(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】外科手術システム及び外科手術マニピュレータアームの制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20231214BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021562727
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045098
(87)【国際公開番号】W WO2021112193
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019220284
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 剛史
(72)【発明者】
【氏名】下村 信恭
(72)【発明者】
【氏名】一居 哲夫
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179624(WO,A1)
【文献】特開2017-104452(JP,A)
【文献】国際公開第2019/128494(WO,A1)
【文献】特開2018-020004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30
A61B 34/35 - 34/37
A61B 90/50
B25J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト及び前記シャフトと同軸の回動軸を有する先端側ねじり関節を含む外科用器具と、
先端部に前記外科用器具を保持する7以上の自由度を有するマニピュレータアームであって、該マニピュレータアームの基端側に配置され
、回動軸を有する基端側ねじり関節と、前記基端側ねじり関節と前記先端側ねじり関節との間に配置され、前記先端側ねじり関節の回動軸を含む参照平面と交差し且つ該参照平面に対する向きが固定されている回動軸を有する曲げ関節と、を含む複数の関節と、前記複数の関節を駆動し該複数の関節の位置決めを行う複数のアクチュエータと、を有するマニピュレータアームと、
前記マニピュレータアームに対する術者の操作入力を受け付ける操作装置と、
前記操作入力に基づいて前記複数のアクチュエータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
遠隔中心を設定し、前記基端側ねじり関節の前記回動軸の延長線又は該延長線の法線方向にオフセットして配置される線である参照線上に参照点を設定し、前記シャフトが前記
遠隔中心を通り且つ前記参照平面が前記参照点を通るように前記複数の関節の位置決めを行う、外科手術システム。
【請求項2】
前記曲げ関節の回動軸は、前記参照平面と直交し、
前記参照点は、前記参照平面と前記参照線が交差する点である、請求項1に記載の外科手術システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記参照点から前記シャフトの中心軸までの垂線の長さが所定の長さよりも短いときは、該垂線の長さが所定の長さよりも長くなるように、前記参照線上の前記参照点の位置を移動させる、請求項1又は2に記載の外科手術システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記シャフトの前記中心軸から遠ざけるように、前記参照線上の前記参照点の位置を移動させる、請求項3に記載の外科手術システム。
【請求項5】
複数の前記マニピュレータアームを更に備え、
各前記マニピュレータアームの前記参照線のオフセット距離は個別の値に設定される、請求項1乃至4の何れか1項に記載の外科手術システム。
【請求項6】
前記曲げ関節と前記先端側ねじり関節との間に配置された直動関節を含む、請求項1乃至5の何れか1に記載の外科手術システム。
【請求項7】
前記参照線は、前記基端側ねじり関節の前記回動軸の延長線の法線方向且つ水平方向にオフセットして配置される線である、請求項1乃至6の何れか1項に記載の外科手術システム。
【請求項8】
複数の前記マニピュレータアームの前記基端側を保持する長尺状のアームベースを更に備え、
前記参照線は、前記基端側ねじり関節の前記回動軸の延長線の法線方向且つ前記アームベースの長手方向と平行にオフセットして配置される線である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の外科手術システム。
【請求項9】
前記
遠隔中心は、前記制御部が前記マニピュレータアームを動作させて前記外科用器具の位置および姿勢を変化させたときに、前記外科用器具が通るように配置された点である、請求項1乃至8の何れか1項に記載の外科手術システム。
【請求項10】
操作部を更に備え、
前記
遠隔中心は、前記操作部の入力に基づき設定される点である、請求項9に記載の外科手術システム。
【請求項11】
シャフト及び前記シャフトと同軸の回動軸を有する先端側ねじり関節を含む外科用器具と、
先端部に前記外科用器具を保持する7以上の自由度を有するマニピュレータアームであって、該マニピュレータアームの基端側に配置され
、回動軸を有する基端側ねじり関節と、前記基端側ねじり関節と前記先端側ねじり関節との間に配置され、前記先端側ねじり関節の回動軸を含む参照平面と交差し且つ該参照平面に対する向きが固定されている回動軸を有する曲げ関節と、を含む複数の関節と、前記複数の関節を駆動し該複数の関節の位置決めを行う複数のアクチュエータと、を有する外科手術マニピュレータアームの制御方法であって、
遠隔中心を設定し、
前記基端側ねじり関節の前記回動軸の延長線又は該延長線の法線方向にオフセットして配置される線である参照線上に参照点を設定し、
受け付けた術者の操作入力に基づいて前記シャフトが前記
遠隔中心を通る目標位置及び目標姿勢を設定し、
前記シャフトが前記目標位置において前記目標姿勢をとり且つ前記参照平面が前記参照点を通るように前記複数の関節の位置決めを行う、外科手術マニピュレータアームの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術システム及び外科手術マニピュレータアームの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から複数のマニピュレータアームを動作させて外科手術を行う外科手術システムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この外科手術システムは、複数のマニピュレータアームの基端部がプラットフォームに着脱可能に取り付けられ、複数のマニピュレータアームは互いに隣り合って配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の外科手術システムは、マニピュレータアームを動作させる際に隣のマニピュレータアーム等の外科手術システムの他の機器や周囲の環境等と干渉しやすいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、ある態様に係る外科手術システムは、シャフト及び前記シャフトと同軸の回動軸を有する先端側ねじり関節を含む外科用器具と、先端部に前記外科用器具を保持する7以上の自由度を有するマニピュレータアームであって、該マニピュレータアームの基端側に配置され、回動軸を有する基端側ねじり関節と、前記基端側ねじり関節と前記先端側ねじり関節との間に配置され、前記先端側ねじり関節の回動軸を含む参照平面と交差し且つ該参照平面に対する向きが固定されている回動軸を有する曲げ関節と、を含む複数の関節と、前記複数の関節を駆動し該複数の関節の位置決めを行う複数のアクチュエータと、を有するマニピュレータアームと、前記マニピュレータアームに対する術者の操作入力を受け付ける操作装置と、前記操作入力に基づいて前記複数のアクチュエータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、遠隔中心を設定し、前記基端側ねじり関節の前記回動軸の延長線又は該延長線の法線方向にオフセットして配置される線である参照線上に参照点を設定し、前記シャフトが前記遠隔中心を通り且つ前記参照平面が前記参照点を通るように前記複数の関節の位置決めを行うよう構成されている。
【0007】
この構成によれば、先端側ねじり関節の動作によってシャフトを回動させる動作の多くが実現されるようにマニピュレータアームの動作を制御することができ、シャフトを回動させる動作を行う際にマニピュレータアームの姿勢が大きく変化することを防止することができ、結果的にマニピュレータアームと外科手術システムを構成する他の機器や周囲の環境等との干渉を予防することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、マニピュレータアームと外科手術システムの他の機器や周囲の環境等との干渉を予防することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る外科手術システムの構成例を示す正面図である。
【
図2】
図1の外科手術システムのマニピュレータアームの全体的な構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図1の外科手術システムのアームベースの構成例を示す平面図である。
【
図4】
図1の外科手術システムの制御系統の構成例を概略的に示すブロック図である。
【
図5】
図1の外科手術システムの動作例を示す図である。
【
図6】
図1の外科手術システムの動作例を示す図である。
【
図7】
図1の外科手術システムの動作例を示す図である。
【
図8】実施の形態2に係る外科手術システムの構成例を示す正面図である。
【
図9】
図8の外科手術システムの動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下では、全ての図を通じて、同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る外科手術システム100の全体的な構成を示す概略図である。
図2は、
図1に示す外科手術システム100におけるマニピュレータアーム3の全体的な構成を示す概略図である。
図3は、アームベース5の構成例を示す平面図である。外科手術システム100は、ロボット支援手術又はロボット遠隔手術等のように、医師等の術者Sが患者側システム1を用いて患者Pに内視鏡外科手術を施すシステムである。なお、
図1は、ポジショナ7、アームベース5および複数のマニピュレータアーム3が施術前に確立される所定の準備位置(詳しくは後述する)に位置している状態を示している。また、
図1は、ポジショナ7と、複数のマニピュレータアーム3との大きさの比率を実際とは異なる比率で記載している。実際には、ポジショナ7に対する複数のマニピュレータアーム3の大きさの比率は、
図1に示される構成より小さい。
【0012】
外科手術システム100は、患者側システム1と、この患者側システム1を操る操作装置2(後述する
図4参照)とを備えている。操作装置2は、患者側システム1から離れて配置され、施術時において患者側システム1は操作装置2によって遠隔操作される。術者Sは、マニピュレータアーム3に対する操作入力を含む患者側システム1に行わせる動作を操作装置2に入力し、操作装置2はその動作指令を患者側システム1に送信する。そして、患者側システム1は、操作装置2から送信された動作指令を受け取り、この動作指令に基づいて患者側システム1が具備するエンドエフェクタ44を移動させる。
【0013】
操作装置2は、外科手術システム100と術者Sとの間のインターフェースを構成し、患者側システム1を操作するための装置である。操作装置2は、手術室内において手術台111の傍らに又は手術台111から離れて、あるいは、手術室外に設置されている。操作装置2は、術者Sが動作指令を入力するための操作用マニピュレータアームおよび操作ペダル等の操作入力部と、外科用器具40として患者側システム1に取り付けられる内視鏡アセンブリで撮影された画像を表示するモニタとを含む。術者Sは、モニタで患部(施術部位110)を視認しながら、操作入力部を操作して操作装置2に動作指令を入力する。操作装置2に入力された動作指令は、有線又は無線により患者側システム1の制御部600(詳細は後述)に伝達される。
【0014】
患者側システム1は、外科手術システム100と患者Pとのインターフェースを構成する。患者側システム1は、手術室内において患者Pが横たわる手術台111の傍らに配置されている。手術室内の手術台111の周辺が滅菌された滅菌野である。
【0015】
患者側システム1は、ポジショナ7と、ポジショナ7の先端部に取り付けられたアームベース(プラットフォーム)5と、アームベース5に着脱可能に取り付けられた複数の患者側マニピュレータアーム(以下、単に「アーム3」という)と、シャフト43と、エンドエフェクタ44とを備えている。ポジショナ7は、所定の基台から延び、所定の基台とアームベース5との間を連結するものである。本実施の形態において、ポジショナ7は、垂直多関節ロボットとして構成されており、複数の自由度(7自由度)を有する多軸関節(7軸関節)アームとして構成される。そして、ポジショナ7は、所定の基台である移動可能な台車70に対してアームベース5の位置を3次元的に移動(互いに直行するX軸、Y軸、Z軸方向に移動)させることができる。ポジショナ7、アームベース5、及びアーム3の基端部からアーム3のホルダ36までの部材は、図示しない滅菌ドレープで覆われ、これらポジショナ7、アームベース5、及びアーム3の基端部から後述するホルダ36までの部材が手術室内の滅菌野から遮蔽される。
【0016】
複数のアーム3は、それぞれ長軸状のシャフトを含む外科用器具40を保持可能な器具保持部(ホルダ36)を含む。複数のアーム3のうち1本のアーム3のホルダ36には、内視鏡アセンブリが保持される。複数のアーム3のうち余のアーム3のホルダ36には、インストゥルメント42が着脱可能に保持される。以下、内視鏡アセンブリが取り付けられたアーム3を「カメラアーム」ということがあり、インストゥルメント42が取り付けられたアーム3を「インストゥルメントアーム」ということがある。
図3に示すように、本実施の形態における患者側システム1は、1本のカメラアームと3本のインストゥルメントアームとの、合わせて4本のアーム3A,3B,3C,3Dを備えている。なお、それぞれのアーム3A、3B、3C、3Dの何れかの事項であることを明示的に説明するときは数字符号「3」の後に「A」「B」「C」「D」を付して説明する。一方、4つのアーム3A、3B、3C、3Dに共通する事項であることを説明するときは数字符号「3」の後に「A」「B」「C」「D」を付さないで説明する。後述する参照線RL及び参照点RDについても同様に説明する。
【0017】
そして、アーム3は、シャフト43の位置及び姿勢を変更する機能を担う機構をいう。上述の通り、ホルダ36と外科用器具40とは着脱可能であり、後述する器具ベース45及び第9関節J39は、外科用器具40に含まれる要素として説明するが、これら器具ベース45及び第9関節J39は、アーム3に含まれる要素としてもよい。
【0018】
上記の患者側システム1において、アームベース5は、複数のアーム3の拠点となる「ハブ」としての機能を有している。本実施の形態では、ポジショナ7およびアームベース5によって、複数のアーム3を移動可能に支持するマニピュレータアーム支持体10が構成されている。ただし、ポジショナ7は垂直多関節ロボットでなくてもよい。例えば、ポジショナ7は、アームベース5を支持するための直動レール、昇降装置、あるいは、天井又は壁に取り付けられたブラケットであってもよい。ポジショナ7が接続される所定の基台は、台車70のように移動可能な構成に限られない。例えば、所定の基台は、手術室の壁、床又はこれらに固定された固定物でもよい。
【0019】
上記の患者側システム1では、ポジショナ7から内視鏡アセンブリ又は各インストゥルメント42まで、要素が一連に繋がっている。本明細書では、上記一連の要素において、ポジショナ7(より詳細には、ポジショナ7の台車70との接続部であるベース90)へ向かう側の端部を「基端部」ということがあり、その反対側の端部を「先端部」ということがある。基端は近位端と言い換えられてもよく、先端は遠位端と言い換えられてもよい。
【0020】
患者側システム1は、制御部600により動作制御される。制御部600は、例えばマイクロコントローラ等のコンピュータにより構成され、CPU等の演算器(演算回路)を有する。制御部600は、集中制御する単独の制御器で構成されていてもよく、互いに協働して分散制御する複数の制御器で構成されてもよい。台車本体71の内部には、ROM及びRAM等のメモリを有し、制御部600および動作制御に用いられる制御プログラムおよび各種データが記憶される記憶部602が格納されている。また、台車本体71には、主に施術前におけるポジショナ7、アームベース5および複数のアーム3の位置および姿勢(後述する準備姿勢)を設定入力するための操作部604が設けられる。操作部604は、例えばタッチパネル等により構成される。
【0021】
以下、アームベース5、および複数のマニピュレータアーム3について詳細に説明する。
【0022】
図3に示すように、アームベース5は、アームベース本体50と、アームベース本体50の上部(基端側)に取り付けられ、ポジショナ7の先端部が取り付けられるポジショナ取り付け部51と、アームベース本体50の下部(先端側)に取り付けられ、複数のアーム3の基端部が取り付けられる少なくとも1つのアーム取り付け部52と、を備えている。アームベース5は、ポジショナ7の先端部に対して相対回転可能に構成される。本実施の形態において、複数(4つ)のアーム3に応じて複数(4つ)のアーム取り付け部52がアームベース5に設けられている。アームベース5は、長尺状である。複数のアーム3のベース80が複数のアーム取り付け部52に固定されることにより、複数のアーム3の基端部(後述する第1リンク81)は、後述する第1関節J31の回転軸回りに相対回転可能に構成される。
【0023】
具体的には、複数のアーム取り付け部52は、複数のアーム3の基端部(ベース80)が所定の第1方向D1に一列に配列されている。第1方向D1は、所定の第1平面S1上に設定される(含まれる)方向である。本実施の形態において、第1平面S1は、アームベース5が準備位置(
図1)に位置した状態で床面(水平面)Gに平行な仮想の平面であり、第1方向D1は、例えば長尺状のアームベース5の長手方向であり水平方向であるがこれに限られるものではない。また、第1方向D1は、アーム3の後述する第1関節J31の回動軸R1の法線方向である。すなわち、複数のアーム取り付け部52は、アームベース5が準備位置に位置した状態で上から見た場合に第1方向D1(
図1における紙面奥行き方向)に一列に配列されて、第1方向D1と直交する第2方向D2に向いている。アーム取り付け部52の並びは、一列に限定されるものではなく、2列に並んで配置されていてもよい。また、一部のアーム取り付け部52が第2方向D2にオフセットされていてもよい。また、一部のアーム取り付け部52が第3方向D3にオフセットされていてもよい。第3方向D3は、例えば鉛直方向である(
図3において、紙面と直交する方向)。
【0024】
図2には、患者側システム1が備える複数のアーム3のうちのインストゥルメント42が取り付けられた1本のアーム3の概略構成が示されている。なお、本実施の形態では、患者側システム1が具備する複数のアーム3は何れも同様又は類似の構成を有するが、複数のアーム3のうち少なくとも1本が他のアーム3と異なる構成(例えば異なる自由度を有する等)を有してもよい。
図2に示すように、アーム3は、アーム本体30と、アーム本体30の先端部に連結された並進ユニット35と、並進ユニット35の先端側に設けられた長軸状の外科用器具40を保持可能なホルダ(器具保持部)36と、インストゥルメント42の器具ベース45とを備えている。複数のアーム本体30は、それぞれの先端部が基端部に対して3次元的に移動可能なように構成されている。
【0025】
アーム3は、アームベース5に対し着脱可能に構成されている。
【0026】
アーム本体30は、アームベース5に着脱可能に取り付けられるベース80と、ベース80から先端部に向けて順次連結された複数のアームリンク部を備えている。アーム本体30は、一のアームリンク部が他の一のアームリンク部に対して回動するように順に連結されることにより複数の関節部を構成する。複数のアームリンク部は、第1リンク81~第6リンク86を含む。複数の関節部は、第1関節J31~第7関節J37を含む。なお、本実施の形態における複数の関節部は、回転軸を備えた回転関節により構成されているが、少なくとも一部の関節部が直動関節により構成されてもよい。
【0027】
より詳細には、ベース80の先端部に、ねじり(ロール)関節である第1関節J31(基端側ねじり関節)を介して第1リンク81の基端部が連結されている。第1リンク81の先端部に、曲げ(ピッチ)関節である第2関節J32を介して第2リンク82の基端部が連結されている。第2リンク82の先端部に、ねじり関節である第3関節J33を介して第3リンク83の基端部が連結されている。第3リンク83の先端部に、曲げ関節である第4関節J34を介して第4リンク84の基端部が連結されている。第4リンク84の先端部に、ねじり関節である第5関節J35を介して第5リンク85の基端部が連結されている。第5リンク85の先端部に、曲げ関節である第6関節J36を介して第6リンク86の基端部が連結されている。第6リンク86の先端部に、曲げ関節である第7関節J37(先端側曲げ関節)を介して並進ユニット35の基端部が連結されている。
【0028】
本実施の形態において、第1リンク81は、隣接する関節J31,J32間において折り曲げられた形状を有している。言い換えると、第1リンク81は、第1関節J31の回転軸と第2関節J32の回転軸とが交差しないように構成されている。すなわち、第1リンク81は、第1部分81aと、第2部分81bとを有する。このうち、第1部分81aは、基端側の第1関節J31から所定の第1方向(第1関節J31の回転軸方向)に延びる。また、第2部分81bは、第1部分81aの先端部から第1部分81aの延出方向に交差する第2方向(かつ第2関節J32の回転軸に直交する方向)に延びて先端側の第2関節J32に接続される。第1リンク81における第1方向と第2方向とのなす角は、例えば120度以上かつ160度以下(例えば140度)である。なお、第1部分81aと第2部分81bとは滑らかに繋がっている。これにより、一部のアームリンク部が折り曲げられた形状を有していても、複数のアームリンク部内に電気配線等のワイヤを通し易くすることができる。
【0029】
更に、第4リンク84は、隣接する関節J34,J35間において折り曲げられた形状を有し、当該部分がアーム本体30の肘31である。言い換えると、第4リンク84は、第4関節J34の回転軸と第5関節J35の回転軸とが交差しないように構成されている。そして、第4関節J34の回転軸及び第5関節J35の回転軸に直交する方向において、第4関節J34の回転軸に対して第5関節J35の回転軸はオフセットされている。すなわち、第4リンク84は、第1部分84aと、第2部分84bとを有する。このうち、第1部分84aは、基端側の第4関節J34から所定の第1方向(第4関節J34の回転軸および第5関節J35の回転軸の双方に直交する方向)に延びる。また、第2部分84bは、第1部分84aの先端部から第1部分84aの延出方向に交差する第2方向(第5関節J35の回転軸方向)に延びて先端側の第5関節J35に接続される。第4リンク84における第1方向と第2方向とのなす角は、例えば70度以上かつ110度以下(例えば90度)である。なお、第1部分84aと第2部分84bとは滑らかに繋がっている。
【0030】
その他のリンク82,83,85,86は、隣接する関節部間において直線状に形成されている。言い換えると、その他のリンク82,83,85,86は、隣接する関節部の回転軸同士が交差するように構成されている。
【0031】
各アームリンク部は、そのアームリンク部より基端部側に接続されるアームリンク部(又はベース80)より長手方向に直交する断面の面積が小さくなるように構成される。これにより、アーム本体30は、基端部から先端部に向かうに従って段々細くなるように構成される。更に、曲げ関節である各関節J32,J34,J36は、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部が関節部における回転軸方向中央部を基準として回転軸方向一方側に位置するように構成される。また、先端部側のアームリンク部82,84,86の基端部が関節部における回転軸方向中央部を基準として回転軸方向他方側において基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部に対面するように位置するように構成される。
【0032】
その上で、当該関節部における回転軸方向の幅、すなわち、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部の回転軸方向外端部と、先端部側のアームリンク部82,84,86の基端部の回転軸方向外端部との間の距離が、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部より基端部側に位置する部分の長手方向に直交する断面の直径(最大寸法)より短い。
【0033】
このように、各関節部およびそれの先端部側のアームリンク部が基端部側のアームリンク部に比べて幅狭に構成される。これによって、患者Pの施術部位110に近接するほど狭くなるワークスペースにおいて、各アーム本体30の移動範囲(他のアーム本体30と干渉しない範囲)を増大させることができる。
【0034】
アーム本体30の外殻は、塗装により耐薬品性を有する部材で形成されている。また、アーム本体30の点検穴等の開口部は、樹脂製のカバーで覆われている。当該カバーを樹脂等の部材で形成することにより、アーム本体30の強度に寄与しない部分の軽量化を図ることができる。これにより、カバーが万が一にも落下したり、アーム本体30が他のアーム本体30又は施術補助者等にぶつかっても、その衝撃を軽減することができる。なお、アーム本体30の外殻自体が樹脂部材で構成される部分を含んでもよい。
【0035】
並進ユニット35は、並進ユニット35の先端部に取り付けられたホルダ36を後述する長軸方向Dtに並進移動させることにより、ホルダ36に取り付けられたインストゥルメント42を後述するシャフト43の延在方向に並進移動させる機構である。
【0036】
並進ユニット35は、アーム本体30の第6リンク86の先端部に、曲げ関節である第7関節J37を介して連結される基端側リンク61と、先端側リンク62と、基端側リンク61と先端側リンク62との間で連動して動く連結リンク63と、連動機構とを有する。第7関節J37は、長軸方向Dtに直交する方向に延びている。並進ユニット35の駆動源は、基端側リンク61に設けられている。連結リンク63は、長軸方向Dtに沿って延びている。
【0037】
並進ユニット35は、基端側リンク61と連結リンク63との長軸方向Dtにおける相対位置が変化する。これとともに、並進ユニット35は、連動機構により、連結リンク63と先端側リンク62との長軸方向Dtにおける相対位置が変化する。これによって、並進ユニット35は、基端側リンク61に対して先端側リンク62に設けられたホルダ36に取り付けられたインストゥルメント42の長軸方向Dtに関する位置を変化させることができる。そして、並進ユニット35は、インストゥルメント42を挿入方向に進出させたり、引抜方向に後退させたりできる。より具体的には、連結リンク63は、長軸方向Dtに延びる一対のガイドレールを有している。そして、一方のガイドレールは長軸方向Dtにスライド可能に基端側リンク61に支持され、他方のガイドレールは長軸方向Dtにスライド可能に先端側リンク62を支持している。そして、連動機構は、基端側リンク61に対して一方のガイドレール上で基端側リンク61が長軸方向Dt一方側にスライドすることによって、他方のガイドレール上で先端側リンク62を長軸方向Dt他方側にスライドさせる。連動機構は、倍速機構であり、例えばプーリおよびタイミングベルトを用いた構成でもよいし、ギアトレインを含む機構でもよい。このように、並進ユニット35は基端側リンク61に対して先端側リンク62及びホルダ36を連結し、これら先端側リンク62及びホルダ36を長軸方向Dtに直進動作させる直動関節である第8関節J38である。
【0038】
ホルダ36は、後述する外科用器具40の器具ベース45を着脱可能に保持する。ホルダ36は、回転駆動する駆動軸を有し、後述するシャフト43を回動させる駆動力を生成する。
【0039】
インストゥルメント42は、基端部に設けられた器具ベース45と、基端部が器具ベース45に連なるシャフト43と、シャフト43の先端部に連なるエンドエフェクタ(処置具)44とを有している。更に、インストゥルメント42は、インストゥルメント42をホルダ36に取り付けることによって、ホルダ36の駆動軸と接続され、駆動軸の駆動力を伝達する駆動力伝達部を備えている。インストゥルメント42には長軸方向Dtが規定されており、器具ベース45、シャフト43、およびエンドエフェクタ44はこの順に長軸方向Dtに沿って配置される。インストゥルメント42のエンドエフェクタ44は、動作する関節を有する器具(例えば、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、および、クリップアプライヤー等)、ならびに、関節を有しない器具(例えば、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、および、吸引オリフィス等)を含む群より選択される。そして、器具ベース45に、ねじり(ロール)関節である第9関節J39(先端側ねじり関節)を介してシャフト43の基端部が連結されている。第9関節J39の回動軸R9は、シャフト43の中心軸Cと同軸に配置された回動軸を有する。なお、関節の回動軸とは、回転する軸(shaft)の幾何学的な(仮想の)軸線(geometric (imaginary) axis)の意である。また、上述の通り、本実施の形態において、これら器具ベース45及び第9関節J39は、シャフト43の位置決めを行うためのアーム3に含まれる要素としてもよい。
【0040】
なお、上述の通り、第7関節J37と第9関節J39との間に位置する第8関節J38は直動関節であるので、第7関節J37の回動軸R7に対する第9関節J39の回動軸R9の向きは固定されている。そして、第7関節J37の回動軸R7は、長軸方向Dtに延びる第9関節J39の回動軸R9を含む参照平面RPと直交する。すなわち、本実施の形態においては、第7関節J37が参照平面RPを規定する曲げ関節を構成する。なお、回動軸R7と参照平面RPとが成す角は直角に限定されず、回動軸R7と参照平面RPとは交差していればよい。したがって、第7関節J37を回動させることによって、シャフト43を起倒する方向に揺動させることができる。
【0041】
アーム3がインストゥルメントアームの場合、ホルダ36には、インストゥルメント42が着脱可能に保持される。ホルダ36に保持されたインストゥルメント42のシャフト43は、長軸方向Dtに沿って延在する。また、アーム3がカメラアームの場合、ホルダ36には、シャフト43の先端にカメラを有する内視鏡アセンブリが着脱可能に保持される。ここで、カメラアームに設けるホルダ36は、インストゥルメントアームに設けるホルダ36と同じ形状および構造を有しているが、異なる形状又は構造を有していてもよい。
【0042】
図4は、
図1に示す外科手術システム100の制御系統の構成例を概略的に示すブロック図である。上記構成のアーム本体30には、アーム本体30の各関節J31~J37に対応して、駆動用のサーボモータ(
図4ではSMと表記)M31~M37、サーボモータM31~M37の回転角を検出するエンコーダ(
図4ではENと表記)E31~E37、および、サーボモータM31~M37の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図示せず)が設けられる。
【0043】
なお、
図4では、関節J31~J37のうち、アーム本体30の第1関節J31および第7関節J37が代表的に示され、その他の関節J32~J36の制御系統は省略されている。更に、並進ユニット35には、第8関節J38の並進動作のためのサーボモータM38(連動機構を駆動するサーボモータ)と、第9関節J39の回動動作のためのサーボモータM39と、サーボモータM38,M39の回転角を検出するエンコーダE38,E39と、サーボモータM38,M39の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図示せず)とが設けられる。
【0044】
なお、エンコーダE31~E39は、サーボモータM31~M39の回転位置(回転角)を検出する回転位置検出手段の一例として設けられており、エンコーダE31~E39に代えてレゾルバ等の回転位置検出手段が用いられてもよい。
【0045】
制御部600は、動作指令に基づいて複数のアーム3の移動を制御するアーム制御部601を含む。アーム制御部601にはサーボ制御部C31~C39が電気的に接続され、増幅回路等を介してサーボモータM31~M39に係る複数のアクチュエータが電気的に接続されている。
【0046】
上記構成において、施術時に操作装置2に入力された動作指令に基づいて、アーム制御部601にアーム3の先端部の位置姿勢指令が入力される。アーム制御部601は、位置姿勢指令とエンコーダE31~E39で検出された回転角とに基づいて、位置指令値を生成して出力する。この位置指令値を取得したサーボ制御部C31~C39は、エンコーダE31~E39で検出された回転角および位置指令値に基づいて駆動指令値(トルク指令値)を生成して出力する。この駆動指令値を取得した増幅回路は、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM31~M39へ供給する。このようにして、アーム3の先端部が、位置姿勢指令と対応する位置および姿勢に到達するように、各サーボモータM31~M39がサーボ制御される。
【0047】
また、制御部600には、アーム制御部601にデータを読み出し可能な記憶部602が設けられ、操作装置2を介して入力された手術情報が予め記憶されている。この手術情報には、手術で使用される複数のアーム3の組み合わせが含まれている。
【0048】
また、記憶部602には、アーム3の先端部に保持される外科用器具40(内視鏡アセンブリ又は各インストゥルメント)の長軸方向Dtに沿った長さ等の情報が記憶される。これにより、アーム制御部601は、アーム3の先端部の位置姿勢指令に基づいて、当該アーム3の先端部に保持された外科用器具40の先端部の位置を把握可能となっている。
【0049】
更に、記憶部602には、アームベース5および複数のアーム3の施術前に確立される所定の準備位置(例えば
図1に示す各要素7,5,3の位置および姿勢)が予め記憶される。記憶部602には、複数の準備位置が、施術の内容(種類)、施術部位等に応じて記憶され得る。
【0050】
<外科手術システムの動作例>
図5~
図7は、外科手術システム100の動作例を示す図である。
図5及び
図6においては、アーム3のうちアーム3B及びアーム3Bに関連する要素を図示し、それ以外の要素については適宜省略して図示している。また、
図7においては、アーム3のうちアーム3A及びアーム3Aに関連する要素を図示し、それ以外の要素については適宜省略して図示している。
【0051】
図1に示すように、上記構成の患者側システム1を用いた施術において、まず、施術補助者(術者S自身が行ってもよい)は、台車70を用いて患者側システム1を手術台111の近くに移動させる。このとき、ポジショナ7、アームベース5および複数のアーム3は、台車70に対して設定される所定の収納位置(図示せず)に位置している。
【0052】
手術台111に横たわる患者Pの体表には、複数のスリーブ(カニューレスリーブ)112が例えば横並びに一直線に並ぶように位置して留置されている。
図1において、スリーブ112は紙面奥行き方向に一列に配列されている。ただし、この配置に限定されるものではない。
【0053】
そして、アームベース本体50が患者Pの上方に位置し、アーム取り付け部52に取り付けられたアーム3の第1関節J31の回動軸R1が概ね水平方向に向くようにポジショナ7を制御してアームベース本体50を配置する。第1関節J31の回動軸R1と水平面のなす角は、例えばマイナス30度~プラス30度の範囲内である。また、複数のアーム取り付け部52が向く方向である第2方向D2が、複数のスリーブ112が並ぶ方向と概ね平行となる姿勢をとるように、ポジショナ7を制御してアームベース本体50を配置する。
【0054】
そして、施術補助者は、各アーム3と1対1の対応関係で関連付けられる遠隔中心RC(所定の中心点)を制御部600に設定する作業を行う。この作業において、施術補助者は、ホルダ36に教示用の外科用器具40を取り付け、例えば教示用の外科用器具40の先端がスリーブ112の孔の中央に位置するように移動させる。そして、施術補助者は、遠隔中心RCを設定する指示を操作部604に入力する。これによって、制御部600は、この時のアーム3の姿勢及び教示用の外科用器具40の器具ベース45に対するシャフト43の先端の位置関係、ベース80の位置及び姿勢、各アームリンク部のパラメータに係る情報に基づき、順変換を行い、遠隔中心RCの位置を算出する。
【0055】
なお、第1方向D1において、アーム3の順番通りに各アーム3に関連付けられる遠隔中心RCが並ぶようにアーム3とスリーブ112とは1対1の対応関係で関連付けられる。すなわち、第1方向D1において右から1番目のアーム3Aには、第1方向D1において右から1番目のスリーブ112が関連付けられている。そして、このスリーブ112の遠隔中心RCが算出されることによって、アーム3Aと第1方向D1において右から1番目の遠隔中心RCが関連付けられる。アーム3B、3C、3Dについても同様である。
【0056】
そして、施術補助者又は術者Sは、教示用の外科用器具40を内視鏡アセンブリやインストゥルメント42に付け替える。このような予備的動作を行うことにより、施術部位110となる患者Pの体表に留置されたスリーブ112と各アーム3に取り付けられた外科用器具40とが所定の初期位置関係となるように、ポジショナ7、アームベース5および複数のアーム3の位置決めが行われる。
【0057】
アーム3は、この初期姿勢において、ベース80が概ね水平方向に延びる。そして、折り曲げられた第1リンク81に連なる第2リンク82及び第3リンク83は、斜め下方向に延びる。より具体的には、第2リンク82及び第3リンク83は、第1関節J31の回動軸R1が延びる方向(第2方向D2)のうちベース80の基端部から先端部に向かう側(
図6において患者Pの足先側)且つ下方に延びる。そして、第4リンク84、第5リンク85及び第6リンク86は、肘31を頂点として折り返して斜め下方向に延びる。より具体的には、第4リンク84、第5リンク85及び第6リンク86は、第1関節J31の回動軸R1が延びる方向のうちベース80の先端部から基端部に向かう側(
図6において患者Pの頭側)且つ下方に延びる。なお、後述する追加的な拘束条件を満たすようにアーム3の初期姿勢が決定されてもよい。
【0058】
本実施の形態において、患者側システム1(ポジショナ7、アームベース5および複数のアーム3)が収納位置から準備位置となるまでの間、制御部600は、操作装置2による操作を受け付けない。そして、患者側システム1が準備位置に位置した後、制御部600は、操作装置2による操作を受け付け可能となる。患者側システム1が準備位置に位置した後の施術時において、制御部600は、原則としてポジショナ7およびアームベース5を静止させた状態で、術者Sが操作装置2を操作した入力に基づいてアーム制御部601は動作指令を生成する。そして、アーム制御部601は、操作装置2からの動作指令に応じて、各アーム3を動作させて外科用器具40の位置および姿勢を適宜変化させるように動作制御する。このとき、アーム制御部601は、スリーブ112に挿通した外科用器具40が遠隔中心RCを通るように外科用器具40の姿勢に制限を加えてアーム3を制御する。これによって、スリーブ112が患者Pの体表の面内方向に移動することを規制することができる。
【0059】
この施術時における外科用器具40を目標位置において目標姿勢をとるように移動させる動作は、関節J31~J39の9軸を含む関節の動作を含む動作により実現される。このように、アーム3は、7自由度を超える自由度を有し、冗長性を有するので、外科用器具40のシャフト43にある目標位置・目標姿勢に対応するアーム3の姿勢は一意に決まるものではない。特に、シャフト43をその中心軸Cを中心とする周方向に回動させる動作は、中心軸Cと同軸に設けられている第9関節J39を回動させて実現する他に、アーム本体30の先端を中心軸Cを中心とする周方向に回動させる動作によっても実現できる。したがって、制御部600は、アーム本体30の動作及び第9関節J39の動作を組み合わせて、シャフト43を中心軸Cを中心とする周方向に回動させるように制御する。そして、制御部600は、シャフト43をその中心軸Cを中心とする周方向に回動させる動作を実現しうる動作のうち以下の追加的な拘束条件を満たすように、アーム本体30及び第9関節J39を動作させる。
【0060】
追加的な拘束条件の設定において、
図5に示すように、まず、アーム制御部601は、各アーム3のそれぞれについて参照点RDを設定する。
図3に示すように、アーム3Bの参照点RDBは、アーム3Bの第1関節J31の回動軸R1の延長線である参照線RLB上に配置される。アーム3Aの参照点RDAは、アーム3Aの第1関節J31の回動軸R1に対して第1方向D1(回動軸R1の法線方向)の一方側(+方向)にオフセットして配置された参照線RLA上に配置される(
図7も参照)。なお、本動作例においては、第1方向D1は水平方向でもある。なお、第1方向D1はアームベース5の長手方向に平行でもある。また、アーム3Cの参照点RDCは、アーム3Cの第1関節J31の回動軸R1に対して第1方向D1の他方側(-方向)にオフセットして配置された参照線RLC上に配置される。更に、アーム3Dの参照点RDDは、アーム3Dの第1関節J31の回動軸R1に対して第1方向D1の他方側(-方向)にオフセットして配置された参照線RLD上に配置される。また、各アーム3の参照線RLのオフセット距離は個別の値に設定される。これによって、隣のアーム3等の外科手術システム100の他の機器や助手などの周囲の環境等との干渉を適切に予防することができる。
【0061】
次に、
図6に示すように、アーム制御部601は、参照点RDから目標位置において目標姿勢をとるシャフト43の中心軸Cまでの垂線vhの長さLが所定の下限長さLminよりも短いか否かを判定する。そして、アーム制御部601は、垂線vhの長さが下限長さLminよりも短いと判定すると、垂線vhの長さが所定の長さLminよりも長くなるように、参照線RL上における参照点RDの位置をシャフト43の中心軸Cから遠ざける方向に移動させる。なお、アーム制御部601は、垂線vhの長さが下限長さLminよりも長いと判定すると、この処理を実行しない。なお、アーム制御部601は、上記判定を行うことなく、垂線vhの長さLと参照線RL上における参照点RDの位置との関係を規定する連続関数に基づいて、参照線RL上における参照点RDの位置を決定してもよい。
【0062】
次に、
図5に示すように、アーム制御部601は、参照平面RPが参照点RDを通るように、関節J31~J39の位置決めを行う。上述の通り、参照平面RPとは、長軸方向Dtに延びる第9関節J39の回動軸R9を含み、第7関節J37の回動軸R7と直交する平面である。
【0063】
これによって、並進ユニット35及び器具ベース45は、参照点RDと遠隔中心RCとを結ぶ軸線Rv周りに揺動するように姿勢が拘束される。したがって、シャフト43をその中心軸Cを中心とする周方向に回動させる動作を実現するにあたり、アーム本体30の先端を中心軸Cを中心とする周方向に回動させる動作の割合を少なくすることができる。また、第9関節J39を回動させてシャフト43を回動させる動作の割合を大きくすることができる。よって、第7関節J37と直交する方向に連なる並進ユニット35に参照点RDから外側に向かう方向に向く姿勢をとらせることができる。これによって並進ユニット35及び器具ベース45がアーム本体30の側方(第1方向D1)に張り出す姿勢をとることを抑制することができる。その結果、隣のアーム3等の外科手術システム100の他の機器や周囲の環境等との干渉を予防することができる。また、アーム本体30の第6リンク86が第7関節J37からアーム3の中心方向に向く姿勢をアーム3にとらせることができるため、アーム本体30のリンク長を有効に使用でき、動作範囲を広くすることができる。また、複数のアーム3がアームベース本体50から扇形状に広がる姿勢をとるので、隣接するアーム間の干渉を低減させることができる。
【0064】
更に、
図6に示すように、例えばシャフト43が遠隔中心RC周りに起きるように揺動し、シャフト43が参照点RDに近づくと、シャフト43を中心軸C周りに回動させる動作において、アーム本体30の先端を中心軸Cまわりに移動させる動作の回転半径が小さくなる。その結果、アーム本体30の動作が過敏になり、並進ユニット35及び器具ベース45がアーム本体30の急激な動作による大きな振動発生や追従性の低下が発生する場合があった。しかし、アーム制御部601は、垂線vhの長さLが下限長さLminよりも短いと判定すると、垂線vhの長さが所定の長さLminよりも長くなるように、参照線RL上における参照点RDの位置を移動させる。したがって、シャフト43が参照点RDに近づいた時にアーム本体30の先端を中心軸Cまわりに移動させる動作の回転半径が小さくなることを防止することができ、これによって、アーム本体30の過敏な動作を抑制することができる。また、アーム制御部601が垂線vhの長さLと参照線RL上における参照点RDの位置との関係を規定する連続関数に基づいて参照線RL上における参照点RDの位置を決定する場合は、過敏な動作の発生を避けることができる。
【0065】
このように、アーム制御部601は、外科用器具40のシャフト43が目標位置において目標姿勢をとるようにアーム3を制御する。新たな目標位置及び目標姿勢が設定されると、アーム制御部601は、再び垂線vhの長さLが所定の下限長さLminよりも短いか否かの判定処理以下の処理を実行する。
【0066】
(実施の形態2)
図8は、実施の形態2に係る外科手術システム200の構成例を示す正面図である。
実施の形態2に係る外科手術システム200のアーム取り付け部252は、第2方向D2において、ポジショナ取り付け部251と同じ側を向くように設けられている。なお、その余の外科手術システム200の患者側システム201及び操作装置202の構成は、上記実施の外科手術システム100の患者側システム1及び操作装置2と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0067】
図9は、外科手術システム200の動作例を示す図である。外科手術システム200の動作例は、外科手術システム100と同様である。
図9においては、アーム3A及びアーム3Aに関連する要素を図示し、その余のアームは省略して図示している。更に、
図9においては、患者Pを省略して表しているが、アーム3に対する患者Pの姿勢は、
図5及び
図6と同様である。
【0068】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【符号の説明】
【0069】
J31 第1関節
J37 第7関節
J39 第9関節
R1 (第1関節の)回動軸
R7 (第7関節の)回動軸
R9 (第9関節の)回動軸
RC 遠隔中心
RD 参照点
RL 参照線
RP 参照平面
S 術者
2 操作装置
3 アーム
43 シャフト
44 エンドエフェクタ
100 外科手術システム
600 制御部