(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】低摩擦コーティングを有するガラス物品およびガラス物品をコーティングするための方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/42 20060101AFI20231214BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C03C17/42
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2020529322
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 US2018063142
(87)【国際公開番号】W WO2019108845
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-29
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ファディーヴ,アンドレイ ゲナディエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジー
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506348(JP,A)
【文献】特開昭55-056042(JP,A)
【文献】特開昭56-169156(JP,A)
【文献】特公昭49-008012(JP,B2)
【文献】特表2015-520727(JP,A)
【文献】特表2011-520766(JP,A)
【文献】特開昭61-071932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/34-17/42,21/00,
C03B 23/04-23/18,
A61J 1/00,
B65D 23/00-25/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング剤層を有するコーティングされたガラス管を生成するために、ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップであって、前記カップリング剤が無機材料を含む、ステップ;
前記カップリング剤層を少なくとも部分的に覆う犠牲層を形成するために、前記コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ;
前記コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップに続いて、前記コーティングされたガラス管から少なくとも1つのコーティングされたガラス容器を生成するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器が前記カップリング剤層を備える、ステップ;
前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器をイオン交換塩浴中でイオン交換強化するステップ;および
低摩擦コーティングを形成するために、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器にポリマー化学組成物溶液を適用するステップ
を含む、低摩擦コーティングを有するガラス容器を生成するための方法。
【請求項2】
前記ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップが、前記カップリング剤を含む希釈溶液中に前記ガラス管を沈めるステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップが、前記カップリング剤を含む希釈溶液の化学蒸着を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記カップリング剤層が不連続層を備える、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記犠牲材料が滑剤を含むか、または前記犠牲材料が、水溶性材料、非水溶性材料および脂肪酸からなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングされたガラス管から少なくとも1つのコーティングされたガラス容器を生成するステップが、前記コーティングされたガラス管から前記犠牲層を除去するステップをさらに含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
カップリング剤層を備えるコーティングされたガラス物品であって、
該ガラス物品は、医薬品用ガラスを含むガラス管であり、前記カップリング剤が無機材料を含み、
前記カップリング剤層を少なくとも部分的に覆う犠牲層をさらに備え、
前記カップリング剤層が不連続層を備える、コーティングされたガラス物品。
【請求項8】
前記犠牲層が、滑剤を含む犠牲材料を含むか、または前記犠牲層が、水溶性材料、非水溶性材料および脂肪酸からなる群から選択される犠牲材料を含む、請求項
7記載のコーティングされたガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2017年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/592,664号の優先権の利益を主張し、その内容は、以下に完全に記載されているものとして依拠され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は概して、コーティングに関し、とりわけ、医薬品用パッケージなどのガラス物品に適用される低摩擦コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、ガラスは、他の材料と比べたその気密性、光学的透明性および優れた化学的耐久性ゆえに、食品用および飲料用包装、医薬品用包装、キッチン用および実験用ガラス製品、ならびに窓または他の建築用機構を含む多くの用途に好ましい材料として使用されてきた。
【0004】
しかし、ガラスの使用は、多くの用途において、ガラスの機械的性能により制限される。特に、ガラスの破損は、特に食品、飲料および医薬品の包装において懸念となっている。破損は、食品、飲料および医薬品の包装産業においてコスト高になる恐れがある。その理由は、例えば、充填ライン内で破損すると、隣接する破損していない容器に破損した容器の破片が含まれる可能性があるため、それらの容器の廃棄が必要になる場合があるからである。また、破損すると、充填ラインの減速または停止が必要になる場合があり、これにより生産収率が低下する。さらに、壊滅的でない破損(すなわち、ガラスに亀裂が入っているが、破壊していない場合)により、ガラスパッケージまたは容器の内容物がその無菌性を失う恐れがあり、その結果、費用のかかる製品リコールにつながる可能性がある。
【0005】
ガラスが破損する1つの根本原因は、ガラスが加工されるとき、および/またはその後の充填中に、ガラスの表面に欠陥が導入されることである。これらの欠陥は、ガラス製品の隣接する部分間の接触、ならびにガラスと、取扱い設備および/または充填設備などの設備との間の接触を含む様々な原因により、ガラスの表面に導入され得る。原因に関わらず、これらの欠陥の存在が、最終的にガラスの破損を招き得る。
【0006】
イオン交換加工は、ガラス物品を強化するために使用されるプロセスである。イオン交換では、ガラス物品内のより小さいイオンを溶融塩浴に由来するより大きいイオンで化学的に置換することにより、ガラス物品の表面上に圧縮(すなわち、圧縮応力)が加わる。ガラス物品の表面上の圧縮により、割れが伝播する機械的応力の閾値が高くなり、それによって、ガラス物品の全体的な強度が改善される。加えて、ガラス物品の表面にコーティングを付加すると、耐損傷性を向上させ、ガラス物品の強度および耐久性を改善することもできる。
【発明の概要】
【0007】
本開示の実施形態によれば、低摩擦コーティングを有するガラス容器を生成するための方法が提供される。この方法は、カップリング剤層を有するコーティングされたガラス管を生成するために、ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップであって、カップリング剤が無機材料を含む、ステップ、カップリング剤層を少なくとも部分的に覆う犠牲層を形成するために、コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ、コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップに続いて、コーティングされたガラス管から少なくとも1つのコーティングされたガラス容器を生成するステップであって、少なくとも1つのコーティングされたガラス容器がカップリング剤層を含む、ステップ、少なくとも1つのコーティングされたガラス容器をイオン交換塩浴中でイオン交換強化するステップ、および低摩擦コーティングを形成するために、少なくとも1つのコーティングされたガラス容器にポリマー化学組成物溶液を適用するステップを含む。
【0008】
本開示の実施形態によれば、コーティングされたガラス物品が提供される。コーティングされたガラス物品はカップリング剤層を含み、ここで、コーティングされたガラス物品は、医薬品用ガラスを含むガラス管であり、カップリング剤は無機材料を含む。
【0009】
追加の特徴および利点は以下の詳細な説明に記載され、一部は、その説明から当業者には容易に明らかになるであろうし、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲ならびに添付図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することにより認識されるであろう。
【0010】
前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも単なる例示であり、特許請求の範囲の性質および特徴を理解するための概要または枠組みを提供するものであると理解されるべきである。添付図面は、さらなる理解を与えるために記載されており、本明細書に組み込まれ、その一部を構成する。これらの図面は1つまたは複数の実施形態を示し、その説明と共に、様々な実施形態の原理および作用の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示は、純粋に非限定的な例として記載される以下の説明および添付図面からより明確に理解される。
【
図1】本開示の実施形態による低摩擦コーティングを有するガラス容器の断面の略図である。
【
図2】本開示の実施形態によるポリマー層およびカップリング剤層を有する低摩擦コーティングを有するガラス容器の断面の略図である。
【
図3】本開示の実施形態によるポリマー層、カップリング剤層および界面層を有する低摩擦コーティングを有するガラス容器の断面の略図である。
【
図4】本開示の実施形態によるジアミンモノマー化学組成物の一例を示す図である。
【
図5】本開示の実施形態によるジアミンモノマー化学組成物の一例を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態によるガラス容器に適用されるポリイミドコーティングとして使用され得るモノマーの化学構造を示す図である。
【
図7】本開示の実施形態による低摩擦コーティングを有するガラス容器を生成するための方法のフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態による
図7のフローチャートのステップの略図である。
【
図9】本開示の実施形態によるガラス物品上のSnO
2層の1.00μmスケールでのSEM像である。
【
図10】本開示の実施形態によるガラス物品上のSnO
2層の500nmスケールでのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これより、その(1つ以上の)例が添付図面に示されている(1つ以上の)本実施形態を詳細に参照する。可能な場合は常に、同じ部品または同様の部品を指すために、図面全体にわたって同じ参照番号が使用される。
【0013】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈により特に明確に定められていない限り、複数の指示対象を含む。同じ特徴を示すすべての範囲の端点は、独立して結合可能であり、示された端点を含む。すべての参照は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
本明細書において使用されるとき、「を有する(have)」、「を有する(having)」、「を含む(include)」、「を含む(including)」、「を含む(comprise)」、「を含む(comprising)」または同種のものは、それらの制約のない意味で使用され、一般に「を含むが、これらに限定されない」ことを意味する。
【0015】
本明細書において使用されるすべての科学用語および技術用語は、特に指定のない限り、当技術分野において一般に使用される意味を有する。本明細書に記載の定義は、本明細書において頻繁に使用される特定の用語を理解しやすくするためであり、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【0016】
本開示は、最初は一般的に、次いで、いくつかの例示的な実施形態に基づいて詳細に以下で説明される。個々の例示的な実施形態において互いに組み合わせて示された特徴は、すべてが実現される必要はない。特に、個々の特徴は省略されてもよいし、同じ例示的な実施形態あるいは他の例示的な実施形態の示された他の特徴と他の何らかの方法で組み合わせられてもよい。
【0017】
本開示の実施形態は、低摩擦コーティング、低摩擦コーティングを有するガラス物品、およびそれを生産するための方法に関し、それらの例は、図に概略的に示されている。そのようなコーティングされたガラス物品は、医薬品用パッケージを含むがこれに限定されない様々な包装用途における使用に適したガラス容器であり得る。これらの医薬品用パッケージは、医薬組成物を含んでいても、含んでいなくてもよい。本明細書に記載の低摩擦コーティングの実施形態はガラス容器の外面に適用されるが、本明細書に記載の低摩擦コーティングは、非ガラス材料を含む多種多様な材料上ならびにガラスディスプレイパネルおよび同種のものを含むがこれらに限定されない容器以外の基材上のコーティングとして使用され得るものと理解されるべきである。
【0018】
一般に、低摩擦コーティングは、医薬品用パッケージとして使用され得る容器などのガラス物品の表面に適用され得る。低摩擦コーティングは、低い摩擦係数および高い耐損傷性などの有利な特性をコーティングされたガラス物品に与えることができる。摩擦係数が減少すると、摩擦によるガラスの損傷が軽減されることにより、ガラス物品の強度および耐久性を改善することができる。さらに、低摩擦コーティングは、例えば、発熱物質除去、オートクレーブ処理および同種のものなど、医薬品の包装において利用される包装ステップおよび包装前ステップの間に受けるような高温および他の条件への曝露後も前述の改善された強度および耐久性の特徴を維持することができる。さらに、本明細書に記載の低摩擦係数コーティングによって、コーティングが実現する充填ステップおよび包装ステップの間のコーティングされたガラス物品のより一貫した予測可能なアラインメントが可能になり、ひいては、より高い加工速度を可能にする一方で、設備の中断、停止、故障をより少なくすることができる。したがって、低摩擦コーティングおよび低摩擦コーティングを有するガラス物品は熱的に安定である。
【0019】
低摩擦コーティングは、一般に、金属酸化物などのカップリング剤、およびポリイミドなどのポリマー化学組成物を含んでいてもよい。カップリング剤は、ガラス物品の表面上に位置するカップリング剤層内に配置されていてもよく、ポリマー化学組成物は、カップリング剤層上に位置するポリマー層内に配置されていてもよい。
【0020】
図1は、コーティングされたガラス物品、具体的にはコーティングされたガラス容器100の断面を略図で示している。コーティングされたガラス容器100は、ガラス本体102および低摩擦コーティング120を含む。ガラス本体102は、外面108(すなわち、第1の表面)と内面110(すなわち、第2の表面)との間に延びるガラス容器壁104を有する。ガラス容器壁104の内面110は、コーティングされたガラス容器100の内部域106を画定する。低摩擦コーティング120は、ガラス本体102の外面108の少なくとも一部の上に位置する。低摩擦コーティング120は、ガラス本体102の実質的に外面108全体の上に位置していてもよい。低摩擦コーティング120は、外面122、およびガラス本体102と低摩擦コーティング120との界面にあるガラス本体接触表面124を有する。低摩擦コーティング120は、外面108でガラス本体102に結合されていてもよい。
【0021】
本開示の実施形態によれば、コーティングされたガラス容器100は医薬品用パッケージであり得る。例えば、ガラス本体102は、バイアル、アンプル、アンプル、ボトル、カートリッジ、フラスコ、小瓶、ビーカー、バケツ、カラフェ、バット、シリンジ本体または同種のものの形状であり得る。コーティングされたガラス容器100は、任意の組成物、例えば医薬組成物を入れるために使用することができる。医薬組成物には、疾患の医療診断、治癒、治療または予防における使用が意図される任意の化学物質が含まれ得る。医薬組成物の例には、薬、薬物、薬剤、製剤、治療薬および同種のものが含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物は、液体、固体、ゲル、懸濁液、粉末または同種のものの形態であり得る。
【0022】
ここで
図1および
図2を参照すると、本開示の実施形態によれば、低摩擦コーティング120は二層構造を含んでいてもよい。
図2は、ポリマー層170およびカップリング剤層180を含む低摩擦コーティング120を有するコーティングされたガラス容器100の断面を示す。ポリマー化学組成物がポリマー層170内に含まれていてもよく、カップリング剤がカップリング剤層180内に含まれていてもよい。カップリング剤層180は、ガラス容器壁104の外面108と直接接触していてもよい。ポリマー層170は、カップリング剤層180と直接接触していてもよく、低摩擦コーティング120の外面122を形成していてもよい。カップリング剤層180がガラス壁104に結合されていてもよく、ポリマー層170が界面でカップリング剤層180に結合されていても、かつ/またはカップリング剤層180と機械的に噛み合っていてもよい。本開示の実施形態によれば、ポリマー層は、カップリング剤層の上に位置していてもよく、これは、ポリマー層170がカップリング剤層180およびガラス壁104に対して外側の層内にあることを意味する。本明細書において使用されるとき、第2の層「の上に」位置する第1の層は、第2の層と直接接触している第1の層、または第1の層と第2の層との間に配置された第3の層によるなどして第2の層から分離されている第1の層のいずれかを指す。
【0023】
ここで
図3を参照すると、低摩擦コーティング120は、カップリング剤層180とポリマー層170との間に位置する界面層190をさらに含んでいてもよい。界面層190は、1種以上の化学組成物のポリマー層170および1種以上の化学組成物のカップリング剤層180を含んでいてもよい。カップリング剤層とポリマー層との界面は界面層190を形成し、ここで、結合および/または機械的な噛合せがポリマー化学組成物とカップリング剤との間で起こる。しかし、
図2を参照して上述した通りポリマーとカップリング剤とが互いに化学的に結合し、かつ/または互いに機械的に噛み合うカップリング剤層180とポリマー層170との界面にはっきりした層が存在しない場合があるものと理解されるべきである。
【0024】
低摩擦コーティング120は、約100μm未満またはさらに約1μm以下の厚さを有していてもよい。例えば、低摩擦コーティング120の厚さは、約100nm以下、または約90nm厚未満、または約80nm厚未満、または約70nm厚未満、または約60nm厚未満、または約50nm未満、またはさらに約25nm厚未満であってもよい。低摩擦コーティング120は、ガラス本体102の全体にわたって厚さが均一でなくてもよい。例えば、コーティングされたガラス容器100は、低摩擦コーティング120を形成する1種以上のコーティング溶液とガラス本体102を接触させるプロセスのために、いくつかの領域においてより厚い低摩擦コーティング120を有していてもよい。加えて、低摩擦コーティング120は、不均一な厚さを有していてもよい。例えば、コーティング厚は、コーティングされたガラス容器100の異なる領域にわたって様々であってもよく、これにより、ガラス本体102の選択された領域内の保護が促進されてもよい。
【0025】
低摩擦コーティング120が、ポリマー層170、界面層190および/またはカップリング剤層180などの少なくとも2つの層を含む場合、各層は、約100μm未満またはさらに約1μm以下の厚さを有していてもよい。例えば、各層の厚さは、約100nm以下、または約90nm厚未満、または約80nm厚未満、または約70nm厚未満、または約60nm厚未満、または約50nm未満、またはさらに約25nm厚未満であってもよい。本開示の実施形態によれば、カップリング剤層180は不連続層であってもよい。本明細書において使用されるとき、「不連続」という用語は、少なくとも2つの分離した別個の島およびそれらの間の空いた空間を有する材料の層を指し、ここで、少なくとも2つの分離した別個の島およびそれらの間の空いた空間は所与の平面内にある。
【0026】
本明細書において述べた通り、カップリング剤は、ガラス本体102に対するポリマー化学組成物の付着または結合を改善することができ、ガラス本体102とポリマー化学組成物との間に一般に配置される。本明細書において使用されるとき、付着性は、熱処理など、コーティングされたガラス容器100に適用される処理の前後の低摩擦コーティング120の付着または結合の強度を指す。熱処理には、オートクレーブ処理、発熱物質除去、凍結乾燥または同種のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
本開示の実施形態によれば、カップリング剤は、金属、金属酸化物および/またはセラミック膜などの無機材料であってもよい。カップリング剤として使用される適した無機材料の非限定的な例には、チタン酸塩、ジルコン酸塩、スズ、チタンおよび/またはこれらの酸化物が含まれる。
【0028】
カップリング剤は、浸漬プロセスによってカップリング剤を含む希釈溶液とガラス本体102を接触させることによりガラス本体102の外面108に適用されてもよい。カップリング剤は、ガラス本体102に適用されるときに溶媒中に混合されてもよい。あるいは、カップリング剤は、スパッタリング、噴霧熱分解および化学蒸着(CVD)によりガラス本体102に適用されてもよい。次いで、カップリング剤を含むガラス本体102は、ガラス容器壁104の外面108上に存在する水および/または他の有機溶媒を十分に発散させるのに十分な任意の時間、ある温度に曝されてもよい。
【0029】
本明細書において述べた通り、低摩擦コーティングはポリマー化学組成物も含む。ポリマー化学組成物は、これらに限定されないが、フッ素化ポリマー、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリビスチアゾール、ならびに有機充填材もしくは無機充填材ありおよびなしの多環芳香族複素環式ポリマーなどの熱的に安定なポリマーまたはポリマーの混合物であってもよい。
【0030】
ポリマー化学組成物はポリイミド化学組成物であってもよい。低摩擦コーティング120がポリイミドを含む場合、ポリイミド組成物は、モノマーの重合により溶液中で生成されるポリアミド酸から誘導されてもよい。そのようなポリアミド酸の1つはNovastrat(登録商標)800(NeXolveから市販)である。硬化ステップによりポリアミド酸がイミド化されてポリイミドが生成する。ポリアミド酸は、ジアミンなどのジアミンモノマーと、二無水物などの無水物モノマーとの反応により生成されてもよい。本明細書において使用されるとき、ポリイミドモノマーは、ジアミンモノマーおよび二無水物モノマーとして記載される。しかし、ジアミンモノマーは2つのアミン部分を有するが、以下の説明では、少なくとも2つのアミン部分を有する任意のモノマーがジアミンモノマーとして適するであろうことが理解されるべきである。同様に、二無水物モノマーは2つの無水物部分を有するが、以下の説明では、少なくとも2つの無水物部分を有する任意のモノマーが二無水物モノマーとして適するであろうことが理解されるべきである。無水物モノマーの無水物部分とジアミンモノマーのアミン部分との間の反応によりポリアミド酸が生成される。したがって、本明細書において使用されるとき、指定のモノマーの重合により生成されるポリイミド化学組成物は、その指定のモノマーから生成されるポリアミド酸のイミド化の後に生成されるポリイミドを指す。一般に、全無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は約1:1であろう。ポリイミドは、2種の別個の化学組成物(1種の無水物モノマーおよび1種のジアミンモノマー)のみから生成することができるが、ポリイミドを生成するために、少なくとも1種の無水物モノマーが重合されてもよく、少なくとも1種のジアミンモノマーが重合されてもよい。例えば、1種の無水物モノマーが2種の異なるジアミンモノマーと重合されてもよい。任意の数のモノマーの組合せが使用されてもよい。さらに、1種の無水物モノマー対異なる無水物モノマー、または1種もしくは複数種のジアミンモノマー対異なるジアミンモノマーの比は、約1:0.1~0.1:1の間など、約1:9、1:4、3:7、2:3、1:1、3:2、7:3、4:1または1:9など、任意の比であってもよい。
【0031】
ジアミンモノマーと共にポリイミドが生成される無水物モノマーは、任意の無水物モノマーであってもよく、ベンゾフェノン構造を含んでいてもよい。ジアミンモノマーは、上述の二無水物の置換されたものを含むアントラセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造またはペンタセン構造を有していてもよい。
【0032】
無水物モノマーと共にポリイミドが生成されるジアミンモノマーには、任意のジアミンモノマーが含まれ得る。例えば、ジアミンモノマーは、少なくとも1つの芳香環部分を含んでいてもよい。
図4および
図5は、1種以上の選択された無水物モノマーと共にポリマー化学組成物のポリイミドを生成することができるジアミンモノマーの例を示す。ジアミンモノマーは、
図5に示す通り2つの芳香環部分を互いに結合している1つ以上の炭素分子を有していてもよく、ここで
図5のRは、1個以上の炭素原子を含むアルキル部分に対応する。あるいは、ジアミンモノマーは、
図4に示す通り直接結合されており、少なくとも1つの炭素分子によって分離されていない2つの芳香環部分を有していてもよい。ジアミンモノマーは、
図4および
図5においてR’およびR’’により表されている1つ以上のアルキル部分を有していてもよい。例えば、
図4および
図5において、R’およびR’’は、1つ以上の芳香環部分に結合されたメチル部分、エチル部分、プロピル部分またはブチル部分などのアルキル部分を表していてもよい。例えば、ジアミンモノマーは2つの芳香環部分を有していてもよく、ここで、各芳香環部分は、それに結合され、かつ芳香環部分に結合されたアミン部分に隣接するアルキル部分を有する。R’およびR’’は、
図4および
図5の両方において、同じ化学的部分であってもよく、または異なる化学的部分であってもよいものと理解されるべきである。あるいは、R’および/またはR’’が、
図4および
図5の両方において、全く原子を表していなくてもよい。
【0033】
ジアミンモノマーの2種の異なる化学組成物はポリイミドを生成することができる。第1のジアミンモノマーは、直接結合されており、結合炭素分子によって分離されていない2つの芳香環部分を含んでいてもよく、第2のジアミンモノマーは、2つの芳香環部分を結合している少なくとも1つの炭素分子と結合されている2つの芳香環部分を含んでいてもよい。本開示の実施形態によれば、第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有していてもよい。しかし、第1のジアミンモノマーおよび第2のジアミンモノマーの比は、約0.01:0.49~約0.40:0.10の範囲内で様々であってもよいが、無水物モノマーの比は約0.5のままである。
【0034】
本開示の実施形態によれば、ポリイミド組成物は、少なくとも第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーの重合により生成されてもよく、ここで、第1のジアミンモノマーおよび第2のジアミンモノマーは異なる化学組成物である。無水物モノマーはベンゾフェノンであってもよく、第1のジアミンモノマーは、互いに直接結合された2つの芳香環を含み、第2のジアミンモノマーは、第1の芳香環と第2の芳香環とを結合している少なくとも1つの炭素分子で互いに結合された2つの芳香環を含む。第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有していてもよい。
【0035】
一例として、第1のジアミンモノマーはオルト-トリジンであってもよく、第2のジアミンモノマーは4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)であってもよく、無水物モノマーはベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物であってもよい。第1のジアミンモノマー、第2のジアミンモノマーおよび無水物モノマーは、約0.465:0.035:0.5のモル比(第1のジアミンモノマー:第2のジアミンモノマー:無水物モノマー)を有していてもよい。
【0036】
一例として、ポリイミドは、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸1,2:3,4-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、2c,3c,6c,7c-テトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、5-endo-カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-exo,3-exo,5-exo-トリカルボン酸2,3:5,5-二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの異性体、または4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、ピロメリト酸二無水物(PMDA)3,3’,4,4’-ビフェニル二無水物(4,4’-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノン二無水物(4,4’-BTDA)、3,3’,4,4’-オキシジフタル酸無水物(4,4’-ODPA)、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシル-フェノキシ)ベンゼン二無水物(4,4’-HQDPA)、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシル-フェノキシ)ベンゼン二無水物(3,3’-HQDPA)、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシルフェノキシフェニル)-イソプロピリデン二無水物(4,4’-BPADA)、4,4’-(2,2,2-トリフルオロ-1-ペンタフルオロフェニルエチリデン)ジフタル酸二無水物(3FDA)、4,4’-オキシジアニリン(ODA)、m-フェニレンジアミン(MPD)、p-フェニレンジアミン(PPD)、m-トルエンジアミン(TDA)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4,4-APB)、3,3’-(m-フェニレンビス(オキシ))ジアニリン(APB)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン(DMMDA)、2,2’-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)、1,4-シクロヘキサンジアミン2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロイソプロピリデン(4-BDAF)、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン(DAPI)、マレイン酸無水物(MA)、シトラコン酸無水物(CA)、ナド酸無水物(NA)、4-(フェニルエチニル)-1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(PEPA)、4,4’-ジアミノベンズアニリド(DABA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ならびにその内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,619,042号明細書、米国特許第8,053,492号明細書、米国特許第4,880,895号明細書、米国特許第6,232,428号明細書、米国特許第4,595,548号明細書、国際公開第2007/016516号、米国特許出願公開第2008/0214777号明細書、米国特許第6,444,783号明細書、米国特許第6,277,950号明細書および米国特許第4,680,373号明細書に記載の材料のうちの1種または複数種の重合により生成されてもよい。
図6は、ガラス本体102に適用されるポリイミドコーティングを生成するために使用することができるいくつかの適したモノマーの化学構造を示す。別の例として、ポリイミドが生成されるポリアミド酸溶液には、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸(Aldrichから市販)が含まれ得る。
【0037】
本開示の実施形態によれば、ポリマー化学組成物はフルオロポリマーを含んでいてもよい。フルオロポリマーは、両方のモノマーが高度にフッ素化されているコポリマーであってもよい。フルオロポリマーのモノマーの一部がフルオロエチレンであってもよい。ポリマー化学組成物には、これに限定されないがTeflon AF(DuPontから市販)などの非晶質フルオロポリマーが含まれ得る。あるいは、ポリマー化学組成物には、これに限定されないがTeflon PFA TE-7224(DuPontから市販)などのパーフルオロアルコキシ(PFA)樹脂粒子が含まれ得る。
【0038】
本開示の実施形態によれば、ポリマー化学組成物はシリコーン樹脂を含んでいてもよい。シリコーン樹脂は、一般式RnSi(X)mOy(式中、Rは、非反応性置換基、通常はメチルまたはフェニルであり、Xは、OHまたはHである)を有する分岐したケージ様のオリゴシロキサンにより生成される高度に分岐した三次元ポリマーであってもよい。理論によって制限されることは望まないが、Si-O-Si結合の形成を伴うSi-OH部分の縮合反応を通じて樹脂の硬化が起こると考えられる。シリコーン樹脂は、M-樹脂、D-樹脂、T-樹脂およびQ-樹脂を含む可能性のある4種の官能性シロキサン単量体単位のうちの少なくとも1種を有することができ、ここで、M-樹脂は一般式R3SiOを有する樹脂を指し、D-樹脂は一般式R2SiO2を有する樹脂を指し、T-樹脂は一般式RSiO3を有する樹脂を指し、Q-樹脂は一般式SiO4(溶融石英)を有する樹脂を指す。任意選択で、樹脂は、DおよびT単位(DT樹脂)でできており、またはMおよびQ単位(MQ樹脂)からできている。他の組合せ(MDT、MTQ、QDT)も使用することができる。
【0039】
本開示の実施形態によれば、ポリマー化学組成物は、メチルシリコーン樹脂またはフェニルシリコーン樹脂と比べてそのより高い熱安定性のために、フェニルメチルシリコーン樹脂を含んでいてもよい。シリコーン樹脂中のメチル部分に対するフェニル部分の比は、ポリマー化学組成物中で様々であってもよい。例えば、メチルに対するフェニルの比は、約1.2、または約0.84、または約0.5、または約0.6、または約0.7、または約0.8、または約0.9、または約1.0、または約1.1、または約1.3、または約1.4、または約1.5であってもよい。シリコーン樹脂は、DC 255(Dow Corningから市販)、DC806A(Dow Corningから市販)、DCシリーズの樹脂(Dow Corningから市販)のいずれか、および/またはHardsilシリーズのAP樹脂およびAR樹脂(Gelestから市販)であってもよいが、これらに限定されない。シリコーン樹脂は、カップリング剤なしまたはカップリング剤ありで使用することができる。
【0040】
本開示の実施形態によれば、ポリマー化学組成物には、これらに限定されないが、T-214(Honeywellから市販)、SST-3M01(Gelestから市販)、POSS Imiclear(Hybrid Plasticsから市販)およびFOX-25(Dow Corningから市販)などのシルセスキオキサンベースのポリマーが含まれ得る。ポリマー化学組成物はシラノール部分を含んでいてもよい。
【0041】
ポリマー化学組成物は、ポリアミド酸溶液がカップリング剤層180上に適用されているポリイミドであってもよい。あるいは、例えば、ポリアミド酸塩、ポリアミド酸エステルまたは同種のものなどのポリアミド酸誘導体が使用されてもよい。ポリアミド酸溶液は、ポリアミド酸1体積%と有機溶媒99体積%との混合物を含んでいてもよい。有機溶媒は、トルエンとN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒および1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)溶媒のうちの少なくとも1つとの混合物またはそれらの混合物を含んでいてもよい。有機溶媒溶液は、約85体積%のDMAc、DMFおよびNMPのうちの少なくとも1つおよびトルエン約15体積%を含んでいてもよい。しかし、他の適した有機溶媒が使用されてもよい。次いで、コーティングされたガラス容器100は、およそ150℃で約20分間、または低摩擦コーティング120中に存在する有機溶媒を十分に発散させるのに十分な任意の時間および温度で乾燥されてもよい。
【0042】
以下でより詳細に説明するように、本開示の実施形態により、硬化を必要とせずにカップリング剤層180の上にポリマー形態のポリマー化学組成物を適用することが可能になる。例えば、ポリアミド酸をガラス容器100に適用し、硬化してポリイミドを生成する代わりに、カップリング剤層180の上に直接ポリイミドを適用することができる。ポリマー形態のポリマー化学組成物をそのように適用すると、ガラス容器100をコーティングする間、高い硬化温度、例えば約300℃を超える温度にガラス容器100を曝露する必要性が少なくなり、これにより、ガラス容器の生成に必要な時間が短くなり、そのような生成に関連する費用が少なくなる。
【0043】
低摩擦コーティング120を適用することができるガラス容器は、様々な異なるガラス組成物から生成することができる。ガラス物品の特定の組成物は、特定の用途にしたがって、ガラスが所望の組の物理特性を有するように選択することができる。
【0044】
ガラス容器は、約25×10-7/℃~80×10-7/℃の範囲内の熱膨張係数を有するガラス組成物から生成することができる。例えば、ガラス本体102は、イオン交換による強化に適しているアルカリアルミノケイ酸ガラス組成物から生成することができる。そのような組成物は、一般に、SiO2、Al2O3、少なくとも1種のアルカリ土類酸化物、ならびに1種以上のアルカリ金属酸化物、例えばNa2Oおよび/またはK2Oの組合せを含む。ガラス組成物は、ホウ素およびホウ素を含む化合物を含んでいなくてもよい。加えて、ガラス組成物は、少量の1種以上の追加の酸化物、例えば、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3または同種のものなどをさらに含んでいてもよい。これらの成分は、清澄剤として、かつ/またはガラス組成物の化学的耐久性をさらに向上させるために添加することができる。加えて、ガラス表面は、SnO2、ZrO2、ZnO、TiO2、As2O3または同種のものを含む金属酸化物コーティングを含んでいてもよい。
【0045】
本開示の実施形態によれば、ガラス本体102は、イオン交換強化によるなどして強化することができ、本明細書において「イオン交換されたガラス」と呼ばれる。例えば、ガラス本体102は、約300MPa以上もしくはさらに約350MPa以上の圧縮応力、または約300MPa~約900MPaの範囲内の圧縮応力を有していてもよい。しかし、ガラス内の圧縮応力は300MPa未満または900MPa超になり得るものと理解されるべきである。本明細書に記載のガラス本体102は、約20μm以上の層深さを有していてもよい。例えば、層深さは、約50μm超、または約75μm以上、またはさらに約100μm超であってもよい。イオン交換強化は、約350℃~約500℃の温度に保たれた溶融塩浴中で実施することができる。所望の圧縮応力を実現するために、カップリング剤層でコーティングされたガラス容器が、塩浴中に約30時間未満またはさらに約20時間未満浸されてもよい。例えば、ガラス容器は、450℃の100% KNO3塩浴中に約8時間浸されてもよい。
【0046】
1つの非限定的な例として、ガラス本体102は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる「Glass Compositions with Improved Chemical and Mechanical Durability」と題し、Corning,Incorporatedに属する係属中の米国特許第8,753,994号明細書に記載のイオン交換可能なガラス組成物から生成されてもよい。
【0047】
しかし、本明細書に記載のコーティングされたガラス容器100は、イオン交換可能なガラス組成物およびイオン交換可能でないガラス組成物を含むがこれらに限定されない他のガラス組成物から生成されてもよいものと理解されるべきである。例えば、ガラス容器は、Type 1Bガラス組成物、例えば、Schott Type 1Bアルミノケイ酸ガラスなどから生成されてもよい。
【0048】
本開示の実施形態によれば、ガラス物品は、その耐加水分解性に基づいて、USP(米国薬局方)、EP(欧州薬局方)およびJP(日本薬局方)など、規制当局により記載された医薬品用ガラスに関する基準を満たすガラス組成物から生成することができる。USP 660およびEP 7によれば、ホウケイ酸ガラスはType I基準を満たし、非経口用包装に日常的に使用されている。ホウケイ酸ガラスの例には、Corning(登録商標)Pyrex(登録商標)7740、7800、ならびにWheaton 180、200および400、Schott Duran、Schott Fiolax、KIMAX(登録商標)N-51A、Gerrescheimer GX-51 Flintなどが含まれるが、これらに限定されない。ソーダ石灰ガラスはType III基準を満たし、その後に溶液または緩衝液を調製するために溶解させる乾燥粉末の包装において許容される。Type IIIガラスはまた、アルカリに影響されないことが分かっている液体製剤の包装に適している。Type IIIソーダ石灰ガラスの例にはWheaton 800および900が含まれる。脱アルカリ化ソーダ石灰ガラスは、より高いレベルの水酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムを含み、Type II基準を満たす。これらのガラスは、浸出に対する耐性がType Iガラスより低いが、Type IIIガラスより耐性が高い。Type IIガラスは、その貯蔵寿命の間pHが7未満に保たれる製品に使用することができる。例には、硫酸アンモニウム処理されたソーダ石灰ガラスが含まれる。これらの医薬品用ガラスは様々な化学組成を有し、20~85×10-7℃-1の範囲内の線熱膨張係数(CTE)を有する。
【0049】
本明細書に記載のコーティングされたガラス物品がガラス容器である場合、コーティングされたガラス容器100のガラス本体102は、様々な異なる形態を取ることができる。例えば、本明細書に記載のガラス本体は、医薬組成物を保管するためのバイアル、アンプル、カートリッジ、シリンジ本体および/またはその他の任意のガラス容器などのコーティングされたガラス容器100を生成するために使用することができる。さらに、ポリマー層170でコーティングする前にガラス容器を化学的に強化できる能力を利用して、ガラス容器の機械的耐久性をさらに改善することができる。したがって、低摩擦コーティングのポリマー層170を適用する前にガラス容器をイオン交換強化することができるものと理解されるべきである。あるいは、他の強化方法、例えば、米国特許第7,201,965号明細書(その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の熱焼鈍、火炎研磨および積層を使用して、コーティング前にガラスを強化することもできる。
【0050】
本開示の実施形態によれば、イオン交換されたガラス本体に対する低摩擦コーティングの付着性は、イオン交換されていないガラス本体に対する低摩擦コーティングの付着性より強くなる。いずれの特定の理論によっても制限されることなく、イオン交換されたガラスのいくつかの態様のいずれも、イオン交換されていないガラスと比較して、結合および/または付着を促進することができると考えられる。第1に、イオン交換されたガラスは、カップリング剤の安定性および/またはガラス表面に対するその付着性に影響し得る向上した化学的/加水分解安定性を有することができる。イオン交換されていないガラスは典型的には、多湿条件下および/または高温条件下で加水分解安定性が劣り、アルカリ金属がガラス本体からガラス表面とカップリング剤層(存在する場合)との間の界面に移動したり、さらには、存在する場合、カップリング剤層内に移動したりする可能性がある。上述の通りアルカリ金属が移動し、pHに変化がある場合、ガラス/カップリング剤層界面またはカップリング剤層自体の内部でのSi-O-Si結合の加水分解により、カップリング剤の機械的特性またはガラスに対するその付着性のいずれかが弱まる恐れがある。第2に、イオン交換されたガラスが高温、例えば400℃~450℃の強酸化剤浴、例えば亜硝酸カリウム浴に曝露され、取り出されると、ガラスの表面上の有機化学組成物が除去されるため、さらに洗浄することのないカップリング剤によるコーティングに特に非常に適したものになる。例えば、イオン交換されていないガラスは、追加の表面洗浄処理を行わなければならない場合もあり、時間と費用がプロセスに追加される。
【0051】
図7および
図8をまとめて参照すると、
図7には、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器100を生産するための方法のプロセスフローチャート500が記載されており、
図8は、このフローチャートに記載されているプロセスを略図で示している。
図7および
図8は本明細書に記載の方法の実施形態の単なる例示であること、示されているステップのすべてが実施される必要はないこと、および本明細書に記載の方法の実施形態のステップが何らかの特定の順序で実施される必要はないことが理解されるべきである。
【0052】
本開示の実施形態によれば、この方法は、(上述の通り)カップリング剤層180を有するコーティングされたガラス管ストック1000を生成するために、ガラス本体102を生成することができるガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップ501を含んでもよい。ガラス管ストックをカップリング剤溶液と接触させるステップ501は、カップリング剤を含む希釈溶液中にガラス管を沈めるステップを含んでもよい。代わりに、ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップ501では、スパッタリング、噴霧熱分解または化学蒸着(CVD)が利用されてもよい。得られたカップリング剤層180は、約100μm未満またはさらに約1μm以下の厚さを有していてもよい。例えば、得られたカップリング剤層180は、約100nm以下の厚さ、または約90nm厚未満、または約80nm厚未満、または約70nm厚未満、または約60nm厚未満、または約50nm未満、またはさらに約25nm厚未満を有していてもよい。本開示の実施形態によれば、得られたカップリング剤層180は不連続層であってもよい。カップリング剤層180が連続層である場合、カップリング剤層180の厚さは、カップリング剤層180を含むガラス容器900のその後のイオン交換強化を可能にする厚さを有していてもよい。カップリング剤層180が不連続層である場合、分離した別個の島の間の空いた空間により、ガラス容器900のイオン交換強化が容易になる。
【0053】
この方法は、カップリング剤層180を少なくとも部分的に覆う犠牲層を形成するために、カップリング剤層180を有するコーティングされたガラス管ストック1000を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ502をさらに含んでもよい。カップリング剤層180を有するコーティングされたガラス管ストック1000を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ502は、ミストの液滴を蒸発させる十分高い温度のカップリング剤層180の表面上に、犠牲材料を含むミストを噴霧するステップを含んでもよい。得られた犠牲層は、カップリング剤層180を有するコーティングされたガラス管ストック1000の表面に潤滑を与える水に溶けない薄膜である。本明細書において使用されるとき、「犠牲層」という用語は、基材の表面を覆い、それによって基材の表面を周囲条件から分離する意図で任意の基材表面上に配置されている層を指す。そのような分離の目的は、基材表面を周囲条件から保護することであり得る。名前が示すように、犠牲層は、そのような保護を実現しながら犠牲になり、すなわち、損傷され、破壊され、あるいは基材表面から除去される。犠牲層は、コーティングされたガラス容器100を生産するための方法においてコーティングされたガラス管ストック1000を移動する、輸送する、かつ/または取り扱うときのコーティングされたガラス管ストック1000の損傷許容性を有利に改善することができる。
【0054】
犠牲材料は、カップリング剤層180を有するコーティングされたガラス管ストック1000を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ502のとき薄層を形成する液体材料またはワックス材料であってもよい。犠牲材料はまた、犠牲層がカップリング剤層180の表面から除去されるとき、コーティングされたガラス管ストック1000上に残留物が残らないように選ぶことができる。犠牲材料は、例えば、水溶性材料、非水溶性材料または脂肪酸から選ぶことができる。例示的な水溶性材料には、ステアリン酸の塩、ならびにポリエチレンソルビトールエステル、例えばPolysorbate 80およびTWEEN(登録商標) 20が含まれるが、これらに限定されない。例示的な非水溶性材料には、ポリグリコール、エチレンのポリマーおよびコポリマー、ならびにプロピレンオキシドが含まれるが、これらに限定されない。例示的な脂肪酸には、オレイン酸およびステアリン酸が含まれるが、これらに限定されない。犠牲材料の他の例には、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,865,884号明細書に記載のガラス生成滑剤が含まれる。
【0055】
この方法は、イオン交換可能なガラス組成物を有するコーティングされたガラス管ストック1000からガラス容器900(具体的には、
図8に示した例のガラスバイアル)を形成するステップ503をさらに含んでもよい。ガラス容器900を形成するステップ503では、従来の成形技法および形成技法が利用されてもよい。形成ステップ503の間、犠牲層がカップリング剤層180の表面から除去される。例えば、犠牲材料が有機材料である場合、ガラス容器900を形成するステップ503の間にコーティングされたガラス管ストック1000に熱を加えた結果、犠牲層を除去することができる。
【0056】
この方法は、機械式マガジンローダ602を使用してマガジン604内にガラス容器900を積載するステップ504をさらに含んでもよい。マガジンローダ602は、複数のガラス容器を一度に把持することができる機械式把持装置、例えばキャリパーまたは同種のものであってもよい。あるいは、把持装置は、ガラス容器900を把持するために真空系を利用するものであってもよい。マガジンローダ602は、ガラス容器900およびマガジン604に対してマガジンローダ602の位置を決めることができるロボットアームまたは他の同様の装置に連結されていてもよい。
【0057】
この方法は、ガラス容器900が積載されたマガジン604をカセット積載エリアまで移送するステップ506をさらに含んでもよい。移送するステップ506は、機械式コンベヤ、例えばコンベヤベルト606、オーバーヘッドクレーンまたは同種のもので実施されてもよい。その後、この方法は、マガジン604をカセット608内に積載するステップ508を含んでもよい。多くのガラス容器を同時に加工できるように、カセット608は、複数のマガジンを保持するように構成されている。各マガジン604は、カセットローダ610を利用してカセット608内に配置される。カセットローダ610は、1つ以上のマガジンを一度に把持することができる機械式把持装置、例えばキャリパーまたは同種のものであってもよい。あるいは、把持装置は、マガジン604を把持するために真空系を利用するものであってもよい。カセットローダ610は、カセット608およびマガジン604に対してカセットローダ610の位置を決めることができるロボットアームまたは他の同様の装置に連結されていてもよい。
【0058】
本開示の実施形態によれば、この方法は、ガラス容器900の化学的強化を促進するために、マガジン604およびガラス容器900が入ったカセット608をイオン交換タンク614に装入するステップ510をさらに含んでもよい。カセット608は、カセット移送装置612によってイオン交換ステーションまで移送される。カセット移送装置612は、カセット608を把持することができる機械式把持装置、例えばキャリパーまたは同種のものであってもよい。あるいは、把持装置は、カセット608を把持するために真空系を利用するものであってもよい。カセット移送装置612および付随するカセット608は、オーバーヘッドレールシステム、例えばガントリークレーンまたは同種のものでカセット積載エリアからイオン交換ステーションまで自動的に運ばれてもよい。カセット移送装置612および付随するカセット608は、ロボットアームでカセット積載エリアからイオン交換ステーションまで運ばれてもよい。あるいは、カセット移送装置612および付随するカセット608は、コンベヤでカセット積載エリアからイオン交換ステーションまで運ばれ、その後、ロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンでコンベヤからイオン交換タンク614まで移送されてもよい。
【0059】
カセット移送装置612および付随するカセットがイオン交換ステーションに運ばれたら、その中に入ったカセット608およびガラス容器900は、カセット608およびガラス容器900をイオン交換タンク614内に浸す前に予熱されてもよい。カセット608は、室温より高く、イオン交換タンク内の溶融塩浴の温度以下の温度まで予熱されてもよい。例えば、ガラス容器は約300℃~500℃の温度まで予熱されてもよい。
【0060】
イオン交換タンク614は、溶融アルカリ塩、例えばKNO3、NaNO3および/またはそれらの組合せなどの溶融塩浴616を含む。溶融塩浴は、約350℃以上および約500℃以下の温度に保たれた100%溶融KNO3であってもよい。しかし、その他の様々な組成および/または温度を有する溶融アルカリ塩浴もガラス容器のイオン交換を促進するために使用されてもよいものと理解されるべきである。
【0061】
この方法は、ガラス容器900をイオン交換タンク614内でイオン交換強化するステップ512をさらに含んでもよい。具体的には、ガラス容器は溶融塩中に浸され、ガラス容器900において所望の圧縮応力および層深さを実現するのに十分な時間そこで保持される。例えば、ガラス容器900は、最大約100μmの層深さを少なくとも約300MPaまたはさらに350MPaの圧縮応力と共に実現するのに十分な時間、イオン交換タンク614内に保持されてもよい。保持時間は、30時間未満またはさらに20時間未満であってもよい。しかし、ガラス容器がタンク614内に保持される時間は、ガラス容器の組成、溶融塩浴616の組成、溶融塩浴616の温度、ならびに所望の層深さおよび所望の圧縮応力に応じて様々であってもよいものと理解されるべきである。
【0062】
イオン交換強化するステップ512の後、ロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンと共にカセット移送装置612を使用して、カセット608およびガラス容器900がイオン交換タンク614から取り出される。イオン交換タンク614から取り出す間、カセット608およびガラス容器900は、イオン交換タンク614の上に吊り下げられ、ガラス容器900内に残っているすべての溶融塩がなくなり、イオン交換タンク614内に戻るように、カセット608は水平軸を中心に回転する。その後、カセット608は、回転してその最初の位置に戻り、ガラス容器は、すすがれる前に徐冷される。
【0063】
次いで、カセット608およびガラス容器900は、カセット移送装置612によってすすぎステーションまで移送される。この移送は、上述のロボットアームまたはオーバーヘッドクレーンで、あるいは、自動コンベヤ、例えばコンベヤベルトまたは同種のもので実施されてもよい。その後に、この方法は、水浴620を含むすすぎタンク618内にカセット608およびガラス容器900を降ろすことによりガラス容器900の表面からすべての過剰な塩を除去するすすぎステップ514を含んでもよい。カセット608およびガラス容器900は、カセット移送装置612に連結しているロボットアーム、オーバーヘッドクレーンまたは同様の装置ですすぎタンク618内に降ろされてもよい。次いで、カセット608およびガラス容器900は、すすぎタンク618から取り出され、すすぎタンク618の上に吊り下げられ、ガラス容器900内に残っているすべてのすすぎ水がなくなり、すすぎタンク618内に戻るように、カセット608は水平軸を中心に回転する。任意選択で、カセット608およびガラス容器900が次の加工ステーションに移動する前に、すすぎ操作が複数回実施されてもよい。
【0064】
本開示の実施形態によれば、カセット608およびガラス容器900は、水浴中に少なくとも2回浸漬されてもよい。例えば、すべての残留アルカリ塩がガラス物品の表面から確実に除去されるように、カセット608は、第1の水浴中に、続いて、第2の異なる水浴中に浸漬されてもよい。第1の水浴からの水は、廃水処理または蒸発装置に送られてもよい。
【0065】
この方法は、カセットローダ610でカセット608からマガジン604を降ろすステップ516をさらに含んでもよい。その後、この方法は、ガラス容器900を洗浄ステーションまで移送するステップ518を含んでもよい。ガラス容器900は、マガジンローダ602でマガジン604から降ろされ、洗浄ステーションまで移送されてもよく、そこで、この方法は、ノズル622から放出された脱イオン水の噴流624でガラス容器を洗浄するステップ520をさらに含んでもよい。脱イオン水の噴流624は圧縮空気と混合されてもよい。
【0066】
任意選択で、この方法は、欠陥、破片、変色および同種のものがないかガラス容器900を検査するステップ(
図7または
図8に図示せず)を含んでもよい。ガラス容器900を検査するステップは、ガラス容器を別の検査エリアまで移送するステップを含んでもよい。
【0067】
本開示の実施形態によれば、この方法は、マガジンローダ602でガラス容器900をコーティングステーションまで移送するステップ521をさらに含んでもよく、そこで低摩擦コーティングがガラス容器900に適用される。コーティングステーションにおいて、この方法は、本明細書に記載の低摩擦コーティングをガラス容器900に適用するステップ522を含んでもよい。低摩擦コーティングを適用するステップ522は、上述の通りカップリング剤層の上にポリマー化学組成物を適用するステップを含んでもよい。低摩擦コーティングを適用するステップ522は、本明細書に記載のポリマー化学組成物を含むポリマー化学組成物コーティング溶液632で満たされたコーティング浸漬タンク630内にガラス容器900を少なくとも部分的に浸すステップを含んでもよい。その後、ポリマー化学組成物溶液は、すべての溶媒を除去するために乾燥される。一例として、ポリマー化学組成物コーティング溶液が上述のNovastrat(登録商標)800を含む場合、このコーティング溶液は、ガラス容器900をオーブンまで運び、ガラス容器を150℃で20分間加熱することにより乾燥することができる。ポリマー化学組成物コーティング溶液が乾燥したら、ポリマー化学組成物の1つ以上の追加の層を適用するために、ガラス容器900がポリマー化学組成物コーティング浸漬タンク630内に(任意選択で)再浸漬されてもよい。低摩擦コーティングを適用するステップ522は、容器の外面の全体にポリマー化学組成物を適用するステップを含んでもよい。あるいは、低摩擦コーティングを適用するステップ522は、容器の外面の一部にポリマー化学組成物を適用するステップを含んでもよい。
【0068】
ポリマー化学組成物コーティング溶液632がガラス容器900に適用されたら、ポリマー化学組成物がガラス容器900上で硬化されてもよい。硬化プロセスは、コーティングプロセスに適用されるポリマー化学組成物コーティングのタイプに依存し、コーティングを熱硬化するステップ、UV光でコーティングを硬化するステップおよび/またはそれらの組合せを含んでもよい。一例として、ポリマー化学組成物コーティングが、ポリイミド、例えば、上述のNovastrat(登録商標)800ポリアミド酸コーティング溶液により生成されたポリイミドを含む場合、ガラス容器900はオーブンまで運ばれ、そこで約5~30分にわたり150℃からおよそ350℃まで加熱される。オーブンからガラス容器を取り出すと、ポリマー化学組成物コーティングは硬化されており、それによって、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器が生産される。先述の通り、ポリマー化学組成物コーティング溶液632がポリマー形態のポリマー化学組成物を含む場合、低摩擦コーティングを適用するステップ522は、ポリマー化学組成物コーティング溶液632を硬化するステップを含んでいなくてもよい。
【0069】
低摩擦コーティングをガラス容器900に適用するステップ522の後、この方法は、コーティングされたガラス容器100を、容器が充填される包装プロセスまで移送するステップ524および/または追加の検査ステーションまで移送するステップを含んでもよい。
【0070】
コーティングされたガラス容器の様々な特性(すなわち、摩擦係数、水平圧縮強度、4点曲げ強度)は、コーティングされたガラス容器がコーティングされたままの状態のとき(すなわち、低摩擦コーティングをガラス容器900に適用するステップ522の後、何らかの追加の処理をせずに)、または1つ以上の加工処理の後、例えば、洗浄、凍結乾燥、発熱物質除去、オートクレーブ処理もしくは同種のものを含むがこれらに限定されない医薬品充填ラインで実施される処理と類似もしくは同一の加工処理の後に測定することができる。
【0071】
発熱物質除去は、発熱物質が物質から除去されるプロセスである。医薬品用パッケージなどのガラス物品の発熱物質除去は、サンプルに適用される熱処理により実施することができ、この熱処理では、サンプルが一定の時間、高温に加熱される。例えば、発熱物質除去は、ガラス容器を約250℃~約380℃の間の温度に20分、30分、40分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間および72時間を含むがこれらに限定されない約30秒~約72時間の時間加熱するステップを含んでもよい。熱処理後、ガラス容器は室温まで冷却される。医薬品産業において一般に使用される従来の発熱物質除去条件の1つは、約250℃の温度で約30分間の熱処理である。しかし、より高い温度が使用される場合、熱処理の時間を短縮できることが企図される。コーティングされたガラス容器は、本明細書に記載の通り、一定の時間、高温に曝露されてもよい。本明細書に記載の高温および加熱時間は、ガラス容器の発熱物質除去に十分かもしれないし、十分でないかもしれない。しかし、本明細書に記載の温度および加熱時間の一部は、コーティングされたガラス容器、例えば本明細書に記載のコーティングされたガラス容器の脱水素に十分であるものと理解されるべきである。例えば、本明細書に記載の通り、コーティングされたガラス容器は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度に30分間曝露されてもよい。
【0072】
本明細書において使用されるとき、凍結乾燥条件(すなわち、凍結乾燥ステップ)は、タンパク質を含む液体でサンプルを充填し、次いで-100℃で凍結させ、続いて水を真空下約-15℃で約20時間昇華させるプロセスを指す。
【0073】
本明細書において使用されるとき、オートクレーブ条件は、サンプルを約100℃で約10分間水蒸気パージし、その後、サンプルを約121℃の環境に曝露する約20分の休止期間が続き、その後、約121℃で約30分熱処理することを指す。
【0074】
低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部の摩擦係数(μ)は、同じガラス組成物から生成されたコーティングされていないガラス容器の表面の摩擦係数より低くなり得る。摩擦係数(μ)は、2つの表面間の摩擦の定量的な測定値であり、表面粗さ、ならびにこれらに限定されないが温度および湿度などの環境条件を含む、第1の表面および第2の表面の機械的特性および化学的特性に応じる。本明細書において使用されるとき、コーティングされたガラス容器100の摩擦係数の測定値は、第1のガラス容器の外面(約16.00mm~約17.00mmの間の外径を有する)と、第1のガラス容器と同一の第2のガラス容器の外面との間の摩擦係数として報告され、ここで、第1のガラス容器および第2のガラス容器は、同じ本体および同じコーティング組成物(適用された場合)を有し、製作前、製作中および製作後に同じ環境に曝露されたものである。本明細書に特に記載のない限り、摩擦係数は、本明細書に記載の通り、バイアル・オン・バイアル試験治具で測定された、30Nの垂直荷重で測定された最大摩擦係数を指す。
【0075】
本明細書に記載の通り、ガラス容器(コーティングされたものとコーティングされていないものの両方)の摩擦係数は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる、Corning,Incorporatedに属する米国特許出願公開第2013/0224407号明細書に詳細に記載されているバイアル・オン・バイアル試験治具で測定される。
【0076】
本開示の実施形態によれば、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部は、同様のコーティングされたガラス容器に比べて、バイアル・オン・バイアル治具で決定される約0.7以下の摩擦係数を有していてもよい。低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部は、約0.6以下、または約0.5以下、または約0.4以下またはさらに約0.3以下の摩擦係数を有していてもよい。約0.7以下の摩擦係数を有するコーティングされたガラス容器は一般に、摩擦による損傷に対する耐性の改善を示し、その結果、改善された機械的特性を有する。例えば、(低摩擦コーティングを有していない)従来のガラス容器は、0.7超の摩擦係数を有することがある。本開示の実施形態によれば、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部は、凍結乾燥条件への曝露後および/またはオートクレーブ条件への曝露後、約0.7以下(約0.6以下、または約0.5以下、または約0.4以下またはさらに約0.3以下など)の摩擦係数を有する場合もある。低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後および/またはオートクレーブ条件への曝露後、約30%を超えて増加することはない。例えば、低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後および/またはオートクレーブ条件への曝露後、約25%、または約20%、または約15%、またはさらに約10%を超えて増加することはない。低摩擦コーティングを有するコーティングされたガラス容器の一部の摩擦係数は、凍結乾燥条件への曝露後および/またはオートクレーブ条件への曝露後、増加することは全くない。
【0077】
本明細書に記載のコーティングされたガラス容器は、ある水平圧縮強度を有する。水平圧縮強度は、本明細書に記載の通り、ガラス容器の長軸と平行に配向した2つの平行なプラテンの間にコーティングされたガラス容器100を水平に配置することにより測定される。次いで、機械的荷重がコーティングされたガラス容器100にガラス容器の長軸に対して垂直な方向にプラテンによって加えられる。バイアルの圧縮における荷重速度は0.5インチ/分(1.27cm/分)であり、これは、プラテンが0.5インチ/分(1.27cm/分)の速度で互いに向かって移動することを意味する。水平圧縮強度は、25℃および相対湿度50%で測定される。水平圧縮強度の測定値は、選択された垂直圧縮荷重での破壊確率として与えられる。本明細書において使用されるとき、水平圧縮下で最低50%のサンプルにおいてガラス容器が破裂した場合に破壊が起きたものとする。本明細書に記載のコーティングされたガラス容器は、同じガラス組成を有するコーティングされていないバイアルよりも少なくとも10%、20%、またはさらに30%高い水平圧縮強度を有することができる。
【0078】
水平圧縮強度測定は、擦過されたガラス容器においても実施することができる。具体的には、上述の試験治具を操作することにより、コーティングされたガラス容器の外面122の損傷、例えば、コーティングされたガラス容器100の強度を弱める表面の引っ掻き傷または擦傷を作り出すことができる。次いで、ガラス容器に上述の水平圧縮法が施され、ここでは、2つのプラテンの間に容器が置かれ、引っ掻き傷はプラテンと平行に外側に向いている。引っ掻き傷は、バイアル・オン・バイアル治具により加えられる選択された垂直圧力および引っ掻き傷の長さにより特徴付けることができる。特に定めのない限り、水平圧縮法における擦過されたガラス容器の引っ掻き傷は、30Nの垂直荷重で作り出された20mmの引っ掻き傷の長さにより特徴付けられる。
【0079】
コーティングされたガラス容器は、熱処理後に水平圧縮強度について評価することができる。熱処理は、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の温度への30分間の曝露であってもよい。本明細書に記載のコーティングされたガラス容器の水平圧縮強度は、上述の熱処理などの熱処理に曝され、次いで上述の通り擦過された後、約20%、約30%、またはさらに約40%を超えて低下することはない。
【0080】
本明細書に記載のコーティングされたガラス物品は、最低でも260℃の温度まで30分間加熱した後、熱的に安定になる。本明細書において使用されるとき、「熱的に安定な」という語句は、曝露後、コーティングされたガラス物品の機械的特性、具体的には摩擦係数および水平圧縮強度が影響を受けたとしても最小限の影響のみであるように、ガラス物品に適用された低摩擦コーティングが、高温への曝露後、ガラス物品の表面上で実質的に無傷のままであることを意味する。これは、低摩擦コーティングが、高温への曝露後もガラスの表面に付着したままであり、機械的な攻撃、例えば、擦過、衝撃および同種のものからガラス物品を引き続き保護していることを示す。
【0081】
本開示の実施形態によれば、コーティングされたガラス物品が、指定の温度まで加熱し、その温度で指定の時間保った後、摩擦係数基準および水平圧縮強度基準の両方を満たす場合、コーティングされたガラス物品は熱的に安定であると見なされる。摩擦係数基準が満たされているか判断するために、第1のコーティングされたガラス物品の摩擦係数が、上述の試験治具および印加荷重30Nを使用して、受け入れたままの状態で(すなわち、何らかの熱曝露の前に)決定される。第2のコーティングされたガラス物品(すなわち、第1のコーティングされたガラス物品と同じガラス組成および同じコーティング組成を有するガラス物品)は、規定の条件下で熱曝露され、室温まで冷却される。その後、コーティングされたガラス物品を印加荷重30Nで擦過して、およそ20mmの長さを有する擦傷(すなわち、「引っ掻き傷」)を生じる試験治具を使用して、第2のガラス物品の摩擦係数が決定される。第2のコーティングされたガラス物品の摩擦係数が0.7未満であり、擦過領域内の第2のガラス物品のガラスの表面に観察可能な損傷が全くない場合は、低摩擦コーティングの熱安定性を判断するための摩擦係数基準は満たされている。本明細書において使用される「観察可能な損傷」という用語は、ガラス物品の擦過領域内のガラスの表面が、LED光源またはハロゲン光源を使用してノマルスキーまたは微分干渉コントラスト(DIC)分光顕微鏡で100倍の倍率で観察されたとき、長さ0.5cmの擦過領域当たりに6個未満のガラスの割れを含むことを意味する。ガラスの割れまたはガラスの割れ目の標準的な定義は、G.D.Quinn、「NIST Recommended Practice Guide:Fractography of Ceramics and Glasses」、NIST special publication 960-17(2006)に記載されている。
【0082】
水平圧縮強度基準が満たされているか判断するために、第1のコーティングされたガラス物品は、上述の試験治具内で30Nの荷重下で擦過され、20mmの引っ掻き傷が形成される。次いで、第1のコーティングされたガラス物品は、本明細書に記載の通り、水平圧縮試験が施され、第1のコーティングされたガラス物品の残留強度が決定される。第2のコーティングされたガラス物品(すなわち、第1のコーティングされたガラス物品と同じガラス組成および同じコーティング組成を有するガラス物品)は、規定の条件下で熱曝露され、室温まで冷却される。その後、第2のコーティングされたガラス物品は、試験治具内で30Nの荷重下で擦過される。次いで、第2のコーティングされたガラス物品は、本明細書に記載の通り、水平圧縮試験が施され、第2のコーティングされたガラス物品の残留強度が決定される。第2のコーティングされたガラス物品の残留強度が、第1のコーティングされたガラス物品と比べて約20%を超えて低下しない場合は、低摩擦コーティングの熱安定性を判断するための水平圧縮強度基準は満たされている。
【0083】
本開示の実施形態によれば、コーティングされたガラス容器を最低でも約260℃の温度に約30分間曝露した後、摩擦係数基準および水平圧縮強度基準が満たされる(すなわち、コーティングされたガラス容器が、最低でも約260℃の温度で約30分間、熱的に安定である)場合、コーティングされたガラス容器は熱的に安定であると見なされる。熱安定性は、約260℃~最高約400℃の温度で評価することもできる。例えば、コーティングされたガラス容器は、最低でも約270℃、または約280℃、または約290℃、または約300℃、または約310℃、または約320℃、または約330℃、または約340℃、または約350℃、または約360℃、または約370℃、または約380℃、または約390℃、またはさらに約400℃の温度で約30分間、基準が満たされる場合、熱的に安定であると見なすことができる。
【0084】
本明細書に開示のコーティングされたガラス容器は、ある範囲の温度にわたって熱的に安定である場合もあり、これは、コーティングされたガラス容器が、範囲内のそれぞれの温度で摩擦係数基準および水平圧縮強度基準を満たすことにより、熱的に安定であることを意味する。例えば、コーティングされたガラス容器は、最低でも約260℃~約400℃以下の温度、または最低でも約260℃~約350℃、または最低でも約280℃~約350℃以下の温度、または最低でも約290℃~約340℃、または約300℃~約380℃、またはさらに約320℃~約360℃で熱的に安定である場合もある。
【0085】
コーティングされたガラス容器100が垂直力30Nで同一のガラス容器により擦過された後、コーティングされたガラス容器100の擦過領域の摩擦係数は、同じ場所で垂直力30Nで同一のガラス容器によりさらに擦過された後、約20%を超えて増加することはなく、または増加することは全くない。例えば、コーティングされたガラス容器100が垂直力30Nで同一のガラス容器により擦過された後、コーティングされたガラス容器100の擦過領域の摩擦係数は、同じ場所で垂直力30Nで同一のガラス容器によりさらに擦過された後、約15%またはさらに10%を超えて増加することはなく、または全く増加しない。しかし、コーティングされたガラス容器100のすべての実施形態がそのような特性を示すわけではない。
【0086】
質量損失率は、コーティングされたガラス容器が選択された高温に選択された時間曝露されたときコーティングされたガラス容器100から遊離される揮発物の量に関するコーティングされたガラス容器100の測定可能な特性を指す。質量損失率は一般に、熱曝露に起因するコーティングの機械的劣化を示す。コーティングされたガラス容器のガラス本体は、報告された温度では測定可能な質量損失率を示さないため、質量損失率試験では、本明細書に詳細に記載の通り、ガラス容器に適用されている低摩擦コーティングについてのみ質量損失率データが得られる。複数の要因が質量損失率に影響し得る。例えば、コーティングから除去することができる有機材料の量が質量損失率に影響し得る。ポリマー中の炭素骨格および側鎖が分解されると、コーティングの除去は理論上100%になる。有機金属ポリマー材料は、典型的には、その全有機成分を失うが、無機成分は後に残る。したがって、質量損失率の結果は、コーティングのうちのどのくらいが有機性および無機性であるか(例えば、コーティングのシリカのパーセンテージ)に基づいて理論的な完全酸化に対して規格化される。
【0087】
質量損失率を決定するために、コーティングされたサンプル、例えばコーティングされたガラスバイアルは、コーティングを乾燥するために、初めに150℃まで加熱され、この温度で30分間保持されて、H2Oがコーティングから効果的に追い出される。次いで、サンプルは、空気などの酸化性環境中、10℃/分の昇温速度で150℃から350℃まで加熱される。質量損失率を決定する目的で、150℃から350℃までに収集されたデータのみが考慮される。本明細書に記載のコーティングされたガラス容器は、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度まで加熱されたとき、その質量の約5%未満の質量損失率を有することができる低摩擦コーティングを含む。例えば、低摩擦コーティングは、約10℃/分の昇温速度で150℃から350℃の温度まで加熱されたとき、約3%未満、または約2%未満、または約1.5%未満、またはさらに約1%未満の質量損失率を有することができる。
【0088】
質量損失率の結果は、本明細書に記載の通り、150℃から350℃までの10℃/分の昇温温度などの熱処理前後にコーティングされたガラス容器の重量が比較される手順に基づく。熱処理前のバイアルと熱処理後のバイアルとの間の重量差がコーティングの重量損失であり、これは、処理前のコーティングされたガラス容器とコーティングされていないガラス容器の重量を比較することによりコーティングの熱処理前の重量(容器のガラス本体を含まない、予備加熱ステップ後の重量)が分かるようなコーティングの重量損失割合として標準化することができる。あるいは、コーティングの全質量は、全有機炭素試験または他の同様の手段により決定することができる。
【0089】
コーティングされた容器の透明度および色は、分光光度計を使用して400~700nmの間の波長の範囲内で容器の光透過率を測定することにより評価することができる。測定は、光線が、まず容器に入るとき、次に容器を出るときの2回、低摩擦コーティングを通過するように、光線が容器壁に対して垂直に向けられるように実施される。本明細書に記載のコーティングされたガラス容器を通しての光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス容器を通しての光透過率の約55%以上であってもよい。本明細書に記載の通り、光透過率は、本明細書に記載の熱処理などの熱処理前または熱処理後に測定することができる。例えば、約400nm~700nmの各波長について、光透過率は、コーティングされていないガラス容器を通しての光透過率の約55%以上であってもよい。コーティングされたガラス容器を通しての光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス容器を通しての光透過率の約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%またはさらに約90%以上であってもよい。
【0090】
本明細書に記載の通り、光透過率は、本明細書に記載の熱処理などの環境処理前または環境処理後に測定することができる。例えば、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃または約400℃の30分間の熱処理後、または凍結乾燥条件への曝露後もしくはオートクレーブ条件への曝露後、コーティングされたガラス容器を通しての光透過率は、約400nm~約700nmの波長について、コーティングされていないガラス容器を通しての光透過率の約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%またはさらに約90%以上であってもよい。
【0091】
本明細書に記載のコーティングされたガラス容器100は、任意の角度で見たときヒトの裸眼には無色透明と知覚され、または低摩擦コーティング120は、低摩擦コーティング120が、Aldrichから市販されているポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4’-オキシジアニリン)アミド酸から生成されたポリイミドを含むときなど、知覚できる色合いを有することができる。
【0092】
本明細書に記載のコーティングされたガラス容器100は、粘着ラベルが貼付け可能な低摩擦コーティング120を有することができる。すなわち、コーティングされたガラス容器100は、粘着ラベルがしっかりと付着するように、コーティングされた表面上に粘着ラベルを貼り付けることができる。しかし、粘着ラベルを付着することができる能力は、本明細書に記載のコーティングされたガラス容器100のすべての実施形態の要件ではない。
【実施例】
【0093】
ある例示的な実施形態およびその特定の実施形態に関して本開示の実施形態を以下でさらに説明する。これらは単なる例示であり、限定するためのものではない。
【0094】
実施例1
カップリング剤層を有するコーティングされたガラス管を生成するために、ガラス管を流量50SCCMおよび温度約380℃のカップリング剤溶液と約30秒間接触させた。カップリング剤層はSnO
2層であった。コーティングされたガラス管からガラス物品を生成し、これは、この実施例において、
図1に示したガラス容器のような形状を有するバイアルであった。ガラスバイアル上のSnO
2層の1.00μmスケールのSEM像を
図9に示し、ガラスバイアル上のSnO
2層の500nmスケールのSEM像を
図10に示した。画像を見て分かる通り、SnO
2層は、ガラス物品の表面上の不連続層として形成している。
【0095】
実施例2
実施例1のガラス物品にしたがって生成されたコーティングされたガラス物品およびコーティングされていないガラス管から生成されたコーティングされていないガラス物品を、約490℃に保たれた0.35重量%ケイ酸を含むKNO
3塩浴中で約5時間、別々にイオン交換強化した。この実施例において、ガラス物品は、
図1に示したガラス容器のような形状を有するバイアルであった。イオン交換プロセスの完了後、層深さを決定する3回の測定および圧縮応力を決定する3回の測定を、コーティングされたバイアルのうちの2つおよびコーティングされていないバイアルのうちの2つに対して実施し、平均層深さおよび平均圧縮応力を決定した。コーティングされていないバイアルの平均圧縮応力は448.42±9.36MPaと決定され、コーティングされたバイアルの平均圧縮応力は471.27±6.82MPaと決定された。コーティングされていないバイアルの平均層深さは103.51±1.23μmと決定され、コーティングされたバイアルの平均層深さは75.09.27±1.10μmと決定された。
【0096】
予想外にも、ガラス物品のイオン交換強化が、ガラス物品の表面上に配置されたカップリング剤層によって実現できたことが認められた。いずれの特定の理論によっても制限されることを望むものではないが、不連続なカップリング剤層の分離した別個の島の間の空いた空間により、ガラス物品のイオン交換強化が容易になると考えられる。加えて、コーティングされたガラスバイアルによって、コーティングされていないガラスバイアルより大きい圧縮応力が実現されたことは予想外であった。コーティングされていないガラスバイアルによって実現される層深さ未満の層深さがコーティングされたガラスバイアルによって実現されたことが本明細書において認められる。従来、強化されたガラス物品は、「深い層深さ」と見なされる約90μm超の層深さと共に約20μm超の層深さを有するものである。したがって、本明細書において形成されたコーティングされたガラスバイアルの層深さは、従来の強化されたガラス物品の層深さと少なくとも同等であるか、またはより良い。
【0097】
実施例3
実施例1のガラス物品にしたがって生成されたコーティングされたガラス物品およびコーティングされていないガラス管から生成されたコーティングされていないガラス物品を、犠牲材料を含む溶液中で浸漬コーティングした。この溶液は0.25重量%の犠牲材料を含んでおり、この犠牲材料はPolysorbate 80であった。この実施例において、ガラス物品は、
図1に示したガラス容器のような形状を有するバイアルであった。次いで、このガラスバイアルを約120℃の温度のオーブン内に約10分間置き、バイアルの表面から水を揮発させた。
【0098】
次いで、本明細書に記載のバイアル・オン・バイアル試験治具を使用して、ガラスバイアルの摩擦係数を決定した。荷重を0Nから160Nまで徐々に増加させながら、ガラス物品をそれぞれ数回引っ掻いた。コーティングされていないガラスバイアルは、0N~60Nの荷重範囲内で0.06±0.04の平均摩擦係数を示し、60N~110Nの荷重範囲内で0.13±0.08の平均摩擦係数を示し、110N~160Nの荷重範囲内で0.28±0.14の平均摩擦係数を示した。一方、コーティングされたガラスバイアルは、0N~160Nの全荷重範囲にわたって0.10±0.006の平均摩擦係数を示した。
【0099】
コーティングされたガラスバイアルは、コーティングされていないガラスバイアルより低い平均摩擦係数を示した。したがって、本明細書に記載のカップリング剤層は、本出願に上述の低摩擦コーティングに概して関連する有利な特性を与えることが明らかになった。加えて、カップリング剤層を犠牲材料でコーティングすると、コーティングされたガラス管からコーティングされたガラス物品を生成する前にコーティングされたガラス管を移動する、輸送する、かつ/または取り扱うときのコーティングされたガラス管の損傷許容性が向上する。そのように損傷許容性が向上すると、本明細書に記載のカップリング剤層によって、コーティングされたガラス管からコーティングされたガラス物品を生成した後の低摩擦コーティングに概して関連する有利な特性が維持される。
【0100】
本開示には限られた数の実施形態が記載されているが、本開示の恩恵を受ける当業者なら、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態を考案できることを理解するであろう。
【0101】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0102】
実施形態1
カップリング剤層を有するコーティングされたガラス管を生成するために、ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップであって、前記カップリング剤が無機材料を含む、ステップ;
前記カップリング剤層を少なくとも部分的に覆う犠牲層を形成するために、前記コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップ;
前記コーティングされたガラス管を少なくとも1種の犠牲材料と接触させるステップに続いて、前記コーティングされたガラス管から少なくとも1つのコーティングされたガラス容器を生成するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器が前記カップリング剤層を備える、ステップ;
前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器をイオン交換塩浴中でイオン交換強化するステップ;および
低摩擦コーティングを形成するために、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器にポリマー化学組成物溶液を適用するステップ
を含む、低摩擦コーティングを有するガラス容器を生成するための方法。
【0103】
実施形態2
前記ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップが、前記カップリング剤を含む希釈溶液中に前記ガラス管を沈めるステップを含む、実施形態1記載の方法。
【0104】
実施形態3
前記ガラス管をカップリング剤溶液と接触させるステップが、前記カップリング剤を含む希釈溶液の化学蒸着を含む、実施形態1または2記載の方法。
【0105】
実施形態4
前記カップリング剤層が、約1μm未満の厚さを備える、実施形態1から3までのいずれか1つ記載の方法。
【0106】
実施形態5
前記カップリング剤層が不連続層を備える、実施形態1から4までのいずれか1つ記載の方法。
【0107】
実施形態6
前記犠牲材料が滑剤を含む、実施形態1から5までのいずれか1つ記載の方法。
【0108】
実施形態7
前記犠牲材料が、水溶性材料、非水溶性材料および脂肪酸からなる群から選択される、実施形態1から6までのいずれか1つ記載の方法。
【0109】
実施形態8
前記コーティングされたガラス管から少なくとも1つのコーティングされたガラス容器を生成するステップが、前記コーティングされたガラス管から前記犠牲層を除去するステップをさらに含む、実施形態1から7までのいずれか1つ記載の方法。
【0110】
実施形態9
前記無機材料が、チタン酸塩、ジルコン酸塩、スズ、チタンおよびこれらの酸化物からなる群から選択される、実施形態1から8までのいずれか1つ記載の方法。
【0111】
実施形態10
前記ガラス管が、イオン交換可能なガラス組成物を含む、実施形態1から9までのいずれか1つ記載の方法。
【0112】
実施形態11
前記ガラス管がType 1Bガラス組成物を含む、実施形態1から10までのいずれか1つ記載の方法。
【0113】
実施形態12
前記カップリング剤層が、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器の外面と直接接触している、実施形態1から11までのいずれか1つ記載の方法。
【0114】
実施形態13
前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器にポリマー化学組成物溶液を適用するステップが、前記カップリング剤層を前記ポリマー化学組成物溶液と直接接触させるステップを含む、実施形態1から12までのいずれか1つ記載の方法。
【0115】
実施形態14
前記ポリマー化学組成物が、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリフェニル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリビスチアゾール、有機充填材または無機充填材ありおよびなしの多環芳香族複素環式ポリマー、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、実施形態1から13までのいずれか1つ記載の方法。
【0116】
実施形態15
前記ポリマー化学組成物溶液が重合性モノマーを含み、前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器にポリマー化学組成物溶液を適用するステップが、前記ポリマー化学組成物溶液を硬化するステップをさらに含む、実施形態1から14までのいずれか1つ記載の方法。
【0117】
実施形態16
前記ポリマー化学組成物溶液がポリマー組成物を含む、実施形態1から15までのいずれか1つ記載の方法。
【0118】
実施形態17
前記イオン交換塩浴が溶融塩を含む、実施形態1から16までのいずれか1つ記載の方法。
【0119】
実施形態18
前記溶融塩が、KNO3、NaNO3およびそれらの組合せからなる群から選択される、実施形態17記載の方法。
【0120】
実施形態19
前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器をイオン交換強化するステップが、前記少なくとも1つのガラス容器内の最大約50μmの層深さ、および少なくとも約300MPaの圧縮応力を生じるステップを含む、実施形態1から18までのいずれか1つ記載の方法。
【0121】
実施形態20
前記少なくとも1つのコーティングされたガラス容器をイオン交換強化するステップが、前記少なくとも1つのガラス容器を前記イオン交換塩浴中に約30時間未満保持するステップを含む、実施形態1から19までのいずれか1つ記載の方法。
【0122】
実施形態21
前記コーティングされたガラス容器が、バイアル、アンプル、カートリッジおよびシリンジ本体からなる群から選択される、実施形態1から20までのいずれか1つ記載の方法。
【0123】
実施形態22
カップリング剤層を備えるコーティングされたガラス物品であって、医薬品用ガラスを含むガラス管であり、前記カップリング剤が無機材料を含む、コーティングされたガラス物品。
【0124】
実施形態23
前記カップリング剤層が、約1μm未満の厚さを備える、実施形態22記載のコーティングされたガラス物品。
【0125】
実施形態24
前記カップリング剤層が不連続層を備える、実施形態22または23記載のコーティングされたガラス物品。
【0126】
実施形態25
前記カップリング剤層を少なくとも部分的に覆う犠牲層をさらに備える、実施形態22から24までのいずれか1つ記載のコーティングされたガラス物品。
【0127】
実施形態26
前記犠牲層が、滑剤を含む犠牲材料を含む、実施形態25記載のコーティングされたガラス物品。
【0128】
実施形態27
前記犠牲層が、水溶性材料、非水溶性材料および脂肪酸からなる群から選択される犠牲材料を含む、実施形態25記載のコーティングされたガラス物品。
【0129】
実施形態28
前記無機材料が、チタン酸塩、ジルコン酸塩、スズ、チタンおよびこれらの酸化物からなる群から選択される、実施形態22から27までのいずれか1つ記載のコーティングされたガラス物品。
【0130】
実施形態29
前記医薬品用ガラスが、イオン交換可能なガラス組成物を含む、実施形態22から28までのいずれか1つ記載のコーティングされたガラス物品。
【0131】
実施形態30
前記医薬品用ガラスがType 1Bガラス組成物を含む、実施形態22から29までのいずれか1つ記載のコーティングされたガラス物品。