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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20231214BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20231214BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20231214BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W60/00
B60W40/08
G08G1/16 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021151869
(22)【出願日】2021-09-17
(65)【公開番号】P2023044040
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
(72)【発明者】
【氏名】浅野 誠之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽次
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032894(JP,A)
【文献】特開2008-285013(JP,A)
【文献】特開2017-001519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
F02D 29/00-29/06
B60K 31/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後加速度に関連する要求値が運転支援装置から入力されている場合、前記要求値に基づいて前記車両の走行速度を制御する車両用制御装置であって、
前記運転支援装置からは、前記要求値として、前記車両の前後加速度の上限を定める要求値、及び、前記前後加速度の下限を定める要求値が入力されるようになっており、
前記前後加速度の上限を定める要求値を取得した場合には当該要求値に応じた値を上限要求値として設定し、前記前後加速度の下限を定める要求値を取得した場合には当該要求値に応じた値を下限要求値として設定し、車両操作を通じて前記車両の運転者が当該車両の加速を要求している場合には当該車両操作の量に応じた前記前後加速度に関連する要求値を加速要求値として設定し、車両操作を通じて前記車両の運転者が当該車両の減速を要求している場合には当該車両操作の量に応じた前記前後加速度に関連する要求値を減速要求値として設定する設定部と、
前記下限要求値と前記加速要求値とのうちの大きい方を第1調停要求値として設定する第1調停部と、
前記第1調停要求値と前記上限要求値と前記減速要求値とのうちの最小値を第2調停要求値として設定する第2調停部と、
前記走行速度を調整する際に作動するアクチュエータに対する指令値として、前記第2調停要求値に応じた値を設定する指令部と、を備える
車両用制御装置。
【請求項2】
前記運転者が前記車両を運転する能力を失っているか否かを判定する判定部を備え、
前記第1調停部は、前記運転者が前記車両を運転する能力を失っていると判定されている場合、前記運転者の車両操作の量によらない要求値である置換要求値を前記第1調停要求値として設定する
請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行速度を制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、運転支援機能を実現する複数のアプリケーション要求部からの要求を調停する調停部を備える制御装置の一例が記載されている。この制御装置では、調停部の調停結果を基に、複数のアクチュエータのそれぞれを制御する制御部に対する指令値が導出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-32892号公報
【文献】特開2020-32894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のアプリケーション要求部のうちの少なくとも1つのアプリケーション要求部からの要求に基づいて車両の走行速度を制御する場合であっても、運転者がアクセル操作を行うことがある。このように車両操作を通じて運転者が車両の加速を要求している場合、上記の調停部による調停には、こうした運転者の加速要求も反映する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両用制御装置は、車両の前後加速度に関連する要求値が運転支援装置から入力されている場合、前記要求値に基づいて前記車両の走行速度を制御する装置である。前記運転支援装置からは、前記要求値として、前記車両の前後加速度の上限を定める要求値、及び、前記前後加速度の下限を定める要求値が入力されるようになっている。前記車両用制御装置は、前記前後加速度の上限を定める要求値を取得した場合には当該要求値に応じた値を上限要求値として設定し、前記前後加速度の下限を定める要求値を取得した場合には当該要求値に応じた値を下限要求値として設定し、車両操作を通じて前記車両の運転者が当該車両の加速を要求している場合には当該車両操作の量に応じた前記前後加速度に関連する要求値を加速要求値として設定する設定部と、前記下限要求値と前記加速要求値とのうちの大きい方を第1調停要求値として設定する第1調停部と、前記第1調停要求値と前記上限要求値とのうちの小さい方を第2調停要求値として設定する第2調停部と、前記走行速度を調整する際に作動するアクチュエータに対する指令値として、前記第2調停要求値に応じた値を設定する指令部と、を備えている。
【0006】
上記構成によれば、運転支援装置から要求値が入力されている場合、上限要求値や下限要求値が設定される。そして、当該要求値を基に車両の走行速度が自動的に制御される。このようなときに車両操作を通じて運転者が車両の加速を要求した場合、当該車両操作の量に応じた要求値が加速要求値として設定される。そして、下限要求値と加速要求値とのうちの大きい方が第1調停要求値として設定される。また、第1調停要求値と上限要求値とのうちの小さい方が第2調停要求値として設定される。すると、アクチュエータに対する指令値として、第2調停要求値に応じた値が設定される。当該指令値に従ってアクチュエータが作動されることにより、運転者の操作も考慮して車両の加速度が制御される。
【0007】
したがって、上記構成によれば、運転支援装置からの要求に従って車両が走行している状況下において、車両操作を通じて運転者が車両の加速を要求した際には、当該運転者の要求を加味して車両の加速度を制御できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両用制御装置の実施形態である走行制御装置を備える車両の概略構成を示す図である。
図2図2は、同走行制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、同走行制御装置の設定部が実行する処理ルーチンを説明するフローチャートである。
図4図4は、同走行制御装置の第1調停部によって第1調停要求値が設定される様子を示す図である。
図5図5は、同走行制御装置の第2調停部によって第2調停要求値が設定される様子を示す図である。
図6図6は、同走行制御装置の指令部が実行する各処理を説明するブロック図である。
図7図7は、上限要求値及び下限要求値が設定されている状況下で運転者がアクセルペダルを操作する際の加速要求値の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両用制御装置の一実施形態を図1図7に従って説明する。
図1には、車両用制御装置の一例である走行制御装置100が適用される車両10の一部が図示されている。
【0010】
<車両10の構成>
車両10は、複数の車輪20と、車輪20と同数の摩擦ブレーキ30とを備えている。摩擦ブレーキ30は、車輪20で摩擦制動力を発生させる制動機構である。各摩擦ブレーキ30は、車輪20と一体に回転する回転体31と、摩擦材32と、ホイールシリンダ33とを有している。ホイールシリンダ33内の液圧であるWC圧が発生すると、摩擦材32が回転体31に押し付けられる。これにより、車輪20に摩擦制動力が付与される。すなわち、WC圧が高いほど摩擦材32を回転体31に押し付ける力が大きくなり、結果として、摩擦制動力が大きくなる。
【0011】
車両10の制動装置50は、各摩擦ブレーキ30のホイールシリンダ33にブレーキ液を供給する制動アクチュエータ51と、制動アクチュエータ51を制御する制動制御部52とを備えている。制動制御部52は、制動アクチュエータ51を制御することにより、各ホイールシリンダ33内のWC圧を調整する。すなわち、制動制御部52は、各ホイールシリンダ33内のWC圧を調整することにより、車両10の摩擦制動力を調整する。車両10の摩擦制動力とは、各車輪20に付与される摩擦制動力の総和である。本実施形態では、制動アクチュエータ51が、車両10の摩擦制動力を調整すべく作動する「アクチュエータ」に対応し、制動制御部52が、制動用のアクチュエータを制御する「制御部」に対応する。
【0012】
車両10の駆動装置40は、車両10の動力源としてモータジェネレータ41と、モータジェネレータ41を制御する駆動制御部42とを備えている。モータジェネレータ41の駆動力を車輪20に伝達することにより、車両10が走行する。したがって、モータジェネレータ41が、車両10の駆動力を調整すべく作動する「アクチュエータ」に対応し、駆動制御部42が、駆動用のアクチュエータを制御する「制御部」に対応する。
【0013】
車両10が走行する場合、車両10には前後力が付与されている。前後力が正の値である場合、車両10が加速する。一方、前後力が負の値である場合、車両10が減速する。すなわち、車両10の駆動力は正の前後力であり、車両10の制動力は負の前後力であるといえる。そこで、本実施形態では、車両10の駆動力と制動力との和を「前後力F」という。車両10の駆動力の絶対値が制動力の絶対値よりも大きくて前後力Fが正の値である場合、車両10が加速する。一方、車両10の駆動力の絶対値が制動力の絶対値よりも小さくて前後力Fが負の値である場合、車両10が減速する。
【0014】
<車両10の検出系>
車両10は、検出系として複数のセンサを備えている。例えば、車両10は、車輪速度センサSE1、前後加速度センサSE2、アクセル操作量センサSE3及びブレーキ操作量センサSE4を備えている。車輪速度センサSE1は、車輪20の回転速度を車輪速度Vwとして検出する。前後加速度センサSE2は、車両10に作用する前後加速度である加速度検出値Gsを検出する。アクセル操作量センサSE3は、運転者のアクセルペダル15の操作量であるアクセル操作量Aaを検出する。ブレーキ操作量センサSE4は、運転者のブレーキペダル16の操作量であるブレーキ操作量Baを検出する。各種センサSE1~SE4の検出結果に応じた信号が、走行制御装置100に入力される。
【0015】
車両10は、検出系として車内監視系200を備えている。車内監視系200は、車両10の運転者の状態を監視する。車内監視系200は、例えば、運転者の顔を撮像する撮像装置を有している。この場合、車内監視系200は、撮像装置が撮像した画像を解析することにより、運転者が覚醒しているか否かを推定する。そして、車内監視系200は、こうした解析結果を走行制御装置100に出力する。
【0016】
なお、車内監視系200による解析結果は、運転者が車両10を運転する能力を失っているか否かを判定する際に用いられる。こうした判定に用いることのできる情報を走行制御装置100に出力できるのであれば、車内監視系200は、撮像装置とは異なる他の装置を有する構成であってもよい。
【0017】
<車両10の制御構成>
車両10は、走行制御装置100に加え、運転支援装置60を備えている。
<<運転支援装置60>>
運転支援装置60は、CPUと、第1記憶部と、第2記憶部とを備えている。第1記憶部はROMを含んでおり、ROMにはCPUが実行する制御プログラムが記憶されている。第2記憶部には、CPUの演算結果が記憶される。
【0018】
なお、運転支援装置60は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、運転支援装置60は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えていること。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えていること。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えていること。
【0019】
運転支援装置60は、CPUが制御プログラムを実行することによって複数種類のアプリケーション要求部として機能する。アプリケーション要求部は、運転者による車両10の運転を支援する運転支援機能を実現するための機能部である。アプリケーション要求部は、運転支援機能を実現するための要求値を走行制御装置100に出力する。
【0020】
本実施形態において、運転支援機能は、車両10の前後加速度を調整する運転支援機能である。こうした運転支援機能としては、例えば、アダプティブクルーズコントロール、ダウンヒルアシスト、衝突軽減ブレーキ及び自動運転を挙げることができる。
【0021】
アプリケーション要求部が出力する要求値は、車両10の前後加速度に関連する要求値である。本実施形態では、アプリケーション要求部は、前後加速度に関連する要求値として前後力Fの要求値を出力する。運転支援装置60が走行制御装置100に出力する要求値は、車両10の前後加速度の上限を定める要求値と、車両10の前後加速度の下限を定める要求値とを含んでいる。
【0022】
複数のアプリケーション要求部のうち、第1アプリケーション要求部が出力する要求値を、「要求値R1」とする。第2アプリケーション要求部が出力する要求値を、「要求値R2」とする。
【0023】
<<走行制御装置100>>
走行制御装置100は、CPUと、第1記憶部と、第2記憶部とを備えている。第1記憶部はROMを含んでおり、ROMにはCPUが実行する制御プログラムが記憶されている。第2記憶部には、CPUの演算結果が記憶される。
【0024】
走行制御装置100は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、走行制御装置100は、上記(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0025】
なお、走行制御装置100は、CPUが制御プログラムを実行することによって複数種類の機能部として機能する。
図2を参照し、走行制御装置100の機能構成について説明する。
【0026】
走行制御装置100は、駆動要求値演算部110として機能する。駆動要求値演算部110は、0(零)以上の値を加速要求値Rx1として演算する。すなわち、駆動要求値演算部110は、アクセル操作量Aaが大きいほど大きい値を加速要求値Rx1として演算する。
【0027】
走行制御装置100は、制動要求値演算部120として機能する。制動要求値演算部120は、0(零)以下の値を減速要求値Rz1として演算する。すなわち、制動要求値演算部120は、ブレーキ操作量Baが大きいほど小さい値を減速要求値Rz1として演算する。
【0028】
走行制御装置100は、判定部130として機能する。判定部130は、車内監視系200から入力された情報を基に、運転者が車両10を運転する能力を失っているか否かを判定する。例えば、判定部130は、運転者が睡眠状態である場合などのように運転者が覚醒していない場合、運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定する。
【0029】
走行制御装置100は、設定部140として機能する。設定部140は、上限要求値Rj、下限要求値Rk、加速要求値Rx、減速要求値Rz及び置換要求値Rtを設定する。
図3を参照し、走行制御装置100が設定部140として機能する際に実行する処理ルーチンを説明する。本処理ルーチンは、所定の制御サイクル毎に実行される。
【0030】
本処理ルーチンにおいてはじめのステップS11では、設定部140は、車両10の前後加速度の上限を定める要求値である上限設定用要求値を運転支援装置60から取得したか否かを判定する。上限設定用要求値を運転支援装置60から取得した場合(S11:YES)、設定部140は、処理をステップS13に移行する。ステップS13において、設定部140は、運転支援装置60から取得した上限設定用要求値に応じた値を上限要求値Rjとして設定する。例えば運転支援装置60から入力された上限設定用要求値が1つのみである場合、設定部140は、当該上限設定用要求値を上限要求値Rjとして設定する。また例えば運転支援装置60から複数の上限設定用要求値が入力された場合、設定部140は、運転支援装置60から入力された複数の上限設定用要求値のうちの最小値を上限要求値Rjとして設定する。そして、設定部140は、処理をステップS15に移行する。
【0031】
一方、ステップS11において、上限設定用要求値を運転支援装置60から取得していない場合(NO)、設定部140は、上限要求値Rjを設定せずに、処理をステップS15に移行する。
【0032】
ステップS15において、設定部140は、車両10の前後加速度の下限を定める要求値である下限設定用要求値を運転支援装置60から取得したか否かを判定する。下限設定用要求値を運転支援装置60から取得した場合(S15:YES)、設定部140は、処理をステップS17に移行する。ステップS17において、設定部140は、運転支援装置60から取得した下限設定用要求値に応じた値を、下限要求値Rkとして設定する。例えば、運転支援装置60から入力された下限設定用要求値が1つのみである場合、設定部140は、当該下限設定用要求値を下限要求値Rkとして設定する。また例えば運転支援装置60から複数の下限設定用要求値が入力された場合、設定部140は、複数の下限設定用要求値のうちの最小値を下限要求値Rkとして設定する。そして、設定部140は、処理をステップS19に移行する。
【0033】
一方、ステップS15において、設定部140は、下限設定用要求値を運転支援装置60から取得していない場合(NO)、設定部140は、下限要求値Rkを設定せずに、処理をステップS19に移行する。
【0034】
ステップS19において、設定部140は、車両操作を通じて運転者が車両10の加速を要求しているか否かを判定する。設定部140は、駆動要求値演算部110が演算した加速要求値Rx1、及び、アクセル操作量Aaのうちの少なくとも一方を基に、車両操作を通じて運転者が車両10の加速を要求しているか否かを判定できる。車両操作を通じて運転者が車両10の加速を要求していると判定した場合(S19:YES)、設定部140は、処理をステップS21に移行する。ステップS21において、設定部140は、加速要求値Rx1を加速要求値Rxとして設定する。そして、設定部140は、処理をステップS23に移行する。
【0035】
一方、ステップS19において、車両操作を通じて運転者が車両10の加速を要求していると判定していない場合(NO)、設定部140は、加速要求値Rxを設定せずに、処理をステップS23に移行する。
【0036】
ステップS23において、設定部140は、車両操作を通じて運転者が車両10の減速を要求しているか否かを判定する。設定部140は、制動要求値演算部120が演算した減速要求値Rz1、及び、ブレーキ操作量Baのうちの少なくとも一方を基に、車両操作を通じて運転者が車両10の減速を要求しているか否かを判定できる。車両操作を通じて運転者が車両10の減速を要求していると判定した場合(S23:YES)、設定部140は、処理をステップS25に移行する。ステップS25において、設定部140は、減速要求値Rz1を減速要求値Rzとして設定する。そして、設定部140は、処理をステップS27に移行する。
【0037】
一方、ステップS23において、車両操作を通じて運転者が車両10の減速を要求していると判定していない場合(NO)、設定部140は、減速要求値Rzを設定せずに、処理をステップS27に移行する。
【0038】
ステップS27において、設定部140は、運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定部130が判定しているか否かを判定する。運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定部130が判定している場合(S27:YES)、設定部140は、処理をステップS29に移行する。ステップS29において、設定部140は、置換要求値Rtを設定する。置換要求値Rtとして、運転者の車両操作の量によらない値が設定される。すなわち、アクセルペダル15やブレーキペダル16が運転者によって操作されていたとしても、アクセル操作量Aaやブレーキ操作量Baとは無関係の値が置換要求値Rtとして設定される。例えば、車両10の安全を確保しつつ停車させることができるような値が、置換要求値Rtとして設定される。この場合、設定部140は、車両10の走行している道路の種類及び車両10の走行速度Vsを考慮した値を置換要求値Rtとして設定するとよい。このように設定される置換要求値Rtは、車両10の前後加速度に関連する要求値である。そして、設定部140は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0039】
一方、ステップS27において、運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定部130が判定していない場合(NO)、設定部140は、置換要求値Rtを設定せずに、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0040】
図2に戻り、走行制御装置100は、調停部150として機能する。調停部150は、第1調停部151と、第2調停部152とを有している。
第1調停部151は、下限要求値Rk、加速要求値Rx及び置換要求値Rtを基に、第1調停要求値Raを設定する。設定部140が置換要求値Rtを設定した場合、第1調停部151は、置換要求値Rtを第1調停要求値Raとして設定する。
【0041】
一方、図4に示すように設定部140が置換要求値Rtを設定していない場合、第1調停部151は、下限要求値Rk又は加速要求値Rxを第1調停要求値Raとして設定する。すなわち、下限要求値Rk及び加速要求値Rxが何れも設定されている場合、第1調停部151は、下限要求値Rk及び加速要求値Rxのうちの大きい方を第1調停要求値Raとして設定する。また、下限要求値Rkは設定されている一方で加速要求値Rxは設定されていない場合、第1調停部151は、下限要求値Rkを第1調停要求値Raとして設定する。また、下限要求値Rkは設定されていない一方で加速要求値Rxが設定されている場合、第1調停部151は、加速要求値Rxを第1調停要求値Raとして設定する。
【0042】
他方、置換要求値Rt、下限要求値Rk及び加速要求値Rxが何れも設定されていない場合、第1調停部151は、第1調停要求値Raを設定しない。
図2に戻り、第2調停部152は、第1調停要求値Ra、上限要求値Rj及び減速要求値Rzを基に、第2調停要求値Rbを設定する。第1調停要求値Ra、上限要求値Rj及び減速要求値Rzが何れも設定されている場合、第2調停部152は、第1調停要求値Ra、上限要求値Rj及び減速要求値Rzのうちの最小値を第2調停要求値Rbとして設定する。
【0043】
第1調停要求値Ra、上限要求値Rj及び減速要求値Rzのうちの1つの要求値のみが設定されている場合、第2調停部152は、当該要求値を第2調停要求値Rbとして設定する。第1調停要求値Ra、上限要求値Rj及び減速要求値Rzのうち、2つの要求値のみが設定されている場合、第2調停部152は、設定されている2つの要求値のうちの小さい方を第2調停要求値Rbとして設定する。例えば、第1調停要求値Ra及び上限要求値Rjは設定されている一方で減速要求値Rzは設定されていない場合、図5に示すように、第2調停部152は、第1調停要求値Ra及び上限要求値Rjのうちの小さい方を第2調停要求値Rbとして設定する。
【0044】
図2に戻り、走行制御装置100は、指令部160として機能する。指令部160は、前後力の指令値Fqを、第2調停要求値Rbに応じた値に設定する。そして、指令部160は、指令値Fqを、駆動装置40の駆動制御部42又は制動装置50の制動制御部52に出力する。指令値Fqのうち、駆動装置40向けの指令値を「駆動指令値Fdq」とし、制動装置50向けの指令値を「制動指令値Fbq」とする。例えば、前後力の指令値Fqが正の値である場合、指令部160は、当該指令値Fqを駆動指令値Fdqとして駆動制御部42に出力する。また例えば、前後力の指令値Fqが負の値である場合、指令部160は、当該指令値Fqを制動指令値Fbqとして制動制御部52に出力する。
【0045】
図6を参照し、駆動指令値Fdq及び制動指令値Fbqの導出処理について詳述する。
指令部160は、前後力Fの要求値である第2調停要求値Rbを加速度の要求値に変換する目標加速度演算処理M11を実行する。指令部160は、目標加速度演算処理M11において、第2調停要求値Rbを加速度に変換することによって、調停後加速度要求値Gtを演算する。
【0046】
指令部160は、車輪速度Vwを基に、車両10の実加速度Gaを演算する実加速度演算処理M12を実行する。すなわち、実加速度演算処理M12において、指令部160は、各車輪20の車輪速度Vwを基に、車両10の走行速度Vsを演算する。そして、指令部160は、走行速度Vsを時間微分することによって実加速度Gaを演算する。なお、このように実加速度Gaを演算する場合、指令部160は、走行速度Vsを時間微分した値に加え、加速度検出値Gsも用いてもよい。
【0047】
指令部160は、調停後加速度要求値Gtと実加速度Gaとの偏差hGを演算する偏差演算処理M13を実行する。
指令部160は、偏差hGを入力とするフィードバック制御を実施するFB処理M14を実行する。FB処理M14の実行によって得られる値を、「FB値Rh」という。フィードバック制御は、例えば、比例制御及び微分制御を含んでいる。なお、フィードバック制御は、積分制御を含んでいてもよい。
【0048】
指令部160は、第2調停要求値RbとFB値Rhとの和を、最終加速度要求値Rdとして演算する加算処理M15を実行する。
指令部160は、最終加速度要求値Rdを前後力に変換することによって、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqを演算する指令値導出処理M16を実行する。こうして駆動指令値Fdq及び制動指令値Fbqが、第2調停要求値Rbに応じた値に設定される。
【0049】
<本実施形態における作用及び効果>
図7を参照し、上限要求値Rj及び下限要求値Rkが設定されている状況下で運転者がアクセルペダル15を操作している場合について説明する。なお、図7では、説明の便宜上、上限要求値Rj及び下限要求値Rkがある値でそれぞれ保持されているものとする。
【0050】
運転者がアクセルペダル15を操作していると、そのアクセル操作量Aaに応じた値が加速要求値Rxとして設定されている。この場合、加速要求値Rx、上限要求値Rj及び下限要求値Rkを基に、第2調停要求値Rbが設定される。そして、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが、第2調停要求値Rbに応じた値に設定される。駆動指令値Fdqが駆動制御部42に出力されると、駆動制御部42が、駆動指令値Fdqに基づいてモータジェネレータ41を制御する。また、制動指令値Fbqが制動制御部52に出力されると、制動制御部52が、制動指令値Fbqに基づいて制動アクチュエータ51を制御する。
【0051】
例えばタイミングt1以前のように、下限要求値Rk及び上限要求値Rjの何れよりも加速要求値Rxが小さい場合、下限要求値Rk及び加速要求値Rxのうち、下限要求値Rkが第1調停要求値Raとして設定される。また、第1調停要求値Ra及び上限要求値Rjのうちの小さい方が第2調停要求値Rbとして設定されている。図7に示す例では、下限要求値Rkが上限要求値Rjよりも小さいため、下限要求値Rkが第2調停要求値Rbとして設定される。そのため、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが、下限要求値Rkに応じた値に設定される。
【0052】
また、図7に示す例では、タイミングt1からタイミングt2までの期間、及び、タイミングt3以降の期間において、加速要求値Rxが第2調停要求値Rbとして設定される。その結果、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが、加速要求値Rxに応じた値に設定される。
【0053】
このように加速要求値Rxが第2調停要求値Rbとして設定される場合、運転者のアクセル操作によってアクセル操作量Aaが変わると、加速要求値Rx及び第2調停要求値Rbが変わる。その結果、アクセル操作量Aaの変化に連動して駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが変更される。したがって、運転者のアクセル操作に応じて車両10の走行速度Vsを調整できる。
【0054】
タイミングt2からタイミングt3までの期間では、加速要求値Rxが、下限要求値Rk及び上限要求値Rjよりも大きい。すると、図7に示す例では、上限要求値Rjが第2調停要求値Rbとして設定される。その結果、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが、上限要求値Rjに応じた値に設定される。
【0055】
本実施形態では、上限要求値Rj、下限要求値Rk及び加速要求値Rxを基に、第2調停要求値Rbが設定される。そして、加速要求値Rxが第2調停要求値Rbとして設定されるようなときにアクセル操作量Aaが変わると、アクセル操作量Aaの変化に応じて第2調停要求値Rbが変更される。その結果、駆動指令値Fdq又は制動指令値Fbqが変更される。すなわち、アクセル操作量Aaによっては、加速要求値Rxに応じて前後力の指令値Fqが設定されることもあれば、上限要求値Rj又は下限要求値Rkに応じて前後力の指令値Fqが設定されることもある。
【0056】
したがって、運転支援装置60からの要求に従って車両10が走行している状況下において、アクセル操作を通じて運転者が車両10の加速を要求した際には、運転者の加速要求を加味して車両10の前後加速度を制御できる。
【0057】
なお、本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1)運転支援装置60からの要求に従って車両10の走行速度Vsが制御されている状況下で、運転者がブレーキペダル16を操作することがある。このように車両操作、すなわちブレーキ操作を通じて運転者が車両10の減速を要求している場合、減速要求値Rzが設定される。そして、上限要求値Rj及び下限要求値Rkが何れも設定されている場合、上限要求値Rj、下限要求値Rk及び減速要求値Rzを基に、第2調停要求値Rbが設定される。具体的には、上限要求値Rj、下限要求値Rk及び減速要求値Rzのうちの最小値が、第2調停要求値Rbとして設定される。すなわち、減速要求値Rzが、上限要求値Rj及び下限要求値Rkの何れよりも小さい場合、ブレーキ操作量Baの変化に応じて第2調停要求値Rbが変更される。したがって、運転支援装置60からの要求に従って車両10が走行している状況下において、ブレーキペダル16の操作を通じて運転者が車両10の減速を要求した際には、運転者の減速要求を加味して車両10の前後加速度を制御できる。
【0058】
(2)運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定されている場合には、置換要求値Rtが設定される。置換要求値Rtが設定されている場合、第1調停要求値Raとして置換要求値Rtが設定される。そして、置換要求値Rt及び上限要求値Rjのうちの小さい方が第2調停要求値Rbとして設定される。車両10を減速させるための値が置換要求値Rtとして設定されている。そのため、こうした第2調停要求値Rbに応じた値が前後力の指令値Fqとして設定されており、当該指令値Fqに基づいてモータジェネレータ41及び制動アクチュエータ51が作動されることにより、運転者が車両10を運転する能力を失っている場合に車両10が加速することを抑制できる。
【0059】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・上記実施形態において、運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定されているために置換要求値Rtが設定された場合には、置換要求値Rtと上限要求値Rjとの大小関係に関係なく、置換要求値Rtを第2調停要求値Rbとして設定してもよい。
【0061】
・置換要求値Rtとして、予め決まっている所定値を設定してもよい。
・走行制御装置100は、判定部130として機能しなくてもよい。例えば、運転支援装置60が判定部130として機能するようにしてもよい。この場合、運転者が車両10を運転する能力を失っていると判定した旨が運転支援装置60に入力されると、走行制御装置100で置換要求値Rtが設定されることになる。
【0062】
・制動制御部52として機能するECUが、走行制御装置100を有していてもよい。また、制動制御部52として機能するECUが、走行制御装置100の機能部の一部を有していてもよい。この場合、走行制御装置100の残りの機能部を、駆動制御部42として機能するECUが有していてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、運転支援装置60から前後力の要求値が走行制御装置100に入力される場合について説明した。しかし、運転支援装置60から走行制御装置100に入力される要求値は、車両10の前後加速度に関連する要求値であれば、前後力の要求値でなくてもよい。例えば、運転支援装置60から走行制御装置100に入力される要求値は、前後加速度の要求値であってもよい。
【0064】
・駆動装置40は、車両10の動力源として、モータジェネレータ41に加えてエンジンを備えたものであってもよい。また、駆動装置40は、車両10の動力源としてエンジンを備えているのであれば、モータジェネレータ41を備えていなくてもよい。
【0065】
・制動装置50は、摩擦制動力を調整できるものであれば、ブレーキ液を利用しない装置であってもよい。例えば、制動装置50は、電動制動装置であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…車両
41…モータジェネレータ(アクチュエータの一例)
42…駆動制御部
51…制動アクチュエータ(アクチュエータの一例)
52…制動制御部
60…運転支援装置
100…走行制御装置(車両用制御装置の一例)
130…判定部
140…設定部
150…調停部
151…第1調停部
152…第2調停部
160…指令部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7