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特許7402759マグネシウム合金切粉の処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】マグネシウム合金切粉の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20231214BHJP
   C01F 5/14 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B22F1/00 R
C01F5/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020111154
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010515
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504190722
【氏名又は名称】北酸株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520235818
【氏名又は名称】ファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】若木 洋介
(72)【発明者】
【氏名】松崎 邦男
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-031039(JP,A)
【文献】特開昭51-125687(JP,A)
【文献】特公昭46-007093(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C01F 5/00,5/14
C07F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金の切粉と塩化物を溶解したメタノールとを加温しつつ接触させる第一反応工程を経るマグネシウム合金切粉の処理方法であって、
前記第一反応工程は、前記マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を併せて行うことを特徴とするマグネシウム合金切粉の処理方法。
【請求項2】
マグネシウム合金の切粉と塩化物を溶解したメタノールとを加温しつつ接触させる第一反応工程を経るマグネシウム合金切粉の処理方法であって、
前記第一反応工程の前工程として、塩化物を添加した前記マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を経ることを特徴とするマグネシウム合金切粉の処理方法。
【請求項3】
前記第一反応工程を経た混合物からメタノールを除去する加熱工程と、
前記加熱工程を経て生成したマグネシウムメトキシドと水を接触させる第二反応工程と、
加水工程を経た混合物から水を除去し水酸化マグネシウムを残す被処理物回収工程を経ることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のマグネシウム合金切粉の処理方法。
【請求項4】
前記第一反応工程で用いるメタノールに溶解する塩化物の量は0.6重量%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のマグネシウム合金切粉の処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載のマグネシウム合金の処理方法を行う処理装置であって、
前記第一反応工程を行う反応容器に、当該反応容器及び内容物に熱を供給する加温・加熱手段と、当該反応容器の内部でマグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕手段を備えることを特徴とするマグネシウム合金切粉の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金に対する切削加工で生じる切粉を環境負荷が低くなる様に処理する方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、構造用金属材料として最も軽量であり、且つ強度が高いため、鋳造、プレス加工、鍛造加工、切削加工等により高強度な構造物の軽量化等に広く利用されている。
構造用金属材料の加工品は、一般的に二次加工として切削加工が行われるが、そのような切削加工で生じるマグネシウム合金の切粉は微細で活性を有しリサイクルが極めて困難であるためその大半が廃棄されている。
また、マグネシウム合金の切粉は、何ら対策を採ることなく微細化すれば爆発する可能性があるなど危険物としても位置付けられるため、安全な性状となるように適切に処理する方法の開発が望まれている。
【0003】
従来技術として、例えば、下記特許文献1に見られるように、マグネシウムと水又は塩水との加水分解反応を利用して環境負荷の低い水酸化マグネシウムと水素を製造することができることが知られている(下記式(1)参照)。
また、マグネシウムは、メタノールとの反応性が高いためドライ加工や油性切削液を用いた場合には水素が製造でき(下記式(2)参照)、更に反応副生物は、水と反応させれば水酸化マグネシウムに変換できる(下記式(3)参照)。
【0004】
【数1】
【0005】
【数2】
【0006】
【数3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-184649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記式(1)の手法にあっては、表面に水酸化マグネシウムが生成されることにより加水分解反応が抑制されるため、その反応を進行させるために酸性溶液や塩素イオンを含んだ中性溶液が必要となる。
一方、前記式(2)の手法にあっては、水溶性切削液を用いて発生した切粉ではその表面に水酸化マグネシウムが生成される他、アルミニウムを多く含んだ合金切粉ではその良好な耐食性によりメタノールとの反応性が低下するため、反応完了に長時間を要するという問題がある。
また、水溶性切削液の使用により切粉の表面に水酸化マグネシウムが形成されていたのでは、メタノールとの反応が起こり難いため、切粉の表面から水酸化マグネシウムを充分に除去しなければならないという問題がある。
更に、切粉に水分を含んでいたのでは(メタノールに数重量パーセント含むだけでも)メタノールとの反応が起こり難いため、切粉から水分を充分に除去しなければならないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、切粉表面の水酸化マグネシウム又は水分の存在や反応の進行に伴う反応速度の低下を抑制しつつ、マグネシウム合金切粉を環境負荷が低くなる様に安全に処理できるマグネシウム合金切粉の処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法は、マグネシウム合金の切粉と塩化物を溶解したメタノールとを加温しつつ接触させる第一反応工程を経ることを特徴とする。
前記第一反応工程は、前記マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を併せて行う手法を採ってもよく、前記第一反応工程の前工程として塩化物を添加した前記マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を経る手法を採ってもよい。
【0011】
前記第一反応工程を経た混合物からメタノールを除去する加熱工程と、前記加熱工程を経て生成したマグネシウムメトキシド(Mg(OCH)と水を接触させる第二反応工程と、前記加水工程を経た混合物から水を除去し水酸化マグネシウムを残す被処理物回収工程を経ることができる。
【0012】
メタノールの塩化物の溶解度が、25℃の下、メタノール100gに対して0.766gであることに鑑み、前記第一反応工程で用いるメタノールに溶解する塩化物の量は0.6重量%(100gに対し0.6g以上を溶解したものである)以上であることが望ましい。
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明によるマグネシウム合金切粉の処理装置は、前記第一反応工程において、マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を併せて行う手法を採るマグネシウム合金の処理方法を行う処理装置であって、前記第一反応工程を行う反応容器に、当該反応容器及び内容物に熱を供給する加温・加熱手段と、当該反応容器の内部でマグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法によれば、反応の進行に伴う反応速度の低下を抑制し、環境負荷が抑制された性状にマグネシウム合金切粉を処理することができる。
即ち、メタノールに塩化物を溶解することで、切粉の表面に水酸化マグネシウムが形成され、又は微量の水分を含まれていたとしても、当該塩化物が水酸化マグネシウム膜を溶解し、その結果マグネシウム合金切粉との反応が促進し、マグネシウム合金切粉を環境負荷の少ない水酸化マグネシウムに高効率に変換することができる。
【0015】
マグネシウム合金切粉を微細化する粉砕工程と前記第一反応工程を同時に行う手法を採用すれば、マグネシウム合金の微細化の進行と、メタノール溶液の攪拌により、反応改善効果を得ることができる。
一方、塩化物を添加した前記マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を前記第一反応工程の前工程として行うことによって、粉砕工程を終えたマグネシウム合金の微細切粉を反応容器へ運搬し投入する過程での安全が確保される他、塩化物の個体がマグネシウム合金の粉砕を助長させ、より微細な粉末形成に寄与する。
【0016】
また、第一反応及び第二反応を適正な温度に加温・加熱すること、又は前記第一反応工程と、マグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕工程を同時に行う手法を採ることによってよりその効率を高めることができる。
そして、回収された水素及びメタノールは再利用に適宜供され、最終的に残った水酸化マグネシウムは、中和剤として廃棄物処理場等で活用されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法及び処理装置の一例を示す工程図である。
図2】本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法の一例を示す工程図である。
図3】本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法で生じる効果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明によるマグネシウム合金切粉の処理方法の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1に示す例は、マグネシウム合金の切粉と塩化ナトリウムを溶解したメタノールとを加温しつつ接触させ、同時にマグネシウム合金の切粉の表面形成された水酸化マグネシウム膜を破壊し当該切粉を更に微細化する粉砕工程を行う第一反応工程と、前記混合工程を経た混合物からメタノールを除去する加熱工程と、前記加熱工程を経て残ったマグネシウム合金と水を接触させる第二反応工程と、前記加水工程を経た混合物から水を除去し水酸化マグネシウムを残す被処理物回収工程を経るマグネシウム合金切粉の処理方法である。
尚、前記塩化ナトリウムに代えて、塩化カリウムや塩化マグネシウム等の塩化物をメタノールに溶かして用いることができる。
【0019】
この例における前記第一反応工程は、反応容器1と、当該反応容器1及び内容物に熱を供給する加温・加熱手段と、前記反応容器1にメタノールを供給し回収する循環回路と、前記反応容器1の内部でマグネシウム合金の切粉を微細化する粉砕手段を具備する処理装置を用いて行われる(図1参照)。
【0020】
前記反応容器1は、直径400mm、高さ400mmの有底円筒状の容器である。
前記加温・加熱手段は、反応容器1を取り囲む様に配置されたヒーター等を採用する。
前記循環回路は、蒸留されたメタノールを貯留するタンクを備えた回収回路と、当該タンクに貯留されたメタノールを反応容器1に流入させる供給回路を備える。
前記粉砕手段は、前記反応容器1の内側で旋回する攪拌アーム2と、金属(鉄やステンレス等)製の球体(粉砕用ボール)とで構成される。
【0021】
前記第一反応工程は、前記反応容器1にマグネシウム合金約25L(1kg)と、120gの塩化ナトリウムと、粉砕用ボールを投入し、それらが50℃となるように加温し、下記式(4)の反応をもって水素及びマグネシウムメタキシドを生成すると共に、メタノール及び塩化ナトリウムを残留させる。(図1参照)。
一方、上記の如く前記反応容器1において粉砕工程と前記第一反応工程を同時に行う手法を採用すれば、前記第一反応工程が塩化ナトリウムを添加しての粉砕工程となる。
即ち、マグネシウム合金の微細化が進行して反応が促進し、更に、メタノール溶液の攪拌による反応改善効果も期待することができる。
【0022】
【数4】
【0023】
前記粉砕工程は、冷却手段付きのボールミル等を用いて前記第一反応工程の前工程として行うことも可能であるが、粉砕工程を終えたマグネシウム合金の微細切粉を反応容器1へ運搬し投入する過程で燃焼発生の危険性が生じるため安全確保のための措置が別途必要となる。
即ち、マグネシウム合金と塩化ナトリウムは固体同士の接触であるため水が存在しない限り反応は生じず、塩化ナトリウムがマグネシウム合金の粉砕を助長させ、より微細な粉末形成に寄与する。
同時に、塩化ナトリウムがマグネシウム合金の表面にコーティングされれば燃焼の可能性を抑制する効果を奏する。
【0024】
前記加熱工程は、同じ反応容器1を用いて行われ、その加温・加熱手段により70℃~80℃に加熱し蒸留をもって残留メタノールを回収する(図1及び図2参照)。
尚、回収されたメタノールは、前記循環回路を経て次の第一反応工程に再利用される。
【0025】
前記第二反応工程は、下記式(5)の如く、前記第一反応工程で得られたマグネシウムメタキシドに対して水を加え、加水分解反応によりメトキシ基の酸化を伴う発熱反応を促し水酸化マグネシウムを得るものである。
【0026】
【数5】
【0027】
前記被処理物回収工程は、前記反応容器1からの水の排出及び乾燥処理により乾燥した水酸化マグネシウムを回収する。
上記処理をもって得られた水酸化マグネシウムは、脱硫にもちいることができる。当該脱硫に用いられた水酸化マグネシウムは、海の成分と同じ硫酸マグネシウムとなるため海洋投棄することも可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 反応容器,
2 攪拌アーム,
図1
図2
図3