複数の占有グリッドマップ間で対応するグリッドの占有値の分散を、環境中においてこれと同位置のグリッドの占有値とする占有グリッドマップである。占有値の分散は、いわゆる標本分散であり、標準偏差の2乗である。分散グリッドマップの各グリッドの占有値である分散は、各占有グリッドマップの対応するグリッドの占有値を用いて算出する。具体的には、分散環境地図生成部252は、例えば、各占有値の2乗の相加平均から、占有値の相加平均の2乗を減算して、分散グリッドマップの各グリッドの占有値を求める。なお、選択された占有グリッドマップは、互いに異なる時刻における周囲物体の位置を表す占有グリッドマップである。このため、分散グリッドマップは、異なる時刻の占有グリッドマップの分散を表す。
【0043】
マスキング処理部253は、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算するマスキング処理を行う。互いに対応するグリッドについて、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算すると、平均グリッドマップに表れる移動可能物体及びその移動等の痕跡が除去または低減される。したがって、マスキング処理部253が生成する占有グリッドマップは、実質的に静止物マップである。但し、本実施形態においては、さらに正確性を高めるために、マスキング処理部253は上記演算の結果をノイズ除去部254に出力する。
【0044】
ノイズ除去部254は、マスキング処理部253が出力する静止物マップに対してノイズ除去処理を施す。これにより、ノイズ除去部254は、静止物マップのノイズ成分を除去または低減する。静止物マップのノイズ成分とは、主として、マスキング処理後に残存する移動可能物体及びその移動の痕跡である。ノイズ除去処理の具体的方法は任意であるが、本実施形態においては、ノイズ除去処理は、所定の閾値(以下、第2閾値という)以下の占有値を「0」に切り捨てる処理である。第2閾値は、任意に予め定めることができる。静止物マップデータ18には、ノイズ除去処理を施した静止物マップが保存される。
【0045】
次に、本実施形態に係る静止物マップ生成方法における静止物マップの生成手順と、移動可能物体の検出手順について詳述する。
【0046】
図3は、本実施形態に係る環境地図生成装置101の作用を示すフローチャートである。
図3に示すように、環境地図生成装置101は、測距データの取得制御に係るステップS10と、占有グリッドマップの生成に係るステップS20と、移動可能物体の検出に係るステップS30と、静止物マップの生成に係るステップS40と、を実行する。
【0047】
測距データの取得に係るステップS10は、測距データ受信ステップS11と、座標変換ステップS12と、時間バッファ更新ステップS13と、重畳ステップS14と、を有する。
【0048】
測距データ受信ステップS11では、測距データ蓄積部13が、測距センサ12が計測した測距データを順次に受信する。座標変換ステップS12では、測距データ蓄積部13が、オドメトリ計測部11から得られるオドメトリを用いて、受信した測距データを表現する座標系を、車両座標系からオドメトリ座標系に変換する。時間バッファ更新ステップS13では、測距データ蓄積部13が、オドメトリ座標系に座標変換された測距データを用いて時間バッファを更新する。これにより、測距データ蓄積部13は、測距データを一定の時間長にわたって蓄積する。重畳ステップS14は、測距データ蓄積部13が、時間バッファの独立した配列の要素として保持された複数の測距データを重畳する。すなわち、時間バッファに保持された全ての配列要素の測距データを、1つの3次元空間(オドメトリ座標系)のデータとして統合する。これにより、測距データ蓄積部13は、1時刻の観測からでは得られない高密度の測距データを生成する。
【0049】
図4は、上記の測距データの取得に係る制御(ステップS10)の説明図である。
図4に示すように、大文字のO-XYZで示すオドメトリ座標系は、任意の点を原点「O」として、環境中に固定したグローバル座標系である。例えば、オドメトリ座標系のXY平面は水平面であり、Z方向は現実の高さ方向を表す。車両400が現実の環境中を走行すると、オドメトリ座標系では、車両400の走行軌跡(オドメトリ)を破線矢印401のように3次元の連続的な線で表すことができる。
【0050】
また、車両400は測距センサ12から出射波410を出射することにより、周囲物体までの距離を測定しながら走行する(ステップS11)。
図4においては、時刻t-1、t、t+1、及びt+2の4回の異なる時刻に周囲物体までの距離を測定している。
【0051】
時刻t-1においては、車両400の周囲431に障害物421がある。このため、測距データ蓄積部13は、障害物421の表面にある複数の測距点426について測距データを得る。また、時刻tにおいては、障害物421が車両400から遠ざかるが、車両400の周囲432には新たな障害物422の一部が現れる。このため、測距データ蓄積部13は、障害物422の表面のうち、測定し得る範囲に入っている部分の表面における1または複数の測距点426までの測距データを得る。その後、時刻t+1においては、車両400の周囲433に障害物422の全部が入る。したがって、測距データ蓄積部13は、障害物422の表面にある複数の測距点426について測距データを得る。この時刻t+1における測距データの一部は、時刻tに測定した測距データと重複がある。そして、時刻t+2においては、障害物422が車両400から遠ざかるが、一方で車両400の周囲434に新たな障害物423が現れる。このため、測距データ蓄積部13は、障害物423の表面にある複数の測距点426について測距データを得る。障害物421等の障害物は、車両400の周囲物体であって、移動可能物体または静止物である。
【0052】
ここで、上記の各時刻における測距データはいずれも、例えば、測定時点における車両400の位置を原点とし、車両400の進行方向をx軸、車幅方向をy軸、高さ方向をz軸とする車両400に対してローカルな車両座標系におけるデータである。このため、測距データ蓄積部13は、オドメトリを考慮して各時刻の測距データをオドメトリ座標系(グローバル座標系)に座標変換してから(ステップS12)、時間バッファを更新し(ステップS13)、さらにこれらを重畳する(ステップS14)。この結果、障害物421等の複数の周囲物体は現実の環境中において広範囲に分布し、異なる時刻に測距されるが、これらの各測距データは1つのオドメトリ座標系において統一的に表される。
【0053】
占有グリッドマップの生成に係るステップS20(
図3参照)は、上記のようにオドメトリ座標系に統合された測距データを用いて占有グリッドマップを生成するステップである。
図3に示すように、ステップS20は、具体的に、自己位置データ受信ステップS21、注目領域選択ステップS22と、処理範囲判定ステップS23と、占有グリッドマップ生成ステップS24と、を有する。
【0054】
自己位置データ受信ステップS21では、自己位置推定部14がGPSセンサ等を用いて推定した車両の自己位置を、注目領域選択部16が受信する。
【0055】
注目領域選択ステップS22では、注目領域選択部16が、注目領域データ15を参照し、車両の自己位置に応じた注目領域を選択する。
【0056】
処理範囲判定ステップS23では、注目領域選択部16が選択した注目領域(以下、現在の注目領域という)が処理範囲内であるか否かを判定する。処理範囲とは、占有グリッドマップを生成し得る範囲である。例えば、車両から周囲物体の距離を測定し得る範囲に注目領域の全部が含まれており、他に占有グリッドマップの生成を妨げる特別の事情がない場合、その注目領域は処理範囲内である。現在の注目領域が処理範囲内である場合、占有グリッドマップ生成ステップS24に進む。一方、現在の注目領域が処理範囲内でない場合には、占有グリッドマップは生成せず、ステップS10に戻る。
【0057】
占有グリッドマップ生成ステップS24では、注目領域が処理範囲内である場合に、占有グリッドマップを生成する。具体的には、占有グリッドマップ生成部17が、オドメトリ座標系に重畳された測距データを2次元のグリッドに投影することにより、占有グリッドマップを生成する。また、占有グリッドマップ生成ステップS24を含め、ステップS10、S20、S30、及びS40は繰り返し行われる。したがって、占有グリッドマップ生成ステップS24は、異なる時刻に検出した周囲物体の位置から、同一の所定範囲(注目領域)または対応する所定範囲(注目領域)について、複数枚の占有グリッドマップを生成するように構成されている。例えば、ある注目領域を1回走行する間の異なる時刻に、周囲物体の位置を検出して占有グリッドマップを複数回生成することにより、その注目領域の占有グリッドマップを複数枚生成する場合がある。また、ある注目領域を複数回走行することによって、異なる時刻にその注目領域について複数枚の占有グリッドマップを生成する場合がある。さらに、こうした周囲物体の位置検出及び占有グリッドマップの生成の結果として、異なる時刻ごとに占有グリッドマップを生成する。すなわち、占有グリッドマップ生成ステップS24は、同一の所定範囲(注目領域)または対応する所定範囲(注目領域)について、異なる時刻における周囲物体の位置を表す占有グリッドマップを生成するように構成されている。なお、対応する所定範囲(注目領域)とは、占有グリッドマップを生成する範囲の一部または全部に重複があることをいう。例えば、第1の占有グリッドマップが特定の注目領域について生成され、これとは別の第2の占有グリッドマップが、この特定の注目領域を含む相対的に広範囲の注目領域について生成された場合、第1の占有グリッドマップと第2の占有グリッドマップは、対応する所定範囲(注目領域)について生成された占有グリッドマップである。
【0058】
ここで、測距データを用いて占有グリッドマップを生成する方法を説明する。
図5は、占有グリッドマップの占有値に係る説明図である。小文字のo-xyzで示す車両座標系は、車両400を原点「o」として、車両400の進行方向にx軸をとり、車幅方向にy軸をとり、かつ、高さ方向にz軸をとる座標系である。x
iはグリッドマップのi番目のグリッドの位置を示すベクトルであり、x
jはj番目の測距点の位置を示すベクトルである。h
jはj番目の測距点のxy平面からの高さ(位置x
jのz成分)である。また、r
jは原点からj番目の測距点までのxy平面上の距離(平面距離)である。
【0059】
占有グリッドマップのi番目のグリッド(位置xiのグリッド)の占有値Ciは、例えば、下記の式(1)にしたがって決定することができる。
【0060】
【0061】
N(・;xj,Σ)は測距データの正規分布を表す。N(・;xj,Σ)は、分布の中心(平均)が位置xjであり、共分散がΣである。位置xjの測距点に係る測距データは、実際的な測定で得るデータであるため、観測した位置xjについて当然に正規分布の測定誤差がある。特に、車両400(測距センサ12)からの距離が大きいほど、測距点の分布が疎になる。このため、位置xjの測距データをそのまま真値として、対応する位置xiの占有値Ciにだけ反映すると測定誤差の影響が大きく、最終的に生成する占有グリッドマップには、遠方の周囲物体の有無及び位置を正しく表せない欠陥が生じる場合がある。そこで、式(1)では、位置xjの測距データをそのまま位置xjの占有値Ciにだけ直接的に反映するのではなく、N(xi;xj,Σ)を用いることで測距データに位置xjを中心とした正規分布の幅を持たせる。このため、式(1)によれば、現実との齟齬が少ない占有値Ciを得ることができる。
【0062】
また、式(1)の各項は、N(xi;xj,Σ)にrjとhjを乗じる。rjを乗じるのは、測距点の分布が車両400(特に測距センサ12)からの距離が大きくなるにしたがって疎になることを補償するためである。hjを乗じるのは、路面による反射波に起因した誤検出成分が占有値Ciに大きく寄与してしまうのを防ぐためである。また、位置xiの占有値Ciは、添字jについて和を取ることで、全ての測距点からの寄与を重ね合わせで決定される。
【0063】
上記のように、式(1)から分かるとおり、位置xiのグリッドの占有値Ciは、その位置xiに物体が存在する確からしさを表す。すなわち、最終的に生成する占有グリッドマップでは占有値がCiで表される連続値で表現され、占有値Ciが大きな値を持つほどその位置xiの占有に対する確信度が高い。
【0064】
本実施形態においては、測距データをオドメトリ座標系に変換して蓄積するが、占有値Ciの算出原理は上記式(1)である。すなわち、占有グリッドマップ生成部17は、各測定データを取得した際の車両座標系を考慮し、式(1)に準じて測距データを2次元のグリッドに投影することにより占有グリッドマップを生成する。
【0065】
移動可能物体の検出に係るステップS30(
図3参照)は、上記の現在の注目領域に係る占有グリッドマップを用いて、現在の注目領域にある移動可能物体を検出するステップである。ステップS30は、具体的に、静止物マップ選択ステップS31と、移動可能物体領域抽出ステップS32と、移動可能物体検出ステップS33と、を有する。
【0066】
静止物マップ選択ステップS31では、静止物マップ選択部19が、注目領域情報に基づいて、静止物マップデータ18から現在の注目領域に対応する静止物マップを選択する。移動可能物体領域抽出ステップS32では、移動可能物体領域抽出部20が、占有グリッドマップと静止物マップの比較により、移動可能物体領域を抽出し、移動可能物体マップを生成する。移動可能物体検出ステップS33では、移動可能物体マップをセグメンテーションし、各セグメントを図形フィッティング及びトラッキングすることにより、移動可能物体を検出する。
【0067】
図6は、ある交差点の注目領域と、この注目領域に対応する占有グリッドマップ及び静止物マップである。
図6(A)に示すように、車両400が、ある交差点601(破線で示す)に進入する場合、例えば、車両400の周囲600のうち一部の領域が、現在の注目領域610である。すなわち、車両400が通過しようとする横断歩道602(一点鎖線で示す)を概ね中心とし、横断歩道602の長手方向に沿った長方形の領域を注目領域610とする。また、
図6(A)では、説明の便宜のため、注目領域610の内部を占有グリッドマップで表している。但し、図示の便宜のため、占有グリッドマップは、高占有値のグリッドを黒色、低占有値のグリッドを白色で表す。すなわち、占有グリッドマップの各グリッドは占有値が高いほど濃い色(高輝度)であり、占有値が低いほど薄い色(低輝度)の画像として表現される(以下の図面についても同じ)。したがって、注目領域610の内部にある黒点及び黒点の集合は車両400の周囲物体である。より具体的には、注目領域610には、横断歩道602を横断する歩行者611、歩道上を移動する歩行者等、対向車線に停車中の車両、中央分離帯、車道と歩道の境界に沿って設けられた安全策、及び、その他の建造物等が現れている。なお、薄墨で示す領域613は、この時点で車両400からの視線が通る領域を表す。
【0068】
静止物マップ選択ステップS31では、
図6(B)に示すように、上記注目領域610に対応する静止物マップ620が選択される。この静止物マップ620は、移動可能物体を除いて、ほぼ交差点601にある静止物のみを表す占有グリッドマップである。このため、静止物マップ620においては、交差点601の中央分離帯、車道と歩道の境界に沿って設けられた安全策、及び、その他の建造物等の位置が黒点として現れている。したがって、移動可能物体領域抽出ステップS32では、注目領域610の占有グリッドマップから静止物マップ620のグリッドの情報を除く。その結果、注目領域610に示す占有グリッドマップと静止物マップ620との比較によって明らかな通り、横断歩道602を横断する歩行者611、歩道上を移動する歩行者等、及び、対向車線に停車中の車両等、交差点601に存在する現在の移動可能物体を表す移動可能物体マップが生成される。また、移動可能物体検出ステップS33では、移動可能物体マップを用いて上記の歩行者611等に対応するセグメントをトラッキング等することにより、その位置、移動方向、及び移動速度等を検出する。移動可能物体の検出結果は、例えば、交通安全のための車両400の制御等に利用できる。
【0069】
静止物マップの生成に係るステップS40(
図3参照)は、注目領域ごとの占有グリッドマップを注目領域の通過ごとに保存するとともに、これまでに保存されていた複数枚の占有グリッドマップの履歴を用いて、静止物マップを生成するステップである。ステップS40は、具体的に、確認ステップS41と、占有グリッドマップ保存ステップS42と、データ選択ステップS43と、静止物マップ生成ステップS44と、を有する。
【0070】
確認ステップS41では、ステップS20において、現在の注目領域が処理範囲内でないと判定された場合に、1つ前の処理で注目領域が処理範囲内であったかどうかを確認する。すなわち、ステップS41では、注目領域が処理範囲内から処理範囲外へ出たタイミングを検出する。そして、1つ前の処理で注目領域が処理範囲外であった場合は、静止物マップを生成せず、そのまま測距データ受信ステップS11に戻る。一方、注目領域が処理範囲内であった場合は、占有グリッドマップ保存ステップS42に進み、占有グリッドマップ生成部17が占有グリッドマップ生成ステップS24で生成した占有グリッドマップを占有グリッドマップデータ23に保存する。このように、注目領域が処理範囲内から処理範囲外へ出たタイミングで、占有グリッドマップが現在の注目領域について生成されている場合には、この新たに生成された占有グリッドマップを考慮に入れることができる。そのため、その注目領域の静止物マップを新たに生成し、または、既存の静止物マップを更新する価値がある。一方、占有グリッドマップが現在の注目領域について生成されない場合には、既存の占有グリッドマップだけに基づいて静止物マップを生成することになる。そのため、静止物マップを新たに生成し、または、既存の静止物マップを更新する価値がない。したがって、確認ステップS41では、1つ前の処理で注目領域が処理範囲内であったかどうかを確認する。
【0071】
生成及び保存される占有グリッドマップは、例えばポイントクラウドである測距データを重畳したものである。このため、
図7(A)に示す占有グリッドマップ700のように、移動可能物体の痕跡がそのまま占有グリッドとして残存するデータであり、注目領域に対して複数保存される。占有グリッドマップ700は、車道と歩道の境界を進む自転車710、歩行者711、車両713、歩行者711の移動軌跡714,車両の走行軌跡715、及び、その他歩行者等の移動軌跡716等が残存する。一方、
図7(B)に示すように、静止物マップデータ18に保存する静止物マップ720は、ある注目領域に対して作成された占有グリッドマップ700について、移動可能物体による痕跡を除去または低減した画像データである。静止物マップ720は、注目領域ごとに1枚ずつ保存される。
【0072】
占有グリッドマップ保存ステップS42で、占有グリッドマップ生成部17が占有グリッドマップを保存すると、データ選択ステップS43が実行される。
図8に示すように、データ選択ステップS43では、特徴抽出ステップS431と、クラスタリングステップS432と、評価値演算ステップS433と、外れ値データ除去ステップS434と、を実行する。
【0073】
特徴抽出ステップS431では、特徴抽出部241が、占有グリッドマップデータ23に保存されている占有グリッドマップを、例えば、主成分分析により特徴抽出して低次元化する。主成分分析は、nサンプル×p次元のデータ行列X、p次元×L次元の射影行列W、及び、nサンプル×L次元の特徴データ行列Tを用いて、下記の式(2)により表すことができる。また、低次元化のための射影行列Wは、下記の式(3)で表される最小化問題を解くことによって導出することができる。本実施形態においては、サンプルデータ数「n」は、特定の注目領域について保存された占有グリッドマップの数である。また、次元数「p」は、特定の注目領域に係る占有グリッドマップのグリッド数(画素数)である。次元数「L」は、低次元化後の次元数すなわち特徴量次元であり、任意に設定できる。本実施形態では3次元に設定する。
【0074】
【0075】
クラスタリングステップS432では、クラスタリング部242が、低次元化された占有グリッドマップをクラスタリングする。特徴量ベクトルをxi(i=1,2,…,n)、各クラスタの中心をVj(j=1,2,…,n)とすると、各クラスタの中心ベクトルVjは、下記の式(4)で表される最小化問題を解くことができる。本実施形態においては、式(4)のサンプルデータ数「n」は、特定の注目領域について保存された占有グリッドマップの数である。また、クラスタ数「k」は任意に設定できるが、本実施形態では例えば3クラス(k=3)に設定する。
【0076】
【0077】
図9は、主成分分析及びクラスタリングの結果の例を示すグラフである。ここでは、例えば、ある注目領域について保存された75枚の占有グリッドマップを、主成分分析により、第1主成分、第2主成分、及び、第3主成分の3つの主成分で表される3次元に次元圧縮し、クラスタリングする。そして、
図9では、その結果を、横軸を第1主成分、縦軸を第2主成分とする2次元平面に75点の特徴量ベクトルをプロットしている。また、各点の形状はクラスタリングの結果を表す。「〇」は「クラス0」(cls 0)のクラスタであり、「◇」は「クラス1」(cls 1)のクラスタであり、「△」は「クラス2」(cls 2)のクラスタである。
【0078】
評価値演算ステップS433では、評価値演算部243が、上記のクラスタリングの結果に基づき、各クラスタの評価値として平均輝度(すなわち平均占有値)を算出する。例えば、
図10は、
図9において3クラスにクラスタリングされた各クラスタに属する占有グリッドマップの平均画像である。
図10(A)はクラス0(cls 0)のクラスタに属する占有グリッドマップの平均画像である。クラス0のクラスタに属する占有グリッドマップの数(サンプル数)は「24」である。
図10(B)は、クラス1(cls 1)のクラスタに属する占有グリッドマップの平均画像である。クラス1のクラスタに属する占有グリッドマップの数は「18」である。
図10(C)は、クラス2(cls 2)のクラスタに属する占有グリッドマップの平均画像である。クラス2のクラスタに属する占有グリッドマップの数は「33」である。この場合、評価値演算ステップでは、
図10(A)の画像の平均輝度、
図10(B)の画像の平均輝度、及び、
図10(C)の画像の平均輝度をそれぞれ算出する。
【0079】
また、評価値演算ステップS433では、評価値演算部243が第1閾値を算出する。例えば、
図11は、
図10の各画像を用いて算出した評価値である平均輝度をクラスタごとに示すグラフである。ここでは、最大の評価値Imax、すなわち最大の平均輝度を有するクラスタはクラス2(cls 2)のクラスタである。また、最小の評価値Imin、すなわち最小の平均輝度を有するクラスタはクラス1(cls 1)のクラスタである。このため、評価値演算部243は、下記の式(5)に示すように、最大の評価値Imaxと最小の評価値Iminの平均値(Ith)を求め、これを第1閾値とする。
【0080】
【0081】
外れ値データ除去ステップS434では、外れ値データ除去部244が、外れ値を有する占有グリッドマップをクラスタの単位で静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップから除外する。その結果、外れ値データ除去ステップでは、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップを選択される。
【0082】
図9から
図11の具体例においては、クラス0及びクラス2のクラスタは平均輝度が第1閾値Ith以上であり、クラス1のクラスタは平均輝度が第1閾値Ith未満である。したがって、クラス0及びクラス2の2つのクラスタが第1の採用条件を満たす。また、クラス0、クラス1、及び、クラス2の各クラスタに属する占有グリッドマップの枚数はそれぞれ24枚、18枚、及び、33枚であるから、選別前の占有グリッドマップの総数である75枚に対していずれも所定割合である20%以上である。このため、全てのクラスタが第2の採用条件を満たす。したがって、外れ値データ除去部244は、第1の採用条件を満たさないクラス1のクラスタに属する占有グリッドマップを除外し、第1の採用条件及び第2の採用条件の両方を満たすクラス0及びクラス2に属する57枚の占有グリッドマップを、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップとして選択する。
【0083】
静止物マップ生成ステップS44(
図3参照)では、静止物マップ生成部25が、上記のように選択された占有グリッドマップを用いて、静止物マップを生成する。
図12に示すように、静止物マップ生成ステップS44では、平均画像生成ステップS441、分散画像生成ステップS442、マスキングステップS443、及び、ノイズ除去ステップS444を実行する。
【0084】
平均画像生成ステップS441では、平均環境地図生成部251が、データ選択ステップS43で選択された複数の占有グリッドマップ、すなわち、異なる時刻の占有グリッドマップを用いて平均グリッドマップを生成する。また、分散画像生成ステップS442では、分散環境地図生成部252が、データ選択ステップS43で選択された複数の占有グリッドマップ、すなわち、異なる時刻の占有グリッドマップを用いて分散グリッドマップを生成する。例えば、
図13(A)は、
図9から
図11の具体例において、データ選択ステップS43で選択された57枚の占有グリッドマップの一部である。
図13(B)は、57枚分の占有グリッドマップから生成した平均グリッドマップである。
図13(C)は、57枚分の占有グリッドマップから生成した分散グリッドマップである。
【0085】
マスキングステップS443では、マスキング処理部253が、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算することにより、移動可能物体領域を除去または低減し、静止物マップを生成する。
【0086】
平均グリッドマップは、同一の注目領域について複数の占有グリッドマップを平均されたことにより、すなわち各グリッドの占有値を複数の占有グリッドマップの同一位置のグリッドにおける占有値の平均値としていることにより、静止物があるために、複数の占有グリッドマップ間で比較して常に物体が存在する領域(以下、静止物領域という)のグリッドは占有値が維持される。すなわち、平均グリッドマップは、常に物体が存在する位置を表現する。また、測定誤差(観測のブレ等)があるので、平均グリッドマップの占有値の分布は、静止物領域の周辺領域では静止物領域を中心として徐々に占有値が小さくなるような正規分布が形成される。さらに、占有グリッドマップの生成時に偶然に存在した移動可能物体及びその痕跡は、その移動可能物体がない占有グリッドマップとの間で平均化されることにより、静止物領域と比較して相対的に低減される。
【0087】
分散グリッドマップは、対応するグリッドの占有値の分散を、その位置のグリッドの占有値とする。このため、分散グリッドマップでは、静止物領域のグリッドの占有値は小さい値となる。一方、静止物領域の周辺領域では、測定誤差による占有値の分散が計算されるので、静止物領域と比較して占有値は大きな値となる。また、一部の占有グリッドマップの生成時に偶然に存在した移動可能物体及びその痕跡に対応するグリッドにおいては占有値が大きい。すなわち、分散グリッドマップは、選択された占有グリッドマップ間で比較して物体が出現したり、消失したりする位置を表現する。
【0088】
したがって、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算することで、静止物領域を残し、移動可能物体及びその痕跡を除去することができる。
【0089】
図14は、簡単のため上記のマスキング処理を1次元で表した模式図である。
図14(A)に示すように、観測1から観測4の4回分の占有グリッドマップがあるとする。ここでは簡単のため、長方形で占有グリッドの位置のみを表す。
図14(B)に示すように、これら観測1から観測4の占有グリッドマップの集積体である「観測の集合」は、選択された占有グリッドマップに対応する。そして、静止物体領域に関しては、「平均」によって示す平均グリッドマップでは大きなピークが立ち、「分散」によって示す分散グリッドマップでは静止物体領域の周辺にピークが立つ。この結果、「平均-分散」に示すように、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算することによって、平均グリッドマップ中のピークは残しつつ、その周辺領域の広がりを抑えることになり、静止物体領域のピークが際立つ。
【0090】
また、移動可能物体が存在する領域に関しては、物体が存在する場合と存在しない場合のばらつきが大きくなるので、平均グリッドマップではそれほど大きなピークが立たない。一方、分散グリッドマップでは、移動可能物体が観測され、占有グリッドマップ間でばらつきの大きい領域にピークが立つ。その結果、「平均-分散」に示すように、平均グリッドマップから分散グリッドマップを減算することによって、移動可能物体によって平均グリッドマップ中に残存する痕跡を除去し、または低減できる。
【0091】
ノイズ除去ステップS444では、ノイズ除去部254が、上記マスキング処理によって生成された静止物マップに対して第2閾値以下の占有値を「0」に切り捨てることにより、移動可能物体及びその移動の痕跡をより正確に除去する。これは、例えば、
図14(B)の「平均-分散」において移動可能物体が存在する領域に残存する占有値を、より確実に取り除き、静止物があることについて確信度が高い静止物領域のピークのみを残す処理である。したがって、ノイズ除去ステップによって、静止物マップの信頼度がさらに向上する。
【0092】
上記のように、環境地図生成方法の一形態は、周囲の所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する環境地図生成方法において、異なる時刻ごとに環境地図(占有グリッドマップ)を生成し(ステップS20)、異なる時刻の環境地図の各グリッドにおける占有値(輝度)の平均を表す平均環境地図(平均グリッドマップ)を生成し(ステップS441)、異なる時刻の環境地図の各グリッドにおける占有値(輝度)の分散を表す分散環境地図(分散グリッドマップ)を生成し(ステップS442)、平均環境地図から分散環境地図を減算することにより、周囲物体のうち静止物の位置を表す静止物環境地図(静止物マップ)を生成する(ステップS443)。
【0093】
すなわち、環境地図生成方法の一形態は、環境地図から移動可能物体を除去または低減して、ほぼ静止物の位置のみを表す静止物環境地図を生成するが、そのために、環境地図に現れた物体が静止物であるか移動可能物体であるかを認識する必要がない。このため、上記の環境地図生成方法によれば、環境中に移動可能物体の数が多い場合でも、静止物環境地図を生成するための演算負荷を抑えることができる。その結果、上記の環境地図生成方法によれば、環境中に移動可能物体が多数存在することも多い現実の環境においても容易に静止物環境地図を得ることができる。上記の環境地図の生成方法によれば、特に、走行中に車両の周囲の静止物環境地図をほぼリアルタイムに生成して利用し得る。
【0094】
また、従来のように、静止物環境地図を生成するために画像認識等によって移動可能物体を判別する場合、移動可能物体に関する事前知識を設計者が定義し、物体情報格納部に予め用意しておく必要がある。これに対し、上記の環境地図生成方法では、静止物環境地図の生成において、検出した周辺物体から移動可能物体を判別する必要がないので、こうした事前の定義や格納が不要である。この点からも、上記の環境地図生成方法によれば、従来よりも容易に静止物環境地図を得ることができる。また、従来の方法では、事前の定義に該当しない物体は移動可能物体と判別することができないが、上記の環境地図生成方法によれば、移動可能物体は自動的に、かつ、正確に取り除かれるので、従来に比べて静止物環境地図の精度が高い。
【0095】
また、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、環境地図の生成においては、周囲物体の位置を上面視の2次元平面に投影することにより、周囲物体の位置に応じた空間の占有状態を表す占有グリッドマップを生成する。すなわち、上記実施形態に係る環境地図生成方法では、占有グリッドマップの形態の環境地図を生成する。占有グリッドマップは、3次元空間のポイントクラウドで表される測定データを2次元平面に投影することによって、特徴(周囲物体の位置の情報)を残しつつ、測距データの扱いを特に容易にし、測距データを用いる演算の負荷を特に低減するものである。したがって、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、占有グリッドマップ以外の形態の環境地図を生成する場合よりも、静止物マップの生成等に係る演算の負荷を低減して、より容易に行うことができる。
【0096】
なお、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、環境地図が2次元の占有グリッドマップの形態であるが、他の任意形態の環境地図を生成し、利用できる。例えば、ポイントクラウド形式の測距データを、3次元空間のボクセル(グリッド)に投影した3次元の占有グリッドマップを生成し、利用することができる。この他、ポイントクラウド形式の測距データをそのまま環境地図として利用できる。これらの環境地図のデータ形式は、これを生成及び利用する装置またはシステムの演算能力等に応じて任意に決定することができる。また、このような環境地図の形式は任意の段階で変更可能である。例えば、測距データをそのまま蓄積して利用し、静止物マップを生成する段階で2次元の占有グリッドマップとすることができる。
【0097】
上記実施形態に係る環境地図生成方法では、環境地図(占有グリッドマップ)を特徴抽出(主成分分析)によって低次元化し、低次元化された環境地図を複数のクラスタにクラスタリングし、クラスタごとに、クラスタに属する環境地図に現れた静止物の明瞭性と相関がある評価値(平均占有値、すなわち平均輝度)を算出し、評価値を用いて環境地図を選別し、選別後の環境地図を用いて平均環境地図(平均グリッドマップ)及び分散環境地図(分散グリッドマップ)を生成する。このため、上記実施形態に係る環境地図生成方法では、静止物マップを生成するにあたって、観測のばらつき(測距データが含む測定誤差)に起因する不完全なデータを含む環境地図(占有グリッドマップ)を予め除外できる。その結果、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、生成する静止物マップの精度を向上することができる。
【0098】
上記実施形態に係る環境地図生成方法では、上記の評価値は、クラスタに属する環境地図(占有グリッドマップ)の平均輝度(平均占有値)である。すなわち、各クラスタに分類された占有グリッドマップの集合について平均画像の平均輝度を計算し、これを評価値としている。このため、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、極端な占有値を有する等、占有グリッドマップの個別の特徴に影響されずに占有グリッドマップを選別し、静止物マップの生成に利用できる。この結果、上記実施形態に係る環境地図生成方法によれば、静止物マップの精度を向上することができる。また、グリッド単位でみれば、静止物がある位置のグリッドの方が、移動可能物体が通過等した位置のグリッドよりも平均輝度が高い。したがって、占有グリッドマップの単位でみても、評価値として平均輝度を使用することで、上記のように極端な占有値を有する占有グリッドマップを避けつつも、静止物が明瞭に現れた占有グリッドマップを選別する作用がある。
【0099】
上記実施形態に係る環境地図生成方法では、静止物マップの生成に用いる環境地図の選別は、クラスタの単位で行う。これは次の理由によるものである。すなわち、上記実施形態では、あるクラスタに属する占有グリッドマップにばらつきが大きい場合には評価値である平均輝度が小さくなる。このため、クラスタの単位ではなく、例えば、各個の占有グリッドマップについて平均輝度等の評価値を算出し、これを用いて占有グリッドマップごとに静止物マップの生成に使用するか否かを決定すると、極端な占有値を有する占有グリッドマップが静止物マップの生成に使用されてしまう場合がある。これに対して、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、静止物マップの生成に用いる環境地図の選別は、クラスタの単位で環境地図の選別を行うので、極端な占有値を有する占有グリッドマップ等、実際には占有値が本来の位置または値からずれていて、静止物マップの生成に採用されるべきではない占有グリッドマップを、静止物マップの生成から除外できる。したがって、上記実施形態に係る環境地図生成方法によれば、静止物マップの精度を向上することができる。
【0100】
上記実施形態に係る環境地図生成方法では、静止物マップの生成に使用する環境地図(占有グリッドマップ)の採否について、評価値が所定の閾値(第1閾値)以上であるクラスタに属する環境地図(占有グリッドマップ)を採用し、かつ、閾値(第1閾値)は、複数のクラスタについて算出した評価値の最大値(Imax)と最小値(Imin)の平均値(Ith)である。すなわち、上記実施形態に係る環境地図生成方法では、採用条件として用いる第1閾値が、絶対的な値として定められているのではなく、ある注目領域に関する占有グリッドマップ間での評価値の分布から相対的に決定する。このため、上記実施形態に係る環境地図生成方法によれば、注目領域ごとに異なる第1閾値を設定できる。また、静止物の分布は具体的な注目領域ごとに異なる。したがって、全ての注目領域で一律に第1閾値を設定する場合と比較すると、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、注目領域の特徴に応じた適切な第1閾値を設定できる。その結果、静止物マップの生成に使用する環境地図が適切に選別されるので、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、静止物マップの精度を向上することができる。
【0101】
上記実施形態に係る環境地図生成方法では、静止物マップの生成に使用する環境地図(占有グリッドマップ)の採否について、評価値が閾値(第1閾値)以上であること(第1採用条件)に加え、各クラスタに属する環境地図(占有グリッドマップ)の数が、選別前の環境地図の総数に対して所定割合以上であることをクラスタに属する環境地図の採用条件(第2採用条件)とする。このため、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、所属する占有グリッドマップの数が極端に少なく、統計的に信頼性が低いクラスタに属する占有グリッドマップを、静止物マップの生成に使用する占有グリッドマップから除外できる。この結果、上記実施形態に係る環境地図生成方法は、統計的に信頼性が高い評価結果によって占有グリッドマップを選別できるので、静止物マップの精度を向上することができる。
【0102】
環境地図生成装置101は、周囲の所定範囲内に存在する周囲物体の位置を表す環境地図を生成する環境地図生成装置であって、環境地図生成部(占有グリッドマップ生成部17)と、平均環境地図生成部251と、分散環境地図生成部252と、マスキング処理部253と、を備える。すなわち、環境地図生成装置101は、上記実施形態に係る環境地図生成方法によって静止物環境地図を生成する装置である。したがって、環境地図生成装置101は、環境地図に現れた物体が静止物であるか移動可能物体であるかを認識する必要がなく、環境中に移動可能物体が多数存在することも多い現実の環境においても容易に静止物環境地図を得ることができる。
【0103】
なお、環境地図生成装置101は、上記実施形態のように車両として構成することができる。また、環境地図生成装置101は、車両等と通信するサーバとして構成することができる。さらに、環境地図生成装置101の一部を車両に実装し、残りの部分をその車両と通信するサーバ等に実装することができる。
【符号の説明】
【0104】
11A :オドメトリセンサ
11B :オドメトリ演算部
12 :測距センサ
13 :測距データ蓄積部
14 :自己位置推定部
14a :GPSセンサ
15 :注目領域データ
16 :注目領域選択部
17 :占有グリッドマップ生成部
18 :静止物マップデータ
19 :静止物マップ選択部
20 :移動可能物体領域抽出部
21 :移動可能物体検出部
22 :出力部
23 :占有グリッドマップデータ
24 :データ選択部
25 :静止物マップ生成部
100 :環境地図生成システム
101 :環境地図生成装置
241 :特徴抽出部
242 :クラスタリング部
243 :評価値演算部
244 :値データ除去部
251 :平均環境地図生成部
252 :分散環境地図生成部
253 :マスキング処理部
254 :ノイズ除去部