IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

特許7402820ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材
<>
  • 特許-ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材 図1
  • 特許-ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材
(51)【国際特許分類】
   C08F 36/06 20060101AFI20231214BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20231214BHJP
   C08F 4/70 20060101ALI20231214BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08F36/06
C08F4/80
C08F4/70
B60C1/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020559771
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040873
(87)【国際公開番号】W WO2020116037
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018228339
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】高野 重永
(72)【発明者】
【氏名】会田 昭二郎
(72)【発明者】
【氏名】小坂田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大介
(72)【発明者】
【氏名】山川 進二
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0115108(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0105624(US,A1)
【文献】特表2008-546890(JP,A)
【文献】国際公開第2002/102861(WO,A2)
【文献】特開平11-021308(JP,A)
【文献】特開平11-171925(JP,A)
【文献】国際公開第2008/152933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08F 4/00- 4/82
C08C 19/00- 19/44
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアッドアイソタクティシティ(mm)が72%以上である、ことを特徴とする、ポリブタジエン。
【請求項2】
前記トリアッドアイソタクティシティ(mm)が90%以上である、請求項1に記載のポリブタジエン。
【請求項3】
1,2-ビニル結合量が65%以上である、請求項1又は2に記載のポリブタジエン。
【請求項4】
融点が80℃以上130℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリブタジエン。
【請求項5】
以下の構造式I:
【化1】
(式中、OH基は、ビピリジル環の3~6位及び3’~6’位のうちの少なくとも1つに結合されており、Mは、遷移金属であり、R及びRは、炭素数1以上の炭化水素基又はハロゲン原子であり、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物と、ノルボルネン誘導体とを含む触媒を用い、1,3-ブタジエンを重合してポリブタジエンを得る工程を含む、ことを特徴とする、ポリブタジエンの製造方法。
【請求項6】
前記触媒が、更に、以下の構造式II:
YR 式II
(式中、Yは、周期表の第1族、第2族、第12族及び第13族から選択される金属であり、R及びRは、水素原子、又は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基であり、R、R及びRは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、a、b及びcは、独立して0又は1であり;ただし、Yが前記第1族から選択される金属である場合には、aは1であり且つb及びcは0であり;Yが前記第2族及び第12族から選択される金属である場合には、a及びbは1であり且つcは0であり;Yが前記第13族から選択される金属である場合には、a、b及びcは1である。)で表される化合物を含む、請求項5に記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項7】
前記触媒が、更にアルミノキサンを含む、請求項5又は6に記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項8】
前記触媒が、更にイオン性化合物及びハロゲン化合物の少なくともいずれかを含む、請求項5~7のいずれかに記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項9】
前記構造式I中のMが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)又は銅(Cu)である、請求項5~8のいずれかに記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項10】
前記ノルボルネン誘導体が、アミノ基を有する、請求項5~9のいずれかに記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項11】
前記ノルボルネン誘導体を、前記1,3-ブタジエンに対して3~40mol%の割合で用いる、請求項5~10のいずれかに記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項12】
前記1,3-ブタジエン、前記ノルボルネン誘導体の順に重合系に投入する、請求項5~11のいずれかに記載のポリブタジエンの製造方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれかに記載のポリブタジエンを含む、ことを特徴とする、ポリブタジエン組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項15】
請求項13に記載のポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする、樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブタジエン、ポリブタジエンの製造方法、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の立体規則性は、結晶形態、結晶化度などの高次構造を決定する因子の一つである。そのため、重合体の立体規則性が変われば、その物性も変わる傾向にある。
【0003】
汎用的な合成ゴムの1つであるポリブタジエンについても、これまで立体規則性の制御に着目した製造方法が報告されている。例えば、特許文献1は、所定の懸濁重合法を用いることにより、シンジオタクチックポリブタジエンを効率的に製造できることを開示している。
【0004】
なお、ポリブタジエンにおけるシンジオタクチック構造とは、1,2-ビニル結合から形成されている主鎖部分に対し、側鎖のビニル基(-CH=CH)が交互に反対側に位置する立体構造を指す。一方、側鎖のビニル基(-CH=CH)が同じ側に位置する立体構造はアイソタクチック構造と称され、また、側鎖のビニル基(-CH=CH)がランダムに位置する立体構造はアタクチック構造と称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-168117号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Giovanni Ricci et al., New Chromium (II) Bidentate Phosphine Complexes: Synthesis, Characterization, and Behavior in the Polymerization of 1,3-Butadiene, Organometallics 2004, 23, pp3727-3732
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、アイソタクチック構造を有するポリブタジエンについては、未だ多くの研究はなされていない。そして、従前より存在するポリブタジエンのアイソタクティシティとしては、高くとも、トリアッド表示(mm)でせいぜい71%であった(上記非特許文献1)。このような状況下、アイソタクティシティが一層高い新規のポリブタジエンの開発が求められるとともに、当該ポリブタジエンの特異の物性が期待されている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、アイソタクティシティが高い新規のポリブタジエンを提供することにある。また、本発明の目的は、アイソタクティシティが高いポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、上記の新規のポリブタジエンを用いた、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、所定の触媒系成分を用いることにより、これまでには存在しなかった高いアイソタクティシティを有するポリブタジエンを調製することができることを見出し、本発明をするに至った。
【0010】
本発明のポリブタジエンは、トリアッドアイソタクティシティ(mm)が72%以上である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明のポリブタジエンの製造方法は、以下の構造式I:
【化1】
(式中、OH基は、ビピリジル環の3~6位及び3’~6’位のうちの少なくとも1つに結合されており、Mは、遷移金属であり、R及びRは、炭素数1以上の炭化水素基又はハロゲン原子であり、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物と、ノルボルネン誘導体とを含む触媒を用い、1,3-ブタジエンを重合してポリブタジエンを得る工程を含む、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のポリブタジエン組成物は、上述したポリブタジエンを含む、ことを特徴とする。
【0013】
本発明のタイヤは、上述したポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする。
【0014】
本発明の樹脂部材は、上述したポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アイソタクティシティが高い新規のポリブタジエンを提供することができる。また、本発明によれば、アイソタクティシティが高いポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の新規のポリブタジエンを用いた、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のポリブタジエンの13C-NMRスペクトルの概要図である。
図2】実施例1のポリブタジエンのDSC曲線の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
(ポリブタジエン)
本発明の一実施形態のポリブタジエン(以下、「本実施形態のポリブタジエン」と称することがある。)は、トリアッドアイソタクティシティ(mm)が72%以上である。このような、アイソタクティシティが高いポリブタジエンは、従前より存在するポリブタジエンとは異なる物性を発現し得るものとして期待される。
なお、ポリブタジエンのトリアッドアイソタクティシティ(mm)は、13C-NMRスペクトルから求められる。具体的に、13C-NMRスペクトルより、[mm]、[mr]及び[rr]シグナルのピーク面積値をそれぞれ求め、これらにおける[mm]の割合として、トリアッドアイソタクティシティ(mm)が求められる。より具体的に、ポリブタジエンのトリアッドアイソタクティシティ(mm)は、実施例に記載の方法により求められる。
また、ポリブタジエンのトリアッドアイソタクティシティ(mm)は、1,2-ビニル結合に関する用語であり、シス-1,4結合及びトランス-1,4結合に関しては、アイソタクティシティの概念がない。
【0019】
本実施形態のポリブタジエンは、例えば、後述する本発明の一実施形態のポリブタジエンの製造方法により、製造することができる。
【0020】
本実施形態のポリブタジエンのトリアッドアイソタクティシティ(mm)は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、更に好ましくは99%以上であり、特に好ましくは100%である。この場合、ポリブタジエンのアイソタクティシティが一層高いため、当該ポリブタジエンの特異の物性がより期待できる。
【0021】
本実施形態のポリブタジエンは、1,2-ビニル結合量が65%以上であることが好ましい。この場合、ポリブタジエンの立体規則性がより高いため、当該ポリブタジエンの特異の物性がより期待できる。同様の観点から、本実施形態のポリブタジエンの1,2-ビニル結合量は、75%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが一層好ましい。
なお、ポリブタジエンの1,2-ビニル結合量の調整は、例えば、使用する各触媒系成分の種類、量などを適切に選択することにより、行うことができる。
また、1,2-ビニル結合量は、H-NMRスペクトルから求めることができる。
【0022】
本実施形態のポリブタジエンは、融点が80℃以上130℃以下であることが好ましい。この場合、ポリブタジエンの立体規則性及びアイソタクティシティが十分に高い傾向にあるため、当該ポリブタジエンの特異の物性がより期待できる。
なお、ポリブタジエンの融点の調整は、例えば、分子量、多分散度などを適切に制御することにより、行うことができる。
また、融点は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K 7121-1987に準拠して求めることができる。また、融点が複数存在する場合には、最も高い融点を本明細書中の融点と見なすこととする。
【0023】
(ポリブタジエンの製造方法)
本発明の一実施形態のポリブタジエンの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、少なくとも、以下の構造式I:
【化2】
(式中、OH基は、ビピリジル環の3~6位及び3’~6’位のうちの少なくとも1つに結合されており、Mは、遷移金属であり、R及びRは、炭素数1以上の炭化水素基又はハロゲン原子であり、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物(以下、「ヒドロキシビピリジル系錯体」と称することがある。)と、ノルボルネン誘導体とを含む触媒を用い、1,3-ブタジエンを重合してポリブタジエンを得る工程(重合工程)を含む。また、本実施形態の製造方法では、必要に応じ、上述したヒドロキシビピリジル系錯体及びノルボルネン誘導体以外のその他の触媒系成分を用いることができる。
本実施形態の製造方法によれば、アイソタクティシティが高いポリブタジエン、特には上述したポリブタジエンを製造することが可能である。
【0024】
<ヒドロキシビピリジル系錯体>
ヒドロキシビピリジル系錯体は、本実施形態の製造方法において、1,3-ブタジエンを重合する際の第1触媒系成分である。ヒドロキシビピリジル系錯体(構造式Iで表される化合物)中、ビピリジル環上の2つのN原子は、遷移金属Mに配位している。即ち、少なくとも1つのOH基を有するビピリジル環が配位子である。ビピリジル環上に少なくとも1つのOH基を有することにより、重合活性が高まる。ヒドロキシビピリジル系錯体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ヒドロキシビピリジル系錯体は、本実施形態の製造方法において、重合反応の触媒として作用する。ヒドロキシビピリジル系錯体において、OH基は、ビピリジル環の3~6位及び3’~6’位のうちの少なくとも1つに結合されている。OH基の数は、重合活性の観点から、2個が好ましい。
【0026】
ヒドロキシビピリジル系錯体がOH基を2個有する場合、OH基の位置は、特に限定されないが、例えば、以下の式I-1(3,3’位)、式I-2(4,4’位)、式I-3(5,5’位)及び式I-4(6,6’位)などのように左右対称であってもよいし、以下の式I-5(5,6’位)及び式I-6(4,6’位)などのように左右非対称であってもよい。
【0027】
【化3】
【0028】
構造式I中のMは、遷移金属である。遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタノイド(原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu))などが挙げられる。
【0029】
構造式I中のMは、重合活性をより高める観点から、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)又は銅(Cu)であることが好ましく、ニッケル(Ni)であることがより好ましい。
【0030】
構造式I中のR及びRは、炭素数1以上の炭化水素基又はハロゲン原子である。R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
炭素数1以上の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~4の炭化水素基が挙げられ、メチル基、イソプロピル基などが例示される。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
特に、構造式I中のR及びRは、重合活性をより高める観点から、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素又は臭素であることがより好ましく、臭素であることが更に好ましい。
【0032】
ヒドロキシビピリジル系錯体として、具体的には、例えば、以下のジヒドロキシビピリジル(以下、単に「DHBP」ということがある)CoCl、(DHBP)PdCl及び(DHBP)NiBrなどが挙げられる。
【化4】
【0033】
ヒドロキシビピリジル系錯体の使用量に関し、単量体としての1,3-ブタジエンと、ヒドロキシビピリジル系錯体中の遷移金属Mとのmol比(単量体/M)は、適宜調節すればよいが、活性度、重合体の分子量、及び多分散度(Mw/Mn)を高める観点から、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、350以上であることが更に好ましい。
【0034】
ヒドロキシビピリジル系錯体の合成方法は、特に限定されない。例えば、(DHBP)NiBrの場合、DHBP(即ち、6,6’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)を、THFなどの溶媒中でNiBrと反応させ、適宜ろ過、洗浄及び乾燥等を行うことにより、(DHBP)NiBrを得ることができる。
【0035】
<ノルボルネン誘導体>
本実施形態の製造方法では、ノルボルネン誘導体を用いる。ノルボルネン誘導体は、本実施形態の製造方法において、1,3-ブタジエンを重合する際の第2触媒系成分である。ノルボルネン誘導体を用いることにより、高いアイソタクティシティを有するポリブタジエンを得ることができる。
ここで、本明細書において、ノルボルネン誘導体とは、少なくともノルボルネン骨格を有する化合物を指し、ノルボルネン自体を含まないものとする。
【0036】
なお、ノルボルネン誘導体に代えてノルボルネンを用いた場合には、当該ノルボルネンが単量体として重合に作用し得る結果、ポリブタジエン(ホモポリマー)を得ることができない虞がある。
【0037】
ノルボルネン誘導体は、アミノ基を有することが好ましい。ノルボルネン誘導体がアミノ基を有することで、得られるポリブタジエンの1,2-ビニル結合量が増加し、立体規則性をより高めることができる。
なお、アミノ基は、-NR(R及びRは、水素原子又は任意の基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表される基である。
【0038】
上述した好ましいノルボルネン誘導体としては、例えば、5-ノルボルネン-2-メチルアミン、5-ノルボルネン-2-エチルアミン、5-ノルボルネン-2-プロピルアミン、5-ノルボルネン-2-ブチルアミン等が挙げられる。これらの中でも、5-ノルボルネン-2-メチルアミンがより好ましい。
【0039】
ノルボルネン誘導体の使用量は、単量体としての1,3-ブタジエンに対して3~40mol%の割合であることが好ましい。この場合、得られるポリブタジエンのアイソタクティシティを高める効果をより十分に得ることができる。
【0040】
<その他の触媒系成分>
本実施形態の製造方法においては、上記触媒が、更に、以下の構造式II:
YR 式II
(式中、Yは、周期表の第1族、第2族、第12族及び第13族から選択される金属であり、R及びRは、水素原子、又は、置換若しくは非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基であり、R、R及びRは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、a、b及びcは、独立して0又は1であり;ただし、Yが上記第1族から選択される金属である場合には、aは1であり且つb及びcは0であり;Yが上記第2族及び第12族から選択される金属である場合には、a及びbは1であり且つcは0であり;Yが上記第13族から選択される金属である場合には、a、b及びcは1である。)で表される化合物を含むことが好ましい。触媒系成分として構造式IIで表される化合物を用いることにより、重合活性をより高めることができる。構造式IIで表される化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
構造式II中のYとしては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Ti)などが挙げられる。
【0042】
構造式II中のYは、重合活性をより高める観点から、リチウム(Li)、ホウ素(B)又はアルミニウム(Al)であることが好ましく、アルミニウム(Al)であることがより好ましい。
【0043】
構造式II中のR、R及びRの炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、フェニル基などが挙げられる。また、構造式IIの化合物中のR、R及びRの炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基は、置換基で置換されていてもよく、その置換基としては、例えば、直鎖又は分岐のアルキル基(例えば、メチル基、tert-ブチル基)、ハロゲン(例えば、フッ素)などが挙げられる。
【0044】
構造式IIで表される化合物として、具体的には、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、リチウム2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)メチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどが挙げられる。これらのうち、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、リチウム2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)メチルアルミニウム等が挙げられる。
【0045】
構造式IIで表される化合物を用いる場合、その使用量は、重合活性の観点から、ヒドロキシビピリジル系錯体中の遷移金属Mに対して、2~200当量とすることが好ましく、10~200当量とすることがより好ましく、20~200当量とすることが更に好ましいい。
【0046】
本実施形態の製造方法においては、上記触媒が、更にアルミノキサンを含むことが好ましい。触媒系成分としてアルミノキサンを用いることにより、重合活性種を効率よく発生させることができる。アルミノキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
アルミノキサンは、有機アルミニウム化合物と、水などの縮合剤とを接触させることによって得られる化合物である。アルミノキサンとしては、例えば、一般式:(-Al(R’)O-)で表される繰り返し単位を有する、鎖状アルミノキサン又は環状アルミノキサンが挙げられる。なお、上記一般式中、R’は、炭素数1~10の炭化水素基であり、当該炭化水素基の一部がハロゲン原子及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0048】
また、アルミノキサンの上記繰り返し単位(重合度)は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、上記一般式中のR’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基などが挙げられる。一実施形態では、R’は、メチル基である。
【0049】
アルミノキサンの原料である有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム及びそれらの混合物などが挙げられる。一実施形態では、有機アルミニウム化合物は、トリメチルアルミニウムである。
【0050】
アルミノキサンは、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、東ソー・ファインケム社製のMMAO及びTMAO等が挙げられる。
【0051】
アルミノキサンを用いる場合、その使用量は、重合活性の観点から、アルミノキサン中のAlが、ヒドロキシビピリジル系錯体の遷移金属Mに対して2当量以上の割合となるような量とすることが好ましい。
【0052】
本実施形態の製造方法においては、上記触媒が、更にイオン性化合物及びハロゲン化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。触媒系成分としてイオン性化合物及びハロゲン化合物の少なくともいずれかを用いることにより、得られるポリブタジエンにおける不純物の割合を減少させることができる。
【0053】
イオン性化合物としては、例えば、特開2014-019729号公報に記載のN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、及びトリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。イオン性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ハロゲン化合物としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、セスキエチルアルミニウムクロリドなどの有機金属ハロゲン化合物が挙げられる。ハロゲン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
<ポリブタジエンの製造>
そして、本実施形態の製造方法では、ヒドロキシビピリジル系錯体、ノルボルネン誘導体、及び任意の上述したその他の触媒系成分が存在する重合系にて、単量体である1,3-ブタジエンを重合してポリブタジエンを得る(重合工程)。また、本実施形態の製造方法は、必要に応じて、重合工程で得られたポリブタジエンを精製する工程(精製工程)、重合工程で得られたポリブタジエンを洗浄する工程(洗浄工程)等のその他の工程を適宜含むことができる。
【0056】
重合の方法としては、特に限定されず、例えば、配位重合、溶液重合(アニオン重合)などを用いることができる。また、連続重合、半連続式重合、バッチ重合など、従来公知のいずれの方法で重合を行ってもよい。
【0057】
重合工程では、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、単量体及び上述した触媒系成分以外に、重合溶媒、重合開始剤、重合停止剤、安定剤、伸展油、変性剤などを用いてもよい。重合溶媒としては、例えば、これらに限定されないが、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ブテンなどの炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0058】
重合温度は、特に限定されず、触媒系成分の種類、所望の1,2-ビニル結合量、数平均分子量、多分散度及びムーニー粘度などに応じて適宜設定すればよい。一実施形態では、重合温度は、例えば、-100~150℃とすることができる。
【0059】
重合工程は、窒素(N)ガス又はアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0060】
重合工程では、1,3-ブタジエン、ノルボルネン誘導体の順に重合系に投入することが好ましい。上記の順で重合系に投入することにより、得られるポリブタジエンの立体規則性、ひいてはアイソタクティシティをより高めることができる。同様の観点から、重合工程では、重合系に、ヒドロキシビピリジル系錯体、1,3-ブタジエン、ノルボルネン誘導体の順に投入することがより好ましい。なお、「1,3-ブタジエン、ノルボルネン誘導体の順に投入」は、1,3-ブタジエンの投入がノルボルネン誘導体の投入よりも先に行われていればよく、例えば、1,3-ブタジエンの投入とノルボルネン誘導体の投入との間に、任意の触媒系成分などを投入した場合も含むものとする。
また、触媒系成分としてアルミノキサンを用いる場合には、ノルボルネン誘導体の後に当該アルミノキサンを投入することが好ましい。
【0061】
(ポリブタジエン組成物)
本発明の一実施形態に係るポリブタジエン組成物(以下、「本実施形態のポリブタジエン組成物」と称することがある。)は、上述したポリブタジエンを含む。本実施形態のポリブタジエン組成物は、上述したアイソタクティシティが高い新規のポリブタジエンを含むため、種々の用途に適宜用いることができる。
【0062】
本実施形態のポリブタジエン組成物は、上述したポリブタジエン以外に、他のゴム成分を含んでもよい。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム(本実施形態のポリブタジエン以外)、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、などが挙げられる。これら他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、本実施形態のポリブタジエン組成物は、後述するタイヤの製造に用いる場合には、他のゴム成分を含むことが好ましい。
【0063】
本実施形態のポリブタジエン組成物は、樹脂成分を含んでもよい。樹脂成分としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、本実施形態のポリブタジエン組成物は、後述する樹脂部材の製造に用いる場合には、樹脂成分を含むことが好ましい。
【0064】
本実施形態のポリブタジエン組成物は、ゴム組成物、樹脂組成物などに配合される公知の添加剤を適宜含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、フィラー、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、オイル等が挙げられる。これら添加剤は、それぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本実施形態のポリブタジエン組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、上記ポリブタジエンを含む各成分を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサーなどの混練り機を用いて混練りすることにより、ポリブタジエン組成物を得ることができる。また、加硫剤及び加硫促進剤以外の成分を混合し、その混合物に、加硫剤及び加硫促進剤を配合し、混合してポリブタジエン組成物を調製してもよい。
【0066】
本実施形態のポリブタジエン組成物は、例えば、タイヤ、コンベヤベルト、防振ゴム、免震ゴム、ゴムクローラ、ゴムホース等のゴム物品、及び、後述する樹脂部材などの製造に用いることができる。
【0067】
本実施形態のポリブタジエン組成物を用いてゴム物品又は樹脂部材を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリブタジエン組成物を架橋ないし加硫する条件としては、適宜調節すればよく、例えば、温度120~200℃、加温時間1分間~900分間とすることができる。
【0068】
(タイヤ)
本発明の一実施形態のタイヤは、上述したポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする。上述したゴム組成物のタイヤにおける適用部位としては、特に限定されないが、例えば、トレッドゴム、ベーストレッドゴム、サイドウォールゴム、サイド補強ゴム及びビードフィラー、インナーライナーなどが挙げられる。
【0069】
(樹脂部材)
本発明の一実施形態の樹脂部材は、上述したポリブタジエン組成物を用いたことを特徴とする。樹脂部材としては、バンパー、ダッシュボード、ドアトリム、インストルメントパネル等の自動車の部材、建築内装部品、一般用家具、事務用家具、スポーツ用品、靴、フィルム、チューブ、ホース、感光性材料等が挙げられる。
【実施例
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0071】
実施例で用いた材料は、以下の通りである。
6、6’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン(DHBP):東京化成工業株式会社製
臭化ニッケル(NiBr):東京化成工業株式会社製
トリイソブチルアルミニウム(TIBA、構造式IIで表される化合物):和光純薬工業株式会社製
【0072】
実施例において、DHBP、(DHBP)NiBrは、それぞれ、以下の構造を指す。
【化5】
【0073】
((DHBP)NiBr(ヒドロキシビピリジル系錯体)の合成)
DHBPとNiBrとを、THF中で、室温下で24時間反応させ、目的物である(DHBP)NiBrを得た。IR測定及び元素分析により構造解析を行い、得られた化合物が(DHBP)NiBrであることを確認した。
【0074】
(実施例1)
ガラスボトルに0.02mmolの(DHBP)NiBrを入れ、ゴム栓で封じ、10分間Arフローすることで、系内をAr雰囲気に置換した。このガラスボトルに、10mLのトルエンを加え、-20℃に冷却した後、1,3-ブタジエン570mg、5-ノルボルネン-2-メチルアミン62mg、メチルアルミノキサン(MAO)(MAO中のAlがNiに対して100当量となるような量)の順に加え、30℃で1時間反応させた。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、吸引ろ過によって白色固体を回収し、この白色固体をクロロホルムで洗浄して、ポリブタジエン(収量:154mg)を得た。
【0075】
(実施例2)
ガラスボトルに0.02mmolの(DHBP)NiBrを入れ、ゴム栓で封じ、10分間Arフローすることで、系内をAr雰囲気に置換した。このガラスボトルに、10mLのトルエンを加え、-20℃に冷却した後、1,3-ブタジエン550mg、5-ノルボルネン-2-メチルアミン62mg、メチルアルミノキサン(MAO)(MAO中のAlがNiに対して100当量となるような量)の順に加え、30℃で1時間反応させた。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、吸引ろ過によって白色固体を回収し、この白色固体をクロロホルムで洗浄して、ポリブタジエン(収量:119mg)を得た。
【0076】
(比較例1)
ガラスボトルに0.02mmolの(DHBP)NiBrを入れ、ゴム栓で封じ、10分間Arフローすることで、系内をAr雰囲気に置換した。このガラスボトルに、30mLのトルエンを加え、-20℃に冷却した後、1,3-ブタジエン5520mg、メチルアルミノキサン(MAO)(MAO中のAlがNiに対して100当量となるような量)の順に加え、30℃で1時間反応させた。反応終了後、反応混合系を5%塩酸メタノール溶液中に滴下し、デカンテーションして、無色透明なゴム状固体であるポリブタジエン(収量:4110mg)を得た。
【0077】
各例において得られたポリブタジエンについて、以下の測定を行った。
【0078】
<ミクロ構造>
ポリブタジエンのシス-1,4結合量、トランス-1,4結合量、及び1,2-ビニル結合量は、H-NMRスペクトル(1,2-ビニル結合量)及び13C-NMRスペクトル(シス-1,4結合量とトランス-1,4結合量の比)の積分比などから求めた。
【0079】
更に、ポリブタジエンのトリアッドアイソタクティシティ(mm)は、13C-NMRスペクトルから求めた(1,1,2,2-重テトラクロロエタン溶媒、100℃、100MHz)。なお、ポリブタジエンの1,2-ビニル結合(ビニリデンユニット)における、二重結合及び2つの水素との結合を有する炭素(「・・・-CH=」における下線部で示される炭素)のシグナルは、105~125ppm付近に観測される。しかし、[mm]シグナル、[mr]シグナル及び[rr]シグナルは、それぞれ別個に観測され、特に、[mm]シグナルは、113.65ppmに観測される。これを踏まえ、トリアッドアイソタクティシティ(mm)(%)は、下式より算出した。結果を表1に示す。
(mm)(%)=(113.65±0.1ppmの積分強度比/105~125ppmの積分強度比の合計)×100
なお、参考までに、実施例1のポリブタジエンの13C-NMRスペクトルを図1に示す。
【0080】
<融点>
ポリブタジエンの融点は、JIS K 7121-1987に準拠し、示差走査熱量計(DSC、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、「DSCQ2000」)を用いて測定した。実施例1のポリブタジエンの融点のみを測定したところ、図2に示すように、122.5℃であった。
【0081】
<数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー社製HLC-8321GPC/HT、カラム:昭和電工社製HT-806M×2本、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、ポリブタジエンのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を求めた。また、同様のやり方で、重量平均分子量(Mw)を求め、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。結果を表1に示す。なお、測定温度は140℃である。
【0082】
【表1】
【0083】
表1中の各略記内容は、以下の通りである。
BD:1,3-ブタジエン
NBA:5-ノルボルネン-2-メチルアミン
【0084】
表1より、実施例1,2では、アイソタクティシティが高いポリブタジエンが得られたことが分かる。また、かかるアイソタクティシティが高いポリブタジエンは、触媒系成分として、少なくとも、ヒドロキシビピリジル系錯体と、ノルボルネン誘導体とを用いることで製造可能であることが分かる。
【0085】
一方、比較例1では、触媒系成分としてノルボルネン誘導体を用いなかったため、シス-1,4結合量が増加し、また、トリアッドアイソタクティシティが0%になる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、アイソタクティシティが高い新規のポリブタジエンを提供することができる。また、本発明によれば、アイソタクティシティが高いポリブタジエンを製造することが可能な、ポリブタジエンの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の新規のポリブタジエンを用いた、ポリブタジエン組成物、タイヤ、及び樹脂部材を提供することができる。

図1
図2