(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】アクティブ変調散乱プローブアレイを含む装置と同プローブアレイを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/00 20150101AFI20231214BHJP
G01R 29/10 20060101ALI20231214BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20231214BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20231214BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H04B17/00
G01R29/10 B
H01Q3/26 Z
H01Q21/24
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020571764
(86)(22)【出願日】2019-07-15
(86)【国際出願番号】 US2019041893
(87)【国際公開番号】W WO2020018467
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-04
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507308186
【氏名又は名称】ライトポイント・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LitePoint Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】フィン、 ミン-チャウ
(72)【発明者】
【氏名】ダムガード、 モーテン
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0199134(US,A1)
【文献】特開平10-104294(JP,A)
【文献】米国特許第09705611(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/60
H04B 3/46-3/493
H04B 17/00-17/40
G01R 29/00-29/26
H01Q 3/00-3/46
H01Q 21/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブ変調散乱プローブアレイを含む装置であって、
複数の層を有する回路基板構造であって、前記複数の層は導電体と少なくとも1つの誘電体の交互の平坦層とを含む回路基板構造と、
前記複数の層のうちの第一の層の中に第一のアレイとして第一の共通の向きで設置された第一の複数のプローブアンテナ素子と、
前記第一の複数のプローブアンテナ素子間に接続され、前記複数の層のうちの第二の層に設置された第一の複数の電気信号変調デバイスと、
前記第一の複数の電気信号変調デバイ
スに接続され、前記複数の層のうちの前記第二の層に設置された第一の複数の電気インピーダンスと
を含む装置。
【請求項2】
前記第一の複数のプローブアンテナ素子は複数のマイクロストリップトレースを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスは複数のダイオードを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第一の複数の電気インピーダンスは複数の抵抗を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスは、前記第一の複数のプローブアンテナ素子間に複数の導電ビアを介して接続される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスに接続され、前記第一の複数の電気信号変調デバイスのそれぞれ1つを通じて伝導される複数のそれぞれの電流を測定するように構成された電流測定回路構成をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の層のうちの第三の層の中に第二のアレイとして第二の共通の向きで設置された第二の複数のプローブアンテナ素子と、
前記第二の複数のプローブアンテナ素子間に接続され、前記複数の層のうちの第四の層に設置された第二の複数の電気信号変調デバイスと、
前記第二の複数の電気信号変調デバイ
スに接続され、前記複数の層のうちの前記第四の層に設置された第二の複数の電気インピーダンスと
をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第一の共通の向きと前記第二の共通の向きとは相互に垂直である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第一のアレイと前記第二のアレイとは、前記第二の複数のプローブアンテナ素子の
対応プローブアンテナ素子が前記第一の複数のプローブアンテナ素子の
対応プローブアンテナ素子に相互に近接する
が接触はしない位置に設置されるように相互に設置される、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
アクティブ変調散乱プローブアレイを動作させる方法であって、
複数の層を有する回路基板構造であって、前記複数の層は導電体と少なくとも1つの誘電体との交互の平坦層を含む回路基板構造を提供するステップと、
前記複数の層のうちの第一の層の中に第一のアレイとして第一の共通の向きで設置された第一の複数のプローブアンテナ素子を提供するステップと、
前記複数の層のうちの第二の層に設置され、前記第一の複数のプローブアンテナ素子間に接続された第一の複数の電気信号変調デバイスを提供するステップと、
前記複数の層のうちの前記第二の層に設置され、前記第一の複数の電気信号変調デバイ
スに接続された第一の複数の電気インピーダンスを提供するステップと
を含む方法。
【請求項11】
前記第一の複数のプローブアンテナ素子は複数のマイクロストリップトレースを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスは複数のダイオードを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第一の複数の電気インピーダンスは複数の抵抗を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスは、前記第一の複数のプローブアンテナ素子間に複数の導電ビアを介して接続される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第一の複数の電気信号変調デバイスのそれぞれ1つを通じて伝導される複数のそれぞれの電流を測定するステップをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の層のうちの第三の層の中に第二のアレイとして第二の共通の向きで設置された第二の複数のプローブアンテナ素子を提供するステップと、
前記複数の層のうちの第四の層に設置され、前記第二の複数のプローブアンテナ素子間に接続された第二の複数の電気信号変調デバイスを提供するステップと、
前記複数の層のうちの前記第四の層に設置され、前記第二の複数の電気信号変調デバイ
スに接続された第二の複数の電気インピーダンスを提供するステップと
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の共通の向きと前記第二の共通の向きとは相互に垂直である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一のアレイと前記第二のアレイとは、前記第二の複数のプローブアンテナ素子の
対応プローブアンテナ素子が前記第一の複数のプローブアンテナ素子の
対応プローブアンテナ素子に相互に近接する
が接触はしない位置に設置されるように相互に設置される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示は、2018年7月16日に出願された、“System and Method for Over-The-Air(OTA)Testing to Detect Faulty Elements In An Active Array Antenna Of An Extremely High Frequency(EHF)Wireless Communication Device”と題する米国特許出願第16/036,522号の優先権を主張するものである。同出願の全内容を、参照によりあらゆる目的のためにすべて本願に援用する。
【0002】
本発明は、高周波数トランシーバシステムのOTA(over-the-air)試験に関し、特に、EHF(extremely high frequency)無線通信機器のアクティブアンテナアレイ中の破損素子を検出するための試験を行うことに関する。
【背景技術】
【0003】
移動無線通信機器は多くの目的のために利用範囲がますます広がっていることから、各種の用途(例えば、ビデオのストリーミング及び/又は特に双方向通信におけるビデオの利用増大)に対応するために十分な信号帯域幅の利用可能性が極めて重要な問題となった。その結果、より高い信号周波数の活用が推進されており、その例がEHF(extremely high frequency)であり、これは国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)の定める30~300ギガヘルツ(GHz)の電磁スペクトルバンド内の高周波数の呼称であり、ミリ波(mmW)信号と呼ばれることが多い。
【0004】
高い大気減衰による短い見通し距離内信号経路等、様々な理由から、このような機器は多くの場合、アクティブアレイアンテナを使って信号のビームフォーミングを行い、信号経路長を最大化する(そのほか、周波数再使用をより可能にする)。当該分野で知られているように、このようなアンテナ構造は、複数のアクティブアンテナ素子を含み、それが典型的に規則的アレイに配置されるが、その例としては、それぞれ4×4又は5×5のアレイに配置される16又は25のアンテナ素子の長方形アレイ(それぞれの電磁信号の放射及び受信のため)がある。したがって、このような機器を試験する際、アクティブアンテナ素子(例えば、4×4又は5×5アレイの16又は25のアンテナ素子全部)の各々を試験して、その機器がその設計及び/又は性能仕様に適合していることを確認できることが重要である。
【0005】
現行の従来の試験技術は、アクティブアンテナ素子から放射されたエネルギーの遠方界、コンパクトレンジ、及び近傍界測定を行うことを含む。遠方界方式は、遠く離れた、例えば数λ離れた(ただし、λは放射された信号のキャリア周波数である)2つの機器間の通信に一般的に使用されるアンテナの性能試験に使用されることが多い。この方式によれば、受信器、又はレンジ、アンテナ、及び試験対象アンテナ(AUT:antenna under test)が少なくともR=2D2/λであるレンジ距離Rだけ相互に分離される(ただし、Dは2つのアンテナの最大開口寸法である)。大きい開口(例えば、数波長の大きさ)を有するアンテナの場合、レンジ距離Rは大きい可能性があり、このような方法を使用するシールド試験チャンバが大型となる。したがって、遠方界方式を用いる試験システムは、その大きさの点で、製造環境での使用にとって望ましくない。
【0006】
さらに、遠方界方式では、アンテナ全体的な性能を測定しアンテナ放射パターンを捕捉することは可能であるかもしれないが、アンテナアレイ中の欠陥素子を確実に検出することはできず、それは、少数の欠陥素子を含むアクティブアレイ全体(例えば、25の素子のうちの3つに欠陥がある5×5の素子アレイ)を測定する場合、合理的に検出できる放射の差が観察されないからである。例えば、このようなアンテナアレイからブロードサイド方向に向けられる放射エネルギーの単点測定を使用しても、欠陥素子のないアンテナアレイから測定されたものとの有意な差(<1 dB)は明らかとならない。さらに、このような小さい差が合理的に検出及び測定できたとしても、欠陥素子の数もわからなければ、どの素子かの特定もできず、ブロードサイドで方向付けられた時に欠陥素子を含むアンテナアレイの測定された性能に有意な差がなくても、他のステアリング角度では性能の低下が見られることがある。
【0007】
コンパクトレンジ方式は、ある点において遠方界方式と似ているものの、AUTの近傍界領域内で球面波を平面波に、例えばその目的のために設計された複雑な形状を有するリフレクタを使って変換するための装置が使用される点が異なる。しかしながら、コンパクトレンジ方式は、直接遠方界方式のように、必要な試験エンベロープ(及びシールド試験チャンバ)の小型化には役立つが、この方式でもやはり、フルアクティブ動作モードでアレイの破損素子を検出し、特定することはできない。
【0008】
他方で、従来の近傍界方式は、平面、円筒、又は球面走査を使って複雑な信号を捕捉する近傍界測定と、パワーの大きさだけを捕捉する単純な結合技術を含む。一般に放射近傍界領域における複雑な信号の近傍界捕捉は、有利な点として、複雑なデータを含み、これを数学的に遠方界領域に変換して、遠方界性能特性を取得するか、又は再びアンテナ表面に変換して、アンテナ診断を行うのに役立てることができる。このようなシステムはまた、直接遠方界及びコンパクトレンジシステムよりフットプリントが小さいが、これらは一般に単独のプローブを使ってロボットアームを用いた測定スキャンを行い、したがって、試験対象のスキャン表面(例えば、平面、円筒、又は球面)内での測定データ取得のための長い試験時間が関わる。機械的な機器の代わりに、電子スイッチド電子アレイを使用して測定スキャンをスピードアップしてもよいが、広範囲のスキャンが必要な場合、それに必要な大型スイッチドアレイと設計は複雑且つ高額となる可能性がある。
【0009】
パワーの大きさだけを捕捉するシンプルな近傍界結合法は、単純且つ低コストである傾向があり、製造環境でよく使用されるものであり、AUTの付近に設置されたカプラ、すなわちアンテナを使って放射パワーを捕捉する。参照用の、すなわち良品であることが保証されているAUTからの測定パワーとの比較パワー試験を使って、そのAUTの欠陥の有無が確かか否かが確認される。潜在的な欠陥のすべてを捕捉するために、カプラの開口をAUTと同じ大きさにする必要がある。小型(例えば、2×2)アレイの場合、どの素子に欠陥があるかを検出することは、そのアレイ全体に欠陥があるか否かが特定できれば重要ではない。しかしながら、素子数の多いAUTの場合、大型カプラ、特に非常に多くの開口を持つアンテナの設計は、複雑であるが必要であり、これは、すべての素子の近傍界を測定して、欠陥のあるアレイ素子が正確に検出されることを確実にしなければならないからである。さらに、このような結合方法では、通常の動作時(フルアクティブアレイ)に大型アレイ中の個々の欠陥素子を識別することができない。このような結合方式はそれでも、素子を1つずつ試験して個々の破損素子を検出するためには使用されるかもしれないが、これはさらに時間がかかり、依然として通常の(フルアクティブ)動作時のアレイの試験は不可能である。
【発明の概要】
【0010】
EHF(Extremely High Frequency)無線通信機器のアクティブ平面アンテナアレイ中の破損素子を検出するためのシステム及び方法が提供される。二偏波変調散乱プローブのマトリクスを有する平面アンテナアレイは、試験対象アンテナ(AUT:antenna under test)の近傍界領域内に設置される。AUTから受信した電磁エネルギーは複素電気信号に変換され、それが電気変調信号によって変調されて、散乱信号として放射される。結果として得られる電磁散乱信号は、他のアンテナによって受信され、電気信号に変換されて、バックプロパゲーション変換を介したホログラフ画像再構成演算で使用され、AUTの表面から放射される信号スペクトルが再構成される。この再構成された信号スペクトルを良品であることがわかっているアンテナアレイの表面から放射された参照信号スペクトルと比較することによって、AUT中の破損アンテナ素子の検出が可能となる。
【0011】
例示的な実施形態によれば、アクティブ変調散乱プローブアレイは、複数の層を有する回路基板構造であって、複数の層は導電体と少なくとも1つの誘電体の交互の平坦層を含む回路基板構造と、複数の層のうちの第一の層の中に第一のアレイとして第一の共通の向きで設置された第一の複数のプローブアンテナ素子と、第一の複数のプローブアンテナ素子間に接続され、複数の層のうちの第二の層に設置された第一の複数の電気信号変調デバイスと、第一の複数の電気信号変調デバイス間に接続され、複数の層のうちの第二の層に設置された第一の複数の電気インピーダンスと、を含む。
【0012】
他の例示的な実施形態によれば、アクティブ変調散乱プローブアレイの動作方法は、複数の層を有する回路基板構造であって、複数の層は導電体と少なくとも1つの誘電体の交互の平坦層を含む回路基板構造を提供するステップと、複数の層のうちの第一の層の中に第一のアレイとして第一の共通の向きで設置された第一の複数のプローブアンテナ素子を提供するステップと、複数の層のうちの第二の層に設置され、第一の複数のプローブアンテナ素子間に接続された第一の複数の電気信号変調デバイスを提供するステップと、複数の層のうちの第二の層に設置され、第一の複数の電気信号変調デバイス間に接続された第一の複数の電気インピーダンスを提供するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】例示的な実施形態により試験するためにDUTに近接して設置されたスイッチドプローブアレイを示す。
【
図2】例示的な実施形態によるバックプロパゲーション変換法を介したホログラフ画像再構成の実装例を示す。
【
図3】例示的な実施形態による、AUTの近傍界領域内で放射された近傍界を捕捉し、AUTの平面に再び変換したものを示す。
【
図4】例示的な実施形態による微分ホログラフバックプロパゲーション変換の結果を示す。
【
図5】例示的な実施形態による、複数のAUTの再構成可能な多重結合試験へのスイッチドプローブアレイの使用を示す。
【
図6A-6B】
図6Aは、例示的な実施形態による、変調散乱信号を生成するための、アクティブスイッチドプローブアレイへの変調信号の印加を示す。
図6Bは、例示的な実施形態による、パラメータ性能試験中のパッシブスイッチドプローブアレイの使用を示す。
【
図7A-7B】
図7Aは、例示的な実施形態による、アクティブ変調散乱プローブアレイ近傍界スキャナを使用するための試験環境を示す。
図7Bは、例示的な実施形態による、パラメータ性能試験中にパッシブ散乱プローブを使用している間の試験環境を示す。
【
図8A-8B】例示的な実施形態による、変調散乱プローブアレイ近傍界スキャナの変調デバイスとしてのダイオードの例示的な使用を示す。
【
図9】例示的な実施形態による、変調散乱プローブアレイ近傍界スキャナの変調デバイスのための電気駆動信号を提供するためのマトリクス構成を示す。
【
図10】例示的な実施形態による、スイッチング回路構成を介して駆動された
図9のマトリクスを示す。
【
図11】不利なプローブ放射特性による、散乱及び再散乱した変調散乱信号の発生を示す。
【
図12】変調散乱プローブアレイのプローブを、入力される変調信号からデカップルする誘導回路素子又は抵抗回路素子の考え得る使用を示す。
【
図13】例示的な実施形態による変調散乱プローブアレイのためのマルチレイヤ基板構造を示す。
【
図14】例示的な実施形態によるマルチレイヤ変調散乱プローブアレイ内の直交プローブの相対的な水平及び垂直位置決めを示す。
【
図15A-15B】例示的な実施形態によるマルチレイヤ変調散乱プローブアレイ内の直交プローブのための変調信号経路を示す。
【
図16】例示的な実施形態によるマルチレイヤ変調散乱プローブアレイ内のプローブの性能をモニタするための試験回路構成を示す。
【
図17】例示的な実施形態によるプローブの性能をモニタするための試験回路構成によって、変調散乱プローブアレイ近傍界スキャナの変調デバイスのためのスイッチング回路構成を介した電気駆動信号を提供するためのマトリクスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明は、添付の図面に関する、本願により特許請求される発明の例示的な実施形態のものである。このような説明は、例証のためであり、本発明の範囲に関して限定的ではない。このような実施形態は、当業者が本発明を実施するためにできるだけ詳細に説明され、本発明の主旨と範囲から逸脱せずに幾つかの変更を加えて他の実施形態も実施されてよいと理解されたい。
【0015】
本開示全体を通じて、文脈上、別の明確な示唆がないかぎり、説明されている個々の回路素子は単数でも複数でもよいと理解されたい。例えば、「回路」及び「回路構成」という用語は、能動及び/又は受動の何れかであり、(例えば、1つ又は複数の集積回路チップとして)相互に接続若しくはそれ以外に連結されて、説明されている機能を提供する単独のコンポーネントも複数のコンポーネントも含んでいてよい。さらに、「信号」という用語は、1つ若しくは複数の電流、1つ若しくは複数の電圧、又はデータ信号を指してよい。図中、同様又は関係する要素には、同様又は関係するアルファベット、数字、又は英数字の表記が付けられる。さらに、本発明はディスクリート電子回路構成(好ましくは、1つ又は複数の集積回路チップの形態)を使用する実装例に関して説明されているが、このような回路構成の何れの部分の機能も、代替的に、処理される信号周波数又はデータレートに応じて1つ又は複数の適切にプログラムされたプロセッサを使って実装されてもよい。さらに、図面が各種の実施形態の機能ブロックの図表を示している場合、機能ブロックは必ずしもハードウェア回路構成が分割されていることを示しているとはかぎらない。
【0016】
以下により詳しく説明するように、小さい物理的フットプリントの試験システムは、試験対象機器(DUT)に対する高速測定スキャンを実行し、その間に、素子ごとに測定スキャンを実行するのではなく、そのアンテナアレイのすべての素子がフルアクティブモード(例えば、素子の全部又は所望のサブセットが同時に励起される)で動作するように設計されてよい。このような試験は、基本的に大型開口を有する指向性アンテナとして地上に構築される平面アレイアンテナを使用して行われると、より有利なことがあり、これは、平面スキャンが一般的に円筒又は球面スキャンより適当であるからである。
【0017】
同じく以下により詳しく説明するように、このような試験方法は、例えば試験対象アンテナ(AUT)の近傍界領域内の平面スキャン表面上の測定された複素場のバックプロパゲーション変換を使って、試験アンテナアレイをAUTから少なくとも1波長(1λ)の距離に設置してその放射エネルギー性能特性に対する攪乱を最小限にしたうえで、DUTアンテナアレイの表面上の電場(E場)のホログラフ画像再構成を実行することによって、アレイ内の欠陥アンテナ素子を検出するために使用されてよい。AUTから受信された測定スキャンE場は、参照アンテナアレイ(RA)(例えば、同様のアンテナアレイを有する、良品であることがわかっているDUT)から受信された、過去の測定スキャンE場と比較されてよい。AUTとRAのスキャン電場間の差は、欠陥アンテナ素子がAUTの中にあるか、及びそれがどこにあるかをバックプロパゲーション変換に基づいて特定するために使用できる。
【0018】
より具体的には、以下により詳しく説明するように、大型スイッチドアレイを使って、DUTのAUTから受け取ったエネルギーの近傍界を捕捉してよい。このようなアレイは、従来のプローブアンテナとは異なり、変調散乱方式を使用する小型プローブアンテナを含んでいてよい。さらに、このようなアレイはまた、再構成可能カプラとして使用されてもよく、この場合、アレイは、所定の最小パワーレベルで近傍界を捕捉して、受け取ったパワーレベルの加算を行って参照DUTのそれと比較するための1つのパワー値を計算するために、そのプローブのサブセットを探して使用する。このような方法は、所望の試験の目的として、DUTに欠陥があるか否かのみを特定すればよく、欠陥箇所を知る必要はないような小型DUTアレイについては有効であることがある。
【0019】
図1に関して、前述のように、例示的な実施形態により、平面アンテナアレイ14を有するDUT12が、アンテナアレイ14の放射及び受信アンテナ素子がAUT平面14aを画定する無線試験環境内で(例えば、既知の技術により、試験対象の信号周波数用に設計された無エコー室を形成する電磁シールド筐体内で)試験される。変調散乱プローブアレイ16(同様に平面)は、少なくとも1波長(例えば、関心対象信号の公称キャリア周波数で)の距離18にあるAUT14の近傍界領域Z
0内に配置される平面を画定する。以下により詳しく説明するように、変調散乱プローブアレイ16(例えば、アレイ16の直交軸x、yに沿って二偏波を有し、それによって大きさと位相の両方の測定を可能にするように設計される)の各プローブからの複素近傍界信号が試験アンテナ(図示せず)によって受信され、測定され、その結果はその後、バックプロパゲーション変換20を行うために使用される。
【0020】
図2に関して、例示的な実施形態により、バックプロパゲーション変換20(その様々な形態が当該分野で知られている)が測定された複素近傍界信号に対して行われ、そのためにまずDUT12のAUT14からの距離Z
0におけるプローブアレイ16の平面表面における近傍界エネルギーが測定される22。測定されたエネルギーは次に、逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)23に従って処理されて、プローブアレイ16の各プローブにおいて受け取られたエネルギーを表す平面波スペクトル関数24が生成される。このスペクトル関数から、それぞれのプローブ補償パラメータが計算され25、プローブアレイ16の各プローブのためのプローブ補償26が提供される。これらのプローブ補償パラメータ26は、平面波スペクトル関数24に適用されて、対応する補償された平面波スペクトル関数28が計算され、これがその後、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)29に従って処理されて、AUT14から放射された近傍界エネルギー30が特定される。
【0021】
図3に関して、例示的な仮定の試験シナリオにおいて、z=0平面14aを画定する16のアンテナ素子(例えば、容量パッチ素子)の4×4のアレイを有するAUT14は、最大エネルギーがより濃い赤の影付き領域から発せられ、最小エネルギーがより濃い青の影付き領域から発せられ、中間エネルギーが緑と黄の影付き領域から発せられるように、その信号エネルギーを放射していてよい。同様に、144の二偏波素子の12×12のアレイ(Z=Z
0平面16aを画定する)を有するプローブアレイ16によって受け取られた対応する信号エネルギーは様々なエネルギーレベルを有し、これは前述のように異なる影付き領域で示される。
【0022】
図4に関して、例示的な実施形態によるホログラフ画像再構成は、AUT14から1波長離れたスキャン表面16aで捕捉された複素場の差を変換した後の、AUT14(例えば、4×4のアンテナアレイ)の表面における変換された近傍界の大きさを使用してよい。例えば、参照(例えば、良品であることがわかっている)AUTの、測定され、逆変換されたエネルギーレベル14rは、破損AUTの、測定され、逆変換されたエネルギーレベル(前述のように異なる影付き領域により示される各種のエネルギーレベルを有する)と比較されてよく、それによって参照アレイ14rとAUT14bとの間の複素近傍界の差の変換が生成されて、破損アンテナ素子32a、32b、32cを有する破損AUT14mが示される。
【0023】
換言すれば、欠損のあるフルアクティブAUTを試験して潜在的な欠陥を識別することは、以下のように説明されてよい。(当業者であれば容易に理解するように、アレイアンテナ素子が欠陥品であると識別されたとしても、(おそらくわずかにすぎないものの)それが欠陥品なのではなく、DUT内のそのように識別されたアレイアンテナ素子の駆動に係わる回路構成及び/又は接続部に欠陥があることも依然としてあり得る。しかしながら、製造プロセスのより早い段階でこのような回路構成及び/又は接続部の他の電気信号試験を行うことによって、このようなアンテナ以外の欠陥の可能性を最小限にすることができる。)
【0024】
まず、フルアクティブモードで動作する参照(例えば、良品であることがわかっている)DUTから少なくとも1波長の所定の距離Z0にあるプローブアレイ16を使って複素近傍界(大きさ及び位相)の測定を行う。このような測定により、Z=0の参照表面スキャンマトリクス14r MREFが形成される。第二に、フルアクティブモードで動作するDUTについて、同じ距離Z0と同じ参照AUT位置Z=0の複素近傍界の測定を行い、Z=Z0の測定表面スキャン14b MAUTを形成する。第三に、2つのマトリクスの個別の減算MREF(Z=Z0)-MAUT(Z=Z0)=MS(Z=Z0)を実行して、微分マトリクスMSをアレイアンテナ表面MS(Z=0)14dのZ=Z0まで変換する。差分マトリクスの絶対値|MS(Z=0)|は、AUT(Z=0)の表面における参照アレイの結果14rとAUTの結果14bとのE場の大きさの差14dを示す。この試験は、何れのフルアクティブアレイ状態についても実行されてよい。例えば、アレイ試験状態は、特定のビームフォーミング角度に設定されてよい。試験対象AUTの素子が参照アレイと同じ位相遅延又は電場の大きさを持たない場合、Z=0での異なるE場が欠陥素子の位置に現れる。
【0025】
図5に関して、同様の試験を、複数のアレイ又はより大型アレイの複数のサブセットについて行ってよい。例えば、スキャン表面(Z=Z
0)から測定された近傍界データを使ってデータ処理を行い、アレイを試験することができる。ユーザが各アレイに関するスキャンエリアを画定してもよく、又はフルスキャンを行って、プローブアレイ内のプローブを検出し、このようなプローブでの近傍界信号強度が大きいことを証明し、その後、これを使って所望のスキャンエリアが画定されてもよい。これによって、ユーザは、大型のスイッチドプローブアレイ16を用いてより大きいアレイ開口内の再構成可能なサブアパーチャを作ることができる場合がある。これは、AUTが小さく(例えば、2×2のアレイ)、どの素子に欠陥があり得るかを知ることにそれほどの利点が(又はおそらくは必要性すら)ない場合に特に有益であり得る。(これはまた、1つのアンテナを使ってAUTからの放射信号を捕捉する結合方法と同様と考えてもよい。)選択されたサブアパーチャ内の変調散乱スイッチドプローブアレイの各プローブからの測定された複素近傍界の値のすべてを加算して、1つの測定値を得ることができ、これを参照アレイのそれと比較して、そのAUTに欠陥があるか(例えば、少なくとも1つの破損素子を含んでいるか)否かを試験してよい。
【0026】
図6Aに関して、変調散乱プローブアレイを従来のプローブアンテナの代わりに使用することによって、特定のスキャニング平面の表面における近傍界を捕捉するためのスイッチドアレイ設計の複雑さを軽減できる。当該分野で知られているように、変調散乱は、変調周波数f
Mを有する変調信号15mによって駆動される非線形回路コンポーネント(例えば、ダイオード)17に接続された散乱物体(例えば、導電体)19を使って、周波数ミキサによりover the airで実現されてよい。散乱物体19も送信器からキャリア周波数f
Cを有する入力放射信号15cを受信すると、非線形回路コンポーネント17の中で周波数混合が起こり、それによって、それぞれキャリア周波数f
Cより低い、及び高い、下側f
L及び上側f
Uサイドバンド周波数を有する変調サイドバンドが生成される。
【0027】
その結果として得られる再発信された電磁信号15c、15msは一緒に、キャリア周波数fCを、下側fC-fMと上側fC+fMサイドバンド周波数を有する変調サイドバンドと共に含み、試験受信アンテナ34によって捕捉されて、無線周波数(RF)電気信号35に変換される。下側fC-fM及び上側fC+fMサイドバンド周波数での信号成分は、前述のバックプロパゲーション変換のために必要な、散乱物体19に当たった放射信号波からのすべての必要な電磁情報(例えば、振幅と位相)を含んでいる。(当業者であれば容易にわかるように、変調信号15mが非線形(例えば、方形波)である場合、再放射された信号は高調波周波数...,fC-3fM,fC-2fM,fC-fM,fC+fM,fC+2fM,fC+3fM,...も含む。)
【0028】
このような変調散乱技術は複数の利点を提供する。例えば、近傍界は、小型プローブを使用すると(例えば、λ/6の小ささ)、最小の攪乱で測定できるが、従来のアンテナでは、その近傍界領域内に設置されると、プローブとアンテナとの間の強力な結合によって、送信アンテナ(AUT)の特性に攪乱が含められる可能性がある。また、アレイ内で使用されると、より低周波数の変調信号(fM)を搬送する各プローブのダイオード(以下に詳しく説明する)に接続される抵抗ペアワイヤの設計は、高周波数コンバイナ及び/又はマルチプレクサを有する従来のスイッチドアレイ受信アンテナの設計より単純である。
【0029】
さらに、このような変調散乱技術は、少なくとも2つの方法で使用されてよい。例えば、モノスタティックモードでは、1つのアンテナが信号の送信と結果として得られる散乱信号の受信の両方に使用されてよい。代替的に、バイスタティックモードで、信号送信及び結果として得られる散乱信号の受信は、それぞれの目的のための異なる専用アンテナを使って行われてよい。
【0030】
図6Bに関して、また別の例示的な実施形態によれば、散乱プローブアレイのパッシブモードでの、すなわち変調を適用しない使用によって、システムをover the airでのパラメータ又は性能試験に再使用することができる。より具体的には、AUTから数波長離れた位置に設置された受信アンテナ34は試験アンテナとして使用されてよく、他方で散乱プローブアレイはパッシブモードで(例えば、変調を行わずに)動作する。
【0031】
当該分野で知られているように、パラメータ試験では性能パラメータ(例えば、周波数応答平坦性、隣接チャネル漏洩電力比(ACLR)、エラーベクトル振幅(EVM)、受信器感度、ブロック誤り率(BLER)等)に焦点が当てられ、これらはアンテナ放射性能に依存しない。前述の方法は、測定が再現可能であるかぎり、この試験を行うために使用できる。導電環境(例えば、RFケーブル接続を介する)での試験では一般に、最も再現性の高い測定結果が得られる。しかしながら、導電試験は、RF信号ポートを利用できなければ(例えば、無線動作のみのために設計された機器)使用できない。したがって、OTA(over-the-air)試験は、測定が再現可能であるという追加の要求事項がある場合に必要となり、信号がそこを通って(送信器から受信器に)送られるOTA環境は、信号周波数応答にほとんど影響を与えない。
【0032】
前述の変調散乱試験(MST)システムにおいて、変調されるプローブは物理的に小さく(例えば、長さ0.25λ以下)、それによって近傍界測定中のAUTの性能の攪乱が最小限となる。しかしながら、プローブアレイが変調されない場合、ダイオードはオフにされ(例えば、事実上、開回路のように見える)、プローブアレイは事実上、パッシブモードで動作して、公称キャリア周波数fCでの信号再散乱が最小化される。したがって、プローブアレイはRXアンテナの公称キャリア周波数での測定にほとんど影響を与えない。より重要な点として、プローブアレイはそのスタティック位置及びモードのままであり、それによってパラメータ試験中に含められる測定の変動が最小限となる。
【0033】
図7Aに関して、前述の例示的実施形態によれば、完全な試験環境は、これらに限定されないが、既知の技術に従って内部信号吸収材(図示せず)を備え、試験される信号周波数のために設計された無エコー室を形成する電磁シールド筐体40の中に格納されたAUT14、プローブアレイ16、及び試験受信アンテナ34を含む。また、典型的には筐体40の外に、RF信号インタフェース回路構成42、コントローラ44、及びPCワークステーション50も含まれる。コントローラ44は、プローブによるスキャニングを制御する(以下により詳しく説明する)ための、プローブアレイ16への1つ又は複数の制御信号41aと、PCワークステーション用の適当なインタフェース信号43bに変換されるRF信号35の捕捉を制御するためのRF信号インタフェース回路構成42への1つ又は複数の制御信号43aを提供してもよい。コントローラ44はまた、PCワークステーション50と通信して、例えば1つ又は複数の信号45を介して制御情報及び/又はデータを提供及び/又は受信してもよい。
【0034】
図7Bに関して、前述のまた別の例示的な実施形態により、パラメータ試験中、プローブアレイ16はパッシブモードで動作し、その場合、プローブ17は事実上、開回路(オフ)となり、それらに起因する再散乱はAUTからの信号15cと比較して小さい。したがって、受信アンテナ34に到達した主要信号エネルギーは、公称キャリア周波数f
CでのAUT信号15cに起因するものとなる。この動作モード中、全体的な経路損失はTX信号及びRX信号間で測定でき、その内部を適正に設計することにより、筐体40は測定にほとんど影響を与えず、それによって試験結果の高い再現性が確保される。したがって、パラメータ試験は、受信アンテナ34を使ってAUTからTX信号を受信する(TX試験)だけでなく、RX信号をAUTに送信する(RX試験)場合、低い不確実性で実行できる。
【0035】
本明細書に記載の行為、モジュール、ロジック、及び方法ステップは、様々な形態で(例えば、コントローラ44及び/又はPCワークステーション50の中及び/又はそれによって)実装されてよく、これには、記載されている行動、機能、特徴、及び方法を行うためのコードを実行するプロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ等)とメモリを含むがこれらに限定されない制御ユニットと連通する1つ又は複数の形態の有形機械可読媒体(例えば、メモリ)に記憶された1つ又は複数のコンピュータプログラム又はソフトウェアコードが含まれるが、これらに限定されない。当業者であれば容易にわかるように、これらの動作、構造的機器、行為、モジュール、ロジック及び/又は方法ステップは、特許請求項の主旨と範囲から逸脱することなく、ソフトウェア、ファームウェア、特定用途デジタルロジック、及び/又はそれらの何れかの組合せにおいて実装されてもよい。
【0036】
図8A及び8Bに関して、例示的な実施形態により、スイッチドプローブアレイは、少なくとも2つの形態の変調、すなわち電気及び光の一方を使って実装されてよい。例えば、電気変調は、抵抗配線47r、47cを介して、関連するプローブ素子19間に接続されたPINダイオード17eに適用されてよい。これによって、必然的に測定プローブに、又はその付近に金属素子が含められ、これによってアレイのプローブ間の電磁結合がもたらされる可能性があるが、適正な設計(以下により詳しく説明する)により、このような結合を最小限にすることができる。したがって、DUT放射特性の攪乱はほとんどもたらされず、それと同時にプローブフィード切替の設計が簡素化され、低コストの実装が可能となる。代替的に、光変調は、変調された光信号15mo(例えば、可視光若しくは赤外線)又はレーザ15ml信号を介して、関連するプローブ素子19間に接続されたフォトダイオード17oに適用されてよい(例えば、光ファイバを介して運ばれる)。この技術は有利な点として、測定プローブでの、又はその付近での金属素子の使用が最小限となり、それによってDUT放射特性の攪乱の可能性が最小化される。しかしながら、多数の変調プローブのアレイには、それと等しい多数の光ファイバが必要となり、そのための設計と光学的に絶縁される多数の信号の配置及び供給が複雑で高コストとなり得る。
【0037】
抵抗配線、又はトレースを用いると、各変調散乱(MS)プローブに2つのトレースが必要となり、その結果、アレイ内に多くのトレースが必要となる。例えば、二偏波(最大散乱エネルギーまで)の30×30のプローブアレイには1800(30×30×2)のプローブが必要であり、それによってそのアレイ内には3600(30×30×2×2)のトレースをルーティングする必要がある。また、それほど多くのトレースをルーティングするのに必要な大きなスペースに加えて、DUT放射特性の攪乱の原因となり得るトレース間の電磁結合のほか、MSプローブ自体の散乱効果を最小化することがさらに必要となる。
【0038】
以下により詳しく説明するように、例示的な実施形態により、このような望ましくない結合効果、コスト、及び設計の複雑さを軽減できる。例えば、抵抗フィードトレースの数を減らして、望ましくない結合効果と、フィードトレースのルーティング及び切替における設計の複雑さとを低減できる。二偏波プローブアレイは、水平偏波(x次元に沿う)及び垂直偏波(y次元に沿う)プローブが同じ位置(z次元に沿う)に設置されて両方の信号偏波が各プロープ位置で捕捉されるように設計されてよい。アレイ内のプローブ素子間の間隔は、測定値の変換を処理した後の望ましくない虚構効果を回避するために、半波長(λ/2)以下であるべきである。したがって、フィードトレースの数を減らすことは、ミリ波周波数等の極めて高い動作周波数でアレイスキャナを動作させる場合にずっと重要となり、これは、素子間間隔が極小となり、フィードトレースのルーティングが非常に困難になるからである。
【0039】
図9に関して、例示的な実施形態により、MSアレイはn×nの素子アレイの各偏波(水平及び垂直)のためのプローブ17へのフィードトレース47r、47cのマトリクス構成として実装されてよい。この構成の動作中、変調信号15mはコラムトレースCi 47ci(例えば、コラムトレース47c1,47c2,...,47cnのうちの1つ)に適用され、ロートレースRj 47rj(例えば、ロートレース47r1,47r2,...,47rnのうちの1つ)がアース接続のために選択され、それによって変調信号は1つのプローブ(i,j)のみに印加される。したがって、1つのフローブダイオード17ijのみが変調信号15mによって駆動され、その一方で、残りのダイオードは、正のDC電圧+VDDをプルアップ抵抗器48rを介してそれらのカソードに印加し、それらのアノードをプルダウン抵抗器48cを介して接地することによって、一定の状態、例えば逆バイアス状態に保持される。したがって、n×nのアレイの場合、2×n×nのフィード又は制御ラインが必要となるのではなく、わずか2nのラインがあればよい。二偏波プローブの場合、必要なラインは4n(2×2n)となる。
【0040】
図10に関して、例示的な実施形態により、フィードトレースの数、複雑さ、及びルーティングはさらに軽減及び/又は簡素化されてよい。例えば、2つのルーティング回路又はシステム62r、62c(例えば、スイッチング回路又はマルチプレクサの形態)を使って、変調信号Mを選択されたコラムラインCiに(例えば、コラムマルチプレクサ62cを介して)接続し、選択されたローラインRjを(例えば、ローマルチプレクサ62r及びダイオード63を介して)接地してよい。マルチプレクサ62c、62rによる個々のプローブダイオード17rjciの選択は、多重制御信号A0,A1,...,Am,B0,B1,...,Bmのそれぞれのセットにより開始されてよい。したがって、制御ラインの数は2m+1に減り、これは、log2(n):A0,A1,...,Am,B0,B1,...,Bmより大きい最小の整数であるm、プラスMである。例えば、30×30のプローブアレイに必要な制御ラインは11(2×5+1)でよい。この構成案に二偏波を加えてもラインの数は1本増えるだけであり、それは、マルチプレクサ制御信号A0,A1,...,Am,B0,B1,...,Bmを第二の偏波に再使用してよいからである。すると、変調信号Mを、垂直プローブ偏波アレイに(垂直プローブ偏波変調信号MVとして)、又は水平プローブ偏波アレイに(水平プローブ偏波変調信号MHとして)案内するために必要な追加のラインは1本のみである。したがって、これによって、選択された偏波アレイ(垂直又は水平)の選択されたプローブダイオード17rjciだけが変調され、残りのプローブダイオードは逆バイアス状態に保持される。
【0041】
図11に関して、MSアレイ16の設計及びレイアウトは、アレイ16内のすべての散乱素子19(AUT14から受け取ったエネルギーを再放射するプローブ)の中で、エネルギーを放射しているアクティブ素子だけが、変調される選択されたダイオード17であることが重要である。プローブ素子17に接続されたその他の金属素子、ワイヤ、又はトレース、例えば制御ライン47r、47cは何れも、プローブ放射特性に影響を与えるだけでなく、ダイオード17からの変調の影響を受け得る。考え得る不利な影響は、変調サイドバンド周波数fc+fm、fc-fmにおける電磁エネルギー15mrsの制御ライン47r、47cによる再散乱である。これによって測定にエラーが生じることがあり、それは、制御ライン47r、47cが特定のプローブ19に位置していない近傍界を捕捉し再散乱させるだけでなく、水平及び垂直プローブ間の偏波弁別のほか、隣接プローブ間の結合も劣化させることがあるからである。
【0042】
図12に関して、制御ライン15のデカップリングは、抵抗器又はインダクタ55を含めて、デカップルされる接続点19における測定周波数での抵抗又はインピーダンスを増大させることによって行うことができる。抵抗又はインピーダンスを増大させると、電流が減少する。誘導インピーダンス応答は周波数の関数であり、特定のマイクロ波周波数での高いインピーダンス特性と低周波数での低インピーダンスを示すように設計されてよい。しかしながら、インダクタはマイクロ波周波数でのコンポーネントのデカップリングに適し得るものの、より高い周波数(例えば、数十GHz以上のミリ波周波数)でのインダクタの設計はより複雑となり、その周波数範囲でのデカップリングの目的にとって有益な、及び/又は一貫したインピーダンス応答を示さないことがある。したがって、多くの場合、このようなより高周波数でのデカップリングコンポーネントとしては、抵抗を増大させる抵抗器を使用する方が好ましいことがあり、これは、その抵抗が理想的な点として、広い周波数範囲にわたって実質的に一定のままであるからである。何れにしても、変調信号電圧が、ダイオード17がその順方向バイアス領域で確実に動作するのに十分に高いことが重要である。
【0043】
図13に関して、前述のように、アンテナから放射されるエネルギーの最大量を捕捉するには、2つの直交線形偏波(例えば、相互に関して「水平」及び「垂直」)の複雑な信号測定が必要である。このような二偏波プローブアレイを実装するために、各プローブ素子には2つの線形偏波が必要となる。単純な設計には、相互に垂直な方向に2つの短小ダイポールが含まれる。それ以外の設計もまた、2つのプローブ間の偏波弁別が良好であり、アレイ内の隣接プローブ間の結合が最小であるかぎり、使用されてよい。好ましくは放射された信号は、直交する、又は少なくとも相互に(電気的に)近いダイポールの各ペアについて同じ平面位置で捕捉されるべきである。本明細書に示されるように、支持構造の複数の層(例えば、以下でより詳しく説明する4層プリント回路基板)により支持されるレイアウトを有する設計がこのようなダイポール位置要件を満たし、結果として得られる平面アレイのすべての素子の制御ラインルーティングの管理に適していてもよい。
【0044】
例えば、第一及び第二の層は、水平ダイポール用の素子及びその制御ラインを支持してよい。より具体的には、第一の層は、変調信号をデカップリング素子55とフィードライン74ha、74hbを介して関連する変調デバイス17に供給するコラム47c及びロー47r制御ラインを支持する。水平ダイポール素子19ha、19hbは、第二の層により支持され、(AUTから)放射されたエネルギーを受け取って、RF電気信号に変換し、それがめっきされた貫通穴(ビア)76a、76bにより変調デバイス17に搬送される。結果として得られた変調RF信号は、ビア76a、76bによって再びダイポール素子19ha、19hbに搬送され、これらが今度は、それを電磁信号に変換し、水平偏波を有する対応する散乱信号として放射されるようにする。
【0045】
同様に、第三及び第四の層は、垂直ダイポール用の素子及びその制御ラインを支持してよい。より具体的には、第四の層は、変調信号をデカップリング素子55とフィードライン74va、74vbを介して関連する変調デバイス17に供給するコラム47c及びロー47r制御ラインを支持する。垂直ダイポール素子19va、19vbは、第三の層により支持され、(AUTから)放射されたエネルギーを受け取って、RF電気信号に変換し、それがめっきされた貫通穴(ビア)78a、78bにより変調デバイス17に搬送される。結果として得られた変調RF信号は、ビア78a、78bによって再びダイポール素子19va、19vbに搬送され、これらが今度は、それを電磁信号に変換し、垂直偏波を有する対応する散乱信号として放射されるようにする。
【0046】
図14に関して、前述のような例示的な実施形態により、プローブアレイのための支持構造は、4層プリント回路基板(PCB)70であってよい。当該分野で知られている技術によれば、このようなPCB 70は、パターニングされた導電体の4つの層72a、72b、72c、72dを含んでいてよく、それが電気的絶縁材料(例えば、誘電体)の3層71a、71b、71cにより分離され、相互に電気的に絶縁されている。好ましくは、中央の対向する導電層72b、72c(層2及び3)間の中央の絶縁層71cにより充填されたギャップは、電気的に小さくてよい(すなわち、その誘電率に基づき、その物理的厚さは、受信され、散乱されることになる放射エネルギーの公称周波数の波長の何分の1かに対応する)。代替的に、2層PCB設計もまた使用されてよく、この場合、水平ダイポール素子19ha、19hb及びそれに関連するデカップリング素子55、フィードライン74ha、74hb、及び変調デバイス17は共有の第一の層の上にあり、垂直ダイポール素子19va、19vb、及びそれに関連するデカップリング素子55、フィードライン74va、74vb、及び変調デバイス17は共有の第二の層の上にある。さらに、好ましくは、PCBは最小厚さが1~1.5mmのリジッド基板であってよい。したがって、2層PCBは、2つの短小ダイポール間のギャップ(基板の厚さ)が電気的に小さいため、マイクロ波周波数にとって有効に機能し得るが、ミリ波周波数領域内では、4層基板設計の方がより適していることがある。
【0047】
図15A及び15Bに関して、前述のように、アクティブプローブの選択は、マトリクス構成のようにローiとコラムjを選択することによって行われる。フィード及び/又は制御トレースが何らかの方法で相互に交差する必要がないようにするために、トレースルーティングは、複数の(例えば、2つの)PCB層を利用して、必要なルーティングを行う。信号が入るフィード及び/又は制御トレースは一方の層の上に、相互に平行にあってよく、関連する戻りトレースは、もう一方の層の上に、相互に平行に、ただしフィード及び/又は制御トレースとは直交してあってよい。例えば、水平プローブのための変調信号は、層1の上のコラム制御ライン47cを介して導入され、他のビア76cを通じて層4の上のロー制御ライン47rへと戻されてよい。同様に、垂直プローブ用の変調信号は、層1の上のコラム制御ライン47cを介して導入され、他のビア78cを通じて層4の上のロー制御ライン47rを介して戻されてよい。
【0048】
前述のように、散乱プローブアレイを実装するために非常に多くの個別コンポーネントが必要となるため、各プローブの動作を(その関連する素子と共に)モニタし、及び/又は定期的に試験できることが極めて有利であろう。例示的な実施形態によれば、これは、アレイを制御する回路構成を適切に実装することによって実現できる。例えば、アレイの製造後に、各プローブアセンブリの適正な動作を試験できる。欠陥に遭遇した場合、欠陥のあるプローブアセンブリを再加工して、必要な修繕を行ってよい(例えば、損傷ダイオード及び/又はデカップリングデバイスの交換等)。不完全な測定データポイントの集合も、圧縮センシングアルゴリズム等の補間アルゴリズムを使って処理することによって、欠落しているデータポイントを回復してもよい。どのデータポイントがないか、又はどのプローブが正しく動作しないかを知り、データポイント回復アルゴリズムを使って欠落しているデータポイントを回復することによって、未知の欠陥によって不正確な値を有するデータポイントを扱う場合よりも適切な測定が可能になると予想される。
【0049】
図16に関して、例示的な実施形態により、各プローブアセンブリの動作を試験するための試験回路構成80は、実質的に図のように相互接続された演算増幅器82、複数の抵抗84、及びアナログ-デジタル(ADC)回路構成86で実装されてよい。既知の原理により、その反転及び非反転入力端子において分圧器を形成する演算増幅器82と抵抗84a、84bは、プローブダイオード17の電流85tが一連の抵抗84tの電圧を測定するように動作する。一連の抵抗84tの既知の数値に基づいて、測定された電圧83の信号はダイオード17の電流を表し、ADC回路構成86によって対応するデジタル信号87に変換されてよい。最も考えられるタイプのエラーには、特定のダイオードについての開回路(例えば、コンポーネントがPCBに正しくはんだ付けされず、接触しない)、すなわちダイオードのショート又はバイアス抵抗器のショートが含まれる。1つ目の例では、そのダイオードが選択された時の測定電流85tが公称電流より低くなり、2つ目の例では、測定電流85tは公称電流より高くなる。
【0050】
図17に関して、プローブ試験回路構成80は、点Mの、各偏波のためのフィード回路構成の共通点を介して接続されてよく、そこに変調信号Vm 15mが印加される。プローブ試験中、この電圧Vmは、試験中のダイオード17が確実に順方向バイアスの状態となるのに十分に高い一定の電圧に固定されてよい。個々のプローブダイオード17は、個々に選択される各ダイオード17を通る電流85tを測定することによって、個別に逐次的に試験されてよい。各ダイオード17を通る電流は、フィードトレース及びデカップリングデバイス55r1、55r2、及びダイオード17と直列の抵抗器84tを通じた電圧低下Vtを測定することによって特定されてよい。代替的に、複数のプローブのすべてのプローブ又はサブセット(例えば、プローブのロー全部又はコラム全部)をそれぞれ異なる変調周波数を使ってスキャニングして、スキャン中のプローブを駆動することにより、同時に試験されてもよい。
【0051】
本発明の範囲と主旨から逸脱しない本発明の構造及び動作方法における他の各種の改良及び代替案は、当業者にとって明らかであろう。本発明は、具体的な好ましい実施形態に関して説明されているが、特許請求される本発明は、このような具体的な実施形態に不当に限定されるべきではない。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲及びその均等物の範囲に含まれる構造及び方法がそれによってカバーされるものとする。