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特許7402799サイズの異なるカートリッジを利用可能な注射器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】サイズの異なるカートリッジを利用可能な注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/24 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
A61M5/24 500
A61M5/24 502
A61M5/24 540
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020534352
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018066660
(87)【国際公開番号】W WO2019126421
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】62/609,740
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518123372
【氏名又は名称】ウェスト ファーマ サービシーズ イスラエル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】バー‐エル・ヨッシ
(72)【発明者】
【氏名】イサコフ・イゴル
(72)【発明者】
【氏名】バーチェン・リオル
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513509(JP,A)
【文献】特表2008-508950(JP,A)
【文献】特表2013-542807(JP,A)
【文献】国際公開第2012/032411(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0152780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
前記本体に移動可能に取り付けられた注射針と、
第1カートリッジ、および、前記第1カートリッジに比べて基端部の径が大きく、先端部の径が小さい第2カートリッジを個別に中に収めることのできるサイズである前記本体内の通路と、
前記通路内に取り付けられた第1アダプター環と、
前記通路内において前記第1アダプター環よりも基端側に取り付けられた第2アダプター環と
を備えた注射器であって、
前記注射針は退避位置と注射位置との間で変位可能であり、
前記通路は、
前記第1カートリッジおよび前記第2カートリッジが個別に中に収められるサイズである基端開口部と、
前記通路の先端に取り付けられ、前記第1カートリッジおよび前記第2カートリッジと個別に結合可能であって、前記第1カートリッジおよび前記第2カートリッジを個別に前記注射針に連通させるように構成されている結合器と
を含み、
前記第1アダプター環は、前記第1カートリッジおよび前記第2カートリッジを個別に中に受け入れ、前記第1カートリッジが前記通路内に挿入されたときには前記第1カートリッジの先端部と結合して前記第1カートリッジを前記通路内に安定化させるように構成されており、
前記第2アダプター環は、前記第1カートリッジおよび前記第2カートリッジを個別に中に受け入れ、前記第2カートリッジが前記通路内に挿入されたときには前記第2カートリッジの基端部と結合して前記第2カートリッジを前記通路内に安定化させるように構成されている
ことを特徴とする注射器。
【請求項2】
前記第1アダプター環は前記第1カートリッジを前記結合器と実質的に同軸に並べ、前記第2アダプター環は前記第2カートリッジを前記結合器と実質的に同軸に並べる、請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記第1アダプター環または前記第2アダプター環が前記通路内に取り外し可能に取り付けられている、請求項1に記載の注射器。
【請求項4】
前記第1アダプター環と前記第2アダプター環とはそれぞれ、円盤と、前記円盤から前記通路内に向かって内周方向へ突出している複数のリブとを含み、
前記複数のリブは周方向に間隔を置いて並んでおり、
前記第1アダプター環のリブは、前記第1カートリッジと結合するように構成されており、
前記第2アダプター環のリブは、前記第2カートリッジと結合するように構成されている、
請求項1に記載の注射器。
【請求項5】
前記結合器は、
前記通路内に突出してカートリッジに突き刺さる針であって、前記注射針に連通しているカートリッジ刺針
を含む、請求項1に記載の注射器。
【請求項6】
前記第1アダプター環または前記第2アダプター環が、円盤と、前記円盤から突出した片持ち梁状の複数の指とを含み、
前記複数の指は、
周方向に間隔を置いて並んでおり、
力を受けていないときには、内周方向へ突出して前記カートリッジ刺針を覆う閉位置にあり、
前記第1または第2カートリッジが前記円盤を通過するときには、前記第1または第2カートリッジによって互いに対して先端方向へ、かつ外周方向へ折り曲げられることにより、前記カートリッジ刺針を露出させる開位置へ移行可能である、
請求項5に記載の注射器。
【請求項7】
前記複数の指は前記閉位置では、壊れやすい部材によって互いに接続されており、
前記壊れやすい部材により、前記複数の指を互いから引き離して前記閉位置から前記開位置へ折り曲げるのに超えねばならない破壊力が定まっている、
請求項6に記載の注射器。
【請求項8】
前記壊れやすい部材は壊れやすい環を含む、請求項7に記載の注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカートリッジ装填型注射器の全般に関し、特に、サイズの異なるカートリッジの使用に対応した注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
薬用注射器等の注射器では、投与対象の物質が中に収められたカートリッジが装填されていることが典型的である。カートリッジは、ユーザーに届けられる前に装填されていても良く、ユーザーによって使用前に装填されてもよい。薬用カートリッジは様々なサイズが製造販売されている。さらに、同じ工程で製造されたカートリッジでさえ、サイズにはばらつき、すなわち製造誤差がありがちである。製造工程とカートリッジの形成に使用される物質とのうち1以上が製造誤差に影響する。たとえば、ガラス製のカートリッジは一般に低い精度で形成されるので、カートリッジ間のばらつきが大きいのに対し、ポリマー成型で形成されるカートリッジは一般に高い精度で形成されるので、カートリッジ間のばらつきが小さい。それでも製薬工業では、依然としてガラス製のカートリッジが広く使われている。
【0003】
従来の注射器の欠点の1つは、それらが一般に特定のカートリッジを扱うように製造されていることにある。さらに、特定の注射器に精度の低いカートリッジが使われるにもかかわらず、所定のサイズからのばらつきが過大であると、その注射器には使用することができない。
【0004】
それ故、サイズの異なる複数のカートリッジ、および製造誤差が比較的大きくなりがちなカートリッジを使用可能な注射器を製造することが便利であろう。
【発明の概要】
【0005】
簡単に述べれば、本発明の1つの観点は次の注射器を対象としている。この注射器は、本体と、その本体に移動可能に取り付けられた注射針とを含む。注射針は退避位置と注射位置との間で変位可能である。本体内の通路は、第1カートリッジ、または、それとは径の大きさが異なる第2カートリッジを中に収めることのできるサイズである。通路は、第1カートリッジまたは第2カートリッジが中に収められる基端開口部と、通路の先端に取り付けられた結合器とを含む。結合器は第1カートリッジまたは第2カートリッジと結合可能であり、第1カートリッジまたは第2カートリッジを注射針に連通させる。通路内には少なくとも2つのアダプター環が取り付けられている。第1アダプター環は、第1カートリッジまたは第2カートリッジが通路内に挿入されたときに第1カートリッジまたは第2カートリッジを中に受け入れ、第1カートリッジの一部と結合して第1カートリッジを通路内に安定化させる。第2アダプター環は、第1カートリッジまたは第2カートリッジが通路内に挿入されたときに第1カートリッジまたは第2カートリッジを中に受け入れ、第2カートリッジの一部と結合して第2カートリッジを通路内に安定化させる。
【0006】
本発明の別の観点は次の注射器を対象としている。この注射器は、本体と、その本体に移動可能に取り付けられた注射針とを含む。注射針は退避位置と注射位置との間で変位可能である。カートリッジを中に受け入れる本体内の通路は、そのカートリッジが中に収められる基端開口部と、通路の先端に取り付けられた結合器とを含む。結合器はカートリッジと結合可能であり、カートリッジを注射針に連通させる。通路内にはアダプター環が取り付けられており、カートリッジが通路内に挿入されたときにカートリッジを中に受け入れ、カートリッジの一部と結合してカートリッジを通路内に安定化させる。アダプター環は、円盤と、その円盤から突出した片持ち梁状の複数の指とを含む。複数の指は周方向に間隔を置いて並んでおり、力を受けていないときには、内周方向へ突出して結合器を覆う閉位置にあり、カートリッジが円盤を通過するときには、カートリッジによって互いに対して先端方向へ、かつ外周方向へ折り曲げられることにより、結合器を露出させる開位置へ移行可能である。
【0007】
本発明の別の観点は次の注射装置キットを対象としている。この注射装置キットは注射器と複数のアダプター環とを含む。注射器は、本体と、その本体に移動可能に取り付けられた注射針とを含む。注射針は退避位置と注射位置との間で変位可能である。本体内の通路は、径の大きさが異なる複数のカートリッジのいずれをも収めることのできるサイズである。通路は、カートリッジが中に収められる基端開口部と、通路の先端に取り付けられたカートリッジ刺針とを含む。カートリッジ刺針はカートリッジに突き刺さる針であり、通路内に突出しており、注射針に連通していてカートリッジと結合可能であり、カートリッジを注射針に連通させる。複数のアダプター環はそれぞれ、通路内に取り外し可能に取り付け可能である。各アダプター環は、径の大きさが異なる複数のカートリッジのいずれかを中に受け入れ、そのカートリッジの一部と結合してそのカートリッジを通路内に安定化させ、そのカートリッジをカートリッジ刺針と実質的に同軸に並べる。各アダプター環が通路内に取り付けられることにより、そのアダプター環に対応するカートリッジを注射器に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
以下に述べる発明の観点の詳細な説明は、添付の図面と関連付けて読むことにより、よりよく理解されるであろう。ただし、図示されている詳細な配置と手段とに限定されるわけではないことは、理解されるべきである。
【0009】
図1】本発明の実施形態による装着型注射器の上面と正面とを含む斜視図である。
図2図1の線分2-2に沿った、図1の注射器の断面図である。起動ボタン機構が非起動位置にあり、注射器が退避位置にある。
図3図1の線分2-2に沿った、図1の注射器の断面図である。起動ボタン機構が起動位置にあり、注射器が注射位置にある。
図4A図1の線分4-4に沿った、図1の注射器の部分断面図である。注射器の中にアダプター環が取り付けられており、その片持ち梁状の指が閉位置にある。
図4B図4Aの一部の拡大図である。
図5図4Aの一部の拡大図である。アダプター環の片持ち梁状の指が開位置にあって、注射器のカートリッジ刺針がカートリッジに刺さっている。
図6A】発明によるアダプター環の第1構造の斜視図である。そのアダプター環の片持ち梁状の指が閉位置にある。
図6B図6Aのアダプター環の斜視図である。そのアダプター環の片持ち梁状の指が開位置にある。
図7A】発明によるアダプター環の第2構造の斜視図である。そのアダプター環の片持ち梁状の指が閉位置にあり、それらの指を無傷の壊れやすい環が接続している。
図7B図7Aのアダプター環の斜視図である。そのアダプター環の片持ち梁状の指が開位置にあり、壊れやすい環が切れている。
図8A図1の注射器のカートリッジドアの模式図である。そのカートリッジドアの中にはカートリッジが挿入されており、カートリッジドアの内側の通路内に取り付けられた2つのアダプター環のうち基端側のものによって安定化している。
図8B図1の注射器のカートリッジドアの模式図である。そのカートリッジドアの中には、径の大きさの異なるカートリッジが挿入されており、内側の通路内に取り付けられた2つのアダプター環のうち先端側のものによって安定化している。
図9A図1の注射器のカートリッジドアの模式図である。そのカートリッジドアの中にはカートリッジが挿入されており、内側の通路によって安定化している。
図9B図1の注射器のカートリッジドアの模式図である。そのカートリッジドアの中には、径の大きさの異なるカートリッジが挿入されており、内側の通路内に取り付けられたアダプター環によって安定化している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明ではある用語が、便宜を図る目的でのみ使用される。発明を限定するものではない。たとえば、「下側」、「底」、「上側」、「上部」という語は、参照される図面において方向を示す。「内側に」、「外側に」、「上方に」、「下方に」という語はそれぞれ、本発明による注射器およびその指定された部品の幾何学的中心に向かう方向、その中心から離れる方向を意味する。特に示さない限り、単数形の「ある」、「一つの」、「その」という語は1つの要素に限らず、「少なくとも1つ」を意味するものとして読まれるべきである。用語には、以上に述べた語、それらの派生語、および類義語が含まれる。
【0011】
次のことも理解されるべきである。以下で発明の構成要素の寸法または特徴に言及する際に使用される、「約」、「近似的に」、「およそ」、「実質的に」等の語は、記述される寸法/特徴が厳密な境界値またはパラメータではなく、機能的には同様である、それらの値からのわずかなばらつきを排除するものではない。少なくとも、数値パラメータを含む参照は、業界で許容されている数学的かつ工業的な原理(たとえば、丸め近似、測定誤差等の系統誤差、製造上の許容範囲)を使うことにより、最下位の数字を変えない程度のばらつきを含むであろう。
【0012】
図面では、同様な要素に同様な数字が付されている。図面を詳細に参照すると、図1-9Bには本発明の実施形態による注射器が示されている。この注射器には一般に10が付されている。図示されている実施形態では注射器10は装着型薬用注射器等の装着型注射器(パッチ式注射器)であるが、発明はそれに限定されるわけではない。当業者には理解されるはずであるように、注射器10は一般に本体11を含む。本体11はメインハウジング12を含む。メインハウジング12には、患者等、ユーザー(図示せず。)の皮膚の表面に接触する第1面14があり、第1面14には開口部14aがある。図示されている実施形態では第1面14はメインハウジング12の底面であるが、発明はそれには限定されない。メインハウジング12はまた、第1面14の反対側に第2面16も含む。図示されている実施形態では第2面16はメインハウジング12の上側の外面であるが、発明はそれには限定されない。
【0013】
図2図3を参照するに、ハブ18はたとえば樹脂材料、金属材料、またはそれらの組み合わせから成り、注射器本体11のメインハウジング12の中に移動可能に取り付けられている。注射針20はハブ18により、当業者には周知の方法で支持されている。図示されている実施形態ではハブ18と注射針20とは、第1面14に対して実質的に垂直に伸びている軸A(図2参照。)の方向に沿って、退避位置(図2参照。)と注射位置(図3参照。)との間で移動可能(または変位可能)である。退避位置では、注射針20の少なくとも先端20aがメインハウジング12の中に収められる。注射位置では、注射針20の少なくとも先端20aがメインハウジング12から開口部14aを通して突出する。当業者には理解されるはずであるように、軸Aは第1面14に対して90°以外の角度に位置していてもよい。これもまた理解されるはずであるように、注射針20はハブ18以外の機構によってメインハウジング12の中に移動可能に取り付けられていてもよい。
【0014】
ある実施形態では、起動ボタン機構22が、たとえば樹脂材料、金属材料、またはそれらの組み合わせにより、押し込み可能に構成されていてもよい。起動ボタン機構22はメインハウジング12に移動可能に取り付けられ、注射針20を操作するようにそれと接続されていてもよい。起動ボタン機構22はボタン軸B(図2参照。)に沿って非起動位置(図1図2参照。)から起動位置(図3参照。)へ移動すること、すなわち押し込むことが、当業者には周知の方法で可能であってもよい。起動ボタン機構22が起動位置にあるとき、注射器10が起動する。ある実施形態ではボタン軸Bが軸Aに対して平行であってもよいが、発明はそれには限定されない。注射器10の起動には、たとえば、注射針20を退避位置から注射位置へ移動させて注射を実行させることが含まれる。
【0015】
付勢部材24が起動ボタン機構22と注射針20とに接続され、それらを操作してもよい(図2図3参照)。しかし、発明はそれには限定されない。別の実施形態では、付勢部材24が第2面16と注射針20とに接続されていてもよい。付勢部材24は、起動ボタン機構22が非起動位置にあるときにはエネルギー蓄積状態で安定化しており(図2参照。)、起動ボタン機構22が起動位置へ移動したときにはエネルギー解放状態になる(図3参照)。これにより注射針20が軸Aの方向に沿って退避位置から注射位置へ移動する。当業者には理解されるはずであるように、付勢部材24のエネルギー蓄積状態とは、付勢部材24が少なくとも位置エネルギーを蓄えている状態をいう。付勢部材24のエネルギー解放状態とは、付勢部材24がエネルギー蓄積状態から、蓄積している位置エネルギーの少なくとも一部を解放した状態をいう。
【0016】
ある実施形態では付勢部材24が、ハブ18と起動ボタン機構22との間に取り付けられたコイルばねであってもよい。すなわち、ばね24が一端を起動ボタン機構22に当接させ、他端をハブ18に当接させている。エネルギー蓄積状態ではコイルばね24の少なくとも一部が圧縮されている。エネルギー解放状態ではコイルばね24が(少なくとも一部が圧縮されているエネルギー蓄積状態に対して)伸び、ハブ18と注射針20とを注射位置へ移動させる。しかし、当業者には理解されるはずであるように、付勢部材24は、エネルギーを蓄積して解放することのできる他の部材であってもよい。非限定的な例としては、他のばね(捻ればね、板ばね等)、弾性帯等が挙げられる。その他に、付勢部材24は電動式または空気圧式アクチュエータであってもよく、起動ボタン機構22が起動位置へ押し込まれたときに注射針20に対して並進力を加えるように、構成されていてもよい。
【0017】
注射器本体11は更にカートリッジドア26を含む。カートリッジドア26はメインハウジング12に取り付けられ、開位置(図示せず。)と閉位置(図1参照。)との間で移動可能、たとえば回転可能である。図4Aに示されているように、カートリッジドア26は基端側の開放端26aと内側の通路26bとを含む。(ドアが開位置にあるとき、)通路26bの中には、サイズの異なる複数のカートリッジ28のうちの一つが収められる。それらのカートリッジ28には、たとえば、少なくとも第1カートリッジ28’と、それとはサイズ、たとえば径の大きさが異なる第2カートリッジ28”とが含まれる(更なる詳細については後述する。図8A図9B参照)。理解されるはずであるように、注射器10で使用可能なカートリッジ28には、薬剤等、注射器10から注射針20を通して投与されるべき物質(図示せず。)が収められた容器28aが含まれる。この容器28aには先端に第1開口部があり、突き破ることの可能な隔壁29により、当業者には周知の方法で密封されている。
【0018】
カートリッジドア26は更に、内側の通路26bの中に取り付けられた結合器26cを含む。図示されている実施形態では結合器26cが、カートリッジに突き刺さる針26cの形をしている。しかし、発明はそれには限定されない。図8A図9Bに模式的に示されているように、カートリッジに突き刺さる針、すなわちカートリッジ刺針26cは注射針20と、当業者には周知の方法で連通している。たとえば、刺針26cから注射針20まで柔軟な管が伸びている(図4B図5に一部が示されている)。図示されている実施形態ではカートリッジ刺針26cが通路26bの閉じた先端の近くに位置しており、基端側の開放端26aとは反対側にある(図4A図8A図9B参照)。カートリッジ刺針26cは通路26bの中へ伸びており、カートリッジ28がカートリッジドア26の中へ挿入されると、針26cの先端がカートリッジ28の隔壁29に面して一直線に並ぶ。カートリッジ28が通路26bの中へ十分に挿入されたとき、および/または、注射器10が起動したとき、カートリッジ刺針26cがカートリッジ28の隔壁29を十分に貫通して、カートリッジ28内の物質を注射針20に流通させる。
【0019】
図4図5に示されているように、通路26bの中には少なくとも1つのアダプター環30、30’が(一般には、カートリッジの挿入路に対して横向きに)取り付け可能である。アダプター環30、30’は、注射器10で使用可能な、いずれのカートリッジ28が通路26bの中に挿入されても、そのカートリッジ28を内側に受け入れるように構成され、すなわちサイズが設計されている。アダプター環30、30’は特定のサイズのカートリッジ28に対応しており、その対応するカートリッジ28の一部と結合してそのカートリッジ28を通路26bの中に安定化させる。
【0020】
ある構造では、図6A図6Bに最も良く示されているように、アダプター環30が円盤32と複数のリブ34とを含む。リブ34は周方向に間隔を置いて並んでおり、円盤32から通路26bの中に向かって内周方向へ突出している。図示されている実施形態ではアダプター環30が、円盤32の内周に沿って周方向にほぼ等間隔で並ぶ3本のリブ34を含む。しかし、発明はそれには限定されない。リブ34は実質的に同じサイズであり、対応するカートリッジ28をカートリッジ刺針26cと、たとえば実質的に同軸に並んだ位置で結合させ、安定化させる。
【0021】
ある構造では、図6A図6Bに示されているように、リブ34のうち1本以上がそれぞれ、第1部分34a、第2部分34b、および第3部分34cを含む。第1部分34aは円盤32から主に内周方向へ突出している。第2部分34bは第1部分34aから主に先端方向へ(すなわち、カートリッジ刺針26cに向かって)突出している。第3部分34cは第2部分34bから主に内周方向へ突出している。第1部分34aと第3部分34cとは先端方向へわずかに傾斜していても良く、および/または、リブ34がカートリッジ28と結合するときに先端が柔軟に曲がるようになっていてもよい。これにより、カートリッジ28がカートリッジ刺針26cときれいに並ぶようになる。しかし、当業者には理解されるはずであるように、リブ34が、ここで説明されたリブ34の機能を発揮することが可能な別の構造であってもよい。
【0022】
ある実施形態では、アダプター環30が複数の片持ち梁状の指36をも含んでいてもよい。指36は周方向に間隔を置いて並んでおり、円盤32から突出している。図示されている実施形態ではアダプター環30が、円盤32の内周に沿ってほぼ等間隔に並んだ3本の指36を含む。しかし、発明はそれには限定されない。図4A図4B図6Aに示されているように、指36は、カートリッジ28から力を受けていないとき、すなわちカートリッジ28が指36をまだ通過していないとき、内周方向へ突出した閉位置にある。指36の大きさは、それが閉位置にあるときにカートリッジ刺針26cを覆うほどである。たとえば、指36が円盤32の中心軸の付近で内周方向へ伸びていてもよい。これにより指36は閉位置にあるとき、カートリッジ刺針26cとユーザーの手指(または他の身体部分)との間の接触の妨げになるので、針刺し損傷を防ぐ助けになる。
【0023】
図5図6Bに示されているように、カートリッジ28が円盤32を越えて進んできたとき、片持ち梁状の指36は(一般には指36と円盤32との間の接続部で)互いに対して先端方向へ、かつ外周方向へ折れ曲がることが可能である。これにより、指36は開位置へ移行してカートリッジ刺針26cを露出させる。すなわち、カートリッジ28は、閉位置にある指36を越えて進むときに、指36を開位置へと折り曲げる。これにより、カートリッジ刺針26cが露出してカートリッジ28の隔壁29を貫通する。
【0024】
ある構造では、図6A図6Bに示されているように、指36のうち1つ以上がそれぞれ、円盤32から主に内周方向へ突出している第1部分36aを含む。第1部分36aと円盤32との間の接続部はたとえばリビングヒンジであり、カートリッジ28から外力を受けていないときには、閉位置へ向かって力を自然に加える。第2部分36bは第1部分36aから主に先端方向へ突出している。第3部分36cは第2部分36bから主に内周方向へ突出している。第4部分36dは第3部分36cから内周方向へ突出し、かつ基端方向へも突出して、カートリッジ刺針26cの上に縦方向の隙間を与えている。部分36a-36dのうち1つ以上では、それらの間の接続部がリビングヒンジであってもよく、指36に更なる柔軟性を与える。理解されるはずであるように、部分36a-36dの長さは、指36の折れ曲がりに伴ってモーメントを発生させる。したがって、部分36a-36dの長さにより、カートリッジ28が指36を閉位置から開位置へ折り曲げるのに必要な前進力がほぼ決まってもよい。当業者にはまた理解されるはずであるように、指36が、ここで説明された指36の機能を発揮することが可能な別の構造であってもよい。
【0025】
図7A図7Bはアダプター環30’の別の構造を示す。この構造は図6A図6Bの構造に似ているので、簡単のため、以下では、図7A図7B図6A図6Bとの構造間で同様な部分の説明は省略するが、発明はそれには限定されない。
【0026】
アダプター環30に対するアダプター環30’の違いの1つは(図に示されているように)、閉位置にある片持ち梁状の指36’を互いに接続する壊れやすい部材38、すなわち意図的な破壊が可能な部材が追加されていることにある。図示されている実施形態では壊れやすい部材38が壊れやすい環の形をしているが、発明はそれには限定されない。図7Aに最も良く示されているように、壊れやすい環38は分割部分38aを少なくとも1つ含む。分割部分38aはたとえば指36’の間にあり、環38に意図的な破壊が可能な部分を形成している(図7B参照)。当業者には理解されるはずであるように、壊れやすい環38の分割部分38aにより、壊れやすい環38の破壊力が決まる。環38を分割して指36’を互いから切り離し、閉位置から開位置へと指36’を折り曲げるには、その破壊力が超えられなければならない。理解されるはずであるように、アダプター環30の指36もまた、アダプター環30’の指36’を接続する壊れやすい部材38と同様な部材で接続されていてもよい。
【0027】
アダプター環30’のある構造では、リブ34’の1本以上が、円盤32から内周方向へ、かつ先端方向へ伸びているほぼ弓形の部材であり、円盤32の中心軸へ向かう凸面を含む。しかし、発明はそれには限定されない。それに加えて、またはそれとは別に、片持ち梁状の指36’の1本以上が、円盤32から内周方向へ、かつ先端方向へ伸びているほぼS字形の片持ち梁形状であってもよい(カートリッジ28を誘導する助けとなる)。しかし、発明はそれには限定されない。
【0028】
図4A図5に最も良く示されているように、少なくとも1つのアダプター環30、30’が通路26bの中に取り付けられている。ある構造では、アダプター環30、30’が通路26bの中に取り外し可能に(環30、30’および/または通路26bに損傷を与えることなく、故意に取り外すことが可能であるように)取り付けられていてもよい。たとえば通路26bが、通路26bの側壁から突出して内周方向へ伸びている環状のリップ40を1以上含んでいてもよい。リップ40が複数である場合、それらは(実質的に同一の平面上にあって)通路26bの側壁に沿って周方向に間隔を置いて並んでいる。リップ40の上にアダプター環30、30’が支持されていてもよい。それに代え、またはそれに加え、アダプター環30、30’が通路26bの側壁との摩擦により、通路26bの中に取り付けられていてもよい。ある実施形態ではアダプター環30、30’が円盤32に、リップ40を受け入れる取付用スロット32aを含んでいてもよい。しかし、当業者には理解されるはずであるように、アダプター環30、30’は通路26bの中に、現在知られている、または後に知られるようになる数多くの取付部材のいずれかによって、取り外し可能に取り付けられていてもよい。その他に、アダプター環30、30’は通路26bの中に恒久的に(すなわち、環30、30’、および/または通路26bに損傷を与えずには取り外すことのできないように)取り付けられていてもよいし、通路26bと一体に形成されていてもよい。通路26bの中に2以上のアダプター環30、30’が取り付けられた注射器10(詳細については後述する。)では、その中にアダプター環30、30’のいずれが一体化されていても、恒久的に取り付けられていても、取り外し可能に取り付けられていてもよい。
【0029】
使用中の注射器10にはアダプター環30、30’が少なくとも1つ、通路26bの中に取り付けられている。そのアダプター環は、注射器10で使おうとしているカートリッジ28に対応したものである(図4A図4B参照)。カートリッジ28は通路26bの中に、その開放端26aを通して挿入され、アダプター環30、30’を通過し、カートリッジ刺針26cと結合する(図5参照)。すなわち、カートリッジ刺針26cが隔壁29に突き刺さる。アダプター環30、30’は(リブ34、34’のサイズによって)対応するカートリッジ28の一部と結合し、カートリッジ28を通路26bの中に安定化させ、カートリッジ28をカートリッジ刺針26cと、たとえば実質的に同軸に並べる。アダプター環30、30’が片持ち梁状の指36、36’を含む構造である場合、閉位置にある指36、36’は、ユーザーが誤ってカートリッジ刺針26cでけがをすることを防ぐ。カートリッジ28が通路26bの中へ挿入される間、カートリッジ28は指36、36’を越えて進むときに指36、36’と結合してそれらを開位置へと折り曲げ、カートリッジ刺針26cと結合する(図5参照)。
【0030】
ある実施形態では注射器10が、サイズの異なる複数のカートリッジ28を使用可能である。たとえば、図8A図9Bに模式的に示されているように、注射器10が、サイズの異なるカートリッジを少なくとも2つ、第1カートリッジ28’と第2カートリッジ28”とを使用するように構成されていてもよい。したがって、通路26bはそのサイズ、たとえば径が、第1カートリッジ28’と第2カートリッジ28”とのいずれかを受け入れられるように設計されている。
【0031】
非限定的な1つの実施例では、通路26bの中に少なくとも2つのアダプター環30、30’が取り付けられていてもよい(図8A図8Bには2つのアダプター環30、30’が示されている)。図8A図8Bの非限定的な例に示されているように、第1カートリッジ28’は第2カートリッジ28”に比べて先端部の径が大きく、第2カートリッジ28”は第1カートリッジ28’に比べて基端部の径が大きい。それ故、第1アダプター環30、30’は第2アダプター環30、30’よりも通路26bの先端側に取り付けられている。
【0032】
先端側に位置する第1アダプター環30、30’は、第1カートリッジ28’と第2カートリッジ28”とのいずれかが通路26bの中へ挿入されたとき、そのカートリッジが中を通るようにサイズと位置とが設計されている。図8Bに示されているように、第1アダプター環30、30’は第1カートリッジ28’の先端部とのみ結合して、第1カートリッジ28’を通路26bの中に安定化させ、第1カートリッジ28’をカートリッジ刺針26cと一直線に並べる。すなわち、第1アダプター環30、30’のリブ34、34’は第1カートリッジ28’の先端部と結合するようにサイズと位置とが設計されているので、第2カートリッジ28”が注射器10で使われたとしても、第2カートリッジ28”の小さい先端部には干渉しない。
【0033】
同様に、基端側に位置する第2アダプター環30、30’もまた、第1カートリッジ28’と第2カートリッジ28”とのいずれかが通路26bの中へ挿入されたとき、そのカートリッジが中を通るようにサイズと位置とが設計されている。しかし、上記とは逆に、図8Aに示されているように、第2アダプター環30、30’は第2カートリッジ28”の基端部とのみ結合して、第2カートリッジ28”を通路26bの中に安定化させ、第2カートリッジ28”をカートリッジ刺針26cと一直線に並べる。すなわち、第2アダプター環30、30’のリブ34、34’は第2カートリッジ28”の基端部と結合するようにサイズと位置とが設計されているので、第1カートリッジ28’が注射器10で使われたとしても、第1カートリッジ28’には干渉しない。それ故、図8A図8Bの実施形態では、第2カートリッジ28”が、通路26bの中に取り付けられたアダプター環30、30’のいずれにも邪魔されず、第1カートリッジ28’もまた、通路26bの中に取り付けられたアダプター環30、30’のいずれにも邪魔されない。2つのカートリッジ28’、28”のいずれもが通路26bの中に安定化され、カートリッジ刺針26cと一直線に並べられるので、いずれのカートリッジ28’、28”も注射器10では使用可能である。
【0034】
ある実施形態では、通路26bの中に取り付けられたアダプター環30、30’のいずれかが、たとえば最も先端に近いアダプター環が複数の片持ち梁状の指36、36’を含んでいてもよい。それらの指36、36’は周方向に間隔を置いて並んで円盤32から突出しており、ユーザーの手指(または他の身体部分)とカートリッジ刺針26cとの間の接触を防いで、針刺し損傷の防止に役立つ。その他に、通路26bの中に取り付けられたアダプター環30、30’のすべてが片持ち梁状の指36、36’を含んでいてもよく、またはいずれもが片持ち梁状の指36、36’を含んでいなくてもよい。
【0035】
その他の非限定的な実施例では、図9A図9Bに示されているように、通路が、図8A図8Bに示されている先端側のアダプター環30、30’のみを含んでいてもよい。それらは、図8A図8Bに示されている先端側のアダプター環30、30’と同様な仕方で第1カートリッジ28’を通路26bの中に安定化させ、第1カートリッジ28’をカートリッジ刺針26cと一直線に並べる(図9B参照)。逆に、通路26b自体が、すなわちその内部が、第2カートリッジ28”を通路26bの中に安定化させ、第2カートリッジ28”をカートリッジ刺針26cと一直線に並べるように構成されていてもよい(図9A参照)。非限定的な例では、カートリッジ28が通路26bの中に収められて安定化されるように、通路26bのサイズが設計され、または通路26bが、カートリッジクレードル、カートリッジトラック、それらの組み合わせ等(図示せず。)を備えいてもよい。
【0036】
ある構造では、注射器10が、通路26bの中に取り外し可能に取り付け可能な複数のアダプター環30、30’と一緒のキットとして提供されてもよい。通路26bは、サイズの異なる複数のカートリッジ28のいずれをも受け入れることができるように構成されていてもよい。すなわち、それらのカートリッジ28の中で最大のものが収められるようなサイズに設計されていてもよい。アダプター環30、30’はそれぞれ、サイズの異なる複数のカートリッジ28のうちの1つと対応付けて使用されるように構成され、すなわちサイズが設計されている。これにより、アダプター環30、30’は対応するカートリッジ28の一部と(リブ34、34’を使って)結合し、そのカートリッジ28を通路26bの中に安定化させ、そのカートリッジ28をカートリッジ刺針26cと一直線に並べる。それに代えて、またはそれに加えて、アダプター環30、30’が、製造誤差によるカートリッジ28間のばらつきを相殺するように構成されていてもよい。したがって、ユーザーは、注射器10で個々のカートリッジ28を使えるように、そのカートリッジ28を通路26bの中に挿入する前に特定のアダプター環30、30’を通路26bの中に取り付けるようにしてもよい。
【0037】
発明の広い概念から逸脱することなく、上記の実施形態に変更を加えてもよいことは、当業者には賞賛されるであろう。それ故、この発明が上記の特定の実施形態には限定されず、添付の請求の範囲で定義された本発明の精神と範囲との中で行われる修正にも及ぶことを意図していることが理解される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B