(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】超合金基板用のPVDバリアコーティング
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20231214BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20231214BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20231214BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20231214BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20231214BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B32B15/01 Z
C22C19/05 C
C22C19/07 H
C22C30/00
C23C14/24 F
C23C14/06 N
(21)【出願番号】P 2021521175
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2019078091
(87)【国際公開番号】W WO2020079084
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ビドリッヒ,ベノ
(72)【発明者】
【氏名】ギンドラート,マルコ
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-533310(JP,A)
【文献】米国特許第07364801(US,B1)
【文献】特開2018-162506(JP,A)
【文献】米国特許第06168874(US,B1)
【文献】特開2014-077201(JP,A)
【文献】特表2001-521987(JP,A)
【文献】特開2000-096259(JP,A)
【文献】特表2013-515173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 14/00-14/58;24/00-30/00
C22C 5/00-25/00;27/00-28/00;30/00-30/06;35/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造体であって、
a.金属基板と、
b.前記金属基板上に配置された多層コーティングであって、
i.前記金属基板上に配置された別個の第1の層であって、Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料を含む第1の層と、
ii.前記第1の層上に配置された第2の層であって、Al、Cr、Oを含み、Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料をさらに含む第2の層と、
iii.前記第2の層上に配置された第3の層であって、Al、Cr、およびOを含む第3の層と
を含む、多層コーティングと
を含
み、
前記第1の層が、前記金属基板の化学組成と同じ化学組成を含む、多層構造体。
【請求項2】
前記金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含むNi系の超合金である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記別個の第1の層が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記金属基板が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含むCo系の超合金である
、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記別個の第1の層が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含む
、請求項1または4に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記金属基板が、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含むNi-Co系の超合金である
、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項7】
前記別個の第1の層が、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含む
、請求項1または6に記載の多層構造体。
【請求項8】
前記金属基板が、公称組成から±10at%の偏差を有するNiAl、NiAl
3、またはNi
3Alを含むNiアルミナイドである
、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項9】
前記金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む単結晶Ni系の超合金である
、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項10】
多層構造体であって、
a.金属基板と、
b.前記金属基板上に配置された多層コーティングであって、
i.前記金属基板上に配置された別個の第1の層であって、Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料を含む第1の層と、
ii.前記第1の層上に配置された第2の層であって、AlおよびOを含む第2の層と、
iii.前記第2の層上に配置された第3の層であって、Al、Cr、およびOを含む第3の層と
を含む、多層コーティングと
を含
み、
前記第1の層が、前記金属基板の化学組成と同じ化学組成を含む、多層構造体。
【請求項11】
前記金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含むNi系の超合金である、請求項
10に記載の多層構造体。
【請求項12】
前記別個の第1の層が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む、請求項
10または
11に記載の多層構造体。
【請求項13】
前記金属基板が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含むCo系の超合金である、請求項
10に記載の多層構造体。
【請求項14】
前記別個の第1の層が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含む、請求項
10または13に記載の多層構造体。
【請求項15】
前記金属基板が、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含むNi-Co系の超合金である、請求項
10に記載の多層構造体。
【請求項16】
前記別個の第1の層が、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含む、請求項
10または15に記載の多層構造体。
【請求項17】
前記金属基板が、公称組成から±10at%の偏差を有するNiAl、NiAl
3、またはNi
3Alを含むNi-アルミナイド系の超合金である、請求項
10に記載の多層構造体。
【請求項18】
前記金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む単結晶Ni系の超合金である、請求項
10に記載の多層構造体。
【請求項19】
前記第2の層が、コランダム結晶構造を有する、
請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項20】
前記第3の層が、コランダムを含む固溶体の結晶構造を有する、
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項21】
前記第3の層のCr濃度は、前記金属基板から離れる方向に向かって減少する、
請求項1から請求項20のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項22】
前記第1の層が、前記Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料に対してエピタキシャルな成長を有する、
請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項23】
前記第1の層が、20μm未
満の厚さを有する、
請求項1から22のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項24】
前記第2の層が、5μm未
満の厚さを有する、
請求項1から23のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項25】
前記第3の層が、1μmより大き
い厚さを有する、
請求項1から24のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法であって、
カソードアーク蒸発によって
前記多層構造体を生成
することを含む、多層構造体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni、Ni-Co、Co、およびNi-アルミナイド系基板を含む超合金基板の酸化および化学的バリアとして使用するための積層体およびその作成方法に関する。第1の層(基板様コーティング)、第2の層(移行層)、および第3の層(酸化物コーティング)を含む層のシステムは、単一の物理蒸着プロセスで作成することができる。
【背景技術】
【0002】
最新技術
陸上および航空タービンの効率を高めるためには、より高い動作温度が必要である。この目的のために、高温での耐クリープ性を高めた超合金材料が開発された。超合金材料は、Fe、Ni、またはCoをベースとし、所望の特性をもたらすために、Cr、W、Mo、Ta、Nb、Ti、Al、Zr、Re、Y、V、C、B、Hf、Si、Mn、またはそれらの組み合わせなどの追加の元素を含む。しかし、より高い動作温度は、酸化および腐食に関する構成要素の表面安定性を高めることを必要とする。これは、既存の超合金材料では達成することが困難である。その結果、2つ以上の層を含む保護コーティングが超合金材料の表面に施されている。現在、これらのコーティングは、高温での拡散プロセスによって基板上に接着性で安定した界面を形成し、基板の表面または基板に隣接する層に保護的な酸化物を生成している。コーティングは、熱処理後に基板の接着界面および保護的な酸化物を形成する拡散要素を設ける。特定のコーティングの選択は、多くのパラメータに依る。1つのパラメータは、高温および過酷な環境などの、構成要素が動作する条件下で保護されるべき超合金材料へのコーティングの適合性である。α-アルミナ(α-Al2O3)は、酸素に対して有効な保護材料であり、また他の反応性環境元素のバリアとしても機能する。超合金基板の表面にアルミナ層を形成するコーティングは、好ましくは拡散アルミナイドコーティングおよびオーバーレイコーティングを含む。これに関して、
- 拡散アルミナイドコーティングは、例えば、拡散浸透処理または化学蒸着技術によって製造することができる。超合金の表面に塗布されたアルミニウムは、超合金中に拡散してβ-NiAl相を形成し、これは保護的なα-アルミナ層を形成するためのAlリザーバである。
【0003】
- MCrAlY(M=Ni、Co、またはNiCo)のオーバーレイコーティングは、典型的にはスプレー技術によって適用され、β-NiAlおよびγ’-Ni3Alまたはγ-Ni3Al相を形成する。
【0004】
両方のコーティングのタイプについて、超合金基板へのコーティングの接着は、高温アニーリングステップによって施される。このアニーリングまたは追加のアニーリングの最中にコーティングの表面に形成されるα-Al2O3層は、酸化および/または腐食バリアとして利用される。
【0005】
現在は、
図1に示すように、MCrAlYオーバーレイコーティング2は、厚さが数百ミクロンの多孔度を有するイットリウム安定化ジルコニア層4でコーティングされていることが多い。この種の積層体(MCrAlYオーバーレイコーティング2およびイットリウム安定化ジルコニア層4は、遮熱コーティングと呼ばれ、一方でMCrAlYオーバーレイコーティング2は、超合金基板1とイットリウム安定化ジルコニア層4との間にあるため、ボンドコートと呼ばれる。MCrAlYオーバーレイコーティング2とイットリウム安定化ジルコニア層4との間の界面は、MCrAlYオーバーレイコーティング2とイットリウム安定化ジルコニア層4との間の機械的安定性を与え、MCrAlYオーバーレイコーティング2を酸化から保護する拡散バリアとして機能するので、特に重要である。これは、イットリウム安定化ジルコニア層4による堆積前のMCrAlYオーバーレイコーティング2の表面の熱成長酸化物3、およびイットリウム安定化ジルコニア層4を通る酸素輸送によるこの熱成長酸化物3のさらなる安定化によって達成される。
【0006】
したがって、現在の方法は、保護的なα-アルミナ層を形成するためのリザーバを設けるために、超合金基板1の上に(超合金基板1よりも高いAl含有量で)MCrAlYオーバーレイコーティング2を必要とする。MCrAlYオーバーレイコーティング2は通常、溶射堆積によって堆積されるため、保護酸化物層の低い表面の粗さを達成することは困難であり得る。典型的な熱成長酸化物の厚さが2μmの範囲内であるため、表面の粗さが低いと有利である。
【0007】
さらに、αアルミナ層を形成するために使用されるアニーリングプロセスは、超合金基板1およびMCrAlYオーバーレイコーティング2の元素組成に依存する。イットリウム安定化ジルコニア層4の堆積後、追加のアニーリングが必要である。
【0008】
また、熱成長酸化物3の内面に不安定が生じてボイドが形成される場合がある。また、α-アルミナは優れたバリアとして機能するが、現在の技術では困難であるイットリウム安定化ジルコニア層4の核生成層としてアルミナをドープするか、またはアルミナとは異なる酸化物を形成することが有利であり得る。
【0009】
したがって、α-アルミナ保護コーティングを有する超合金基板の表面を作成する改善された方法をもたらす必要がある。MCrAlY界面のない超合金基板に安定した厚い酸化物ベースのコーティングを設ける必要性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的
本発明の目的は、従来技術に関連する1つまたは複数の困難を緩和または克服することである。金属基板および基板様コーティングが同様の化学組成を有する場合、拡散プロセスが減少され、基板と基板様コーティングとの間に組成の平衡がもたらされることが見出された。本開示は、超合金基板上に保護コーティングを作成することを対象とし、イットリウム安定化ジルコニアコーティングの可能なさらなる堆積のための表面を設ける。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の説明
第1の態様では、多層構造体が開示される。多層構造体は、金属基板と、金属基板上に配置された多層コーティングとを含む。多層コーティングは、(i)金属基板上に配置された別個の第1の層であって、Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料を含む第1の層と、(ii)第1の層上に配置された第2の層であって、Al、Cr、Oを含み、Ni-、Co-、Ni-Co、またはNi-アルミナイド系材料をさらに含む第2の層と、(iii)第2の層上に配置された第3の層であって、Al、Cr、およびOを含む第3の層とを含む。
【0012】
第1の態様の例では、第1の層は、金属基板の化学組成と実質的に同じ化学組成を有する。
【0013】
第1の態様の別の例では、金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含むNi系の超合金である。
【0014】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合別個の第1の層は、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む。
【0015】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含むCo系の超合金である。
【0016】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合本例の別個の第1の層は、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含む。
【0017】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含むNi-Co系の超合金である。
【0018】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合本例の別個の第1の層は、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含む。
【0019】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が、公称組成から±10at%の偏差であるNiAl、NiAl3、またはNi3Alを含むNi-アルミナイドである。
【0020】
第1の態様の別の例では、第1の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板は、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む、単結晶Ni系超合金である。
【0021】
第2の態様では、多層構造体が開示される。多層構造体は、金属基板、および金属基板上に配置された多層コーティングを含む。多層コーティングは、(i)金属基板上に配置された別個の第1の層であって、Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料を含む第1の層と、(ii)第1の層上に配置された第2の層であって、AlおよびOを含む第2の層と、(iii)第2の層上に配置された第3の層であって、Al、Cr、およびOを含む第3の層とを含む。
【0022】
第2の態様の例では、第1の層は、金属基板の化学組成と実質的に同じ化学組成を有する。
【0023】
第2の態様の別の例では、金属基板が、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含むNi系の超合金である。
【0024】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合本例の別個の第1の層は、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む。
【0025】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含むCo系の超合金である。
【0026】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合本例の別個の第1の層は、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含む。
【0027】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含むNi-Co系の超合金である。
【0028】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合本例の別個の第1の層は、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含む。
【0029】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板が、公称組成から±10at%の偏差であるNiAl、NiAl3、またはNi3Alを含むNi-アルミナイド系超合金である。
【0030】
第2の態様の別の例では、第2の態様の上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合金属基板は、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含む、単結晶Ni系超合金である。
【0031】
第1または第2の態様の別の例では、上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合第2の層はコランダム結晶構造を有する。
【0032】
第1または第2の態様の別の例では、上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合第3の層はコランダムを含む固溶体の結晶構造を有する。
【0033】
第1または第2の態様の別の例では、上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合第3の層のCr濃度が金属基板から離れる方向に向かって減少する。
【0034】
第1または第2の態様の別の例では、上述の例のうちのいずれか1つに記載されているような多層構造体が開示され、この場合第1の層が、前記Ni-、Co-、Ni-Co-、またはNi-アルミナイド系材料に対してエピタキシャルな成長を有する。
【0035】
上記の態様のいずれか1つ(またはそれらの態様の例)は、単独で、または上記のその態様の例のいずれか1つ以上と組み合わせて提供され得る。例えば、第1の態様は、単独で、または上述の第1の態様の例のうちのいずれか1つ以上と組み合わせて提供されてもよく、第2の態様は、単独で、または上述の第2の態様の例のいずれか1つ以上と組み合わせて提供されてもよい。
【0036】
詳細な説明
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】超合金基板上のMCrAlYのオーバーレイコーティングを示す概略図である。
【
図2】本開示の超合金基板上の積層体を示す概略図である。
【
図4】
図4a~
図4cは、熱処理前の超合金基板上の積層体の走査型透過電子顕微鏡画像である。
【
図5a】熱処理前の超合金基板上の積層体のエネルギー分散型X線分光法ラインスキャンである。
【
図5b】熱処理前の超合金基板上の積層体のエネルギー分散型X線分光法ラインスキャンである。
【
図6】熱処理前の積層体のラザフォード後方散乱分光スペクトルである。
【
図7】
図7a~
図7cは、熱処理後の超合金基板上の積層体の走査型透過電子顕微鏡画像である。
【
図8a】熱処理後の超合金基板上の積層体のエネルギー分散型X線分光法ラインスキャンである。
【
図8b】熱処理後の超合金基板上の積層体のエネルギー分散型X線分光法ラインスキャンである。
【
図9】
図9aおよび
図9bは、各々、熱処理後の超合金基板上の積層体の断面の走査型透過電子顕微鏡画像、および熱処理後の超合金基板上の積層体の透過電子後方散乱回折測定である。
【
図10】熱処理後の積層体のラザフォード後方散乱分光スペクトルである。
【
図11】熱処理後の積層体のかすり入射X線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書に記載の用語は、実施形態の説明のためのものにすぎず、本発明を全体として限定するものとして解釈されるべきではない。
【0039】
本明細書では、5~25(または5から25)などの範囲が与えられる場合、これは、好ましくは少なくとも5、または5超であり、かつ別に独立して、好ましくは25以下であることを意味する。例では、そのような範囲は、独立して少なくとも5つ、かつ別に独立して25以下を定義する。
【0040】
本開示は、物理蒸着カソードアーク蒸発によるオーバーレイコーティング(積層体)のための新しい手法を説明する。他の実施形態では、オーバーレイコーティングは、スパッタリングまたは高出力パルススパッタリングを含む他の物理蒸着法で適用される。
【0041】
本明細書に開示される実施形態は、単一プロセス(すなわち、真空を絶やすことがない)におけるカソードアーク蒸発によって基板材料に堆積される2つの構成要素の積層体に関し、少なくとも2つのターゲットは、第1のターゲットから第2のターゲットへの移行において可能な同時の動作を伴って、順次動作する。1つまたは複数の実施形態では、基板の材料は、Pratt&Whitneyによって販売されている超合金基板、PWA 1483である。他の実施形態では、基板は、Ni-、Co-、Ni-Co、またはNi-アルミナイド系材料を含む超合金材料である。一実施形態では、基板は、38から76wt%のNi、最大27wt%のCr、および最大20wt%のCoを含有するNi系の超合金の材料である。別の実施形態では、基板は、35から65wt%のCo、19から30wt%のCr、および最大35wt%のNiを含有するCo系の超合金の材料である。別の実施形態では、基板は、40から80wt%のNi、9から35wt%のCo、および10から20wt%のCrを含有するNi-Co系の超合金の材料である。別の実施形態では、基板は、公称組成から±10at%の偏差であるNiAl、NiAl3、またはNi3Alを含有するNi-アルミナイド超合金材料である。1つまたは複数の実施形態では、基板はNi系超合金材料であり、表1に示す化学組成を有する。表1において、すべての値は重量パーセントである。超合金材料は、必ずしも表1の単一の列からその化学組成全体を引き出す必要はないことをさらに理解されたい。そのような超合金材料は、例えば、以下の「好ましい」列からの1つまたはいくつかの成分、「あまり好ましくない」列からの他の成分、および「さらにあまり好ましくない」列からのさらに他の成分を含むことができる。
【0042】
【0043】
1つまたは複数の実施形態では、基板はCo系超合金材料であり、表2に示す化学組成を有する。表2において、すべての値は重量パーセントである。超合金材料は、必ずしも表2の単一の列からその化学組成全体を引き出す必要はないことをさらに理解されたい。そのような超合金材料は、例えば、以下の「好ましい」列からの1つまたはいくつかの成分、「あまり好ましくない」列からの他の成分、および「さらにあまり好ましくない」列からのさらに他の成分を含むことができる。
【0044】
【0045】
1つまたは複数の実施形態では、基板はNi-Co系超合金材料であり、表3に示す化学組成を有する。表3において、すべての値は重量パーセントである。超合金材料は、必ずしも表3の単一の列からその化学組成全体を引き出す必要はないことをさらに理解されたい。そのような超合金材料は、例えば、以下の「好ましい」列からの1つまたはいくつかの成分、「あまり好ましくない」列からの他の成分、および「さらにあまり好ましくない」列からのさらに他の成分を含むことができる。
【0046】
【0047】
1つまたは複数の実施形態では、基板は、公称組成から±10at%の偏差であるNiAl、NiAl3、またはNi3Alを含有するNi-アルミナイド超合金材料である。
【0048】
1つまたは複数の実施形態では、積層体の別個の第1の層は、第1のターゲットを使用して堆積される。本開示の目的では、「別個」は「別の実体を構成すること、個別に区別可能」を意味する。言い換えれば、第1の層は、基礎にある基板の一部ではない。代わりに、別個の第1の層は個々に区別可能であり、物理蒸着プロセスによって基板の上に堆積される。
【0049】
1つまたは複数の実施形態において、第1のターゲットの化学組成は、基板の化学組成と類似または実質的に同じである。換言すれば、第1のターゲットは、基板の材料に存在する元素と同様の割合の元素を含む。しかし、いくつかの実施形態では、第1のターゲット、基板、またはその両方は、他方には存在せず、依然として本開示の範囲内にあるさらなる構成要素を含むことができる。他の実施形態では、第1のターゲットの化学組成は、基板の化学組成と同一である。
【0050】
1つまたは複数の実施形態では、第1のターゲットは、超合金基板の化学組成と同様の化学組成を有する粉末から作成される。この実施形態では、第1のターゲットの化学組成は、Ni、Co、もしくはCrが15重量パーセント以下異なるか、またはNi-アルミナイド系の基板に対して10重量パーセント以下異なる。
【0051】
1つまたは複数の実施形態では、一定の流れの酸素ガス下の反応モードにおいて、70at%のAlおよび30at%のCrの組成であるAlおよびCrを含有する第2のターゲットを使用して、別の層を堆積させる。他の実施形態では、第2のターゲットは90から10at%のAlおよび10から90at%のCr、好ましくは80から20at%のAlおよび20から80at%のCr、より好ましくは70から30at%のAlおよび30から70at%のCr、より好ましくは60から40at%のAlおよび40から60at%のCr、より好ましくは50at%のAlおよび50at%のCrを含有する。
【0052】
1つまたは複数の実施形態では、本方法は、約500nmの厚さを有する第1の層および柱状粒構造を有するα-(AlxCry)2O3酸化物コーティングの堆積を含む。他の実施形態では、第1の層の厚さは、20μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満である。例えば、第1の層の厚さは、1.5μm、1μm、900nm、800nm、700nm、600nm、または500nmであってもよい。
【0053】
1つまたは複数の実施形態において、第1の層(基板様層)は、多結晶構造を呈するように堆積させることができる。他の実施形態では、第1の層は、アモルファス構造または準エピタキシャルな成長を示す構造を呈す。第1の層の堆積構造は、コーティングされる基板ならびに堆積のために調整されたコーティングプロセス条件(例えば、温度、圧力など)に依存する。「準エピタキシャル」という用語は、本発明の文脈において、部分的なエピタキシャルな成長を呈する層状構造を指すために使用される。例えば、基板との界面に液滴を示し、エピタキシを示さない領域も示す「準エピタキシャル」層状構造を堆積することが可能である。しかし、透過電子後方散乱回折での分析が、基板と基板様層との間の界面におけるいくつかの領域にわたって(特に大きな領域にわたって)エピタキシャルな成長を示す場合、「準エピタキシ」という用語が使用される。基板が単結晶の性質を示さない場合(例えば、向き)、準エピタキシャルな成長が生じ得ることがある。
【0054】
1つまたは複数の実施形態では、本方法は、約500nmの厚さを有する第2の層(第1の層と第3の層との間の移行領域)の堆積を含む。他の実施形態では、第2の層の厚さは、5μm未満、好ましくは1μm未満、より好ましくは500nm未満である。例えば、第2の層の厚さは、450nm、400nm、350nm、300nm、または250nmであってもよい。
【0055】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、第2の層の堆積を含まない。代わりに、本方法は、第1の層と第3の層との間の直接的な界面の堆積を含む。第2の層に関する実施形態では、拡散は、アニーリング中に形成されたα-アルミナ層と第3の層との間の接着を改善することができ、より低いアニーリングの温度をもたらして拡散を完了させることができる。
【0056】
1つ以上の実施形態において、方法は、約2μmの厚さを有する第3の層(Al-Cr-Oコーティング)の堆積を含む。他の実施形態では、第3の層の厚さは、1μmより大きく、好ましくは5μmより大きく、より好ましくは10μmより大きい。例えば、第3の層の厚さは、15μm、20μm、25μm、30μmまたは35μmであってもよい。
【0057】
1つまたは複数の実施形態では、堆積プロセスは、2つのターゲットを一定期間同時に動作させる2倍の基板の回転を含む。堆積プロセスは、例えば1倍または3倍の回転の基板で行ってもよい。別の例では、堆積プロセスは、回転を伴わない基板で実行することができる。基板の回転を含む実施形態では、回転は堆積層内に多層構造体をもたらす。
【0058】
1つまたは複数の実施形態では、基板上に積層体を堆積させた後、積層された基板をアニールする。一実施形態において、積層された基板は、空気中、1100°Cで1時間熱処理される。
【0059】
1つ以上の実施形態において、熱処理は、第1の層(基板様コーティング)の再結晶を引き起こす。一実施形態では、第1の層は、超合金単結晶上にエピタキシャルな成長を示す。これは、機械的に安定で付着性のコーティングを示す。
【0060】
1つまたは複数の実施形態では、積層体の各層の厚さは同じままであり、熱処理後に多孔性は観察されなかった。
【0061】
本開示に記載される積層体の利点は、少なくとも以下を含む:(i)第1の層(基板様コーティング)と基板との間の界面における準エピタキシャルな再配置;(ii)層間の拡散が、例えば第2の層(移行領域)の厚さに基づいて制御することができる;(iii)直接的な基板材料上へのさらなるAlの制御された堆積による、または基板様コーティングの堆積中もしくは移行領域の堆積中のAl濃度の増加;(iv)改善されたバリア能力を与える六角形の構造で2μmを超える厚さを有する第3の層(Al-Cr-Oコーティング);(v)表面の粗さが低減されたバリアコーティング。
【0062】
以下の説明をよりよく理解するために、
図2では、堆積されたままの状態で単一プロセスで物理蒸着技術によって堆積された積層体を説明している。
図3は、積層体をアニーリングした後に得られた原理的な結果を記載する。より詳細には、本開示は、物理蒸着カソードアーク蒸発によって堆積されたオーバーレイコーティングに基づく酸化および拡散バリアに関する。標準的なMCrAlYオーバーレイコーティングとは対照的に、開示された積層体はより薄い。
図2に示すように、積層体のうち、超合金基板と同様の化学組成を有する第1の層(基板様コーティング)を含む。続いて、酸化バリアとして機能するAl-Cr-O酸化物層が第1の層の上に堆積される。Al-Cr-O酸化物層は、さらなる核生成および成長のために、標準的な熱成長酸化物に代わる。積層体は、単一の物理蒸着プロセスで堆積され、これは、基板様コーティングの適用とAl-Cr-O酸化物層との間の移行において真空条件の中断がないことを意味する。以前の調査で、本発明者らは、多結晶基板材料上の基板様コーティングに対して準エピタキシャルな成長が達成されたことを示した。J.Ast,M.Dobeli,A.Dommann,M.Gindrat,X.Maeder,A.Neels,P.Polcik,M.N.Polyakov,H.Rudigier,K.D.von Allmen,B.Widrig,J.Ramm,Synthesis and characterization of superalloy coatings by cathodic arc evaporation,Surface and Coatings Technology.327(2017)139-145.doi:10.1016/j.surfcoat.2017.07.061を参照されたい。本開示では、本発明者らは、単結晶基板上に積層体を堆積させ、その場での処理および1100°Cでのアニーリング後に得られた積層体の微細構造を分析した。
【0063】
本開示の積層体は、超合金材料の酸化および化学的バリアとして特に有用である。本開示における結果は、高温でバリア特性を有する酸化物層を作成するためのカソードアーク蒸発をさらに実証する。
【実施例】
【0064】
実施例
以下の実施例は、本開示の実施形態の具体的かつ例示的な実施形態および/または特徴を示す。実施例は、例示のみを目的として提供されており、本開示の限定として解釈されるべきではない。本開示の実施形態の趣旨および範囲から逸脱することなく、これらの特定の例に対する多数の変形が可能である。すなわち、組成物中の特定の成分、ならびにそれらのそれぞれの量および相対的な量は、詳細な説明のより一般的な内容に適用されると理解されるべきである。
【0065】
積層体の堆積は、工具および部品をコーティングするために日常的に使用されるINNOVA堆積システム(Oerlikon Surface Solutions AG、Oerlikon Balzers)を用いて行った。非反応性(すなわち、ガスを添加しない)ならびに反応性(例えば、純酸素雰囲気中で)のカソードアーク蒸発を利用して、単一のその場でのプロセスで(すなわち、真空を絶やすことなく)積層体を作成した。本明細書に記載の例示的な超合金基板は、Pratt&Whitneyによって販売されている、(001)結晶配向を有する単結晶PWA 1483超合金である。PWA 1483超合金の化学組成は、K.A.Green,M.McLean,S.Olson,and J.J.Schirra,’’Evaluation of PWA1483 for Large Single Crystal IGT Blade Applications,’’ Superalloys 2000,The Minerals,Metals&Materials Society,2000,295-304に記載されているように表4に提示されている。しかし、本開示は、この超合金基板材料に限定されず、単結晶材料にも限定されない。積層体を他のNi系超合金材料に適用して、同様の有益な結果を得ることができる。したがって、以下で、PWA 1483を例としてのみ説明する。
【0066】
【0067】
透過菊池回折とも呼ばれる透過電子後方散乱回折を、Digiview IV EDAXカメラを使用して、3mmの作動距離でポールピースに対して20°のプレチルト角を有するホルダーに取り付けられた、約100nmの厚さのリフトアウトした試料に対して、Tescan製のデュアルFIB FEG-SEM Lyra3で実施した。ビームの条件は、30kVおよび5nAであった。また、エネルギー分散型X線分光分析用のEDAXシステムを備えたJEOL JEM 2200fsで、透過型電子顕微鏡法により、リフトアウトしたラメラを分析した。
【0068】
ENタンデム加速器を用いたラザフォード後方散乱分光によって、さらなる組成分析を行った。測定は、2 MeV、4HeビームおよびシリコンPINダイオード検出器を用いて168°の下で行った。収集したデータは、RUMPプログラムを用いて評価した。
【0069】
平行なビームを生成するためのGobelミラーおよびCu-Kα放射線を使用するLynxEye 1D検出器を備えたBruker D8 ADVANCE DAVINCI回折計(Bruker AXS GmbH)でX線回折測定を行った。測定は、15°~120°のθ/2θモードで行った。相分析のために、Bruker製のソフトウェアDIFFRAC.EVA V4.1をCrystallography Open Databaseと組み合わせて使用した。
【0070】
実施例1-コーティングされた基板の作成
より大きなバルク超合金材料片からPWA 1483(寸法27mm×10mm×3mm)の超合金材料基板のサンプルを切断した。物理蒸着の作成において、当技術分野で知られているように、基板を機械的および化学的に研磨し、湿式化学的に洗浄した。基板を2倍回転の基板ホルダーに取り付けた。第1のターゲットは、Oerlikon Surface Solutions AG、Oerlikon Metcoによって製造された粉末を用いて作成され、表5に示す化学組成を有していた。粉末の化学組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析および誘導結合プラズマ質量分析によって判定した。粉末組成の化学組成は、PWA 1483超合金材料の化学組成と実質的に同様であった。第1のターゲットは、高圧下で高い焼結温度を使用するプロセスである放電プラズマ焼結によって作成された。第1のターゲットの化学組成は、エネルギー分散型X線分光法により確認し、表5に示している。非反応モードでの動作後の第1のターゲットの表面の化学組成は、第1のターゲットの作成に利用される粉末の化学組成と実質的に同様である。
【0071】
【0072】
第2のターゲットは、70at%のAlおよび30at%のCr(Al0.7Cr0.3とする)の化学組成を有し、標準的な鍛造プロセスを使用して粉末から作成した。第1のターゲットおよび第2のターゲットの直径は150mmであった。各ターゲットのタイプの1つを堆積プロセスで利用した。最初に、処理室を0.02Pa未満に排気し、十分なコーティング接着を施すために標準的な加熱およびエッチングステップを基板上で実行した。次に、基板を処理室に配置し、処理室内の温度を上昇させた。基板が550°Cの温度に達した後、堆積を開始した。第1のターゲットを180Aのアーク電流および12分の正味堆積時間で動作させて、非反応性プロセス(金属蒸気のみ)において約500nmの厚さを有する基板上に第1の層(基板様コーティング)を作成した。続いて、第2の層(酸化物層への移行層)を、1.5分の正味堆積時間の間に以下のステップを介して第1の層に堆積させた。まず、第1のターゲット(両方とも非反応モード)を作動させたまま、第2のターゲット(Al0.7Cr0.3ターゲット)を180Aのアーク電流で点火した。次いで、毎分400標準立方センチメートルの酸素の流れを開始させた。最後に、第1のターゲットをオフにした。この順序により、約100nmの厚さを有する第2の層(移行層)が得られる。最後に、120分の正味堆積時間の間、第2のターゲットの継続的な動作によって第3の層を堆積させた。このステップの間、25kHzの周波数および36μsの負のパルスの長さおよび4μsの正のパルスの長さを有する40Vの対称のバイポーラバイアス電圧を、酸素において処理する間基板に印加した。これにより、約3.5μmの厚さを有する第3の層(Al-Cr-O層)が得られた。
【0073】
実施例2-コーティングされた基板のアニーリング
コーティングされた基板の作成後、周囲雰囲気で熱処理を行って、積層体および基板と別個の第1の層(基板様コーティング)との間の界面の熱安定性を試験した。コーティングされた基板を、10°C/分の加熱速度で1100°Cでアニーリングした。コーティングされた基板を1100°Cで1時間保持した。最後に、20°C/分の冷却速度で、室温まで、コーティングされた基板を冷却した。
【0074】
図4a~4cは、カソードアーク蒸発による物理蒸着後の、基板および積層体を含むコーティングされた基板の表面領域の断面の明視野(BF)モード(
図4a)および暗視野(DF)モード(
図4b)の走査型透過電子顕微鏡画像を示す。
図4aの下部は、基板のγ/γ’微細構造を示し、これは単結晶基板に典型的であり、多結晶または方向性凝固Ni系超合金については異なり得るが、本開示はこれらのタイプの基板のすべてに適用される。
図4cに見ることができる第1の層(基板様コーティング)の層状構造の拡大図は、堆積している最中に2倍基板を回転させた結果である。この層状構造は、当然ながら、異なる基板回転速度を含む他の実施形態、または基板が単回転もしくは3倍回転で回転される場合は異なる。堆積が非回転基板上で行われる場合、層状構造は見られない。第1の層(基板様コーティング)の厚さは均一である。透過型電子顕微鏡法は、約10nm程度の小さな粒子を示し、この領域については準エピタキシャルな成長を示さない。層状構造は基板の回転の影響を示し、輝度の違いは異なる化学組成を示唆する。2倍回転が恒常的な条件であったにもかかわらず、第1の層(基板様コーティング)の2重層の厚さは時間とともに増加することが認識され得る。これは、蒸発の開始時の残留ガスのゲッタリング効果によって引き起こされ、これは蒸発速度の低下に対応する。第1の層に続いて、Al
0.7Cr
0.3ターゲットの着火とアーク放電への酸素の添加により、約100nmの第2の層(移行層)が形成される。酸素の流れが安定した後、第1のターゲットをオフにした。最後に、400sccmの酸素の流れでAl
0.7Cr
0.3ターゲットを動作させると、第3の層(酸化物コーティング)が形成される。このコーティングの断面は、
図4aに示すように、柱状粒子、および球状または平坦な幾何学形状を有する小さな液滴の存在を示す。これらの液滴の形状は、さらなる粒の成長のための開始部位として作用するCrリッチおよびAlリッチ領域に起因している。
【0075】
図2に示す基板および積層体の概略図は、
図4a~4cの透過型電子顕微鏡法によって得られた断面に対応する。
図2に示すように、基板1上に積層体を堆積する。積層体は、第1の層5(基板様コーティング)と、第2の層6(移行層)と、第3の層7(Al-Cr-Oコーティング)とを含む。
図4a~4cに示す断面の元素組成はまた、透過型電子顕微鏡法におけるエネルギー分散型X線分光法によっても分析した。
図5aは、
図4b(矢印A-A)に示すように、積層体の幅に対するラインスキャンを示す。基板と比較して、第1の層(基板様コーティング)にはCr含有量が多いという明らかな傾向がある。さらに、層状コーティング中に酸素が存在し、Coのわずかな増加を幾分示唆している。しかし、第3の層(酸化物コーティング)は、Al、Cr、およびO以外の追加の元素を示さない。これらの測定は、堆積中に第3の層から第1の層(基板様コーティング)へのわずかなCrおよびOの拡散があることを示唆している。これは、望ましくない反応を回避するために、第1の層(基板様コーティング)と第3の層(酸化物コーティング)との間の移行を制御することの重要性を示している。第1の層(
図4cに矢印B-Bで示される基板様コーティング)の拡大されたエネルギー分散型X線分光法ラインスキャンを
図5bに示す。このラインスキャンは、第1の層(基板様コーティング)への酸素の拡散の仮説を支持し、純粋な第1のターゲット蒸気の凝縮から予想されるものよりも多いCr含有量を示唆している。Niの濃度が第3の層(酸化物コーティング)に向かってわずかに増加するというしるしもあり、これは第2の層(移行領域)の不安定性によって引き起こされ得る。基板の回転により、第2の層(移行領域)に高Niコンタクト領域と高Alコンタクト領域が形成される。これらの濃度の差は、拡散を引き起こすと予想される。しかし、そのような拡散プロセスのための要素のリザーバは限られている。
【0076】
第2の層(第1の層(基板様コーティング)から第3の層(酸化物コーティング)への移行)のエネルギー分散型X線分光法は、Crの増加およびAl濃度の低下を示す。しかし、第3の層(酸化物コーティング)において検出可能な、基板由来のNiも他の材料も、存在しない。したがって、酸化物への移行は、堆積中に非制御の拡散プロセスを引き起こす可能性があると思われる。しかし、
図6に示される約500nmの深さ分解能を有するラザフォード後方散乱分光スペクトルは、第3の層(酸化物コーティング)の表面に向かう元素拡散のしるしを示していない。Al、Cr、およびOの信号を除いて、他の元素は検出されない。これは、層状コーティングを作成するために使用される第2のターゲット(Al
0.7Cr
0.3)中のAlとCrの比に対応する(Al
0.71Cr
0.29)
2O
3の組成を有する第3の層を示唆している。
【0077】
基板に層状構造を堆積させた後、コーティングされた基板を10°C/分の加熱速度で1100°Cでアニーリングし、1100°Cで1時間保持し、次いで20°C/分の冷却速度で室温まで冷却した。熱処理後の基板1および積層体の概略を
図3に示す。基板1の直接上には、第2の層8(再結晶基板様コーティング)があり、続いてα-アルミナ層9、拡散元素のリザーバを含むAl-Cr-O層10、およびAl-Cr-O固溶体層11がある。
図7aおよび
図7bに示す断面明視野モードおよび暗視野モード分析はそれぞれ、積層体の微細構造の変化を示す。アニーリング前に観察されたナノ層状構造は、第1の層(基板様コーティング)全体で再結晶する。加えて、第2の層(基板様コーティングと酸化物コーティングとの間の移行領域)はもはや存在しない。Al-Cr-Oコーティングの微細構造もまた、より大きな粒子を含むように変化した。
図7c)の拡大された暗視野モードの走査型透過電子顕微鏡画像は、第1の層および第3の層の下部をより詳細に示す。基板と第1の層との間の界面は明確なままであり、微細構造の明確な変化を示す。積層体での酸化および拡散プロセスにもかかわらず、第1の層の厚さは大幅には変化せず、多孔性は検出されなかった。
【0078】
エネルギー分散型X線分光法ラインスキャン(
図8aおよび8b)は、熱処理後の微細構造の変化を示す。
図7b)の矢印(矢印C-C)は、
図8a)に表示された領域を示し、基板と第1の層との間の界面および第3の層との界面におけるAlおよびCrの再配置を示す。スペクトルはまた、CrおよびCoの基板への拡散を示す。さらに、酸化物との界面に見えるCrの欠乏およびAl含有量の増加がある。エネルギー分散型X線分光法ラインスキャンはまた、アニーリング前の積層体と比較した場合、第1の層(基板様コーティング)中の酸素の減少を示す。酸化物層との界面での低下は明確であり、酸化物層中に検出可能なNiは存在しない。
図8b)の拡大されたエネルギー分散型X線分光法でのラインスキャンは(
図7cにおける表示されている位置を参照(矢印D-D))、アニーリング後の界面領域における再配置に関するさらなる詳細を示す。第1の層(再結晶基板様コーティング)に隣接してα-アルミナ領域が形成される。
図9に示す透過電子後方散乱回折により、このα-アルミナの構造がコランダムであると同定された。
図9aは、アニーリングされた積層体の断面の明視野モードの走査型透過電子顕微鏡の画像である。
図9aの強調表示された長方形は、
図9bの透過電子後方散乱回折の位置を示し、透過電子後方散乱回折パターンの質および結晶配向マップのオーバーレイを示す。ラインスキャンはさらに、コランダムがCrリッチの酸化物相と共存する領域を示す。この領域の上および積層体の表面に向かって、コランダム構造を有する(Al,Cr)
2O
3固溶体が形成された(すなわち、α-アルミナと同じ結晶構造を有する)。
【0079】
図9bに示すように、透過電子後方散乱回折の測定により、アニーリング後の積層体の特性評価が得られる。PWA 1483と同様の化学組成を有する粉末から得られたスパークプラズマ焼結基板材料の上への先行する堆積とは対照的に、熱処理前にその場でのエピタキシャルな成長は、ここでは成し遂げられなかった。これは、多結晶の表面が、基板の結晶構造に従って核生成成長にエネルギー的に最も有利な配向を提供するのにより好ましいことを示している。この好ましさは、多結晶の表面における多数の結晶の配向に起因し得る。
【0080】
熱処理後に実施した透過電子後方散乱回折での分析により、第1の層(基板様コーティング)および基板との界面での液滴が、超合金基板から予想されるのと同じ格子構造(面心立方、fcc)を共有することが確認される。基板との界面の位置は、
図9aおよび9bに破線で示されている。さらに、透過電子後方散乱回折での分析により、第1の層の一部(基板様コーティング)が基板と同じ配向で再結晶することが確認される。
【0081】
図9aおよび
図9bに示すように、酸化物との界面には、球状の形態の一部のCrリッチな相(しかし、未知の結晶学的構造(暗視野モードの走査型透過電子顕微鏡画像における明るいコントラスト)を有するα-Al
2O
3が、約600nmの厚さを有する領域に形成される。基板に向かうα-Al
2O
3の形成に加えて、透過電子後方散乱回折マップはまた、酸化物との界面におけるα-Al
2O
3が、積層体の上部のα-(Al
xCr
y)
2O
3相と同じ結晶粒構造(六方最密、hcp)および配向を有することを示す。α-(AlCr)
2O
3相は、約700nmのサイズの粒子に再結晶化した。
【0082】
図10に示す、アニーリング後の積層体の表面のラザフォード後方散乱分光分析は、アニーリング前の積層体と比較した違いを示している。Al-Cr-Oターゲットから予想されるAl、Cr、およびOに加えて、<1at%に等しいNiピーク(Coと区別不可)が可視であり、アニーリング中に少量のNiが積層体の表面に拡散していることを示している。この低濃度のため、エネルギー分散型X線分光測定においてNiは検出されなかった。ラザフォード後方散乱分光分析は、酸化物コーティングの表面でのCrの枯渇およびAlのわずかな増加を示す。
【0083】
図11は、アニーリングされた積層体のかすり入射X線回折測定を示す。全体の強度を高めるためにNiフィルターを使用しなかった。支配的なピークは、(Al,Cr)
2O
3固溶体のコランダム構造に属する。K
βピークも見える。金が存在することは、以前の集束イオンビーム走査型電子顕微鏡分析によって説明されており、試料は導電性目的のために薄いAu膜(数nm)でコーティングされている。NiAl相を表すピークも存在する。これは、Niが酸化物コーティングの表面領域に少量拡散し、B2相のNiAlの金属間化合物を形成していることを示している。結果は、Niが存在していること、Alが局所的に増加したこと、およびCrが減少したことを示すラザフォード後方散乱分光測定データと一致している。
【0084】
コランダムの形成により、アニーリングされた積層体は、超合金材料の酸化および化学的バリアとして利用することができる。これらの結果は、高温でバリア特性を有する酸化物を作成するためのカソードアーク蒸発の可能性を実証している。さらに、保護コーティングは、イットリウム安定化ジルコニアコーティングをさらに堆積させるための表面を設ける。
【0085】
限定されるものではないが、特許、特許出願、および非特許文献を含むすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
組成物および方法の様々な態様および実施形態が本明細書に開示されてきたが、当業者にとって他の態様および実施形態が明らかである。本明細書に開示される様々な態様および実施形態は、例示を目的としており、限定することを意図するものではなく、真の範囲および精神は、特許請求の範囲によって示される。