(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】シームレス缶体及びシームレス缶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20231214BHJP
B65D 1/46 20060101ALI20231214BHJP
B21D 51/26 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B65D1/46
B21D51/26 R
(21)【出願番号】P 2021011707
(22)【出願日】2021-01-28
(62)【分割の表示】P 2019014857の分割
【原出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-01-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 具実
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】西堀 宏之
【審判官】西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070542(WO,A1)
【文献】実開昭63-202612(JP,U)
【文献】実開平1-116120(JP,U)
【文献】特開平9-285832(JP,A)
【文献】特表平6-509513(JP,A)
【文献】国際公開第94/16842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D1/00-1/48, B21D51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状胴部と缶底部とを有するシームレス缶体であって、
前記缶底部は、前記筒状胴部の下端から内側へ縮径するように連続する外周底部と、前記外周底部よりも内側に位置する周状接地部と、
前記周状接地部よりも内側且つ鉛直方向上側に位置する内側端部と、前記内側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部と、を含み、
前記立ち上がり部の最外端の内径が、前記内側端部の内径よりも大きく、
前記筒状胴部の下端から前記周状接地部に至る前記外周底部の形状に沿った長さの中間点の板厚をt1とし、周状接地部の板厚をt2とし
、前記内側端部の板厚をt3とした場合、
t3>t2>t1
であることを特徴とするシームレス缶体。
【請求項2】
t3>t2となるように、前記外周底部から前記内側端部まで板厚が漸次増加する請求項1に記載のシームレス缶体。
【請求項3】
前記立ち上がり部上端の板厚をt4とした場合、
t4>t1
である
請求項1又は2に記載のシームレス缶体。
【請求項4】
前記缶底部は、前記立ち上がり部と連続して上方に凸となるよう膨出するドーム部と、を更に含み、前記ドーム部における中央の板厚をt5とした場合、t3>t4>t5となるように、前記ドーム部から前記内側端部まで板厚が漸次増加する
請求項3に記載のシームレス缶体。
【請求項5】
さらに、t5<t1である
請求項4に記載のシームレス缶体。
【請求項6】
缶体軸の外方に向かって、前記立ち上がり部と前記ドーム部の接続部分が凸となるリング溝が形成されている請求項
4又は5に記載のシームレス缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶体及びシームレス缶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絞りしごき加工によって缶胴部などが成形される、いわゆるシームレス缶体が知られている。このシームレス缶体は、しごき加工により缶胴部が薄肉化されているため、軽量性に優れている。その一方で、これらのシームレス缶体底部においてはしごき加工のような強制的な薄肉化を施す加工法を採用することが難しく、缶体底部の厚さは素材厚さから大きくは変動しない。底部には、缶内圧による変形に対する抵抗する強度(耐圧性)が求められることから、缶体底部においても軽量化を図るべく素材厚さを薄くして且つ、耐圧性を維持又は向上させるための種々の提案が従来よりなされている。
【0003】
例えば特許文献1や特許文献2には、缶の内圧が耐圧強度を超えたときに現れる、缶底のドーム部が反転する現象(バックリング)を防止する目的で施す、いわゆるボトムリフォーム加工が開示されている。具体的には、缶底の接地部の、缶軸に直交する径方向の内側に位置する内周壁を押圧することにより、凹部を成形するボトムリフォーム加工が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-103227号公報
【文献】特開2016-47541号公報
【文献】特開2000-176575号公報
【文献】特開平9-285832号公報
【文献】WO2018/070542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらボトムリフォーム加工は、以下のような問題を有していた。
すなわちこのボトムリフォーム工程は、缶底の内周壁を成形ローラ等を使用して押圧することにより、凹部を成形する。この成形ローラ等を使用した押圧の際には、特許文献3に記載されるように、押圧箇所に黒変を生じやすいという問題や、成形ローラ等への金属材料の凝着が生じやすいという問題があった。
【0006】
また押圧の際に、加工をスムーズに行うため潤滑油が塗布されるが、ボトムリフォーム加工後にこの潤滑油を洗浄する工程が必要となるため、洗浄に要するコスト及び環境負荷の観点からは、さらなる改善が求められていた。
【0007】
また昨今、シームレス缶体の軽量化を図るために、絞りしごき加工を行う前の素板(ブランク)の板厚を益々薄くすることが求められている。しかしながら上記ボトムリフォーム加工を施した場合、上記の押圧部の金属素材の厚みはその加工により延ばされて薄くなるため、素板(ブランク)の板厚を薄くすることに関しての限界があった。
【0008】
また特許文献4に示すように、本発明者はシームレス缶体の耐圧性を向上する技術を公開した。しかしながらこの技術によっては、耐圧性は向上するものの、缶体(特に缶底部)の各部分の板厚分布を十分に最適化するものではなかった。したがって、缶体の軽量化の要求を十分に満たすものでなかった。
【0009】
さらに特許文献5には、缶底の接地部の板厚が、加工前の素材の板厚よりも厚いことを特徴とする2ピース缶胴が示されている。しかしながら当該技術においては、装置が煩雑であり、工業レベルでの実現が困難もしくは設備上の高コスト化を招くなどの課題があった。
【0010】
本発明者は上記に例示した課題に鑑みて鋭意検討を繰り返した。その結果、素板(ブランク)の板厚を薄くすると同時に、缶底の耐圧性を高めてバックリングを抑制し、且つ、上記黒変や洗浄の問題も解決するシームレス缶体及びその製造方法をより簡易な製造装置で提供することを可能とし、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態におけるシームレス缶体は、(1)筒状胴部と缶底部とを有するシームレス缶体であって、前記缶底部は、前記筒状胴部の下端から内側へ縮径するように連続する外周底部と、前記外周底部よりも内側に位置する周状接地部と、を含み、前記外周底部の板厚をt1とし、周状接地部の板厚をt2とした場合、t2>t1であることを特徴とする。
【0012】
また、上記(1)において、(2)前記缶底部は、前記周状接地部よりも内側に位置する内側端部202cを更に含み、前記内側端部の板厚をt3とした場合、t3>t1であることが好ましい。
【0013】
また、上記(2)において、(3)t3>t2となるように、前記外周底部から前記内側端部まで板厚が漸次増加することが好ましい。
【0014】
また、上記(1)~(3)のいずれかにおいて、(4)前記缶底部は、前記内側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部202dを更に含み、前記立ち上がり部上端の板厚をt4とした場合、t4>t1であることが好ましい。
【0015】
また、上記(4)において、(5)前記缶底部は、前記立ち上がり部と連続して上方に凸となるよう膨出する缶ドーム部と、を更に含み、前記缶ドーム部における中央の板厚をt5とした場合、t3>t4>t5となるように、前記缶ドーム部から前記内側端部まで板厚が漸次増加することが好ましい。
【0016】
また上記(5)において、(6)さらに、t5<t1であることが好ましい。
【0017】
また上記(4)~(6)のいずれかにおいて、(7)缶体軸の外方に向かって、前記立ち上がり部と前記ドーム部の接続部分が凸となるリング溝が形成されていることが好ましい。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態におけるシームレス缶体の製造方法は、(8)筒状胴部と缶底部とを有するシームレス缶体の製造方法であって、金属素材を、筒状胴部と、前記筒状胴部の下端から縮径するように続くカップ外周底部と、前記カップ外周底部から内側上方に向けて延出しドーム中央に向けて傾斜する傾斜部と、前記傾斜部からの端部から上方へ向けて第1の高さで膨出するカップドーム部と、を有するカップ体に成形する第1成形工程と、前記カップ体の前記カップ外周底部を下型成形部材に当接させながら上型成形部材で前記カップドーム部より缶外方に向かい押圧力を加えることで、前記第1の高さより低い第2の高さとなるように前記カップドーム部を押し下げて前記傾斜部に子午線方向ならびに周方向の圧縮応力を作用させ、当該傾斜部の厚みを増大させながら前記下型成形部材に押し込み、前記外周底部よりも内側に位置する周状接地部を形成するとともに、前記外周底部の板厚をt1とし、周状接地部の板厚をt2とした場合、t2>t1を満たすようにする第2成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、上記(8)において、(9)前記第2成形工程において、前記傾斜部を前記下型成形部材に押し込むことで、外周底部よりも内側に位置する周状接地部202bと、前記周状接地部よりも内側に位置する内側端部202cと、前記内側端部から上方に立ち上がって缶ドーム部へ接続する立ち上がり部202dが形成され、前記立ち上がり部202dと前記缶ドーム部201dとの接続部分(最外端201e)の内径(dx)が、前記内側端部202cの内径(dy)よりも大きくなるように、缶体軸の外方に向かって前記接続部分が凸となるリング溝が形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシームレス缶体によれば、素板(ブランク)の板厚を薄くした場合でも、従来のボトムリフォーム加工により得られる缶底以上に耐圧性の高い缶底を得ることができる。そのため、従来よりも薄い素板(ブランク)を用いてシームレス缶体を製造することができ、使用する金属材料の量を削減することができるためコスト的に有利である。さらに、シームレス缶体の軽量化により、リサイクル費、輸送費の削減等にも繋げることが可能となるものである。
【0021】
また、本発明のシームレス缶体の製造方法によれば、素板(ブランク)の板厚を薄くした場合でも、簡易な製造装置により缶底の耐圧性を高めてバックリングを抑制することが可能である。且つ、ボトムリフォーム加工で問題となる黒変の問題を解決することが可能である。さらには、従来のボトムリフォーム加工の工程や、その後に潤滑油を洗浄する工程を必要としないため、コスト的及び環境的なメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態におけるシームレス缶体1を示す模式図である。
【
図2】本実施形態におけるシームレス缶体1の缶底を示す拡大図である。
【
図3】本実施形態におけるシームレス缶体1において、各点の板厚を示すグラフである。
【
図4】本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、第1成形工程を示す図である。
【
図5】本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、第2成形工程を示す図である。
【
図6】本実施形態において、立ち上がり部に付与される圧縮応力を示す模式図である。
【
図7】比較例1で用いたシームレス缶体の缶底の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明のシームレス缶体及びその製造方法について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示してその内容について説明するものであり、本発明を意図的に限定するものではない。
【0024】
<シームレス缶体>
図1に示すように、本実施形態のシームレス缶体1は、筒状胴部10と缶底部20とを有するシームレス缶体である。本実施形態において缶底部20は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、シームレス缶体を水平面に載置した場合に当該水平面に接触しない缶底中央部201と、該缶底中央部201の外側に位置する足部202を含むことが好ましい。
本実施形態におけるシームレス缶体1の缶底中央部201は、水平形状であってもよいし、
図1(a)に示すように缶内面側に盛り上がる(上方に凸となるよう膨出する)ドーム形状であってもよい。
【0025】
本実施形態において、
図1(b)に示すように、缶底部20における足部202は、前記筒状胴部10の下端10eから、缶体軸RA方向に向かって缶底中央部201の最外端201eまでの部分と定義される。
なお、
図2における上記足部202を拡大した断面図に示すように、「缶底中央部201の最外端201e」は、缶底中央部201がドーム形状の場合には当該ドーム形状においてドームの径が最大となる部分とする。
【0026】
本実施形態において、足部202のうちZ軸方向において最も下方の部分を周状接地部202bとする。すなわち、周状接地部202bは、本実施形態のシームレス缶体1を水平面に載置した場合に、当該水平面に接触する部分ということができる。
そして、筒状胴部10の下端10eから周状接地部202bまでを、外周底部202aと定義する。
【0027】
すなわち本実施形態において、足部202は、前記筒状胴部10の下端10eから内側へ縮径するように連続する外周底部202aと、前記外周底部202aよりも内側に位置する周状接地部202bと、を含む。
言い換えると、本実施形態のシームレス缶体において前記外周底部202aは周状接地部202bよりも外側において筒状胴部10の下端10eまでリング状に位置する。
【0028】
本実施形態において、外周底部202aのリング幅やその面積等には特に制限はなく、またその傾斜角度や湾曲状態についても公知の形状が適用され得る。すなわち、断面において直線状となっていてもよいし、缶体の内側に向けて湾曲した円弧状であってもよいし、逆に外側に湾曲した円弧状であってもよい。また、一部が内側に湾曲し残りが外側に湾曲し、これらを連続的に繋げた形状であってもよい。
本実施形態においては、
図2において示すように、前記外周底部202aはその断面図において変曲点IPを有することが同種の缶詰の蓋上に重ねて載置しやすくなって好ましい。
【0029】
図2に示されるように、本実施形態のシームレス缶体1はさらに、前記周状接地部202bよりも内側に位置する内側端部202cを含む。この内側端部202cは、上述した足部202のうち、断面図において最も缶体軸RA側に近い部分であると定義される。
またさらに本実施形態のシームレス缶体1は、この内側端部202cから上方向(Z軸の+方向)に向けて延伸する立ち上がり部202dを含む。この立ち上がり部202dは、
図1(a)又は
図2に示す断面図において、内側端部202cから缶底中央部201方向の最外端201eまでの部分と定義される。
【0030】
本実施形態のシームレス缶体は、前記外周底部202aの板厚をt1とし、周状接地部202bの板厚をt2とそれぞれした場合、「t2>t1」の関係が成り立つことを特徴とする。このような関係を満たすことにより、本実施形態のシームレス缶体1において缶体の軽量化をはかりながら好ましい耐圧性を付与することが可能となる。また、t2>t1とすることにより、シームレス缶体1が缶底部20を下にして落下した場合の変形に対しての強度を付与することができ、好ましい。
なお、前記外周底部202aの板厚(t1)は、下端10eから周状接地部202bに至る長さ(形状に沿った長さ)の中間点の板厚とする。
【0031】
本実施形態のシームレス缶体は、さらに、内側端部202cの板厚をt3とした場合、「t3>t1」の関係が成立することが好ましい。このような関係を満たすことにより、本実施形態のシームレス缶体1において缶体の軽量化をはかりながら好ましい耐圧性を付与することが可能となる。また、t3>t1とすることにより、シームレス缶体1が缶底部20を下にして落下した場合の変形に対しての強度を付与することができ、好ましい。
【0032】
本発明における上記厚みの規定に関しては、以下の理由によるものである。
すなわち、シームレス缶体の中に収容する液体がビールや炭酸飲料である場合には、缶底には常に内圧がかかっている。このように内圧がかかった状態で缶底に衝撃が加えられた場合や、何らかの理由で缶底に加えられる内圧が急激に大きくなった場合、缶の内圧が缶底の耐圧強度を超えて、缶底のドーム部が反転する現象(バックリング)が発生する。
【0033】
このバックリング現象を抑制するためには、缶底の耐圧強度を高くする必要があるが、そのためには、缶底部分の板厚を厚くする方法が考えられる。
しかしながら昨今の軽量化の要求により素板(ブランク)の板厚は薄くなりつつあるため、缶底の耐圧強度を高くするために単純に素板(ブランク)の板厚を厚くした場合には、上記要求に反することとなる。
【0034】
そのため本発明者は、上記缶の軽量化及び缶底の耐圧強度の要求を同時に満たすシームレス缶体を実現すべく、鋭意検討した。その結果、素板(ブランク)の板厚を従来と同様または従来よりも薄くしつつも、缶底において耐圧強度の向上に寄与しやすい部分のみを厚くして缶底の耐圧強度を高くすることを実現し、本発明に想到した。
【0035】
本発明によれば、缶胴部に関しては、従来よりも薄い素板(ブランク)が採用可能なため、従来と同様の厳しい絞りしごき加工により、従来と同様または従来よりも薄い胴部板厚に到達することができる。そのため、軽量化及び缶底の耐圧強度の要求を高い次元で両立することが可能であるといえる。
【0036】
本実施形態のシームレス缶体は、
図1(a)及び
図2に示すように、缶底部20の足部202が、内側端部202cから立ち上がり部202dを介して、最外端201eの部分で缶底中央部201(缶ドーム部201d)に接続されている。
【0037】
本実施形態において立ち上がり部202dは、その断面において内側端部202cから鉛直方向(Z軸の+方向)に延伸した直線又は曲線であってもよい。
また、
図1(a)及び
図2に示すように、立ち上がり部202dは、断面においてZ=-aX(Z>0)の直線に沿って延伸する直線又は曲線であってもよい。
【0038】
そして、
図1(a)に示すように、立ち上がり部202dは、上記した最外端201eの内径(dx)が、内側端部202cの内径(dy)よりも大きくなるように、缶底中央部201(缶ドーム部201d)と接続する。
【0039】
言い換えると、
図1(a)及び
図2に示すように、最外端201eの付近では、断面図において概ね「⊂」又は「⊃」形状となっている。
また
図1(a)を示して説明すると、Z軸の+方向に向かって、内側端部202cと缶ドーム部201dとの間には、缶体軸RAの外方に向かって最外端201eが凸となるリング溝を有していることが好ましい。
【0040】
上記のような形状とすることにより、本実施形態のシームレス缶体1の耐圧性を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、上述したように、本実施形態においては、前記外周底部202aはその断面図において変曲点IPを有することが好ましい。この変曲点IPは、
図2に示すように、最外端201eよりもZ軸の+方向に位置していてもよいし、逆にZ軸の-方向に位置していてもよい。
【0042】
本実施形態において、立ち上がり部202dと缶底中央部201が接続する最外端201e部分の板厚をt4とした場合、「t4>t1」の関係が成立することも、缶体の軽量化と耐圧性の観点からは好ましい。
【0043】
本実施形態のシームレス缶体1はさらに、
図1(a)に示すように、缶底部20において、前記立ち上がり部202dと連続して上方に凸となるよう膨出する缶ドーム部201dを含むことが好ましい。すなわち本実施形態においては、缶底中央部201の形状が
図1(a)に示すようなドーム形状であることが好ましい。
【0044】
そして缶ドーム部201dの中央の板厚をt5とした場合、内側端部202cの板厚(t3)と立ち上がり部202dの板厚(t4)との関係において、以下の関係を満たすことが好ましい。
t3>t4>t5
すなわちこれは、缶ドーム部201dの中央部分から外側に向けて前記内側端部202cまで連続する金属板において、その板厚が漸次増加することを意味する。
【0045】
さらに本実施形態において、
図3に示すように、素板(ブランク)の板厚をt0とした場合、「t1>t0」且つ、「t2>t0」且つ、「t3>t0」且つ、「t4>t0」の関係を満たすことが、シームレス缶体1に望まれる耐圧性の観点からは好ましい。
一方で本実施形態においては缶ドーム部201dの中央の板厚(t5)は、素板(ブランク)の板厚(t0)以下となっていても問題はない(t5≦t0)。
【0046】
なお本実施形態においては、
図3(a)に示すように、各々の板厚が「t3>t2>t1」の関係を有していることが好ましい。言い換えると、外周底部202a、周状接地部202b、内側端部202c、の順に板厚が徐々に増加していることが好ましい。
このような関係を満たすことにより、本実施形態のシームレス缶体1において好ましい耐圧性を付与することが可能となる。
【0047】
また、上記した「t3>t2>t1」の関係を満たすことにより、t3部分の板厚が増加した場合でも、缶の重量増加を抑えることが可能となるため好ましい。その理由として、t1→t2→t3の順に、それらの位置は缶体軸RAに近くなることから、それぞれの占める体積は順に小さくなるためである。
そのため結果的に、缶の重量増加を抑えつつ耐圧性を高めることができるため、好ましい。
【0048】
しかしながら本実施形態はこれに限られるものではなく、
図3(b)に示すように、t2とt3の厚みが同じであってもよいし、
図3(c)に示すようにt2の厚みが最大であってもよい。
【0049】
なお、素板(ブランク)の板厚としては、通常シームレス缶体を製造される場合の板厚であればよく、概ねt0=0.15mm~0.32mm程度の厚さの金属板を打ち抜いて素板(ブランク)として使用することができるが、上記厚みに限定されるものではない。
【0050】
以上のように、本実施形態のシームレス缶体1において、缶底部20の板厚は上記したような関係を有することが、望まれる耐圧性の観点からは好ましいことを述べた。
すなわち本実施形態におけるシームレス缶体1では、缶底部20の特に足部202の平均板厚が缶底中央部201よりも厚いことが好ましい。
【0051】
さらに、缶ドーム部201dの厚みが、外周底部202aの厚みよりも小さいことが好ましい。すなわち「t5<t1」であることが好ましい。
【0052】
上記のような板厚の関係を有することにより、耐圧性が向上する理由としては未だ詳細には明らかではないが、以下のような理由が考えられる。
耐圧性を数値で示したものがバックリング圧力である。すなわち、缶底の内側に凸のドーム部が、内圧によって外側に反転するように変形する現象を生じるまでの圧力のピーク値をバックリング圧力という。
【0053】
バックリングの現象が生じる過程は、以下のように説明できる。
まず、ほぼ球面形状をなすドーム部は、内圧を受け始めると、これ自体はすぐに変形せず、ドーム部の投影面積と内圧の積がドーム部を缶外方に押し出す力となって、周状接地部202b、内側端部202c、立ち上がり部202dに負荷を与え変形を与えるように作用する。
換言すると、周状接地部202bから立ち上がり部202dにかけての狭い領域の部材によってドーム部外周は支えられている。
【0054】
さらに内圧の上昇によって、周状接地部202bから立ち上がり部202dにかけての領域の変形が進むと、ドーム部外周を支える機能が失われる。すなわち、周状接地部202b、内側端部202c、立ち上がり部202dは缶体軸RAを中心とする円環形状を維持できなくなり、それに連なるドーム部外周に位置する最外端201eも円形を崩す形となり、さらにそれに連なる缶ドーム部201dは球面形状を維持できなくなるため、ドーム部の強度は急速に低下してドーム部は缶外方に反転(バックリング)する。
【0055】
したがって、耐圧性を向上させるためには、ドーム部の板厚そのものを厚くするよりも、
ドーム部外周の板厚を厚くする方が有効であると考えられる。よって、外周底部202aの厚みが缶ドーム部201dの中央の板厚よりも厚い、すなわち「t5<t1」である場合には、本実施形態において望ましい耐圧性を得ることができる。
【0056】
なお、シームレス缶体1における缶ドーム部201dの高さHpに関しては、特に制限はなく、ドーム部を有する公知のシームレス缶体と同様の高さとすることができる。
【0057】
なお、本実施形態において、シームレス缶体1に用いられる金属素材の種類としては特に制限されない。すなわち、シームレス缶体に通常用いられる公知の金属板、例えばアルミニウム合金板や表面処理鋼板を使用することができる。また、金属板は公知のフィルムを積層したものや、有機樹脂を塗装したもの、化成処理を施したもの等、適宜表面処理を施していてもよい。
【0058】
本実施形態のシームレス缶体1は、公知のネッキング加工やフランジ加工、あるいはねじを形成する加工が施され、また、ビールや炭酸飲料等が内容物として収容された後に、開口部に公知の方法で蓋が取り付けられる。
【0059】
<シームレス缶体の製造方法>
次に、本実施形態におけるシームレス缶体の製造方法について説明する。
本実施形態におけるシームレス缶体の製造方法としては、
図1(a)に示すような筒状胴部10と缶底部20とを有するシームレス缶体1の製造方法であって、下記に詳述するような第1成形工程と第2成形工程とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0060】
なお、本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、筒状胴部10の成形方法としては、例えば特許文献4に記載のような公知の方法を採用可能である。
一方で、特に缶底部20の成型方法として下記に詳述するような第1成形工程と第2成形工程とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0061】
以下に、本実施形態におけるシームレス缶体の製造方法を説明する。
まず、上述した金属素材(ブランク)を用いて、公知の方法により缶胴部を形成することにより、カップ形状を有する前駆体3を準備する。
なお
図4に示されるように、金属素材(前駆体3)としては、公知の絞りしごき方法等で得られるドームを有しないカップ形状を有していてもよい。また、以下の第1成形工程と第2成形工程が実現可能な限りにおいて、ドームを有したカップ形状を有していてもよい。
【0062】
この前駆体3に対して、以下の第1成形工程と第2成形工程を付与することにより、本実施形態におけるシームレス缶体1を得ることができる。
【0063】
まず、本実施形態におけるシームレス缶体1の製造方法のうち、第1成形工程においては、
図4に示されるように、金属素材(前駆体3)を、筒状胴部10と、前記筒状胴部10の下端10eから縮径するように続くカップ外周底部Aと、前記カップ外周底部Aから内側上方に向けて延出する傾斜部Sと、前記傾斜部Sの端部Seから上方へ向けて第1の高さHoで膨出するカップドーム部Dと、を有するカップ体2に成形する。
ここで傾斜部Sの端部Seは、カップドーム部Dとの接続点ともいうことができる。
【0064】
図4に示される上記第1成形工程は、公知のプレス工程等により筒状胴部10が成形された前駆体3に対し、上型と下型とを用いて、分離した工程として実施することもできるし、しごき加工を行う工程に続くストローク終段で行うこともできる。
具体的な例としては、
図4に示されるように、カップ形状を有する前駆体3内に位置してこれを支持する筒状のパンチ401と、前駆体3の外周底部を前記パンチ401と協動して支持するホールドダウンリング501と、ドーミングダイ502と、により上記第1成形工程が実施される。
まず、パンチ401のテーパ部402とホールドダウンリング501のテーパ状支持部503とで前駆体3の外周底部を保持し、パンチ401とドーミングダイ502とがかみ合うように駆動して相対的に近接させて、ボトムにHoのカップドーム部Dを有するカップ体2を得ることができる。
【0065】
ここで、上記第1成形工程により得られたカップ体2の形状について説明する。すなわち、カップ体2における傾斜部Sは、前記カップ外周底部Aから内側上方に向けて延出するものである。
すなわちカップ体2の傾斜部Sは、
図4に示すように、Z軸方向においてカップ体2の最も低い部分と、カップドーム部Dとの接続点Seとで挟まれた曲線部分及び直線部分を言うものとする。
【0066】
図4(c)に示すように傾斜部Sは、垂直とはせず、所定の角度θ
1で傾斜させることが好ましい。
すなわち、傾斜部SとZ軸のなす角度θ
1については、5°~30°であることが、下記の第2成形工程において各部分の板厚を好ましく制御する観点から好ましい。
また、上記傾斜部SとZ軸のなす角度θ
1について、10°~30°であることが、第1成形工程後に内面にスプレー塗装法により塗膜を形成する場合にスプレー塗装がしやすくなるため、より好ましい。
【0067】
また、カップ外周底部Aから傾斜部Sのなす角θ2における曲率半径Rについては、R=5×t0~15×t0とすることが、下記の第2成形工程において各部分の板厚を好ましく制御する観点からは好ましい。
【0068】
さらに、カップ体2におけるカップドーム部Dの高さHoは、後述する第2成形工程により得られるシームレス缶体1における缶ドーム部201dの高さHpよりも大きいことが好ましい。この理由としては、後述するように、後述する第2成形工程においてカップ体2におけるカップドーム部Dを押し下げながら、傾斜部Sに圧縮応力を付与するためである。すなわち、カップ体2におけるカップドーム部Dの高さHoを事前に大きくしておき、最終的にシームレス缶体1において好ましい缶ドーム部201dの高さHpを得るためである。
【0069】
引き続き、第2成形工程について説明する。
上記第1成形工程により、カップ外周底部A及び傾斜部Sを有するカップ体2が成形された後に、以下の第2成形工程が実施される。
【0070】
なお、上記第1成形工程と第2成形工程との間に、カップ体2に対して、適宜公知の洗浄工程、表面処理工程、印刷工程、塗装工程、筒状胴部への形状付与加工、あるいは第2成形工程を行うのに支障がない範囲でのネックイン(口絞り)加工等が実施されてもよい。
さらに必要に応じて、第1成形工程以降の搬送性や耐食性を確保する目的で、カップ体2の最下端曲率部を中心として、カップ外周底部Aから傾斜部Sにかけての範囲の部分に外面塗装を施すことができる。
【0071】
第2成形工程においては、前記カップ体2に対して、上述の第1成形工程における成形金型とは異なる金型により加工を施し、シームレス缶体1が成形される。すなわち、カップ体2を下型成形部材に当接させながら、上型成形部材を用いてカップ体2のカップドーム部Dに対して缶外方向(-Z軸方向)に押圧力を加える。
あるいは、カップ体2を下型成形部材及び上型成形部材に当接させながら、下型成形部材を用いて+Z軸方向に押圧力を加えてもよい。
【0072】
より詳細には
図5に示すように、カップ体2のカップ外周底部Aをカップ外周側ホルダー60に載せる。ドーム押し下げ工具70が相対的に下降し、カップドーム部Dにドーム押し下げ工具70の支持部701が接触する。ここで、カップ外周側ホルダー60はテーパ面601及び溝602を有しており、カップ体2のカップ外周底部Aが前記テーパ面601に接触した後に、ドーム押し下げ工具70がさらに押し下げられることにより、カップ体2の傾斜部Sの金属が、圧縮応力を受けながら溝602内に案内され、押し込まれる。
【0073】
そして、前記第1の高さHoより低い第2の高さHpとなるように、前記カップドーム部Dを押し下げる。同時に、上型成形部材(ドーム押し下げ工具)及び下型成形部材(カップ外周側ホルダー)を用いて、前記傾斜部Sに対して、子午線方向の圧縮応力σφならびに周方向の圧縮応力σθを作用させる。
【0074】
なお
図6は、本実施形態において、傾斜部Sが立ち上がり部202dに形成される際に付与される圧縮応力を示す模式図である。
すなわち、傾斜部Sを前記下型成形部材の溝602内に押し込まれる際、該傾斜部Sにはドーム押し下げ工具70の押す力により子午線方向の圧縮応力σ
φと下型成形部材に倣おうとして径方向内側に移動することによる周方向の圧縮応力σ
θが同時に作用して、当該傾斜部Sにおける金属素材の厚みは増大する(
図6における矢印方向σ
ψ)。
このようにして、第2成形工程を経た後にシームレス缶体1が得られる。
成形が終了したら、ドーム押し下げ工具を相対的に上昇させ、シームレス缶体1をカップ外周側ホルダーから取り出せばよい。
【0075】
ここで、第2成形工程後に得られるシームレス缶体1としては、上述した本実施形態におけるシームレス缶体1であることが好ましい。
すなわち、第2成形工程後に得られるシームレス缶体1としては、
図1に示すように、外周底部202a及び周状接地部202bを有し、さらに外周底部202aの板厚をt1とし、周状接地部202bの板厚をt2とそれぞれした場合、「t2>t1」の関係が成り立つものであることが好ましい。
【0076】
なお、第2成形工程は、以下の特徴を有することがさらに好ましい。
すなわち、第2成形工程は、上述したカップ体2を第2成形工程の下型成形部材60に押し込むことで、傾斜部Sを、外周底部202aよりも内側に位置する周状接地部202bと、前記周状接地部202bよりも内側に位置する内側端部202cと、前記内側端部202cから上方に立ち上がって前記缶ドーム部201dへ接続する立ち上がり部202dと、に形成することが好ましい。
【0077】
そして第2成形工程により、シームレス缶体1の前記立ち上がり部202dと前記缶ドーム部201dとの接続点(最外端201e)の内径(dx)が、内側端部202cの内径(dy)よりも大きくなるように、缶体軸RAの外方に向かって最外端201eが凸となるリング溝が形成されることが好ましい。
従来、回転ロールや割型を用いて上記したようなリング溝を形成するリフォーム成形方法(ボトムリフォーム加工)が存在した。しかしながら従来の方法では、加工部位が薄くなりやすく十分に深い溝を形成することが困難であった。
本発明の方法によればリング溝部の板厚は薄くならず逆に厚くなる傾向が生じ、且つ無理なく深い溝が形成できる。
【0078】
本実施形態のシームレス缶体の製造方法において、第1成形工程と第2成形工程との間で、カップ体2のカップ外周底部Aの上部の形状や長さに変化は与えられない。
すなわち、カップ体2を外周側ホルダー60に載せた際に、カップ体2のカップ外周底部Aとカップ外周側ホルダー60のテーパ面601とが接触する面の、Z軸方向において最も低い点をT点とする。このT点は、ドーム押し下げ工具70の下降及びカップドーム部Dの押し下げに伴って、位置は変化しない。(
図5参照)
【0079】
一方で、第2成形工程により、カップ体2の傾斜部Sであった部分は、シームレス缶体1の外周底部202aの一部と周状接地部202bと内側端部202cと立ち上がり部 202dとに成形される。すなわちカップ体2の傾斜部Sは、カップ外周側ホルダー60の溝602に最終的には全て入り込む。
なおこの第2成形工程において、カップ体2と上下金型との間の接触には著しい摺動がない。そのため、カップ体2の金属表面の損傷を生じることはなく、もとより潤滑剤を使用する必要はない。
【0080】
図5に示すように、上記T点は、シームレス缶体1における変曲点IPとなる。第2成形工程により付与される圧縮応力が原因で、下記のようにその金属長さが短くなる。
すなわち、
図5(f)における変曲点IPから最外端201eまでの金属長さは、
図5(b)におけるT点からSeまでの金属長さに比べて、0.85~0.99倍程度に短くなる。
【0081】
一方で、当該部分の金属素材の厚みは、第2成形工程により、最も厚さが増大する部分で素板厚さ(t0)の1.1~1.3倍に増大される。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例により本発明の内容をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
以下に示す方法により、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
まず、素板としてアルミニウム合金板(JIS H 4000 A3104-H19材、0.28mm)を用意した。次いで、上記アルミニウム合金板の両面に、絞り加工時の潤滑剤として、公知のカッピング油を所定量塗布した。
【0084】
次いで、上記アルミニウム合金板を絞り成形機で、直径160mmの円盤状に打ち抜いた後、直ちに直径90mmの絞りカップ(図示せず)となるように絞り成形を行った。
得られた絞りカップをボディーメーカ(缶体製造機)に搬送し、直径66mmの形状になるように再絞り成形を行った後、クーラントを用いて、直径66mm、高さ130mm、側壁最小厚さ0.105mmの形状の絞りしごき加工によってつくられた前駆体3となるようにしごき加工を行った。
【0085】
次いで、缶底の成形加工を行うため、上記で得られた前駆体3に対し、以下の第1成形工程及び第2成形工程を施した。
まず第1成形工程としては前記のボディメーカでしごき加工に続く行程のストローク終段で行い、
図4に示されるパンチ401、ホールドダウンリング501及びドーミングダイ502を用いてカップ外周底部A及び傾斜部Sを有するカップ体2とした。このときのカップ外周底部A及び傾斜部Sの長さ及び板厚は表1に示すとおりである。
【0086】
次に第2成形工程として
図5に示す上型成形部材70と下型成形部材60を用いて、カップドーム部Dを押し下げると共に傾斜部Sにおける金属素材の厚みを増大させて、シームレス缶体1を成形した。
【0087】
次いで、t1~t5の各部分の板厚を測定した。なお、t1~t5の各部分の箇所としては、上記実施形態及び
図2に示すとおりとした。また、板厚の板厚測定方法としては以下のとおりとした。すなわち、成形したシームレス缶体1をエポキシ樹脂で包埋した後、エポキシ樹脂ごと、シームレス缶体1の縦軸(Z軸)に沿って切断した。切削加工、および入念な研磨加工で中心断面を露出させた後、測定顕微鏡でt1~t5部分の各々の厚さを測定した。各部分の板厚を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
素板厚さを0.225mmとし、前駆体3の側壁最小厚さを0.093mmにした以外は実施例1と同様に行った。得られたシームレス缶体の各部分の板厚等に関しては表1に示す。
【0089】
(比較例1)
缶底の成形加工については、公知の缶底成型金型を使用し、公知の缶底成型方法により1工程で行った。それ以外は実施例1と同様に行った。
なお、比較例1で用いたシームレス缶体の缶底の部分拡大図を
図7に示す。
得られたシームレス缶体の各部分の板厚等に関しては表1に示す。ただし、表1においてt3の数値は、傾斜部の下端(
図7の(1))、t4の数値は傾斜部の上端(
図7の(2))を測定して得た。
【0090】
(比較例2)
比較例1により得られたシームレス缶体に対して、ボトムリフォーム加工を施した。すなわち、缶底の接地部の缶体軸に直交する径方向の内側に位置する内周壁を回転ロールで押圧することにより周状に凹部を成形した。それ以外は、比較例と同様に行った。得られたシームレス缶体の各部分の板厚等に関しては表1に示す。
【0091】
(比較例3)
素板厚さを0.225mmとし、側壁最小厚さを0.093mmにした以外は比較例2と同様に行った。得られたシームレス缶体の各部分の板厚等に関しては表1に示す。
【0092】
[評価]
上記方法により得られたDI缶について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
[耐圧性試験方法]
カップ内に水を満たした状態で、送水管を設けた栓で開口端を密封する。次いで送水ポンプから送水管を通じてカップ内に加圧水を送り込む。カップの内圧が上昇し、ある時点でドーム部が外方に反転するように瞬時に変形する(バックリング)。通常、この変形と同時に缶の内圧が急激に低下する。この間における缶内圧の最高値を耐圧力(MPa)とする。
【0094】
【0095】
実施例及び比較例の結果により、缶底の特定部分の厚みを制御することにより、素板(ブランク)の板厚を薄くした場合でも好ましい耐圧性(炭酸飲料用途として求められる0.618MPa以上)が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、シームレス缶体の素板(ブランク)の板厚を薄くしつつも耐圧性能を向上させてバックリングの現象を抑制することが可能となる。したがって、シームレス缶体の製造コストや輸送にかかるコスト等を削減することが可能となる。また、製造や輸送に必要とされる燃料等も削減できるため、環境に配慮したシームレス缶体の製造を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 シームレス缶体
2 カップ体
3 前駆体
10 筒状胴部
10e 下端
20 缶底部
201 缶底中央部
201d 缶ドーム部
201e 最外端
202 足部
202a 外周底部
202b 周状接地部
202c 内側端部
202d 立ち上がり部
A カップ外周底部
D カップドーム部
S 傾斜部
Se 端部
Hp 缶ドーム部の高さ(第2の高さ)
Ho カップドーム部の高さ(第1の高さ)
70 上型成形部材
60 下型成形部材