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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】水性光輝性塗料組成物および塗装板
(51)【国際特許分類】
   C09D 101/08 20060101AFI20231214BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231214BHJP
   C09D 5/36 20060101ALI20231214BHJP
   C09D 101/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C09D101/08
C09D5/02
C09D5/36
C09D101/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021106997
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005220
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】荒木 禎人
(72)【発明者】
【氏名】清永 浩
(72)【発明者】
【氏名】山中 英司
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155537(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012014(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175468(WO,A1)
【文献】特開2003-119417(JP,A)
【文献】特開2014-025062(JP,A)
【文献】特開2005-120249(JP,A)
【文献】特開昭60-144374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性光輝性塗料組成物であって、
セルロースエステル誘導体と、
セルロースナノファイバーと、
鱗片状顔料と、を含み、
前記水性光輝性塗料組成物に含まれる固形分の量は、0.1質量%以上12質量%以下であり、
前記セルロースナノファイバーの含有量C と前記セルロースエステル誘導体の含有量C との比率:C /C は、0.03以上1.0以下である、水性光輝性塗料組成物。
【請求項2】
前記セルロースエステル誘導体は、炭素数1~20の炭化水素基を有するオキソ酸と、セルロースとの縮合反応物である、請求項1に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項3】
前記セルロースエステル誘導体の酸価は、20mgKOH/g以上である、請求項1または2に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの含有量Cは、前記水性光輝性塗料組成物の0.03質量%以上1質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーの含有量C は、前記水性光輝性塗料組成物の0.1質量%以上1質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項6】
前記鱗片状顔料の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の0.1質量%以上1.5質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項7】
前記鱗片状顔料の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の全固形分の3質量%以上50質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項8】
前記鱗片状顔料は、アルミニウム粒子を含み、
前記水性光輝性塗料組成物は、さらに、リン酸基含有化合物を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項9】
前記リン酸基含有化合物は、炭素数4~30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル、および、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基含有ポリマーの少なくとも一方を含む、請求項8に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項10】
前記リン酸基含有化合物の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の全固形分の0.1質量%以上15質量%以下である、請求項8または9に記載の水性光輝性塗料組成物。
【請求項11】
被塗物と
光輝性塗膜と、を備え、
前記光輝性塗膜は、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性光輝性塗料組成物により形成される、塗装板。
【請求項12】
前記光輝性塗膜の乾燥膜厚は、5μm以下である、請求項11に記載の塗装板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性光輝性塗料組成物および塗装板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の外観に、金属のような光沢を付与することのできる塗膜が提案されている。例えば、特許文献1には、金属または真珠調光沢に優れた塗膜を形成することができる光輝性塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/002196号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の塗料を用いると、塗膜に額縁およびゆず肌などの外観不良が生じて、意匠性が低下し易い。本発明の課題は、金属調の意匠を発現できるとともに、塗膜欠陥が抑制された光輝性水性光輝性塗料組成物および塗装板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
水性光輝性塗料組成物であって、
セルロースエステル誘導体と、
セルロースナノファイバーと、
鱗片状顔料と、を含み、
前記水性光輝性塗料組成物に含まれる固形分の量は、0.1質量%以上12質量%以下である、水性光輝性塗料組成物。
【0006】
[2]
前記セルロースナノファイバーの含有量Cと前記セルロースエステル誘導体の含有量Cとの比率:C/Cは、0.03以上1.0以下である、上記[1]に記載の水性光輝性塗料組成物。
【0007】
[3]
前記セルロースエステル誘導体は、炭素数1~20の炭化水素基を有するオキソ酸と、セルロースとの縮合反応物である、上記[1]または[2]に記載の水性光輝性塗料組成物。
【0008】
[4]
前記セルロースエステル誘導体の酸価は、20mgKOH/g以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
【0009】
[5]
前記セルロースナノファイバーの含有量Cは、前記水性光輝性塗料組成物の0.03質量%以上1質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
【0010】
[6]
前記鱗片状顔料の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の0.1質量%以上1.5質量%以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
【0011】
[7]
前記鱗片状顔料の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の全固形分の3質量%以上50質量%以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
【0012】
[8]
前記鱗片状顔料は、アルミニウム粒子を含み、
前記水性光輝性塗料組成物は、さらに、リン酸基含有化合物を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物。
【0013】
[9]
前記リン酸基含有化合物は、炭素数4~30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル、および、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基含有ポリマーの少なくとも一方を含む、上記[8]に記載の水性光輝性塗料組成物。
【0014】
[10]
前記リン酸基含有化合物の含有量は、前記水性光輝性塗料組成物の全固形分の0.1質量%以上15質量%以下である、上記[8]または[9]に記載の水性光輝性塗料組成物。
【0015】
[11]
被塗物と
光輝性塗膜と、を備え、
前記光輝性塗膜は、上記[1]~[10]のいずれかに記載の水性光輝性塗料組成物により形成される、塗装板。
【0016】
[12]
前記光輝性塗膜の乾燥膜厚は、5μm以下である、上記[11]に記載の塗装板。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属調の意匠を発現できるとともに、塗膜欠陥が抑制された水性光輝性塗料組成物および塗装板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で作製された塗装板の正面写真である。
図2】比較例1で作製された塗装板の正面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
金属調の意匠を高めるには、鱗片状顔料を、光輝性塗膜の表面と平行に配列させることが求められる。そのため、光輝性塗膜を形成する塗料(光輝性塗料)の固形分は、少ないほど望ましい。そこで、塗料として使用できる粘性に調整するため、通常、セルロースナノファイバー(以下、CNFと略称する場合がある。)が配合される。CNFは、少量で塗料の粘度を上昇することができる。さらに、CNFによって、鱗片状顔料の沈降が抑制される。
【0020】
CNFは、塗料中の固形分を過度に凝集させる。そのため、CNFを含む塗料を塗装し乾燥させる過程において、塗膜の凝集が生じて、ゆず肌や額縁現象と言われる塗膜欠陥が生じる場合がある。
【0021】
CNFとともに、セルロースエステル誘導体を配合すると、塗膜欠陥の発生が抑制されることが判明した。セルロースエステル誘導体は塗膜の表面に偏在し易いため、光輝性塗膜の表面粘度が上昇する。その結果、光輝性塗膜、ひいては複層塗膜全体の移動が抑制されて、上記のような塗膜欠陥が生じ難くなる。加えて、セルロースエステル誘導体は、鱗片状顔料の配列性を向上させるため、意匠性もより向上する。
【0022】
[水性光輝性塗料組成物]
水性光輝性塗料組成物(以下、光輝性塗料と略称する場合がある。)は、セルロースエステル誘導体と、セルロースナノファイバーと、鱗片状顔料と、を含む。光輝性塗料は、必要に応じて、表面調整剤等の各種添加剤を含む。鱗片状顔料がアルミニウム粒子を含む場合、光輝性塗料は、さらにリン酸基含有化合物を含むことが好ましい。光輝性塗料は、上記の成分の混合物を、水性溶媒で希釈することにより調製される。
【0023】
光輝性塗料に含まれる固形分の量(固形分含有率)は、0.1質量%以上12質量%以下である。これにより、鱗片状顔料は、被塗物に沿って高い密度で配列し易い。光輝性塗料の固形分含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。光輝性塗料の固形分含有率は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。光輝性塗料の固形分は、光輝性塗料から水性溶媒を除いた全成分である。
【0024】
光輝性塗料の粘度は特に限定されない。鱗片状顔料の配列の乱れが抑制され易くなる点で、20℃でB型粘度計により測定される光輝性塗料の粘度は、20cps/6rpm以上2,000cps/6rpm以下が好ましい。
【0025】
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバー(CNF)は、ISO TS 20477に定義されているように、植物素材を機械的に解繊することにより得られる。CNFは、結晶部、准結晶部、非晶部からなるセルロースミクロフィブリル(シングルナノファイバー)単独または、縦に引き裂かれたもの、もつれたもの、または網目状の構造を持つそれらの集合体である。CNFには、セルロースナノフィブリル、フィブリレーティドセルロース、ナノセルロースクリスタル等と言われるものも含まれる。植物素材としては、主に木材が挙げられる。その他の植物素材としては、例えば、竹、稲わら、麦わら、もみ殻、草本類(ススキ等)、海藻が挙げられる。CNFは、後述するように、例えば10以上のアスペクト比を有し、繊維状である。そのため、CNFは、光輝性塗料中で網目状に分散し、塗料の粘度を上昇させる。
【0026】
機械的な解繊に先立って、通常、植物素材には化学的処理が施される。化学的処理によって、植物素材の形状は変化せず、繊維状である。化学処理によって、得られるCNFには、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、カルボキシメチル基、スルホ基等のアニオン性基が導入される。化学的処理としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いた酸化によりカルボキシ基を導入するTEMPO酸化法、リン酸基を導入するリン酸エステル化法、亜リン酸基を導入する亜リン酸エステル化法、カルボキシメチル基を導入するカルボキシメチル化法、スルホ基を導入するスルホン化法が挙げられる。化学的処理の種類によって、得られるCNFの特徴は異なり得る。本実施形態ではいずれの化学的処理が施されたCNFも使用可能である。
【0027】
なかでも、透明性に優れる点で、TEMPO酸化法により処理されたCNF(以下、TEMPO酸化型CNFと称す。)が好ましい。特に、酸処理された後、TEMPO酸化法により処理されたCNFが好ましい。酸処理は、例えば、pH2~6、温度30℃以上120℃以下の条件で行われる。酸は、無機酸であってよく、有機酸であってよい。
【0028】
TEMPO酸化型CNFの絶乾質量に対するカルボキシ基の量は、0.5mmol/g以上が好ましく、1.0mmol/g以上がより好ましく、1.3mmol/g以上が特に好ましい。上記カルボキシ基の量は、2.5mmol/g以下が好ましく、2.0mmol/g以下がより好ましく、1.6mmol/g以下が特に好ましい。
【0029】
カルボキシ基の量は、例えば、以下の方法により算出される。TEMPO酸化型CNFの0.5質量%スラリー60mLに0.1M塩酸水溶液を加えて、pH2.5に調整する。続いて、このスラリーに0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまでの電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された、水酸化ナトリウム量(a)を特定する。この水酸化ナトリウム量(a)および下記式から、カルボキシ基の量を算出する。
カルボキシル基の量[mmol/gTEMPO酸化型CNF]=a[mL]×0.05/TEMPO酸化型CNFの質量[g]
【0030】
鱗片状顔料の沈降防止の観点から、CNFの平均繊維幅は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が特に好ましい。透明性の観点から、CNFの平均繊維幅は、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、90nm以下が特に好ましい。
【0031】
鱗片状顔料の沈降防止の観点から、CNFの平均繊維長は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、2μm以上が特に好ましい。透明性の観点から、CNFの平均繊維長は、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、90μm以下が特に好ましい。
【0032】
CNFのアスペクト比は、例えば、10以上、20以上、25以上、100以上であってよい。CNFのアスペクト比は、例えば、2,000以下、1,000以下、500以下であってよい。
【0033】
平均繊維幅および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、十分な数の繊維の繊維径および繊維長を測定し、これらを平均化することにより算出できる。アスペクト比は、平均繊維幅を平均繊維長で除した値(平均繊維長/平均繊維幅)である。
【0034】
CNFの含有量Cは、光輝性塗料の0.03質量%以上が好ましい。これにより、CNFによる上記の効果がより発現され易い。含有量Cは、光輝性塗料の1.0質量%以下が好ましい。これにより、塗膜欠陥の発生が抑制され易い。含有量Cは、光輝性塗料の0.06質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。含有量Cは、光輝性塗料の0.6質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が特に好ましい。一態様において、含有量Cは、光輝性塗料の0.03質量%以上1.0質量%以下である。
【0035】
(セルロースエステル誘導体)
セルロースエステル誘導体は、オキソ酸(代表的には、カルボン酸)と、セルロース((C10)との縮合反応物である。セルロースエステル誘導体において、セルロースのヒドロキシ基はエステル化されているため、親水性と疎水性とのバランスがコントロールされている。さらに、セルロースエステル誘導体のアスペクト比は、CNFより小さく、例えば10未満である。これらにより、セルロースエステル誘導体は、光輝性塗料あるいは光輝性塗膜中において、CNFとは異なる挙動を示す。
【0036】
オキソ酸(言い換えれば、セルロースのヒドロキシ基とエステル結合を形成する基)は、炭素数1~20の炭化水素基を有することが好ましい。セルロースエステル誘導体の一般的な構造を、下記式に示す。
【0037】
【化1】
【0038】
式中、Rは、それぞれ独立して水素(H)、アシル基(-C(=O)-R)、炭化水素基(-R)、カルボキシアルキル基(-RCOOH)であり、少なくとも1つはアシル基である。複数のRおよびRは、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0039】
は、例えば、炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基は、鎖状、分岐状あるいは環状の脂肪族炭化水素基であってよく、芳香環を有していてもよい。なかでも、Rは、炭素数2~10、さらには炭素数2~4の鎖状あるいは分岐した脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0040】
は、例えば、炭素数1~20のアルキレン基である。アルキレン基は、鎖状、分岐状あるいは環状であってよい。なかでも、Rは、炭素数2~10、さらには炭素数2~4の鎖状あるいは分岐したアルキレン基が好ましい。
【0041】
セルロースエステル誘導体の酸価は、20mgKOH/g以上が好ましい。これにより、セルロースエステル誘導体が水性塗料内で安定的に存在することができて、その効果が発揮され易くなる。セルロースエステル誘導体の酸価は、40mgKOH/g以上がより好ましい。セルロースエステル誘導体の酸価は、150mgKOH/g以下であってよい。
【0042】
セルロースエステル誘導体としては、具体的には、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、セルローストリブチレート、セルロースプロピオネート、セルローストリプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチルセルロースアセテートプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートブチレートサクシネート、セルロースプロピオネートブチレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0043】
セルロースエステル誘導体の含有量は、CNFの含有量に応じて設定されることが好ましい。セルロースナノファイバーの含有量Cとセルロースエステル誘導体の含有量Cとの比率:C/Cは、0.03以上が好ましい。これにより、CNFによる効果、すなわち、粘度上昇および鱗片状顔料の沈降防止がより発現され易い。比率:C/Cは、1.0以下がより好ましい。これにより、セルロースエステル誘導体の効果、すなわち、塗膜欠陥の発生抑制がより発現され易い。比率:C/Cは、0.06以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。比率:C/Cは、0.6以下がより好ましく、0.3以下が特に好ましい。一態様において、比率:C/Cは、0.03以上1.0以下である。含有量は、固形分を基準に算出される。
【0044】
(鱗片状顔料)
鱗片状顔料は、光を反射する限り特に限定されない。金属調の質感が向上し易い点で、鱗片状顔料のアスペクト比は、2以上が好ましい。アスペクト比は、鱗片状顔料の一方の主面の長径と、鱗片状顔料の2つの主面の間の距離(厚さ)との比:長径/厚さである。鱗片状顔料のアスペクト比は、10以上1000以下であってよい。
【0045】
鱗片状顔料の長径は特に限定されない。鱗片状顔料の長径は、例えば、1μm以上であってよく、3μm以上であってよい。上記長径は、80μm以下であってよく、50μm以下であってよい。上記長径は、光輝性塗料により形成される塗膜(光輝性塗膜)をその法線方向から電子顕微鏡で観察することにより算出される。観察視野において、鱗片状顔料に対応する領域とそれ以外の領域とを画像処理ソフトにより二値化する。次いで、任意に20個の鱗片状顔料を選出し、その最も長い径をそれぞれ測定する。これら測定値の平均値が、鱗片状顔料の長径である。
【0046】
鱗片状顔料の厚さは特に限定されない。鱗片状顔料の厚さは、例えば、0.02μm以上であってよい。鱗片状顔料の厚さは、0.18μm以下であってよく、0.15μm以下であってよい。上記厚さは、光輝性塗膜の断面を電子顕微鏡で観察することにより算出してもよい。観察視野において、鱗片状顔料に対応する領域とそれ以外の領域とを画像処理ソフトにより二値化する。次いで、任意に20個の鱗片状顔料を選出し、その最も厚い部分の長さをそれぞれ測定する。これら測定値の平均値が、鱗片状顔料の厚さである。
【0047】
鱗片状顔料の平均粒子径は特に限定されない。金属調の質感が向上し易い点で、鱗片状顔料の平均粒子径は、2μm以上であってよく、5μm以上であってよい。上記平均粒子径は、50μm以下であってよく、35μm以下であってよい。平均粒子径は、体積平均粒子径D50を意味する。体積平均粒子径D50は、レーザードップラー式粒度分析計(例えば、日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて測定することができる。
【0048】
鱗片状顔料の含有量は、意匠性の観点から、光輝性塗料の0.1質量%以上が好ましい。同様の観点から、鱗片状顔料の含有量は、光輝性塗料の1.5質量%以下が好ましい。鱗片状顔料の含有量は、光輝性塗料の0.15質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が特に好ましい。鱗片状顔料の含有量は、1質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が特に好ましい。一態様において、鱗片状顔料の含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下である。特に、セルロースナノファイバーの含有量Cが光輝性塗料の0.03質量%以上1質量%以下であって、鱗片状顔料の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下であると、意匠性はさらに向上し得る。
【0049】
鱗片状顔料の含有量は、意匠性の観点から、光輝性塗料の全固形分の3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、7質量%以上であってよい。鱗片状顔料の含有量は、例えば、光輝性塗料の全固形分の50質量%以下であり、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよい。一態様において、鱗片状顔料の含有量は、光輝性塗料の全固形分の3質量%以上50質量%以下である。
【0050】
鱗片状顔料は特に限定されない。鱗片状顔料としては、例えば、金属粒子、金属被覆マイカ、金属被覆ガラス粒子、グラファイトが挙げられる。金属粒子としては、具体的には、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、リン化鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムおよびこれらを含む合金の粒子が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。鱗片状顔料は、着色されていてもよい。なかでも、金属調の質感が向上し易い点で、アルミニウム粒子が好ましい。
【0051】
(リン酸基含有化合物)
光輝性塗料は、さらに、リン酸基含有化合物を含んでもよい。特に、鱗片状顔料がアルミニウム粒子を含む場合、光輝性塗料は、リン酸基含有化合物を含むことが好ましい。リン酸基含有化合物によって、水性塗料におけるアルミニウム粒子の分散性が向上して、さらに配列性が高まり易くなる。
【0052】
リン酸基含有化合物の含有量は特に限定されない。リン酸基含有化合物の含有量は、光輝性塗料の全固形分の0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。リン酸基含有化合物の含有量は、光輝性塗料の全固形分の15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。一態様において、リン酸基含有化合物の含有量は、光輝性塗料の全固形分の0.1質量%以上15質量%以下である。
【0053】
リン酸基含有化合物は、リン酸基(-P(=O)OR(Rは、それぞれ独立して、水素または炭化水素基)を有する限り、特に限定されない。リン酸基含有化合物は、例えば、炭素数4~30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル、および、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基含有ポリマーの少なくとも一方である。
【0054】
〈アルキルリン酸エステル〉
アルキルリン酸エステルは、炭素数4~30のアルキル基を有する。アルキルリン酸エステルとしては、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、およびこれらの混合物が挙げられる。ジアルキルリン酸エステルにおいて、2つのアルキル基は同じであってよく、異なっていてよい。ジアルキルリン酸エステルは、好ましくは、同じ2つのアルキル基を有する。
【0055】
炭素数4~30のアルキル基としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基およびオクタコシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であってよく、分岐していてよい。
【0056】
アルキルリン酸エステルとしては、例えば、ブチルアシッドホスフェート(モノブチルリン酸エステルとジブチルリン酸エステルとの混合物)、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(モノ-2-エチルヘキシルリン酸エステルとジ-2-エチルヘキシルリン酸エステルとの混合物)、イソデシルアシッドホスフェート(モノイソデシルリン酸エステルとジイソデシルリン酸エステルとの混合物)、ジラウリルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート(モノラウリルリン酸エステルとジラウリルリン酸エステルとの混合物)、トリデシルアシッドホスフェート(モノトリデシルリン酸エステルとジトリデシルリン酸エステルとの混合物)、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート(モノステアリルリン酸エステルとジステアリルリン酸エステルとの混合物)、イソステアリルアシッドホスフェート(モノイソステアリルリン酸エステルとジイソステアリルリン酸エステルとの混合物)、オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルリン酸エステルとジオレイルリン酸エステルとの混合物)、ベヘニルアシッドホスフェート(モノベヘニルリン酸エステルとジベヘニルリン酸エステルとの混合物)が挙げられる。
【0057】
〈リン酸基含有ポリマー〉
リン酸基含有ポリマーは、5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基価を有する。リン酸基価がこの範囲であると、密着性とともに耐水性が向上し易い。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、50mgKOH/g以上がより好ましい。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価は、250mgKOH/g以下が好ましく、150mgKOH/g以下がより好ましい。一態様において、リン酸基含有ポリマーは、50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のリン酸基価を有する。
【0058】
リン酸基価は、JIS K5601 2-1 酸価測定方法に基づいて算出される。具体的には、酸価は、製品の不揮発物1g中の遊離酸を中和するのに要する、水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
【0059】
リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、例えば、1,000以上50,000以下である。リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。リン酸基含有ポリマーの数平均分子量は、30,000以下が好ましく、20,000以下がより好ましい。
【0060】
リン酸基含有ポリマーとしては、例えば、リン酸基価が5mgKOH/g以上300mgKOH/g以下の、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、耐水性の観点から、リン酸基含有アクリル樹脂が好ましい。リン酸基含有アクリル樹脂は、例えば、リン酸基含有α,β-エチレン性不飽和モノマーを重合する、あるいは、このモノマーとリン酸基を含有しない他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとを共重合することによって得られる。
【0061】
(水性溶媒)
水性溶媒としては、純水、イオン交換水、水道水、工業水などの各種水が挙げられる。水性溶媒の量は特に限定されず、光輝性塗料の固形分含有率が0.1質量%以上12質量%以下になるように、設定される。
【0062】
光輝性塗料は、水性溶媒とともに、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール(2EHOH))、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどのアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などのセロソルブ類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類が挙げられる。なかでも、アルキルアルコール類、セロソルブ類が好ましい。
【0063】
(表面調整剤)
光輝性塗料は、表面調整剤を含んでいてよい。これにより、光輝性塗料の表面張力が制御されて、鱗片状顔料は、さらに光輝性塗膜と平行に配列し易くなる。加えて、光輝性塗料の未硬化の着色塗膜に対する濡れ性が向上し易くなって、層間の密着性が向上する。
【0064】
表面調整剤は特に限定されない。表面調整剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、ビニル系、フッ素系の表面調整剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、意匠性および耐水性等の観点から、シリコーン系の表面調整剤が好ましい。シリコーン系の表面調整剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンおよびこれを変性した変性シリコーンが挙げられる。変性シリコーンとしては、例えば、ポリエーテル変性体、アクリル変性体、ポリエステル変性体が挙げられる。
【0065】
市販されている表面調整剤としては、例えば、BYKシリーズ(ビックケミー社製)、Tegoシリーズ(エヴォニック社製)、グラノールシリーズ、ポリフローシリーズ(いずれも共栄社化学社製)、ディスパロンシリーズ(楠本化成社製)が挙げられる。
【0066】
表面調整剤の量は特に限定されない。表面調整剤の量は、光輝性塗料の0.1質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましい。表面調整剤の量は、光輝性塗料の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0067】
(塗膜形成樹脂)
光輝性塗料は、塗膜形成樹脂を含んでもよい。意匠性の観点から、塗膜形成樹脂の含有量は少ないことが望ましい。光輝性塗料における塗膜形成樹脂の含有量は、光輝性塗料の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%であってよい。
【0068】
塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂が挙げられる。塗膜形成樹脂として、硬化性の官能基を含有する樹脂と、これに応じた硬化剤とを含んでもよい。具体的には、水酸基含有樹脂と、アミノ樹脂(メラミン樹脂)、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、ヒドラジド基含有化合物およびセミカルバジド基含有化合物の少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基がブロック剤でブロックされたブロック化ポリイソシアネート化合物を包含する。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0069】
(他の粘性剤)
光輝性塗料は、本実施形態の効果を妨げない範囲で、セルロースエステル誘導体およびCNF以外の粘性剤を含んでもよい。上記の粘性剤としては、例えば、疎水会合型粘性剤、ポリカルボン酸型粘性剤、アマイド系粘性剤、無機鉱物系粘性剤、シリカ系微粉末、硫酸バリウム微粒化粉末、ポリアミド系粘性剤、有機樹脂微粒子粘性剤、ジウレア系粘性剤、セルロースエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0070】
疎水会合型粘性剤としては、例えば、疎水性モノマーを共重合したポリアクリル酸系粘性剤、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系粘性剤(ウレタン会合型増粘剤)、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系粘性剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性アミド鎖であるアミド-ウレア系粘性剤のほか、ポリビニルアルコール系粘性剤、ポリエチレンオキサイド粘性剤などが挙げられる。セルロースエーテルとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
【0071】
(その他の顔料)
光輝性塗料は、隠蔽性等に応じて、鱗片状顔料以外の他の顔料を含み得る。他の顔料としては、例えば、防錆顔料、着色顔料、体質顔料が挙げられる。ただし、鱗片状顔料の配列性の観点から、他の顔料の含有量は、全鱗片状顔料と他の顔料との合計の10質量%以下が好ましく、5質量%以下が好ましい。
【0072】
着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料および金属錯体顔料等の有機系着色顔料:黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックおよび二酸化チタン等の無機系着色顔料が挙げられる。体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレーおよびタルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0073】
(その他)
光輝性塗料は、その他、必要に応じて種々の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、分散剤、ピンホール防止剤が挙げられる。
【0074】
[塗装板]
本実施形態に係る塗装板は、被塗物と、光輝性塗膜と、を備える。光輝性塗膜は、上記の水性光輝性塗料組成物により形成される。
【0075】
(被塗物)
被塗物の材質は特に限定されない。被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。被塗物の形状も特に限定されない。被塗物としては、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品が挙げられる。
【0076】
金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0077】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていることが好ましい。樹脂製の被塗物は、脱脂処理後、さらにプライマー塗料により塗装されていてよい。プライマー塗料は特に限定されず、その上方に塗装される塗料の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0078】
(光輝性塗膜)
光輝性塗膜は、被塗物に金属調の質感を与える。光輝性塗膜の厚さは、5μm以下が好ましい。これにより、鱗片状顔料の配列性が向上し易くなって、優れた金属調の意匠がより得られ易い。光輝性塗膜の厚さは、1.0μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらに好ましく、0.7μm以下が特に好ましい。光輝性塗膜の厚さは、0.05μm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、0.3μm以上であってよい。
【0079】
(着色塗膜)
塗装板は、着色塗膜を備えることが望ましい。着色塗膜は、被塗物と光輝性塗膜との間、あるいは、光輝性塗膜を覆うように配置される。着色塗膜は、被塗物の質感および色彩を隠蔽し、塗装板に所望の色調を与える。
【0080】
着色塗膜は、着色塗料により形成される。着色塗料は、例えば、水酸基含有樹脂、硬化剤および着色顔料を含む。着色塗料は、上記の成分の混合物を、水性溶媒または有機溶媒で希釈することにより調製される。着色塗料は、1液型塗料であってよく、2液型塗料等の多液型塗料であってよい。
【0081】
着色塗膜の厚さは特に限定されない。隠蔽性の観点から、着色塗膜の厚さは、5μm以上であってよく、10μm以上であってよく、20μm以上であってよい。着色塗膜の厚さは、50μm以下であってよく、45μm以下であってよく、40μm以下であってよい。
【0082】
(クリヤー塗膜)
塗装板は、光輝性塗膜を覆うクリヤー塗膜を備えることが望ましい。クリヤー塗膜は、光輝性塗膜を保護する。クリヤー塗膜は特に限定されず、従来公知のクリヤー塗料が使用できる。クリヤー塗料は、粉体であってよく、水系であってよく、溶剤系であってよい。クリヤー塗料は、1液型塗料であってよく、2液型塗料等の多液型塗料であってよい。クリヤー塗料は、透明性を損なわない範囲で、顔料を含み得る。
【0083】
クリヤー塗膜の厚さは特に限定されない。外観が向上し易い点で、クリヤー塗膜の厚さは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。白さおよび金属調の質感が損なわれ難い点で、クリヤー塗膜の厚さは、50μm以下であってよく、40μm以下であってよい。
【0084】
[塗装板の製造方法]
塗装板は、例えば、被塗物上に光輝性塗料を塗装して未硬化の光輝性塗膜を形成する工程と、未硬化の光輝性塗膜を硬化させる工程により得られる。
【0085】
着色塗膜、光輝性塗膜およびクリヤー塗膜をこの順に備える塗装板は、好ましくは以下の方法により製造される。すなわち、塗装板は、被塗物上に、着色塗料を塗装して未硬化の着色塗膜を形成する工程と、未硬化の着色塗膜上に、光輝性塗料を塗装して未硬化の光輝性塗膜を形成する工程と、未硬化の光輝性塗膜上に、クリヤー塗料を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化の着色塗膜、未硬化の光輝性塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を硬化させて複層塗膜を得る工程と、を備える方法により製造できる。
【0086】
(塗装方法)
各塗料の塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられる。
【0087】
塗料の塗装が終了するたびに、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。これにより、硬化工程において、塗膜に含まれる溶媒が突沸することが抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。さらに、予備乾燥により、未硬化の塗膜同士が混ざりあうことが抑制されて、混相が形成され難くなる。そのため、得られる塗装板の外観が向上し易くなる。
【0088】
予備乾燥の条件は特に限定されない。予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で15分以上30分以下放置する方法、50℃以上100℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0089】
(硬化)
各塗膜は、加熱により硬化し得る。加熱条件は、各塗膜の組成等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば70℃以上150℃以下であり、80℃以上140℃以下であってよい。加熱時間は、例えば10分以上40分以下であり、20分以上30分以下であってよい。加熱装置としては、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉が挙げられる。
【実施例
【0090】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。表に記載された配合量は、固形分量である。
【0091】
[実施例1]
以下のようにして、光輝性塗料、および、複層塗膜を備える塗装板を作製した。得られた光輝性塗料および塗装板について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。図1に、実施例1で作製された塗装板の正面写真を示す。
【0092】
(I)被塗物の準備
被塗物として、硬化電着塗膜を備えるリン酸亜鉛処理鋼板を準備した。硬化電着塗膜は、日本ペイント社製のカチオン電着塗料組成物である「パワーニクス」を、乾燥膜厚が20μmとなるようにリン酸亜鉛処理鋼板に電着塗装した後、160℃で30分間加熱することにより形成した。
【0093】
(II)塗料の準備
(II-1)着色塗料の調製
以下のようにして製造された白色顔料分散ペースト130.5部、水酸基含有アクリル樹脂エマルション樹脂73.9部(樹脂固形分量で30部)および水酸基含有ポリエステル樹脂60部(樹脂固形分量で30部)と、水酸基含有ポリウレタン樹脂(日本ペイントオートモーティブコーティングス社製)を100部(樹脂固形分量で20部)と、硬化剤としてサイメル327(allnex社製、メラミン樹脂)22.2部とを混合した。その後、混合物にイオン交換水40部を加えてさらに混合した。続いて、混合物に、粘性剤としてビスカレックスHV-30(BASF社製、ポリカルボン酸系粘性剤、不揮発分30%)3.3部を加えて、さらに混合および撹拌し、着色塗料を得た。
【0094】
(白色顔料分散ペーストの製造)
分散剤としてDisperbyk 190(ビックケミー社製、ノニオン・アニオン系分散剤)4.5部、消泡剤としてBYK-011(ビックケミー社製)0.5部、イオン交換水22.9部、二酸化チタン72.1部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、二酸化チタンの二次粒子径が5μm以下となるまで室温で混合し、顔料分散ペーストを得た。
【0095】
(水酸基含有アクリル樹脂エマルションの製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部およびニューコール293(日本乳化剤社製)5部を仕込み、これらを攪拌しながら75℃に昇温した。メタクリル酸メチル145部、スチレン50部、アクリル酸エチル220部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル70部およびメタクリル酸15部を含むモノマー混合物、水240部およびニューコール293(日本乳化剤社製)30部の混合物を、ホモジナイザーを用いて乳化して、モノマープレ乳化液を得た。上記反応容器内を攪拌しながら、モノマープレ乳化液を3時間にわたって滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間、反応を継続した。反応物を冷却した後、上記反応容器にジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、固形分含有率40.6質量%の水酸基含有アクリル樹脂エマルションを得た。
【0096】
(水酸基含有ポリエステル樹脂の製造)
反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε-カプロラクトン17.5部およびジブチルスズオキサイド0.1部を加え、これらを混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけて反応物を220℃まで昇温しつつ、酸価8となるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、反応器に無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40のポリエステル樹脂を得た。さらに、ポリエステル樹脂を100℃まで冷却した後、ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌した。続いて、ポリエステル樹脂を60℃まで冷却し、その後、イオン交換水98.8部およびジメチルエタノールアミン5.9部を加えた。これにより、固形分50質量%の水酸基含有ポリエステル樹脂を得た。
【0097】
(II-2)光輝性塗料の調製
表1に示す成分および配合割合に従って、光輝性塗料を調製した。光輝性塗料の塗料温度20℃、60rpmの条件でB型粘度計(東機産業社製、形式TVB10、単一円筒型回転式粘度計)で測定した粘度は、400mPa・s、固形分含有率は約4.1質量%であった。
【0098】
表1に記載された、リン酸基含有ポリマー(リン酸基含有化合物)、水酸基含有アクリル樹脂エマルション(塗膜形成樹脂)は、以下のようにして製造した。メラミン樹脂(塗膜形成樹脂)としては、サイメル327(allnex社製、硬化剤)を用いた。水酸基含有アクリル樹脂エマルションとメラミン樹脂との固形分比(水酸基含有アクリル樹脂エマルション/メラミン樹脂)は、7/3である。
【0099】
(リン酸基含有ポリマーの製造)
反応容器にエトキシプロパノール40質量部を仕込み、これに、スチレン4質量部、n-ブチルアクリレート35.96質量部、エチルヘキシルメタクリレート18.45質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート13.92質量部、メタクリル酸7.67質量部、アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート(ユニケミカル社製「ホスマーPP」)20質量部、エトキシプロパノール20質量部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7質量部からなるモノマー溶液(121.7質量部)を120℃で3時間かけて滴下した後、同温度で1時間攪拌を継続して、リン酸基含有ポリマー(リン酸基含有アクリル樹脂)を含む液を得た(不揮発分:63質量%)。得られたリン酸基含有ポリマーは、数平均分子量が6,000であり、リン酸基価55mgKOH/gであり、水酸基価が60mgKOH/gであった。
【0100】
(水酸基含有アクリル樹脂エマルションの製造)
反応容器に脱イオン水330gを加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。ついで、アクリル酸11.25部、アクリル酸n-ブチル139部、メタクリル酸メチル75部、メタクリル酸n-ブチル187部、メタクリル酸2-エチルヘキシル75部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル150部、スチレン112部、チオカルコール20(n-ドデシルメルカプタン、花王社製、有効成分100%)11.2部、およびラテムルPD-104(乳化剤、花王社製、有効成分20%)74.3部、および脱イオン水300部からなるモノマー乳化物のうち3%分と、過硫酸アンモニウム2.63部、および脱イオン水90部からなる開始剤溶液の30%分とを、15分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で15分間熟成を行った。さらに、残りのモノマー乳化物と開始剤溶液とを180分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、200メッシュフィルターで濾過し、平均粒子径200nm、不揮発分49%、固形分酸価15mgKOH/g、水酸基価85mgKOH/gの水酸基含有アクリル樹脂エマルションを得た。
【0101】
(II-3)クリヤー塗料の準備
クリヤー塗料として、PUエクセルO-2100(日本ペイント社製、2液クリヤー塗料)を準備した。
【0102】
(III)未硬化の着色塗膜の形成工程
被塗物上に、着色塗料をメタベルを用いて塗装した。
【0103】
(IV)未硬化の光輝性塗膜の形成工程
未硬化の着色塗膜上に、光輝性塗料をメタベルを用いて塗装した。
【0104】
(V)未硬化のクリヤー塗膜の形成工程
未硬化の光輝性塗膜上に、クリヤー塗料をマイクロマイクロベルを用いて塗装した。
【0105】
(VI)硬化工程
クリヤー塗膜の形成工程(V)の後、140℃で20分間加熱して、複層塗膜を備える塗装板を得た。着色塗膜の厚さは30μmであった。光輝性塗膜の厚さは0.5μmであった。クリヤー塗膜の厚さは30μmであった。
【0106】
[実施例2-8、比較例1-5]
表1に示す成分および配合割合に従って、光輝性塗料をそれぞれ調製したこと以外、実施例1と同様にして、複層塗膜を備える塗装板を作製し、評価した。結果を表1に示す。図2に、比較例1で作製された塗装板の正面写真を示す。
【0107】
[評価]
(1)外観
塗装板の額縁現象、クラッキング、タレおよびゆず肌の有無を、目視により総合的に評価した。評価基準は以下の通りである。
良:いずれの欠陥もみられない
可:ゆず肌のみ確認できる
不良:額縁現象、クラッキングおよびタレの少なくとも1つの欠陥がみられる
【0108】
(2)意匠性
多角度分光測色計MA-68(X-Rite社製)を用いて、複層塗膜に対して45度の角度から照射した光を、正反射光に対して受光角15度の分光反射率を測定した。次いで、分光反射率から計算されたL表色系(CIE1976L色空間)における明度L(L値)を算出した。L値が大きいほど、金属調に優れている。算出されたL値を、以下の基準に従って評価した。硬化着色塗膜形成後、光輝性塗料の塗装前の被塗物のL値は、90であった。
良:100以上
可:85以上100未満
不良:85未満
【0109】
(3)沈降性
光輝性塗料をガラス製の容器に入れて密閉し、20℃で10日間静置した。その後の塗料の様子を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。
良:鱗片状顔料の沈降はみられない
可:塗料静置後、7日経過するまでに鱗片状顔料の沈降がみられる
不良:塗料静置後、1日経過するまでに鱗片状顔料の沈降がみられる
【0110】
実施例および比較例において使用された各成分は、以下のとおりである。
(鱗片状顔料)
アルミニウム粒子:商品名SB-10、旭化成社製、厚さ0.06μm、平均粒子径10μm
金属被覆マイカ: Xirallic T60-10WNT Crystal Silver、メルク社製、平均粒子径17μm
【0111】
(セルロースナノファイバー)
TEMPO酸化型CNF、平均繊維幅2-4nm、カルボキシ基量1.4mmol/g
(セルロースエステル誘導体)
カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート(CAB)、商品名Solus3050、酸価50mgKOH/g、イーストマン ケミカル カンパニー社製)
【0112】
(他の粘性剤)
粘性剤1:疎水会合型粘性剤、アデカノールUH540(ADEKA社製、ウレタン会合型増粘剤)
粘性剤2:ポリカルボン酸型粘性剤、SN シックナー 640(サンノプコ社製、ポリカルボン酸粘性剤)
粘性剤3:アマイド系粘性剤、ディスパロン 6700(楠本化成社製、ポリアマイド粘性剤)
粘性剤4:無機鉱物系粘性剤、LAPONITE RD(BYK社製、珪酸リチウムマグネシウムナトリウム塩)
【0113】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の水性光輝性塗料組成物は、塗膜欠陥がなく金属調の意匠を有する塗膜が得られるため、特に自動車車体の外板の塗装に好適である。
図1
図2