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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ガス濃度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G01N27/416 376
G01N27/416 371G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020201737
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089377
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】下川 弘宣
(72)【発明者】
【氏名】市川 大樹
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-85465(JP,A)
【文献】特開2019-158494(JP,A)
【文献】特開2010-210519(JP,A)
【文献】特開2013-253924(JP,A)
【文献】特開2020-169817(JP,A)
【文献】特開2019-203833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する固体電解質体(21)、前記固体電解質体の第1表面(201)に設けられて検出対象ガス(G)に晒される複数の検出電極(22A,22B)、前記固体電解質体の第2表面(202)における、複数の前記検出電極に対向する位置に設けられた基準電極(23)、及び前記固体電解質体に積層された絶縁体(3)に埋設されて、通電によって発熱する発熱体(41)を有するセンサ素子部(2)と、
複数の前記検出電極と前記基準電極との間に生じる、特定ガス及び酸素ガスに基づく混成電位を、前記検出電極ごとに検出する複数の検出部(51A,51B)と、
複数の前記検出部における混成電位について演算処理をして、前記特定ガスの濃度のセンサ出力を求める演算部(52)と、を備え、
複数の前記検出電極は、前記発熱体による加熱温度が互いに異なる位置に配置されており、
前記演算部は、複数の前記検出電極の前記加熱温度の違いによって異なる、複数の前記検出部における混成電位を組み合わせて、前記センサ出力を求めるよう構成されている、ガス濃度検出装置(1)。
【請求項2】
前記演算部は、
複数の前記検出部のうちの少なくともいずれかの検出部における混成電位が切替閾値(v1)未満となる第1濃度領域(N1)においては、加熱温度が最も低い位置に配置された前記検出電極である低温用検出電極(22A)に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求め、
一方、複数の前記検出部における混成電位が前記切替閾値以上となり、複数の前記検出部における混成電位の差が切替差分値(Δs)以上となる第2濃度領域(N2)においては、前記低温用検出電極よりも加熱温度が高い位置に配置された前記検出電極である高温用検出電極(22B)に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項1に記載のガス濃度検出装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記第1濃度領域と前記第2濃度領域との境界において、値が連続するように前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項2に記載のガス濃度検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、
複数の前記検出部における混成電位が前記切替閾値以上となり、かつ複数の前記検出部における混成電位の差が切替差分値未満となる第3濃度領域(N3)においては、前記低温用検出電極に対応した前記検出部及び前記高温用検出電極に対応した前記検出部の少なくとも一方における混成電位に基づいて前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項2に記載のガス濃度検出装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記第1濃度領域と前記第2濃度領域との境界、及び前記第2濃度領域と前記第3濃度領域との境界において、値が連続するように前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項4に記載のガス濃度検出装置。
【請求項6】
イオン伝導性を有する固体電解質体(21)、前記固体電解質体の第1表面(201)に設けられて検出対象ガス(G)に晒される複数の検出電極(22A,22B)、前記固体電解質体の第2表面(202)における、複数の前記検出電極に対向する位置に設けられた基準電極(23)、及び前記固体電解質体に積層された絶縁体(3)に埋設されて、通電によって発熱する発熱体(41)を有するセンサ素子部(2)と、
複数の前記検出電極と前記基準電極との間に生じる、特定ガス及び酸素ガスに基づく混成電位を、前記検出電極ごとに検出する複数の検出部(51A,51B)と、
複数の前記検出部における混成電位について演算処理をして、前記特定ガスの濃度のセンサ出力を求める演算部(52)と、を備え、
複数の前記検出電極のうちの少なくとも1つには、複数の前記検出電極における前記特定ガスの濃度が互いに異なるよう、前記特定ガスを分解するための多孔質層(222)が設けられており、
前記演算部は、複数の前記検出電極における前記特定ガスの濃度の違いによって異なる、複数の前記検出部における混成電位を組み合わせて、前記センサ出力を求めるよう構成されている、ガス濃度検出装置。
【請求項7】
前記演算部は、
複数の前記検出部のうちの少なくともいずれかの検出部における混成電位が切替閾値(v1)未満となる第1濃度領域(N1)においては、前記多孔質層が設けられていない前記検出電極に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求め、
一方、複数の前記検出部における混成電位が前記切替閾値以上となる第2濃度領域(N2)においては、前記多孔質層が設けられた前記検出電極に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項6に記載のガス濃度検出装置。
【請求項8】
前記多孔質層は複数の前記検出電極のそれぞれに設けられており、複数の前記多孔質層における気孔率は互いに異なっており、
前記演算部は、
複数の前記検出部のうちの少なくともいずれかの検出部における混成電位が切替閾値(v1)未満となる第1濃度領域(N1)においては、気孔率が最も大きい前記多孔質層が設けられた前記検出電極である第1検出電極に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求め、
一方、複数の前記検出部における混成電位が前記切替閾値以上となる第2濃度領域(N2)においては、前記第1検出電極に設けられた前記多孔質層の気孔率よりも小さな気孔率の前記多孔質層が設けられた前記検出電極である第2検出電極に対応した前記検出部における混成電位に基づいて前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項6に記載のガス濃度検出装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記第1濃度領域と前記第2濃度領域との境界において、値が連続するように前記センサ出力を求めるよう構成されている、請求項7又は8に記載のガス濃度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス濃度検出装置は、車両の内燃機関の排気管等に配置されたガスセンサを用い、排気管を流れる排ガスを検出対象ガスとして、検出対象ガスにおける特定ガス濃度、酸素濃度等を検出するものである。ガス濃度検出装置には、空燃比、NOx(窒素酸化物)等を検出するものの他に、アンモニアガス、炭化水素ガス等の特定ガスを検出するものがある。この特定ガスを検出するガス濃度検出装置は、特定ガス及び酸素ガスに触媒活性を有する検出電極を用いて、特定ガス及び酸素ガスによる混成電位を検出するものがある。
【0003】
アンモニアガス及び酸素ガスによる混成電位を出力するガスセンサとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1のガスセンサにおいては、アンモニア濃度に応じた混成電位信号を出力する混成電位式の第1センサ部と、NOx濃度に応じた電流信号を出力する第2センサ部とを用いる。そして、混成電位の検出感度を高くするために、第1センサ部の第1検出電極の電極中心とヒータの発熱部の発熱中心との距離を、第2センサ部の第2検出電極の電極中心とヒータの発熱部の発熱中心との距離よりも大きくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-203834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アンモニアガス等の特定ガスの濃度を混成電位によって検出するガス濃度検出装置においては、本願発明者らの研究により、次の知見が得られている。混成電位を検出するために検出対象ガスに晒される検出電極の温度は、触媒活性を有する限度において350~450℃程度に低くした方が、混成電位の感度が高くなる。また、アンモニアガス等の特定ガスの濃度が高くなると、混成電位の感度が飽和する。さらに、アンモニアガス等の特定ガスは、検出電極の温度が高くなるほど、検出電極の表面において酸化して消失しやすくなる。
【0006】
混成電位の感度の飽和は、検出可能な信号の最小値と最大値の比率である検出レンジが狭くなる現象として生じる。本願発明者らは、前述した性質を有する混成電位式のガス濃度検出装置において、特定ガスの濃度の広い範囲において検出レンジを広く維持し、混成電位の検出精度を高めるための構成を見出した。特許文献1においては、混成電位の感度が飽和することについての対策はなされておらず、混成電位の検出精度を高めるためには、改善の余地が残る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、混成電位の検出精度を高めることができるガス濃度検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
イオン伝導性を有する固体電解質体(21)、前記固体電解質体の第1表面(201)に設けられて検出対象ガス(G)に晒される複数の検出電極(22A,22B)、前記固体電解質体の第2表面(202)における、複数の前記検出電極に対向する位置に設けられた基準電極(23)、及び前記固体電解質体に積層された絶縁体(3)に埋設されて、通電によって発熱する発熱体(41)を有するセンサ素子部(2)と、
複数の前記検出電極と前記基準電極との間に生じる、特定ガス及び酸素ガスに基づく混成電位を、前記検出電極ごとに検出する複数の検出部(51A,51B)と、
複数の前記検出部における混成電位について演算処理をして、前記特定ガスの濃度のセンサ出力を求める演算部(52)と、を備え、
複数の前記検出電極は、前記発熱体による加熱温度が互いに異なる位置に配置されており、
前記演算部は、複数の前記検出電極の前記加熱温度の違いによって異なる、複数の前記検出部における混成電位を組み合わせて、前記センサ出力を求めるよう構成されている、ガス濃度検出装置(1)にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
イオン伝導性を有する固体電解質体(21)、前記固体電解質体の第1表面(201)に設けられて検出対象ガス(G)に晒される複数の検出電極(22A,22B)、前記固体電解質体の第2表面(202)における、複数の前記検出電極に対向する位置に設けられた基準電極(23)、及び前記固体電解質体に積層された絶縁体(3)に埋設されて、通電によって発熱する発熱体(41)を有するセンサ素子部(2)と、
複数の前記検出電極と前記基準電極との間に生じる、特定ガス及び酸素ガスに基づく混成電位を、前記検出電極ごとに検出する複数の検出部(51A,51B)と、
複数の前記検出部における混成電位について演算処理をして、前記特定ガスの濃度のセンサ出力を求める演算部(52)と、を備え、
複数の前記検出電極のうちの少なくとも1つには、複数の前記検出電極における前記特定ガスの濃度が互いに異なるよう、前記特定ガスを分解するための多孔質層(222)が設けられており、
前記演算部は、複数の前記検出電極における前記特定ガスの濃度の違いによって異なる、複数の前記検出部における混成電位を組み合わせて、前記センサ出力を求めるよう構成されている、ガス濃度検出装置にある。
【発明の効果】
【0010】
(一態様のガス濃度検出装置)
前記一態様のガス濃度検出装置は、検出対象ガスに晒される複数の検出電極を有するセンサ素子部と、混成電位を検出電極ごとに検出する複数の検出部と、複数の検出部における混成電位について演算処理をして、特定ガスの濃度のセンサ出力を求める演算部とを備える。そして、複数の検出電極は、発熱体による加熱温度が互いに異なる位置に配置されており、演算部は、複数の検出電極の加熱温度の違いによって異なる、複数の検出部における混成電位を組み合わせて、センサ出力を求める。
【0011】
加熱温度が相対的に低くなる側に配置された検出電極においては、混成電位の感度が高く、特定ガスの濃度が低い場合の検出レンジが広くなる。一方、この加熱温度が相対的に低くなる側に配置された検出電極においては、特定ガスの濃度が高くなると、混成電位の感度が飽和して、検出レンジが狭くなる。これに対し、加熱温度が相対的に高くなる側に配置された検出電極においては、この検出電極の表面において特定ガスの一部が分解されて消失することにより、特定ガスの濃度が低い場合の検出レンジが狭くなる。一方、この加熱温度が相対的に高くなる側に配置された検出電極においては、特定ガスの濃度が高くなっても混成電位の感度が飽和しにくく、特定ガスの濃度が相対的に高い場合の検出レンジが広くなる。
【0012】
演算部においては、特定ガスの濃度が低い場合には、加熱温度が相対的に低くなる側の検出電極に対応する検出部における混成電位を優先的に採用し、特定ガスの濃度が相対的に高い場合には、加熱温度が相対的に高くなる側の検出電極に対応する検出部における混成電位を優先的に採用すればよい。これにより、特定ガスの濃度が、低い状態から相対的に高くなる状態までの広い濃度範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0013】
それ故、前記一態様のガス濃度検出装置によれば、特定ガスの濃度の広い範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0014】
(他の態様のガス濃度検出装置)
前記他の態様のガス濃度検出装置は、前記一態様の場合と同様のセンサ素子部、複数の検出部及び演算部を備える。そして、複数の検出電極のうちの少なくとも1つには、複数の検出電極における特定ガスの濃度が互いに異なるよう、特定ガスを分解するための多孔質層が設けられており、演算部は、複数の検出電極における特定ガスの濃度の違いによって異なる、複数の検出部における混成電位を組み合わせて、センサ出力を求める。
【0015】
多孔質層が設けられていない又は多孔質層によって特定ガスがほとんど分解されない検出電極においては、混成電位の感度が高く、特定ガスの濃度が低い場合の検出レンジが広くなる。一方、この検出電極においては、特定ガスの濃度が高くなると、混成電位の感度が飽和して、検出レンジが狭くなる。これに対し、多孔質層が設けられた検出電極においては、多孔質層において特定ガスの一部が分解されて消失することにより、特定ガスの濃度が低い場合の検出レンジが狭くなる。一方、この検出電極においては、特定ガスの濃度が高くなったときに多孔質層によって適度に特定ガスが分解されて消失することにより、混成電位の感度が飽和しにくく、特定ガスの濃度が相対的に高い場合の検出レンジが広くなる。
【0016】
演算部においては、特定ガスの濃度が低い場合には、多孔質層が設けられていない又は多孔質層によって特定ガスがほとんど分解されない検出電極に対応する検出部における混成電位を優先的に採用し、特定ガスの濃度が相対的に高い場合には、多孔質層が設けられた検出電極に対応する検出部における混成電位を優先的に採用すればよい。これにより、特定ガスの濃度が、低い状態から相対的に高くなる状態までの広い濃度範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0017】
それ故、前記他の態様のガス濃度検出装置によっても、特定ガスの濃度の広い範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0018】
なお、本発明の各態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1にかかる、ガス濃度検出装置を示す説明図。
図2】実施形態1にかかる、センサ素子部を示す、図1のII矢視図。
図3】実施形態1にかかる、ガス濃度検出装置及びセンサ素子部を示す、図1のIII-III断面図。
図4】実施形態1にかかる、ガス濃度検出装置が使用される内燃機関を示す説明図。
図5】実施形態1にかかる、各検出電極において生じる混成電位を示すグラフ。
図6】実施形態1にかかる、アンモニア濃度が変化したときに各検出電極において生じる混成電位を示すグラフ。
図7】実施形態1にかかる、酸素濃度が変化したときに各検出電極において生じる混成電位を示すグラフ。
図8】実施形態1にかかる、検出電極の加熱温度と検出電極における混成電位の感度との関係を示すグラフ。
図9】実施形態1にかかる、アンモニアの濃度と各検出電極における混成電位の感度との関係を示すグラフ。
図10】実施形態1にかかる、図9のアンモニアの濃度を対数目盛にして示すグラフ。
図11】実施形態1にかかる、ガス濃度検出装置によるアンモニアの濃度を検出する方法の一例を示すフローチャート。
図12】実施形態2にかかる、センサ素子部を示す、図1のII矢視図に相当する図。
図13】実施形態2にかかる、ガス濃度検出装置及びセンサ素子部を示す、図1のIII-III断面図に相当する図。
図14】実施形態2にかかる、アンモニアの濃度と各検出電極における混成電位の感度との関係を、アンモニアの濃度を対数目盛にして示すグラフ。
図15】実施形態2にかかる、ガス濃度検出装置によるアンモニアの濃度を検出する方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述したガス濃度検出装置にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のガス濃度検出装置1は、図1図3に示すように、センサ素子部2、複数の検出部51A,51B及び演算部52を備える。センサ素子部2は、イオン伝導性を有する固体電解質体21と、固体電解質体21の第1表面201に設けられて検出対象ガスGに晒される複数の検出電極22A,22Bと、固体電解質体21の第2表面202における、複数の検出電極22A,22Bに対向する位置に設けられた基準電極23と、固体電解質体21に積層された絶縁体3に埋設されて、通電によって発熱する発熱体41とを有する。
【0021】
各検出部51A,51Bは、複数の検出電極22A,22Bと基準電極23との間に生じる、特定ガス及び酸素ガス(単に酸素という。)に基づく混成電位を検出電極22A,22Bごとに検出するよう構成されている。演算部52は、各検出部51A,51Bにおける混成電位について演算処理をして、特定ガスの濃度のセンサ出力Asを求めるよう構成されている。複数の検出電極22A,22Bは、発熱体41による加熱温度が互いに異なる位置に配置されている。演算部52は、複数の検出電極22A,22Bの加熱温度の違いによって異なる、複数の検出部51A,51Bにおける混成電位を組み合わせて、センサ出力Asを求めるよう構成されている。
【0022】
以下に、本形態のガス濃度検出装置1について詳説する。
(ガス濃度検出装置1)
図1に示すように、本形態のガス濃度検出装置1は、混成電位式のものである。ガス濃度検出装置1によって検出する特定ガスは、アンモニアガス(NH3)(単にアンモニアという。)である。なお、特定ガスは、アンモニア以外にも、一酸化炭素(CO)、水(H2O)、水素(H2)、炭化水素、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(N2O)としてもよい。
【0023】
ガス濃度検出装置1は、アンモニアの濃度及び酸素の濃度に基づく混成電位を検出し、この混成電位を酸素の濃度によって補正して、アンモニアの濃度を検出するものである。各検出部51A,51Bにおいては、酸素の電気化学的還元反応(以下、単に還元反応という。)による還元電流と、アンモニアの電気化学的酸化反応(以下、単に酸化反応という。)による酸化電流とが等しくなるときに生じる、複数の検出電極22A,22Bと基準電極23との間の電位差ΔVを混成電位として検出するよう構成されている。
【0024】
図示は省略するが、アンモニアの濃度を補正する際に用いる酸素の濃度は、ガス濃度検出装置1とは別の酸素センサによって検出すればよい。酸素センサは、排気管71における、センサ素子部2を有するガスセンサ10の周囲に配置されたものとする。そして、各検出部51A,51Bにおいては、酸素センサによる酸素の濃度を利用して、混成電位を補正し、演算部52においては、補正された混成電位に基づいてアンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める。
【0025】
また、図示は省略するが、ガス濃度検出装置1は、酸素の濃度を検出する機能を有していてもよい。この場合には、センサ素子部2には、酸素の濃度を検出するための、一対の電極が設けられた固体電解質体21、検出対象ガスGが拡散抵抗部を介して導入されるガス室等が設けられる。また、この場合には、ガス濃度検出装置1は、他の検出部として、直流電圧が印加された電極間に流れる電流を検出する酸素検出部を備える。
【0026】
(内燃機関7)
図4に示すように、ガス濃度検出装置1は、センサ素子部2を有するガスセンサ10を備えており、ガスセンサ10は、車両の内燃機関(エンジン)7の排気管71に配置されて使用される。ガス濃度検出装置1に供給される検出対象ガスGは、内燃機関7から排気管71へ排気される排ガスである。そして、ガス濃度検出装置1は、排気管71内に配置された、NOxを還元する触媒72の排ガスの流れの下流側の位置に配置されており、触媒72から流出するアンモニアの濃度を検出する。本形態の内燃機関7は、車両に搭載されたものである。
【0027】
(触媒72)
図4に示すように、排気管71には、NOxを還元するための触媒72と、触媒72へアンモニアを含む還元剤Kを供給する還元剤供給装置73とが配置されている。触媒72は、触媒担体に、NOxの還元剤Kとしてのアンモニアが付着されるものである。触媒72の触媒担体におけるアンモニアの付着量は、NOxの還元反応に伴って減少する。そして、触媒担体におけるアンモニアの付着量が少なくなったときには、還元剤供給装置73から触媒担体へ新たにアンモニアが補充される。還元剤供給装置73は、排気管71における、触媒72よりも排ガスの流れの上流側位置に配置されており、尿素水を噴射して発生するアンモニアを排気管71へ供給する。アンモニアは、尿素水が加水分解されて生成される。還元剤供給装置73には、尿素水のタンク731が接続されている。
【0028】
本形態の内燃機関7は、軽油の自己着火を利用して燃焼運転を行うディーゼルエンジンである。また、触媒72は、NOx(窒素酸化物)をアンモニア(NH3)と化学反応させて窒素(N2)及び水(H2O)に還元する選択式還元触媒(SCR)である。
【0029】
なお、図示は省略するが、排気管71における、触媒72の上流側位置には、NOのNO2への変換(酸化)、CO、HC(炭化水素)等の低減を行う酸化触媒(DOC)、微粒子を捕集するフィルタ(DPF)等が配置されていてもよい。また、ガス濃度検出装置1は、ガソリンエンジンの排気管71を流れる排ガスを検出対象ガスGとして、検出対象ガスGに含まれるアンモニアを検出するものとしてもよい。
【0030】
(センサ素子部2)
図1図3に示すように、センサ素子部2は、複数の検出電極22A,22B及び基準電極23が設けられた固体電解質体21と、発熱体41が埋設された絶縁体3とが積層されて形成されている。センサ素子部2は、長尺形状に形成されている。センサ素子部2の長手方向Xの先端側X1の部位は、ガスセンサ10を構成するカバー内に収容された状態で、排気管71内に配置される。センサ素子部2においては、長手方向Xに直交して固体電解質体21と絶縁体3とが積層された方向を積層方向Dといい、長手方向X及び積層方向Dの両方に直交する方向を幅方向Wという。
【0031】
(固体電解質体21)
図1図3に示すように、固体電解質体21は、板状に形成されており、所定の温度において酸素イオン(酸化物イオン)を伝導させる性質を有するジルコニア材料を用いて構成されている。ジルコニア材料は、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)を主成分とする種々の材料によって構成される。ジルコニア材料には、イットリア(酸化イットリウム)等の希土類金属元素もしくはアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを用いられる。
【0032】
固体電解質体21の、検出対象ガスGに晒される第1表面201は、センサ素子部2における最も外側の表面を形成する。そして、第1表面201に設けられた検出電極22A,22Bには、検出対象ガスGが接触しやすい状態が形成されている。本形態の検出電極22A,22Bの表面には、セラミックスの多孔質体等による保護層が設けられていない。そして、検出電極22A,22Bには、検出対象ガスGが拡散律速されずに接触する。なお、検出電極22A,22Bの表面には、検出対象ガスGの流速を極力低下させない保護層を設けてもよい。
【0033】
固体電解質体21の第2表面202及び第2表面202に設けられた基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。固体電解質体21の第2表面202には、大気が導入される基準ガスダクト(大気ダクト)24が隣接して形成されている。
【0034】
(検出電極22A,22B)
図1図3に示すように、検出電極22A,22Bは、固体電解質体21における、酸素及びアンモニアが含まれる検出対象ガスGに晒される第1表面201に設けられている。検出電極22A,22Bは、アンモニア及び酸素に対する触媒活性を有する貴金属、及び固体電解質体21と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有している。検出電極22A,22Bを構成する貴金属には、金(Au)、白金(Pt)-金合金、白金-パラジウム(Pd)合金、パラジウム-金合金等が用いられる。また、検出電極22A,22Bは、貴金属及びジルコニア材料の他に、あるいは貴金属に代えて、金属酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物(ペロブスカイト型酸化物)を含有していてもよい。
【0035】
図1及び図2に示すように、本形態の検出電極22A,22Bは、センサ素子部2の長手方向Xに2つ並んで配置されている。2つの検出電極22A,22Bは、同じ大きさ(表面積)に形成されている。2つの検出電極22A,22Bは、所定の隙間を空けて固体電解質体21の第1表面201に設けられている。また、第1表面201には、検出電極22A,22Bに繋がるリード部221が設けられている。各検出電極22A,22Bのリード部221は、別々の接続端子、リード線等を介して、センサ制御ユニット5に形成された各検出部51A,51Bにそれぞれ接続されている。各検出電極22A,22Bの大きさ(表面積)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0036】
2つの検出電極22A,22Bのうちの一方の中心Oaと発熱体41の発熱部411の発熱中心Oとの間の距離は、2つの検出電極22A,22Bのうちの他方の中心Obと発熱体41の発熱部411の発熱中心Oとの間の距離よりも長い。発熱中心Oから遠くに位置する方の検出電極22Aは、加熱温度が最も低い位置に配置された検出電極22Aである低温用検出電極22Aとなる。発熱中心Oの近くに位置する方の検出電極22Bは、低温用検出電極22Aよりも加熱温度が高い位置に配置された検出電極22Bである高温用検出電極22Bとなる。換言すれば、低温用検出電極22Aの中心Oaと発熱中心Oとの間の距離は、高温用検出電極22Bの中心Obと発熱中心Oとの間の距離よりも長い。
【0037】
図示は省略するが、検出電極は、センサ素子部2の長手方向Xに3つ以上並ぶ状態で形成してもよい。この場合には、低温用検出電極22A及び高温用検出電極22Bの少なくとも一方を、複数の検出電極によって構成してもよい。
【0038】
(基準電極23)
図1図3に示すように、基準電極23は、固体電解質体21における、第1表面201とは反対側の第2表面202に設けられている。第2表面202及び第2表面202に設けられた基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。基準電極23は、酸素に対する触媒活性を有する貴金属、及び固体電解質体21と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有している。基準電極23を構成する貴金属には、白金(Pt)等を用いることができる。
【0039】
本形態の基準電極23は、複数の検出電極22A,22Bの全体に対して固体電解質体21を介して対向する位置に、共通して1つ形成されている。また、基準電極23は、各検出電極22A,22Bに対して固体電解質体21を介して対向する位置に、個別に形成してもよい。固体電解質体21の第2表面202には、基準電極23に繋がるリード部231が設けられている。
【0040】
センサ素子部2においては、各検出電極22A,22B、基準電極23、及び各検出電極22A,22Bと基準電極23との間に挟まれた固体電解質体21の部分とによって、酸化物イオンが伝導する検出セルが形成されている。発熱体41の発熱部411の発熱によるセンサ素子部2の温度は、検出セルの温度が所定の作動温度になるように制御される。
【0041】
(絶縁体3)
図1図3に示すように、絶縁体3は、基準ガスダクト24を形成する切欠き部が設けられたスペーサ絶縁体部31と、発熱体41が埋設されたヒータ絶縁体部32とによって形成されている。絶縁体3は、アルミナ(酸化アルミニウム)等の絶縁性のセラミックス材料によって構成されている。基準ガスダクト24は、基準電極23が配置された位置から長手方向Xの基端側X2の位置まで形成されている。基準ガスダクト24内には、長手方向Xの基端側X2の位置に形成された開口部241から基準ガスAとしての大気が導入される。
【0042】
(発熱体41)
図1図3に示すように、絶縁体3のヒータ絶縁体部32には、通電によって発熱する発熱体41が埋設されている。発熱体41は、発熱部411と、発熱部411に繋がる発熱体リード部412とによって形成されている。発熱部411は、各検出電極22A,22B及び基準電極23に積層方向Dにおいて対向する位置に配置されている。発熱体41には、発熱体41に通電を行うための通電制御部53が接続されている。通電制御部53は、センサ制御ユニット5内に形成されており、発熱体41に、PWM(パルス幅変調)制御等を行った電圧を印加するドライブ回路等を用いて形成されている。
【0043】
発熱部411は、直線部分及び曲線部分によって蛇行する線状の導体部によって形成されている。本形態の発熱部411の直線部分は、長手方向Xに平行に形成されている。発熱体リード部412は、直線状の導体部によって形成されている。発熱部411の単位長さ当たりの抵抗値は、発熱体リード部412の単位長さ当たりの抵抗値よりも大きい。発熱体リード部412は、長手方向Xの基端側X2の部位まで引き出されている。発熱体41は、導電性を有する金属材料を含有している。
【0044】
発熱部411の断面積は、発熱体リード部412の断面積よりも小さく、発熱部411の単位長さ当たりの抵抗値は、発熱体リード部412の単位長さ当たりの抵抗値よりも高い。この断面積とは、発熱部411及び発熱体リード部412が延びる方向に直交する面内の断面積のことをいう。そして、一対の発熱体リード部412に電圧が印加されると、発熱部411がジュール熱によって発熱し、この発熱によって、各検出電極22A,22B、基準電極23、及び各電極22A,22B,23の周辺に位置する固体電解質体21の部分が加熱される。
【0045】
本形態の発熱部411の発熱中心Oは、センサ素子部2の積層方向Dにおいて、高温用検出電極22Bに対向する位置に配置されている。換言すれば、高温用検出電極22Bは、発熱部411の発熱中心Oを積層方向Dに投影した位置に配置されている。
【0046】
(検出部51A,51B)
図1に示すように、ガス濃度検出装置1の各検出部51A,51Bは、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間に生じる混成電位としての電位差(電圧)ΔVに基づいて、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度を検出する。図5に示すように、各検出部51A,51Bは、検出電極22A,22Bにおける、酸素の還元反応による還元電流とアンモニアの酸化反応による酸化電流とが等しくなるときに生じる、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間の電位差ΔVを検出する。各検出電極22A,22Bと基準電極23との間に生じる電位差ΔVは、アンモニア及び酸素が含まれる検出対象ガスGによって各検出電極22A,22Bに生じる混成電位を示す。
【0047】
各検出部51A,51Bは、車両のエンジン制御ユニット50に接続されるセンサ制御ユニット5内に形成されている。各検出部51A,51Bは、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間に生じる電位差ΔVを検出する電位差検出回路511、電位差検出回路511による電位差ΔVを酸素の濃度によって補正して、酸素補正後のアンモニアの濃度(又は酸素補正後の混成電位)を求める酸素補正部512等を有する。酸素補正部512は、酸素の濃度をパラメータとして電位差ΔVとアンモニアの濃度(又は酸素補正後の混成電位)との関係が求められた関係マップを用い、関係マップに電位差ΔVと酸素の濃度とを照合して、酸素補正後のアンモニアの濃度(又は酸素補正後の混成電位)を求めるよう構成されている。
【0048】
各検出電極22A,22Bにおいては、各検出電極22A,22Bに接触する検出対象ガスGにアンモニアと酸素とが存在する場合に、アンモニアの酸化反応と、酸素の還元反応とが同時に進行する。アンモニアの酸化反応は、代表的には、2NH3+3O2-→N2+3H2O+6e-によって表される。酸素の還元反応は、代表的には、O2+4e-→2O2-によって表される。そして、各検出電極22A,22Bにおける、アンモニアと酸素とによる混成電位は、各検出電極22A,22Bにおける、アンモニアの酸化反応(速度)と酸素の還元反応(速度)とが等しくなるときの電位として生じる。
【0049】
図5は、各検出電極22A,22Bにおいて生じる混成電位を説明するための図である。図5においては、横軸に、基準電極23に対する各検出電極22A,22Bの電位(電位差ΔV)をとり、縦軸に、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間に流れる電流をとって、混成電位の変化の仕方を示す。また、図5においては、各検出電極22A,22Bにおいてアンモニアの酸化反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第1ラインL1と、各検出電極22A,22Bにおいて酸素の還元反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第2ラインL2とを示す。第1ラインL1及び第2ラインL2は、いずれも右肩上がりのラインによって示す。
【0050】
電位(電位差ΔV)が0(ゼロ)の場合は、検出電極22A,22Bの電位が基準電極23の電位と同じであることを示す。混成電位は、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1上のプラス側の電流と、酸素の還元反応を示す第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合ったときの電位となる。そして、各検出電極22A,22Bにおける混成電位は、基準電極23に対してマイナス側の電位として検出される。
【0051】
また、図6に示すように、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が高くなるときには、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1の傾きθaが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側へシフトする。これにより、アンモニアの濃度が高くなるほど、基準電極23に対する各検出電極22A,22Bの電位がマイナス側に大きくなる。言い換えれば、アンモニアの濃度が高くなるほど、各検出電極22A,22Bと基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが大きくなる。そのため、アンモニアの濃度が高くなるほど電位差ΔVが大きくなり、電位差ΔVを検出することにより、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度を検出することが可能になる。
【0052】
また、図7に示すように、検出対象ガスGにおける酸素の濃度が高くなるときには、酸素の還元反応を示す第2ラインL2の傾きθsが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側におけるゼロに近い位置へシフトする。これにより、酸素の濃度が高くなるほど、基準電極23に対する各検出電極22A,22Bのマイナス側の電位が小さくなる。言い換えれば、酸素の濃度が高くなるほど、各検出電極22A,22Bと基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが小さくなる。そのため、酸素の濃度が高くなるほど、電位差ΔV又はアンモニアの濃度を高くする補正を行うことにより、アンモニアの濃度の検出精度を高めることができる。
【0053】
(各検出電極22A,22Bの加熱温度と各検出電極22A,22Bの混成電位の感度との関係)
図8には、各検出電極22A,22Bの加熱温度と各検出電極22A,22Bの混成電位の感度との関係の一例を示す。図における混成電位の感度は、酸素の濃度によって補正された、酸素補正後のアンモニアの濃度を示す、酸素補正後の混成電位の感度とする。各検出電極22A,22Bの加熱温度は、発熱体41の発熱部411によって加熱される各検出電極22A,22Bの平均温度として示される。
【0054】
各検出電極22A,22Bの温度は、検出対象ガスGの温度の変化を受けて変動することもある。ただし、各検出電極22A,22Bの加熱温度は、発熱部411による加熱状態によって定まる。各検出電極22A,22Bの混成電位の感度は、アンモニアが含まれる検出対象ガスGが各検出電極22A,22Bに供給される場合の、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間の電位差ΔVと、アンモニアが含まれない検出対象ガスGが各検出電極22A,22Bに供給される場合の、各検出電極22A,22Bと基準電極23との間の電位差ΔVとの差によって示される。
【0055】
図8においては、各検出電極22A,22Bに、10ppm、50ppm、100ppm、200ppmの各濃度のアンモニアが含まれる検出対象ガスGが供給される場合に、各検出電極22A,22Bの加熱温度の違いによって各検出電極22A,22Bの混成電位の感度がどれだけ変化するかについて示す。本形態においては、低温用検出電極22Aは、発熱体41の発熱部411によって400℃の加熱温度に加熱され、高温用検出電極22Bは、発熱体41の発熱部411によって500℃の加熱温度に加熱されることとする。
【0056】
低温用検出電極22Aの加熱温度が400℃と低い場合において、低温用検出電極22Aに100ppm未満の濃度のアンモニアが供給されるときには、低温用検出電極22Aの混成電位の感度が良く、アンモニアの検出レンジR1が広い。また、低温用検出電極22Aの加熱温度が400℃と低い場合において、低温用検出電極22Aに100ppm以上200ppm未満の濃度のアンモニアが供給されるときには、低温用検出電極22Aの混成電位の感度が飽和状態になり、アンモニアの検出レンジR2が狭くなる。
【0057】
一方、高温用検出電極22Bの加熱温度が500℃と高い場合において、高温用検出電極22Bに100ppm未満の濃度のアンモニアが供給されるときには、多くのアンモニアが高温用検出電極22Bの表面において分解(酸化)されて消失することにより、高温用検出電極22Bの混成電位の感度が悪く、アンモニアの検出レンジR1が狭い。また、高温用検出電極22Bの加熱温度が500℃と高い場合において、高温用検出電極22Bに100以上200ppm未満の濃度のアンモニアが供給されるときには、高温用検出電極22Bの表面において一部のアンモニアが分解されて消失するものの、適度にアンモニアが残ることによって、アンモニアの検出レンジR2が広くなる。
【0058】
ここで、検出レンジR1,R2とは、識別可能な信号の最小値と最大値の比率であるダイナミックレンジのことをいう。図8においては、所定のアンモニアの濃度の範囲において、混成電位の感度の幅が広いことによって、検出レンジR1,R2が広いことが分かる。
【0059】
検出電極22A,22Bの加熱温度が400℃と500℃との間の中間温度である場合には、検出レンジは、450℃の場合と500℃の場合との中間の性質を有する。低温用検出電極22Aの加熱温度は、例えば、350℃以上450℃未満の温度となる。一方、高温用検出電極22Bの加熱温度は、例えば、450℃以上550℃未満の温度となる。
【0060】
発熱体41への通電によって制御される、センサ素子部2の各検出電極22A,22B及び基準電極23を含む検出セルの目標作動温度は、350℃~550℃の温度範囲内の特定の温度として設定される。検出電極22A,22B(検出セル)の温度は、通電制御部53による発熱体41への通電量によって、目標作動温度になるように制御される。ただし、検出の過渡期等においては、検出対象ガスGの温度、流速等の変化の影響を受けて、検出電極22A,22B(検出セル)の温度は作動温度内において変化する。
【0061】
(アンモニアの濃度と各検出電極22A,22Bの混成電位の感度との関係)
図9には、低温用検出電極22Aと高温用検出電極22Bとについて、各検出電極22A,22Bに供給されるアンモニアの濃度と、各検出電極22A,22Bの混成電位の感度との関係の一例を示す。図9における混成電位の感度は、酸素の濃度によって補正された、酸素補正後の混成電位の感度とする。図9において、高温用検出電極22Bの混成電位の感度が良い場合は、アンモニアの濃度の変化に対する混成電位の感度の変化の幅が大きいことによって示される。また、図9においては、低温用検出電極22Aを低温用検出部51Aとして示し、高温用検出電極22Bを高温用検出部51Bとして示す。
【0062】
低温用検出電極22Aにおいては、供給されるアンモニアの濃度が100ppm未満であるときの混成電位の感度が高く、供給されるアンモニアの濃度が100ppm以上になると、混成電位の感度が低くなる。一方、高温用検出電極22Bにおいては、供給されるアンモニアの濃度が100ppm未満であるときには、混成電位がほとんど得られない。そして、高温用検出電極22Bにおいては、供給されるアンモニアの濃度が100ppm以上200ppm未満の範囲においては、混成電位の感度が高いものの、供給されるアンモニアの濃度が200ppm超過になると、混成電位の感度が低くなる。
【0063】
図10は、図9のアンモニアの濃度と各検出電極22A,22Bの混成電位の感度との関係を、アンモニアの濃度を対数目盛にして示す。図10においては、低温用検出電極22Aを低温用検出部51Aとして示し、高温用検出電極22Bを高温用検出部51Bとして示す。図10においては、低温用検出電極22Aの混成電位の感度は、アンモニアの濃度に応じて一定の傾きで直線的に変化し、高温用検出電極22Bの混成電位の感度は、アンモニアの濃度が200ppmの付近を境界にして、2段階の傾きで直線的に変化する。図10において、高温用検出電極22Bの混成電位の感度が良い場合は、混成電位のラインの傾きが低温用検出電極2Aの場合に比べて大きいことによって示される。
【0064】
(ガスセンサ10)
図4に示すように、ガスセンサ10は、センサ素子部2を、ハウジングによって保持するとともに、ハウジングにセンサ素子部2を保護する先端側カバー、及びセンサ素子部2に繋がる配線部を保護する基端側カバー等を設けて構成されている。各検出電極22A,22B及び基準電極23は、センサ素子部2の長手方向Xの先端側X1の部分に配置されており、この先端側X1の部分は、ハウジングから突出した状態で、先端側カバーによって保護される。
【0065】
(センサ制御ユニット5)
図4に示すように、本形態の各検出部51A,51B、演算部52、通電制御部53等は、ガスセンサ10に電気接続されたセンサ制御ユニット5に形成されている。ガス濃度検出装置1は、センサ素子部2を含むガスセンサ10としての機械構成要素と、センサ制御ユニット5としての電気構成要素とによって構成されている。センサ制御ユニット5は、コンピュータ、制御回路等によって構成されている。センサ制御ユニット5は、車両のエンジン制御ユニット50に電気接続されており、エンジン制御ユニット50の指令を受けて動作可能である。
【0066】
(演算部52)
図1及び図9に示すように、本形態の演算部52は、アンモニアの濃度が、例えば100ppm未満として示される低濃度である場合には、低温用検出電極22Aに電気接続された低温用検出部51Aによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求め、アンモニアの濃度が、例えば100ppm以上200ppm未満として示される中濃度である場合には、高温用検出電極22Bに電気接続された高温用検出部51Bによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。さらに、演算部52は、アンモニアの濃度が、例えば200ppm以上として示される高濃度である場合には、低温用検出部51A及び高温用検出部51Bの少なくともいずれかにおける混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0067】
より具体的には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が所定の低濃度未満である第1濃度領域N1と、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が所定の低濃度以上であって所定の中濃度未満である第2濃度領域N2と、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が所定の中濃度以上である第3濃度領域N3との3つの濃度領域N1,N2,N3において、センサ出力Asの求め方を異ならせる。3つの濃度領域N1,N2,N3は、ガス濃度検出装置1によるアンモニアの濃度の検出レンジを広くするために設定される。
【0068】
図9に示すように、本形態の演算部52は、アンモニアの濃度が第1~第3濃度領域N1,N2,N3のいずれにあるかを判別するために、切替閾値v1及び切替差分値Δsを用いる。切替閾値v1は、アンモニアが僅かに検出されるときの混成電位、換言すればアンモニアの濃度が微小濃度になったときの混成電位の値を示す。切替差分値Δsは、複数の検出部51A,51Bにおける混成電位の差を示す。
【0069】
高温用検出部51Bにおいては、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が低いときには、高温用検出電極22Bの表面においてアンモニアが分解されて消失することにより、混成電位が検出されない。高温用検出部51Bにおいては、アンモニアの濃度が所定の中濃度以上になったときに初めて、混成電位が検出される。このことを利用して、本形態の演算部52は、高温用検出部51Bによる混成電位が、アンモニアの濃度が中濃度未満であることを示す切替閾値v1未満であるときには、アンモニアの濃度が第1濃度領域N1にあることを認識する。
【0070】
高温用検出部51Bによる混成電位は、例えば、アンモニアの濃度が100ppm以上200ppm未満の濃度として示される中濃度領域において、アンモニアの濃度の上昇に応じて急激に上昇する一方、例えばアンモニアの濃度が200ppm以上として示される高濃度領域においては、アンモニアの濃度の上昇に応じて緩やかに上昇する。そして、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との切替差分値Δsは、中濃度領域においては大きい一方、高濃度領域においては小さくなる。このことを利用して、本形態の演算部52は、高温用検出部51Bによる混成電位が、アンモニアの濃度が中濃度以上であることを示す切替閾値v1以上であって、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との差が切替差分値Δs以上であるときには、アンモニアの濃度が第2濃度領域N2にあることを認識する。また、このことを利用して、本形態の演算部52は、高温用検出部51Bによる混成電位が切替閾値v1以上であって、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との差が切替差分値Δs未満であるときには、アンモニアの濃度が第3濃度領域N3にあることを認識する。
【0071】
第1濃度領域N1においては、低温用検出部51Aによる混成電位の感度が高く、低温用検出部51Aによる混成電位を用いれば、アンモニアの濃度の検出レンジが最も広くなる。そのため、演算部52は、第1濃度領域N1においては、低温用検出部51Aによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0072】
第2濃度領域N2においては、高温用検出部51Bによる混成電位の感度が高く、高温用検出部51Bによる混成電位を用いれば、アンモニアの濃度の検出レンジが最も広くなる。そのため、演算部52は、第2濃度領域N2においては、高温用検出部51Bによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0073】
第3濃度領域N3においては、低温用検出部51Aによる混成電位及び高温用検出部51Bによる混成電位のいずれの感度も低い。このことから、第3濃度領域N3においては、低温用検出部51Aによる混成電位及び高温用検出部51Bによる混成電位のいずれを用いても、アンモニアの濃度の検出レンジに大きな差は生じない。本形態の演算部52は、第3濃度領域N3においては、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との平均値に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0074】
なお、演算部52は、第3濃度領域N3においては、低温用検出部51Aによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求めてもよく、高温用検出部51Bによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求めてもよい。
【0075】
本形態の演算部52は、第1濃度領域N1と第2濃度領域N2との境界、及び第2濃度領域N2と第3濃度領域N3との境界において、値が連続するようにセンサ出力Asを求めるよう構成されている。各濃度領域N1,N2,N3においては、センサ出力Asを求めるために使用する検出部51A,51Bが異なるため、各境界において、センサ出力Asが急激に変わらないようにする。
【0076】
具体的には、酸素補正後のアンモニアの濃度を示すセンサ出力As[ppm]を決定する際には、演算部52は、次の演算処理をする。低温用検出部51Aによる混成電位をA1[V]とし、高温用検出部51Bによる混成電位をA2[V]とする。また、第2濃度領域N2内の最大濃度(例えば200ppmとして示される。)に対応する低温用検出部51Aにおける混成電位をA1x[V]とし、第2濃度領域N2内の最大濃度に対応する高温用検出部51Bにおける混成電位をA2x[V]とする。また、α及びβは、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との整合を図るための係数とする。
【0077】
そして、演算部52は、酸素補正後の混成電位であるセンサ出力As[ppm]を、第1濃度領域N1においてはK1・A1の関係式によって求め、第2濃度領域N2においては、K1・A1+K2・α・A2の関係式によって求め、第3濃度領域N3においては、K1・A1+K2・α・A2+β・(K1・A1-K1・A1x+K2・α・A2-K2・α・A2x)/2の関係式によって求める。ここで、K1,K2,K3は、混成電位[V]をアンモニアの濃度[ppm]に変換するための係数とする。なお、センサ出力Asは、電圧としてもよく、この場合のK1,K2,K3は、混成電位[V]をセンサ出力Asの電圧に変換する係数とする。演算部52のセンサ出力Asを求める関係式を用いることにより、第1濃度領域N1と第2濃度領域N2との境界、及び第2濃度領域N2と第3濃度領域N3との境界における、センサ出力Asの値の連続性が保たれる。
【0078】
酸素補正後の混成電位A1,A2と、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asとの関係は、演算部52において、関係マップとして形成されていてもよい。
【0079】
(ガス濃度検出装置1によるガス濃度の検出方法)
次に、ガス濃度検出装置1によるアンモニアの濃度を検出する方法の一例について、図11のフローチャートを参照して説明する。車両の内燃機関7が起動されるとともにガス濃度検出装置1が起動された後には、センサ制御ユニット5の低温用検出部51A及び高温用検出部51Bが、低温用検出電極22A及び高温用検出電極22Bに検出対象ガスGが供給されるときに生じる混成電位をそれぞれ検出する(ステップS101)。また、センサ制御ユニット5の受信部が、酸素センサから、検出対象ガスGにおける酸素の濃度を受信する(ステップS102)。次いで、センサ制御ユニット5の演算部52は、高温用検出部51Bによる混成電位が切替閾値v1以上であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0080】
高温用検出部51Bによる混成電位が切替閾値v1未満である場合には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第1濃度領域N1にあることを認識する(ステップS104)。そして、演算部52は、低温用検出部51Aによる混成電位を酸素の濃度によって補正して、酸素補正後の混成電位A1を求め、K1・A1の関係式によって、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める(ステップS105)。高温用検出部51Bによる混成電位が切替閾値v1以上である場合には、演算部52は、低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との差が、切替差分値Δs以上であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0081】
低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との差が、切替差分値Δs以上である場合には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第2濃度領域N2にあることを認識する(ステップS107)。そして、演算部52は、低温用検出部51Aによる混成電位及び高温用検出部51Bによる混成電位を酸素の濃度によって補正して、酸素補正後の低温用検出部51A及び高温用検出部51Bによる混成電位A1+α・A2を求め、K1・A1+K2・α・A2の関係式によって、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める(ステップS108)。
【0082】
低温用検出部51Aによる混成電位と高温用検出部51Bによる混成電位との差が、切替差分値Δs未満である場合には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第3濃度領域N3にあることを認識する(ステップS109)。そして、演算部52は、低温用検出部51Aによる混成電位及び高温用検出部51Bによる混成電位を酸素の濃度によって補正して、酸素補正後の混成電位A1+α・A2+β・(A1-A1x+α・A2-α・A2x)/2を求め、K1・A1+K2・α・A2+β・(K1・A1-K1・A1x+K2・α・A2-K2・α・A2x)/2の関係式によって、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める(ステップS110)。
【0083】
その後、演算部52は、エンジン制御ユニット50からセンサ制御ユニット5に検出停止信号が送られるまで(ステップS111)、ステップS101~S110が繰り返される。
【0084】
(作用効果)
本形態のガス濃度検出装置1においては、発熱体41による加熱温度が互いに異なる位置に配置された低温用検出電極22A及び高温用検出電極22Bによる各混成電位A1,A2を低温用検出部51A及び高温用検出部51Bによってそれぞれ検出し、演算部52によって、各検出部51A,51Bによる混成電位A1,A2を適切に組み合わせて、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める。
【0085】
本形態のガス濃度検出装置1においては、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第1濃度領域N1にあるときには、低温用検出部51Aによる混成電位A1に基づいてセンサ出力Asを求めることにより、第1濃度領域N1におけるアンモニアの濃度を検出するレンジを広く維持することができる。また、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第2濃度領域N2にあるときには、高温用検出部51Bによる混成電位A2に基づいてセンサ出力Asを求めることにより、第2濃度領域N2におけるアンモニアの濃度を検出するレンジを広くすることができる。
【0086】
このように、演算部52は、アンモニアの濃度が低い第1濃度領域N1において検出レンジを広く維持するとともに、アンモニアの濃度が相対的に高い第2濃度領域N2においても検出レンジを広くすることができる。これにより、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が、低い状態から相対的に高くなる状態までの広い濃度範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0087】
それ故、本形態のガス濃度検出装置1によれば、アンモニアの濃度の広い範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0088】
本形態において、検出電極は、固体電解質体21の第1表面201において、発熱体41による加熱温度が互いに異なる位置に3つ以上配置されていてもよい。この場合には、3つ以上の検出電極のそれぞれに対応する検出部によって混成電位が検出される。また、この場合には、加熱温度がより高くなる検出電極に対応する検出部ほど、アンモニアの濃度が高いときの検出レンジが広くなる。そして、演算部52が、3つ以上の検出電極による混成電極の検出レンジの違いを、2つの検出電極22A,22Bの場合と同様に利用することができる。
【0089】
<実施形態2>
本形態は、複数の検出電極22A,22Bの加熱温度を異ならせる代わりに、2つの検出電極22C,22Dのうちのいずれかにアンモニアを分解するための多孔質層222を設け、各検出電極22C,22Dにおけるアンモニアの濃度が互いに異なるようにしたガス濃度検出装置1について示す。実施形態1においては、検出電極22C,22Dの加熱温度が高くなると、検出電極22C,22Dの表面においてアンモニアの一部が分解(酸化)されて消失することを利用した。このアンモニアの一部が分解されて消失する現象は、検出電極22C,22Dの付近にアンモニアが滞在する時間を長くすることによっても得られる。本形態においては、検出電極22C,22Dの1つに多孔質層222を設けることにより、この多孔質層222においてアンモニアが分解されて消失することを利用する。
【0090】
(検出電極22C,22D及び多孔質層222)
図12及び図13に示すように、本形態の2つの検出電極22C,22Dは、固体電解質体21の第1表面201において、幅方向Wに並んで配置されている。そして、発熱体41の発熱部411の発熱中心から2つの検出電極22C,22Dの中心までの距離はほぼ同じである。本形態の2つの検出電極22C,22Dは、多孔質層222が表面に設けられていない第1検出電極22Cと、多孔質層222が表面に設けられた第2検出電極22Dとによって構成されている。
【0091】
多孔質層222は、検出対象ガスGが通過する多数の気孔が形成された、アルミナ等のセラミックス材料によって構成されている。多孔質層222は、多数のセラミックスの粒子によって構成し、多数の気孔は、セラミックスの粒子間に形成された隙間とすればよい。多孔質層222の気孔率は、多孔質層222の全体の体積において、気孔の体積が占める割合のことをいう。多孔質層222の気孔率は、多孔質層222に含まれる気孔の数、体積等を増やすことによって大きくなる。
【0092】
検出対象ガスGが多孔質層222を通過するときには、検出対象ガスGに含まれるアンモニアの一部は、多孔質層222内に滞在して窒素と水素に分解されて消失する。多孔質層222は、第2検出電極22Dを保護する機能も有するため、保護層ということもできる。多孔質層222には、アンモニアを酸化させるための酸化触媒が担持されていてもよい。この場合には、多孔質層222におけるアンモニアの焼失が促進される。この酸化触媒には、例えば、NiO(酸化ニッケル)を用いてもよい。
【0093】
(第1検出部51C及び第2検出部51D)
図13に示すように、本形態の2つの検出部51C,51Dは、多孔質層222が設けられていない第1検出電極22Cに対応する第1検出部51Cと、多孔質層222が設けられた第2検出電極22Dに対応する第2検出部51Dとによって構成されている。第1検出電極22Cにおいては、低温用検出電極22Aと同様に、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が低い場合の混成電位の感度が高い一方、アンモニアの濃度が相対的に高い場合の混成電位の感度が低くなる。第2検出電極22Dにおいては、高温用検出電極2Bと同様に、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が低い場合の混成電位の感度が低い一方、アンモニアの濃度が相対的に高い場合の混成電位の感度が高くなる。
【0094】
(演算部52)
図14に示すように、本形態の演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が所定の低濃度未満である第1濃度領域N1と、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が所定の低濃度以上である第2濃度領域N2との2つの濃度領域N1,N2において、センサ出力Asの求め方を異ならせている。2つの濃度領域N1,N2は、ガス濃度検出装置1によるアンモニアの濃度の検出レンジを広くするために設定される。本形態の演算部52は、アンモニアの濃度が所定の低濃度以上であるか否かを、第2検出部51Dにおける混成電位が切替閾値v1以上か否かによって求める。
【0095】
第1濃度領域N1においては、第1検出部51Cによる混成電位の感度が高く、第1検出部51Cによる混成電位を用いれば、アンモニアの濃度の検出レンジが最も広くなる。そのため、演算部52は、第1濃度領域N1においては、第1検出部51Cによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0096】
第2濃度領域N2においては、第2検出部51Dによる混成電位の感度が高く、第2検出部51Dによる混成電位を用いれば、アンモニアの濃度の検出レンジが最も広くなる。そのため、演算部52は、第2濃度領域N2においては、第2検出部51Dによる混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0097】
本形態においても、演算部52は、実施形態1の場合と同様にして、第1濃度領域N1と第2濃度領域N2との境界において、値が連続するようにセンサ出力Asを求めるよう構成されている。センサ出力Aaを求める際に、第1濃度領域N1においては、第1検出部51Cの混成電位をA1として、K1・A1の関係式が用いられ、第2濃度領域においては、第2検出部51Dの混成電位をA2として、K1・A1+K2・α・A2の関係式が用いられる。
【0098】
図14は、アンモニアの濃度を対数目盛にして、アンモニアの濃度と検出電極22C,22Dの混成電位の感度との関係の一例を示す。図14においては、第1検出電極22Cを第1検出部51Cとして示し、第2検出電極22Dを第2検出部51Dとして示す。図14においては、第1検出電極22Cの混成電位の感度は、アンモニアの濃度が0ppmの付近から高くなるに連れて一定の傾きで直線的に変化する。一方、第2検出電極22Dの混成電位の感度は、アンモニアの濃度が100ppmの付近から高くなるに連れて一定の傾きで直線的に変化する。
【0099】
多孔質層222においては、その気孔率が小さくなるほど(緻密なセラミックス材料が用いられるほど)、アンモニアが滞在する時間が長くなり、アンモニアが分解されて消失する量が多くなる。第2検出電極22Dに設けられた多孔質層222の気孔率が小さくなるほど、第2検出電極22Dにアンモニアが到達しにくくなり、アンモニアの検出が可能になる濃度が高くなる。
【0100】
図14においては、第2検出電極22Dにおいて、アンモニアの濃度が約100ppm未満の場合には、混成電位が得られず、アンモニアの濃度が約100pp以上になると、混成電位が得られる。また、第2検出電極22Dによる混成電位のラインの傾きが、第1検出電極22Cによる混成電位のラインの傾きよりも大きいことによって、第2検出電極22Dによる混成電位の感度が第1検出電極22Cによる混成電位の感度よりも良いことが分かる。第2検出電極22Dに設けられた多孔質層222の気孔率が大きくなると、図14の破線で示すように、アンモニアの検出が可能になる濃度が低くなる。
【0101】
第1検出部51Cによる混成電位は、実施形態1の低温用検出部51Aと同様に、アンモニアの濃度が高くなると、混成電位の感度が飽和して、検出レンジが狭くなる。一方、第2検出部51Dによる混成電位は、第2検出電極22Dに設けられた多孔質層222においてアンモニアの一部が分解されて消失することにより、例えば100ppm未満の低濃度のアンモニアを検出することができない。ただし、第2検出電極22Dにおいては、アンモニアの濃度が、例えば100ppm以上に高くなったときに、多孔質層222によって適度にアンモニアが分解されて消失することにより、第1検出電極22Cに比べて混成電位の感度が飽和しにくくなり、アンモニアの濃度が相対的に高い場合の検出レンジが第1検出電極22Cに比べて広くなる。
【0102】
(ガス濃度検出装置1によるガス濃度の検出方法)
次に、本形態のガス濃度検出装置1によるアンモニアの濃度を検出する方法の一例について、図15のフローチャートを参照して説明する。車両の内燃機関7が起動されるとともにガス濃度検出装置1が起動された後には、センサ制御ユニット5の第1検出部51C及び第2検出部51Dが、検出対象ガスGが第1検出電極22C及び第2検出電極22Dに供給されるときに生じる混成電位をそれぞれ検出する(ステップS201)。また、センサ制御ユニット5の受信部が、酸素センサから、検出対象ガスGにおける酸素の濃度を受信する(ステップS202)。次いで、センサ制御ユニット5の演算部52は、第2検出部51Dによる混成電位が切替閾値v1以上であるか否かを判定する(ステップS203)。
【0103】
第2検出部51Dによる混成電位が切替閾値v1未満である場合には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第1濃度領域N1にあることを認識する(ステップS204)。そして、演算部52は、第1検出部51Cによる混成電位を酸素の濃度によって補正して、酸素補正後の混成電位A1を求め、K1・A1の関係式によって、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める(ステップS205)。
【0104】
第2検出部51Dによる混成電位が切替閾値v1以上である場合には、演算部52は、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第2濃度領域N2にあることを認識する(ステップS206)。そして、演算部52は、第1検出部51Cによる混成電位及び第2検出部51Dによる混成電位を酸素の濃度によって補正して、酸素補正後の第1検出部51C及び第2検出部51Dによる混成電位A1+α・A2を求め、K1・A1+K2・α・A2の関係式によって、アンモニアの濃度を示すセンサ出力Asを求める(ステップS207)。
【0105】
その後、演算部52は、エンジン制御ユニット50からセンサ制御ユニット5に検出停止信号が送られるまで(ステップS208)、ステップS201~S207が繰り返される。
【0106】
(作用効果)
本形態のガス濃度検出装置1においては、第2検出電極22Dには、第1検出電極22Cにおけるアンモニアの濃度と第2検出電極22Dにおけるアンモニアの濃度とが互いに異なるよう、アンモニアを分解するための多孔質層222が設けられている。演算部52は、各検出電極22C,22Dにおけるアンモニアの濃度の違いによって異なる、各検出部51C,51Dにおける混成電位A1,A2を組み合わせて、センサ出力Asを求める。
【0107】
本形態のガス濃度検出装置1においては、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第1濃度領域N1にあるときには、第1検出部51Cによる混成電位A1に基づいてセンサ出力Asを求めることにより、第1濃度領域N1におけるアンモニアの濃度を検出するレンジを広く維持することができる。また、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が第2濃度領域N2にあるときには、第2検出部51Dによる混成電位A2に基づいてセンサ出力Asを求めることにより、第2濃度領域N2におけるアンモニアの濃度を検出するレンジを広くすることができる。これにより、検出対象ガスGにおけるアンモニアの濃度が、低い状態から相対的に高くなる状態までの広い濃度範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0108】
それ故、本形態のガス濃度検出装置1によっても、アンモニアの濃度の広い範囲において、検出レンジを広く維持して、混成電位の検出精度を高めることができる。
【0109】
なお、本形態においても、2つの検出電極22C,22Dは、固体電解質体21の第1表面201において、長手方向Xに並んで配置してもよい。この場合に、発熱体41の発熱部411の発熱中心から2つの検出電極22C,22Dの中心までの距離はほぼ同じにしてもよく、発熱体41の発熱部411の発熱中心から2つの検出電極22C,22Dの中心までの距離は互いに異なっていてもよい。
【0110】
(他の構成)
多孔質層222は第1検出電極22C及び第2検出電極22Dのそれぞれに、気孔率が互いに異なる状態で設けられていてもよい。例えば、第1検出電極22Cには、気孔率が大きな多孔質層222が設けられ、第2検出電極22Dには、第1検出電極22Cに設けられた多孔質の気孔率よりも気孔率が小さな多孔質層222が設けられる。この場合において、第1検出電極22Cによる混成電位の感度は、図14における、波線による他の第2検出部51Dによって示され、第2検出電極22Dによる混成電位の感度は、図14における、実線による第2検出部51Dによって示される。
【0111】
この場合において、演算部52は、第2検出電極22Dに対応する第2検出部51Dにおける混成電位が切替閾値v1未満となる第1濃度領域N1においては、気孔率が最も大きい多孔質層222が設けられた第1検出電極22Cに対応した第1検出部51Cにおける混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。一方、演算部52は、第2検出部51D(又は両方の検出部51C,51D)における混成電位が切替閾値v1以上となる第2濃度領域N2においては、気孔率が相対的に小さな多孔質層222が設けられた第2検出電極22Dに対応した第2検出部51Dにおける混成電位に基づいてセンサ出力Asを求める。
【0112】
この場合は、アンモニアの濃度が例えば10ppm未満と低い場合の検出が不要である場合に有効である。この場合には、第1検出部51Aによる、アンモニアの濃度が低い場合における混成電位の感度を高められることがある。
【0113】
本形態のガス濃度検出装置における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0114】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0115】
1 ガス濃度検出装置
2 センサ素子部
21 固体電解質体
22A,22B 検出電極
23 基準電極
3 絶縁体
41 発熱体
51A,51B 検出部
52 演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15