(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】光ファイバーケーブル設置構造
(51)【国際特許分類】
G02B 6/46 20060101AFI20231214BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20231214BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G02B6/46 321
E02D5/04
G02B6/00 B
(21)【出願番号】P 2020121914
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】新井 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周斗
(72)【発明者】
【氏名】松田 有加
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】泉 宙希
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-228378(JP,A)
【文献】実開昭52-008930(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第107217676(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00
G02B 6/02
G02B 6/245-6/25
G02B 6/46-6/54
E02D 5/00-5/20
E03F 1/00-11/00
E04G 9/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁の一部を構成する鋼矢板に関する所定の計測値を得るための光ファイバーケーブルを前記
鋼矢板の表面の設置面上に設置する光ファイバーケーブル設置構造であって、
前記光ファイバーケーブルを前記設置面との間に挟むように配置された保護用クロスと、
前記光ファイバーケーブルと前記保護用クロスとを埋込むように前記設置面上に形成された樹脂層と、を備え
、
前記設置面は、前記鋼矢板の表面のうち地盤掘削により前記土留壁上に露出される側の面とは反対側の面上に位置する、光ファイバーケーブル設置構造。
【請求項2】
前記光ファイバーケーブルは、前記鋼矢板の長手方向に延在し前記鋼矢板のウエブの幅方向の中央部に配置されている、請求項1に記載の光ファイバーケーブル設置構造。
【請求項3】
前記光ファイバーケーブルは前記設置面上において前記鋼矢板の地盤への打込み方向に延在しており、
前記光ファイバーケーブルから見て前記打込み方向の前方の位置に配置され、前記打込み方向の前方に向かって厚みが小さくなるテーパー部を含む鋼製部材を更に備える、請求項1
又は2に記載の光ファイバーケーブル設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーケーブル設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物に光ファイバーケーブルを設置し、光ファイバーで生じる後方散乱光を検出することで、対象物の歪み分布や温度分布を計測することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の光ファイバーケーブルに含まれる光ファイバー本体は非常に細く、比較的断線が発生し易いものである。対象物への設置後に光ファイバーケーブルが損傷し断線すると、所望の計測が不可能になり、また、光ファイバーケーブルの修復や再設置等も困難である場合が多い。このような課題に鑑み、本発明は、光ファイバーケーブルの損傷の可能性を低減する光ファイバーケーブル設置構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光ファイバーケーブル設置構造は、計測対象物に関する所定の計測値を得るための光ファイバーケーブルを計測対象物の表面上の所定の設置面に沿って設置する光ファイバーケーブル設置構造であって、光ファイバーケーブルを設置面との間に挟むように配置された保護用クロスと、光ファイバーケーブルと保護用クロスとを埋込むように設置面上に形成された樹脂層と、を備える。
【0006】
本発明の光ファイバーケーブル設置構造は、計測対象物に関する所定の計測値を得るための光ファイバーケーブルを計測対象物の表面上の所定の設置面に沿って設置する光ファイバーケーブル設置構造であって、光ファイバーケーブルが収納される間隙が設置面との間の一部分に形成されるように設置面に接着されたケーブル保護部材と、光ファイバーケーブルを設置面との間に挟むように配置されるとともに、ケーブル保護部材を設置面に接着するための接着層と、を備える。
【0007】
本発明の光ファイバーケーブル設置構造は、計測対象物に関する所定の計測値を得るための光ファイバーケーブルを計測対象物の表面上の所定の設置面に沿って設置する光ファイバーケーブル設置構造であって、設置面上に設けられるとともに光ファイバーケーブルが収納される収納スペースを有するケーブル収納部材と、収納スペース内に充填され光ファイバーケーブルを埋込む樹脂層と、を備える。
【0008】
本発明の光ファイバーケーブル設置構造は、計測対象物に関する所定の計測値を得るための光ファイバーケーブルを計測対象物の表面上の所定の設置面に沿って設置する光ファイバーケーブル設置構造であって、設置面上に設けられ光ファイバーケーブルが挿入されるケーブル挿入溝と、ケーブル挿入溝内に充填され光ファイバーケーブルを埋込む樹脂層と、を備える。
【0009】
本発明の光ファイバーケーブル設置構造では、設置面上に盛り上がるように形成された2本の溶接ビードによって、溶接ビード同士の間にケーブル挿入溝が形成されていることとしてもよい。また、本発明の光ファイバーケーブル設置構造では、設置面上にケーブル挿入溝が加工されて、形成されていることとしてもよい。
【0010】
計測対象物は鋼矢板であり、光ファイバーケーブルは設置面上において鋼矢板の地盤への打込み方向に延在しており、光ファイバーケーブルから見て打込み方向の前方の位置に配置され、打込み方向の前方に向かって厚みが小さくなるテーパー部を含む鋼製部材を更に備える、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光ファイバーケーブルの損傷の可能性を低減する光ファイバーケーブル設置構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)~(b)は、光ファイバーケーブルが設置される鋼矢板の各例を示す断面図である。
【
図2】(a)~(d)は、第1実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図である。
【
図3】(a)~(c)は、第2実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図であり、(d)は、その設置構造の変形例を示す図である。
【
図4】(a)~(c)は、第3実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図であり、(d)は、その設置構造の変形例を示す図である。
【
図5】(a)~(c)は、第4実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図である。
【
図6】(a)~(c)は、第5実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図である。
【
図7】(a),(b)は、第5実施形態の変形例に係る光ファイバーケーブル設置方法を示す図である。
【
図8】(a)~(c)は、第6実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図である。
【
図9】(a),(b)は、第7実施形態の光ファイバーケーブル設置方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る光ファイバーケーブル設置構造の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の設置構造は、土留め工法に使用される鋼矢板1の歪み分布や温度分布等を計測するために、鋼矢板1の表面に沿って光ファイバーケーブル3を設置するためのものである。以下において、光ファイバーケーブル3によって鋼矢板1の歪み分布が計測される場合を例として説明する。この種の鋼矢板1は、所定の打込み施工機械によって長手方向に地盤に打込まれる。複数の鋼矢板1が互いに継手部で連結される配置で連続的に打込まれることで、地盤中に壁が形成され、この壁の一面側が掘削されることで、複数の鋼矢板1が連結されてなる土留壁が形成される。
【0014】
図1(a)に断面図が示されるように、例えばU型の鋼矢板1のウエブ中央の位置に、鋼矢板1の表面に当該鋼矢板1の長手方向(打込み方向)のほぼ全長に亘って延びるように光ファイバーケーブル3が設置される。詳細な図示は省略するが、光ファイバーケーブル3は、断面内中央に位置する光ファイバーと、当該光ファイバーの周囲を被覆するための樹脂製の被覆層と、で構成され、例えばφ0.9mm程度のサイズのものである。
【0015】
鋼矢板1の表面に設置された光ファイバーケーブル3の一端が所定の計測装置に接続され、光ファイバーケーブル3の光ファイバーで生じる後方散乱光が計測装置で分析されて、鋼矢板1のうち光ファイバーケーブル3の設置位置の長手方向の歪み分布が計測される。なお、ここでは、光ファイバーケーブルを計測対象物に設置して歪み分布を計測するための公知の手法を用いればよく、計測手法についての更なる詳細な説明を省略する。
【0016】
鋼矢板1に対する光ファイバーケーブル3の設置位置は、鋼矢板1を地盤に打込むための施工機械(図示せず)と光ファイバーケーブル3とが干渉しないように選択される。
図1(a)の例では、鋼矢板1の1枚当たり、ウエブ中央部とフランジ先端部との2箇所に光ファイバーケーブル3が設置される。そして2つの光ファイバーケーブル3によって、鋼矢板1が曲げ変形するときの引張側と圧縮側との歪みが計測され、この歪みデータが積分されて鋼矢板1全体の変形が推定可能である。
【0017】
U型の鋼矢板1の内側面と外側面とのうちの一方は、地盤掘削で露出される側の面(掘削面)である。この掘削作業の際に光ファイバーケーブル3を損傷させないために、光ファイバーケーブル3は、鋼矢板1の掘削面とは反対側の面上に設置されることが好ましい。なお、光ファイバーケーブル3を鋼矢板1の掘削面又は反対側の面のいずれに設置しても歪み計測は可能であるので、損傷に対する予備として、掘削面及び反対側の面の両方に表裏の位置で光ファイバーケーブル3を設置してもよい。また、
図1(b)に示されるように、隣接する鋼矢板1同士が継手部で溶接される場合には、複数の鋼矢板1が連結されてなる一体の土留壁が曲げ変形するときの引張側の位置及び圧縮側の位置として、各鋼矢板1のウエブ中央部に光ファイバーケーブル3が設置されてもよい。また、
図1(c)に示されるように、鋼矢板1がハット型の鋼矢板であってもよく、この場合にも、当該鋼矢板1の引張側と圧縮側とにそれぞれ光ファイバーケーブル3が設置されればよい。
【0018】
続いて、上述のように鋼矢板1の表面に光ファイバーケーブル3を設置するための具体的な設置方法及び設置構造の各実施形態について説明する。各実施形態の各図面は、説明に係る特徴部分を誇張して描写するものであり、図面上の各要素の寸法比は他の図面や実物とは一致しない。各実施形態において、光ファイバーケーブル3は、地盤に打込まれる前の鋼矢板1に対して加工が施され設置される。以下では、鋼矢板1の表面のうち光ファイバーケーブル3が設置される面を「設置面」と呼び、符号「11」を付して示す。
【0019】
〔第1実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第1実施形態について説明する。
図2(a)~(d)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図であり、
図2(a)は鋼矢板1の斜視図であり、
図2(b)~(d)は、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。本実施形態の設置方法では、
図2(a)に示されるように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って設置面11上に光ファイバーケーブル3を這わせ、1~2m程度の間隔をあけた複数の仮止めスポットにおいて、接着剤で光ファイバーケーブル3を設置面11上に仮止する(仮止工程)。
【0020】
この仮止工程では、光ファイバーケーブル3に張力を掛けた状態で当該光ファイバーケーブル3の仮止を行ってもよい。光ファイバーケーブル3に均一な張力を掛けるために、例えば、光ファイバーケーブル3の一端に滑車等を介して錘を取り付ける等、適切な張力付与機構によって光ファイバーケーブル3に張力を付与すればよい(張力付与工程)。このように、均一な張力を掛けた状態で光ファイバーケーブル3を設置面11上に留め付けることにより、光ファイバーケーブル3が圧縮や局所的な歪みを含んでいたとしても、これらを除去して留め付けることができ、最終的に正確な歪み計測等が可能になる。
【0021】
次に、
図2(b)に示されるように、仮止された光ファイバーケーブル3を上から覆うように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って連続的に、設置面11上に樹脂系の接着剤を塗布する。この接着剤が硬化することにより、光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層13が形成され、仮止した光ファイバーケーブル3は樹脂層13と一緒に鋼矢板1と一体化する(ケーブル接着工程)。
【0022】
ここで採用される接着剤としては、少なくとも鋼矢板1の降伏歪み以下の歪み領域において、樹脂層13が鋼矢板1の変形に追従して変形可能であるようなものが選択される。鋼矢板1の降伏歪みは1000~2000μ程度である。また、接着剤の選択においては、施工性(設置面11への塗布の容易性)や、環境温度での硬化性など周囲環境も、考慮される。
【0023】
なお、前述の仮止工程で使用される接着剤は、主に接着力を発現する速さ等が主に求められるものであり、前述のように1~2mm程度の間隔の仮止スポットで光ファイバーケーブル3を留め付けるものであるので、仮止工程で使用される接着剤とケーブル接着工程で使用される接着剤とは異なるものであってよい。
【0024】
次に、光ファイバーケーブル3を十分に覆う幅の帯状のガラスクロス15を準備する。そして、
図2(c)に示されるように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、光ファイバーケーブル3を上から覆うように、上記樹脂層13上にガラスクロス15を敷設する。次に、
図2(d)に示されるように、敷設したガラスクロス15に含浸させるように樹脂系の接着剤を塗り込む。この接着剤が硬化することにより、ガラスクロス15及びガラスクロス15を埋込む樹脂層17が形成される。なお、ここでガラスクロス15に塗り込まれる接着剤は、ケーブル接着工程で使用される接着剤と同じものであってもよい。
【0025】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造91は、
図2(d)に示されるように、光ファイバーケーブル3を設置面11との間に挟むように配置されたガラスクロス15(保護用クロス)と、光ファイバーケーブル3とガラスクロス15とを埋込むように設置面11上に形成された樹脂層19と、を備える。樹脂層19とは、樹脂層13と樹脂層17とが一体化されてなる層である。この設置構造91によれば、ガラスクロス15及び樹脂層19により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0026】
なお、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法は、硬化前の接着剤が垂れ落ちないように、設置面11を上方に向けた状態で実行されることが好ましい。
図2(a)に示されるように、本実施形態における設置面11は、鋼矢板1の内側でウエブ中央部に位置するので、
図2(a)の鋼矢板1の姿勢で実行されるが、例えば、鋼矢板1の外側の面やフランジ先端部に設置面11が位置する場合にも、鋼矢板1の姿勢を適宜変更して設置面11を上方に向けた状態とすればよい。
【0027】
〔第2実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第2実施形態について説明する。
図3(a)~(c)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示し、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。本実施形態の設置方法では、
図3(a)に示されるように、第1実施形態の仮止工程と同様にして、鋼矢板1の設置面11上に光ファイバーケーブル3を仮止する。この仮止工程は、前述の張力付与工程を実行しながら行われてもよい。次に、光ファイバーケーブル3の上から設置面11に接着剤21を薄く塗布する。この接着剤21が光ファイバーケーブル3と設置面11との間に入り込み、光ファイバーケーブル3と設置面11とが鋼矢板1のほぼ全長に亘って接着され、光ファイバーケーブル3と鋼矢板1とが一体化する。なお、接着剤21の塗布は省略されてもよい。
【0028】
次に、
図3(b)に示されるように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、仮止した光ファイバーケーブル3を覆うように両面テープ23の下面を設置面11に貼り付ける。このとき、両面テープ23をしっかり押さえて可能な限り光ファイバーケーブル3との空隙をなくすようにする。この両面テープ23を介して、光ファイバーケーブル3と鋼矢板1とが鋼矢板1のほぼ全長に亘って一体化する。両面テープ23としては、光ファイバーケーブル3と鋼矢板1と可能な限り隙間なく一体化させるように、適度な硬さと厚さを持つものを採用することが好ましい。なお、両面テープ23と設置面11との接着性を向上させるために、両面テープ23を設置する前に、設置面11の清掃やケレンを行うことが好ましい。
【0029】
次に、
図3(b)に示されるように、両面テープ23の上面に対してケーブル保護部材25の下面を貼り付ける。ケーブル保護部材25は、例えばアルミニウムからなり鋼矢板1のほぼ全長に亘る長さの長板状をなしている。ケーブル保護部材25の下面には部材長手方向の全長に亘って延びるV溝25aが形成されている。ここでは、V溝25aの位置を光ファイバーケーブル3の位置に合わせて、ケーブル保護部材25の下面を両面テープ23の上面に貼り付ける。これにより、
図3(c)に示されるように、光ファイバーケーブル3と当該光ファイバーケーブル3上で盛り上がった両面テープ23の一部位とが、V溝25aで形成される隙間に収まった状態となる。なお、ケーブル保護部材25がアルミニウム製であれば、軽量であるので作業性が良い。
【0030】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造92は、
図3(c)に示されるように、光ファイバーケーブル3が収納される間隙(V溝25a)が設置面11との間の一部分に形成されるように設置面11に接着されたケーブル保護部材25と、光ファイバーケーブル3を設置面11との間に挟むように配置されるとともに、ケーブル保護部材25を設置面11に接着するための両面テープ23(接着層)と、を備えている。この設置構造92によれば、ケーブル保護部材25により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0031】
なお、ここでは円形断面の光ファイバーケーブル3を用いているが、これに代えて、
図3(d)に示されるように、更に平たい断面形状の光ファイバーケーブル3を採用することもできる。この場合、両面テープ23と光ファイバーケーブル3との接着面が拡がり、両面テープ23を介して連結された光ファイバーケーブル3と鋼矢板1との一体性が向上する。
【0032】
〔第3実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第3実施形態について説明する。
図4(a)~(c)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図であり、
図4(a)は鋼矢板1の斜視図であり、
図4(b),(c)は、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。
【0033】
本実施形態の設置方法では、
図4(a)に示されるように、鋼矢板1のウエブ先端部の傾斜した表面に設置面11が存在する。まず、鋼矢板1のほぼ全長に亘って延在する断面L字のL字部材31を設置面11に取り付ける。L字部材31は設置面11に対して溶接されてもよく、接着されてもよく、両面テープ等を用いて貼り付けられてもよい。これにより、設置面11とL字部材31との間には、上方に開放された凹溝状のスペース33が形成される。
【0034】
次に、
図4(b)に示されるように、上記スペース33の全長に亘って、スペース33内に光ファイバーケーブル3を挿入し、1~2m程度の間隔をあけた複数の仮止めスポットにおいて、接着剤で光ファイバーケーブル3を設置面11又はL字部材31の表面に対してスペース33内で仮止する。この仮止は、前述の張力付与工程を実行しながら行われてもよい。次に、
図4(c)に示されるように、スペース33内に樹脂系の接着剤を流し込んで硬化させる。これにより、光ファイバーケーブル3を埋込んだ樹脂層35がスペース33内に形成される。光ファイバーケーブル3は、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、樹脂層35を介して鋼矢板1と一体化する。ここで採用される接着剤としては、少なくとも鋼矢板1の降伏歪み以下の歪み領域において、樹脂層35が鋼矢板1の変形に追従して変形可能であるようなものが選択される。
【0035】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造93は、
図4(c)に示されるように、設置面11上に設けられるとともに光ファイバーケーブル3が収納されるスペース33(収納スペース)を有するL字部材31(ケーブル収納部材)と、スペース33に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層35と、を備える。また、光ファイバーケーブル設置構造93は、設置面11上に設けられ光ファイバーケーブル3が挿入されるスペース33(ケーブル挿入溝)と、スペース33内に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層35と、を備える。
【0036】
この設置構造93によれば、L字部材31及び樹脂層35により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0037】
また、この設置方法では、L字部材31によって光ファイバーケーブル3を収納する上方に開放されたスペース33が形成されるので、光ファイバーケーブル3を埋込むための接着剤が設置面11から垂れ落ち難い。よって、設置面11が水平でない場合には特に好適にこの設置方法を適用することができる。なお、
図4(d)に示されるように、L字部材31に代えて、断面U字の部材32を採用してもよい。
【0038】
〔第4実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第4実施形態について説明する。
図5(a)~(c)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示し、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。本実施形態の設置方法では、
図5(a)に示されるように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って延在する筒状(図の例では四角筒状)の部材41を設置面11に取り付ける。筒状部材41は設置面11に対して溶接されてもよく、接着されてもよく、両面テープ等を用いて貼り付けられてもよい。ここでは、筒状部材41は、長手方向の全長に亘って連続的に設置面11に接合されてもよい。或いは、筒状部材41は、長手方向における断続的な接合箇所において設置面11に接合されてもよく、この場合には、接合箇所同士の間隔が、光ファイバーケーブル3を用いた歪み分布計測の空間分解能よりも狭くなるようにする。なお、上記空間分解能は、例えば5~10cm程度である。
【0039】
次に、
図5(b)に示されるように、筒状部材41の中空部43内に、筒状部材41の全長に亘って、光ファイバーケーブル3を挿入する。そして、
図5(c)に示されるように、中空部43内に樹脂系の接着剤を流し込んで硬化させる。これにより、光ファイバーケーブル3を埋込んだ樹脂層45が中空部43内に形成される。光ファイバーケーブル3は、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、樹脂層45及び筒状部材41を介して鋼矢板1と一体化する。上記接着剤は、筒状部材41の端面開口から注入されてもよい。或いは、筒状部材41の側壁に適切な間隔で注入孔を形成し、当該注入孔を通じて中空部43に接着剤を注入してもよい。ここで採用される接着剤としては、少なくとも鋼矢板1の降伏歪み以下の歪み領域において、樹脂層45が鋼矢板1の変形に追従して変形可能であるようなものが選択される。
【0040】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造94は、
図5(c)に示されるように、設置面11上に設けられるとともに光ファイバーケーブル3が収納される中空部43(収納スペース)を有する筒状部材41と、中空部43に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層45と、を備える。この設置構造94によれば、筒状部材41及び樹脂層45により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0041】
また、この設置方法では、光ファイバーケーブル3を埋込むための接着剤が設置面11から垂れ落ち難いので、設置面11が水平でない場合にもこの設置方法を適用することができる。なお、この設置方法では、筒状部材41を設置面11に取り付ける前に、筒状部材41の中空部43に光ファイバーケーブル3を挿入し樹脂層45を形成させてもよい。その後、光ファイバーケーブル3と樹脂層45とが内蔵された筒状部材41を設置面11に取り付ければよい。
【0042】
〔第5実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第5実施形態について説明する。
図6(a)~(c)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示す図であり、
図6(a)は鋼矢板1の斜視図であり、
図6(b),(c)は、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。本実施形態の設置方法では、
図6(a)に示されるように、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、設置面11上に盛り上がるように2本の溶接ビード51を平行に形成する。2本の溶接ビード51同士の間隔は、光ファイバーケーブル3の直径よりもやや大きい程度が好ましい。また、溶接ビード51の盛り上がり高さは、光ファイバーケーブル3の直径よりもやや大きい程度が好ましい。溶接ビード51同士の間には、鋼矢板1のほぼ全長に亘って鋼矢板1の長手方向に延びる溝53が形成される。ここでは、溶接ビードを形成するための公知の溶接方法を用いればよく、溶接方法についての更なる詳細な説明を省略する。
【0043】
次に、
図6(b)に示されるように、溝53の全長に亘って溝53内に光ファイバーケーブル3を挿入し、第1実施形態の仮止工程と同様にして、鋼矢板1の設置面11上に光ファイバーケーブル3を仮止する。この仮止は、前述の張力付与工程を実行しながら行われてもよい。次に、
図6(c)に示されるように、光ファイバーケーブル3を埋めるように溝53内に樹脂系の接着剤を流し込んで硬化させる。これにより、光ファイバーケーブル3を埋込んだ樹脂層55が溝53内に形成される。光ファイバーケーブル3は、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、樹脂層55を介して鋼矢板1と一体化する。ここで採用される接着剤としては、少なくとも鋼矢板1の降伏歪み以下の歪み領域において、樹脂層55が鋼矢板1の変形に追従して変形可能であるようなものが選択される。
【0044】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造95は、
図6(c)に示されるように、設置面11上に設けられ光ファイバーケーブル3が挿入される溝53(ケーブル挿入溝)と、溝53内に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層55と、を備える。この設置構造95によれば、2本の溶接ビード51及び樹脂層55により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0045】
なお、溶接ビード51同士の間に溝53を設けることに代えて、
図7(a)に示されるように、設置面11において光ファイバーケーブル3を挿入するための溝57が鋼矢板1の表面に直接加工されて形成されていてもよい。例えば、溝57は、鋼矢板1の表面を切削加工して形成されてもよく、鋼矢板1の圧延時に形成されてもよい。そして上記と同様にして当該溝57に光ファイバーケーブル3を挿入し、
図7(b)に示されるように、光ファイバーケーブル3を埋めるように溝57内に樹脂系の接着剤を流し込んで硬化させればよい。
【0046】
この方法で完成する光ファイバーケーブル設置構造95’は、設置面11において鋼矢板1の表面に溝57が直接形成されており、このような設置面11上に設けられ光ファイバーケーブル3が挿入される溝57(ケーブル挿入溝)と、溝57内に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層55と、を備える。
【0047】
〔第6実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第6実施形態について説明する。
図8(a)~(c)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法における各段階を示し、鋼矢板1上の光ファイバーケーブル3近傍を拡大して示す断面図である。本実施形態の設置方法では、
図8(a)に示されるように、鋼矢板1の設置面11上に、溝付き部材61を取り付ける。溝付き部材61は設置面11に対して溶接されてもよく、接着されてもよく、両面テープ等を用いて貼り付けられてもよい。溝付き部材61は、例えばアルミニウムからなり鋼矢板1のほぼ全長に亘る長さの長板状をなしている。溝付き部材61の上面には部材長手方向の全長に亘って延びるV溝63が形成されている。なお、溝付き部材61と設置面11との接合性を向上させるために、溝付き部材61を設置する前に、設置面11の清掃やケレンを行うことが好ましい。なお、溝付き部材61がアルミニウム製であれば、軽量であるので作業性が良い。
【0048】
次に、
図8(b)に示されるように、溝付き部材61の全長に亘ってV溝63内に光ファイバーケーブル3を挿入し、第1実施形態の仮止工程と同様にして、V溝63内に光ファイバーケーブル3を仮止する。この仮止は、前述の張力付与工程を実行しながら行われてもよい。次に、
図8(c)に示されるように、光ファイバーケーブル3を埋めるようにV溝63内に樹脂系の接着剤を流し込んで硬化させる。これにより、光ファイバーケーブル3を埋込んだ樹脂層65がV溝63内に形成される。光ファイバーケーブル3は、鋼矢板1のほぼ全長に亘って、樹脂層65及び溝付き部材61を介して鋼矢板1と一体化する。ここで採用される接着剤としては、少なくとも鋼矢板1の降伏歪み以下の歪み領域において、樹脂層65が鋼矢板1の変形に追従して変形可能であるようなものが選択される。
【0049】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造96は、
図8(c)に示されるように、設置面11上に設けられ光ファイバーケーブル3が挿入されるV溝63(ケーブル挿入溝)と、V溝63内に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層65と、を備える。また、光ファイバーケーブル設置構造96は、設置面11上に設けられるとともに光ファイバーケーブル3が収納されるV溝63(収納スペース)を有する溝付き部材61(ケーブル収納部材)と、V溝63内に充填され光ファイバーケーブル3を埋込む樹脂層65と、を備える。
【0050】
この設置構造96によれば、溝付き部材61及び樹脂層65により、外部から作用する機械的な力から光ファイバーケーブル3が保護され、光ファイバーケーブル3の損傷の可能性が低減される。その結果、例えば、鋼矢板1の地盤への打込み時においても、光ファイバーケーブル3が損傷しにくく、その結果、地盤中に設置された鋼矢板1において、光ファイバーケーブル3の歪み分布測定機能が失われる可能性が低減される。
【0051】
なお、この設置方法では、溝付き部材61を設置面11に取り付ける前に、溝付き部材61のV溝63内に光ファイバーケーブル3を挿入し樹脂層65を形成させてもよい。その後、光ファイバーケーブル3と樹脂層65とが形成された溝付き部材61を設置面11に取り付ければよい。
【0052】
〔第7実施形態〕
光ファイバーケーブル設置方法及び設置構造の第7実施形態について説明する。
図9(a)は、本実施形態の光ファイバーケーブル設置方法を示す鋼矢板1の斜視図であり、
図9(b)はその断面図である。
【0053】
本実施形態の設置方法は、前述したような第1~第6実施形態の設置方法に加えて更に、
図9(a)に示されるような鋼製部材71を設置面11上に取り付けるものである。具体的には、本実施形態の設置方法では、まず、前述した設置方法によって、設置面11上に光ファイバーケーブル設置構造91~96の何れかが構築される。以下では、設置面11上に光ファイバーケーブル設置構造91が構築されるものとして説明する。
【0054】
次に、
図9(a),(b)に示されるように、光ファイバーケーブル設置構造91から見て鋼矢板1の打込み方向の前方の位置で、設置面11上に鋼製部材71が取り付けられる。鋼製部材71は、設置面11に対して溶接されてもよく、接着されてもよく、両面テープ等を用いて貼り付けられてもよい。鋼矢板1の打込み方向(鋼矢板1の長手方向)の前方から見て、鋼製部材71は、光ファイバーケーブル設置構造91全体を後方に隠すようなサイズ及び形状をなしている。また、鋼製部材71の先端には、打込み方向の前方に向かって厚みが小さくなるテーパー部73が形成されている。すなわち、テーパー部73は、側方から見て、打込み方向の前方に向かうに従って設置面11からの高さが低くなる三角形状をなしている。
【0055】
以上のようにして完成する光ファイバーケーブル設置構造97は、光ファイバーケーブル設置構造91~96の何れかに加えて、鋼製部材71を更に備えるものである。そして、鋼製部材71は、打込み方向の前方に向かって厚みが小さくなるテーパー部73を含むものである。この光ファイバーケーブル設置構造97では、上記の鋼製部材71が光ファイバーケーブル設置構造91の前方に存在することにより、鋼矢板1の地盤への打込み時において、地盤と光ファイバーケーブル設置構造91との干渉を低減することができる。また、鋼製部材71のテーパー部73の存在により、鋼矢板1の打込み時の抵抗が低減される。
【0056】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、上述の各実施形態では、歪み分布の計測に係る計測対象物が鋼矢板1であったが、本発明は、地盤を掘削した後に鋼材を立て込んでコンクリートを打ち込む鋼製連続壁やSMWに使用される鋼材、鋼管矢板、あるいは鉄筋のような棒状鋼材が計測対象物である場合にも適用可能である。
【0057】
また、実施形態では、鋼矢板1の表面に設置した光ファイバーケーブル3によって、鋼矢板1の歪み分布を計測する例を説明したが、このような光ファイバーケーブル3によって温度分布を計測することも可能である。この場合、光ファイバーケーブルを計測対象物に設置して温度分布を計測するための公知の手法を用いればよく、計測手法についての更なる詳細な説明を省略する。
【0058】
また、各実施形態において光ファイバーケーブル3を所定の箇所に貼り付ける際には、施工性向上のために、接着剤を吹付けて光ファイバーケーブル3を貼り付けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…鋼矢板(計測対象物)、3…光ファイバーケーブル、11…設置面、15…ガラスクロス(保護用クロス)、19…樹脂層、23…両面テープ(接着層)、25…ケーブル保護部材、25a…V溝(間隙)、31…L字部材(ケーブル収納部材),32…部材(ケーブル収納部材)、33…スペース(収納スペース)、35…樹脂層、43…中空部(収納スペース)、45…樹脂層、41…筒状部材(ケーブル収納部材)、51…溶接ビード、53…溝(ケーブル挿入溝)、55…樹脂層、57…溝(ケーブル挿入溝)、63…V溝(ケーブル挿入溝)、65…樹脂層、73…テーパー部、91~97…光ファイバーケーブル設置構造。