(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】クレーン故障診断システム
(51)【国際特許分類】
B66C 15/00 20060101AFI20231214BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20231214BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20231214BHJP
【FI】
B66C15/00 A
G06Q10/20
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2020208287
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】大槻 真弘
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹脇 僚哉
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-020484(JP,A)
【文献】特開2020-040519(JP,A)
【文献】特開2002-332664(JP,A)
【文献】特開2010-198158(JP,A)
【文献】特開2016-141479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0227122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 - 15/06
G06Q 10/00 - 10/30
G06Q 50/00 - 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン故障診断システムにおいて、
クレーン装置における故障状態情報と運転状態情報から故障要因を分析する分析手段、及び分析した前記故障要因から、少なくとも、故障に対応した確認項目と交換部品からなる支援情報を求める支援情報取得手段と、
取得された前記支援情報を表示する表示手段とを備え
、
前記分析手段及び前記支援情報取得手段は、クラウドのサーバであり、
前記表示手段は、保守係員が携帯する携帯表示端末であり、
前記クレーン装置は、前記故障状態情報と前記運転状態情報を検出すると共に、前記故障状態情報と前記運転状態情報を前記クラウドのサーバに送信するクレーン側制御部を備え、
前記クラウドのサーバは、前記クレーン側制御部から送られてきた前記故障状態情報と前記運転状態情報に基づいて前記故障要因を分析し、更に、前記故障要因に対応した前記支援情報を求めると共に、前記故障要因と前記支援情報、或いは前記支援情報を前記携帯表示端末に送信するサーバ側制御部を備え、
前記携帯表示端末は、前記故障要因と前記支援情報、或いは前記支援情報を表示する表示画面を備えていると共に、
前記携帯表示端末は、前記故障要因を求める故障要因分析フローと、前記故障要因分析フローの分析結果に対応した前記支援情報を表示する
ことを特徴とするクレーン故障診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーン故障診断システムにおいて、
前記携帯表示端末は、前記表示画面に表示された前記支援情報が前記保守係員によって選択されると、前記クラウドのサーバから前記支援情報に関する確認項目を取得し、前記表示画面を切り替えて前記確認項目を表示する
ことを特徴とするクレーン故障診断システム。
【請求項3】
請求項1に記載のクレーン故障診断システムにおいて、
前記携帯表示端末は、検出された前記故障状態情報に関係する過去の故障事例を示す表示項目を表示し、前記表示画面に表示された前記表示項目が前記保守係員によって選択されると、前記クラウドのサーバから前記過去の故障事例を取得し、前記表示画面を切り替えて前記過去の故障事例を表示する
ことを特徴とするクレーン故障診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーン装置の故障診断を行うクレーン故障診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーン装置は定期点検が法令により義務付けられているが、最近のクレーン装置では、クレーン装置の異常や故障(以下、まとめて故障と表記する)を検出した際、故障検出の内容をクレーン装置に設けた制御部の表示器にエラーコードとして表示させている。
【0003】
そして、クレーン装置の作業者は、表示されたエラーコードをメンテナンス業者やクレーンメーカーに連絡し、連絡を受けたメンテナンス業者等の保守係員は、エラーコードからエラー内容を読み解くことで故障検出の要因分析を行い、必要に応じてクレーン装置を復旧させるための交換部品等の準備を実施する。
【0004】
しかしながら、故障検出の要因分析のためには、保守係員は作業者からクレーン装置の使用方法に関する聞き取り調査の実施や、場合によっては、クレーン装置が設置されている現地に赴いて、実際のクレーン装置の調査を行うことが必要であり、クレーン装置を復旧するまで多くの時間を要することがあった。このような背景に対応するものとして、例えば、特開平06-127886号公報(特許文献1)においては、以下の提案がなされている。
【0005】
特許文献1においては、複数台のクレーン装置を有するクレーン群において、各クレーン装置の故障時にクレーン装置に設置された端末装置から、クレーン装置の故障状態を示す故障状態情報をクレーン装置の識別情報と共に、通信回線を利用して管制基地のコンピュータに送信し、管制基地のコンピュータは、この故障状態情報を記憶すると共に、クレーン装置の故障状態情報に基づき分析された故障の診断結果を、通信回線を利用してクレーン装置の端末装置に送信することを提案している。
【0006】
これによれば、クレーン装置の故障状態情報を、通信回線を利用して管制基地のコンピュータに送信することで、クレーン装置に故障が発生した場合、管制基地では正確な故障状態情報を短時間で入手することができるので、迅速に正確な故障診断を行なうことができ、これにより適切な判断・対応が可能となり、復帰に要する時間を短縮することができる、と述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、更に迅速に正確な故障診断を行なうために、AI(Artificial Intelligence)機能を用いることが考えられる。しかしながら、このようなアプローチは、様々なパターンによる機械学習が必要であり、この機械学習は容易に行えるものでは無い。また、専門家が故障診断する場合は、得られた様々な情報から判断する必要があるので、高い技術力や経験が求められる。更に、クレーン装置の故障の発生要因は、センサー等で捉えきれないメカニカルな部分や、周囲環境が影響することが往々にしてあるので、適切な判断・対応を実施するためには、保守係員の現地調査での支援が必須である。
【0009】
本発明の目的は、AI機能等を備えることなく、高い技術力や経験が求められず、また、保守係員の現地調査での支援ができるクレーン故障診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本発明は上述の課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、
クレーン故障診断システムにおいて、クレーン装置における故障状態情報と運転状態情報から故障要因を分析する分析手段と、分析した故障要因から少なくとも、故障に対応した確認項目と交換部品からなる支援情報を求める支援情報取得手段と、取得された支援情報を表示する表示手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械学習や高い技術力・経験が求められず、また、保守係員の現地調査での支援が可能となる。尚、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】インバータ式クレーン装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】インバータ式クレーン装置の故障診断システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態になるクラウドの故障要因分析部の構成を示すブロック図である。
【
図4】ロック検出時の要因分析を行う故障要因分析フローと支援情報の表示項目を表示した携帯表示端末の表示画面の例を説明する説明図である。
【
図5】ブレーキ機構、及びブレーキ回路の確認方法を説明する説明図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態になる「一問一答形式」の要因分析方法を説明する説明図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態になる「過去事例集」を表示させるための故障要因分析フローと表示項目を表示した携帯表示端末の表示画面の例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明が適用されるインバータ式クレーン装置の全体構成を示し、
図2は本発明の実施形態になるインバータ式クレーン装置の故障診断システムの構成を示している。
【0015】
図1において、インバータ式クレーン装置は、クレーンフック1、ワイヤーロープ2、巻上誘導電動機3、巻上用ドラム4、横行誘導電動機5、横行用車輪6、横行用ガーダー7、走行誘導電動機8、走行用車輪9、走行用ガーダー10、巻上・横行インバータ制御装置11、ケーブルに吊り下げられた操作入力装置12、走行用インバータ制御装置13等から構成されている。また、巻上誘導電動機3、横行誘導電動機5、及び走行誘導電動機8には、誘導電動機用ブレーキ14(
図2参照)が各々に内蔵されている。
【0016】
インバータ式クレーン装置は、クレーンフック1に取り付けた荷物を、巻上誘導電動機3によって回転する巻上用ドラム4により、ワイヤーロープ2を巻き上げ/巻き下げすることでY方向(Y方向、-Y方向の矢印で示す)、即ち上下方向に荷物を移動する。また、横行用車輪6を横行誘導電動機5が回転させ、横行用ガーダー7に沿ってX方向(X方向、-X方向の矢印で示す)に移動する。更に、走行用車輪9を走行誘導電動機8が回転させ、走行用ガーダー10に沿ってZ方向(Z方向、-Z方向の矢印で示す)に移動する。
【0017】
図2に示すように、巻上・横行インバータ制御装置11には、巻上・横行インバータ制御部15、巻上用インバータ16、横行用インバータ17が内蔵されている。また、走行用インバータ制御装置13には、走行インバータ制御部18、及び走行用インバータ19が内蔵されている。また、巻上・横行インバータ制御部15と走行インバータ制御部18とは通信線20によって接続されている。
【0018】
巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5は、巻上・横行用インバータ制御装置11に格納された巻上・横行インバータ制御部15により制御される。即ち、オペレータが操作入力装置12から所定の指示を入力すると、巻上・横行インバータ制御部15は、巻上用インバータ16と横行用インバータ17を制御するため、巻上用インバータ16と横行用インバータ17に制御に必要な制御情報を与える。尚、巻上誘導電動機3には、エンコーダ21が取り付けられており、巻上誘導電動機3の回転情報を巻上・横行インバータ制御部15に入力している。
【0019】
そして、巻上用インバータ16と横行用インバータ17は、巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5に必要な周波数、電圧、電流を加え、同時に誘導電動機用ブレーキ14を開放制御する。これによって、巻上用ドラム4の場合、クレーンフック1に取り付けられた荷物が、落下することなくY方向に移動させられ、また、横行用車輪6の場合、横行用ガーダー7に沿って横行用車輪6をX方向に移動させる。
【0020】
同様に走行用車輪9に取り付けてある走行誘導電動機8は、オペレータが操作入力装置12からの所定の指示を入力すると、走行用インバータ制御装置13に格納された走行インバータ制御部18が走行用インバータ19を制御し、走行用インバータ19は走行誘導電動機8に必要な周波数、電圧、電流を加え、同時に誘導電動機用ブレーキ14を開放制御することで、走行用ガーダー10に沿って走行用車輪9をZ方向に移動させる。
【0021】
更に巻上・横行インバータ制御装置11には通信部22が設けられており、この通信部22は、通信線23によって巻上・横行インバータ制御部15と接続されている。通信部22は無線通信によって、演算機能を備えるサーバによって構成されたクラウドネットワーク24に接続されており、このクラウドネットワーク24は、通信部を備えた携帯表示端末25とも無線通信で接続されている。
【0022】
したがって、クラウドネットワーク(以下、クラウドと表記する)24を介して、通信部22と携帯表示端末25は、相互にアクセス可能な環境に設定されている。携帯表示端末25は、可搬型のタブレット端末やパーソナルコンピュータ(PC)を使用することができる。
【0023】
サーバを備えたクラウド24は、クレーン装置の製造会社や、メンテナンス会社に設置されている。また、携帯表示端末25は保守係員が携帯するもので、これによって、故障に対応してクレーン装置を早期に復旧できるように、支援情報を携帯表示端末25に表示することができる。
【0024】
つまり、クラウド24のサーバは、故障検出時の故障状態情報、及びこの故障状態情報に対応する運転状態情報から、故障要因を自動で演算/分析する機能を備えており、これによって分析された故障要因に対応する支援情報が、携帯表示端末25に送信されるようになっている。携帯表示端末25では、この支援情報が表示画面に表示され、保守係員はこの支援情報に基づいて、クレーン装置の復旧作業を実施することになる。この支援情報は、少なくと、故障部位の確認や故障部位の修正の要請、必要な交換部品の提示等であるが、更に別の支援情報を表示することも可能である。
【0025】
尚、携帯表示端末25の代わりに、表示端末としてクレーン装置に設けられていても良く、また、クレーン装置が設置されている設置会社に卓上表示端末として設けられていても良い。要は、保守係員が容易に故障や異常に対応する支援を受けられる体制であれば良いものである。
【0026】
ここで、クレーン装置の種々の故障検出は、巻上・横行インバータ制御部15、及び/または走行インバータ制御部18で実施されており、ここでの故障検出は、周知の方法で行われているので、詳細な説明は省略する。そして、巻上・横行インバータ制御部15、及び/または走行インバータ制御部18で検出された故障状態情報は、その故障内容に対応して、アルファベットや数字で表されたエラーコードに変換されて、通信線23を介して通信部22送られている。
【0027】
通信部22は、少なくとも、エラーコードと故障検出時のクレーン装置の運転状態情報を紐つけて、クラウド24へ送信する。クラウド24ではサーバの演算機能によって、エラーコードと故障検出時のクレーン装置の運転状態情報から、故障要因を演算、推定して特定する。更に、クラウド24のサーバでは、この故障要因に基づいて保守係員に対する支援情報を演算する。
【0028】
クラウド24で求められた支援情報は、無線通信で携帯表示端末25に送られ、携帯表示端末25では、テキストデータで表示画面に表示したり音声で報知したりして、保守係員が認識できる形態で支援情報を提供する。ここで、通信部22とクラウド24は、無線、或いは有線で通信することができる。また、携帯表示端末25は、保守係員が持ち運ぶので、無線で通信することが好ましい。
【0029】
尚、故障要因が特定できなければ、現地調査での支援となる支援情報を保守係員が認識できる形態で提供することもできる。ここで、携帯表示端末25を使用することで、保守係員は事前に交換部品を準備して現地に向かうこともできるので、この点からも迅速な復旧が可能となる。
【0030】
本実施例ではクラウド24のサーバを使用して支援情報を求めているが、コンピュータシステムの能力が充分であれば、巻上・横行インバータ制御部15、及び/または走行インバータ制御部18で、支援情報を求めるようにしても良い。また、これに対応して、通信部22と携帯表示端末25を直接的に接続して、通信によって携帯表示端末25に支援情報を送り、保守係員が認識できる形態で支援情報を提供するようにしても良い。
【0031】
ここで、クラウド24のサーバは
図3に示す処理部を備えている。
図3において、情報受信処理部30で通信部22からの運転状態情報と故障状態情報を表すデータを受信し、受信した運転状態情報と故障状態情報のデータを、故障状態情報保存処理部31と運転情報保存処理部34に分けて保存する。したがって、故障状態情報保存処理部31には、故障状態情報のデータが記憶され、運転情報保存処理部34には、運転状態情報のデータが記憶される。
【0032】
この場合、運転状態情報と故障状態情報のデータに識別子を付与しておけば容易に、これらを分離して記憶することができる。また、この識別子を付与しておけば、運転状態情報と故障状態情報のデータを分離しないで記憶することもできる。
【0033】
そして、故障要因を分析する際は、故障要因分析処理部32で故障要因の分析を実行するが、故障の内容によっては、故障状態情報だけではなく、運転状態情報も活用することもできる。分析した故障要因は、表示内容出力処理部33に送られ、表示内容出力処理部33においては、故障要因を復旧するために支援情報を演算する。
【0034】
この支援情報は、上述したように、少なくと、故障部位の確認や故障部位の修正の要請、必要な交換部品の提示等であるが、更に別の支援情報を提示することも可能である。そして、求められた支援情報は、表示内容出力処理部33から無線通信によって携帯表示端末25に送信される。
【0035】
次に、クラウド24のサーバによって実行される故障要因の分析と、この分析によって求められた支援情報を携帯表示端末25に表示する具体的な例を、
図4を用いて説明する。この例は、例えば、巻上・横行インバータ制御部12が、故障状態情報の一つである電動機のロックを検出した場合における、クラウド24のサーバによるロック検出の要因分析フローと、携帯表示端末25による支援情報の表示例を示している。
【0036】
ここで、ロック検出のエラーコードは「E01」とする。なお、ロック検出とは、一定時間、例えば1秒間の運転操作に対し、電動機の回転数が1回転以下であれば、電動機にロックが発生している、と検出する故障である。尚、電動機の回転は、電動機軸の回転を測定するエンコーダ21(
図2参照)により測定されている。
【0037】
図4の左側の示す故障要因分析フローは、クラウド24のサーバで実行される大まかな制御ステップを示し、
図4の右側に示す部分は、携帯表示端末25の表示画面25Dに、表示項目として表示される支援情報を示している。
【0038】
図4の実線で示す表示画面25Dは、大まかな制御ステップと支援情報の両方を表示するものである。このように、制御ステップと支援情報の両方を表示すると、保守係員の故障状態情報に関する理解を助け、より迅速に復旧作業を進めることができる。以下に示す実施形態は、制御ステップと支援情報の両方を表示した例である。
【0039】
また、別の表示形態として、
図4の右側の破線枠で示すように、表示画面25Dに故障項目毎に個別に支援情報を表示することもできる。個別の破線枠に示すように、故障に対応した支援情報があれば、表示画面25Dに表示され、故障に対応した支援情報がなければ、表示画面25Dには表示されない。これによれば、表示する情報が少ないので携帯表示端末25を小型に形成でき、持ち運びが楽になる。
【0040】
以下、故障に対する支援情報の表示のやり方を
図4に基づいて説明するが、上述したように制御ステップと支援情報の両方を表示した例である。ここで、故障要因分析フローの制御ステップは、サーバに備えられたコンピュータで実行されるものであり、所定の動作を実行する機能部として捉えることができる。携帯表示端末25も同様である。
【0041】
ステップS101において、先ず、クラウド24のサーバは、通信部22からロック検出(E01)の故障状態情報を受信したら、同時に受信するロック検出(E01)を実行した時のクレーン装置の運転状態情報から、インバータの出力状態を確認する。インバータの出力が無ければ、インバータの異常と判断できるので、表示項目D201に示すように、必要な交換部品の提示である、インバータの交換を促す要請表示を行う。尚、インバータの異常と判断できる理由は、インバータが出力してからブレーキを開放するのが一般的であるためである。
【0042】
ここで「要請表示」とは、保守係員に対して必要な作業を要請するための文章で表現されたメッセージであり、以下の説明でも同様である。
【0043】
インバータの出力が有る場合は次にステップS102において、ロック検出(E01)時の吊り上げ荷重の状態を確認する。製品仕様の定格荷重を超える荷重、或いは地球吊り上げ(地面に設置された建築物にフックが掛かっている状態等)を検出していれば、表示項目D202に示すように、使用方法の改善を促す要請表示を行う。
【0044】
吊り上げ荷重が正常範囲内であれば次にステップS103において、ロック検出(E01)時の電源電圧を確認する。電源電圧が製品仕様より低ければ、瞬時停電や電源欠相などの可能性があることを含め、表示項目D203に示すように、電源環境の改善を促す要請表示を行う。
【0045】
ここで、上述したステップS101~S103の判断に該当しない場合は、ステップS104以降の確認が必要なので、保守係員は現地調査を実施する。このため、図では示していないが、クラウド24のサーバは、携帯表示端末25に対して、現地調査が必要である旨の表示を行い、保守係員に現地調査に赴くように指示を出すようにしている。
【0046】
そして、保守係員は、例えば携帯表示端末25を使用して
図4に記載の要因分析を行う故障要因分析フローの表示を見ながら現地調査を実施する。
【0047】
ステップS103で電源電圧が低く無ければ次にステップS104において電動機の回転状態をチェックする。例えば、電動機が回転しなければ、ステップS105に進んでブレーキの状態を確認し、ブレーキが解放しないようであれば、表示項目D205に示すように、ブレーキ機構及びブレーキ回路の確認を促す要請表示を行う。尚、本実施形態では、表示項目D205の表示部分は、スイッチ機能を備えており、表示項目D205の箇所を選択する(指で接触する)と、表示画面が切り替わって
図5に示す確認項目が表示される。尚、この確認項目は、クラウド24のサーバに格納されており、表示項目D205が選択されると、クラウド24のサーバから送られてくるものである。
【0048】
図5はブレーキ機構、及び、ブレーキ回路の確認方法を表示したものである。表示する内容は、表示項目D501に示すブレーキの構造図と構成部品の部品表、表示項目D502に示すブレーキ機構の確認項目、表示項目D503に示すブレーキの回路と構成部品の部品表、及び表示項目D504に示すブレーキ回路の確認項目である。
【0049】
表示された確認項目を実施することで、異常箇所が容易に特定でき、また、交換部品を注文する際に必要となる部品コードも表示しているので、スムーズな部品発注が可能となる。
【0050】
尚、表示されている部品コードを選択することで、発注依頼(見積もり依頼)の画面に遷移させることもできる。ここで、
図5に示すような確認項目は、他の表示項目(例えば、後述の表示項目D207や、表示項目D210)においても同様に設定されている。
【0051】
ステップS105でブレーキが解放していれば次にステップS106において、電動機ケーブルの断線をチェックし、断線を生じていると表示項目D206に示すように、電動機ケーブルの交換を促す要請表示を行う。尚、電動機ケーブルが断線していないと、表示項目D207に示すように、電動機の回転伝達機構の確認を促す要請表示を行う。
【0052】
ステップS104で電動機が回転していれば次にステップS107において、エンコーダケーブルの断線をチェックし、エンコーダケーブルが断線を生じていると、表示項目D208に示すように、エンコーダケーブルの交換を促す要請表示を行う。
【0053】
エンコーダケーブルに断線がないと、最後にステップS108において、エンコーダケーブルに強電系のケーブルが近接している可能性があるので、表示項目D209に示すように、エンコーダケーブルの這い回しを見直すことを促す要請表示を行う。一方、エンコーダケーブルに強電系のケーブルが近接していないと、エンコーダ機構及びエンコーダ回路の確認を促す要請表示を行う。
【0054】
このように、携帯表示端末25に夫々の故障に対応した支援情報を表示することができるので、機械学習や高い技術力・経験が求められず、また、保守係員の現地調査での支援が可能となる。
【実施例2】
【0055】
上述の第1の実施形態では、故障要因分析フローと支援情報を携帯表示端末25の表示画面に表示した。これに対して、本発明の第2の実施形態では、クラウド24のサーバは、
図4の制御ステップの実行順序毎に「一問一答形式」で、支援情報を表示することもできる。例えば、
図4のステップS105と表示項目D205について説明すると以下の通りとなる。
【0056】
図6の(a)の表示画面25Dに示すように、クラウド24のサーバからの「Q5 操作するとブレーキは開放しますか?」という質問に対して、保守係員はクレーン装置の操作入力装置12を操作してブレーキを開放動作させる。この結果、ブレーキが開放されれば、保守係員は表示項目D602の「YES」を選択する。クラウド24のサーバは、これを受けて
図4の次のステップS106の制御ステップを実行する。この制御においても、上記と同様の表示項目を表示する。
【0057】
一方、ブレーキが開放されなければ、保守係員は表示項目D603の「NO」を選択する。クラウド24のサーバは、これを受けて
図6の(b)の表示画面25Dに示すように、保守係員に対して「ブレーキ機構及びブレーキ回路の確認を行って下さい」といった支援情報を、表示項目D205として要請表示する。以後、
図4に示す故障要因分析フローに対応した操作を行って、保守係員に対して質問と支援情報を提供することができる。
【0058】
このように、「一問一答形式」で、順番に支援情報を表示することもできる。これによって、携帯表示端末25に夫々の故障に対応した支援情報を表示することができるので、機械学習や高い技術力・経験が求められず、また、保守係員の現地調査での支援が可能となる。
【実施例3】
【0059】
本発明の第3の実施形態では、
図4に示す表示画面に過去の事例集の選択ボタンを設け、この選択ボタンを選択することで、過去に発生した類似事例の一覧を閲覧可能とした。これによって保守係員による要因分析が更に容易になる。尚、この過去の事例集は、故障要因分析フローが実行されるたびに更新されるものである。
【0060】
図7において、携帯表示端末25の一部の領域に「過去事例集」の表示項目D700が設定されている。この表示項目D700は、エラーコードの種類(故障状態情報の種類)毎に表示されるものであり、
図7ではエラーコードが「E01(ロック検出)」における過去の事例集が検索される構成となっている。
【0061】
したがって、保守係員は携帯表示端末25の表示画面25Dに表示された表示項目D700を選択すると、クラウド24のサーバにおいて「E01(ロック検出)」における過去の事例集が検索され、携帯表示端末25の表示画面25Dに表示される。
図8に検索された事例集を示している。この事例集は、「E01(ロック検出)」に関して、過去に発生した類似事例を一覧で表示している。過去の事例集は、クラウド24のサーバに格納されており、表示項目D700を選択するとサーバから送信されてくるものである。
【0062】
この一覧には、「発生年月日」、「定格荷重」、「故障の現象」、「原因」、及び「対策」が表示されている。したがって、保守係員は、この一覧からどんな故障が頻繁に発生しているかがわかるので原因が特定しやすくなる、また、その対策も示されているので、復旧作業を迅速に行うことが可能となる。このように、本実施形態では、現地調査で保守係員に支援情報を提供できるので、容易に要因分析が可能になり、また、円滑な交換部品の発注も可能になる。
【0063】
以上述べたように、本発明においては、クレーン装置における故障状態情報と運転状態情報から故障要因を分析する分析手段と、分析した故障要因から少なくとも、故障に対応した確認項目や交換部品である支援情報を求める支援情報取得手段と、取得された支援情報を表示する表示手段とを備えることを特徴としている。
【0064】
これによれば、機械学習や高い技術力・経験が求められず、また、保守係員の現地調査での支援が可能となる。
【0065】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…クレーンフック、2…ワイヤーロープ、3…巻上誘導電動機、4…巻上用ドラム、5…横行誘導電動機、6…横行用車輪、7…横行用ガーダー、8…走行誘導電動機、9…走行用車輪、10…走行用ガーダー、11…巻上・横行インバータ制御装置、12…操作入力装置、13…走行用インバータ装置、14…誘導電動機用ブレーキ、15…巻上・横行インバータ制御部、16…巻上用インバータ、17…横行用インバータ、18…走行インバータ制御部、19…走行用インバータ、20…通信線、
21…エンコーダ、22…通信部、23…通信線、24…クラウド、25…携帯表示端末、25D…表示画面、30…情報受信処理部、31…故障状態情報保存処理部、32…故障要因分析処理部、33…表示内容出力処理部、34…運転情報保存処理部。