(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】車両用シート・エアバッグ一体型乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20231214BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20231214BHJP
B60N 2/20 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B60N2/427
B60R21/207
B60N2/20
(21)【出願番号】P 2020189022
(22)【出願日】2020-11-12
【審査請求日】2022-06-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭希
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-121600(JP,A)
【文献】特開2010-111245(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108973801(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60R 21/207
B60N 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面を形成するシートクッションと、前記シートクッションと回動軸によって連結されたシートバックと、を有する車両用シートと;
膨張ガスを発生するインフレータと;
前記シートバックに収容され、前記膨張ガスによって前方に向かって膨張・展開することで前記車両用シートに着座している乗員の側部及び頭部を保護するエアバッグと;
前記エアバッグが
膨張・展開するタイミングで、前記回動軸を軸として前記シートバックを前方に向かって回動させる回動機構と;を備え、
前記車両用シートには、シートベルト
巻取り装置が内蔵されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記車両用シートは、前記回動軸の回転位置を保持するロック機構を備え、
前記回動機構は、前記エアバッグの展開時に前記ロック機構を解除する構成であることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記回動機構は、前記ロック機構を破壊するために使用されるマイクロガスジェネレータを含むことを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記シートバックは、前記ロック機構が解除されたときに、前記エアバッグの展開する力によって前方に向かって回動する構成であることを特徴とする請求項2又は3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記回動軸は、前記シートバックが回動する際に負荷を与えるトーションバーを含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記回動機構は、前記回動軸を回転させるモータを含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記モータは、車両の衝突時に発生する加速度Gの値に応じて、前記シートバックの回動を制御可能に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記エアバッグは、前記シートバックの左右両側部において乗員の胴体を側方から覆うように展開する側部保護領域と;当該側部保護領域の上部に連結され、少なくとも乗員の頭部の側部及び上部を保護する頭部保護領域とを有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項9】
前記エアバッグの前記頭部保護領域は、乗員の頭部の側方、上方、前方の全体を覆うように展開可能に構成されていることを特徴とする請求項8に記載の乗員保護装置。
【請求項10】
前記車両用シートには、シートベルト
巻取り装置が内蔵されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートとエアバッグとの組合わせによる乗員保護装置に関する。特に、頭部保護領域を有するエアバッグを備えた車両用シートに最適な乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグは、例えば、ステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。
【0003】
車両用シートに搭載されるエアバッグとしては、特許文献1、特許文献2に示されているように、乗員の頭部周辺で展開して当該乗員の頭部を保護するものが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載されたエアバッグは、乗員の頭部前方までを完全に覆う構成となっている。一方、特許文献2に記載されたエアバッグは、乗員の頭部前方が開放された構成となっている。
【0005】
しかしながら、車両の正面衝突や斜め方向の衝突が発生すると、乗員の上半身は慣性によって前方に倒れ込むように移動するため、特許文献1、2に開示されたような従来のエアバッグ装置では、乗員を適切に保護できない場合がある。特許文献2に開示されたエアバッグでは、例えば、斜め方向の衝突が発生した場合、乗員の頭部がエアバッグの保護領域から前方に外れてしまうことになる。一方、特許文献1に記載されたエアバッグでは、乗員の頭部がエアバッグに強く接触し、乗員の頭部及び頚部に傷害が発生する恐れがある。
【0006】
また、特許文献1及び2に開示された従来のエアバッグ装置では、エアバッグの頭部保護領域だけでなく、乗員の胴体の側部を保護する側部保護領域においても、乗員とエアバッグ(シートバック)との相対的な位置関係が崩れ、乗員を適切に保護することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-128235号公報
【文献】特開2017-43175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗員が前方に移動した場合にも当該乗員を適切に保護することができる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に、上記課題を解決するための手段に及び、その効果について説明する。なお、本発明において、乗員が正規の姿勢で進行方向を向いて座席に着座した際に、乗員が向いている方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る乗員保護装置は、座面を形成するシートクッションと、前記シートクッションと回動軸によって連結されたシートバックとを有する車両用シートと;膨張ガスを発生するインフレータと;前記シートバックに収容され、前記膨張ガスによって膨張・展開することで前記車両用シートに着座している乗員の側部及び頭部を保護するエアバッグと;前記エアバッグの展開時に、前記回動軸を軸として前記シートバックを前方に向かって回動させる回動機構と;を備えている。
【0011】
ここで、「乗員の側部」とは、シートに着座した乗員の胴体部分(腕を含む)の左右側部と理解することができる。また、「前方に向かって回動」とは、シートバックが前方に倒れ込むイメージである。
【0012】
本発明においては、エアバッグを膨張・展開させるタイミングでシートバックを前方に回動させ(倒し)、シートバックが乗員の背中に密着し、あるいは追従して移動することになる。シートバックが乗員の移動に追従するということは、シートバックから展開するエアバッグが乗員の移動に追従する、すなわち、エアバッグと乗員との理想的な位置関係が維持されることになる。そのため、展開したエアバッグにより、乗員が前方に倒れ込む場合にも、適切な状態で乗員を保護することが可能となる。
【0013】
前記車両用シートが、前記回動軸の回転位置を保持するロック機構を備える場合、前記回動機構は、前記エアバッグの展開時に前記ロック機構を解除する構成とすることができる。ロック機構は、シートバックのリクライニング位置を固定するものである。回動機構としては、例えば、前記ロック機構を破壊するマイクロガスジェネレータを採用することができる。なお、ロック機構を破壊する他、ロック機構のギヤの連結を開放することもできる。
【0014】
前記シートバックは、前記ロック機構が解除されたときに、前記エアバッグの展開する力によって前方に向かって回動する構成とすることができる。
【0015】
前記回動軸は、前記シートバックが回動する際に負荷を与えるトーションバーを含むことができる。
【0016】
前記回動機構は、前記回動軸を回転させるモータを含むことができる。また、前記モータは、車両の衝突時に発生する加速度Gの値に応じて、前記シートバックの回動を制御可能に構成することができる。このような構成を採用することにより、より精密にシートバックの回動を制御することができる。例えば、前後方向の加速度(減速度)Gが大きい場合には、シートバックを速やか且つ大きく移動(回動)させ、加速度(減速度)Gが小さい場合には、シートバックの移動(回動)を緩やか且つ小さくすることができる。
【0017】
前記エアバッグは、前記シートバックの左右両側部において乗員の胴体を側方から覆うように展開する側部保護領域と;当該側部保護領域の上部に連結され、少なくとも乗員の頭部の側部及び上部を保護する頭部保護領域と;を有することができる。
【0018】
前記エアバッグの前記頭部保護領域は、乗員の頭部の側方、上方、前方の全体を覆うように展開可能に構成することができる。このような構造のエアバッグを採用した場合には、ドライバエアバッグ、助手席用エアバッグ等の所謂フロントエアバッグを省略することが可能となる。
【0019】
本発明は、乗員を拘束するシートベルトが内蔵されるタイプの車両用シートに適用することが好ましい。例えば、シートバックの上端付近から引き出されたシートベルトをシートバックの下端付近でバックルによって連結する構造とすることができる。このような構造を採用することにより、シートバックを前方に向かって回動させたとき(前方に倒したとき)に、これと連動してシートベルトも一緒に動くため、確実にシートバックを倒すことが可能となる。他方、シートベルトがBピラーから引き出されるような構造であると、正面衝突等の衝撃が加わったときに、プリテンショナーによってシートベルトが巻き取られ、乗員はシートベルトによって前方への移動を拘束される。そのため、シートバックを前方に向かって回動させようとしたときに、乗員が逆の方向(後方)に引っ張られるような格好となり、シートバックを倒すことが困難となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る乗員保護装置を適用可能な車両用シートの主に外観形状を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図である。
【
図3】
図3(A),(B)は、本発明に係る乗員保護装置の制御系を含めた構成を示す説明図であり、(A)と(B)とでは回動機構の構成が異なる。
【
図4】
図4は、本発明に係る乗員保護装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を概略的に示すものであり、車両幅方向の左側面から見た様子である。
【
図5】
図5は、従来の乗員保護装置(サイドエアバッグ装置)の作動状態を概略的に示すものであり、車両幅方向の左側面から見た様子である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施例に係る乗員保護装置に採用されるエアバッグの作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施例に係る乗員保護装置に採用されるエアバッグの作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る乗員保護装置について、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、繰り返しになるが、各図に表示する「前」とは車両の前方(進行方向)、「後」とは車両の後方(進行方向と反対側)、「内」とは車幅方向の内側(乗員側)、「外」とは車幅方向外側(乗員と反対側)をそれぞれ示す。
【0022】
図1は、本発明に係る乗員保護装置を適用可能な車両用シートの主に外観形状を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図である。なお、
図1及び
図2においてエアバッグ装置の図示は省略する。
【0023】
図1に示すように、車両用シートを部位として観たときには、乗員が着座する部分のシートクッション2と;背もたれを形成するシートバック1と;シートバック1の上端に連結されるヘッドレスト3とを含んでいる。
【0024】
図2に示すように、シートバック1の内部にはシートの骨格を形成するシートバックフレーム1fが設けられ、その表面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッド、表皮(図示せず)が設けられている。シートクッション2についても、シートバック1と同様に、着座フレーム2fの上面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッド、表皮(図示せず)が設けられている。着座フレーム2fとシートバックフレーム1fとは、リクライニング機構4及び回動軸13を介して連結されている。
【0025】
シートバックフレーム1fは、
図2に示すように、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレーム10L,10Rと、これらのサイドフレーム10L,10Rの上端部を連結する上部フレーム11と、下端部を連結する下部フレームとにより枠状に構成されている。
【0026】
図3(A),(B)は、本発明に係る乗員保護装置の制御系を含めた構成を示す説明図であり、(A)と(B)とでは回動機構の構成が異なる。
図4は、本発明に係る乗員保護装置の作動状態(エアバッグ14の展開状態)を概略的に示すものであり、車両幅方向の左側面から見た様子である。
図5は、従来の乗員保護装置(サイドエアバッグ装置)の作動状態を概略的に示すものであり、車両幅方向の左側面から見た様子である。
【0027】
本発明に係る乗員保護装置は、膨張ガスを発生するインフレータ12R,12Lと;シートバック1に収容され、膨張ガスによって膨張・展開することで車両用シートに着座している乗員の側部及び頭部を保護するエアバッグ14と;エアバッグ14の展開時に、回動軸13を軸としてシートバック1を前方に向かって回動させる回動機構(4,14,30,40)と;を備えている。
【0028】
図3(A)に示す例では、車両用シートのリクライニング機構4に対して、回動軸13の回転位置を保持するロック機構(図示せず)が備えられている。本発明においては、センサ32によって衝突(正面衝突、斜め衝突等)を検出すると、ECU34によってインフレータ12R,12Lを作動させてエアバッグ14を展開させると同時に、マイクロガスジェネレータ30を用いてロック機構を物理的に破壊して解除する。そして、シートバック1は、ロック機構が解除されたときに、
図4に示すように、エアバッグ14の展開する力によって前方に向かって回動する(倒れ込む)ようになっている。
【0029】
本発明に係る乗員保護装置においては、シートバック1が回動する際に負荷を与えるトーションバーを回動軸13に設けることができる。
【0030】
図3(B)に示す例では、車両用シートのリクライニング機構4は、モータ40を用いて電気的に回動軸13を回転させて、シートバック1のリクライニングを行うようになっている。この例では、センサ32によって衝突(正面衝突、斜め衝突等)を検出すると、ECU34によってインフレータ12R,12Lを作動させてエアバッグ14を展開させると同時に、モータ40を用いて回動軸13を回転させて、
図4に示すように、シートバック1を前方に向かって回動させるようになっている。
【0031】
好ましくは、センサ32によって車両の衝突時に発生する加速度Gを検出し、その加速度Gの値に応じて、シートバック1の回動速度、回動角度を制御する。例えば、前後方向の加速度(減速度)Gが大きい場合には、シートバック1を速やか且つ大きく移動(回動)させ、加速度(減速度)Gが小さい場合には、シートバック1の移動(回動)を緩やか且つ小さくするような制御を行うことができる。
【0032】
図4に示すように、本発明においては、エアバッグ14を膨張・展開させるタイミングでシートバック1を前方に回動させるため、正面衝突や斜め方向の衝突によって乗員の上半身が前方に倒れ込むように移動した時に、シートバック1が乗員の背中に密着し、あるいは追従して移動する(倒れ込む)ことになる。シートバック1が乗員の移動に追従するということは、シートバック1から展開するエアバッグ14が乗員の移動に追従する、すなわち、エアバッグ14と乗員との相対的な(理想的な)位置関係が維持されることになる。そのため、展開したエアバッグ14により、乗員が前方に倒れ込む場合にも、適切な状態で乗員を保護することが可能となる。
【0033】
なお、
図4に示す本発明の動作、作用は、後述する第1実施例及び第2実施例を総括し、簡略的に示すものである。
【0034】
本発明のように、エアバッグ14の展開に同調してシートバック1を回動させる構造を採用しない場合には、
図5に示すように、車両の正面衝突が発生すると、乗員の特に上半身は慣性によって前方に倒れ込むように移動し、乗員とシートバック1との相対的な位置関係が崩れることになる。その結果、乗員の頭部や肩部がエアバッグ14の保護領域から前方に外れてしまう。
【0035】
(第1実施例)
図6は、本発明の第1実施例に係る乗員保護装置に採用されるエアバッグ14の作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【0036】
本実施例に係る乗員保護装置は、シートバック1の左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータ12L,12Rと、ロールされ、又は折り畳まれた状態でシートバッグ1内に収容され、インフレータ12L,12Rから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグ14と、を備えている。なお、本実施例においては、シートバック1はヘッドレスト3と分離しているが、本発明に係るサイドエアバッグ装置は、ヘッドレスト一体型のシートバックにも適用することができる。
【0037】
収容状態のエアバッグ14は、左右のサイドフレーム10L,10R(
図2参照)に沿って配置され、インフレータ12L,12Rよりも下側に位置する下部領域16L,16Rと、左右のサイドフレーム10L,10Rから上部のシートフレーム11に沿って配置され、インフレータ12L,12Rよりも上側に位置する上部領域18と、を備えている。
【0038】
上部領域18は、左右両側の下部領域16L,16Rの上端部分を連結するように形成され、シートバック1の上縁付近から、乗員の頭部を包むように展開するようになっている。これにより、下部領域16L,16Rが、主に乗員の腰部から胸部付近を保護し、上部領域18が、主に乗員の頭部付近(肩部から頭部)を保護するようになっている。
【0039】
エアバッグ14をサイドフレーム10L,10Rに対して固定する際には、エアバッグ14を細長く圧縮した状態で、インフレータ12L,12Rを、スタッドボルト(図示せず)によってサイドフレーム10L,10Rの内側又は外側に固定する。
【0040】
シートバック1には、シートベルトユニット(巻取り装置を含む)が内蔵されている。例えば、シートバック1の上端付近にから引っ張り出されたシートベルトSBをシートクッション2の側部又はシートバック1の下端付近でバックルによって連結する。そして、プリテンショナーを、シートクッション2の内部に収容するような構造とすることができる。
【0041】
図6に示すように、車両の衝突(正面、側面、斜め)が発生すると、インフレータ12L,12Rから膨張ガスが放出されて、エアバッグ14が膨張・展開する。エアバッグ14の膨張が始まると、ガスが下部領域16L,16Rと上部領域18に流れ込む。エアバッグ14の下部領域16L,16Rは、例えば、サイドフレーム10L,10Rの内側で展開し、乗員方向(内側)及び前方(進行方向)に向かって展開する。このとき、下部領域16L,16Rは、サイドフレーム10L,10Rの内面(乗員側の面)を反力面として乗員側に展開する。
【0042】
一方、エアバッグ14の上部領域18は、シートバック1の上端からヘッドレスト3を飛び越えて前方に展開し、乗員の後頭部の後ろから前方に向かって覆い被さるようになる。
【0043】
本実施例においては、
図4に簡略的に示した場合と同様に、エアバッグ14が膨張・展開すると同時にシートバック1が前方に回動し、シートバック1が乗員の背中に密着し、あるいは追従して移動する(倒れ込む)。これにより、エアバッグ14と乗員との相対的な(理想的な)位置関係が維持され、展開したエアバッグ14により、乗員が前方に倒れ込む場合にも、適切な状態で乗員を保護することが可能となる。特に、上部保護領域18に乗員の頭部が進入したときに、乗員の頭部への衝撃を十分に緩和することができる。
【0044】
本実施例においては、シートバック1を前方に向かって回動させたとき(前方に倒したとき)に、これと連動してシートベルトSBも一緒に動くため、シートベルトSBによって阻害されることなく、確実にシートバック1を倒すことが可能となる。他方、シートベルトSBがBピラーから引き出されるような構造であると、正面衝突等の衝撃が加わったときに、プリテンショナーによってシートベルトが巻き取られ、乗員はシートベルトによって前方への移動を拘束される。そのため、シートバックを前方に向かって回動させようとしたときに、乗員が逆の方向(後方)に引っ張られるような格好となり、シートバックを倒すことが困難となる。
【0045】
(第2実施例)
図7は、本発明の第2実施例に係る乗員保護装置に採用されるエアバッグ114の作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。なお、本実施例においてはシートベルトの図示を省略するが、上述した第1実施例と同様に、車両用シートにシートベルトユニット(巻取り装置を含む)を内蔵する構成とすることが好ましい。
【0046】
エアバッグ114は、乗員の頭部を前方及び両側方から覆うように膨張展開する頭部保護領域(125,126)と、頭部保護領域(125,126)の後方下部に接続され、乗員の胴体を側方から覆うように膨張展開する一対のサイドクッション部122R,122Lとを有する。
【0047】
頭部保護領域(125,126)は、乗員の頭部を両側から覆うように膨張展開する一対の側頭部保護領域125と、乗員の頭部を前方から覆うように膨張展開する前方保護領域126とを備えている。なお、前方保護領域126の前面は閉じた形状となっており、これにより、前方保護領域126と側頭部保護領域126とが一体となって乗員の頭部を覆うように展開することになる。
【0048】
本実施例に係るエアバッグ114は、機能的に見ると、側突対応エアバッグ(側頭部保護領域125とサイドクッション部122R,122L)と、前突対応エアバッグ(前方保護領域26)とが一体となった全方位衝突対応エアバッグである。
【0049】
各サイドクッション部122R,122Lの上端と側頭部保護領域125の下端部との間には、乗員の肩部との干渉を避けるための切り込み124が形成されている。
【0050】
本実施例においては、
図4に簡略的に示した場合と同様に、エアバッグ114が膨張・展開すると同時にシートバック1が前方に回動し、シートバック1が乗員の背中に密着し、あるいは追従して移動する(倒れ込む)。これにより、エアバッグ114と乗員との相対的な(理想的な)位置関係が維持され、展開したエアバッグ114により、乗員が前方に倒れ込む場合にも、適切な状態で乗員を保護することが可能となる。特に、前方保護領域126に乗員の頭部が進入したときに、乗員の頭部への衝撃を十分に緩和することができる。
【0051】
本発明について実施例を参照して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的思想の範囲を逸脱することなく、適宜変更可能なものである。